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初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例

2019年4月30日 火曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(4):533.536,2019c初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例松谷香菜恵*1中倉俊祐*1小林由依*1田淵仁志*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学視覚病態学講座InitialInferiorBaerveldtImplantationforAxenfeld-RiegerSyndrome:ACaseReportKanaeMatsuya1),ShunsukeNakakura1),YuiKobayashi1),CHitoshiTabuchi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC緒言:Axenfeld-Rieger(AR)症候群は,後部胎生環やそれに付着する虹彩の索状物ならびに発達緑内障を認め,全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,精神発達遅滞などを合併する.症例:60歳,女性.平成C28年に両眼の角膜びらんで当院初診となった.完治後右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg,左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.後部胎生環を両眼全周に認め,特異的な顔貌,歯牙の欠損,低身長(103Ccm)からCAR症候群と診断した.抗緑内障点眼薬を両眼に開始するも眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで推移した.強い閉瞼と前頭部の突出,下方視が困難なことから上方での濾過手術は術後管理が困難と判断し,両眼ともに白内障手術とバルベルト(耳下側,毛様溝)挿入術を全身麻酔下で同日施行した.最終診察時(術後C6カ月目),右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14mmHg,左眼眼圧C10CmmHg(iCare)となった.考察:上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.Axenfeld-RiegerCsyndrome(AR)isCanCautosomalCdominantCdiseaseCwhoseCocularCcharacteristicsCareCposteriorCembryotoxonCwithCiridocornealCattachmentCanddevelopmentalCglaucoma(about50%)C.CWeCdiagnosedCaCfemaleCpatientashavinglate-onsetdevelopmentalglaucomaduetoAR,basedonposteriorembryotoxonandnon-ocularfeatures.Becauseofuniquefacialfeatures,mentalretardation,narrowpalpebral.ssureandstrongeyelidclosure,wejudgedtrabeculectomyatasuperotemporalsitetobeunwise.WethereforeconductedinitialinferiorBaerveldtimplantationCwithCcataractCsurgeryCinCbothCeyesCunderCgeneralCanesthesia.CAsCaCresult,CherCintraocularCpressureCdecreasedfrom20-30CmmHgtounder15CmmHg.WesuggestthatinferiorBaerveldtimplantationatinitialsurgeryisabetteroptionforglaucomaduetoARsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):533.536,C2019〕Keywords:緑内障,バルベルトインプラント,Axenfeld-Rieger症候群,後部胎生環.glaucoma,Baerveldtim-plant,Axenfeld-Riegersyndrome,posteriorembryotoxon.CはじめにAxenfeld-Rieger(AR)症候群は神経堤細胞の遊走異常による前眼部間葉異発生の一つとされ,常染色体優性遺伝の形式をとる1.3).眼科的には角膜輪部に後部胎生環や発達緑内障を認め,虹彩低形成,瞳孔変位を認めることもある1.3).全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,心疾患,難聴,精神発達遅滞などを合併する1.3).AR症候群に伴う緑内障の発生頻度は約C50%で,線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),流出路再建術は不向きとされている3,4).今回筆者らはCAR症候群に伴う緑内障に対し,特異な顔貌と強い閉瞼,精神遅滞により下方視が困難なことから,濾過手術は術後管理が困難と判断し,初回からバルベルトインプラ〔別刷請求先〕松谷香菜恵:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:KanaeMatsuya,C.O.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPANCントを両眼ともに耳下側に挿入した症例を報告する.CI症例60歳,女性.家族歴:母親がCAR症候群の疑いあり.姉妹C2人は正常であった.既往歴:2型糖尿病と精神遅滞がある.現痛歴:2016年に原因不明の両眼の角膜びらんで当院紹介となった.角膜びらん完治後右眼視力C0.01(矯正不能),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg(iCare),左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.中心角膜厚は右眼C0.508mm,左眼0.487mm,角膜内皮細胞は右眼2,762個/mmC2,左眼C2,060個/mmC2でCguttataは認めなかった.細隙灯顕微鏡にて,両眼全周に後部胎生環を認め(図1a),特異な顔貌(図1b),歯牙の欠損(図1c),低身長(103Ccm)(図1d),虹彩の菲薄化(図1e)からCAR症候群と診断した.隅角検査では,全周に後部胎生環を認めたがそこに至る虹彩の索状物は認めなかった.眼底所見では,進行した緑内障性視神経症を認めた.視野検査(Goldmann視野)Cabでは湖崎分類で両眼CV-bであった(図2).CII経過トラボプロストC0.004%とブリンゾラミドC1%を両眼に開始するも,眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで数カ月推移した.Goldmann圧平式眼圧計の測定には困難を要したため,reboundtonometer(iCareCorIcarePRO)を用いた.強い閉瞼と前頭部の突出,精神遅滞から下方視が困難なことから,上方での濾過手術は術後管理が困難と判断した.全身麻酔下で両眼ともに超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,ならびにバルベルトインプラント(BaerveldtGlau-comaImplant)(エイエムオー・ジャパン社:BG101-350)挿入術を施行した.瞼裂も狭く,術後管理も考慮し,耳上側ではなく耳下側の毛様溝にチューブを挿入した(図3).バルベルトインプラントはC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC3箇所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.チューブの被覆には強膜反転法を用いた5).図1特異な前眼部ならびに全身形態異常a:両眼全周に後部胎生環(黒矢印)を認めた.瞼裂は狭い.Cb:特異な顔貌.Cc:歯牙の欠損.Cd:低身長(103cm).Ce:虹彩の菲薄化(.).図2Goldmann視野(術前)両眼ともに湖崎分類でCV-bで,著明な視野狭窄を認めた.図3術中ならびに術後前眼部写真上段:術中前眼部写真.瞼裂は狭い.下段:術後の前眼部写真.両眼ともに耳下側から毛様溝に挿入されたバルベルトのチューブ先端が確認できる.両眼ラタノプロスト0.005%(1回/日)術翌日右眼眼圧C23.0CmmHg(icarePRO),左眼眼圧C22.2眼圧(mmHg)353025201510533mmHg(IcarePRO)であった.両眼にラタノプロストC0.005%の点眼を開始した.術後C1週間で両眼ともに眼圧はC11mmHg(IcarePRO)と安定した.術後C2週間からC1カ月で眼圧上昇がみられたが,その後眼圧は安定し最終診察時(術11後C6カ月目),右眼視力C20cm/指数弁(0.01p),左眼視力0眼前/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14CmmHg(iCare),左眼眼圧C10CmmHg(iCare)であった(図4).図4術後眼圧の経過III考察今回筆者らはCAR症候群と診断できた患者に,初回から耳下側にバルベルトを挿入することで良好な眼圧下降を得ることができた.隅角検査で発見できるものを含めると,眼科外来で後部胎生環はC17.9%でみられるという報告もあり6),後部胎生環のみではCARの確定診断にはならないが,家族歴,歯牙の欠損や身体的特徴からCARと診断できた.AR症候群における緑内障発症年齢はC2ピークで,小児か若い成人である4).これまでCAR症候群の小児緑内障に対しては長期間の術後経過を報告したものがあるが,成人ではない4,7).MandalらはCAR症候群C44眼に初回からCtrabeculectomy+trabecu-lotomyもしくはCtrabeculectomyを施行し,術前の眼圧はC27.0±4.8CmmHgから術後C14.8C±3.6CmmHgと有意に低下し,平均下降率はC45.14%であった4).また,Kaplan-Meier生存解析による成功確率(全身麻酔下<16CmmHgCorCGoldmann圧平式<21CmmHg)はC6,7,8,9,10年でそれぞれC88.1%,82.3%,70.5%,56.4%,42.3%で良好であったと報告している.Goniotomyで行ったCRiceら7)は11例19眼のうち,2眼のみ眼圧のコントロールができたと報告している.AR症候群は線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),trab-eculectomyが成人でも向いている可能性が高い.ただ本症例のようにCDeepCseteyeで強い閉瞼をし,下方視が困難な症例の場合,術後のレーザー切糸はかなり困難と術前に予測できる.Changら1)も隅角手術が失敗に終わった場合,下方からのインプラント挿入術がCtrabeculectomyに比べて診察の頻度も少なく,よい選択肢であると述べている.今後長期間の経過観察が必要である.CIV結論上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChangCTC,CSummersCCG,CSchimmentiCLACetal:Axen-feld-RiegerCsyndrome:newCperspectives.CBrCJCOphthal-molC96:318-322,C20122)尾関年則,白井正一郎,馬嶋昭生:Axenfeld-Rieger症候群の臨床像.臨眼C51:1727-1730,C19973)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19834)MandalCAK,CPehereN:Early-onsetCglaucomaCinCAxen-feld-Riegeranomaly:long-termsurgicalresultsandvisu-aloutcome.Eye(Lond)C30:936-942,C20165)藤尾有希,中倉俊祐,野口明日香ほか:強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術.あたらしい眼科C35:957-961,C20186)尾関年則,白井正一郎,佐野雅洋ほか:後部胎生環の臨床的検討.臨眼C48:1095-1098,C19947)RiceNSC:Thesurgicalmanagenmentofcongenitalglau-comas.AustJOphthalmolC5:174-179,C1977***

急性原発閉塞隅角症眼における虹彩厚の検討

2019年4月30日 火曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(4):529.532,2019c急性原発閉塞隅角症眼における虹彩厚の検討小林由依*1中倉俊祐*1松谷香菜恵*1田淵仁志*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学視覚病態学講座CEvaluationofIrisThicknessinPatientswithAcutePrimaryAngle-closureGlaucomaYuiKobayashi1),ShunsukeNakakura1),KanaeMatsuya1),HitoshiTabuchi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC目的:急性原発閉塞隅角症(APAC)眼における虹彩厚を検討すること.対象および方法:APACを発症したC36例C36眼(女性C28眼,平均年齢C71.0歳).全例一期的に水晶体再建術を初診時に施行し(平均推定発症経過日数C3.1日),僚眼も数日以内に施行した.術後平均C27.4日目に施行した前眼部光干渉断層計から,虹彩厚を瞳孔縁から耳側と鼻側それぞれC1CmmとC2Cmmの部位でC2回測定した.結果:耳側虹彩厚はCAPAC眼でC0.47C±0.09Cmm(1Cmm)/0.44C±0.07mm(2Cmm),僚眼でC0.50C±0.10Cmm(1Cmm)/0.43C±0.08Cmm(2Cmm)で有意差はなかった(p=0.189,C0.488.CStudent’st-test).鼻側虹彩厚はCAPAC眼でC0.54C±0.10Cmm(1Cmm)/0.46C±0.08Cmm(2Cmm),僚眼でC0.52C±0.11Cmm(1Cmm)C/0.47±0.08Cmm(2mm)で同様に有意差はなかった(p=0.635,0.680.Student’st-test).また,虹彩厚の変化にかかわる特徴的な因子はなかった.結論:APACによる短期的な眼圧上昇や炎症は虹彩厚に影響を及ぼさないと推測された.CPurpose:WeCevaluatedCtheCiristhickness(IT)inCacuteprimaryCangle-closure(APAC)eyesCandCfellowCeyesCtoinvestigatethee.ectofhighintraocularpressure(IOP)duetoAPAC.Patientsandmethods:WemeasuredITin36APACeyesandfelloweyes(28females;meanage71.0years).Meanarrivaltimewas3.1days;theAPACeyeshadcataractsurgeryontheC.rstvisitday;thefelloweyeshadcataractsurgerywithinafewdays.ITat1and2Cmmfromthepupiledgewasmeasuredusinganteriorsegmentopticalcoherencetomographyatmean27.4daysafterinitialvisit.Results:Therewasnosigni.cantdi.erenceinITatanymeasurementpointbetweentheAPACCeyeCandCtheCfelloweye(allp>0.05byCStudent’st-test)C.Conclusion:OurCstudyCsuggestsCthatCacuteCIOPCriseinAPACdoesnota.ectIT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):529.532,2019〕Keywords:緑内障,虹彩厚,急性原発閉塞隅角症,前眼部光干渉断層計.glaucoma,iristhickness,acuteprimaryangleclosureglaucoma,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめにぶどう膜は虹彩,毛様体,脈絡膜からなる血管豊富な組織である.このなかで脈絡膜厚に関しては,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の開発,とくに深部強調画像CEDI(enhanceddepthCimaging)-OCTの出現により精密な脈絡膜厚を測定できるようになった1).急性原発閉塞隅角緑内障眼(acuteCprimaryCangleCclosureCglauco-ma:APAC)ではその僚眼に比べて有意に眼圧が高く,脈絡膜厚は薄い2)とする報告や,逆にCAPAC眼では厚い3)とする報告もある.また,トラベクレクトミー眼では眼圧下降に伴い有意に脈絡膜厚が増加することが判明している4,5).しかしながら,より前方のぶどう膜である毛様体や虹彩の厚みに関する報告は数少なく6.9),眼圧や病態による変化はまだ解明されていない.今回筆者らはCAPAC眼とその僚眼の虹彩厚を前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoher-encetomography:ASOCT)を用いて計測し,短期的な眼圧上昇や炎症が虹彩厚に影響を及ぼすかを検討した.CI対象および方法この研究はツカザキ病院倫理委員会の承認を得て行われ,〔別刷請求先〕小林由依:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YuiKobayashi,C.O.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPANCヘルシンキ宣言に準じて行われた,カルテベースの後ろ向き研究である.対象はツカザキ病院眼科にCASOCT(SS-1000CASIATM,TOMEY,CNagoya,CJapan)が導入されたC2010年C4月.2017年C7月までにCAPACで来院し,両眼ともにレーザー虹彩切開や内眼手術既往歴のない患者C41名とした.APAC眼は当院初診時,発作状態で来院し,降圧薬の点滴や点眼による降圧ののち,同日,一期的に超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術を施行した.手術は白内障手術に熟練した医師が行った.僚眼に対しても同様に超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術をC1週間以内に同一術者が施行した.術後撮影したCASOCTを用いて虹彩厚の解析を行った.レンズが.内固定できなかった症例やCASOCTが術後撮影されていない症例を除いた患者C36眼を解析対象とした.患者背景を表1に提示する.女性はC28例(77%),発作眼は右眼がC13眼(36%),平均年齢はC71.0C±8.4歳(平均C±標準偏差)であった.既往歴の聴取より,発作から手術までの日数は中央値C2日(四分位範囲C1.4日),初診時から術後のASOCT撮影日までの中央値はC19.5日(四分位範囲C9.33.7日)であった.CASOCT撮影方法ASOCTはすべて高画質C2Dmodeで撮影し,もっともきれいに撮影されている水平画像を選択した.虹彩厚は,虹彩後面にある高輝度線に沿い,瞳孔縁からC1Cmm(C±0.005Cmm)表1患者背景性別(女性,%)28(77)発作眼(右眼,%)13(36)年齢(平均C±標準偏差)(範囲)C発作期間(中央値,IQR)(日)71.0±8.4(39.84)2(1.4)初診時から前眼部撮影時までの日数(中央値,IQR)19.5(C9.C33.7)IQR:四分位範囲Cinterquartilerange.とC2Cmm(C±0.005Cmm)のところで,耳側と鼻側でC2回ずつ内部キャリパーを用いて測定し(図1),そのC2回の平均を解析に用いた.眼圧はCGoldmann圧平式眼圧計を用いて測定した.統計発作眼と僚眼の比較には,StudentC’st-検定を用いてCp値がC0.05未満を有意であるとした.発作眼と僚眼の虹彩厚の差と,初診時の眼圧差,ならびに初診時眼圧C×発作期間との相関関係にはCSpearmanの順位相関係数検定を用いた.CII結果初診時ならびにCASOCT撮影時の眼圧,初診時の眼軸長や前房深度を表2に提示する.初診時の眼圧は発作眼が僚眼に比べて有意に高かったが(54.7C±12.7CmmHgCvsC15.8±5.7mmHg,p<0.001),ASOCT撮影時には差がなかった(14.0C±4.4CmmHgCvsC13.9±4.0CmmHg,p=0.932).また,初診時の前房深度は発作眼で有意に狭かったが(1.55C±0.35vsC1.95±0.60Cmm,p<0.001),眼軸長には差はなかった(22.5C±0.8vsC22.4±0.7Cmm,p=0.619).虹彩厚の比較では,耳側C1Cmmで発作眼がC0.47C±0.09Cmmに対して僚眼はC0.50C±0.10Cmm(p=0.189)と有意な差はなかった.同様に耳側C2Cmmで発作眼がC0.44C±0.07Cmmに対して僚眼はC0.43C±0.08Cmm(p=0.488),鼻側C1mmでは発作眼がC0.54±0.10Cmmに対して僚眼はC0.43C±0.08Cmm(p=0.635),鼻側C2Cmmでは発作眼がC0.46C±0.08Cmmに対して僚眼はC0.47C±0.08Cmm(p=0.680)とすべて有意な差はなかった.つぎに発作眼と僚眼の虹彩厚の差と,初診時の眼圧差,ならびに初診時眼圧C×発作期間との相関関係を調べた(表3).いずれもrs<0.2,p>0.3と有意な相関はみられなかった.CIII考察今回これまで報告のない,APAC眼とその僚眼の虹彩厚図1ASOCTによる虹彩厚の測定左:発作眼,右:僚眼.瞳孔縁からC1CmmとC2Cmmのところで,内部キャリパーを用いてC2回ずつ,鼻側,耳側とにも測定した.表2発作眼とその僚眼の比較発作眼僚眼Cpvalue初診時眼圧(mmHg)C54.7±12.7(C28.C78)C15.8±5.7(6.38)<C0.001前眼部撮影時眼圧(mmHg)C14.0±4.4(6.32)C13.9±4.0(6.23)C0.932初診時前房深度(mm)C1.55±0.35(C1.06.C2.51)C1.95±0.60(C1.03.C4.58)<C0.001初診時眼軸(mm)C22.5±0.8(C20.5.C24.1)C22.4±0.7(C20.9.C24.1)C0.619虹彩厚耳側1CmmC0.47±0.09(C0.27.C0.64)C0.50±0.10(C0.25.C0.74)C0.189耳側2CmmC0.44±0.07(C0.26.C0.56)C0.43±0.08(C0.20.C0.67)C0.488鼻側1CmmC0.54±0.10(C0.36.C0.78)C0.52±0.11(C0.25.C0.75)C0.635鼻側2CmmC0.46±0.08(C0.28.C0.63)C0.47±0.08(C0.17.C0.65)C0.680両側1mmC0.50±0.10(C0.27.C0.78)C0.51±0.11(C0.24.C0.75)C0.566両側2mmC0.45±0.07(C0.26.C0.63)C0.45±0.08(C0.17.C0.67)C0.869pvalue:Student’st-test.表3初診時眼圧ならびに発作期間×眼圧値との関係初診時眼圧差(発作眼C.僚眼)初診時眼圧差(発作眼C.僚眼)C×発作期間(日)虹彩厚の差(発作眼C.僚眼)両側1CmmCrs=0.07,Cp=0.531Crs=.0.05,Cp=0.638虹彩厚の差(発作眼C.僚眼)両側2CmmCrs=.0.01,Cp=0.876Crs=.0.10,Cp=0.383Crs=Spearman’srankcorrelationcoe.cient.を検討したが有意な差は認められなかった(allp>0.1).以前筆者らは,血管新生緑内障眼の虹彩厚を本研究とまったく同じ方法で計測し,病期のCstageで分類し検討した9).その結果,360°隅角閉塞した血管新生緑内障眼では,隅角開放期の血管新生緑内障眼や健常人に比べて有意にどの測定点でも薄くなっており,健常人の約C60%の厚みであった.多変量回帰分析では病期の進行により虹彩厚が薄くなること以外に,1Cmmの部位の虹彩厚に関与する因子として汎網膜光凝固術(0.23),2Cmmの部位の虹彩厚に関与する因子としては汎網膜光凝固術(0.16),抗CVEGF注射(0.05)と眼圧(C.0.001)がパラメータとして残った9).血管新生緑内障眼の場合,長期間の高眼圧が虹彩厚に影響を与えた可能性がある.したがって今回の研究目的であるCAPAC眼での数日間の眼圧上昇により,虹彩厚に変化を及ぼすのではと推測したが,結果として差はなかった.本研究では,一期的白内障手術により発作を解除されてから中央値でC19.5日空いて計測しているが,発作眼の虹彩厚の継時的な変化は今後の検討課題である.発作解除後で比べたCAPAC眼における脈絡膜厚の報告では,APAC眼のほうが僚眼に比べて有意に脈絡膜が厚いという報告3)と差がない7)という報告がある.これまでに落屑緑内障8),血管新生緑内障眼9)とCFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎10)において虹彩厚が菲薄することが報告されているが,本研究と同じく,継時的変化を追った報告はない.また,筆者らが用いたCASOCTの内部キャリパーを用いた虹彩厚の測定方法では,水晶体により前方に弧を描く虹彩の厚みを正確に測定することはできない.したがって全例,白内障手術を完了し虹彩が平坦になった状態での虹彩厚を測定している.CIV結論APACによる短期的な眼圧上昇や炎症は虹彩厚に影響を及ぼさないと推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)五味文:総説C74黄斑疾患と脈絡膜.日眼会誌C122:C341-353,C20182)SongCW,CHuangCP,CDongCXCetal:ChoroidalCthicknessCdecreasedCinCacuteCprimaryCangleCclosureCattacksCwithCelevatedintraocularpressure.CurrEyeResC41:526-531,20163)WangCW,CZhouCM,CHuangCWCetal:DoesCacuteCprimaryCangle-closureCcauseCanCincreasedCchoroidalCthickness?CInvestOphthalmolVisSciC54:3538-3545,C20134)KaraN,BazO,AltanCetal:Changesinchoroidalthick-ness,axiallength,andocularperfusionpressureaccompa-nyingCsuccessfulCglaucomaC.ltrationCsurgery.Eye(Lond)C27:940-945,C20135)ChenS,WangW,GaoXetal:Changesinchoroidalthick-nessCafterCtrabeculectomyCinCprimaryCangleCclosureCglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC55:2608-2613,C20146)InvernizziCA,CGiardiniCP,CCigadaCMCetal:Three-dimen-sionalCmorphometricCanalysisCofCtheCIrisCbyCswept-sourceCanteriorsegmentopticalcoherencetomographyinaCau-casianCpopulation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:4796-4801,C20157)LiX,WangW,HuangWetal:Di.erenceofuvealparam-etersCbetweenCtheCacuteCprimaryCangleCclosureCeyesCandthefelloweyes.Eye(Lond)C32:1174-1182,C20188)BaturCM,CSevenCE,CTekinCSCetal:AnteriorClensCcapsuleCandCirisCthicknessesCinCpseudoexfoliationCsyndrome.CCurrCEyeResC42:1445-1449,C20179)NakakuraS,KobayashiY,MatsuyaKetal:IristhicknessandCseverityCofCneovascularCglaucomaCdeterminedCusingCswept-sourceCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomog-raphy.JGlaucomaC27:415-420,C201810)InvernizziCA,CCigadaCM,CSavoldiCLCetal:InCvivoCanalysisCoftheiristhicknessbyspectraldomainopticalcoherencetomography.BrJOphthalmolC98:1245-1249,C2014***

重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1692.1695,2018c重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績髙木理那小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望髙野博子梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CShort-termClinicalOutcomeswithAhmedGlaucomaValveImplantationintotheVitreousCavityRinaTakagi,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshita,HirokoTakanoandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術(以下,アーメド)の初期手術成績を,バルベルト緑内障インプラント術(以下,バルベルト)と比較検討する.対象および方法:眼圧コントロール不良の重症緑内障症例に対しアーメドをC16眼に,バルベルトをC11眼に施行し,眼圧下降効果と術後合併症をC2群で比較検討した.結果:眼圧は,アーメド施行群で術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.0001).バルベルト施行群においても術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.05).また,術後合併症はバルベルト施行群でC5眼に認められたが,アーメド施行群では皆無であった(p<0.01).結論:アーメド,バルベルトともに術後早期より良好な眼圧下降が得られた.しかしながら術後合併症は,アーメドがバルベルトに対し有意に少なく,優れた術式と考えられた.CPurpose:Toinvestigatetheinitiale.ectofimplantingAhmedglaucomavalveimplanttubingintothevitre-ousCcavityCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CPatientsandMethods:AhmedCglaucomaCvalveCimplantCtubing(AGV)waspositionedinthevitreouscavityin16eyeswithpoorlycontrolledglaucoma.Thestudyalsoincluded11controleyestreatedwithaBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Intraocularpressure(IOP)changesandpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluatedCinCbothCgroups.CResults:TheCIOPsCdecreasedCsigni.cantlyCwithCAGVCatC1weekand4monthspostoperatively,aswasseenalsointheBaerveldtgroup.Postoperativecomplicationsoccurredin5eyesCinCtheCBGICgroup,CbutCthereCwereCnoCcomplicationsCinCtheCAGVCgroup,CaCdi.erenceCthatCreachedCsigni.cance.Conclusions:IOPreductionswereachievedwithbothimplantsimmediatelypostoperatively.Howev-er,fewercomplicationsoccurredinassociationwithAGVthanwithBGI.TheAGVseemssuperiortotheBGIintreatingadvancedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1692.1695,C2018〕Keywords:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント,緑内障,眼圧,合併症.AhmedCglaucomaCvalve,Baerveldtglaucomaimplant,glaucoma,intraocularpressure,complications.Cはじめに眼圧コントロール不良の緑内障には最終的にトラベクレクトミーなどの濾過手術が施行されることが多い.しかしながら複数回のトラベクレクトミー施行眼や血管新生緑内障,ぶどう膜炎に続発する緑内障などの重症な緑内障ではブレブの維持が困難で,その結果,眼圧をコントロールすることが困難となる.当センターではこのような重症な緑内障に対し,より強く長期間の眼圧降下作用を求め,2014年よりバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)を使用したチューブシャント手術を開始し,BGIによ〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847Amanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC1692(116)るチューブシャント手術の良好な眼圧下降を示した初期成績(術後観察期間平均C100日)を報告した1).しかし,その後の長期成績をみると,術後CBGIのCHo.mannelbowやチューブが露出する合併症が多く,管理に苦慮する症例が出てきた.アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)はC1993年より米国で使用され,2014年に日本で認可されたが,当センターではCBGIによるチューブシャント手術に代わるデバイスとしてC2016年より使用を開始した.AGIの種類としては前房内チューブ挿入用と硝子体腔内チューブ挿入用のC2種類があるが2),さまざまな合併症をもつ重症緑内障での前房内チューブ挿入法は角膜内皮障害などの危険性があると考え,当センターではより安全な眼圧下降をめざし,前房内チューブ挿入用のデバイスを硝子体腔内にチューブを挿入,留置する方法で手術を施行している.海外ではparsplanaclipを装着している硝子体腔挿入用アーメドバルブが販売されているが,日本では認可がなく,前房挿入用チューブを各々の施設の倫理委員会で承認を得て硝子体腔用に使用している.当センターも臨床倫理委員会で承認を得て使用している.今回はC2016年C2月.2017年C2月のCAGVによるチューブシャント手術の初期成績を,BGIによるチューブシャント手術と比較し報告する.CI対象および方法1.対象AGVによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいて,2016年C2月.2017年C2月に手術を受けたC15症例C16眼である.症例の内訳は男性C8人,女性C7人.平均年齢C59.1歳.原因疾患は続発緑内障がC8例と最多で,血管新生緑内障C5例,事故による失明後の高眼圧症と開放隅角緑内障がそれぞれC1例ずつであった.BGIによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいてC2014年C8月.2015年C12月に手術を受けたC11症例C11眼である.原因疾患は血管新生緑内障がC6例と最多で,続発性緑内障がC4例,開放隅角緑内障がC1例であった.C2.AGVによる手術方法有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,上耳側の角膜輪部基底の約C6C×7Cmm半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.原則チューブ留置孔を含めC25CGのC3ポートを設置した.硝子体手術施行眼であってもチューブ留置付近の周辺部硝子体は極力切除郭清した.角膜輪部から約C10Cmmの位置でプレート部をC5-0ポリエステル糸で強膜に縫着した.挿入口をC20CGVランスでチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,先端を鋭角に切断し長さを調節したチューブを挿入口より硝子体腔内に挿入した.強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8-0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合し終了とした.C3.BGIによる手術方法AGVと同様に有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,角膜輪部基底において半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.挿入口をチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,Ho.-mannelbowをつなげたチューブを硝子体腔内に挿入した.CHo.mannelbowはC9-0ナイロン糸で強膜床に縫着し,プレート両翼を外直筋・上直筋下に位置させ,強膜にC5C.0ポリエステル糸で輪部から約C10Cmmの所で縫着した.フラップ外のチューブはC8C.0吸収糸で結紮し,結紮部より輪部側のチューブにスリット状の穴を開けた(Sherwoodslit).強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8C.0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合した.CII結果AGV16症例の術後経過の内訳は,降圧点眼が必要な症例がC6例(38%)(平均追加点眼C0.8C±1.2剤)あったが,術後合併症やCAGV抜去が必要な症例はなかった.1症例は術後観察期間内に原因疾患である悪性リンパ腫で死亡した.術前および術後C4カ月経過観察期間で,AGV15症例の平均眼圧は術前C37.9C±14.3CmmHg,術後1週間8.9C±3.9CmmHg,術後4カ月C16.5C±7.2CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後(p<0.0001,Cpairedt-test),術後C4カ月(p<0.0001,pairedt-test)とも有意に降下した.CBGI11症例の術後経過の内訳は,術後降圧点眼追加が必要な症例がC6例(55%)(平均追加点眼C0.5C±0.7剤),Ho.-mannelbowやチューブの露出した症例がC4例(3例はCBGI抜去),チューブ結紮糸切除も行ったが,眼圧下降が悪くAGVに入れ替えを行った症例がC1例,合併症発症率はC11眼中C5眼(45%)であった.点眼の追加などの問題なく経過した症例はC3例のみであった.チューブが露出した症例は数回結膜縫合を施行したが,縫合後チューブ再露出が続き,BGIを抜去しCAGV入れ替え施行となった.また,Ho.mannelbowが露出した症例も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となりCAGV入れ替え施行となった.術前および術後C4カ月の経過観察期間でCBGI8症例の平均眼圧は術前C35.9C±13.5CmmHg,術後C1週間C17.0C±13.5CmmHg,術後C4カ月C16.5C±4.5CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test),術後C4カ月の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test)両者とも有意であった.AGV(図1)とCBGI(図2)の術後眼圧推移を比較すると(表1),術後C4カ月での眼圧下降は両者で大きな変化は認めなかった.AGVでは多くの症例で術直後より眼圧下降が認められた.一方CBGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかであり,またCBGIは症例によりばらつきがあるという結果が得7060605000眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)40302010図1アーメド緑内障バルブインプラント術15症例の眼圧推移図2バルベルト緑内障インプラント術11症例の眼圧推移表1AGVとBGIの術前,術後眼圧の比較(単位mmHg)表2AGVとBGIの合併症数の比較術前眼圧術後C1週間眼圧術後C4カ月眼圧CAGV(1C5症例)C37.9±14.3C8.9±3.9C16.5±7.2CBGI(8症例)C35.9±13.5C17.0±13.5C16.5±4.5合併症なし合併症あり合計(症例)CAGVC16C0C16CBGIC6C5C11合計C22C5C27られた.しかし,統計学的には治療C1週間後における眼圧の低下度はCAGV群とCBGI群では有意差は認めず(p=0.1758,Cunpairedt-test),治療C4カ月後でも有意差は認められなかった(p=0.7637,unpairedt-test).合併症発症はCAGBで有意に少なかった(p<0.01,Cc2検定)(表2).CIII考按AGVが日本で認可されてからCAGVを用いたチューブシャント手術の成績が報告されている3).また,海外ではCAGVとCBGIのチューブシャント手術の成績を比較した報告も多い2).本研究では,術後眼圧の推移は,図1,2に示されたように両者間で大きな違いはなかったが,BGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかで,かつ症例によりばらつきがあるという結果が得られた.AGVとCBGIの大きな違いは圧調節機能の有無である.AGVには弁がついており,原則術後の低眼圧や高眼圧をきたすことはない.一方CBGIでは弁の機能がないため,チューブ結紮やチューブにスリット状の穴を開けるCSherwoodslitで初期の高眼圧に対応している.また,BGIの眼圧下降はチューブ結紮糸が解けた後に起こるため,AGVより時間がかかることが特徴である.これは図1,2の術後眼圧推移でCAVGの眼圧下降が術直後から起き,BGIは緩やかに起こることに一致している.BGI11例中,半数は術後に降圧点眼の追加が必要であったが,AGVでは点眼薬追加はC16例中C6例と少ない傾向が認められ,問題なく眼圧が下降した症例が多かったが,有意ではなかった(p=0.3811,Cc2検定).本研究ではC4カ月という短期間での比較調査であるが,BGIよりもCAGVのほうがより早期に安定した眼圧下降が得られるという結果を得た.合併症については,BGI症例でCHo.mannelbowやチューブ露出例がC4例(3例はCBGI抜去)あり,そのうちチューブ露出例では数回結膜縫合後もチューブ再露出が続いた(図3).また,Ho.mannelbow露出例(図4)も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となった.一方CAGV症例での合併症は当院では皆無であった.緑内障チューブシャント術のチューブ露出に関しては多くの報告がなされている.Meenakshiらはチューブ露出には年齢(若年者)と術前の炎症が関与していると報告している4).本研究のCBGI症例の平均年齢はC58.63±9.32歳,露出例は平均C56.75C±7.26歳,非露出例は平均C59.71C±9.51歳であり,両群の年齢には有意差が認められなかった(p=0.7042,Cunpairedt-test).また,露出例は網膜.離に対するシリコーンオイル充.硝子体手術後のシリコーンオイル抜去後の続発緑内障C1例と増殖糖尿病網膜症(PDR)に伴う緑内障C3例であった.他報告では血管新生緑内障も露出の危険因子にあげられている5).鼻側下方にプレート移植した場合は,上方に移植したものより露出例が多いことも多く報告されている6,7).筆者らは全例上耳側に移植しており,移植位置による違いは判断できなかった.当センターではCAGVによる露出例は現時点でも確認されていないが,AGVによる露出例も報告されており7),WilliamらはCAGV,BGIでは露出頻度に差はないと報告している8).当センターではCAGVとCBGIの露出に大きな差が出た.その要因としてCHo.mannelbowの存在が考えられた.BGIには硝子体挿入のためのCHo.mannelbowが存在する.海外ではAGVにもCHo.mannelbowに対応するCparsplanaCclipが販売されているが,日本ではまだ認可されていない.そのため,筆者らは院内の臨床倫理委員会で承認を得て前房挿入,留置用を硝子体腔内挿入,留置を施行している.プレートから出るチューブを強膜フラップ下で直接硝子体腔内に挿入することで異物のボリュームを減らすことができ,露出の危険性が減少すると考えられた.CIV結論筆者らの研究は術後C4カ月という短期間でのCAGVとCBGIの比較であったが,AVG硝体腔内チューブ挿入法は術直後の確実な眼圧下降が得られ,またチューブ露出などの合併症も皆無であった.白内障手術および硝子体手術の併用が必要ではあるが,parsplanaclipを使用せずチューブのみを硝子体に挿入,留置するほうが,むしろデバイス露出の可能性を減らすことができ,安全な方法と期待される.早期に眼圧下降を必要とする重症緑内障症例には最適な手術と考えられた.本研究はC16例と症例数が少ないため,今後より大規模な研究でCAGVの有用性を検討する必要性があると考えられた.文献1)上原志保,田中克明,太田有夕美ほか:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績.あたらしい眼科C33:C291-294,C20162)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtStudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)植木麻理,小嶌祥太,河本良輔ほか:インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較.あたらしい眼科34:1165-1168,C20174)ChakuMC,NetlandPA,IshidaKetal:RiskfactorsfortubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C20165)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetal:RiskCfactorsCforCtubeCshuntexposure:aCmatchedCcaseCcontrolCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C20136)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20157)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20148)StewartCWC,CKristo.ersenCCJ,CDemonsCCMCetal:Inci-denceCofCconjunctivalCexposureCfollowingCdrainageCdeviceCimplantationinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmolC20:124-130,C2010***

緑内障術後早期に発症したLeaking Blebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1268.1275,2018c緑内障術後早期に発症したLeakingBlebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性立花学*1,2小林顕*2新田耕治*1,2東出朋巳*2横川英明*2大久保真司*3杉山和久*2*1福井県済生会病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3おおくぼ眼科クリニックCTheUsefulnessofBlebRevisionwithAmnioticMembraneTransplantationforEarly-onsetLeakingBlebDevelopedafterGlaucomaSurgeryGakuTachibana1,2),AkiraKobayashi2),KojiNitta1,2),TomomiHigashide2),HideakiYokogawa2),ShinjiOkubo3)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,3)OhkuboEyeClinic線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)あるいは濾過胞再建術(blebrevision,以下revision)の術後早期(early-onset)に発症した濾過胞からの房水漏出(leakingCbleb)に対する羊膜移植(amnioticCmembraneCtransplantation:AMT)併用Crevisionの有用性を検討した.対象は,初回ないしは別部位からの追加手術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし,結膜縫合あるいは自己結膜移植にてCleakingblebの消失を認めなかったC8例C8眼である.これらの症例に対してCAMT併用Crevisionを施行した.その結果,8眼全例で一過性のCleakingbleb再発を認めたものの,そのうちC4眼は無処置で治癒,3眼で結膜縫合,1眼で羊膜再移植を施行し,最終的にCleakingblebは全例で消失した.眼圧は漏出原因となった手術または処置後のCleakingbleb確認時が平均C12.6±8.8CmmHg,leakingblebの最終消失時が平均C18.9C±5.4CmmHgであった.眼圧コントロール不良例に対しては追加手術を施行した.これらの結果により,TLEあるいはCrevision後のCearly-onsetに発症したCleakingblebに対してCAMT併用のCrevisionは有用であることが示唆された.CThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheusefulnessofblebrevisionwithAMTforearly-onsetleakingblebthatdevelopedafterglaucomasurgery.Enrolledwere8eyesof8patientswithearly-onsetleakingblebwith-inC1CmonthCafterCTLECorCblebCrevisionCwhoCshowedCnoCimprovementCwithCconjunctivalCsutureCorCautologousCcon-junctivalCtransplantation.CAlthoughCtransientCaqueousChumorCleakageCwasCobservedCafterCAMTCinCallCeyes,C4CeyesCwerecuredthroughobservationonly,withnotreatment,3eyesrequiredconjunctivalsutureand1eyerequiredre-AMT.CAsCaCresult,CaqueousChumorCleakageCwasC.nallyCimprovedCinCallCeyes.CIntraocularCpressureCwasC12.6±8.8CmmHgCwhenCleakingCblebCwasCcon.rmedCafterCtheCtreatmentCthatChadCcausedCit,CandC18.9±5.4CmmHgCatCtheCtimeofleakingbleb.nalimprovement.WeperformedadditionalglaucomasurgeryincaseswithpoorIOPcontrol.Inconclusion,AMTisquiteusefulforearly-onsetleakingblebafterTLEor.lteringblebrevisionsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1268.1275,C2018〕Keywords:緑内障,線維柱帯切除術,濾過胞再建術,房水漏出,羊膜移植.glaucoma,trabeculectomy,blebrevi-sion,leakingbleb,amnioticmembranetransplantation.Cはじめに効性は確立している.しかし,術後の合併症の一つとして濾マイトマイシンCC併用の線維柱帯切除術(trabeculecto-過胞からの房水漏出(leakingCbleb)がしばしば問題視されmy:TLE)は,緑内障において点眼による薬物療法によっる.leakingblebの治療法として保存的加療あるいは縫合・ても眼圧コントロール不良の症例に対して施行され,その有自己結膜移植(autologousCconjunctivalCtransplantation:〔別刷請求先〕立花学:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:GakuTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takaramachi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN1268(112)表1患者背景症例年齢性別病型直近の手術漏出部位漏出パターンAMT前処置回数(回)結膜移植結膜縫合C1C45CMCSOAGCTLE(EX-PRESS)角膜輪部CEC0C7C2C69CFCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C2C3C68CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC1C0C4C64CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC0C2C5C70CMCSOAGCTLEbleb上のCholeCCC0C5C6C40CMCtraumaticCglaucomaCneedling結膜縫合部CAC0C4C7C58CMCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C1C8C53CMCtraumaticCglaucomaCneedlingbleb上のCholeCBC0C2M:男性,F:女性,SOAG:続発開放隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,TLE:線維柱帯切除術,AMT:羊膜移植.ACT)などの観血的処置が第一選択であるが,奏効しない症例もしばしば認められる.そのような状況下で注目されているのが羊膜の利用である.羊膜は子宮内の胎児と羊水を直接に包む半透明の膜で,その抗炎症・瘢痕化作用や拒絶反応の起こりにくい良質な器質となりうる性質から,外科手術の際の癒着防止や皮膚熱傷の覆膜などに利用されてきた1.3).とくにCKimらによる家兎眼を用いた眼表面再建における羊膜利用の有用性に関する報告により眼科領域でも羊膜移植(amnioticmembranetransplantation:AMT)が注目されるようになった4).日本ではCTsubotaらにより眼類天庖瘡,Stevens-Johnson症候群といった高度の瞼球癒着を有する難治性角結膜疾患に対して,眼表面再建を目的に初めて羊膜が用いられた5).それ以後,角膜上皮の再生あるいは結膜の再建における治療材料としての有効性も確認され,AMT症例数は増加しつつある.緑内障領域でも,TLEあるいは濾過胞再建術(blebCrevi-sion,以下Crevision)におけるCAMT併用の報告が散見されるようになった.ShehaらおよびCSarnicolaらはCTLEにおけるCAMTの安全性を確認し,術後の眼圧コントロールも良好であると報告している6,7).Fujishimaらは眼圧コントロール不良な症例に対しCAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告している8,9).JiらはCAMTを併用したCTLEは眼圧の降下と術後合併症の頻度軽減に有効で成功率が高い術式であると報告している10).樋野らは,抗緑内障点眼により薬剤性偽眼類天庖瘡を生じた患者に対しAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告した11).また,leakingCbleb症例に対するCAMTの適用例も僅少ながら報告されているが,それらは術後C1カ月以上経過した後にCleakingblebを合併した晩期発症(late-onset)の報告が大半であり,早期発症(early-onset)の報告はない.そこで筆者らは術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし観血的処置でも消失しなかったCearly-onsetの難治症例に対するCAMT併用Crevisionの成績を検討した.CI対象および方法対象はC2004年C8月.2014年C7月に金沢大学附属病院(以下,当院)でCTLEを施行したC1,664眼のうち,TLEあるいはCrevision(needlingを含む)の術後C1カ月以内にCSeidel試験にてCleakingblebを確認し,結膜縫合やCACTにて消失を認めなかった難治CleakingblebのC8例C8眼(平均C58.4C±10.8歳)である.これらの症例についてCAMT併用Crevisionを施行した.年齢・性別・病型・直近の手術・漏出部位・濾過胞からの房水漏出の類型(以下,漏出型)・AMT前処置回数などの患者背景を表1に示す.また,対象C8眼で認めた漏出型は,a)縫合部から漏出,b)bleb上のCholeから漏出,c)lasersuturelysis(LSL)の際に照射レーザー光によるCbleb上Choleから漏出,d)術前のCTLEで結膜が薄くなった部分からの漏出,e)輪部結膜の薄い部位からの漏出であり,この概略を図1に示す.AMT併用CrevisionはC3名の術者によって次のような方針abcde図1Leakingblebのパターンa:縫合部からの漏出.Cb:blebの上のCholeからの漏出.Cc:laserCsutureClysisの際の照射レーザー光によるCbleb上のholeからの漏出.Cd:以前のCTLEで結膜薄くなった部分からの漏出.Ce:輪部の結膜が薄い部位からの漏出.Cで施行された.羊膜を羊膜上皮側が強膜側を向くように,症例によっては上皮側が外側になるようにC2重翻転した状態で強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い,結膜創に羊膜を挟みこんで結膜縫合を施行した.結膜欠損の大きさに応じて,縫合を以下のC3通りの方法で行った.すなわち,①創が小さい場合は結膜同士を縫合,②創が大きい場合はCACTを併用,③創が大きいがCACTを併用せず羊膜を露出,であり,そのシェーマを図2に示す.CII結果AMT併用Crevision後のC8症例の個別の病歴,経過,経過日数,眼圧の経過,追加処置などについて以下および図3に示す.〔症例1〕45歳,男性,漏出型:E(図3a).続発開放隅角緑内障(secondaryCopen-angleCglaucoma:SOAG)に対しC2013年C1月に線維柱帯切開術(trabeculoto-my:TLO),6月CTLE(EX-PRESSCR)施行.術後C5日目のLSL後に角膜輪部よりCleakingCbleb(+),縫合をいくどか試みたがたびたび再漏出するため,漏出確認後C27日目にAMT併用Crevision+ACTを施行.術後CleakingCbleb再発,結膜縫合を追加し消失した.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C511日目にトラベクトーム手術を施行したが,術後眼内炎をきたしたためC528日目にCvitrectomyを施行.2016年C3月時点で術後の経過観察中である.〔症例2〕69歳,女性,漏出型:B(図3b).abc羊膜自己結膜露出した羊膜図2AMTを用いたrevisiona:結膜縫合のみ.Cb:ACTの併用.Cc:羊膜を露出させた状態.原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対しC2011年C7月CTLO,8月CTLE施行.TLE術後4日目で濾過胞が輪部で一部引きちぎれleakingbleb(+),結膜縫合やCneedling+結膜縫合などで対処したが別部位でのCholeとCleakingCbleb(+),holeが徐々に拡大したため漏出確認後C12日目にCAMT併用Crevision+ACTを施行.術後leakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例3〕68歳,女性,漏出型:A(図3c).POAGに対しC2012年C5月CTLE,2013年C6月Cneedling施行.術後C13日目に結膜縫合部位よりCleakingblebと創口離開(+),ACT+needlingを施行したが消失せず,漏出確認後C24日目にCAMT併用Crevision+needling+ACTを施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例4〕64歳,女性,漏出型:A(図3d).POAGに対しC2011年C2月CTLE,2013年C6月Cneedlingを2回施行.術後C6日目より創口からCleakingbleb(+),nee-dling+結膜縫合を行ったが別部位からのCleakingbleb(+),結膜縫合を追加したが消失せず,漏出確認後C8日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.術後Cleakingblebが再発したが,結膜縫合を追加し消失.のちに眼圧コントロール不良となりCAMT術後C126日目にTLO,719日目にCTLEを追加.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例5〕70歳,男性,漏出型:C(図3e).SOAGに対し前医でC2010年C11月TLE,当院でC2011年C3月別部位からCTLEを施行.術後C3日目にCLSLでレーザーが出血部に吸収されCleakingCbleb(+),結膜縫合を追加し消失.その後眼圧上昇したためCneedlingを追加,術翌日からleakingCblebが再発し,結膜縫合を追加したが,前医CTLEでの菲薄化した結膜縫合部からのCleakingbleb(+),漏出確認後C21日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.翌日C図3各症例の日数と眼圧経過a:症例①:45歳,男性,漏出型:ECb:症例②:69歳,女性,漏出型:BCc:症例③:68歳,女性,漏出型:ACd:症例④:64歳,女性,漏出型:ACe:症例⑤:70歳,男性,漏出型:CCf:症例⑥:40歳,男性,漏出型:ACg:症例⑦:58歳,男性,漏出型:BCh:症例⑧:53歳,男性,漏出型:Bleak期間羊膜移植線維柱帯切除術needlingblebrevision結膜縫合結膜移植入院退院a.症例1(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100b.症例2(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100c.症例3(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100d.症例4(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100e.症例5(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100f.症例6(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)g.症例7h.症例8から消失したが,羊膜が結膜に嵌頓していたため術後C10日目に嵌頓部を縫合したところ,同部位からCleakingbleb再発を認めたが,保存的加療で消失.2014年頃より眼圧コントロール不良となり,AMT術後C1,133日目にCTLOを追加し,その後眼圧は安定.2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例6〕40歳,男性,漏出型:A(図3f).眼球破裂に対してC2008年C5月Cvitrectomy(硝子体切除術)+強角膜縫合術を施行.その後眼圧上昇しC6月CTLO,10月TLE施行.2009年C3月末にCneedling施行したところ低眼圧と術後C3日目からCleakingCbleb(+),2度の結膜縫合後にCneedling+結膜縫合,その後結膜縫合も追加したが消失せず,漏出確認後C9日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合+保存強膜移植を施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C2,048日目にバルベルト緑内障インプラント術を施行した.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例7〕58歳,男性,漏出型:B(図3g).POAGに対してC2007年C12月CTLEを施行.術翌日よりleakingCbleb(+)のため結膜縫合を施行,2008年C1月にleakingCbleb増悪を認めたため漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行した.しかし術後も消失せず,結膜縫合をC2回追加したがCleakingCbleb(+)持続したため,漏出確認後C32日目に再度のCAMT併用Crevisionを施行.術後Cleak-ingbleb再発に無処置で経過観察し消失.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例8〕53歳,男性,漏出型:B(図3h).1990年に針金が左目に刺さり,白内障手術+角膜縫合術施行.その後眼圧コントロール不良となりC1992年C10月末にCTLE施行.2002年頃から眼圧が再上昇し,2004年C2月に別部位にてCTLE施行.術後CleakingCbleb(+)に結膜縫合で消失したが,眼圧が上昇したためC4月にCneedling,5月にrevision,7月にCneedlingを施行.needling後C8日目にleakingCbleb(+)を認めCneedling+結膜縫合を施行したが,leakingCbleb再発しCrevision+結膜縫合を施行.しかし高眼圧とCleakingCbleb(+)持続し,漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行.術後CleakingCblebが再発したが,無処置で消失.以後の眼圧は不安定であったため術後C3,733日目にCTLOを追加.その後眼圧は安定し,2014年C4月に転院のため終診となった.表2には,8症例のCAMT直近のCTLE,AMT直近のCnee-dling,緑内障手術後のCleakingbleb,AMTの術後,についてまとめる.また,表3に,8症例の経過および術後処置についてまとめる.CIII考察羊膜の抗瘢痕化・炎症作用に関する先行研究を以下に示す.Bauerらは,ネズミの単純ヘルペス角膜炎モデルにおいて,移植した羊膜間質に付着したリンパ球,マクロファージが急速にアポトーシスを起こすことを報告した12).Heらは,羊膜から分離した水溶性物質CHC・HA(inter-a-inhibitorheavyCchain・hyaluronan)はCCD80,CCD86,主要なCClassCII抗原複合体の発現を減少させ,増殖を抑制し,アポトーシスを増強させると報告した13).さらにCHeらは,眼組織線維芽細胞において,TGF-bのシグナル伝達を転写の段階で抑制すると報告した14).Espanaらは,培養液中で角膜細胞の樹枝状形態を維持し,生理学的に角膜細胞形態を維持する作用を認めるとともに,TGF-bのシグナル伝達阻害以外の抗瘢痕化作用も関与していると考察している15).以上のような基礎検討に基づいて,羊膜の有する抗炎症・抗瘢痕化作用,結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制効果などから,結膜瘢痕化症例や角膜不全症例などに対するCTLEあるいはCrevi-sionにおいて起こりうる晩期発症のCleakingCblebや濾過胞感染,濾過胞瘢痕形成などによる濾過胞不全に対して,AMTを併用することは有用であると考えられてきた.しかしながら,AMT併用のCTLE・revisionの手術成績については,濾過胞形成不全に陥るリスクの高い患者の眼圧下降維持に有用であるとした報告6)がある一方で,AMTと結膜前方移動術とのランダム化臨床試験では,最終的な眼圧や点眼数,Kaplan-Meier法による術後成績のいずれにも有意差は認めなかったとする報告16)もあり,統一的な見解は得られていないのが現状である.以上の報告は術後Clate-onsetのleakingCblebに対してであり,術後Cearly-onsetのCleakingblebにおいては,治療用コンタクトレンズ装用や自己血清眼など非観血的処置,あるいは縫合追加やCACTなどの観血的処置を施すことが通例である.そのため,early-onsetのleakingCblebに対してCAMT併用のCrevisionを施行した報告はなく,その臨床的な有用性については検討すべき課題である.当院ではCearly-onsetのCleakingCblebに対する治療方針として,下記の枠組みに沿って対応している.この概略を図4に示す.(1)Seidel試験でCleakingblebの有無を確認し,結膜に明らかな裂隙があり漏出が著明で低眼圧や浅前房が改善しない場合には,その時点で観血的処置を施す.(2)患者が流涙を自覚しない程度のわずかな漏出であれば非観血的処置を施し,改善を認めない場合に観血的処置を施す.(3)観血的処置ではCdirectCsutureやCcompressionCsutureなどの縫合,あるいは結膜前転,保存強膜移植,ACTを漏表2眼圧の経過症例AMT直近のCTLEAMT直近のCneedling緑内障手術後のCleakingblebAMTの術後術前術後術前術後確認時初回消失時最終消失時3カ月6カ月1年最終C1C22C5C–8C7C18C22C16C17C27C2C18C6C–9C11C19C20C20C17C19C3C18C6C26C8C10C4C20C8C11C9C8C4C22C4C23C10C6C13C13C20C17C19C10C5C48C4C–27C12C12C14C12C11C14C6C37<1C0C17C3C3C26C30C22C23C16C8C7C19C4C–25C11C16C14C-14C12C8C40不明不明C17不明C21C23C25C16C14C18AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.表3経過日数と追加処置経過日数(日)術後処置症例緑内障手術後のCleakingbleb確認時漏出確認.AMT最終的な漏出消失確認AMT後leakingblebに対する処置直近CTLE直近CneedlingC1C5C-27C57結膜縫合C2C4C-12C32C-3C-13C24C36C-4C-6C8C9結膜縫合C5C3C-21C68C-6C-3C9C15結膜縫合C7C1C-25C29結膜縫合×2再CAMTC8C-8C25C22C-AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.CACT=自己結膜移植図4Early.onsetのleakingblebに対する当院での治療方針出の状態に応じて施し,それでも消失を認めない場合にはフラップ縫合で漏出を止めて別の位置で濾過手術を施すか,AMT併用のCrevisionを施す.本研究の対象となったCTLE施行のC1,664眼のうちのCear-ly-onsetのCleakingblebに対する最終手段としてCAMT併用のCrevisionを施行したC8眼の結果は,全症例でCAMT併用のCrevision後に一時的にCleakingCbleb再発を認め,1眼で羊膜再移植,3眼で観血的処置,4眼で経過観察の後,最終的には全例で消失を認めた.術後の一時的なCleakingbleb再発の理由としては,各症例において羊膜の機械的な裏打ちのみでは結膜が脆弱であったためと考えられる.しかしながら,最終的に全例でCleakingblebが消失したのは,羊膜のもつ抗炎症・抗瘢痕化作用や結膜上皮の分化促進作用が奏効したものと推定される.術後の眼圧についてはCleakingbleb消失の確認時,術後C3カ月後,術後半年後,術後C1年後の段階でそれぞれの平均値がC18.9CmmHg,18.1CmmHg,16.4CmmHg,14.7CmmHgと比較的良好であったと評価できる.しかしながら,後に眼圧コントロールが不良となったため追加の緑内障手術を要した症例が半数のC4例であった.その内訳は,TLE:2眼,バルベルト緑内障インプラント術:1眼,トラベクトーム手術:1眼であった.結膜瘢痕化症例に対するCAMT併用のCTLEによって長期の眼圧経過でも最終的にコントロールが得られた例が多かったとする報告17)がある一方で,化学熱傷や外傷,薬剤障害,感染症などを原因とする難治で重篤な角膜不全(後に水疱性角膜症を発症したため全層角膜移植術を施行した症例などを含む)を合併した緑内障に対するCAMT併用のCTLEの成績に関しては,術後長期の経過で眼圧のコントロールが悪化したケースが認められたとの報告18)もあり,より難治な症例ほどCAMT併用のCTLEやCrevisionのみでは長期経過での眼圧コントロールが不十分となり,追加の処置や手術などが必要となる可能性が示唆されている.最近,当院ではハイリスク症例に初回手術の際に結膜の裏打ちとしてCTenon.を前転し,より広範な濾過胞が形成されるように工夫している.今回の羊膜の設置方法は,全例で羊膜上皮が強膜側を向くように強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い結膜創に羊膜を挟みこんだが,結膜縫合においては全C9回のCAMT(1眼の再移植を含む)のうち,単純に結膜同士を縫合して閉創可能であった症例がC4眼,結膜創が大きく別部位から結膜を採取してパッチとして使用した症例がC4眼,結膜創が大きいものの別部位を含め結膜の状態が非常に悪く,次善の策として結膜-羊膜を縫合し,羊膜が一部露出した状態となった症例がC1眼であった.最終的には羊膜が露出した状態となった1例も含め,全例で最終的なCleakingblebの消失を認めたことからどの術式も有効性が認められるが,結膜の状態に応じて三つの術式を使い分けることがより妥当であると考えられる.また本研究ではCAMT前に4.7回の結膜縫合を行ったが,leakingblebの改善を認めなかった症例がC3例あり,術後C3回目までの結膜縫合やCACTでCleakingblebの改善を認めない場合は,早期に積極的なCAMTを検討すべきであると考えられる.本研究の問題点,限界は,同一術者による統一された手術方法ではなかったこと,症例数がC8例C8眼と母数が小さいこと,難治となった原因としての患者背景が症例ごとに異なること,などがあげられる.CIVまとめTLE後Cearly-onsetにCleakingblebを発症した難治のC8例8眼に対してCAMT併用のCrevisionを施行し,一過性のleakingCbleb再発を認めたものの最終的に全例で消失した.今後,より多くの症例に対して詳細な検討が必要であり,AMTを併用しないCrevisionとの比較検討が重要な課題であると思われる.文献1)Troensegaard-HansenE:Amnioticgraftsinchronicskinulceration.LancetC255:859-860,C19502)BennettJP,MatthewsR,FaulkWP:Treatmentofchron-iculcerationofthelegswithhumanamnion.LancetC315:C1153-1156,C19803)DuaCHS,CGomesCJA,CKingCAJCetCal:TheCamnioticCmem-braneCinCophthalmology.CSurvCOphthalmolC49:51-77,C20044)KimCJC,CTsengCSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.CorneaC14:473-484,C19955)TsubotaCK,CSatakeCY,COhyamaCMCetCal:SurgicalCrecon-structionoftheocularsurfaceinadvancedocularcicatri-cialCpemphigoidCandCStevens-JohnsonCsyndrome.CAmJOphthalmolC122:38-52,C19966)ShehaCH,CKheirkhahCA,CTahaCH:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCforCrefractoryglaucoma.JGlaucomaC17:303-307,C20087)SarnicolaCV,CMillacciCC,CToroCIbanezCPCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCfailedCtrabeculectomy.CJGlaucomaC24:154-160,C20158)FujishimaH,ShimazakiJ,ShinozakiNetal:Trabeculec-tomywiththeuseofamnioticmembraneforuncontrolla-bleglaucoma.OphthalmicSurgLasersC29:428-431,C19989)森川恵輔:先進医療として実施された羊膜移植の適応と有効性.日眼会誌120:291-295,C201610)JiCQS,CQiCB,CLiuCLCetCal:ComparisonCofCtrabeculectomyCandtrabeculectomywithamnioticmembranetransplanta-tionCinCtheCsameCpatientCwithCbilateralCglaucoma.CIntJOphthalmolC6:448-451,C201311)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天庖瘡のC1例.日眼会誌C110:12-317,C200612)BauerCD,CWasmuthCS,CHennigCMCetCal:AmnioticCmem-branetransplantationinducesapoptosisinTlymphocytesinCmurineCcorneasCwithCexperimentalCherpeticCstromalCkeratitis.InvestOphthalmolVisSciC50:3188-3198,C200913)HeH,LiW,ChenSYetal:SuppressionofactivationandinductionCofCapoptosisCinCRAW264.7CcellsCbyCamnioticCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:4468-4475,C200814)HeCH,CLiCW,CTsengCDYCetCal:BiochemicalCcharacteriza-tionandfunctionofcomplexesformedbyhyaluronanandtheCheavyCchainsCofCinter-a-inhibitor(HC・HA)puri.edCfromextractsofhumanamnioticmembrane.JBiolChem284:20136-20146,C200915)EspanaEM,HeH,KawakitaTetal:Humankeratocytesculturedonamnioticmembranestromapreservemorphol-ogyCandCexpressCkeratocan.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:5136-5141,C200316)KiuchiCY,CYanagiCM,CNakamuraCT:E.cacyCofCamnioticCmembrane-assistedCblebCrevisionCforCelevatedCintraocularCpressureafter.lteringsurgery.ClinOphthalmolC4:839-843,C201017)山田裕子:羊膜移植併用緑内障手術.あたらしい眼科C28:C827-828,C201118)MoriCK,CIkedaCY,CMaruyamaCYCetCal:AmnioticCmem-brane-assistedCtrabeculectomyCforCrefractoryCglaucomaCwithcornealdisorders.IntMedCaseRepJC9:9-14,C2016***

リパスジル点眼液の患者背景別眼圧下降効果

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1114.1116,2018cリパスジル点眼液の患者背景別眼圧下降効果鈴木加奈子*1白戸勝*2北村裕太*2山本修一*2*1千葉ろうさい病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学CE.cacyofRipasudilonVariousPatientBackgroundsKanakoSuzuki1),SuguruShirato2),YutaKitamura2)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,ChibaUniversity目的:リパスジル点眼液の眼圧下降効果を患者背景別に検討する.対象および方法:リパスジル点眼が追加処方された症例のうちC6カ月以上経過観察できたC54例C78眼を対象とし,男女別,年齢別,点眼投薬数別,投与前眼圧別,病型別に投与後C6カ月の眼圧下降率を検討した.また,有意に眼圧下降を示した背景について投与後1,3,6カ月の眼圧の推移を検討した.結果:全症例の投与後C6カ月の平均眼圧下降率はC14.9%で有意な眼圧下降を認めた(p<0.001).病型別では広義原発開放隅角緑内障C13.2%に対しステロイド緑内障C41.3%,投与前眼圧別ではC15CmmHg未満C4.0%に対してC21CmmHg以上C26.6%で,有意差を認めた(p<0.05).年齢別,男女別,投薬数別では有意差がみられなかった.結論:リパスジル点眼液は投与前眼圧値が高い症例,ステロイド緑内障でとくに高い眼圧下降率を示した.CPurpose:Weretrospectivelyexaminedthee.cacyofripasudilonvariouspatientbackgrounds.Methods:78eyesCofC54CpatientsCwhoCwereCprescribedCripasudilCandCobservedCforCmoreCthanC6CmonthsCwereCeligibleCforCthisstudy.CAtC1,C3CandC6CmonthsCafterCprescriptionCofCripasudil,CweCexaminedCintraocularCpressure(IOP)changeCwithregardtovariousbackgrounds:sex,age,numberofeyedropsprescribed,baselineIOPandappearanceofdisease.Results:IOPCsigni.cantlyCreducedCtoC14.9%ClowerCthanCbaselineCatC6CmonthsCafterCprescription(p<0.001).CThehighbaselineIOPgrouphadahighrateofIOPreductioncomparedtothelowbaselinegroups(p<0.05).Theste-roid-inducedCglaucomaCgroupChadCaChighCrateCofCIOPCreductionCcomparedCtoCtheCprimaryCopen-angleCglaucomagroup(p<0.01).Conclusion:Additionofripasudile.ectivelyreducesIOP,especiallyinhighbaselineIOPandste-roid-inducedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1114.1116,C2018〕Keywords:リパスジル,緑内障,患者背景,ステロイド緑内障.Ripasudil,glaucoma,backgroundsofpatients,steroid-inducedglaucoma.Cはじめにリパスジル点眼液は,線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水排出を促進する作用を有する1).その作用機序は,Schlemm管内皮細胞の巨大空胞の増加2),線維柱帯細胞の骨格・収縮変化1),線維柱帯における細胞外マトリクス産生抑制3),細胞間接着の変化2)が関与している.治験では単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール点眼への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果が得られている4,5).リパスジル点眼薬は,既存の眼圧下降点眼薬とは異なる機序で奏効するため,その効果の特性も異なる可能性が考えられる.臨床的にリパスジル点眼薬が追加投与され,良好な眼圧下降効果を得られることが報告されているが5),筆者らは患者背景別に検討することで効果の特性を明らかにすることを考えた.今回,リパスジル点眼液を追加処方された症例の眼圧下降効果を患者背景別,病型別に後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年4月1日.2016年5月20日に千葉大学医学部附属病院に通院中でリパスジル点眼液を追加処方され,6カ月以上経過を追えたC54例C78眼を対象とした.配合剤点眼薬はC2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわ〔別刷請求先〕鈴木加奈子:〒260-8677千葉県千葉市中央区亥鼻C1-8-1千葉大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanakoSuzuki,DepartmentofOphthalmology,ChibaUniversity,1-8-1Inohana,Chuou-ku,Chiba-shi,Chiba260-8677,JAPAN1114(108)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(108)C11140910-1810/18/\100/頁/JCOPY性別年齢別投与前値別投薬数別男女<6565≦<1515~2121≦4剤目5剤目7剤目(55)(23)(28)(50)(12)(51)(15)(16)(60)(2)投与前眼圧(mmHg18.019.018.318.312.817.724.418.018.417.5)n0-5-10-15(%)-20-25-30※-35※p<0.05(Mann-Whitney’sUtest)図1眼圧下降率(患者背景別)らずC2剤として解析した.それぞれの患者について,リパスジル点眼液投与前眼圧と投与後1,3,6カ月後の眼圧を後ろ向きに調査し,患者背景別,病型別に投与前と投与後C6カ月の眼圧下降率を比較した.また,眼圧下降率に有意差を認める背景,病型について投与前から投与後C6カ月までの眼圧推移を検討した.眼圧下降率の比較にはCMann-Whitney’sUtestを用い,眼圧推移の投与前と投与後の比較はCpairedCt-testを用い,いずれもp<0.05を有意水準とした.CII結果対象は男性C38例C55眼,女性C16例C23眼,年齢はC66.0C±13.0歳(平均値C±標準偏差)だった.リパスジル点眼液はC4剤目として投与されたものがC16眼(20.5%),5剤目がC60眼(76.9%),7剤目がC2眼(2.6%)だった.病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)56眼,閉塞隅角緑内障C1眼,落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎C5眼,血管新生緑内障C2眼,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎に伴う眼圧上昇C1眼,外傷性緑内障C1眼であった.全症例の眼圧経過は投与前,投与後C1カ月,3カ月,6カ月でそれぞれC18.3C±4.1,15.5C±3.6,15.5C±3.5,15.2C±4.1mmHgで,いずれの時点でも有意な眼圧下降を認めた(p<0.001).また,全症例の投与後C6カ月での眼圧下降率はC14.9C±22.3%であった.患者背景別では,性別,年齢別,投薬数別で眼圧下降率に有意差を認めなかったが,投与前眼圧別ではC15CmmHg未満4.0%C±26.3%,15CmmHg以上C21CmmHg未満C14.1C±20.3%,21CmmHg以上C26.6C±21.7%であり,投与前眼圧の高い群で有意に眼圧下降率が高かった(p<0.05)(図1).投与前眼圧別の眼圧推移は,15CmmHg以上C21CmmHg未満,21CmmHg広義落屑ぶどうPOAG緑内障膜炎n(56)(6)(5)投与前眼圧(mmHg)17.718.018.40-10-20(%)-30-40-50-60※※ステロイド50%以上の緑内障周辺虹彩前癒着(5)(3)20.022.0※※p<0.01(Mann-Whitney’sUtest)図2眼圧下降率(病型別)以上の両群で投与前眼圧と比較して投与後いずれの時点でも有意な眼圧下降を示したのに対し(p<0.01),15CmmHg未満の群は投与後すべての時点で有意な眼圧下降を示さなかった.病型別の投与後C6カ月での眼圧下降率は広義CPOAG13.2C±17.1%,落屑緑内障C13.1C±28.7%,ぶどう膜炎C21.1C±49.8%,ステロイド緑内障C41.3C±23.2%,50%以上の周辺虹彩前癒着を認める症例C9.1C±4.5%だった.広義CPOAGを基準に考えると,ステロイド緑内障は有意に高かった(p<0.01)(図2).広義CPOAGの眼圧推移は投与前眼圧と比べ,投与後いずれの時点でも有意な眼圧下降を示した(p<0.01)のに対し,ステロイド緑内障は術後C1カ月,6カ月で有意であったものの(p<0.05),術後C3カ月で有意差はみられなかった.しかし,ステロイド緑内障は広義CPOAGに比べ,術後C6カ月の時点で大きな眼圧下降幅を示した.C(109)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1115III考按今回リパスジル点眼の眼圧下降効果を患者背景別,病型別に調査してみたところ,投与前眼圧値別において眼圧が高い群で他の群より眼圧下降率がよいこと,病型別ではステロイド緑内障で広義CPOAGより眼圧下降率が高いことが示された.緑内障治療薬ではベースライン眼圧が高いほど,眼圧下降効果が強調される傾向にあるが,リパスジルに関しても承認前臨床試験においてベースライン眼圧が優位な背景因子であることは証明されており6),今回も同様の結果となった.ステロイド緑内障については,今回の調査ではC5例とも点眼ではなくステロイド内服による眼圧上昇を認めた患者であった.標本数がC5例と少なかったため投与後C3カ月の眼圧下降に有意差を認めなかったものの,投与後C6カ月で眼圧下降幅は広義CPOAGより大きくなった.ステロイド投与によって線維柱帯における細胞外マトリクス産生が活発になると報告されており7),ステロイド緑内障の眼圧上昇の原因と考えられる.リパスジルは線維柱帯において細胞外マトリクスの産生を抑制する作用を有しているため3),この病型においてとくに高い眼圧下降を発揮したと考えられる.病型別ではぶどう膜炎の症例も有意差は認めないものの高い眼圧下降率を示した.今回はすべての症例でステロイド点眼をしており,前眼部炎症は軽快していたため,ステロイドによる眼圧上昇であった可能性は否定できない.リパスジルにはぶどう膜炎に対して消炎効果を認めるとの報告や8),ROCK阻害薬は実験的に白血球接着や炎症細胞浸潤を抑制することで抗炎症作用をもつことが示されており9),本症例は明らかな炎症は認めなかったが,リパスジルが消炎による眼圧下降にも寄与していたと考えられる.また,広範囲周辺虹彩前癒着のある患者についてもC3例のみであるが検討した.線維柱帯に直接作用する範囲が狭いため予想どおり低い眼圧下降率となったが,有意差は認めなかった.リパスジル点眼液は投与前眼圧が高い症例,ステロイドによる眼圧上昇を認める症例に対して高い眼圧下降率を示した.今回の調査ではとくに病型別で十分な標本数を得られず,6カ月と短期の経過観察期間であったため,今後も調査を継続することが必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetCal:E.ectsCofCRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)KamedaT,InoueT,InatamiMetal:Thee.ectofRho-associatedCproteinCkinaseCinhibitorConCmonkeyCSchlemm’sCcanalCendothelialCcells.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C3098-3103,C20123)FujimotoCT,CInoueCT,CKamedaCTCetCal:InvolvementCofCRhoA/Rho-associatedkinasesignaltransductionpathwayinCdexamethasone-inducedCalterationsCinCaqueousCoutC.ow.InvestOphthalmolVisSciC53:7097-7108,C20124)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsCofCaCselectiveCRhoCkinaseCinhibitor,CK-115.CJAMACOphthalmolC131:1288-1295,C20135)InoueK,SetogawaA,IshidaKetal:IntraocularpressurereductionCwithCandCprescriptionCpatternsCofCripasudil,CaCRhoCkinaseCinhibitor.CAtarashiiCGankaC33:1774-1778,C20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearcliniC-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20167)RohenCJW,CLinnerCE,CWittmerCRCetCal:ElectronCmicro-scopicCstudiesConCtheCtrabecularCmeshworkCinCtwoCcasesCofcorticosteroidglaucoma.ExpEyeResC17:19-31,C19738)YasudaCM,CTakayamaCK,CKandaCTCetCal:ComparisonCofCintraocularpressure-lowinge.ectsofripasudilhydrochlo-rideChydrateCforCin.ammatoryCandCcorticosteroid-inducedCocularhypertension.PLoSOneC12:e0185305,C20179)UchidaCT,CHonjoCM,CYamagishiCRCetCal:TheCanti-in.am-matoryCe.ectCofCripasudil(K-115),CaCRhoCkinase(ROCK)Cinhibitor,onendotoxin-induceduveitisinrats.InvestOph-thalmolVisSciC58:5584-5593,C2017***(110)C

低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):999.1001,2018c低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例西田功一岡本紀夫高田園子杉岡孝二髙橋(児玉)彩福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CACaseofRing-ShapedEpithelialKeratopathyAccompaniedbyHypothermiaKoichiNishida,NorioOkamoto,SonokoTakada,KojiSugioka,AyaKodama-Takahashi,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineLandolt環型角膜上皮症は,特異な形態を呈する角膜上皮病変であり,原因や病態について不明である.今回,筆者らは緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.症例はC58歳,男性.2008年より緑内障にて経過観察をしていた.2012年C2月の定期受診時に細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁状の特異な病変を数カ所認めた.自覚症状はなかった.角膜ヘルペスが疑われたためアシクロビル眼軟膏などで治療した.病変はC3カ月後には,消失した.本症例は,脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温があり,それが誘因の一つと推察された.CLandoltring-shapedepithelialkeratopathy,acornealepitheliallesionexhibitingasingularform,isunclearastoitscauseandcondition.WereportacaseofLandoltring-shapedepithelialkeratopathyaccompaniedbyprimaryopenangleglaucomaandhypothermiaduetohypothalamusdisorder.A58-year-oldmalesu.eringfromprimaryopenangleglaucomahadbeenfollowedupsince2008.InFebruary2012petalineepitheliopathywasobservedinbothcorneas,withnosubjectivesymptoms.Wesuspectedherpetickeratitisandprescribedaciclovireyeointment.TheCpetalineClesionsCdisappearedCafterCthreeCmonths.CWeCdiagnosedCthisCcaseCasCLandoltCring-shapedCepithelialCkeratopathybecauseofitstypicalappearance.Itissuggestedthathypothermiaduetohypothalamusdisorderwasrelatedtothisepitheliopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):999.1001,C2018〕Keywords:ランドルト環型角膜上皮症,低体温,視床下部障害,緑内障.Landoltring-shapedepithelialkeratop-athyhypothermia,hypothalamusdisorder,glaucoma.CはじめにLandolt環型角膜上皮症はC1992年に大橋らが報告した特異な形態を呈する角膜上皮病変である1).特徴としては,小さいCLandolt環状の上皮病変が花弁状に集まったような特異な上皮病変である.両眼性が多く,再発性で冬期に再発することが多いのも特徴である.わが国では現在まで計C16例の報告がある1.6)が,いまだにその原因については解明されていない.今回,緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例58歳,男性.主訴はとくになし.既往歴としては未破裂脳動脈瘤の手術により視床下部が障害され低体温であった.両眼の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),眼内レンズ挿入眼にて,東京の眼科医院にて経過観察されていた.転勤のため,2008年より近畿大学医学部附属病院眼科を定期受診中であった.2012年C2月C15日の緑内障の定期受診のときに,細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁のような特異な形態を数カ所認めた.フルオレセイン染色では花弁状の部分は上皮の盛り上がった小さいLandolt環が丸い形に集まっている所見であった(図1).前房に炎症所見などを認めなかった.異物感などの自覚症状はなく,視力は右眼C1.2C×IOL×sph.2.0D,左眼C1.0C×IOL×sph.1.25D(cyl.0.75DCAx70°.眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕西田功一:589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KoichiNishida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(149)C999図12012年2月15日の前眼部写真上段はディヒューザーによる観察で左が右眼,右が左眼.下段はフルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.フルオレセイン染色でCLandolt環状の角膜上皮病変が円形に配列し,花弁状となった病変が両眼に認められた.図22012年2月21日の前眼部写真フルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.角膜病変は退縮傾向を認めた.眼C13CmmHgであった.眼底所見は両眼ともに視神経乳頭陥凹拡大を認めた(右眼CC/D=0.8,左眼CC/D=0.9).そのときの緑内障点眼はカルテオロール塩酸塩点眼液(両眼C×1),ラタノプロスト点眼液(両眼C×1),ブリンゾラミド点眼液(左眼C×2)であった.2012年C2月C21日の再診時には花弁状の角膜病変は退縮傾向であった(図2).非典型的であるが,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方した.同時に,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreaction:PCR)で単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)を調べたが陰性であった.3カ月後の再診時には再発を認めなかった.現在のところ再発を認めていない.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,角膜上皮病変の形態が視力検査に用いられる「Landolt環」に類似していることから命名された病気である.小さいCLandolt環状の病変は輪状に配列することが特徴である.本症例も既報とほぼ同じ上皮病変であった.過去の症例を表1にまとめる.主訴としては異物感の訴えが多く,性別は女性が多く,両眼性が多く,冬季に発症が多いことがわかる.本症例では,自覚症状はなかった.また,1000あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(150)表1Landolt環型角膜上皮症の過去の報告のまとめ症例年齢(歳)性別側性主訴発症月眼疾患CCL全身疾患再発C13)C52女性両眼異物感疼痛12月C..甲状腺疾患C.23)C47女性両眼異物感霧視12月ドライアイC..+33)C48女性両眼異物感羞明11月ドライアイC..+43)C48女性両眼異物感霧視3月C..胃癌C.53)C73女性両眼異物感霧視2月白内障C.肺癌+63)C41女性両眼霧視疼痛3月C..肝炎,高血圧C.73)C17男性両眼疼痛3月アレルギー性結膜炎CHCLC..83)C17女性両眼疼痛12月C.HCLC..93)C71女性両眼視力低下12月緑内障,白内障C…103)C42女性片眼異物感疼痛3月C.SCLC..113)C49女性両眼異物感霧視12月C….126)C18男性両眼疼痛3月C.SCLC..132)C57女性両眼異物感11月高度近視CSCLC.+142)C87女性片眼異物感12月緑内障C…155)C41女性片眼異物感2月C.SCLC..164)C67女性両眼異物感12月C..肺癌C.17C58男性両眼C.2月C..脳動脈瘤C.症例C1.11はCInoueら3),症例C12は阪谷ら6),症例C13.14は小池ら2),症例C15は大久保ら5),症例C16は細谷4),症例C17は本症例である(症例C9はその後に再発が確認できたので改変している).両眼性で冬季に発症しているが再発はみられなかった.本症例は視床下部が障害のため低体温があり,このことが誘因の一つと考えられた.鑑別疾患として,角膜ヘルペス,Thy-geson点状表層角膜炎が考えられるが,単純ヘルペス角膜炎は今回両眼性で,real-timeCPCRでCHSV(-)であり,病変の形状からも否定的と考える.Thygeson点状表層角膜炎は病変の形状から否定的と考える.今回,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方したが,実際にはアシクロビルにより消失したとは考えにくく,自然消失したと考えられる.共著者の症例(症例9)も再度問診したところ低体温であった.症例数が少ないため低体温についての影響についてははっきりとしたことはいえない.発症時期は本症例も冬季に発症しており既報と同じであった.Landolt環型角膜上皮症の発症機序についてはいまだに不明な点が多く,ウイルスが原因ではないかとも考えられている2).CLの既往や眼疾患についても検討中である.今後症例数の増加に伴い発症機序が明らかになることが期待される.Landolt環型角膜上皮症は重症例はないが両眼性再発性であるので注意深く経過観察する必要があると考えられた.文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:596-595,C19922)小池美香子,杤久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC2例.眼紀49:31-34,C19983)InoueCT,CMaedaCN,CZhengCXCetCal:LandltCring-shapedCepithelialCkeratopathy.CACnovelCclinicalCentityCofCtheCcor-nea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20154)細谷比左志:ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科C31:1631-1632,C20145)大久保裕史:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.長野県医学会雑誌44:84-85,C20146)阪谷洋士:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.眼臨C89:C424-425,C1995***(151)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C1001

エクスプレス®の結膜上への露出症例の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):987.991,2018cエクスプレスRの結膜上への露出症例の検討高木星宇上野勇太大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科CReviewofCaseswithExposureofEX-PRESSRDeviceSeiuTakagi,YutaUenoandTetsuroOshikaCDepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity目的:エクスプレスR(アルコン)挿入術後の特有な合併症として,結膜上へのデバイス露出がある.今回,露出した症例の特徴について検討した.対象および方法:平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスCR挿入術を施行したC151例C169眼を対象に,後ろ向き調査を行った.エクスプレスCRが結膜上へ露出した症例の露出時期,露出前の濾過胞の形状,治療経過,露出前後の眼圧について検討した.結果:エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であり,露出時期は術後C29C±14カ月,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHgであった.全例で濾過胞形成不全に陥り,3眼では複数回のCneedlingCrevision,2眼では別象限よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し,その後に露出した.露出後の眼圧はC20C±11CmmHgであり,露出前後で眼圧変化は認めなかった.結論:エクスプレスR挿入術後に濾過胞が平坦で追加治療を要する症例では,結膜上へのデバイス露出に注意が必要である.CPurpose:ToreportacaseseriesofEX-PRESSCR(Alcon)glaucoma.ltrationdeviceexposureontheconjuncti-va.Methods:Thisisaretrospectivechartreview,toidentifyallpatientswhoexperiencedEX-PRESSCRCexposurebetweenApril2012andApril2017.Datacollectedfrompatientchartsincludedtimetoexposure,shapeof.lteringbleb,CtreatmentCcourseCandCintraocularCpressure(IOP)C.CResults:4CeyesCofC4CpatientsCwereCcasesCinvolvingCEX-PRESSRCexposure.Averagetimetoexposurewas29±14months.Asthe.lteringblebswere.at,without.ltrationfunction,CallCeyesCrequiredCadditionalCtreatmentCpostoperatively,CsuchCasCanti-glaucomaCmedications,CneedlingCrevi-sionsorBaerveldtR(AMO)shuntsurgeries.AverageIOPbeforeandafterexposurewas18C±10CmmHgand20±11CmmHg,respectively.Conclusions:AfterEX-PRESSCRCinsertion,therewerecasesofdeviceexposureonthecon-junctiva.Forrefractorycases,carefulexaminationsarenecessarypostoperatively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):987.991,C2018〕Keywords:緑内障,濾過手術,エクスプレスCR,結膜上露出.glaucoma,.ltrationsurgery,EX-PRESSCR,expo-sureontheconjunctiva.Cはじめに緑内障に対する観血的手術として,長年にわたり線維柱帯切除術がスタンダードであったが,その合併症の多さゆえに近年ではさまざまなインプラントデバイスを用いたチューブシャント手術が行われるようになっている.2011年C12月にわが国において医療機器の承認を取得したエクスプレスCR(アルコン)を使用した緑内障濾過手術は,従来の線維柱帯切除術と比較して術中・術後の合併症が少なく術後成績は同等であることが知られており,安全性の高い手技として広く行われている1,2).しかし,エクスプレスCR特有の術後合併症もあり,その一つとして術後にデバイスの一部が結膜上へ露出することがあげられる.今回,筆者らはエクスプレスCR挿入術後にデバイスの一部が結膜上へ露出した症例の特徴について検討したので報告する.CI対象および方法筑波大学附属病院にて平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスR挿入術を施行し,5カ月以上経過観察が可能であったC151例C169眼を対象として,後ろ向き調査を行った.手術はいずれの症例も強膜の半層の深さで強膜フラップ〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8576茨城県つくば市天久保C2-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:YutaUeno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity,2-1-1Amakubo,Tsukubacity,Ibaraki305-8576,JAPAN表1患者背景症例原疾患エクスプレスR挿入時追加処置露出時期濾過胞形状合併症*眼圧CmmHg**(点眼数)露出前露出後強膜フラップ(mm)MMC塗布時間(分)65FCSOAGC3×3C3Cneedlingrevision2年7カ月C.atなし22(5)22(5)C64MCSOAGC3.5×3.5C3Cneedlingrevision10カ月C.atなし15(4)18(4)Cneedlingrevision61MCNVGC3×3C3CエクスプレスR交換濾過胞再建3年7カ月C.atなし31(5)34(5)CバルベルトR挿入88FCXFGC3×3C3バルベルトR挿入2年11カ月C.atなし5(0)5(0)*露出時の合併症:前房虚脱,過剰濾過,濾過胞感染,の有無.**露出前C3カ月間平均と露出後.点眼数は緑内障点眼の種類(配合薬はC2つ)をカウントした.SOAG:続発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,XFG:落屑緑内障.をC1層作製し,0.04%マイトマイシンCCの塗布処理をした後に,エクスプレスCRを強膜フラップ下から前房内へ穿刺し留置した.術後にエクスプレスCRが結膜上へ露出した症例について,治療経過,露出時期,露出前の濾過胞の形状,露出時の合併症,露出前後の眼圧および緑内障点眼数について検討した.CII結果エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であった.いずれの症例もエクスプレスCR挿入術後に濾過胞の形成が悪く眼圧コントロールに難渋し,追加処置や他の緑内障手術を要していた.エクスプレスCR挿入術を施行された全C169眼のうち追加処置を要した症例はC46眼(27.2%)であり,そのうちの割合ではC8.7%に露出を認めた.露出したC4眼の患者背景を表1に示す.エクスプレスCR露出時期は挿入後C29C±14カ月であり,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHg,露出後の眼圧はC20C±11CmmHgと露出前後において眼圧変化はみられず,使用していた緑内障点眼も露出前後で同様であった.以下に各症例を呈示する.〔症例1〕65歳,女性.眼既往歴:網膜色素変性症,30歳前後で両眼水晶体摘出術を施行された.現病歴:平成C18年より近医で続発開放隅角緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C25年C7月,緑内障点眼C5剤,アセタゾラミド内服併用下でも左眼圧コントロール不良のため当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.03(0.4×+13.0D(=cyl-1.50DAx90°),眼圧23mmHg,動的視野検査湖崎分類IV期.治療経過:平成C25年C8月,左眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C26年C9月に左眼Cneedlingrevisionを施行した.その後も眼圧コントロール不良のために追加処置を提案したが,動的視野検査では湖崎分類CV-b期に進行し残存視機能が乏しいために外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.平成C28年C3月(エクスプレスCR挿入後C2年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図1)ため,同年C4月に左眼エクスプレスCR抜去術を施行した.エクスプレスR露出部の結膜欠損部から結膜切開し,メスでデバイス刺入部をわずかに拡大し抜去した.すでに残存視機能はわずかであったため,そのまま強膜創をナイロン糸で強固に縫合した後,結膜と周囲組織の癒着を解除し強膜創を被覆するように結膜縫合を行った.視力手動弁,眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.〔症例2〕64歳,男性.眼既往歴:アトピー性皮膚炎に白内障を合併し,平成C3年に右眼水晶体再建術を施行された.現病歴:平成C21年C9月より右眼眼内レンズ偏位を指摘され,眼圧上昇を伴ったため当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.1C×IOL(1.2C×.5.25D(cyl.2.00DCAx90°),眼圧21mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stageIV.治療経過:右眼続発開放隅角緑内障に対して点眼加療を開始し,当初は眼圧下降が得られていたが,次第にスパイク状の眼圧上昇を呈するようになり,静的視野検査ではCAulhorn分類CstageVに進行した.平成C26年C2月,右眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C4月に右眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,以降は追加の外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.同年C12月(エクスプレスCR挿入後C10カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図2)ため,翌年C1月に右眼エクスプレスCR抜去術および濾過胞再建術(線維柱帯切除術)を施行した.症例C1と同様の手順で図1エクスプレスR露出直後の前眼部写真図2エクスプレスR露出直後の前眼部写真エクスプレスRの流出口を含む鍔の鼻側半分が露出した.エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が露出した.ab図3エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真a:エクスプレスRの流出口は含まず鍔の前方半分が露出した.b:エクスプレスRの鍔の部分はすべて露出した.CエクスプレスRを抜去し強膜創を縫合した後,その隣にC3C×3Cmm大の強膜フラップを新たに作製し,強角膜ブロック・線維柱帯・周辺部虹彩を切除した.房水の流出量を確認しながら強膜フラップをナイロン糸で縫合し,濾過胞を形成するように結膜縫合を行った.術後も眼圧下降が得られたのは短期間のみであり,徐々に視機能障害は進行し視機能消失,眼圧C25.30CmmHg程度で推移し現在に至っている.〔症例3〕61歳,男性.眼既往歴:特記事項なし.現病歴:平成C24年C10月,視力低下を主訴に前医受診,左眼増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障を指摘された.緑内障点眼C3剤による加療を開始され当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.2(0.7×+0.50D(cyl.1.50DAx100°),眼圧C18mmHg,眼軸長C24.27mm.治療経過:平成C24年C11月,左眼水晶体再建術および硝子体手術を施行したが,隅角に虹彩前癒着を全周に認め術後の眼圧上昇が収束せず,同月に左眼の鼻側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C12月に左眼CneedlingCrevisionを,平成C25年C3月に左眼エクスプレスR抜去術および同部位にエクスプレスR再挿入術を,その後も複数回の左眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,動的視野検査では湖崎分類CV-a期に進行した.平成26年C1月,左眼の耳側下方よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し眼圧下降は得られたものの,その後に動的視野検査では湖崎分類CVI期に至った.平成C28年C10月(エクスプレスR挿入後C3年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図3)が,本人の全身状態不良で抜去手術が不可能のため経過観察となった.最終受診時,視機能が消失しており眼圧C31CmmHgであった.〔症例4〕88歳,女性.眼既往歴:両眼水晶体再建術を施行された(手術時期不明).図4エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が限局的に露出した.2カ月(Ca)と4カ月(Cb)で露出範囲に変化はみられなかった.C現病歴:平成C17年より近医で落屑緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C21年C7月,点眼加療による眼圧コントロール不良で当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.7C×IOL(1.0×+0.5D(cyl.0.75DCAx90°),眼圧22mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stage0-1.治療経過:当初は緑内障点眼の調整にて眼圧下降が得られていたが,次第に眼圧コントロール不良となった.平成C25年C10月,右眼の鼻側上方よりエクスプレスCR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C27年C8月に右眼の耳側下方よりバルベルトR挿入術を施行した.術後は良好な眼圧下降が得られ,動的視野検査では湖崎分類CIV期で進行はみられず落ち着いていたが,平成C28年C10月(エクスプレスCR挿入後C2年C11カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図4).本人の全身状態不良で抜去手術に対する同意が得られず,現在まで経過観察となっている.露出後は視力(0.3),眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.CIII考按エクスプレスRは開発当初,結膜切開後に強膜上からそのまま前房内へ刺入し,結膜下から強膜を全層貫通させて固定していた.同術式が行われていた頃には,術後合併症として過剰濾過や眼内炎,結膜侵食,デバイス露出などが多数報告された3.5)ため,半層強膜フラップ下へ留置する術式へと改良され6.8),一般的な術式としてわが国においても広く施行されている.線維柱帯切除術と比較すると簡便な手技で行うことができ,術中の出血や前房虚脱などを生じにくく,デバイスによって濾過量の変動が抑えられるために,過剰濾過や脈絡膜.離といった術後の合併症も軽減できる.しかし,デバイスを留置することでの特有な合併症も生じており,その特徴や適切な対処法を検討する必要がある.エクスプレスR挿入術における特有な術後合併症の一つとして,結膜上へのデバイス露出があげられ,これまでにもいくつかの症例報告が散見される.Steinらは,エクスプレスR露出のC6例C8眼を報告した5).6眼は結膜下にデバイスを留置する改良前の術式であったが,2眼は強膜フラップ下にデバイスを留置する現行の術式であった.デバイス露出時期はエクスプレスCR挿入術から平均C8.5カ月(3.16カ月)であり,強膜フラップ下にデバイスを留置したC2眼はC6カ月と11カ月であった.また平野らは,強膜フラップ下に留置したエクスプレスRが術後C13カ月で結膜上に露出したC1例を報告した9).これらの報告によると,露出症例のエクスプレスR挿入術後の眼圧経過は正常範囲内もしくは高眼圧とコントロール不良であり,デバイス露出後にも房水漏出や低眼圧をきたすことはなかったとされている.今回,筆者らはC0.04%マイトマイシンCCを併用しエクスプレスRを強膜フラップ下へ留置するも,術後に結膜上へ露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼手術の既往があったことから,Tenon.の菲薄化および円蓋部への後退をきたしており,閉創時に強膜フラップへのCTenon.の被覆が十分にできなかった可能性があり,エクスプレスCRの露出の一因と考えられた.また,既報と同様で,4例ともエクスプレスCR挿入術後の濾過胞形成不全により眼圧コントロール不良であり,needlingrevisionや追加の緑内障手術,緑内障点眼を要して治療に難渋した症例であった.症例C1はエクスプレスR挿入時の結膜がきわめて薄く,房水漏出のリスクもあり縫合糸の抜糸が不十分であったこと,また,症例C2は重度のアトピー性皮膚炎があったことなどで,慢性的な眼表面の炎症がエクスプレスCRの露出の一因になった可能性が考えられた.症例C3,4はエクスプレスCR挿入術が奏効せず,追加手術として別象限からの緑内障手術を施行するも,留置したままにしていたエクスプレスRが露出しており,過去に平野らが報告した症例と同様の経過をたどった9).全C4例において,エクスプレスCRが露出したにもかかわらず前房消失や房水漏出を認めなかったことや,露出前後で著明な眼圧下降がみられなかったことも既報と同様であり,デバイス内腔が閉塞していたか,房水流出口の表面に線維増殖膜が形成され,デバイスが濾過機能を有していなかった可能性が考えられた.今回,患者の都合により抜去せずに経過観察したC2例において,その後も眼内炎や低眼圧を合併していないこともデバイスの濾過機能が消失していたことを支持する所見であった.デバイスの濾過機能が消失すると,房水流出が滞るために眼圧が高くなり,エクスプレスCRの鍔を強膜フラップまたは結膜側に圧しつける力が強くなる.また,デバイスからの房水流出が乏しく濾過胞の平坦な症例では,デバイスと強膜フラップまたは結膜の間にクッションとなる水隙が形成されないために,眼圧や眼瞼圧などの機械的な圧力がより強くかかってしまう.これらの要因から,エクスプレスCR挿入術後の眼圧コントロール不良例において,強膜フラップおよび結膜が菲薄化しデバイス露出に至った可能性が考えられた.今回のC4例は露出期間が平均C29C±14カ月であり既報に比較して長いことから,エクスプレスCR挿入術は長期的にもデバイス露出に注意する必要があると思われた.今回筆者らは,エクスプレスCR挿入術後にデバイスが結膜上に露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼圧コントロールに苦慮しており,別象限からの緑内障手術を追加された症例もあった.濾過胞が平坦で機能不全の症例においては,濾過胞再建術やその他の緑内障手術の際にデバイスそのものを抜去しておくなど,その後のデバイス露出のリスクを回避するような治療法を検討する必要があると考えられた.利益相反:大鹿哲郎(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,トーメーコーポレーション)文献1)ChanCJE,CNetlandCPA:EX-PRESSCglaucomaCfiltrationDevice:e.cacy,Csafety,CandCpredictability.CMedCDevices(Auckl)8:381-388,C20152)MarisCPJ,CIshidaCK,CNetlandCPA:ComparisonCofCtrabecu-lectomyCwithCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCdeviceCimplantedunderscleral.ap.JGlaucomaC16:14-19,C20073)Gandol.CS,CTraversoCCF,CBronCACetCal:Short-termCresultsCofCaCminiatureCdrainingCimplantCforCglaucomaCinCcombinedsurgerywithphacoemulsi.cation.ActaOphthal-molScandSupplC66:236,C20024)StewartCRM,CDiamondCJG,CAshmoreCEDCetCal:Complica-tionfollowingEx-Pressglaucomashuntimplantation.AmJOphthalmolC140:340-341,C20055)SteinCJD,CHerndonCLW,CBrentCBJCetCal:ExposureCofCEx-PRESSminiatureglaucomadevices:caseseriesandtech-niqueCforCtubeCshuntCremoval.CJCGlaucomaC16:704-706,C20076)WamsleyS,MosterMR,RaiSetal:ResultsoftheuseoftheCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCimplantCinCtechnicalychallenging,CadvancedCglaucomaCcases:aCclinicalCpilotCstudy.AmJOphthalmolC138:1049-1051,C20047)RivierD,RoyS,MermoudA:Ex-PRESSR-50miniatureglaucomaCimplantCinsertionCunderCtheCconjunctivaCcom-binedCwithCcataractCextraction.CJCCataractCRefractCSurgC33:1946-1952,C20078)DahanCE,CCarmichaelCTR:ImplantationCofCaCminiatureCglaucomaCdeviceCunderCaCscleraC.ap.CJCGlaucomaC14:C98-102,C20059)平野仁美,西條裕正,伊藤格ほか:Ex-PRESSが結膜上露出をきたしたC1例.眼科手術30:510-513,C2017***

緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):976.980,2018c緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討柴田瞳澤田有松井孝子吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座CDi.erencebetween30-2and24-2VisualFieldProgramsinGlaucomaHitomiShibata,YuSawada,TakakoMatsuiandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:緑内障眼において,HFASITA-Standardで測定したC30-2およびC24-2プログラムの測定結果について検討する.対象および方法:30-2からC24-2へC1年以内に切り替えを行い,GPAが可能であった緑内障患者C67例C67眼において,30-2およびC24-2の単一視野解析とC30-2,24-2で共通の測定点C54点のCGPA解析結果について,さらに視野障害の部位により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,測定時間,信頼係数について比較検討した.結果と考察:プログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮につながった.周辺C22点を排除しても,MD,PSD,VFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型では切り替えでCPSDが低くなる傾向が,中心C54点障害型では切り替えでCVFIが低くなる傾向が示唆された.視野進行を評価する際,視野の感度低下の部位に注意しながら各パラメータについて検討する必要がある.CWeCcomparedC30-2CandC24-2CVFCprogramsCinCglaucoma,CenrollingC67CeyesCofC67CglaucomaCpatientsCwhoChadCundergoneCbothC30-2CandC24-2CVFsCwithinCtheCpreviousC12Cmonths,CandCinCwhomCGPACcouldCbeCperformed.CRegardingCresultsCofC30-2CandC24-2CsingleCvisualC.eldCanalysisCandCtheC54CpointsCusedCinCGPA,CweCdividedCthepatientsinto2groups:thosewithmoredamageatthe22peripheralpoints(22pointsgroup)andthosewithmoredamageCatCtheC54CcentralCpoints(54CpointsCgroup).CWeCthenCinvestigatedCMD,CPSD,CVFI,CmeasurementCtimeCandCcon.dencecoe.cientfrombothtests.Itwassuggestedthattestpointreductionduetoaprogramchangeledtoreductionofmeasurementtime.StrongcorrelationwasfoundbetweenMD,PSDandVFI,evenifthe22peripheralpointswereexcluded.However,PSDtendedtobelowerinthe22pointsgroup,andVFItendedtobelowerinthe54centralpointsgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):976.980,C2018〕Keywords:緑内障,自動視野検査,Humphrey自動視野計,緑内障視野進行解析,30-2,24-2.glaucoma,auto-matedvisual.eldexamination,Humphrey.eldanalyzer,guidedprogressionanalysis,30-2,24-2.Cはじめに緑内障症例に実施するCHumphrey自動視野検査計(Hum-phreyCFieldCAnalyzer:HFA.CarlCZeissCMeditec,Dub-lin,CA,USA)プログラムとして,30-2とC24-2SwedishlnteractiveCThresholdCAlgorithm(SITA)-Standardがよく用いられる1).視野の周辺感度は,検査時間や刺激偏心度の増加に伴い低くなるため2.4),24-2プログラムは,30-2プログラムの外側C22点のテストポイントを除外することによって,上眼瞼を含むアーチファクトや信頼性の低い点を排除し,さらに検査時間を短縮し,検査結果のばらつきを少なくする効果があるといわれている5).しかし,緑内障は長期の経過観察が必要な慢性疾患であり,転居などによって経過観察する施設が変化することがたびたびある.患者データの一貫性を保つことが,緑内障診療の質の向上,医療費の抑制,緑内障診療のさらなる改善に大きく貢献を果たすことが期待されており6.8),30-2とC24-2も施設によりどちらをおもに使用するかが異なるため,30-2とC24-2の結果について比較検討する必要があると思われる.〔別刷請求先〕柴田瞳:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:HitomiShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1,Hondo,Akita010-8543,JAPAN976(126)今回,同一症例で測定されたC30-2とC24-2プログラムの単一視野解析およびCGuidedProgressionAnalysis(GPA)の結果について,全症例,さらに視野障害の部位によりグループ分けし,MeanCDeviation(MD),PatternCStandardCDevi-ation(PSD),VisualFieldIndex(VFI),検査時間,信頼係数を用いて比較検討したので報告する.なお,GPAはC30-2とC24-2プログラムを混在させて解析可能であるが,30-2とC24-2が混在する場合には,30-2はC24-2としてC24-2の測定点のみが解析に使用される.CI対象および方法秋田大学医学部附属病院眼科において経過観察中の緑内障症例のうち,2015年C8月以降にC30-2からC24-2に切り替えを行い,30-2とC24-2の検査間隔がC1年以内の症例のうち,信頼性のあるCHFA検査をC5回以上施行し,GPAが可能であった症例C67例C67眼に対して,後ろ向きに調査を行った.症例の選択基準は,前眼部,中間透光体に異常がなく,視野に影響しうる緑内障以外の眼疾患がなく,経過観察中にレーザー治療を含む眼内手術の既往がなく,視神経に影響を及ぼす投薬歴がない,HFAの測定プログラムCSITA-Standard30-2で測定された後,1年以内にC24-2で測定されている,HFA検査における信頼係数(固視不良,偽陰性,偽陽性)のいずれもC20%未満の症例とした.視野欠損型の分類として,30-2からC24-2への切り替え直前のC30-2における中心C54点の各測定点のCTotalCDevia-tion(TD)の平均と周辺C22点の各測定点のCTDの平均を比較して,22点のCTDの平均がC54点のCTDの平均よりも低値の群,つまり周辺の感度が悪い群(以下,周辺C22点障害型)と,54点のCTDの平均がC22点のCTDの平均よりも低値の群,つまり中心の感度が悪い群(以下,中心C54点障害型)のC2群と設定し検討した.解析項目としては,全例を対象とした場合と,視野欠損のパターン別に,MD,PSD,VFI,信頼係数,測定時間より30-2とC24-2を比較した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,それらのCMD,PSD,VFIの相関について,Spearman順位相関係数を用いて検討した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,各パラメータを検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.次に,視野欠損型により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,30-2とC24-2の各パラメータについて比較検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.すべての統計解析にはCEZRを使用した.CII結果解析対象は,67例C67眼であった.平均年齢はC63.2C±14.8歳,平均観察期間はC247.0C±74.2日であった.67眼中,周辺C22点障害型はC25眼(37.3%),中心C54点障害型はC42眼(62.7%)であった.30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関を表1に,相関図を図1に示す.MDおよびCPSDにおいて,30-2とC24-2,24-2とCGPA,30-2とGPAの間の相関係数はそれぞれ,MDはC0.963,0.961,0997,PSDはC0.970,0.967,0.995と,それぞれ有意な強い相関がみられた.VFIに関しても,30-2とC24-2の相関係数はC0.968と有意な強い相関がみられた.30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表2に示す.MDは,30-2でC.6.70±5.70dB,24-2でC.7.23±6.03dBとC24-2で有意に低くなった(p<0.05).PSDに関しても,30-2でC8.72C±5.50CdB,24-2でC7.85C±5.26CdBと有意に低くなった(p<0.05).VFIに関しても,30-2でC82.25C±16.35%,24-2でC80.70C±17.03%と有意に悪化がみられた(p<0.05).検査時間は,30-2でC7.57C±0.06分,24-2でC6.03C±0.05分と,24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかった.視野障害型別に,30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表3に示す.周辺C22点障害型において,MDとVFIはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,PSDに関しては,30-2でC10.22C±5.51CdB,24-2でC9.34C±5.29CdBと有意に低くなった(p<0.05).検査時間は,30-2でC8.25C±0.06分,24-2でC6.24C±0.05分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).中心C54点障害型において,MDとCPSDはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,VFIはC30-2でC86.67C±14.04%,24-2でC84.48C±15.45%と有意に低くなった(p<0.05).検査時間に関しては,30-2でC7.41C±0.05分,24-2でC5.50C±0.04分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差はなかった.CIII考察緑内障症例C67例C67眼について,30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関,全症例におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較,周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較について検討した.全症例において,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数表130-2と24-2の単一視野解析およびGPA解析におけるMD,PSD,VFIの相関30-224-2GPA(n=67)C(n=67)C(n=67)C30-2CvsC24-2C24-2vsGPAC30-2vsGPAMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03C.7.09±6.04Crs=0.963(p<0.05*)Crs=0.961(p<0.05*)Crs=0.997(p<0.05*)PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26C7.56±5.23Crs=0.970(Cp<C0.05*)Crs=0.967(Cp<C0.05*)Crs=0.995(Cp<C0.05*)VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03C82.25±16.35Crs=0.968(Cp<C0.05*)*Spearman順位相関係数Cabc10-10-20-20100-10-20-20100-10-20-20-10010-10010-1001024-2MD(dB)GPAMD(dB)GPAMD(dB)defg10090807060502015105201510520151050000400040506070809010024-2PSD(dB)GPAPSD(dB)GPAPSD(dB)24-2VFI(%)図130-2と24-2の単一視野解析およびGPAにおけるMD,PSD,VFIの相関a:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとC24-2のCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.963,p<0.05).Cb:全症例C67例C67眼のC24-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.961,p<0.05).Cc:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.997,p<0.05).Cd:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとC24-2のCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.970,p<0.05).Ce:全症例C67例C67眼のC24-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.960,p<0.05).Cf:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.995,p<0.05).Cg:全症例C67例C67眼のC30-2のCVFIとC24-2のCVFIの相関.VFIは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.968,p<0.05).表230-2と24-2の平均パラメータの比較についてC30-2とC24-2を比較すると,24-2への切り替えで,30-224-2MD,PSD,VFIはいずれも有意に低くなった.今回は,す(n=67)C(n=67)Cpべての症例がC30-2からC24-2への切り替えで,平均検査間***隔がC247.03C±74.15日であり,その間の進行の可能性も考えMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03<0.05***PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26<0.05られるが,今後の検討課題である.また,検査時間に関して***VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03<0.05**は,24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,24-2検査時間(分)C7.57±0.06C6.03±0.05<0.05固視不良(%)C6.12±5.63C7.14±5.98C0.304***の検査時間は30-2の76%に,24%短縮された.Khoury偽陰性(%)C0.03±0.05C0.03±0.04C0.586***ら5)は,健常人において,24-2の検査時間はC30-2と比較し偽陽性(%)C0.03±0.03C0.03±0.03C0.342***て約28%短縮されることを示し,またいくつかの文献で**対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定.は9,10),試験時間の増加とともに検査閾値のばらつきは増加51015205101520510152030-2PSD(dB)30-2MD(dB)表3視野障害型別30-2および24-2の平均パラメータの比較周辺C22点障害型(n=25)中心C54点障害型(n=42)C30-2C24-2CpC30-2C24-2CpMD(dB)C.9.36±6.18C.9.51±6.72C0.542***C.5.12±7.80C.5.87±5.21C0.955***PSD(dB)C10.22±5.51C9.34±5.29<C0.05***C7.10±5.22C6.97±5.09C0.0542***VFI(%)C74.84±17.53C74.36±17.99C0.583***C86.67±14.04C84.48±15.45<C0.05***検査時間(分)C8.25±0.06C6.24±0.05<C0.05**C7.41±0.05C5.50±0.04<C0.05**固視不良C6.02±5.29C7.84±5.99C0.281***C6.18±5.88C6.72±6.00C0.629***偽陰性C0.03±0.05C0.03±0.05C0.752***C0.03±0.04C0.03±0.03C0.618***偽陽性C0.03±0.03C0.03±0.03C0.338***C0.03±0.03C0.03±0.03C0.64*****対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定し,患者の疲労は試験の正確性と再現性を失うことを示しており,検査時間を短縮することにより被験者の快適性を高め,患者の注意力を改善し,結果として検査結果の変動性を低減することが予想される.本研究では,24-2への切り替えで検査時間がC24%短縮され,患者負担を軽減できたと考えられるが,それが検査信頼値の向上には繋がらなかった.検査信頼値の向上には患者の検査への理解力などの個人的因子に対する配慮の必要性も示唆される11).また,今回は30-2からC24-2への切り替え直後に,その切り替え前後の単一視野解析を用いて検討したが,今後は時間をかけて複数回の検査結果を用いた検査の正確性と再現性の検討が必要であると考えられる.周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数についてC30-2とC24-2を比較すると,周辺C22点障害型においては,MDとCVFIは24-2へ切り替えても有意な変化はみられなかったが,PSDは有意に低くなった.24-2への切り替えで,全体的な感度として有意な低下はないものの,感度の低い最外側のテストポイントが除外されたことにより感度低下の分布の不均一が解消され,PSDが低くなったことが考えられる.中心C54点障害型においては,感度のよい最外側のテストポイントが除外されても,MDに有意な変化はみられなかったが,VFIは有意に低くなった.また,PSDが有意に変化するほどの感度低下の不均一性の変化はなかったものと考えられる.VFIは,BengtssonとCHeijl12)の示したCGlaucomaCProgressionIndex(GPI)で,PD確率プロットによる感度から残存視機能を算出したもので,MD値に比較して,大脳皮質拡大率や網膜神経節細胞の分布などを考慮して固視点に対して各C5°ずつ順にC3.29,1.28,0.79,0.57,0.45倍とより中心の測定点の比率配分を重く設定したものとなっており13,14),中心視野の重要度が加味されている15).周辺C22点障害型では,視野障害部位は感度の比率配分が小さいため,外側C22点のテストポイントを除外してもCVFIに有意な変化はみられなかったが,中心C54点障害型では,視野障害部位の感度の比率配分が大きいため,外側C22点のテストポイントを除外することにより,VFIは有意に低下した可能性が考えられる.また,検査時間に関しては,両群ともC24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,患者負担を軽減できたと考えられる.Khouryら5)は,緑内障患者においては,30-2と24-2はほぼ同等に結果を評価することが可能だが,3%の症例で周辺部の初期のわずかな神経線維束欠損を評価できないことがあると示しており,やはり視野の評価をする際には,視野障害の部位により,各パラメータについて注意深く検討する必要があることが示唆される.本研究より,30-2からC24-2へのプログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮,そして患者負担の軽減につながったと考えられた.30-2とC24-2の単一視野解析,GPAの結果より,周辺C22点を排除しても,MD,PSDおよびCVFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型ではC24-2への切り替えでPSDが低くなる傾向があり,中心C54点障害型においては,24-2への切り替えで,VFIが低くなる傾向があることが示唆された.視野進行を評価する際には,視野の感度低下の範囲に注意しながら,各パラメータについて検討する必要があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BengtssonB,OlssonJ,HeijlAetal:AnewgenerationofalgorithmsCforCcomputerizedCthresholdCperimetry,CSITA.CActaOphthalmolScandC75:368-375,C19972)SearleAET,WildJM,ShawDEetal:Time-relatedvari-ationinnormalautomatedstaticperimetry.Ophthalmolo-gyC98:701-707,C19913)HeijlCA,CDranceCSM:ChangesCinCdi.erentialCthresholdCinCpatientswithglaucomaduringprolongedperimetry.BrJOphthalmolC67:512-516,C19834)JohnsonCCA,CAdamsCCW,CLewisCRA:FatigueCe.ectsCinCautomatedperimetry.ApplOptC27:1030-1037,C19885)KhouryCJM,CDonahueCSP,CLavinCPJCetCal:ComparisonCof24-2and30-2perimetryinglaucomatousandnonglauco-matousCopticCneuropathies.CJCNeuroophthalmolC19:100-108,C19996)柏木賢治,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療の現状とデータ共通化の取り組み.日眼会誌120:540-547,C20167)柏木賢治:WEBを用いた診療情報提供が緑内障患者の疾患理解度に与える影響マイ健康レコードの医療リテラシー改善効果.日遠隔医療会誌7:30-34,C20118)KashiwagiCK,CTsukaharaCS:ImpactCofCpatientCaccessCtoCinternetChealthCrecordsConCglaucomaCmedicationCrandom-izedcontrolledtrial.JMedInternetResC16:15,C20149)HeijlCA,CLindgrenCG,COlssonCJ:TheCe.ectCofCperimetricCexperienceCinCnormalCsubjects.CArchCOphthalmolC107:C81-86,C198910)HudsonCC,CWildCJM,COC’NeillCEC:FatigueCe.ectsCduringCaCsingleCsessionCofCautomatedCstaticCthresholdCperimetry.CInvestOphthalmolVisSciC35:268-280,C199411)園田泰祐,兵頭涼子,田坂嘉孝:静的視野検査プログラムの変更に伴う検査結果の推移.日本視機能看護学会誌C1:C113-116,C201612)BengtssonB,HeijlA:Avisual.eldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmolC1452:C343-353,C200813)LeviaCDM,CKleinaCSA,CAitsebaomoaCAP:VernierCacuity,Ccrowdingandcorticalmagni.cation.VisionResC25:963-977,C198514)松本行弘:GuidedCProgressionCAnalysisCGPA2.眼科手術C21:467-470,C200815)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenCWR:RetinalCganC-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumanCeyesCwithCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC15:453-464,C1989***

多施設による緑内障患者の実態調査2016 年版 ─後発医薬品の使用─

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):971.975,2018c多施設による緑内障患者の実態調査2016年版─後発医薬品の使用─川島拓*1井上賢治*1塩川美菜子*1井上順治*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CCurrentStatusofTherapyforGlaucomaatMultipleOphthalmicInstitutionsin2016─UsageofGenericDrugsforGlaucomaPatients─TakuKawashima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:緑内障患者の治療実態を調査し,そのなかから後発医薬品の使用を検討する.対象および方法:57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例C4,288眼を対象とし,使用薬剤を調査した.単剤例,2剤例での後発医薬品の使用を調査し,2012年の前回調査と比較した.結果:単剤例ではプロスタグランジン(PG)関連薬のC12.3%,Cb遮断薬のC11.3%で後発医薬品を使用していた.2剤例ではCPG関連薬のC8.9%,Cb遮断薬のC1.6%で後発医薬品を使用していた.単剤例ではCPG関連薬,Cb遮断薬ともに前回調査(5.4%とC3.1%)より後発医薬品使用が有意に増加した.2剤例ではCPG関連薬は前回調査(4.6%)より後発医薬品使用が有意に増加し,Cb遮断後医薬発品は前回調査(3.3%)と同様だった.結論:後発医薬品は単剤例のC11.4%,2剤例のC7.5%で使用されていた.後発医薬品の使用は増加傾向にある.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCuseCofCgenericCdrugsCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CMeth-ods:Atotalof4,288eyesof4,288patientsfrom57institutionswereincluded.Theparticipantswhowereadmin-isteredCgenericCdrugsCasCmonotherapyCorCconcomitantlyCwereCinvestigated;resultsCwereCcomparedCtoCaCpreviousCstudyin2012.Results:Genericprostaglandin(PG)analogs(12.3%)andgenericb-blockers(11.3%)wereusedasmonotherapyandconcomitantly(8.9%,1.6%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGanalogsorb-blockersasmonotherapyincreasedincomparisontothepreviousstudy(5.4%,3.1%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGCanalogsCconcomitantlyCsurpassedCthatCofCtheCpreviousCstudy(4.6%)C,CwhereasCtheCnumberCusingCgenericCb-blockersCdidCnotCdi.erCsigni.cantlyCfromCtheCpreviousCstudy(3.3%)C.CConclusions:GenericCdrugCuseCasCmono-therapy(11.4%)andconcomitantly(7.5%)indicatesthattheuseofgenericdrugsisincreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):971.975,C2018〕Keywords:緑内障,後発医薬品,単剤例,2剤例.glaucoma,genericdrugs,monotherapy,additionaldrugs.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の視野障害進行抑制であり,唯一エビデンスが明確に示されている治療方法は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である1.5).緑内障診療ガイドライン1)では,緑内障の点眼薬治療は単剤投与から始めるが,目標眼圧に達しない症例では点眼薬の変更あるいは追加が推奨されている.点眼薬の追加を繰り返すと多剤併用となるが,多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となる6).実際に緑内障患者は緑内障点眼治療に対してさまざまな意見を有しており,そのことがアドヒアランス低下を引き起こしていると考えられる7,8).緑内障患者C182例の調査では点眼薬の使用感としてしみるC35例,かすむC34例,点眼手技としてうまく点眼できないC27例,点眼薬の価格が高いC26例などが報告された7).点眼薬がしみる,かすむは点眼薬の新たな開発,あるいは医師が点眼薬を選択する際に考慮することで,また点眼手技は点眼指導の徹底により改善できると考〔別刷請求先〕川島拓:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TakuKawashima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C971えられる.点眼薬の価格は後発医薬品の使用によりある程度は軽減できる.後発医薬品とは,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含む同一投与経路の製剤で,効能・効果,用法・用量が原則的に同一で,先発医薬品と同等の臨床効果が得られる医薬品である.後発医薬品を製造販売するためには,先発医薬品と同様に薬事法に基づいて厚生労働大臣から承認を得ることとなっている.そのために品質,有効性,安全性が先発医薬品と同等であることを証明する必要があり,試験の一つとして生物学的同等性試験が行われる.この試験では血中濃度推移が先発医薬品と同等であれば,同等の臨床効果を発揮するという考えに基づいている.しかし,後発医薬品では先発医薬品と異なり患者に対する治験は行われておらず,臨床現場での眼圧下降効果と安全性が十分に検討されていない.そこで慢性進行性疾患である緑内障患者に長期間使用するのが妥当であるかは不明である.厚生労働省では医療保険財政の改善と患者負担の軽減に資するとして後発医薬品の使用促進を積極的に努めており,今後ますますさまざまな点眼薬の後発医薬品が使用可能になると思われる.今回,後発医薬品の定義として日本眼科学会のホームページの眼科用剤一覧表(先発品・後発品)を用いた.具体的には後発医薬品として区分されているものを後発医薬品とし,配合点眼薬は先発医薬品として解析した.一方,臨床現場で緑内障点眼薬の後発医薬品がどのように使用されているかを調査した報告はない.筆者らは緑内障薬物治療の実態に興味を持ち,2007年より多施設による緑内障患者実態調査を開始した9).2009年に第C2回10),2012年に第C3回11),そしてC2016年に第C4回緑内障患者実態調査を施行した12).今回,第C4回緑内障患者実態調査のなかで後発医薬品に着目して検討を行った.また,後発医薬品の使用について前回調査の結果11)と比較し,経年変化を合わせて検討した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同したC57施設において,2016年C3月C7日.13日に施行した.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C4,288例C4,288眼,表1研究協力施設(57施設)北海道札幌市ふじた眼科クリニック板橋区江戸川区世田谷区荒川区世田谷区八王子市葛飾区さわだ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科社本眼科菅原眼科クリニックそが眼科クリニック多摩眼科クリニックとやま眼科宮城県仙台市鬼怒川眼科医院茨城県ひたちなか市日立市いずみ眼科クリニックサンアイ眼科さいたま市さいたま市石井眼科クリニックさいき眼科埼玉県吉川市幸手市たじま眼科・形成外科ふかさく眼科東京都文京区中央区中沢眼科医院中山眼科医院さいたま市やながわ眼科品川区小金井市荒川区江東区台東区新宿区千代田区江戸川区はしだ眼科クリニック東小金井駅前眼科町屋駅前眼科みやざき眼科もりちか眼科クリニック早稲田眼科診療所お茶の水・井上眼科クリニック西葛西・井上眼科病院千葉県千葉市山武郡船橋市松戸市千葉市船橋市習志野市あおやぎ眼科おおあみ眼科高根台眼科のだ眼科麻酔科医院本郷眼科みやけ眼科谷津駅前あじさい眼科千葉市吉田眼科横浜市鎌倉市眼科中井医院清川病院板橋区赤塚眼科はやし医院杉並区新宿区井荻菊池眼科いなげ眼科神奈川県横浜市大和市さいとう眼科セントルカ眼科・歯科クリニック荒川区うえだ眼科クリニック川崎市だんのうえ眼科クリニック調布市えぎ眼科仙川クリニック横浜市綱島駅前眼科東京都足立区足立区葛飾区国分寺市清瀬市えづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科清瀬えのき眼科静岡県伊東市ヒルサイド眼科クリニック福岡県遠賀郡福岡市いまこが眼科医院図師眼科医院熊本県宇土市むらかみ眼科クリニック国分寺市後藤眼科沖縄県沖縄市ガキヤ眼科医院文京区駒込みつい眼科(順不同・敬称略)男性C1,839例,女性C2,449例,年齢はC7.102歳,68.1C±13.0歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している患者では右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より使用薬剤のうち後発医薬品について解析を行った.さらにC2012年に行った前回調査の結果11)と比較した.具体的には単剤使用例,2剤使用例で,さらに各々でプロスタグランジン(PG)関連点眼薬,Cb遮断点眼薬の後発医薬品の使用を検討した.調査を行ったC2016年C3月に使用可能であった後発医薬品はCPG関連点眼薬ではイソプロピルウノプロストンC4製品,ラタノプロストC24製品,Cb遮断点眼薬ではチモロールマレイン酸塩C20製品,カルテオロール塩酸塩C6製品,ベタキソロール塩酸塩C2製品,ニプラジロールC5製品,レボブノロール塩酸塩C2製品,副交感神経刺激薬ではピロカルピン塩酸塩C2製品だった.配合点眼薬はC2剤として解析した.配合点眼薬はC2剤使用例では各々の成分に分けて検討した.その際に各成分は先発医薬品として解析した.なお,前回調査11)では配合点眼薬をC1剤として解析したので,今回調査と比較するにあたり,配合点眼薬をC2剤として再解析を行い使用した.比較にはCc2検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.CII結果1.使用薬剤数使用薬剤数は平均C1.7C±1.2剤で,その内訳は無投薬がC445例(10.4%),1剤がC1,914例(44.6%),2剤がC929例(21.7%),3剤がC598例(13.9%),4剤がC277例(6.5%),5剤が99例(2.3%),6剤がC24例(0.6%),7剤がC2例(0.05%)だった.点眼薬を使用している症例のうちC1剤でも後発医薬品を使用している症例はC348例(9.1%)だった.C2.後発医薬品の使用状況(単剤使用例)単剤使用例(1,914例)では,PG関連点眼薬がC1,414例(73.9%),b遮断点眼薬がC398例(20.8%),その他がC102例(5.3%)だった.先発医薬品がC1,695例(88.6%),後発医薬品がC219例(11.4%)だった.薬品別では,PG関連点眼薬では先発医薬品がC1,240例(87.7%),後発医薬品がC174例(12.3%),b遮断点眼薬では先発医薬品がC353例(88.7%),後発医薬品がC45例(11.3%)だった(図1).後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬とCb遮断点眼薬で同等だった(p=0.6634).C表2調査票緑内障処方薬剤の一般名:<Cb遮断薬>1:水溶性チモロール,2:イオン応答ゲル化チモロール,3:熱応答ゲル化チモロール,4:カルテオロール,5:持続性カルテオロール,6:ベタキソロール,7:レボブノロール.<Cab遮断薬>9:ニプラジロール.<PG(プロスタグランジン)製剤>11:イソプロピルウノプロストン,12:ラタノプロスト,13:トラボプロスト,14:タフルプロスト,15:ビマトプロスト.<配合剤>17:ラタノプロスト/チモロール配合薬,18:トラボプロスト/チモロール配合薬,19:ドルゾラミド/チモロール配合薬,20:ブリンゾラミド/チモロール配合薬,21:タフルプロスト/チモロール配合薬.<点眼CCAI(炭酸脱水酵素阻害薬)>22:ドルゾラミド,23:ブリンゾラミド.<経口CCAI>24:アセタゾラミド.<Ca1遮断薬>25:ブナゾシン.<Ca2刺激薬>26:ブリモニジン.<ROCK阻害薬>27:リパスジル.<その他>28:ピロカルピン,29:ジピベフリン3.後発医薬品の使用状況(2剤使用例)2剤使用例(929例)では,PG/Cb配合点眼薬C267例(28.7%),PG関連点眼薬+b遮断点眼薬がC264例(28.4%),PG関連点眼薬+a2刺激点眼薬C101例(10.9%),炭酸脱水酵素阻害(CAI)/Cb配合点眼薬C93例(10.0%),PG関連点眼薬+CAI点眼薬C92例(9.9%)などだった.1剤でも後発医薬品を使用している症例がC70例(7.5%)先発医薬品のみ使用している症例がC859例(92.5%)だった.,PG関連点眼薬(1,414例)β遮断点眼薬(398例)PG関連点眼薬(768例)b遮断点眼薬(673例)図1後発医薬品の使用状況(単剤使用例)1剤でも後発医薬品を使用している症例のうち,2剤ともに後発医薬品を使用している症例がC12.8%(9例/70例)だった.薬剤別では,PG関連点眼薬(768例)では先発医薬品が700例(91.1%),後発医薬品がC68例(8.9%),b遮断点眼薬(673例)では先発医薬品がC662例(98.4%),後発医薬品が11例(1.6%)だった(図2).後発医薬品はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より多く使用されていた(p<0.0001).C4.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(単剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(5.4%)に比べて今回調査(12.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.1%)に比べて今回調査(11.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).C5.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(2剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(4.6%)に比べて今回調査(8.9%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.3%)と今回調査(1.6%)で後発医薬品使用は同等だった(p=0.0718).C6.後発医薬品使用量と導入施設の前回調査との比較点眼薬使用症例は前回調査C3,142例,今回調査C3,843例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.7%(149例/3,142例)に比べて今回調査C9.1%(348例/3,843例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C61.5%(24施設/39施設)と今回調査61.4%(35施設/57施設)で同等だった(p>0.999).前回調査,今回調査ともに参加したのはC37施設だった.37施設のうち点眼薬使用症例は前回調査C3,068例,今回調査C3,115例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.8%(148例/3,068例)に比べて今回調査C8.7%(272例/3,115例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C62.2%(23施設/37施設)と今回調査C64.9%(24施設/37施設)で同等だった(p>0.999).C図2後発医薬品の使用状況(2剤使用例)III考按後発医薬品は,再審査期間が終了し,特許が切れた先発医薬品に対して発売することができる.後発医薬品のメリットの一つは先発医薬品に比べて薬価が低いので,患者の負担は軽減することである13).そこで患者から後発医薬品を希望する場合や,健康保険組合より後発医薬品への切り替えを依頼してくる場合もある.それらの状況を踏まえて,現在の緑内障に対する後発医薬品の使用状況を調査することにした.薬剤処方に関しては,先発医薬品を必ず使用する場合には医師は処方箋の変更不可欄にチェックする必要がある.一方,チェックがない場合は調剤薬局で薬剤師が後発医薬品に変更することができる.そのため厳密には先発医薬品と後発医薬品のどちらが使用されているかはわからない場合もある.しかし,後発医薬品を使用する場合は,医師は薬剤を一般名で処方することが多いと考えられる.なぜならば一般名で処方することで一般名処方加算としてC2点加算できるからである.今回,単剤使用例とC2剤使用例における後発医薬品(PG関連点眼薬とCb遮断点眼薬)の使用を調査した.2剤使用例では後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より有意に多かったが,これはCb遮断薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCb遮断点眼薬(先発医薬品として)の割合C53.5%(360例/673例)(内訳はCPG/Cb配合点眼薬39.7%(267例/673例),CAI/Cb配合点眼薬C13.8%(93例/673例))が,PG関連点眼薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCPG関連点眼薬(先発医薬品として)の割合C34.8%(267例/768例)(PG/Cb配合点眼薬のみ)より多いことが原因と考えられる(p<0.0001)(図2).つまり配合点眼薬の使用が多いため,配合点眼薬中のCb遮断薬が先発医薬品としてカウントされたことによる.前回調査との比較では単剤使用例ではCPG関連点眼薬,Cb遮断点眼薬ともに今回調査で後発医薬品使用が有意に増加した.経済性を考慮してC1剤目として後発医薬品を選択する症例や先発医薬品から後発医薬品へ変更する症例が増加したと考えられる.一方,2剤使用例では,後発医薬品の使用はPG関連点眼薬では今回調査で有意に増加したが,Cb遮断点眼薬では前回調査と同等だった.実際に今回調査ではCb遮断点眼薬やCPG関連薬が配合点眼薬のC1成分として入っている割合より有意に増加した.そして配合点眼薬のC1成分として入っている割合はCb遮断点眼薬(53.5%)がCPG関連点眼薬(34.8%)より多いことによると考えられる(p<0.0001).後発医薬品使用施設は前回調査と今回調査で同等だったが,使用量は前回調査より今回調査で有意に増加した.しかし,前回調査と今回調査では調査施設が異なるので前回調査,今回調査ともに参加したC37施設でも後発医薬品使用の検討を行った.その結果,後発医薬品を使用している施設数は有意に増加しておらず,増加数もC1施設と微増だった.しかし,後発医薬品の使用症例は増加しており,後発医薬品を使用する医師はその使用を増やしていると考えられる.一方,後発医薬品を使用していない医師が後発医薬品を使用するためには後発医薬品に先発医薬品以上のメリットがあることが重要である.後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っている点として,①添加物の種類や添加量,製剤技術などは先発医薬品と後発医薬品,後発医薬品間で異なる.②医薬品卸会社の流通ルートへの整備がやや遅れている.③添付文書の記載内容を含め情報提供量は先発医薬品に比べて劣る.と報告されている14).後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っていない点は,薬価が低く,調剤薬局窓口での支払額が減少することである.一方,後発医薬品のなかには,先発医薬品と異なり防腐剤フリーの製品もある.経済性だけでなく,角結膜への安全性を考えて防腐剤フリーの後発医薬品を使用する場合もある.過去に筆者らは防腐剤フリーのラタノプロスト点眼薬(後発医薬品)の良好な眼圧下降効果と安全性を報告した15,16).今後はこのように先発医薬品にはない特徴をもった後発医薬品を開発することで後発医薬品の使用が増加すると期待されている.今回,57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例の使用薬剤を調査し,そのなかから後発医薬品について検討した.後発医薬品は単剤例ではC11.4%,2剤例ではC7.5%で使用されていた.4年前に行われた前回調査と比較して後発医薬品の使用は増加しており,今後ますます増加が予想される.しかし,今後後発医薬品の眼圧下降効果と安全性を検討する必要がある.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の先生方に深く感謝いたします.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7.TherelationshipbetweencontrolofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal;fortheCIGTSStudyCGroup:InterimCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreat-edCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpressure.CAmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaCprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetCal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20097)末武亜紀,福地健郎,田中隆之ほか:Patient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート.あたらしい眼科C29:969-974,C20128)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌C110:497-503,C20069)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査:薬物治療.あたらしい眼科C25:1581-1585,C200810)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版:薬物治療.あたらしい眼科C28:874-878,C201111)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C201312)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C201713)冨田隆志,櫻下弘志,池田博昭ほか:緑内障治療用の配合点眼液のC1日薬剤費用評価.あたらしい眼科C29:1405-1409,C201214)池田博昭,塚本秀利:緑内障治療薬─後発品と先発品の比較.あたらしい眼科C25:57-58,C200815)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性.あたらしい眼科C28:1635-1639,C201116)井上賢治,岩佐真弓,増本美枝子ほか:正常眼圧緑内障に対する防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の長期投与による効果と安全性.眼臨紀C9:423-427,C2016利益相反:利益相反公表基準に該当なし

リパスジル点眼追加治療12カ月の成績

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):967.970,2018cリパスジル点眼追加治療12カ月の成績上原千晶新垣淑邦力石洋平與那原理子酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座CTwelve-monthResultofAdd-onTherapywithRipasudilOphthalmicSolutionChiakiUehara,YoshikuniArakaki,YouheiChikaraishi,MichikoYonaharaandHiroshiSakaiCDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus緑内障点眼加療中の患者で,リパスジル点眼追加治療を行ったC76例C105眼を後ろ向きに調査した.3カ月以上継続使用し経過を追えたC52例C79眼(原発開放隅角緑内障C40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼,平均点眼スコアはC3.7)の平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(下降率C10.6%)した.点眼スコアC3以下とC4以上では,それぞれC19.2CmmHgからC15.2CmmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,12カ月時点まで両群とも有意に眼圧下降した.リパスジル投与前眼圧C15CmmHg以上とC15CmmHg未満の比較ではC15CmmHg以上群では全時点で眼圧は下降(12カ月後下降率C14.5%)したが,15CmmHg未満群では全時点で有意な眼圧下降はなかった.3カ月以降継続群C79眼での点眼中止は眼圧下降不十分C14眼と副作用による中止C9眼の計C23眼(30.4%)であった.CInCaCretrospectiveCreviewCofC105CeyesCofC76CpatientsCwithCglaucomaCinsu.cientlyCcontrolledCunderCmultipleCmedicaltherapy,79eyesof52patientsweretreatedformorethan3monthswithtopicalRipasudiladd-onthera-py.CInCtheC79Ceyes,CintraocularCpressure(IOP)wasCreducedC10.6%Coverall.CIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCbothgroupsoflow(3orless)andhighscore(4ormore)ofanti-glaucomamedications.AmongeyeswithIOP15CmmHgorChigher,CIOPCreductionCwasCsigni.cantCatCallCtimeCpoints,CbutCthisCwasCnotCtheCcaseCinCeyesCwithCIOPClessCthan15CmmHg.23eyes(30.4%)discontinuedtheRipasudiladd-ontherapybecauseofinsu.cientIOPcontrolorocularsidee.ects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):967.970,C2018〕Keywords:緑内障,点眼,ROCK阻害薬,リパスジル,多剤併用.glaucoma,eyedrop,ROCKinhibitor,Ripa-sudil,multiplemedicaltherapy.CはじめにRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルは,線維柱帯細胞,Schlemm管内皮細胞の細胞骨格を修飾することにより,房水の主流出経路を促進し眼圧を下降させる1).既存の緑内障点眼薬と作用機序が異なるため,これまで眼圧下降が不十分であった症例に対しても効果が期待されているが,新しい薬剤であり,長期の効果と安全性の報告は少ない.今回,筆者らは既存の緑内障点眼薬で治療中であり眼圧下降が不十分でリパスジル点眼薬を追加投与した症例について,1年間の眼圧下降効果と安全性について後ろ向きに検討した.CI対象および方法当科にて緑内障治療中の患者のうち,眼圧下降が不十分と考えられ,2014年C12月.2016年C2月にリパスジル点眼薬1日C2回点眼を追加した症例はC106例C147眼である.3カ月以内の内眼手術既往のあるC9例C9眼,処方後C3カ月未満で転院,未来院となったC22例C33眼を除外したC76例C105眼を安全性解析対象とした.76例C105眼のうち,手術を前提として追加点眼しC2カ月以内に手術施行したのがC14例C14眼(レーザー線維柱帯形成術C2例C2眼,水晶体再建術C3例C3眼,濾過手術C9例C9眼),眼圧上昇による中止がC1眼,追加時または追加C2カ月以内に併用薬剤を変更したのがC10例C11眼であった.処方中止,または併用薬剤の変更となった上記の25例C26眼を除いたC55例C79眼を有効性解析対象とした(図1).追加前,追加後C1カ月,2カ月,3カ月,6カ月,12カ月の診察日時の眼圧を集計した.各時点で来院がなかったも〔別刷請求先〕上原千晶:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiUehara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(117)C967のはその月のみの欠損値とし,3カ月以降で点眼中止となった例はそれ以降の解析から除外した.全例で診察日朝の点眼は施行するよう指示されていた.統計には,リパスジル点眼薬の追加前と追加後それぞれの測定時期での眼圧は,対応のあるCt検定を,点眼スコア別,追加前眼圧別の眼圧下降値,下降率はCWilcoxonの符号付順位検定を用いた.CII結果眼圧解析対象のC55例C79眼は原発開放隅角緑内障(prima-ryopenangleglaucoma:POAG)40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼(落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎続発緑内障C3眼,血管新生緑内障C6眼)で,年齢C66.8C±14.0(30.86)歳,男性28例42眼,女性C24例C37眼,追加投与開始前眼圧C17.7C±4.7(12.38)mmHg,1点眼薬をC1点,アセタゾラミド内服をC2点としたときの点眼スコアC3.7C±1.0(1.5)点(1点:4眼,2点:4眼,3点:18眼,4点:44眼,5点:8眼,6点:1眼),Humphrey静的視野計CSITAスタンダードC24-2または30-2によるCMD値はC.14.0±7.1CdBであった.リパスジル点眼薬を追加後,眼圧はすべての期間で有意に下降した(図2).平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(C.2.1CmmHg,下降率C10.6%)した.点眼スコアがC3以下とC4以上の群の追加前と追加C12カ月後の平均眼圧は,それぞれC19.2mmHgからC15.2mmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,両群ともに有意に下降し10リパスジル(*p<0.05,対応のあるt検定)投与前1M2M3M6M12M(n=79)(n=77)(n=58)(n=77)(n=77)(n=52)下降値(mmHg)C2.0±4.0C1.4±3.0C1.6±4.3C2.3±3.7C2.1±3.9下降率(%)C9.1±16.1C7.2±17.1C6.3±17.8C11.1±16.5C10.6±21.0図2眼圧の推移(全体)C968あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(118)眼圧(mmHg)2422201816141210リパスジル1M2M3M6M12M追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)スコア3以下(n=26)(n=25)(n=14)(n=24)(n=26)(n=15)スコア4以上(n=53)(n=52)(n=44)(n=53)(n=51)(n=37)下降率(%)スコアC3以下C10.1±16.9C10.6±11.7C12.1±18.3C13.9±18.4C14.2±16.8スコアC4以上C8.6±16.1C6.1±18.6C3.7±17.2C9.7±15.6C9.2±22.7図3点眼スコア別眼圧の推移24眼圧(mmHg)22201816141210リパスジル追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)15mmHg以上(n=59)(n=58)(n=41)(n=58)(n=57)(n=35)15mmHg未満(n=20)(n=19)(n=17)(n=19)(n=20)(n=17)下降率(%)15CmmHg以上C11.6±15.7C8.0±18.2C8.9±18.2C12.4±15.7C14.5±20.815CmmHg未満C1.5±15.9C5.1±14.9C.1.8±14.3C7.4±18.8C2.3±20.0C図4リパスジル追加前眼圧別眼圧の推移はC9眼で,そのうちC4眼は眼瞼炎によるものであり,すべて投与後C6カ月以降に出現していた.掻痒感はC2眼がC3カ月に,3眼がC6カ月以降に出現していた.投与開始C3カ月後以降継続群C79眼のうちC12カ月までの点眼中止例はC23眼(30.4%;95%CCI,C20.2.40.5%)であり,内訳は眼圧下降不十分14眼(17.7%;95%CCI,C9.3.26.1%),前述した副作用による中止例C9眼であった.12カ月時点での未来院のC4眼は分母から除外した.眼圧下降不十分C14眼の内訳は点眼変更C4眼,併用薬変更C6眼,緑内障手術追加C2眼,レーザー治療追加C2眼であった.CIII考察Taniharaら2)はCPOAG,落屑緑内障,高眼圧症を対象としたリパスジル点眼追加治療C1年の前向き研究においては,プロスタグランジン製剤(PG)+b遮断薬に追加したときにおけるC12カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率C9.9%)であったと報告した.また,多剤併用例におけるC3カ月の下降効果は,塚原ら3)の報告では下降率C9.3%,Inazaki4)らは下降値C2.8mmHg(下降率C15.5%),またCSatoら5)の報告の6カ月では下降値C3.1CmmHg(下降率約C15%)であった.今回の結果は平均点眼スコア3.7,12カ月の眼圧下降値C2.1mmHg(下降率C10.6%)と過去の報告とほぼ同様であった.(119)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C969追加前眼圧がC15mmHg以上の群では,眼圧下降値は14CmmHg以下の群と比べて有意に大きかったと中谷ら6)の報告がある.今回は眼圧下降が不十分で投薬を中止された例を除いた検討であったが,追加前眼圧C15CmmHg以上の群ではC12カ月において有意な眼圧下降を認めたが,15CmmHg未満の群では有意な眼圧下降はなかった.一方,術前点眼数にかかわらず眼圧下降が観察されたが,これはリパスジルが房水の主流出経路に作用し,既処方薬とは異なる作用機序であるためと考えられた.リパスジルの副作用は,処方後C2.3カ月以上経過して発症する眼瞼炎7),アレルギー性結膜炎や眼瞼炎(中止例は14.4%)2)の報告がある.今回の検討でも同様の結果であった.病型ごとの検討は症例数が少なく行っておらず,眼圧測定時間にも幅があることは後ろ向き研究であるための限界である.今回の検討は多剤併用の多い緑内障専門外来での検討であったため,眼圧下降不十分や副作用などで約C3割の症例で処方を中止した.より少ない点眼数で検討した臨床研究と後ろ向きの症例検討との相違であると考えられた.したがって,今回の結果を軽症例のより多い一般臨床現場に当てはめることはできない.より少ない併用数の症例を対象とした検討が必要である.病型別の検討ができなかったことも課題であり,今後症例数を増やして検討する必要がある.CIV結論リパスジル点眼薬は多剤併用例に対しても併用薬の数にかかわらず眼圧下降効果があり,追加前眼圧C15CmmHg以上の症例において有効であった.長期使用では眼瞼炎などの副作用に注意が必要である.利益相反:酒井寛(カテゴリーCP:トーメーコーポレーション)文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20163)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬による眼圧下降効果の検討.臨眼71:611-616,C20174)InazakiCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCtheCadditionalCuseCofCripasudil,CaCrho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsCwithCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximummedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C20175)SatoCS,CHirookaCK,CNaritaCECetCal:AdditiveCintraocularCloweringCe.ectsCofCtheCrhoCkinaseCinhibitor,CripasudilCinCglaucomaCpatientsCnotCableCtoCobtainCadequateCcontrolCafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,C20166)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼薬の追加処方.あたらしい眼科C33:1063-1065,C20167)富重明子,齋藤雄太,高橋春男:開放隅角緑内障に対するリパスジル点眼薬の短期的な眼圧下降効果.臨眼C71:1105-1109,C2017***970あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(120)