‘緑内障’ タグのついている投稿

セリシン添加抗緑内障薬がSV40 不死化ヒト角膜上皮細胞増殖作用へ与える影響

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(129)1295《原著》あたらしい眼科27(9):1295.1298,2010cはじめに現在の臨床における治療法としては,抗緑内障点眼薬による薬物療法が第一選択とされている.一方,点状表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所の副作用や,患者からのしみる,かすむ,眼が充血するといった訴えで点眼薬の中止および変更を余儀なくされ,薬剤選択が困難なことや眼圧コントロールが問題視されている.これら抗緑内障薬の角膜傷害には,点眼薬中に含まれる主薬,保存剤だけでなく,角膜知覚,涙液動態および結膜といったオキュラーサーフェス(眼表面)の生理状態が関与することが明らかとされ,臨床と基礎研究の両方面からの観察が抗緑内障薬の低角膜傷害性療法開発には重要である1).カイコ繭は絹糸になるフィブロイン(70~80%)とそれを包むセリシン(20~30%)から構成されている.従来,この〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANセリシン添加抗緑内障薬がSV40不死化ヒト角膜上皮細胞増殖作用へ与える影響長井紀章*1村尾卓俊*1伊藤吉將*1,2岡本紀夫*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3兵庫医科大学眼科学教室SericinAdditiontoAnti-glaucomaEyeDrops:EffectonProliferationofCornealEpithelialCellLineSV40(HCE-T)NoriakiNagai1),TakatoshiMurao1),YoshimasaIto1,2)andNorioOkamoto3)1)FacultyofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine抗緑内障薬は臨床にて多用されているが,長期にわたる使用は角膜傷害をひき起こすことが知られている.本研究ではSV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用い,角膜傷害治癒作用を有するセリシンを抗緑内障薬へ添加することによる角膜上皮細胞増殖抑制作用への影響について検討を行った.抗緑内障薬は市販製剤であるb遮断薬(チモプトールR),プロスタグランジン製剤(レスキュラR,キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(デタントールR),a,b受容体遮断薬(ハイパジールR),副交感神経作動薬(サンピロR)の7種を用いた.本研究の結果,抗緑内障薬へセリシンを添加することにより,角膜上皮細胞増殖抑制作用の強さは各種単剤処理時と比較し軽減した.このセリシンによる軽減効果は,今回用いたすべての点眼薬において認められた.本知見は,低刺激点眼薬開発を目指すうえできわめて有用であると考えられる.Anti-glaucomaeyedropsarefrequentlyusedinclinicaltreatment,anditisknownthattheirlong-termusecancausecornealepithelialcelldamage.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofthesericinadditiontovariousanti-glaucomaeyedropsoncornealepithelialcelllineSV40(HCE-T)proliferation.Usedinthisstudywere7eyedroppreparations:b-blocker(TimoptolR),prostaglandinagent(ResculaR,XalatanR),topicalcarbonicanhydraseinhibitor(TrusoptR),a1-blocker(DetantolR),a,b-blocker(HypadilR)andparasympathomimeticagent(SanpiloR).Withthecombinationofsericinandanti-glaucomaeyedrops,cellproliferationinhibitiondecreasedincomparisonwithuseofasingletypeofconventionalanti-glaucomaeyedrops.Theresultsofcombiningsericinandanti-glaucomaeyedropsprovideusefulinformationfordevelopmentofanti-glaucomaeyedropsthatdonotcausecornealepithelialcellsdamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1295.1298,2010〕Keywords:セリシン,抗緑内障薬,SV40不死化ヒト角膜上皮細胞,緑内障,細胞増殖.sericin,anti-glaucomaeyedrops,humancorneaepithelialcelllineSV40,glaucoma,cellproliferation.1296あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(130)カイコ繭由来の絹蛋白質であるセリシンは,生糸から絹糸への精錬の過程において除去され廃棄物として扱われていた.しかし近年,細胞死抑制作用など生物化学領域においてその活性が認められ注目されている2).筆者らもこれまで,このセリシンに角膜傷害治癒促進効果があることを見出し,眼科領域におけるセリシンの有効利用の可能性を報告してきた3).さらに筆者らは以前に,抗緑内障点眼薬の角膜傷害におけるinvitroスクリーニング試験として,抗緑内障点眼薬の角膜傷害性比較を目的とした基礎(invitro)実験系「ヒト角膜上皮細胞を用いたinvitro角膜傷害試験」を確立し報告してきた4).そこで今回,現在臨床現場で多用されているb遮断薬(チモプトールR),プロスタグランジン製剤(レスキュラR,キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(デタントールR),a,b受容体遮断薬(ハイパジールR),副交感神経作動薬(サンピロR)の異なる抗緑内障点眼薬7種へセリシンを添加することで,角膜傷害性がどのように変化するのかを明らかにすべく,このinvitro角膜傷害試験法4)を用いて検討を行った.I対象および方法1.使用細胞培養細胞は理化学研究所より供与されたSV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)を用い,100IU/mlペニシリン(GIBCO社製),100μg/mlストレプトマイシン(GIBCO社製)および5%ウシ胎児血清(FBS,GIBCO社製)を含むDMEM/F12培地(GIBCO社製)にて培養した.2.使用薬物抗緑内障点眼薬は市販製剤であるb遮断薬(0.5%チモプトールR),プロスタグランジン製剤(0.12%レスキュラR,0.005%キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(1%トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(0.01%デタントールR),a,b受容体遮断薬(0.25%ハイパジールR),副交感神経作動薬(1%サンピロR)の7剤を用いた.セリシン(30kDa)はセイレーン株式会社より供与されたものを用いた.3.抗緑内障点眼薬による細胞処理法HCE-T(50×104個)をフラスコ(75cm2)内に播種し,HCE-Tがフラスコ中に80%存在するようになるまで培養した5,6).この細胞を,0.05%トリプシンにて.離し,細胞数を計測後,96穴プレートに100μl(10×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内で24時間培養したものを実験に用いた.表1には今回用いた抗緑内障薬に含まれる添加物を,表2にはセリシンおよび抗緑内障点眼薬の添加量を示す〔抗緑内障薬はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて希釈を行った〕.表2に示した添加量にて24時間培養後,各wellにTetraColorONE(生化学社製)20μlを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理を行い,マイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)にて490nmの吸光度(Abs)を測定することで細胞増殖抑制を表した.各処理とも培地中に含まれるpHインジケーターのフェノールレッドが中性を示すことを確認し,同実験を3.7回くり返した.本研究では,細胞増殖抑制率は下記の計算式により算出した4).細胞増殖抑制率(%)=(Abs未処理.Abs薬剤処理)/Abs未処理×100筆者らはすでに,今回用いた抗緑内障には細胞増殖抑制率の変動が認められ,その細胞増殖抑制率が約50%となる薬剤希釈率はレスキュラR(98)>キサラタンR(70)>チモプトールR(30)>デタントールR(22)>ハイパジールR(22)>トルソプトR(18)>サンピロR(6)であることを報告している.この結果を基に本実験では,細胞増殖抑制率の変動が認められる薬剤希釈率を用いた4).また,セリシン(pH7)は終濃度0.1%となるように設定し行った.II結果図1には,細胞増殖抑制率が約50%となる薬剤希釈率付表1各種抗緑内障点眼薬に含まれる添加物抗緑内障点眼薬添加物チモプトールRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素Na,水酸化Na,リン酸水素NaレスキュラRベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,等張化剤,pH調節剤キサラタンRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素Na,等張化剤,リン酸水素Na,トルソプトRベンザルコニウム塩化物,ヒドロキシエチルセルロース,D-マンニトール,クエン酸Na,塩酸デタントールRベンザルコニウム塩化物,濃グリセリン,ホウ酸,pH調節剤ハイパジールRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素K,リン酸水素Na,塩酸,塩化NaサンピロRパラオキシ安息香酸プロピル,パラオキシ安息香酸メチル,クロロブタノール,酢酸Na,ホウ酸,ホウ砂,pH調節剤表2抗緑内障点眼薬の添加量培地PBS薬剤セリシン未処理50μl50μl0μl0μl単剤処理50μl25μl25μl0μlセリシン添加薬剤処理50μl0μl25μl25μlPBS:リン酸緩衝生理食塩水.(131)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101297近における角膜上皮細胞増殖抑制効果と,これら薬剤処理群にセリシンを添加した際の角膜上皮細胞増殖抑制率の変化を示す.薬剤のみの刺激ではいずれの処理群においても30~80%程度の細胞増殖抑制効果であった.この希釈率における抗緑内障に0.1%セリシンを添加したところ,本実験で用いたすべての抗緑内障点眼薬群において有意な細胞増殖抑制効果の低下が認められた.III考按抗緑内障薬による角膜傷害性の程度を検討するにあたり,その評価法の選択は非常に重要である.角膜上皮は5~6層の細胞層から構成され,基底細胞と表層細胞に大きく分けられる.このうち基底細胞は分裂増殖機能と接着機能を,表層細胞はバリア機能および涙液保持機能を担っている.この4つの機能のどれか1つでも破綻した際角膜上皮傷害が認められるが,なかでも薬剤の影響を特に受けやすいとされているのが分裂機能とバリア機能である7).筆者らは以前に,抗緑内障点眼薬の角膜傷害におけるinvitroスクリーニング試験として,抗緑内障点眼薬の傷害性比較を目的としたinvitro角膜実験を確立し報告してきた4).このHCE-Tによるinvitro角膜実験は,個体差やオキュラーサーフェスの状態の要因をすべて同一条件の状態で評価することが可能なため,薬剤自身が有する角膜上皮細胞分裂機能への影響を検討するのに適している.そこで本研究では,臨床現場で多用されている7種の異なる抗緑内障点眼薬の角膜傷害性が,セリシンと併用することでどのように変化するのかについてこのinvitro角膜実験を用いて検討した.HCE-Tを用いた結果において,抗緑内障点眼薬の細胞増殖抑制作用はレスキュラR>キサラタンR≫チモプトールR>デタントールR>ハイパジールR>トルソプトR≫サンピロRの順であった4).この結果は,実際の臨床現場における抗緑内障点眼薬による角膜上皮傷害の頻度と類似していた.一方,いずれの抗緑内障薬もセリシンを組み合わせることで抗緑内障薬単剤処理と比較し細胞増殖抑制率が有意に軽減された.セリシンは細胞増殖促進作用を有することが知られており,筆者らもまたこのHCE-T細胞へのセリシン処理により細胞増殖が増大することを報告している3).したがって,このセリシンの細胞増殖促進作用が抗緑内障薬による角膜上皮細胞増殖傷害の軽減をもたらすものと示唆された.一方で,点眼薬調製には主薬以外にもさまざまな添加物が用いられている(表1).添加物は点眼薬の種類において異なっており,その濃度も均一ではない.なかでも品質の劣化を防ぐ目的で用いられる保存剤ベンザルコニウム塩化物は細胞増殖抑制をひき起こす主要な要因とされている.今回用いた7種の抗緑内障薬においても細胞傷害性を示すと考えられる添加物であるベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,パラベン類,ホウ酸をはじめ多くの添加物が用いられていた.これら多くの異なる添加物を含む抗緑内障薬7種すべてにおいて,セリシンが有意にその角膜上皮細胞増殖傷害の軽減を示したという結果は,セリシンの角膜上皮細胞増殖促進効果が現在点眼薬調製に用いられている添加物においてほとんど影響を受けないことを意味し,点眼製剤への新規添加物としてセリシンの応用が期待された.現在,筆者らはこのセリシンと抗緑内障薬との合剤が角膜傷害性へ与える影響を明確にすべく角膜上皮.離モデルを用いたinvivo実験において,セリシン含有抗緑内障薬の角膜サンピロR48希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100*チモプトールR希釈倍率細胞増殖抑制率(%)0204060801002832*レスキュラR希釈倍率96100細胞増殖抑制率(%)020406080100*細胞増殖抑制率(%)020406080100キサラタンR6872希釈倍率*トルソプトR1620希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100*2024希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100デタントールR**2024希釈倍率ハイパジールR細胞増殖抑制率(%)020406080100**図1セリシン添加抗緑内障薬が角膜上皮細胞増殖抑制率へ与える影響□:単剤処理,■:セリシン添加薬剤処理.平均値±標準誤差.n=3.7*p<0.05vs対応する単剤処理群(Student’st検定).1298あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(132)傷害性について解析を行っているところである.加えて,セリシンを添加することにより,従来の添加剤自身の役割にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることは非常に重要である.したがって,セリシンが保存剤として知られるベンザルコニウム塩化物の保存性作用に対しどのような影響を与えるのかについても検討を行っているところである.以上,本研究では同一条件下において,抗緑内障点眼薬自身が有する細胞増殖抑制作用に対するセリシンの保護効果を明らかとした.これら細胞増殖抑制作用は,臨床においては涙液能低下などの他の作用により相乗的に角膜上皮細胞増殖抑制作用をひき起こすと考えられることから8),今回のinvitroの結果を基盤とした臨床結果のさらなる解析を行うことで,抗緑内障薬による角膜傷害性とセリシンの保護効果がより明確になるものと考えられた.文献1)徳田直人,青山裕美子,井上順ほか:抗緑内障薬が角膜に及ぼす影響:臨床とinvitroでの検討.聖マリアンナ医科大学雑誌32:339-356,20042)寺田聡:セリシンを利用した無血清培地の開発とその応用.生物工学会誌86:387-389,20083)NagaiN,MuraoT,ItoYetal:Enhancingeffectofsericinoncornealwoundhealinginratdebridedcornealepithelium.BiolPharmBul32:933-936,20094)長井紀章,伊藤吉將,岡本紀夫ほか:抗緑内障点眼薬の角膜障害におけるinvitroスクリーニング試験:SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた細胞増殖抑制作用の比較.あたらしい眼科25:553-556,20085)ToropainenE,RantaVP,TalvitieAetal:Culturemodelofhumancornealepitheliumforpredictionofoculardrugabsorption.InvestOphthalmolVisSci42:2942-2948,20016)TalianaL,EvansMD,DimitrijevichSDetal:Theinfluenceofstromalcontractioninawoundmodelsystemoncornealepithelialstratification.InvestOphthalmolVisSci42:81-89,20017)俊野敦子,岡本茂樹,島村一郎ほか:プロスタグランディンF2aイソプロピルウノプロストン点眼液による角膜上皮障害の発症メカニズム.日眼会誌102:101-105,19988)大規勝紀,横井則彦,森和彦ほか:b遮断剤の点眼が眼表面に及ぼす影響.日眼会誌102:149-154,2001***

医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2 例

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1287《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1287.1290,2010cはじめに緑内障は現在の本邦視覚障害原因疾患の首位である.2000年から2001年に日本緑内障学会が実施した大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)によれば,40歳以上の日本人の緑内障の有病率は5.0%であることが報告されている1).緑内障は,無症状のまま病状が進行することが多いという特徴を有し,多治見スタディでも緑内障と診断された人のほとんどは自覚症状がみられなかった1).実際には,自覚症状が現れたときにはかなり病状が進行している症例を経験することも少なくない.近年の緑内障治療の進歩は目覚ましく,治療の第一目標は一生涯の有効な視機能の温存であり,そのためには早期発見,早期治療で眼圧,視野の管理に努めることが一段と推奨,啓発されている.しかし,かなり病状が進行するまでまったく眼科受診をしていなかった症例もある.このような症例は決して少なくはなく,見えにくさを自覚し不便を感じていることが多い.当然,緑内障治療が最優先であるが,症例によっては並行してロービジョンケアを行うことで患者本人が困っている見えに〔別刷請求先〕西田朋美:〒359-8555所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科Reprintrequests:TomomiNishida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,4-1Namiki,Tokorozawa359-8555,JAPAN医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2例西田朋美*1三輪まり枝*1,2山田明子*1,2関口愛*1,2中西勉*2久保明夫*2仲泊聡*1,2*1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科*2国立障害者リハビリテーションセンター病院第三機能回復訓練部TwoCaseswithGlaucomacouldAdvanceLowVisionCarethroughMedicalCooperationTomomiNishida1),MarieMiwa1,2),AkikoYamada1,2),MeguSekiguchi1,2),TsutomuNakanishi2),AkioKubo2)andSatoshiNakadomari1,2)1)DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,2)DepartmentforVisualImpairment,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities緑内障はわが国の視覚障害原因の首位を占め,ロービジョン(LV)ケアが必要となる患者も多い.今回筆者らは緑内障治療を他院で継続中に国立障害者リハビリテーションセンター病院(以下,当院)LVクリニックを紹介受診され,医療連携で治療とLVケアを円滑に進めることができた緑内障患者2例を経験した.2例とも緑内障治療とLVケアを異なる眼科にて行っているが,情報提供書の活用により医療連携で治療と並行したLVケアへの導入が円滑であった.治療とLVケアを行う眼科は同一である必要はなく,医療連携を密に行うことで別々の眼科で担当することも可能であると考えられた.LVケアができる体制がない医療機関であっても,LVケアが必要な緑内障患者にとって医療連携によりLVケアを受けやすくなる可能性が示唆された.今後,より簡便な情報提供書のあり方や情報ネットワークの構築などが望まれる.GlaucomaistheleadingcauseofvisualimpairmentinJapan,andmanyglaucomapatientsrequirelowvisioncare.Twopatientswhoseglaucomawasfollowedupatanotherhospitalwereabletosmoothlyprogresstolowvisioncareatourhospital.Inthesetwocases,themedicalinformationletterwasusefulinthistransition.It’snotnecessarytousethesamehospitalforbothtreatmentandlowvisioncare.Evenifthehospitalisnotpreparedtoprovidelowvisioncare,glaucomapatientsrequiringsuchcarecanreceiveitwithsufficientmedicalcooperationandnetworking.Toadvancelowvisioncaremoresmoothly,greatercooperationandnetworkingsystemsamonghospitalsarerequired.Moreover,moreconvenientmethods,includingmedicalinformationletters,aredesirableforsmootherdevelopmentoflowvisioncare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1287.1290,2010〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,医療機関,連携.glaucoma,lowvisioncare,medicalcooperation,network.1288あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(122)くさを改善することが可能である2).しかし,医療機関によってはロービジョンケアにまで手が回らないという実情に直面しているところも多い3).逆にいまだ少数ではあるが,筆者らの施設(国立障害者リハビリテーションセンター病院;以下当院)のようにロービジョンケアを主なる専門領域とした医療機関も存在する.今回筆者らは,他院と当院との医療連携を利用することで緑内障治療とロービジョンケアを円滑に進めることができた緑内障患者の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕80歳,男性.原発開放隅角緑内障.以前よりT院にて緑内障加療中であったが,1994年7月14日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は,右眼0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°),左眼0.03(0.05×.10.5D)で,視野は両眼ともに湖崎分類IVであった.患者本人の困っていることは,読み書き困難,羞明であり,これらを改善したいということがおもなニーズであった(表2).初診から19年経過した現在,視力は右眼0.01(n.c.),左眼手動弁(n.c.)で,視野は両眼ともに湖崎分類bであった.眼圧コントロールのため,これまで緑内障手術を右眼計1回,左眼計8回,白内障手術を両眼ともに受けていた.現在も点眼と内服加療継続中であった.緑内障の治療は一貫してT院へ継続通院しており,T院と当院との連絡はロービジョンケア内容を含んだ情報提供書を用いていた(表3).この間,検査と評価の結果,3.5倍から7倍の拡大鏡を計3個,遮光眼鏡を計8個,矯正眼鏡を計7個処方した.表2症例1と2の治療とロービジョンケアの経過症例1症例2治療経過観血的・非観血的緑内障手術(右計1回,左計8回)点眼・内服加療継続中点眼・内服加療継続中ニーズ読み書き困難,羞明読み書き困難,階段歩行(下り),買い物LVケア拡大鏡,遮光眼鏡,白杖,歩行近用眼鏡,拡大鏡,タイポスコープLVケア経過.当科初診から計26回LVケア実施.この間,T院には毎月通院加療.現在も年に数回のLVケア実施.当科初診時のLVケアでニーズ改善あり.この間,U院で再経過観察.67歳時に拡大鏡の再評価希望でU院より再紹介.LVケア2回を行い,U院で再経過観察表1症例1と2の視力,視野検査結果症例1:80歳,男性.原発開放隅角緑内障症例2:67歳,男性.正常眼圧緑内障.T院にて継続加療中.61歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診.U院にて継続加療中.64歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診初診時視力RV=0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°)LV=0.03(0.05×.10.5D)RV=0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野初診から19年後初診から2年後視力RV=0.01(n.c.)LV=手動弁(n.c.)RV=0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野(123)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101289〔症例2〕67歳,男性.正常眼圧緑内障.以前よりU院にて緑内障加療中であったが,2005年9月29日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は右眼0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbであった.患者本人は読み書きに最も困っており,その改善がおもなニーズであった(表2).矯正眼鏡とタイポスコープを処方し,ニーズ改善がみられたためいったんロービジョンケア終了とした.その後,U院のみで経過観察をされていたが,ロービジョンケア希望で再度2009年5月28日(67歳時)にU院より当院を紹介され受診した.そのときの視力は,右眼0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbで視野は2年前の初診時と比べて大きな変化はなかった.眼圧コントロールは点眼治療のみを継続されていた.ロービジョンケアでは,すでに自分で持っていた拡大鏡の再評価を行い,その結果をU院に報告し,再度U院での経過観察を継続している.U院と当院との連絡はロービジョン内容を含んだ情報提供書で行った(表3).II考按近年,眼科領域におけるロービジョンケアに対する認識や関心は増加傾向にある3,4).しかし,いまだ十分に普及しているとはいえない.2008年の田淵らの全国の眼科教育機関を対象として行った調査報告によれば,ロービジョン外来開設率は58.7%であった5).2009年に筆者らは,眼科教育機関の長である教授自らのロービジョンケアに対する意識調査を行った.その結果,97%の教授がロービジョンケアへの関心があると回答し,80%の教授がロービジョンケアの教育指導は必要であると感じていた.一方,近年の緑内障治療は飛躍的に進歩し,緑内障患者の一生涯の有効な視機能保存が大きな治療目標となっている.急性期の病院には見え方に不便を感じ始めている緑内障患者も数多く通院していると考えられる.そのような症例のなかには,ロービジョンケアを受けることで少しでも見やすくなる症例が相当数含まれている可能性が高い2).しかし,同じ医療機関内でロービジョンケア対応が不可,あるいは仮に可でもより高い専門性を求められるようなロービジョンケアを要する症例の場合,その症例のロービジョンケアが滞ることも予想される.そのような場合,必ずしも緑内障治療とロービジョンケアを行う医療機関が同一である必要はない.たとえば,見えにくさの状態によっては仕事を継続することが困難で休職している場合がある.それまで従事していた職種によっては,退職前にケースワーカーなどの専門職のロービジョンケア介入によって退職せずに復職可能な場合もある.双方の医療連携を利用することで患者本人が困っていることを改善しながら緑内障治療を継続できる可能性がある.症例1は,緑内障治療はT院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で61歳時にT院より紹介され受診した.治療は一貫してT院に通院され,当院ではロービジョンケアを主目的に19年間,現在に至るまで不定期に通院している.初診時から羞明と読み書き困難の改善が主訴であり,特に羞明に困っていた.その改善のために複数の遮光眼鏡を試し,実際に患者の日常生活上で使用可能かを確認しながら19年間のうち計8個の遮光眼鏡処方を行った.読み書き困難に対しては,3.5倍から7倍の拡大鏡を3個処方し,自覚的な改善が得られた.また,矯正眼鏡として遠用,中間用,近用を合わせて計7個の眼鏡を作製した.各種光学的補助具の用途に応じた使い分けの希望が強く,処方数の多い結果となった.症例2は,緑内障治療はU院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で64歳時にU院より紹介され受診した.読み書き困難が主訴でタイポスコープと近見眼鏡処方で改善し,再びU院へ戻り通院加療を受けていた.その後,再度読み書き困難を自覚し,2009年5月,U院より当科を再紹介され受診した.すでに拡大鏡を持っており,各倍率の拡大鏡を試したが,結局はすでに持っていた近見眼鏡と拡大鏡を組み合わせることで読み書き困難が改善された.現在は再びU院で継続して経過観察を受けている.表3情報提供書………………………………….1290あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(124)一般的にロービジョンケアを進めるなかで,遮光眼鏡,拡大鏡,眼鏡などの処方は高頻度に行われる3,4).実際に,患者本人の日常生活で使用可能か否かを試しながら最終的に処方を行うことが望ましい.症例1のように処方数,種類などが多い場合,患者ニーズ改善に対して選定する補助具を数多くくり返し試す必要がある.このように時間がかかる対応を急性期病院で行うことは現実的には困難な状況であることが多いであろう.症例2では,結果的にはすでに患者本人が所有していたものを組み合わせることで見やすい環境を作ることが可能であったが,それを検証するのに時間が必要であり,症例1と同様に急性期病院で対応することがむずかしいことも想定される.緑内障は継続した治療と経過観察が重要であるが,病状の進行とともに患者のqualityoflife(QOL)が下がることもこれまでの研究で明らかとなっている.緑内障患者を対象にした視覚関連QOL研究において,25-itemNationalEyeInstituteFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25)日本語版を用いた調査で,視力0.7以上の群と比べ,0.6以下,0.3以下とそれぞれ有意にQOLが下がり,視野ではHumphrey自動視野計30-2プログラムのMD(標準偏差)値が.5dB未満になると,.5dB以上の軽度視野障害群に比べて有意にQOLが下がっていた7).今回の2症例とも,視野結果から推測する限り,かなり視覚的に低いQOLであったことが考えられる.緑内障患者におけるQOL低下の原因は,読み書き困難,羞明,歩行困難が代表的である.今回の2症例のニーズも同様であった.緑内障のロービジョンケアでは,眼圧と視野の管理に気を取られてロービジョンケア導入のタイミングを逸してしまいやすいことがある8).見えにくさを患者が訴えたとしても,忙しい眼科臨床の場で,しかも自院でロービジョンケア対応不可であれば,見え方に不自由さを感じている緑内障患者にロービジョンケアを行うのは現実的に困難であることが多いことが予測される.しかし,医療連携を用いてロービジョン対応可能な他の医療機関につなぐことでロービジョンケアを行うことが可能になる.ロービジョンケアはさまざまな施設の複数の職種が医療,福祉,教育などで関わり合うことが大切であり,連携の必要性が以前より謳われている9,10).しかし,その前に今回の2症例のように最初に患者に関わる眼科医として患者の見え方に関心をもち,患者自身が不自由さを自覚しているようであれば,近隣のロービジョンケア対応可能な医療機関へつなぐことが大切なのではないだろうか.特に緑内障患者が見えにくさを訴えた場合には,ロービジョンケア導入の好機を逃がさないためにも重要である.そのためには普段から情報を入手する必要があり,またロービジョンケアを行う側も提供している情報を常にアップデートしながら各医療機関へ情報を提供する体制を整えていくことが必要である.また.今回の2症例は,いずれも情報提供書を用いて医療機関の相互連絡を図ったが,より簡便で的確な方法を今後確立することでお互いに紹介しやすくなり,患者自身もロービジョンケアをより受けやすくなるのではないかと考えられる.ロービジョンケアが眼科臨床に根付きにくい理由として,保険点数化,費やされる時間,人手の問題などがよくあげられる.そのようななかでも,ロービジョンケアに取り組んでいる医療機関は徐々に増加傾向にある.今のロービジョンケア情報ネットワークには課題が多いのも事実であるが,今回の2症例のように緑内障治療を継続しながらであっても,医療連携を利用し治療とロービジョンケアを並行して行うことが可能である.同じ医療機関内で治療とロービジョンケアを行えれば患者にとってなお理想的だと考えられるが,それが困難な場合はロービジョンケアを行わないのではなく,別の医療機関と連携しロービジョンケアを行うことができる.今後,このような方法でも見えにくさで困っている緑内障患者のロービジョンケアをより進めやすくするために,眼科医に対するロービジョンケアの必要性の啓発,さらにはより簡便な手段での情報網整備の検討などが早急に求められ,必要とする患者がどのような形でも確実にロービジョンケアを受けられるような体制作りが望まれる.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)中村秋穂,細野佳津子,石井祐子ほか:井上眼科病院緑内障外来におけるロービジョンケア.あたらしい眼科22:821-825,20053)江口万祐子,中村昌弘,杉谷邦子ほか:獨協医科大学越谷病院におけるロービジョン外来の現状.眼紀56:434-439,20054)川崎知子,国松志保,牧野伸二ほか:自治医科大学附属病院におけるロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌8:173-176,20085)田淵昭雄,藤原篤史:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状.日眼会誌112:1096,20086)鶴岡三惠子,安藤伸朗,白木邦彦ほか:全国の眼科教授におけるロービジョンに対する意識調査.眼臨紀,印刷中7)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,20068)張替涼子:4)緑内障IV.年齢と疾患によるケアの特徴/3.疾患別特徴.眼科プラクティス14巻,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),文光堂,20079)山縣祥隆:ロービジョンケアにおける連携.日本の眼科77:1123,200610)簗島謙次:ロービジョンケアにおけるチームアプローチの重要性.眼紀57:245-250,2006

緑内障患者におけるNEI VFQ-25を用いたQuality of Lifeの評価

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)1145《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1145.1147,2010cはじめに近年,qualityoflife(QOL)の改善を目指した医療が注目されている.特に緑内障では慢性進行性疾患であり,長期予後を推定しながら治療計画を立てる必要があるため,緑内障による視機能がQOLに与える影響を知ることは大変重要である.the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)は眼疾患患者のQOLを測定する尺度として開発され,その信頼性,妥当性が検証され,確立されている1).日本語版VFQ-25を用いて,緑内障患者の視機能の質と視機能障害の程度における関係を検討した.I対象および方法対象は2008年12月から2009年8月までの間に苫小牧市立病院眼科で通院加療していた両眼に緑内障性視野異常がみられる83例(表1).男性41名,女性42名,年齢は30~84歳,平均年齢66.9歳.両眼ともに矯正視力が0.5以上で,過去に白内障手術,緑内障手術以外の内眼手術の既往がない症例を対象とした.病型は正常眼圧緑内障55例,原発開放隅角緑内障28例であった.緑内障以外に視力,視野に影響を及ぼす眼疾患のある患者は対象から除外した.視機能評価〔別刷請求先〕中村聡:〒053-8567苫小牧市清水町1-5-20苫小牧市立病院眼科Reprintrequests:SatoshiNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,1-5-20Shimizu-cho,Tomakomai-shi053-8567,JAPAN緑内障患者におけるNEIVFQ-25を用いたQualityofLifeの評価中村聡*1日景史人*1大黒浩*2田中尚美*1近藤隆徳*1*1苫小牧市立病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座EvaluatingQualityofLifeinGlaucomaPatients,Usingthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaireSatoshiNakamura1),FumihitoHikage1),HiroshiOoguro2),NaomiTanaka1)andTakanoriKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine方法:対象は緑内障患者83症例,視機能の質は日本語版the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)を用いて調査した.視力良好眼および不良眼の矯正視力,MD(標準偏差)値良好眼および不良眼のMD値,およびエスターマン(Esterman)による両眼視野のスコアとVFQ-25の各項目の関係について比較検討した.結果:視力不良眼の矯正視力と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」,MD値良好眼と「自立」,MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01).一方,日常視を重視したエスターマン両眼視野によるスコアとVFQ-25スコアの間には相関関係を認めなかった.結論:VFQ-25スコアは視力不良眼の矯正視力およびMD良好眼とMD不良眼のMD値と有意な相関を認めた.Weusedthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)toevaluatefeaturesofthequalityoflife(QOL)in83glaucomapatients.Questionsstronglyassociatedwithcorrectedvisualacuityinthebettereyerelatedto[generalvision],[mentalhealth],[rolelimitation]and[depend].Themeandeviation(MD)inthebettereyecorrelatedwith[depend]andtheMDintheworseeyecorrelatedwith[mentalhealth]and[depend](p<0.01).TherewaslittlecorrelationbetweenVFQ-25scoreandEstermanbinocularscore,whichwasweightedfordailylife.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1145.1147,2010〕Keywords:緑内障,視覚関連VFQ-25,生活の質,エスターマン両眼視野検査.glaucoma,the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire,qualityoflife,Estermanbinocularvisualfieldtest.1146あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(134)は矯正視力およびHumphrey自動視野計(HFA)中心30-2のプログラムによるMD(標準偏差)値と両眼視野検査であるEstermanvisualfieldtest(以下,エスターマン視野)によるスコア値を用いた.エスターマン視野はHFA内に内蔵されたアルゴリズムを使用し,両眼開放下で矯正レンズを使用せず施行した(合計120カ所の測定点からなり,0~100点で算出される).視機能の質はVFQ-25のアンケート用紙を用いて自己記入式で調査を行った.今回の研究では緑内障に関連があると考えられる7つの下位尺度「全体的見え方」,「近見視力による行動」,「遠見視力による行動」,「見え方による社会生活機能」,「見え方による心の健康」,「見え方による役割制限」,「見え方による自立」を用いた.これらの7つの下位尺度とエスターマンスコア,良いほうの眼の視力(矯正視力良好眼),悪いほうの眼の視力(矯正視力不良眼),良いほうのMD値(MD値良好眼),悪いほうのMD値(MD値不良眼)の相関関係を検討した.相関関係の解析にはPearsoncorrelationtestを用い,p<0.01を有意差ありとした.II結果VFQ-25による平均スコアは「全体的見え方」75.7±23.7,「近見視力による行動」77.3±20.1,「遠見視力による行動」74.4±17.0,「見え方による社会生活機能」71.2±19.2,「見え方による心の健康」70.9±22.6,「見え方による役割制限」69.3±27.5,「見え方による自立」84.7±17.5であった(図1).エスターマンスコアは94.5±9.9(23.3.100)であった.7つの下位尺度とエスターマンスコア,矯正視力良好眼,矯正視力不良眼,MD値良好眼,MD値不良眼の間の関係を表2に示す.エスターマンスコア,矯正視力良好眼とVFQ-25の7つの下位尺度の間には有意な相関関係がなかった.矯正視力不良眼と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」の間には有意な相関関係がみられた(それぞれp<0.01,p<0.01,p<0.001,p<0.01).また,MD値良好眼と「自立」(p<0.01),MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01,p<0.001).III考按Millsら2)は重症な緑内障患者においてVFQ-25とエスターマンスコアの間に中等度の相関関係がみられたと述べている.一方,Jampelら3)の調査ではエスターマンスコアの平均値は89.7±13.4点で,VFQ-25のスコアと有意な相関関係がなかったと述べている.Harrisら4)はエスターマン視野は指標輝度が高いために,ほとんどの症例で80点以上となってしまうことが問題点であり,重症ではない緑内障患者の評価にはあまり適していないと指摘している.本症例でもエスターマンスコアとVFQ-25の各下位尺度には有意な相関関係はみられなかった.その理由として,本研究の対象である矯正視力が0.5以上の緑内障患者でも,エスターマンスコアが高得点に集中してしまい,差がつかなかったことが一つの理由であると考えた.Jampelら5)はこれらの問題点を解決するため指標輝度をより低くした両眼視野検査を考案し,QOLとの関係を調べたが,それでも単眼視野のMD値のほうがQOLとより強く相関していたと結論づけている.またNelson-Quiggら6)は単眼ずつの視野を数学的に重ね合わせて両眼視野を推測する方法を提案し,BINOCULARSUMMATION(左右眼の閾値の二乗和の平方根),BESTLOCA-表2VFQ-25スコアと視機能の相関関係エスターマンスコア矯正視力良好眼矯正視力不良眼MD値良好眼MD値不良眼見え方0.170.140.29*0.180.26近見0.000.140.120.130.09遠見0.000.220.170.130.13社会生活0.020.030.180.210.10心の健康0.160.120.33*0.260.29*役割制限0.090.150.39**0.230.19自立0.200.150.29*0.33*0.37**(Pearsoncorrelationtest*:p<0.01,**:p<0.001)表1患者背景対象:男性41名,女性42名年齢:平均66.9±11.2歳(30~84歳)緑内障病型:原発開放隅角緑内障28例正常眼圧緑内障55例視野MD(dB):MD値良好眼.3.45±5.97(1.9~.27.82)MD値不良眼.8.28±7.58(1.15~.30.18)エスターマンスコア:94.5±9.9(23.3~100)屈折異常:右眼.2.67±3.15D(+4.0~.11.0D)左眼.2.47±2.95D(+3.0~.11.0D)100806040200自立役割制限心の健康社会生活遠見近見見え方スコア図1VFQ-25の各下位尺度の結果(135)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101147TION(左右いずれかの高いほうの閾値をその検査点の閾値として採用)が実際の両眼開放視野によく相関したと報告している.どのような症例にどのような両眼視野が適しているのか,今後のさらなる検討が必要であると考えられた.またViswanathanら7)は緑内障に特異的な質問票を用いたところエスターマンスコアとよく相関したと述べている.VFQ-25は眼疾患関連のQOLを評価する方法として確立されているが,中心視力が保たれて視野障害をもつ緑内障患者に対しての特異的な質問票でないことがエスターマンスコアとVFQ-25が相関しなかった2つ目の理由として考えられた.緑内障患者のQOLは良いほうの眼と悪いほうの眼のどちらがより関係しているかということについて,Magioneら8)は視力良好眼と視力不良眼,MD値良好眼とMD値不良眼とQOLの関係には大きな差がないと述べている.また山岸ら9)は視野の悪い眼が進行しても,視野の良い眼が進行してもその程度に比例してQOLは低下すると述べている.これに対してJampelら5)は緑内障患者のQOLはMD値良好眼より,MD値不良眼と強く相関していたと述べ,Turanoら10)は緑内障患者が障害物をよけて歩く速度は,MD値良好眼よりもMD値不良眼とより強い相関関係がみられたと報告している.浅野ら11)は視力良好眼のMD値が悪化するに従ってVFQ-25スコアが悪化するが,.20dBより悪い視野ではQOLに差がなくなると述べている.今回の筆者らの調査では矯正視力については視力良好眼よりも視力不良眼がQOLと強く相関し,視野については良いほうの視野よりも悪いほうの視野がVFQ-25の1項目だけより多く有意な相関関係がみられた.この結果は緑内障疾患がQOLに与える影響として特徴的であると考えられ,大変興味深い結果であった.VFQ-25の各下位尺度に関して,今回の研究では「近見」「遠見」のVFQ-25スコアと,エスターマンスコア,視力,視野の間に有意な相関関係はなかった.これは矯正視力0.5以上を調査対象としたため,中心視力が比較的良好であるために,「近見」「遠見」が損なわれていないと考えられた.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),JapaneseVersion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)MillsRP:Correlationofqualityoflifewithclinicalsymptomsandsignsatthetimeofglaucomadiagnosis.TransAmOphthalmolSoc96:753-812,19983)JampelHD:Glaucomapatients’assessmentoftheirvisualfunctionandqualityoflife.TransAmOphthalmolSoc99:301-317,20014)HarrisML,JacobsNA:IstheEstermanbinocularfieldsensitiveenough?PerimetryUpdate1995:403-404,19955)JampelHD,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Correlationofthebinocularvisualfieldwithpatientassessmentofvision.InvestOphthalmolVisSci43:1059-1067,20026)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCAetal:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,20007)ViswanathanAC,McNaughtAI,PoinoosawmyD:Severityandstabilityofglaucoma:patientperceptioncomparedwithobjectivemeasurement.ArchOphthalmol117:450-454,19998)MagioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20019)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,200910)TuranoKA,RubinGS,QuigleyHAetal:Mobilityperformanceinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2803-2809,199911)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,2006***

プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)1127《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1127.1132,2010c〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒791-0952松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime791-0952,JAPANプロスタグランジン点眼容器の使用性の比較兵頭涼子*1林康人*1,2,3鎌尾知行*1,2,3溝上志朗*2,3吉川啓司*4大橋裕一*2*1南松山病院眼科*2愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*3愛媛大学視機能再生学(南松山病院)寄附講座*4吉川眼科クリニックEvaluationofProstaglandinAnalogGlaucomaEyedropContainerUsabilityRyokoHyodo1),YasuhitoHayashi1,2,3),TomoyukiKamao1,2,3),ShiroMizoue2,3),KeijiYoshikawa4)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DivisionofVisualFunctionRegeneration,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic目的:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性を比較すること.対象および方法:南松山病院において,緑内障もしくは緑内障疑い症例として経過観察中の患者のうち,過去に緑内障点眼薬の使用経験がない者を対象とした.プロスタグランジン点眼薬として現在上市され,点眼容器の性状が異なる,キサラタンR(Xa),トラバタンズR(Tr),タプロスR(Tp)を用いた.各薬剤を無作為に割り付けた順で参加者に渡し,眼の上にセットした透明カップ内に3滴くり返し滴下させた.試験終了後,各容器の使用感(開栓操作,持ちやすさ,押しやすさ,および,薬液の落ち方)に関する聞き取り調査を行った.最後に総合的に最も使用感が優れ,将来使用したいと思われた容器を選択させた.結果は65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者に分けて解析した.結果:試験参加者は32人(男性14人,女性18人,平均年齢61.3歳),うち高齢者は18人,非高齢者は14人であった.高齢者において,開栓操作,容器の持ちやすさと押しやすさはTpがTr,Xaに比べて有意(Tukey多重検定,p<0.05)に優れていた.薬液の落ち方は高齢者においては,TpがXaより有意(Tukey多重検定,p<0.05)に高い評価を得たが,非高齢者群では有意差がなかった.最も優れた点眼容器として両群ともTpを選ぶものが有意(適合性のc2検定,p<0.05)に多かった.結論:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性はそれぞれ異なり,点眼治療におけるアドヒアランスに影響する可能性が示唆された.Purpose:Toevaluatetheusabilityofeyedropcontainersofthreeprostaglandin(PG)analogs.PatientsandMethods:Enrolledinthisstudywerepatients(14malesand18females,averageage61.3±17.2)withglaucomaorsuspectedglaucomaatMinamimatsuyamaHospitalwhowerenotundergoingeyedroptherapy.ThepatientswererandomlyprovidedoneofthreetypesofPGeyedropcontainers〔XalatanR(Xa),TRAVATANZR(Tz),andTaprosR(Tp)〕.Theywerethenaskedtoopenthecapsanddropadropletofthedrugthreetimesontoatransparentplasticcupthatwasheldabovetheireye.Theyweretheninterviewedastothefeelingsofopeningthecaps,handlingthebottles,squeezingthebottlesanddrippingadropletofthedrug.Theythenchosemultipletermsrelatingtoeyedropbottleusability.Finally,theychosethebestofthethreetypesofeyedropbottles.Statisticalanalysiswasperformedontheelderpatientgroup(.65years)andthenon-elderpatientgroup(<65years).Results:The32participantsweredividedintotheelderpatientgroup(18patients)andthenon-elderpatientgroup(14patients).Intheelderpatientgroup,thefeelingofopeningthecap,handlingandsqueezingtheTpbottlewassignificantlybetterthantheresultsforXaandTz(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05).Alsointheelderpatientgroup,thefeelingofdrippingadropletofTpwassignificantlybetter(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05)thantheresultsforXa,whereasnosignificantdifferencewasobservedbetweenthethreePGeyedropbottlesinthenon-elderpatientgroup.TheTpbottlewaschosenasthebestcontainerbymostmembersinbothgroups(chi-squaretestforgoodnessoffit,p<0.05).Conclusion:UsabilitydifferedamongthethreetypesofPGeyedropcontainers.Thesedifferencesmayaffecteyedroptherapyadhererance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1127.1132,2010〕1128あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(116)はじめにプロスタグランジン関連点眼薬(PG製剤)は眼圧下降作用と安全性により,緑内障治療の第一選択薬となった.一方,緑内障の有病率は加齢に伴い増加するため1~3)高齢者の緑内障点眼薬の使用頻度も必然的に増加する.以前,筆者らが行った調査により,点眼容器の構造や薬液の性状が使用感に深く関わり4),手指の精緻な運動能力に劣ると考えられる高齢者5)においては,長期使用を強いる緑内障点眼薬を不快に感じていることや,点眼薬間における使用感の差が大きいことが明らかとなった.すなわち,緑内障点眼治療のアドヒアランス向上のためには点眼容器のすぐれた使用性も影響し,特に高齢者ではその点に注目する必要性が高いと考えられる.そこで,現時点だけでなく,将来的にも使用頻度が高いと考えられるPG製剤の点眼容器の使用性に対するアンケート調査を行った.I対象および方法1.プロトコールの審査今回の調査にあたり,事前に南松山病院院内臨床研究審査委員会に所定のプロトコールを提出した.2.対象平成21年6月に南松山病院眼科緑内障外来を受診した年齢が20歳以上の緑内障または緑内障疑い患者のうち点眼治療開始前で,自己点眼が可能と判断され,かつ今回の調査に対し書面による承諾が得られたものを調査対象とした.3.点眼薬の準備点眼薬は図1Aに示す3剤〔キサラタンR点眼液0.005%(Xa),トラバタンズR点眼液0.004%(Tz),タプロスR点眼液0.0015%(Tp)〕を購入し,キャップ部分に(シュリンクフィルムなどによる)包装がある場合は,事前に.がしておき,キャップは一度緩めに軽く締め直した.今回の調査に直接参加しない担当者(Y.O.)が3種類の点眼薬をA,B,Cと無作為に記号化し,さらに,直接試験に参加しないもう1人の割付担当者(K.Y.)が試験開始前に無作為にA,B,Cの順番を割り付けした「割付表」に従い,試験担当者が,試験参加者に手渡した.4.点眼容器使用感の調査試験参加者は,渡された点眼容器それぞれを,キャップの開封から模擬的な点眼操作まで順に行い,試験参加者の眼の高さに試験担当者が保持した透明のカップの中に点眼液を3滴滴下した(図1B).そのうえで試験参加者にキャップの開閉,容器の持ちやすさ,押しやすさと薬液の落ち方について1点から5点での評価を求めた.さらに表1に示す筆者らが用意した16の評価項目について試験担当者が質問を行い,その回答を用紙に書き込んだ.5.データの解析各評価項目を点数化(1.5点)し,65歳以上を高齢者群と65歳未満を非高齢者群と定義して分類し,それぞれの群内で分散分析を行いTukey法により多重比較を施行した.使用したい点眼容器は順位1位のみを適合性のc2検定(仮Keywords:点眼容器,ユーザビリティ,プロスタグランジン関連点眼薬,緑内障,高齢者.eyedropcontainer,usability,prostaglandinanalog,glaucoma,elderlypatient.121086420aABCbc5(cm)20.2930.3940.4950.5960.6970.7980.年齢(歳)人数図1研究デザインと対象A:各点眼容器の形状(a:Xa型,b:Tz型,c:Tp型).B:模擬的な点眼操作.試験参加者は透明のカップの中に点眼液を3滴滴下する.C:試験参加者の年齢分布.(117)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101129説:各点眼容器が選択される確率は33.3%)を施行した.p<0.05の場合,有意であると判定した.16の評価項目はJMPVer8.0(SASインスティチュートジャパン社)を用いてコレスポンディング分析を行った.II結果1.対象承諾が得られ試験に参加したのは合計32名(女性18名,男性14名,平均年齢61.3歳)であった(図1C).非高齢者群14名と高齢者群18名の間で疾患〔緑内障と緑内障疑い(表2)〕と性別(表3)に有意差を認めなかった.2.キャップの開閉のしやすさキャップの開閉のしやすさは非高齢者群ではTp(平均4.1±0.9点)がXa(平均2.7±1.4点)に比べ有意に評価が高かったがTz(平均3.4±1.3点)の間に有意差を認めなかった.高齢者群ではTp(平均4.7±0.7点)がXa(平均3.1±1.4点)とTz(平均3.7±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.4±0.8点)がXa(平均2.9±1.4点)とTz(平均3.5±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図2).3.容器の持ちやすさと押しやすさの評価容器の持ちやすさの5段階評価は,非高齢者群はTp(平均4.3±0.9点)とTz(平均3.1±1.2点)の間に有意差を認めた.高齢者群でもTp(平均4.5±0.8点)はXa(平均3.1±1.3点)とTz(平均2.9±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均4.4±0.8点)はXa(平均3.2±1.1点)とTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図3A).容器の押しやすさの5段階評価は,非高齢者群は3種類の点眼容器間で有意差を認めなかった.高齢者群でTp(平均4.4±0.9点)はXa(平均3.5±1.2点)とTz(平均3.1±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.1±1.1点)はTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に表3試験参加者の性別と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体女性61218男性8614合計141832表1アンケート調査の内容の要旨問1.キャップの開閉のしやすさ;5段階評価(開閉しにくい:1点~開閉しやすい:5点)問2.容器A,B,Cの容器の持ちやすさ;5段階評価(持ちにくい:1点~持ちやすい:5点)問3.容器A,B,Cの容器の押しやすさ;5段階評価(押しにくい:1点~押しやすい:5点)問4.容器A,B,Cの薬液の落ち方;5段階評価(よくない:1点~丁度良い:5点)問5.お使いいただいた各容器について印象を教えて下さい.選択肢に○をつけていただいても結構ですし,自由に記載しても構いません.・キャップが開けやすい・キャップが開けにくい・キャップが大きい・キャップが小さい・硬い・柔らかい・押しやすい・押しにくい・持ちやすい・持ちにくい・液がなかなか落ちない・液がすぐに落ちてしまう・液の切れが悪い・容器が大きすぎる・容器が小さすぎる・何も気にならない・その他(自由記載)問6.ご病気の治療に使用することのできる目薬が複数ある場合で,全てのお薬の費用・効き目・副作用が同じとします.今回のように容器の使用感を試してからお薬を選べるとしたら,選んで使いたいですか?1.はい2.いいえ問7,問6で「はい」と答えた方へ,これからあなたが長期間に渡って継続的に点眼し続けるとしたら,どの容器を使いたいと思いますか?順番をつけてください.順番容器1番ABC2番ABC3番ABC表2試験参加者の疾患と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体緑内障疑い71118緑内障7714合計1418321130あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(118)評価点の平均が高値を示した(図3B).4.薬液の落ち方の評価薬液の落ち方は高齢者群でTp(平均4.3±1.0点)はXa(平均2.9±1.4点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均3.9±1.1点)はXa(平均3.2±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図4).5.コレスポンディング分析各点眼容器について16の評価項目(表1の問5)のうち,「液の切れが悪い」と「容器が大きすぎる」を選択した試験参加者はなく,その結果14項目にはチェックがついた.Xa54321XaABTz全体分散分析*p<0.0001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0001*p=0.0156Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0134多重比較(Tukey法)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0001多重比較(Tukey法)*p=0.0010*p=0.0002Tp54321XaTz全体分散分析*p=0.0031多重比較(Tukey法)*p=0.0020Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.3155(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0026多重比較(Tukey法)*p=0.0420*p=0.0022Tp図3容器の持ちやすさと押しやすさの評価A:容器が持ちにくいの1点から持ちやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.B:容器が押しにくいの1点から押しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.54321XaTz全体分散分析*p<0.001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0065Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0133多重比較(Tukey法)*p=0.0097Tp54321XaTz高齢者分散分析*p<0.0003多重比較(Tukey法)*p=0.0002*p<0.0250Tp図2キャップの開閉のしやすさの5段階評価開閉しにくいの1点から開閉しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.(119)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101131は「キャップが小さい」「容器が柔らかい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多く,Tzは「容器が押しにくい」「液が落ちない」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.Tpでは「容器が持ちやすい」「キャップが大きい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.さらに,これら多項目による分析結果を可視化するため,ポジショニングマップを作成した(図5).6.点眼容器の総合評価点眼薬の費用・効き目・副作用が同じ場合,容器の使用感を試してから選んで使いたいかの質問には全員が「はい」と回答した.そこで長期間継続的に点眼し続けるとした場合,最も使用したい点眼容器をとして選択したのは全体,非高齢者群,高齢者群ともTpが有意に多かった(それぞれp<0.00001,p=0.0021,p=0.0103)(図6).III考按緑内障診療における点眼治療の重要性6)については言を待たないが,その成否にはアドヒアランスが大きな鍵を握っている.以前に筆者らが報告した点眼薬使用感のアンケート調査4)では,点眼薬間で使用感に大きなばらつきがあり,特定の点眼薬で患者が点眼動作を不快に感じていることが示されており,また緑内障点眼容器の押し圧力計測では,1滴を落とすために必要とされる押し圧力が点眼薬により数倍も異なることが報告されている7).一方,わが国における高齢化は顕著であり,緑内障患者に占める高齢者の割合も今後さらに増加することが予想される.その治療には,眼圧下降作用の強さと全身に対する安全性より,PG製剤がこれから先も第一選択薬として処方される可能性が高い.よってPG製剤の使用感を高めるための取り組みは重要である.今回のアンケート調査では,経験に基づく先入観を避けるため,点眼薬の使用経験がない集団を対象として選択したが,使用感を真剣に吟味できる集団として,近日中に点眼薬54321XaTz全体分散分析*p=0.0322多重比較(Tukey法)*p=0.0299Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.8865(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0066多重比較(Tukey法)*p=0.0050Tp図4薬液の落ち方の評価薬液の落ち方が良くないの1点から丁度良いの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.c1XaTzTpキャップが開けにくいキャップが開けやすいキャップが小さいキャップが大きい液が落ちない液が落ちる何も気にならない容器が押しにくい容器が押しやすい容器が硬い容器が持ちにくい容器が持ちやすい容器が柔らかい容器が小さすぎるc2-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0図5コレスポンディング分析によるポジショニングマップ3種類の点眼容器●と筆者らが準備した点眼容器の性状を示す16項目■との距離で表現している.距離が近いほど関係が深い.16項目のうち2項目については選択した試験参加者が存在せず,図には示されていない.全体*p<0.00001Tp*(23)Xa(4)Tz(5)Xa(2)Tz(3)Xa(2)Tz(2)Tp*(13)Tp*(10)高齢者*p=0.0021非高齢者*p=0.0103図6点眼容器の総合評価1132あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(120)治療を開始する予定である患者を調査の対象としたため,多数の参加者は得られなかった.にもかかわらず,今回,高齢者群では3種類のPG製剤間でキャップや容器の使用感について明らかな違いが認められたことは興味深く,高齢者では各容器の構造がその使用性に,より鋭敏に反映されることが窺えた.これは,非高齢者では問題にならない程度であっても,高齢者でみられる指先の力などの衰えが容器の扱いにくさ,すなわち,Xaのキャップの開閉のしにくさや,Tzの容器の持ちにくさ,押しにくさに結びつくものと考えられる.一方,今回の点眼容器の使用性調査で高齢者,非高齢者ともに平均スコアが高値を示し,使用感が良好であると考えられたのはTp型の容器であった.Tp型の容器は他の容器と異なり把持部に凹み(ディンプル12))を有しているため,点眼時の指先の操作がしやすいためと考えた.このような点眼容器の構造上の工夫は,年齢を問わず,その使用感の向上に寄与するが,特に,高齢者ではその影響が大きいものと考えた.点眼薬の円滑な使用にあたっては点眼指導8~10)や点眼補助具の開発11)も必要不可欠である.しかし,今回の結果から高齢者では点眼治療のアドヒアランスの向上のために,患者の要望や意見を反映した点眼容器の作製が求められるべきであることが強く示唆された.使用性の改善をめざした点眼容器のユニバーサルデザイン化が大いに望まれる.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:RiskfactorsforopenangleglaucomainaJapanesepopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20063)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20054)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20075)MathiowetzV,KashumanN,VollandGetal:Gripandpinchstrength:Normativedataforadult.ArchPhysMedRehabil66:69-74,19856)青山裕美子:教育講座緑内障の点眼指導とコメディカルへの期待緑内障と失明の重み.看護学雑誌68:998-1003,20047)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:圧力センサーによる緑内障点眼剤の点眼のしやすさの評価.あたらしい眼科27:99-104,20108)吉川啓司:〔緑内障診療のトラブルシューティング〕薬物治療点眼指導の実際.眼科診療プラクティス98:119-120,20039)木下眞美子:自己点眼継続に向けた高齢者への点眼指導後の効果.眼科ケア6:388-392,200410)福本珠貴,渡邊津子,井伊優子ほか:〔患者さんにまつわる小さな「困った」対処法50〕点眼指導で起こりうる小さな「困った」対処法.眼科ケア8:242-248,200611)沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護学雑誌69:366-368,200512)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,2005***

タフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1115《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1115.1118,2010cはじめに今日の緑内障薬物治療において,強力な眼圧下降を有し,全身的な副作用が少ないプロスタグランジン系眼圧下降薬が治療の中心となっている1).タフルプロスト点眼液は,わが国において2008年12月に発売されたプロスタノイドFP受容体に対して高い親和性を示す新しいプロスタグランジン系眼圧下降薬である2).緑内障治療において,眼圧下降が最も重要であることは周知のとおりであるが,眼圧下降が十分であるにもかかわらず,視野障害が進行する症例が存在する.眼圧以外の緑内障性視神経障害進行因子の一つとして眼循環障害が示唆されている.緑内障患者において眼循環が障害されているという報告3,4)や,Ca(カルシウム)拮抗薬であるニルバジピンを投与すると,プラセボ群に比べ,眼循環が有意に改善され,視野のMDスロープが緩やかであったという報告もある5).タフルプロストは強力な眼圧下降作用6,7)に加え,動物において眼循環を増加させることが報告されている8,9).しかしながら,緑内障患者における眼血流動態への影響は明らか〔別刷請求先〕石垣純子:〒462-0825名古屋市北区大曽根三丁目15-68眼科三宅病院Reprintrequests:JunkoIshigaki,M.D.,MiyakeEyeHospital,3-15-68Ozone,Kita-ku,Nagoya-city462-0825,JAPANタフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討石垣純子*1三宅三平*1張野正誉*2三宅謙作*1*1眼科三宅病院*2淀川キリスト教病院EffectofTafluprostonChoroidalBloodFlowinGlaucomaJunkoIshigaki1),SampeiMiyake1),SeiyoHarino2)andKensakuMiyake1)1)MiyakeEyeHospital,2)YodogawaChristianHospital目的:原発開放隅角緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼液の眼血流への影響をlaserDopplerflowmetry(LDF)により検討した.対象および方法:新規に緑内障治療開始または4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障12例20眼を対象とした.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)であった.タフルプロスト点眼前に,眼圧,血圧,脈拍およびLDFによる黄斑部の脈絡膜血流量を測定した.タフルプロストは1日1回8週間点眼し,点眼前後の眼圧,眼血流,血圧,脈拍および眼灌流圧を比較した.結果:眼圧は点眼前に比べ有意に低下した.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の脈絡膜血流量は,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比べ有意に増加した.結論:タフルプロスト点眼により緑内障患者において脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.Purpose:Weevaluatedtheeffectoftafluprostonocularbloodflowinglaucomapatients,usinglaserDopplerflowmetry(LDF).SubjectsandMethods:Recruitedforthisstudywere20eyesof12primaryopen-angleglaucomapatientsbeingnewlytreatedorhavingbeenuntreatedformorethan4weeks.Agewas53.3±15.0years(mean±SEM).Beforetafluprostinstillation,wemeasuredintraocularpressure(IOP),brachialarterybloodpressureandpulserate.Wealsomeasuredchoroidalmicrocirculationinthefovea,usingLDF.Tafluprostwasinstilledoncedailyfor8weeks.WecomparedIOP,ocularbloodflow,brachialarterybloodpressure,pulserateandocularperfusionpressurebeforeandaftertafluprosttreatment.Results:TreatmentwithtafluprostresultedinasignificantdecreaseinIOP.Choroidalbloodflownormalizedtobaselineshowedsignificantincreaseat4and8weeksaftertreatment(117.8±9.7%and123.5±13.3%,respectively).Conclusion:Tafluprostmayincreasechoroidalmicrocirculationinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1115.1118,2010〕Keywords:タフルプロスト,緑内障,眼血流,脈絡膜,laserDopplerflowmetry(LDF).tafluprost,glaucoma,ocularbloodflow,choroid,laserDopplerflowmetry(LDF).1116あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(104)となっていない.今回筆者らは,緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼前後の中心窩脈絡膜微小循環をlaserDopplerflowmetry(LDF)を用いて検討した.I対象および方法対象は新規に緑内障治療開始,もしくは4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障(広義)12例20眼(男性5例10眼,女性7例10眼)である.症例の内訳は,原発開放隅角緑内障(狭義)1例2眼,正常眼圧緑内障11例18眼であった.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)(37~77歳),等価球面度数は.3.9±3.4D(.9.75~+0.25D)であった.喫煙者,眼血流測定が不可能な症例(眼振,固視不良,散瞳不良,高度白内障など),研究開始前6カ月以内に内眼手術,レーザー手術の既往があるもの,研究期間中に血流動態に影響を与える薬剤(降圧薬,利尿薬,抗血小板凝集薬,高脂血症治療薬,血栓溶解剤,心疾患治療薬,動脈硬化治療薬,糖尿病治療薬,末梢循環改善薬など)の追加,変更,中止が必要な症例は除外した.本研究は,医療法人湘山会眼科三宅病院倫理審査委員会の承認を受け,事前に自由意志に基づく文書による同意を得たうえで実施した.検査初日(点眼前)に,眼圧(Goldmann圧平眼圧計),上腕動脈血圧(自動血圧計),脈拍および眼血流を測定した.点眼前,点眼4週後および8週後の検査は午前のほぼ同時刻に実施した.点眼4週後および8週後の各検査は,点眼2~5時間後であった.眼圧測定および眼血流測定は研究期間中を通じ同一検者が実施した.タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,大阪)は1日1回朝点眼した.眼血流はLDF(OculixSarl,Arbaz,Switzerland)にて測定した.LDFはレーザー光を組織に照射し,組織中を移動する赤血球にあたってランダムに反射してきた光を解析することで毛細血管の相対的組織血流量を測定できる機械であり,その測定の原理,方法は既報のごとくである10,11).0.5%トロピカミド/0.5%フェニレフリン点眼液(ミドリンPR点眼液0.4%,参天製薬,大阪)を用いて散瞳させ,LDFにて670nm,40μWのダイオードレーザーを中心窩150μmの範囲に照射した.組織中を流れる赤血球にあたって反射したレーザー光を光電子倍増管で感知し,血流解析装置を通して得た中心窩脈絡膜毛細血管板のFlow(血流量),Velocity(平均血流速度)およびVolume(組織中を移動する赤血球数)をコンピュータに連続的に記録した.なお,これらのパラメータの間には,Flow=constant(比例定数)×Velocity×Volumeの関係があることが報告されている12).血流測定中の固視はLDFが組み込まれた眼底カメラにて確認し,各パラメータは3回測定分の平均値を採用した.点眼前後の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,眼灌流圧(2/3平均血圧.眼圧),脈拍,血流パラメータについて,反復測定一元配置分散分析(repeatedANOVA)およびDunnett多重比較検定にて検討した.平均血圧は拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)にて算出した.危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,LDFの血流パラメータは相対値であるため,各症例について点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の変化量を算出した.II結果本測定法における中心窩脈絡膜Flow,VelocityおよびVolumeの変動係数は,それぞれ7.3%,8.9%および12.5%であった.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flowは,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比し有意に増加した(p<0.001)(図1,表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVelocityは105.6±10.5%および105.6±14.1%であり,点眼前値と比較し有意な変化はなかった(表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVolumeは118.1±27.1%および119.4±20.8%と点眼前に比し有意な増加を認めた(p<0.05,p<0.05)(表1).眼圧は点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,16.5±1.9mmHg,14.5±2.1mmHgおよび14.1±2.8mmHgであり,投与前に比べ有意な眼圧下降が認められた(p<0.01)表1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeの推移4週8週Flow(%)117.8±9.7***123.5±13.3***Velocity(%)105.6±10.5105.6±14.1Volume(%)118.1±27.1*119.4±20.8*点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeを算出した.平均±標準偏差.*p<0.05,***p<0.001.901001101201301400週4週8週Flow(眼血流量)(%)******図1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow(血流量)の推移点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のFlowは点眼前に比べ有意に増加した(p<0.001).平均±標準偏差.***p<0.001.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101117(図2).点眼4週後および8週後の点眼前からの眼圧変化値はそれぞれ1.9±2.0mmHgおよび2.2±2.3mmHg,眼圧変化率はそれぞれ11.1±11.6%および13.5±13.7%であった.収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍は点眼前後で有意な変化はなかった.眼灌流圧は,点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,43.6±7.5mmHg,45.9±7.1mmHgおよび45.8±7.2mmHgであり,点眼前に比べ有意な変化はなかった(表2).III考察本研究においてタフルプロストの点眼により,4週後および8週後において有意なFlowおよびVolumeの増加が認められた.Velocityについては,有意な変化を認めなかった.本研究では,LDFを用い,中心窩の脈絡膜微小循環を検討した.LDFは測定面積が直径150μmと小さいため,固視が最も良好な中心窩での測定を実施した.中心窩には網膜血管がないため,網膜循環の影響を回避してその下の脈絡膜循環を測定できることがわかっている13).緑内障の本質が進行性の視神経障害であることを考えれば,緑内障に関わる眼循環測定の対象として,視神経,視神経乳頭およびその周辺組織が最も重要であると考えられるが,脈絡膜循環においても緑内障患者で障害されているという報告がある14,15)ことから,緑内障患者において脈絡膜微小循環の改善を示唆した本研究は臨床的に意義があると考える.プロスタグランジン系眼圧下降薬の緑内障患者への眼血流への影響については,眼循環が改善した16,17),あるいは不変であった18,19)との報告があり意見の一致はみていない.またLDFでプロスタグランジン系眼圧下降薬の眼血流への影響を評価したものはない.タフルプロスト点眼が眼循環に及ぼす影響については,動物実験による報告がある.Izumiら8)は,ネコにおいて,タフルプロスト点眼後明らかな網膜循環の増加があったと報告している.石田9)は,有色家兎において乳頭微小循環はタフルプロスト点眼28日後,点眼前に比べ明らかに増加したことを報告している.今回の検討結果は,これら過去の報告を支持するものと考えられる.プロスタグランジン系眼圧下降薬が眼循環を増加させる機序については,不明な点も多いものの,プロスタグランジンF2aやラタノプロストがウサギおとがい下静脈を弛緩させる20)という報告や,ラタノプロストがウサギ毛様体動脈を弛緩させるとの報告がある21).また,タフルプロストは容量依存性カルシウムチャネルを通した細胞外カルシウム流入を阻害することにより,ウサギ毛様体動脈平滑筋を弛緩させるとの報告がある22).脈絡膜微小循環について検討した本研究では,FlowおよびVolumeはタフルプロスト点眼前に比べ120%程度顕著に増加したのに対し,Velocityの増加量は105%程度とわずかであった.一方,網膜主幹動脈について検討したIzumiら8)はタフルプロスト点眼後,FlowおよびVelocityは有意に増加し,Diameterには影響がなかったと報告している.以上のことから,タフルプロストの眼血流への作用として,脈絡膜微小循環においては血管を拡張して血流量を増加させ(速度には影響なし),太い血管である網膜主幹動脈においては血流速度を上昇させる(血管径には影響なし)可能性が考えられる.また,全身循環パラメータに顕著な変化が認められないことから,タフルプロストによる眼血流増加は全身血圧の影響を受けたものではないと考えられる.眼血流が増加する機序としては,薬剤の血管拡張作用のほか,眼圧低下による眼灌流圧上昇のための血流量増加があげられる.前者は薬剤の直接作用,後者は間接作用と考えられる.タフルプロスト点眼後,眼灌流圧への作用はないことから,眼血管系への直接作用により眼血流増加を示したものと考えられた.タフルプロストの点眼により,4週後から有意な眼圧下降を示した.4週後および8週後の眼圧下降率はそれぞれ11.1±11.6%,13.5±13.7%であり,桑山らの報告27.6±9.6%7)と比較して低い.一因として,点眼前の平均眼圧が,桑山らの報告が23.8±2.3mmHgであったのに対し,本研究では16.5±1.9mmHgと低値であることが考えられる.対象患者について,桑山らの報告が原発開放隅角緑内障(狭義)または高眼圧症であったのに対し,本研究では対象20眼中,原表2タフルプロスト点眼前後の収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍,眼灌流圧の推移0週4週8週収縮期血圧(mmHg)120.3±12.3120.3±15.0120.1±13.9拡張期血圧(mmHg)74.1±11.774.0±12.772.6±12.9脈拍(回/分)65.3±5.666.0±7.865.3±6.2眼灌流圧(mmHg)43.6±7.545.9±7.145.8±7.2収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍および眼灌流圧いずれも点眼前後で有意な変化はなかった.1012141618200週4週8週眼圧(mmHg)*****図2タフルプロスト点眼による眼圧推移タフルプロストの点眼4週後および8週後において点眼前値からの有意な眼圧下降を示した.平均±標準偏差.**p<0.01,***p<0.001.1118あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(106)発開放隅角緑内障(狭義)2眼,正常眼圧緑内障18眼であった.また本研究の眼圧は,点眼2.5時間後に測定したが,同じプロスタグランジン系眼圧下降薬のラタノプロストの眼圧が最低値(ピーク時眼圧)となるのは点眼8時間後であり23),タフルプロストも同時間帯にピーク時眼圧が得られると考えられることから,眼圧測定時間が変われば,さらなる眼圧下降が得られる可能性はある.今回の検討結果から,タフルプロスト点眼により緑内障患者において眼圧下降とともに脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.基剤の関与の有無および測定部位別の詳細な検討を含め,今後多数例を対象とした長期的な検討が必要である.なお,本研究において,筆者らは,タフルプロスト点眼液の製造販売会社などとの間に利害関係はないことを明記する.文献1)相良健:緑内障の治療・薬物治療.あたらしい眼科25(臨増):142-144,20082)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:Theimpactofocularbloodflowinglaucoma.ProgRetinEyeRes21:359-393,20024)遠藤要子,伊藤典彦,榮木尚子ほか:正常眼圧緑内障の傍網膜中心窩毛細血管血流速度.あたらしい眼科25:865-867,20085)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,20086)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF(2alpha)derivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20037)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20088)IzumiN,NagaokaT,SatoEetal:Short-termeffectsoftopicaltafluprostonretinalbloodflowincats.JOculPharmacolTher24:521-526,20089)石田成弘:プロスタグランジン関連薬─基礎─.眼薬理22:27-30,200810)北西久仁子,張野正誉:LaserDopplerFlowmetry.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p60-64,金原出版,200411)RivaCE,CranstounSD,GrunwaldJEetal:Choroidalbloodflowinthefovealregionofthehumanocularfundus.InvestOphthalmolVisSci35:4273-4281,199412)RivaCE:BasicprinciplesoflaserDopplerflowmetryandapplicationtotheocularcirculation.IntOphthalmol23:183-189,200113)吉田晃敏,長岡泰司:Flowmeter─視神経・脈絡膜─.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p74-77,金原出版,200414)DuijmHF,vandenBergTJ,GreveEL:Choroidalhaemodynamicsinglaucoma.BrJOphthalmol81:735-742,199715)YamazakiS,InoueY,YoshikawaK:Peripapillaryfluoresceinangiographicfindingsinprimaryopenangleglaucoma.BrJOphthalmol80:812-817,199616)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye(Lond)22:363-369,200817)AlagozG,GurelK,BayerAetal:Acomparativestudyofbimatoprostandtravoprost:effectonintraocularpressureandocularcirculationinnewlydiagnosedglaucomapatients.Ophthalmologica222:88-95,200818)KozOG,OzsoyA,YarangumeliAetal:Comparisonoftheeffectsoftravoprost,latanoprostandbimatoprostonocularcirculation:a6-monthclinicaltrial.ActaOphthalmolScand85:838-843,200719)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandomizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,200520)AstinM,StjernschantzJ:MechanismofprostaglandinE2-,F2alpha-andlatanoprostacid-inducedrelaxationofsubmentalveins.EurJPharmacol340:195-201,199721)IshikawaH,YoshitomiT,MashimoKetal:Pharmacologicaleffectsoflatanoprost,prostaglandinE2,andF2alphaonisolatedrabbitciliaryartery.GraefesArchClinExpOphthalmol240:120-125,200222)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200823)三嶋弘,保手浜靖之:健常人におけるPhXA41(ラタノプロスト)点眼液単回点眼の影響─臨床第I相試験─.基礎と臨床29:4071-4084,1995***

点眼容器の形状のハンドリングに対する影響

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1107《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1107.1111,2010cはじめに眼疾患の治療において点眼薬の役割は大きい.特に緑内障のように自覚症状に乏しく,しかし,進行性の視機能障害を認める疾患では,その治療の成否には点眼薬の継続的使用,すなわちアドヒアランスが大きく関与する1~3).アドヒアランスに影響を及ぼす要因は多数あるが,点眼回数4,5)や点眼薬剤数6~9),点眼容器の使用性10,11)なども関連する要因の一つにあげられている.このうち,点眼容器の使用性には,キャップの開閉や容器の把持,内容液の滴下などのハンドリングも影響する10).しかし,点眼容器の形状とハンドリングに関しての検討は十分にされていない.そこで,今回,緑内障を対象としてすでに臨床使用されている点眼薬を用いた模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状の違いがハンドリングに及ぼす影響についてインタビュー調査した.また,点眼薬の使用が短期間に限られ,かつ明らかな自覚症状を伴う季節性アレルギー性結膜炎についても同様の調査を行い,結果を比較検討したので報告する.I対象および方法2009年5月から1カ月間に岡山大学病院および笠岡第一病院で,点眼治療期間が1年以上にわたる緑内障と,点眼治〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN点眼容器の形状のハンドリングに対する影響高橋真紀子*1,2内藤知子*2大月洋*2溝上志朗*3吉川啓司*4*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4吉川眼科クリニックInfluenceofEyedropBottleShapeonHandlingMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),HiroshiOhtsuki2),ShiroMizoue3)andKeijiYoshikawa4)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic緑内障50例を対象に5種類の点眼薬(リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)の容器を用いて模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングに及ぼす影響を調査した.同様に季節性アレルギー性結膜炎50例に対しても調査を行い,その結果を比較した.ハンドリングは,緑内障,季節性アレルギー性結膜炎とも,キャップ,容器の把持する部分が長い点眼容器が高スコアを示した.さらに胴部に凹みがあるタプロスRの点眼容器は,他の容器に比べ有意に高スコアを示した(p<0.05~p<0.0001,Tukey法).また,今後の治療時に使用希望する点眼容器としてタプロスRの点眼容器が有意に第一に選択された(結膜炎:p=0.0001,緑内障:p<0.0001,適合性のc2検定).Thisinstillationtrial,involving50glaucomapatientsand50seasonalallergicconjunctivitispatients,wascarriedoutusing5kindsofeyedropbottles(RizabenR,LivostinR,XalatanR,TRAVATANZRandTaprosR);theinfluenceofeyedropbottleshapeonhandlingwasalsoinvestigated.Inboththeglaucomaandconjunctivitispatients,thebottlewithalongcapandthebottletoholdreceivedhighscoresintermsofhandling.Inaddition,theTaprosRtypebottle,withthedentinthebody,receivedhigherscoresthanalltheotherbottles(p<0.05~p<0.0001,Tukeytest).Inthechoiceofeyedropbottletousefortreatmenthenceforth,theTaprosRtypebottlewasthetopchoicebyasignificantmargin(conjunctivitis:p=0.0001,glaucoma:p<0.0001,chi-squaretestwhereappropriate).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1107.1111,2010〕Keywords:点眼容器,ハンドリング,緑内障,結膜炎.eyedropbottle,handling,glaucoma,conjunctivitis.1108あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(96)療を1カ月以内で終了した季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,模擬点眼操作施行後に,使用した点眼容器のハンドリングについてインタビュー調査した.対象には年齢40~75歳で,かつ,書面での同意が得られた症例を組み入れ,一方,手術や緊急的な処置の必要のある症例,明らかな重篤な眼疾患を有する症例,他の眼疾患に対し本試験で使用する容器と同形状の容器を使用中の症例は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院倫理委員会の承認を得たうえで実施した.点眼容器(図1)には実薬が装.されたプロスタグランジン関連緑内障薬3種類(キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)およびアレルギー性結膜炎薬2種類(リザベンR,リボスチンR)を用いた.ラテン方格により割り付けた(YK)試験順序に従い,模擬点眼操作(キャップを開栓し,それぞれが最も好ましい高さで把持した点眼容器から,薬液をあらかじめ用意したシャーレに滴下)を施行した.なお,試験に先立ち,1名の眼科専門医(TM)が点眼容器のキャップ部分にシュリンクフィルムなどによる包装がある場合はこれを.離し,さらに,キャップは一度開栓し,再び閉栓した.また,点眼容器は10名の試験が終了した時点で,同様の準備を施行した未使用の容器に交換した.模擬点眼操作後,眼科専門医(TM)が点眼容器のハンドリングを中心としたインタビュー調査を行った.まず,ハンドリングに関しては,1.キャップの開閉のしやすさ,2.容器の持ちやすさ,3.容器の押しやすさ,4.薬液の落ち方の4項目に分けて調べた.それぞれの項目について,大変良い,良い,意識しない,やや悪い,悪い,の5段階での評価を求め,これをスコア化した(大変良い:スコア5,良い:スコア4,意識しない:スコア3,やや悪い:スコア2,悪い:スコア1).つぎに,その薬効,薬価などが同一と仮定した場合,今後の治療時に使用を希望する点眼容器の選択を調べ,さらに,点眼容器への自由意見も聴取した.目標症例数は各疾患50例とし,得られた結果はデータ収集施設とは独立しJMP8.0(SAS東京)を用い,Tukey法,c2検定,Fisherの直接確率により解析(MS)した.有意水準はp<0.05とした.II結果緑内障50例(男性26例,女性24例,平均年齢62.7±9.5歳),結膜炎50例(男性16例,女性34例,平均年齢50.9±10.7歳)が試験に参加し対象となった.1.各点眼容器のキャップ・容器のサイズおよび形状(図1)点眼容器のキャップのサイズ(最長部の横径×縦径)は,タプロスRが最も大型で,キサラタンRが最も小型であった.また,リボスチンR,トラバタンズRはキャップ先端の形状が凸であった.一方,容器のサイズはタプロスRが最も大型で,その胴部は凹んでいた.容器の横径はリザベンRが最も小型で,その胴部は円柱状であり,キサラタンR,トラバタンズRの容器は小型で,胴部は平坦であった.2.点眼容器のハンドリング評価ハンドリングについての5段階スコアを点眼容器間で多重比較(Tukey法)した(図2).キャップの開閉のしやすさ(図2a)の平均スコアは,結膜炎群ではタプロスR(3.9±1.0),リボスチンR(3.9±1.0),リザベンR(3.7±1.1),トラバタンズR(3.5±1.1),キサラタンR(2.8±1.3)の順であり,緑内障群でも同様であった(タプロスR:3.9±1.0,リザベンR:3.7±0.9,リボスチンR:3.2±0.8,トラバタンズR:3.0±0.9,キサラタンR:2.7±1.1).両疾患群ともキサラタンRのスコアが最も低く,特に結膜炎群リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR1.81.82.22.61.91.7(単位:cm)1.72.02.55.42.12.62.52.05.34.95.25.71.12.0キャップのサイズ・形状容器のサイズ・形状図1使用点眼容器のサイズおよび形状(97)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101109においては他の容器に比べ有意に低値を示した(p<0.05~p<0.0001).一方,緑内障群ではリボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRのスコアがタプロスR,リザベンRに比べ有意に低かった(キサラタンRvsタプロスR,リザベンR:p<0.0001,トラバタンズRvsタプロスR:p<0.001,トラバタンズRvsリザベンR,リボスチンRvsタプロスR:p<0.01,リボスチンRvsリザベンR:p<0.05).容器の持ちやすさのスコア(図2b)は,結膜炎群ではタプロスR,リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様であった.両疾患群ともタプロスRのスコアが,他の容器に比べ有意に高値を示した(p<0.01~p<0.0001).容器の押しやすさのスコア(図2c)は,結膜炎群ではタプロスR,キサラタンR,リボスチンR,リザベンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様の傾向であった.両疾患群とも,タプロスRのスコアがリザベンR,トラバタンズRに比べ有意に高かった(p<0.05~p<0.001).さらに,緑内障群ではリボスチンRのスコアが,キサラタンR,タプロスRに比べ有意に低値を示した(p<0.0001).図2点眼容器のハンドリング評価:平均値±標準偏差:結膜炎群,:緑内障群.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001:Tukey法.ただし,すべてのTukey法の結果をグラフ内に示すと煩雑になるため,a,cは主要な結果のみグラフ内に示し,他は本文中に結果を示した.Riz:リザベンR,Liv:リボスチンR,Xal:キサラタンR,Tra:トラバタンズR,Tap:タプロスR.(点)RizLivXalTraTap***********54321(点)RizLivXalTraTap54321*************************(点)RizLivXalTraTap54321***********(点)RizLivXalTraTap54321***RizLivXalTraTap結膜炎3.7±1.13.9±1.02.8±1.33.5±1.13.9±1.0緑内障3.7±0.93.2±0.82.7±1.13.0±0.93.9±1.0a:キャップの開閉のしやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.1±1.03.2±1.13.3±1.13.0±1.33.7±1.0緑内障3.2±0.82.7±0.83.6±1.03.1±1.03.9±1.0c:容器の押しやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±0.93.3±0.83.2±1.13.1±1.24.2±0.9緑内障3.4±0.83.0±0.73.5±0.93.3±1.04.1±0.9b:容器の持ちやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±1.03.4±1.13.2±1.03.5±1.13.7±1.0緑内障3.2±0.82.8±0.73.1±0.93.2±0.83.3±0.8d:薬液の落ち方1110あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(98)薬液の落ち方のスコア(図2d)は,結膜炎群ではタプロスR,トラバタンズR,リボスチンR,リザベンR,キサラタンRの順で,緑内障群ではタプロスR,リザベンR,トラバタンズR,キサラタンR,リボスチンRの順であった.結膜炎群では明らかな容器間の差を認めなかったのに対し,緑内障群はリボスチンRのスコアが,リザベンR,タプロスRに比べ有意に低く(p=0.0387,p=0.0057),容器の違いによる薬液の落ち方の差に鋭敏に反応した.3.今後の治療時に使用を希望する点眼容器今後の治療時に使用を希望する点眼容器(図3)として,結膜炎群ではタプロスR23例(46.0%),リボスチンR10例(20.0%),トラバタンズR8例(16.0%),リザベンR5例(10.0%),キサラタンR4例(8.0%)の順に,緑内障群ではタプロスR22例(44.0%),キサラタンR12例(24.0%),トラバタンズR7例(14.0%),リザベンR7例(14.0%),リボスチンR2例(4.0%)の順に選択された.両疾患群とも,タプロスRの点眼容器が有意に第一選択となった(結膜炎群:p=0.0001,緑内障群:p<0.0001).4.点眼容器への自由意見点眼容器への要望などに対する自由意見では,結膜炎群12例(24.0%),緑内障群21例(42.0%)に回答があり,緑内障群のほうが点眼容器に対する意見を多くもつ傾向がみられた(p=0.0556:c2検定).さらに,緑内障群は意見数が多いだけでなく,回答内容も多彩であり,得られた意見数(結膜炎群:22,緑内障群:52)のうち,ハンドリング関連以外の意見の比率は,緑内障群(18:34.6%)で結膜炎群(2:9.1%)に比べ有意に高頻度であった(p=0.0252:Fisherの直接確率).III考按緑内障および季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,代表的点眼薬とその容器を用い,点眼容器のハンドリングに関するインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がハンドリングに影響することが示唆された.点眼容器の使用性やハンドリングは点眼薬の継続的な使用に影響する可能性がある10,11).しかし,自覚症状を伴い比較的短期治療が想定され,さらに点眼による治療効果が実感できる疾患ではその影響が少なく,一方,自覚症状に乏しく長期治療が想定される疾患では,ハンドリングの良否が点眼の継続使用の妨げとなることも推測される.そこで,今回,自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障と,掻痒感などの自覚症状が明らかな急性疾患である季節性アレルギー性結膜炎の両者に対し,容器の形状のハンドリングへの影響を調査した.今回,緑内障点眼薬としては,現在の緑内障治療において第一選択であるプロスタグランジン(PG)関連薬のうち,調査時にわが国で使用可能であった3種類を,また結膜炎点眼薬としては,使用割合の多い代表的点眼薬のうち,明らかに302010057***(例)102412872322リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR図3今後の治療時に使用希望する点眼容器:結膜炎群,:緑内障群.*p=0.0001,**p<0.0001:適合性のc2検定.キャップの開閉残量の見え方薬液の落ち方容器の押しやすさ色による判別ラベルの.がしやすさ容器の大きさ1.9%キャップが転がるキャップの形キャップの大きさ汚染1.9%キャップの開閉容器の大きさ薬液の落ち方容器の硬さ1.9%容器の形容器の形容器の硬さキャップが転がる容器の持ちやすさ意見数22形による判別1.9%回答12/50例携帯しやすい携帯しやすい1.9%液が早くなくなりそう1.9%容器の持ちやすさ1.9%27.3%18.2%22.7%9.1%9.1%4.5%4.5%4.5%19.2%15.4%9.6%7.7%11.5%5.8%3.8%3.8%5.8%3.8%結膜炎意見数52回答21/50例緑内障図4点眼容器への自由意見:ハンドリング関連の意見,:ハンドリング以外の意見.(99)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101111形状が異なる2種類の点眼容器を,ハンドリングを比較する本調査に適すると考えて選択した.調査法としては模擬点眼操作を採用した.模擬点眼では点眼容器を扱い点眼薬を滴下するが,点眼薬をシャーレに滴下することで,眼表面への点入による刺激感や違和感など点眼容器以外の要因が排除されるため,点眼容器の違いによるハンドリングへの影響がより鋭敏に反映されると考えたためである.また,点眼操作前には,あらかじめ各点眼容器のキャップ部分を覆うラベルなどは.離したうえで開栓し,その後,緩く締め直した容器を準備することにより,点眼容器の使用前に必要となる操作10)の調査結果への影響の最小化を企図した.さらに,実際点眼時の使用感を可能な限り再現するために,容器胴体部分のラベルは.離せず,薬液は実薬を用いた.模擬点眼操作によるハンドリングの印象をよく反映した回答を得るため,点眼操作の直後に,検者が被検者に直接インタビューを行った.さらに,インタビューで得られた5段階評価を5点満点でスコア化し12),疾患群や点眼容器ごとに平均スコアを算出し,これを比較することによりハンドリングを評価した.その結果,結膜炎,緑内障患者ともに,キャップ,容器を把持するのに十分な長さ,太さを有する形状の点眼容器が高スコアを示し,その評価に疾患による明らかな差はなかった.今回は模擬点眼下でインタビューを行ったため,点眼薬を使用する際の点眼容器の形状の違いがハンドリング評価に反映された一方で,病態の違いによる差は検出されにくかったものと推察される.なお,特に,点眼容器を把持する胴部に凹みがある形状の容器は,持ちやすさ,押しやすさにおけるスコアが高値であり,容器の形状がハンドリング,すなわち点眼操作に影響することが強く示唆され,把持部に凹み(ディンプル13))を有した同形状の容器の使用感評価が高いことを示した報告10)と一致する結果と考えた.今後の治療時に使用を希望する容器のインタビューでは,結膜炎群はリボスチンR,緑内障群はキサラタンRと,それぞれの疾患において使用経験の多い点眼容器が比較的多く選択され,容器に対する慣れの影響は大きいと考えた.しかし,最も多く選択されたのが両疾患群ともハンドリング評価で高スコアを示したタプロスRの点眼容器であったことから,今回の模擬点眼操作によるインタビュー調査に,容器の形状のハンドリングへの影響が直接的に反映されたことが改めて評価できた.Open-endedquestionによるフリー回答では,個々の意見や要望をよく引き出すことが期待できる14).この回答内容において,緑内障では結膜炎に比べ点眼容器についての意見数が多いだけでなく,ハンドリング以外の意見も有意に多く聴取することができた.その内容も残量や汚染など日常使用と直接的に関わる点に加え,判別しやすい色や形への要望など,インタビュー調査の評価項目にない多彩な意見を認めた.この結果は,緑内障では結膜炎とは異なり,点眼薬を一時的にではなく長期使用するため,ハンドリングに留まらず容器への関心が高いことを反映したものと考えた.緑内障点眼薬の継続的使用には点眼容器の使用性も影響するが,今回の結果から,点眼容器の形状がハンドリングに影響し,その使用性に関わることが示されたため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20094)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19837)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,20078)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20099)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,200610)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200711)原岳,立石衣津子,原玲子ほか:抗緑内障点眼薬の点眼時刺激と容器の使用感.眼臨紀1:9-12,200812)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-ItemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,200113)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,200514)FriedmanDS,HahnSR,QuigleyHAetal:Doctor-patientcommunicationinglaucomacare.Ophthalmology116:2277-2285,2009

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)835《原著》あたらしい眼科27(6):835.838,2010cはじめに1979年にWiseらは,隅角全周の線維柱帯色素帯にアルゴンレーザーを照射するレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)によって,眼圧下降が得られることを報告した1).しかし,その後の報告で術後,周辺虹彩前癒着(PAS)が生じたり,線維柱帯の器質的変化が生じ眼圧が上昇するなどの問題点が指摘された2,3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は線維柱帯の有色素細胞を選択的に破砕し,線維柱帯細胞を活性化して房水流出を改善し,眼圧を下降させる方法4)で,照射するエネルギーが少なく,反復照射可能で合併症も少ないことから薬物療法と観血的手術治療の中間の治療として期待されている5,6).SLTを全周照射した治療成績の文献は散見される7.12)が,観察期間が1.3カ月間と短期間のものが多く,国内では菅野らの報告10)の6カ月間が最長であるが,症例数が10例と少ない.そこで今回井上眼科病院においてSLTを施行し,3カ月間以上経過観察ができた39例47眼の治療成績をレトロスペクティブに検討した.〔別刷請求先〕菅原道孝:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3医療法人社団済安堂井上眼科病院Reprintrequests:MichitakaSugahara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績菅原道孝*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院EfficacyofSelectiveLaserTrabeculoplastyMichitakaSugahara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:当院における選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を検討した.対象および方法:2006年11月から2008年2月までにSLTが施行され,3カ月以上経過観察ができた39例47眼を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,続発緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.平均年齢は68.3歳,平均経過観察期間は10.9カ月間,術前平均投薬数は3.7剤であった.結果:SLT術前の眼圧は22.1±5.6mmHg,術6カ月後の眼圧は17.2±4.6mmHgで,有意に下降した(p<0.0001).術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降したものは62.9%,同様に20%以上眼圧が下降したものは48.6%であった.重篤な副作用の出現はなかった.結論:SLTは安全で眼圧下降効果が強力で,短期的には有用性が高かったが長期に経過をみる必要がある.Purpose:Weinvestigatedtheeffectivenessofselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Methods:FromNovember2006toFebruary2008,weinvestigated47eyesof39patientsinwhomSLTwasappliedto360degreesofthetrabecularmeshwork,withfollow-upformorethan3months.Theseriescomprised33eyeswithprimaryopen-angleglaucoma,12eyeswithexfoliationglaucoma,1eyewithsecondaryglaucomaand1eyewithocularhypertension.Results:Meanpatientagewas68.3yearsandmeanfollow-upperiodwas10.9months;theaveragenumberofanti-glaucomatouseyedropstakenbeforeSLTwas3.7.IOPdecreasedsignificantlyinalleyes,fromapreoperativemeanof22.1±5.6mmHgtoameanof17.2±4.6mmHgat6monthspostoperatively.After6months,IOPreduction≧3mmHgwasseenin62.9%ofeyes,andIOPreductionrate>20%wasseenin48.6%ofeyes.Noseriouscomplicationsoccurredinanyeyes.Conclusion:SLTisasafeandeffectivealternativeforreducingIOPforashorttime.Long-termoutcomesofSLTshouldalsobeevaluated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):835.838,2010〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.836あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(122)I対象および方法対象は39例47眼(男性20例24眼,女性19例23眼),年齢は68.3±10.5歳(平均±標準偏差)(40.86歳),観察期間は最低3カ月以上とし,10.9±4.7カ月(3.20カ月)であった.術前投薬数3.7±1.2剤で,内訳は点眼薬・内服未使用が2眼,1剤が1眼,2剤が2眼,3剤が13眼,4剤が17眼,5剤が12眼であった.異なる日に計測した連続する術前2回もしくは3回の眼圧の平均値は22.1±5.6mmHg(12.44mmHg)であった.手術既往は線維柱帯切除術が4眼,線維柱帯切開術が3眼,ALTが4眼,白内障手術が6眼であった.緑内障の病型分類は,原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,ステロイド緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.SLTの適応は点眼・内服治療を行っている,もしくは点眼・内服治療にアレルギーがあり使用できない患者で,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が必要な症例とした.患者にはインフォームド・コンセントをとり,文書にて同意を得た.SLTのレーザー装置は,ルミナス社製SelectduetRを使用した.照射条件は0.4mJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとした.全例隅角全周に照射した.術前眼圧と術1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧を比較した(対応のあるt検定).レーザー照射後眼圧が3mmHg以上下降,または眼圧下降率が20%以上を有効例とした.また,眼圧下降率とSLTの治療成績に影響を与える因子(術前眼圧,術前投薬数,総照射エネルギー)とに相関があるか回帰分析で検討した.SLT後に投薬数を増加,緑内障観血的手術施行,SLTを再度施行,あるいは眼圧下降率10%未満が3回続いた場合を死亡と定義し,生存率を検討した.II結果1照射エネルギーは0.78±0.14mJ(0.4.1.0mJ),照射数は103.1±14.1発(75.135発),平均総エネルギーは80.5±17.2mJ(36.4.112mJ)であった.術後眼圧の推移を図1に示す.術前眼圧は22.1±5.6mmHgから1カ月後には18.7±6.5mmHg,3カ月後には16.6±3.1mmHg,6カ月後には17.2±4.6mmHgと眼圧は術前と比較し,どの時期においても有意に下降していた(p<0.0001,t検定).眼圧下降率の推移を図2に示す.眼圧下降率は1カ月後14.6±18.7%,3カ月後17.6±16.6%,6カ月後15.4±19.2%で差がなかった.SLT後の有効率を図3に示す.レーザー照射1カ月後に*:p<0.0001***051015202530術前眼圧(n=47)1カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧(mmHg)観察期間図1術後平均眼圧の推移術前と比較し,どの時期においても眼圧は有意に下降していた.-10-505101520253035401カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧下降率(%)経過観察期間図2眼圧下降率の推移010203040506070有効率(%)観察期間:3mmHg下降:20%下降55.364.162.942.653.848.61カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)図3SLT後の有効率術前と比較し3mmHg以上下降したものは6カ月で62.9%,眼圧下降率20%以上のものは6カ月で48.6%であった.00.20.40.60.811.2術前n=47n=39n=39n=351カ月後2カ月後3カ月後6カ月後:累積生存率:発生例図4生存曲線Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月で0.83,6カ月で0.74であった.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.6,20108373mmHg以上下降した症例は55.3%,3カ月後は64.1%,6カ月後は62.9%であった.下降率20%以上の症例は1カ月後42.6%,3カ月後は53.8%,6カ月後は48.6%であった.術前眼圧と眼圧下降率(r=0.045,p=0.77),術前投薬数と眼圧下降率(r=0.04,p=0.788),総照射エネルギー量と眼圧下降率(r=0.045,p=0.764)ともに,相関はなかった.SLT6カ月後の転帰は,薬物療法追加3眼,SLT追加が4眼,線維柱帯切除術施行が5眼,ニードリング施行が1眼であった.Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月後で0.83,6カ月後で0.74であった(図4).47眼中12眼でSLT後軽度の虹彩炎を認めたが,術1週間後には全例で消失しており,重篤な合併症はなかった.III考按ALTでは半周照射が一般的であったことからSLTも半周照射で当初は行われていた.最近は全周照射のほうが眼圧下降効果が高いこと10,11)から当院では全例全周照射を行っている.過去の報告からSLTを全周照射したものを抜粋し,眼数,観察期間,術前投薬数,術前眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率をまとめた7.12)(表1).海外の2報告7,8)は眼圧下降率が30%以上である.Lanzettaら7)は術前投薬2.1剤でSLTを全周に照射した6例8眼で6週間後に眼圧は平均10.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均39.9%と報告した.Laiら8)は29例の中国人の術前点眼なしの症例で,同一症例の片眼にSLTの全周照射を施行し,僚眼にラタノプロストを使用した.眼圧はSLT眼で平均8.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均32.1%で,僚眼との比較で有意差はなかった.これらの報告は,経過観察期間が短いが,SLT半周照射で長期経過をみたものにJuzychらの報告13)がある.術前投薬平均2.5剤でSLTを半周照射した41眼の成績をみたところ5年後の眼圧下降率は27.1%と報告した.人種差も眼圧下降効果に関与していると考えた.一方,国内の報告は成績がばらばらであるが,眼圧下降率は10%台後半から30%台が多い.最も眼圧下降率が低い田中らの報告9)では隅角半周照射33眼と全周照射34眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.7剤,全周照射群は平均3.0剤であった.眼圧下降率は,半周照射群は平均16.1%,全周照射群は11.2%で両者に差はなかった.ただ術前平均眼圧が半周群17.4mmHg,全周群16.1mmHgで他の文献に比べ低いことも関与していると考え,術前眼圧18mmHg以上の症例で検討したところ両者に差はなかった.最も眼圧下降率が高い菅野らの報告10)では隅角半周照射10眼と全周照射10眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.2剤,全周照射群は平均1.8剤であった.6カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均7.9%,全周照射群は31.9%であった.森藤らの報告11)では半周照射44眼と全周照射45眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.5剤,全周照射群は平均2.3剤であった.1カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均10.9%,全周照射群は18.3%であった.眼圧下降率20%以上の症例は半周群18.2%,全周群40.0%と全周群が有意に多かった.Kaplan-Meier生存分析による1年生存率は半周群57.4%,全周群82.2%,2年生存率は半周群44.0%,全周群58.0%と全周群が高かった.山崎らの報告12)では全周照射した20眼の成績を検討している.術前投薬数は2.6剤で,眼圧下降率は平均15.1%であった.本報告でのSLTの眼圧下降率は15.4%と他の文献よりやや低いと思われるが,その理由として術前投薬数が3.7剤と多いため,眼圧下降効果が弱まったのではないかと考えた.実際術前投薬数と眼圧下降率に相関はなかったが,今後は術前投薬数が2剤もしくは3剤の段階でSLTを施行し眼圧の変動をみるとともに,SLTの有効性を推測する予測因子を検討する必要があると考えた.SLTは点眼・内服でコントロール不良の症例に行うことが多いと思うが,点眼で2剤もしくは3剤使用後でまだ眼圧コントロール不良例に使用する頻度が高い塩酸ブナゾシン点眼薬と今回の筆者らの症例とを比較検討してみた.花輪ら14)はプロスタグランジン関連薬およびb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を投与している緑内障患者39例59眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加し,6カ月後の成績を検討した.塩酸ブナゾシン点眼24週後の平均眼圧下降値は4.3mmHgで有意(p<0.01)に眼圧下降を示した.全体の約70%の症例で眼圧下降を認めた.岩切ら15)はプロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している原発開放隅角緑内障25眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加投与したところ12週後で平均2.0mmHgと有意に眼圧が下降し,また治療前眼圧に比し,2mmHg以上下降した割合は12週後で塩酸ブナゾシン点眼薬投与群は60%であった.徳田ら16)は原発開放隅角緑内障患者で点眼中の患者に塩酸ブナゾシン点眼薬追加投与による眼圧下降効果を検討しており,3剤併表1SLT全周照射の成績著者眼数観察期間(月)術前投薬数術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)Lanzettaら7)81.52.126.610.638.0Laiら8)2960026.88.632.1田中ら9)3413.016.11.911.2菅野ら10)1061.822.67.631.9森藤ら11)4512.319.13.718.3山崎ら12)2032.621.23.215.1本報告4763.722.13.415.4838あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(124)用症例は平均約0.8mmHgの下降にとどまった.館野ら17)は塩酸ブナゾシン点眼薬を併用した緑内障患者の併用薬剤数と眼圧下降効果について検討したところ,点眼開始6カ月後の眼圧下降率は併用前3剤使用の患者で7.8%であった.以上の結果よりSLTは塩酸ブナゾシン点眼薬に比し,多剤併用時は同等もしくはそれ以上の眼圧下降を有するものと考えた.また,SLTの合併症は軽度の虹彩炎以外認めなかった.森藤らは2眼に一過性眼圧上昇,1眼に隅角出血がみられたが虹彩前癒着などの器質的な変化を生じたものは認めなかった.他の文献でも軽度の虹彩炎,軽微な眼圧上昇は認めたが,重篤な合併症はなかったことから,SLTは薬物治療で十分な眼圧下降が得られない症例に対し,観血的治療の前段階の治療として効果も安全性も期待できる治療と考えた.今回SLTを全周照射した47眼について治療成績を検討した.術前の眼圧は22.1±5.6mmHgで,術後6カ月で17.2±4.6mmHgと有意に眼圧は下降していた.また,術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降した症例は62.9%,同様に20%以上眼圧が下降した症例は48.6%であった.経過中重篤な副作用の発現もみられなかった.SLTは安全で眼圧下降効果が強力であり,6カ月間という短期的には有用性が高かったが,今後はさらに長期に経過をみる必要がある.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma:Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)HoskinsHDJr,HetheringtonJJr,MincklerDSetal:Complicationsoflasertrabeculoplasty.Ophthalmology90:796-799,19833)LeveneR:Majorearlycomplicationsoflasertrabeculoplasty.OphthalmicSurg14:947-953,19834)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoflasermeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthalmology108:773-779,20016)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19987)LanzettaP,MenchiniU,VirgiliG:Immediateintraocularpressureresponsetoselectivelasertrabeculoplasty.BrJOphthalmol83:29-32,19998)LaiJS,ChuaJK,ThamCCetal:Five-yearfollowupofselectivelasertrabeculoplastyinChineseeyes.ClinExpOphthalmol32:368-372,20049)田中祥恵,今野伸介,大黒浩:選択的レーザー線維柱帯形成術における180°照射と360°照射の比較.あたらしい眼科24:527-530,200710)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,200711)森藤寛子,狩野廉,桑山泰明ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲による治療成績の違い.眼臨紀1:573-577,200812)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200713)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglaucoma.Ophthalmology111:1853-1859,200414)花輪宏美,佐藤由紀,末野利治ほか:抗緑内障点眼薬多剤併用患者に対する塩酸ブナゾシン点眼薬の効果.あたらしい眼科22:525-528,200515)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:359-362,200416)徳田直人,井上順,青山裕美子:塩酸ブナゾシンの降圧効果と角膜に及ぼす影響.PharmaMedica22:129-134,200417)館野泰,柏木賢治:塩酸ブナゾシン点眼薬の併用眼圧下降効果.あたらしい眼科25:99-101,2008***

円蓋部基底トラベクレクトミー術後におけるレーザー切糸術のタイミングと眼圧

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(123)695《原著》あたらしい眼科27(5):695.698,2010cはじめに保存的療法では十分な眼圧下降が得られない緑内障症例に対する観血的治療の一つとしてトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)が選択されるが,TLEの術後早期合併症1,2)として術後の低眼圧,浅前房に伴う脈絡膜.離,低眼圧黄斑症などがある.近年,これらの合併症を防止する目的で,強膜弁をタイトに縫合し適当な時期に縫合糸をレーザーで切糸することにより眼圧調整を行う方法が広く用いられている4.7).また,TLEの際の結膜弁作製方法も従来の輪部基底から円蓋部基底へと変化してきているため,レーザー切糸の順序やタイミングもそれに合わせて変化してきていると思われる.今回,京都府立医科大学附属病院(以下,当施設)で行った円蓋部基底トラベクレクトミー術後のレーザー切糸術(lasersuturelysis:LSL)のタイミングと眼圧経過について調査し,LSLの有効性を左右する要因の有無についても検討した.〔別刷請求先〕南泰明:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:YasuakiMinami,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN円蓋部基底トラベクレクトミー術後におけるレーザー切糸術のタイミングと眼圧南泰明池田陽子森和彦成瀬繁太今井浩二郎小林ルミ木村健一木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学EvaluationofLaserSuturelysisafterFornix-basedTrabeculectomyYasuakiMinami,YokoIkeda,KazuhikoMori,ShigetaNaruse,KojiroImai,LumiKobayashi,KenichiKimuraandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine京都府立医科大学附属病院において2007年1月からの6カ月間に円蓋部基底トラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)を施行した50例60眼(男性27例33眼,女性23例27眼,平均年齢65.9±14.5歳)を対象とし,術後早期に施行されたレーザー切糸術(lasersuturelysis:LSL)のタイミングと眼圧変化ならびにLSLの有効性を左右する要因についてレトロスペクティブに検討した.LSLは39眼(65%)で施行しており,平均施行回数は1.4±1.2回,眼圧下降値と下降率はそれぞれ,初回1.5±6.5mmHg,3.0±33.8%,2回目(30眼)7.6±8.2mmHg,31.1±37.7%(うち2眼は転院などで2回目のLSL後眼圧が不明のため28眼での値),3回目(10眼)6.1±12.8mmHg,20.0±29.1%であった.年齢,性別,術式,糖尿病の有無はLSLのタイミングや回数には影響を与えなかった.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-reductioneffectsof,andclinicalfactorsassociatedwith,lasersuturelysis(LSL)intheearlypostoperativephaseoffornix-basedtrabeculectomy(f-TLE).Subjectscomprised50glaucomapatients(60eyes,meanage65.9±14.5yrs.)whounderwentf-TLEatKyotoPrefecturalUniversityofMedicinefromJanuarytoJuly2007.LSLwasperformedin39eyes(65.0%);secondandthirdLSLwereperformedin30eyes(50.0%)and10eyes(16.7%),respectively.IOPreductionratesforfirst,secondandthirdLSLwere3.0±33.8%,31.1±37.7%,and20.0±29.1%,respectively.LSLwasperformedameanof1.4±1.2times.Asclinicalfactors,age,gender,surgerytype(TLEwithorwithoutcataractoperation),anddiabetesmellituswerenotsignificantlyassociatedwiththeIOPreductionrateornumberofLSLprocedures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):695.698,2010〕Keywords:レーザー切糸,トラベクレクトミー,緑内障,強膜弁.trabeculectomy,lasersuturelysis,glaucoma,scleralflap.696あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(124)I対象および方法対象は2007年1月1日から6月30日までの6カ月間に当施設においてマイトマイシンC(MMC)併用円蓋部基底トラベクレクトミーを施行された50例60眼(男性27例33眼,女性23例27眼,平均年齢65.9±14.5歳)である.術式は全例とも耳上側もしくは鼻上側の結膜輪部切開,3×3mmの二重強膜弁を1層目は強膜の1/2層,2層目は強膜の4/5層を目処に作製し,内方弁ごと線維柱帯を切除,周辺虹彩切除後,10-0ナイロン糸で5針縫合した(縫合糸の位置を図1に示す).結膜縫合は2本のテンションをかけた輪部端々縫合,子午線切開部位の強膜結膜端々縫合,輪部の水平マットレス縫合を行った.術後の強膜弁縫合糸のLSLは,アルゴンレーザーでBlumenthalレンズを用い,50μm,0.2秒,100mWの条件で行った.濾過胞形状,目標眼圧と眼圧経過,眼球マッサージ時の反応から術者が必要と判断した時点で,図1に示す順に行った.術後早期(3週間以内)に行ったLSLに関して,切糸時期,LSL前後の眼圧変化,合併症の有無についてレトロスペクティブに検討した.また,術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果をみるために,15mmHg未満とそれ以上のそれぞれ2群に分けて検討した.なお,術後早期の眼圧は複数回測定したものの平均から算出(平均術後72.9±43.6日)し,両群間で初回LSLまでの日数と総LSL回数の有意差を調べた.なお,統計学的検討は条件に応じて,Spearman順位検定,Mann-WhitneyU検定,Studentt検定,Kruskal-Wallis検定を用いて行った.II結果緑内障病型の内訳は原発緑内障(閉塞隅角緑内障5例5眼を含む)が35例43眼,続発緑内障が13例14眼,発達緑内障が2例3眼であった.術式の内訳は白内障同時手術が23例29眼,TLE単独手術が27例31眼であった.全60眼中39眼(65%)に少なくとも1回以上のLSLが施行され,そのうち2回以上のLSLを要したものは30眼(初回LSL施行群のうち77%)であり,さらに3回目のLSLを要したものは10眼(2回目LSL施行群のうち33%)であった.全症例の平均LSLの施行回数は1.4±1.2回であった.初回LSLは術後5.2±4.1日に施行され,眼圧下降値は1.5±6.5mmHg(施行前21.4±9.5mmHg:8.50mmHg,施行後19.9±9.9mmHg:8.56mmHg),眼圧下降率は3.0±33.8%であった.2回目LSLは術後平均10.3±7.8日で施行され,眼圧下降値は7.6±8.2mmHg(施行前23.3±10.0mmHg:14.62mmHg,施行後16.1±11.1mmHg:3.57mmHg),眼圧下降率は31.1±37.7%,3回目LSLは術後9.7±2.8日で施行され,眼圧下降値は6.1±12.8mmHg(施行前17.4±8.3mmHg:10.57mmHg,施行後13.2±8.1mmHg:8.32mmHg),眼圧下降率は20.0±29.1%であった(図2).各回のLSLによる眼圧下降率の比較では,2回目のLSLの眼圧下降率が最大であった.LSL後に過剰濾過から低眼圧をきたした症LSLの順番数字の順に切糸①②③④⑤①②④③⑤図1強膜弁縫合とLSLの順序LSLを施行する際には,できるだけ後方への房水流出を促すため,図の数字の順に切糸を行っている.全TLE60眼LSL未施行群21眼35%術後平均:5.2±4.1日眼圧下降値:1.5±6.5mmHg眼圧下降率:3.0±33.8%合併症:なし23%術後平均:10.3±7.8日眼圧下降値:7.6±8.2mmHg眼圧下降率:31.1±37.7%合併症:なし67%平均総LSL回数1.4±1.2回術後平均:9.7±2.8日眼圧下降値:6.1±12.8mmHg眼圧下降率:20.0±29.1%合併症:なし初回LSL施行群39眼総LSL回数1回群10眼総LSL回数2回群19眼2回目LSL施行群30眼3回目LSL施行群10眼65%77%33%図2全症例におけるLSL施行の流れ(125)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010697例はなく,LSLに伴う合併症はみられなかった.つぎにLSL施行回数に影響を与えた要因に関する結果を表1に示す.初回LSLの施行時期ならびに総LSL回数に関しては年齢,性別,術式,緑内障病型,術者,糖尿病の有無,眼軸の違いといった要因によっては有意な差はみられなかった.また,初回LSLが早期に施行されても最終的なLSL回数が少ないわけではなかった.術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果の検討では,15mmHg未満とそれ以上のいずれにおいても,初回LSLまでの日数と総LSL回数において有意差を認めなかった(表2).III考按TLE術後のLSLに関してはこれまでにも多数の報告がある5,8.10)が,その内容については必ずしも一致しているとはいえない.Ralliらの報告ではPOAG(原発開放隅角緑内障)に対する初回TLE(MMC使用)全146眼中95眼(65.1%)にLSLが必要であったとしており8),Morinelliらは手術から初回LSLまでの期間が2日から65日(平均17.9±14.9日)であったとしている9).一方,Fontanaらは偽水晶体眼の開放隅角緑内障を対象としたTLE(MMC使用)術後において89眼中30眼(33.7%)に10),MelamedらはTLE術後30眼の22眼(73.3%)にLSLを要し,眼圧下降値は6.6±7.0mmHgであったと報告している5).今回の結果では65%の症例にLSLを要した.従来の報告においてもLSLを要した症例の割合に大きく差があることから,LSLの要否に関しては結膜切開部位,結膜縫合法,強膜弁の形状や縫合糸数,縫合強度などの術式の微妙な差が影響している可能性が高いと考えられた.すなわち,実際には医療施設ごとにトラベクレクトミーの術式に異なる点があることから,LSLの要否ならびに成績にも差が生じているものと思われる.TLEの術式としては結膜の切開部位の差から輪部基底結膜弁と円蓋部基底結膜弁の2法に大別される.輪部基底結膜弁では強膜弁より離れた円蓋部結膜を切開するため房水漏出の危険性は少ない.一方,当施設で採用している円蓋部基底結膜弁では強膜弁近傍の輪部において結膜切開を行うため,術後早期に眼球マッサージやLSLを行うと輪部結膜縫合部からの房水漏出の危険性が高い.当施設ではハの字型のタイ表2術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果の検討15mmHg未満群15mmHg以上群p値初回LSLまでの日数(日)4.7±1.9(n=24)7.3±4.3(n=9)0.17LSL総回数(回)1.3±1.0(n=37)1.9±0.8(n=10)0.09(Mann-Whitney検定順位補正後)表1LSLの時期・回数と各種要因との関連性初回LSLまでの日数LSL総回数年齢相関なしp=0.18(Spearman順位検定順位補正後)相関なしp=0.79(Spearman順位検定順位補正後)性別男性(22眼):4.5±2.9日女性(17眼):6.1±5.4日有意差なしp=0.24(Mann-Whitney検定順位補正後)男性(33眼):1.4±1.2回女性(27眼):1.4±1.2回有意差なしp=0.98(Studentt検定)白内障同時手術の有無同時(21眼):4.6±2.0日単独(18眼):5.9±5.6日有意差なしp=0.82(Mann-Whitney検定順位補正後)施行(29眼):1.5±1.1回単独(31眼):1.2±1.3回有意差なしp=0.35(Studentt検定)白内障手術同時/既/未施行同時(21眼):4.6±2.0日既施行(12眼):6.2±6.5日未施行(6眼):5.3±3.4日有意差なしp=0.98(Kruskal-Wallis検定順位補正後)同時(29眼):1.5±1.1回既施行(18眼):1.5±1.3回未施行(13眼):0.9±1.1回有意差なしp=0.22(一元配置分散分析法)緑内障病型原発(28眼):5.4±4.5日続発(9眼):4.1±2.2日有意差なしp=0.43(Studentt検定)原発(43眼):1.4±1.2回続発(14眼):1.2±1.3回有意差なしp=0.51(Studentt検定)術者術者A(32眼):4.9±2.3日術者B(3眼):11.0±13.0日術者C(4眼):3.3±1.0日有意差なしp=0.25(Kruskal-Wallis検定順位補正後)術者A(46眼):1.4±1.2回術者B(10眼):0.7±1.2回術者C(4眼):2.3±1.0回有意差なしp=0.06(Kruskal-Wallis検定)糖尿病有無あり(8眼):4.4±1.6日なし(31眼):5.4±4.5日有意差なしp=0.74(Mann-Whitney検定順位補正後)あり(13眼):1.5±1.6回なし(47眼):1.3±1.1回有意差なしp=0.57(Studentt検定)眼軸長相関なしp=0.41(Spearman順位検定順位補正後)相関なしp=0.46(Spearman順位検定順位補正後)初回LSLまでの日数初回LSLまでのTLE術後日数(LSL施行39眼):5.2±4.1日相関なしp=0.12(Spearman順位検定順位補正後)698あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(126)トな結膜輪部端々縫合と水平マットレス縫合を置くことで房水漏出を抑制しており,輪部基底結膜弁の際と同様,術後早期から眼球マッサージやLSLを行うことが可能となっている.さらに強膜弁の形状もLSLのタイミングや切糸順序に影響を及ぼす要因である.当施設では二重強膜弁の内層弁ごと線維柱帯を切除することで,トンネルを作製し後方への房水流出を促す方法を採用している.すなわち,結膜切開方法や強膜弁の種類,さらに房水の流出方向の違いにより,LSLを行う際の強膜弁縫合糸の切糸順序が異なっており,輪部に沿った方向に房水を流す輪部基底結膜弁では図1の④や⑤の糸をまず切るのに対して,より後方へ房水を流すことを意図した二重強膜弁併用円蓋部基底結膜弁では図1の①から⑤の順に切糸を行っている.当施設での初回LSLは従来の報告と比べて比較的早期に施行している傾向にあったが,これは術後の低眼圧による合併症を予防する目的で強膜創を強めに縫合し,早期にLSLを施行することで眼圧コントロールを行っていく方針を取っていることによるものと思われた.今回,TLE施行例の6割以上の症例において平均術後5日程度で初回LSLが施行されたことから,当施設で用いている術式ではTLE術後には早期から常にLSLの必要性を意識しながら経過観察を行うべきであると思われた.一方,術者間,白内障同時手術の有無などの術式間,患者側要因によってLSLの時期や回数に一定の傾向が認められなかった.また,術後早期の眼圧コントロール状態の良好群と不良群の間には,LSLの時期や回数に差が認められなかった.すなわちLSLのタイミングや切糸数については,あらかじめ予想できるような定型的なパターンが存在するわけではなく,各症例の濾過胞形状や眼圧経過に応じた緻密な術後管理が重要であることがわかった.IV結論LSL後には重篤な合併症なく眼圧下降させることができたことから,TLE術後管理としてLSLは安全に眼圧をコントロールしてゆくための有効な手段と考えられた.LSLのタイミングや切糸数については症例に応じた緻密な術後経過観察のもとに行う必要がある.文献1)ShiratoS,KitazawaY,MishimaS:Acriticalanalysisofthetrabeculectomyresultsbyaprospectivefollow-updesign.JpnJOphthalmol26:468-480,19822)YamashitaH,EguchiS,YamamotoTetal:Trabeculectomy:aprospectivestudyofcomplicationsandresultsoflong-termfollow-up.JpnJOphthalmol29:250-262,19853)SavageJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19884)PappaKS,DerickRJ,WeberPAetal:LateargonlasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology100:1268-1271,19935)MelamedS,AshkenaziI,GlovinskiJetal:Tightscleralflaptrabeculectomywithpostoperativelasersuturelysis.AmJOphthalmol109:303-309,19906)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:TheoutcomeofmitomycinCtrabeculectomyandlasersuturelysisdependsonpostoperativemanagement.JpnJOphthalmology50:455-459,20067)KapetanskyFM:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.JGlaucoma12:316-320,20038)RalliM,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:OutcomesoflasersuturelysisafterinitialtrabeculectomywithadjunctivemitomycinC.JGlaucoma15:60-67,20069)MorinelliEN,SidotiPA,HeuerDKetal:LasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology103:306-314,199610)FontanaH,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:TrabeculectomywithmitomycinCinpseudophakicpatientswithopenangleglaucoma:outcomesandriskfactorsforfailure.AmJOphthalmol141:652-659,2006***

日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)687《原著》あたらしい眼科27(5):687.690,2010cはじめにプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,プロスト系薬剤)は現在眼圧下降治療薬のなかで最大の眼圧下降効果を有し,終日にわたる眼圧下降作用と眼圧変動幅抑制効果の点でも優れている.さらに,1回点眼であることと局所のみの副作用により,良いアドヒアランスが見込まれ,第一選択薬としての地位を確立している.すでに4種類のプロスト系薬剤が発売されているが,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは海外での臨床データが蓄積し,最近のメタアナリシス解析でもほぼ同様な25.30%の眼圧下降効果を有することが判明している1).日本で発売されて10年になるラタノプロストは,日本人正常眼圧緑内障(NTG)を対象〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果大谷伸一郎*1湖.淳*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*1相原一*5*1宮田眼科病院*2湖崎眼科*3うのき眼科*4竹内眼科医院*5東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学IntraocularPressure-ReductionEffectofSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinJapaneseNormal-TensionGlaucomaPatientsShin-ichiroOtani1),JunKozaki2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4),KazunoriMiyata1)andMakotoAihara5)1)MiyataEyeHospital,2)KozakiEyeClinic,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine日本人正常眼圧緑内障(NTG)眼におけるトラボプロスト0.004%(トラバタンズR)点眼による眼圧下降効果をラタノプロスト0.005%(キサラタンR)点眼液からの前向き切り替え試験で検討した.4施設において日本人NTG眼57例57眼をエントリーし前向きに眼圧,視力,充血,角膜上皮障害を,切り替え後1,3カ月後に評価し,エントリー時と比較検討した.3カ月間持続点眼できた38例のエントリー時,1,3カ月の眼圧はそれぞれ13.4±2.3,12.8±2.0,12.7±1.8mmHg(平均±標準偏差)であり有意な眼圧下降効果が得られた(paired-ttest,p<0.05).視力,充血には変化がなかったが,角膜上皮障害は1カ月で著明に改善し,その後3カ月間悪化しなかった.トラボプロスト点眼液は,日本人正常眼圧緑内障眼に対してラタノプロストと同様な眼圧下降効果が期待でき,また角膜上皮障害を惹起しにくいことが示された.Theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectoftravoprost0.004%inJapanesenormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasprospectivelyassessedbyreplacinglatanoprost0.005%withtravoprostat4eyecenters.Inthe57NTGpatientsenrolled,IOP,visualacuity,hyperemiaandocularsurfacedamagewereevaluatedat1and3months.In38patientsthatcompletedtheprotocol,IOPatentry,1and3monthswas13.4±2.3mmHg,12.8±2.0mmHgand12.7±1.8mmHg,respectively.IOPat1and3monthswassignificantlyreducedcomparedtothevalueatentry(p<0.05).Therewasnosignificantdifferenceinvisualacuityorhyperemiaamongthe3timepoints,whereascornealepitheliopathywassignificantlyimprovedat1monthandwasnotworsenedat3months.TravoprosthasanIOP-loweringeffectsimilartothatoflatanoprostinJapaneseNTGpatients,andhaslessdetrimentaleffectonthecornealsurfacethandoeslatanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):687.690,2010〕Keywords:緑内障,眼圧,ラタノプロスト,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,latanoprost,travoprost,benzalkoniumchloride.688あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(116)とした研究においても,約10.20%の眼圧下降効果を示し,さらにベースライン眼圧が15mmHg以下の場合でも1mmHg以上の有意な眼圧下降効果が得られており2.5),特に低眼圧で眼圧下降効果が得られにくい患者には,確実な眼圧下降効果を示しアドヒアランスを向上させるために重要な薬物である.しかし,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者を対象に治験が行われており,純粋にNTGを対象とした治験や報告はない.一方,国内開発のタフルプロストは臨床開発治験において原発開放隅角緑内障(OAG)を対象にラタノプロストに対して非劣勢の眼圧下降効果を示し,またNTG眼を対象に4週間で.4mmHgの有意な眼圧下降を有していることが第三相試験で判明している(タフルプロストインタビューフォーム).しかし,NTGを対象にラタノプロストと比較した報告はなく,長期使用における眼圧下降効果も不明である.プロスト系関連薬トラボプロストのトラバタンズR0.004%点眼液は,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)を含有せず,SofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入している.日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,臨床治験では,BAC含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いたNTGを含むOAGを対象にしていたため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人NTGにおける眼圧下降効果の報告はない.BACは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BACの有無は薬効に影響することが懸念される.そこで,日本人NTG患者におけるキサラタンRからの切り替えによる眼圧下降効果を多施設で前向きに3カ月にわたり検討した.I対象および方法1.対象参加4施設(宮田眼科病院,うのき眼科,湖崎眼科,竹内眼科医院)に2008年1月から2月にかけて通院中の患者のうち,すでにNTGと診断された患者で,3カ月以上ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液を単剤投与されている57例57眼を対象にした.評価対象眼は両眼NTGの場合は眼圧が高いほうもしくは同じ場合は右眼とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則し,共同設置の倫理委員会の承認を経て,患者からの同意を得たうえで実施された.2.方法エントリー時にラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に切り替え,変更前および変更後1および3カ月の午前もしくは午後の同一時間帯に受診後,視力を測定,結膜充血の観察,さらにフルオレセイン染色による角膜病変をコバルトブルーフィルターもしくはブルーフリーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察,眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.主要評価項目は眼圧であり,変更前エントリー時の眼圧測定値と,変更後1および3カ月の測定値とをpairedt-testにて比較した.副次的評価項目である角膜病変は点状表層角膜症(SPK)をAD分類6)を用いて評価し,結膜充血は4施設共通の標準写真を用いて,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階に分類した.II結果試験期間中の1カ月以内に14例脱落があった.内訳は,充血6例,眼圧上昇2例(16から17mmHg,16から19mmHg),他は表1のとおりであり,少なくとも主剤に関係ある重大な副作用は認められなかった.さらに3カ月までに5例の脱落があり,その内訳は,理由不明の中止例が3例,来院しなかった2例であった.最終的に38例38眼(エントリー中67.2%)が3カ月間持続点眼可能であった.38例は男性8例,女性30例,平均年齢68.2±10.7歳(34.82歳)であった.エントリー時,変更後1,3カ月の視力は,logMAR視力で0.89,0.86,0.84と有意差がなかった.眼圧は図1のとおり,エントリー時13.4±2.3mmHgに対し,変更後1カ月で12.8±2.0mmHg,3カ月で12.7±1.8mmHgと有意に切り替え眼圧(mmHg)20151050*p=0.02*p=0.03エントリー時(ラタノプロスト)トラボプロスト変更1カ月後継続期間(月)トラボプロスト変更3カ月後13.4±2.312.8±2.012.7±1.8図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧の推移n=38,paired-ttest,p=0.01(1カ月),p=0.03(3カ月).表13カ月経過観察中の脱落理由1カ月以内脱落理由充血異物感不快感頭痛,めまい眼圧上昇眼圧変化がないため6例131213カ月以内脱落理由原因不明通院せず32(117)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010689下降した(paired-ttest,p=0.02,0.03).SPKのAD分類の変化を表2に示す.エントリー時にSPKを認めた症例は38例中18例(47.4%)であった.A1D1が13例(34.2%),A1D2が1例(2.6%),A2D1が3例(7.9%),A2D2が1例(2.6%)であったが,変更後1,3カ月でA1D1が2例(5.3%)ずつと著明に改善した(c2検定,p<0.01).結膜充血はエントリー時に軽度充血が5例,変更後1カ月で8例,3カ月で0例であった.III考按今回の検討は,同系統のプロスト系薬剤であるラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる日本人NTG眼に対する長期眼圧下降効果であるが,BAC含有ラタノプロストから,BAC非含有トラボプロストに切り替えたことにより,BACによるオキュラーサーフェスへの影響と主剤のプロスト系の効果とがともに影響した結果であり,単純に主剤の効果を比較検討したものではない.過去のBAC含有点眼液トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告7)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAC含有点眼液であり,最近わが国で発売されたBAC非含有,SofZiaR含有点眼液での報告ではない.筆者らはすでに,BAC非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,前日同時刻と比較することにより日内変動の影響を抑えた評価方法により評価した.その結果,BAC非含有トラボプロスト点眼は,正常眼に点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈した8).したがって,防腐剤が代わりBAC非含有となっても,眼圧下降には影響しないと考えられた.さらに,海外欧米人におけるOAGおよび高眼圧症(OH)を対象とした,BAC含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており9),日本人緑内障患者においてもBACの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できると考え,今回日本人NTG対象にBAC含有キサラタンR単独投与症例に対して切り替え試験により前向き研究を行った.海外のラタノプロストからトラボプロスト(ともにBAC含有)切り替え試験では,眼圧はより下降もしくは同等であったと報告されている10.12).今回は日本人NTGを対象として3カ月でキサラタンRと比較し,約1mmHgの眼圧下降効果が有意に得られたことは,海外のNTGを含む早期緑内障を対象にした大規模試験であるEarlyManifestTrialでも示されているように1mmHgの眼圧下降は進行のリスクを約10%軽減させる13)ということからも,十分意義あるものと考える.今回のスタディではNTGと診断された症例ですでに3カ月ラタノプロストを投与された症例を対象にしたが,ベースライン眼圧の測定が必ずしも同一施設でなされていないため,純粋にNTGに対する眼圧下降効果を測定できていないが,ラタノプロストと同等以上の効果を有する結果となり,過去の切り替え試験での有効症例の存在に関する報告10)も合わせて考えれば,NTGを対象にしてもある種類のプロスト系薬剤に低反応性であれば切り替える意義は十分あることを裏付けている.ただし,今回はラタノプロスト点眼時の眼圧をエントリー時1回で評価している点が眼圧下降評価研究計画上の問題である.結果として切り替えにより有意差が得られたものの,この点を考慮して少なくともラタノプロストからトラボプロストへの切り替え試験により同等な結果,眼圧下降効果を有すると結論づけた.また,ベースライン眼圧が不明であるため,本対象症例のなかでラタノプロストに対する反応性とトラボプロストに対する反応性の相関を比較できなかった.今後は無治療NTGを対象に無作為平行群間比較試験かつ薬剤のクロスオーバーを行って,個々の症例でのプロスト系薬剤への反応性の相違を検討すべきであると考える.今回眼圧が切り替えにより平均で有意に下降した理由は,主剤自体の特徴と対象眼の感受性の問題が第一にあると考えられる.トラボプロストはラタノプロストに比べ,末端フェニル基にフッ素が付き化学構造を安定化させることにより効果を持続させている可能性があり,他のプロスト系薬剤と比べ細胞内シグナルのイノシトール代謝物を最大限惹起できること14)や,最終点眼後の眼圧下降持続効果が高いこと15)が報告されている.また,作用点であるFP受容体の遺伝的多型や発現分布なども薬理効果の相違につながると考えられるが確証は得られておらず,今後の課題である.第二の理由として,切り替えによるアドヒアランスの改善が考えられる.今回は初回エントリー57症例中1カ月で14例,3カ月で5例の症例が脱落した(表1).脱落理由に眼圧下降不良が2例あるが1回の測定による軽微な変化であり持続的変化であるかは判定していない.切り替え試験も含め眼圧下降作用を確表2AD分類によるSPKの推移A0A1A2A3D020→36→36D113→2→23→0→00D21→0→001→0→0D3000数字はエントリー時→1カ月後→3カ月後の症例数を示す.690あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(118)認する研究では,脱落例が生じることは否めず,脱落例に眼圧上昇例が多く含まれていれば結果に影響するが,今回19例の脱落中,眼圧下降不良という理由であった例はわずか2例であり,16から17mmHg,16から19mmHgへ上昇した例であった.残り17例は眼圧上昇以外の理由であり表1に示したとおりで,眼圧も変化がなかったか下降した例であるため,これら脱落例を含めても少なくとも今回の切り替え試験により眼圧が悪化したことにはならないと考える.むしろ主剤そのものに対して眼圧下降反応が低いというよりも,表1にあるような,持続的に起こる充血やしみるといった製剤の特徴により,脱落することが多いことがわかる.たとえば充血を理由にした脱落は6例(10%)存在する.また,不快感や異物感に関連するオキュラーサーフェスへの影響も重要なアドヒアランス良否に関わる因子である.今回3カ月継続可能であった38例の角膜障害は1カ月後著明に改善し,さらに3カ月までその改善効果が持続した.これは,すでに筆者らが報告したOAG,OH患者114例を対象にラタノプロストからトラボプロストに切り替えた試験と同様,有意な角膜上皮障害改善を示す結果であった16).したがってBAC非含有製剤であるトラバタンズRはオキュラーサーフェスへの影響が少ないことが示唆された.このような主剤の効果以外のアドヒアランスの影響を考えると,今回3カ月持続点眼可能であった症例は,実はアドヒアランスが不良であったが,トラバタンズRへの切り替えにより角膜障害が改善して,点眼アドヒアランスが良好となり,眼圧がより下降した可能性がある.患者によって副作用はかなり異なるが,少なくとも個々の患者にとってアドヒアランスが良い点眼,すなわち副作用が少なく,差し心地が良い点眼は,主剤の眼圧下降効果以上に重要な因子であると考える.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況にあり,点眼に対するアドヒアランスが眼圧下降効果に大きく影響すると考えられる.したがって,眼圧のみにとらわれず,患者の生活環境や性格と眼表面への副作用,点眼時の印象も加味して治療効果を評価する姿勢が重要である.その点でトラバタンズR点眼液のように主剤としてNTGを対象にしても十分な眼圧下降効果が得られ,かつ防腐剤を改良したオキュラーサーフェスに優しい点眼液は,今後の点眼治療薬としての理想的な方向性を示している.今回は3カ月間の経過を追った研究であるが緑内障の長期管理は年単位であり,今後はさらに1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20033)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20034)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,20035)緒方博子,庄司信行,清水公也ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト単剤変更1年後の眼圧,視野,視神経乳頭形状の検討.臨眼59:943-947,20056)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20037)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20058)大島博美,新卓也,相原一ほか:日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科26:966-968,20099)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200112)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,200313)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)SharifNA,KellyCR,CriderJY:Humantrabecularmeshworkcellresponsesinducedbybimatoprost,travoprost,unoprostone,andotherFPprostaglandinreceptoragonistanalogues.InvestOphthalmolVisSci44:715-721,200315)SitAJ,WeinrebRN,CrowstonJGetal:Sustainedeffectoftravoprostondiurnalandnocturnalintraocularpressure.AmJOphthalmol141:1131-1133,200616)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,2009

ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(123)4010910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):401410,2010c〔別刷請求先〕北澤克明:〒145-0071東京都大田区田園調布4-37-19Reprintrequests:YoshiakiKitazawa,M.D.,Ph.D.,4-37-19Denenchofu,Ohta-ku,Tokyo145-0071,JAPANビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験北澤克明*1米虫節夫*2*1赤坂北澤眼科*2大阪市立大学大学院工学研究科Single-Masked,Randomized,Parallel-GroupComparisonofBimatoprostOphthalmicSolutionandLatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYoshiakiKitazawa1)andSadaoKomemushi2)1)AkasakaKitazawaEyeClinic,2)GraduateSchoolofEngineering,OsakaCityUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤(0.03%)を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤(LAT)と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤(0.01%)と0.03%を比較し,本剤の至適濃度を確認した.治療期終了時の投与開始日からの眼圧変化値を主要評価として比較した結果,LATに対する0.03%の非劣性が検証された.0.03%の眼圧変化値はすべての時点でLATより大きく,投与2週間後においては両群間に有意な差が認められた.また,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率の比較により,0.03%の眼圧下降効果はLATよりも高いことが確認できた.0.03%の副作用発現率はLATより高いものの臨床的に問題となるものではなかったことから,0.03%はLATに劣らず臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%の眼圧下降効果は0.01%より強く,同程度の安全性を有することから,0.03%が至適用量であることが確認できた.Intermsofecacyandsafety,0.03%bimatoprostophthalmicsolution(0.03%)wascomparedwith0.005%latanoprostophthalmicsolution(LAT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH),afteronce-dailyinstillationfor12weeksinasingle-masked,randomized,parallel-groupcomparisonstudy.Ecacyandsafetywerealsocomparedbetween0.01%and0.03%bimatoprost,inordertoconrmtheoptimalconcentration.Thenon-inferiorityof0.03%toLATwasdemonstratedwithregardtointraocularpressure(IOP)-loweringecacyasaprimaryendpoint.TheIOPreductionfrombaselinewith0.03%wasgreaterthanthatwithLATandthedierencewasstatisticallysignicantbetween0.03%andLATat2weeks;moreover,0.03%wasmorepotentthanLATintermsofIOPvalue,%reductionofIOPand%ofpatientsreachingtargetIOP.Althoughtheadversedrugreaction(ADR)incidenceratewashigherwith0.03%thanwithLAT,noneoftheADRswith0.03%wereclinicallyproblematic.Theseresultsshowthat0.03%isclinicallyusefulinthetherapyforpatientswithPOAGandOHandhasaprolethatisnotinferiortoLAT.TheIOP-loweringecacyof0.01%waslessthanthatof0.03%,buttheincidencerateofADRwith0.01%wasthesameasthatwith0.03%.Theoptimalconcentrationofbimatoprostwasthereforeconrmedtobe0.03%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):401410,2010〕Keywords:ビマトプロスト,ラタノプロスト,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,latanoprost,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.———————————————————————-Page2402あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(124)はじめに現在,日本国内の眼科一般臨床で最も汎用されている緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬の0.005%ラタノプロスト点眼剤(キサラタンR,以下,ラタノプロスト点眼剤)である.ラタノプロスト点眼剤は,結膜充血,睫毛の成長,眼瞼や虹彩の色素沈着などの美容上の副作用が発現するものの,その強力な眼圧下降効果により最も汎用されている1,2).しかしながら,一方でラタノプロスト点眼剤のノンレスポンダーが1040%存在することが報告37)されており,すべての患者に有効な治療薬とはなりえていない.近年販売開始となったトラボプロスト点眼剤(トラバタンズR)やタフルプロスト点眼剤(タプロスR)はラタノプロスト同様プロスタノイドFP受容体(以下,FP受容体)のアゴニストであり,ラタノプロストと同程度あるいはそれ以上の眼圧下降効果を有すると報告されている8,9).ビマトプロスト(図1)は,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬である.ビマトプロストは,内因性の生理活性物質であるプロスタマイドF2aと類似した構造を有する.このプロスタマイドF2aは,内因性カンナビノイドの一つであるアナンダマイドよりシクロオキシゲナーゼ2を介して生成されることが知られている10,11).また,プロスタマイドF2aは既存のプロスタグランジン関連薬のターゲットであるFP受容体をはじめ既知のプロスタノイド受容体には作用しないことが明らかとなっている12).近年FP受容体バリアント複合体が同定され,ビマトプロストはFP受容体に作用せずFP受容体バリアント複合体,すなわちプロスタマイド受容体に作用すること,また,眼圧下降効果を発揮するまでのシグナル伝達経路の一部も違いがあることが明らかとなった13,14).この新規の作用機序により,海外の臨床試験においてラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して,ビマトプロスト点眼剤が有意な眼圧下降効果を示したと報告されている1517).緑内障の治療において,眼圧を下降させる薬物療法は欠かせないものであるが,国内の眼科一般臨床で使用されている緑内障治療薬にはそれぞれに問題点があり,さらには現時点では既存のプロスタグランジン関連薬と同程度あるいはそれ以上の効力を有し,作用機序の異なる薬剤は国内の臨床現場には存在しない.これらのことから,既存のプロスタグランジン関連薬で目標眼圧に達しない場合,薬理作用の異なる薬剤に変更するか,併用療法を選択することを余儀なくされており,このような背景から,新規の作用機序を有し,強力な眼圧下降効果をもつ緑内障治療薬の開発が望まれている.当該試験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者における0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの眼圧下降効果が0.005%ラタノプロスト点眼剤と比べ劣らないことを,無作為化単盲検群間比較試験により検証し,このときの安全性を検討した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果を比較し,本剤の至適濃度を確認した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項及び第80条の2に規定する基準並びに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2005年7月から2006年6月までに,表1に示した54施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,点眼薬による治療のみで眼圧のコントロールが可能であり,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価対象眼の眼圧が22mmHg以上,かつ満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意思による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)有効性評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術および線維柱帯切開術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)治験薬の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の者または妊娠している可能性のある者および妊娠を希望している者8)高度の視野障害がある者9)投与開始日から治療期間中を通じて併用禁止薬を使用する予定がある者HOHOHHHHHHNOHCH3O図1ビマトプロストの構造———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010403(125)10)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者11)同意取得時から過去3カ月内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者および他の治験に参加する予定の者12)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法被験薬は1ml中にビマトプロストとして0.1mgまたは0.3mgを含むビマトプロスト点眼剤を,対照薬として1ml中にラタノプロストとして0.05mgを含むラタノプロスト点眼剤(ファイザー株式会社提供)を用いた.治験薬は1日1回午後8時10時の間に,片眼または両眼に1滴ずつ12週間点眼した.4.盲検性の維持および薬剤の割付本治験は,治験依頼者,治験責任医師および治験分担医師に対する盲検化により実施した.被験薬および対照薬は識別が可能であるが,点眼瓶を1本ずつ同一のラベルが表示された小箱(外観からは識別不能)に厳封し,そのまま被験者に処方した.治験薬はコントローラー(米虫節夫)により,小箱での外観上の識別不能性を確認した後,3症例分(0.01%および0.03%ビマトプロスト点眼剤:各1例,ラタノプロスト点眼剤:1例)を1組として無作為割付を行った.5.Washout眼圧下降薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,ステロイ表1治験実施医療機関医療機関治験責任医師*医療機関治験責任医師*花川眼科田辺裕子大阪府立急性期・総合医療センター内堀恭孝石丸眼科石丸裕晃労働者健康福祉機構大阪労災病院恵美和幸秋田大学医学部附属病院吉冨健志神戸大学医学部附属病院中村誠山形大学医学部附属病院山下英俊広島大学病院三嶋弘,塚本秀利,草薙聖新潟大学医歯学総合病院福地健郎さいたま赤十字病院川島秀俊広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀東京大学医学部附属病院相原一宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎東京都老人医療センター大橋正明広田眼科広田篤東京逓信病院松元俊愛媛県立中央病院立松良之,松田久美子済安堂お茶の水・井上眼科クリニック(旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック)井上賢治旦龍会町田病院卜部公章久留米大学病院山川良治聖愛会中込眼科中込豊平成紫川会社会保険小倉記念病院小林博湘南谷野会谷野医院谷野富彦佐賀大学医学部附属病院沖波聡山梨大学医学部附属病院柏木賢治熊本大学医学部附属病院稲谷大むらまつ眼科医院村松知幸明和会宮田眼科病院宮田和典富士青陵会中島眼科クリニック中島徹陽幸会うのき眼科鵜木一彦杉浦眼科杉浦毅琉球大学医学部附属病院澤口昭一金沢大学医学部附属病院杉山和久オリンピア会オリンピア眼科病院井上洋一労働者健康福祉機構中部労災病院丹羽英康京都府立医科大学附属病院森和彦碧樹会山林眼科山林茂樹近畿大学医学部附属病院松本長太岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀,近藤雄司全国社会保険協会連合会星ヶ丘厚生年金病院坂上憲史京都大学医学部附属病院田辺晶代,板谷正紀神戸市立中央市民病院栗本康夫北川眼科医院北川厚子山口大学医学部附属病院相良健千照会千原眼科医院千原悦夫北海道大学病院陳進輝大阪医科大学附属病院杉山哲也春日部市立病院水木健二大阪大学医学部附属病院大島安正日本大学医学部附属板橋病院山崎芳夫市立池田病院張國中自警会東京警察病院安田典子大阪厚生年金病院狩野廉多治見市民病院岩瀬愛子*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2Washout期間薬剤および処置Washout期間眼圧下降薬副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上その他抗ヒスタミン作用を有する点眼薬1週間以上ステロイド薬(全身投与,結膜下投与,眼軟膏を含む点眼投与,眼瞼への塗布).ただし,皮膚局所投与は可とする.1週間以上コンタクトレンズ装用1週間以上———————————————————————-Page4404あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(126)ド薬およびコンタクトレンズを使用している被験者に対しては,表2に示したWashout期間を設定した.6.検査・観察項目投与2,4,8および12週間後に,眼圧検査および細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,虹彩,水晶体および前房)を行った.眼圧は午前8時11時の間に測定した.投与開始日,4および12週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.また,スクリーニング時および投与12週間後に視力,眼底および視野検査を行った.7.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始4週間以上前から用法用量が変更されていない,または治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,緑内障手術およびその他の内眼手術,コンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす療法(除外基準に該当する手術などを含む)を禁止とした.8.評価方法および統計手法本治験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.有効性の評価は治験実施計画書に適合した解析対象集団をおもに用い,安全性の評価は安全性解析対象集団を用いた.a.有効性解析対象集団1)最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)登録されたすべての被験者から,治験薬による治療を一度も受けていない被験者,選択基準を満たしていない被験者,除外基準に抵触する被験者,初診時以降の再来院がない被験者などを除外した集団.2)治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)重大なGCP違反症例,治験薬をまったく投与しなかった症例,選択および除外基準違反症例,診断名が対象外の症例,併用禁止薬を使用した症例,Washout期間設定の違反症例,治療期間を通じて点眼状況が75%未満または101%以上の症例を除く集団.b.安全性解析対象集団治験薬による治療を一度でも受けた被験者から,初診時以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団.治療期終了時における眼圧変化値を有効性の主要評価とし,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証を,PPSを用いて行った.非劣性の検証は,治療期終了時における投与開始日からの眼圧変化値の薬剤群間の差について95%両側信頼区間を算出し,その上限が1.5mmHgを超えなければ0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らないこととした.副次評価として,眼圧値,投与開始日からの各観察時の眼圧変化値および眼圧変化率を用いて,1標本t検定により各群の投与前後の比較を,また,2標本t検定により薬剤群間の比較を行った.治療期の各観察時において,20%または30%以上の眼圧変化率を達成した症例の割合(目標眼圧達成率;眼圧変化率)を求め,c2検定により薬剤群間の比較を行った.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率について経時的分散分析を行い,2群ごとの最小二乗平均による薬剤群間の比較を行った.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度,発現率を比較した.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.なお,安全性の評価は両眼を対象とした.II結果1.症例の構成表3に症例の構成を示した.無作為化された222例のうち,未投与の2例を除く220例が治験薬を投与された.投与された220例のうち,不適格8例,中止11例および逸脱3例を除く198例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した220例はすべて安全性解析に用いられた.表4に有効性解析対象症例198例の患者背景を示す.各項目について,薬剤群間の分布の均衡性を検討した結果,性別および合併症(眼局所)において不均衡が認められた.2.有効性a.主要評価:ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証(治療期終了時)0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の治表3症例の構成0.03%BIM0.01%BIMLAT組み入れ症例777273未投与症例020投与症例777073不適格症例224中止症例344逸脱症例102有効性解析対象症例716463BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010405(127)療期終了時における眼圧変化値はそれぞれ8.0±2.7mmHgおよび7.4±2.8mmHgであった.眼圧変化値の差の95%信頼区間は1.50.3で,上限値はΔ(=1.5)を下回ることから0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.なお,薬剤群間で性別および合併症(眼局所)に不均衡が認められたため,それらの不均衡を調整したところ,調整前と同様に非劣性が検証された.以上の結果から,治療期終了時の眼圧変化値に対する性別および合併症(眼局所)の影響はないと考えられた.b.副次評価治療期の各観察時における眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較を表5および図2に,眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較を表6に,眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較を表7に示した.すべての薬剤群で投与開始日と比較して各観察時点において有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロ表4患者背景(有効性解析対象症例;PPS)項目分類0.03%BIM0.01%BIMLAT検定性別男性女性353640242637p1=0.0535*年齢(歳)20293039404950596069702511181817235152118124202610p2=0.32816465452636284122平均年齢(歳)58.661.560.1緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障高眼圧症274421432340─合併症(眼局所)無有314025391746p1=0.1234*合併症(眼局所以外)無有234818461845p1=0.8354既往歴(眼局所)無有656568558─治療前投薬歴無有8639551251p1=0.4400治験薬投与前に行った処置無有710631630p3=0.6414BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.1:c2検定,2:Kruskal-Wallis検定,3:FisherExact検定.*:p<0.15.表5眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)7.4±2.8#(61)6.5±2.6#(62)6.0±2.7#1.30.90.5p=0.0061*p=0.0663p=0.34214週間後(70)7.8±3.2#(61)7.1±2.7#(63)7.0±2.6#0.80.70.1p=0.1134p=0.1663p=0.86178週間後(69)7.9±2.9#(62)7.2±2.7#(62)7.0±2.8#0.80.70.2p=0.1017p=0.1817p=0.730612週間後(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(62)7.5±2.7#0.50.60.1p=0.2862p=0.2003p=0.8469治療期終了時(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(63)7.4±2.8#0.60.60.0p=0.2192p=0.2003p=0.9766BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.#:投与前後の比較(1標本t検定),p<0.05,*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page6406あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(128)スト点眼剤の2群間で比較した結果,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点でラタノプロスト点眼剤よりも0.51.3mmHg大きく,2週間後において両群間に有意な差が認められた(p=0.0061).眼圧値および眼圧変化率に関しても2週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.図3に目標眼圧達成率(目標眼圧変化率を達成した症例の割合)の薬剤群間比較を示した.2週間後の眼圧変化率20%および30%を達成した症例の割合において,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた(p=0.0266,p=0.0135).また,12週間後の眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤で70.4%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤では50.0%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった(p=0.0160).さらに,眼圧の経時的な変化と薬剤との関係を評価するために眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率のそれぞれについて,経時分散分析および最小二乗平均により薬剤群間比較を行った.その結果,いずれの眼圧評価においても0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に対して有意な差が認められた(p<0.05).続いて0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤,0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の眼圧下降効果についても同様に比較した.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して群間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロ02*48観察日(週)眼圧変化値(mmHg)12:0.03%ビマトプロスト点眼剤:0.01%ビマトプロスト点眼剤:ラタノプロスト点眼剤0-2-4-6-8-10-12図2眼圧変化値の推移*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,2標本t検定).表6眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT投与開始日(71)24.2±2.4(64)23.8±2.0(63)24.1±2.60.10.40.3p=0.7919p=0.2787p=0.46532週間後(68)16.9±2.2(61)17.3±2.7(62)18.0±2.51.10.30.8p=0.0074*p=0.4447p=0.09114週間後(70)16.4±2.5(61)16.7±2.4(63)17.1±2.90.70.30.4p=0.1388p=0.4873p=0.41668週間後(69)16.3±2.0(62)16.6±2.4(62)17.1±2.70.80.30.5p=0.0635p=0.4173p=0.306712週間後(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(62)16.5±2.60.30.20.1p=0.4775p=0.6595p=0.7921治療期終了時(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(63)16.7±2.90.50.20.3p=0.2988p=0.6595p=0.5502BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.表7眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化率(%)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)30.0±9.4(61)27.2±10.5(62)24.8±9.85.22.82.4p=0.0023*p=0.1110p=0.18464週間後(70)31.8±10.8(61)29.5±10.2(63)28.9±10.12.92.30.6p=0.1195p=0.2228p=0.74738週間後(69)32.1±9.6(62)30.0±10.2(62)28.9±10.63.22.01.1p=0.0747p=0.2385p=0.547912週間後(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(62)30.9±10.21.81.90.1p=0.2925p=0.2690p=0.9661治療期終了時(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(63)30.6±10.52.11.90.3p=0.2125p=0.2690p=0.8797BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010407(129)スト点眼剤よりも0.60.9mmHg大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合では,12週間後で0.01%ビマトプロスト点眼剤に比べ0.03%ビマトプロスト点眼剤が有意に高かった(p<0.05).0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率はほぼ同程度で群間に有意な差は認められなかった.なお,FASを対象とした場合においても,PPSと同じく非劣性が検証され,副次評価の各項目の結果も大きな違いはなかった.3.安全性有害事象および副作用の発現例数および発現率を表8に,比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象を表9に示した.†2週間後86.877.171.088.685.377.888.482.380.785.984.485.548.544.327.455.750.847.659.450.046.870.453.150.0***4週間後8週間後目標眼圧変化率:-20%12週間後1008060402001008060402002週間後4週間後8週間後12週間後目標眼圧変化率:-30%■:0.03%ビマトプロスト点眼剤■:0.01%ビマトプロスト点眼剤■:ラタノプロスト点眼剤目標眼圧達成率(%)図3目標眼圧達成率(眼圧変化率)の薬剤群間比較各観察時において20%(左図)または30%(右図)以下の眼圧変化率を達成した症例の割合を示す.*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,c2検定).†p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.0.01%ビマトプロスト点眼剤,c2検定).表8有害事象および副作用の発現例数および発現率0.03%BIM0.01%BIMLAT安全性解析対象症例数777073有害事象発現例数(発現率)58(75.3%)52(74.3%)48(65.8%)副作用発現例数(発現率)51(66.2%)46(65.7%)36(49.3%)BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.表9比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象薬剤との関連有害事象名#0.03%BIM0.01%BIMLAT関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計<眼障害>結膜充血31(40.3%)1(1.3%)3229(41.4%)1(1.4%)3014(19.2%)1(1.4%)15睫毛の成長24(31.2%)02419(27.1%)01912(16.4%)012眼瞼色素沈着8(10.4%)089(12.9%)094(5.5%)04眼の異常感4(5.2%)043(4.3%)1(1.4%)401(1.4%)1アレルギー性結膜炎0001(1.4%)011(1.4%)4(5.5%)5結膜浮腫4(5.2%)043(4.3%)03000<全身障害および投与局所様態>滴下投与部位そう痒感6(7.8%)064(5.7%)2(2.9%)64(5.5%)04<感染症および寄生虫症>鼻咽頭炎011(14.3%)11010(14.3%)1002(2.7%)2<皮膚および皮下組織障害>多毛症3(3.9%)032(2.9%)025(6.8%)05BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.[%:発現例数/安全性解析対象症例数(0.03%群:77例,0.01%群:70例,ラタノプロスト群:73例)×100]*関連が否定できない:明らかに関連あり,多分関連あり,関連あるかもしれない.#:MedDRA(Ver.9.0)PT(基本語),SOC(器官別大分類).———————————————————————-Page8408あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010治験薬を投与した220例について,本治験薬の安全性を検討した結果,有害事象は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中58例(75.3%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中52例(74.3%),ラタノプロスト点眼剤で73例中48例(65.8%)発現した.このうち,副作用は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中51例(66.2%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中46例(65.7%),ラタノプロスト点眼剤で73例中36例(49.3%)であった.0.03%および0.01%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率はラタノプロスト点眼剤よりも高かったが,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では副作用の発現率は同程度であった.最も高頻度で発現した副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%,0.01%ビマトプロスト点眼剤で41.4%に発現したのに対して,ラタノプロスト点眼剤では19.2%であり,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では差は認められなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.その他,高頻度で発現した副作用は,睫毛の成長および眼瞼色素沈着であり,結膜充血と同様にビマトプロスト点眼剤の濃度間では発現率に差はなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.なお,発現した副作用のほとんどは軽度であった.ラタノプロスト点眼剤で2例の重篤な有害事象(糖尿病,てんかん)が発現した.いずれの事象も薬剤との因果関係は否定され,回復が確認された.なお,本治験では死亡に至る有害事象は発現しなかった.副作用による中止例は0.03%ビマトプロスト点眼剤で3例,0.01%ビマトプロスト点眼剤で3例,ラタノプロスト点眼剤で1例であり,薬剤群間に差はなかった.0.03%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの2例(眼瞼色素沈着,浮動性めまい),医学的な理由によるもの1例(眼瞼紅斑,滴下投与部位刺激感,結膜充血),0.01%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの1例(眼瞼色素沈着),医学的な理由によるもの2例〔結膜充血:1例,眼刺激(ひりひり感,熱感)・結膜充血・滴下投与部位そう痒感:1例〕,ならびにラタノプロスト点眼剤における1例の中止理由は,医学的な理由によるもの(水晶体障害)であった.III考按本治験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤を比較し,至適濃度を確認した.有効性の主要評価項目である治療期終了時の眼圧変化値において,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての観察時点でラタノプロスト点眼剤よりも大きく,2週間後には両薬剤間で有意な差が認められた.同様に眼圧値,眼圧変化率に関しても2週間後にラタノプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.さらに,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率を用いた経時的分散分析および最小二乗平均による解析で,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められ,0.03%ビマトプロスト点眼剤がラタノプロスト点眼剤を上回る眼圧下降を示すことが確認された.海外で実施された無作為化比較試験であるEarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)では,眼圧が1mmHg下降すると視野障害の進行リスクを約10%減少することが証明され,少しでも眼圧を下降させることで視野障害の進行を抑制できることが明らかとなっている18).また,各種の無作為化比較試験1921)において,無治療時眼圧から20%および30%眼圧を下降させることで緑内障性の視野障害の進行リスクが減少することが証明されており,それらの結果を基に,緑内障診療ガイドライン22)では無治療時眼圧からの眼圧下降率20%および30%を目標の一つとして設定することが推奨されている.本治験において,12週間後の眼圧変化率20%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤およびラタノプロスト点眼剤で約86%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らない結果であった.一方,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤では2週間後で約50%,12週間後で約70%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤ではそれぞれ約27%,約50%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった.当該結果は,ラタノプロスト点眼剤と比べて0.03%ビマトプロスト点眼剤では,推奨される眼圧変化率を達成できる症例が多いことを示している.0.03%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率は66.2%であり,ラタノプロスト点眼剤の発現率49.3%に比べ高いことが確認されたが,重篤なものは認められなかった.また,副作用のほとんどが軽度で眼局所のものであり,全身への影響は少ないことが確認された.最も高頻度で認められた副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%にみられたが,いずれも点眼を継続しても悪化するものではなく,炎症を伴うものではなかった.そのほか,高頻度に発現した副作用は睫毛の成長であり,点眼の中止(終了)により,ほとんどの症例で軽快した.睫毛の異常や眼瞼色素沈着などの副作用は眼周囲に点眼剤がこぼれることにより発現すると考えられるが,これら(130)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010409の副作用は点眼後濡れタオルの使用または洗顔などにより発現率が下がることが報告されており23),点眼剤使用時に処置を施すことにより発現を回避できると考えられる.結膜充血,睫毛の成長および眼瞼色素沈着などの副作用はいずれも美容的なものであり,視機能に影響を及ぼすような重大なものではなく,疾患の重要性,治療方針や副作用について十分な説明を行うことにより,治療コンプライアンスに及ぼす影響を低減させうると考えられる.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロスト点眼剤よりも大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は12週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高く,0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果は,0.03%用量に比べて弱いことが示された.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の安全性プロファイルに大きな違いは認められなかった.これらのことから,0.03%用量がビマトプロスト点眼剤の至適用量であることが確認された.本治験により,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤よりも早期に眼圧を下降させ,すべての時点で0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが眼圧変化値が大きく,眼圧変化率30%を達成できる症例の割合も高いことが示された.また,副作用は臨床使用上大きな問題となるものではなかったことから,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,現在第一選択薬として臨床使用されているラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して効果を示したとの報告1517)があり,また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤と0.5%チモロールゲル製剤との併用療法による眼圧下降効果と同程度であったとの報告24)もあることから,単剤による治療範囲が広がる可能性が期待できる有用な薬剤であると考えられた.文献1)塚本秀利:薬物治療の進めかた.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p248-251,文光堂,20062)金本尚志:プロスタグランジン関連薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p254-256,文光堂,20063)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,20024)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20035)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,20056)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,20067)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,20068)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:ThetravoprostStudyGroup:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20019)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,200810)YuM,IvesD,RameshaCS:SynthesisofprostaglandinE2ethanolamidefromanandamidebycyclooxygenase-2.JBiolChem272:21181-21186,199711)KozakKR,CrewsBC,MorrowJDetal:Metabolismoftheendocannabinoids,2-arachidonylglycerolandanand-amide,intoprostaglandin,thromboxane,andprostacyclinglycerolestersandethanolamides.JBiolChem277:44877-44885,200212)WoodwardDF,LiangY,KraussAH:Prostamides(prosta-glandin-ethanolamides)andtheirpharmacology.BrJPharmacol153:410-419,200813)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdenticationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:Comparisonofprosta-glandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200315)WilliamsRD:Ecacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200216)GandolSA,CiminoL:Eectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200317)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:Long-termIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglau-comapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200818)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:TheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup:Factorsforglaucomaprogressionandtheeectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200319)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-(131)———————————————————————-Page10410あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010coma.ArchOphthalmol120:701-713;discussion829-830,200220)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sures.AmJOphthalmol126:487-497,199821)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199822)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,200623)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─5年後の成績─.眼紀56:342-348,200524)ManniG,CentofantiM,ParravanoMetal:A6-monthrandomizedclinicaltrialofbimatoprost0.03%versustheassociationinglaucomatouspatients.GraefesArchClinExpOphthalmol242:767-770,2004(132)***