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タフルプロスト点眼薬併用下でのβ遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):551.554,2013cタフルプロスト点眼薬併用下でのb遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾田原昭彦永田竜朗宮本理恵宮本直哉藤紀彦原田行規近藤寛之産業医科大学眼科学教室EffectofSwitchingfromBeta-BlockertoDorzolamideandTimololFixed-CombinationEyedropsinGlaucomaPatientsTreatedwithTafluprostandBeta-BlockerShingoIshibashi,AkihikoTawara,TatsuoNagata,RieMiyamoto,NaoyaMiyamoto,NorihikoTou,YukinoriHaradaandHiroyukiKondouDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行っても臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例を対象に,b遮断点眼薬を1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また,結膜充血,角膜上皮障害についても観察した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,3カ月後ともに有意に下降した.一方,平均血圧,平均脈拍数は変更前・後で有意な差はなかった.また,結膜充血,角膜上皮障害の程度にも有意な変化はなかった.タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬の併用療法をしている症例に対して,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧が下降しかつ安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithtafluprost(TAF)andbeta-blockereyedrops,theeffectsonintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP)andpulseofswitchingtodorzolamideandtimololfixed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1andmonth3aftertheswitch.Atmonths1and3afterDTFCinitiation,meanIOPdecreasedsignificantly,ascomparedtobeforeswitching.TherewerenosignificantdifferencesinBPorpulsebetweenbeforeandaftertheswitch.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithTAFandbeta-blockerwhoswitchedtoDTFCexhibitedsignificantdecreaseinIOPwithoutincreasingthenumberofeyedropsorsafety,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):551.554,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,副作用.dorzolamideandtimololfixed-combination,glaucoma,intraocularpressure,sideeffects.はじめに緑内障に対する唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.初期の開放隅角緑内障では眼圧を1mmHg下降させると緑内障進行の危険性が約10%低下するとの報告1)がある.また,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)や,眼圧を12mmHgに抑えないと視野障害が進行する可能性が高いとの報告3)がある.以前,筆者らは正常眼圧緑内障に対するプロスタグランジン関連薬(PG)単剤使用での眼圧下降率を調査した4).その結果,眼圧が30%以上下降した症例,あるいは12mmHg以下であったものは54.1%であった.したがって,第一選択薬として使用されているPG単剤では,視野障害進行の抑制に十分であるとは考えられない.日本緑内障学会が作成した緑内障診療ガイドライン5)では,「単剤で視神経障害の進行を阻止しうると考える目標眼圧に達しない場合は,まず薬剤(単剤)の変更を考〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(123)551 慮し,それでも効果が不十分であるときには多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行う」と記載されている.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告6)がある.しかし,抗緑内障点眼薬2剤使用症例に1剤を配合点眼薬へ切り替えることによる有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回タフルプロスト点眼薬(tafluprost:TAF)とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2011年3月から2012年8月までの期間,産業医科大学病院でタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性6例,女性14例,年齢は70.9±10.9(平均値±標準偏差)歳である.病型は,原発開放隅角緑内障12例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障2例である.なお,b遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬11例,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬2例,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬7例である.方法は,タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが,目標眼圧に達しない,もしくは視野障害の進行が認められるため,さらなる眼圧下降が必要と判断した場合,b遮断点眼薬を中止し,washout期間を置かずに1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で,血圧と脈拍数は電動式血圧計で各1回ずつ測定した.また,DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に結膜充血と角膜上皮障害について,細隙灯顕微鏡で観察した.結膜充血は,充血なしをスコア0,重度の充血をスコア4とし,充血の程度を5段階に分類してスコア化した.また,角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてAD(area/density)分類7)で評価し,AとDの合計をスコアとした.全症例の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数の平均値を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ552あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013月後とで比較した.同時に,全症例の結膜充血スコア,角膜上皮障害スコアの平均値も治療前後で比較した.解析には,全症例の片眼を用いて(両眼の場合は左眼を採用),右眼6例,左眼14例とした.統計学的解析は,眼圧と血圧と脈拍数については対応のあるt-検定を使用し,結膜充血と角膜上皮障害についてはWilcoxon符号順位検定を用いて,危険率5%以下を有意な差ありと判断した.II結果全症例の眼圧の平均値は,変更前15.8±2.9mmHg(平均値±標準偏差),変更1カ月後14.0±2.8mmHg,変更3カ月後14.0±2.7mmHgで,変更前と後の差は変更1カ月後1.8mmHg,変更3カ月後も1.8mmHgで,変更前と比較して変更後いずれも有意に下降していた(p<0.0001,p<0.005,図1).全症例の平均眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であった.全症例の収縮期血圧の平均値は,変更前138.2±14.6mmHg,変更1カ月後140.0±16.9mmHg,変更3カ月後140.3±13.8mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.7,p=0.5).全症例の拡張期血圧の平均値は,変更前77.5±11.6mmHg,変更1カ月後80.6±11.9mmHg,変更3カ月後81.2±11.1mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.2,p=0.2).全症例の脈拍数の平均値は,変更前66.7±11.6回/分,変更1カ月後66.6±9.0回/分,変更3カ月後67.8±8.5回/分と,変更前・後で有意な差はなかった(p=1.0,p=0.6).眼圧(mmHg)変更3カ月後変更前変更1カ月後***15.8±2.914.0±2.814.0±2.72520151050図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均眼圧は,いずれも変更前に比較して変更後有意に下降している.変更前からの眼圧下降幅は,変更1カ月後は1.8mmHg,変更3カ月後は1.8mmHgで,変更前からの眼圧下降率は,変更1カ月後は11.6±10.2%,変更3カ月後は10.2±13.8%でいずれも変更前に比較して有意に下降している.*:p<0.0001,**:p<0.005,n=20.(124) :角膜:充血##2.521.510.51.7±0.91.5±0.91.4±1.00.4±0.80.4±0.80.4±0.8スコ##変更前変更1カ月後変更3カ月後図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の結膜充血,角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均結膜充血,平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後で有意な変化はない.♯:有意差なし,n=20.全症例の結膜充血スコアの平均値は,変更前0.4±0.8,変更1カ月後,3カ月後も0.4±0.8で,変更前・後で有意な差はなかった(p=検定不能,図2).全症例の角膜上皮障害スコアの平均値は,変更前1.7±0.9,変更1カ月後1.5±0.9,変更3カ月後1.4±1.0で,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.4,p=0.2,図2).III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告2,3,8)されている.1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCは緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制することで眼圧が下降すると考えられている9).今回,TAFとb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ変更し,眼圧,血圧,脈拍数の変化と同時に結膜充血,角膜上皮障害の変化を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ月後とで比較し,その結果を検討した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後ともに有意に下降し,平均眼圧の眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.PG製剤とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対してb遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧への効果を調べた報告はないが,ラタノプロストとb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障眼に対して1%ドルゾラミド塩酸塩点眼薬(125)を追加した場合の眼圧への効果を調べた丹羽らの報告10)では,平均眼圧は追加1カ月後有意に下降し眼圧下降率は11%であった.また,Tsukamotoら11)は追加2カ月後の眼圧下降率は9.8%であった.本研究では,切り替え前に使用しているb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果は,カルテオロール塩酸塩からチモロールマレイン酸塩への切り替えによる眼圧下降効果と1%ドルゾラミド塩酸塩の1日2回点眼による追加効果であり,一概に1%ドルゾラミド塩酸塩の1日3回点眼の追加による眼圧下降効果と比較はできないが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧下降率は約10.11%であり,眼圧下降効果は1%ドルゾラミド塩酸塩を追加した場合とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPG製剤とb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障の眼圧下降治療において優れた薬剤であるといえる.また,アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告12)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要である.高橋らの点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告13)や,木内らの多剤併用療法から配合剤への切り替え後のアドヒアランスは向上したとの報告14)がある.今回,アドヒアランスについて調査はしていないが,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧下降作用を示したことからも,緑内障の治療薬として優れた薬剤であるといえる.b遮断点眼薬は全身的副作用があり心拍数と血圧の低下を生じるが,今回筆者らの研究では,b遮断点眼薬からDTFCへの切り替えで,血圧,脈拍数に有意な変化はなかった.このことは,DTFCにはチモロールマレイン酸塩が含まれているためと考えられる.また,今回の結果で,結膜充血の程度にも有意な変化はなかった.PG製剤は,結膜充血をひき起こし,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが充血が強いと報告15)されている.本研究ではPG製剤であるTAFはそのまま使用を継続しているため,結膜充血の程度に変化がなかったと考えられる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告16)されている.今回の研究では,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や頻度,主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013553 ったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが塩化ベンザルコニウムの影響を減少させている作用があること17)が影響している可能性がある.また,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬と0.5%チモロールマレイン酸塩持続点眼薬とで,角膜上皮障害への影響に差はなかったとの報告18)も角膜上皮障害に差がなかった結果を支持する.これらのことから,本研究のb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.本研究では,b遮断点眼薬が0.5%チモロールマレイン酸塩だけではないことから,各々のb遮断点眼薬からのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用について,さらなる調査の必要があると考える.また,緑内障診療ガイドライン5)では,無治療時から20%,30%の眼圧下降率を目標眼圧として設定することが推奨され,視神経障害の進行を阻止できた時点ではじめて目標眼圧が適切であると確認できる.本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であったが,PG製剤とb遮断点眼薬を使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,無治療時からの眼圧下降率は調査できなかった.DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.さらには,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性も否定できない.以上,TAFとb遮断点眼薬の併用療法で眼圧下降効果が不十分な症例に対してb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,点眼薬数を増やすことなく有意に眼圧を下降させ,血圧,脈拍数に影響がなく,さらに結膜充血,角膜上皮障害の程度を変化させないことから,有効かつ安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,20032)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)TheAGISInvestigators:Theadvancedglaucomaintervensionstudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraoculardeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)石橋真吾,廣瀬直文,田原昭彦:正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動に対するラタノプロストの効果.あたらしい眼科21:1693-1696,20045)日本緑内障学会緑内障ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20126)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第Ⅲ相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20117)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19948)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldperformanceincentral30°fieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology104:197-201,19979)中谷雄介,大久保真司:知っておきたい配合剤(炭酸脱水酵素阻害薬+b遮断薬).あたらしい眼科29:479-485,201210)丹羽義明,山本哲也:各種緑内障眼に対する塩酸ドルゾラミドの効果.あたらしい眼科19:1501-1506,200211)TsukamotoH,NomaH,MatsuyamaSetal:Theefficacyandsafetyoftopicalbrinzolamideanddorzolamidewhenaddedtothecombinationtherapyoflatanoprostandabeta-blockerinpatientswithglaucoma.JOculPharmacolTher21:170-173,200512)RossiGC,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadherenceratesandglaucomatousvisualfieldprogressioncorrelate?EurJOphthalmol21:410-414,201113)高橋真紀子,内藤智子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,201214)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討.あたらしい眼科29:831-834,201215)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,201216)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729732,201017)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201118)北澤克明,東郁夫,塚原重雄ほか:1日1回点眼製剤TimololGS点眼液─チモロール点眼液1日2回点眼との臨床第Ⅲ相比較試験─.あたらしい眼科13:143-154,1996***554あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(126)

正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケラン® LA2%)の眼血流への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405 者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120) 2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407 子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)

Heidelberg Edge Perimeter(HEP)の使用経験

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1573.1578,2012cHeidelbergEdgePerimeter(HEP)の使用経験江浦真理子*1松本長太*1橋本茂樹*1奥山幸子*1高田園子*1小池英子*2野本裕貴*1七部史*1萱澤朋康*1沼田卓也*1下村嘉一*1*1近畿大学医学部眼科学教室*2近畿大学医学部堺病院眼科ClinicalUsefulnessofHeidelbergEdgePerimeterMarikoEura1),ChotaMatsumoto1),ShigekiHashimoto1),SachikoOkuyama1),SonokoTakada1),EikoKoike2),HirokiNomoto1),FumiTanabe1),TomoyasuKayazawa1),TakuyaNumata1)andYoshikazuShimomura1)1)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SakaiHospitalKinkiUniversityFacultyofMedicine目的:HeidelbergEdgePerimeter(HEP)は錯視輪郭であるFlickerDefinedForm(FDF)視標を用いM-cell系の異常を選択的に捉え,早期の緑内障性視野異常の検出を目的として開発された視野計である.今回,HEPの臨床的有用性について検討した.対象および方法:正常被験者20例20眼,緑内障患者20例20眼(平均年齢47.1±14.7歳)(極早期10眼,早期10眼)を対象に,HEP(FDFASTA-Standard24-2)を用い視野測定を行った.結果:HEPのROC(ReceiverOperatingCharacteristic)曲線下面積は0.73(トータル偏差),0.87(パターン偏差),特異度は30%(トータル偏差),80%(パターン偏差)であった.結論:HEPは早期の緑内障において視野障害を検出できる検査法の一つであることが示唆された.一方,正常値に関しては再検討の必要があると考えられた.Purpose:TheHeidelbergEdgePerimeter(HEP)wasdevelopedtodetectearlyglaucomausingFlickerDefinedForm(FDF),anewstimulusthatselectivelystimulatesthemagnocellularsystemtogenerateanillusoryedgecontour.WeevaluatedtheclinicalusefulnessofHEP.SubjectsandMethods:Subjectscomprised20eyesof20normalsubjectsand20eyesof20patientswithglaucoma(averageage,47.1±14.7years;10eyeswithpreperimetricglaucomaand10eyeswithearlystageglaucoma).AllsubjectsunderwentHEPusingtheFDF24-2ASTA-Standardstrategy.Results:Theareaunderthecurve(AUC)inHEPwas0.73usingtotaldeviationand0.87usingpatterndeviation.HEPspecificitywas30%withtotaldeviationand80%withpatterndeviation.Con-clusion:HEPappearstobeausefulmethodfordetectingearlyglaucoma,althoughthenormaldatabaseinHEPmayneedfurthervalidation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1573.1578,2012〕Keywords:緑内障,視野,HeidelbergEdgePerimeter(HEP),錯視輪郭,FlickerDefinedForm(FDF).glaucoma,visualfield,HeidelbergEdgePerimeter,illusorycontour,FlickerDefinedForm(FDF).はじめに緑内障では明度識別視野検査で異常が検出される時期ではすでに多くの神経線維が障害されていることが知られている.Quigleyらは,Goldmann視野計では視野異常の出現までに約50%の,自動視野計では5dBの感度低下の出現までに約20%の網膜神経節細胞の減少が生じていることを報告している1,2).これらのデータはヒトの視神経の余剰性を示す一方,明度識別視野検査による極早期緑内障検出の限界も示している.網膜神経節細胞は,解剖学的・生理学的特徴によっていくつかのサブタイプに分類される3,4).Quigleyらは緑内障ではそのサブタイプのなかで特に太い軸策を持つ大型の網膜神経節細胞(K-cell系,M-cell系)が早期に減少することを報告している5).また,K-cell系,M-cell系は比較的少数で余剰性が少ないため,これらの機能を選択的に検査することで検出能力が上がるとする考え方もある6).そこで,これらのサブタイプをターゲットとし,通常の視野検査よりも早期に異常を検出しうる機能選択的視野検査法が開発されてきた.〔別刷請求先〕江浦真理子:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarikoEura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-Higashi,Osakasayama-shi589-8511,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(123)1573 K-cell系をおもにターゲットとしたShortWavelengthAutomatedPerimetry(SWAP)(CarlZeiss社製),M-cell系をおもにターゲットとしたFrequencyDoublingTechnology(FDT)(CarlZeiss社製)やフリッカー視野(Haag-Streit社製)は,緑内障の早期検出に有用であることが報告されている7.10).Flanaganらは,緑内障の早期発見を目的に,おもにMcell系をターゲットとした視野計であるHeidelbergEdgePerimeter(HEP)(Heidelberg社製)を開発した(図1).HEPは,FlickerDefinedForm(FDF)という錯視現象を用いている11).FDFとは,平均輝度50cd/m2の背景において,背景と直径5°内に,白と黒の相の異なるランダムなドットをおき,白と黒を反転させ,反転速度を上げていくと,15Hz以上ではドット自体は認識されず,円の輪郭つまり“edge”のみが浮かび上がる錯視現象である(図2).錯視現象については,Livingstoneらが,2つの隣接した輝度の異なった領域を15Hzで反転させると,その領域の境界に輪郭が知覚されると初めて提唱した4).その後,Rogersらが,刺激視標をランダムな点に変えても同様の錯視現象が生じることを報告しており12),HEPはこの現象を応用し開発された.図1HeidelbergEdgePerimeter(HEP)の外観今回,極早期および早期の緑内障患者を対象に,HEPの臨床的有用性について検討したので報告する.I対象および方法対象は,正常被験者20例20眼(平均年齢36.2±9.7歳)緑内障患者20例20眼(平均年齢57.8±10.0歳),計40例(,)40眼(平均年齢47.1±14.7歳,男性15例,女性25例)である.緑内障の内訳は,正常眼圧緑内障10例10眼,原発開放隅角緑内障(狭義)10例10眼,病期は極早期10例10眼,早期10例10眼(Anderson分類13))である.今回対象とした正常被験者は,眼底に異常を認めず,StandardAutomatedPerimetry(SAP)を少なくとも2回以上測定したことのあるものを採用した.極早期の定義は,眼底に視神経乳頭陥凹拡大,網膜神経線維束欠損,視神経乳頭辺縁部の菲薄化などの緑内障性変化を認めるが,SAPにおいてAnderson基準を満たさないものとした.全例に対し,構造的検査として眼底写真およびCirrusOCT(光干渉断層計)〔RetinalNerveFiberLayer(RNFL)ThicknessAnalysis:OpticDiscCube200×200〕,機能的検査としてSAP(HFASITA-Standard24-2)およびHEP(FDFASTA-Standard24-2)(SoftwareVersion2.1)を施行した.視野検査の信頼性は,SAPおよびHEP両者とも,固視不良が20%未満,偽陽性が15%未満,偽陰性が33%未満のすべてを満たす場合を対象とした.なお,矯正視力が0.8以下,等価球面度数が.6.00D以上の近視眼,中間透光体の混濁があるもの,視神経・網膜疾患の既往のあるものは対象から除外した.また,この研究は近畿大学医学部付属病院倫理委員会で承認され,ヘルシンキ宣言に基づき,全例から書面によるインフォームド・コンセントを得て行われた.今回用いたHEPのASTA-Standard24-2はHFAのSITA-Standard24-2と類似した測定アルゴリズムである.4dBと2dBの2種類で行うbracketing法を用い,正常者の年齢別感度パターンに照らし,被験者の期待される閾値に最も近い輝度を順次提示する最尤法を用いている.SITAが正+=図2FlickerDefinedForm(FDF)背景と直径5°内に白と黒の相の異なるランダムなドットを置き,白黒を反転させると,15Hz以上ではドット自体は認識されず,円の輪郭“edge”のみが浮かび上がる.1574あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(124) 常者と緑内障患者の年齢別感度パターンを元に測定しているのに対し,ASTAは正常者の年齢別感度パターンを元に測定している点が異なっている.測定点はHFAと同じ中心24°内の52ポイントを計測する.50cd/m2の背景スクリーンの中に,視角0.33°の大きさのドットが,視角1°内に約3.5個の密度でランダムに配置されている.その中で,検査視標となる直径5°の円内にあるドットと,それ以外の背景のドットは15Hzで白黒が反転する.FDF錯視が成立すると,視標の輪郭が直径5°のリング状に知覚される.視標内のドットの輝度と背景のドットの輝度はそれぞれ0.100cd/m2の範囲で変化し,両者の平均が常に50cd/m2になるように設定されている.たとえば,背景のドットが平均輝度よりも20cd/m2明るいときには,視標内のドットは平均輝度よりも20cd/m2暗く,逆に背景のドットが平均輝度よりも20cd/m2暗いときには視標内のドットは平均輝度よりも20cd/m2明るい.このように,視標内と背景のドットのコントラストを変化させ,FDF錯視で認められるリング状の輪郭が自覚できる最少のコントラストを閾値として用いている.視標の応答基準は,インストラクションマニュアルに従い,点滅する背景の中に,リングのみならず何かグレーの部分が見えたらボタンを押すよう説明した.視標提示時間は400msである.固視監視はビデオカメラ法で行われ,瞬目,固視不良,偽陰性,偽陽性はリアルタイムにサイドのモニターに表示される.今回の視野検査は,2回目以降の検査結果を採用し,検査順序は無作為に選択し,各検査間には十分な休憩を入れた.HEPの緑内障検出能の評価においては,視野検査における測定点52点中のp<5%の異常点数を用い,ReceiverOperatingCharacteristic(ROC)曲線を作成してROC曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)を病期別に算出し,AUC0.5との有意差を統計学的に検討した.つぎに,正常被験者20眼の視野検査結果に対しAnderson基準を適応し,HEPの特異度を算出した.測定結果をもとに,SAPとHEPのmeandeviation(MD),測定時間についても比較検討を行った.II結果HEPのAUCは,極早期と早期を合わせると,トータル偏差において0.73(p=0.060),パターン偏差において0.87(p<0.01)であった.病期別にみると,極早期ではトータル偏差で0.72(p=0.13),パターン偏差で0.85(p<0.05),早期ではトータル偏差で0.74(p=0.11),パターン偏差で0.89(p<0.01)であった.正常被験者20眼におけるHEPの特異度は,トータル偏差では30%と非常に低く,パターン偏差においては80%であった.正常被験者20眼におけるSAPとHEPのMD値を(125)20-2.0-4.0-6.0-8.0-10図3各視野計の正常被験者におけるMD値(平均値±SD)表1緑内障各病期および正常被験者の検査に要した時間(平均値)MD(dB)(n=20)-0.91±1.16-4.09±2.39SAPHEPSAPHEP正常(n=20)緑内障(n=20)極早期(n=10)早期(n=10)4分32秒5分18秒5分02秒5分34秒7分51秒10分31秒10分17秒10分44秒図3に示す.SAPのMD値は.0.91±1.16と,SAPに内蔵されている年齢別正常値との差はほとんど認めなかった.それに対し,HEPのMD値は.4.09±2.39であり,HEPに内蔵されている年齢別正常値よりも非常に低く,ばらつきも大きかった.表1に,検査に要した平均時間を示す.HEPの平均測定時間は,正常被験者では7分51秒,緑内障患者においては10分31秒であった.病期別にみると,極早期では10分17秒,早期では10分44秒であった.図4は44歳,女性で,極早期の原発開放隅角緑内障の右眼の検査結果である.眼底写真およびCirrusOCTにおいて下方の視神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)を認めた.HEPでは,トータル偏差においてびまん性の視感度の低下を認めた.一方,パターン偏差ではNFLDに一致した,おもに上半視野に限局した視感度の低下を認めた.図5は65歳,女性の正常眼圧緑内障の右眼で,Anderson分類の早期に相当した.眼底写真およびCirrusOCTでは,下方にNFLDを認めた.HEPでは,トータル偏差においてびまん性の視感度の低下を認めたが,パターン偏差では,NFLDに一致した,おもに上半視野の視感度の低下を認めた.III考按HEPは緑内障の早期発見を目的に新しく開発された機能選択的視野検査法であり,網膜神経節細胞のサブタイプの一つであるM-cell系をおもにターゲットとしている.今回,極早期および早期の緑内障患者を対象にHEPを用いて視野あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121575 abcdefga:眼底写真b:CirrusOCTc:SAP(グレースケール)d:SAP(トータル偏差)e:HEP(トータル偏差)f:SAP(パターン偏差)g:HEP(パターン偏差)図4症例1(44歳,女性):原発開放隅角緑内障(狭義)(極早期,右眼)測定を行い,その臨床的有用性について検討した.まず,HEPの緑内障検出能について検討するため,HEPのAUCを算出した.HEPのAUCは病期が進むほど高い値を示し,極早期+早期,極早期,早期のすべてにおいて,パターン偏差を用いた場合にAUC0.5との有意差を認めた.パターン偏差におけるHEPのAUCは,従来から緑内障の早期検出に有用とされているSWAP,FDT,フリッカー視野の過去の論文におけるAUCと類似した値であった14).このことから,HEPは極早期および早期緑内障の検出に有用な検査法の一つであると考えられた.一方,トータル偏差におけるAUCは極早期+早期,極早期,早期のすべてにおいてパターン偏差におけるAUCよりも低く,AUC0.5との有意差も認めなかった.実際の症例においても,トータル偏差ではびまん性の異常として示されるのに対し,パターン偏差にすると限局した視感度の低下として示された.視野検査におけるトータル偏差でのびまん性の異常の原因としては,一般的に,被験者が検査に不慣れであること,疲労現象,白内障などの中間透光体の影響,屈折の影響などがあげられる.今回の検査は,学習効果を考慮して2回目以降の検査結果を採用し,疲労現象を回避するために十分な休憩をとり施行した.白内障などの中間透光体の混濁のある症例や等価球面度数が.6.00D以上の近視眼は除外し,検査時には遠用の屈折矯正レンズを用いた.これにもかかわらず,今回トータル偏差でびまん性の異常が検出されており,HEPに内蔵されている正常値に問題がある可能性が考えられた.正常被験者におけるHEPのMD値は.4.09±2.39と低く,ばらつきも大きいことがわかった.また,HEPの特異度はトータル偏差では30%と非常に低く,パターン偏差では80%であった.このことから,正常被験者においても,トータル偏差でびまん性の異常が検出されることがわかり,HEPに内蔵されている正常値に関してはやはり再考の必要があると考えられた.正常値が低くなった原因として,ドームを持たないタイプの視野計で,レンズ系を覗きながら視野検査を行う場合,若年者では調節の影響でびまん性感度低下が生じやすいという報告があり15),今回の正常被験者は比較的若年者が多かった1576あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(126) abecdfga:眼底写真b:CirrusOCTc:SAP(グレースケール)d:SAP(トータル偏差)e:HEP(トータル偏差)f:SAP(パターン偏差)g:HEP(パターン偏差)図5症例2(65歳,女性):正常眼圧緑内障(早期,右眼)ことも影響している可能性が考えられる.さらに,視標の応答基準も正常値が低くなった要因の一つであることが推測されたが,今回はFDTで行われているのと同様に16),リングが見えたらではなく,リングは認識されなくても何かが見えたら応答するという形をとっており,こちらのほうがむしろ感度は上がると考えられるため,正常値が低い原因としては考えにくい.HEPの検査に要した平均時間は,正常被験者で7分51秒,緑内障患者で10分31秒であり,ともにSAPよりも長かった.また,極早期では10分17秒,早期では10分44秒であり,病期が進行すると検査時間が長くなった.HEPではSAPと同様,24-2の測定点の配置を用いたため,測定点の配置に関して両者に差はなく,HEPにおいて検査時間が長い原因としては,SAPとHEPの閾値測定アルゴリズムの違いが考えられる.今回HEPで用いた閾値測定アルゴリズムであるFDFASTA-Standardは,SAPのSITA-Standardと類似した閾値測定アルゴリズムであるが,SITAが正常者と緑内障患者の年齢別感度パターンを元に測定しているのに対し,ASTAは正常者の年齢別感度パターンを元に測定している点が異なっている.現在,さらに時間を短縮した新しい閾値測定アルゴリズムが開発され,つぎのバージョンで搭載予定となっている.被験者のHEPに対する印象としては,「他の視野検査と比較し視標の認識がむずかしい」など,検査の難易度が高いことをあげる被験者が多かった.HEPは従来の視野計と異なり,視標のみでなく,背景もフリッカーしコントラストが変化するため,リングが認識しにくくなり,検査の難易度が高くなると考えられる.測定に際しては,実際に提示される視標を用いて,十分な説明と練習が不可欠であると考えられた.今回,HEPの使用経験を経て,HEPは極早期および早期の緑内障の検出に有用な検査法の一つであることがわかった.一方,問題点として,内蔵されている正常値に関して再考の必要がある点,検査時間が長い点などがあげられた.今後,これらの問題を改善することにより,HEPは緑内障の早期診断の補助検査方法の一つとなる可能性があると考えら(127)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121577 れた.文献1)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWR:Opticnervedamageinhumanglaucoma.III.Quantitativecorrelationofnervefiberlossandvisualfielddefectinglaucoma,ischemicneuropathy,papilledema,andtoxicneuropathy.ArchOphthalmol100:135-146,19822)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453464,19893)LivingstoneMS,HubelDH:Psychophysicalevidenceforseparatechannelsfortheperceptionofform,color,movement,anddepth.JNeurosci7:3416,19874)ShapleyR:Visualsensitivityandparallelretinocorticalchannels.AnnuRevPsychol41:635-658,19905)QuigleyHA,SanchezRM,DunkelbergerGRetal:Chronicglaucomaselectivelydamagelargeopticnervefibers.InvestOphthalmolVisSci28:913-920,19876)JohnsonCA:Selectiveversusnonselectivelossesinglaucoma.JGlaucoma1:S32-34,19947)JohnsonCA,AdamsAJ,CassonEJetal:Progressionofearlyglaucomatousvisualfieldlossasdetectedbyblue-on-yellowandstandardwhite-on-whiteautomatedperimetry.ArchOphthalmol111:651-656,19938)BrusiniP,BusattoP:Frequencydoublingperimetryinglaucomaearlydiagnosis.ActaOphthalmol227:23-24,19989)MedeirosFA,SamplePA,WeinrebRN:Frequencydoublingtechnologyperimetryabnormalitiesaspredictorsofglaucomatousvisualfieldloss.AmJOphthalmol137:863-871,200410)MatsumotoC,TakadaS,OkuyamaSetal:AutomatedflickerperimetryinglaucomausingOctopus311:acomparativestudywiththeHumphreyMatrix.ActaOphthalmolScand(Suppl)84:210-215,200611)QuaidPT,FlanaganJG:Definingthelimitsofflickerdefinedform:effectofstimulussize,eccentricityandnumberofrandomdots.VisionRes45:1075-1084,200412)Rogers-RamachandranDC,RamachandranVS:Psychophysicalevidenceforboundaryandsurfacesystemsinhumanvision.VisionRes38:71-77,199813)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199914)NomotoH,MatsumotoC,TakadaSetal:DetectabilityofglaucomatouschangesusingSAP,FDT,flickerperimetry,andOCT.JGlaucoma18:165-171,200915)OkuyamaS,MatsumotoC,UyamaKetal:ReappraisalofnormalvaluesofthevisualfieldusingtheOctopus1-2-3.PerimetryUpdate:359-363,1992/199316)McKendrickAM,AndersonAJ,JohnsonCAetal:Appearanceofthefrequencydoublingstimulusinnormalsubjectsandpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci44:1111-1116,2003***1578あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(128)

緑内障治療用の配合点眼液の1日薬剤費用評価

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1405.1409,2012c緑内障治療用の配合点眼液の1日薬剤費用評価冨田隆志*1櫻下弘志*1池田博昭*1塚本秀利*2木平健治*1*1広島大学病院薬剤部*2高山眼科EconomicConsiderationsRegardingtheNewFixed-CombinationOphthalmicSolutionsforTreatingGlaucomaTakashiTomita1),HiroshiSakurashita1),HiroakiIkeda1),HidetoshiTsukamoto2)andKenjiKihira1)1)DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,2)TakayamaEyeClinic新たに上市された緑内障用配合点眼液について,後発品を含む単味製剤を併用した場合と比較した薬剤経済性を評価した.評価対象は,ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRと,これらを構成する成分の単味製剤(キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品,トルソプトR1%)のうち,入手可能であった22銘柄とし,各製剤の薬価,および総滴下数・1日使用回数・薬価から算出した理論上の1日薬剤費用を比較した.配合剤は先発品の単味製剤併用と比較すると安価で,後発品単味製剤併用と比較すると高価であったが,1日薬剤費用では後発品単味製剤を使用しても配合剤より高価になる組み合わせも認められた.1日薬剤費用の比較は,配合剤の評価においても必要と考えられる.Thecostsofthenewlyapprovedfixed-combinationophthalmicsolutionsfortreatingglaucomawereinvestigatedandcomparedwithuseoftheirseparatecomponents,includinginnovatorandgenericproductformulations.XalacomR,DuotravaRandCosoptR,asfixedcombinations,andtheiravailableseparatecomponentformulationswerestudied.Thepriceperbottleandthetheoreticalactualdailycostwerecalculatedonthebasisoftotaldropcountperbottle,standarddailydosageandofficialpriceofeachproduct.Thepriceperbottleandthedailycostoffixed-combinationproductswerelowerthanthoseofseparateformulationcombinationswhenusinginnovatorproducts,andconsiderablyhigherwhenusinggenericproducts.However,evaluationonthebasisofactualdailycostrevealedthatcertaincombinationsusinggenericproductsweremoreexpensivethanfixed-combinationproductformulations.Actualdailycostmayalsobehelpfulineconomicalevaluationoffixed-combinationophthalmicsolutions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1405.1409,2012〕Keywords:薬剤費,緑内障,配合点眼液,先発医薬品,後発医薬品.medicationcosts,glaucoma,fixed-combinationophthalmicsolution,innovatorproduct,genericproduct.はじめに医療用配合剤の承認申請の要件として,2005年に「患者の利便性の向上に明らかに資するもの」(医薬審査発第0331009号医薬食品局審査管理課長通知)が追加されて以降,内服薬を中心に多くの配合剤が発売された.点眼液の配合剤は2010年4月からザラカムR(ファイザー),2010年6月からデュオトラバR(日本アルコン),コソプトR(MSD)の3銘柄が上市されている(それぞれラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,ドルゾラミド塩酸塩1%とチモロールマレイン酸塩0.5%の配合剤).筆者らは,点眼液の1滴容量は,容器を含む種々の要因で銘柄間に差が存在するため,点眼液の薬剤費用を比較する際は1瓶当たりの薬価基準(以下,薬価)を比較することに加え,点眼液1瓶を実際に使用できる期間(以下,点眼可能期間)から算出した薬剤費用の比較を行うことで,より適切に薬剤経済性が比較できることをこれまでに報告した1.4).今回,新たに上市された配合剤の薬剤経済性を明らかにする目的で,配合成分の単味製剤(先発医薬品:以下先発品,〔別刷請求先〕池田博昭:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学病院薬剤部Reprintrequests:HiroakiIkeda,DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)1405 および後発医薬品:以下後発品を含む)を併用点眼した場合の経済性を,1瓶当たりの薬価および実際の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用(以下,1日薬剤費用)で比較した.I方法対象は,ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRの3種の配合剤,およびこれら配合剤を構成する単味製剤(キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品,トルソプトR1%)のうち,入手可能であった22銘柄とした.1.1瓶の薬価調査対象とした点眼液の多くは,1日1回点眼の製剤は1瓶容量2.5mL,1日2回点眼の製剤は1瓶容量5mLであることから,1瓶当たりの薬価を比較に用いた.なお,トルソプトRは1日3回点眼で1瓶容量5mLであるため,比較には1.5瓶分の薬価を用いた.薬価は,小数点以下を四捨五入して比較した.2.1日薬剤費用a.ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRについて既報1.4)と同様に室温(23℃)で専任者1名により1滴ずつ加圧滴下し,1瓶当たりの総滴数を計測した.計測は1名の計測者により同一ロット3瓶について行い,その平均値の小数点以下を切り捨てた滴下数と,添付文書記載の用法で両眼1回1滴点眼した場合の1日点眼滴数と2012年4月1日改訂薬価から,理論上の1日薬剤費用を算出した.b.その他の点眼液キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,トルソプトR1%,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品の1日薬剤費用は,筆者らの既報の滴下数1.4)を2012年4月1日改訂薬価に基づいて再計算した.II結果1.1瓶の薬価表1に対象とした配合剤および単味製剤の1瓶容量,1日表1対象とした点眼薬の1瓶容量,薬価および点眼回数製品名1瓶容量(mL)1瓶薬価(円)点眼回数(片眼)配合剤先発品ザラカムR配合点眼液2.53,243.001デュオトラバR配合点眼液2.53,386.251コソプトR配合点眼液5.03,340.002ラタノプロスト先発品キサラタンR点眼液0.005%2.51,923.251後発品ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」,「アメル」,「ケミファ」,「センジュ」,「ニットー」2.51,427.001同「NS」,「TOA」,「ニッテン」2.51,364.751同「NP」,「TYK」,「イセイ」,「科研」,「コーワ」,「トーワ」,「わかもと」2.51,280.001同「キッセイ」,「タカタ」,「マイラン」2.51,191.751同「CH」,「KRM」,「TS」,「サワイ」2.51,094.001同「三和」,「日医工」2.5936.001トラボプロスト先発品トラバタンズR点眼液0.004%2.52,449.001ドルゾラミド先発品トルソプトR点眼液1%5.01,445.50*3チモロール先発品チモプトールR点眼液0.5%5.01,760.502チモプトールRXE点眼液0.5%2.51,877.501リズモンRTG点眼液0.5%2.51,839.751後発品チモレートR点眼液0.5%,チモレートRPF点眼液0.5%,リズモンR点眼液0.5%5.0583.502チモロール点眼液0.5%「テイカ」,チモロール点眼液T0.5%5.0532.002チアブートR点眼液0.5%,ファルチモR点眼液0.55.0348.002*:トルソプトR点眼液は1日3回点眼で1瓶容量5mLであるため,以後の比較では1.5瓶分の薬価を用いている.1406あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(90) 点眼回数,1瓶薬価を示し,配合剤を構成する単味製剤の組み合わせの薬価の分布を図1に示した.a.ザラカムRについて(表1)ザラカムR1瓶の薬価は3,243円で,単味製剤先発品の合計薬価3,684円(キサラタンR1瓶1,923円とチモプトールR0.5%1瓶1,761円)より441円安価であったが,最も安価な単味製剤後発品併用の合計薬価1,284円(ラタノプロスト・三和または日医工1瓶936円とチアブートRまたはファルチモR1瓶348円)より1,954円高価であった.ザラカムRに対する単味製剤併用の薬価比は0.40.1.14であった.それぞれの単味製剤の先発品と後発品の1瓶の最大薬価差はチモロールが1,530円,ラタノプロストが987円であり,後発品を使用することによって生じる薬価差はチモロールで:配合剤:先発品+先発品:先発品+チモロール後発品:ラタノプロスト後発品+先発品:後発品+後発品A4,500影響が大きかった.一方,後発品の銘柄間の1瓶薬価の差は,チモロールが236円,ラタノプロストが491円であり,後発品の銘柄選択の影響はラタノプロストで大きかった.b.デュオトラバRについて(表1)デュオトラバR1瓶の薬価は3,386円で,単味製剤先発品の合計薬価4,210円(トラバタンズR1瓶2,449円,チモプトールR0.5%1瓶1,761円)より824円安価であったが,トラバタンズRとチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートRまたはファルチモR1瓶348円)併用の合計薬価2,797円より589円高価であった.デュオトラバRに対する単味製剤併用の薬価比は0.83.1.24であった.c.コソプトRについて(表1)コソプトR1瓶の薬価は3,340円で,単味製剤先発品の合計薬価3,929円(トルソプトR1.5瓶2,168円,チモプトールR0.5%1瓶1,761円)より589円安価であったが,トルソプトRにチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートRまたはファルチモR1瓶348円)併用の合計薬価2,516円より824円高価であった.コソプトRに対する単味製剤併用の薬価比は0.75.1.18であった.1瓶薬価(円)B4,0002.1日薬剤費用3,500今回,新たに計測した配合剤の1日薬剤費用を表2に,筆3,000者らの既報値から現在の薬価を用いて再算出した単味製剤の2,5001日薬剤費用を表3に示した.図1に配合剤を構成する単味2,0001,500製剤の組み合わせの1日薬剤費用の分布を示した.1,000a.ザラカムRについて500ザラカムRの1日薬剤費用は72.1円で,単味製剤先発品0の合計88.3円(キサラタンR42.3円,チモプトールR0.5%1801日薬剤費用(円)160140120100806040200ザラカムRデュオトラバRコソプトR図1配合剤と単味製剤併用の1瓶薬価および1日薬剤費46.0円)より16.2円安価であったが,最も安価な単味製剤後発品併用の合計30.7円(ラタノプロスト・三和または日医工20.8円,チアブートR9.9円)より41.4円高価であった.ザラカムRに対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.43.1.22であり,単味製剤をいずれも後発品で併用した場合はどの組み合わせでもザラカムRよりも安価であった.b.デュオトラバRについてデュオトラバRの1日薬剤費用は67.7円で,単味製剤先発品の合計93.6円(トラバタンズR47.6円,チモプトールR用の比較0.5%46.0円)より25.9円安価であった.トラバタンズRとA:1瓶薬価.B:1日薬剤費用について,横線で配合剤チモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートR9.9の費用を示し,縦線で単味製剤併用時の費用の分布(最大値から最小値)を示した.円)の合計57.5円より10.2円高価であった.デュオトラバR表2配合点眼薬の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用製品名1瓶薬価(円)点眼回数(片眼)滴下可能数1滴薬剤費用(円)1日薬剤費用(両眼)(円)ザラカムR配合点眼液デュオトラバR配合点眼液コソプトR配合点眼液3,2433,3863,34011290.7±2.1100.7±3.1123±1.736.033.927.272.167.7108.6(91)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121407 表3単味製剤の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用製品名1日薬剤費用(円)キサラタンR点眼液0.005%42.31)ラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」41.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」40.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」38.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」38.61)ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」38.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」37.91)ラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」36.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「科研」35.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」31.71)ラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」31.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」30.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」30.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」29.21)ラタノプロスト点眼液0.005%「NS」28.71)ラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」26.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」26.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」25.91)ラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」24.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」24.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「TS」22.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「三和」20.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」20.81)トラバタンズR点眼液0.004%49.52)トルソプトR点眼液1%78.13)リズモンRTG点眼液0.5%94.34)チモプトールRXE点眼液0.5%49.44)チモプトールR点眼液0.5%46.04)チモレートR点眼液0.5%21.24)リズモンR点眼液0.5%18.14)チモロール点眼液0.5%「テイカ」17.04)チモロール点眼液T0.5%16.84)ファルチモR点眼液0.512.14)チアブートR点眼液0.5%9.94)に対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.85.1.38であった.c.コソプトRについてコソプトRの1日薬剤費用は108.6円,単味製剤先発品の合計124.1円(トルソプトR78.1円,チモプトールR0.5%46.0円)より15.5円安価であった.トルソプトRとチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートR9.9円)の合計87.9円より20.7円高価であった.コソプトRに対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.81.1.14であった.III考察配合剤を使用する利点として,点眼回数の減少とそれに伴う点眼間隔に要する時間の減少などの患者の利便性向上によ1408あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012るアドヒアランスの改善の他,複数回点眼時に直前に点眼した薬剤が洗い流されてしまうリスクも少ないことなどがある.また,配合剤では,点眼液に含まれる添加剤の角膜上皮への曝露量を最小限にできることから,副作用の軽減などの治療上の改善も考えられる5).緑内障患者は長期にわたり点眼液を使用するため,点眼液の薬剤費用がアドヒアランスに影響を及ぼすという報告もある6,7).点眼液を選択するうえでは治療効果のみならず,その経済性も考慮することが望まれる.配合剤使用の薬剤費用への影響は,点眼回数の違いや後発品の存在のため複雑である.今回検討対象とした配合剤の1日点眼回数は,配合した単味製剤の少ないほうに統一されている.ザラカムR,デュオトラバRではチモロールの点眼回数が1日2回から1回に,コソプトRではドルゾラミドの点眼回数が1日3回から2回に減ることになる.しかしながら,ザラカムR,コソプトRについては,単味製剤をそれぞれの用法で併用した場合と比較した眼圧降下作用の非劣性が臨床試験で示されている(ザラカムR配合点眼液承認審査報告書およびコソプトR配合点眼液承認審査報告書,医薬品医療機器総合機構).デュオトラバRについても,チモロールの点眼回数についてはザラカムRと同様であることから,本検討では薬剤費用だけを評価した.点眼液の薬剤費用を評価する手段としては,1瓶薬価を比較することが簡便である.配合剤の1瓶薬価は,単味製剤先発品併用の合計より割安であったが,チモロールの後発品を用いた併用では,いずれの組み合わせでも配合剤の薬剤費用が割高となった.配合剤の新収載時の薬価は,単味製剤の合計金額(後発品が発売されている品目については,最も安価な銘柄の薬価を使用)の8割,あるいは単味製剤いずれかの薬価の高い価格と改められている.しかし,今回検討の対象とした3種の配合剤の薬価収載時には外用剤はこのルールから除外されており,先発品の薬価の単純な合計額となっている.配合剤の1日点眼回数が単味製剤使用時よりも少なく設定されているという用法の違いから,先発品使用時を考えると配合点眼薬は単剤併用よりも安価になるが,その程度は軽微である.単味製剤にはすでに後発品も上市されている場合があり,後発品を組み合わせて使用することを考えると,配合剤の薬価が割高となった.一方,点眼液の滴下容量は,薬剤の種類のみでなく,点眼容器の形状,添加物濃度などの影響を受けるため,点眼液の経済性比較を行う際には,1滴容量を加味した1日薬剤費用の評価が必要である.1日薬剤費用での比較においても,先発品を使用すると単味製剤併用よりも配合剤が安価になり,後発品を使用すると単味製剤併用が配合剤よりも安価になる傾向は変わらなかった.しかし,単味製剤併用において,後(92) 発品を用いても配合剤の薬剤費用を上回る組み合わせも存在しており(デュオトラバR67.7円に対し,トラバタンズRとチモレートRの併用が70.7円,など),後発品間の1日薬剤費用の違いが薬価の違いよりも大きいこと,ラタノプロスト製剤は,後発品のなかに1日薬剤費用が先発品とほとんど変わらないものも存在していることなどの影響が認められた.今回の検討では,1日薬剤費用の考慮により,配合剤の経済性を実際に即した形で評価できた.容器や添加物の違いも,使用性や忍容性にも影響しうるため,薬剤選択のうえで重要な要素である.しかし,1日薬剤費用による経済性の比較は,配合剤の評価においても必要と考えられる.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)櫻下弘志,冨田隆志,池田博昭ほか:ラタノプロスト点眼液の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼65:1079-1082,20112)冨田隆志,櫻下弘志,池田博昭ほか:プロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較.あたらしい眼科28:1179-1181,20113)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴用量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20064)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:b遮断薬点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,20095)山崎仁志,宮川靖博,目時友美ほか:トラボプロスト点眼液の点状表層角膜症に対する影響.あたらしい眼科27:1123-1126,20106)FriedmanDS,HahnSR,GelbLetal:Doctor-patientcommunication,health-relatedbeliefs,andadherenceinglaucomaresultsfromtheGlaucomaAdherenceandPersistencyStudy.Ophthalmology115:1320-1327,20087)TsaiJC:Acomprehensiveperspectiveonpatientadherencetotopicalglaucomatherapy.Ophthalmology116:S30-S36,2009***(93)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121409

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1303.1311,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野AnExploratoryStudyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)の探索的臨床試験として,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%または0.15%製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果および安全性を,プラセボを対照として比較検討した.主要評価項目に設定した投与4週間後の0時間値および2時間値の眼圧変化値において,0.1%群および0.15%群はいずれもプラセボに比べ有意な眼圧下降を示した.また,0.1%群と0.15%群の眼圧下降効果および副作用発現頻度に差はなく,副次評価項目の眼圧変化率,目標眼圧達成率やノンレスポンダー率においても主要評価を支持する結果を得た.眼科学的検査,血圧・脈拍数や臨床検査においても臨床的に問題となる変動はなく,本剤の忍容性が確認できた.以上の結果より,ブリモニジンはプラセボよりも有意な眼圧下降作用を有し,わが国における臨床至適濃度は0.1%濃度が妥当と判断した.This4-weekexploratoryclinicalstudysoughttodeterminetheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%and0.15%brimonidinetartrateappliedtwicedailyinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension.Comparedtothevehiclealone,0.1%and0.15%brimonidinesignificantlydecreasedthemeanIOPchangefrombaselineat0and2hatweek4.NodifferencewasseenbetweentheIOP-loweringeffectsandincidenceofadversesideeffectsof0.1%and0.15%brimonidine.Percentchangesfrombaseline,achievementoftargetpressureandnonresponderrateatthesecondaryendpointsupporttheresultsobtainedattheprimaryendpoint.Theabsenceofclinicallysignificantchangesonophthalmologicalandlaboratoryexaminations,andinbloodpressureandpulserate,confirmedthetolerabilityofbrimonidine.Topical0.1%and0.15%brimonidinearesignificantlymoreefficaciousinloweringIOPthanisthevehiclealone.Withcomparableefficacyandtolerability,0.1%brimonidineisclinicallysuperiorto0.15%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1303.1311,2012〕Keywords:ブリモニジン,緑内障,高眼圧症,探索的臨床試験,選択的アドレナリンa2作動薬.brimonidine,glaucoma,ocularhypertension,exploratoryclinicalstudy,selectivea2-adrenergicagonist.はじめにまざまな緑内障治療薬が上市されており,なかでも原発開放わが国ではプロスタグランジン(PG)関連薬や交感神経b隅角緑内障においてはPG関連薬やb遮断薬が優れた眼圧下受容体遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経a1受容体遮降効果により第一選択薬として使用されている.しかし,b断薬,非選択性交感神経刺激薬,副交感神経刺激薬などのさ遮断薬の心肺機能に及ぼす影響やPG関連薬に特異的な副作〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1303 用が危惧される症例では,機序の異なる治療薬の選択が必要となってくる.また,高眼圧症または初期の緑内障患者であっても,単剤治療では十分な効果が得られない症例が多々存在することも事実である.緑内障治療における薬剤耐性の状況として,OcularHypertensionTreatmentStudy(OHTS)1)では目標眼圧を達成するために5年目で約40%が2剤以上を必要とし,CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy(CIGTS)2)では2年で2剤以上を必要とした症例が75%以上と報告されている.緑内障に対する薬物療法の選択肢を広げざるをえない背景には,このような単剤治療のみでは目標眼圧の維持が困難な症例の存在や継続投与によって生じる薬剤耐性の問題があげられる.非選択性交感神経刺激薬のエピネフリン製剤やa1遮断薬,b遮断薬などのアドレナリン受容体をターゲットとした緑内障治療薬は,わが国においても比較的古くから臨床の場に供されてきた.一方,交感神経受容体サブタイプの一つであるa2受容体をターゲットとした緑内障治療薬の開発も過去に試みられており,海外では選択的アドレナリンa2作動薬として1960年代初めに合成されたクロニジンに期待が寄せられた.しかし,クロニジンは眼圧下降作用を有するものの点眼においても中枢性の血圧下降作用を示し,ボランティアの50%で拡張期血圧を30mmHgまで低下させる3)などの副作用により臨床応用には至っていない.ついで,1970年代に合成されたアプラクロニジンは,p-アミノ基の導入により親水性が増加したため中枢性の全身的な副作用は減少したもののヒドロキノン様構造が酸化を受けやすく,生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化され4),長期使用では約半数が眼局所のアレルギーにより点眼中止を余儀なくされた5).また,眼圧下降効果を示さなかった症例の割合が投与3.6週間後に24%,投与7.8週間後には57%と高率に認められている6).そのため長期投与が必須となる緑内障や高眼圧症に対する開発は断念され,レーザー手術後の一過性の眼圧上昇の防止を目的とした限定的な使用に留まっている.一方,ブリモニジンはヒドロキノン様構造をもたず,アプラクロニジンにアレルギー反応を示す症例にも交差反応は示さず,全身性の副作用が少ないアドレナリンa2作動薬として唯一,ブリモニジン酒石酸塩点眼液として開放隅角緑内障または高眼圧症に対する適応を取得した緑内障治療薬である.本剤はアプラクロニジンに比べa1受容体よりもa2受容体に高い親和性を示し,既存の緑内障治療薬とは異なる房水産生抑制作用とぶどう膜強膜流出路からの流出促進作用の2つの眼圧下降機序を有する7).また,眼圧コントロール不良例や前治療薬に副作用を生じた症例8)あるいは他剤との併用による高い有効性と忍容性が報告されており9,10),単剤あるいは併用治療のみならずチモロールとの配合剤としても豊富な使用実績を有している.海外では米国アラガン社が1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の米国承認を取得し,その後,保存剤を亜塩素酸ナトリウム(PURITER:以下,Purite)に変更するなどの処方改良が加えられ,現在では0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有する0.15%ブリモニジンPurite製剤が汎用されている.しかし,これまでに日本人におけるブリモニジンの使用経験はないことから,国内においても用量反応性の検討が必要と考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%ブリモニジンPuriteまたは0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果と安全性を,プラセボを対照として探索的に検討したので報告する.I方法本臨床試験は,開始に先立ちすべての実施医療機関の治験表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師かつしま眼科勝島晴美中の島たけだ眼科竹田明さいたま赤十字病院眼科小島孚允春日部市立病院眼科水木健二大宮はまだ眼科濱田直紀真仁会小関眼科医院小関信之日本大学医学部附属板橋病院眼科山崎芳夫東京医療生活協同組合中野総合病院眼科鈴村弘隆レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院眼科武井歩済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治オリンピア会オリンピア眼科病院井上立州善春会若葉眼科病院吉野啓吉川眼科クリニック吉川啓司蒔田眼科クリニック杉田美由紀湘南谷野会谷野医院谷野富彦富山県立中央病院眼科岩瀬剛金沢大学附属病院眼科杉山和久恩賜財団福井県済生会病院眼科齋藤友護,棚橋俊郎千照会千原眼科医院千原悦夫厚生年金事業振興団大阪厚生年金病院眼科狩野廉創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男研英会林眼科病院林研熊本大学医学部附属病院眼科稲谷大NTT西日本九州病院眼科布田龍佑熊本市立熊本市民病院眼科有村和枝陽幸会うのき眼科鵜木一彦上野眼科医院木村泰朗広田眼科広田篤永山眼科クリニック永山幹夫1304あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(128) 審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2006年4月から10月の間に表1に示す32施設で実施した.対象患者は,有効性評価対象眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断された満20歳以上の男女で,試験参加に先立ち文書による同意が得られ,表2の採用基準に該当する症例とした.表2対象被験者のおもな採用・除外基準おもな採用基準1)両眼とも矯正視力が0.7以上の者2)両眼とも眼圧値が31mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上おもな除外基準1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術,濾過手術,線維柱帯切開術および内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者4)コンタクトレンズの装用が必要な者5)a2作動薬にアレルギーまたは重大な副作用の既往のある者6)a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,中枢神経抑制薬の使用が必要な者7)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者8)高度の視野障害がある者9)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者被験薬は1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgまたは1.5mgを含有し,Puriteを保存剤として有し,対照薬のプラセボは被験薬の基剤を用いた.試験薬剤は1日2回,朝(8:30.10:30)と夜(20:00.22:00)に両眼に1滴ずつ4週間点眼した.本試験は二重盲検法により実施し,3群の試験薬剤は北里大学薬学部臨床薬学研究センター・臨床薬学部門の小宮山貴子がプラセボとの外観上の識別不能性を確認したうえで無作為割付けを行った.試験参加前に緑内障の薬物治療を受けていた患者に対しては,交感神経遮断薬またはPG製剤は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬または交感神経作動薬は2週間以上の休薬期間を設けた.その他,ステロイド薬についても1週間以上の休薬期間を設けたが,眼瞼周囲を除く皮膚局所投与については休薬不要とした.検査および観察項目と治験スケジュールを表3に示す.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値の測定を行った.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察した.角膜所見の判定基準はAD(Area-Density)分類11)を用い,結膜・眼瞼所見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)は4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞は標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて緑内障性異常の有無および垂直陥凹/乳頭径比(vC/D比)を記録した.視野検査は自動静的視野計を用いた.血圧(収縮期,拡張期)・脈拍数は5分間安静後,座位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査をファルコバイオシステムズで実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象表3治験スケジュール時期*スクリーニング項目背景因子調査●視力検査●角膜・結膜・眼瞼所見眼圧検査●眼底検査・写真●視野検査●血圧・脈拍数臨床検査有害事象休薬投与開始日投与2週間後投与4週間後0時間2時間0時間2時間0時間2時間●●●●●●●*:下段,測定ポイント(時間).(129)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121305 を副作用とした.治験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止し,その他の眼圧に影響を及ぼす可能性のある薬剤の新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,投与4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.副次評価項目は,投与2週間後の眼圧変化値と2および4週間後の眼圧変化率とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.また,2および4週間後に眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合(眼圧値の目標眼圧達成率),眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合(眼圧変化率の目標眼圧達成率)および.10%に達しなかった症例の割合(ノンレスポンダー率)を求め,c2検定またはFisherExact検定による薬剤群間比較を行った.さらに,0時間値と2時間値の平均値を算出し,主要評価項目および副次評価項目の集計ならびに解析を行った.安全性の評価として実施した血圧および脈拍数は,薬剤ごとに投与開始日と投与後の各観察時点の変化を1標本t検定で比較した.いずれも有意水準両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease8.2(SASInstituteJapan)を用いた.また,視力・角膜・結膜・眼瞼所見・眼底・視野・臨床検査は各項目について薬剤ごとに投与前後の比較を行った.目標症例数については,少なくとも0.15%ブリモニジン群がプラセボ群に対して投与4週間後の眼圧変化値で統計学的に有意に優れていること示すため,有意水準両側5%,検出力80%の条件で必要症例を算出し,さらに試験実施中の中止,脱落を考慮して1群40例と設定した.II結果試験薬剤を投与した症例は0.1%ブリモニジン群44例,0.15%ブリモニジン群45例およびプラセボ群44例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は0.1%ブリモニジン群43例,0.15%ブリモニジン群43例およびプラセボ群42例で,その背景因子を表4に示す.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移をそれぞれ図1,表5および表6に示す.主要評価項目である4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)は,いずれの観察時点においても0.1%ブリモニジン群,0.15%ブリモニジン群ともに表4被験者背景(PPS)項目0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ性別男性221915女性212427年齢(歳).6426282965.171513平均57.659.055.3緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)212320高眼圧症222022眼圧値(mmHg)2724:0.1%ブリモニジン21:0.15%ブリモニジン:プラセボ1815投与2週4週投与2週4週投与2週4週開始日開始日開始日0時間値2時間値0,2時間平均値図1眼圧値の推移平均値±標準偏差.0,2時間平均値は0時間値と2時間値の平均値を示す.1306あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(130) 表5眼圧変化値の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.3.1±1.8(43).3.3±2.3(43).1.5±1.9(41).1.6p=0.0006.1.8p=0.00014週間後.3.7±2.0(43).3.4±2.2(43).2.3±2.2(42).1.4p=0.0055.1.2p=0.02302時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.4.7±2.5(43).4.8±2.3(43).2.2±2.3(41).2.5p<0.0001.2.6p<0.00014週間後.5.1±2.5(43).4.9±2.0(43).2.3±2.4(42).2.9p<0.0001.2.7p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.3.9±1.9(43).4.1±2.0(43).1.9±1.8(41).2.1p<0.0001.2.2p<0.00014週間後.4.4±1.9(43).4.2±1.8(43).2.3±2.2(42).2.1p<0.0001.1.9p<0.0001単位:mmHg,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.表6眼圧変化率の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.14.1±8.0(43).14.8±9.8(43).6.5±8.2(41).7.6p=0.0002.8.3p<0.00014週間後.16.4±8.9(43).15.1±9.6(43).10.1±9.9(42).6.3p=0.0049.5.0p=0.03062時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.21.8±11.2(43).21.8±9.4(43).9.9±10.4(41).11.9p<0.0001.11.9p<0.00014週間後.23.2±10.7(43).22.4±8.0(43).10.3±10.8(42).12.9p<0.0001.12.1p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.18.0±8.7(43).18.3±8.7(43).8.3±7.8(41).9.7p<0.0001.10.0p<0.00014週間後.19.9±8.2(43).18.7±7.6(43).10.3±9.8(42).9.7p<0.0001.8.4p<0.0001単位:%,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.プラセボ群に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示した.0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の眼圧変化値に大きな違いはなかった.副次評価として,各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を薬剤群間で比較した結果,すべての観察時点において主要評価の結果と同様に0.1%および0.15%ブリモニジン群はプラセボ群に比べ有意な眼圧下降効果を示し,両濃度間の眼圧下降効果に大きな違いはなかった.投与2週間後および4週間後の眼圧値が19mmHg以下になった眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率が.20%以上になった眼圧変化率の目標眼圧達成率および眼圧変化率が.10%に達しなかったノンレスポンダー率をそれぞれ表7,表8および表9に示す.眼圧値の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群はすべての観察時点において,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除き,プラセボ群に比べ有意に高かった.眼圧変化率の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群は2週間後の0時間値を除き,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除きプラセボ群に比べ有意に高かった.ノンレスポンダー率については,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有意に低かった.なお,0.1%と0.15%製剤の眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率の目標眼圧達成率およびノンレスポンダー率には有意な差はなかった.その他の解析として,各観察時点における眼圧の0時間値と2時間値の平均値を用いて同様の解析を行った結果,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有(131)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121307 表7眼圧値の目標眼圧達成率(19mmHg以下)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後55.855.831.7p=0.0261†p=0.0261†p=1.0000†4週間後67.458.140.5p=0.0126†p=0.1034†p=0.3722†2時間値2週間後76.781.451.2p=0.0147†p=0.0034†p=0.5960†4週間後88.486.057.1p=0.0015‡p=0.0031†p=1.0000‡0時間値と2時間値の平均2週間後69.872.136.6p=0.0023†p=0.0011†p=0.8123†4週間後79.174.450.0p=0.0050†p=0.0202†p=0.6097†目標眼圧達成率:眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表8眼圧変化率の目標眼圧達成率(.20%以上)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後23.332.69.8p=0.1433‡p=0.0158‡p=0.3362†4週間後39.537.219.0p=0.0382†p=0.0629†p=0.8245†2時間値2週間後53.553.57.1p=0.0005†p=0.0005†p=1.0000†4週間後60.567.416.7p<0.0001†p<0.0001†p=0.5005†0時間値と2時間値の平均2週間後39.548.89.8p=0.0022‡p=0.0001‡p=0.3851†4週間後53.548.819.0p=0.0010†p=0.0038†p=0.6661†目標眼圧達成率:眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表9ノンレスポンダー率の薬剤群間比較ノンレスポンダー率(%)観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%0時間2週間後37.223.368.3p=0.0044†4週間後18.625.652.4p=0.0011†2時間値2週間後14.011.653.7p=0.0001†4週間後7.09.350.0p<0.0001‡0時間値と2時間値の平均2週間後27.920.963.4p=0.0011†4週間後18.67.052.4p=0.0011†ノンレスポンダー率:眼圧変化率が.10%に達しなかった症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.薬剤群間比較プラセボvs0.15%p<0.0001†p=0.0113†p<0.0001‡p<0.0001‡p<0.0001†p<0.0001‡0.1%vs0.15%p=0.1589†p=0.4355†p=1.0000‡p=1.0000‡p=0.4514†p=0.1951‡1308あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(132) 表10副作用一覧薬剤0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ安全性解析対象例数444544【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数例数(%)件数全体6(13.6)76(13.3)92(4.5)2点状角膜炎4(9.1)46(13.3)71(2.3)1結膜浮腫001(2.2)100結膜充血1(2.3)11(2.2)100眼の異常感1(2.3)10000眼刺激1(2.3)10000眼瞼.痒症00001(2.3)1意な眼圧下降効果を示す一方で,0.1%と0.15%ブリモニジン群の眼圧下降効果に差はなかった.発現した有害事象は,0.1%ブリモニジン群11例(25.0%)13件,0.15%ブリモニジン群14例(31.1%)21件,プラセボ群10例(22.7%)11件であった.このうち副作用は0.1%ブリモニジン群6例(13.6%)7件,0.15%ブリモニジン群6例(13.3%)9件,プラセボ群2例(4.5%)2件で,表10に示すようにすべて眼局所の障害で,発現した副作用のなかでは点状角膜炎の頻度が高かった.重症度としては0.1%ブリモニジン群の点状角膜炎1例1件が中等度と判定された以外はいずれも軽度で,0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の副作用の発現頻度に差はなかった.死亡例,重篤な副作用および薬剤の投与中止を必要とするような重要な副作用はなかった.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.バイタルサインの血圧および脈拍数で,試験薬剤投与後に統計学的に有意な低下が散見されたものの変動幅は小さく,臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査についても治療の対象となるような異常変動はなかった.III考察今回のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間投与による用量反応試験において,主要評価とした投与4週間後のトラフに相当する0時間の眼圧変化値は,プラセボ群の.2.3±2.2mmHgに対し0.1%ブリモニジン群は.3.7±2.0mmHg,0.15%ブリモニジン群は.3.4±2.2mmHgと両群とも有意な低下を示した.また,ピークに相当する2時間後においてもプラセボ群の.2.3±2.4mmHgに対し,それぞれ.5.1±2.5mmHg,.4.9±2.0mmHgとブリモニジン群はいずれも統計学的に有意な眼圧下降作用を示した.本剤は日本人においても有意な眼圧下降作用を有し,0.1%ブリモニジンPurite製剤が海外で承認されている0.15%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認できた.この眼圧下降作用は炭酸脱水酵素阻害薬の0.5%塩酸ドルゾラミド点眼液を(133)1日3回または1%ブリンゾラミド点眼液を1日2回点眼したときと同等あるいはそれ以上の効果を示唆する結果であった12,13).また,副次評価項目には臨床に即した評価として,日本緑内障診療ガイドライン14)で推奨されている緑内障初期症例に対する目標眼圧19mmHg以下の症例,無治療時眼圧からの眼圧下降率20%以上の症例の割合を含め,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダー率を設定したが,これらの副次評価においても本剤の主要評価を支持する結果を得た.米国でブリモニジンの開発初期に実施された0.08%,0.2%および0.5%ブリモニジンBAK製剤による用量反応試験では,0.2%群と0.5%群の継続投与による眼圧下降作用に明らかな違いはなく,いずれも0.08%群に対して有意な眼圧下降作用を示し,安全性の面では0.2%群が優れることからブリモニジンの至適濃度として0.2%が選択されている15).その後,この0.2%ブリモニジンBAK製剤の保存剤をPuriteに変更するとともに,pHを中性領域に変更することで眼内移行性が約1.4倍向上し16),臨床的にも0.15%ブリモニジンPuriteが0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認されている17).さらに,0.2%ブリモニジンBAK製剤と0.15%ブリモニジンPuriteあるいは0.2%ブリモニジンPurite製剤の3用量による長期投与試験の結果,0.15%ブリモニジンPurite製剤は,0.2%ブリモニジンBAK製剤および0.2%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を示す一方で,アレルギー性結膜炎や口内乾燥などの発現率が有意に少ないことが確認され18),2001年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を取得している.国内の臨床試験に用いた0.15%ブリモニジンPurite製剤は,米国で0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用が確認された製剤である.その主薬濃度のみを変更した0.1%ブリモニジンPurite製剤が,わが国においては0.15%ブリモニジンPurite製剤と同様の眼圧下降作用とプロファイルを示したことから,間接的な比較にはなるものの日本人に対する0.1%ブリモニジンPurite製剤は,これまで海外で汎用されてきた0.2%ブリモニジンBAK製剤あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121309 とも同等の眼圧下降作用を有すると考えられる.現在,緑内障治療薬の薬効評価は眼圧下降作用を指標として検討されているが,緑内障に対する最終的な治療目的は視神経障害の進行阻止である.目標眼圧の維持は緑内障の進行を抑制するうえで有効な手段ではあるものの,眼圧は代替評価項目(サロゲートエンドポイント)であることから近年,改めて視神経乳頭の血流改善や網膜神経節細胞に対する直接的な神経保護治療が注目されつつある.ブリモニジンは角膜透過性が高く,薬理作用が期待できる濃度が点眼で網膜や硝子体に到達しており19.21),虚血再灌流モデルやグルタミン酸硝子体内注入あるいは眼圧上昇動物モデルに対する点眼投与で網膜神経節細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている22,23).また,臨床研究においても0.2%ブリモニジンBAK製剤の点眼により正常眼圧緑内障の視野障害の進行がチモロール点眼液よりも少なかったという結果24)や開放隅角緑内障のコントラスト感度が改善したなど25),神経保護作用を示唆する結果が報告されている.これらの神経保護作用を支持する根拠の一つとして,前述の点眼投与による網膜への移行性があげられる.ブリモニジンのa2受容体に対する親和性を示す平衡定数値は約2nMに対し26),有水晶体眼の網膜硝子体手術患者へ0.15%ブリモニジンPurite製剤を点眼したときの硝子体内濃度は12.5nMとの報告があり21),また,サルに14C-ブリモニジン点眼液を投与した移行性試験では,硝子体よりも網脈絡膜に高い放射能濃度が認められている19).従来,点眼による後極部網脈絡膜への移行は非常に少ないと考えられていたが,眼球壁に沿った結合織中の拡散によっても点眼投与した薬物が短時間で網脈絡膜に高濃度で到達することが報告されている27,28).0.1%ブリモニジンPurite製剤の組織移行性については今後さらなる検討が必要となるものの従来の報告結果は,0.1%ブリモニジンPurite製剤においても点眼後に,神経保護作用が期待できる濃度が網脈絡膜へ到達する可能性を否定するものではないと考える.安全性に関しては,海外の臨床試験17,18,29)で比較的,発現頻度の高いアレルギー性結膜炎,結膜濾胞および口内乾燥の報告はなく,結膜充血も0.1%群および0.15%群に1例のみであった.一方,これまでは報告の少なかった点状角膜炎が0.1%群に4例,0.15%群に6例と比較的高い発現頻度を示した.本試験では角膜所見をAreaとDensityによる9段階で評価するAD分類を用いたことで,初期の微細な角膜上皮の変化の検出が可能になったことが一因と考えられる.なお,発現した点状角膜炎はすべて無治療での継続治療の間に消失しており,本剤の臨床使用における忍容性に支障を及ぼすものではなかった.また,両群に発現した副作用はすべて眼局所の症状・所見で,0.1%群と0.15%群の発現頻度や重症度に大きな違いはなく,臨床検査やバイタルサインの血圧1310あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012および脈拍数に対する影響も少ないことが確認できた.以上のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降作用と安全性に関する検討結果から,わが国における原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するブリモニジンPurite製剤の至適濃度は0.1%が妥当と判断した.謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal;TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:CIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20013)RobinAL:Theroleofapraclonidinehydrochlorideinlasertherapyforglaucoma.TransAmOphthalmolSoc87:729-761,19894)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19975)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine.Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,19956)AraujoSV,BondJB,WilsonRPetal:Longtermeffectofapraclonidine.BrJOphthalmol79:1098-1101,19957)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19998)LeeDA:Efficacyofbrimonidineasreplacementtherapyinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinTher22:53-65,20009)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)SchumanJS,BrimonidineStudyGroups1and2:Effectsofsystemicbeta-blockertherapyontheefficacyandsafetyoftopicalbrimonidineandtimolol.Ophthalmology107:1171-1177,200011)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199412)北澤克明:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-5070.5%点眼液の第III相比較試験─0.25%マレイン酸チモロール点眼液との多施設共同群間比較試験.眼紀45:1023-1033,199413)北澤克明,三嶋弘,阿部春樹ほか:原発開放隅角緑内障(134) 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緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1281.1285,2012c緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野水木健二*1,2山崎芳夫*1早水扶公子*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2春日部市立病院眼科DailyLivingDisabilityandBinocularVisualFieldExaminationinPatientswithGlaucomaKenjiMizuki1,2),YoshioYamazaki1)andFukukoHayamizu1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KasukabeCityHospital目的:緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野との関係を検討する.対象および方法:重度視野障害を有する緑内障患者46例に対し,30項目からなる日常生活困難度の調査を行い,スコアを求めた.Humphreyfieldanalyser(HFA)のEsterman両眼開放視野を測定しEstermanスコアを算出した.同様に中心24-2プログラムと中心10-2プログラムを行い,bestlocationmodelにより両眼加算視野を作成し,平均totaldeviation(TD)を求めた.結果:日常生活困難度スコアとEstermanスコアとのSpearman順位相関係数はr2=0.124(p=0.017),HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.171(p=0.004),HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.242(p=0.001)であった.結論:重度視野障害を有する緑内障の日常生活困難度には中心10°以内の視野障害が影響する.Purpose:Toevaluatetherelationshipbetweendailylivingdisabilityandbinocularvisualfieldexaminationinpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Weexamined46patientswithglaucomawithseverevisualfielddefects.Dailylivingdisabilitywasassessedusingaquestionnaireconsistingof30questions.ThebinocularEster-manvisualfieldtestwasperformedwithaHumphreyfieldanalyzer(HFA).Thebinocularcompositionvisualfieldsofcentral24-2andcentral10-2fieldsofHFAwerecalculatedusingthosemonocularvisualfieldsaccordingtothebestlocationmodel.Therelationshipamongdailylivingdisabilityscore,Estermanscore,andmeantotaldeviation(mTD)ofbinocularcompositionvisualfields.Results:ThedailylivingdisabilityscorewassignificantlycorrelatedtotheEstermanscore(r2=0.124,p=0.017),mTDofbinocularcompositioncentral24-2field(r2=0.171,p=0.004),andcentral10-2fields(r2=0.242,p=0.001).Conclusions:Theseresultssuggestthatvisualfielddamagewithincentral10-degreesstronglyaffecteddailylivinginpatientswithsevereglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1281.1285,2012〕Keywords:緑内障,日常生活困難度,Esterman視野,両眼加算視野,Humphrey視野計.glaucoma,dialylivingdisability,Estermanvisualfield,binocularcompositionvisualfield,Humphreyfieldanalyzer.はじめに緑内障は適切に治療されなければ失明に至る重篤な視機能障害をもたらす疾患である.平成17年度厚生労働省難治性疾患研究報告書「網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究」1)において,緑内障が視覚障害の原因の第1位を占めることが明らかにされている.平成7年の身体障害者福祉法改正により視力障害認定基準に視野障害の重み付けが増し,視覚障害者に占める緑内障患者数は急増している2).同時に,身体障害者のqualityoflife(QOL)の改善を目的とする調査が行われるようになり,緑内障患者については日常生活活動困難度に影響する視野障害重症度の評価が求められている.Estermanが考案した両眼開放視野は片眼ずつの視野検査よりQOLと相関があることが報告され3),その後,Crabbらにより自動視野計の静的閾値検査結果の左右眼を重ね合わせた両眼加算視野が提唱されている4)が,緑内障患者のQOLの評価について,両眼視野の検査法別の比較検討の報告はない.今回,筆者らは緑内障患者を対象にQOLアンケートを行うとともに,両眼開放視野と両眼加算視野の関連について検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕山崎芳夫:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YoshioYamazaki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchikami-machi,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)1281 I対象および方法対象は,日本大学医学部附属板橋病院にて経過観察中の緑内障患者から,本研究参加に書面で同意が得られた視野障害重度の後期緑内障患者46例である.症例の選択基準は,①少なくとも1眼がHumphreyfieldanalyser(HFA,Zeiss,Dublin,CA,USA)中心24-2プログラム(HFA24-2)のmeandeviation(MD)が.20decibel(dB)以下,②矯正視力が両眼とも0.5以上(対数視力0.57以下),③眼位異常も含め緑内障以外の視野に影響を及ぼす眼疾患のないもの,とした.対象の年齢は65±11歳(平均±標準偏差),レンジは39.85歳,男性39例,女性7例である.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(狭義)が28例,正常眼圧緑内障が13例,.性緑内障が2例,発達緑内障が2例,続発緑内障が1例で表1日常生活困難度質問項目1020304070506080図1Esterman両眼開放視野の検査点Ⅰ文字の読み書きについて1新聞の見出しの大きい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める2新聞の細かい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める3辞書の細かい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める4電話帳はひけますかひけない・ひきづらい・ひける5電車の料金表は見えますか見えない・見づらい・見えるⅡ文章の読み書きについて6文章の読み書きに不自由を感じますかよく感じる・時々感じる・感じない7縦書きの文章を書くと曲がることがありますかよくある・時々ある・ない8文章を一行読んだ後,次の行がすぐ見つかりますか見つからない・見つけづらい・見つかるⅢ家の近所の外出について9一人で散歩はできますかできない・しづらい・できる10見づらくて歩きづらいことがありますかよくある・時々ある・ない11信号を見落とすことはありますかよくある・時々ある・ない12歩行中,人やものにぶつかることがありますかよくある・時々ある・ない13階段につまづくことはありますかよくある・時々ある・ない14段差に気づかないことはありますかよくある・時々ある・ない15知人とすれ違っても,相手から声をかけられていないとわからないことはありますかよくある・時々ある・ない16人や走行中の車が脇から近づいてくるのが見えないことがありますかよくある・時々ある・ないⅣ交通機関(電車,バス,タクシー)を利用した外出について17見づらくて外出に不自由を感じることはありますかよくある・時々ある・ない18知らない所へ外出する時,付き添いが必要ですか必要・いたほうがいい・必要ない19タクシーは拾えますか拾えない・拾いづらい・拾える20電車やバスでの移動に不自由を感じますかよく感じる・時々感じる・感じない21夜間の外出は見づらくて不安を感じますかよく感じる・時々感じる・感じないⅤ食事について22見づらくて食事に不自由を感じることはありますかよく感じる・時々感じる・感じない23見づらくて食べこぼしてしまうことがありますかよくある・時々ある・ない24お茶を注ぐとき,こぼしてしまうことがありますかよくある・時々ある・ない25おはしでおかずをつかみ損ねることがありますかよくある・時々ある・ないⅥ整容について26下着の表と裏を間違えることはありますかよくある・時々ある・ない27鏡で自分の顔は見えますか見えない・見づらい・見えるⅦその他28テレビは見えますか見えない・見づらい・見える29床に落とした物を探すのに苦労することがありますかよくある・時々ある・ない30電話に顔を近づけないとかけづらいことがありますかよくある・時々ある・ない1282あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(106) あった.視野検査はHFAを用い,両眼開放下でEsterman両眼開放視野を行った後,HFA24-2とHFA中心10-2プログラム(HFA10-2)を片眼ずつ施行した.Esterman両眼開放視野は,図1に示すように日常生活上重要な視野領域に重み付けを行い,下方,中心,赤道経線上により多くの検査点が配置されており,左右80°,上方50°,下方70°の範囲に合計120点の測定点からなる3).HFAには両眼同時測定用の矯正レンズ枠がないため,Esterman両眼開放視野検査は色付きレンズを除き,日常装用している多焦点,もしくは単焦点レンズを眼鏡装用下で行った.測定条件は,刺激視標サイズはGoldmannIII,刺激輝度は10dBの単一輝度である.反応がなかった点を再度刺激し,2回目で反応がない点を暗点と判定した.120点の測定点に対して反応があった点の数を百分率表示しEstermanスコアとした.HFA24-2とHFA10-2は近方視力完全矯正下で右眼,左眼の順に測定した.測定条件は,刺激視標サイズはGoldmannIII,検査ストラテジはSwedishInteractiveThresholdAlgorithm(SITA)-Standard(SITA-standard)を用い,測定点の感度閾値を求めた.HFA24-2は中心視野30°以内に測定点54点,HFA10-2は中心視野10°以内に測定点68点の左右眼の対応する感度閾値を比較し,良好な感度閾値を各測定点の感度閾値と定義し(bestlocationmodel),両眼加算視野を作成した4).両眼加算視野の測定点はHFA24-2は左右眼で重複しない2点を除外した52点,HFA10-2では全点が対応し68点である.両眼加算視野の評価は各測定点のtotaldeviation(TD)から,患者ごとに平均TDを算出した.日常生活活動困難度のアンケート調査はSumiら5)の考案した生活不自由度問診表を用いた.質問項目は文字・文章の読み書き,近所の歩行外出,交通機関の利用,食事,着衣・整容,その他の7項目30問で構成され(表1),各問について不自由度に応じて「支障なし」を0点,「やや困難」を1QOLスコア項目(満点)文字の読み書き(10)文章の読み書き(6)近所の外出歩行(16)図2QOLスコア交通機関の利用(10)項目別分布食事(8)整容(4)その他(6)点,「困難」を2点とした3段階に点数化し,QOLスコアとした.すなわち,全項目で支障なしは0点,すべて困難の場合は60点である.QOLスコアとEstermanスコア,HFA24-2およびHFA10-2の両眼加算視野の平均TDについて,Spearman順位相関係数を求め,緑内障患者のQOLと両眼視野の検査法別の関係について検討した.また,対数視力両眼和についても同様の検討を行った.本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究委員会の承認を得て実施した.II結果全患者46例のQOLスコア値は9±9点(0.34点)であった.QOLスコアの項目別分布を図2に示す.項目別には近所の外出歩行の不自由度の訴えが最も多く,ついで文章の読み書き,文字の読み書きの順であった.Estermanスコアは79±17点(29.97),両眼加算視野の平均TDは,HFA24-2が.14.8±7.3dB(.27.8.0.2),HFA10-2が.13.2±8.0dB(.31.5.0.9)であった.対数視力両眼和は0.16±0.41(.0.24.1.16)であった.QOLスコアと各両眼視野検査結果との相関関係を図3に示す.Estermanスコアはr2=0.124(p=0.017)(図3a)HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.171(p=0.004)(,)(図3b),HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.242(p=0.001)(図3c)であった.QOLスコアの項目別の相関関係は,Estermanスコアは近所の歩行外出(r2=0.121,p=0.018),食事(r2=0.120,p=0.018)の2項目と有意な相関があった.HFA24-2両眼加算視野の平均TDは,文字の読み書き(r2=0.112,p=0.023),近所の歩行外出(r2=0.167,p=0.005),食事(r2=0.149,p=0.008),その他(r2=0.155,p=0.007)の4項目と有意な相関を示した.HFA10-2両眼加算視野の平均TDは文字の読み書き(r2=0.166,p=0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%項目別スコア::0点■:1点■:2点■:3点■:4点■:5点■:6点■:8点■:9点■:10点■:12点(107)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121283 a:Esterman両眼開放視野605040302010060504030201006050403020100-30.0-20.0-10.00HFA10-2両眼加算視野平均TD(dB)Estermanスコア(点)r2=0.124p=0.017n=46c:HFA10-2両眼加算視野020406080100HFA24-2両眼加算視野平均TD(dB)r2=0.171p=0.004n=46-30.0-20.0-10.00r2=0.242p=0.001n=46b:HFA24-2両眼加算視野図3QOLスコアと各両眼視野結果との相関関係r2:Spearman順位相関係数,p:有意水準.0.005),近所の歩行外出(r2=0.195,p=0.002),交通機関の利用(r2=0.225,p=0.001),食事(r2=0.194,p=0.002),その他(r2=0.329,p=0.000)の5項目と有意な相関を認めた(表2).対数視力両眼和とQOLスコアとの有意な相関はなかった(r2=0.069,p=0.083).対数視力両眼和と各両眼視野検査結果との相関関係は,Estermanスコアがr2=0.002(p=0.742),HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.019(p=0.370)HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.147(p=0.009)(,)であった.1284あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012QOLスコア(点)QOLスコア(点)QOLスコア(点)表2QOLスコア項目と両眼視野検査結果の相関EstermanスコアHFA24-2両眼加算視野平均TDHFA10-2両眼加算視野平均TD文字の読み書き文章の読み書き近所の歩行外出交通機関の利用食事整容その他0.078(0.060)0.029(0.255)0.121(0.018)0.067(0.084)0.120(0.018)0.018(0.378)0.029(0.260)0.112(0.112)0.028(0.266)0.167(0.005)0.058(0.107)0.149(0.008)0.028(0.264)0.155(0.007)0.166(0.166)0.056(0.113)0.195(0.002)0.225(0.001)0.194(0.002)0.073(0.069)0.329(0.000)Spearman順位相関係数:r2(有意水準).なお,質問票の信頼性と妥当性について算出したCronbacha係数は0.937であった.III考按わが国の身体障害者に対する福祉行政は,昭和24年に制定,翌年に施行された身体障害者福祉法に始まる.同法の視覚障害認定基準は視力障害を中心に定められていたが,平成7年の法改正より,中心視野障害が日常生活活動において重要な役割をもつことから視能率の概念が認定基準に導入された.同時に法改正により,身体障害者のQOLの改善を目的に日常生活活動の調査が行われるようになり,緑内障患者については日常生活活動困難度に影響する視野障害重症度の評価が注目されている.しかし,同法の認定基準はGoldmann動的視野計を用いた単眼視野を基本とし,現在眼科臨床の視野検査の汎用機である静的自動視野計ではない.そこで,HFAを用いた両眼視野と日常生活困難度について検討した.今回の結果では,緑内障患者のQOLスコアとの関係はHFA10-2の両眼加算視野の平均TDが最も相関が強く,ついでHFA24-2の両眼加算視野の平均TDで,Esterman両眼開放視野スコアは有意な相関を示すが関係は弱いことが示された.また,QOL質問票の項目別スコアとの関係はHFA10-2の両眼加算視野平均TDが5項目,HFA24-2の両眼加算視野平均TDは4項目,Esterman両眼開放視野スコアは2項目であり,本研究で用いたQOLアンケートでは,中心視野10°以内の障害が緑内障患者の日常生活困難度に影響を及ぼしていることが明らかとなった.藤田ら6)は緑内障患者多数例を対象に10項目のQOL質問とEsterman両眼開放視野を行い,本結果と比較して良好な相関関係を示し,その有用性を述べている.しかし,その対象には視力不良者や視野不良者が多数含まれている.本研究(108) では静的視野検査を施行するため,中心固視が困難な視力不良者は含まれていない.したがって,対象となる患者集団の臨床背景によりQOLスコアと各両眼視野検査の結果との相関は異なると思われる.また,同様に対数視力両眼和とQOLスコアとの間に有意な相関はなかった.山縣ら7)は,Goldmann視野計を用いたEsterman両眼開放視野は視野障害者の移動や歩行の困難度の評価に適すると報告し,藤田ら6)もEstermanスコアは屋内行動よりも屋外行動との相関が強いと述べている.本研究結果でもEstermanスコアと歩行困難度は有意な相関を示しており,周辺視野の狭窄は移動や歩行に大きく影響することが確認された.両眼加算視野ではHFA10-2の平均TDがHFA24-2の平均TDよりもQOLスコアとの相関係数が高く,Sumiら5)の報告と同様に,中心視野障害が緑内障患者のQOLと強い関係があることが明らかとなった.視野内の部位と機能的役割については,明確にされておらず推測の域を出ないが,文字や文章の読み書き,食事など屋内での日常活動には中心視野が重要な役割をもち,屋外の行動には中心と周辺を含めた視野全体が関与すると思われる.両眼視野は左右眼の視野を重ね合わせることにより単眼よりも視野が広がると同時に,各眼共通の視野で重なり合う部位は,両眼相互作用の働きであるbinocularsummationにより単眼視よりも網膜感度が増強されることが知られている.Nelson-Quiggら8)は,両眼視感度閾値(binocularsensitivity:BS)について右眼感度閾値(SR)と左眼感度閾値(SL)との間に(BS)2=(SR)2+(SL)2の関係が成立すると仮定したbinocularsummationmodelを構築し,本研究で用いたbestlocationmodelによる両眼加算視野と実測値を比較し,binocularsummationmodelのほうがbestlocationmodelよりも優れているが,両モデル間に有意差はなく,ともに実測値ときわめて近似すると述べている.しかし,binocularsummationの働きは,正常眼や緑内障以外の視野障害例では認めるものの,緑内障眼では成立しないことが報告9,10)されており,緑内障患者についての両眼加重視野の評価は今後の検討課題である.身体障害者福祉法改正により導入された視能率は動的視野の45°ごとの8経線の角度を合計し正常角度の合計で除して算出される.日常生活にとって重要な中心視野や下方視野に比重がおかれていないため,生活不自由度との乖離が指摘されている7).今後,重度の視野障害患者の適切なQOL評価に向け,自動視野計を用いた両眼視野と日常生活困難度との関係について詳細な検討が必要である.文献1)中江公裕,小暮文雄,増田寛次郎ほか:日本における視覚障害の現況.網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究.平成17年度厚生労働省難治性疾患研究報告書,p263-267,20062)平成18年身体障害児・者実態調査結果.厚生労働省,20073)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19824)CrabbDP,ViswanathanAC,McNaughtAIetal:Simulatingbinocularvisualfieldstatusinglaucoma.BrJOphthalmol82:1236-1241,19985)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualfielddisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20036)藤田京子,安田典子,中元兼二ほか:緑内障患者における日常生活困難度と両眼開放視野.日眼会誌112:447-450,20087)山縣祥隆,寺田木綿子,鈴木温ほか:視野障害患者の移動困難度評価におけるEstermandisabilityscoreの有用性に関する臨床統計学的研究.日眼会誌114:14-22,20108)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,20009)CalabriaG,CaprisP,BurtoloC:Investigationsofspacebehaviorofglaucomatouspeoplewithextensivevisualfieldloss.DocOphthalmolProSer35:205-210,198310)MillsRP,DranceSM:Estermandiabilityratinginsevereglaucoma.Ophthalmology93:371-378,1986***(109)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121285

緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey 視野計の視野指標との相関

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1127.1130,2012c緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey視野計の視野指標との相関加藤紗矢香*1浅川賢*2庄司信行*1,2森田哲也*1永野幸一*1山口純*1清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CorrelationbetweenOpticDiscParametersObtainedUsingStereoFundusImagingandVisualFieldIndexofHumphreyFieldAnalyzerinGlaucomatousEyesSayakaKato1),KenAsakawa2),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita1),KouichiNagano1),JunYamaguchi1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityNonmydWX(Kowa社製)を用いた立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータ(discパラメータ)とHumphrey視野計による視野指標との相関を検討した.対象は緑内障患者58例58眼(平均年齢61歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.NonmydWXにて眼底写真撮影後,discの外縁と陥凹(cup)の範囲を立体視下で決定し,discパラメータを得た.また,HumphreyFieldAnalyzerにて得られた視野障害の程度を,Hodapp-Anderson-Parrish分類を用いて早期,中期,後期に分類し,病期別にdiscパラメータとmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関を求めた.結果,PSD値はすべてのパラメータで相関がみられなかったが,MD値およびTD値は中期および後期においてdiscパラメータと相関し,特に垂直C/D(cup/disc)比,rimarea,areaR/D(rim/disc)比,上下rim幅が視野障害を反映していた.NonmydWXは,視神経乳頭の記録だけでなく形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.Weevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersobtainedusinganewlydevelopedfundusstereoscopiccamera(NonmydWX;KowaOptimed,Inc.)andthevisualfieldindexoftheHumphreyFieldAnalyzer.Thisstudyexamined58glaucomatouseyes(58glaucomapatients;meanage:61years),comprising30eyeswithprimaryopenangleglaucomaand28eyeswithnormaltensionglaucoma.Afterphotographing,theexaminer,usingpolarizedfilters,stereoscopicallyobservedtheopticdiscoutlinedisplayedonamonitor;thediscdiagnosticparameterswerethenobtained.Weclassifiedtheglaucomainto3stages(early,moderate,andsevere),usingtheHodapp-Anderson-Parrishscale,andevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersandmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD)andtotaldeviation(TD),respectively.MDandTDshowedhighormoderatecorrelationinmoderateandsevereglaucomatousstages,whilePSDshowednocorrelationinanystage.Particularlygoodcorrelationwasseenonlywithverticalcup-to-discratio,rimarea,arearim-to-discratio,upperrimwidthandlowerrimwidth.OurresultsindicatethatNonmydWXisusefulnotonlyfordiscrecords,butalsofordiscquantitativeanalysisinglaucomaclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1127.1130,2012〕Keywords:立体眼底写真,視神経乳頭,パラメータ,緑内障.stereofundusimaging,opticdisc,parameter,glaucoma.〔別刷請求先〕加藤紗矢香:〒252-0329相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SayakaKato,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0329,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)1127 はじめに緑内障の構造変化と機能変化の関係は,網膜神経節細胞が30.50%障害されないと視野異常を生じず,視神経の変化は視野異常よりも先行する1).したがって,現在の視野検査という機能障害評価法のみでは,緑内障の検出が遅れるという問題点がある.すなわち,緑内障の診断や経過観察には,視神経乳頭(以下,disc)や神経線維層の変化が重要であり,その詳細な観察や形状を記録することが重要である.近年では光干渉断層計(OCT)や共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRT)などの画像解析装置の進歩とともに視神経乳頭形状解析の自動化が進んでおり,解析ソフトも多数開発されている2,3).しかし,測定機器の再現性や検者間での測定誤差,緑内障検出力など,画像解析装置による解析より,緑内障専門医による眼底写真の読影のほうが有用であるといわれている4).緑内障診療における視神経乳頭形状変化の観察で最も重要となるものにcupの拡大や辺縁部(以下,rim)幅の減少があるが,これらは眼底が立体的であることから,より正確な形状の観察には平面画像ではなく立体画像を使用する必要がある.わが国における緑内障診療ガイドラインにおいても眼底写真による乳頭形状の観察は立体眼底写真の使用を推奨されている5).その一方で立体画像は定性的な解析は可能でも,定量的な解析は困難であり,主観的な解釈が中心になるという欠点があった.これに対し,近年開発された新しい立体眼底カメラであるNonmydWX(Kowa社製,名古屋)は,無散瞳にて同一光学系による2方向の光路から左右視差画像の同時撮影が可能であり,乳頭形状パラメータが定量的に解析可能である.今回,NonmydWXを用いた立体眼底写真によるdiscの解析パラメータとHumphrey視野計(HFA)のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関から解析パラメータの有用性を検討した.I対象および方法北里大学病院緑内障専門外来を受診した緑内障患者58例58眼(男性29眼,女性29眼)を対象とした.年齢は33.表2症例の背景早期中期後期症例数10例10眼12例12眼36例36眼年齢(歳)等価球面値(D)MD(dB)PSD(dB)上半視野TD値66±14.0.88±2.94.1.17±0.584.61±2.78.2.33±1.2659±10.3.29±3.97.3.20±0.897.28±3.07.3.28±2.2861±15.2.82±3.12.15.62±7.3312.42±3.05.16.16±8.54下半視野TD値.2.78±1.97.4.76±2.69.14.26±9.26MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,TD:totaldeviation.80歳(61±14歳)であり,病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.HFA30-2SITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)standardprogramにて得られた視野障害の程度を,HodappAnderson-Parrish分類(表1)を用いて早期,中期,後期に分類した(表2)..6Dを超える強度近視,固視不良20%以上,偽陽性15%以上,偽陰性33%以上の症例は対象に含めなかった.研究の主旨に関して十分な説明を行い,承諾を得た後に以下の測定を行った.眼底写真の撮影にはNonmydWXを用いた.NonmydWXは,1ショットで視神経乳頭の同時立体撮影ができ,偏光眼鏡を用いることで立体眼底観察が可能な眼底カメラである.また,視差が一定で眼底の形状変化を経時的に把握でき,長期にわたる経過観察に有用である.眼底写真撮影後,得られた両眼視差の付いた左右眼2枚の画像を1枚に重ね合わせ,付属の偏光眼鏡装用下にて解析を行った.まず画面に表示されたdiscの外縁をコンピュータのマウスでプロットし,その後,血管の屈曲を基準としてcupの外縁をプロットした.この操作により,discとcupの範囲が決定され,これをもとに視神経乳頭解析パラメータ(以下,discパラメータ)が算出される.これらのプロットは1人の検者(SK)が行った.なお,本機器の再現性や検者間の一致性に関してはあらかじめ確認している6).得られたdiscパラメータとMD値,PSD値との相関を早期,中期,表1Hodapp.Anderson.Parrish分類(C-30-2の場合)早期*中期後期**MD.6dB以上.12dB未満PD確率プロット中心5°以内の感度<5%18点未満かつ<1%10点未満・<15dBがない早期の基準を1つ以上越え,後期の基準を満たさない<5%38点以上または<1%20点以上・0dBが1点以上・<15dBが上下にあるMD:meandeviation,PD:patterndeviation.*早期は3つすべての基準を満たしたものを定義する.**後期は1つ以上基準を満たしたものを定義する.1128あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(102) 後期の病期別に求めた.TD値は上半視野,下半視野に分けて,部位別に比較が可能なため,discパラメータの中の上下rim幅の値との相関を,それぞれ検討した.相関はPearson積率相関係数にて解析し,有意水準は5%未満とした.II結果HFAのMD値とdiscパラメータは,早期ではいずれも有意な相関がみられなかった.中期では垂直C/D(cup/disc)表3MD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.020.95.0.680.01.0.500.01上側rim幅0.300.400.620.030.430.01下側rim幅.0.260.470.640.030.430.01Cuparea.0.070.84.0.060.860.030.87Discarea.0.220.550.410.190.190.27Rimarea.0.290.410.620.030.350.04AreaC/D比0.370.29.0.610.04.0.310.06AreaR/D比.0.370.290.620.030.310.06Cupvolume0.080.83.0.270.400.160.36Discvolume.0.010.97.0.020.940.320.06Rimvolume.0.250.49.0.050.870.300.08CupdepthAve0.140.70.0.300.350.060.74Cupdepthmax.0.020.96.0.280.38.0.040.81Discdepth.0.360.31.0.270.40.0.150.40表4PSD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.330.350.340.280.100.57上側rim幅.0.520.12.0.230.46.0.050.77下側rim幅0.100.78.0.330.29.0.190.27Cuparea.0.130.720.310.32.0.040.80Discarea0.080.840.010.96.0.120.47Rimarea0.210.56.0.220.48.0.180.28AreaC/D比.0.490.150.340.290.050.76AreaR/D比0.490.15.0.340.27.0.050.76Cupvolume0.120.740.210.500.020.93Discvolume0.280.43.0.030.930.090.61Rimvolume0.340.330.060.850.050.77Cupdepthave0.070.840.150.640.070.67Cupdepthmax0.350.320.120.700.120.49Discdepth0.200.580.080.800.000.98表5上下rim幅とTD値との相関早期中期後期rp値rp値rp値下側rim幅-上半視野上側rim幅-下半視野0.460.060.190.860.670.490.020.130.550.410.0010.01(103)比(r=.0.68,p=0.01),上側rim幅(r=0.62,p=0.03),下側rim幅(r=0.64,p=0.03)rimarea(r=0.62,p=0.03),areaC/D比(r=.0.61,p=0.04(,)),areaR/D(rim/disc)比(r=0.62,p=0.03)との間に有意な相関があり,後期では垂直C/D比(r=.0.50,p=0.01),上側rim幅(r=0.43,p=0.01),下側rim幅(r=0.43,p=0.01),rimarea(r=0.35,p=0.04)にて有意な相関がみられた(表3).PSD値ではいずれの病期別でもすべてのdiscパラメータにおいて相関はみられなかった(表4).上下rim幅と上下半視野のTD値との相関では,中期の下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.67,p=0.02),後期は上側rim幅と下半視野のTD値(r=0.41,p=0.01),下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.55,p=0.001)に有意な相関が得られた(表5).III考按本研究ではNonmydWXのdiscパラメータとHFAのMD値,PSD値,TD値との相関を早期,中期,後期の病期別に求めることで,discパラメータの有用性を検討した.その結果,得られたdiscパラメータは早期では相関せず,中期,後期において相関した.本機器における検者内の再現性については,volumeのパラメータが他と比べてやや低いとされている.検者間の一致性については,検者が正確なdiscとcupの定義を把握していることが前提であるが,cupが浅い症例や早期の症例などでは経験に依存するとされている6).しかし,本研究の結果は,得られたdiscパラメータの再現性の問題よりは緑内障の病態によるものと考えられる.すなわち,緑内障はHFAにて視野異常が検出された場合,約40%の神経線維が消失されており,早期は視野変化よりも構造変化が先行する1,7)といわれており,今回の結果でも乳頭形状と視野異常の程度とは必ずしも対応していなかったと考えられる.一方,中期,後期においてはdiscパラメータと視野は相関した.現在使用されている眼底画像解析装置として,HRTやOCTなどがあげられ,それぞれのパラメータとHFAのMD値との相関を検討した報告をみると,Saitoら8)によればHRTIIのrimareaとR/D比において,Danesh-Meyerらの報告9)ではrimarea,rimvolume,RNFL(retinalnervefiberlayer)cross-sectionalarea,垂直C/D比,meanRNFLthickness,areaC/D比,areaR/D比において,さらに,柳川らの報告10)ではcuparea,rimarea,cupvolume,rimvolume,areaC/D比,linearC/D比,meancupdepth,cupshapemeasure,meanRNFLthickness,RNFLcrosssectionalareaにおいて相関がみられていた.OCTはKangら11)がdeviationscoreと有意な相関を示していたと報告している.本機器に類似した立体眼底カメラではrimarea,R/D比,垂直C/D比にて有意な相関を示したと報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121129 いる8).これらの既報を踏まえると,垂直C/D比,rimarea,areaR/D比が本結果と一致しており,NonmydWXによる立体画像解析では,これらのdiscパラメータが視野障害を反映していると考えられる.さらに,本機器では従来機器にはない上側rim幅と下側rim幅のパラメータが備わっており,上下rim幅を部位別に評価するため,上半視野,下半視野に分けたTD値と上下rim幅の値との相関をそれぞれ検討すると,中期の下側rim幅と上半視野のTD値,後期は上下ともに有意な相関が得られた.中期において上半視野のみ相関がみられたのは,網膜神経線維層厚は下方が薄い12)という形態的な差異があるためではないかと考えられる.そのため本装置で採用された上下rim幅は視野障害を反映するパラメータになりうる可能性が考えられる.一方で上記HRTの報告8.10)と比較すると,NonmydWXでは相関したdiscパラメータが少なかったが,これは両機器の撮影原理の違いとともに,cupの定義が異なることも一つの要因と考えられた.すなわち,立体眼底カメラではdiscとcupを検者が偏光眼鏡装用下で三次元的に決定するが,HRTではdiscのcontourlineを決定すると,そのcontourlineの平均値から50μm下方に基準面が自動的に作成され,その基準面の下方がcupとして決定される.検者がcupも決めるNonmydWXのほうが,従来の緑内障診療におけるcupの解釈(すなわち血管の屈曲に基づく判断)に近く,緑内障診断能力が画像解析装置より緑内障専門医による眼底写真の読影が有用である4)ことを踏まえると,立体眼底カメラであるNonmydWXは緑内障診療において有用な診断補助装置であると考えられる.さらに本研究において筆者らは,NonmydWXを用いてdiscパラメータと視野指標との相関を検討した.中期および後期においてdiscと視野のパラメータが相関し,特に垂直C/D比,rimarea,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映していた.Tsutsumiら13)によると40歳以上の非緑内障群に対して大規模スタディを行った結果,垂直C/D比とR/D比によって緑内障性視野異常の早期変化を捉えられる可能性があると報告している.緑内障ガイドラインによれば,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,discの上側,下側あるいは両側でrimの進行性の菲薄化が生じ,視野障害をきたすとされている.このことからも本検討では垂直C/D比,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映しており,これらは早期の構造変化を反映するパラメータになりうると考えられる.したがってNonmydWXは,視神経乳頭の記録のみならず形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.1130あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HarwerthRS,Carter-DawsonL,ShenFetal:Ganglioncelllossesunderlyingvisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2242-2250,19992)KimHG,HeoH,ParkSW:Comparisonofscanninglaserpolarimetryandopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.OptomVisSci88:124-129,20113)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeffectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergretinatomograph.Ophthalmology104:545-548,19974)VessaniRM,MoritzR,BatisLetal:Comparisonofquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessmentbygeneralophthalmologiststodifferentiatenormalfromglaucomatouseyes.JGlaucoma18:253261,20095)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20126)AsakawaK,KatoS,ShojiNetal:Evaluationofopticnerveheadusinganewlydevelopedstereoretinalimagingtechniquebyglaucomaspecialistandnon-expertcertifiedorthoptist.JGlaucoma,inpress7)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453464,19898)SaitoH,TsutsumiT,IwaseAetal:CorrelationofdiscmorphologyquantifiedonstereophotographstoresultsbyHeidelbergRetinaTomographII,GDxvariablecornealcompensation,andvisualfieldtests.Ophthalmology117:282-289,20109)Danesh-MeyerHV,KuJY,PapchenkoTLetal:Regionalcorrelationofstructureandfunctioninglaucoma,usingtheDiscDamageLikelihoodScale,HeidelbergRetinaTomograph,andvisualfields.Ophthalmology113:603611,200610)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,200511)KangSY,SungKR,NaJHetal:ComparisonbetweendeviationmapalgorithmandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsusingcirrusHD-OCTinthedetectionoflocalizedglaucomatousvisualfielddefects.JGlaucoma21:372-378,201212)HarrisA,IshiiY,ChungHSetal:Bloodflowperunitretinalnervefibertissuevolumeislowerinthehumaninferiorretina.BrJOphthalmol87:184-188,200313)TsutsumiT,TomidokoroA,AraieMetal:Planimetricallydeterminedverticalcup/discandrimwidth/discdiameterratiosandrelatedfactors.InvestOphthalmolVisSci53:1332-1340,2012(104)

緑内障患者における自動車運転実態調査

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1013.1017,2012c緑内障患者における自動車運転実態調査青木由紀国松志保原岳川島秀俊自治医科大学眼科学教室FactualSurveyofMotorVehicleDrivingbyGlaucomaPatientsYukiAoki,ShihoKunimatsu-Sanuki,TakeshiHaraandHidetoshiKawashimaDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity目的:緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.対象および方法:自治医科大学附属病院緑内障外来受診中の初期,中期,後期の緑内障患者各29名を対象とし,各群に対して自動車運転に関する質問を行い,各群間の年齢,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,運転時間,事故率を比較した.つぎに後期緑内障患者36名を事故歴のあるもの(事故群)とないもの(無事故群)に分類し,年齢,運転歴,運転時間,視力,視野検査結果の比較を行った.結果:初期・中期・後期群間の比較では後期群で有意に事故が多かった(p=0.0003).後期群における事故群と無事故群の比較では事故群で視力不良眼の視力が有意に悪く(p=0.0002),視野不良眼のMD値が有意に低かった(p=0.02).また,Goldmann両眼視野立体角の比較ではV/4視標における60°以内および30°以内の上半視野,下半視野で事故群が有意に狭かった(p=0.02.0.03).結論:視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.Objective:Toinvestigatetherelationshipbetweentypeofvisualfielddefectandfrequencyofmotorvehicleaccidentsinglaucomapatients.SubjectsandMethods:Chosenforthisstudywere29patientsofvariousglaucomastages(early,intermediateandadvanced).Weexaminedage,historyofaccidentsandmeandeviation(MD)viaHumphreyFieldAnalyzer(HFA).Additionally,patientsinadvancedstageweredividedintotwogroups:thosewithaccidenthistoryandthosewithout.Wethencomparedage,drivingrecord,actualhoursspentdriving,visualacuityandvisualfieldastestedbyHFAandGoldmannperimeter.Result:Patientswithadvancedglaucomacommittedsignificantlymoretrafficaccidentsthantheothertwogroups.Intheadvancedpatients,thosewithaccidenthistoryhadworsevisualacuityanddecreasedMDvaluesinthelessereye,aswellasmorerestrictedvisualfieldsinbothupperandlowerhemifields.Conclusions:Themorethevisualfieldlossprogressed,thegreaterthenumberofaccidentsthepatientsexperienced.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1013.1017,2012〕Keywords:緑内障,緑内障性視野障害,自動車運転,自動車事故,両眼視野.glaucoma,glaucomatousvisualfieldloss,driving,motorvehicleaccident,binocularvisualfield.はじめに公共交通機関に乏しい地方都市では,通勤,通学,買い物などの日常生活に自動車は欠かせない移動手段となっている.そのため地方では,自動車運転に支障をきたす視野障害を認める場合でも,必要に迫られて運転を継続し,安全確認不足が原因と考えられる交通事故を起こしている症例にしばしば遭遇する.しかし,日常臨床の場では医師側が,患者が運転しているかどうかについて知る機会は少ない.また,視野障害と自動車事故との関連を示唆する過去の報告は多いものの1.5),どの程度の視野障害であれば自動車運転に支障をきたさないのか明確な基準はない.筆者らは以前,自治医科大学附属病院(以下,当院)緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例について報告した6).今回筆者らは,緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.〔別刷請求先〕青木由紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)1013 I対象および方法2007年7月から2010年3月までに当院緑内障外来受診中の成人患者,264人中,過去5年間に自動車運転歴のあるもの,良いほうの視力が0.7以上であるもの,緑内障以外の視力および視野障害をきたすと思われる疾患の既往のないものを対象とした.視野障害の分類はAnderson分類に準じて7),Humphrey視野検査中心30-2プログラム(HFA30-2)meandeviation(MD)値で,初期緑内障は両眼ともに.6dB以上(以下,初期群),後期緑内障は両眼ともに.12dB以下(以下,後期群)のものとし,どちらも満たさない場合を中期緑内障(以下,中期群)とした.1.緑内障患者の自動車運転実態調査年齢をマッチングできた初期群,中期群,後期群各29名を対象とした.各群に対して自動車運転に関する質問(運転歴,過去5年間の事故歴,運転時間,運転目的)を行った.また,3群間で年齢,男女比,視力〔logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力〕,Humphrey視野検査MD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,事故率の比較を行った.2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との関連つぎに,後期群36名(平均年齢59.7±9.5歳)を対象とした.過去5年間に事故歴のある群(事故群)と事故歴のない群(無事故群)に分類した.事故群および無事故群において,年齢,運転歴,運転時間,運転目的,logMAR視力,視野検査結果の比較を行った.視野検査結果は下記の項目を比較した.a.Humphrey視野検査両群における視野良好眼および視野不良眼のHFA30-2MD値を比較した.b.Esterman視野生活不自由度を評価するために開発された両眼開放下で行うHFAの視野プログラム8)で,測定時間は正常者で6.8分である.生活不自由度に重要とされる中心30°と下半分の視野に比重がおかれ,点数配分が多くなっている.Estermandisabilitysore(満点は100点)の比較を行った.c.視能率Goldmann視野検査結果I/2視標における8方向の残存視野の角度を両眼それぞれ測定し,合計したものを560°で割り(片眼視能率),優位視能率の75%と非優位視能率の25%の合計を両眼視能率(=視能率)として算出した.d.Goldmann視野検査Goldmann視野検査結果においてV/4とI/4視標の左右眼の結果をそれぞれ重ね合わせて両眼視野を作成し,両群でのV/4,I/4視標における上半視野,下半視野それぞれ60°以内,30°以内における視野を求め,数値にて比較検討するためsteradian法により立体角で表した(図1).立体角とは二次元における角度の概念を三次元に拡張したものであり,全立体角は4psteradian(sr)である.初期群,中期群,後期群の比較についてはFisher’sexacttestおよびSteel-Dwass法による多重比較検定を使用し,正常:21歳,女性無事故群:70歳,男性事故群:51歳,男性Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野V/4I/4V/4I/4V/4I/460°30°60°30°60°30°立体角(sr)立体角(sr)立体角(sr)V/4I/4V/4I/4V/4I/460°以内上1.531.38下1.571.5730°以内上0.420.42下0.420.4260°以内上1.350.48下1.571.0530°以内上0.420.26下0.420.4260°以内上0.220.03下1.521.1230°以内上0.000.00下0.370.35図1正常人・無事故群・事故群における両眼視野および立体角1014あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(138) 表1初期・中期・後期緑内障患者群における背景初期中期後期p値292929年齢((n)歳)56.7±10.257.2±8.358.6±8.2NS男:女14:1520:920:90.17視力良好眼のlogMAR視力.0.06±0.06.0.07±0.02.0.03±0.08>0.05*視力不良眼のlogMAR視力.0.05±0.060.05±0.320.23±0.39<0.05*良いほうのMD値(dB).1.2±2.2.3.4±3.5.18.2±5.6<0.005*悪いほうのMD値(dB).3.6±2.6.13.5±6.3.22.5±5.2<0.001*運転歴(年)33.0±10.033.9±8.631.3±7.9NS運転時間(時間/週)6.4±5.45.6±4.56.4±8.1NS事故あり(%)2(6.9%)0(0%)10(34.5%)0.0003†事故率は後期群で有意に高かった.後期緑内障患者における事故群,無事故群の比較についてはStudent’st-test,Mann-Whitney’sUtestおよびc2検定を用いた.これらの調査については当院倫理委員会の承認のもと(倫理委員会番号:第臨09-12号),各対象者にインフォームド・コンセントを行い,同意を得たのちに行った.II結果1.緑内障患者の自動車運転実態調査緑内障患者の事故率を,年齢をマッチングした病期ごとに調べた結果,各群29名中,過去5年間に事故歴があったのは初期群で2名(6.9%),中期群で0名(0%),後期群で10名(34.5%)と後期群で有意に多かった(p=0.0003).事故の内訳は,初期群は対物事故1件と物損事故1件,後期群は対人事故1件,対物事故9件,物損事故4件(複数回答あり)であった.初期群・中期群・後期群を比較すると男女比は初期,中期,後期でそれぞれ14:15,20:9,20:9と有意差はなく,視力良好眼のlogMAR視力は,各群間に差がなかったが,視力不良眼のlogMAR視力は,後期群で有意に悪かった(p<0.005).運転歴,1週間当たりの運転時間ともに関連後期緑内障患者36名のうち事故群10名,無事故群26名において,年齢,視力良好眼および視力不良眼のlogMAR視力,視野良好眼および視野不良眼のMD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野立体角を比較した結果を表2,3に示す.年齢,運転時間は両群間で差はなかったが,運転歴は無事故群で有意に長かった(p=0.03).視力良好眼のlogMAR視力は両群間において有意差がなく,視力不良眼では事故群が有意にlogMAR視力は悪かった(p=0.0002).視野良好眼のMD値は事故群で.21.8±6.3dB,無事故群で.16.4±3.6dB(139)*Steel-Dwass法.†Fisher’sexacttest.表2後期緑内障患者における事故群,無事故群の背景事故群無事故群p値1026年齢((n)歳)55.9±8.161.1±9.80.11男:女8:218:80.52運転歴(年)28.1±7.636.2±10.20.03†運転時間(時間/週)8.5±9.84.6±6.00.29視力良好眼のlogMAR視力.0.03±0.1.0.03±0.10.80視力不良眼のlogMAR視力0.5±0.50.04±0.10.0002*視野良好眼のMD値(dB).21.8±6.3.16.4±3.60.13視野不良眼のMD値(dB).25.5±4.3.20.7±4.50.02†事故群では視力不良眼のlogMAR視力,視野不良眼のMD値が有意に悪かった.†Student’st-test.*Mann-Whitney’sUtest.表3事故群・無事故群における両眼視野評価方法による比較事故群無事故群p値n1026視能率3.7±2.87.6±4.20.23Estermandisabilityscore72.4±22.484.0±10.70.05上0.82±0.481.22±0.250.02*0.51±0.540.65±0.320.20各群間に有意差はみられなかった(表1).立体角60°1.46±0.161.54±0.080.02*下2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との0.94±0.351.10±0.330.210.24±0.140.36±0.080.03*上段:V/4上0.16±0.150.33±0.130.12下段:I/430°0.34±0.080.39±0.080.02*下0.30±0.120.33±0.120.29視能率,Estermandisabilityscoreにおいては差がなく,Goldman視野検査両眼視野立体角評価においてV/4視標の60°以内,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった.*Mann-Whitney’sUtest.と,両群間に差はなかったが,視野不良眼のMD値はそれぞれ.25.5±4.3dB,.20.7±4.5dBと,事故群のほうが有意に低かった(p=0.02).視能率,Estermandisabilityあたらしい眼科Vol.29,No.7,20121015 scoreの比較では両群間に差はなかった.Goldmann両眼視野立体角はV/4視標における60°以内の上半視野,下半視野,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった(p=0.02,p=0.02,p=0.03,p=0.02)(表3).なお,事故を起こした10名中8名が運転を継続していた.III考按今回筆者らは,緑内障患者における自動車運転実態調査を行った.年齢をマッチングした各群29名の過去5年間で事故を起こした率は初期群6.9%(2名),中期群0%(0名)後期群34.5%(10名)と,後期群で有意に事故率が高かった(,)(表1).視野障害と自動車事故についてOwsleyらが行った55.87歳の高齢運転者179名(事故群78例,無事故群101例)を対象とした調査では,事故群では無事故群と比べて緑内障罹患率が3.6倍であったとしている1).Szlykらは,緑内障患者40名と正常者11名とを比較したところ,過去5年間の事故歴は緑内障患者群で32.5%であり,正常者と比較して有意に事故率が高かったと報告している2).一方で,McGwinらによる緑内障患者群576名と正常群115名の事故率を比較したところ,緑内障群のほうが運転に慎重になるため事故率は低かった(relativerisk0.67)という報告もあり9),視野が狭いほど事故が起きるのかどうか統一した見解は得られていない.また,これらはいずれも海外からの報告であり,免許基準が異なる日本と比較することはできない.わが国での緑内障と自動車事故に関する報告は,筆者らの調べうる範囲ではわずかに1編のみである.Tanabeらは原発開放隅角緑内障患者を視野障害程度によりHFA30-2のMD値が両眼ともに.5dB以上を初期,視野が悪いほうの眼のMD値が.5dBから.10dBまでを中期,また,.10dB以下を後期に分類し,事故率の比較を行った.その結果,初期群で0%,中期群で3.9%,後期群で25%と後期群で有意に事故が多かったと報告している5).視野が狭いほど事故を起こしやすいという可能性を示唆するものだが,後期群ほど高齢であるため加齢の影響により事故が増加していることも考えられる.警察庁交通局による平成21年の原付以上運転者(第1当事者)による運転免許保有者10万人当たり交通事故件数を年齢層別にみると,若者(16.24歳,1,649.3件)が最も多く,ついで25.29歳(1,017.5件),高齢者(75歳以上,987.4件)の順となっている(http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H21mistake.pdf#search).今回筆者らの対象とした33.70歳での1年間の交通事故件数は727.6.770.3件であり,各群29名当たりの5年間での事故件数は平均1件前後となる.今回は,「自動車事故」の対象を,警察に届け出をしない物損事故も含めているため,単純比較はできない1016あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012が,初期群2名,中期群0名が過去5年間に自動車事故を起こした,という数字は,ほぼ,全国の同年代の運転免許保有者の事故率と同等であると考える.しかし,それに比して,後期群の10名(34.5%)は有意に多く,これにより,視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.海外の過去の報告では,対象となる緑内障患者の視野障害度は軽度のものが多く含まれ,両眼ともに高度の視野障害がある緑内障例での検討は皆無であった.国によっては,視野狭窄例では免許更新ができないこともあるが,わが国では両眼ともに視力が良好な場合は,高度の視野狭窄があっても免許取得・更新が十分可能である.Tanabeらの報告では,視野が悪いほうのMDで分類しているため片眼の視野障害が軽度な例が含まれている可能性がある.そのため,両眼の高度の視野狭窄例での検討が必要だと考え,両眼ともにHFA30-2MD値.12dB未満であるものを後期緑内障群として運転調査を行い,事故歴の有無と視野との関連を検討した.その結果,事故群では無事故群に比べて視力不良眼の視力が悪く,視野不良眼のMD値が悪かった.運転は,両眼開放下で行うものの,緑内障患者では,視力不良眼・視野不良眼の状態が,自動車事故に影響を及ぼしている可能性が示唆された.さらに,両眼視野結果である視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野より得られた立体角の3種類で比較を行ったところ,視能率と自動車事故との関連はなかった.視能率は,日常的には視覚障害者の認定のために使用されるが,Goldmann視野検査におけるI/2視標結果から計算される.そのため高度な視野障害のみられる後期緑内障群では,事故群,無事故群ともに値が小さくなり,有意差はみられなかったと考えられる.また,Estermandisabilityscoreでも事故群・無事故群では有意な差はみられなかった.Estermandisabilityscoreは生活不自由度と相関するといわれている10)が,今回,事故群と無事故群で有意差がなかったのは,中心視野を含まない(中心10°内に検査点がない)ことが影響しているかもしれない.Goldmann両眼視野では,事故群においてV/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったが,I/4視標で差がみられなかった.これは,今回の対象が,視野障害が高度な後期緑内障患者であり,I/4視標では,事故群・無事故群ともに狭小化しており,両群に差がでなかったものと考える.同じ後期緑内障群であっても,事故群は,より末期である可能性があり,V/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったことは,後期緑内障群のなかでも,事故群では,さらに視野障害が進行していることを表しているのかもしれない.Goldmann視野検査の,立体角による視野面積の定量化は,過去に馬場らが少数例で行っている11)が,筆者らの,(140) Goldmann視野検査からの両眼視野を作成し,立体角を計算する作業にはかなりの時間を要する.Goldmann視野検査結果から両眼視野を作成し,立体角を計測する方法により,より小さい立体角で事故が起こる可能性が推測できるが,日常臨床の場での判断に利用するには,作業を簡便化するソフトの開発などが必要であろう.今回の研究における問題点として事故歴聴取のあり方があげられる.対象者に行った事故歴の有無についての聴取は自己申告であり,本人が自分の責任で生じた事故ではないと考えている場合,あえて事故歴ありと申告をしていない可能性がある.視野が高度に狭窄しているにもかかわらず自覚症状のない患者では,安全確認に必要な視野が確保されていないことが原因と思われる事故状況であっても,自分の責任ではないと考えている症例もあった.このように,自己申告による事故歴の聴取には限界があると思われる.今回事故歴のあった後期緑内障患者10名のうち8名が運転を継続していた.現時点では運転を中止すべき明確な基準がないため,いずれの症例が運転を中止すべきなのかは判断できない.しかし,この実態調査を通じて,後期緑内障患者の事故率は有意に高いことから,日常臨床の場でも,緑内障患者の自動車運転歴の有無を聴取し,運転している場合は,視野検査結果を詳しく説明し,注意を喚起することは重要であると考える.今後は自動車運転シミュレータのような運転条件を一定にした状態での事故率を調査し,どの程度の視野障害度,どの部位の視野欠損が自動車事故に関与しているか検討していきたい.文献1)OwsleyC,McGwinGJr,BallK:Visionimpairment,eyedisease,andinjuriousmotorvehiclecrashesintheelderly.OphthalmicEpidemiol5:101-113,19982)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20053)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:1149-1155,20074)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Glaucomaandon-roaddrivingperformance.InvestOphthalmolVisSci49:3035-3041,20085)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:TheAssociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20116)青木由紀,国松志保,原岳ほか:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20087)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19829)McGwinGJr,XieA,MaysA:Visualfielddefectsandtheriskofmotorvehiclecollisionsamongpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:4437-4441,200510)ParrishRK2nd,GeddeSJ,ScottIUetal:Visualfunctionandqualityoflifeamongpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1447-1455,199711)馬場裕行:ゴールドマン視野の立体角による定量化.日眼会誌90:210-214,1986***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121017

緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):993.997,2012c緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子兵頭涼子林康人鎌尾知行南松山病院眼科FactorsAffectingTherapyAdherenceinPatientsUsingGlaucomaEyedropsRyokoHyodo,YasuhitoHayashiandTomoyukiKamaoDepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital高眼圧は緑内障進行の一つの要因であり,眼圧を下げるためには点眼治療のアドヒアランスが重要である.筆者らは緑内障点眼治療のアドヒアランスを調査する目的で,緑内障点眼治療を受けている患者84名(27.90歳,平均67.6±12.7歳)を対象として,聞き取り調査を実施した.84名中68名が月1回以上「点眼忘れ」があると回答した.アドヒアランスの悪い患者はアドヒアランスの良い患者に比べ,治療月数が有意(対応のないt検定:p<0.0001)に短かった.「点眼忘れ」の状況を主治医に正確に伝えている患者は1名もいなかった.73.8%の患者が理想の点眼剤数を1本と答え,96.4%の患者が理想の点眼回数を1日1回と回答した.これらの結果より,アドヒアランスの向上のためには可能なかぎり点眼剤数を減少させ,緑内障点眼処方直後は「点眼忘れ」がないよう,頻回に確認する必要があると考えられる.Elevatedintraocularpressure(IOP)isaknownriskfactorforglaucomaprogression.ForIOPreduction,adherencetoeyedroptherapyisimportant.Tosurveyadherencetoglaucomaeyedroptherapy,weinterviewed84patients(agerange:27-90years;averageage:67.6±12.7years)whohadbeenprescribedglaucomaeyedrops.Ofthe84,68hadmissedtakingtheprescribedeyedropatleastonceamonth.Poor-adherencepatientsthushadasignificantlyshorterperiodofmedicationthandidexcellent-adherencepatients(unpairedt-test:p<0.0001).Nopatientsinformedtheirphysicianofhaving“missedeyedrops.”Ofallpatients,73.8%answeredthattheidealnumberofeyedropswas1;96.4%answeredthattheidealadministrationratewasonceperday.Theseresultsuggestthatthemedicationrateshouldbereducedasmuchaspossibleforgoodadherence,andthatjustafterprescriptionofglaucomaeyedrops,wemustaskpatientsnottoforgettoinstillthem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):993.997,2012〕Keywords:点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス,緑内障.eyedroptherapy,questionnaires,adherence,glaucoma.はじめに緑内障治療における眼圧コントロールのための点眼治療の重要性1.3)は明らかであるが,その成否にはアドヒアランスが関わる4,5).医師は患者が処方された点眼剤を処方通りに点眼していることを前提として,治療方針を立て,効果が不十分であると判断すれば,変更や追加を迫られる.ところで実際患者は処方通りに点眼できているのであろうか.そこで今回,緑内障点眼治療患者に対して点眼実施状況のアンケート調査を実施したところ,今後医療従事者が注意すべき点が明らかになったので報告する.I対象および方法今回の臨床研究を実施するに際し,事前に南松山病院臨床研究審査委員会(IRB)の承認を受けた.書面による同意が得られた,27歳から90歳までの緑内障点眼治療患者84名(男性44名,女性40名,平均67.6±12.7歳)を対象とした(図1a).今回の調査内容は主治医には伝えないことを事前に説明し,表1に示す内容を1名の看護師による面接法により調査した.統計解析は,JMPVer9.0(SASInstitute,NC,USA)を用い,対応のないt検定,Fisherの正確確立検定も〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒790-8534松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)993 表1アンケート調査の内容年齢:性別:男女お勤め:有無職種:勤務体系:定期(時間帯:.)不定期点眼治療年数:点眼剤数:点眼内容:1.過去1カ月間で緑内障点眼液の点眼を忘れたことはありますか?:□ある□ない(点眼を忘れたことがある場合)2.忘れる頻度は?:□1カ月に1回□1カ月に2.3回□1週間に1.2回□1週間に3回以上3.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前4.点眼を忘れたことを,医師に伝えていますか?:□正確に伝えている□あまり伝えていない□全く伝えていない5.伝えていない理由を教えてください.□注意されるから□聞かれなかったから□眼圧が変化していなかったから□その他()6.理想の点眼回数は何回ですか?:□1日1回□1日2回□1日3回□1日4回以上□2日に1回□3日に1回□1週間に1回7.可能な点眼本数は何本ですか?:□1本□2本□3本□4本以上8.点眼習慣を妨げる要因は何ですか?(複数回答可):□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□点眼液のさし心地□点眼瓶の操作性□点眼液の副作用□その他()abc305050人数人数人数2030405060708090(歳)050100150200250300350(月)1剤2剤3剤4剤図1アンケート調査対象の背景a:年齢分布のヒストグラム.b:点眼治療月数.c:点眼治療剤数.しくはWilcoxon検定を用いて有意差検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果緑内障点眼治療期間は1カ月から25年までの平均5.3±4.5年であった(図1b).緑内障点眼治療剤数は1剤から4剤までの平均1.6±0.8剤であった(図1c).「点眼忘れ有り」と答えた患者は84名中68名(90.0%)であった.「点眼忘れ」の有無と年齢分布には一定の傾向はなく(図2a),「点眼忘れ」の有無と性別との関係では女性で「点眼忘れ」が多い傾向があったが,統計学的に有意ではなかった(表2,Fisherの正確確立検定:p=0.1728).仕事の有無と「点眼忘れ」の有無は今回の調査では一定の傾向が得られなかった(表3,Fisherの正確確立検定:p=0.3945).治療点眼剤数と「点眼忘れ」の有無についても一定の傾向はなかった(表4,Wilcoxon検定:p=0.1445).一方,「点眼忘れ有り」の患者は有意に治療月数が短く(図2b,対応のないt検定:p<0.0001),忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短い(図2c)という結果が得られた.点眼を忘れる時間帯は眠前が31名と最も多く,朝が18名,夕方が16名で昼は4名と少なかった(図3).「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対しては「正確に伝えている」と回答したものはなく「全く伝えていない」が85.3%,「あまり伝えていない」が14.7%であった(図4a).伝えていない理由については,「聞かれなかったから」が最も多く(75.0%),つぎに「注意されるから」が多かった(図4b).理想の点眼回数はほぼすべての患者が1日1回を選択し,1日3回以上を選択するものはいなかった(図5a).点眼可能な点眼剤数は1剤が73.8%,2剤が21.4%と2剤までで大半を占めた(図5b).患者が考える点眼を妨げる要因(複数回答)では本数(76.2%),時間帯(72.6%),回数(53.6%),操作性(42.9%)が上位を占めた.994あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(118) abc100350p<0.0001200治療月数p=0.0006p=0.000390NS30080250治療月数年齢(歳)15070200601001505010040503050200忘れ無し忘れ有り忘れ無し忘れ有り0月1回以内月2~3回週1~2回図2点眼忘れの関連要因a:点眼忘れの有無と年齢分布(NS:有意差無し).b:点眼忘れの有無と点眼治療月数の分布.c:点眼忘れの頻度と点眼治療月数の分布.表2点眼忘れの有無と性別朝(18名)夕方(16名)眠前(31名)昼(4名)図3点眼を忘れる時間帯点眼忘れ無有計性別女53540男113344計166884Fisherの正確確立検定:p=0.1728.表3点眼忘れの有無と仕事の有無ab眼圧が変化してない(5.9%)あまり伝えていない(14.7%)全く伝えていない(85.3%)その他注意される(14.7%)聞かれなかったから(75.0%)点眼忘れ無有計仕事無124254有42630計166884Fisherの正確確立検定:p=0.3945.表4治療点眼剤数と点眼忘れの有無図4点眼状況の主治医への情報提供a:点眼状況を主治医に伝える頻度.b:点眼状況を主治医に伝えなかった理由.a1日2回2日に1回b3剤(4.8%)(2.4%)(1.2%)1日1回(96.4%)1剤(73.8%)2剤(21.4%)点眼剤数1234計点眼忘れ無817016有40216168計482213184Wilcoxon検定:p=0.1445.III考按当院では緑内障点眼を開始する以前に数回眼圧を測定し,片眼トライアルをスタートする段階で,点眼の重要性,効果や副作用について患者に説明したうえで,十分に時間をかけ図5理想の点眼回数と点眼可能な点眼剤数て点眼指導を行い,患者のライフスタイルに合わせた点眼方a:理想の点眼回数.b:点眼可能な点眼剤数.法を提案するようにしている.にもかかわらず,予想外にア(119)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012995 ドヒアランスが悪く,「点眼忘れ有り」と答えた患者は90.0%おり,今回の結果は驚くべきものであった.その理由として,今回の調査では,看護師が結果を医師に伝えないという条件で聞き取り調査をしているため,主治医に対する気遣いによるバイアスを最小限に抑え,患者の本音が引き出せていた可能性がある.従来の研究でも,診療に携わっている医師が直接調査したと考えられる研究6)では「点眼忘れ」が少なく,薬剤師や看護師が調査した研究7.9)では「点眼忘れ」が多い結果が出ており,診療に携わっている医師が直接調査した研究では点眼の状況を正確に捉えきれていなかった可能性がある.以上より,本来正確に点眼状況を調査するためには電子媒体で記録すべきである10,11)が,残念ながらメーカーの協力は得られなかった.今回の調査では忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短いということが明らかとなった(図2b,c).Nordmannら11)がTRAVALERTRDosingAidを使用して調査した報告でも最初の週は「点眼できている」が平均で50%を切っており,それ以降の60%前後の値と比較すると,極早期でより「点眼忘れ」が多いという結果を得ている.その理由として,点眼をする習慣化をあげているが,筆者らの研究では点眼開始後の平均期間が長く,その間の受診時の教育効果も結果に影響していると考えられる.やはり,点眼を忘れずに行う習慣ができるまでは,毎回点眼状況を確認する必要がある.一方,点眼を忘れる時間帯では夕方と眠前で全体の61.8%を占めた(図3).この理由として,当院ではプロスタグランジンの処方割合が多く,その副作用から,入浴前の点眼を勧めることが多いことが影響したと考えられる.また,夕方と眠前に点眼を忘れる患者は就労世代の男性に多い傾向があり,飲食と「点眼忘れ」が関連している可能性が考えられた.一方,朝の「点眼忘れ」は主婦に多い傾向にあり,個人のライフスタイルに合わせた点眼指導が必要であることがわかる.一方,「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対して,「正確に伝えている」と回答したものがいなかったのは特筆すべきことである.さらに,伝えなかった理由については「聞かれなかったから」が最も多かったが,実際には「注意されるから」という心理がその裏には隠れている可能性がある.医療従事者は患者の心理状態を推し量り,患者自身にとって不利と感じられることは話さないということを考慮する必要がある.理想の点眼回数(図5a)と点眼可能な点眼剤数(図5b)の結果から,多くの患者は1日1回1剤が理想的であると考えているようである.今回の研究では点眼剤数による「点眼忘れ」への影響は明らかとはならなかったが,池田らの研究9)では点眼剤数が増えるとアドヒアランスが低下するという結果を得ている.点眼を妨げる要因(図6)でも点眼本数,点眼回数が上位を占めていることも,近年登場した合剤への移行を後押しするものと996あたらしい眼科Vol.29,No.7,201210076.272.653.642.98.37.10図6点眼を妨げる要因(複数回答,全体に占める%で表示)考えられる.今回のアンケート調査を通じて,点眼指導の問題点や日々の診療時における患者とのコミュニケーションの取り方についての問題点を明らかにすることができた.今後,点眼治療アドヒアランス向上を目指して,診療のさまざまな場面から患者との信頼関係を築き,治療状況を把握して,患者の生活に合った無理のない点眼方法を提案することが重要であると考えた.IV結論多くの緑内障患者は点眼のみで一生視機能で不自由することがないよう治療することができるようになった.その前提として,良好な点眼治療アドヒアランスは不可欠である.そのためには,医療従事者が点眼の重要性について患者に理解できるように説明し,日々の生活のなかで無理なく,忘れることなく継続できる方法を提案し,処方後は点眼の実施状況を確認する必要がある.本数時間帯回数操作性差し心地副作用利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeskeMC,HymanL,HusseinMetal:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:625-626,19992)DaniasJ,PodosSM:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:623-625,19993)RossettiL,GoniF,DenisPetal:Focusingonglaucomaprogressionandtheclinicalimportanceofprogressionratemeasurement:areview.Eye(Lond)24(Suppl1):(120) S1-S7,20104)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)SchwartzGF,QuigleyHA:Adherenceandpersistencewithglaucomatherapy.SurvOphthalmol53(Suppl1):S57-S68,20086)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20117)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:1813-1818,20108)山本由香里,嶋津みゆき,鶴田千明ほか:点眼薬のコンプライアンスについての検討─眼科診療補助員の立場から─.眼臨101:794-798,20079)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,200110)RegnaultA,Viala-DantenM,GiletHetal:ScoringandpsychometricpropertiesoftheEye-DropSatisfactionQuestionnaire(EDSQ),aninstrumenttoassesssatisfactionandcompliancewithglaucomatreatment.BMCOphthalmol10:1,201011)NordmannJP,BaudouinC,RenardJPetal:Measurementoftreatmentcomplianceusingamedicaldeviceforglaucomapatientsassociatedwithintraocularpressurecontrol:asurvey.ClinOphthalmol4:731-739,2010***(121)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012997

Patient-Centered Communication(PCC)Tool としての緑内障点眼治療アンケート

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):969.974,2012cPatient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート末武亜紀福地健郎田中隆之須田生英子中枝智子若井美喜子芳野高子原浩昭田邊朝子栂野哲哉関正明阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野GlaucomaTopicalMedication-relatedInterviewasPatient-CenteredCommunicationToolAkiSuetake,TakeoFukuchi,TakayukiTanaka,KiekoSuda,TomokoNakatsue,MikikoWakai,TakaikoYoshino,HiroakiHara,AsakoTanabe,TetsuyaTogano,MasaakiSekiandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:患者ごとの緑内障薬物治療を構築し,患者中心の治療(Patient-CenteredMedicine)を行うために,患者と医療者の情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は重要である.その手段の一つとして緑内障点眼治療に関する聞き取りアンケートを実施した.方法:対象は新潟県内10施設(すべて一般病院)で緑内障点眼治療中の患者182名.平均年齢は67.3±12.7歳,男性92名,女性90名.1剤点眼の患者が60%,2剤36%,1回点眼が49%,2回25%,3回18%と相対的に点眼薬数・回数が少なめの患者が対象となった.結果:年間の処方本数が不適切な患者はプロスタグランジン(PG)製剤39%,b-blocker35%,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)57%であった.年代別で若い患者は処方が過少,高齢者は過剰であった.点眼薬の名前を記憶している患者は21%,使用点眼薬数の間違いが8%の患者にみられ,点眼治療の理解は不良であった.患者自身による点眼治療の問題点は,しみる・かすむなどの点眼薬の使用感に関するものが最も多く,ついで点眼がうまくできない,点眼薬がよく見えないなどの点眼方法に関するものが多かった.治療が孤独,診療施設が遠く通院困難,点眼薬が高額で負担などの問題もみられた.緑内障点眼治療に関して,さまざまなネガティブ意見を抱えていた.結論:点眼治療に関するアンケートは全体の傾向だけでなく,アドヒアランス不良につながる個々の問題点を抽出することが可能であり,PCCの手段として有用であった.Adherencemeansagreatdealinglaucomatreatment.Toimproveglaucomapatients’adherence,Patient-CenteredCommunication(PCC)isconsideredthekeypoint.Weinterviewedpatientswhowereusingeyedropsforglaucoma,toassesseyedroptherapyforquestionnaires.Weinterviewedatotalof182patients,ranginginagefrom29to89years(average:67years).Weinquiredastotheirknowledgeofglaucoma,andfactorsthatinfluencetheiradherence.Wealsocheckedthewaysinwhichtheyusedeyedrops.Thepercentageofpatientsusingonetypeofeyedropforglaucomacomprised60%;thoseusingtwotypescomprised36%.Thoseusingeye-dropsonceadaycomprised49%,twiceaday25%andthreetimes18%.Wethentotaledtheannualnumberofeyedrops;unnecessarymedicationwasnotable.Rateofimproperuseofeyedroptypeswasasfollows:prostaglandinanalog39%,beta-adrenergicagonist35%andsystemiccarbonicanhydraseinhibitor57%.Olderpatientsusedeyedropstoexcess.Attheotherextreme,youngerpatientsusedeyedropstoolittle.Only21%ofthepatientsansweredcorrectlyanameofeyedrop;8%didnotevenknowwhicheyedropwasforglaucomatreatment.Theproblemswitheyedroptherapyarevarious.Somepatientsdonotknowhowtoproperlyuseeyedrops.Theyalsohavemanynegativeopinionsthatcanleadtonon-adherence.Theinterviewisveryuseful,notonlyasaPCCtool,butalsotoidentifyfactorsthatinfluencenon-adherence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):969.974,2012〕Keywords:緑内障,点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,eyedroptherapy,questionnaires,adherence.〔別刷請求先〕末武亜紀:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野(眼科)Reprintrequests:AkiSuetake,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuou-ku,NiigataCity951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)969 はじめに近年,緑内障点眼治療に関してコンプライアンスからアドヒアランスへと概念が変化し,そしてアドヒアランスの重要性が注目されている.コンプライアンスは医師の服薬指示に患者がどの程度従っているかを評価する服薬遵守を意味する.コンプライアンスの良否の判断は医療者側によってなされ,指示どおり服薬できない場合は患者の問題として判断し,指導・説得によりコンプライアンスを高める.一方,アドヒアランスは患者が積極的に治療方針の決定に参加し,納得した治療を受けることを意味する.服薬率を高めるためには,薬剤・患者・医療者側のそれぞれの因子を総合的に考え,患者が参加し実行することが必要である.医師は患者の疑問・不安などの情報を収集し,治療を修正していく必要がある1,2).つまり,治療は患者が主体的に自身のために行うものであり,治療の中心は患者自身であるというPatient-CenteredMedicine(PCM)がアドヒアランスの基本である.アドヒアランスを向上させ患者ごとの緑内障薬物治療を構築するために,患者を中心とした医療者との情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は非常に重要となる3,4).患者がどのような意見や問題点を抱えているかを抽出し,どの程度治療状況を理解しているか客観的に調べるため,PCCの一つの手段として緑内障点眼治療に関する聞き取り型アンケート調査を行った.I対象および方法対象は新潟県内10病院(小千谷総合病院,木戸病院,新潟南病院,新潟県立六日町病院,新潟県済生会三条病院,中条中央病院,柏崎中央病院,信楽園病院,新潟医療センター,豊栄病院)のいずれかの眼科において1種類以上の緑内障点眼薬を使用して治療および経過観察中の緑内障患者182名である.研究に先立って新潟大学およびすべての病院において倫理委員会の承認を受け,各患者からアンケートの同意をいただいた.患者は男性92名,女性90名,平均年齢は67.3±12.7歳(29.89歳)であった.59歳以下48例(26%),60.69歳43例(24%),70.79歳57例(31%),80歳以上34例(19%)であった.緑内障の病型は,開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障52例・正常眼圧緑内障94例・発達緑内障1例・落屑緑内障9例)156例,原発閉塞隅角緑内障8例,ぶどう膜炎による緑内障6例,血管新生緑内障4例,ステロイド緑内障2例,その他7例であった.外来診察や視野検査後などに,医療者(看護師または視能訓練士)により,以下の内容について個別に質問・記入し,最終的に医師が評価した.アンケートの内容を表1に示した.使用中の緑内障点眼薬の数,名前,点眼の確実さ,点眼手技や方法,その他の治療状況について口頭で質問した.さらに緑内障点眼治療についての各自の感想や意見,困っている点などについて聴取した.アンケートの後に,医師がアンケート時の年齢,病型,表1緑内障点眼治療に関する患者さまへのアンケート1)緑内障点眼薬をどなたが点眼していますか?答患者自身・家族()・その他()2)点眼薬の管理(数や量の確認,保管など)はどなたがされていますか?答患者自身・家族()・その他()3)点眼薬は確実に点眼していますか?どのくらい忘れますか?答忘れない・時々忘れる・よく忘れる・つけていない全体として何パーセントくらい点眼していると思いますか?答()%4)どのような時に忘れますか(複数可)?答忙しい・旅行・仕事中・なんとなく・つけたくない・その他()5)現在,緑内障の治療のために何種類の点眼薬を使っていますか?答()種類6)薬の名前を覚えていますか?答はい:名前を教えてくださいいいえ:どのように区別していますか?キャップの形・キャップの色・袋の色・その他①()②()③()④()7)それらの点眼薬はどこに保管していますか?(番号は6に同じ)①室内・冷所・その他()②室内・冷所・その他()③室内・冷所・その他()④室内・冷所・その他()8)点眼のタイミングは時間で決めていますか,イベントで決めていますか?答時間・イベント時間の方:何時にしていますか?()イベントの方:いつしていますか?()9)(2剤以上点眼している方に)同じ時間に点眼することがありますか?間隔はどのくらいあけていますか?答はい・いいえ()分くらい10)点眼した後に瞼を閉じていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい11)点眼した後に目頭をおさえていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい12)緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていることを教えてください答しみる・かすむ・ゴロゴロする・充血する・うまく点眼できない・点眼薬がよく見えない・よく忘れる・必要性がわからない・治療が面倒・治療したくない・治療が孤独・家族が非協力的・薬の数が多い・薬の価格が高い・その他:13)以下,自由記入欄970あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(94) 緑内障に関する点眼薬の種類,一日当たりの点眼回数などについて確認した.また,カルテの記録上で1年間の点眼薬処方本数を計算した.最近1年以内に処方薬が変更になっている症例に関してはこの検討から除外した.点眼薬の1滴の容量は30.50μlと銘柄間に差があるが,1滴容量が15.20μlの点眼で通常は十分であること5,6)と添付文書上の使用可能期間から1カ月に1本を点眼薬の適正使用本数とし,最近1年間のそれぞれの点眼薬の適切な処方本数を12.14本として,9本以下を少ない,10.11本をやや少ない,15.17本をやや多い,18本以上を多いと,5群に分け検討した.なお,アンケート対象患者182名のうち片眼のみ緑内障点眼を使用している患者は25名(14%),点眼数では33例であった.実際の点眼使用量は片眼と両眼で差があるが,冨田らは代表的な緑内障点眼薬の1滴容量や使用期間などを調査した結果,開封から1カ月の使用期間を目安とし,長期間点眼が可能な品目を処方する場合,1カ月を目処に新しい製品に切り替える指導が特に必要と述べている7).適正な使用期間で点眼していれば両眼あるいは片眼で顕著な差は生じないこと,使用期間の適切さも緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わることを考慮し,今回のアンケートでは上記のように処方本数を決定した.点眼薬処方本数を70歳未満と70歳以上で分け,「多い」,「やや多い・適当・やや少ない」,「少ない」の3つの基準で多層のk×2表検定(Mantel-extension法)を用いて統計学的に検討した.II結果対象のうち,緑内障の点眼薬数は1剤点眼の患者は(実数)60%,同2剤点眼が同36%,点眼回数では1回点眼が同49%,2回同25%,3回同18%であった(図1).内訳は1剤点眼でプロスタグランジン製剤(以下,PG)69例,b遮断薬(以下b)37例,炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)3例であった.2剤点眼では,PG+b38例,PG+CAI18例,b+CAI8例,CAI+a1遮断薬1例であった.年間の点眼薬処方本数に関して点眼薬の系統別(図2),年齢別(図3)に示した(直前1年に処方変更がある例は除外した結果,対象は計237例,点眼薬別ではPG119例,b83例,CAI35例,年齢別では20.50歳代51例,60歳代53例,70歳代84例,80歳代46例という内訳であった).年齢別では処方本数が少ないまたは多い患者を処方不適切とした場合,PGが同39%,bが同35%,CAIが同57%であった.年齢別には処方不適切の症例は20.50歳代同41%,60歳代同23%,70歳代同44%,80歳代以上同52%であった.PG製剤の年間点眼薬処方本数は,70歳以上の高齢群で統計学的に有意に過剰であった(p=0.040).CAIの処方本数(95)■:1剤点眼薬数■:2剤:3剤0%20%40%60%80%100%■:4剤■:1回点眼回数■:2回:3回0%20%40%60%80%100%■:4回■:5回図1緑内障の点眼薬数と一日当たりの総点眼回数■:多いPG■:やや多い:適切b■:やや少ない■:少ないCAI0%20%40%60%80%100%図2年間の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)20~50歳代■:多い60歳代■:やや多い:適切70歳代■:やや少ない■:少ない80歳代0%20%40%60%80%100%図3年齢別の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)も同様に,高齢群で過剰であった(p=0.021).点眼を誰がしているか,点眼薬の名前を知っているかなど点眼治療の理解に関する質問や点眼精度や手技を確認する質問への結果を表2に示した.緑内障点眼薬や点眼治療について困っていることを聴取した結果を表3に示した.III考按緑内障は眼科臨床のなかでも,特にアドヒアランスを意識した対応が必要な疾患であり1),正確に点眼してこそ真の治療効果を期待できるが,その一方でアドヒアランスを維持することはきわめてむずかしい疾患ともいえる.良好なアドヒアランスを継続しさらに向上するためには,患者の不安や疑問を傾聴し,情報収集しながら治療を修正し継続していくことが重要であるが,実際の日常診療では非常に困難といえる.髙橋らのアンケート結果では,大学病院通院中の368名を対象とし,医師の説明について半数近くのあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012971 表2アンケート結果.点眼はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼の管理(数の確認や保管)はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼薬は確実に点眼しているか?忘れない:115名(63%),時々忘れる:64名(35%),よく忘れる:1名(0.5%),つけていない:0名.全体として何%くらい点眼しているか?100%点眼:88名(48%),90%以上点眼:160名(88%),80%以上90%未満:14名(8%),70%以上80%未満:2名(1%),70%未満:3名(2%).どのような時に忘れるか?(複数回答可)なんとなく:29名,忙しい:21名,旅行:17名,仕事中:7名,飲み会:6名,外出時:4名,他眠い時,運動中など.点眼薬の名前は?正しく答えた方:38名(21%).緑内障の治療のための点眼は何種類使っているか?正解:168名(92%),不正解:14名(8%).点眼はどのように区別しているか?キャップの色:42名(回答者97名のうち43%),袋の色:41名(同42%),キャップの形:10名(同10%),容器色:2名(同2%),置き場所:2名(同2%).点眼のタイミングは?時間:31名(17%),イベント(食事や就寝など):150名(82%).(2剤以上を)同じ時間に点眼する場合,間隔をあけているか?あける:62名(回答者79名のうち78%)→5分以上あける:49名(同62%)間隔あけない:17名(同22%).点眼したあとに瞼を閉じているか?閉じる:119名(65%)→1分以上閉じる:64名(35%)閉じない:63名(35%).点眼したあと,涙.部圧迫をしているか?圧迫している:57名(31%)→1分以上圧迫:34名(19%)圧迫しない:125名(69%)表3緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていること使用感.しみる:35人.かすむ:34人.充血する:17人.ゴロゴロする:10人.かゆい:2人.睫毛がのびる:1人方法・手技.うまく点眼できない:27人.点眼薬がよく見えない:21人.よく忘れる:8人治療の目的・意味.必要性わからない:18人.治療が面倒:12人.治療したくない:10人.進行が止まっているか不安:4人.緑内障のほかに白内障といわれ不安:1人点眼薬.薬の価格が高い:26人.薬の数が多い:7人.1カ月で1本使用が面倒.点眼薬の冷蔵保存を忘れる.容器の固さが違い点眼しづらい環境.治療が孤独:6人.家族が非協力的:3人.通院が困難.診察間隔を延ばしてほしい.経済的に負担回答なし:7人患者が説明不足と感じていた8).今回,患者のアドヒアランス不良因子はどういったものか,緑内障点眼治療にどのようなネガティブな意見を抱えているか,PCCツールの一つとしてアンケート調査を行った.今回のアンケート調査はすべて一般病院で行ったことから,点眼薬数は2剤まで95%,点眼回数は3回まで92%と相対的に点眼薬数および点眼回数が少なく,緑内障薬物治療の形態としては比較的プライマリーでシンプルな患者が対象となった.つまり,医師の立場で考えた場合には,患者にとってはまだ負担も軽くわかりやすい治療の状況にある方々が対象になった.逆に緑内障専門施設に通院している患者の場972あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012合には,薬剤数は多く,そのコンビネーションは複雑であるが,緑内障に対する病識は高くアドヒアランスはより良好であることが推測される.このようなアンケート調査の結果というのは,対象の選択方法,治療・管理を行っている施設・医師によって大きく異なる.同施設であっても質問者が医師かあるいは看護師や視能訓練士かによって結果にバイアスは生じると考えられる.したがって,結果を評価する場合には,実数は単に傾向を示すだけで,重要なのは抽出された問題点の項目である.さらに,患者の自己申告の多くは,実際の治療状況と異なるという点においても評価には限界がある.Norellらは,面(96) 接によるコンプライアンス不良は3%であったが,客観的な点眼モニターでの調査では49%を占めたと報告している9).わが国では塚原が,面接ではコンプライアンス不良が18%と自己申告では良好であっても10),同施設で点眼モニターを用いた佐々木はコンプライアンス不良が41%であったと報告している11).患者の自己申告は正しくないことがほとんどで,問診によっても医療者は正確に把握できない.今回のアンケート調査においても,患者の半数近くが点眼の確実さは100%と自己申告は過剰に良好であった.患者の自己申告をもとにした統計学的な解析はあまり意味をなさないと考えられる.自己申告は良好であってもアンケート結果には,確実な自己点眼のむずかしさ,点眼治療における理解の不良さが如実に表れている.たとえばその一つが年間処方本数である.年間の点眼処方本数が不適切な患者は,最も少ないbブロッカーで35%,CAIでは57%であった.CAIは,2剤目,3剤目に追加で処方されるケースが多く,一日2回または3回点眼で回数が他の点眼群より多いことも影響していると考えられた.60歳代が最も的確に緑内障に対する点眼治療を行っていると考えられ,より若い患者では点眼治療が過少,より高齢の患者では過剰な傾向にあった(図3).若い世代では仕事が忙しい,飲み会などで点眼を忘れるという回答が目立っていた.高齢者では加齢による物忘れや自己管理不十分などによってアドヒアランスが悪化するケースが考えられる.60歳代の結果は,退職などを契機に治療に関わる時間的余裕ができ,アドヒアランスが改善,より的確に点眼治療が実施される傾向を表しているものと考えられた.さらに,点眼薬の名前は正答率21%とおよそ5人に1人しか正確に名前を把握しておらず,どの点眼薬が緑内障のためのものかを8%の患者が理解していなかった.点眼薬数・回数が相対的に少ない患者が対象であったにもかかわらず,名前の正答率や緑内障の点眼薬数を理解している患者は小数であった.小林らが大学病院通院中の開放隅角緑内障患者168名を対象とした面接法によるアンケートでも使用中の薬剤名を正解した患者は19%とほぼ同等の結果であった12).患者の治療に対する理解はきわめて心許ないといえる.点眼薬の名前を覚えていない患者は,キャップの色もしくは袋の色で区別するものがほとんどであった.しかし,実際には袋の入れ間違いやキャップを閉める際の取り違いなどにより,間違いが起こる可能性も否定できない.点眼手技においても,同じ時間に点眼する場合間隔をあけることや,涙.圧迫,閉瞼も患者ごとに自己流で長年続けている者が多かった.点眼治療自体はシンプルに感じても,「正しく確実な」点眼はとてもむずかしい.問診だけでは十分に把握することは困難で,ときには実際に医療者の前で人工涙液の点眼をさせ,点眼手技を確認するなどの工夫も必要(97)である.池田らは,59歳以下はアドヒアランスが良好な傾向を示すのに対し,60歳以上は不良傾向であること,60歳以上の高齢者には積極的な点眼指導を行う必要性を指摘している5).緑内障薬物治療に関する各患者の意見や問題点を調査した結果(表3)では,日常の診療中には気付かないさまざまな項目がピックアップされた.患者の多くは使用感など点眼薬そのものに対する不満をもっており,しみる,かすむ,充血する,ゴロゴロするなどと回答した患者が多かった.手技に関して,27名の患者は点眼がうまくできない,21名は点眼薬がよく見えないと回答していた.誰が点眼しているか,誰が点眼薬の管理をしているかという問いに対していずれに対しても96%の患者は自分自身で行っていると答えていた.ほとんどすべての患者が自己点眼・管理をしている.つまり手技的に問題があることを本人が自覚していても,自己修正は困難で,しかも家族などの協力は頼めず,医療者に相談していない,という実態が明らかになった.治療の目的や意味がよくわからない,治療が面倒という意見も当然のことではあるがみられた.一般に薬剤の価格について医師に不満を訴える患者は少ないが,実際には価格や治療の負担などに対する不満を感じている患者も多いことがわかった.緑内障治療はアドヒアランスがより重要な疾患であるにもかかわらず,アドヒアランス不良をひき起こすさまざまな原因があり,このような聞き取り型アンケート調査は個々の問題点を抽出する有効な手段であると考えられた.今後は,このアンケート結果も踏まえたうえでの対策が課題となる.まず,結果からも明らかなように医療者が,患者は処方した点眼薬を正確に使用しているという誤解を解消すること,個々の患者がアドヒアランス不良の因子を抱えていることを認識する必要がある.主治医のみでアドヒアランスを改善させることは不可能であり,非効率的である.池田らは点眼の説明を医師が関与した場合にアドヒアランスがむしろ不良となるという興味深い結果を指摘している.医師が診察中に説明する場合は診断や治療方針の説明が中心となり,点眼薬についての時間が短くなること,点眼指導は薬剤師が行うことを期待し簡単な説明に留まっているためと池田らは考えている5).緑内障診療において,良好なアドヒアランスとさらなるアドヒアランス向上のために医師・薬剤師・看護師・視能訓練士がチームを構築し,チーム内で協力・分担・コミュニケーションを進めながら診療にあたることが重要と考えられる.当院での実践例としては,専任の看護師による外来点眼指導を開始した.その際,アンケート結果から高齢者自身での理解や点眼手技の正確さには限界があると考え,家族も同伴で受講してもらって,その際にサポートを依頼している.今回は一般病院通院中の比較的点眼処方本数・回数が少なあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012973 い患者が対象であり,大学病院通院中の多剤併用している患者や視野障害が高度の患者を対象としアンケートを比較検討することも今後の課題の一つである.前述したように,緑内障診療はチームとして定期的な情報収集と個別の対策,修正を繰り返しながら継続することが重要である.緑内障点眼治療アンケートは,アドヒアランス改善を目指したPCCツールとして有用であり,全体の問題点とともに個々の患者の問題点も把握することができる.そして,このようなアンケートは繰り返すことも有用である.定期的に行うことによって,個々の患者のアドヒアランスの問題点が改善したか,維持されているか,などを確認していくことも必要である.追記:アンケートの実施と収集にご協力いただきました以下の視能訓練士の皆様にこの場を借りて感謝申しあげます.渡邊順子,吉原美和子(小千谷総合病院),石井康子,渡邉彩子(木戸病院),山田志津子,遠藤昌代,斉藤麻由美(新潟南病院),町田恵子(新潟県立六日町病院),寺下早苗,川又智美(新潟県済生会三条病院),池田豊美(中条中央病院),渡邊幸美(柏崎中央病院),羽賀雅世,風間朋子(信楽園病院),宮北結花,貝沼真由美(新潟医療センター).(敬称略)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)内藤知子,吉川啓司:コンプライアンス(アドヒアランス)の実際とその向上法.臨眼63:262-263,20092)森和彦:治療に対するアドヒアランス向上のためのコミュニケーション学.眼科52:401-406,20103)HahnSR:Patient-centeredcommunicationtoassessandenhancepatientadherencetoglaucomamedication.Ophthalmology116:S37-S42,20094)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnoadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,20105)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.藥學雜誌121:799-806,20016)池田博昭,塚本秀利,三嶋弘ほか:点眼液1滴あたりの容量の違いとその影響.眼科44:1805-1810,20027)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20068)髙橋雅子,中島正之,東郁郎:緑内障の知識に関するアンケート調査.眼紀49:457-460,19989)NorellSE,GranstormPA,WassenR:Amedicationmonitorandfluoresceintechniquedesignedtostudymedicationbehavior.ActaOphthalmol58:459-467,198010)塚原重雄:緑内障薬物治療法とcompliance.臨眼79:9-14,198511)佐々木隆弥:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198612)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼60:37-41,2006***974あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(98)