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トラベクレクトミー術後3 日目に眼内炎を生じた1 例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):529.532,2022cトラベクレクトミー術後3日目に眼内炎を生じた1例飯川龍栂野哲哉坂上悠太末武亜紀福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野CACaseofEndophthalmitisthatOccurredontheThirdDayafterTrabeculectomyRyuIikawa,TetsuyaTogano,YutaSakaue,AkiSuetakeandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:トラベクレクトミー術後C3日目に発症した眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例:77歳,男性.慢性眼瞼炎の既往があった左眼の原発開放隅角緑内障に対してトラベクレクトミーを行った.術中,強角膜ブロック作製後の虹彩切除をした際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体を切除した.術翌日からC2日目の所見はとくに異常なかったが,術後C3日目に結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた.細菌性の眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を行ったが所見が急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.術中に採取した前房水からCStaphylococcusaureusが検出され起因菌と考えられた.硝子体手術と抗菌薬投与によって感染は鎮静化したが,濾過胞は瘢痕化し,最終的にはチューブシャント手術を要した.結論:比較的まれとされるトラベクレクトミー術後早期の眼内炎を報告した.本症例では慢性眼瞼炎,硝子体脱出が眼内炎の発症にかかわっていた可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCendophthalmitisCthatCoccurredConCtheCthirdCdayCafterCtrabeculectomy.CCaseReport:AC77-year-oldCmaleCunderwentCtrabeculectomyCinChisCleftCeyeCforCprimaryCopenCangleCglaucoma.CTheCoperatedeyehadahistoryofchronicblepharitis.Duringsurgery,vitreouslossoccurredwheniridectomywasper-formed,andwecuttheprolapsedvitreous.Noabnormal.ndingswereobservedupthrough2dayspostoperative.However,ConCtheCthirdCdayCpostCsurgery,CconjunctivalChyperemia,Chypopyon,CandCvitreousCopacityCwereCobserved.CBacterialCendophthalmitisCwasCsuspected,CandCwasCtreatedCwithCfrequentCadministrationCofCantibioticsCeyeCdrops.CHowever,CtheCconditionCrapidlyCdeteriorated,CsoCvitrectomyCwasCurgentlyCperformed.CStaphylococcusCaureusCwasCdetectedintheaqueoushumor.Althoughvitrectomyandantibioticadministrationsubsidedtheinfection,theblebbecameCscarredCandCeventuallyCrequiredCtubeCshuntCsurgery.CConclusion:ThisCstudyCpresentsCaCrelativelyCrareCcaseofendophthalmitisthatoccurredearlyaftertrabeculectomy.Inthiscase,chronicblepharitisandvitreouspro-lapsemayhavebeenriskfactorsforendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):529.532,C2022〕Keywords:緑内障,トラベクレクトミー,眼内炎,硝子体脱出,眼瞼炎.glaucoma,trabeculectomy,endophthal-mitis,vitreousloss,blepharitis.Cはじめにトラベクレクトミーはもっとも眼圧下降の期待できる緑内障手術の一つとして,国内外で広く施行されている術式である.高い眼圧下降効果の反面,早期の合併症として前房出血,低眼圧,濾過胞漏出,脈絡膜.離,脈絡膜出血,悪性緑内障などがあり,中期から晩期の合併症としては低眼圧の遷延による黄斑症,白内障の進行,濾過胞炎やそれに伴う眼内炎が知られている1).とくに濾過胞炎や眼内炎といった濾過胞関連感染症は,患者の視力予後を大きく左右する合併症の一つで,臨床上大きな問題となる.その頻度をCYamamotoらはC5年の経過で累積発生率はC2.2C±0.5%で,濾過胞漏出の存在と若年であることが濾過胞関連感染症のリスクファクターであると報告している2).濾過胞炎に続発する眼内炎は晩期の合併症として知られているが,トラベクレクトミー術後早期眼内炎の報告は少なく,まれであると考えられる.今回,筆者らはトラベクレクトミー術後C3日目に発症した術後〔別刷請求先〕飯川龍:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野Reprintrequests:RyuIikawa,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-city,Niigata951-8510,JAPANC図1トラベクレクトミー後3日目の前眼部写真前房内に著明な炎症性細胞を認める.図3図1の数時間後の前眼部写真前房蓄膿を認める.早期眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.家族歴:特記事項なし.既往歴:(眼)2005年に左眼,2007年に右眼水晶体再建術,左眼レーザー後.切開術後.(全身)高血圧,前立腺肥大症で内服加療中.現病歴:2007年,Goldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)で右眼眼圧がC20CmmHg,左眼眼圧がC27CmmHgと高値で,左眼にCBjerrum暗点認め,原発開放隅角緑内障の診断で前医にて左眼にラタノプロスト(キサラタン)点眼を開始された.その後,両眼ともC20mmHg以上の眼圧で推移してチモロールマレイン酸塩(チモプトール)を追加された.左眼は適宜点眼を追加するも眼圧はC20CmmHg台前半で推移していた.2018年C1月頃より左眼に眼瞼炎が出現し,ステロイド軟膏を処方されていた.図2トラベクレクトミー後3日目の超音波Bモード画像びまん性の硝子体混濁を認める.2018年C4月頃よりラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤(ザラカム),ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン),リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)点眼下でも左眼眼圧がC30CmmHg台前半まで上昇し,眼圧コントロール不良にてC2018年C6月,当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼がC0.06(1.0C×sph.3.50D(cyl.3.75DAx55°),左眼が0.03(0.4C×sph.3.75D(cylC.2.0DAx105°),眼圧は右眼18mmHg,左眼28mmHg(GAT)であった.前房は深く,清明,両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,左眼はレーザー後.切開術後であった.眼軸長は右眼C26.0Cmm,左眼C25.9Cmmであった.視野はCHum-phrey24-2で右眼の平均偏差(meandeviation:MD)がC.9.47dB,左眼のCMDがC.22.95dB,Humphrey10-2で左眼のMDがC.24.82CdBであった.左眼には慢性眼瞼炎を認めた.CII経過ステロイド緑内障の可能性も考慮し,当科初診時に軟膏を中止した.しかし,その後も眼圧下降が得られず,2018年7月,左眼にトラベクレクレクトミーを施行した.術前,クロルヘキシジン(ステリクロンW液C0.02)で皮膚洗浄を行い,6倍希釈したCPAヨードで結膜.洗浄を行った.手術は輪部基底結膜切開で施行した.強角膜ブロック作製後の虹彩切除の際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体をスプリングハンドル剪刀と吸水性スポンジ(O.S.A;はんだや)で可能な限り切除した.結膜は端々縫合(3針)したあとに連続縫合で閉創し,漏出がないことを確認して手術を終了した.なお,当科では術前や術中の抗菌薬点眼,内服,点滴,術中のヨード製剤などによる術野洗浄はこの当時施行していなかった.術翌日,前房は深く,軽度の炎症細胞を認めた.左眼眼圧はC21CmmHg(GAT)であり,眼球マッサージでC11CmmHgまで下降した.左眼視力は(0.6CpC×sph.4.75D(cyl.2.0DAx110°)であり,眼底透見は良好で,術翌日の所見としてとくに問題はなかった.術翌日より,レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン),トラニラストC0.5%(リザベン)をC1日に各C4回,術後点眼として使用した.術後C2日目も前房炎症は軽度,左眼眼圧はC18CmmHgであり,低眼圧や濾過胞漏出は認めなかった.術後C3日目の午前に,結膜充血,前房内炎症細胞の著明な増加,眼底が透見できないほどの硝子体混濁を認めた(図1,2).濾過胞内には混濁なく,疼痛の自覚はなかった.細菌性の眼内炎を疑い,レボフロキサシン水和物(レボフロキサシン)とセフメノキシム塩酸塩(ベストロン)のC2時間ごと頻回点眼を開始した.しかし,数時間後には前房蓄膿が出現(図3),急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシン,10Cmg)とセフタジジム水和物(モダシン,20mg)を混注したC500Cmlの灌流液を用いて,前房洗浄を行い,続いて硝子体混濁と硝子体腔のフィブリンを除去した.術中の網膜所見としては,全体的に血管が白線化し,少量の網膜出血を認めた.菌塊は認められなかった.術中に採取した前房水と硝子体液の培養を行い,前房水からCStaphylococcusaureusが検出された.硝子体液は培養陰性であった.硝子体手術後は,抗菌薬点眼併用で感染の鎮静化が得られ,術翌日の左眼視力は(0.04C×sph.3.0D)であったが,術後C3カ月の時点で,左眼視力は(0.6C×sph.3.50D(cyl.2.25DAx90°)と改善を認めた.しかし,眼底後極部の血管の白線化は残存,濾過胞は瘢痕化し左眼眼圧C26CmmHg(GAT)まで上昇し,Humphrey10-2のCMDはC.30.22dBに悪化した.最終的に術後C5カ月の時点でCAhmed-FP7(NewWorldMedical)によるチューブシャント手術を要した.CIII考察トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであると考えられる.トラベクレクトミー術後の早期の眼内炎に関しては,症例報告が散見され,Papaconstantinouら3)は術後C10日目の眼内炎,Katzら4)は術翌日の眼内炎,Kuangら5)は術後C2日目の眼内炎を報告している.頻度としてはC0.1.0.2%5,6)程度とされる.一般的に晩期合併症としての眼内炎は菲薄化した濾過胞からの房水漏出濾過胞関連であり,術後早期の眼内炎の原因は術中の汚染と考えられる4).トラベクレクトミー術後早期の眼内炎の起因菌としてはCLactobacil-lus3),b-hemolyticStreptococcus4),Morganellamorganii5),coagulase-negativeStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Streptococcus,Gram-negativeCspecies6)などの報告がある.白内障術後の早期眼内炎に関しては多くがグラム陽性菌で70%がCcoagulase-negativeCStaphylococcus,10%がCStaphy-lococcusaureus,9%がCStreptococcus属,2.2%がCEnterococ-cus属とされ,トラベクレクトミー術後早期においても同様と考えられる7).本症例では慢性の眼瞼炎の存在が,眼内炎のリスクファクターになった可能性がある.白内障術後の眼内炎に関しては,急性または慢性眼瞼炎があると,眼瞼や睫毛が細菌の温床になりリスクが高まるとされる7).早期眼内炎とは異なるが,慢性眼瞼炎はトラベクレクトミー後の濾過胞炎のリスクファクターとされ8),眼瞼炎が感染に関与している可能性は高いと考えられる.眼瞼炎のC47.6%からCStaphylococcusaureusが分離されたとの報告もあり9),本症例では前房水からCStaphylococcusaureusが検出されていることから,起因菌と考えられた.検出菌の薬剤感受性は術後に使用していたレボフロキサシン(LVFX)に対してCS(Susceptible:感受性)であった.術中の硝子体脱出も,眼内炎のリスクになったと考えられる.白内障術後眼内炎に関しては,術中に硝子体脱出があるとC7倍リスクが高くなるという報告がある7).術中に硝子体脱出があった白内障術後眼内炎の起因菌は,症例で検出されたようなグラム陽性菌が多いとされ10),術中の硝子体の汚染が眼内炎の発生率を上げる要因となっている.また,嘉村は白内障手術からの眼内炎発症時期として,CStaphylococcusaureusなどのグラム陽性菌では術後4.7日が多いと報告している11).白内障術後では前房から硝子体,網膜へと感染が進展するのに対して,硝子体術後は細菌が直接硝子体に侵入するため眼内炎の発症期間の平均はC2.3日で白内障手術後の眼内炎よりも早いとされる12).本症例でもこの機序で術後C3日目という比較的早期に眼内炎が生じたと考えられる.Atanassovらはトラベクレクトミー術中の硝子体脱出の頻度はC0.9%と報告している13).トラベクレクトミーでは強度近視,落屑緑内障,トラブルのあった白内障術後などで,術中の硝子体脱出のリスクがある.このような場合は,強角膜ブロックを作製しないCExPRESSなどの術式も検討すべきであるが,本症例はこれらに該当はしなかったため硝子体脱出の原因は不明である.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用についても再考する必要がある.トラベクレクトミー周術期における抗菌薬の使用に関しては決まったガイドラインがないため,各施設・術者によって大きな差がある.荒木らはC34施設C48名にアンケート調査を行い,術前の抗菌薬点眼はC84%,術中の抗菌薬点滴はC70%,術後抗菌薬内服はC68%の医師が施行していると報告している14).当科にてC2018年にC38施設C38名を対象に施行したアンケート調査では,抗菌薬の使用率は術前点眼がC84%(3日前からが最多でC63%),周術期点滴がC58%,周術期内服がC45%であった.術前点眼に関しては同様の結果であったが,抗菌薬の点滴や内服に関してはその有効性や副作用の問題から,昨今は減少傾向にあると考えられる.術中の術野洗浄に関してはC68%の施設でCPA・ヨードまたはイソジンによる洗浄が行われていた.井上らは,白内障術前の患者を対象にしたレボフロキサシン0.5%の術前点眼の期間別の培養陽性率に関して,術前C3日間点眼群は,術前C1日間点眼群やC1時間C1回点眼群に比べて,眼洗浄終了時や,手術終了時の結膜.培養陽性率が有意に低いことを報告しており15),このことからトラベクレクトミーに関しても術前C3日前から点眼している施設・術者が多いものと思われる.また,井上らは術前のイソジン(適応外使用)やCPA・ヨードによる結膜.洗浄で培養陽率が有意に低下することも報告している.内服や点滴と比べて,術前点眼や術中洗浄は副作用や患者の負担も少なく,エビデンスもある減菌方法であると考えられる.CIV結論トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであるが,本症例は慢性眼瞼炎の存在と術中の硝子体脱出が発症にかかわっていた可能性がある.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用に関して定められたガイドラインはなく,施設ごとの差が大きいことから,周術期の抗菌薬の使用方法について再考する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OlayanjuJA,HassanMB,HodgeDOetal:Trabeculecto-my-relatedCcomplicationsCinCOlmstedCCounty,CMinnesota,C1985CthroughC2010.CJAMACOphthalmolC133:574-580,C20152)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20143)PapaconstantinouD,GeorgalasI,KarmirisTetal:Acuteonsetlactobacillusendophthalmitisaftertrabeculectomy:Cacasereport.JMedCaseRepC4:203,C20104)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:ComplicationsofsurgeryinCglaucoma.CEarlyCandClateCbacterialCendophthalmitisCfol-lowingCglaucomaC.lteringCsurgery.COphthalmologyC92:C959-963,C19855)EifrigCCW,CFlynnCHWCJr,CScottCIUCetal:Acute-onsetpostoperativeCendophthalmitis:reviewCofCincidenceCandCvisualoutcomes(1995-2001)C.COphthalmicCSurgCLasersC33:373-378,C20026)WallinCO,CAl-ahramyCAM,CLundstromCMCetal:Endo-phthalmitisCandCsevereCblebitisCfollowingCtrabeculectomy.CEpidemiologyandriskfactors;asingle-centreretrospec-tivestudy.ActaOphthalmolC92:426-431,C20147)RahmaniCS,CEliottD:PostoperativeCendophthalmitis:ACreviewCofCriskCfactors,Cprophylaxis,Cincidence,Cmicrobiolo-gy,Ctreatment,CandCoutcomes.CSeminCOphthalmolC33:C95-101,C20188)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20159)TeweldemedhinCM,CGebreyesusCH,CAtsbahaCAHCetal:CBacterialpro.leofocularinfections:asystematicreview.BMCOphthalmolC17:212,C201710)LundstromCM,CFrilingCE,CMontanP:RiskCfactorsCforCendophthalmitisCafterCcataractsurgery:PredictorsCforCcausativeCorganismsCandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC41:2410-2416,C201511)嘉村由美:術後眼内炎.眼科C43:1329-1340,C200112)島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント.p14-21,日本医事新報社,201613)AtanassovMA:SurgicalCtreatmentCofCglaucomasCbyCtrabeculectomy-indicationsCandCearlyCresults.CFoliaCMed(Plovdiv)51:24-28,C200914)荒木裕加,本庄恵,石田恭子ほか:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討.臨眼72:809-815,C201815)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C2008***

多施設による緑内障患者の実態調査2020 年度版 ─高齢患者と若年・中年患者─

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):219.225,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年度版─高齢患者と若年・中年患者─藤嶋さくら*1井上賢治*1國松志保*2井上順治*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CASurveyofElderlyandYoung/Middle-AgeGlaucomaPatientsSeenatMultipleInstitutionsin2020SakuraFujishima1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:眼科病院または診療所に通院中の緑内障患者の薬物治療実態を調査し,そのなかから高齢患者と若年・中年患者の相違を検討した.対象および方法:本調査の趣旨に賛同したC78施設にC2020年C3月C8.14日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例を対象とし,患者背景,使用薬剤を調査した.そのなかでC65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分けて比較した.さらにC2016年の前回調査と比較した.結果:薬剤数は高齢患者(1.8C±1.3剤)で若年・中年患者(1.7C±1.2剤)より多かった.単剤例は高齢患者(1,431例)と若年・中年患者(772例)でともにプロスタグランジン(PG)関連薬が最多だった.2剤例は高齢患者(815例)と若年・中年患者(402例)でともにCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が最多だった.前回調査と比べてC2剤例で配合剤が増加し,PG関連薬+b(ab)遮断薬が減少した.結論:高齢患者と若年・中年患者の薬物治療は似ていた.単剤例はCPG関連薬,2剤例ではPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が多く使用されていた.CPurpose:Toinvestigateage-relateddi.erencesinmedicationsusedandtherapiesadministeredinglaucomapatientsseenatmultipleinstitutions.Subjectsandmethods:Inthisstudy,weinvestigatedandcomparedpatientbackgroundCandCmedicationsCadministeredCinC5,303CpatientsCwithCglaucomaCandCocularChypertensionCdividedCintoCtwoCagegroups[elderly:≧65Cyearsold(n=3,534patients);young/middle-age:<65Cyearsold(n=1,769patients)]seenat78outpatientclinicsinJapanbetweenMarch8andMarch14,2020.Themedicationsandtypesusedwerecomparedbetweenthetwogroups,andalsocomparedwiththe.ndingsinour2016study.Results:CThemeannumberofmedicationsadministeredintheelderlypatientswasgreaterthanthatintheyoung/middle-agedpatients(i.e.,1.8±1.3vs.1.7±1.2,respectively).Inbothgroups,prostaglandin(PG)-analogswerethedrugsmostCfrequentlyCadministeredCinCtheCpatientsCundergoingCmonotherapy,CwhileCPG-analogs/b-blockersC.xed-combinationwerethedrugsmostfrequentlyadministeredinthe‘multiple-medication’patients.Comparedtothe.ndingsinthe2016study,theuseof.xed-combinationdrugsincreasedinthemultiple-medicationpatients,whiletheCuseCofCPG-analogs+b(ab)-blockersCdecreased.CConclusion:AlthoughCtheCmedicationsCadministeredCinCbothCgroupsweresimilar,PG-analogsandPG-analogs/b-blockers.xed-combination,respectively,werethedrugsmostfrequentlyadministeredinmonotherapyandmultiple-medicationglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):219.225,C2022〕Keywords:緑内障,薬物治療,高齢患者,若年・中年患者,配合剤.glaucoma,medication,elderpatients,youngerormiddleagedpatients,.xedcombinationeyedrops.C〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C219表1参加施設ふじた眼科クリニックえづれ眼科川島眼科鬼怒川眼科医院とやま眼科博愛こばやし眼科いずみ眼科クリニックおおはら眼科さいはく眼科クリニックサンアイ眼科篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科さいき眼科みやざき眼科藤原眼科石井眼科クリニックはしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニックやながわ眼科そが眼科クリニック槇眼科医院ふかさく眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科たじま眼科・形成外科早稲田眼科診療所かさい眼科あおやぎ眼科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通り本郷眼科いなげ眼科やなせ眼科吉田眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニックのだ眼科麻酔科医院えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科みやけ眼科東小金井駅前眼科小川眼科診療所高根台眼科後藤眼科良田眼科谷津駅前あじさい眼科おがわ眼科白金眼科クリニックおおあみ眼科西府ひかり眼科あつみクリニック中山眼科医院だんのうえ眼科クリニックあつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック綱島駅前眼科林眼科医院中沢眼科医院眼科中井医院なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科さいとう眼科さくら眼科・内科立川しんどう眼科ヒルサイド眼科クリニック井上眼科病院町屋駅前眼科図師眼科医院お茶の水・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院西葛西・井上眼科病院うえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック大宮・井上眼科クリニック江本眼科ガキヤ眼科医院札幌・井上眼科クリニックはじめに日本の総人口はC2019年C10月現在C1億C2,617万人である1).2015年頃より総人口は減少を続けている.一方,65歳以上人口はC3,589万人で,総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%である.65歳以上人口と高齢化率は年々増加している.このことから眼科を受診する患者もC65歳以上の高齢者が増加すると予想される.40歳以上を対象として行われた多治見スタディにおいても緑内障の有病率は年齢とともに増加していた2).今後,高齢患者はますます増加し,われわれ眼科医が高齢の緑内障患者を診察する機会も増加することが予想される.緑内障治療の第一選択は点眼薬治療である3).点眼薬には効果と副作用があり,処方する際にはそのバランスを考慮する必要がある.副作用には全身性と眼局所性があり,全身性の副作用では他の疾患を引き起こしたり悪化させたりする危険がある.そこで身体機能が若年・中年者に比べて低下していると考えられる高齢者では使用しづらい.また,眼局所性の副作用ではアドヒアランスが低下する危険がある.近年プロスタグランジン関連薬による眼局所の美容的副作用(眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化)3)が問題になっており,女性や若年患者では使用しづらい状況である.それらを考慮した薬剤順不同・敬称略処方が眼科医によって行われていると考えると,高齢患者と若年・中年患者では使用する薬剤が異なる可能性がある.そこで年齢による緑内障薬物治療の相違を調査する目的で筆者らは緑内障患者の薬物治療の実態調査をC2007年より定期的に行っている4.7).2016年の前回調査4)よりC4年が経過し,さらにその間に眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)とC2種類の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)の合計C3種類の点眼薬が新規に使用可能となった.そこで今回,緑内障薬物治療の実態調査を再度行い,高齢患者と若年・中年患者での使用薬剤の違いを再検討した.さらに前回調査4)の結果と比較することで,経年的変化を検討した.CI対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した眼科病院あるいは眼科診療所C78施設において,2020年C3月C8.14日に行った(表1).この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全員で,1例C1眼を対象とした.総症例数はC5,303例(男性C2,347例,女性C2,956例),年齢はC68.7C±13.1歳(平均C±標準偏差,年齢分布C11.101歳)であった.緑内障の診断と管理は,緑内障診療ガイドライン3)に則り,220あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(88)図1調査票(89)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C221各施設の医師の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.調査施設にあらかじめ調査票(図1)を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤(薬剤濃度は問わない),レーザー治療の既往,緑内障の手術既往を調査した.調査施設からのすべての調査票を井上眼科病院内の集計センターに回収し,集計を行った.なお,前回調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分け,患者背景因子(平均年齢,男女比,緑内障病型,レーザー治療既往,緑内障手術既往)および薬物治療におけるC2群間の相違を検討した(Cc2検定,Mann-Whit-neyU検定).薬剤治療では使用薬剤数,単剤例の薬剤,2剤例の薬剤を調査し,さらにそれぞれの結果をC2016年に行った前回調査の結果4)と比較した(Cc2検定,Mann-WhitneyU検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.全症例での病型は,正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),(狭義)原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(4.2%),小児緑内障C4例(0.1%)などであった.レーザー治療はC220例(4.1%)に行われていた.内訳はレーザー虹彩切開術C151例(68.6%),選択的レーザー線維柱帯形成術C68例(30.9%)などであった.緑内障手術はC366例(6.9%)に行われていた.術式は線維柱帯切除術C263例(71.9%),線維柱帯切開術C60例(16.4%),チューブシャント手術C18例(4.9%)などであった.CII結果患者背景は,平均年齢は高齢患者C76.4C±6.8歳,若年・中年患者C53.4C±8.5歳であった(表2).性別は高齢患者が男性1,477例,女性C2,057例で,若年・中年患者の男性C870例,女性C899例に比べて女性の割合が有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).緑内障の病型は原発開放隅角緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障が高齢患者に,正常眼圧緑内障が若年・中年患者に有意に多かった(p<0.001,Cc2検定)(表2).レーザー治療既往症例は高齢患者C189例(5.3%)が若年・中年患者C31例(1.8%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).レーザー治療の内訳は高齢患者ではレーザー周辺虹彩切開術C133例,選択的レーザー線維柱帯形成術C55例など,若年・中年患者ではレーザー周辺虹彩切開術18例,選択的レーザー線維柱帯形成術C13例であった.緑内障手術既往症例は高齢患者がC278例(7.9%)で,若年・中年患者C88例(5.0%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).手術の内訳は高齢患者では線維柱帯切除術C193例,線維柱帯切開術C50例,チューブシャント手術C12例など,若年・中年患者では線維柱帯切除術C70例,線維柱帯切開術10例,チューブシャント手術C6例などであった.平均使用薬剤数は高齢患者がC1.8C±1.3剤で,若年・中年患者のC1.7C±1.2剤に比べて有意に多かった(p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).単剤例の使用薬剤を表3に示す.EP2作動薬は若年・中年患者が高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).2剤例の使用薬剤の組み合わせを図3に示す.もっとも多く使用されていたプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤の内訳は,高齢者(304例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C118例(38.8%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C103例(33.9%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C42例(13.8%),トラボプロスト/チモロール配合点眼薬C41例(13.5%)であった.若年・中年患者(217例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C86例(39.6%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C64例(29.5%),トラボプロスト/チモロ表2患者背景年齢C男女比病型正常眼圧緑内障原発開放隅角緑内障続発緑内障原発閉塞隅角緑内障高眼圧症小児緑内障レーザー既往症例緑内障手術既往症例高齢患者3,534例76.4±6.8歳C1,477:C2,0571,678例(C47.5%)1,148例(C32.5%)331例(C9.4%)199例(C5.6%)177例(C5.0%)0例(0C.0%)189例(C5.3%)278例(C7.9%)若年・中年患者1,769例53.4±8.5歳870:C8991,032例(C58.3%)490例(C27.7%)C104例(C5.9%)26例(1C.5%)109例(C6.2%)C4例(0C.2%)C31例(1C.8%)88例(5C.0%)p値<C0.0001<C0.00010.0004<C0.0001<C0.00010.08190.0124<C0.0001<C0.0001222あたらしい眼科Vol.39,No.2,2C022(90)4剤271例7.7%高齢患者(3,534例)5剤6剤116例25例3.3%0.7%平均1.8±1.3剤*若年・中年患者(1,769例)5剤6剤4剤120例44例2.5%9例0.5%7剤1例0.1%6.8%*p<0.05平均1.7±1.2剤*図2使用薬剤数表3使用薬剤内訳(単剤例)高齢患者若年・中年患者プロスタグランジン関連薬974例68.1%496例64.2%Cb遮断薬314例21.9%172例22.3%Ca2作動薬56例3.9%22例2.8%EP2受容体**45例3.1%**62例8.0%炭酸脱水酵素阻害薬27例1.9%12例1.6%ROCK阻害薬7例0.5%2例0.3%Ca1遮断薬5例0.3%1例0.1%その他3例0.2%5例0.6%合計1,431例772例PG+a265例8.0%CAI/b配合剤96例11.8%PG+b(ab)119例14.6%**p<0.0001(Cc2検定)高齢患者(815例)若年・中年患者(402例)PG+a220例5.0%CAI/b配合剤50例12.4%PG+b(ab)43例10.7%**PG+点眼CAI**PG+点眼CAI121例14.8%22例5.5%**p<0.0001(c2検定)図3使用薬剤(2剤例)(91)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C223ール配合点眼薬C37例(17.1%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C30例(13.8%)であった.2剤例では,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).また,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).今回調査とC2016年の前回調査4)の結果を比較すると,高齢患者では年齢は有意に上昇し(p<0.0001),男女比では男性の割合が有意に増加していたが(p<0.05),若年・中年患者では同等であった.病型は高齢患者では原発開放隅角緑内障が有意に増加し(p<0.001,Cc2検定),原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した(p<0.05,Cc2検定)が,若年・中年患者では同等であった.レーザー治療既往症例は高齢患者では今回調査(5.3%)が前回調査(7.7%)に比べて有意に減少し(p<0.01),若年・中年患者では同等であった.緑内障手術既往症例は高齢患者,若年・中年患者ともに今回調査では同等であった.使用薬剤数は高齢患者では今回調査(1.8C±1.3剤)で前回調査(1.7C±1.2剤)に比べて有意に増加し(p<0.01,Mann-WhitneyU検定),若年・中年患者では同等であった.単剤例は高齢患者では前回調査に比べて有意に減少し(p<0.001,Cc2検定),4剤例は有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者ではC2剤,5剤例は有意に増加した(p<0.0001,Cc2検定).単剤例は高齢患者では前回調査に比べてプロスタグランジン関連薬(p<0.001,Cc2検定)とCa1遮断薬(p<0.05,Cc2検定)が有意に減少し,Ca2作動薬が有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者では同等であった.一方,2剤例では高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が前回調査に比べて有意に増加し(p<0.01,Cc2検定),プロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.0001,Cc2検定).若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.05,Cc2検定).CIII考按患者背景については,今回調査でも前回調査同様に女性の割合が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,これは女性の平均寿命が長いことが一因と考えられる.緑内障病型は高齢患者,若年・中年患者ともに(広義)原発開放隅角緑内障がC80%以上を占め,多治見スタディ2)の結果と同様であった.正常眼圧緑内障が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,緑内障の啓発活動,職場での健康診断,人間ドックによってみつかったケースが多かったと考えられる.レーザー治療既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,レーザー虹彩切開術がとくに多かったことが影響したと考えられる.緑内障手術既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,緑内障罹病期間が長いことがその原因と考えられる.前回調査と比較すると若年・中年患者では患者背景に変化は少なかった.高齢患者では平均年齢が有意に高くなったが,平均寿命の伸長が関与していると考えられる.高齢患者ではレーザー治療既往症例が有意に減少したが,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少したことが関連していると考えられる.高齢患者では使用薬剤数は今回調査では有意に増加したが,その理由としてこのC4年間で従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)と新規の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能になり,それらの点眼薬が追加投与されて多剤併用症例となったことが考えられる.単剤例の使用薬剤は高齢患者と若年・中年患者でほぼ同様であった.EP2作動薬のみが若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,EP2作動薬は従来のプロスタグランジン関連薬で出現する美容的な眼局所副作用が少ないこと8,9)が影響したと考えられる.高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が前回調査に比べて有意に減少したが,Ca2作動薬とCEP2作動薬が増加したことが原因と考えられる.2剤例ではプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多く,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった.高齢者では全身性副作用が出現しやすいCb遮断薬の使用を控えて全身性副作用が出現しにくい炭酸脱水酵素阻害薬を使用したことと,1日C1回点眼のアドヒアランス向上からアドヒアランスが不良と考えられる若年・中年患者にプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が使用されたことの両方が原因と考えられる.さらに2017年より使用可能となったラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤のなかで高齢患者(38.8%),若年・中年患者(39.6%)ともにもっとも多く使用されていた.この配合点眼薬は従来のチモロール点眼薬との配合ではなくカルテオロール点眼薬との配合である.カルテオロール点眼薬がチモロール点眼薬と眼圧下降効果は同等で,安全性はチモロール点眼薬よりも高いことが影響したと考えられる10,11).また,前回調査と比べて高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が有意に減少し,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が有意に増加した.単剤の併用よりも配合剤C1剤のほうがC1日の総点眼回数が少なく,アドヒアランスの面から配合剤が増加したと考えられる.また,若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬と炭酸脱水酵素阻害薬+a2作動薬が有意に減少したが,アドヒアランス向上の面からプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合224あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(92)剤が増加したことが原因と考えられる.今回調査ではC65歳を境にして高齢患者と若年・中年患者に分けたところ高齢患者が若年・中年患者に比べてC2.0倍多かった.もう少し高い年齢で区切って検討したほうがよい可能性がある.また,高齢患者では緑内障の罹病期間が長く,治療が落ちつき同じ点眼薬が継続的に使用されていることも考えられる.一方,年齢的に手術適応ではなく,多剤併用のままアドヒアランスにやや問題があっても継続使用している高齢患者も存在すると考えられる.あるC1回の外来受診時に使用している薬物調査のため,患者個々人の経時的変化が不明なことが今回調査の問題点と考えられる.今回調査はC78施設C5,303例,前回調査4)はC57施設C4,288例で行った.前回調査,今回調査ともに参加した施設はC53施設であった.施設数や症例数も異なるため,両調査を直接的に比較することは妥当性がない可能性も考えられる.前回調査と同一施設,同一患者で調査を行うのが理想だが,現実にはむずかしい.そこで,なるべく多くの施設,多くの症例からデータを集めることで緑内障患者の実態がより判明すると考えて施設や症例を増加させて今回の検討を行った.今回の結果をまとめる.高齢と若年・中年の緑内障患者の薬物治療を比較すると,高齢患者,若年・中年患者ともに単剤例では依然としてプロスタグランジン関連薬が最多だった.2剤例では,高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤がもっとも多かった.配合剤はC2剤例で高齢患者ではC49.6%,若年・中年患者では67.9%の症例で使用されていた.前回調査4)との比較では,使用薬剤数が高齢患者では増加した.単剤例は高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が減少した.2剤例は高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が減少し,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が増加した.今後ますます配合剤や新しい眼圧下降の作用機序を有する点眼薬(EP2作動薬)の使用が増加すると予想される.文献1)内閣府:令和C2年版高齢社会白書(全体版)第C1章高齢化の状況2)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20043)InoueK:ManagingCadverseCe.ectsCofCglaucomaCmedica-tions.ClinOphthalmolC12:903-913,C20144)井上賢治,岡山良子,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C10:627-633,C20175)井上賢治,塩川美菜子,岡山良子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2012年度版:高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C6:869-874,C20136)野崎令恵,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版─高齢患者と若年・中年患者.臨眼C66:495-501,C20127)増本美枝子,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査高齢患者と若年・中年患者.臨眼C63:1897-1903,C20098)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20199)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:Changesinpros-taglandin-associatedCperiobitalCsyndromeCafterCswitchCfromconventionalprostaglandinF2atreatmenttoomide-nepagCisopropylCinC11consecutiveCpatients.CJCGlaucomaC29:326-328,C202010)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC123:129-140,C201611)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C2010C***(93)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C225

ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果 および検査時間の比較

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1221.1228,2021cヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較北川厚子*1清水美智子*1山中麻友美*1堀口剛*2*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofHead-MountedPerimeterandTraditionalFieldAnalyzerAtsukoKitagawa1),MichikoShimizu1),MayumiYamanaka1)andGoHoriguchi2)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,UniversityHospital,KyotoPrefectur-alUniversityofMedicineC目的:ヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)のC24Cplus(1-2)は,24-2の検査点に10-2のC24点を追加し,黄斑部の検査密度を高めたものである.Humphrey視野計による配列C2種(24-2,10-2)との測定結果,測定時間を比較し,その臨床的意義を検討する.対象および方法:2018年C2月.2019年C1月に緑内障患者39例C50眼に対し,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,10-2の計C3種の検査を行い,グローバルインデックスとして標準偏差(MD)とパターン標準偏差(PSD),パターン偏差,トータル偏差,検査時間を比較した.結果:アイモ24Cplus(1-2)とCHumphrey24-2ではCMD値,PSDの差の平均に大きな差はなく,また,級内相関係数はどちらも一致度は高かった.パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24°内,10°内とも高い一致度を示した.検査時間はアイモが統計的に有意に短かった.CPurpose:Theimo24Cplus(1-2)head-mountedautomatedperimeter(CrewtMedicalSystems)adds24CpointsofC10-2CtoCtheCinspectionCpointsCofC24-2CtoCincreaseCtheCinspectionCdensityCofCtheCmacula.CInCthisCstudy,CweCcom-paredthemeasurementresultsandtimesoftheimo24Cplus(1-2)withthetwosequences(24-2and10-2)o.eredbytheHumphreyPerimeter(ZEISS)andexaminedtheirclinicalsigni.cance.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved50eyesof39glaucomapatientsthatwereanalyzedwiththeimo24plusandtheHumphreyPerimeterfromFebruary2018toJanuary2019.Inalleyes,thefollowing3distinctscanpatternswereperformed:1)imoCR24Cplus(1-2)inAIZE-Rapidmode,2)Humphrey24-2inSITAFastmode,and3)Humphrey10-2inSITAFastmode.MeasurementresultswerethencomparedwithrespecttoGlobalIndexMeanDeviation(MD)andPatternStandardDeviation(PSD)C,CasCwellCasCPatternCDeviationCandCscanCtime.CResults:NoCsigni.cantCdi.erencesCwereCfoundCinCtheCaverageCdi.erenceCbetweenCMDCvalueCandCPSDCbetweenCtheCimo24Cplus(1-2)andCHumphreyC24-2Cscans,CandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientChadCaChighCdegreeCofCagreement.CTheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCofCpatternCdeviationCandCtotalCdeviationCshowedCaChighCdegreeCofCagreement,CbothCwithinC24°CandC10°.CConclusion:Althoughmeasurementresultsofthetwoperimeterswerehighlysimilar,astatisticallysigni.cantlyshorterexaminationtimewasobtainedwiththeimo24Cplus(1-2)C.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1221.1228,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,Humphrey10-2.Glaucoma,visual.eld,“imo”24Cplus(1-2)C,HFA24-2,HFA10-2.Cはじめに世界の人口は増加しており,それに伴い緑内障患者も増加緑内障は発見が遅れたり放置されたり,あるいは治療が適し,2020年までにC8億人が緑内障に罹患し,1,120万人が切に行われない場合,失明に至る可能性のある疾患である.失明するといわれている1).〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC日本においてはもともと近視人口の比率は西洋に比べて高かったが2),最近は世界的にも近視人口は増加傾向にある.また,スマートフォンやパソコン,ゲーム機の多用により,若年者の近視化が著明となり警告が発せられており,文部科学省のC2019年度学校保健統計調査によると,裸眼視力C1.0未満の小学生はC5年連続の増加でC34.57%,中学生のC57.47%,高校生のC67.64%といずれも過去最多の割合となっていて,その多くが近視であると考えられる.近視は緑内障発症のリスクファクターであり3),近視眼緑内障の増加も示唆されている.また,高齢者人口の増加に伴い,合わせて緑内障患者の増加が予想される.緑内障の診療においては眼圧・視神経乳頭所見・光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)・視野検査などが必須であるが,なかでも視野検査は緑内障の発見や進行度の判定にきわめて重要な検査である.視野検査は現在もっぱら自動視野計が用いられ,片眼遮閉下に片眼ずつ測定するCHumphreyCfieldanalyzer(HFA)が従来多く用いられてきた.2015年にCHFAの検査配置に加え,オリジナルの検査配置を有し,また両眼開放下に片眼ずつの検査が可能なヘッドマウント型の自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)が開発された4,5).本研究では,緑内障患者に対して行ったアイモによる検査〔24Cplus(1-2)AIZE-Rapid・スタンド型使用,以下Cimoと表記〕とCHFAII-iによる検査(24-2CSITA-Fast/10-2SITA-Fast,以下CHFA24-2/HFA10-2と表記)の結果を比較検討した.検査プログラムは,検査時間の短いCimoAIZE-Rapid,HFASITA-Fastを採用し,疲労による精度低下を軽減した.併せて検査時間についても検討し,imo24Cplus(1-2)の有用性について評価する.CI対象および方法1.対象対象は,①緑内障の通常診療において,2018年C2月C1日.2019年C1月C31日にCimo・HFA2種を行い,すべて正確に検査できた患者,②C3種の視野検査の比較の必要性を説明し,口頭で同意を得られる患者,③年齢がC20歳以上,以上三つの適格基準を満たす患者とした.検査の信頼性についての除外基準は,固視不良C10%以上・偽陽性C15%以上・偽陰性C15%以上とした.固視状態はゲイズトラックにより判定し,また明らかな網脈絡膜病変を有するものは除外した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1565)を得ている.C2.診断機器HFAは白色背景上に白色視標を呈示し,(背景輝度31.5Casb・視標最大輝度C10.000Casb),視標サイズCIIIを用いて片眼遮閉下に検査を行う.HFASITA-StandardのアルゴリズムはCSwedishCinteractivethresholdingCalgorithm法であり,4CdB-2CdBbracketing法による閾値測定を行っている.SITA-FastではC4CdBbracketing(singleCstep)により,検査時間の短縮を図っている.imoはCHFAと同じ条件下で視野検査を行うが,左右眼で独立した光学系を搭載し,被検者の左右各眼に個別に視標を呈示するので,被検者は両眼を開放したまま検査を受けることになる.また,近赤外線カメラで左右の瞳孔をモニターし,眼球追尾する自動補正により,検査時間の短縮や固視ズレの解消を図っている4,5).仮に固視ズレが生じてもC5°以内であれば正確な測定が可能となっている.imoのアルゴリズムはCAIZE〔AmbientCInteractiveZEST(ZippyCEstimationCofSequentialTesting)〕である.AIZEは検査点の結果を周囲の検査点にその結果を反映し閾値決定までの試行回数を低減することで測定時間の短縮を図っている.その影響度は検査点とその他の検査点との距離で重みづけしている.AIZE-Rapidは検査点の結果を隣接点により強く反映させ,さらに収束条件を変更し,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては,追加の刺激を行わないことで検査スピードを上げている.C3.評価imoの検査配置点はCHFAに準じているが,オリジナルのモードとしてC24Cplus(1-2)を有している.24Cplus(1-2)は24-2の検査点(6°間隔)54点に10-2の検査点(2°間隔)24点を加え,黄斑部の検査密度を高めている(図1).imoとCHFA(10-2/24-2)の検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C76個の検査点(図2)ごとの指標としてのパターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC4カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③検査時間(分).C4.統計解析連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるCimoのCHFA24-2に相当する24°内の結果とCHFA24-2の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間(confidenceinterval:CI),および級内相関係数とそのC95%CCIを推定した.また,MDおよびCPSDにおけるCimoとCHFA24-2の関係についてCBland-AltmanCplot7)を作成した.さらに,MDおよびCPSDにおけるCimo全体(10°内とC24°内を含む)の結果とCHFA24-2の結果についても,同様の解析を行った.パターン偏差プロットについて,imoの10°内とHFA10-2,およびimoの24°内とHFA24-2HFA10-2図1imo24plus(1.2)配列図2検査点の番号(右眼)左眼は反転.検査点C71・72はCMariotte盲点.HFA24-2の結果の重み付きカッパ係数を検査点(10°内:全36点,24°内:全52点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,imoのC10°内とCHFA10-2,およびCimoのC24°内とCHFA24-2の結果の級内相関係数を検査点(10°内:全C36点,24°内:全C52点)ごとに算出し,それらの級内相関係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.検査時間については,検査の種類ごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,imoとCHFA10-2およびCimoとCHFA24-2についてそれぞれWilcoxon符号付き順位検定を行った.検定の有意水準は両側5%とした.なお,imoで両眼同時に検査した場合は検査時間をC1/2にすることで調整した.CII結果対象特性は緑内障症例C39例C50眼(右眼C24眼,左眼C26眼),年齢はC46.88歳(中央値:68.0歳),男女比C21人:18人,屈折+2.75D.C.10.00D,乱視C0.5D.2.0D,矯正視力C0.6Cp.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,imo,HFA24-2,HFA10-2の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.5%(1眼Cnotavailable),0.10%,0.10%,偽陽性はC0.8%,0.9%,0.13%,偽陰性はC0.3%,0.14%(2眼Cnotavailable),0.12%と,正確な検査が可能であっ「24°内のimo24plus(1-2)のMD・PSD値」(検査点:52点)「24°内と10°内を含むimo24plus(1-2)のMD・PSD値」と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較(検査点:76点)と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較表1検査順序検査順序人数CimoC→CHFA10-2C→CHFA24-2C14CHFA10-2C→CHFA24-2C→CimoC5CHFA10-2C→CimoC→CHFA24-2C4CHFA24-2C→CHFA10-2C→CimoC3CimoC→CHFA24-2C→CHFA10-2C2(HFAC10-2・imo)C→CHFA24-2C3HFA10-2C→(imo・HFAC24-2)C3imoC→(HFAC10-2・HFAC24-2)C2(HFAC10-2・HFAC24-2)C→CimoC2(imo・HFAC24-2)C→CHFA10-2C1計39人*全C10パターン.()は同日に検査施行.た症例を対象とした.3種の検査の測定順序はさまざまであり,表1に示すとおり「imoC→CHFA10-2C→CHFA24-2」の順序がもっとも多かった.また,同意の得られたC11例では同日にC2種の検査を行った.検査実施の間隔は最短:2カ月,最長:11カ月,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックスimoのC24-2に相当する検査点とCHFA24-2の検査点のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてCimoでは中央値C.5.8(C.10.5.C.2.3)dB,HFA24-2では中央値C.5.3(C.10.6.C.3.1)dBであり,PSDについてCimoでは中央値C6.6(4.1.11.4)dB,HFA24-2では中央値C6.2(2.3.11.0)dBであった.差の平均については,MDでC0.42(95%CCI:C.0.19.1.02)dB,PSDでC1.04(95%CI:0.67.1.42)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97),PSDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97)であり,どちらも一致度は高かった.また,imoの10°内とC24°内を含む全体の検査点とHFA10-2図3MDおよびPSDのBland.Altmanプロットab図4各検査点の一致度a:パターン偏差プロットにおける重み付きカッパ係数,Cb:パターン偏差における級内相関係数.HFA24-2の検査点のCMDおよびCPSDを比較した結果,imo全体についてCMDの中央値はC.5.5(C.10.6.C.2.2)dB,PSDの中央値はC6.2(3.9.11.1)dBであった.差の平均は,MDでC1.15(95%CCI:0.36.1.94)dB,PSDでC0.98(95%CI:0.51.1.44)dB,級内相関係数は,MDでC0.91(95%CI:0.85.0.95),PSDでC0.93(95%CCI:0.88.0.96)であった.MD,PSDともに大きな差はなく,級内相関係数においてはどちらも一致度は高かった.Bland-Altmanプロットを作成した結果,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった(図3).C2.パターン偏差とトータル偏差パターン偏差について,重み付きカッパ係数を算出した結果,10°内でC0.51(95%CCI:0.47.0.56),24°内でC0.66(95%CCI:0.62.0.71)であり,10°内よりもC24°内の一致度のほうが高かった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,10°内に対してそれぞれC0.68(95%CCI:0.60.0.76),0.71(95%CCI:0.63.0.79),24°内に対してそれぞれ0.79(95%CCI:0.77.0.82),0.83(95%CI:0.80.0.85)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,パターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図4a),パターン偏差に対しては級内相関係数(図4b)をそれぞれヒートマップで表した.10°内の特定の検査点において一致度が低かったが,全体としては高い一致度を示した.トータル偏差の一致度はパターン偏差と同程度であったため省略する.検査時間(分)76543imo24plus(1-2)HFA10-2HFA24-2図5各視野計の検査時間3.検査時間検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,imoで中央値C3.62(3.11.4.02)分(検査点:78点),HFA10-2で中央値C4.09(3.37.4.58)分(検査点:68点),HFA24-2で中央値C3.74(3.17.4.88)分(検査点:54点)であり,箱ひげ図を図5に示した.また,検査種類間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,imoとCHFA10-2の比較(Z=.394,p<0.001),およびCimoとCHFA24-2の比較(Z=.331,p<0.001)においてCimoが有意に短かった.CIII考按緑内障の診断に際しては,OCTの普及に伴い視神経乳頭および網膜神経障害の診断が早期に可能となった.また,中等度までの緑内障においては,OCTによる進行の判断も可能であり,OCTと視野検査・眼圧・視神経乳頭所見などを組み合わせることにより,総合的な判断がなされている.ただ,後期緑内障においてはCOCTの有用性は低下し,もっぱら視野検査により進行の有無を判断する.視野検査はC30-2,24-2の静的視野計測が多く選択されているが,DeMoraesらは,24-2検査は緑内障疑い症例・高眼圧症・早期緑内障においてはC10-2検査によって初めて判明する中心視野障害を見逃すことが少なくないと報告している9).わが国で今後さらに増加が懸念される近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることも多く,とくに強度近視を伴う緑内障のC42%に初期から乳頭黄斑線維束欠損を認め,非近視眼緑内障と比較して有意に高率であり,耳下側傍中心暗点も早期から認められる10).また,後期緑内障においては,乳頭黄斑線維束を含む神経線維層欠損の進行に十分な注意を払わなければならない.したがって,10-2検査はきわめて重要であるが,一般的に緑内障患者の視野観察はC1.3回/年であり,24-2あるいはC30-2とC10-2を適切に検査することには制限があり,また同日にC24-2とC10-2検査を行うことは患者の疲労のため正確性に疑問が生じる可能性がある.読書に際して使用される視野の大きさはC4.10°であり,これは日本語ではC10.17文字相当である.中心窩視でまず単語の認知を行い,さらにその周辺を近中心窩視(中心視野5°まで)によって注視し,つまり最初に認知した単語の次の単語に対し,何らかの前処置を行い読書している.通常のスピードで読書ができるためには視野C10°が必要となっている11,12).固視点近傍の視野感度の低下はCqualityCofCvison(QOV)に大きな影響を与えるため,緑内障診療においては10-2の検査の必要性が以前より指摘されている.imoはC1回の検査でC24-2とC10-2を合わせて検査し,10°内ではC36点,読書に必要な半径C5°内においてはC10-2と同様にC16点を検査することから,QOVの管理に有用であると考えられる.今回行ったCHFA24-2と,imo24Cplus(1-2)のCHFA相応点の比較においてはCMD・PSDは差の平均がCMDでC0.42dB,PSDでC1.04CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はMDでC0.95,PSDでC0.95であり,どちらも一致度は高かった.imo全体とCHFA24-2の比較においても差の平均はMDでC1.15CdB,PSDでC0.98CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はCMDでC0.91,PSDでC0.93とどちらも一致度は高かった.また,Bland-Altmanプロットについて,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった.今回のデータではMD値の小さい症例が比較的少なく,偶然Cimoの値が大きくなったのか,あるいはその他の系統的な原因があるのかは判別できないため,この点については今後の検討が必要である.今回の比較検討では重み付けカッパ係数の評価から検査全体としては高度な一致であり,とくに周辺のC24°内は高度な一致であることがわかった.10°内とC5°内は中等度の一致となった.これはC24°内がC6°間隔であることに対し,中心部は2°間隔であり,固視ずれに対する機械差や両眼開放下検査と片眼遮閉下検査による差が考えられる.図6aに一致度の高い例のCimoとCHFAのグレースケール合成イメージを示す.図6bに検査点C51(図2,図4参照)におけるCPDの散布図を示すが,2例でCimoとCHFAの結果に大きな差がみられている.このC2例について図6c①②にそれぞれのCOCT画像とCPD確率プロットの合成図,およびグレースケールを示した.OCTとCPD確率プロットの合成の際には,視野検査とOCTを対応させるため,理論式〔網膜神経節細胞偏心度(mm)=1.29・(視細胞偏心度(mm)+0.046)C0.67〕を用いた14,15).OCTとCPD確率プロットの合成図では,HFAにおいて不一致が認められ,機械差やC10-2検査における片眼遮b図6imoのグレースケールとHFA2種のグレースケール合成図の比較a:一致度の高い例.Cb,c:検査点C51においてCPDの一致度が低かったC2例のグレースケールおよびCOCT画像とPD確率プロットの合成図.閉による固視ずれの可能性が考えられる13).一般的に緑内障患者を長年にわたり診察する場合,その治療の是非はCMDスロープを用いて判断することが多いが,今回の結果よりCimoとCHFAのCMDに大きな差はなく,両者にある程度の互換性の可能性が示唆された.視野検査は高い集中力や緊張を強いることになり,「つらい検査」と捉える患者は少なくない.たとえばCHFASITA-Standardでは,検査時間はC30-2で片眼C7.9分,24-2でC6.8分,SITA-FastではC30-2でC5.7分,24-2でC4.6分の検査時間を要するとされている.今回の研究結果においては,HFA24-2SITA-FastでC3.74(3.17.4.88)分,HFA10-2SITA-FastでC4.09(3.37.4.58)分,imo24Cplus(1-2)AIZE-RapidでC3.62(3.11.4.02)分(片眼)であった.検査点の数はCimo24Cplus(1-2)が78点,HFA10-2がC68点,24-2がC54点であり,imo24Cplus(1-2)ではより多くの検査点を短時間で検査しており,患者の負担を軽減しつつさらに多くの情報を得ることができた.Cimo24plus(1-2)はHFA24-2に加え,10-2の24点を加えた検査点を有し,一度の検査で黄斑部を密に検査し,24-2に相当するCMD値・PSD値はCHFAと大きな差がなく,また両者間のパターン偏差,トータル偏差は一致度が高かった.検査時間はCimoが有意に短かった.以上より,imo24Cplus(1-2)は緑内障の発見,とくに早期より中心C10°内に視野異常のみられる例や今後増加の予想される近視眼緑内障の発見,後期における固視点近傍の詳細な観察に有用であり,また長期にわたる経過観察においても有用であることが示唆された.また,その検査時間の短縮により検査のストレスを軽減することが可能となった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CookCC,CFosterP:EpidemiologyCofglaucoma:whatC’sCnew?CanJOphthalmolC47:223-226,C20122)TokoroT:RefractiveCerrorCandCitsCcorrection.C2ndCed,CKanehara,Tokyo,1991,chap43)SuzukiCY,CYamamotoCT,CAraieCMCetal:TajimiCStudyCreview.CNipponCGankaCGakkaiCZasshiC112:1039-1058,C20084)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCPerimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20165)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20196)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201710)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C201211)懸田孝一:読書時の単語認知過程:眼球運動を指標とした研究の概観.北海道大學文學部紀要C46:155-192,C199812)神部尚武:読みの眼球運動と読みの過程.国立国語研究所報告85:29-66,C198613)WakayamaCA,CMatsumotoCC,CAyatoCYCetal:ComparisonCofCmonocularCsensitivitiesCmeasuredCwithCandCwithoutCocclusionCusingCtheChead-mountedCperimeterCimo.CPLoSCOneC14:e0210691,C201914)江浦真理子,松本長太,橋本茂樹ほか:緑内障眼における黄斑部の各種視野検査とCGCL+IPL厚との対応.近畿大医誌C39:39-48,C201415)SjostrandCJ,CPopovicCZ,CConradiCNCetal:MorphometricCstudyCofCtheCdisplacementCofCretinalCganglionCcellsCsub-servingconeswithinthehumanfovea.GraefesArchClinExpOphthalmolC237:1014-1023,C1999***

緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1109.1113,2021c緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価木下恵*1,2柴谷直樹*1,2宮坂萌菜*1,2大江泰*1,2平野達也*1,2入江慶*3吉水聡*4藤原雅史*4栗本康夫*4室井延之*1,2*1神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部*2神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部*3神戸学院大学薬学部*4神戸市立神戸アイセンター病院眼科CEvaluationofanAmbulatoryPharmacyCarePracticeforGlaucomaPatientsMegumiKinoshita1,2)C,NaokiShibatani1,2)C,MoenaMiyasaka1,2)C,YutakaOe1,2)C,TatsuyaHirano1,2)C,KeiIrie3),SatoruYoshimizu4),MasashiFujihara4),YasuoKurimoto4)andNobuyukiMuroi1,2)1)DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofPharmacy,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)FacultyofPharmaceuticalSciences,KobeGakuinUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,KobeCityEyeHospitalC2019年C11月.2020年C4月に緑内障薬剤師外来で指導を行った患者C22名を対象に,薬剤師介入前後の点眼手技および緑内障点眼薬処方本数の変化,患者への介入事例を検討した.緑内障薬剤師外来における手技指導により「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目で有意な改善を認めた.指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数は1.07本C±0.62からC0.75本C±0.24に有意に減少した.原発閉塞隅角症患者C5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があり中止および代替薬の提案を行った.かかりつけ保険薬局と連携した薬学的介入により,アドヒアランスが向上した症例があった.CInCthisCstudy,CweCcomparedCtheCeyeCdropCprocedureCandCtheCnumberCofCprescribedCeyeCdropsCinCglaucomaCpatientsCbeforeCandCafterCvisitingCourCambulatoryCcareCpharmacyCfromCNovemberC2019CtoCAprilC2020.CWeCalsoCreviewedCpharmaceuticalCinterventionsCforCglaucomaCpatients.CTheCinstructionsCprovidedCbyCourCambulatoryCcareCpharmacyCsigni.cantlyCimprovedCtheCeyeCdropCprocedureCof“doCnotCinstillCmoreCthanC2CdropsCatCaCtime,”andCdecreasedthenumber(meanC±SD)ofprescribedeyedropsfrom1.07±0.62CtoC0.75±0.24.Wefoundthatanticho-linergicCdrugsChadCbeenCprescribedCtoC2CofC5CpatientsCwithCprimaryCangleCclosure,CsoCweCsuggestedCdiscontinuingCthosedrugs.Insomecases,thecollaborativemanagementbetweenhospitalandinsurancepharmacypharmacistsimprovedmedicationadherenceinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1109.1113,C2021〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,薬剤師外来,点眼手技.glaucoma,medicationadherence,ambulatorypharmacycarepractice,eyedroptechnique.Cはじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた治療法は眼圧下降であり,薬物治療が果たす役割は大きい1).しかしながら,緑内障点眼薬による治療は効果自覚の乏しさや手技の煩雑さ,副作用などからアドヒアランスの維持が困難であるといわれている2).アドヒアランスは患者が医療者からの推奨に同意し,服薬や食事療法,生活習慣の見直しを実践することと定義されており3),緑内障治療ではアドヒアランス不良は緑内障の進行に関与する.緑内障患者において,動機づけを重視したコーチングプログラムによりアドヒアランスが向上することが報告されており4),緑内障診療ガイドラインでもアドヒアランス維持には多職種による介入が必要とされていることから,手術が必要となる前段階の外来通院時から病院薬剤師が積極的に介入する意義は大きいと考えられた.そこで,神戸市立神戸アイセンター病院(以下,当院)では眼科医師の指導のもと,緑内〔別刷請求先〕室井延之:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部Reprintrequests:NobuyukiMuroi,Ph.D.,DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2-1-8,Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC障薬剤師外来を開設し,外来患者に対して点眼手技指導や点眼薬による副作用対策の指導を始めた.また,原発閉塞隅角症患者の他院処方薬の確認や,かかりつけ保険薬局薬剤師との情報共有も行い,患者個々に応じたサポートが継続して受けられる体制を構築した.緑内障患者に対するこのような取り組みは過去に報告がなく,本研究では当院緑内障薬剤師外来にて指導を行った患者を対象に薬剤師の介入の有用性について評価した.CI対象および方法1.緑内障薬剤師外来の運用緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由および目標眼圧を記入した「指導依頼箋」を用い,医師からの依頼に基づき実施した(図1a).医師の診察後に外来部門の診察室を使用し,薬剤師が依頼内容に応じた指導を行った.指導内容は,1)医師による緑内障の病態・治療説明の後の再確認,2)緑内障点眼薬の効果効能・用法用量・副作用の説明,3)生理食塩水点眼を用いた点眼手技の説明・練習(補助具の配布なども含む),4)正しい点眼順番の説明(点眼表の交付),5)「お薬手帳」を用いた他院の処方薬確認などで,指導に要する時間は患者C1名当たりC30分程度であった.さらに,患者同意のもと,かかりつけ保険薬局と施設間薬剤情報提供書を用いて指導内容などの情報を共有した(図1b).なお,緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由の問題が解決するまで患者の診察日に合わせて複数回行った.C2.調査期間および対象患者2019年11月1日.2020年4月30日に,当院緑内障薬剤師外来で指導を受けたC22名の患者を対象とした.C3.薬剤師による介入の評価緑内障薬剤師外来への指導依頼理由に応じた以下の項目について,薬剤師による介入を評価した.(1)緑内障点眼薬の手技指導対象患者C22名のうち,緑内障点眼薬を使用しており,かつ対象期間中にC2回以上手技指導を行ったC11名を対象とした.両眼該当例では視力が悪いほうの眼を対象眼とした.点眼手技の評価項目は「十分に後屈する,できない場合は臥位をとる」「点眼瓶の先が睫毛に触れない」「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」「1回C2滴以上点眼しない」「点眼後はa:指導依頼箋b:施設間薬剤情報提供書図1指導依頼箋および施設間薬剤情報提供書表1患者背景・緑内障薬剤師外来への指導依頼理由対象患者数22名年齢中央値(範囲)74.5(C57.C89)歳性別(男性/女性)9名C/13名緑内障点眼薬使用患者数17名1人当たりの緑内障点眼薬の平均使用本数(C±標準偏差)2.8(C±0.8)本指導依頼理由(複数回答)点眼手技不良のため10件眼瞼炎のため10件原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため5件アドヒアランス不良のため3件眼圧コントロール不良のため2件その他2件C静かに眼を閉じる」「眼の周りにあふれた点眼液はふき取る」のC6項目とした.実際に生理食塩水点眼で点眼手技を実施し「できる」と評価された症例数(眼)11てもらったうえで薬剤師が評価し,初回指導前とC2回目来院1098以降の点眼手技を比較した.また,緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数を,緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日7数×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)と定義し,手技指導前後で比較した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認6543対象患者C22名のうち,常用薬確認の依頼があった原発閉21塞隅角症患者C5名を対象に,薬剤師による薬学的介入について評価した.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携対象患者C22名のうち,かかりつけ保険薬局のあったC19名を対象に,施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携による介入事例を評価した.施設間薬剤情報提供書は兵庫県薬剤師会が作成した書式を,眼圧や視野,視力などの情報を記載できる当院独自の書式に改変し使用した.C4.統計学的解析0指導前後の点眼手技の変化の比較にはCMcNemar検定を用いた.また,指導前後の緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数の変化の比較には対応のあるCt検定を使用した.p値5%未満を有意差ありと判定した.C5.倫理的配慮本調査研究は,神戸市立医療センター中央市民病院研究倫理審査委員会から承認を得て実施した(承認番号:ezn200801,承認日:2020年C7月C16日).CII結果1.対象患者の背景対象患者の背景を表1に示した.緑内障薬剤師外来への指導依頼理由は,「点眼手技不良のため」「眼瞼炎のため」が各10件,ついで「原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため」がC5件であった.対象患者のC22名の年齢の中央値はC74.5歳点眼手技の評価項目図2薬剤師介入前後の点眼手技の変化McNemar検定:*p<0.05.n=11(眼).(範囲:57.89歳),男性がC9名,女性がC13名,原発閉塞隅角症患者C5名を除くC17名が緑内障点眼薬を使用していた.C2.薬剤師による介入の評価(1)緑内障点眼薬の手技指導緑内障点眼薬の点眼指導前後における点眼手技の変化を図2に示す.初回指導から介入後の評価までの期間の中央値は64(範囲:37.119)日であった.この期間において「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目に有意な改善を認めた(p=0.041).また,指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数±標準偏差は,1.07C±0.62本からC0.75C±0.24本へと有意に減少した(p=0.048)(図3).表2緑内障薬剤師外来における薬剤師の介入例ゾルピデム(急性閉塞隅角緑内障の患者に禁忌),ヒドロキシジン(緑内障の患者に慎重投与)を頓用使用しており,白内障手症例C1術までC2週間程度使用を控えるよう指導.代替薬としてラメルテオンやスボレキサントを当院主治医に処方提案できることを伝えたが希望せず.白内障手術後,当該薬剤の再開が可能であることを説明した.症例C2抗コリン作用を有する総合感冒薬の使用歴があり,眼圧上昇のリスクを説明するとともに,かかりつけ保険薬局と情報共有を行った.観血的手術あるいはレーザー治療などの予定はなかった.脳梗塞の既往から右手(利き手)に軽度麻痺が残っている患者.薬剤師外来で「点眼薬の容器が硬くてさしにくい」との訴え症例C3があり,実際の手技を確認していると,容器が丸いことが掴みづらい原因になっていることがわかった.かかりつけ保険薬局と情報共有し,同成分で平たい容器の点眼薬に変更した.変更後は「さしやすくなった」と点眼手技も改善した.アドヒアランスは良好だが,点眼手技不良でC1カ月に両眼でC2.3本を使用していた.薬剤師外来で正しい点眼手技の指導を症例C4行ったところ「家でも練習したい」と希望され,かかりつけ保険薬局で準備した人工涙液型点眼薬を購入.手技練習によりC1カ月C1.5本程度まで処方本数も減少した.眼脂を洗い流すために緑内障点眼薬を多量に使用しており,薬剤師外来で正しい使用方法を指導した.患者のこだわりが強症例C5く,複数回の指導を要したが,当院とかかりつけ保険薬局双方で継続してフォローし,1回C1滴を遂行できるようになった.点眼手技改善に伴い眼瞼炎も改善し,本人の治療に対する意欲が上昇した.眼瞼炎があり,以前に主治医から,点眼薬を入浴前に使用するよう指導を受けていた患者.時間が経過し,本人は指導内容症例C6を忘れてしまい,同じ薬剤の処方が長期に継続されていたためかかりつけ保険薬局でも確認が不十分で,眠前使用に戻っていた.薬剤師外来で上記が発覚し,継続した指導が必要であることを情報共有した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認常用薬確認の依頼があったC5名の原発閉塞隅角症患者に対する薬剤師の指導内容および転帰の例を表2に示す.5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があった.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携施設間薬剤情報提供書はかかりつけ保険薬局のあるC19名の患者全員に作成した.多くは緑内障薬剤師外来での指導内C2*1.510.50図3薬剤師介入前後の緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数の変化緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数=緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日数C×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)対応のあるCt検定:*p<0.05.n=11(眼).緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数(本)指導前指導後容やアドヒアランスに関する情報を共有し,かかりつけ保険薬局で再度患者に指導することにより,患者の理解を深めるために使用した.情報共有の内容および転帰の例を表2に示す.かかりつけ保険薬局との連携により,一部の患者においてアドヒアランスが向上した.CIII考察緑内障薬剤師外来では,病院薬剤師が外来緑内障患者に継続して介入し,点眼薬だけでなく内服薬も含めた常用薬全体の管理を行うとともに,かかりつけ保険薬局との連携体制を構築した.この緑内障薬剤師外来による介入は患者個々に対応した内容であり,本研究ではその有用性を評価することを目的とした.指導依頼でもっとも多かった理由は「点眼手技不良」「眼瞼炎」であり,その半数はこれらを組み合わせたものであった.緑内障患者は高齢であることが多く,また緑内障進行による視野狭窄や視野欠損は点眼操作をさらに困難する5).手技の遂行やアドヒアランスに関して患者の自己申告と医療者の評価は一致性が低く6),緑内障薬剤師外来では毎回,対面で生理食塩水点眼を用いて手技確認を行った.点眼手技失敗の理由はさまざまであり,たとえばC1回に何滴も使用する患者には,効果に対する不安感から何滴も使用する場合,滴下した感覚がわからず何滴も使用する場合,眼脂を洗い流すな眼瞼炎に対しステロイド眼軟膏,ヘパリン類似物質クリーム,白色ワセリンの処方があり,処方箋の指示記載だけでは情報症例C7が不十分であったため,使用方法についてかかりつけ保険薬局と詳細な情報共有を行った.指導の結果,患者は混乱なく薬剤を使い分け,眼瞼炎の改善を認めた.ど誤った使用のために何滴も使用する場合などがあり,それぞれに合わせた指導を行う必要があった.多数の滴下により眼周囲にあふれた薬液の不十分なふき取りが眼瞼炎の原因になっていることが多く,手技改善により眼瞼炎改善がみられた患者もいた.このように点眼手技の知識に関する項目は改善しやすい傾向にある一方で,「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」は視野狭窄や視野欠損がある緑内障患者では困難なことが多く,必要に応じて補助具の使用をすすめた.指導を通じて正しい知識をもってもらうと同時に,患者の状況を考慮し,実行可能な方法を薬剤師が患者とともに考え,相談のうえで決定していくことが大切であった.薬剤師介入の前後で緑内障点眼薬の処方本数が有意に減少したことは,手技指導により必要以上に点眼薬を使用していた患者の処方本数が適正化された結果と考えている.なお,今回は片眼で算出したためC1を下まわる数値となったが,開封後の点眼薬の使用期限はC1カ月であることを指導している.原発閉塞隅角症患者において抗コリン薬を代表とする緑内障禁忌薬は眼圧上昇をきたすリスクがある7,8).このような患者に対する薬剤師の介入は,緑内障薬剤師外来開設時,医師より手技指導と同等に強く要望されたものであった.抗コリン作用を有する薬剤には,胃薬や総合感冒薬など日常的にしばしば使用される一般用医薬品も含まれるため,医師だけでなく薬剤師から十分な説明を受けることは発作の事前回避やセルフメディケーション推進に有用であると考える.外来治療が中心となる緑内障患者では,かかりつけ保険薬局の薬剤師もアドヒアランス維持のために重要な役割を担う一方で,患者の真の服薬状況を把握することがむずかしいという実情がある.本研究において,病院薬剤師と保険薬局薬剤師が連携し指導を行うことで緑内障患者のアドヒアランスが向上した事例を認めた.施設間薬剤情報提供書により病院薬剤師から情報提供を行うことは,保険薬局薬剤師による薬学的介入に役立つと考えられた.以上のことから,当院で開設した緑内障薬剤師外来は緑内障患者の点眼手技の改善,抗コリン作用を有する薬剤の適正使用,薬剤師連携によるアドヒアランスの向上に有用であると考えられる.今後,薬剤師がさらなる職能を発揮し,緑内障患者の薬物治療に貢献することが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20182)Newman-CaseyCPA,CRobinCAL,CBlachleyCTCetal:MostCcommonbarrierstoglaucomamedicationadherence.Oph-thalmologyC122:1308-1316,C20153)WorldCHealthOrganization:AdherenceCtoClongCtermtherapies:evidenceforaction.In:YachD(Ed):20034)Newman-CaseyPA,NiziolLM,LeePPetal:TheimpactofCtheCsupport,Ceducate,CempowerCpersonalizedCglaucomaCcoachingCpilotCstudyConCglaucomaCmedicationCadherence.COphthalmolGlaucomaC3:228-237,C20205)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisual.elddefect.PLoSOneC12:e0185874,C20176)OkekeCCO,CQuigleyCHA,CJampelCHDCetal:AdherenceCwithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.TheCTravatanCDosingCAidCstudy.COphthalmologyC116:C191-199,C20097)Nicoar.SD,DamianI:Bilateralsimultaneousacuteangleclosureattacktriggeredbyanover-the-counter.umedi-cation.IntOphthalmolC38:1775-1778,C20188)LaiCJS,CGangwaniRA:Medication-inducedCacuteCangleCclosureattack.HongKongMedJC18:139-145,C2012***

頭低位で行うロボット支援前立腺全摘除術中の眼圧を 測定した1 例

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1105.1108,2021c頭低位で行うロボット支援前立腺全摘除術中の眼圧を測定した1例益田俊*1谷山ゆりえ*1徳毛花菜*1湯浅勇生*1稗田圭介*2木内良明*1*1広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学*2広島大学大学院医系科学研究科腎泌尿器科学CIntraoperativeIntraocularPressureinaGlaucomaPatientUndergoingRobot-AssistedLaparoscopicRadicalProstatectomyintheTrendelenburgPositionShunMasuda1),YurieTaniyama1),KanaTokumo1),YukiYuasa1),KeisukeHieda2)andYoshiakiKiuchi1)1)DepartmentofOpthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,2)DepartmentofUrologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC諸言:前立腺癌に対して頭低位で手術を受けた原発開放隅角緑内障(POAG)の患者の術中眼圧変化を記録したので報告する.症例:69歳,男性.両眼CPOAGに対して点眼治療を行っていた.2019年C6月,前立腺癌に対してロボット支援前立腺全摘除術(RARP)を実施した.頭低位の数時間にわたる手術により術中に眼圧が上昇する可能性があるため,術中の眼圧測定を行った.結果:術前は仰臥位で眼圧は右眼C7mmHg,左眼7mmHgだった.頭低位C26°にした直後,右眼の眼圧はC35mmHgになった.頭低位の角度を約C10°軽減させたところ速やかに眼圧は下降し,眼圧は右眼23mmHg,左眼C28mmHgになったのでこの頭位を維持したままCRARP手術を行った.その後,術中の眼圧は20CmmHg半ばに維持された.結論:RARP手術で頭低位にすると眼圧は急速に上昇した.頭低位を軽度緩めると眼圧上昇は緩徐になった.CPurpose:ToCreportCintraoperativeCintraocularpressure(IOP)changesCinCaCprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)patientCwhoCunderwentCprostateCcancerCsurgeryCwhileCinCtheCTrendelenburgCposition.CCase:ThisCstudyCinvolveda69-year-oldmalewhohadbeentreatedwitheyedropsforPOAGinbotheyesandwhowasscheduledforCrobot-assistedClaparoscopicCradicalprostatectomy(RARP)surgeryCforCprostateCcancerCinCJuneC2019.CDueCtoCconcernsCaboutCincreasedCIOPCduringCtheCseveralChoursCofCsurgeryCwhileCinCtheCTrendelenburgCposition,CIOPCwasCmeasuredCintraoperativelyCwithCaCTono-PenRXL(ReichertCRTechnologies)handheldCtonometer.CResults:InthesupineCposition,CIOPCwasC7CmmHgCODCandC7CmmHgCOS.CImmediatelyCafterCtheCpatientCwasCplacedCatCaC26°Chead-downCangle,CIOPCinChisCrightCeyeCrapidlyCincreasedCtoC35CmmHg.CWhenCtheChead-downCangleCwasCreducedCbyCapproximately10°,theIOPrapidlydecreasedto23mmHgODand28mmHgOS,soRARPsurgerywasperformedwhilemaintainingthatangle.Subsequently,intraoperativeIOPwasmaintainedinthemid.20CmmHgrange.Con-clusion:InCourCcase,CRARPCsurgeryCperformedCinCtheClowCheadCpositionCresultedCinCaCrapidCincreaseCinCIOP,CyetCwhentheanglewasreducedbyapproximately10°,IOPvaluesrapidlydecreasedandremainedconstant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1105.1108,C2021〕Keywords:緑内障,眼圧,頭低位,ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術.glaucoma,intraocularpressure,tren-delenburgposition,robot-assistedlaparoscopicradicalprostatectomy.Cはじめに上強膜静脈圧によって決定される1).上強膜静脈圧が上昇す眼圧は通常座位で測定されるが,体位によっても変動するる仰臥位や頭低位では座位のときと比較して眼圧が上昇し,ことは多く知られている.眼圧は,房水産生量,流出抵抗,とくに頭低位では眼圧上昇幅が大きい2.3).〔別刷請求先〕益田俊:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学講座Reprintrequests:ShunMasuda,DepartmentofOpthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima-shi,Hiroshima731-8551,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(123)C1105近年,泌尿器科におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(robot-assistedClaparoscopicCradicalprostatectomy:RARP)は前立腺癌の標準的な根治治療の一つである.手術支援ロボット(DaVinci,IntuitiveSurgical社)を使用した手術は術者にとってストレスが少なく,複雑で細やかな手術手技を可能としている.また,立体的に術野を観察できるために,通常の内視鏡手術より安全かつ侵襲の少ない手術が可能である.しかし,術中は骨盤腔内の観察を容易にするために患者の頭低位C30.45°に保つ(図1).以前から術中の眼圧が上昇することが報告されている4,5).このたび,前立腺癌に対して頭低位でCRARPを受けた開放隅角緑内障患者の眼圧を手術中に測定したので,結果を報告する.CI症例患者:69歳,男性.図1ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)手術中の体位頭低位で手術を行う.現病歴:両眼開放隅角緑内障に対して点眼治療(ラタノプロスト両眼C1回/日,ブリンゾラミド左眼C2回/日,ブリモニジン左眼C2回/日)を行っていた.左眼はC2018年に選択的線維柱帯形成術の既往がある.2019年C6月,前立腺癌に対してCRARPが施行された.頭低位で数時間にわたる手術で,術中の眼圧上昇が心配されたため,術中の眼圧測定を行った.所見:術前の視力は右眼C0.4(1.2C×sph.3.25(cyl.0.50DAx125°),左眼C0.04(1.0C×sph.6.75(cyl.1.50DCAx70°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C10CmmHgであった.隅角は両眼ともCScheie0,Sha.er4,Pigment0であった.両眼とも軽度の水晶体皮質混濁を伴っていたが眼底の透見性は比較的良好で,右眼のCC/D比はC0.9,下方に網膜視神経線維層欠損と乳頭出血を伴っていた.左眼は小乳頭でのCC/D比はC1.0だった(図2).Humphrey10-2(CarlZeiss)視野検査では右眼に緑内障変化がなかった.左眼には鼻側からの狭窄があった(図3).経過:術中の眼圧測定はすべてCTono-PenXL(Reichert)を用いて仰臥位で行った(図4).本症例の外来受診時の眼圧は右眼C8.13CmmHg,左眼C10.14CmmHgを推移していたが,仰臥位では右眼C20CmmHg,左眼C20CmmHgと高くなっていた.プロポフォールで麻酔導入後,右眼C7mmHg,左眼7mmHgと低くなった.頭低位C26°にしたところ右眼の眼圧がC10CmmHgからC35CmmHgに急上昇した.このとき,左眼の眼圧は測定していない.頭低位をC10°緩和したところ35CmmHgだった右眼の眼圧がC23CmmHgになったため,この角度で手術を行った.その後,術中の眼圧はC20CmmHg前後で一定に保たれていた.手術時間はC5時間C13分,頭低位時間はC4時間C24分だった.図2手術前の眼底写真右眼のCC/D比(cupdisc比)はC0.9で下方に網膜視神経線維層欠損があった.左眼のCC/D比はC1.0だった.1106あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(124)眼圧(mmHg)左眼右眼図3手術前の視野検査(Humphrey10.2)右眼に暗点はなかった.左眼は鼻側からの視野狭窄があった.C4035右眼左眼302520151050覚醒時麻酔頭低位26°頭低位16°頭低位頭低位頭低位終了抜管直後(仰臥位)導入後1時間後2時間後30分後図4術中の眼圧経過頭低位C26°にしたところ右眼眼圧がC10mmHgから35mmHgに急上昇した.頭低位を10°緩和したところ35mmHgだった眼圧がC23mmHgになったため,この角度(16°)で手術を行った.CII考按RARP術中の眼圧経過について報告は多い4.7).しかし,緑内障患者など高眼圧を回避したい患者に対しての明確な指針はない.RARPでは良好な術野を確保し,骨盤腔内の観察を容易にするために,麻酔管理において,気腹や高度の頭低位などの特殊な状況が要求される8).頭低位になると中心静脈圧の上昇に伴い,上強膜静脈圧が上昇し,房水の流出が低下する.また,気腹で二酸化酸素を使用するため血中二酸化炭素分圧(PCACO2)や呼気終末二酸化炭素分圧(ETCOC2)が上昇することで,脈絡膜の血管が拡張し,房水産生が亢進して眼圧が上昇すると説明されている4).眼圧上昇に伴い,緑内障性の視神経障害,視野欠損が進行する可能性はあるが,RARPで緑内障が明らかに進行したという報告はまだない.しかし,眼圧上昇に伴う虚血性視神経炎の発症の報告はあり,一時的な視野欠損の報告から永久的に光覚が消失したという報告まで,症状の程度はさまざまである6,9).視神経乳頭の血流の自己調節能が健全な非緑内障患者においては,眼圧がC40CmmHgに達するまでは脈絡膜(125)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C1107の血流が保たれることが観察されている10).しかし,視神経乳頭の血流の自己調節能が低いとされている緑内障患者は11)視神経乳頭の血流を保持できないために虚血性視神経炎を発症しやすいと考えられる.眼圧がC30.40CmmHgのような高眼圧の患者に遭遇することは少なくない.落屑緑内障や一般の開放隅角緑内障でも高眼圧を示すことがあり,線維柱帯切除術後や流出路再建術後に一過性に高眼圧になることもある.数時間または数日この程度の眼圧が保たれている患者で,緑内障性の視野障害がある患者は多いが,高眼圧による虚血性視神経炎を発症している患者に遭遇することはほとんどない.これらはおそらくRARP手術の場合は頭低位にした際に,急激に高眼圧になることが原因と考えられている5).筆者らは本症例で高眼圧を示した際は前房穿刺を行い,眼圧を下げることを検討していた.術中に患者の頭部があるのは光があまり入らないドレープの下で,上方には精密なDaVinciが動いており,実際は眼圧測定も困難な状態であった.本症例は術者の配慮で頭低位の角度がC10°緩和され,眼圧もC20CmmHg前後に落ち着いた.RARP中に高眼圧を示した場合の対処の指針は定められていない.過去の報告でマンニトールの点滴でCRARP中の高眼圧が軽快し視力視野ともに維持されたという報告がある12).また,手術のC30分前のブリモニジン塩酸塩点眼で術中の眼圧下降を試みたが,有意に眼圧は下降しなかったという報告がある13).本症例の経過や過去の報告から,有効な眼圧下降方法はマンニトールの点滴と頭低位角度の軽減と考えられる.しかし,RARPの術中に尿量を増やすことは手術操作の妨げになる14).日本でCDaVinci手術が最初に認可されたのが前立腺摘除手術であり,DaVinciによる手術件数は増えつつある.現時点では適応が拡大し,子宮の悪性疾患の摘出手術にも適応が拡大された.DaVinci手術を受ける患者は今後増えることが予想される.また,日本の緑内障患者は疫学的にC40歳以上のC20人にC1人といわれている15).高齢社会において緑内障患者がCDaVinci手術を受ける機会は多くなるであろう.頭低位をわずかに軽減するだけで本症例の極端な眼圧の上昇を防ぐことができた.緑内障や虚血性視神経炎の既往がある患者がCDaVinci手術を受ける際は頭低位角度を手術手技に影響がない範囲で緩和させることが望ましいと考える.今後,許容される頭低位のレベルを明らかにするために,泌尿器科医,眼科医による共同の研究が必要と思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)澤口昭:眼圧上昇機序:総論.あたらしい眼科C29:583-588,C20122)GalinCMA,CMclvorCJW,CMagruderGB:In.uenceCofCposi-tionConCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC55:720-723,C19633)JasienCJV,CJonasCJB,CdeCMoraesCCGCetal:IntraocularCpressureriseinsubjectswithandwithoutglaucomadur-ingfourcommonyogapositions.PLoSOneC10:e0144505,C20154)松山薫,藤中和三,鷹取誠:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術中の眼圧の変化.麻酔63:1366-1368,C20145)北村咲子,武智健一,安平あゆみ:緑内障併存症例におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術中の眼圧推移.日臨麻会誌C37:743-747,C20176)TaketaniCY,CMayamaCC,CSuzukiCNCetal:TransientCbutCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCafterCrobot-assistedClaparo-scopicCradicalCprostatectomyCinCdeepCtrendelenburgCposi-tion.PLoSONEC10:e0123361,C20157)HirookaK,UkegawaK,NittaEetal:Thee.ectofsteepTrendelenburgCpositioningConCretinalCstructureCandCfunc-tionCduringCrobotic-assistedClaparoscopicCprocedures.CJOphthalmol:1027397,C20188)山口重樹,大谷太郎,寺島哲二:ロボット支援下前立腺全摘除術の麻酔管理:600例の経験から.獨協医学会雑誌C46:209-215,C20199)WeberCED,CColyerCMH,CLesserCRLCetal:PosteriorCisch-emicopticneuropathyafterminimallyinvasiveprostatec-tomy.JNeuroophthalmolC27:285-287,C200710)PillunatLE,AndersonDR,KnightonRWetal:Autoregu-lationCofChumanCopticCnerveCheadCcirculationCinCresponseCtoCincreasedCintraocularCpressure.CExpCEyeCResC64:737-744,C199711)BataCAM,CFondiCK,CWitkowskaCKJCetal:OpticCnerveCheadCbloodC.owCregulationCduringCchangesCinCarterialCbloodpressureinpatientswithprimaryopen-angleglau-coma.ActaOphthalmolC97:36-41,C201912)LeeCM,CDallasCR,CDanielCCCetal:IntraoperativeCmanage-mentCofCincreasedCintraocularCpressureCinCaCpatientCwithCglaucomaCundergoingCroboticCprostatectomyCinCtheCTren-delenburgposition.AACaseRepC6:19-21,C201613)MathewDJ,GreeneRA,MahsoodYJetal:Preoperativebrimonidinetartrate0.2%doesnotpreventanintraocularpressureCriseCduringCprostatectomyCinCsteepCTrendelen-burgposition.JGlaucomaC27:965-970,C201814)亭島淳,妹尾安子,松原昭郎:ロボット支援手術におけるチーム医療.JapaneseJournalofEndourology27:121-127,C201415)岩瀬愛子:正常眼圧緑内障の疫学,多治見スタディから.あたらしい眼科C20:1343-1349,C2003***C1108あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(126)

ヘッドマウント型自動視野計における2 種のプログラムの検査 結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1090.1096,2021cヘッドマウント型自動視野計における2種のプログラムの検査結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査北川厚子*1堀口剛*2清水美智子*1山中麻友美*1*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofTwoDistinctScanPatternsinaHead-MountedPerimeterandPatient-ReportedOutcomesAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),MichikoShimizu1)andMayumiYamanaka1)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC対象と方法:2019年C1月.2020年C2月にヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)を用いC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)(ともにCAIZE-Rapidモード)の両検査が正確にできた緑内障症例C65例C86眼の平均偏差(MB),パターン標準偏差(PSD),グレースケール,パターン偏差プロット・検査時間を比較した.また,別集団のC188人に検査の「しんどさ」について聞き取り調査を行い,得られた回答を評価した.結果:MDの中央値は24Cplus(1-2),24Cplus(1)で各.3.5,.3.1,PSDはC4.3,4.4であり大きな差はなく,検査点ごとのグレースケールおよびパターン偏差プロットの重み付きカッパ係数は,0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(0.61.0.70)と高い一致度を示した.片眼検査時間は中央値C3.3分,1.8分とC24Cplus(1)が有意に短かった.聞き取り調査では,24Cplus(1)に「しんどい」と回答した割合が低い傾向が示された.CPurpose:Toreportthecomparisonoftwodistinctscanpatternsinahead-mountedperimeterandpatient-reportedoutcomes.SubjectsandMethods:ThisstudyinvolvedtheIMOdataof86eyesof65glaucomapatientscollectedCbetweenCJanuaryC2019CandCFebruaryC2020CviaCaChead-mountedCperimeterCusingCtwoCdistinctCscanCpat-terns:(a)IMO24Cplus(1-2)and(b)IMO24Cplus(1),bothinAIZE-Rapidmode.Measurementresultswerecom-paredCwithCrespectCtoCGlobalCIndex,CgrayscaleCimage,CasCwellCasCpatternCdeviationCplotCandCscanCtime.CResults:CWithrespecttoGlobalIndex,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwoIMOscanpatterns.Measure-mentsCofCtheCgrayscaleCimageCandCpatternCdeviationCplotCforCtheCtwoCIMOCscanCmodesCallCshowedCaCveryChighCdegreeCofCagreement.CMeasurementCtimeCwasCsigni.cantlyCshorterCforCthe24Cplus(1)scan.CConclusions:Nosigni.cantCdi.erencesCwithCrespectCtoCGlobalCIndexCandCgrayscaleCimageCmeasurementsCwereCfoundCbetweenCtheCIMO24Cplus(1-2)andIMO24Cplus(1)scanmodes,yetmeasurementtimewassigni.cantlyshorterfortheIMO24Cplus(1)scan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1090.1096,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),アイモC24Cplus(1),疲れ.glaucoma,visual.eld,imo24Cplus(1-2),imo24Cplus(1),fatigue.Cはじめに野の異常にも注意を払う必要があると考えられる.眼科診療において緑内障をはじめ神経内科・脳神経外科疾従来,視野検査は高い集中や緊張を強いるものであるゆえ患の診断に視野検査はきわめて重要である.また,高齢者にに,それらが困難な患者には敬遠されがちであった.しかよる自動車運転事故の一因として,視力はもちろんのこと視し,機器の開発が進み検査時間の短縮が図れるようにな〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC1090(108)り1.3),患者・検査する側双方に恩恵がもたされるようになってきている.今回,視野検査時間の短縮が可能なヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)4,5)について,そのオリジナルプログラムであるC24plus(1-2)と24Cplus(1)の検査結果を比較した(調査1).また,別集団において,検査の「しんどさ」に関する患者報告アウトカム調査を行った(調査2).両調査の結果から緑内障診療におけるアイモの特徴や有用性を検討した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1782)を得ている.CI調査1の対象および方法1.対象対象は,2019年C1月.2020年C2月にC24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidがともに正確にできた緑内障症例で,期間内に臨床的に明らかな変動のないC65例C86眼である.年齢はC15歳以上,未成年については親の同意を得た.また,固視不良はC20%以内とし,偽陽性・偽陰性が10%以上のもの,また網脈絡膜疾患のあるものは除外した.C2.診断機器2015年にわが国において開発されたアイモ(imo)は,ヘッドマウント型で両眼同時ランダム検査ができる.Hum-phrey自動視野計(HumphreyCFieldAnalyzer:HFA)と同じ条件で視野検査を行うが,プログラムはCHFA同様の30-2,24-2,10-2以外にオリジナルプログラムとして24Cplus(1-2),24Cplus(1)を搭載している.またCAIZE(AmbientInteractiveZippyEstimationofSequentialTest-ing:ZEST)のアルゴリズムを搭載し,検査時間の短縮が図られている.さらに,AIZEに加え検査点の結果を隣接点により強く反映させ,収束条件を変更,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては追加の刺激を行わないことで,検査時間の短縮を図ったCAIZE-Rapidも搭載している.なお,検査はスタンド型で行った.アイモのオリジナル検査配列を図1に示す.24Cplus(1-2)では,6°間隔にC54点,2°間隔にC24点,計C78点を配し,24plus(1)では,30°内の重要な36点を配している.C3.評価24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C36個の検査点ごとの指標としてのグレースケール,パターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC5カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%,4:p<0.5%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③片眼の検査時間(分).C4.統計解析24Cplus(1-2)AIZE-Rapid(以下,AIZE-Rapidを省略する)とC24Cplus(1)AIZE-Rapid(以後CAIZE-Rapidを省略する)の検査結果を比較するために,以下の解析を行った.連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間,および級内相関係数とそのC95%信頼区間を推定した.また,MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の関係につい24plus(1-2)6°間隔54点2°間隔24点>合計78点24plus(1)30°内の重要な36点図1各検査プログラムの配列MD〔24plus(1-2)〕MD〔24plus(1)〕PSD〔24plus(1-2)〕(dB)-(dB)PSD〔24plus(1)〕-MD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-4-25-20-15-10-50Mean(MD〔24plus(1-2)〕,-MD〔24plus(1)〕)(dB)PSD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-42.55.07.510.012.5Mean(PSD〔24plus(1-2)〕,-PSD〔24plus(1)〕)(dB)図2MDおよびPSDのBland.AltmanPlotてCBland-AltmanCplot7)を作成した.グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の重み付きカッパ係数を検査点(共通する全C36点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数の平均および95%信頼区間を推定した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の級内相関係数を検査点(全C36点)ごとに算出し,それらの級内相関係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.片眼の検査時間については,検査プログラムごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,24Cplus(1-2)と24Cplus(1)の検査時間についてCWilcoxon符号付き順位検定を行った.なお,両眼同時ランダム検査の場合,検査時間は両眼の検査時間の足し合わせとなるため,片眼検査同士として比較するためにC1/2に調整した.検定の有意水準は両側0.05とした.II調査1の結果24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の比較に関する対象の特性は,緑内障症例C65例C86眼(右眼C45眼,左眼C41眼),年齢はC15.88歳(中央値:70.9歳),男女比C27人:38人,屈折+3.50D.C.17.00D,乱視C0.25D.4.0D,矯正視力C0.15.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,24Cplus(1-2),24Cplus(1)の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.20%,偽陽性はC0.8%,偽陰性はC0.6%であった.2種の検査の間隔はC0カ月(同一日に検査施行).12カ月であり,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックス24plus(1-2)とC24plus(1)のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてC24Cplus(1-2)では中央値.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)では中央値C.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてC24plus(1-2)では中央値C4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)では中央値C4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均については,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.98(95%信頼区間C0.97.0.99),PSDでC0.93(95%信頼区間C0.90.0.95)であり,どちらも一致度は高かった.Bland-Altmanplotを作成した結果,MD,PSDともに大きな偏りはなかった(図2).C2.検査点ごとの指標グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の重み付きカッパ係数を算出した結果,それぞれC0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(95%信頼区間C0.61.0.70)であった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,それぞれ0.69(95%信頼区間C0.63.0.75),0.80(95%信頼区間C0.76.0.84)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,グレースケールおよびパターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図3a,b),パターン偏差およびトータル偏差に対しては級内相関係数(図3c,d)をそれぞれヒートマップで表した.パターン偏差およびパターン偏差プロットにおいて,一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.C3.検査時間片眼の検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,24Cplus(1-2)で中央値C3.3(2.9.3.8)分(検査点:78点),24plus(1)で中央値C1.8(1.6.2.1)分(検査点:36点)であり,箱ひげ図を図4に示した.また,検査プログラム間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,24Cplus(1)の検査時間が有意に短かった(S=1870.5,p<0.001).a:グレースケール(重み付きカッパ係数)b:パターン偏差プロット(重み付きカッパ係数)c:パターン偏差(級内相関係数)d:トータル偏差(級内相関係数)図3各検査点の一致度重み付きカッパ係数および級内相関係数はC0.C1の範囲で値を取り,1に近いほど一致度が高いことを示す.なお,代表的なC3症例のC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)における各々グレースケール・パターン偏差・Defectcurveを図5に示す.症例C3においてはC24Cplus(1-2)の結果が中心C510°内の情報を詳細に検出している.4III調査2の対象および方法検査時間(分)31.対象患者報告アウトカム調査については,2020年C1月.20202年C6月にC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の視野検査を行い,検査後に口頭で「しんどさ」について聞き取り調査を行った.なお,これは調査C1の対象とは別の集団における調査である.C2.評価患者報告アウトカムは,視野検査をしんどいと感じたか否かのC2値変数および両眼の検査時間(分)を評価した.C3.統計解析患者報告アウトカム調査において,「しんどい」と回答した人の例数とその割合,両眼の検査時間の中央値と四分位範124plus(1-2)24plus(1)n8686図4各検査プログラムの検査時間(片眼)囲を検査プログラムごとに算出した.しんどさと検査時間の関係について検査プログラムごとに帯グラフを作成した.また,しんどさ(2値)と検査プログラムの関連について,年症例1症例2症例3図5症例1,2,3の24plus(1.2)と24plus(1)におけるグレースケール,パターン偏差,およびdefectcurve齢と性別を調整したうえでロジスティック回帰分析を行った.検定の有意水準は両側C0.05とした.すべての統計解析はSASversion9.4を用いて行った.CIV調査2の結果アイモでの検査後,患者報告アウトカム調査をC188人に行った,その対象の特性は,年齢C18.88歳(中央値:71.0歳),男女比C64人:124人であった.内訳は,24Cplus(1-2)で検査を行った人がC54例,24Cplus(1)で検査を行った人が134例であった.そのうち,しんどいと回答した人は24Cplus(1-2)でC14例(25.9%),24Cplus(1)でC11例(8.2%)であった.両眼の検査時間は,24Cplus(1-2)で中央値C6.5(5.4.7.3)分,24Cplus(1)で中央値C3.5(3.0.4.2)分であった.しんどさと検査時間の関係について帯グラフを作成した結果,24Cplus(1-2)よりC24Cplus(1)のほうが検査時間が短い人が多く,それに伴いしんどいと回答した人の割合も24Cplus(1)のほうが低い傾向が示された(図6a,b).また,しんどさを応答変数,検査プログラムを説明変数,年齢および性別を共変量としたロジスティック回帰分析を行った結果,24plus(1-2)に対するC24plus(1)の調整オッズ比は0.26(95%信頼区間:0.10.0.63)であり,有意な関連が認められた(p=0.003,表1).CV考察今回,筆者らは通常の緑内障診療において同一症例にアイモのオリジナルプログラムC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の検査をCAIZE-Rapidで行い,その検査結果を比較検討した.グローバルインデックス(MD,PSD)の比較においては,MDについてC24Cplus(1-2)で中央値C.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)でC.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてはC24plus(1-2)でC4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)でC4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均についても,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数はどちらも一致度が高く,Bland-Altmanplotにおいてもともに大きな偏りはなかった.検査点ごとの指標について,グレースケール・パターン偏差プロットの重み付きカッパ係数,パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の間に一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.次に図5の実際の症例においてグレースケールやCdefectcurve,パターン偏差プロットに類似性がみられるが,症例3のC24plus(1)においては中心C10°内の情報が少なく,24Cplus(1-2)では得られたCqualityCofvision(QOV)に関しての判断が困難である.片眼の検査時間は検査点数の違いから当然ではあるが,24Cplus(1)AIZE-Rapidは短く,片眼中央値C1.8分であり,24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.3分であった.調査C2におけるしんどさ調査の対象C188例については,一致度などの評価はなされていないため,研究限界と考えるが,24Cplus(1)のほうが検査時間が短く,それに伴いしんどいと回答する人の割合も低かった.a:24plus(1-2)100%80%60%40%20%0%2~33~4n01b:24plus(1)5066.773.373.310084.65033.326.726.715.4100%80%60%40%20%0%2~3n33c:全体100%80%60%40%20%0%2~3n333~4633~4644~55~66~77~86131515しんどいしんどくない4~55~66~77~8281000しんどいしんどくない4~55~66~77~834231515しんどいしんどくない8~10検査時間(分)4計548~10検査時間(分)0計1348~10検査時間(分)4計188図6しんどさと検査時間の関係また,188例全例について検査後の「しんどさ」と検査時間との関係を図6cに示す.検査プログラム(24Cplus(1-2),24Cplus(1))の違いにより,検査時間はC2.3分からC8.10分と多岐にわたっているが,時間が長くなるにつれて「しんどい」と回答する割合が増加している.とくにC8分を超えるとC50%の人が「しんどい」と回答した.また片眼遮閉検査(113)表1しんどさと検査プログラムの関連変数調整オッズ比95%信頼区間p値年齢性別男性女性検査プログラム24Cplus(1-2)(R)24Cplus(1)(R)0.980.95.C1.00C0.07710.470.19.C1.17C0.10410.260.10.C0.63C0.003と両眼開放検査について,HFAも経験している症例に「どちらがよいと思うか」の質問に回答の得られたC70名においてC62名C88.6%が「両眼開放検査がよい」と答えた.緑内障診療において視野検査はきわめて重要であるが,元来姿勢の保持や緊張集中の持続を要求される検査であるため,長時間を要した場合患者の疲労が蓄積され,検査の信頼性に疑いが生じる可能性がある9).また,患者のその辛い経験が視野検査を避ける原因となり,患者・医療者の双方にストレスを生じる結果となっている.現在広く行われているCHFAによる検査は,片眼でC24-2CSITACStandard6.8分,24-2CSITACFast4.6分,24-2CSITACFaster2.3.5分(緑内障眼)を要する2).一方,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.4分,24Cplus(1)AIZE-Rapidは約C2分であり,とくにC24Cplus(1-2)はC24-2の検査点に加えてC10°内も密に検査していることから,短時間に多くの情報を得ることができる.QOVに必要なC10°内の密な検査を必要とする近視眼緑内障や中等度以上の進行例は,10-2とC24-2あるいはC30-2両プログラムを検査する必要がある.アイモC24plus(1-2)AIZE-RapidとCHFA24-2SITA-Fast,HFAC10-2CSITA-Fastの比較においてアイモ24plus(1-2)とCHFA24-2のMD値・PSD値の差の平均に大きな差はなく,級内相関係数は一致度が高く,またパターン偏差・トータル偏差の級内相関係数はC24°内・10°内とも高い一致度を示しており,一度の検査で両プログラムを検査するC24Cplus(1-2)は有用である3).また,今後若年者の近視増多が予想されており,視神経乳頭所見・OCTなどで緑内障が疑わしい場合は,早期から視野検査が必要であるが,とくに強度近視眼では初期から乳頭黄斑線維束欠損を認めることも多く,10°内を密に検査するアイモC24Cplus(1-2)は有用であろう10,11).一方,短時間での検査が望まれる人間ドック(眼ドック)・初めての視野検査,また姿勢保持の困難な例・集中や緊張の持続が困難な例・幼少児などにはC24Cplus(1)が適切である.アイモによる両眼同時検査後の患者報告アウトカム調査において,検査は理想的にはC4分以内に終了することが望ましいが,8分以内であればC70%以上の人が「しんどさ」を感あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C109593.990.589.31006.110.79.573.373.35093.990.685.391.3506.126.726.714.79.48.7じない結果となった.アイモはC24Cplus(1-2)においてもほとんどの例がC8分以内に終了しており,検査によるストレスはかなり軽減されている.またC88%以上の人が両眼開放による視野検査が好ましいと回答した.今回の研究により,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-Rapidと24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果に大きな差ははく,患者により検査時間を配慮しつつ適切なプログラムを選択することが可能となった.また,アイモによる視野検査は検査時間の短縮により患者に受け入れられやすくなった.さらに,24Cplus(1)AIZEとCHFA30-2SITA-Standardの比較においても緑内障病期,早期.中期の中年層においてはCMD値・PSD値・VFIの結果によい相関が得られており1),長年にわたる緑内障経過観察において臨床的な判断を行う際,MD値の変動(MDスロープ)に注目するが,HFA・アイモ各々の30-2・24C.2・24plus(1-2)・24plus(1)などのCMD値には,ある程度の互換性の可能性があり,その点からもアイモによる視野検査は緑内障診療において有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24Cplus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科35:1117-1121,C20182)田中健司,水野恵,後藤美紗ほか:Humphrey視野計におけるCSITAStandardとCSITAFasterの比較検討.あたらしい眼科C36:937-941,C20193)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科,印刷中4)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20175)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20176)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)奥山幸子:測定結果の信頼性/測定結果に影響を及ぼす諸因子視野検査とその評価.松本長太(編)中山書店専門医のための眼科診療クオリファイC27:57-65,C201510)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201711)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012***

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬 からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点 眼薬への変更

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):951.954,2021cブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更松村理世*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSwitchingtoBrimonidine/TimololFixedCombinationandBrinzolamidefromBrinzolamide/TimololFixedCombinationandBrimonidineRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した症例の眼圧下降効果と安全性を調査した.対象および方法:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を併用使用中の緑内障C29例29眼を対象とした.これらの点眼薬を中止しCwashout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した.変更前と変更C1回目来院時の眼圧を比較した.変更後の副作用と投与中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等だった.副作用はC4例(13.8%)で出現し,内訳は見えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例だった.投与中止例はC4例(13.8%)で,内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例だった.結論:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ同成分の点眼薬から変更したところ,短期的には眼圧を維持でき,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCIOP-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamide.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved29eyesof29patientsbeingadministeredacombinationtherapyofbrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidinewhowereswitchedtoacombinationtherapyofbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamideCwithoutCaCwashoutCperiod.CIntraocularpressure(IOP)atCbaselineCandCtheC.rstCvisitCafterCswitchingCwereCcompared.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCinvestigated.CResults:ThereCwasCnoCdi.erenceCinCIOPCatbaseline(16.6C±4.2CmmHg)andCatCtheC.rstvisit(16.8C±4.7CmmHg)C.Adversereactionsoccurredin4patients(13.8%);i.e.,blurredvisionin2,conjunctivalhyperemiain1,andirrita-tionCinC1.CFourpatients(13.8%)discontinuedCtheCadministration,CandCtheCreasonsCforCdiscontinuationCwereCincreasedCIOPCinC3CandCblurredCvisionCinC1.CConclusion:AfterCswitchingCtoCtheCcombinationCtherapyCofCbrimoni-dine/timolol.xedcombinationandbrinzolamidefrombrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidine,IOPwasmaintainedandthesafetywassatisfactoryintheshort-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):951.954,C2021〕Keywords:眼圧,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,緑内障,安全性.CintraocularCpressure,Cbrimonidine-timololC.xedCcombination,Cbrinzolamide-timololC.xedCcombination,Cglaucoma,Csafety.Cはじめに用中の患者は点眼薬を変更せざるをえない状況になった.筆2019年C11月中旬にブリンゾラミド/チモロール配合点眼者らは眼圧下降効果と副作用,アドヒアランスの観点から点薬(アゾルガ,ノバルティスファーマ)が突然供給停止とな眼薬の主剤がまったく変わらず,ボトル数やC1日の総点眼回った.そのためブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬を使数が増加しない変更がもっともよいと考えた.〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C951表1点眼薬使用感のアンケート調査①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ□変更した後のほうが良い□どちらも同じ□変更する前のほうが良い□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□味覚に変化がない□価格が安い□その他()表2点眼薬使用感のアンケート調査「問1」の結果前より良い同じ前の方が良い刺激感(しみる)2例6.9%23例79.3%4例13.8%かゆみ1例3.4%24例82.8%4例13.8%痛み0例0.0%27例91.3%2例6.9%同時期のC2019年C12月にブリモニジン点眼薬とチモロール点眼薬を配合したブリモニジン/チモロール配合点眼薬(アイベータ,ノバルティスファーマ)が使用可能となった.筆者らはブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の併用患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更を行った.この変更では,2ボトル,1日C4回点眼を維持でき,アドヒアランスも維持できると考えた.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬が供給停止となったことを契機として,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬併用中の患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した際の短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2019年C12月.2020年C1月にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を使用しており,両点眼薬を中止し,washout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更したC29例C29眼を対象とした.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.男性13例,女性C16例,平均年齢はC70.2C±9.9歳(平均値C±標準偏差C46.83歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C24例,落屑緑内障C4例,原発閉塞隅角緑内障C1例であった.変更前眼圧はC16.6C±4.2CmmHg(10.25CmmHg)であった.Humphrey視野検査プログラムC30-2SITA-StandardのCmeandeviation値は平均C.7.06±5.81CdB(C.18.53.0.11CdB)であった.緑内障使用薬剤数は平均C4.7C±0.6剤(4.6剤)であった.他の点眼薬は継続使用とした.配合点眼薬はC2剤とした.変更前と変更後C1回目(79.2C±38.6日後)の来院時の眼圧(Goldmann圧平眼圧計による)を比較した.眼圧変化量をC2CmmHg以上上昇,C±2CmmHg未満,2CmmHg以上下降に分けて解析した.変更前と変更後の点眼薬の使用感と好みを変更後C1回目の来院時にアンケートで調査した(表1).変更後の副作用,中止例を調査した.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.CII結果眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等であった(p=0.7167).眼圧変化量はC2CmmHg以上上昇C6眼(20.7%),C±2mmHg未満C18眼(62.1%),2mmHg以上下降C5眼(17.2%)であった.アンケート結果を表2に示す.変更前後の眼の症状は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみのすべてで同じがC72.4.91.3%と高率であった.変更前後の組み合わせの選択(問2C①)はどちらも同じC19例(65.5%),変更後が良いC5例(17.2%),変更前が良いC4例(13.8%)などだった.変更後が良い理由(5例)は,点眼瓶が使いやすいC4例,しみないC1例,かすまないC1例,充血しないC1例であった(問C2C②).変更前が良い理由(4例)は,充血しないC2例,しみないC2例,かゆくないC1例であった.変更後に副作用はC4例(13.8%)で出現し,その内訳は見952あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(104)えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例であった.中止症例はC4例(13.8%)で,その内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例であった.継続症例はC25例(86.2%)であった.眼圧上昇症例は原発開放隅角緑内障C2例,落屑緑内障C1例であった.原発開放隅角緑内障症例の眼圧は各10mmHgから14CmmHgへ,12CmmHgからC22CmmHgへ上昇した.落屑緑内障症例の眼圧はC25CmmHgからC31CmmHgへ上昇した.3例とも変更後C1回目の来院時にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻した.その後,原発開放隅角緑内障症例では眼圧は各C11CmmHgとC14CmmHgになり,変更前に戻った.落屑緑内障症例では眼圧はC30CmmHgのままで元に戻らなかった.見えづらさを訴えて中止した症例ではブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻したところ見えづらさは改善した.変更後のブリンゾラミド点眼薬は先発医薬品(エイゾプト,ノバルティスファーマ)使用がC3例,後発医薬品(センジュ,千寿製薬)使用がC26例であった.CIII考按ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の供給停止を受けて,この配合点眼薬の変更に関して以下の四つの方法を検討した.C1.ブリンゾラミド点眼薬と同じ炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド点眼薬を含んだドルゾラミド/チモロール配合点眼薬への変更.C2.ブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬併用への変更.C3.他にプロスタグランジン関連薬を使用している患者ではプロスタグランジン関連薬/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.C4.他にブリモニジン点眼薬を使用している患者ではブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.1の変更に関しては,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬からブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した報告では,刺激感はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬で多く,霧視はブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬で多かった1).この変更により副作用が出現し,アドヒアランスが低下する危険性を有していた.2の変更に関しては,患者にとって点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増えるためにアドヒアランスが低下する2)可能性を有していた.3,4の変更に関しては変更後に点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増加しないためにアドヒアランスを維持できると考えた.また,点眼薬の成分も同一のため新たな副作用の発現も少なく,眼圧も変化しないと予想した.しかし,国内ではビマトプロスト/チモロール配合点眼薬は使用できないためにビマトプロスト点眼薬を使用している患者ではこの変更は行うことができない.そこで今回はC3の変更を行った.今回点眼薬の主剤が同成分での変更を行ったところ,変更前後の眼圧に変化はなかった.しかし,個別の症例で検討すると,変更後に眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC20.7%,2CmmHg以上下降した症例がC17.2%存在した.同成分の変更としてラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬を中止し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC36カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C10.0%,C±2CmmHg以内C77.0%,2CmmHg超下降C13.0%であった3).ドルゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬を中止し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC3カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C16.1%,C±2CmmHg以内C77.4%,2CmmHg超下降C6.5%であった4).主剤が同成分での変更においても変更後に眼圧は上昇したり,下降したりする患者が存在するので,変更後の注意深い経過観察が必要である.今回の眼圧上昇症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.眼圧上昇した原因として後発医薬品が先発医薬品と同等の眼圧下降効果を有していない点5),調査時期が冬季であったため眼圧が上昇しやすかった点6),落屑緑内障症例では眼圧が変動しやすいことが影響した点7)などが考えられる.眼圧下降症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.後述のように点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.変更前後の眼の症状の変化は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみともに同じが大多数を占めた.今回の点眼薬の変更では,主剤の成分に変更がなかったためと考えられる.変更前後の組み合わせの好みは変更前と変更後でほぼ同数だった.変更後が良い理由として,点眼瓶が使いやすいがもっとも多かった.今回の点眼薬の変更では変更前のブリモニジン点眼薬と変更後のブリモニジン/チモロール配合点眼薬は千寿製薬の平型容器で共通である.変更前のブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬と変更後の先発医薬品のブリンゾラミド点眼薬はアルコンファーマのラウンド型容器で共通である.平型容器は持ちやすく,押しやすく,キャップの開閉が行いやすく,一方ラウンド型容器は押しにくく,液が出にくく,残量が見えにくいと報告されている8).ブリンゾラミド点眼薬の先発医薬品を使用した患者では変更前後の点眼瓶の形状はまったく同じである.ブリンゾラミド点眼薬の後発医薬品を使用した患者では点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.点眼瓶の形状を考慮することも重要である.今回は調査期間中に新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言発令などの影響で,変更後C1回目の来院が最(105)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C953短C14日後.最長C176日後と差が出てしまい統一ができなかった.このことが変更後の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を中止し,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した患者を検討した.主剤が同成分の変更のため短期的には眼圧は維持することができ,安全性や使用感も良好だった.このような点眼薬の変更は点眼薬選定の選択肢となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AugerCGA,CRaynorCM,CLongsta.S:PatientCperspectivesCwhenCswitchingCfromCosopt(CR)(dorzolamide-timolol)toCAzarga.(brinzolamide-timolol)forCglaucomaCrequiringCmultipleCdrugCtherapy.CClinCOphthalmolC6:2059-2062,C2012C2)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:E.cacyandsafetyofswitchingCtoClatanoprost0.005%-timololCmaleate0.5%C.xed-combinationCeyedropsCfromCanCun.xedCcombinationCfor36months.ClinOphthalmolC8:1275-1279,C20144)InoueCK,CShiokawaCM,CSugaharaCMCetal:Three-monthCevaluationCofCdorzolamideChydrochloride/timololCmaleateC.xed-combinationCeyeCdropsCversusCtheCseparateCuseCofCbothdrugs.JpnJOphthalmolC56:559-563,C20125)津幡結美子,菊池順子,井上賢治ほか:Cb遮断点眼液の後発品処方への変更.日本の眼科C78:727-732,C20076)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼C55:C1519-1522,C20017)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:DiurnalintraocC-ularCpressureCinCuntreatedCexfoliationCandCprimaryCopen-angleglaucoma.ArchOphthalmolC115:182-185,C19978)中道晶子,高橋嘉子,井上賢治ほか:緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告.あたらしい眼科C37:C100-103,C2020C***954あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(106)

インプラント挿入術後はインプラント近くのわずかな結膜障害 でも感染症を生じる

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):941.944,2021cインプラント挿入術後はインプラント近くのわずかな結膜障害でも感染症を生じる相川菊乃木内理奈谷山ゆりえ尾上弘光坂田創徳毛花菜村上祐美子岩部利津子奥道秀明廣岡一行木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学CACaseinwhichaSlightConjunctivalLacerationNeartheImplantCausedInfectionPostBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryKikunoAikawa,RinaKinouchi,YurieTaniyama,HiromitsuOnoe,HajimeSakata,KanaTokumo,YumikoMurakami,RitsukoIwabe,HideakiOkumichi,KazuyukiHirookaandYoshiakiKiuchiCDepartmentofOphthalmologyandVisualscience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC目的:インプラントの露出を繰り返し複数回の眼内炎をきたした症例を経験したので報告する.症例:17歳,男子.両眼先天白内障のためC1997年,0歳時に広島大学病院眼科で両眼白内障手術を受けた.眼圧がC2007年頃から上昇し始め,続発緑内障のためC2008年C1月に両眼線維柱帯切開術を行ったが,眼圧のコントロールが不良のため,2012年C7月に右眼の耳上側からバルベルト緑内障インプラント(BGI)挿入術を,2015年C1月に右眼耳下側からCBGI挿入術を行った.2015年C3月にベール状の硝子体混濁が出現し,眼内炎を発症したと考えられた.耳上側に露出したC10-0ナイロン糸が感染の原因と考えられた.2019年C2月には耳下側から挿入したチューブの上の結膜に小さな裂孔が見つかりそのC5日後には眼内炎を生じた.いずれの感染も抗菌薬投与と硝子体手術で軽快した.結論:インプラント挿入後はわずかな結膜障害でも感染症を生じると考えられた.CPurpose:Toreportacaseofrecurrentendophthalmitisassociatedwithimplantexposurepostsurgery.CaseReport:Thisstudyinvolveda17-year-oldmalewithahistoryofcongenitalcataractswhohadundergonebilater-alcataractsurgeryin1997whenhewaslessthan1yearold.Hisintraocularpressure(IOP)begantoincreasein2007,CandCbilateralCtrabeculotomyCwasCperformedCinC2008CforCsecondaryCglaucoma.CHowever,CIOPCremainedChighCpostCsurgery,CandCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgeryCwasCperformedCinChisCrightCeyeCsuperotemporallyCinCJulyC2012andinferotemporallyinJanuary2015.Postsurgery,vitreousturbidityappearedinhisrighteyeduetoendo-phthalmitis,withtheinfectionthoughtpossiblycausedbyexposed10-0nylonsuture.InFebruary2019,aslightconjunctivalCperforationConCtheCinferotemporallyCimplantCtubeCwasCfound,CandC5CdaysClater,CendophthalmitisCoccurred.CBothCinfectionsCwereCtreatedCbyCantibioticCadministrationCorCvitrectomy.CConclusion:PostCglaucomaCdrainagedevicesurgery,evenslightconjunctivallacerationsneartheimplantcanleadtoinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):941.944,C2021〕Keywords:緑内障,バルベルト緑内障インプラント,結膜障害,眼内炎.glaucoma,Baerveldtglaucomaimplant,conjunctivallaceration,endophthalmitis.CはじめにGDD)が用いられる.インプラント挿入術の合併症には,イ緑内障の外科的治療の一つにインプラント挿入術があり,ンプラント露出,チューブ閉塞,複視,角膜浮腫,出血,感緑内障ドレナージデバイス(glaucomaCdrainagedevice:染,白内障,眼圧コントロール不良1.5)などがあげられる.〔別刷請求先〕相川菊乃:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:KikunoAikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3,Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPANC図12015年4月の右眼結膜所見耳上側に露出したC10-0ナイロン糸があり(),同部位からの房水の漏出があった.なかでも,インプラントの露出はインプラント挿入術後の感染リスクの一つとして考えられている.結膜障害によるCGDDの露出は,術後感染の一因であるが,わずかな結膜障害は見落とされることが多い.今回,筆者らはインプラント挿入術後に眼内炎を繰り返した症例を経験した.結膜のわずかな損傷が感染の原因と考えられたので報告する.CI症例患者:17歳,男子.主訴:右眼の視野のゆがみ.既往歴:1997年C9月(0歳時)に両眼先天白内障に対して両眼白内障手術が行われた.術後は視力矯正のためハードコンタクトレンズを使用していた.2007年頃から両眼続発緑内障に対して点眼加療されていたが眼圧は上昇していた.2008年C1月に両眼線維柱帯切開術(trabeculotomy:TLO),図22019年2月の前眼部所見右眼耳下側から挿入したCBGIのチューブ上の結膜に小裂孔()があった.角膜浮腫や毛様充血があり,前房内炎症細胞C3+であった.2008年C2月に右眼CTLO+右眼下眼瞼内反症手術が行われたが眼圧コントロールは不良であり,2012年C7月に右眼バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)挿入術(耳下側)を行った.その後もC2012年C12月に左眼CTLO,2014年C10月に右眼チューブフラッシュを行った.現病歴:術後,右眼にはドルゾラミド・チモロールを点眼していたが,2014年C10月下旬頃から眼圧がC20CmmHgを上回るようになった.タフルプロスト,ブリモニジンを追加したが眼圧はさらに上昇したため,2015年C1月にC2個目の右眼CBGI挿入術(耳上側)を行った.術後約C1カ月半後に右眼のゆがみを自覚したため,その翌日に近医を受診したところ,右眼の硝子体出血と網膜.離を疑われた.同日広島大学病院眼科に紹介されて再受診した.再診時,視力は右眼C0.05(現用コンタクトレンズ装用時の矯正視力),左眼C30Ccm/h.m(矯正不能)であった.眼圧は右眼C4CmmHg,左眼C23CmmHg(icareCR)であった.右眼前眼部所見では,結膜の充血はなく,角膜は透明であり,前房深度は正常で,炎症細胞はなかった.また,チューブの閉塞はなかったものの先端に白色点状物質があった.無水晶体眼であった.眼底は検眼鏡的に網膜.離の所見はなかったが,ベール状の硝子体混濁があった.また,網膜血管の白線化はなかった.経過:ベール状の硝子体混濁に対して頻回の経過観察を行ったが,増悪はなかった.2015年C4月(術後C3カ月後)の外来受診時には,眼底所見の変化はなかったが,右眼耳上側の結膜にわずかな裂傷を見つけた.結膜は軽度の充血があり,前房内は炎症細胞C1+で温流があったが,創部から房水の漏出はなかった.チューブやプレートは覆われている状態であった.眼圧は右眼C6CmmHg,左眼C22CmmHgであった.感染を防ぐ目的でエリスロマイシン・コリスチン軟膏外用,レボフロキサシン点眼,セフジニル内服加療とした.そのC7日後の外来受診時,結膜の充血や,前房内の炎症細胞の変化はなかった.前房は正常深度であったが,7日前の創部と同部位の耳上側結膜上にC10-0ナイロン糸が露出しており,同部から房水の漏出があった(図1).眼圧は右眼C3CmmHgと低下していた.硝子体混濁の増悪はなかったため,まずはリークを止めて菌体の侵入を防ぐことで感染リスクを下げる目的で,同日に結膜縫合術+強膜パッチを行った.角膜輪部から5Cmm程度の強膜をC1/8サイズにした保存強角膜片を使用した.術中の前房水の培養検査ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)が検出された.術後はレボフロキサシン点眼およびセフメノキシム点眼,セフジニル内服で加療した.結膜縫合術+強膜パッチ後,前眼部所見は改善し,10日目に前房内炎症細胞消失,35日目には硝子体混濁が軽快した.4年後のC2019年C2月の外来受診時に右眼の結膜に小裂孔があった.裂孔はC2012年に右眼耳下側から挿入したCBGIのチューブの上に位置していた.両眼にタフルプロスト点眼,ドルゾラミド・チモロール点眼を行っており,眼圧は右眼12CmmHg,左眼C22CmmHgであった.感染予防のため右眼にゲンタマイシン点眼を開始して,3月に強膜パッチ術を予定した.しかし,7日後の受診時には毛様充血があり,前房内炎症細胞C3+で眼底も透見不良であり,すでに右眼内炎をきたしていた(図2).同日に右眼硝子体手術と強角膜パッチを行った.術中の硝子体液の培養検査は陰性であった.術後はモキシフロキサシンおよびセフメノキシム点眼を行い,しだいに軽快した.CII考按2015年のC1度目の結膜障害は,前眼部所見から積極的に感染を疑わなかったが,感染予防目的で行った強膜パッチ術と抗菌薬投与により改善した.患者は無水晶体眼であり,結膜障害部からチューブを介して眼内に感染が波及していた可能性がある.2019年のC2度目の結膜障害も,軽微であったにもかかわらず眼内炎を生じ,硝子体手術および強膜パッチによって軽快した.インプラント挿入術は緑内障に対する外科的治療の一つである.GDDはチューブとプレートで構成されており,房水は眼球内に挿入されたチューブを通ってプレートへ流れる.インプラント挿入術の合併症には,インプラント露出,チューブ閉塞,複視,角膜浮腫,出血,感染,白内障,眼圧コントロール不良1.5)などがあげられる.そのうち眼内炎はGDD手術の合併症としてはまれで,後ろ向き研究でその発生率はC0.9.6.3%という報告があり6),インプラントの露出はそのリスクの一つとして考えられている.TubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyではC5年間でCBGI術後患者のC5%にチューブの露出が生じていたとの報告がある1).また,井上らの報告では,2012年からC2017年に行われたBGI術後C68例C75眼においてC4眼(5%)でインプラントの露出があった7).以上よりインプラントの露出はまれではなく,術後感染症のリスクであり早急な外科的治療が必要とされている2).インプラント露出の危険因子として,下方からのインプラント挿入8),過去に眼科手術の既往があること9),血管新生緑内障10),糖尿病患者のCBG102-350の使用11),若年であること12)などがあげられる.また,GDDと結膜の摩擦が強いため白人よりアジア人のほうがインプラントの露出リスクが高いと報告されている11).本症例では,若年であり,手術を何度も繰り返していることや,2回目の露出では下方からインプラントを挿入していることもリスクとして考えられる.その一方で,GDDに続発する結膜障害は,頻度やリスク因子,管理,結果に関しての報告が乏しく,インプラントが覆われていれば外科的修復は行われず,通常は軽症な合併症として見落とされることが多い2).本症例は,結膜裂傷を生じたがインプラントは結膜に覆われた状態であった.しかし,結膜裂傷を介してチューブと結膜表面に交通が生じたため,プレートの露出はないもののチューブが眼外と接触し露出したような状態となった.これにより,チューブの表面を伝って強膜の刺入部から眼内に細菌が侵入し,感染を起こしたと推測した.ゆえに,わずかな結膜障害のみであっても,菌の侵入経路となる可能性があり軽視できないと考えられる.GeddeらはCBGI挿入後に眼内炎をきたしたC4例すべてにおいてチューブの露出があったと報告している.感染は,菌がチューブを介して眼内へ侵入することで生じるため,チューブ露出に対する強膜パッチの使用が求められている6).2015年のC1度目の感染は,硝子体混濁を生じてから経過が長期化していた.検出されたCMRSAはコンタミネーションであった可能性があり,弱毒菌による感染症のため前眼部や眼底所見の変化に乏しかったと考えられる.2019年のC2度目の感染は硝子体液からは菌体は検出されなかったが,臨床所見からは明らかに眼内炎を生じていた.本症例では感染所見としては軽微であった.結膜障害に気づいた時点で,抗菌薬投与を行い,早期の強膜パッチの手術を予定した.比較的早い段階での対応により感染の重症化を防ぐことができたが,発見時のより早い段階で強膜パッチを行うことができていれば,感染予防に有効であったかもしれない.本症例より,わずかな結膜障害であっても眼内炎を生じるリスクがあると考えられる.結膜障害に対して,早急な対応が求められ,なかでも強膜パッチ術が有効であると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20122)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20143)KrishnaCR,CGodfreyCDG,CBudenzCDLCetal:Intermediate-termoutcomesof350-mm2CBaerveldtglaucomaimplants.OphthalmologyC108:621-626,C20014)OanaCS,CVilaJ:TubeCexposureCrepair.CJCCurrCGlaucomaCPractC6:139-142,C20125)BudenzCDL,CFeuerCWJ,CBartonCKCetal:PostoperativeCcomplicationsintheAhmedBaerveldtComparisonStudyduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC163:C75-82,C20166)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:LateCendo-phthalmitisCassociatedCwithCglaucomaCdrainageCimplants.COphthalmologyC108:1323-1327,C20017)井上俊洋:Baerveldtチューブシャント手術後インプラント露出症例の検討.日眼会誌C123:824-828,C20198)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20159)ByunCYS,CLeeCNY,CParkCK:RiskCfactorsCofCimplantCexposureCoutsideCtheCconjunctivaCafterCAhmedCglaucomaCvalveimplantation.JpnJOphthalmolC53:114-119,C200910)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetal:RiskCfactorsCforCTubeCshuntexposure:ACmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201311)EdoCA,CJianCK,CKiuchiY:RiskCfactorsCforCexposureCofCBaerveldtCglaucomaCdrainageimplants:aCcase-controlCstudy.BMCOphthalmol20:364,C202012)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C2016***

原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する オミデネパグイソプロピル単剤投与短期成績

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):202.205,2021c原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するオミデネパグイソプロピル単剤投与短期成績宮平大輝*1酒井寛*2大橋和広*3力石洋平*4新垣淑邦*4酒井美也子*2古泉英貴*4*1沖縄県立北部病院眼科*2浦添さかい眼科*3中頭病院*4琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CShort-TermResultsofOmidenepagIsopropylMonotherapyinPrimaryOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionHirokiMiyahira1),HiroshiSakai2),KazuhiroOhashi3),YoheiChikaraishi4),YoshikuniArakaki4),MiyakoSakai2)CHidekiKoizumi4)Cand1)DepartmentofOphthalmology,OkinawaPrefecturalHokubuHospital,2)UrasoeSakaiEyeClinic,3)4)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicineCNakagamiHospital,目的:2018年C12月より臨床応用が始まった選択的CEP2受容体作動薬オミデネパグイソプロピル(OMDI)点眼の短期治療成績を検討する.方法:原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),または高眼圧症(ocularhypertension:OH)に対し,OMDIを投与したC32眼(男性C10眼,女性C22眼,平均年齢C59.6±10.1歳)の眼圧経過,および副作用を複数施設,連続観察症例で後ろ向きに検討した.結果:32眼の病型はCPOAGがC23眼,OHが9眼であった.本薬剤をC1剤目として投与した新規群がC20眼,他剤からの切替群がC12眼であった.切替前使用薬の内訳はプロスタグランジン(PG)関連薬C2眼,b遮断薬C6眼,炭酸脱水酵素阻害薬C2眼,交感神経作動薬C2眼であった.投与開始前,開始C1,3カ月後の平均眼圧は全例でC17.9±3.8,C15.3±3.2,C15.0±3.6CmmHg,新規群でC18.8±3.8,C15.5±3.2,C15.0±3.2mmHg,切替群でC16.4±3.4,C15.0±3.2,C15.2±4.2CmmHgであり,全例および新規群で有意に低下した(p<0.05).PG関連薬以外からの切り替えC10眼の各時点の眼圧はC16.1±3.7,C14.3±3.1,C14.0±3.9CmmHgであり,有意な低下を認めた(p<0.05).合併症はC6例C11眼で認め,内訳は充血C5例C9眼,眼刺激C3例C6眼,霧視C1例C2眼,羞明C1例C1眼(重複あり),その内C2例C3眼は本薬剤を中止した.黄斑浮腫を生じた例はなかった.結論:OMDIの新規単独投与およびCPG関連薬以外からの切り替えで眼圧は有意に下降した.CPurpose:ToCreportCtheCshort-termCresultsCofomidenepagCisopropyl(OMDI),CaCselectiveCEP2-receptorCago-nist,Canti-glaucomaCeye-dropCmonotherapy.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,Cintraocularpressure(IOP)andCadverseeventswererecordedin32glaucomatouseyes[23primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand9ocu-larhypertension(OH)eyes].COfCtheC32Ceyes,C20CwereCnewlyCadministeredCOMDICandC12CswitchedCtoCOMDICfromCotherCprostaglandinanalogues(PGs,C2eyes),beta-blockers(6eyes),CcarbonicCanhydraseinhibitor(2eyes),CorCa2-adrenergicCagonist(2eyes).CResults:TheCadverseCeventsCofCconjunctivalChyperemia,Cirritation,CblurredCvision,Candphotopsiawereobservedin9,6,2,and1eye,respectively.At3months,2patients(3eyes)whodiscontinuedOMDIduetosidee.ectsand1otherpatient(2eyes)wereexcluded.Noneoftheeyesdevelopedmacularedema.MeanIOPatpreadministrationandat1-and3-monthspostadministrationwas17.9±3.8,C15.3±3.2,CandC15.0±3.6CmmHg,Crespectively,CinCallC32Ceyes,C18.8±3.8,C15.5±3.2,CandC15.0±3.2CmmHg,Crespectively,CinCtheC20CnewlyCtreatedeyes,and16.4±3.4,C15.0±3.2,CandC15.2±4.2CmmHg,respectively,inthe12eyesswitchedfromotherdrugs.Inthetotal32eyesandnewlytreatedeyes,IOPat1-and3-monthspostadministrationwassigni.cantlylowerthanatpreadministration(p<0.05).In10eyesswitchedfromotherdrugsexceptPGs,meanIOPatpreandat1-andC3-monthsCpostCadministrationCwasC16.1±3.7,C14.3±3.1,CandC14.0±3.9CmmHg,Crespectively,CandCtheCreductionCfromatpretoat1-and3-monthspostadministrationwassigni.cant(p<0.05).Conclusion:OMDImonotherapy〔別刷請求先〕宮平大輝:〒905-0017沖縄県名護市大中C2-12-3沖縄県立北部病院眼科Reprintrequests:HirokiMiyahira,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkinawaPrefecturalHokubuHospital,2-12-3Onaka,Nago-city,Okinawa905-0017,JAPANCwasfoundtobesafeande.ectivefortreatingphakicpatientswithPOAGandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):202.205,C2021〕Keywords:選択的CEP2作動薬,オミデネパグイソプロピル,短期成績,緑内障,眼圧.selectiveEP2agonist,omidenepagisopropyl,short-termresults,glaucoma,intraocularpressure.C表1患者背景年齢C58.9±10.0歳性別男性7例10眼女性11例20眼病型POAG:21眼OH:9眼なし(新規投与):18眼治療状況あり(他剤からの切替):12眼はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)FP受容体関連薬およびCb遮断薬点眼は,緑内障薬物治療の第一選択とされている1).日本において,2018年C12月より臨床応用が始まったオミデネパグイソプロピル(OMDI)はCPG骨格をもたない選択的プロスタグランジンCEP2受容体作動薬である.FP受容体関連薬は房水流出の副経路であるぶどう膜強膜流出を促進させて眼圧を下降させる2)が,OMDIは主経路である線維柱帯流出とぶどう膜強膜流出の両経路を介した流出促進により,眼圧を下降させる3,4).本研究では,原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)患者に対するCOMDI点眼の単剤投与における眼圧下降効果を副作用について検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.2019年C4月に琉球大学医学部附属病院,中頭病院または浦添さかい眼科を受診したCPOAGおよびCOH患者のうち,OMDIを単剤投与した連続症例C19例(平均年齢C59.6C±10.1歳)32眼で,全例有水晶体眼であった.対象患者の背景を表1,2に示す.他剤から切り替えた群(切替群)の切り替え前の使用薬も全例単剤であった.OMDI投与による副作用,および開始前(0M)と開始後C1,3カ月(1CM,3CM)後の眼圧を診療録により後ろ向きに検討した.各数値は平均値C±標準偏差(standarddeviation:SD)で表記し,統計学的検討にはC0CMと各時点との間で対応のあるCt検定を行い,Bonferroni法で補正しp<0.05を有意水準とした.また,開始1,3Mの時点で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査を行ったC23眼については,市販直後調査で報告されている黄斑浮腫5)の有無についても検討した.表2切替前の使用薬内訳PG関連薬2眼b遮断薬6眼炭酸脱水酵素阻害薬2眼交感神経作動薬2眼II結果全C32眼において投与後C3カ月以上の来院,診察が行われた.副作用はC6例C11眼(34%)に確認され,結膜充血C5例C9眼,眼刺激3例6眼,霧視1例2眼,羞明1例1眼(重複あり)であった.いずれも重篤なものではなく,また全身の副作用もなかった.眼底検査が診察ごとに全例に,OCT検査がC23眼(1CMにC21眼,3CMにC9眼,重複あり)で施行されていたが黄斑浮腫の発症はなかった.中止例はC2例C3眼で,充血と羞明によるものがC1例C1眼,充血と眼刺激によるものがC1例C2眼であった(表3).中止例のC3眼および,点眼切れによる不使用C2眼の計C5眼はC3CMの眼圧解析から除外した.OMDI投与後の眼圧を全症例および新規に投与した群(新規群),切替群に分けて検討した結果,全症例および新規群ではC1,3CMに有意な下降を得られた.切替群ではC1CMのみ有意に下降していたが,3CMは有意差がなかった(図1~3).切替群について,各症例ごとの眼圧経過を図4に示す.PG関連薬以外のCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経作動薬からの切替例C10眼では,1,3CMともに有意に眼圧は下降していた(図5).CIII考按副作用の頻度については,国内で実施された第CII/III相試験,第CIII相長期投与試験および第CIII相CPG関連薬効果不十分例に対する試験の併合解析の結果で,発現率C40.1%,おもな副作用は結膜充血(22.8%)であり5),本研究でもほぼ同様の結果であった.結膜充血はC3CMではC2例(7.7%)であり,統計的に有意(Cc2検定Cp=0.042)に減少しており,中止例を除いた実数でもC6眼からC2眼へ減少していた.眼刺激も3CMでは認めなかった.OMDI点眼の単剤投与では,新規またはCPG関連薬からの切替以外で有意な眼圧下降が得られC1,3CMの眼圧下降率は全体でC14.5%とC16.2%,新規群ではC17.5%とC20.2%であっ表3合併症221CM(n=30)3CM(n=27)全体(n=30)20発現症例数9(30.0%)4(14.8%)11(36.7%)18眼圧(mmHg)黄斑浮腫C0/18C0/9C0/22C結膜充血9(30.0%)2(7.4%)9(30.0%)眼刺激6(20.0%)C06(20.0%)1614霧視C02(7.4%)2(6.7%)C12羞明1(3.3%)C01(3.3%)C10中止例3(10.0%)C03(10.0%)図1全例における眼圧の変化0,1Mはn=30,3MはCn=27.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(*:p<0.001,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C2420220M1M3M眼圧(mmHg)20181614眼圧(mmHg)1816141210図2新規群における眼圧の変化0,1Mはn=18,3MはCn=17.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(**:p<0.01,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C23211210図3切替群における眼圧の変化0,1Mはn=12,3MはCn=10.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1カ月後のみに有意な下降を認めた(***:p<0.05,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C200M1M3M0M1M3M眼圧(mmHg)19171513119図4切替群における各症例の眼圧変化切替前薬剤は以下のとおり.□:PG関連薬,◆:b遮断薬,▲:炭酸脱水酵素阻害薬,●:交感神経作動薬.PG関連薬からの切替である1例C2眼で上昇傾向であった.眼圧(mmHg)1816141210図5PG関連薬以外からの切替症例における眼圧の変化0,1Mはn=10,3MはCn=8.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(C†:p<0.01,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).0M1M3M0M1M3Mた.第CII/III相臨床試験における投与後C4週の眼圧下降率はプラゼボ対照試験でC21.7%,ラタノプロスト対照試験で25.1%と今回の検討よりも眼圧下降率が大きいが,ベースライン眼圧がC23.8CmmHgおよびC23.8CmmHgと今回の症例C18.8mmHgよりも高いことがその理由と考えられる.また,今回の検討では,PG関連薬を除く切替群においても,OMDI投与後C1,3CMにおいてC11.1%とC13.0%の眼圧下降効果が示され,点眼開始C1CMと比べ,3CMにおいてさらに眼圧下降している傾向であった.OMDIの眼圧下降は主流出路とぶどう膜強膜流出路の両方を介することは示されているが,詳細な眼圧下降機序は不明であり,他剤からの切り替えにおいて眼圧下降が経時的に増強する可能性があるのか興味深い.多数例の前向きな検討が必要である.今回の検討の切り替え群のうち,PG関連薬からの切り替えにおいて眼圧上昇がみられたが,1例C2眼のみであった.第CII/III相C0.005%ラタノプロスト点眼液対照評価者盲検並行群間比較試験(AYAMEStudy)ではCOMDI点眼の眼圧下降効果はラタノプロスト点眼液に対して非劣性であることがすでに示されており5),症例数を増やして検討が必要である.PG関連薬に関しては,第CIII相臨床試験(PG関連薬効果不十分例に対する試験)(FUJIStudy)において,PG関連薬で効果不十分なCPOAGおよびCOH患者に対してのCOMDIの眼圧下降効果も示されている5).OMDIを含めたCPG関連薬のノンレスポンダーと他のCPG関連薬からの切り替えについての検討が望まれる.2018年よりわが国において臨床応用が始まった選択的EP2受容体作動薬COMDI単剤の有水晶体眼のCPOAGおよびOHに対する短期成績を報告した.新規投与において投与後3カ月でC20%程度の眼圧下降を認め,PG関連薬を除く他剤からの切り替えでも眼圧下降を示した.黄斑浮腫など重篤な合併症はなかった.眼局所の副作用では結膜充血が最多であったがC3カ月では減少した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5.53,C20182)IsobeCT,CMizunoCK,CKanekoCYCetal:E.ectsCofCK-115,CaCrho-kinaseCinhibitor.ConCaqueousChumorCdynamicsCinCrab-bits.CurrEyeRes39:813-822,C20143)FuwaM,TorisCB,FanSetal:E.ectsofanovelselec-tiveEP2receptoragonist,omidenepagisopropyl,onaque-oushumordynamicsinlaser-inducedocularhypertensivemonkeys.JOculPharmacolTher34:531-537,C20184)KiriharaCT,CTaniguchiCT,CYamamuraCKCetal:Pharmaco-logicCcharacterizationCofComidenepagCisopropyl,CaCnovelCselectiveCEP2CreceptorCagonist,CasCanCocularChypotensiveCagent.CInvestOphthalmolVisSci59:145-153,C20185)エイベリス点眼液C0.02%の有効性と安全性市販直後調査***

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1299.1308,2020cブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験相原一*1関弥卓郎*2*1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2千寿製薬株式会社CPhaseIIIStudytoEvaluatetheE.cacyandSafetyofNovelBrimonidine/BrinzolamideOphthalmicSuspensionComparedwithBrinzolamideOphthalmicSuspensioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucoma(Broad-De.nition)orOcularHypertensionMakotoAihara1)andTakuroSekiya2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)の眼圧下降効果および安全性をC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)と比較した.原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症患者を対象に,ブリンゾラミドをC4週間投与した後,眼圧値がC18.0CmmHg以上のC423例にCSJP-0125またはブリンゾラミドをC4週間投与した.治療期C4週の眼圧変化値は,SJP-0125群C.3.7±2.1mmHg,ブリンゾラミド群C.1.7±1.9CmmHgで,群間差は.2.0CmmHg(95%信頼区間:C.2.4.C.1.5,p<0.0001)であり,SJP-0125のブリンゾラミドに対する優越性が検証された.副作用はCSJP-0125群C8.8%,ブリンゾラミド群C10.2%に発現し,両群で同程度であった.重篤な副作用も認められなかったことから,SJP-0125の安全性に問題はないと考えられた.CPurpose:ToCcompareCtheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationCophthalmicCsuspensionCofCbrimonidineCtartrate0.1%/Cbrinzolamide1%(SJP-0125)withCthoseCofCbrinzolamide1%(brinzolamide).Subjects:Thisstudyinvolved423patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhyperten-sionwhoseIOPwas≧18.0CmmHgafterbrinzolamideadministrationfor4weeksandwhounderwentSJP-0125orbrinzolamideadministrationforanadditional4weeks.ThemeanIOPchangesatWeek4ofthetreatment-periodwere.3.7±2.1CmmHgintheSJP-0125groupand.1.7±1.9CmmHginthebrinzolamidegroup,andthedi.erencebetweenthetwogroupswas.2.0CmmHg(95%CI:.2.4to.1.5,p<0.0001)C,thusdemonstratingthesuperiorityofSJP-0125tobrinzolamide.IntheSJP-0125groupandthebrinzolamidegroup,treatment-relatedadverseevents(TRAEs)wereCobservedCin8.8%Cand10.2%,Crespectively,CandCtheCratesCinCbothCgroupsCwereCsimilar.CNoCseriousCTRAEsCwereCreported.CConclusion:SJP-0125CwasCfoundCe.ectiveCforCloweringCIOPCandCsafe,CwithCnoCseriousCTRAEs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1299.1308,C2020〕Keywords:ブリモニジン,ブリンゾラミド,配合剤,緑内障,比較試験.brimonidine,brinzolamide,.xedcombi-nationophthalmicsuspension,glaucoma,comparativestudy.Cはじめにである1).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場緑内障は進行性かつ非可逆的な視野障害を引き起こす疾患合は単剤療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤であり,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).一方,わ〔別刷請求先〕関弥卓郎:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakuroSekiya,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANCが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合わせはプロスタグランジン関連薬とCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬,a2作動薬とCb遮断薬のC3種のみであるため,これら以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点で臨床的意義があると考える.また,緑内障に対して適切な治療が行われない場合,失明に至る可能性がある1)ため,早期発見と早期治療による視機能障害の進行抑制が重要となるが,自覚症状に乏しいことから点眼治療のアドヒアランスが悪いことが報告されており2.4),アドヒアランスの不良は緑内障が進行する重要な要因の一つとなっている1).多剤併用による治療を行う場合には,薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤を使用することで,患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)は,Ca2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミドを有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激し,毛様体上皮でCcyclicCade-nosinemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す5,6).ブリモニジン酒石酸塩点眼液は,わが国ではC2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬(アイファガンCR点眼液C0.1%)であり,唯一のCa2作動薬である.臨床試験では他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており7,8),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている9).一方,ブリンゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬であり,II型炭酸脱水酵素を特異的に阻害して,CHCO3C.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑制し,その結果房水の産生を抑制して眼圧を下降させる10,11).両剤は良好な眼圧下降効果と忍容性により,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬の単剤では目標眼圧に達しない患者に対し,第二選択薬として併用されることが多い.また両剤は,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬を副作用または禁忌のために使用できない患者にも使用されている.SJP-0125は作用機序の異なるC2成分を配合することから,各単剤よりも高い眼圧下降効果が期待できることに加えて,各単剤を併用するよりも患者の利便性が増し,アドヒアランスを向上させることが期待される.そこで,SJP-0125の第CIII相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0125の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0125の有効成分の一つであるC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,表1に示す全国C45医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験情報の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMINC000028494).C2.目的原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0125をC1日C2回C4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性を,ブリンゾラミドを対照に比較検討する.さらに,参照群としてC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびブリンゾラミドの併用群を設定し,SJP-0125の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.C3.対象原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,ブリンゾラミドをC4週間投与後の眼圧がC18.0CmmHg以上で,表2の基準に該当する患者を対象とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.C4.方法a.被験薬被験薬(SJP-0125)は,点眼剤C1Cml中にブリモニジン酒石酸塩をC1Cmg,ブリンゾラミドをC10Cmg含有する懸濁性点眼剤である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮蔽(評価者遮蔽)並行群間比較試験として実施した.観察期にブリンゾラミドをC1回C1滴,1日C2回朝(8:00.10:00)および夜(20:00.22:00),両眼にC4週間点眼した後,治療期にCSJP-0125,ブリンゾラミド,ブリモニジンおよびブリンゾラミドの両剤のいずれかを,1回C1滴,1日2回朝および夜,両眼にC4週間点眼した.ブリモニジンおよびブリンゾラミドの併用群では,治験薬の点眼間隔はC10分以上C15分以内とした.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬割付責任者が識別不能性を確認した後,治験薬の無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値のC2時間値および観察期終了日(治療期開始日)のC2時間値のスクリーニング検査日表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師医療法人社団山田眼科特定医療法人丸山会丸子中央病院医療法人社団いとう眼科医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック医療法人社団優美会川口あおぞら眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院三橋眼科医院道玄坂加藤眼科成城クリニック医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科医療法人豊潤会松浦眼科医院医療法人社団富士青陵会なかじま眼科医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院医療法人社団優あい会小野眼科クリニック北川眼科医院医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科医療法人社団康順会丹羽眼科医療法人やすまつ佐藤眼科医院医療法人社団風帆会赤塚眼科はやし医院日本医科大学付属病院医療法人社団高友会立川通クリニック医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック医療法人社団浩仁医会水天宮藤田眼科大谷地裕明野原雅彦大原睦子渋谷裕子清水潔呉輔仁三橋正忠加藤卓次松﨑栄佐藤功松浦雅子中島徹村松知幸小野純治北川厚子石田玲子丹羽やす子佐藤圭吾林殿宣中元兼二高橋義徳岡山良子藤田浩司実施医療機関治験責任医師医療法人光耀会菊地眼科クリニック菊地琢也医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬大塚眼科クリニック大塚宏之医療法人社団律心会辻眼科クリニック辻一夫医療法人社団ケアライトさいとう眼科医院齋藤憲医療法人庸倫会スズキ眼科服部博之京都大学医学部附属病院赤木忠道かなもり眼科クリニック金森章泰医療法人社団おじま眼科クリニック尾島知成医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二医療法人中森眼科医院中森玄司医療法人圭明会原眼科病院原岳医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック安達京大阪大学医学部附属病院松下賢治慶應義塾大学病院結城賢弥琉球大学医学部附属病院古泉英貴杉浦眼科杉浦寅男医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団うえだ眼科クリニック上田裕子表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力がC0.3以上の者3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値がC18.0CmmHg以上C31.0CmmHg以下の者おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去C180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon.下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)角膜障害を有する者10)ブリモニジン酒石酸塩または他のCa2作動薬,ブリンゾラミドまたは他の炭酸脱水酵素阻害薬,スルホンアミド系薬剤,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者11)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬,1日あたりC4.5Cgを超えるアスピリンの大量投与または別に規定したもの以外の眼局所の治療薬を使用する予定のある者12)治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者スクリーニング検査日治療期観察期前治療4週4週現行治療(緑内障点眼剤の・ブリンゾラミドを点眼SJP-0125群:SJP-0125を点眼種類は問わない)または無治療・観察期終了日の0時間値およびブリンゾラミド群:ブリンゾラミドを点眼2時間値の眼圧値が18.0mmHg以上併用群:ブリモニジンおよび31.0mmHg以下の場合、治療期へブリンゾラミドを点眼移行する図1治験デザイン表3検査・観察スケジュール○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.測定時点C7時間での眼圧,血圧・脈拍数は,原則測定した.からの眼圧変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的に割付群を決定した.SJP-0125群,ブリンゾラミド群,併用群の割付比はC3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被.験.者.数SJP-0125群とブリンゾラミド群の眼圧下降の差をC1.0mmHg,共通の標準偏差を約C2.6CmmHgと推定,有意水準両側C5%,検出力C90%と設定し必要な評価被験者数を各群144例と算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を50例とした.中止脱落を考慮してCSJP-0125群,ブリンゾラミド群の目標被験者数を各群C160例,併用群をC56例,合計C376例と設定した.C5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,細隙灯顕微鏡検査所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野,血圧・脈拍数の各検査を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前かつC8:00.10:00の間にC0時間値を測定し,点眼後はC2時間値および原則としてC7時間値を測定した.また,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用と表4被験者背景(FAS)SJP-0125ブリンゾラミド併用合計項目分類(n=181)(n=176)(n=61)(n=418)性別男79(C43.6)87(C49.4)27(C44.3)193(C46.2)女102(C56.4)89(C50.6)34(C55.7)225(C53.8)年齢(歳)平均値±標準偏差C60.5±12.9C62.3±12.7C62.1±11.8C.最小値.最大値28.9C026.8C932.8C2C.対象疾患1原発開放隅角緑内障(広義)115(C63.5)121(C68.8)42(C68.9)278(C66.5)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障79(C43.6)89(C50.6)27(C44.3)195(C46.7)前視野緑内障36(C19.9)32(C18.2)15(C24.6)83(C19.9)高眼圧症66(C36.5)55(C31.3)19(C31.1)140(C33.5)緑内障治療薬2有127(C70.2)134(C76.1)46(C75.4)307(C73.4)無54(C29.8)42(C23.9)15(C24.6)111(C26.6)眼局所の合併症2有108(C59.7)102(C58.0)42(C68.9)252(C60.3)無73(C40.3)74(C42.0)19(C31.1)166(C39.7)眼局所以外の合併症有128(C70.7)122(C69.3)44(C72.1)294(C70.3)無53(C29.3)54(C30.7)17(C27.9)124(C29.7)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層390(C49.7)84(C47.7)32(C52.5)206(C49.3)(有効性評価対象眼)中眼圧層457(C31.5)57(C32.4)19(C31.1)133(C31.8)高眼圧層534(C18.8)35(C19.9)10(C16.4)79(C18.9)例数(%)C.:該当なし1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経障害の存在2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした3:18CmmHg以上C20CmmHg未満4:20CmmHg以上C22CmmHg未満5:22CmmHg以上した.C6.併用薬および併用処置治験期間中,表2の除外基準に抵触する薬剤または処置の併用は禁止した.C7.評価方法および解析方法a.有効性最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を有効性の主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期C4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした(優越性の検証).欠測値に対しては,lastCobservationCcarriedforward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の各観察日(治療期C2週および治療期C4週)の眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれのC0時間値,2時間値,7時間値,0時間値とC2時間値の平均値,0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値)とした.t検定(有意水準両側C5%)によりCSJP-0125群およびブリンゾラミド群のC2群間で比較した.参照群との比較には検定を行わないこととした.眼圧値は,治療期開始日と投与後の各観察日の値をCpairedt検定(有意水準両側C5%)で比較した.また,治療期C4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に解析した.Cb.安全性治療期に組み入れられた被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,治療期開始日以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS例数)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧・脈拍数は治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野はスクリーニング検査日からの悪化の有無を比較した.CII結果1.被験者の構成同意を取得した被験者はC498例,観察期にブリンゾラミドの投与を開始したのはC483例であった.このうち無作為化され,治療期の投与を開始したのはC423例であった.治験完了例はC414例,治験未完了例はC9例であった.治療期の投与を開始したC423例(SJP-0125群C182例,ブ表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移(FAS)測定時点CSJP-0125ブリンゾラミド併用0時間値治療期開始日眼圧値C20.7±2.0(1C81)C20.6±1.9(1C76)C20.5±2.0(61)治療期C2週眼圧値C18.5±2.5*†(1C80)C19.3±2.4*†(1C74)C18.2±2.4*(60)変化値C.2.3±2.0†(1C80)C.1.2±1.9†(1C74)C.2.3±2.1(60)変化率C.10.9±9.7†(1C80)C.5.9±9.2†(1C73)C.10.9±9.9(60)治療期C4週眼圧値C18.2±2.8*†(1C80)C19.0±2.7*†(1C73)C18.1±2.1*(59)変化値C.2.5±2.1†(1C80)C.1.6±2.0†(1C73)C.2.4±1.9(59)変化率C.12.3±10.2†(1C80)C.7.7±9.7†(1C73)C.11.6±8.4(59)2時間値治療期開始日眼圧値C20.1±2.0(1C81)C20.0±1.9(1C76)C19.8±1.8(61)治療期C2週眼圧値C16.5±2.4*†(1C80)C18.5±2.4*†(1C74)C16.7±2.6*(60)変化値C.3.6±2.2†(1C80)C.1.5±1.6†(1C74)C.3.2±2.1(60)変化率C.17.7±10.3†(1C80)C.7.7±7.8†(1C73)C.15.9±10.2(60)治療期C4週眼圧値C16.4±2.5*†(1C80)C18.3±2.6*†(1C73)C16.5±2.7*(59)変化値1C.3.7±2.1†(1C81)C.1.7±1.9†(1C76)C.3.4±2.4(60)変化率C.18.1±10.3†(1C80)C.8.5±9.3†(1C73)C.17.1±11.6(59)7時間値治療期開始日眼圧値C19.1±2.1(1C64)C19.2±2.1(1C57)C19.0±2.3(55)治療期C2週眼圧値C16.8±2.6*†(1C63)C18.0±2.4*†(1C54)C17.0±2.4*(54)変化値C.2.3±2.2†(1C63)C.1.1±1.9†(1C54)C.2.0±1.8(54)変化率C.12.0±11.4†(1C63)C.5.7±9.7†(1C54)C.10.2±9.1(54)治療期C4週眼圧値C16.8±2.5*†(1C63)C17.8±2.7*†(1C54)C16.7±2.2*(53)変化値C.2.2±2.1†(1C63)C.1.4±1.9†(1C54)C.2.3±1.7(53)変化率C.11.5±10.7†(1C63)C.7.4±9.8†(1C54)C.11.9±8.8(53)0時間値とC2時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.4±1.9(1C81)C20.3±1.9(1C76)C20.2±1.8(61)治療期C2週眼圧値C17.5±2.3*†(1C80)C18.9±2.3*†(1C74)C17.4±2.3*(60)変化値C.2.9±1.8†(1C80)C.1.4±1.5†(1C74)C.2.7±1.9(60)変化率C.14.3±8.7†(1C80)C.6.9±7.3†(1C74)C.13.4±8.9(60)治療期C4週眼圧値C17.3±2.5*†(1C80)C18.7±2.6*†(1C73)C17.3±2.2*(59)変化値C.3.1±1.9†(1C80)C.1.6±1.7†(1C73)C.2.9±1.9(59)変化率C.15.2±9.2†(1C80)C.8.2±8.5†(1C73)C.14.4±8.8(59)0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.0±1.9(1C64)C19.9±1.9(1C57)C19.8±1.8(55)治療期C2週眼圧値C17.3±2.3*†(1C63)C18.6±2.2*†(1C54)C17.4±2.1*(54)変化値C.2.7±1.8†(1C63)C.1.3±1.4†(1C54)C.2.4±1.5(54)変化率C.13.6±8.7†(1C63)C.6.7±6.9†(1C54)C.12.4±7.3(54)治療期C4週眼圧値C17.2±2.4*†(1C63)C18.3±2.5*†(1C54)C17.1±2.1*(53)変化値C.2.8±1.7†(1C63)C.1.6±1.5†(1C54)C.2.7±1.5(53)変化率C.14.1±8.7†(1C63)C.8.2±7.9†(1C54)C.13.5±7.4(53)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.*:p<0.0001(治療期C2週またはC4週の眼圧値Cvs治療期開始日の眼圧値Cpairedt検定,有意水準両側5%)C†:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドCt検定,有意水準両側5%)リンゾラミド群C177例,併用群C64例)をCSSとした.このC2.有効性うち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データの眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率ないC3例および除外基準に抵触したC2例を除くC418例(SJP-を表5,眼圧変化値の推移を図2,対象疾患別,治療期開始0125群C181例,ブリンゾラミド群C176例,併用群C61例)を日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期C4週,FASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2時間値)を表6,図3および図4に示した.主要評価項目である治療期C4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,SJP-0125群ではC.3.7±2.1CmmHg,ブリ0時間値1ンゾラミド群では.1.7±1.9CmmHgであり,統計学的に有0意な差を認め(点推定値:C.2.0mmHg,95%両側信頼区間:-1-2*.2.4.C.1.5CmmHg,p<0.0001),SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する優越性が検証された.副次評価項目である治療期C2週および治療期C4週の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,すべての測定時点で-3*-4-5SJP-0125ブリンゾラミド併用-6SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する統計学的に有意な治療期開始日治療期2週治療期4週差を認めた(いずれもCp<C0.01).さらに,治療期C2週および2時間値治療期C4週の眼圧値は,いずれの群もすべての測定時点で投1与前と比較して統計学的に有意に低下した(いずれもCp<0.0001).併用群の眼圧下降効果は,SJP-0125群と同程度であった.また,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に治療期4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を解析した結果,いずれの層も全体の解析結果と同じ傾向を示した.眼圧変化値(mmHg)0-1-4**-2-3-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用3.安全性治療期開始日治療期2週治療期4週治療期にCSJP-0125群,ブリンゾラミド群および併用群に7時間値発現した有害事象はそれぞれ47例(25.8%)59件,43例C1**-3眼圧変化値(mmHg)(24.3%)67件およびC12例(18.8%)13件であった.このうち副作用は,それぞれC16例(8.8%)22件,18例(10.2%)23件,7例(10.9%)7件で,各群の発現割合は同程度であった.治療期の副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,SJP-0125群では霧視C6例(3.3%),点状角膜炎C5例(2.7%),0-1-2-4-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用ブリンゾラミド群では霧視C11例(6.2%),点状角膜炎C4例(2.3%),味覚障害C3例(1.7%),併用群では眼刺激C2例(3.1%)であった.重度と判定された副作用はいずれの群にもなく,中等度と判定された副作用は併用群でC1例C1件(眼瞼紅斑)認めた.その他の副作用は軽度であった.副作用による中止は併用群でC2例(霧視,眼瞼紅斑)であった.副作用による死亡および重篤な副作用はなかった.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数には,臨床上問題となるような変動や所見はみられなかった.CIII考按SJP-0125の有効性を検証するにあたり,SJP-0125の有効成分の一つであり,わが国で第二選択薬として広く使用されているブリンゾラミドを対照に比較試験を行った.治療期C4週での眼圧変化値(2時間値)を比較した結果,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも優れた眼圧下降効果を示した.さらに,治療期C2週および治療期C4週のC0,2,7時間のすべての時点で,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも大きな眼圧下降を示し,1日を通して良好な眼圧下降効治療期開始日治療期2週治療期4週平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドt検定,有意水準両側5%)図2眼圧変化値の推移果を示した.また,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点でCSJP-0125群と併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0125はブリンゾラミド単剤から切り替えることで追加の眼圧下降効果が得られ,ブリモニジンとブリンゾラミドの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬のC3剤併用でコントロール不良の患者を対象とした臨床研究では,ブリモニジンの追加投与で眼圧下降効果が得られることが確認されている12).このことから,ブリンゾラミドを第一選択薬であるプロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬と併用している場合にも,ブリンゾラミドからCSJP-0125への切り替えによってさらなる眼圧下降効果が得られることが期待される.また,対象疾患別に解析した結果から,SJP-0125は原発開放隅角緑内障,前視野緑内障および高眼圧症のいずれに対しても眼圧下降効果を示すと考えられる.さらに,治療期開表6対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期4週,2時間値)項目CSJP-0125ブリンゾラミド併用眼圧値(治療期開始日,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C20.0±2.0(1C15)C19.9±1.8(1C21)C19.9±2.0(42)原発開放隅角緑内障C20.1±2.2(79)C20.0±1.8(89)C19.6±1.6(27)前視野緑内障C19.7±1.4(36)C19.5±1.7(32)C20.6±2.4(15)高眼圧症C20.4±2.1(66)C20.4±2.1(55)C19.7±1.6(19)眼圧値(治療期開始日,2時間値)低眼圧層:1C8CmmHg以上C20CmmHg未満C18.6±0.5(90)C18.5±0.5(84)C18.5±0.6(32)中眼圧層:2C0CmmHg以上C22CmmHg未満C20.5±0.6(57)C20.4±0.5(57)C20.3±0.4(19)高眼圧層:2C2CmmHg以上C23.6±1.5(34)C23.2±1.3(35)C23.3±1.0(10)図3対象疾患別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)SJP-0125ブリンゾラミド併用低眼圧層中眼圧層高眼圧層眼圧変化率(%)0-5-10-15-20-25-30-35平均値±標準偏差低眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)18mmHg以上20mmHg未満中眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)20mmHg以上22mmHg未満高眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)22mmHg以上図4治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)表7治療期の副作用一覧(SS)SJP-0125ブリンゾラミド併用副作用名1C(n=182)(n=177)(n=64)件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体C2216(C8.8)C2318(C10.2)C77(C10.9)眼障害C2015(C8.2)C2016(C9.0)C66(9C.4)霧視C66(3C.3)C1111(C6.2)C11(1C.6)点状角膜炎C75(2C.7)C54(2C.3)C00(0C.0)結膜充血C11(0C.5)C11(0C.6)C11(1C.6)眼脂C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼の異物感C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼刺激C11(0C.5)C00(0C.0)C22(3C.1)眼瞼炎C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼乾燥C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)硝子体浮遊物C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼痛C00(0C.0)C11(0C.6)C00(0C.0)眼瞼紅斑C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)眼そう痒症C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)胃腸障害C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)口内乾燥C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)臨床検査C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)視野検査異常C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)神経系障害C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)味覚異常C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)1:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.始日(2時間値)の眼圧値別に解析した結果から,SJP-012525.8%,ブリンゾラミド群でC24.3%,併用群でC18.8%であは投与開始前の眼圧値にかかわらず眼圧下降効果を示すと考り,各群での発現割合は同程度であった.副作用発現割合もえられる.3群間で同程度であり,いずれの群でも重篤な副作用は認め安全性に関しては,有害事象の発現頻度はCSJP-0125群でなかった.SJP-0125群で比較的発現頻度の高かった副作用は霧視(3.3%)および点状角膜炎(2.7%)であったが,これらはC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液またはC1%ブリンゾラミド点眼液において既知の副作用であり13,14),発現割合はブリンゾラミド群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではCSJP-0125の安全性はブリンゾラミド単剤および併用療法と同様に良好であると考える.海外ではC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(SIMBRINZACR,米国CAlconCResearch,Ltd.)が市販されている.単剤で眼圧コントロール不良または眼圧降下薬を多剤併用している開放隅角緑内障または高眼圧症患者のうち,休薬期間後の眼圧値がC9:00時点でC24.36CmmHg,11:00時点でC21.36CmmHgである患者を対象とした海外第CIII相試験では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群の投与開始日からの眼圧変化値(0,2,7時間値の平均)は投与C2週でC.7.6mmHg,3カ月でC.7.9CmmHg,6カ月でC.7.8CmmHgであり,投与後2週からC6カ月にかけて安定した眼圧下降効果が確認されている15).これらのことから,SJP-0125も同様に,本試験で検証したC4週間を超えて長期間投与した場合でも,安定した眼圧下降効果を示すことが期待される.また,投与C6カ月における有害事象の発現頻度はC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群と各単剤群および併用群で同程度であったことから15,16),SJP-0125でも長期投与時の安全性に問題はないことが期待される.以上の結果より,SJP-0125は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるブリンゾラミド点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に大きく,その効果は1日を通じて良好であること,安全性に問題のないことを確認した.このことから,ブリンゾラミド単剤からCSJP-0125に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より優れた眼圧下降効果を得ることができると考えられる.この追加の眼圧下降効果は,第一選択薬とブリンゾラミドを併用している場合にブリンゾラミドをCSJP-0125に変更することでも得られると期待される.また,すでにCa2作動薬および炭酸脱水酵素阻害薬を併用している場合は,SJP-0125に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0125はわが国初のCb遮断薬を含まない配合点眼剤であり,さらにプロスタグランジン関連薬も含まないことから,それら単剤で効果不十分またはそれらを使用できない患者に使用できる配合剤としても期待される.以上より,SJP-0125は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内C1308あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)GrayCTA,COrtonCLC,CHensonCDCetal:InterventionsCforCimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSystRevC2009:CD006132,C20093)QuigleyHA,FriedmanDS,HahnSR:Evaluationofprac-ticeCpatternsCforCtheCcareCofCopen-angleCglaucomaCcom-paredwithclaimsdata:theglaucomaadherenceandper-sistencystudy.OphthalmologyC114:1599-1606,C20074)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarri-ersCinglaucoma:aCsystematicCclassi.cation.CJCGlaucomaC12:393-398,C20035)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:E.ectsofbrimo-nidineConCaqueousChumorCdynamicsCinChumanCeyes.CArchCOphthalmolC113:1514-1517,C19956)BurkeCJ,CSchwartzM:PreclinicalCevaluationCofCbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19967)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌C116:955-966,C20128)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液C0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究─使用成績調査中間報告.臨眼C71:859-867,C20179)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentCstudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C201110)中島正之:新しい緑内障治療薬:点眼用炭酸脱水酵素阻害剤.あたらしい眼科10:959-964,C199311)IesterM:BrinzolamideCophthalmicsuspension:aCreviewCofCitsCpharmacologyCandCuseCinCtheCtreatmentCofCopenCangleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmolC2:517-523,C200812)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤のC3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,C201413)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201214)MarchCWF,COchsnerCKI,CtheCBrinzolamideCLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyande.cacyofCbrinzolamide1.0%(Azopt)inCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC151:671-681,C201115)AungCT,CLaganovskaCG,CHernandezCParedesCTJCetal:CTwice-dailyCbrinzolamide/brimonidineC.xedCcombinationCversusbrinzolamideorbrimonidineinopen-angleglauco-maCorCocularChypertension.CAmericanCAcademyCofCOph-thalmologyC121:2348-2355,C201416)GandoliSA,LimJ,SanseauACetal:Randomizedtrialofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbrimo-nidineCforCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAdvTherC31:1213-1227,C2014(132)