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血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術と バルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1534.1538,2022c血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術とバルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較練合かのこ井田洋輔鈴木綜馬渡部恵日景史人大黒浩札幌医科大学眼科学講座CShort-TermPostoperativeOutcomesbetweenAhmedGlaucomaValveImplantandBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryforNeovascularGlaucomaKanokoNeriai,YosukeIda,SomaSuzuki,MegumiWatanabe,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityC目的:今回,血管新生緑内障に対して施行されたアーメド緑内障バルブインプラント術(Ahmedglaucomavalveimplanttubing:AGV)とバルベルト緑内障インプラント術(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)の術後成績を比較検討した.方法:2020年C6月.2021年C4月に眼圧コントロール不良の血管新生緑内障に対し,当院で施行されたバルブインプラント術をCAGV群(7例C8眼)とCBGI群(4例C4眼)に分け,眼圧を術後C3日目,2週間,1カ月,3カ月,薬剤スコアを術後C1カ月,3カ月で比較検討した.結果:術前平均眼圧はCAGV群でC38.8±13.6CmmHg,BGI群でC36.1±7.6CmmHgであった.術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,それぞれCBGI群ではC16.8±10.0,26.8±15.0,9.5C±3.9,12.0±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5±3.2,16.0±6.6,17.5±6.5,15.0±3.9CmmHgであった.術後眼圧は術前と比較すると,両群ともに観察期間すべてで有意な低下を認めた.両群間の術後眼圧に有意差は認めなかったが,術後3日目,2週間時点ではCBGI群の眼圧が高い傾向を示し,眼圧の変動は大きかった.薬剤スコアに関しては,AGV群およびCBGI群はいずれも術前に比べ有意差は認めず,群間でも有意差は認めなかった.結論:AGV群およびCBGI群いずれも高い降圧効果が得られたものの,BGI群はCAGV群に比べ眼圧の変動がみられたことから,視野障害が高度な眼圧コントロール不良な血管新生緑内障に対してはCAGVのほうが適していると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCpostoperativeCoutcomesCbetweenCAhmedCglaucomavalve(AGV)CimplantCandCBaerveldtglaucomaCimplant(BGI)surgeryCforCneovascularglaucoma(NVG).CMethods:ThisCstudyCinvolvedC12CeyesCofC11CNVGCpatientsCinCwhichCAGVimplant(8eyes)orBGI(4eyes)surgeryCwasCperformedCbetweenJune2020andApril2021.Intraocularpressure(IOP),drugscores,andsurgicalcomplicationswereevalu-atedCatC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative.CResults:MeanCbaselineCIOPCinCtheCAGV-groupCandCBGI-groupCeyesCwasC38.8±13.6CmmHgCandC36.1±7.6CmmHg,Crespectively.CAtC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative,CmeanCIOPCsigni.cantlyCdecreasedCtoC16.8±10.0,C26.8±15.0,C9.5±3.9CmmHg,CandC12.5±3.0CmmHg,respectively,intheBGIgroupand11.5±3.2,C16.0±6.6,C17.5±6.5,CandC15.0±3.9CmmHg,respectively,intheAGVgroup.Nosigni.cantdi.erenceindrugscoreandsurgicalcomplicationswasobservedbetweenthetwogroups.CConclusion:BothCAGVCimplantCandCBGICsurgeryCwereCfoundCe.ectiveCforCNVG.CHowever,CpostoperativeCIOPlevelsintheAGV-groupeyesweremorestable,thussuggestingthatitmaybeamoresuitabletreatmentforrefractoryNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1534.1538,C2022〕Keywords:緑内障,緑内障治療,アーメド緑内障バルブインプラント,バルベルト緑内障インプラント.glauco-ma,glaucomasurgery,Ahmedglaucomavalveimplant,Baerveldtglaucomaimplant.C〔別刷請求先〕練合かのこ:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanokoNeriai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,Minami1-jouNishi16-chome,Cyuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPANC1534(94)表1各症例のまとめ年齢術前術前硝子体緑内障術前点眼CCAI術式症例性別原疾患術眼眼圧CPGCbaCAICRho(歳)(mmHg)視力手術手術スコア内服BGIC1C41男CPDR左C29C0.07Cp+.5C.+++.+2C67男眼虚血症候群左C34LP(+)+.6++++.+3C71女CPDR右C62CCF+.5++.+.+4C73男CPDR左C30LP(+)+.5++.+.+AGVC5C49男CPDR左C37C0.08+.5++.+.+6C49男CPDR右C35C0.5+.5++.+.+7C48男CPDR左C44C0.6+.2+.+…8C53女CPDR右C50C0.03+.6++++.+9C68女CPDR左C27C1++2C..+.+.10C75男CPDR右C28C0.2+.4+.+++.11C75女CPDR右C39C0.04+.6++++.+12C42男CPDR左C29CHM+.6++++.+PDR:増殖糖尿病,LP:光覚弁,CF:指数弁,PG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,Ca:a刺激薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.はじめに緑内障に対するインプラント手術は,房水の流出路を人工的な素材によって確保することで流出路の閉塞を回避する目的で行われる1).近年,米国ではCTubeCversusCTrabeculec-tomy(TVT)studyの結果2)を受けてプレートを有するチューブシャント手術(以下,チューブシャント手術)を好む術者が増加している.日本でもC2012年にバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)が保険適応となり,2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglauco-mavalve:AGV)が認可された.わが国の緑内障診療ガイドラインでは,線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,結膜瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない患者,他の濾過手術が困難な患者がチューブシャント手術の適応とされている3).その結果,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発性緑内障などの難治性緑内障に対してチューブシャント手術が施行されるケースが増加している.国内で使用可能なチューブシャント手術にはCAGVとCBGIがあり,眼球赤道付近の強膜にプレートを設置してその周囲に被膜を作らせ,房水が眼球からチューブを通って,被膜中に流出することで眼圧を低下させる.BGIとAGVの最大の違いはチューブの圧調節弁(valve)の有無である.BGIは圧調節弁がなく,低眼圧防止のため手術時にチューブを結紮する必要がある.結紮した糸が吸収されるまでは房水は排出されず,術直後は眼圧下降が得られにくい.そのため,高眼圧防止のためにチューブに針でCSherwoodslitを入れるが,その効果は定量できない.AGVはチューブがプレート内で弁構造を有しており,理論上はC8CmmHg以上の圧がかかると開放される.そのため,AGVでは術直後より眼圧下降が期待でき,なおかつ術後低眼圧が少ない可能性が期待できる.また,BGIとCAGVとではプレートの大きさにも差があり,AGVはCBGIよりもプレート面積が小さく,2直筋間に挿入することができる.現在までチューブシャント手術間の手術成績を直接比較した報告は少なく,対象疾患を絞った報告はさらに少ない.そこで,今回筆者らは当院で血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対して施行されたCAGVおよびCBGIの術後成績を比較検討した.CI対象および方法2020年C6月.2021年C4月にCNVGと診断され,当院にてチューブシャント手術を施行し,術後C3カ月観察が可能であったC11例C12眼を対象として,後ろ向きに検討した.術式はC2020年C6月.2020年C11月はCBGI,2020年C12月.2021年C4月はCAGVを選択した.対象の内訳はCBGI群C4例C4眼,AGV群C7例C8眼であった.各症例の年齢,性別,原疾患,硝子体手術の有無,緑内障手術の有無,術前眼圧,術前視力,薬剤スコア(点眼薬はC1点,配合薬はC2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点)を比較した(表1).BGIの平均年齢はC63.0±12.9歳,AGVはC57.4C±12.3歳で有意差はなかった.性別はCBGIでは男性C3例,女性C1例,AGVでは男性C4例,女性C3例であった.NVGの原疾患はCBGIのC1例のみ眼虚血症候群,それ以外はすべて増殖糖尿病網膜症であった.また,すべての症例でチューブシャント以前に硝子体手術が施行されており,緑内障手術(トラベクレクトミー)を施行した症例はCAGVのC1例のみだった.術前眼圧はCBGIではC38.8±13.6mmHg,AGVではC36.1C±7.6CmmHg,術前視力(logMAR)はCBGIではC1.6C±0.3,AGVではC0.9C±0.6,点眼スコアはCBGIではC5.3C±0.4,AGVではC4.5C±1.6といずれも2群間で有意差は認めなかった.チューブシャント手術のチューブ留置部位はすべて硝子体腔内とした.BGIはまず結膜を切開し,外直筋および上直筋の制御後にC6C×7Cmmの強膜フラップを上耳側に作製した.BGI(全例C103-250)のチューブ根部をC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞されていることを確認したうえでCSher-woodslitを作製,BGIプレートを直筋下に固定した.角膜輪部よりC3.5Cmmの位置でチューブを硝子体腔内に挿入し,強膜フラップでチューブを被覆し終了とした.なお,AGVについては全例CFP7を使用し,直筋制御およびCSherwoodslitの作製は行わず,外直筋と上直筋の間に設置した.術前,術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧および術前,術後C1カ月,3カ月の薬剤スコア,炭酸脱水酵素阻害薬の有無および手術後の有害事象の発症の有無を両群間で比較した.統計解析はCGraphPadCPrismCversion9.3.1を用いて,各時点での両群間の有意差を対応のないCt検定で比較した.6040II結果術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0C±3.9CmmHgであった(図1).両群ともに術前に比べどの期間でも有意な眼圧下降を認めたが,両群間で有意差は認めなかった.術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7で,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.BGI群では術前後で有意差はなかったものの,AGV群では術前と比較し,術後C1カ月の時点で有意な減少がみられたが,両群間で有意差はみられなかった(図2).またCBGI群では術前に炭酸脱水酵素阻害薬を全例で内服していたが,術後の内服はみられなかったのに対し,AGV群では術前C7例中C5例において炭酸脱水酵素阻害薬の内服が,術後C1カ月でC1例,3カ月でC3例に減少した(図3).周術期の有害事象はCBGI群で前房出血がC2例,硝子体出血がC1例,脈絡膜.離がC1例,AGV群では,チューブ閉塞がC1例,硝子体出血がC3例,脈絡膜.離がC1例みられた(表2).チューブ閉塞に関しては,閉塞解除のため再度硝子体手術を施行した.眼圧(mmHg)0無,有害事象について比較検討を行った.術後眼圧は両群ともに有意に下降し,両群間に有意差は認めなかったものの,BGI群ではCAGV群に比べ,術後眼圧の変動がみられた.これは,バルブを持たないCBGIにおいてチューブを結紮した図1術前後の平均眼圧術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではことによるものと考えられた.国内でCNVGに対し施行したC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5mmHgであBGI,AGVの術後成績を比較した既報でも,術前と比較しった.AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0術後は有意に眼圧の下降は認めたが,術式による有意差はな±3.9CmmHgであった.AGV群BGI群882200術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月図2術前術後の薬剤スコア術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.薬剤スコア*66薬剤スコア44AGV群BGI群8866CIA内服者数424200図3炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)内服者数の変化CAIを全例で内服していたが,術後は内服している症例はなかった.一方でCAGV群ではC7例中C5例で術前にCCAIを内服していたが,術後にも内服していたのは術後C1カ月でC1例,3カ術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月月でC3例であった.く,本研究と同様の結果であった4).NVG以外の疾患を含めた重症緑内障に対してCAGV,BGIを施行した国内からの報告でも同様の結果であった5).また,AhmedCBaerveldtcomparisonCstudy(ABCstudy)やCAhmedCVersusCBaer-veldtStudy(AVBstudy)ではC5年間と長期間の観察が行われ,長期的にみるとCBGIのほうが術後1.2CmmHg程度低い眼圧が得られた6,7)とされている.薬剤スコアに関しては,BGI群では術前と比較して有意差はみられなかったものの,AGV群では術後C1カ月の時点で有意な下降がみられた.術後の炭酸脱水酵素阻害薬の内服に関しては,BGI群では内服継続している症例はなかったが,AGV群では術後有害事象として,チューブ閉塞や硝子体出血が生じて眼圧が上昇したことで,AGV群では術後C3カ月の時点で炭酸脱水酵素阻害薬の内服を再開した症例がC3例あった.一般的にチューブシャント手術ではどのタイプのチューブであっても術後C1カ月から数カ月まで無治療時の眼圧がC30.50CmmHgまで上昇する高眼圧期が存在するとされている.これは,術後早期はチューブ本体周囲組織の浮腫が軽減することで組織の密度が高くなり,房水排出が減少することで眼圧が上昇しやすく,その後,消炎に伴い周囲組織が菲薄化していくことで眼圧が下降するといわれており,眼球マッサージが眼圧の維持に有効であったとの報告もある8).BGIはチューブを吸収糸で結紮するため手術直後のC1.2カ月間は高眼圧が持続することが広く知られており1,2),AGVでも術後の一過性に眼圧が上昇することが報告されているが9,10),それらは術直後のサイトカインの多い房水にCTenon.下組織が曝露されることが関与しているとの推察もあり,手術終了時にトリアムシノロンアセトニドをプレート周囲に散布することが高眼圧期の予防に有効だとの報告もある11).本研究でも術後に眼圧上昇が生じた症例で眼球マッサージにより,眼圧下降が得られた症例も存在した.また,ABCstudyや表2有害事象BGI群(n=4)AGI群(n=8)チューブ閉塞0眼1眼(1C2.5%)前房出血2眼(50%)0眼硝子体出血1眼(25%)3眼(3C7.5%)脈絡膜.離1眼(25%)1眼(1C2.5%)AVBstudyでは,BGIのほうが低眼圧による不成功が多いとの報告もあり6,7),重症の増殖硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後や重篤なぶどう膜炎などの網膜が広範囲に障害され,房水産生が減少しているような症例ではAGVのほうが安全であるといえる.今回,当院で施行したCBGIでは手術C1カ月後の時点までの眼圧変動が大きかったが,AGVでは安定した低眼圧が得られた.一方CBGIは術後一過性の高眼圧を生じやすく,前房穿刺やチューブ内に留置したCripcordやステントを抜去する必要が生じることもあるため,治療に非協力的な小児や認知症患者では対応が困難となる.その点,AGVでは術直後より眼圧下降が得やすいため,術後処置に協力が得られない患者の場合はCAGVのほうが望ましいと考えられる.また,すでに高度な視野障害が生じている患者では,BGIのような眼圧変動は視野障害をさらに悪化させる可能性が示唆されるため,AGVのほうが望ましいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩崎健太郎:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント.臨眼74:218-219,C20202)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollowup.AmJOphthalmolC153:789-803,C20123)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C3版,20124)田部早織,稲崎鉱,井上麻衣子ほか:血管新生緑内障に対するC2種類のチューブシャント手術の術後成績の比較.臨眼73:1275-1279,C20195)高木理那,小林未奈,田中克明ほか:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績.あたらしい眼科C35:1692-1695,C20186)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20157)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCversusCBaerveldtstudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20168)Neuri-MahdaviK,CaprioliJ:Evaluationofthehyperten-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimpkantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOpthalmolC94:260-267,C201610)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C201011)YaxdaniCS,CDoozandehCA,CPakravanCMCetal:AdjunctiveCtriamcinoloneCacetonideCforCAhmedCglaucomaCvalveimplantation:aCrandomaizedCclinicalCtrial.CEurCJCOpthal-molC27:411-416,C2017***

すでに行われていた緑内障治療が不要と判断された症例の検討

2013年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(10):1472.1474,2013cすでに行われていた緑内障治療が不要と判断された症例の検討茨木信博*1,2久保江理*2佐々木洋*2*1いばらき眼科クリニック*2金沢医科大学眼科学講座CasesinWhichPrescribedGlaucomaMedicationsWereUnnecessaryNobuhiroIbaraki1,2),EriKubo2)andHiroshiSasaki2)1)IBARAKIEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:既処方の緑内障薬が不要であった症例の頻度,特徴を検討した.対象および方法:平成23年7月から12月に初診で,緑内障薬をすでに点眼している71例を対象とした.休薬後の平均眼圧が18mmHg未満,Humphrey視野検査が正常,光干渉断層計で神経線維束欠損のないものは,投薬を中断した.初診時眼圧,C/D(陥凹乳頭)比,Humphrey視野MD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚,投薬中断後眼圧を検討した.結果:15例(21.1%)は投薬を中断した.MD値は.1.49と高く,網膜神経線維層厚も94.6μmと厚かった.初診時と中断後の眼圧に差がなかった.C/D比は0.61と大きく,点眼続行した症例の0.69と差がなかった.結論:乳頭陥凹拡大の他に所見のない症例での緑内障治療は慎重にすべきと考えられた.Purpose:Weinvestigatedthefeaturesandfrequencyofcasesinwhichalreadyprescribedglaucomamedica-tionswereunnecessary.SubjectsandMethods:Includedwere71casesthatwerealreadyusingglaucomamedi-cine.Thoseinwhichmeanintraocularpressureaftermedicinewithdrawalwaslessthan18mmHg,Humphreyvisual.eldtestwasnormalandnonervedefectswerefoundinopticalcoherencetomographyinterruptedthemedication.Intraocularpressurewasexaminedat.rstvisitandafterinterruption;cup/disc(C/D)ratio,Hum-phreyvisual.eldmeandeviation(MD)valueandretinalnerve.berlayerthicknesswerealsoexamined.Results:In15patients(21.1%),medicationwasinterrupted.TheMDlevelwashighat.1.49,andretinalnerve.berlayerthicknesswasthickat94.6μm.Therewasnodi.erenceinintraocularpressureafterthebreakandatthe.rstvisit.C/Dratiowasgreaterat0.61;therewasnodi.erencebetweenpatientswhocontinuedeyedrops,at0.69.Conclusions:Cautionshouldbeusedwhentreatingglaucomainpatientswithno.ndingsotherthanlargecupping.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1472.1474,2013〕Keywords:緑内障治療,眼圧,C/D(陥凹乳頭)比,MD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚.medicationforglau-coma,intraocularpressure,C/D(cup/disc)ratio,MD(meandeviation)value,retinalnerve.berlayerthickness.はじめに緑内障は,進行した視神経障害,視野欠損が不可逆的変化であることから,早期発見,早期治療が重要であることには疑う余地はない1).近年,わが国における中途失明原因の1位であることも背景にあり,眼科医による啓蒙が少しずつ浸透しはじめ,成人病検診での眼底撮影による,視神経乳頭陥凹拡大という診断所見の増加につながっている.さらに,多治見スタディ2)により,日本人に正常眼圧緑内障が多いことが報告されてから,より乳頭の形状解析に関心が寄せられ,かつ画像解析装置も開発され急速に普及するようになった.しかし,眼圧が正常で,視野にまだ異常がなく,視神経乳頭陥凹拡大のみを呈する症例では,その診断や治療開始時期を迷うことが少なくない.視野進行を恐れるあまり,乳頭所見のみの所見で緑内障治療薬を処方される症例も見受けられる.今回,筆者らは前医で処方を受けていた緑内障治療薬が不〔別刷請求先〕茨木信博:〒320-0851宇都宮市鶴田町720-1いばらき眼科クリニックReprintrequests:NobuhiroIbaraki,M.D.,IBARAKIEyeClinic,720-1Tsuruta-machi,Utsunomiyacity,Tochigi320-0851,JAPAN1472(128)0)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY要と判断した症例について,その頻度,特徴についてまとめる機会を得たので報告する.10.90.80.7I対象および方法C/D比0.60.50.40.30.2平成23年7月より12月にいばらき眼科クリニックを初診した症例のうち,前医で緑内障点眼薬による治療をすでに0.1受けている71例(男:女=29:42,年齢38.86歳,平均0中断継続72±12歳)を対象とした.Humphrey視野(HFAI740,カールツアイス)のプログ図1C/D比の緑内障治療薬中断症例と継続症例との比較ラム30-2にて異常のないもの(緑内障診療ガイドライン第-203版,補足資料1,Humphrey視野における視野異常の判定Humphrey視野MD値-180中断継続基準3項目1)のいずれも満たさないもの),光干渉断層計(RS-3000,ニデック)による視神経線維束欠損のないもの(乳頭マップ解析において,正常データベース5%未満を一切認めないもの),前医の処方薬を1週間以上一旦休薬した状態で1カ月以内に測定した3回の平均眼圧(アプラネーション圧平眼圧計)が18mmHg未満のものの条件をすべて-16-14-12-10-8-6-4-2備えるものは,前医の処方薬を中断した.投薬を中断した群(中断群)で,初診時眼圧と投薬中断後図2Humphrey視野MD値の緑内障治療薬中断症例と継続1カ月以内に3回測定した眼圧の平均値ならびに6カ月後の症例との比較眼圧について検討するとともに,中断群と継続した群(継続群)で,前置レンズを用いた細隙灯顕微鏡検査での視神経乳頭縦径C/D(陥凹乳頭)比,Humphrey視野のMD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚について比較検討した.II結果71例中16例(22.5%,男:女=5:11,年齢40.83歳,平均66±13歳)は投薬を中断した.ただし,中断した16例網膜神経線維層厚(μm12011010090807060中断継続中1例(男性,60歳)は,投薬中断後7カ月で眼圧が21mmHgに上昇し,高眼圧がその後も継続したので,点眼加療を再開した.この症例については,今回の解析から除外した.他の15例(21.1%,男:女=4:11,年齢40.83歳,平均66±13歳)に投与中断後経過中(経過観察期間1年.1年6カ月)に眼圧上昇や視野障害などの変化は認められなかった.中断群と継続群で性別(c2検定:p=0.135),年齢(継続群平均72±11歳,Mann-WhitneyUtest:p=0.07)で有意差を認めなかった.屈折については,中断群が平均.0.73±2.52D(.6.0.+6.0D),継続群が平均.1.35±3.90D(.15.5.+10.75D)で有意差を認めなかった(Mann-WhitneyUtest:p=0.08).隅角所見については,継続群にレーザー虹彩切開術の既往例のvanHerick法のGrade3,Sha.er分類のGrade2であった1例以外はすべてvanHerick法Grade4,Sha.er分類Grade4であった.中断群の初診時眼圧と中断後1カ月以内3回測定平均眼圧,6カ月後の眼圧の平均はそれぞれ13.1±1.9mmHgと13.4±2.2mmHg,13.6±1.9mmHgで初診時眼圧と比較しそ図3光干渉断層計での網膜神経線維層厚の緑内障治療薬中断症例と継続症例との比較れぞれ有意差を認めなかった(Wilcoxonsingleranktest:p=0.35,p=0.40).C/D比,MD値,網膜神経線維層厚について中断群と継続群で比較検討した結果を図1.3に示す.C/D比の再現性については,中断群15例30眼において,初診より1カ月以内3回の計測で3回とも同データであったものは26眼(87.6%)であった.使用したデータは初診時のものを対象にした.C/D比の平均は,中断群は0.61±0.16,継続群は0.69±0.22であり,両群間に有意差を認めなかった(Mann-WhitneyUtest:p=0.06).これに対し,Humphrey視野MD値について中断群(.1.49±2.2)は継続群(.9.37±9.2)に比べ有意に高く(Mann-WhitneyUtest:p<0.01),網膜神経線維層厚も中断群(94.6±15.8μm)は継続群(74.1±15.7μm)に比べ有意に厚かった(Mann-WhitneyUtest:p<0.01).(129)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131473III考按緑内障治療については,早期発見,早期治療が重要であることに疑う余地はない1).多治見スタディが報告されて以来,日本人における正常眼圧緑内障の症例が多いことが明らかとなってから2),特に成人病検診における眼底検査での視神経乳頭陥凹拡大が指摘される症例が多くなっていることは,緑内障の早期発見という観点からは非常に実りある成果と言うことができる.しかし,視神経乳頭陥凹拡大を診た場合に,緑内障治療を行うかどうかを迷う例がある.鑑別すべき疾患に,視神経乳頭異常や頭蓋内占拠性病変などがある3.5).いずれも眼圧正常で,視野は緑内障性の変化に紛らわしいものもあり,他の画像診断を要することがある.このような場合,緑内障としての治療を第一義的に行うことは避けるべきであり,原疾患の加療を第一に考えるべきである.今回の点眼を中断した症例のなかに,頭蓋内占拠性病変が見つかった症例はなかった.また,視神経乳頭陥凹拡大のみで,眼圧や視野に異常がなく,他の病変を否定される場合,将来の視野変化を予測すると,緑内障の治療を行うかどうかについては非常に迷うところである.今回,6カ月の短期間に初診にて前医で緑内障加療を行っていた症例を71例集めることができたのは,医院開業直後であるという特殊状況が背景にある.今回の検討結果についてもこの点が影響している可能性は否定できない.今回の検討では,71例中投与中断後7カ月経って眼圧の上昇をきたした1例を除く15例21.1%が緑内障治療薬の投与を不要と判断した.これらの症例では投与中止にても眼圧の平均が13.4mmHgとlowteenの状態であり,点眼加療していた初診時の眼圧13.1mmHgと比べ上昇しておらず,点眼加療自体に効果が低いあるいはなかったものと判断した.今回検討した症例の前の通院施設や中断群の投薬内容については,特定の施設や特定の薬物に偏る結果ではなかった〔前の通院施設数:17施設,投薬の種類:PG(プロスタグランジン)製剤,bブロッカー,合剤を含め全16種類〕が,前の施設からの紹介状なしに来院した症例がほとんどであることから,前医の処方を信じておらず点眼のアドヒアランスが悪かった可能性がある.しかし,問診においてはいずれの症例も点眼はしっかりと行っていたとのことであり,点眼休薬での眼圧上昇をきたさなかった理由は不明である.中断群のMD値や網膜神経線維層厚値は継続群に比べ有意に高く,ほぼ正常値を示していた.点眼中止を判断する基準として含まれた項目であるので,当然の結果であるが,眼圧が正常で,視神経乳頭陥凹拡大を診た際に,緑内障治療を行うかどうかの判断項目であると考えられる.今回の検討では,新薬の評価の際に前薬の影響を受けないとしてよく用いられている1週間を休薬期間として採用した.しかし,点眼薬の種類によっては,その影響が消失するのにさらなる期間が必要である可能性はある.そこで,本研究では休薬後6カ月での眼圧も初診時と比較検討したが,中断群では変化をきたさなかった.今回投薬中断後7カ月経って眼圧上昇をきたした症例が1例あったが,MD値右眼.0.04,左眼.0.8,網膜神経線維層厚右眼95μm,左眼90μmと正常範囲であるが,21mmHg以上の眼圧が継続したので高眼圧症として点眼加療を再開した.また,今回の観察期間は点眼中断後最長で1年6カ月であり,その間では点眼中止をした15例に眼圧上昇や視野変化は認められていない.しかし,中断が妥当であったかの判断にはさらなる長期経過観察や特異性の高い鋭敏な検出力のある検査が必要であると考えられる.今回の結果から,視神経乳頭陥凹拡大を診た際の緑内障の診断,治療開始時期については,経過観察を十分行ったうえで慎重に検討すべきと考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)中尾雄三:視神経乳頭形成異常(不全)と正常眼圧緑内障.神経眼科24:397-404,20084)中川哲郎,宮本麻紀,吉澤秀彦ほか:視交叉近傍病変の3例.臨眼57:587-591,20035)山上明子,若倉雅登,藤江和貴ほか:片眼の下方視野障害で発症した鞍結節髄膜腫の一例.神経眼科22:70-75,2005***1474あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(130)