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赤外線画像を用いた強膜弁の観察

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)879《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):879.882,2011cはじめに人間が視覚化することのできる電磁波は,紫外線より長く赤外線より短い0.4.0.75μmの間の波長域である.波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波を赤外線という.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長をもっている.可視光線に近い特性をもつため,人間には感知できない光として,赤外線カメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用した赤外線カメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5~8).緑内障領域で赤外線を利用した研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9)が,赤外線画像を利用して,強膜弁の位置を確認しよう〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN赤外線画像を用いた強膜弁の観察野村英一*1伊藤典彦*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1遠藤要子*2杉田美由紀*3水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜労災病院眼科*3蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofScleralFlapsafterGlaucomaSurgeriesEiichiNomura1),NorihikoItoh1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),YokoEndo2),MiyukiSugita3)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)YokohamaRosaiHospital,3)MaitaEyeClinic目的:濾過胞再建術の前に,以前の緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは有用であるが,可視光の所見では確認が困難なことがある.赤外線画像(IR画像)を用いて強膜弁の位置の確認を試みたので報告する.対象および方法:濾過胞機能不全もしくは漏出濾過胞の10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に後ろ向きに検討した.可視光画像(眼底カメラによるカラー前眼部撮影)とIR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalmoscope:SLO画像)で,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを比較した.結果:可視光画像では1.26±0.26(standarderrorofmean:SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).結論:IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.MaterialsandMethods:Nineteen(19)scleralflapsfrom10eyesafterglaucomasurgery(10cases,averageage64±16years)wereobservedretrospectively,basedonmedicalrecords.Thenumberofquadrangularscleralflapsidesthatwerevisibleusinginfraredray(IR)imageswascomparedwiththenumbervisibleusingvisiblerayimages.IRimagesofscleralflapsweremadeusingascanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis);visiblerayimagesweremadeusingafunduscamera(KOWA,Vx-10i)incolorphotographingmodefortheanteriorsegmentoftheeyeball.Results:1.26±0.26(SEM)sidesofaquadrangularscleralflapweredetectedusingvisiblerayimages,and2.21±0.26(SEM)sidesweredetectedusingIRimages.ThenumberofscleralflapsidesvisibleusingIRimageswassignificantlyhigherthanthenumbervisibleusingvisiblerayimages(p<0.005Wilcoxonsignedranktest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):879.882,2011〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,強膜弁,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,scleralflap,imaging.880あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(128)とした試みはない.強膜弁は,通常は結膜に覆われているため,細隙灯顕微鏡などによる可視光で正確に確認するのはむずかしいことが多いが,濾過胞再建術の術前に,以前に行われた緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは,手術の方法を考えるうえで有用である.今回筆者らは,赤外線画像(IR画像)を用いることで,近赤外線の組織深達性により,緑内障手術の強膜弁の位置を知ることができないか検討したので報告する.I対象および方法濾過手術後に眼圧上昇により点眼,あるいは内服の追加治療が必要となった濾過胞機能不全,もしくは漏出濾過胞で,2009年6月から2010年8月に当科において濾過胞のカラーの可視光画像とIR画像の撮影が行われた,10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討した.対象の緑内障の病型の内訳は,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)3例,原発開放隅角緑内障(POAG)2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,血管新生緑内障(NVG)2例,先天緑内障1例であった.また,カラー画像取得の方法は眼底カメラによるもの19カ所であった.IR画像取得の方法はハイデルベルグ社のスペクトラリスの走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)によるIR画像によるもの19カ所であった.観察した強膜弁の各部位における最終の術式の内訳は,線維柱帯切除術8カ所,濾過胞再建術2カ所,不明9カ所であった.診療録より手術日が確定した強膜弁は9カ所あり,手術から撮影日までの期間は平均32.0±12.3(SEM)カ月であった(表1).なお,濾過手術を対象としているが,同一眼に含まれる強膜弁に濾過手術以外のものを含んでいた場合は調査対象とした.カラーの可視光画像の取得にあたっては,眼底カメラ(KOWA,Vx-10i)による前眼部撮影を用いた.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLOによるIR画像(光源は波長820nmのダイオードレーザー)を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.また,この19カ所の強膜弁を対象に可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係について検討した.II結果可視光画像よりもIR画像で強膜弁が良好に透見できた典型例を図1に示した.AB図1ハイデルベルグ製スペクトラリスのIR画像で良好に強膜弁が観察できた1例10時方向の強膜弁は,眼底カメラの可視光画像(A)では0辺,ハイデルベルグのIR画像(B)で3辺(白矢印)が確認できた.表1可視光画像とIR画像の比較検討の対象とした症例の内訳.10例10眼男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳の強膜弁19カ所.CACG3例,POAG2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,NVG2例,先天緑内障1例.カラー画像取得の方法眼底カメラ19カ所.IR画像取得の方法スペクトラリス19カ所.術式の内訳線維柱帯切除術8カ所濾過胞再建術2カ所不明9カ所.撮影までの期間平均32.0±12.3カ月(129)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011881図1の症例は70歳,男性.2007年3月,右眼の虹彩毛様体炎,虹彩に新生血管がみられ,眼圧38mmHg,眼底のCoats病様の血管病変にて当科初診.血管病変の強いぶどう膜炎による血管新生緑内障と診断された.2007年11月ベバシズマブの硝子体注射,2008年2月から汎網膜光凝固術を施行された.2008年4月,10時方向に円蓋部基底で線維柱帯切除術を施行された.2010年5月,緑内障点眼薬併用下に,右眼眼圧は14mmHgとなった.強膜弁は眼底カメラの可視光画像(図1A)では0辺,ハイデルベルグ社のIR画像(図1B)で3辺(白矢印)が確認できた.強膜弁の辺が確認できたのは,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定)(図2).可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数には,正の相関関係がみられ有意であった(n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定)(図3).III考察可視光画像で確認できる強膜弁の辺の数より,IR画像で確認できる辺の数は有意に増加していた.近赤外光は可視光よりも組織深達性があるため,結膜下の強膜弁の位置を知ることができたと考えられる.可視光で検出できる辺の数と赤外線で検出できる辺の数に正の相関がみられたのは,近赤外光が可視光に近い波長特性があるため,結膜の厚みや結膜下組織の影響を同様に受けることを示唆していると考えられた.可視光でも確認できる強膜弁の辺は,IR画像では確認できる辺の数自体の増加はないが,より強膜弁の状態を詳細に確認できた.しかし,可視光でもIR画像でも検知できない強膜弁も一部にみられた.結膜の厚みや,強膜弁の隙間の治癒の程度などにより描出状態が影響を受けると考えられた.線維柱帯切除術と線維柱帯切開術で,ハイデルベルグ社のスペクトラリスを用いたIR画像による強膜弁の描出態度を比較してみた.線維柱帯切除術8カ所,線維柱帯切開術2カ所を対象とした.本研究が濾過手術を対象としていたため,同時期に撮影された線維柱帯切開術と比べた限定的な結果であるが,線維柱帯切除術では1.75±0.52(SEM)辺,線維柱帯切開術では3.00±0.00(SEM)辺がみられ,有意差はみられなかった(Mann-Whitney’sU検定).線維柱帯切開術の結膜は平滑であるため,強膜面の焦点は合いやすいのに対して,線維柱帯切除後の結膜は厚みがあることが多く,強膜面の焦点は合いにくかった.また,線維柱帯切除術の結膜には,網状の模様がみられることがあった.これは,線維柱帯切除後は,結膜表面が不整であること,結膜下組織の増生があること,内部に小さなcyst様構造があること,濾過胞内の水分が存在することなどの影響が考えられた.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)のように,近赤外光で断層像を作成する機器が登場している10).今回,すでに普及している機器を利用しても二次元的な像ではあるが強膜弁の位置が確認できた.赤外線による強膜弁の観察は,濾過胞再建術の術前検査に役立つ可能性が示唆された.IV結論IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.3210可視光IR確認できた辺の数(辺)*図2可視光画像とIR画像によって確認できた強膜弁の辺の数の比較対象画像をカラーの可視光画像を眼底カメラの前眼部撮影画像,IR画像をハイデルベルグのIR画像とした場合,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(n=19,p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).311124124y=0.6311x+1.4133R2=0.407401230123IRで確認できた辺の数(辺)可視光で確認できた辺の数(辺)図3可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定,可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数は正の相関があり有意であった.なお,バブル内中央の数字は,強膜弁の数を表している.882あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(130)文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:ICG蛍光眼底造影─読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(清水弘一監修),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)LeungCK,YickDW,KwongYYetal:AnalysisofblebmorphologyaftertrabeculectomywithVisanteanteriorsegmentopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:340-344,2007***

初回手術と同一部位から行うトラベクロトミー再手術の試み

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(127)8770910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):877880,2008cはじめにトラベクロトミーは,原発開放隅角緑内障や落屑緑内障などの開放隅角緑内障に対して選択される1).よく奏効しているトラベクレクトミーの術後眼圧に比べると,トラベクロトミー単独の術後眼圧は高いため,進行した緑内障眼に対してはトラベクレクトミーがより効果的であると考えられる.しかしながら,トラベクレクトミーは術後に濾過胞が形成されるので,濾過胞からの房水漏出や術後感染などの合併症に留意しながら経過観察を行わなければならない.とりわけ下方の結膜からトラベクレクトミーを行うと上方から行った場合よりも術後感染の発生頻度が高いため,上方から行うことが望ましい.トラベクロトミー,トラベクレクトミーのいずれの術式でも,術後期間が長くなるにつれて眼圧コントロールが不良となる症例の割合は増加してゆく.したがって患者の余命を考慮して緑内障治療を考えるとき,初回手術としては下方からトラベクロトミー,追加手術としては初回手術とは反対側で下方の部位からトラベクロトミーを行い,上方結膜は将来トラベクレクトミーが必要となった場合のために温存しておく考え方が提唱されている24).これをさらに進めて,下方から行った初回のトラベクロトミーと同一部位を使って再度トラベクロトミーを行うことが有効であれば,将来トラベクレ〔別刷請求先〕岡田守生:〒710-8602倉敷市美和1-1-1倉敷中央病院眼科Reprintrequests:MorioOkada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital,1-1-1Miwa,Kurashiki710-8602,JAPAN初回手術と同一部位から行うトラベクロトミー再手術の試み岡田守生王英泰高山弘平内田璞倉敷中央病院眼科PilotStudyofRepeatedTrabeculotomyatSiteofPreviousSurgeryMorioOkada,HideyasuOh,KouheiTakayamaandSunaoUchidaDepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital初回手術と同一部位からのトラベクロトミー(以下,LOTと略す)再手術の有効性を調べた.対象は,初回手術(全例で耳下側からLOTと白内障手術の同時手術を施行)で眼圧下降を得た後に年余を経て眼圧再上昇をきたした開放隅角緑内障症例3眼である.再手術までの期間は4年から6年で,再手術決定時の眼圧は35mmHg(眼圧下降薬点眼4剤と炭酸脱水酵素阻害薬内服),22mmHg(点眼3剤),18mmHg(点眼4剤と炭酸脱水酵素阻害薬内服)であった.再手術は,全例にLOT+シヌソトミー+Schlemm管内壁の内皮網除去を施行し,全例で両側のSchlemm管内壁を開放できた.全例で術後一時的に25mmHgを超える高眼圧となったが,保存的治療で眼圧は下降した.それぞれの症例の再手術後の眼圧はおのおの21mmHg,19mmHg,17mmHgであった.初回手術と同一部位から行うLOT再手術は有効である可能性がある.Theeectofrepeatedtrabeculotomyatthesiteoftheprevioussurgerywasstudiedin3patientswithopen-angleglaucomawhohadundergonecombinedtrabeculotomyandcataractsurgeryandwhoshowedintraocularpressure(IOP)increaseafter4to6yearsdespitemaximalmedicaltreatment,includingperoraladministrationofcarbonicanhydraseinhibitor.Wesuccessfullyperformedtrabeculotomyandsinusotomywithpeelingofthebroticliningfromthejuxtacanaliculartrabecularmeshworkinalleyes.Afterre-operation,anIOPspikewasnotedinalleyes;respectiveIOPthendecreasedfrom35mmHgto21mmHg,from22mmHgto19mmHgandfrom18mmHgto17mmHg.Thisstudysuggestsapossiblehypotensiveeectofrepeatedtrabeculotomyatthesiteoftheprevi-oussurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):877880,2008〕Keywords:開放隅角緑内障,緑内障手術,トラベクロトミー,再手術.open-angleglaucoma,glaucomasurgery,trabeculotomy,re-operation.———————————————————————-Page2878あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(128)(点眼2剤使用),症例3:25mmHg(点眼3剤使用)であった.初回手術の術式は,全例で耳下側からトラベクロトミー(症例3ではシヌソトミーを併用)を行い,同じ部位で白内障超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った.全例で両側のSchlemm管内壁の切開に成功し,bloodreuxを確認した.初回手術後の眼圧は,症例1:15mmHg以下(点眼3剤使用),症例2:1619mmHg(点眼3剤使用),症例3:12mmHg(点眼2剤使用)であった.その後年余を経て眼圧が再上昇したために再手術となったが,再手術までの期間は,症例1:4年,症例2:6年,症例3:6年であった.再手術前の眼圧は,症例1:35mmHg(点眼3剤を使用し,さらに炭酸脱水酵素阻害薬内服),症例2:1722mmHg(3剤使用),症例3:18mmHg(3剤使用し,さらに炭酸脱水酵素阻害薬内服)であった.再手術前の視野は,湖崎分類で,症クトミーを選択する際に用いる上方結膜を温存できる.今回,初回手術としてトラベクロトミーを耳下側から行い眼圧下降を得た後に年余を経て眼圧が再上昇した症例に,初回手術と同一部位からトラベクロトミーを行い眼圧下降を得たので報告する.I対象および方法対象は,初回手術が当科で合併症なく施行され眼圧下降を得た後,年余を経て眼圧再上昇をきたした開放隅角緑内障3眼〔原発開放隅角緑内障(POAG)1眼,落屑緑内障(PE)2眼〕で,いずれも2006年に当科で再手術を行った.症例1は63歳,女性でPE,症例2は80歳,女性でPOAG,症例3は75歳,男性でPEである.おのおのの初回手術前の眼圧は,症例1:28mmHg(眼圧降下薬点眼3剤使用)(以下,「眼圧降下薬点眼」を「点眼」と略す),症例2:21mmHg図1初回手術創初回手術部の結膜を離し,強膜創を露出.図2Schlemm管の同定Schlemm管内壁を露出.図4Bloodreuxトラベクロトームを回転しSchlemm管内壁を切開した.両側のbloodreuxを認める.図3内皮網除去トラベクロトームを挿入後,線維柱帯内皮網を除去.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008879(129)眼圧はやや上昇傾向を認め,症例1:21mmHg(術後10カ月,点眼3剤),症例2:19mmHg(術後8カ月,点眼2剤),症例3:17mmHg(術後6カ月,点眼2剤)であった.図5に,初回手術から再手術後間での眼圧の経過を示す.III考按トラベクロトミー施行眼の再手術に際しては,初回手術以外の部位からトラベクロトミーを行うか,あるいは上方の結膜からトラベクレクトミーを行うことが通常である.特にトラベクロトミーを再手術として行う場合は,上方を避け下方から行うことによって,将来必要となるかもしれないトラベクレクトミーのための上方結膜を温存することができる.同様に,上方結膜を温存する意味で初回にトラベクロトミーを行った部位と同一部位で再度トラベクロトミーを行うことができ,それが有効であればさらに有利であろうと考えられる.トラベクロトミーの効果が次第に減じてゆく原因としては,Schlemm管内壁の切開部の再閉鎖が考えられるが,これまで再手術の部位として前回と同一部位を用いた報告はない.これは,初回手術の部位の瘢痕を離し手術部を露出することの困難さと,一旦手術した部位のSchlemm管の働きが失われているのではないかという危惧が原因であろう.今回の症例では初回手術の際にトラベクロトミーに加え一部ではシヌソトミーを併用していたが,全例で初回手術部を露出でき両側のSchlemm管内壁を初回と同様に切開することができた.再手術の際でもトラベクロトームを回転してSchlemm管内壁を切開したときには,初回手術と同様にSchlemm管内壁からの抵抗が感じられたことから,初回手術の内壁切開創は再閉鎖していたのではないかと考えられ,これが眼圧再上昇の原因と推察された.Schlemm管内壁切開によって隅角からbloodreuxを認めたことにより,同部が房水静脈との交通を維持していることが示され,Schlemm管の機能が残っていることが示唆された.術後高眼圧が全例に起こったが,いずれも眼圧下降薬点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行い,術後59日で眼圧下降を得た.トラベクロトミーと同時にシヌソトミーを,さらには内皮網除去を併用すると,術後一過性眼圧上昇が少ないことが報告されている510).今回はシヌソトミーと内皮網除去の両方を行ったにもかかわらず全例で術後一過性の高眼圧をきたした.これは前房出血が比較的多かったことが原因と推測されるが,出血が多い理由は不明である.幸い術後に視野狭窄が進行した例はなかったが,本法を行う際には術後眼圧上昇の可能性に留意しておく必要があると思われる.術後の一時的な高眼圧の時期を過ぎた後の眼圧経過をみると,全例で再手術前の眼圧より低下しており手術の効果が認められた.シヌソトミーを併用すると,若干の房水が結膜下例1:Ⅲb,症例2:Ⅲa,症例3:Ⅲaであった.再手術前の手術眼の隅角は,全例でテント状周辺虹彩前癒着が散在するも,おおむね開放隅角を保っていた.再手術の術式は,全例で初回手術の術創を再び用いてトラベクロトミーを行い,シヌソトミーとSchlemm管内壁の内皮網除去を併用した.まず,円蓋部基底の結膜切開を施行し結膜癒着を離した(図1).ついで初回手術の強膜弁を離してゆくと初回手術時に露出したSchlemm管内壁が確認できた(図2).同部を用いてSchlemm管にトラベクロトームを挿入した.ついで内皮網除去を施行した後(図3),トラベクロトームを前房に向かって回転させてSchlemm管内壁の切開を行った(図4).強膜弁は10-0ナイロン5糸にて縫合するとともに,シヌソトミーを行った.手術後当日は手術部が上になるように側臥位安静とした.II結果全例で両側のSchlemm管内壁の切開に成功し,両側の切開部からのbloodreuxを認めた.同じく全例でSchlemm管内壁の内皮網除去とシヌソトミーを施行できた.トラベクロトームを回転しSchlemm管内壁を切開する際には,初回手術時に経験するようなSchlemm管内壁の抵抗を感じた.術翌日には全例にやや多目の前房出血を認め,25mmHg以上(症例1:25mmHg,症例2:40mmHg,症例3:30mmHg)の一時的な眼圧上昇が起こったが,保存的治療(眼圧降下薬点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服)で59日後には20mmHg以下となった.術後,シヌソトミー部の結膜に軽度の濾過胞を認めたが,速やかに吸収され濾過胞が残存したものはなかった.その他の合併症として1例で前房出血が硝子体腔へ回り硝子体出血となったが,自然吸収された.再手術後の眼圧は,症例1:16mmHg(術後3カ月,点眼2剤),症例2:16mmHg(術後4カ月,点眼2剤),症例3:15mmHg(術後2カ月,点眼2剤)であった.その後の図5手術前後の眼圧経過初回手術および再手術後に眼圧が下降している.4035302520151050眼圧(mmHg)初回手術前初回手術後再手術前再手術後2~4カ月再手術後6~10カ月:症例1:症例2:症例3———————————————————————-Page4880あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(130)は適応があると考えられる.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleectoftrabeculotomyabexternoinadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndorome.ArchOphthalmol111:1653-1661,19932)黒田真一郎:緑内診療のトラブルシューティングVI.手術治療1.トラベクロトミー1)初回は上からか下からか.眼科診療プラクティス98:150,20033)南部裕之,尾辻剛,桑原敦子ほか:下方から行ったトラベクロトミー+サイヌソトミーの術後成績.眼科手術15:389-391,20024)桑円満喜,南部裕之,安藤彰ほか:下方から行ったトラベクロトミー+シヌソトミーの術後3年の成績.眼臨99:684,20055)熊谷映治,寺内博夫,永田誠:TrabeculotomyとSinuso-tomy併用後の眼圧.臨眼46:1007-1011,19926)谷口典子,岡田守生,松村美代ほか:トラベクロトミー,シヌソトミー併用手術の効果と問題点.眼科手術7:673-676,19947)南部博之,岡田守生,西田明弘ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独手術の術後成績.眼科手術8:153-156,19958)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独手術との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19969)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:トラベクロトミー術後の一過性高眼圧に対する内皮網除去の効果.あたらしい眼科20:685-687,200310)富田直樹,徳山洪一:サイヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期成績.眼科手術18:425-429,200511)塩田伸子,岡田丈,稲見達也ほか:内皮網除去を併用したトラベクロトミーの手術成績.あたらしい眼科22:1693-1696,200512)伊藤正臣,中野匡,高橋現一郎ほか:非穿孔性線維柱帯切除術およびサイヌソトミーを併用した線維柱帯切開術の術後4年後の成績.眼科手術17:557-562,200413)小寺由里子,林寿子,田村和寛ほか:線維柱帯切開術に併用した深部強膜切除術の変法に術後短期経過.臨眼59:1561-1565,2005に流れて軽度の濾過胞を形成することがあるが,これは速やかに消失する.今回の症例でも軽度の濾過胞は速やかに消失したので,房水濾過の要素が眼圧下降に作用しているとは考えられない.再手術後,短期の眼圧は初回手術後の眼圧にほぼ匹敵することから,再手術の効果は短期的には初回手術とほぼ同程度ではないかと思われた.トラベクロトミーにシヌソトミーあるいは内皮網除去を併用すると,濾過胞の形成を認めないにもかかわらず,トラベクロトミー単独手術より術後眼圧が低く保たれることが報告されている413).今回はシヌソトミーと内皮網除去を施行しているが,術後眼圧はいずれも16mmHgを超えており,ロトミー単独手術の術後眼圧に近い印象がある.また,術後6カ月を越えたころから次第に眼圧上昇傾向を示している.これらの現象は,同一部位から行う方法の限界を示すものかもしれない.今回の症例では再手術時の強膜弁離で困難を感じることはなく,初回手術創を切開し脈絡膜が透けて見える程度の深さで強膜弁離を開始すると,途中で自然と前回手術の深さでの強膜弁が離してきた.トラベクロトームの挿入が困難であった例はなかったが,トラベクロトームをSchlemm管に挿入する際の一般的な注意としてSchlemm管内壁を破らないように,Schlemm管断端にトラベクロトームの先端をわずかに挿入したら,トラベクロトームを離して持針器などでそっとトラベクロトームの尻をつつくようにして挿入した.もし早期に前房に穿孔した場合は,持針器でトラベクロトームの案内側のアーム(挿入しないほうのアーム)を持ち,先端部をSchlemm管に挿入したら,持針器で持ったままトラベクロトームの挿入側のアームをSchlemm管外壁に押し付けるような感じで挿入すると成功することがある.症例数が少なく経過観察期間も短いが,本法は初回手術あるいは別の部位から行うトラベクロトミー再手術に準ずる眼圧下降効果があった.再手術としてトラベクロトミーが適応となる症例,特にトラベクレクトミーを行う部位を残しておきたいが,すでに複数回の手術を行っており同一部位からトラベクロトミーを行わざるをえない症例などに対して,本法***