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多施設による緑内障患者の実態調査2020 年版 −ROCK 阻害薬−

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):953.958,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年版.ROCK阻害薬.内匠哲郎*1,3井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CMulti-InstitutionalSurveyontheUseofROCKInhibitorforGlaucomain2020TetsuroTakumi1,3)C,KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障薬物治療の実態調査から,ROCK阻害薬の使用状況を明らかにする.対象および方法:2020年C3月8日.14日にC78施設を外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例C5,303眼を対象とした.使用薬剤数別にCROCK阻害薬の使用率と併用薬を調査した.さらにC2016年調査の結果と比較した.結果:ROCK阻害薬の使用率はC1剤例C0.4%,2剤例C3.1%,3剤例C11.5%,4剤例C33.5%,5剤例C88.8%などであった.ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例CPG関連薬,3剤例CPG関連薬/Cb遮断配合薬,4剤例Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害配合薬+PG関連薬,5剤例さらにCa2刺激薬を追加した組み合わせが各々最多であった.ROCK阻害薬の使用割合は薬剤数が増えるに従って増加した.ROCK阻害薬の使用はC2016年調査とは同様だった.結論:ROCK阻害薬はC3剤以上の使用例において配合剤と併用される頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCtheCusingCaCRho-associatedCproteinkinase(ROCK)-inhibitorCforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Atotalof5,303outpatients(5,303eyes)withglaucomaorocularhypertensionseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14in2020wereenrolled.ThepercentagesCofCROCK-inhibitorCandCtheCconcomitantCmedicationsCwithCROCK-inhibitorCwereCinvestigatedCinCeachCgroupofmedicationsused.Thestatuswasthencomparedwiththatreportedin2016.Results:TheuseofROCK-inhibitorCinCtheC1CtoC5CmedicationsCgroupsCwas0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,Cand88.8%,Crespectively.CInCtheC2CtoC5Cmedicationsgroups,theconcomitantmedicationsmostwidelyusedwereprostaglandin(PG)analogs,PG/Cb-blocker.xedCcombination,Cb-blocker/carbonic-anhydrase-inhibitor(CAI/Cb).xedCcombination+PGCanalogs,CandCCAI/b.xedcombination+PGanalogs+a2agonist,respectively.TheuseofROCK-inhibitorwasincreasedasthenumberofmedicationsincreased.Conclusion:ROCK-inhibitorwasfrequentlyusedwith.xedcombinationsinthethreeormoreCmedicationsCgroup.CAsCtheCnumberCofCmedicationsCincreased,CtheCfrequencyCofCtheCuseCofCROCK-inhibitorCincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):953.958,C2022〕Keywords:ROCK阻害薬,併用,配合剤,緑内障薬物治療.ROCK-inhibitor,concomitantuse,.xedcombina-tion,treatmentwithmedication.Cはじめに日本緑内障学会が作成している緑内障診療ガイドラインが2018年に改訂され第C4版となった1).眼科医は,この緑内障診療ガイドラインを参考にして緑内障の診断,病型分類,治療を行っている.緑内障診療ガイドライン第C4版においても緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である2.5).近年新たな眼圧下降の作用機序を有する点眼薬,配合点眼薬,後発医薬品の発売などで緑内障薬物治療の選択肢は大幅〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC表1研究協力施設(78施設)ふじた眼科クリニックとやま眼科博愛こばやし眼科鬼怒川眼科医院おおはら眼科さいはく眼科クリニックいずみ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科サンアイ眼科みやざき眼科藤原眼科さいき眼科はしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニック石井眼科クリニックそが眼科クリニック槇眼科医院やながわ眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科ふかさく眼科早稲田眼科診療所かさい眼科たじま眼科・形成外科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通りあおやぎ眼科いなげ眼科やなせ眼科本郷眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニック吉田眼科えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科のだ眼科麻酔科医院東小金井駅前眼科小川眼科診療所みやけ眼科後藤眼科良田眼科高根台眼科おがわ眼科白金眼科クリニック谷津駅前あじさい眼科西府ひかり眼科小滝橋西野眼科クリニックおおあみ眼科だんのうえ眼科クリニックあつみクリニック中山眼科医院綱島駅前眼科あつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック眼科中井医院林眼科医院中沢眼科医院さいとう眼科なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科ヒルサイド眼科クリニックさくら眼科・内科立川しんどう眼科図師眼科医院大宮・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院札幌・井上眼科クリニックうえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック西葛西・井上眼科病院江本眼科ガキヤ眼科医院お茶の水・井上眼科クリニックえづれ眼科川島眼科井上眼科病院に拡大している.選択肢が増えることで患者に対してもっとも適した治療を提供できる可能性が増大するが,その選択には薬剤の種類が多いがゆえに苦慮することもある.そこで緑内障病型の発症頻度や緑内障薬物治療の実態を把握しておくことは眼科医の緑内障診療の一助になると考えた.筆者らは眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した6).その後,2009年に第C2回7),2012年に第C3回8),2016年に第C4回緑内障患者実態調査9)を実施した.2014年にはCROCK(Rho-associatedCproteinkinase)阻害薬が使用可能となり,ROCK阻害薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている10.14).さらにC2016年以降,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬が新たに使用可能になった.筆者らはC2020年に第C5回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した15).今回はそのなかで,使用可能となってからC5年間が経過したCROCK阻害薬の使用状況を解析した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C78施設において,2020年C3月C8日から同C14日に施行した.調査の趣旨は緑内障診療を行ううえで,緑内障病型の発症頻度や薬物治療の実態を把握することが重要であるためとした.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C5,303例5,303眼,男性C2,347例,女性C2,956例,年齢はC11.101歳,C68.7±13.1歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合には右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より病型,使用薬剤数および種類,レーザー治療,緑内障手術の既往について解析を行った15).今回はそのなかでROCK阻害薬リパスジル点眼薬(グラナテック,興和)の使用率と併用薬を調査し,緑内障病型別のCROCK阻害薬使用割合を調査した.さらにこれらの結果をC2016年の前回調査の結果9)と比較した.配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,2016年調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回の調査では薬剤は一般名での収集とした.ROCK阻害薬の使用率およびC2016年調査時との表2調査票第C5回緑内障実態調査第C5回緑内障実態調査イニシャル整理番号性別M:男性・F:女性年齢歳診断名右・左1:POAG2:NTG3:PACG4:続発緑内障(落屑緑内障を含む)5:高眼圧症6:小児緑内障1:無手術既往歴2:有術式1:レクトミー2:ロトミー3:GSL4:チューブシャント5:その他()レーザー既往歴1:無2:有術式1:LI2:CSLT(ALT)3:その他()1:無緑内障処方薬剤2:有〈b遮断薬〉1:チモロールマレイン酸塩(チモプトール)2:チモロールマレイン塩酸持続性(チモプトールXE)3:チモロールマレイン塩酸熱応答(リズモンTG)4:カルテオロール塩酸塩(ミケラン)5:カルテオロール塩酸塩持続性(ミケランLA)6:ベタキソロール塩酸塩(ペトプティク)7:レボブノロール塩酸塩(ミロル)〈ab遮断薬〉8:ニプラジロール(ハイパジール)〈イオンチャネル開口薬〉9:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)〈PG製剤〉10:ラタノプロスト(キサラタン)11:トラボプロスト(トラバタンズ)12:タフルプロスト(タプロス)13:ビマトプロスト(ルミガン)〈PG+b遮断薬配合剤〉14:ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(ザラカム)15:トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(デュオトラバ)16:タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(タプコム)17:ラタノプロスト/カルテオロール酸塩配合(ミケルナ)⇒裏面に続く緑内障処方薬剤2:有⇒表面より続き〈CAI+b遮断薬配合剤〉18:ドルゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(コソプト)19:ブリンゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(アゾルガ)〈点眼CAI〉20:ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト)21:ブリンゾラミド塩酸塩(エイゾプト)〈経口CAI〉22:アセタゾラミド(ダイアモックス)〈a1遮断薬〉23:ブナゾシン塩酸塩(デタントール)〈a2遮断薬〉24:ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン)〈ROCK阻害薬〉25:リパスジル塩酸塩(グラナテック)〈EPC2受容体作用薬〉26:オミデネパグイソプロビル(エイベリス)〈a2刺激薬+b遮断薬配合剤〉27:ブリモニジン酒石酸塩C/チモロールマレイン酸塩配合(アイベータ)〈その他〉28:ピロカルピン塩酸塩(サンピロ)29:ジピべフリン塩酸塩(ピバレフリン)30:その他()ROCK阻害薬の使用割合の比較にはCc2検定とCFishaerの直接確率検定を用いた.Cc2検定での比較ではCBonferroni法による多重比較の補正を行った.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果ROCK阻害薬使用症例はC440例C440眼,男性C224例,女性C216例,年齢はC27.98歳,平均C70.7C±12.4歳であった.全症例(5,303例)の病型は正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(14.2%)などであった.ROCK阻害薬使用症例の病型は,原発開放隅角緑内障C222例(50.5%),正常眼圧緑内障C116例(26.4%),続発緑内障C76例(17.3%),原発閉塞隅角緑内障C23例(5.2%),高眼圧症C3例(0.7%)であった.全症例(5,303例)の使用薬剤数は平均C1.8C±1.3剤で,その内訳は無投薬C543例(10.2%),1剤C2,203例(41.5%),C2剤C1,217例(23.0%),3剤C754例(14.2%),4剤C391例(7.4%),5剤C160例(3.0%),6剤C34例(0.6%),7剤C1例(0.02%)であった.ROCK阻害薬の使用率はC1剤例ではC0.4%(9例/2,203例),2剤例ではC3.1%(38例/1,217例),3剤例ではC11.5%(87例/754例),4剤例ではC33.5%(131例/391例),5剤例ではC88.8%(142例/160例)であった.使用薬剤数が増えるにしたがって,ROCK阻害薬の使用率が有意に増加した(p<0.0001,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.005)(図1).ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例ではプロスタグランジン(以下,PG)関連薬が最多(65.8%)であった(表3).3剤例ではCPG関連薬/Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)配合1剤*2剤3剤4剤*5剤ROCK阻害薬その他*p<0.0001(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図1使用薬剤数別ROCK阻害薬の使用率表3ROCK阻害薬との併用薬剤*薬剤数ROCK阻害薬使用患者数併用薬剤使用患者割合C3C4C5C87C131C142CPG/bPG+a2PG+CAI/bPG/b+a2PG+CAI/b+a2PG/b+CAI+a234.5%C25.3%C40.5%C18.3%C64.1%C22.5%2C38CPG65.8%CPG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬.剤(34.5%)が最多で,次にCPG関連薬とCa2受容体作動薬(以下,Ca2刺激薬)との併用(25.3%)であった.4剤例ではPG関連薬とCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(40.5%)が最多で,次にCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(18.3%)であった.5剤例ではCPG関連薬と炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(64.1%)が最多で,次にPG関連薬/Cb遮断薬配合剤と炭酸脱水酵素阻害薬とCa2刺激薬(22.5%)であった.併用薬剤は配合剤が多く,配合剤使用例はC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%であった.ROCK阻害薬の使用割合はC1,2,3,4,5剤例では今回はそれぞれC0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,88.8%でC2016年調査9)ではそれぞれC0.5%,3.7%,7.9%,23.8%,76.8%で同等だった(図2).緑内障病型別のCROCK阻害薬の使用割合をC2016年調査9)と比較した結果を示す.原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より有意に多かった(p=0.0020Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).一方,正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障,高眼圧症では今回調査(4.3%,17.5%,10.2%,1.0%)とC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%,2.5%)で同等だった(p=0.0417,p=0.0224,p=0.1750,p=0.3129,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).CIII考按今回C2020年C3月に行った多施設での第C5回緑内障実態調査におけるCROCK阻害薬の使用状況を使用薬剤数別に調査し,2016年調査9)の結果と比較した.ROCK阻害薬の使用率は薬剤数増加に伴い増加しており,ROCK阻害薬は多剤併用症例で多く使用される傾向がある.実際CROCK阻害薬使用症例のうち多剤併用症例の割合は本使用薬剤数765432120202016NS(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図22016年調査との比較(ROCK阻害薬の使用割合)調査(2,557例,48.2%)ではC2016年調査(1,929例,45.0%)よりも有意に増加していた(p=0.0016).ROCK阻害薬の増加が寄与したと考えられる.一方,緑内障病型別でのROCK阻害薬の使用割合でも原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より増加していた.正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障では本調査(4.3%,17.5%,10.2%)がC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%)より増加したが有意差はなかった.高眼圧症ではCROCK阻害薬使用割合は本調査(3例,1.0%)とC2016年調査(6例2.5%)ともに低く,有意差はなかった.ROCK阻害薬は特定の病型で多く使用されている可能性がある.2012年に使用可能となったCa2刺激薬の使用割合はC2016年調査時(8.8%)9)に比べて,2020年調査時(11.9%)15)には有意に増加した.ROCK阻害薬は使用可能となってからC5年が経過し,Ca2刺激薬と同様に時間経過に伴い使用が増加した可能性が考えられた.緑内障診療ガイドライン1)では第一選択薬としてCPG関連薬,およびCb遮断薬が記載され,ROCK阻害薬は他の薬剤とともに第二選択薬としてあげられている.本調査の結果でも1剤例は0.4%と少数だった.これらの症例は何らかの理由でCPG関連薬やCb遮断薬が使用できない患者であったと考えられる.2剤例ではCPG関連薬との併用がC65.8%と最多で,PG関連薬が第一選択薬として使用されているためと考えられる.3,4,5剤例では,さまざまなパターンでCROCK阻害薬は使用されていた.ROCK阻害薬が使用可能となった当初C4カ月間のCROCK阻害薬の処方パターンを筆者らは調査した10).ROCK阻害薬投与前の薬剤数は追加群C3.9C±1.0C剤,変更群C3.9C±0.8剤,変更追加群C3.7C±1.1剤であった.追加群では投与前薬剤数はC1剤C1.6%,2剤C8.9%,3剤C13.7%,4剤C54.9%,5剤C18.5%などであった.ROCK阻害薬が処方され,3カ月後まで経過が追えた症例の報告では,ROCK阻害薬の追加群はC82例C121眼,変更群はC26例C41眼であった11).追加群の投与前の薬剤数はC1剤C4.9%,2剤C6.6%,3剤C43.8%,4剤C38.0%,5剤C6.6%であった.その他にROCK阻害薬投与例の投与前点眼スコアはC3.5C±1.0点12),C3.7±1.0点13),投与前点眼剤数はC2.8C±0.7剤14)と報告されている.過去の報告10.14)のCROCK阻害薬の使用方法と,今回調査でのC4剤例,5剤例で使用割合が高いことは一致していた.ROCK阻害薬はおもに多剤併用症例で使用されることが判明した.また,今回調査のC3,4,5剤例ではCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤およびCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤との併用が多く,ROCK阻害薬の併用薬は配合剤使用例が多いという報告10)と同様であった.追加群における投与前薬剤のうち配合剤はC3剤C47.3%,4剤C79.1%,5剤C54.2%であった10).今回調査でもC3,4,5剤例では配合剤の使用がC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%と多く同様であった.今回の研究の問題点として,前回調査9)と症例が同一でないことがあげられる.症例を同一とすることはできなかったのでなるべく多数例を収集し,解析した.またCROCK阻害薬が何剤目として投与されたかは判断できなかった.たとえばC2剤例においてもCPG関連薬にCROCK阻害薬が追加投与されたのか,ROCK阻害薬にCPG関連薬が追加投与されたかは不明である.本調査の結果をまとめると,ROCK阻害薬はとくにC3剤以上の使用例において配合剤とともに用いられる頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.本論文は第C32回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:TheCrelationshipCbetweenCcon-trolCofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InternCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sure.AmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科C25:1581-1585,C20087)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版─薬物治療─.あたらしい眼科C28:874-878,C20118)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C20139)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科C34:1035-1041,C201710)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科C33:1774-1778,C201611)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼液による眼圧下降効果の検討.臨眼C71:611-616,C201712)石田順子,家木良彰,山下力ほか:川崎医科大学附属病院におけるリパスジル点眼液の使用経験と効果.臨眼C72:C1443-1449,C201813)上原千晶,新垣淑邦,力石洋平ほか:リパスジル点眼追加治療C12カ月の成績.あたらしい眼科C35:967-970,C201814)柴田真帆,豊川紀子,黒田真一郎:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科C35:684-688,C201815)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年版─薬物治療─.臨眼C75:377-385,C2021C***

K-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1679.1682,2018cK-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CProblemsregardingTopicalDropAdherence,AssessedbyK-JMethodMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障点眼治療のアドヒアランスに関する問題点を,情報整理法の一手法であるCK-J法で把握した.松江赤十字病院眼科外来で緑内障点眼治療に関する指導を行った患者を対象に,点眼に関する理解度や点眼方法などに関する問題点・要指導点をカードに記すことで収集した.収集したカードをグループ化し,グループ間の関連性を決定した.合計198枚のカードは,10の下位項目からなるC3つの大項目に分類された.大項目のタイトルは,「①必須の知識に関する問題」「②基本的手技に関する問題」「③よりよい手技に関する問題」であった.今回抽出された項目は,今後,標準化された点眼評価表や点数表作成のための基礎データとして利用できる可能性がある.CProblemsCrelatingCtoCglaucomaCtopicalCmedicationCtherapyCwereCassessedCbyCtheCK-JCmethod,CaCmethodCforCorganizinginformation.TheproblemsassociatedwithunderstandingandthetechniquesoftopicaldropusewerecollectedfrompatientswhohadreceivedthepatienteducationprogramatMatsueRedCrossHospital,byrecord-ingeachproblemonacard.The198cardscollectedwereclassi.edinto10subgroups,whichwerere-organizedintoC3largeCgroups,including:1.CproblemsCregardingCessentialCknowledge,C2.CproblemsCregardingCessentialCtech-nique,and3.problemsregardingbettertechniques.Thetopicsidenti.edinthisstudycanbeusedtoestablishascaleforadherencemeasurementinfuturestudy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1679.1682,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,K-J法.topicaldropadherence,glaucomamedicaltherapy,K-Jmethod.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,観血手術と並んで,緑内障治療の根幹をなす.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は,緑内障による失明の危険因子である1).アドヒアランス不良の患者側の要因としては,疾患に対する理解の不足や実際の点眼手技の不良など,さまざまな要因がある2).服薬指導などによりアドヒアランス改善を試みる前提として,アドヒアランスに関する問題点を把握しておくことは重要と思われる.K-J法は,その発案者である元東京工業大学教授の川喜田二郎氏のイニシャルから命名された,情報整理の一手法である3).蓄積された情報から必要な項目を取り出し,関連する項目をつなぎ合わせて整理し,統合することで情報整理がなされる.カード(紙片)を活用する点に特徴があり,内容や質がまちまちな情報をまとめ,全体を把握するのに有効な手法である4).今回,点眼アドヒアランスに関する要指導項目を把握するために,外来診療中に点眼薬使用について指導を行った患者を対象に,点眼アドヒアランスに関する問題点を収集し,K-J法により情報整理を行った結果を報告する.CI対象および方法対象は,2015年6月22日.2015年8月31日に,松江赤十字病院眼科外来を受診した患者のうち,医師・看護師の判断で緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断された者(主として,初診患者,処方変更患者,手術前後の患者,点眼使用量が多い・少ない患者,点眼の用法を知らない患者,など)である.看護師が,松江赤十字病院で通常行っている方〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(103)C1679図1K-J法の手順a:点眼アドヒアランスに関する問題点を記載したカードの収集.1カードにつきC1問題点を記載.Cb:カードを広げ,合議により小グループにまとめる.Cc:グループに表札(タイトル)付けを行う.Cd:グループの空間配置とグループの関連性について決定する.表1大項目別の頻度,性別,年齢分布性別年齢大項目枚数男性女性70歳未満70歳以上80歳未満80歳以上①必須の知識に関18126する問題C(9C.1%)C(6C6.7%)C(3C3.3%)C②基本的な手技に693435関する問題C(3C4.8%)C(4C9.3%)C(5C0.7%)C③よりよい手技に1115853関する問題C(5C6.1%)C(5C2.3%)C(4C7.7%)C756(3C8.9%)C(2C7.8%)C(3C3.3%)132729(1C8.8%)C(3C9.1%)C(4C2.0%)253254(2C2.5%)C(2C8.8%)C(4C8.6%)法により,点眼治療に関する知識や手技について指導を行った.指導を行った際に,患者の点眼に関する理解度や点眼方法などに関する問題点・要指導点について,1カードC1問題点として記録し,収集した(図1a).収集されたカードについて,医師C1名と看護師C2名の合議により関連のありそうな小グループにグルーピングを行い(図1b),そのうえで,各グループに表札(タイトル)付けを行った(図1c).小グループについて,さらに中グループ,大グループへとグルーピングを行った後に,グループの空間配置とグループの関連性について決定した4)(図1d).本研究課題は,松江赤十字病院の倫理員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果合計C198枚のカードが収集された.男性C104枚(52.5%),女性C94枚(47.5%),70歳未満C45枚(22.7%),70歳以上80歳未満C64枚(32.3%),80歳以上C89枚(44.9%)であった.K-J法により,カードの情報は「①必須の知識に関する問1680あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(104)表2下位10項目の頻度,具体例項目枚数具体例①必須の知識に関する問題1)用法の理解不足C8術後に緑内障点眼を自己中断した1日C2回点眼をC1回しか使用していない2)点眼時間が決まっていないC7仕事のため点眼時間がまちまちPG薬の時間を決めていない3)点眼間隔が短いC3複数点眼時にC5分以上あけていない②基本的な手技に関する問題4)適切な体位が取れないC29頸部後屈が不十分開瞼不良瞬目が多い5)指先の問題C5指の力が弱い手指が震える6)点眼先が確認できないC8点眼瓶の先が見えない点眼瓶の先を見ていない7)点眼瓶を構えることができないC27点眼距離が遠い空中点眼できない点眼補助具の継続使用ができない点眼位置がずれる③よりよい手技に関する問題8)数滴滴下C26不安で入っていない気がして力の調整ができない9)点眼瓶の清潔が保てないC68指が眼球に当たる薬液が指に当たる点眼瓶の先が睫毛に触れている点眼距離が近い眼周囲に点眼瓶の先が当たる10)CPG薬点眼後洗顔をしていないC17PG薬点眼後ティッシュで拭いている副作用は理解しているが面倒で洗顔していない①必須の知識②基本的な手技に関する問題に関する問題(n=18,9.1%)(n=69,34.8%)4)適切な体位が取れない(n=29)1)用法の理解不足(n=8)5)指先の問題(n=5)2)点眼時間が決まっていない6)点眼先が確認できない(n=8)(n=7)3)点眼間隔が短い7)点眼瓶を構えること(n=3)ができない(n=27)図2点眼アドヒアランスに関する問題点の関係を示す図解グループ間をつなぐ線は互いに関係があるグループ,矢印は原因と結果の関係があるグループを表す.①と②は眼圧下降効果を得るために必須の項目であるためさらにグルーピング可能である(オレンジの枠).(105)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1681題」「②基本的手技に関する問題」「③よりよい点眼手技に関する問題」のC3個の大項目に分類された(表1).これらは,10の下位項目から構成される構造となった(表2).「①必須の知識に関する問題」と「②基本的手技に関する問題」は,これらが解決されなければ眼圧下降効果そのものが阻害されるため,さらにグルC.ピング可能であり,「③よりよい点眼手技に関する問題」は,それ自体は眼圧下降効果に影響しないため,別グループと判断した.最終的に決定された空間配置を図2に示す.CIII考察三つの大項目のなかで,「①必須の知識に関する問題」では,比較的男性と若年者が多く,一方で「②基本的手技に関する問題」「③よりよい点眼手技に関する問題」では高齢者が多くみられた.高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており5,6),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際に,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置くこと,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くことが必要と推測される.大項目のなかでは「③よりよい手技に関する問題」,下位項目のなかでは「9)点眼瓶の清潔が保てないこと」が最頻であった.点眼手技の確認を行った臨床研究では,点眼瓶の先が角膜・結膜・睫毛・眼瞼へ接触することが,手技不良と判定される第一理由であることが報告されており7),本研究結果と一致する.緑内障患者では,低視力・進行した視野・下方視野欠損などの理由で「6)点眼瓶の先が確認できないこと」が手技不良の危険因子であると報告されている7).その他,「4)体位保持の困難さ」や,「5)指先の不自由さ」,その結果として,「7)点眼瓶を適切に構えることができない」などの問題が関連していると予想された.外来における点眼指導で記録されたアドヒアランスに関する問題点をCK-J法により把握した.今回抽出された項目は,今後,標準化された点眼評価表や点数表作成のための基礎データとして利用できる可能性がある.謝辞:本研究にご協力いただきました松江赤十字病院C11階病棟の看護師の皆様にお礼を申しあげます.とくに,山根未央看護師,小川佐和子看護師,坂本さゆり看護師,沖田美紀看護師,山根敦子看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)川喜田二郎:改版C-創造性開発のために.中公新書,20174)6章問題解決4.KJ法をやってみよう.東北福祉大学リエゾンゼミ・ナビ『学びとの出会い』http://www.tfu.ac.jp/Cliaison/edu/:1-75)TseCAP,CShahCM,CJamalCNCetal:GlaucomaCtreatmentCadherenceCatCaCUnitedCKingdomCgeneralCpractice.CEyeC30:1118-1122,C20166)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveCeyedropsCinCJapan.CIntCOphthalmolC2018,CpubCaheadCofprint7)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisualC.elddefect.PLoSONEC12:e0185874,C2017***1682あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(106)

点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1675.1678,2018c点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CImprovementinTechniquesofTopicalDropAdministrationafterRepeatedPatientEducationMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障薬物治療に関する指導を繰り返すことの効果について検討した.島根大学医学部附属病院の緑内障外来を受診し,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)について外来看護師が指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った.指導内容に関する記録を後ろ向きに調査した.70歳以上の患者では,知識よりも手技に関して問題がある頻度が高かった.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能であった.CE.cacyCofCrepeatedCpatientCeducationCinCtopicalCdropCadministrationCtherapyCinCglaucomaCpatientsCwasCassessed.CTheC168glaucomaCpatients(88male,C80female)C,judgedCtoChaveCpoorCdrugCadherence,CunderwentCaCpatientCeducationCprogramCprovidedCbyCnurses.CTheCprogramCconsistedCofC3steps:1.CCheckupCofCknowledgeCandCskillregardingglaucomatherapy,2.Pointingoutproblems,and3.Educationregardingknowledgeandskill.The3stepswererepeateduntilsu.cientimprovementwasobserved.Thepatienteducationrecordswerereviewedret-rospectively.Attheinitialcheckup,problemswerefoundmorefrequentlyregardingskill,ratherthanknowledge,inolderpatients(C≧70years).Problemsregardingskilldecreasedasthenumberofeducationsessionsincreased.With3repetitionsofpatienteducation,mostpatientstendedtoacquireappropriateskillsintopicaldropadminis-tration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1675.1678,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,点眼指導,点眼手技.topicaldropadherence,glaucomamed-icaltherapy,patienteducationoftopicaldropadministration,topicaldropadministrationtechnique.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,もっとも一般的に行われる緑内障治療である.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は緑内障による失明の危険因子であり1),その改善・維持は臨床上重要な課題である.アドヒアランスを維持・改善するための方法として,疾患に対する理解や実際の点眼手技について患者指導を行うことの有効性が報告されている2).当院では,外来診療時に点眼に関するアドヒアランスが良好ではないと医師が判断した患者について,外来看護師による指導を行い,十分なアドヒアランスが得られるまで指導を繰り返している.今回,指導を繰り返すことによる点眼アドヒアランスの改善効果について,点眼指導記録を確認することで調査したので報告する.CI対象および方法対象は,2008年C12月.2011年C10月に,島根大学医学部附属病院の眼科で筆者の外来を受診した842名(男性439名,女性C403名)の緑内障患者のうち,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)で〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1675図1島根大学医学部附属病院における点眼指導の手順まず,①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握する.そのうえで,③問題のある知識と手技について指導を行う.以上を,問題がなくなるまで受診ごとに繰り返す.a:70歳未満b:70歳以上知識手技知識手技図31回目点眼指導前の確認で点眼の知識と手技について問題あり・なしと判定された患者の割合a:70歳未満の患者では,知識に関する問題ありの頻度(27人/35人,77%)と手技に関する問題ありの頻度(31人/35人,89%)に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法).Cb:70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの頻度(95人/133人,71%)と手技に関する問題ありの頻度(121人/133人,91%)に統計学的な有意差を認めた(p<0.0001,CFisherの直接確率法).ある.看護師が,島根大学医学部附属病院で通常行っている方法により,点眼治療に関する指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った(図1).知識については,医師が説明した病気に関する理解度(病名,眼圧下降治療の必要性,など),点眼薬名・効能・用法403530252015105020代30代40代50代60代70代80代90代■男性1名0名1名8名12名36名32名6名人数(名)■女性0名0名1名5名7名34名21名4名図2点眼指導を受けた患者の年齢分布(点眼回数,時間,左右,点眼間の間隔,1滴滴下で十分なこと,プロスタグランジン製剤後の洗顔の必要性,など)を確認し,指導を行った.手技については,練習用の点眼液を用いて患者が実際に行っている点眼方法を実施してもらい,“的中”しているか,姿勢や点眼瓶保持が安定しているか,点眼の滴数は適切か,点眼瓶の高さが保たれているか,点眼瓶の先が眼球や眼瞼に触れていないか,などを確認した後に,問題があれば,個々の症例に応じて指導を行った.手技に関する指導は,まずは自己流の点眼方法の継続を優先し,ついで,げんこつ法(仰臥位で,げんこつを作った手で下眼瞼を開瞼,げんこつの上に点眼瓶を保持した手を添えることで点眼時の高さと位置を安定化させる方法),点眼補助具,家人への点眼依頼,の順番で指導を行うことを基本方針とした.確認・指導内容について,指導ごとにノート(点眼指導ノート)に記載した.点眼指導ノートから年齢,性,点眼の知識・手技に関して問題が確認された頻度を後ろ向きに調査し,集計した.本研究は,島根大学医学部附属病院の倫理委員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果点眼指導を受けた患者の平均年齢はC76歳(男性C74歳,女性C78歳)で,男女ともC70代が最多であり,ついでC80代であった(図2).医師が点眼指導を必要と判断した主たる理由は,緑内障についての知識・理解不足(例:自分の病名・病態を知らない,など),点眼薬の作用・副作用・必要性が理解されていない(例:点眼薬がすぐなくなる,たくさん余る,点眼回数を増やせば効果があると思っている,眼に違和感を感じるたびに緑内障点眼薬を使用している,など),点眼治療の効果が予想されたほど得られない,自己点眼が困難な病100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%1676あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(100)補助具2%げんこつ法9%人数(名)図41回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法10090807060504030201001回目確認時2回目確認時3回目確認時4回目確認時■適切89名49名29名10名■不適切79名23名8名2名図5手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化点眼指導回数が増えるほど,手技について不適切な患者の割合が減少する(図C3では,プロスタグランジン薬点眼後の洗顔方法などの不適切については知識と手技の両者について問題ありにカウントされ,本図では具体的な四つの手技の成功・不成功のみをカウントしたため,図C3の手技の問題ありと図C5の手技不適切の総数は合致しない).態・状態がある(高齢,脳梗塞後遺症,認知症,四肢振戦,関節リウマチ,Parkinson病,など)であった.1回目の点眼指導時の確認で問題ありと判定された割合は,70歳未満の患者では知識に関する問題(77%)と手技に関する問題(89%)の割合に有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法)が,70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの割合(71%)よりも手技に関する問題ありの割合(91%)が有意に高値であった(p<0.0001)(図3).1回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法は,自己流がC82%で大多数を占めた(図4).そのうち点眼手技が不適切と判定された患者(79名)については,個々の症例について実行可能性を考慮したうえで,看護(101)手技適切患者手技不適切患者ab補助具家人3%1%補助具2%1回目確認時家人cd4%2回目確認時ef3回目確認時補助具7%gh4回目確認時げんこつ法10%図6手技について適切(a,c,e,g)・不適切(b,d,f,h)と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化師の判断で自己流点眼方法の改善,げんこつ法,点眼補助具の使用,家人への点眼依頼を選択して指導を行い,次回受診時の再確認を予定した.手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化を図5に示す.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.手あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1677技について適切・不適切と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化を図6に示す.1回目確認時(点眼指導C1回後),点眼手技適切(図6a)・不適切(図6b)と判定された両者で自己流の点眼を行っている者が大多数であったが,適切と判定された患者ではやや家人による点眼の割合が高かった(適切でC11%,不適切でC1%).2回目確認時(点眼指導C2回後),適切と判定された患者(図6c)では自己流(45%)が減り,げんこつ法(25%),点眼補助具(8%),家人(22%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6d)では,自己流(78%)が多数を占めていた.3回目確認時(点眼指導C3回後),適切と判定された患者(図6e)ではさらに自己流(21%)が減り,げんこつ法(38%)と家人(34%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6f)では,自己流(75%)が多数を占めていた.4回目確認時(点眼指導C4回後),適切と判定された患者(図6g)では家人(50%)による点眼が半数を占めた.4回目の確認で手技不適切(図6h)であったのは自己流点眼のみであった.CIII考察当院で点眼アドヒアランスに関する問題が疑われ,看護師による点眼指導を受けた患者はC70.80代の高齢者が中心で,明らかな性差は認めなかった(図2).点眼治療に関する知識と手技の両者について問題を指摘された患者が大部分であったが,とくにC70歳以上の高齢者では手技に関する問題が多い傾向を認めた(図3b).高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており3,4),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際には,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置き,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くべきと思われる.点眼手技について,点眼指導回数が増えるごとに不適切と判定される患者が数・割合とも減少した(図5).適切と判定された患者では,指導を重ねるごとに自己流の点眼が減少し,げんこつ法・点眼補助具・家人への点眼を行っている割合が増加した一方で,繰り返し不適切と判定された患者では自己流の点眼方法が主流を占めていた(図6)ことから,点眼指導時に勧められた点眼方法を遵守可能であった患者ほど適切な点眼手技の獲得ができるようになったと推測される.複数回の指導を行っても点眼手技に関する問題が完全に解消されない患者がみられること,点眼指導回数が増えるに従い家人への点眼依頼の割合が高くなっていることから,自身による点眼が困難な患者が一定数存在することが示唆される.このような患者では,独居や身体的特徴(認知症,四肢麻痺,など)がその背景にあると推測されるため,メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの介入による社会的サポートについても併せて行う必要があると思われる.また,薬物治療が複数回の指導後も手技的に困難な患者は,手術治療についても考慮すべきと思われる.本研究では,一度獲得した手技の持続性については検討していないが,定期的な確認・指導体制がなければ,適切な手技の継続が困難な患者が存在すると思われる.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能と考えられた.看護師を中心とする外来スタッフによる点眼指導は緑内障点眼アドヒアランスの改善・維持に効果的と考えられた.謝辞:本研究にご協力いただきました島根大学医学部附属病院眼科外来の佐藤千鶴子看護師,川上芳子看護師,石原順子看護師,山本知美看護師,仲舎妃登美看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenCPP.CBlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)TseAP,ShahM,JamalNetal:Glaucomatreatmentadher-enceCataUnitedKingdomgeneralpractice.EyeC30:1118-1122,C20164)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmol2018;e-pubaheadofprintC***1678あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(102)