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2018 年に施行された基準変更に伴う視覚障害認定者数の推移

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1148.1152,2022c2018年に施行された基準変更に伴う視覚障害認定者数の推移田中康平生杉謙吾一尾多佳子竹内真希近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学ImpactoftheChangesinVisualImpairmentCerti.cationCriteriaInstitutedin2018KoheiTanaka,KengoIkesugi,TakakoIchio,MakiTakeuchiandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更された.今回筆者らは認定基準変更後の変化について三重県における視覚障害認定者を対象に調査したので結果を報告する.対象および方法:対象は認定基準変更前後1年間に該当する2017年7月.2019年6月の2年間に三重県にて身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害と認定された全395名である.対象者の身体障害者診断書・意見書から年齢・性別・等級分布・原因疾患を調査した.結果:視覚障害認定者数は変更後,1.4倍増加した.年代別では50歳代.90歳代のすべての年齢層で増加した.認定等級別では2級の認定者数が2.1倍となり割合で15.8ポイント増加した.疾患別では緑内障による認定者数が2.3倍となり割合で19.0ポイント増加した.結論:2018年に行われた視覚障害認定基準の変更前後で認定等級では2級が原因疾患では緑内障が増加していた.Purpose:InJuly2018,thede.nitionofvisualimpairmentdeterminedbytheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersonswerechangedinJapan.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatethe.uctuationsinvisualimpairmentpreandpostcriteriachangeinpersonsinMiePrefecture,Japan.SubjectsandMethods:Inthisstudy,weexaminedthephysicaldisabilitycerti.catesissuedbetweenJuly2017andJune2019inMiePrefecturetoper-sonswhobecameregisteredasvisuallyimpairedduringthatperiod.Subjectage,gender,gradeofcerti.cation,andcauseofvisualimpairmentwerealsoinvestigated.Results:Wefoundthat395personsbecameregisteredasvisu-allyimpairedduringtheperiod,thatthenumberofcerti.edpersonsincreased1.4timesafterthecriteriachange,andthattheincreaseoccurredinallagegroupsfromage50toage90.Inregardtotheclassi.cationbygrade,grade2nearlydoubledandincreasedby15.8points.Inregardtothecauseofcerti.cation,diseaseanalysisshowedthatglaucomaincreased2.3times,andthattherateincreasedby19.0points.Conclusion:Our.ndingsshowthatduetothechangeinthecriteriaforvisualimpairmentin2018,therehasbeenanincreaseinthenum-berofgrade2andglaucomapatientsinMiePrefecture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1148.1152,2022〕Keywords:視覚障害,視野障害,身体障害者診断書・意見書,緑内障.visualimpairment,visual.eldimpair-ment,physicaldisabilitycerti.cates,glaucoma.はじめに2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更された.この変更により,たとえば視力障害は「両眼の視力の和」から「良い方の眼の視力」での認定に,また視野障害は「ゴールドマン型視野計による基準のみ」から「ゴールドマン型視野計または自動視野計のどちらか一方」での認定が可能となるなど種々の見直しが行われた.今回筆者らは,2018年7月に行われた視覚障害認定基準の変更を受け,三重県における新規視覚障害認定者を対象に基準変更前後の変化について比較・検討を行ったので報告する.I対象および方法調査期間は2018年7月の認定基準変更の前後1年間ずつ,2017年7月.2019年6月の2年間である.期間内に三重県に住民票がありかつ新規に視覚障害の認定を受けた全395〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-city,Mie514-8507,JAPAN1148(138)例を対象とした.今回の調査対象者は調査期間内に新規に視覚障害者として認定された者であり,再認定者(継続認定者)は対象外とした.対象者の身体障害者診断書・意見書から年齢・性別・等級分布・原因疾患を調査した.原因疾患の項目に複数の疾患が記載されている場合は,1番目に記載されているものを原因疾患とした.また,障害等級については最終的に認定された等級であり,提出された身体障害者診断書・意見書に不備がある場合などでは三重県障害者相談支援センターから提出医への再確認が行われている.認定基準変更前の1年間(2017年7月.2018年6月)を「変更前」,変更後の1年間(2018年7月.2019年6月)を「変更後」として比較,検討を行った.本研究はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,プライバシー保護に最大限配慮されており,個人情報を除いた資料が三重県障害者相談支援センターから提供され,また三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査委員会にて承認(U2020-021)されたものである.II結果視覚障害認定者数は,変更前164人に対し変更後231人であり1.4倍の増加となった(図1a).変更前後の認定者数の月別比較(図1b)では,5月と11月以外のすべての月で変更後に増加がみられた.11月は同数であった.男女比は,変更前で男性47.6%,女性52.4%,変更後は男性54.1%,女性45.9%であった(図2).a:実数(人)250200150100500(人)b:月別実数変更前変更後図1基準変更前後の認定者数変更前変更後図3に年齢別認定者数の分布を示す.30歳代,40歳代では変更前後でまったくの同数であった一方,80歳代は1.2倍,60歳代では1.4倍,70歳代では1.5倍に増加した.また50歳代および90歳代はそれぞれ変更前後で2倍以上に増加するなど,50歳代.90歳代までのすべての年齢層で増加した.図4aおよびbに認定等級別実数の分布および割合を示した.実数で比較すると2級の認定者数が変更前後で2.1倍に増加していた.その他,1級,4級,5級で増加,3級と6級では減少がみられた.割合で比較すると,2級は33.5%から49.4%と15.9ポイントの増加がみられた.図5aおよびbに視覚障害の原因上位4疾患である緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性,黄斑変性と,その他の疾患での認定者の実数分布および割合を示した.実数で比較すると緑内障による認定者数が変更前後で2.3倍に増加していた.割合で比較すると緑内障は変更前後で28.7%から47.6%と18.9ポイントの増加がみられた.III考察今回,筆者らは2018年7月に行われた視覚障害認定基準の変更を受け,三重県厚生事業団三重県身体障害者総合福祉センターの協力を得,三重県において2017年7月.2019年6月に身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害の認定を受けた者を対象とした調査を行うこととした.さて視覚障害認定の全国調査に関してはこれまでいくつかの報告1.3)があるが,いずれも全国を複数地域に分け,各地域で1自治体を抽出して行われたサンプル調査であった.その後,森實らがわが国で初めて全国の自治体で18歳以上を対象とした調査を2015年度の1年間で行い,年齢,性別,等級,原因疾患などについての結果を報告した4,5).一方,生杉らは今回の報告と同様の手法で,三重県における新規視覚障害者を対象とした全例調査を2004年度から2013年度の10年間にかけて行い結果を報告している6).変更前変更後男性女性男性女性図2男女比(人)706050403020100~3940~4950~5960~6970~7980~8990~(歳)変更前変更後図3年齢分布a:実数(人)120100806040200123456(級)変更前変更後b:割合6級6級5.5%3.5%3級4.3%3級9.8%変更前変更後図4認定等級a:実数(人)120100806040200緑内障糖尿病網膜症網膜色素変性黄斑変性その他変更前変更後b:割合網膜色素変性9.5%糖尿病網膜症変更前変更後10.0%図5原因疾患これらの結果によると,人口10万人当たりの認定者数は全国で13.3人,三重県は13.9人であり,また原因疾患の割合をみると,全国平均では上位から緑内障(29%),網膜色素変性(15%),糖尿病網膜症(13%),黄斑変性(8%)と続くのに対し,三重県では上位から緑内障(27%),糖尿病網膜症(17%),網膜色素変性(13%),黄斑変性(12%)などとなり,2位と3位の順位は入れ替わっているものの上位4疾患は同じであり疾患割合としても全国平均と三重県では近い値となっていた.今回,2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更されたことによる全国での手帳の取得状況の変化については,全国調査の結果を待つ必要があるが,全国での1年間の視覚障害認定者数は18歳以上で12,000人以上であり4),全数を対象とした詳細な調査を頻回に繰り返すことは多くの労力がかかると考えられ,今回のような一定の地域内の全数を対象とした調査も有用なデータとなりうると考えられる.さて新しい認定基準が適用される前後の変化について今回の結果では,認定者数は全体で1.4倍に増加した.とくに50歳以上の全年齢層で認定者数が増加,等級別では2級の認定者数が倍増,また原因疾患では緑内障が倍増し割合として全体の47.6%を占めることとなった.この原因として今回の基準変更前後で実際に視覚障害患者が急増したとは考えにくいため,適用基準が変わり申請者が増え,見た目上の視覚障害者が増えた可能性がある.今回の基準変更の詳細については2016年8月に取りまとめられた「視覚障害認定基準の改定に関する取りまとめ報告書」7)に述べられている.視力障害の認定については,日常生活は両眼開放で行っていることから,「両眼の視力の和」から「視力の良い方の眼の視力」で認定されることとなった.また,視野障害の認定も,Goldmann型視野計における視能率の廃止と自動視野計における等級判定の導入など大きな基準変更があった.とくにGoldmann型視野計では,新たにI/4指標を用いた「周辺視野角度」およびI/2指標を用いた「中心視野角度」を判定に用い,また現在の眼科一般診療で広く一般に普及している自動視野計による基準も新たに示され,10-2プログラムによる「両眼中心視野視認点数」および周辺視野の評価は「両眼開放エスターマンテスト」8,9)にて行われることとなった.最近では,自動視野検査結果の一部を自動で計算するプログラムもあり,申請書の作成を容易なものとしてくれる.このようないくつかの具体的な基準変更が視覚障害者手帳の発行数や対象疾患に影響を与えている可能性がある.最後に,今回の調査結果は身体障害者本来の実数を反映していない可能性がある.視覚障害者手帳の申請に関してはいわゆる申請漏れが存在することが知られており,過去には本来視覚障害認定者となるはずの患者が障害者として認定されていない例が多く報告され,障害者手帳の取得率は30.50%程度に止まるとされている10.12).一方,今回の研究で明らかとなったように基準変更後に認定者数が増加した背景には,認定基準変更を契機として患者,医療従事者ともに視覚障害者手帳取得への関心が高まった可能性が考えられる.とくに緑内障に関しては定期的な視野測定が行われる診療特性と視野障害に関して自動視野計での認定が可能となったことでより多くの施設で認定ができるようになった可能性があり,今後さらに詳細な資料を収集解析することで今回の視覚障害者数変化の原因が明らかになると考えられる.今回,三重県での調査結果を報告したが,2018年の認定基準の見直しに伴い全国的にも視覚障害者数や認定等級の分布に一部大きな変化が起こっている可能性がある.視覚障害者のQOL(生活の質)低下をできる限り正しく評価し視覚障害者手帳取得という社会的サポートへの橋渡しの重要性を考えるうえで本報告がその一助となる可能性がある.IV結論2018年に行われた視覚障害認定基準の変更前後における三重県での視覚障害認定者の変化について報告した.認定等級では2級が,原因疾患では緑内障が著明に増加していた.全国の動向は全国全例調査の結果を待つ必要があるが,本県における調査結果は過去の同様の調査でも比較的全国平均に近いことが多く,今後のわが国での視覚障害者に対する施策を考えるうえで有益な情報となりうると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中江公裕,小暮文雄,長屋幸朗ほか:わが国における視覚障害の現況.厚生の指標38:13-22,19912)中江公裕,増田寛次郎,石橋達朗:日本人の視覚障害の原因.医学のあゆみ225:691-693,20083)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,20144)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)森實祐基,守本典子,川崎良ほか:視覚障害認定の全国調査結果の都道府県別検討.日眼会誌124:697-704,20206)IkesugiK,IchioT,TsukitomeHetal:Annualincidencesofvisualimpairmentduring10-yearperiodinMieprefec-ture,Japan.JpnJOphthalmol61:293-298,20177)視覚障害の認定基準に関する検討会:視覚障害認定基準の改定に関する取りまとめ報告書.厚生労働省参考資料2017:https://www.mhlw.go.jp/.le/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000189667.pdf8)EstermanB:Functionalscoringofthebinocular.eld.Ophthalmology89:1226-1234,19829)XuJ,LuP,DaiMetal:Therelationshipbetweenbinoc-ularvisual.eldlossandvariousstagesofmonocularvisu-al.elddamageinglaucomapatients.JGlaucoma28:42-50,201910)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘ほか:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,200011)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:1021-1023,200312)藤田昭子,斎藤久美子,安藤伸朗ほか;新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳取得状況.臨眼53:725-728,1999***

iStent inject W リカバリー器具の試用

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):818.822,2022ciStentinjectWリカバリー器具の試用安岡恵子多田憲太郎安岡一夫安岡眼科CClinicalTrialofiStentinjectWRecoveryDeviceKeikoYasuoka,KentaroTadaandKazuoYasuokaCYasuokaEyeClinicC目的:当院で考案したCiStentinjectW(以下,iStent)のリカバリー器具;iStentSaverの試用結果を報告する.対象および方法:対象はC2020年C10月.2021年C7月に安岡眼科でCiStentSaverを用いて脱落したCiStentを回収したC5症例.作製と使用方法は,22ゲージ静脈留置針の内針を抜き,カテーテルを約C12Cmmに切り,2.5Cmlのシリンジを装着する.耳側角膜創より前房へ挿入し,先端口を脱落したCiStentに近づけ,シリンジの内筒を引きCOVDとともに吸引し,眼外のCBSS入りの容器へ回収する.回収したCiStentは顕微鏡下でインジェクターに再装着し,線維柱帯に再度挿入する.結果:全例において安全に眼外への回収に成功した.結論:iStentSaverは有用なCiStentのリカバリー器具である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCusingCtheCiStentCSaverCdeviceCforCrecoveryCofCdislocatedCiStentCinjectCW.CTrabecularCMicro-BypassDevice(GlaukosCorporation).CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolved5eyesinwhichtheiStentSaverwasusedfortherecoveryofapreviouslyimplantedandsubsequentlydislocatedCiStentCinjectCWCatCYasuokaCEyeCClinic,CfromCOctoberC2020CtoCJulyC2021.CFirst,CtheCmetalCneedleCwasCremovedCfromCtheCouterCtube.CTheCtubeCwasCthenCcutCtoCaCcornealCdiameterCofCapproximatelyC12CmmCandCthenCattachedtoa2.5CmlCsyringe.Thetipofthetubewastheninsertedthroughthecornealincision,placedclosetothedislocatedCiStent,CandCsuctionCwasCapplied.CTheCtubeCwasCthenCremovedCandC.ushedCintoCanCexternalCcontainer.CNext,theinjectorreattachedunderamicroscopewiththeremovediStentinjectW,wasreinsertedintotheanteri-orchamberthroughthecornealincisionandre-implantedintotheSchlemm’scanal.Results:Inall5treatedeyes,thedislocatediStentinjectWwassafelyandsuccessfullyretrievedandre-implanted.Conclusion:TheiStentSav-erCwasfoundtobeasafeande.ectiverecoverydeviceforadislocatediStentinjectW.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):818.822,C2022〕Keywords:緑内障,低侵襲緑内障手術,白内障手術併用眼内ドレーン(iStentinject)挿入術,22CG静脈留置針.Cglaucoma,iStentinjectW,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),secondgenerationtrabecularmicro-bypassCstent,22CGintravenouscannula.CはじめにiStentCinjectw(グラウコス社)はC2本のステントを備えた,世界最小サイズ(360Cμm)の改良型金属デバイスである.低侵襲緑内障手術(microCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)のなかでもっとも侵襲が少ない手術として,近年その施行数は増加している.安岡眼科(以下,当院)でもC2020年C10月より使用を開始した.しかし,iStent挿入時に線維柱帯からはずれ前房隅角に浮遊した際に,極小サイズのために見失いやすく,また金属硬性のため,iStentの捕捉に難渋し眼内落下の危険を経験した.今回,筆者らは,不確実な眼内操作ではなく,22ゲージ(G)静脈留置針(セーフレットキャス,ニプロ製)とC2.5Cmlのシリンジを使用し,吸引でいったん眼外に回収したあとに顕微鏡下でCiStentのインジェクターに再装着し,線維柱帯に再挿入するためのリカバリー器具CiStentSaver(以下,iStentSaver)を考案し試用したので,その結果を報告する.本研究は高知大学より倫理審査不要との回答があり,手術後に全患者からCiStentSaverの使用と研究参加への同意を得ている.〔別刷請求先〕安岡恵子:〒780-0901高知市上町C2-2-9安岡眼科Reprintrequests:KeikoYasuokaM.D.,YasuokaEyeClinic,2-2-9Kamimachi,Kochi-city,Kochi780-0901,JAPANC818(122)図1iStentSaver作製方法a:22CG静脈留置針とC2.5Cmlシリンジ.b:金属針を抜去する.c:カテーテルを約C12Cmmに切る.丸枠内はカテーテルの先端の形状.d:2.5Cmlのシリンジに連結する.CI対象および方法対象はC2020年C10月.2021年C7月に,当院で施行したiStent挿入術C41症例C82ショットのうち,正しく線維柱帯に挿入できず,前房へ脱落したCiStentの回収にCiStentCSaverを使用したC5症例C5眼である.図1にCiStentSaverの作り方を示した.材料はC22CG静脈留置針とC2.5Cmlのシリンジ(図1a)で,22CG静脈留置針の金属内針を抜去し(図1b),テフロン性外筒チューブ(以下,カテーテル)を角膜径(whitetowhite)の約C12Cmmにカットして(図1c),2.5Cmlのシリンジに直接つなげる(図1d).図2に模型眼を用いて使用方法を示した.左手でヒル式オープンアクセス隅角鏡を角膜に置き隅角を視野に入れ,右手でCiStentSaverを耳側角膜切開創から挿入する.カテーテルの先端をCiStentに近づけ(図2a),シリンジの内筒を引き粘弾性物質(ophthalmicvisco-elasticdevice:OVD)とともにCiStentをシリンジ内腔へ吸引した後に(図2b),カテーテル部を角膜創から抜き,シリンジ内筒を押し,フラッシュしてCiStentをCBSS(balancedCsaltsolution)を入れた清潔容器に回収する.顕微鏡下でiStentをインジェクターに再装着したのち,再度前房内に入れて線維柱帯に再挿入する.図2cのごとく前房出血に見立てたインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)に紛れてCiStentが見えない場合は,血液とCOVDとともにiStentを吸引回収する(図2c).(123)II結果表1にCiStentSaverの使用結果を示した.5症例すべてにおいて,脱落したCiStentを損傷なくシリンジ内腔へ吸引し眼外へ回収できた(100%).また,前房に逆流出血がありiStentの視認性が悪い場合でも,吸引による前房の虚脱はなかった.症例C1は眼外のCBSS入り容器への回収に成功したが,インジェクターへ再装着をするときに,液体の中で跳ねて紛失し再挿入はできなかった.この症例は最初に留置したCiStent1個の設置で手術を終了した.それ以降,眼外に回収したCiStentをCLASIKで使用するスポンジドレーン(ChayetLASIKCEyeDrain,BeaverCVisitecinternational社製.以下,LASIKドレーン)の上に置き,顕微鏡下でCiStentのインレットにインジェクターのトロッカーを穿刺しCiStentを再装着する方法(図2d)に変更した.以後は症例C2.5の全症例においてインジェクターへの再装着に成功し,iStentの再挿入にも成功した.術後の角膜内皮細胞減少数は平均C243.4±154.5/mm2(9.4%)で,当院でCiStentSaverを使用しなかった同手術症例の平均C244.8±194.2(6.8%)と有意差はなかった(t-test).また,iStentSaverの使用症例において,角膜内皮機能障害による角膜混濁などの重篤な術後合併症は認められなかった.あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022819d図2iStentSaverの使用法(模型眼)とiStentの再装着方法a:カテーテルの先端をCiStentに近づける.Cb:カテーテル内へCiStent(.)を吸引.Cc:血液(ここではCICG)とともにiStent(.)を吸引する.Cd:iStentをドレーンの上に置いて,トロッカーで再装着する.表1iStentSaverの使用結果角膜内皮細胞症例番号iStent回収再装着/使用器具再挿入減少数/mmC2(%)1CSF/液体容器CF270(C10)C2CSS/LASIKドレーンCS425(C18)C3CSS/LASIKドレーンCS292(C10)C4CSS/LASIKドレーンCS230(9)C5CSS/LASIKドレーンCS0(0)III考按iStentCinjectWは,わが国ではC2019年に承認1)されたC2個のステントを有する,従来型のCiStentより強い眼圧下降効果が期待できる第二世代の世界最小サイズの眼内ドレーンデバイスである.すでに安全性や眼圧下降効果につき多くの良好な報告2.6)があり,MIGSのなかでもっとも侵襲が少ない手術として近年,施行数が増加している.一方,従来型iStentのサイズC1CmmのCL字型形状から,サイズC360Cμmに小型化し,形状も弾丸型に変わったため,前房内に脱落したS:success,F:failure.際に見失いやすく,かつ従来型CiStentの鑷子形状のインサーターや硝子体手術用の金属鑷子での把持は著しくむずかしくなった.当院では,2020年C10月からCiStentinject挿入術を開始したが,線維柱帯挿入に失敗した際に,前房内でインジェクターのトロッカーの先端での再装着や硝子体手術用の鑷子を使い,脱落したCiStentの再捕捉を試みた.しかし,金属性のCiStentを損傷する危険や,捕獲できず眼内落下や迷入などの重篤な合併症を起こしかねない事態を経験した.そこで筆者らは,不安定な眼内操作ではなく,脱落したiStentをいったん眼外に回収し,顕微鏡下でインジェクターに再装着する方法が安全ではないかと考えた.その材料として,サイズC360Cμmの金属製CiStentを傷めない柔らかい素材で,内腔C650Cμmの十分な大きさを有するC22CG静脈留置針の外筒チューブカテーテルに着目した.吸引回収する器具として片手で操作がしやすく,白内障手術のハイドロダイセクションで使い慣れているC2.5Cmlのシリンジを選択した.このカテーテルとシリンジを連結した試作品を用いて模型眼で実験(図2)をしたが,カテーテル部分が長過ぎてフロッピーとなり,眼内操作が不安定で困難であった.そこで,カテーテルを角膜径の約C12Cmmにカットして使用したところ,角膜創の通過や眼内での操作が著しく改善した.また,原型と同じ形状のベベル(図1cの枠内)を作らずに垂直にカットしたほうが,鋭な先端で隅角を損傷しないために安全であると考えている.実際の手術において使用したが,模型眼での検証結果と同様に,カテーテルチューブの先端がCiStentと離れていても,近づけてシリンジ内筒を引き吸引をかけるだけで(図2a)iStentが容易にカテーテル内を通過し,シリンジ内腔へ入った(図2b).この操作は片手操作となるため,使用前にシリンジ内筒を前後に動かし動きを滑らかにしておき,力を加減しながら,ゆっくりと内筒を引くことで急激な吸引過剰による前房虚脱が防止できる.静脈留置針のカテーテルは乳白色と透明帯が縦縞模様になっており(図1cの枠内),iStentが通過する様子が透けて確認でききて(図2b)非常に便利であった.また,前房出血に見立てたCICGをiStentに覆い被せた回収実験においても,カテーテルをCICG塊の手前に置き,シリンジ内筒をゆっくり引くと,iStentがICG,OVDとともにカテーテル内を通過し(図2c),シリンジ内へ回収された.カテーテルの内腔が大きくなれば,前房内が過剰吸引により前房虚脱のリスクが高くなるため,22CG静脈留置針のカテーテルがもっともCiStentの回収に適当であると考えている.症例C1はCBSS入りの容器へ回収できたが液体容器内でiStentが帯電したように逃げる動きをしインジェクターへのiStent再装着に失敗し紛失したため,2個目のCiStentの設置ができなかった.後日,眼科用吸水スポンジのCMQAを湿潤させて再装着を試したが,素材が固くトロッカーの先端を損傷したり,MQAの線維が混入してしまうため不適当と判断した.そこで,当院にはCLASIKの設備があるため,LASIKで角膜フラップ下に血液や異物の侵入防止目的で使用するLASIK用スポンジドレーンが柔らかく,線維がないので適当であると考えた.LASIKドレーンは,液体で濡れると柔らかいスポンジ状に膨潤するが,ドレーンの上でCiStentが浸水していると症例C1と同様に流動するので,表面に細かな凹凸ができる程度にCMQAで余分な水分を吸い取ると,トロッカーですくいやすいようにCiStentの向きを変える操作や再装着が確実となる(図2d).また,LASIKドレーンは単価約C290円で安価で入手しやすいうえに,1/2に切っても十分使用可能な大きさがあった.以上より,iStentの再装着にはCLASIKドレーンの使用が有用だと考えている.インジェクターは合計C4回まで発射できるが,インジェクターのトロッカーでCiStentを穿刺したあと,顕微鏡を高拡大にし,インサーションチューブのウィンドウから正しくCiStentが装.されていることを確認したあとにスリーブを被せることが非常に重要である.症例C4では,iStent挿入時に線維柱帯の穿刺部からの逆流出血により視認性が悪くなり,出血を移動させるためにOVDを注入したところ隅角離断を起こした.出血で線維柱帯の同定が困難な場合には,過剰なCOVD注入が隅角に強い圧をかけCSchlemm管を損傷するリスクが高くなるため,まずCiStentSaverで隅角部の出血を吸引除去してから,OVDを置換注入するほうが安全である.今回,iStentSaver使用による角膜内皮障害は認められなかった.外筒カテーテルは滅菌済みで材質はエチレンテトラフルオロエチレンであるので,前房内挿入は問題がないと思われる.過去にも静脈留置針を使用した眼内手術の報告7,8)があるが,安全性についての検証はされておらず,目的以外の使用になる点に留意したい.現在CiStent挿入術は,水晶体再建手術と同時手術のみ健康保険の算定が可能である.そのためCiStentが挿入ができずに白内障単独手術に変更になった場合,その後CiStent挿入術は緑内障手術式として選択できなくなる.患者背景や緑内障病期などを考慮し,従来型のCiStentかCiStentinjectWかの使用選択を術前に十分検討しておくことが重要である.CiStentSaverの有用性をまとめると,1)医療施設で常備している既製品のシリンジ(単価:約C30円)と静脈留置針(単価:約C130円)を使用するため安価,2)静脈留置針のカテーテルをカットしてシリンジに連結するだけの簡便性,3)iStentを傷めずに眼外へ回収できる安全性,4)前房出血の吸引で,線維柱帯の視認性回復にも使用可能,のC4点があげられる.以上より,iStentSaverはCiStentCinjectWのリカバリーに有用な器具である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件基準(第2版).日眼会誌C124:441-443,C20202)GonnermannJ,BertelmannE,PahlitzschMetal:Contra-lateralCeyeCcomparisonCstudyCinCMICSC&MIGS:Trabec-tomeRCvs.CiStentCinjectR.GraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC255:359-365,C20173)HengererCFH,CAu.arthCGU,CRi.elCCCetal:Prospective,Cnon-randomized,C36-monthCstudyCofCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCwithCphacoemulsi.cationCineyeswithvarioustypesofglaucoma.OphthalmolTherC7:405-415,C20184)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C20185)ManningD:Real-worldCcaseCseriesCofCiStentCorCiStentCinjecttrabecularmicro-bypassstentscombinedwithcata-ractsurgery.OphthalmolTherC8:549-561,C20196)LindstromR,SarkisianSR,LewisR:Four-yearoutcomesofCtwoCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaConConeCmedication.CClinOphthalmolC14:71-80,C20207)濱島紅,佐藤孝樹,家久来啓吾ほか:サーフロー外筒を用いた対面通糸法による虹彩離断整復.眼科手術C26:117-120,C20138)上本利世,水木信久:市販の静脈留置針を使用したC27CGシャンデリアイルミネーション挿入法.眼臨紀C2:1084-1085,C2009C***

緑内障患者支援システムACT Pack 導入前後の 緑内障患者通院継続率の変化

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):814.817,2022c緑内障患者支援システムACTPack導入前後の緑内障患者通院継続率の変化髙田幸尚*1住岡孝吉*1田中公子*1,2雑賀司珠也*1*1和歌山県立医科大学視覚病態眼科学*2南和歌山医療センター眼科CTheChangeinGlaucomaPatientsVisitContinuationRateBeforeandAftertheIntroductionofthe“ACTPack”GlaucomaPatientSupportSystemYukihisaTakada1),TakayoshiSumioka1),HirokoTanaka1,2)andShizuyaSaika1)1)DepartmentofOphthalmology,WakayamaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,MinamiWakayamaMedicalCenterC目的:緑内障患者向け通院継続支援システムCAimingforContinuousTreatment(ACT)Pack(参天製薬)の導入前後における緑内障患者の診断からC12カ月間の受診状況に関して検討を行った.症例:2018年C4月.2019年C3月に南和歌山医療センター眼科でCACTPackを用いたC46例C46眼(導入後群)と,2017年C4月.2018年C3月のCACTPackを用いていないC22例(導入前群)を対象とした.連続症例とし,死亡・転居・転院した患者は除外とした.方法:緑内障治療開始C6,12カ月後に受診した割合をCc2検定で比較検討した.また,治療開始C12カ月における治療継続率をKaplan-Mayer法で検討した.通院脱落を死亡としてClog-rank検定で比較した.結果:緑内障治療開始6,12カ月後の受診率は導入前群でC90.9%,77.3%,導入後群でC100%,96.2%でありC12カ月後に有意差があった(p<0.05).また,log-rank検定より,ACTPack導入後のほうが治療開始C12カ月後の生存率は有意に高かった(p<0.05).結論:ACTPack導入により,治療開始C12カ月の時点で治療継続率は高まった.CPurpose:ToCexamineCtheCstatusCofCconsultationCforC12CmonthsCfromCtheCdiagnosisCofCglaucomaCbeforeCandCafterCtheCintroductionCofCtheCAimingCforCContinuousCTreatmentPack(ACTPack).CPatientsandMethods:ThisCstudyinvolved46ACTPackpatientsand22nonACTPackpatientsseenattheMinamiWakayamaMedicalCen-ter.Theproportionsofpatientswhovisitedthehospitalat6and12monthsafterthestartoftreatmentwerecom-paredandexaminedbythec2Ctestineachofthetwogroups.Moreover,thevisitcontinuationrateat12monthswasexaminedusingtheKaplan-Mayermethod,andvisitdropoutswerede.nedasdeathsandcomparedbyuseofthelog-ranktest.Results:Theconsultationratesat6and12monthswere90.9%Cand77.3%,respectively,inthenon-introducedCgroupCand100%Cand96.2%,Crespectively,CinCtheCintroducedgroup(p<0.05).CTheCsurvivalCrateCafterC12CmonthsCwasCsigni.cantlyChigherCinCtheCinductiongroup(p<0.05).CConclusion:TheCintroductionCofCACTCPackincreasedtherateoftreatmentcontinuationat12monthsafterthestartoftreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):814.817,C2022〕Keywords:緑内障,通院継続率,患者支援システム.glaucoma,visitcontinuationrate,patientsupportsystem.はじめに緑内障は進行性の疾患で眼圧下降が唯一エビデンスのある治療であり1),長期にわたる継続した治療が必要な疾患である.しかし,現実には約C4割の患者が治療開始からC1年で治療を中断している2).患者の治療中断を防ぐためには,副作用の少ない点眼薬の選択,正しい緑内障に対する知識の習得,患者のアドヒアランス向上が不可欠である.そこで,医師だけでなく,薬剤師,看護師といった医療従事者が確実な点眼や患者のアドヒアランス向上のために,これまでさまざまな取り組みを行い,成果を報告してきた3.5).また,各医療機関は独自の方法でアドヒアランス向上のために患者教育を行ってきた.〔別刷請求先〕髙田幸尚:〒641-8509和歌山市紀三井寺C811-1和歌山県立医科大学視覚病態眼科学Reprintrequests:YukihisaTakada,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,WakayamaMedicalUniversity,811-1Kimiidera,WakayamaCity641-8509,JAPANC814(118)2017年C4月より参天製薬会社が作成したCDVD・冊子・資料を用いた通院継続を支援するための緑内障患者通院継続支援システムCAimingCforCContinuousCTreatmentPack(ACTPack)をどの医療機関でも使用可能となった.南和歌山医療センター(和歌山県田辺市)では,2018年C4月C1日から緑内障と診断,治療開始した全患者に対してCACTPack導入した.CACTPackは,検査と診療で緑内障と診断された患者向けの「緑内障教育CDVD」,資料「病状の説明」「眼圧記録カード」,帰宅後に患者自身に緑内障についての理解を深めてもらうための資料「あなたの目を守るために」などで構成されている.アドヒアランスと通院継続率向上のためのCACTPack導入による緑内障患者の受診状況を含めた緑内障治療への影響について検討した報告は少ない.クリニックでの導入成果の報告はあるが6),眼科外来担当の看護師を含めたスタッフが他科と兼務で人材配置が一定でない総合病院でのCACTPack導入成果について検討した報告はない.そこで,今回筆者らは総合病院におけるCACTPack導入前と導入後で緑内障患者のC12カ月にわたる通院継続率について検討を行った.CI対象対象は2017年4月1日.2019年3月31日に南和歌山医療センター眼科(和歌山県田辺市)を受診し,緑内障と診断後,点眼加療を開始した連続症例C68例C68眼である.2018年C4月C1日より南和歌山医療センター眼科で緑内障と初めて診断したすべての患者に対してCACTPackを導入しており,ACTPack導入後の症例数はC46例C46眼(以下,導入後群)であった.平均年齢はC74.7C±8.0歳,男女比は男性C28例,女性C18例であった.2018年C4月C1日以前のCACTPackを導入前の症例数はC22例C22眼(以下,導入前群),平均年齢はC77.2C±9.8歳,男女比は男性C12例,女性C10例であった.導入前群と導入後群のC2群間で年齢(studentt検定),男女比(Cc2検定),治療開始時の緑内障点眼薬スコア(Mann-WhitneyU検定),治療開始前の静的視野検査CHumphreyのCMD値(Mann-WhitneyU検定)に統計学的有意差はみられなかった(表1).両眼が検討対象となる症例については対象を左眼に統一した.CII方法1.眼圧変化両群間で緑内障治療開始前,点眼開始C6カ月後,12カ月後の眼圧を対応あるCt検定で比較検討した.C2.通院継続率(1)両群間で緑内障治療開始C6カ月後,12カ月後の通院継続率をCc2検定で比較検討した.(2)緑内障治療開始からC12カ月間における治療継続率を両群間で比較検討した.Kaplan-Mayer法で通院脱落を死亡として生存率を算出し,log-rank検定で比較検討した.診察予定日や検査予定日に受診がなかった場合は通院脱落とし,転居・死亡・転院した症例は除外した.今回の検討はカルテベースの後ろ向き研究であり,南和歌山医療センターの倫理委員会の承認を受けて行った(承認番号C2021-12).CIII結果1.眼圧変化導入前群の緑内障治療開始前,治療開始C6カ月後,12カ月後の眼圧はそれぞれC14.6C±3.0CmmHg,12.9C±2.6CmmHg,C12.4±3.2CmmHgであり,緑内障治療開始前に比して,6カ月後(p<0.05),12カ月後(p<0.01)ともに有意に眼圧の低下がみられた.導入後群では緑内障治療開始前,治療開始C6カ月後,12カ月後の眼圧はそれぞれC15.2C±3.5CmmHg,13.2C±2.9CmmHg,12.9C±3.0CmmHgであり,緑内障治療開始前に比して,6カ月後(p<0.01),12カ月後(p<0.01)ともに有意に眼圧の低下がみられた(図1).表1両群の患者背景導入前群導入後群p値期間.C2018年3月31日2018年4月1日.性別男12例C/女10例男28例C/女18例C0.620§年齢C77.2±9.8歳C74.7±8.0歳C0.298#治療開始時の緑内障点眼薬スコアC1.05±0.21点C1.02±0.15点C0.875$静的視野検査(平均偏差値)C.5.99±5.52CdBC.6.48±4.74CdBC0.465$§:c2検定,#:Studentt検定,$:Mann-WhitneyU検定.******2020眼圧(mmHg)151051510500開始前6カ月後12カ月後開始前6カ月後12カ月後図1ACTPack導入前後の眼圧変化対応あるCt検定*:p<0.05**:p<0.01.n.s.*2.通院継続率(1)導入前群の緑内障治療開始C6カ月後,12カ月後の通院継続率はそれぞれC90.9%,77.3%であり,導入後群の緑内障治療開始C6カ月後,12カ月後の通院継続率はそれぞれ100%,96.2%であった.治療開始C6カ月後では両群間で通院継続率に統計学的有意差はなかったが,治療開始C12カ月後では導入後群で有意に通院継続率が高かった(p<0.05)(図2).(2)緑内障治療開始C12カ月後の生存率は導入後群で有意に高値であった(p<0.05).CIV考察緑内障は長期にわたる継続した治療が必要である.しかし,現実的にはさまざまな要因により治療を中断する患者が少なくない2).治療継続のためには,患者の治療に対する主体性が重要であり,患者が治療内容を理解し,治療に参加することでアドヒアランスが向上すると考えられている.緑内障患者ではアドヒアランス不良により視野障害が重篤化するとの報告もある7).そのため,副作用やアドヒアランスの低下について早期から対応が必要である.緑内障患者のアドヒアランス向上,通院継続率向上のために参天製薬が作成した緑内障患者通院継続支援システムCACTPackがC2017年C4月から全国の医療機関で使用可能となった.ACTPackはCDVDや冊子,資料を用いた緑内障教育と通院継続を支援するシステムである.南和歌山医療センターは常勤眼科医C1名,視能訓練士C1名,固定制ではない外来看護師C1名で診療を行っている総合病院である.ACTPackの運用は具体的には,検査と診療で緑内障と診断したのちに,「緑内障教育CDVD」の視聴(コメディカルと眼科医対応),DVD視聴後の補足説明(眼科医対応),資料「病状の説明」の配布(眼科医対応),「眼圧記録カード」に記載・配布(眼科医対応),次回予約票配布(眼科医対応),帰宅後に患者自身に緑内障についての理解を深めてもらうための資料「あなたの目を守るために」配布(眼科医対応)をして,診察終了としている(図3).CACTPack導入前後で南和歌山医療センターの眼科外来のコメディカルの配置状況は不変であり,ACTPack導入前は緑内障診断と診断した後に,緑内障について口頭で説明し,次回予約表配布して診療終了としていた.検査以外のすべてを眼科医で対応していた.ACTPack導入により「緑内障教育CDVD」の視聴をコメディカルと眼科医が担当することでディスカッションをする機会が生まれ,相互の疾患に対する理解と知識の共有が進むことが期待された.緑内障の治療は,緑内障診療ガイドラインを元に,緑内障と診断後は目標眼圧を設定して,それに向けて点眼薬治療を開始,適宜調整が必要である.今回の検討では,ACTPack導入前後ともに,通院を継続できた症例に限定すると眼圧は治療開始前に比してC6,12カ月後で有意に低下していた.図3ACTPackの内容a:「緑内障教育CDVD」の視聴.Cb:緑内障とその検査について理解を深めるための資料「あなたの目を守るために」.c:「眼圧記録カード」.d:現在の病状を説明するための資料「病状の説明」.このことから,患者の通院を継続させることが重要であることが示唆された.田中らの報告6)では,眼科クリニックでCACTPack導入によって緑内障治療開始からC180日間の通院継続率が向上していた.しかし,今回の検討ではCACTPack導入前後で治療開始C6カ月後の通院継続率に有意差がなかったが,治療開始C12カ月後の通院継続率はCACTPack導入により有意に高値であったことから,長期的な通院継続においてもCACTPackは有効であることが示唆された.Kashiwagiらの報告2)では,治療開始C6カ月後の時点で通院継続率は約C70%,12カ月後の時点で通院継続率は約C60%であったが,今回の検討ではCACTPack導入前でも同報告より通院継続率は高値であったことから地域性など母集団の特性が影響していた可能性がある.今回の検討では,ACTPack導入前で治療開始からC12カ月後の通院継続率はC77.3%であったが,ACTPack導入後ではC96.2%と通院継続率は有意に高値であり,CACTPack導入により,患者の緑内障に対する理解が深まり,通院継続の動機づけとなった可能性もある.CV結論ACTPackの導入の有無にかかわらず,通院継続ができれば眼圧下降がみられたことから通院継続は重要である.既報の眼科クリニックだけではなく総合病院でもCACTCPack導入により通院継続率は向上しており,ACTPackは緑内障診療において有効なツールとなる可能性が示唆された.【利益相反】髙田幸尚,雑賀司珠也:利益相反有興和住岡孝吉,田中公子:利益相反無文献1)CassonCRJ,CChidlowCG,CGoldbergCICetal:De.nitionCofglaucoma:ClinicalCandCexperimentalCconcepts.CClinCExpCOphthalmolC40:341-349,C20122)KashiwagiCT,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmol58:68-74,C20143)谷戸正樹:点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果.あたらしい眼科C35:1675-1678,C20184)石塚友一,川村和美,兵頭明由美ほか:薬剤師と看護師との協働による点眼アドヒアランス向上への取り組み.日病薬誌C51:861-865,C20155)古沢千晶,安田典子,中元兼二ほか:緑内障一日教育入院の実際と効果.あたらしい眼科C23:651-653,C20066)田中敏博,近藤美鈴,渕上あきら:緑内障患者通院継続システム導入による緑内障患者の通院継続率に及ぼす影響.眼科C62:801-807,C20207)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCSCetal:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtech-nique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C2011***

緑内障患者に対する点眼補助具(Just in)の使用感アンケート 調査

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):808.813,2022c緑内障患者に対する点眼補助具(Justin)の使用感アンケート調査江本美佐*1坂本麻里*1曽谷尭之*1高野史生*1村井祐輔*1西庄龍東*1盛崇太朗*1大塚尚美*2髙木泰孝*2堀清貴*2中村誠*1*1神戸大学医学部附属病院眼科*2参天製薬株式会社CAQuestionnaireSurveyontheUsabilityoftheEyeDropAid‘Justin’inPatientswithGlaucomaMisaEmoto1),MariSakamoto1),NoriyukiSotani1),FumioTakano1),YusukeMurai1),RyutoNishisho1),SotaroMori1),NaomiOtsuka2),YasutakaTakagi2),KiyotakaHori2)andMakotoNakamura1)1)DepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital,2)SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.C目的:緑内障患者における点眼補助具CJustinの使用意義の検討.対象および方法:神戸大学医学部附属病院眼科を受診した緑内障患者のうちディンプルボトル製品を使用し自己点眼しているC20歳以上の者が対象.Justin使用後に点眼操作や使用感に関するアンケート調査を行った.結果:登録C74例中C72名を解析.JustinなしでC1滴で点眼できる者(A群)がC53例,2滴以上を要する者(B群)はC19例だった.点眼操作の評価スコアはCJustin使用により全体(p=0.03)およびCA群(p<0.01)で有意に低下し,B群では有意差はないものの増加した.また,Justin使用によりCB群で点眼に必要な滴下数が有意に減少した(p=0.03).結論:Justinは点眼操作に問題がない患者においては点眼操作性を低下させ,点眼困難な患者では点眼操作を向上させる可能性がある.CPurpose:Toinvestigatetheusabilityoftheeyedropaid‘Justin’inpatientswithglaucoma.Methods:Thisstudyinvolvedglaucomapatients(age:≧20years)seenattheGlaucomaClinicoftheDepartmentofOphthalmol-ogy,KobeUniversityHospital,Kobe,Japanwhoself-administereyedropsandwhoansweredaquestionnaireafterusingCJustCin.CResults:OfCtheC72CpatientsCanalyzed,C53CreportedCthatCtheyCcouldCsuccessfullyCself-administerCeyeCdropswiththe.rstdropwithoutusingJustin(GroupA),while19neededmorethantwodropsinordertoprop-erlyapplythemontotheireyes(GroupB).ThescoreevaluatingtheperformanceofeyedropinstillationwithandwithoutJustinwassigni.cantlyhigherwithoutJustininallsubjects(p=0.03)andinGroupA(p<0.01),whileitwasChigher,CalthoughCnotCstatisticallyCsigni.cant,CwithCJustCinCinCGroupCB.CJustCinCdecreasedCtheCnumberCofCeyeCdropswastedinGroupB.Conclusions:Justinmayworseneyedropdeliveryinpatientswhohavenoinstillationproblems,yetmayimproveitinthosewithinstillationdi.culties.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):808.813,C2022〕Keywords:点眼補助具,Justin,緑内障.eyedropaid,Justin,glaucoma.はじめに緑内障の唯一エビデンスのある治療は眼圧下降であり,緑内障患者の多くは,複数の点眼薬による長期の薬物治療が必要となる.しかし,緑内障患者のなかには点眼操作が困難な者が存在し,とくに高齢者でその割合が多いことが報告されている1.8).点眼のしづらさは治療のアドヒアランスを阻害する要因となり,正確に点眼することができなければ,治療効果が得られず緑内障の進行と視機能低下を招く.また,点眼時に容器が眼球周囲に接触している患者や高齢者では,点眼瓶の汚染が高率であることも報告されている9).点眼操作性向上アタッチメントCJustin(参天製薬)(図1)は,ディンプルボトル専用の点眼補助具であり,高齢者や手の震え・手指の障害などで点眼がうまくできない患者が,①点眼容器を睫毛や眼に触れさせることなく点眼できる,②手〔別刷請求先〕坂本麻里:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MariSakamoto,DepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC808(112)が震えても点眼できる,③点眼位置がわかりやすくなることを目指して開発された.本研究では,点眼治療中の緑内障患者において,JustCinにより点眼操作性が向上するかどうかを検討した.CI対象および方法本研究は前向き調査研究,神戸大学と参天製薬の共同研究で,神戸大学倫理委員会の承認の下(承認番号CB200119),大学病院医療情報ネットワーク(UMIN000040646)に登録し「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」およびその他関連規制を遵守して行われた.すべての対象者から文書による同意を取得した.2020年C8月.2020年C11月に神戸大学医学部附属病院眼科を受診した緑内障患者(病型不問)のうち,ディンプルボトル製品をC1種類以上使用し自己点眼をしているC20歳以上の者を対象とした.両眼ともに矯正視力が小数視力C0.1未満の者および,内眼手術後C1カ月未満の者(濾過手術についてはC3カ月未満)は除外した.対象者には通常の緑内障診療時にCJustinとアンケートを配布しCJustinの使用方法を説明,60.120日後の再診日にアンケートを回収した.年齢,性別,1年以内のCHumphrey視野検査の平均偏差(meanCdevia-tion:MD),矯正視力,屈折値,眼圧値,点眼動作に影響を及ぼす既往歴・合併症,使用中の緑内障点眼薬について診療録より情報を取得した.アンケートの集計および統計解析は神戸大学が行った.本研究に使用したCJustinは参天製薬から無償提供を受けた.Justinの形状と使用方法を図1に示す.既存の他の点眼補助具と異なり,Justinには,眼に当てる部分に切り込みがある.点眼時にこの切り込み部から指を挿入し下眼瞼を下に引くことで,確実に結膜.内に点眼することができる.CJustinの使用法は,まずディンプルボトルの蓋をはずしCJustinにセットし(図1a),Justinを眼の周囲に密着させるように押し当て,切り抜き部分から指を入れ(図1b),指で下眼瞼を下に引き点眼する.アンケートの質問項目を表1に示す.本研究の主要評価項目はCJustin装着の有無による点眼操作の評価スコア(質問5)である.評価スコアは,Justin使用の有無で点眼液の眼への入りやすさをC0(点眼しにくい)からC10(点眼しやすい)のC11段階とした.CJustCin使用前・後の評価スコアおよび使用前後の変化量の中央値を算出し,使用前後の評価スコア値に対しCWilcox-on符号付順位検定を行った.統計はCGraphPadPrismver-sion9.0.1(128)(GraphPadCSoftware,USA)およびCMed-CalcCversion20.105(MedCalcSoftware,CBelgium)を用い,両側検定,有意水準C5%とした.目標症例数は,Justin未使用時における点眼操作の評価スコア(0.10)の平均値をC4.0,Justin使用時の平均値を6.0と推定し,Justin使用前後の差をC2.0,標準偏差C5.5と仮定した場合,有意水準C5%,検出力C80%ではC62例が必要図1Justinの形状および使用法a:Justinに点眼容器をセットした状態,Cb:実際に使用している様子..:下眼瞼を指で下に引くための切り抜き部分.表1アンケートの質問事項質問C1Justinを使用する前と後で,何滴目で点眼液がきちんと眼に入ったか質問C2Justinにより点眼容器の先が睫毛や眼に触れる回数が減ったか質問C3Justinにより手が震えて点眼できない回数が減ったか質問C4Justinにより点眼の位置がわかりやすくなったか質問C5Justin使用前後での点眼操作の評価スコア(1C1段階評価)(0:点眼しにくい.10:点眼しやすい)質問C6-1Justinを現在も使用しているか質問C6-2Justinを現在も使用するおもな理由質問C6-3Justinを使用しない理由質問C7Justinを今後も使用したいか質問C8Justinの改善点*実際のアンケートでは患者が理解可能な文言を使用した.表2患者背景年齢(歳)C66.4±11.5性別(男,%)30(C42%)MD(dB)右眼C.10.96±7.58左眼C.10.74±7.28logMAR視力*右眼0.00(C.0.18.C0.22)左眼C.0.08(C.0.18.C0.15)眼圧*(mmHg)右眼12.50(C10.00.C15.00)左眼13.00(C11.00.C15.00)使用点眼数*(本)2.0(C2.00.C3.00)MD:meandeviation,logMAR:theClogarithmCofCtheminimalangleofresolution.平均±標準偏差,*中央値(四分位範囲)*Fisher’sexacttest質問1)Justinなしで点眼に必要な滴下数質問2)Justinで点眼容器が睫毛や眼に触れる回数が減ったか質問3)Justinで手が震えて点眼できない回数が減ったか質問4)Justinで点眼の位置がわかりやすくなったか質問6)現在もJustinを使用しているか質問7)今後もJustinを使用したいかYes改善すればYesNoYes改善NoすればYes図2アンケート(Q1.4,6,7)の回答結果(人)質問C1でCJustinの使用なしでC1滴で点眼できると回答した者をCA群,2滴以上要する者をCB群とした.質問C2.4ではCJustinにより点眼操作が向上した者の割合はCA群に比べCB群に多く,質問C4でその差は有意であった(Fisher正確検定,p=0.03).現在もCJustinを継続使用する者の割合はCB群で有意に多かった(質問6,p=0.03).今後もCJustinを使用したい・改善すれば使用したいと回答した者の割合は両群間で差を認めなかった(質問7).となることから,アンケート未回収を約C10%見込み,70例と設定した.CII結果74例を登録し,同意撤回したC1例とアンケート未回収の1例を除くC72例を解析した.患者背景を表2に示す.72例中C70歳以上の者はC32人(44%)で,点眼操作に影響する既往症・合併症を有する者はいなかった.アンケート結果を図2および表3に示す.質問C1では補助具なしで点眼液がC1滴で眼に入ると答えた者がC53人(74%)と多く,2滴以上を要する者はC19人(26%)だった.1滴で点眼できる群をCA群,2滴以上を要する群をCB群とし,その後の解析を行った.両群間で患者背景に差はなかった(表4).また,質問C1のCJustin使用前後の点眼に必要な滴下数は,中央値(四分位範囲)で全体では使用前C1(1.1.8)滴から使用後C1(1.2)滴に増加し(Wilcoxon符号付順位検定,p=0.02),A群で使用前C1滴から使用後はC1(1.2)滴と増加(p=0.0001),B群ではC2(2.3)滴からC1.5(1.2)滴に減少した(p=0.03)(図3).質問C2のCJustinにより点眼容器の先が睫毛や眼に触れる回数が減った者,質問C3の手が震えて点眼できない回数が減った者は全体では少なかったが,質問C4の点眼の位置がわかりやすくなった者は全体の半数を占めた.群別では,点眼容器の接触が減った者,手が震えて点眼できない回数が減った者,点眼の位置がわかりやすくなった者の割合はいずれもCB群で多く(Fisher正確検定,質問C2:p=0.05,質問3:p=0.06,質問4:p=0.03),B群でより点眼操作が向上していることがわかった.質問C6ではCJustinを現在も使用継続している者の割合はCB群で有意に高かった(p=0.03).質問C7で今後もCJustinを使用したい・改善されれば使用したいと答えた者の割合に両群間で差はなかった.質問C6-2,6-3および質問C8の回答を表3に示す.点眼操作の評価スコア(質問5)の結果を表5に示す.全体ではCJustin使用前後で評価スコアは有意に低下した(p=0.03).群別では,A群で有意に低下し,B群では統計学的に有意ではないものの増加した.また,点眼容器の接触が減った者,手が震えて点眼できない回数が減った者,および点眼の位置がわかりやすくなった者では,評価スコアがCJustin使用で増加した.CIII考按本研究では,対象のC74%がC1滴で正確に点眼できると回答した.Stoneらは緑内障患者C139人の点眼操作を調査し93%の患者が点眼操作に問題ないと回答したものの,ビデオ判定で正確に点眼できた者はC22.31%だったと報告した1).Guptaらの報告では,70人の緑内障患者のうち正確に点眼できたのはわずかC8.5%だった2).また,Naitoらは,本研究と年齢やCMD値が同等の緑内障患者C78例の点眼操作をビデオ判定し,62%が点眼不成功であったと報告している4).本研究でも既報のようにビデオ判定を行えばさらに多くの患者が正確に点眼できていない可能性がある.CJustCinは,前述のように①点眼容器を睫毛や眼に触れさせることなく,②手が震えても点眼でき,③点眼位置がわかりやすくなることをめざして開発された.点眼容器と眼および眼付属器との接触は,既報では対象のC30.76%と高率に報告されている1,2,4).本研究ではCB群で半数以上の患者で接触が減り,一定の効果があると考えられた.また,A群でもC30%が接触が減ったことから,点眼容器の接触は「1滴で点眼できると」回答した患者においても相当数起きていると考えられた.次に,手が震えて点眼できない回数が減ったとの回答は全体としては少なかった.本研究では,点眼操作に影響する全身合併症や手指の異常を有する者はおらず,また,半数以上(54%)がもともと手の震えはないと回答して表3アンケート回答<質問C6-2Justinを現在も使用するおもな理由>うまく点眼液が眼に入るから6人点眼容器が眼の周囲に触れないから5人点眼する位置がわかりやすくなったから5人手が震えていても点眼ができるから1人その他2人<質問C6-3Justinを使用しないおもな理由>点眼容器に取り付けるのが面倒26人使いにくい・持ちにくかった7人補助具を使ってもうまく点眼ができない4人点眼容器に取り付けるのがむずかしい2人その他13人<質問8Justinに期待される改善点>着脱不要にしてほしい大きさを小型化してほしいすべての点眼薬に使用できるようにしてほしい首を垂直に曲げなくても使えるようにしてほしい表4患者背景(A群vsB群)A群B群p値年齢(歳C±標準偏差)C65.3±11.2C69.6±11.9C0.161)性別(男,%)22(C41%)8(C42%)C1.002)MD値(dBC±標準偏差)右眼C.9.36±7.40C.13.67±8.74C0.061)左眼C.9.86±6.46C.13.71±8.28C0.071)logMAR視力(四分位範囲)右眼0.00(C.0.18.C0.10)0.10(C0.00.C0.40)C0.073)左眼C.0.08(C.0.18.C0.08)0.00(C.0.08.C0.82)C0.133)眼圧(mmHg,四分位範囲)右眼13.00(C10.25.C15.00)12.00(C9.75.C15.25)C0.363)左眼13.00(C11.00.C16.00)12.50(C10.75.C15.00)C0.833)使用点眼数(本,四分位範囲)2.0(C2.00.C3.00)2.0(C1.00.C3.00)C0.193)MD:meandeviation,logMAR:thelogarithmoftheminimalangleofresolution.中央値(四分位範囲),1)Unpairedttest,2)Fischer’sexacttest,3)Mann-WhitneyU検定.(115)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C811全体A群B群555444滴下数滴下数333p=0.03*2221110使用前0使用後使用前使用後0図3Justin使用前後での滴下数の変化質問C1でCJustin使用なしでC1滴で点眼できると回答した者をCA群,2滴以上要する者をCB群とした.Justin使用前後の点眼に必要な滴下数は,全体で使用前後に有意に増加した(Wilcoxon符号付順位検定,p=0.02).A群でも使用後に有意に増加したが(p=0.0001),B群では有意に低下した(p=0.03).表5Justin使用前後の点眼操作の評価スコアp値1)質問別群使用前スコア使用後スコア(前後)スコア変化量全例8(7.C10)8(5.9)C0.030(.3.1)評価スコア(0:点眼しにくい.10:点眼しやすい)A群(Cn=53)B群(Cn=19)p値2)(AvsB群)9(8.C10)6(4C.3.8)<C0.01C8(5.9)8(5C.3.9)C0.86<C0.01C0.16.1(.4.3.1)1(.1.C2.8)<C0.01点眼容器が睫毛や減った(n=27)8(6.9)9(8.10)C0.081(0.2)減らない(n=45)9(7.5.10)6(2.5.9)<0.01C.2(.5.5.1)眼に触れる回数p値2)(減Cvs減らない)C0.02<0.01<0.01手が震えて点眼減った(n=11)8(7.8)9(8.10)C0.362(.2.3)減らない(n=61)9(7.10)7(3.5.9)<0.01C.1(.4.5.1)できない回数p値2)(減Cvs減らない)C0.07C0.04C0.02C点眼の位置がわかりYes(n=36)8(6.3.9)9(8.10)C0.021(0.2)No(n=36)9(8.10)5(1.3.8)<0.01C.3(.6.C.0.2)やすくなったかp値2)(YesvsNo)C0.02<0.01<0.01中央値(四分位範囲),1)Wilcoxon符号付順位和検定,2)Mann-WhitneyU検定.いることが影響したと考えられる.最後に,Justinで点眼の位置がわかりやすくなった者は,B群でC74%,全体でも半数を占めた.このことから,Justinの三つの開発目的のうち,点眼の位置がわかりやすくなるという点がもっとも効果的であったと考えられた.CJustCin使用前後の点眼操作の評価スコアは,対象全体およびCA群で有意に低下した.本研究ではCA群が全体の約3/4を占め,A群の結果が全体の結果に影響したと考えられる.JustCinを使用しない理由として「点眼容器に取り付けるのが面倒」という回答がもっとも多く,もともと上手に点眼できる者にとってはむしろ点眼操作が増え評価が低下したと考えられた.一方CB群では,評価スコアはCA群に比べ有意に増加し,点眼に必要な滴下数も使用前より有意に減少した.また,点眼容器の接触が減った,手が震えて点眼できない回数が減った,点眼の位置がわかりやすくなったと回答した者で評価スコアの有意な増加がみられたことから,補助具なしで点眼操作が困難な患者においてCJustinは有用であると考えられた.Newman-Caseyらは,190人の緑内障患者の点眼アドヒアランスを調査し,約C1/5の患者が補助具の使用に興味を示したと報告している3).本研究においても,Justinを今後も使用したい者,改善されれば使用したい者を合わせると半数近い患者が点眼補助具の使用に前向きであり,患者が点眼操作の向上を望んでいることがわかった.Sanchezらは,点眼操作が困難なC50人の緑内障患者に対し点眼補助具の使用意義を検討した.補助具により点眼操作が向上し,対象の94%が補助具使用を好んだと報告している6).Justinについても,点眼操作が困難な患者のみを対象としてさらに検討が必要と考えられた.本研究のClimitationとして,Justinはディンプルボトル製品専用であり,本研究の対象は同製品を使用している者に限られた.そのため,本研究の結果は,神戸大学附属病院眼科で診療中の全緑内障患者の結果を反映しているとはいえない.また,両眼の視力がC0.1より低下した者は除外しており,ロービジョン患者における点眼補助具の有用性についてはさらに検討が必要である.結論として,Justinは点眼操作に問題がない患者においては点眼操作性を低下させるが,点眼にC2滴以上要する患者においては,Justin使用により滴下数の減少と点眼操作の向上がみられ,Justinは有用であると考えられた.利益相反開示:本研究は,参天製薬株式会社からの資金提供により実施された.筆者である大塚尚美,髙木泰孝,堀清貴は参天製薬株式会社の社員である.文献1)StoneJL,RobinAL,NovackGDetal:Anobjectiveeval-uationCofCeyedropCinstillationCinCpatientsCwithCglaucoma.CArchOphthalmolC127:732-736,C20092)GuptaCR,CPatilCB,CShahCBMCetal:EvaluatingCeyeCdropCinstillationCtechniqueCinCglaucomaCpatients.CJCGlaucomaC21:189-192,C20123)Newman-CaseyCPA,CRobinCAL,CBlachleyCTCetal:MostCcommonCbarriersCtoCglaucomaCmedicationadherence:aCcross-sectionalCsurvey.COphthalmologyC122:1308-1316,C20154)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisual.elddefect.PLoSOneC12:e0185874,C20175)NaitoT,YoshikawaK,NamiguchiKetal:Comparisonofsuccessratesineyedropinstillationbetweensittingposi-tionandsupineposition.PLoSOneC13:e0204363,C20186)SanchezCFG,CMansbergerCSL,CKungCYCetal:NovelCeyeCdropCdeliveryCaidCimprovesCoutcomesCandCsatisfaction.COphthalmolGlaucomaC12:4:440-446,C20217)McClellandJF,BodleL,LittleJ-A:Investigationofmedi-cationCadherenceCandCreasonsCforCpoorCadherenceCinCpatientsConClong-termCglaucomaCtreatmentCregimes.CPatientPreferAdherenceC13:431-439,C20198)小長谷百絵,林みつる,いとうたけひこほか:高齢者にとっての点眼容器の使いやすさに関する研究.人間工学C51:441-448,C20159)細田源浩,塚原重雄,岡部忠志:緑内障患者使用中の点眼薬の微生物汚染.あたらしい眼科C11:755-757,C1994***

トラベクレクトミー術後3 日目に眼内炎を生じた1 例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):529.532,2022cトラベクレクトミー術後3日目に眼内炎を生じた1例飯川龍栂野哲哉坂上悠太末武亜紀福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野CACaseofEndophthalmitisthatOccurredontheThirdDayafterTrabeculectomyRyuIikawa,TetsuyaTogano,YutaSakaue,AkiSuetakeandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:トラベクレクトミー術後C3日目に発症した眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例:77歳,男性.慢性眼瞼炎の既往があった左眼の原発開放隅角緑内障に対してトラベクレクトミーを行った.術中,強角膜ブロック作製後の虹彩切除をした際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体を切除した.術翌日からC2日目の所見はとくに異常なかったが,術後C3日目に結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた.細菌性の眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を行ったが所見が急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.術中に採取した前房水からCStaphylococcusaureusが検出され起因菌と考えられた.硝子体手術と抗菌薬投与によって感染は鎮静化したが,濾過胞は瘢痕化し,最終的にはチューブシャント手術を要した.結論:比較的まれとされるトラベクレクトミー術後早期の眼内炎を報告した.本症例では慢性眼瞼炎,硝子体脱出が眼内炎の発症にかかわっていた可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCendophthalmitisCthatCoccurredConCtheCthirdCdayCafterCtrabeculectomy.CCaseReport:AC77-year-oldCmaleCunderwentCtrabeculectomyCinChisCleftCeyeCforCprimaryCopenCangleCglaucoma.CTheCoperatedeyehadahistoryofchronicblepharitis.Duringsurgery,vitreouslossoccurredwheniridectomywasper-formed,andwecuttheprolapsedvitreous.Noabnormal.ndingswereobservedupthrough2dayspostoperative.However,ConCtheCthirdCdayCpostCsurgery,CconjunctivalChyperemia,Chypopyon,CandCvitreousCopacityCwereCobserved.CBacterialCendophthalmitisCwasCsuspected,CandCwasCtreatedCwithCfrequentCadministrationCofCantibioticsCeyeCdrops.CHowever,CtheCconditionCrapidlyCdeteriorated,CsoCvitrectomyCwasCurgentlyCperformed.CStaphylococcusCaureusCwasCdetectedintheaqueoushumor.Althoughvitrectomyandantibioticadministrationsubsidedtheinfection,theblebbecameCscarredCandCeventuallyCrequiredCtubeCshuntCsurgery.CConclusion:ThisCstudyCpresentsCaCrelativelyCrareCcaseofendophthalmitisthatoccurredearlyaftertrabeculectomy.Inthiscase,chronicblepharitisandvitreouspro-lapsemayhavebeenriskfactorsforendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):529.532,C2022〕Keywords:緑内障,トラベクレクトミー,眼内炎,硝子体脱出,眼瞼炎.glaucoma,trabeculectomy,endophthal-mitis,vitreousloss,blepharitis.Cはじめにトラベクレクトミーはもっとも眼圧下降の期待できる緑内障手術の一つとして,国内外で広く施行されている術式である.高い眼圧下降効果の反面,早期の合併症として前房出血,低眼圧,濾過胞漏出,脈絡膜.離,脈絡膜出血,悪性緑内障などがあり,中期から晩期の合併症としては低眼圧の遷延による黄斑症,白内障の進行,濾過胞炎やそれに伴う眼内炎が知られている1).とくに濾過胞炎や眼内炎といった濾過胞関連感染症は,患者の視力予後を大きく左右する合併症の一つで,臨床上大きな問題となる.その頻度をCYamamotoらはC5年の経過で累積発生率はC2.2C±0.5%で,濾過胞漏出の存在と若年であることが濾過胞関連感染症のリスクファクターであると報告している2).濾過胞炎に続発する眼内炎は晩期の合併症として知られているが,トラベクレクトミー術後早期眼内炎の報告は少なく,まれであると考えられる.今回,筆者らはトラベクレクトミー術後C3日目に発症した術後〔別刷請求先〕飯川龍:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野Reprintrequests:RyuIikawa,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-city,Niigata951-8510,JAPANC図1トラベクレクトミー後3日目の前眼部写真前房内に著明な炎症性細胞を認める.図3図1の数時間後の前眼部写真前房蓄膿を認める.早期眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.家族歴:特記事項なし.既往歴:(眼)2005年に左眼,2007年に右眼水晶体再建術,左眼レーザー後.切開術後.(全身)高血圧,前立腺肥大症で内服加療中.現病歴:2007年,Goldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)で右眼眼圧がC20CmmHg,左眼眼圧がC27CmmHgと高値で,左眼にCBjerrum暗点認め,原発開放隅角緑内障の診断で前医にて左眼にラタノプロスト(キサラタン)点眼を開始された.その後,両眼ともC20mmHg以上の眼圧で推移してチモロールマレイン酸塩(チモプトール)を追加された.左眼は適宜点眼を追加するも眼圧はC20CmmHg台前半で推移していた.2018年C1月頃より左眼に眼瞼炎が出現し,ステロイド軟膏を処方されていた.図2トラベクレクトミー後3日目の超音波Bモード画像びまん性の硝子体混濁を認める.2018年C4月頃よりラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤(ザラカム),ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン),リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)点眼下でも左眼眼圧がC30CmmHg台前半まで上昇し,眼圧コントロール不良にてC2018年C6月,当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼がC0.06(1.0C×sph.3.50D(cyl.3.75DAx55°),左眼が0.03(0.4C×sph.3.75D(cylC.2.0DAx105°),眼圧は右眼18mmHg,左眼28mmHg(GAT)であった.前房は深く,清明,両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,左眼はレーザー後.切開術後であった.眼軸長は右眼C26.0Cmm,左眼C25.9Cmmであった.視野はCHum-phrey24-2で右眼の平均偏差(meandeviation:MD)がC.9.47dB,左眼のCMDがC.22.95dB,Humphrey10-2で左眼のMDがC.24.82CdBであった.左眼には慢性眼瞼炎を認めた.CII経過ステロイド緑内障の可能性も考慮し,当科初診時に軟膏を中止した.しかし,その後も眼圧下降が得られず,2018年7月,左眼にトラベクレクレクトミーを施行した.術前,クロルヘキシジン(ステリクロンW液C0.02)で皮膚洗浄を行い,6倍希釈したCPAヨードで結膜.洗浄を行った.手術は輪部基底結膜切開で施行した.強角膜ブロック作製後の虹彩切除の際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体をスプリングハンドル剪刀と吸水性スポンジ(O.S.A;はんだや)で可能な限り切除した.結膜は端々縫合(3針)したあとに連続縫合で閉創し,漏出がないことを確認して手術を終了した.なお,当科では術前や術中の抗菌薬点眼,内服,点滴,術中のヨード製剤などによる術野洗浄はこの当時施行していなかった.術翌日,前房は深く,軽度の炎症細胞を認めた.左眼眼圧はC21CmmHg(GAT)であり,眼球マッサージでC11CmmHgまで下降した.左眼視力は(0.6CpC×sph.4.75D(cyl.2.0DAx110°)であり,眼底透見は良好で,術翌日の所見としてとくに問題はなかった.術翌日より,レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン),トラニラストC0.5%(リザベン)をC1日に各C4回,術後点眼として使用した.術後C2日目も前房炎症は軽度,左眼眼圧はC18CmmHgであり,低眼圧や濾過胞漏出は認めなかった.術後C3日目の午前に,結膜充血,前房内炎症細胞の著明な増加,眼底が透見できないほどの硝子体混濁を認めた(図1,2).濾過胞内には混濁なく,疼痛の自覚はなかった.細菌性の眼内炎を疑い,レボフロキサシン水和物(レボフロキサシン)とセフメノキシム塩酸塩(ベストロン)のC2時間ごと頻回点眼を開始した.しかし,数時間後には前房蓄膿が出現(図3),急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシン,10Cmg)とセフタジジム水和物(モダシン,20mg)を混注したC500Cmlの灌流液を用いて,前房洗浄を行い,続いて硝子体混濁と硝子体腔のフィブリンを除去した.術中の網膜所見としては,全体的に血管が白線化し,少量の網膜出血を認めた.菌塊は認められなかった.術中に採取した前房水と硝子体液の培養を行い,前房水からCStaphylococcusaureusが検出された.硝子体液は培養陰性であった.硝子体手術後は,抗菌薬点眼併用で感染の鎮静化が得られ,術翌日の左眼視力は(0.04C×sph.3.0D)であったが,術後C3カ月の時点で,左眼視力は(0.6C×sph.3.50D(cyl.2.25DAx90°)と改善を認めた.しかし,眼底後極部の血管の白線化は残存,濾過胞は瘢痕化し左眼眼圧C26CmmHg(GAT)まで上昇し,Humphrey10-2のCMDはC.30.22dBに悪化した.最終的に術後C5カ月の時点でCAhmed-FP7(NewWorldMedical)によるチューブシャント手術を要した.CIII考察トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであると考えられる.トラベクレクトミー術後の早期の眼内炎に関しては,症例報告が散見され,Papaconstantinouら3)は術後C10日目の眼内炎,Katzら4)は術翌日の眼内炎,Kuangら5)は術後C2日目の眼内炎を報告している.頻度としてはC0.1.0.2%5,6)程度とされる.一般的に晩期合併症としての眼内炎は菲薄化した濾過胞からの房水漏出濾過胞関連であり,術後早期の眼内炎の原因は術中の汚染と考えられる4).トラベクレクトミー術後早期の眼内炎の起因菌としてはCLactobacil-lus3),b-hemolyticStreptococcus4),Morganellamorganii5),coagulase-negativeStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Streptococcus,Gram-negativeCspecies6)などの報告がある.白内障術後の早期眼内炎に関しては多くがグラム陽性菌で70%がCcoagulase-negativeCStaphylococcus,10%がCStaphy-lococcusaureus,9%がCStreptococcus属,2.2%がCEnterococ-cus属とされ,トラベクレクトミー術後早期においても同様と考えられる7).本症例では慢性の眼瞼炎の存在が,眼内炎のリスクファクターになった可能性がある.白内障術後の眼内炎に関しては,急性または慢性眼瞼炎があると,眼瞼や睫毛が細菌の温床になりリスクが高まるとされる7).早期眼内炎とは異なるが,慢性眼瞼炎はトラベクレクトミー後の濾過胞炎のリスクファクターとされ8),眼瞼炎が感染に関与している可能性は高いと考えられる.眼瞼炎のC47.6%からCStaphylococcusaureusが分離されたとの報告もあり9),本症例では前房水からCStaphylococcusaureusが検出されていることから,起因菌と考えられた.検出菌の薬剤感受性は術後に使用していたレボフロキサシン(LVFX)に対してCS(Susceptible:感受性)であった.術中の硝子体脱出も,眼内炎のリスクになったと考えられる.白内障術後眼内炎に関しては,術中に硝子体脱出があるとC7倍リスクが高くなるという報告がある7).術中に硝子体脱出があった白内障術後眼内炎の起因菌は,症例で検出されたようなグラム陽性菌が多いとされ10),術中の硝子体の汚染が眼内炎の発生率を上げる要因となっている.また,嘉村は白内障手術からの眼内炎発症時期として,CStaphylococcusaureusなどのグラム陽性菌では術後4.7日が多いと報告している11).白内障術後では前房から硝子体,網膜へと感染が進展するのに対して,硝子体術後は細菌が直接硝子体に侵入するため眼内炎の発症期間の平均はC2.3日で白内障手術後の眼内炎よりも早いとされる12).本症例でもこの機序で術後C3日目という比較的早期に眼内炎が生じたと考えられる.Atanassovらはトラベクレクトミー術中の硝子体脱出の頻度はC0.9%と報告している13).トラベクレクトミーでは強度近視,落屑緑内障,トラブルのあった白内障術後などで,術中の硝子体脱出のリスクがある.このような場合は,強角膜ブロックを作製しないCExPRESSなどの術式も検討すべきであるが,本症例はこれらに該当はしなかったため硝子体脱出の原因は不明である.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用についても再考する必要がある.トラベクレクトミー周術期における抗菌薬の使用に関しては決まったガイドラインがないため,各施設・術者によって大きな差がある.荒木らはC34施設C48名にアンケート調査を行い,術前の抗菌薬点眼はC84%,術中の抗菌薬点滴はC70%,術後抗菌薬内服はC68%の医師が施行していると報告している14).当科にてC2018年にC38施設C38名を対象に施行したアンケート調査では,抗菌薬の使用率は術前点眼がC84%(3日前からが最多でC63%),周術期点滴がC58%,周術期内服がC45%であった.術前点眼に関しては同様の結果であったが,抗菌薬の点滴や内服に関してはその有効性や副作用の問題から,昨今は減少傾向にあると考えられる.術中の術野洗浄に関してはC68%の施設でCPA・ヨードまたはイソジンによる洗浄が行われていた.井上らは,白内障術前の患者を対象にしたレボフロキサシン0.5%の術前点眼の期間別の培養陽性率に関して,術前C3日間点眼群は,術前C1日間点眼群やC1時間C1回点眼群に比べて,眼洗浄終了時や,手術終了時の結膜.培養陽性率が有意に低いことを報告しており15),このことからトラベクレクトミーに関しても術前C3日前から点眼している施設・術者が多いものと思われる.また,井上らは術前のイソジン(適応外使用)やCPA・ヨードによる結膜.洗浄で培養陽率が有意に低下することも報告している.内服や点滴と比べて,術前点眼や術中洗浄は副作用や患者の負担も少なく,エビデンスもある減菌方法であると考えられる.CIV結論トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであるが,本症例は慢性眼瞼炎の存在と術中の硝子体脱出が発症にかかわっていた可能性がある.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用に関して定められたガイドラインはなく,施設ごとの差が大きいことから,周術期の抗菌薬の使用方法について再考する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OlayanjuJA,HassanMB,HodgeDOetal:Trabeculecto-my-relatedCcomplicationsCinCOlmstedCCounty,CMinnesota,C1985CthroughC2010.CJAMACOphthalmolC133:574-580,C20152)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20143)PapaconstantinouD,GeorgalasI,KarmirisTetal:Acuteonsetlactobacillusendophthalmitisaftertrabeculectomy:Cacasereport.JMedCaseRepC4:203,C20104)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:ComplicationsofsurgeryinCglaucoma.CEarlyCandClateCbacterialCendophthalmitisCfol-lowingCglaucomaC.lteringCsurgery.COphthalmologyC92:C959-963,C19855)EifrigCCW,CFlynnCHWCJr,CScottCIUCetal:Acute-onsetpostoperativeCendophthalmitis:reviewCofCincidenceCandCvisualoutcomes(1995-2001)C.COphthalmicCSurgCLasersC33:373-378,C20026)WallinCO,CAl-ahramyCAM,CLundstromCMCetal:Endo-phthalmitisCandCsevereCblebitisCfollowingCtrabeculectomy.CEpidemiologyandriskfactors;asingle-centreretrospec-tivestudy.ActaOphthalmolC92:426-431,C20147)RahmaniCS,CEliottD:PostoperativeCendophthalmitis:ACreviewCofCriskCfactors,Cprophylaxis,Cincidence,Cmicrobiolo-gy,Ctreatment,CandCoutcomes.CSeminCOphthalmolC33:C95-101,C20188)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20159)TeweldemedhinCM,CGebreyesusCH,CAtsbahaCAHCetal:CBacterialpro.leofocularinfections:asystematicreview.BMCOphthalmolC17:212,C201710)LundstromCM,CFrilingCE,CMontanP:RiskCfactorsCforCendophthalmitisCafterCcataractsurgery:PredictorsCforCcausativeCorganismsCandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC41:2410-2416,C201511)嘉村由美:術後眼内炎.眼科C43:1329-1340,C200112)島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント.p14-21,日本医事新報社,201613)AtanassovMA:SurgicalCtreatmentCofCglaucomasCbyCtrabeculectomy-indicationsCandCearlyCresults.CFoliaCMed(Plovdiv)51:24-28,C200914)荒木裕加,本庄恵,石田恭子ほか:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討.臨眼72:809-815,C201815)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C2008***

多施設による緑内障患者の実態調査2020 年度版 ─高齢患者と若年・中年患者─

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):219.225,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年度版─高齢患者と若年・中年患者─藤嶋さくら*1井上賢治*1國松志保*2井上順治*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CASurveyofElderlyandYoung/Middle-AgeGlaucomaPatientsSeenatMultipleInstitutionsin2020SakuraFujishima1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:眼科病院または診療所に通院中の緑内障患者の薬物治療実態を調査し,そのなかから高齢患者と若年・中年患者の相違を検討した.対象および方法:本調査の趣旨に賛同したC78施設にC2020年C3月C8.14日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例を対象とし,患者背景,使用薬剤を調査した.そのなかでC65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分けて比較した.さらにC2016年の前回調査と比較した.結果:薬剤数は高齢患者(1.8C±1.3剤)で若年・中年患者(1.7C±1.2剤)より多かった.単剤例は高齢患者(1,431例)と若年・中年患者(772例)でともにプロスタグランジン(PG)関連薬が最多だった.2剤例は高齢患者(815例)と若年・中年患者(402例)でともにCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が最多だった.前回調査と比べてC2剤例で配合剤が増加し,PG関連薬+b(ab)遮断薬が減少した.結論:高齢患者と若年・中年患者の薬物治療は似ていた.単剤例はCPG関連薬,2剤例ではPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が多く使用されていた.CPurpose:Toinvestigateage-relateddi.erencesinmedicationsusedandtherapiesadministeredinglaucomapatientsseenatmultipleinstitutions.Subjectsandmethods:Inthisstudy,weinvestigatedandcomparedpatientbackgroundCandCmedicationsCadministeredCinC5,303CpatientsCwithCglaucomaCandCocularChypertensionCdividedCintoCtwoCagegroups[elderly:≧65Cyearsold(n=3,534patients);young/middle-age:<65Cyearsold(n=1,769patients)]seenat78outpatientclinicsinJapanbetweenMarch8andMarch14,2020.Themedicationsandtypesusedwerecomparedbetweenthetwogroups,andalsocomparedwiththe.ndingsinour2016study.Results:CThemeannumberofmedicationsadministeredintheelderlypatientswasgreaterthanthatintheyoung/middle-agedpatients(i.e.,1.8±1.3vs.1.7±1.2,respectively).Inbothgroups,prostaglandin(PG)-analogswerethedrugsmostCfrequentlyCadministeredCinCtheCpatientsCundergoingCmonotherapy,CwhileCPG-analogs/b-blockersC.xed-combinationwerethedrugsmostfrequentlyadministeredinthe‘multiple-medication’patients.Comparedtothe.ndingsinthe2016study,theuseof.xed-combinationdrugsincreasedinthemultiple-medicationpatients,whiletheCuseCofCPG-analogs+b(ab)-blockersCdecreased.CConclusion:AlthoughCtheCmedicationsCadministeredCinCbothCgroupsweresimilar,PG-analogsandPG-analogs/b-blockers.xed-combination,respectively,werethedrugsmostfrequentlyadministeredinmonotherapyandmultiple-medicationglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):219.225,C2022〕Keywords:緑内障,薬物治療,高齢患者,若年・中年患者,配合剤.glaucoma,medication,elderpatients,youngerormiddleagedpatients,.xedcombinationeyedrops.C〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C219表1参加施設ふじた眼科クリニックえづれ眼科川島眼科鬼怒川眼科医院とやま眼科博愛こばやし眼科いずみ眼科クリニックおおはら眼科さいはく眼科クリニックサンアイ眼科篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科さいき眼科みやざき眼科藤原眼科石井眼科クリニックはしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニックやながわ眼科そが眼科クリニック槇眼科医院ふかさく眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科たじま眼科・形成外科早稲田眼科診療所かさい眼科あおやぎ眼科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通り本郷眼科いなげ眼科やなせ眼科吉田眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニックのだ眼科麻酔科医院えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科みやけ眼科東小金井駅前眼科小川眼科診療所高根台眼科後藤眼科良田眼科谷津駅前あじさい眼科おがわ眼科白金眼科クリニックおおあみ眼科西府ひかり眼科あつみクリニック中山眼科医院だんのうえ眼科クリニックあつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック綱島駅前眼科林眼科医院中沢眼科医院眼科中井医院なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科さいとう眼科さくら眼科・内科立川しんどう眼科ヒルサイド眼科クリニック井上眼科病院町屋駅前眼科図師眼科医院お茶の水・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院西葛西・井上眼科病院うえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック大宮・井上眼科クリニック江本眼科ガキヤ眼科医院札幌・井上眼科クリニックはじめに日本の総人口はC2019年C10月現在C1億C2,617万人である1).2015年頃より総人口は減少を続けている.一方,65歳以上人口はC3,589万人で,総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%である.65歳以上人口と高齢化率は年々増加している.このことから眼科を受診する患者もC65歳以上の高齢者が増加すると予想される.40歳以上を対象として行われた多治見スタディにおいても緑内障の有病率は年齢とともに増加していた2).今後,高齢患者はますます増加し,われわれ眼科医が高齢の緑内障患者を診察する機会も増加することが予想される.緑内障治療の第一選択は点眼薬治療である3).点眼薬には効果と副作用があり,処方する際にはそのバランスを考慮する必要がある.副作用には全身性と眼局所性があり,全身性の副作用では他の疾患を引き起こしたり悪化させたりする危険がある.そこで身体機能が若年・中年者に比べて低下していると考えられる高齢者では使用しづらい.また,眼局所性の副作用ではアドヒアランスが低下する危険がある.近年プロスタグランジン関連薬による眼局所の美容的副作用(眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化)3)が問題になっており,女性や若年患者では使用しづらい状況である.それらを考慮した薬剤順不同・敬称略処方が眼科医によって行われていると考えると,高齢患者と若年・中年患者では使用する薬剤が異なる可能性がある.そこで年齢による緑内障薬物治療の相違を調査する目的で筆者らは緑内障患者の薬物治療の実態調査をC2007年より定期的に行っている4.7).2016年の前回調査4)よりC4年が経過し,さらにその間に眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)とC2種類の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)の合計C3種類の点眼薬が新規に使用可能となった.そこで今回,緑内障薬物治療の実態調査を再度行い,高齢患者と若年・中年患者での使用薬剤の違いを再検討した.さらに前回調査4)の結果と比較することで,経年的変化を検討した.CI対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した眼科病院あるいは眼科診療所C78施設において,2020年C3月C8.14日に行った(表1).この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全員で,1例C1眼を対象とした.総症例数はC5,303例(男性C2,347例,女性C2,956例),年齢はC68.7C±13.1歳(平均C±標準偏差,年齢分布C11.101歳)であった.緑内障の診断と管理は,緑内障診療ガイドライン3)に則り,220あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(88)図1調査票(89)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C221各施設の医師の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.調査施設にあらかじめ調査票(図1)を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤(薬剤濃度は問わない),レーザー治療の既往,緑内障の手術既往を調査した.調査施設からのすべての調査票を井上眼科病院内の集計センターに回収し,集計を行った.なお,前回調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分け,患者背景因子(平均年齢,男女比,緑内障病型,レーザー治療既往,緑内障手術既往)および薬物治療におけるC2群間の相違を検討した(Cc2検定,Mann-Whit-neyU検定).薬剤治療では使用薬剤数,単剤例の薬剤,2剤例の薬剤を調査し,さらにそれぞれの結果をC2016年に行った前回調査の結果4)と比較した(Cc2検定,Mann-WhitneyU検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.全症例での病型は,正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),(狭義)原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(4.2%),小児緑内障C4例(0.1%)などであった.レーザー治療はC220例(4.1%)に行われていた.内訳はレーザー虹彩切開術C151例(68.6%),選択的レーザー線維柱帯形成術C68例(30.9%)などであった.緑内障手術はC366例(6.9%)に行われていた.術式は線維柱帯切除術C263例(71.9%),線維柱帯切開術C60例(16.4%),チューブシャント手術C18例(4.9%)などであった.CII結果患者背景は,平均年齢は高齢患者C76.4C±6.8歳,若年・中年患者C53.4C±8.5歳であった(表2).性別は高齢患者が男性1,477例,女性C2,057例で,若年・中年患者の男性C870例,女性C899例に比べて女性の割合が有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).緑内障の病型は原発開放隅角緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障が高齢患者に,正常眼圧緑内障が若年・中年患者に有意に多かった(p<0.001,Cc2検定)(表2).レーザー治療既往症例は高齢患者C189例(5.3%)が若年・中年患者C31例(1.8%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).レーザー治療の内訳は高齢患者ではレーザー周辺虹彩切開術C133例,選択的レーザー線維柱帯形成術C55例など,若年・中年患者ではレーザー周辺虹彩切開術18例,選択的レーザー線維柱帯形成術C13例であった.緑内障手術既往症例は高齢患者がC278例(7.9%)で,若年・中年患者C88例(5.0%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).手術の内訳は高齢患者では線維柱帯切除術C193例,線維柱帯切開術C50例,チューブシャント手術C12例など,若年・中年患者では線維柱帯切除術C70例,線維柱帯切開術10例,チューブシャント手術C6例などであった.平均使用薬剤数は高齢患者がC1.8C±1.3剤で,若年・中年患者のC1.7C±1.2剤に比べて有意に多かった(p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).単剤例の使用薬剤を表3に示す.EP2作動薬は若年・中年患者が高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).2剤例の使用薬剤の組み合わせを図3に示す.もっとも多く使用されていたプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤の内訳は,高齢者(304例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C118例(38.8%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C103例(33.9%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C42例(13.8%),トラボプロスト/チモロール配合点眼薬C41例(13.5%)であった.若年・中年患者(217例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C86例(39.6%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C64例(29.5%),トラボプロスト/チモロ表2患者背景年齢C男女比病型正常眼圧緑内障原発開放隅角緑内障続発緑内障原発閉塞隅角緑内障高眼圧症小児緑内障レーザー既往症例緑内障手術既往症例高齢患者3,534例76.4±6.8歳C1,477:C2,0571,678例(C47.5%)1,148例(C32.5%)331例(C9.4%)199例(C5.6%)177例(C5.0%)0例(0C.0%)189例(C5.3%)278例(C7.9%)若年・中年患者1,769例53.4±8.5歳870:C8991,032例(C58.3%)490例(C27.7%)C104例(C5.9%)26例(1C.5%)109例(C6.2%)C4例(0C.2%)C31例(1C.8%)88例(5C.0%)p値<C0.0001<C0.00010.0004<C0.0001<C0.00010.08190.0124<C0.0001<C0.0001222あたらしい眼科Vol.39,No.2,2C022(90)4剤271例7.7%高齢患者(3,534例)5剤6剤116例25例3.3%0.7%平均1.8±1.3剤*若年・中年患者(1,769例)5剤6剤4剤120例44例2.5%9例0.5%7剤1例0.1%6.8%*p<0.05平均1.7±1.2剤*図2使用薬剤数表3使用薬剤内訳(単剤例)高齢患者若年・中年患者プロスタグランジン関連薬974例68.1%496例64.2%Cb遮断薬314例21.9%172例22.3%Ca2作動薬56例3.9%22例2.8%EP2受容体**45例3.1%**62例8.0%炭酸脱水酵素阻害薬27例1.9%12例1.6%ROCK阻害薬7例0.5%2例0.3%Ca1遮断薬5例0.3%1例0.1%その他3例0.2%5例0.6%合計1,431例772例PG+a265例8.0%CAI/b配合剤96例11.8%PG+b(ab)119例14.6%**p<0.0001(Cc2検定)高齢患者(815例)若年・中年患者(402例)PG+a220例5.0%CAI/b配合剤50例12.4%PG+b(ab)43例10.7%**PG+点眼CAI**PG+点眼CAI121例14.8%22例5.5%**p<0.0001(c2検定)図3使用薬剤(2剤例)(91)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C223ール配合点眼薬C37例(17.1%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C30例(13.8%)であった.2剤例では,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).また,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).今回調査とC2016年の前回調査4)の結果を比較すると,高齢患者では年齢は有意に上昇し(p<0.0001),男女比では男性の割合が有意に増加していたが(p<0.05),若年・中年患者では同等であった.病型は高齢患者では原発開放隅角緑内障が有意に増加し(p<0.001,Cc2検定),原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した(p<0.05,Cc2検定)が,若年・中年患者では同等であった.レーザー治療既往症例は高齢患者では今回調査(5.3%)が前回調査(7.7%)に比べて有意に減少し(p<0.01),若年・中年患者では同等であった.緑内障手術既往症例は高齢患者,若年・中年患者ともに今回調査では同等であった.使用薬剤数は高齢患者では今回調査(1.8C±1.3剤)で前回調査(1.7C±1.2剤)に比べて有意に増加し(p<0.01,Mann-WhitneyU検定),若年・中年患者では同等であった.単剤例は高齢患者では前回調査に比べて有意に減少し(p<0.001,Cc2検定),4剤例は有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者ではC2剤,5剤例は有意に増加した(p<0.0001,Cc2検定).単剤例は高齢患者では前回調査に比べてプロスタグランジン関連薬(p<0.001,Cc2検定)とCa1遮断薬(p<0.05,Cc2検定)が有意に減少し,Ca2作動薬が有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者では同等であった.一方,2剤例では高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が前回調査に比べて有意に増加し(p<0.01,Cc2検定),プロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.0001,Cc2検定).若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.05,Cc2検定).CIII考按患者背景については,今回調査でも前回調査同様に女性の割合が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,これは女性の平均寿命が長いことが一因と考えられる.緑内障病型は高齢患者,若年・中年患者ともに(広義)原発開放隅角緑内障がC80%以上を占め,多治見スタディ2)の結果と同様であった.正常眼圧緑内障が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,緑内障の啓発活動,職場での健康診断,人間ドックによってみつかったケースが多かったと考えられる.レーザー治療既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,レーザー虹彩切開術がとくに多かったことが影響したと考えられる.緑内障手術既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,緑内障罹病期間が長いことがその原因と考えられる.前回調査と比較すると若年・中年患者では患者背景に変化は少なかった.高齢患者では平均年齢が有意に高くなったが,平均寿命の伸長が関与していると考えられる.高齢患者ではレーザー治療既往症例が有意に減少したが,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少したことが関連していると考えられる.高齢患者では使用薬剤数は今回調査では有意に増加したが,その理由としてこのC4年間で従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)と新規の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能になり,それらの点眼薬が追加投与されて多剤併用症例となったことが考えられる.単剤例の使用薬剤は高齢患者と若年・中年患者でほぼ同様であった.EP2作動薬のみが若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,EP2作動薬は従来のプロスタグランジン関連薬で出現する美容的な眼局所副作用が少ないこと8,9)が影響したと考えられる.高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が前回調査に比べて有意に減少したが,Ca2作動薬とCEP2作動薬が増加したことが原因と考えられる.2剤例ではプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多く,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった.高齢者では全身性副作用が出現しやすいCb遮断薬の使用を控えて全身性副作用が出現しにくい炭酸脱水酵素阻害薬を使用したことと,1日C1回点眼のアドヒアランス向上からアドヒアランスが不良と考えられる若年・中年患者にプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が使用されたことの両方が原因と考えられる.さらに2017年より使用可能となったラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤のなかで高齢患者(38.8%),若年・中年患者(39.6%)ともにもっとも多く使用されていた.この配合点眼薬は従来のチモロール点眼薬との配合ではなくカルテオロール点眼薬との配合である.カルテオロール点眼薬がチモロール点眼薬と眼圧下降効果は同等で,安全性はチモロール点眼薬よりも高いことが影響したと考えられる10,11).また,前回調査と比べて高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が有意に減少し,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が有意に増加した.単剤の併用よりも配合剤C1剤のほうがC1日の総点眼回数が少なく,アドヒアランスの面から配合剤が増加したと考えられる.また,若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬と炭酸脱水酵素阻害薬+a2作動薬が有意に減少したが,アドヒアランス向上の面からプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合224あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(92)剤が増加したことが原因と考えられる.今回調査ではC65歳を境にして高齢患者と若年・中年患者に分けたところ高齢患者が若年・中年患者に比べてC2.0倍多かった.もう少し高い年齢で区切って検討したほうがよい可能性がある.また,高齢患者では緑内障の罹病期間が長く,治療が落ちつき同じ点眼薬が継続的に使用されていることも考えられる.一方,年齢的に手術適応ではなく,多剤併用のままアドヒアランスにやや問題があっても継続使用している高齢患者も存在すると考えられる.あるC1回の外来受診時に使用している薬物調査のため,患者個々人の経時的変化が不明なことが今回調査の問題点と考えられる.今回調査はC78施設C5,303例,前回調査4)はC57施設C4,288例で行った.前回調査,今回調査ともに参加した施設はC53施設であった.施設数や症例数も異なるため,両調査を直接的に比較することは妥当性がない可能性も考えられる.前回調査と同一施設,同一患者で調査を行うのが理想だが,現実にはむずかしい.そこで,なるべく多くの施設,多くの症例からデータを集めることで緑内障患者の実態がより判明すると考えて施設や症例を増加させて今回の検討を行った.今回の結果をまとめる.高齢と若年・中年の緑内障患者の薬物治療を比較すると,高齢患者,若年・中年患者ともに単剤例では依然としてプロスタグランジン関連薬が最多だった.2剤例では,高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤がもっとも多かった.配合剤はC2剤例で高齢患者ではC49.6%,若年・中年患者では67.9%の症例で使用されていた.前回調査4)との比較では,使用薬剤数が高齢患者では増加した.単剤例は高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が減少した.2剤例は高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が減少し,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が増加した.今後ますます配合剤や新しい眼圧下降の作用機序を有する点眼薬(EP2作動薬)の使用が増加すると予想される.文献1)内閣府:令和C2年版高齢社会白書(全体版)第C1章高齢化の状況2)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20043)InoueK:ManagingCadverseCe.ectsCofCglaucomaCmedica-tions.ClinOphthalmolC12:903-913,C20144)井上賢治,岡山良子,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C10:627-633,C20175)井上賢治,塩川美菜子,岡山良子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2012年度版:高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C6:869-874,C20136)野崎令恵,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版─高齢患者と若年・中年患者.臨眼C66:495-501,C20127)増本美枝子,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査高齢患者と若年・中年患者.臨眼C63:1897-1903,C20098)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20199)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:Changesinpros-taglandin-associatedCperiobitalCsyndromeCafterCswitchCfromconventionalprostaglandinF2atreatmenttoomide-nepagCisopropylCinC11consecutiveCpatients.CJCGlaucomaC29:326-328,C202010)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC123:129-140,C201611)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C2010C***(93)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C225

ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果 および検査時間の比較

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1221.1228,2021cヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較北川厚子*1清水美智子*1山中麻友美*1堀口剛*2*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofHead-MountedPerimeterandTraditionalFieldAnalyzerAtsukoKitagawa1),MichikoShimizu1),MayumiYamanaka1)andGoHoriguchi2)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,UniversityHospital,KyotoPrefectur-alUniversityofMedicineC目的:ヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)のC24Cplus(1-2)は,24-2の検査点に10-2のC24点を追加し,黄斑部の検査密度を高めたものである.Humphrey視野計による配列C2種(24-2,10-2)との測定結果,測定時間を比較し,その臨床的意義を検討する.対象および方法:2018年C2月.2019年C1月に緑内障患者39例C50眼に対し,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,10-2の計C3種の検査を行い,グローバルインデックスとして標準偏差(MD)とパターン標準偏差(PSD),パターン偏差,トータル偏差,検査時間を比較した.結果:アイモ24Cplus(1-2)とCHumphrey24-2ではCMD値,PSDの差の平均に大きな差はなく,また,級内相関係数はどちらも一致度は高かった.パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24°内,10°内とも高い一致度を示した.検査時間はアイモが統計的に有意に短かった.CPurpose:Theimo24Cplus(1-2)head-mountedautomatedperimeter(CrewtMedicalSystems)adds24CpointsofC10-2CtoCtheCinspectionCpointsCofC24-2CtoCincreaseCtheCinspectionCdensityCofCtheCmacula.CInCthisCstudy,CweCcom-paredthemeasurementresultsandtimesoftheimo24Cplus(1-2)withthetwosequences(24-2and10-2)o.eredbytheHumphreyPerimeter(ZEISS)andexaminedtheirclinicalsigni.cance.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved50eyesof39glaucomapatientsthatwereanalyzedwiththeimo24plusandtheHumphreyPerimeterfromFebruary2018toJanuary2019.Inalleyes,thefollowing3distinctscanpatternswereperformed:1)imoCR24Cplus(1-2)inAIZE-Rapidmode,2)Humphrey24-2inSITAFastmode,and3)Humphrey10-2inSITAFastmode.MeasurementresultswerethencomparedwithrespecttoGlobalIndexMeanDeviation(MD)andPatternStandardDeviation(PSD)C,CasCwellCasCPatternCDeviationCandCscanCtime.CResults:NoCsigni.cantCdi.erencesCwereCfoundCinCtheCaverageCdi.erenceCbetweenCMDCvalueCandCPSDCbetweenCtheCimo24Cplus(1-2)andCHumphreyC24-2Cscans,CandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientChadCaChighCdegreeCofCagreement.CTheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCofCpatternCdeviationCandCtotalCdeviationCshowedCaChighCdegreeCofCagreement,CbothCwithinC24°CandC10°.CConclusion:Althoughmeasurementresultsofthetwoperimeterswerehighlysimilar,astatisticallysigni.cantlyshorterexaminationtimewasobtainedwiththeimo24Cplus(1-2)C.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1221.1228,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,Humphrey10-2.Glaucoma,visual.eld,“imo”24Cplus(1-2)C,HFA24-2,HFA10-2.Cはじめに世界の人口は増加しており,それに伴い緑内障患者も増加緑内障は発見が遅れたり放置されたり,あるいは治療が適し,2020年までにC8億人が緑内障に罹患し,1,120万人が切に行われない場合,失明に至る可能性のある疾患である.失明するといわれている1).〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC日本においてはもともと近視人口の比率は西洋に比べて高かったが2),最近は世界的にも近視人口は増加傾向にある.また,スマートフォンやパソコン,ゲーム機の多用により,若年者の近視化が著明となり警告が発せられており,文部科学省のC2019年度学校保健統計調査によると,裸眼視力C1.0未満の小学生はC5年連続の増加でC34.57%,中学生のC57.47%,高校生のC67.64%といずれも過去最多の割合となっていて,その多くが近視であると考えられる.近視は緑内障発症のリスクファクターであり3),近視眼緑内障の増加も示唆されている.また,高齢者人口の増加に伴い,合わせて緑内障患者の増加が予想される.緑内障の診療においては眼圧・視神経乳頭所見・光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)・視野検査などが必須であるが,なかでも視野検査は緑内障の発見や進行度の判定にきわめて重要な検査である.視野検査は現在もっぱら自動視野計が用いられ,片眼遮閉下に片眼ずつ測定するCHumphreyCfieldanalyzer(HFA)が従来多く用いられてきた.2015年にCHFAの検査配置に加え,オリジナルの検査配置を有し,また両眼開放下に片眼ずつの検査が可能なヘッドマウント型の自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)が開発された4,5).本研究では,緑内障患者に対して行ったアイモによる検査〔24Cplus(1-2)AIZE-Rapid・スタンド型使用,以下Cimoと表記〕とCHFAII-iによる検査(24-2CSITA-Fast/10-2SITA-Fast,以下CHFA24-2/HFA10-2と表記)の結果を比較検討した.検査プログラムは,検査時間の短いCimoAIZE-Rapid,HFASITA-Fastを採用し,疲労による精度低下を軽減した.併せて検査時間についても検討し,imo24Cplus(1-2)の有用性について評価する.CI対象および方法1.対象対象は,①緑内障の通常診療において,2018年C2月C1日.2019年C1月C31日にCimo・HFA2種を行い,すべて正確に検査できた患者,②C3種の視野検査の比較の必要性を説明し,口頭で同意を得られる患者,③年齢がC20歳以上,以上三つの適格基準を満たす患者とした.検査の信頼性についての除外基準は,固視不良C10%以上・偽陽性C15%以上・偽陰性C15%以上とした.固視状態はゲイズトラックにより判定し,また明らかな網脈絡膜病変を有するものは除外した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1565)を得ている.C2.診断機器HFAは白色背景上に白色視標を呈示し,(背景輝度31.5Casb・視標最大輝度C10.000Casb),視標サイズCIIIを用いて片眼遮閉下に検査を行う.HFASITA-StandardのアルゴリズムはCSwedishCinteractivethresholdingCalgorithm法であり,4CdB-2CdBbracketing法による閾値測定を行っている.SITA-FastではC4CdBbracketing(singleCstep)により,検査時間の短縮を図っている.imoはCHFAと同じ条件下で視野検査を行うが,左右眼で独立した光学系を搭載し,被検者の左右各眼に個別に視標を呈示するので,被検者は両眼を開放したまま検査を受けることになる.また,近赤外線カメラで左右の瞳孔をモニターし,眼球追尾する自動補正により,検査時間の短縮や固視ズレの解消を図っている4,5).仮に固視ズレが生じてもC5°以内であれば正確な測定が可能となっている.imoのアルゴリズムはCAIZE〔AmbientCInteractiveZEST(ZippyCEstimationCofSequentialTesting)〕である.AIZEは検査点の結果を周囲の検査点にその結果を反映し閾値決定までの試行回数を低減することで測定時間の短縮を図っている.その影響度は検査点とその他の検査点との距離で重みづけしている.AIZE-Rapidは検査点の結果を隣接点により強く反映させ,さらに収束条件を変更し,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては,追加の刺激を行わないことで検査スピードを上げている.C3.評価imoの検査配置点はCHFAに準じているが,オリジナルのモードとしてC24Cplus(1-2)を有している.24Cplus(1-2)は24-2の検査点(6°間隔)54点に10-2の検査点(2°間隔)24点を加え,黄斑部の検査密度を高めている(図1).imoとCHFA(10-2/24-2)の検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C76個の検査点(図2)ごとの指標としてのパターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC4カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③検査時間(分).C4.統計解析連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるCimoのCHFA24-2に相当する24°内の結果とCHFA24-2の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間(confidenceinterval:CI),および級内相関係数とそのC95%CCIを推定した.また,MDおよびCPSDにおけるCimoとCHFA24-2の関係についてCBland-AltmanCplot7)を作成した.さらに,MDおよびCPSDにおけるCimo全体(10°内とC24°内を含む)の結果とCHFA24-2の結果についても,同様の解析を行った.パターン偏差プロットについて,imoの10°内とHFA10-2,およびimoの24°内とHFA24-2HFA10-2図1imo24plus(1.2)配列図2検査点の番号(右眼)左眼は反転.検査点C71・72はCMariotte盲点.HFA24-2の結果の重み付きカッパ係数を検査点(10°内:全36点,24°内:全52点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,imoのC10°内とCHFA10-2,およびCimoのC24°内とCHFA24-2の結果の級内相関係数を検査点(10°内:全C36点,24°内:全C52点)ごとに算出し,それらの級内相関係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.検査時間については,検査の種類ごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,imoとCHFA10-2およびCimoとCHFA24-2についてそれぞれWilcoxon符号付き順位検定を行った.検定の有意水準は両側5%とした.なお,imoで両眼同時に検査した場合は検査時間をC1/2にすることで調整した.CII結果対象特性は緑内障症例C39例C50眼(右眼C24眼,左眼C26眼),年齢はC46.88歳(中央値:68.0歳),男女比C21人:18人,屈折+2.75D.C.10.00D,乱視C0.5D.2.0D,矯正視力C0.6Cp.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,imo,HFA24-2,HFA10-2の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.5%(1眼Cnotavailable),0.10%,0.10%,偽陽性はC0.8%,0.9%,0.13%,偽陰性はC0.3%,0.14%(2眼Cnotavailable),0.12%と,正確な検査が可能であっ「24°内のimo24plus(1-2)のMD・PSD値」(検査点:52点)「24°内と10°内を含むimo24plus(1-2)のMD・PSD値」と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較(検査点:76点)と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較表1検査順序検査順序人数CimoC→CHFA10-2C→CHFA24-2C14CHFA10-2C→CHFA24-2C→CimoC5CHFA10-2C→CimoC→CHFA24-2C4CHFA24-2C→CHFA10-2C→CimoC3CimoC→CHFA24-2C→CHFA10-2C2(HFAC10-2・imo)C→CHFA24-2C3HFA10-2C→(imo・HFAC24-2)C3imoC→(HFAC10-2・HFAC24-2)C2(HFAC10-2・HFAC24-2)C→CimoC2(imo・HFAC24-2)C→CHFA10-2C1計39人*全C10パターン.()は同日に検査施行.た症例を対象とした.3種の検査の測定順序はさまざまであり,表1に示すとおり「imoC→CHFA10-2C→CHFA24-2」の順序がもっとも多かった.また,同意の得られたC11例では同日にC2種の検査を行った.検査実施の間隔は最短:2カ月,最長:11カ月,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックスimoのC24-2に相当する検査点とCHFA24-2の検査点のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてCimoでは中央値C.5.8(C.10.5.C.2.3)dB,HFA24-2では中央値C.5.3(C.10.6.C.3.1)dBであり,PSDについてCimoでは中央値C6.6(4.1.11.4)dB,HFA24-2では中央値C6.2(2.3.11.0)dBであった.差の平均については,MDでC0.42(95%CCI:C.0.19.1.02)dB,PSDでC1.04(95%CI:0.67.1.42)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97),PSDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97)であり,どちらも一致度は高かった.また,imoの10°内とC24°内を含む全体の検査点とHFA10-2図3MDおよびPSDのBland.Altmanプロットab図4各検査点の一致度a:パターン偏差プロットにおける重み付きカッパ係数,Cb:パターン偏差における級内相関係数.HFA24-2の検査点のCMDおよびCPSDを比較した結果,imo全体についてCMDの中央値はC.5.5(C.10.6.C.2.2)dB,PSDの中央値はC6.2(3.9.11.1)dBであった.差の平均は,MDでC1.15(95%CCI:0.36.1.94)dB,PSDでC0.98(95%CI:0.51.1.44)dB,級内相関係数は,MDでC0.91(95%CI:0.85.0.95),PSDでC0.93(95%CCI:0.88.0.96)であった.MD,PSDともに大きな差はなく,級内相関係数においてはどちらも一致度は高かった.Bland-Altmanプロットを作成した結果,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった(図3).C2.パターン偏差とトータル偏差パターン偏差について,重み付きカッパ係数を算出した結果,10°内でC0.51(95%CCI:0.47.0.56),24°内でC0.66(95%CCI:0.62.0.71)であり,10°内よりもC24°内の一致度のほうが高かった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,10°内に対してそれぞれC0.68(95%CCI:0.60.0.76),0.71(95%CCI:0.63.0.79),24°内に対してそれぞれ0.79(95%CCI:0.77.0.82),0.83(95%CI:0.80.0.85)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,パターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図4a),パターン偏差に対しては級内相関係数(図4b)をそれぞれヒートマップで表した.10°内の特定の検査点において一致度が低かったが,全体としては高い一致度を示した.トータル偏差の一致度はパターン偏差と同程度であったため省略する.検査時間(分)76543imo24plus(1-2)HFA10-2HFA24-2図5各視野計の検査時間3.検査時間検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,imoで中央値C3.62(3.11.4.02)分(検査点:78点),HFA10-2で中央値C4.09(3.37.4.58)分(検査点:68点),HFA24-2で中央値C3.74(3.17.4.88)分(検査点:54点)であり,箱ひげ図を図5に示した.また,検査種類間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,imoとCHFA10-2の比較(Z=.394,p<0.001),およびCimoとCHFA24-2の比較(Z=.331,p<0.001)においてCimoが有意に短かった.CIII考按緑内障の診断に際しては,OCTの普及に伴い視神経乳頭および網膜神経障害の診断が早期に可能となった.また,中等度までの緑内障においては,OCTによる進行の判断も可能であり,OCTと視野検査・眼圧・視神経乳頭所見などを組み合わせることにより,総合的な判断がなされている.ただ,後期緑内障においてはCOCTの有用性は低下し,もっぱら視野検査により進行の有無を判断する.視野検査はC30-2,24-2の静的視野計測が多く選択されているが,DeMoraesらは,24-2検査は緑内障疑い症例・高眼圧症・早期緑内障においてはC10-2検査によって初めて判明する中心視野障害を見逃すことが少なくないと報告している9).わが国で今後さらに増加が懸念される近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることも多く,とくに強度近視を伴う緑内障のC42%に初期から乳頭黄斑線維束欠損を認め,非近視眼緑内障と比較して有意に高率であり,耳下側傍中心暗点も早期から認められる10).また,後期緑内障においては,乳頭黄斑線維束を含む神経線維層欠損の進行に十分な注意を払わなければならない.したがって,10-2検査はきわめて重要であるが,一般的に緑内障患者の視野観察はC1.3回/年であり,24-2あるいはC30-2とC10-2を適切に検査することには制限があり,また同日にC24-2とC10-2検査を行うことは患者の疲労のため正確性に疑問が生じる可能性がある.読書に際して使用される視野の大きさはC4.10°であり,これは日本語ではC10.17文字相当である.中心窩視でまず単語の認知を行い,さらにその周辺を近中心窩視(中心視野5°まで)によって注視し,つまり最初に認知した単語の次の単語に対し,何らかの前処置を行い読書している.通常のスピードで読書ができるためには視野C10°が必要となっている11,12).固視点近傍の視野感度の低下はCqualityCofCvison(QOV)に大きな影響を与えるため,緑内障診療においては10-2の検査の必要性が以前より指摘されている.imoはC1回の検査でC24-2とC10-2を合わせて検査し,10°内ではC36点,読書に必要な半径C5°内においてはC10-2と同様にC16点を検査することから,QOVの管理に有用であると考えられる.今回行ったCHFA24-2と,imo24Cplus(1-2)のCHFA相応点の比較においてはCMD・PSDは差の平均がCMDでC0.42dB,PSDでC1.04CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はMDでC0.95,PSDでC0.95であり,どちらも一致度は高かった.imo全体とCHFA24-2の比較においても差の平均はMDでC1.15CdB,PSDでC0.98CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はCMDでC0.91,PSDでC0.93とどちらも一致度は高かった.また,Bland-Altmanプロットについて,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった.今回のデータではMD値の小さい症例が比較的少なく,偶然Cimoの値が大きくなったのか,あるいはその他の系統的な原因があるのかは判別できないため,この点については今後の検討が必要である.今回の比較検討では重み付けカッパ係数の評価から検査全体としては高度な一致であり,とくに周辺のC24°内は高度な一致であることがわかった.10°内とC5°内は中等度の一致となった.これはC24°内がC6°間隔であることに対し,中心部は2°間隔であり,固視ずれに対する機械差や両眼開放下検査と片眼遮閉下検査による差が考えられる.図6aに一致度の高い例のCimoとCHFAのグレースケール合成イメージを示す.図6bに検査点C51(図2,図4参照)におけるCPDの散布図を示すが,2例でCimoとCHFAの結果に大きな差がみられている.このC2例について図6c①②にそれぞれのCOCT画像とCPD確率プロットの合成図,およびグレースケールを示した.OCTとCPD確率プロットの合成の際には,視野検査とOCTを対応させるため,理論式〔網膜神経節細胞偏心度(mm)=1.29・(視細胞偏心度(mm)+0.046)C0.67〕を用いた14,15).OCTとCPD確率プロットの合成図では,HFAにおいて不一致が認められ,機械差やC10-2検査における片眼遮b図6imoのグレースケールとHFA2種のグレースケール合成図の比較a:一致度の高い例.Cb,c:検査点C51においてCPDの一致度が低かったC2例のグレースケールおよびCOCT画像とPD確率プロットの合成図.閉による固視ずれの可能性が考えられる13).一般的に緑内障患者を長年にわたり診察する場合,その治療の是非はCMDスロープを用いて判断することが多いが,今回の結果よりCimoとCHFAのCMDに大きな差はなく,両者にある程度の互換性の可能性が示唆された.視野検査は高い集中力や緊張を強いることになり,「つらい検査」と捉える患者は少なくない.たとえばCHFASITA-Standardでは,検査時間はC30-2で片眼C7.9分,24-2でC6.8分,SITA-FastではC30-2でC5.7分,24-2でC4.6分の検査時間を要するとされている.今回の研究結果においては,HFA24-2SITA-FastでC3.74(3.17.4.88)分,HFA10-2SITA-FastでC4.09(3.37.4.58)分,imo24Cplus(1-2)AIZE-RapidでC3.62(3.11.4.02)分(片眼)であった.検査点の数はCimo24Cplus(1-2)が78点,HFA10-2がC68点,24-2がC54点であり,imo24Cplus(1-2)ではより多くの検査点を短時間で検査しており,患者の負担を軽減しつつさらに多くの情報を得ることができた.Cimo24plus(1-2)はHFA24-2に加え,10-2の24点を加えた検査点を有し,一度の検査で黄斑部を密に検査し,24-2に相当するCMD値・PSD値はCHFAと大きな差がなく,また両者間のパターン偏差,トータル偏差は一致度が高かった.検査時間はCimoが有意に短かった.以上より,imo24Cplus(1-2)は緑内障の発見,とくに早期より中心C10°内に視野異常のみられる例や今後増加の予想される近視眼緑内障の発見,後期における固視点近傍の詳細な観察に有用であり,また長期にわたる経過観察においても有用であることが示唆された.また,その検査時間の短縮により検査のストレスを軽減することが可能となった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CookCC,CFosterP:EpidemiologyCofglaucoma:whatC’sCnew?CanJOphthalmolC47:223-226,C20122)TokoroT:RefractiveCerrorCandCitsCcorrection.C2ndCed,CKanehara,Tokyo,1991,chap43)SuzukiCY,CYamamotoCT,CAraieCMCetal:TajimiCStudyCreview.CNipponCGankaCGakkaiCZasshiC112:1039-1058,C20084)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCPerimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20165)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20196)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201710)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C201211)懸田孝一:読書時の単語認知過程:眼球運動を指標とした研究の概観.北海道大學文學部紀要C46:155-192,C199812)神部尚武:読みの眼球運動と読みの過程.国立国語研究所報告85:29-66,C198613)WakayamaCA,CMatsumotoCC,CAyatoCYCetal:ComparisonCofCmonocularCsensitivitiesCmeasuredCwithCandCwithoutCocclusionCusingCtheChead-mountedCperimeterCimo.CPLoSCOneC14:e0210691,C201914)江浦真理子,松本長太,橋本茂樹ほか:緑内障眼における黄斑部の各種視野検査とCGCL+IPL厚との対応.近畿大医誌C39:39-48,C201415)SjostrandCJ,CPopovicCZ,CConradiCNCetal:MorphometricCstudyCofCtheCdisplacementCofCretinalCganglionCcellsCsub-servingconeswithinthehumanfovea.GraefesArchClinExpOphthalmolC237:1014-1023,C1999***

緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1109.1113,2021c緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価木下恵*1,2柴谷直樹*1,2宮坂萌菜*1,2大江泰*1,2平野達也*1,2入江慶*3吉水聡*4藤原雅史*4栗本康夫*4室井延之*1,2*1神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部*2神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部*3神戸学院大学薬学部*4神戸市立神戸アイセンター病院眼科CEvaluationofanAmbulatoryPharmacyCarePracticeforGlaucomaPatientsMegumiKinoshita1,2)C,NaokiShibatani1,2)C,MoenaMiyasaka1,2)C,YutakaOe1,2)C,TatsuyaHirano1,2)C,KeiIrie3),SatoruYoshimizu4),MasashiFujihara4),YasuoKurimoto4)andNobuyukiMuroi1,2)1)DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofPharmacy,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)FacultyofPharmaceuticalSciences,KobeGakuinUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,KobeCityEyeHospitalC2019年C11月.2020年C4月に緑内障薬剤師外来で指導を行った患者C22名を対象に,薬剤師介入前後の点眼手技および緑内障点眼薬処方本数の変化,患者への介入事例を検討した.緑内障薬剤師外来における手技指導により「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目で有意な改善を認めた.指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数は1.07本C±0.62からC0.75本C±0.24に有意に減少した.原発閉塞隅角症患者C5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があり中止および代替薬の提案を行った.かかりつけ保険薬局と連携した薬学的介入により,アドヒアランスが向上した症例があった.CInCthisCstudy,CweCcomparedCtheCeyeCdropCprocedureCandCtheCnumberCofCprescribedCeyeCdropsCinCglaucomaCpatientsCbeforeCandCafterCvisitingCourCambulatoryCcareCpharmacyCfromCNovemberC2019CtoCAprilC2020.CWeCalsoCreviewedCpharmaceuticalCinterventionsCforCglaucomaCpatients.CTheCinstructionsCprovidedCbyCourCambulatoryCcareCpharmacyCsigni.cantlyCimprovedCtheCeyeCdropCprocedureCof“doCnotCinstillCmoreCthanC2CdropsCatCaCtime,”andCdecreasedthenumber(meanC±SD)ofprescribedeyedropsfrom1.07±0.62CtoC0.75±0.24.Wefoundthatanticho-linergicCdrugsChadCbeenCprescribedCtoC2CofC5CpatientsCwithCprimaryCangleCclosure,CsoCweCsuggestedCdiscontinuingCthosedrugs.Insomecases,thecollaborativemanagementbetweenhospitalandinsurancepharmacypharmacistsimprovedmedicationadherenceinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1109.1113,C2021〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,薬剤師外来,点眼手技.glaucoma,medicationadherence,ambulatorypharmacycarepractice,eyedroptechnique.Cはじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた治療法は眼圧下降であり,薬物治療が果たす役割は大きい1).しかしながら,緑内障点眼薬による治療は効果自覚の乏しさや手技の煩雑さ,副作用などからアドヒアランスの維持が困難であるといわれている2).アドヒアランスは患者が医療者からの推奨に同意し,服薬や食事療法,生活習慣の見直しを実践することと定義されており3),緑内障治療ではアドヒアランス不良は緑内障の進行に関与する.緑内障患者において,動機づけを重視したコーチングプログラムによりアドヒアランスが向上することが報告されており4),緑内障診療ガイドラインでもアドヒアランス維持には多職種による介入が必要とされていることから,手術が必要となる前段階の外来通院時から病院薬剤師が積極的に介入する意義は大きいと考えられた.そこで,神戸市立神戸アイセンター病院(以下,当院)では眼科医師の指導のもと,緑内〔別刷請求先〕室井延之:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部Reprintrequests:NobuyukiMuroi,Ph.D.,DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2-1-8,Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC障薬剤師外来を開設し,外来患者に対して点眼手技指導や点眼薬による副作用対策の指導を始めた.また,原発閉塞隅角症患者の他院処方薬の確認や,かかりつけ保険薬局薬剤師との情報共有も行い,患者個々に応じたサポートが継続して受けられる体制を構築した.緑内障患者に対するこのような取り組みは過去に報告がなく,本研究では当院緑内障薬剤師外来にて指導を行った患者を対象に薬剤師の介入の有用性について評価した.CI対象および方法1.緑内障薬剤師外来の運用緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由および目標眼圧を記入した「指導依頼箋」を用い,医師からの依頼に基づき実施した(図1a).医師の診察後に外来部門の診察室を使用し,薬剤師が依頼内容に応じた指導を行った.指導内容は,1)医師による緑内障の病態・治療説明の後の再確認,2)緑内障点眼薬の効果効能・用法用量・副作用の説明,3)生理食塩水点眼を用いた点眼手技の説明・練習(補助具の配布なども含む),4)正しい点眼順番の説明(点眼表の交付),5)「お薬手帳」を用いた他院の処方薬確認などで,指導に要する時間は患者C1名当たりC30分程度であった.さらに,患者同意のもと,かかりつけ保険薬局と施設間薬剤情報提供書を用いて指導内容などの情報を共有した(図1b).なお,緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由の問題が解決するまで患者の診察日に合わせて複数回行った.C2.調査期間および対象患者2019年11月1日.2020年4月30日に,当院緑内障薬剤師外来で指導を受けたC22名の患者を対象とした.C3.薬剤師による介入の評価緑内障薬剤師外来への指導依頼理由に応じた以下の項目について,薬剤師による介入を評価した.(1)緑内障点眼薬の手技指導対象患者C22名のうち,緑内障点眼薬を使用しており,かつ対象期間中にC2回以上手技指導を行ったC11名を対象とした.両眼該当例では視力が悪いほうの眼を対象眼とした.点眼手技の評価項目は「十分に後屈する,できない場合は臥位をとる」「点眼瓶の先が睫毛に触れない」「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」「1回C2滴以上点眼しない」「点眼後はa:指導依頼箋b:施設間薬剤情報提供書図1指導依頼箋および施設間薬剤情報提供書表1患者背景・緑内障薬剤師外来への指導依頼理由対象患者数22名年齢中央値(範囲)74.5(C57.C89)歳性別(男性/女性)9名C/13名緑内障点眼薬使用患者数17名1人当たりの緑内障点眼薬の平均使用本数(C±標準偏差)2.8(C±0.8)本指導依頼理由(複数回答)点眼手技不良のため10件眼瞼炎のため10件原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため5件アドヒアランス不良のため3件眼圧コントロール不良のため2件その他2件C静かに眼を閉じる」「眼の周りにあふれた点眼液はふき取る」のC6項目とした.実際に生理食塩水点眼で点眼手技を実施し「できる」と評価された症例数(眼)11てもらったうえで薬剤師が評価し,初回指導前とC2回目来院1098以降の点眼手技を比較した.また,緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数を,緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日7数×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)と定義し,手技指導前後で比較した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認6543対象患者C22名のうち,常用薬確認の依頼があった原発閉21塞隅角症患者C5名を対象に,薬剤師による薬学的介入について評価した.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携対象患者C22名のうち,かかりつけ保険薬局のあったC19名を対象に,施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携による介入事例を評価した.施設間薬剤情報提供書は兵庫県薬剤師会が作成した書式を,眼圧や視野,視力などの情報を記載できる当院独自の書式に改変し使用した.C4.統計学的解析0指導前後の点眼手技の変化の比較にはCMcNemar検定を用いた.また,指導前後の緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数の変化の比較には対応のあるCt検定を使用した.p値5%未満を有意差ありと判定した.C5.倫理的配慮本調査研究は,神戸市立医療センター中央市民病院研究倫理審査委員会から承認を得て実施した(承認番号:ezn200801,承認日:2020年C7月C16日).CII結果1.対象患者の背景対象患者の背景を表1に示した.緑内障薬剤師外来への指導依頼理由は,「点眼手技不良のため」「眼瞼炎のため」が各10件,ついで「原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため」がC5件であった.対象患者のC22名の年齢の中央値はC74.5歳点眼手技の評価項目図2薬剤師介入前後の点眼手技の変化McNemar検定:*p<0.05.n=11(眼).(範囲:57.89歳),男性がC9名,女性がC13名,原発閉塞隅角症患者C5名を除くC17名が緑内障点眼薬を使用していた.C2.薬剤師による介入の評価(1)緑内障点眼薬の手技指導緑内障点眼薬の点眼指導前後における点眼手技の変化を図2に示す.初回指導から介入後の評価までの期間の中央値は64(範囲:37.119)日であった.この期間において「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目に有意な改善を認めた(p=0.041).また,指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数±標準偏差は,1.07C±0.62本からC0.75C±0.24本へと有意に減少した(p=0.048)(図3).表2緑内障薬剤師外来における薬剤師の介入例ゾルピデム(急性閉塞隅角緑内障の患者に禁忌),ヒドロキシジン(緑内障の患者に慎重投与)を頓用使用しており,白内障手症例C1術までC2週間程度使用を控えるよう指導.代替薬としてラメルテオンやスボレキサントを当院主治医に処方提案できることを伝えたが希望せず.白内障手術後,当該薬剤の再開が可能であることを説明した.症例C2抗コリン作用を有する総合感冒薬の使用歴があり,眼圧上昇のリスクを説明するとともに,かかりつけ保険薬局と情報共有を行った.観血的手術あるいはレーザー治療などの予定はなかった.脳梗塞の既往から右手(利き手)に軽度麻痺が残っている患者.薬剤師外来で「点眼薬の容器が硬くてさしにくい」との訴え症例C3があり,実際の手技を確認していると,容器が丸いことが掴みづらい原因になっていることがわかった.かかりつけ保険薬局と情報共有し,同成分で平たい容器の点眼薬に変更した.変更後は「さしやすくなった」と点眼手技も改善した.アドヒアランスは良好だが,点眼手技不良でC1カ月に両眼でC2.3本を使用していた.薬剤師外来で正しい点眼手技の指導を症例C4行ったところ「家でも練習したい」と希望され,かかりつけ保険薬局で準備した人工涙液型点眼薬を購入.手技練習によりC1カ月C1.5本程度まで処方本数も減少した.眼脂を洗い流すために緑内障点眼薬を多量に使用しており,薬剤師外来で正しい使用方法を指導した.患者のこだわりが強症例C5く,複数回の指導を要したが,当院とかかりつけ保険薬局双方で継続してフォローし,1回C1滴を遂行できるようになった.点眼手技改善に伴い眼瞼炎も改善し,本人の治療に対する意欲が上昇した.眼瞼炎があり,以前に主治医から,点眼薬を入浴前に使用するよう指導を受けていた患者.時間が経過し,本人は指導内容症例C6を忘れてしまい,同じ薬剤の処方が長期に継続されていたためかかりつけ保険薬局でも確認が不十分で,眠前使用に戻っていた.薬剤師外来で上記が発覚し,継続した指導が必要であることを情報共有した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認常用薬確認の依頼があったC5名の原発閉塞隅角症患者に対する薬剤師の指導内容および転帰の例を表2に示す.5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があった.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携施設間薬剤情報提供書はかかりつけ保険薬局のあるC19名の患者全員に作成した.多くは緑内障薬剤師外来での指導内C2*1.510.50図3薬剤師介入前後の緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数の変化緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数=緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日数C×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)対応のあるCt検定:*p<0.05.n=11(眼).緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数(本)指導前指導後容やアドヒアランスに関する情報を共有し,かかりつけ保険薬局で再度患者に指導することにより,患者の理解を深めるために使用した.情報共有の内容および転帰の例を表2に示す.かかりつけ保険薬局との連携により,一部の患者においてアドヒアランスが向上した.CIII考察緑内障薬剤師外来では,病院薬剤師が外来緑内障患者に継続して介入し,点眼薬だけでなく内服薬も含めた常用薬全体の管理を行うとともに,かかりつけ保険薬局との連携体制を構築した.この緑内障薬剤師外来による介入は患者個々に対応した内容であり,本研究ではその有用性を評価することを目的とした.指導依頼でもっとも多かった理由は「点眼手技不良」「眼瞼炎」であり,その半数はこれらを組み合わせたものであった.緑内障患者は高齢であることが多く,また緑内障進行による視野狭窄や視野欠損は点眼操作をさらに困難する5).手技の遂行やアドヒアランスに関して患者の自己申告と医療者の評価は一致性が低く6),緑内障薬剤師外来では毎回,対面で生理食塩水点眼を用いて手技確認を行った.点眼手技失敗の理由はさまざまであり,たとえばC1回に何滴も使用する患者には,効果に対する不安感から何滴も使用する場合,滴下した感覚がわからず何滴も使用する場合,眼脂を洗い流すな眼瞼炎に対しステロイド眼軟膏,ヘパリン類似物質クリーム,白色ワセリンの処方があり,処方箋の指示記載だけでは情報症例C7が不十分であったため,使用方法についてかかりつけ保険薬局と詳細な情報共有を行った.指導の結果,患者は混乱なく薬剤を使い分け,眼瞼炎の改善を認めた.ど誤った使用のために何滴も使用する場合などがあり,それぞれに合わせた指導を行う必要があった.多数の滴下により眼周囲にあふれた薬液の不十分なふき取りが眼瞼炎の原因になっていることが多く,手技改善により眼瞼炎改善がみられた患者もいた.このように点眼手技の知識に関する項目は改善しやすい傾向にある一方で,「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」は視野狭窄や視野欠損がある緑内障患者では困難なことが多く,必要に応じて補助具の使用をすすめた.指導を通じて正しい知識をもってもらうと同時に,患者の状況を考慮し,実行可能な方法を薬剤師が患者とともに考え,相談のうえで決定していくことが大切であった.薬剤師介入の前後で緑内障点眼薬の処方本数が有意に減少したことは,手技指導により必要以上に点眼薬を使用していた患者の処方本数が適正化された結果と考えている.なお,今回は片眼で算出したためC1を下まわる数値となったが,開封後の点眼薬の使用期限はC1カ月であることを指導している.原発閉塞隅角症患者において抗コリン薬を代表とする緑内障禁忌薬は眼圧上昇をきたすリスクがある7,8).このような患者に対する薬剤師の介入は,緑内障薬剤師外来開設時,医師より手技指導と同等に強く要望されたものであった.抗コリン作用を有する薬剤には,胃薬や総合感冒薬など日常的にしばしば使用される一般用医薬品も含まれるため,医師だけでなく薬剤師から十分な説明を受けることは発作の事前回避やセルフメディケーション推進に有用であると考える.外来治療が中心となる緑内障患者では,かかりつけ保険薬局の薬剤師もアドヒアランス維持のために重要な役割を担う一方で,患者の真の服薬状況を把握することがむずかしいという実情がある.本研究において,病院薬剤師と保険薬局薬剤師が連携し指導を行うことで緑内障患者のアドヒアランスが向上した事例を認めた.施設間薬剤情報提供書により病院薬剤師から情報提供を行うことは,保険薬局薬剤師による薬学的介入に役立つと考えられた.以上のことから,当院で開設した緑内障薬剤師外来は緑内障患者の点眼手技の改善,抗コリン作用を有する薬剤の適正使用,薬剤師連携によるアドヒアランスの向上に有用であると考えられる.今後,薬剤師がさらなる職能を発揮し,緑内障患者の薬物治療に貢献することが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20182)Newman-CaseyCPA,CRobinCAL,CBlachleyCTCetal:MostCcommonbarrierstoglaucomamedicationadherence.Oph-thalmologyC122:1308-1316,C20153)WorldCHealthOrganization:AdherenceCtoClongCtermtherapies:evidenceforaction.In:YachD(Ed):20034)Newman-CaseyPA,NiziolLM,LeePPetal:TheimpactofCtheCsupport,Ceducate,CempowerCpersonalizedCglaucomaCcoachingCpilotCstudyConCglaucomaCmedicationCadherence.COphthalmolGlaucomaC3:228-237,C20205)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisual.elddefect.PLoSOneC12:e0185874,C20176)OkekeCCO,CQuigleyCHA,CJampelCHDCetal:AdherenceCwithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.TheCTravatanCDosingCAidCstudy.COphthalmologyC116:C191-199,C20097)Nicoar.SD,DamianI:Bilateralsimultaneousacuteangleclosureattacktriggeredbyanover-the-counter.umedi-cation.IntOphthalmolC38:1775-1778,C20188)LaiCJS,CGangwaniRA:Medication-inducedCacuteCangleCclosureattack.HongKongMedJC18:139-145,C2012***

頭低位で行うロボット支援前立腺全摘除術中の眼圧を 測定した1 例

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1105.1108,2021c頭低位で行うロボット支援前立腺全摘除術中の眼圧を測定した1例益田俊*1谷山ゆりえ*1徳毛花菜*1湯浅勇生*1稗田圭介*2木内良明*1*1広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学*2広島大学大学院医系科学研究科腎泌尿器科学CIntraoperativeIntraocularPressureinaGlaucomaPatientUndergoingRobot-AssistedLaparoscopicRadicalProstatectomyintheTrendelenburgPositionShunMasuda1),YurieTaniyama1),KanaTokumo1),YukiYuasa1),KeisukeHieda2)andYoshiakiKiuchi1)1)DepartmentofOpthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,2)DepartmentofUrologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC諸言:前立腺癌に対して頭低位で手術を受けた原発開放隅角緑内障(POAG)の患者の術中眼圧変化を記録したので報告する.症例:69歳,男性.両眼CPOAGに対して点眼治療を行っていた.2019年C6月,前立腺癌に対してロボット支援前立腺全摘除術(RARP)を実施した.頭低位の数時間にわたる手術により術中に眼圧が上昇する可能性があるため,術中の眼圧測定を行った.結果:術前は仰臥位で眼圧は右眼C7mmHg,左眼7mmHgだった.頭低位C26°にした直後,右眼の眼圧はC35mmHgになった.頭低位の角度を約C10°軽減させたところ速やかに眼圧は下降し,眼圧は右眼23mmHg,左眼C28mmHgになったのでこの頭位を維持したままCRARP手術を行った.その後,術中の眼圧は20CmmHg半ばに維持された.結論:RARP手術で頭低位にすると眼圧は急速に上昇した.頭低位を軽度緩めると眼圧上昇は緩徐になった.CPurpose:ToCreportCintraoperativeCintraocularpressure(IOP)changesCinCaCprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)patientCwhoCunderwentCprostateCcancerCsurgeryCwhileCinCtheCTrendelenburgCposition.CCase:ThisCstudyCinvolveda69-year-oldmalewhohadbeentreatedwitheyedropsforPOAGinbotheyesandwhowasscheduledforCrobot-assistedClaparoscopicCradicalprostatectomy(RARP)surgeryCforCprostateCcancerCinCJuneC2019.CDueCtoCconcernsCaboutCincreasedCIOPCduringCtheCseveralChoursCofCsurgeryCwhileCinCtheCTrendelenburgCposition,CIOPCwasCmeasuredCintraoperativelyCwithCaCTono-PenRXL(ReichertCRTechnologies)handheldCtonometer.CResults:InthesupineCposition,CIOPCwasC7CmmHgCODCandC7CmmHgCOS.CImmediatelyCafterCtheCpatientCwasCplacedCatCaC26°Chead-downCangle,CIOPCinChisCrightCeyeCrapidlyCincreasedCtoC35CmmHg.CWhenCtheChead-downCangleCwasCreducedCbyCapproximately10°,theIOPrapidlydecreasedto23mmHgODand28mmHgOS,soRARPsurgerywasperformedwhilemaintainingthatangle.Subsequently,intraoperativeIOPwasmaintainedinthemid.20CmmHgrange.Con-clusion:InCourCcase,CRARPCsurgeryCperformedCinCtheClowCheadCpositionCresultedCinCaCrapidCincreaseCinCIOP,CyetCwhentheanglewasreducedbyapproximately10°,IOPvaluesrapidlydecreasedandremainedconstant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1105.1108,C2021〕Keywords:緑内障,眼圧,頭低位,ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術.glaucoma,intraocularpressure,tren-delenburgposition,robot-assistedlaparoscopicradicalprostatectomy.Cはじめに上強膜静脈圧によって決定される1).上強膜静脈圧が上昇す眼圧は通常座位で測定されるが,体位によっても変動するる仰臥位や頭低位では座位のときと比較して眼圧が上昇し,ことは多く知られている.眼圧は,房水産生量,流出抵抗,とくに頭低位では眼圧上昇幅が大きい2.3).〔別刷請求先〕益田俊:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学講座Reprintrequests:ShunMasuda,DepartmentofOpthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima-shi,Hiroshima731-8551,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(123)C1105近年,泌尿器科におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(robot-assistedClaparoscopicCradicalprostatectomy:RARP)は前立腺癌の標準的な根治治療の一つである.手術支援ロボット(DaVinci,IntuitiveSurgical社)を使用した手術は術者にとってストレスが少なく,複雑で細やかな手術手技を可能としている.また,立体的に術野を観察できるために,通常の内視鏡手術より安全かつ侵襲の少ない手術が可能である.しかし,術中は骨盤腔内の観察を容易にするために患者の頭低位C30.45°に保つ(図1).以前から術中の眼圧が上昇することが報告されている4,5).このたび,前立腺癌に対して頭低位でCRARPを受けた開放隅角緑内障患者の眼圧を手術中に測定したので,結果を報告する.CI症例患者:69歳,男性.図1ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)手術中の体位頭低位で手術を行う.現病歴:両眼開放隅角緑内障に対して点眼治療(ラタノプロスト両眼C1回/日,ブリンゾラミド左眼C2回/日,ブリモニジン左眼C2回/日)を行っていた.左眼はC2018年に選択的線維柱帯形成術の既往がある.2019年C6月,前立腺癌に対してCRARPが施行された.頭低位で数時間にわたる手術で,術中の眼圧上昇が心配されたため,術中の眼圧測定を行った.所見:術前の視力は右眼C0.4(1.2C×sph.3.25(cyl.0.50DAx125°),左眼C0.04(1.0C×sph.6.75(cyl.1.50DCAx70°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C10CmmHgであった.隅角は両眼ともCScheie0,Sha.er4,Pigment0であった.両眼とも軽度の水晶体皮質混濁を伴っていたが眼底の透見性は比較的良好で,右眼のCC/D比はC0.9,下方に網膜視神経線維層欠損と乳頭出血を伴っていた.左眼は小乳頭でのCC/D比はC1.0だった(図2).Humphrey10-2(CarlZeiss)視野検査では右眼に緑内障変化がなかった.左眼には鼻側からの狭窄があった(図3).経過:術中の眼圧測定はすべてCTono-PenXL(Reichert)を用いて仰臥位で行った(図4).本症例の外来受診時の眼圧は右眼C8.13CmmHg,左眼C10.14CmmHgを推移していたが,仰臥位では右眼C20CmmHg,左眼C20CmmHgと高くなっていた.プロポフォールで麻酔導入後,右眼C7mmHg,左眼7mmHgと低くなった.頭低位C26°にしたところ右眼の眼圧がC10CmmHgからC35CmmHgに急上昇した.このとき,左眼の眼圧は測定していない.頭低位をC10°緩和したところ35CmmHgだった右眼の眼圧がC23CmmHgになったため,この角度で手術を行った.その後,術中の眼圧はC20CmmHg前後で一定に保たれていた.手術時間はC5時間C13分,頭低位時間はC4時間C24分だった.図2手術前の眼底写真右眼のCC/D比(cupdisc比)はC0.9で下方に網膜視神経線維層欠損があった.左眼のCC/D比はC1.0だった.1106あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(124)眼圧(mmHg)左眼右眼図3手術前の視野検査(Humphrey10.2)右眼に暗点はなかった.左眼は鼻側からの視野狭窄があった.C4035右眼左眼302520151050覚醒時麻酔頭低位26°頭低位16°頭低位頭低位頭低位終了抜管直後(仰臥位)導入後1時間後2時間後30分後図4術中の眼圧経過頭低位C26°にしたところ右眼眼圧がC10mmHgから35mmHgに急上昇した.頭低位を10°緩和したところ35mmHgだった眼圧がC23mmHgになったため,この角度(16°)で手術を行った.CII考按RARP術中の眼圧経過について報告は多い4.7).しかし,緑内障患者など高眼圧を回避したい患者に対しての明確な指針はない.RARPでは良好な術野を確保し,骨盤腔内の観察を容易にするために,麻酔管理において,気腹や高度の頭低位などの特殊な状況が要求される8).頭低位になると中心静脈圧の上昇に伴い,上強膜静脈圧が上昇し,房水の流出が低下する.また,気腹で二酸化酸素を使用するため血中二酸化炭素分圧(PCACO2)や呼気終末二酸化炭素分圧(ETCOC2)が上昇することで,脈絡膜の血管が拡張し,房水産生が亢進して眼圧が上昇すると説明されている4).眼圧上昇に伴い,緑内障性の視神経障害,視野欠損が進行する可能性はあるが,RARPで緑内障が明らかに進行したという報告はまだない.しかし,眼圧上昇に伴う虚血性視神経炎の発症の報告はあり,一時的な視野欠損の報告から永久的に光覚が消失したという報告まで,症状の程度はさまざまである6,9).視神経乳頭の血流の自己調節能が健全な非緑内障患者においては,眼圧がC40CmmHgに達するまでは脈絡膜(125)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C1107の血流が保たれることが観察されている10).しかし,視神経乳頭の血流の自己調節能が低いとされている緑内障患者は11)視神経乳頭の血流を保持できないために虚血性視神経炎を発症しやすいと考えられる.眼圧がC30.40CmmHgのような高眼圧の患者に遭遇することは少なくない.落屑緑内障や一般の開放隅角緑内障でも高眼圧を示すことがあり,線維柱帯切除術後や流出路再建術後に一過性に高眼圧になることもある.数時間または数日この程度の眼圧が保たれている患者で,緑内障性の視野障害がある患者は多いが,高眼圧による虚血性視神経炎を発症している患者に遭遇することはほとんどない.これらはおそらくRARP手術の場合は頭低位にした際に,急激に高眼圧になることが原因と考えられている5).筆者らは本症例で高眼圧を示した際は前房穿刺を行い,眼圧を下げることを検討していた.術中に患者の頭部があるのは光があまり入らないドレープの下で,上方には精密なDaVinciが動いており,実際は眼圧測定も困難な状態であった.本症例は術者の配慮で頭低位の角度がC10°緩和され,眼圧もC20CmmHg前後に落ち着いた.RARP中に高眼圧を示した場合の対処の指針は定められていない.過去の報告でマンニトールの点滴でCRARP中の高眼圧が軽快し視力視野ともに維持されたという報告がある12).また,手術のC30分前のブリモニジン塩酸塩点眼で術中の眼圧下降を試みたが,有意に眼圧は下降しなかったという報告がある13).本症例の経過や過去の報告から,有効な眼圧下降方法はマンニトールの点滴と頭低位角度の軽減と考えられる.しかし,RARPの術中に尿量を増やすことは手術操作の妨げになる14).日本でCDaVinci手術が最初に認可されたのが前立腺摘除手術であり,DaVinciによる手術件数は増えつつある.現時点では適応が拡大し,子宮の悪性疾患の摘出手術にも適応が拡大された.DaVinci手術を受ける患者は今後増えることが予想される.また,日本の緑内障患者は疫学的にC40歳以上のC20人にC1人といわれている15).高齢社会において緑内障患者がCDaVinci手術を受ける機会は多くなるであろう.頭低位をわずかに軽減するだけで本症例の極端な眼圧の上昇を防ぐことができた.緑内障や虚血性視神経炎の既往がある患者がCDaVinci手術を受ける際は頭低位角度を手術手技に影響がない範囲で緩和させることが望ましいと考える.今後,許容される頭低位のレベルを明らかにするために,泌尿器科医,眼科医による共同の研究が必要と思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)澤口昭:眼圧上昇機序:総論.あたらしい眼科C29:583-588,C20122)GalinCMA,CMclvorCJW,CMagruderGB:In.uenceCofCposi-tionConCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC55:720-723,C19633)JasienCJV,CJonasCJB,CdeCMoraesCCGCetal:IntraocularCpressureriseinsubjectswithandwithoutglaucomadur-ingfourcommonyogapositions.PLoSOneC10:e0144505,C20154)松山薫,藤中和三,鷹取誠:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術中の眼圧の変化.麻酔63:1366-1368,C20145)北村咲子,武智健一,安平あゆみ:緑内障併存症例におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術中の眼圧推移.日臨麻会誌C37:743-747,C20176)TaketaniCY,CMayamaCC,CSuzukiCNCetal:TransientCbutCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCafterCrobot-assistedClaparo-scopicCradicalCprostatectomyCinCdeepCtrendelenburgCposi-tion.PLoSONEC10:e0123361,C20157)HirookaK,UkegawaK,NittaEetal:Thee.ectofsteepTrendelenburgCpositioningConCretinalCstructureCandCfunc-tionCduringCrobotic-assistedClaparoscopicCprocedures.CJOphthalmol:1027397,C20188)山口重樹,大谷太郎,寺島哲二:ロボット支援下前立腺全摘除術の麻酔管理:600例の経験から.獨協医学会雑誌C46:209-215,C20199)WeberCED,CColyerCMH,CLesserCRLCetal:PosteriorCisch-emicopticneuropathyafterminimallyinvasiveprostatec-tomy.JNeuroophthalmolC27:285-287,C200710)PillunatLE,AndersonDR,KnightonRWetal:Autoregu-lationCofChumanCopticCnerveCheadCcirculationCinCresponseCtoCincreasedCintraocularCpressure.CExpCEyeCResC64:737-744,C199711)BataCAM,CFondiCK,CWitkowskaCKJCetal:OpticCnerveCheadCbloodC.owCregulationCduringCchangesCinCarterialCbloodpressureinpatientswithprimaryopen-angleglau-coma.ActaOphthalmolC97:36-41,C201912)LeeCM,CDallasCR,CDanielCCCetal:IntraoperativeCmanage-mentCofCincreasedCintraocularCpressureCinCaCpatientCwithCglaucomaCundergoingCroboticCprostatectomyCinCtheCTren-delenburgposition.AACaseRepC6:19-21,C201613)MathewDJ,GreeneRA,MahsoodYJetal:Preoperativebrimonidinetartrate0.2%doesnotpreventanintraocularpressureCriseCduringCprostatectomyCinCsteepCTrendelen-burgposition.JGlaucomaC27:965-970,C201814)亭島淳,妹尾安子,松原昭郎:ロボット支援手術におけるチーム医療.JapaneseJournalofEndourology27:121-127,C201415)岩瀬愛子:正常眼圧緑内障の疫学,多治見スタディから.あたらしい眼科C20:1343-1349,C2003***C1108あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(126)

ヘッドマウント型自動視野計における2 種のプログラムの検査 結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1090.1096,2021cヘッドマウント型自動視野計における2種のプログラムの検査結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査北川厚子*1堀口剛*2清水美智子*1山中麻友美*1*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofTwoDistinctScanPatternsinaHead-MountedPerimeterandPatient-ReportedOutcomesAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),MichikoShimizu1)andMayumiYamanaka1)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC対象と方法:2019年C1月.2020年C2月にヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)を用いC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)(ともにCAIZE-Rapidモード)の両検査が正確にできた緑内障症例C65例C86眼の平均偏差(MB),パターン標準偏差(PSD),グレースケール,パターン偏差プロット・検査時間を比較した.また,別集団のC188人に検査の「しんどさ」について聞き取り調査を行い,得られた回答を評価した.結果:MDの中央値は24Cplus(1-2),24Cplus(1)で各.3.5,.3.1,PSDはC4.3,4.4であり大きな差はなく,検査点ごとのグレースケールおよびパターン偏差プロットの重み付きカッパ係数は,0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(0.61.0.70)と高い一致度を示した.片眼検査時間は中央値C3.3分,1.8分とC24Cplus(1)が有意に短かった.聞き取り調査では,24Cplus(1)に「しんどい」と回答した割合が低い傾向が示された.CPurpose:Toreportthecomparisonoftwodistinctscanpatternsinahead-mountedperimeterandpatient-reportedoutcomes.SubjectsandMethods:ThisstudyinvolvedtheIMOdataof86eyesof65glaucomapatientscollectedCbetweenCJanuaryC2019CandCFebruaryC2020CviaCaChead-mountedCperimeterCusingCtwoCdistinctCscanCpat-terns:(a)IMO24Cplus(1-2)and(b)IMO24Cplus(1),bothinAIZE-Rapidmode.Measurementresultswerecom-paredCwithCrespectCtoCGlobalCIndex,CgrayscaleCimage,CasCwellCasCpatternCdeviationCplotCandCscanCtime.CResults:CWithrespecttoGlobalIndex,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwoIMOscanpatterns.Measure-mentsCofCtheCgrayscaleCimageCandCpatternCdeviationCplotCforCtheCtwoCIMOCscanCmodesCallCshowedCaCveryChighCdegreeCofCagreement.CMeasurementCtimeCwasCsigni.cantlyCshorterCforCthe24Cplus(1)scan.CConclusions:Nosigni.cantCdi.erencesCwithCrespectCtoCGlobalCIndexCandCgrayscaleCimageCmeasurementsCwereCfoundCbetweenCtheCIMO24Cplus(1-2)andIMO24Cplus(1)scanmodes,yetmeasurementtimewassigni.cantlyshorterfortheIMO24Cplus(1)scan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1090.1096,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),アイモC24Cplus(1),疲れ.glaucoma,visual.eld,imo24Cplus(1-2),imo24Cplus(1),fatigue.Cはじめに野の異常にも注意を払う必要があると考えられる.眼科診療において緑内障をはじめ神経内科・脳神経外科疾従来,視野検査は高い集中や緊張を強いるものであるゆえ患の診断に視野検査はきわめて重要である.また,高齢者にに,それらが困難な患者には敬遠されがちであった.しかよる自動車運転事故の一因として,視力はもちろんのこと視し,機器の開発が進み検査時間の短縮が図れるようにな〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC1090(108)り1.3),患者・検査する側双方に恩恵がもたされるようになってきている.今回,視野検査時間の短縮が可能なヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)4,5)について,そのオリジナルプログラムであるC24plus(1-2)と24Cplus(1)の検査結果を比較した(調査1).また,別集団において,検査の「しんどさ」に関する患者報告アウトカム調査を行った(調査2).両調査の結果から緑内障診療におけるアイモの特徴や有用性を検討した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1782)を得ている.CI調査1の対象および方法1.対象対象は,2019年C1月.2020年C2月にC24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidがともに正確にできた緑内障症例で,期間内に臨床的に明らかな変動のないC65例C86眼である.年齢はC15歳以上,未成年については親の同意を得た.また,固視不良はC20%以内とし,偽陽性・偽陰性が10%以上のもの,また網脈絡膜疾患のあるものは除外した.C2.診断機器2015年にわが国において開発されたアイモ(imo)は,ヘッドマウント型で両眼同時ランダム検査ができる.Hum-phrey自動視野計(HumphreyCFieldAnalyzer:HFA)と同じ条件で視野検査を行うが,プログラムはCHFA同様の30-2,24-2,10-2以外にオリジナルプログラムとして24Cplus(1-2),24Cplus(1)を搭載している.またCAIZE(AmbientInteractiveZippyEstimationofSequentialTest-ing:ZEST)のアルゴリズムを搭載し,検査時間の短縮が図られている.さらに,AIZEに加え検査点の結果を隣接点により強く反映させ,収束条件を変更,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては追加の刺激を行わないことで,検査時間の短縮を図ったCAIZE-Rapidも搭載している.なお,検査はスタンド型で行った.アイモのオリジナル検査配列を図1に示す.24Cplus(1-2)では,6°間隔にC54点,2°間隔にC24点,計C78点を配し,24plus(1)では,30°内の重要な36点を配している.C3.評価24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C36個の検査点ごとの指標としてのグレースケール,パターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC5カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%,4:p<0.5%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③片眼の検査時間(分).C4.統計解析24Cplus(1-2)AIZE-Rapid(以下,AIZE-Rapidを省略する)とC24Cplus(1)AIZE-Rapid(以後CAIZE-Rapidを省略する)の検査結果を比較するために,以下の解析を行った.連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間,および級内相関係数とそのC95%信頼区間を推定した.また,MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の関係につい24plus(1-2)6°間隔54点2°間隔24点>合計78点24plus(1)30°内の重要な36点図1各検査プログラムの配列MD〔24plus(1-2)〕MD〔24plus(1)〕PSD〔24plus(1-2)〕(dB)-(dB)PSD〔24plus(1)〕-MD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-4-25-20-15-10-50Mean(MD〔24plus(1-2)〕,-MD〔24plus(1)〕)(dB)PSD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-42.55.07.510.012.5Mean(PSD〔24plus(1-2)〕,-PSD〔24plus(1)〕)(dB)図2MDおよびPSDのBland.AltmanPlotてCBland-AltmanCplot7)を作成した.グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の重み付きカッパ係数を検査点(共通する全C36点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数の平均および95%信頼区間を推定した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の級内相関係数を検査点(全C36点)ごとに算出し,それらの級内相関係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.片眼の検査時間については,検査プログラムごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,24Cplus(1-2)と24Cplus(1)の検査時間についてCWilcoxon符号付き順位検定を行った.なお,両眼同時ランダム検査の場合,検査時間は両眼の検査時間の足し合わせとなるため,片眼検査同士として比較するためにC1/2に調整した.検定の有意水準は両側0.05とした.II調査1の結果24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の比較に関する対象の特性は,緑内障症例C65例C86眼(右眼C45眼,左眼C41眼),年齢はC15.88歳(中央値:70.9歳),男女比C27人:38人,屈折+3.50D.C.17.00D,乱視C0.25D.4.0D,矯正視力C0.15.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,24Cplus(1-2),24Cplus(1)の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.20%,偽陽性はC0.8%,偽陰性はC0.6%であった.2種の検査の間隔はC0カ月(同一日に検査施行).12カ月であり,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックス24plus(1-2)とC24plus(1)のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてC24Cplus(1-2)では中央値.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)では中央値C.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてC24plus(1-2)では中央値C4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)では中央値C4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均については,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.98(95%信頼区間C0.97.0.99),PSDでC0.93(95%信頼区間C0.90.0.95)であり,どちらも一致度は高かった.Bland-Altmanplotを作成した結果,MD,PSDともに大きな偏りはなかった(図2).C2.検査点ごとの指標グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の重み付きカッパ係数を算出した結果,それぞれC0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(95%信頼区間C0.61.0.70)であった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,それぞれ0.69(95%信頼区間C0.63.0.75),0.80(95%信頼区間C0.76.0.84)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,グレースケールおよびパターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図3a,b),パターン偏差およびトータル偏差に対しては級内相関係数(図3c,d)をそれぞれヒートマップで表した.パターン偏差およびパターン偏差プロットにおいて,一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.C3.検査時間片眼の検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,24Cplus(1-2)で中央値C3.3(2.9.3.8)分(検査点:78点),24plus(1)で中央値C1.8(1.6.2.1)分(検査点:36点)であり,箱ひげ図を図4に示した.また,検査プログラム間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,24Cplus(1)の検査時間が有意に短かった(S=1870.5,p<0.001).a:グレースケール(重み付きカッパ係数)b:パターン偏差プロット(重み付きカッパ係数)c:パターン偏差(級内相関係数)d:トータル偏差(級内相関係数)図3各検査点の一致度重み付きカッパ係数および級内相関係数はC0.C1の範囲で値を取り,1に近いほど一致度が高いことを示す.なお,代表的なC3症例のC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)における各々グレースケール・パターン偏差・Defectcurveを図5に示す.症例C3においてはC24Cplus(1-2)の結果が中心C510°内の情報を詳細に検出している.4III調査2の対象および方法検査時間(分)31.対象患者報告アウトカム調査については,2020年C1月.20202年C6月にC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の視野検査を行い,検査後に口頭で「しんどさ」について聞き取り調査を行った.なお,これは調査C1の対象とは別の集団における調査である.C2.評価患者報告アウトカムは,視野検査をしんどいと感じたか否かのC2値変数および両眼の検査時間(分)を評価した.C3.統計解析患者報告アウトカム調査において,「しんどい」と回答した人の例数とその割合,両眼の検査時間の中央値と四分位範124plus(1-2)24plus(1)n8686図4各検査プログラムの検査時間(片眼)囲を検査プログラムごとに算出した.しんどさと検査時間の関係について検査プログラムごとに帯グラフを作成した.また,しんどさ(2値)と検査プログラムの関連について,年症例1症例2症例3図5症例1,2,3の24plus(1.2)と24plus(1)におけるグレースケール,パターン偏差,およびdefectcurve齢と性別を調整したうえでロジスティック回帰分析を行った.検定の有意水準は両側C0.05とした.すべての統計解析はSASversion9.4を用いて行った.CIV調査2の結果アイモでの検査後,患者報告アウトカム調査をC188人に行った,その対象の特性は,年齢C18.88歳(中央値:71.0歳),男女比C64人:124人であった.内訳は,24Cplus(1-2)で検査を行った人がC54例,24Cplus(1)で検査を行った人が134例であった.そのうち,しんどいと回答した人は24Cplus(1-2)でC14例(25.9%),24Cplus(1)でC11例(8.2%)であった.両眼の検査時間は,24Cplus(1-2)で中央値C6.5(5.4.7.3)分,24Cplus(1)で中央値C3.5(3.0.4.2)分であった.しんどさと検査時間の関係について帯グラフを作成した結果,24Cplus(1-2)よりC24Cplus(1)のほうが検査時間が短い人が多く,それに伴いしんどいと回答した人の割合も24Cplus(1)のほうが低い傾向が示された(図6a,b).また,しんどさを応答変数,検査プログラムを説明変数,年齢および性別を共変量としたロジスティック回帰分析を行った結果,24plus(1-2)に対するC24plus(1)の調整オッズ比は0.26(95%信頼区間:0.10.0.63)であり,有意な関連が認められた(p=0.003,表1).CV考察今回,筆者らは通常の緑内障診療において同一症例にアイモのオリジナルプログラムC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の検査をCAIZE-Rapidで行い,その検査結果を比較検討した.グローバルインデックス(MD,PSD)の比較においては,MDについてC24Cplus(1-2)で中央値C.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)でC.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてはC24plus(1-2)でC4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)でC4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均についても,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数はどちらも一致度が高く,Bland-Altmanplotにおいてもともに大きな偏りはなかった.検査点ごとの指標について,グレースケール・パターン偏差プロットの重み付きカッパ係数,パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の間に一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.次に図5の実際の症例においてグレースケールやCdefectcurve,パターン偏差プロットに類似性がみられるが,症例3のC24plus(1)においては中心C10°内の情報が少なく,24Cplus(1-2)では得られたCqualityCofvision(QOV)に関しての判断が困難である.片眼の検査時間は検査点数の違いから当然ではあるが,24Cplus(1)AIZE-Rapidは短く,片眼中央値C1.8分であり,24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.3分であった.調査C2におけるしんどさ調査の対象C188例については,一致度などの評価はなされていないため,研究限界と考えるが,24Cplus(1)のほうが検査時間が短く,それに伴いしんどいと回答する人の割合も低かった.a:24plus(1-2)100%80%60%40%20%0%2~33~4n01b:24plus(1)5066.773.373.310084.65033.326.726.715.4100%80%60%40%20%0%2~3n33c:全体100%80%60%40%20%0%2~3n333~4633~4644~55~66~77~86131515しんどいしんどくない4~55~66~77~8281000しんどいしんどくない4~55~66~77~834231515しんどいしんどくない8~10検査時間(分)4計548~10検査時間(分)0計1348~10検査時間(分)4計188図6しんどさと検査時間の関係また,188例全例について検査後の「しんどさ」と検査時間との関係を図6cに示す.検査プログラム(24Cplus(1-2),24Cplus(1))の違いにより,検査時間はC2.3分からC8.10分と多岐にわたっているが,時間が長くなるにつれて「しんどい」と回答する割合が増加している.とくにC8分を超えるとC50%の人が「しんどい」と回答した.また片眼遮閉検査(113)表1しんどさと検査プログラムの関連変数調整オッズ比95%信頼区間p値年齢性別男性女性検査プログラム24Cplus(1-2)(R)24Cplus(1)(R)0.980.95.C1.00C0.07710.470.19.C1.17C0.10410.260.10.C0.63C0.003と両眼開放検査について,HFAも経験している症例に「どちらがよいと思うか」の質問に回答の得られたC70名においてC62名C88.6%が「両眼開放検査がよい」と答えた.緑内障診療において視野検査はきわめて重要であるが,元来姿勢の保持や緊張集中の持続を要求される検査であるため,長時間を要した場合患者の疲労が蓄積され,検査の信頼性に疑いが生じる可能性がある9).また,患者のその辛い経験が視野検査を避ける原因となり,患者・医療者の双方にストレスを生じる結果となっている.現在広く行われているCHFAによる検査は,片眼でC24-2CSITACStandard6.8分,24-2CSITACFast4.6分,24-2CSITACFaster2.3.5分(緑内障眼)を要する2).一方,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.4分,24Cplus(1)AIZE-Rapidは約C2分であり,とくにC24Cplus(1-2)はC24-2の検査点に加えてC10°内も密に検査していることから,短時間に多くの情報を得ることができる.QOVに必要なC10°内の密な検査を必要とする近視眼緑内障や中等度以上の進行例は,10-2とC24-2あるいはC30-2両プログラムを検査する必要がある.アイモC24plus(1-2)AIZE-RapidとCHFA24-2SITA-Fast,HFAC10-2CSITA-Fastの比較においてアイモ24plus(1-2)とCHFA24-2のMD値・PSD値の差の平均に大きな差はなく,級内相関係数は一致度が高く,またパターン偏差・トータル偏差の級内相関係数はC24°内・10°内とも高い一致度を示しており,一度の検査で両プログラムを検査するC24Cplus(1-2)は有用である3).また,今後若年者の近視増多が予想されており,視神経乳頭所見・OCTなどで緑内障が疑わしい場合は,早期から視野検査が必要であるが,とくに強度近視眼では初期から乳頭黄斑線維束欠損を認めることも多く,10°内を密に検査するアイモC24Cplus(1-2)は有用であろう10,11).一方,短時間での検査が望まれる人間ドック(眼ドック)・初めての視野検査,また姿勢保持の困難な例・集中や緊張の持続が困難な例・幼少児などにはC24Cplus(1)が適切である.アイモによる両眼同時検査後の患者報告アウトカム調査において,検査は理想的にはC4分以内に終了することが望ましいが,8分以内であればC70%以上の人が「しんどさ」を感あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C109593.990.589.31006.110.79.573.373.35093.990.685.391.3506.126.726.714.79.48.7じない結果となった.アイモはC24Cplus(1-2)においてもほとんどの例がC8分以内に終了しており,検査によるストレスはかなり軽減されている.またC88%以上の人が両眼開放による視野検査が好ましいと回答した.今回の研究により,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-Rapidと24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果に大きな差ははく,患者により検査時間を配慮しつつ適切なプログラムを選択することが可能となった.また,アイモによる視野検査は検査時間の短縮により患者に受け入れられやすくなった.さらに,24Cplus(1)AIZEとCHFA30-2SITA-Standardの比較においても緑内障病期,早期.中期の中年層においてはCMD値・PSD値・VFIの結果によい相関が得られており1),長年にわたる緑内障経過観察において臨床的な判断を行う際,MD値の変動(MDスロープ)に注目するが,HFA・アイモ各々の30-2・24C.2・24plus(1-2)・24plus(1)などのCMD値には,ある程度の互換性の可能性があり,その点からもアイモによる視野検査は緑内障診療において有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24Cplus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科35:1117-1121,C20182)田中健司,水野恵,後藤美紗ほか:Humphrey視野計におけるCSITAStandardとCSITAFasterの比較検討.あたらしい眼科C36:937-941,C20193)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科,印刷中4)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20175)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20176)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)奥山幸子:測定結果の信頼性/測定結果に影響を及ぼす諸因子視野検査とその評価.松本長太(編)中山書店専門医のための眼科診療クオリファイC27:57-65,C201510)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201711)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012***