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緑内障・高眼圧症患者へのインターネットによるアンケート調査

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(105)ツ黴€ 1050910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):105 110,2010cはじめに緑内障による視野の障害は,個々の患者の QOL(quality ofツ黴€ life)を大きく損なうことになるため,早期の診断と,積極的な治療が必要とされる.緑内障患者においては,生涯にわたって視力や視野に代表される視機能の管理が必須であり,その治療法として,薬物治療,レーザー治療,手術治療などの選択肢がある.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は,緑内障診療ガイドライン1)に示されているように,眼圧を下降することであり,その目的のためには,患者自身がコンプライアンスを遵守し薬物治療を継続することが,非常に重要である.今までにも,緑内障・高眼圧症患者を対象とした治療状況やコンプライアンスに関するさまざまな報告がなされているが,治療状況だけでなく,患者がどの程度疾患について認知し,どのような意識で治療を受けているのかを明らかにした報告は少ない.本報告では,より質の高い緑内障・高眼圧症の治療に役立てることを目的として,緑内障・高眼圧症患者を対象に実施したインターネットによるアンケート調査を紹介する.I対象および方法1. 調査方法本アンケート調査は,ティー・エムマーケティング株式会社により,インテージ・ネットモニター(Yahoo!ツ黴€ リサーチ〔別刷請求先〕 阿部春樹:〒951-8510 新潟市中央区旭町通一番町 757 番地新潟大学大学院医歯学総合研究科 感覚統合医学講座 視覚病態学分野Reprint requests:Haruki Abe, M.D., Ph.D., Department of Ophthalmology, and Visual Science, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, 757 Asahichodoori-ichiban-cho, Chuo-ku, Niigata-shi 951-8510, JAPAN緑内障・高眼圧症患者へのインターネットによる アンケート調査阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科 感覚統合医学講座視覚病態学分野Internet Survey of Patients with Glaucoma or Ocular HypertensionHaruki AbeDepartment of Ophthalmology, and Visual Science, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences緑内障・高眼圧症患者の治療に対する意識を調査するため,直近 1 年以内に継続して通院している緑内障および高眼圧症患者に対し,2009 年 5 月 8 13 日にわたり,インターネットによるアンケート調査を実施し,544 名の回答を得た.治療前の眼圧値は 44.9%の患者が,現在の眼圧値は 32.2%の患者が認知しておらず,また自身の目標眼圧値あるいは眼圧下降率を知らない患者は 39.5%であった.緑内障治療において,多くの患者が視野の維持を重視しており,薬物治療では,眼圧下降効果の高い薬剤を望む患者の割合が有意に高かった(p<0.01).From May 8-13, 2009, an internet survey was conducted to evaluate the state of patient awareness regarding theirツ黴€ treatmentツ黴€ forツ黴€ glaucomaツ黴€ orツ黴€ ocularツ黴€ hypertension.ツ黴€ Respondentsツ黴€ toツ黴€ theツ黴€ surveyツ黴€ questionnaireツ黴€ comprisedツ黴€ 544 patients who consulted ophthalmologists within this 1 year. 44.9% of the subjects were not aware of their intraocu-larツ黴€ pressure(IOP)valuesツ黴€ beforeツ黴€ treatment,ツ黴€ 32.2%ツ黴€ wereツ黴€ notツ黴€ currentlyツ黴€ awareツ黴€ ofツ黴€ theirツ黴€ IOPツ黴€ valuesツ黴€ andツ黴€ 39.5%ツ黴€ did not know the IOP target value or IOP-lowering rate. Most of patients stressed the maintenance of their visualツ黴€ eld inツ黴€ glaucomaツ黴€ therapyツ黴€ and,ツ黴€ inツ黴€ termsツ黴€ ofツ黴€ pharmacotherapy,ツ黴€ signi cantlyツ黴€ desiredツ黴€ aツ黴€ strongツ黴€ IOP-loweringツ黴€ e ect(p<0.01).〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):105 110, 2010〕Key words: 緑 内 障, 高 眼 圧 症, 眼 圧, ア ン ケ ー ト 調 査.glaucoma,ツ黴€ ocularツ黴€ hypertension,ツ黴€ intraocularツ黴€ pressure, questionnaire.———————————————————————- Page 2106あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(106)モニター)を通じて実施された.インテージ・ネットモニターでは,モニターに対して,徹底した本人確認を実施しており,モニター募集時に,プロフィールや多岐にわたる属性情報を取得している.調査期間は,2009 年 5 月 8 13 日であり,緑内障・高眼圧症患者を対象として,患者背景,通院状況,症状の認知,治療状況,治療に対する意識,に関して回答を得た.調査によって得られた情報について,解析および考察を行った.2. 対象抽出対象は,全国で 2008 年 5 月および 11 月に実施した患者サブパネル調査において,「緑内障・高眼圧症で直近 1年以内に継続して通院している」と回答した 40 70 代の患者(医療関係者を除く)であるが,本調査実施時に,再スクリーニングにより緑内障・高眼圧症患者であることを確認した.なお,全国の 40 代,50 代,60 70 代の男女から,それぞれ 100 例を目標として対象者を抽出したが,60 70 代女性については,緑内障パネルの登録モニター総数が 100例に満たなかったため,本調査の対象から除外した.II結果1. 患者背景インターネットによるアンケート調査により,直近 1 年以内に継続して通院している緑内障・高眼圧症患者,男性 330名(60.7%), 女性 214 名(39.3%), 計 544 名(平均年齢 52.5歳)の回答を得た.回答者は 40 70 代で,男女年代別の内訳は,男性 40 代 122 名(平均年齢 45.3 歳),男性 50 代 108名(同 53.9 歳), 男性 60 70 代 100 名(同 66.9 歳), 女性 40代 109 名(同 44.5 歳),ツ黴€ 女性 50 代 105 名(同 54.0 歳)であった.緑内障・高眼圧症と診断されてからの期間は,半年未満 2.2%, 半 年 1 年 未 満 8.3%,1 2 年 未 満 18.2%,2 5年未満 35.1%,5 10 年未満 21.9%,10 15 年未満 9.0%,15 20 年未満 2.4%,20 年以上 2.9%であった.2. 通院状況通院頻度は,1 週間に 2 回以上 0.4%,2 週間に 1 回 2.0%,1 カ 月 に 1 回 30.1%,2 カ 月 に 1 回 28.1%,3 カ 月 に 1 回28.7%, 半 年 に 1 回 9.2%,1 年 に 1 回 1.5% で あ っ た(n=544).通院している病医院の形態は,医院/診療所/クリニック 61.6%,大学病院 10.1%,国公立病院 4.6%,一般病院23.3%,その他/不明 0.4%であった(n=544).3. 症状の認知治療開始前と現在の視野状況を聞いたところ,治療開始前では,ほとんど異常なし/ごく一部欠損 62.3%,視野上部の一部欠損 15.1%,4 分の 1 欠損 11.0%,よくわからない 9.6%,その他 2.0%であり,現在では,ほとんど異常なし/ごく一部欠損 59.2%,視野上部の一部欠損 16.0%,4 分の 1 欠損 14.9%,ほとんど欠損 1.3%,よくわからない 6.8%,その他 1.8%であった(n=544).治療開始前と現在とを比較して,9.5%(全回答者数からその他の回答を除いた 475 名中45 名)が,視野が悪化したと回答した.また,患者自身の眼圧値に関しては,治療前の眼圧値を知っている 55.1%,全く覚えていない 28.1%,教えてもらっていない 16.7%であり,現在の眼圧値を知っている 67.8%,全く覚えていない 16.7%, 教 え て も ら っ て い な い 15.4% で あ っ た(n=544).眼圧値を認知している回答者に具体的な眼圧値を回答してもらったところ,治療開始前の眼圧値は,14 mmHg以下 19.7%,15 16 mmHgツ黴€ 11.0%,17 19 mmHgツ黴€ 18.7%,20 mmHg以上 50.7%(n=300),現在の眼圧値は,14 mmHg以下 45.3%,15 16 mmHgツ黴€ 22.2%,17 19 mmHgツ黴€ 22.8%,20 mmHg以上 9.8%(n=369)であった.4. 治療状況今までに受けた緑内障・高眼圧症の治療について聞いたところ,薬物治療(点眼薬・内服薬)496 名(91.2%),手術 35名(6.4%),その他 10 名(1.8%),特に治療を受けていない36 名(6.6%)であった(n=544,複数回答).今までに薬物治療の経験ありと回答した 496 名のうち,60.9%の患者が 1剤のみを使用していた.さらに,現在の視野状態別の使用薬剤数をみると,視野の 4 分の 1 欠損でも,1 剤のみ使用の患者は 39.7%であった(図 1).薬物治療経験のある 496 名に対して,薬物治療を行ううえで何を重視するかについて,非常に重要 全く重要でない,の 7 段階で回答してもらった.「非常に重要/重要」だと考えている割合は「眼圧下降効果が高い」が 75.2%と最も高く,他項目と比較しても,有意に高かった(c2検定:p<0.01)(図 2).5. 治療に対する認識緑内障・高眼圧症治療に対するイメージを聞いたところ,1)治療しないと失明につながるか,については,非常にそう思う 50.9%, そう思う 32.9%, まあそう思う 11.8%, どちらともいえない 2.9%,あまりそう思わない 0.7%,そう思わない 0.6%,全くそう思わない 0.2%,2)多少悪化しても視力にはあまり影響しないか,については,非常にそう思う2.9%,そう思う 5.5%,まあそう思う 9.0%,どちらともいえない 10.5%,あまりそう思わない 13.4%,そう思わない28.9%,全くそう思わない 29.8%,3)積極的な治療により長く視野を維持できるか,については,非常にそう思う37.1%,そう思う 39.5%,まあそう思う 16.5%,どちらともいえない 4.2%,あまりそう思わない 1.1%,そう思わない1.1%,全くそう思わない 0.4%,4)早期の治療により長く視野を維持できるか,については,非常にそう思う 43.9%,そう思う 34.4%, まあそう思う 16.2%, どちらともいえない3.5%,あまりそう思わない 1.1%,そう思わない 0.6%,全くそう思わない 0.4%,であった(n=544).1),3),4)に対しては,それぞれ 83.8%,76.6%,78.3%が,「非常にそ———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010107(107)う思う/そう思う」と回答し,2)に対しては,「そう思わない/全く思わない」が 58.7%を占めた.一般的な緑内障・高眼圧症(他の合併症なし)において,治療前の眼圧値から下げたほうが良いとされる具体的な目標眼圧および眼圧下降率を知っているか,について,図 3 に示した.目標眼圧に関して具体的な値および下降率を確認したところ,認知しているとした回答者の 45.1%が「目標眼圧値14 mmHg以下」と回答し(図 4),眼圧下降率を認知しているとした回答者の 43.8%が「下降率 20%以上」と回答した(図 5).緑内障・高眼圧症の治療において,2 つの項目をあげ,どちらを重視するかを回答してもらった(0 は両者が同等,+1 +5 と数値が大きくなるほどそちらの項目を重視する,として回答).「視野の維持」,「点眼/服用が面倒でない」,「治療費負担が少ない」の 3 項目を,それぞれ 2 つずつ比較したところ,「視野の維持」と「点眼/服用が面倒でない」の比較では,453 名(83.3%)が視野の維持を非常に重視する(+4,+5)と回答し,「視野の維持」と「治療費負担が少ない」の比較では,340 名(62.5%)が視野の維持を非常に重視する(+4,+5)と回答した(図 6).1 剤の薬剤で治療を続けた場合に 10 年後に現在と比較して視野が 30%欠損すると仮定して,もし 2 4 剤まで併用薬(n 496)**c2検定:p<0.01(「眼圧下降効果が高い」と他項目との比較)(%)36.338.918.834.316.331.016.725.011.7□ 重要■ 非常に重要26.08.318.86.916.3************80706050403020100眼圧下降効果が高い薬剤の値段が安い1日の点眼回数が少ない色素沈着で目の周りが黒くならない薬剤の保存方法が面倒でない点眼時に目がかすまない点眼薬が目にしみない図 2薬物治療で重視することツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 下ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ~ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ~ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 下と認識ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 図 4具体的な目標眼圧値(目標眼圧値認知者の回答:n=295)30%以上26.020 30%未満17.810 20%未満28.810%未満27.401020304020%以上と認識:43.8%(%)図 5具体的な眼圧下降率(下降率認知者の回答:n=73)60.920.43.411.311.368.619.73.86.96.96.457.019.83.514.014.039.728.21.320.580.020.028.614.314.328.614.373.3Total(n=496)ほとんど異常ない/ごく一部が欠損(n=290)上部の一部が欠損(n=86)4分の1が欠損(n=78)ほとんど欠損(n=5)その他(n=7)よくわからない(n=30)10.03.310.010.02.41.60.70.33.52.33.33.80%20%40% 1剤 2剤 3剤 4剤 5剤以上 現在薬物治療を行っていない60%80%100%図 1薬物治療における薬剤数眼圧値を知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 眼圧下降率を知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ どツ黴€ツ黴€ 知っているツ黴€ツ黴€ツ黴€ どツ黴€ツ黴€ 知 ないツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 図 3 目標眼圧および眼圧下降率を知っているか (n=544)———————————————————————- Page 4108あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(108)剤を増やして眼圧下降効果を高め,10 年後の視野の欠損が5%であるとした場合,どちらを選択したいかを回答してもらった.この設問では,1997 年に報告された湖崎分類における病型別進行様式2)を考慮し,日本人に多い正常眼圧緑内障は 10 年間で IIIa と IIIb の中間に進行するため,湖崎分類IIIa「Goldmann 視野計の V-4 視野の狭窄が 1/4(=25%)まで」よりさらに進行した状態と想定し,30%に数値を設定した.視野の欠損が防げるのであれば,併用薬剤数の増加を強く選択する患者(+4,+5 と回答)が,4 剤併用で 326 名(59.9%),3 剤 併 用 で 364 名(66.9%),2 剤 併 用 で 427 名(78.5%)であった(図 7).III考按本調査では,緑内障・高眼圧症患者 544 名がインターネットによるアンケートに回答した.インターネット調査においては,母集団の信頼性が最も重要であるが,インテージ・ネットモニターでは,モニター登録に際して徹底した本人確認を行っており,さらにその患者パネルは 65 疾患に関する通院状況(診療を受けた,薬を処方された,現在も通院中)について,半年ごとの更新を行っている.本調査の緑内障・高眼圧症患者については,再スクリーニングを実施して,緑内障・高眼圧症以外に多数の疾患を抱えている対象者を削除した.さらに自由回答に対して,緑内障・高眼圧症についてありえない内容を記載した対象者は除外した.このように,調査対象の選定におけるモニター審査を厳重に実施しているため,本調査の結果については,一定の評価が可能と思われる.また,医師を介したアンケート調査とは異なり,患者の状態を正確に把握できないという問題点はあるが,主治医を介さないことで,かえって患者自身の本音をある程度調査することができたのではないか,と考えている.本調査に回答した緑内障・高眼圧症患者の約 1 割が,治療開始前と現在を比較して,治療を継続していても視野の悪化を自覚していた.患者が自分の症状をどの程度把握しているかについては,治療前の眼圧値は 554 名中の 44.9%が,現在の眼圧値は 32.2%が認知していなかった.緑内障・高眼圧症の治療においては,まず治療開始前のベースライン眼圧値を把握し,それに基づいて目標眼圧あるいは眼圧下降率を設定して治療を行うことが合理的な方法とされる.緑内障診重視+5+4+3+2+1同等+1+2+3+4+5重視視野の維持68.4%(372)14.9%(81)7.5%(41)1.8%(10)1.8%(10)1.7%(9)0.7%(4)0.2%(1)0.4%(2)0.7%(4)1.8%(10)点眼・服用が面倒でない視野の維持48.3%(263)14.2%(77)9.0%(49)3.7%(20)2.8%(15)5.3%(29)1.3%(7)2.0%(11)3.3%(18)3.9%(21)6.3%(34)治療費負担が少ない点眼・服用が面倒でない13.6%(74)5.3%(29)10.3%(56)4.8%(26)2.4%(13)20.0%(109)4.8%(26)5.9%(32)11.0%(60)5.9%(32)16.0%(87)治療費負担が少ない左右の項目を比較して,0 は同等,+1 +5 と数値が大きくなるほど,そちらの項目をより重視する,として回答(カッコ内は回答例数)視野の維持治療費負担が少ない806040200視野の維持(%)(n 544)806040200治療費負担が少ない点眼・服用が面倒でない点眼・服用が面倒でない806040200図 6「視野維持」「点眼・服用の手間」「治療費負担」のどれを重視するか———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010109(109)療ガイドラインにおいて,狭義の開放隅角緑内障(POAG)に お け る 目 標 眼 圧 は, 緑 内 障 病 期 に 応 じ て, 初 期 例 19 mmHg以下,中期例 16 mmHg以下,後期例 14 mmHg以下と設定することが提唱されており,POAG および正常眼圧緑内障(NTG)ともに,眼圧下降率は無治療時眼圧からの下降率 20 30%を目標とすることが推奨されている1).本調査では,治療における目標眼圧値あるいは眼圧下降率のどちらも知らない患者が 39.5%と高率にみられた.さらに,認知していても,眼圧下降率が「20%未満」の回答が 56.2%と半数以上であり,目標設定が甘いのではと予測された.本調査の対象者は,診断されてから 5 年未満の患者が 6 割を占め,視野障害も比較的軽度の患者が多いため,このように自分の眼圧値や目標眼圧を把握していない患者の割合が高かったとも考えられる.近年のアドヒアランスの考え方に基づけば,患者自身が病状を認知し積極的に治療に参加する,という意識をもつことが,良好な治療結果に結びつくと考えられる.そのためにも,無治療時の眼圧値や,目標眼圧設定の意義を患者が理解することは,長期に治療を継続するうえで大切である.そして,医療側には,それらを含めた治療に関する説明を今以上に十分に行うことが求められる.薬物治療において,患者が一番重視していることは,「眼圧下降効果が高いこと」であり,薬剤の値段,点眼の手間,点眼時の不快感などと比較して,有意に高い割合で「非常に重要/重要」だと考えていた(p<0.01).また,「視野の維持」,「点眼/服用の手間」,「治療費の負担」の三者を比較した場合には,「視野の維持」を最も重視する患者が多かった.過去にも,患者側の認識として,緑内障治療においては視野の維持を最も重視し,点眼薬については眼圧下降効果が重要である,との報告がなされており3),本調査の結果と一致する.さらに,1 剤処方で 10 年後に現状と比較して 30%視野狭窄が進行するのであれば,複数薬剤を併用しても視野狭窄を防ぎたいという患者のニーズが非常に高いことが明らかになった.以上より,多くの患者は現在の視野をできるだけ維持する選択+5+4+3+2+1同等+1+2+3+4+5選択2 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損68.0%(370)10.5%(57)5.5%(30)2.9%(16)2.4%(13)8.3%(45)1.1%(6)0%(0)0%(0)0.2%(1)1.1%(6)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損3 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損53.9%(293)13.1%(71)10.7%(58)5.9%(32)2.8%(15)11.0%(60)0.4%(2)0.6%(3)0.6%(3)0.4%(2)0.9%(5)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損4 剤で 10 年後に視野が現在より5%欠損51.5%(280)8.5%(46)12.9%(70)8.1%(44)3.1%(17)11.8%(64)1.3%(7)0.6%(3)1.1%(6)0.4%(2)0.9%(5)1 剤で 10 年後に視野が現在より30%欠損左右の項目を比較して,0 は同等,+1 +5 と数値が大きくなるほど,そちらの項目を選択する,として回答(カッコ内は回答例数)3剤併用で8060402002剤併用で10年後に10年後に1剤使用で1剤使用で1剤使用で8060402004剤併用で視野が現在より5%欠ける視野が現在より30%欠ける806040200(%)(n 544)図 7早期に2~4剤併用のニーズ———————————————————————- Page 6110あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(110)ことを望んでおり,そのために強力な眼圧下降治療を受けたいと考え,薬物治療においては 2 剤以上併用も許容していることがわかった.緑内障・高眼圧症治療を開始する際には,まず現在の視野を維持するための目標眼圧を設定することが重要であり,そのために必要な治療を患者に提供し,その経過を十分観察していくことが望ましいと思われる.また,強力な眼圧下降を得るためには,多剤併用も考慮すべきであり,その際は,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン関連薬の 3 剤併用が有効と考えられる4).緑内障・高眼圧症治療では,多くの患者が早期の積極的な治療と視野の維持を重視している.その意識を念頭において,時間の制約がある日々の診療のなかで,われわれ眼科医は,現状の治療による眼圧下降効果が十分であるかの検討,治療内容の見直し,治療への理解を得るための患者とのコミュニケーションなどを実行していくよう努めなければならない.文献 1) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第 2 版).日眼会誌 110:784-814, 2006 2) 細田源浩,平野光昭,塚原重雄:緑内障患者の視野障害進行様式と背景因子の検討.日眼会誌 101:593-597, 1997 3) 小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼 60:37-41, 2006 4) 白土城照:緑内障の薬物療法─多剤併用の考え方.眼科プラクティス 70:2-6, 2001***