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緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):962.966,2018c緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響小竹修丸山勝彦禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectivenessofSurgicalTreatmentinReducingtheBurdenofEyedropInstillationPerceivedbyPatientswithGlaucomaOsamuKotake,KatsuhikoMaruyama,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緑内障手術が施行された症例C53例(平均年齢:63.2±15.0歳)に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.術前後の点眼の煩わしさを記入方式で調査し,煩わしさの変化に影響する臨床因子を検討した.術前に使用していた点眼薬の本数はC3.1±1.0(レンジ:1.5)本,点眼回数はC5.9±3.0(1.13)回で,59%の症例は点眼行為を煩わしいと感じていた.術後,点眼本数はC1.7±0.7(0.4)本,点眼回数はC3.1±2.0(0.8)回と術前に比べ有意に減少し(p<0.0001),72%の症例は点眼の煩わしさが軽減したと回答した.その理由として,点眼本数が減ったことや副作用が減ったとする回答が多かった.手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が日頃感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減できる可能性がある.CWeinvestigatedthein.uenceofsurgicaltreatmentontheburdenofeyedroptreatmentperceivedbyglauco-mapatients.Toeachof53patientsstudied(meanage63.2±15.0years),aquestionnaireontheburdenofinstilla-tionwasadministeredbeforeandaftertheoperation.Aftersurgery,themeannumberofeyedropsuseddecreasedsigni.cantlyCfromC3.1CtoC1.7,CandCtheCmeanCnumberCofCinstillationsCdecreasedCfromC5.9CtoC3.1(p<0.0001),C59%Cofthepatientsfeelingthatinstillationwasburdensomebeforetheoperation.Aftertheoperation,however,72%ofthesubjectsrespondedthattheburdenwasreduced.Thereasonsgivenweredecreaseinnumberofeyedropsused,andreductionofadversee.ects.Eyedropnumberreductionbysurgerymaymitigatetheburdenofmedicalthera-pyperceivedbyglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):962.966,C2018〕Keywords:緑内障,手術療法,薬物療法,煩わしさ,アンケート.glaucoma,surgicaltreatment,medicaltreat-ment,burden,questionnaire.Cはじめに現在,緑内障に対する治療としては何らかの眼圧下降処置が行われ,その手段はおもに点眼薬を中心とした薬物療法と手術療法からなる.このなかで,多くの症例に行われている薬物療法は治療の成功に患者のアドヒアランスが影響し1,2),アドヒアランスが不良であるほど視機能が悪化しやすいことが報告されている3.5).また,多剤併用療法となった場合にはさらにアドヒアランスは低下することが知られている6.8).すなわち,緑内障が進行すると多剤併用療法が必要となり,結果としてアドヒアランスが低下し,さらに緑内障が進行するという悪循環を招くことになる.一方,手術療法にも合併症による視機能低下をきたす可能性があること,眼圧下降が確実とは言い難いこと,どこの施設でも行うことができる治療方法ではないことなど,いくつかの欠点がある.しかし,手術によって十分な眼圧下降が得られ,緑内障点眼薬を中止,あるいは減少させることができ〔別刷請求先〕小竹修:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:OsamuKotake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN962(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C9620910-1810/18/\100/頁/JCOPYれば,点眼治療の煩わしさを軽減させアドヒアランス改善に貢献できる可能性がある.したがって,点眼治療に対するアドヒアランスに不安がある症例に対しては積極的に手術の適応を考慮してもよいと考えられるが,それを裏付ける検討は今のところ行われていない.本研究は,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケートを行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさが手術療法によってどの程度変化するかを調査して,結果に影響する因子を検討することを目的とした.CI対象および方法対象は過去にC6カ月以上点眼治療が行われていた緑内障患者で,緑内障手術が施行された後,6カ月以上が経過した53例(男性C31例,女性C22例)である.なお,緑内障病型や施行された緑内障手術の術式(白内障手術との同時手術か否かを含む),緑内障手術前後に行われた白内障手術の既往の有無は問わないものとした.また,緑内障手術を複数回施行されている症例や,緑内障術後に白内障以外の疾患に対して手術が施行された症例は対象から除外した.さらに,両眼に緑内障を有する症例の場合,片眼のみ手術を行い僚眼は点眼治療を継続している症例は点眼治療の煩わしさを患者単位で評価するのは困難と考え対象から除外し,両眼とも手術が施行されている症例のみを組み入れた.本研究は東京医科大学医学倫理委員会の承認を受け,患者に本研究の主旨を説明し,同意を得たうえで行った.対象の背景を表1に示す.年齢はC63.2C±15.0歳(25.82歳)で,病型は狭義原発開放隅角緑内障C27例,正常眼圧緑内障C9例,原発閉塞隅角緑内障C2例,落屑緑内障C6例,ぶどう膜炎続発緑内障C9例で,片眼のみが緑内障であったのがC9例,両眼とも緑内障であったのがC44例であった.また,施表1対象の背景年齢C63.2±15.0歳(C25.C82歳)病型狭義原発開放隅角緑内障27例正常眼圧緑内障9例原発閉塞隅角緑内障2例落屑緑内障6例ぶどう膜炎続発緑内障9例片眼/両眼9例C/44例術式線維柱帯切除術90眼線維柱帯切開術6眼アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術1眼眼圧術前C22.4±7.5CmmHg(12.5C4mmHg)アンケート調査時C10.7C±3.6CmmHg(3.2C6mmHg)平均±標準偏差(レンジ)(113)行された術式は線維柱帯切除術C90眼,線維柱帯切開術C6眼,アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術C1眼であった.なお,32眼は白内障との同時手術が行われ,4眼には緑内障手術前に,5眼には緑内障手術後に白内障手術が施行されていた.術前の眼圧はC22.4C±7.5CmmHg(12.54CmmHg),アンケート調査時の眼圧はC10.7C±3.6CmmHg(3.26CmmHg)であった(両眼手術例の場合,両眼を含めた延べ眼での値).アンケートの内容を表2に示す.術前に本人が自覚していた点眼の煩わしさと点眼アドヒアランスについて質問し,術後の点眼の煩わしさの改善度を問い,その理由を回答していただいた.なお,アンケートは自己記入方式で行った.手術からアンケート調査までの期間はC33.4C±31.1カ月(6.111カ月)であった.次に,診療録をもとにデータを収集し,緑内障点眼薬のみならず,すべての点眼薬の本数,点眼回数を手術前,手術後で比較した.なお,配合点眼薬はC1剤C1本と集計した.ま表2緑内障手術前後の点眼治療の煩わしさに関するアンケート調査<手術をお受けになる前のことをお尋ねします>1.目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?□思っていた□少し思っていた□あまり感じていなかった□まったく感じていなかった2.目薬は決められた通りに点眼していましたか?□欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)□ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)□だいたい決められた通りに点眼していた(忘れるのはC1カ月に2.3回)□忘れることが多かった(忘れるのはC1週間に1.2回)□決められた通りに点眼できなかった(忘れるのはC1週間にC3回以上)<手術をお受けになった後のことをお尋ねします>3.目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?□かなり軽減された□少し軽減された□変わらない□少し負担が増えた□かなり負担が増えた4.その理由は何ですか?患者さまによって目薬の本数や点眼する回数が減った方も増えた方もいらっしゃると思いますが,ご自分に当てはまる回答をしてください(複数回答可)□目薬の本数が減ったから/増えたから□点眼する回数が減ったから/増えたから□目薬の副作用が減ったから/増えたから□目薬の種類が変わったから□その他()あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C963表3術前後の点眼薬の本数と点眼回数術前術後p*全点眼薬本数C点眼回数C3.1±1.0本(1.5本)C5.9±3.0回(1.1C3回)C1.7±0.7本(0.4本)3.1±2.0回(0.8回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬本数C点眼回数C2.7±0.9本(1.4本)C4.4±1.9回(1.9回)C0.2±0.5本(0.2本)0.4±1.2回(0.5回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬以外本数C点眼回数C0.4±0.7本(0.3本)C1.5±2.4本(0.8本)C1.5±0.6本(0.3本)2.6±1.8本(0.8本)<C0.0001C0.0008た,点眼アドヒアランスと煩わしさはアンケートの結果を点数化して評価し,煩わしいと感じている理由をアンケート調査の結果から考察した.さらに,煩わしさの変化に影響する臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数)をCSpearman順位相関係数で検討した.統計解析は対応のあるCt-検定を用い,p<0.05を統計上有意とした.CII結果術前後の点眼薬の本数と点眼回数を表3に示す.術前に使用していたすべての点眼薬の本数,点眼回数は,術後有意に減少し,眼圧下降薬に限った検討でも同様であった.一方,眼圧下降薬以外の点眼薬は,本数,点眼回数とも術後有意に増加し,その内容は,術前はドライアイ治療薬や抗アレルギー薬が多く,術後は副腎皮質ステロイドや抗菌薬が主であった.なお,白内障手術との同時手術例,ならびに白内障手術追加例のなかで,アンケート調査時に非ステロイド性抗炎症薬を継続していた症例はなかった.また,ぶどう膜炎続発緑内障症例のなかで,術後ぶどう膜炎の炎症発作が原因で副腎皮質ステロイドが投与されているものはなかった.患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳を図1に示す.手術を受ける前に「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?」という問いに対し,59%の症例が「思っていた」「少し思っていた」と回答した.術前の点眼アドヒアランスの内訳を図2に示す.手術を受ける前に「目薬は決められた通りに点眼していましたか?」という問いに対し,多くの症例は「欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)」「ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)」と回答し,忘れると答えた方はほとんどいなかった.術後の点眼の煩わしさの内訳を図3に示す.手術を受けた後,「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」という問いに対して,72%の症例が「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答し,負担が増えたと答えた方はほとんどいなかった.質問C3で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答した症例(38例)の煩わしさが軽減した理由を図4に示す.「目薬の本数が減ったから」「目薬の副作用が減ったから」と回答したものが多かった.その他の理由として,「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼はまったく気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」という回答もみられた.質問C3によって得られた術後の点眼に関する煩わしさの変化と,臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数,術前後の点眼本数の差,術前後の点眼回数の差)との関係を表4に示す.今回検討した各項目のなかには,煩わしさの改善度に相関する臨床因子はなかった.CIII考按本研究では,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.その結果,まず,自己申告による術前の点眼アドヒアランスの評価では,8割以上の患者が欠かさず,あるいは,ほぼ欠かさず点眼をしていた.これまで緑内障患者の点眼アドヒアランスに関して,アドヒアランス良好な症例は自己申告では82.97%9.11)であるのに対して,モニター監視などの他覚的評価ではC51.59%10,11)と報告されており,自己申告では現実を上回る結果となることがわかっている12).本研究で点眼アドヒアランスが良好であったのは,対象が手術適応のある症例であり,点眼遵守による手術の回避を期待した結果である可能性や,診療に携わっている医師が直接アンケートを依頼した影響が考えられる.また,過去の点眼状況を手術後に振り返った調査であったため,過大評価につながった可能性も否定できない.本研究では約C7割の症例が術後の点眼の煩わしさが軽減したと回答したが,その理由として点眼薬の本数が減少したこ(114)まったく感じていなかった11%思っていた25%あまり感じていなかった30%少し思っていた34%図1患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか」少し負担が増えたかなり負担が増えた2%0%変わらない26%かなり軽減された57%少し軽減された15%図3術後の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」表4術後の点眼する煩わしさの変化と臨床因子との関係相関係数p値年齢C0.13C0.36性別C.0.08C0.58緑内障病型C0.25C0.07術式C.0.01C0.97術前本数C.0.01C0.95回数C.0.02C0.92術後本数C0.12C0.40回数C0.14C0.31術前後本数の差C.0.10C0.49回数の差C.0.04C0.76(Spearman順位相関係数)とがあげられた一方で,点眼回数が減ったことを理由としてあげた症例は少なかった.点眼薬の本数が減少すれば結果的に点眼回数も減少するにもかかわらず,回数の減少が点眼する煩わしさの改善の理由になっていない結果を考えると,多剤併用療法そのものが「多くの点眼薬を使用しなければならない」という患者の精神的負担になっている可能性がある.一方,副作用が減少したことが煩わしさの改善の理由となっ(115)忘れることが多かった決められた通りに点眼できなかった(忘れるのは1週間に1~2回)(忘れるのは1週間に3回以上)目薬の種類その他5%目薬の副作用が減ったから36%目薬の本数が減ったから45%点眼する回数が減ったから8%その他:「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼は全く気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」「特にない」図4術後,点眼する煩わしさが軽減した理由「目薬を点眼する煩わしさが軽減された理由は何ですか?」(複数回答可)(質問C3(図C3)で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答したC38例C72%の結果)ているのは,角膜上皮障害や点眼アレルギーなどの副作用からも解放されたためと考えられることから,点眼薬による副作用が生じ,かつ点眼が煩わしいと感じている症例に対しては,手術療法をより積極的に考慮してもよい可能性がある.今回,手術療法により点眼薬の本数,点眼回数は減少したが,点眼の煩わしさの改善度は術前後の点眼本数,点眼回数,そして術前後の差と,いずれも相関しない結果となった.本研究の対象は,緑内障手術によってある程度の眼圧下降が達成されている症例が多く,手術によって十分な眼圧下降が得られたことが患者に満足感や達成感を与え,ポジティブな心理状態につながったと考えられる.本研究にはいつくかの問題点があるが,その主たるものは選択バイアスである.まず,緑内障手術の術式によっては術あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C965後も何らかの点眼薬の併用が必要となるが,本研究の対象の多くは線維柱帯切除術が施行されており,点眼薬が中止できた症例が多く含まれている.また,術後の投薬内容は治療効果や合併症発生の有無でも変わってくるが,本研究ではこれらについての検討は行っていない.さらに今回は,両眼とも手術を施行された症例のみを対象に組み入れたが,片眼には手術を行って,もう片眼は薬物療法で経過観察しているような,臨床的には多くみられる症例が組み入れられていない可能性がある.その他にも本研究では,複数回手術例や白内障以外の眼疾患の手術既往例といった,いわゆる難治例も対象から除外していることや,術前の点眼状況を手術後に振り返った調査であるなどの問題点がある.以上より本研究の対象は実際の臨床像と異なっている点は否定できず,今回の結果が緑内障手術全般に当てはまるとは断言できない.以上のような問題点はあるが,手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減することができる可能性があることを明らかにすることができた.今後はまず術前にアンケート調査を行い,術後一定期間の後に再度アンケートを行って縦断的に評価し,また多数の術式を対象として手術成績を加味した検討を行っていく必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchwartzCGF,CQuigleyCHA:AdherenceCandCpersistenceCwithCglaucomaCtherapy.CSurvCOphthalmolC53:S57-S68,C20082)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCE:PersistenceCandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOph-thalmolC140:598-606,C20053)ChenCPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20034)StewartCWC,CChorakCRP,CHuntCHHCetCal:FactorsCassoci-atedwithvisuallossinpatientswithadvancedglaucoma-tousCchangesCinCtheCopticCnerveChead.CAmCJCOphthalmolC116:176-181,C19935)DiMatteoCMR:VariationsCinCpatientsC’CadherenceCtoCmedi-calCrecommendations:aCquantitativeCreviewCofC50CyearsCofresearch.MedCareC42:200-209,C20046)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJ:DeterminantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientpopulation.JGlaucomaC18:238-243,C20097)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20118)高橋真紀子,内藤知子,溝上志郎ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科C29:555-561,C20129)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドビアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201210)NorellSE,GranstromPA,WassenR:AmedicationmoniC-torCandC.uoresceinCtechniqueCdesignedCtoCstudyCmedica-tionbehaviour.ActaOphthalmologyC58:459-467,C198011)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼C40:731-734,C198612)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetCal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C2007***(116)

強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):957.961,2018c強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術藤尾有希*1中倉俊祐*1野口明日香*1松谷香奈恵*1小林由依*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)ScleralRotating:ASurgicalTechniqueforCoveringGlaucomaDrainageImplantTubesYukiFujio1),ShunsukeNakakura1),AsukaNoguchi1),KanaeMatsuya1),YuiKobayashi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity目的:緑内障インプラント手術後,結膜からのチューブ露出が問題となる.今回パッチ素材を用いず,自己強膜を反転する方法でチューブ被覆を行ったので報告する.対象および方法:初回緑内障インプラント手術を強膜反転法で施行した,難治性緑内障患者C14例C15眼を後ろ向きに調べた.全例術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2歳,平均観察期間はC12.0カ月であった.強膜反転法はチューブを眼内に挿入し固定後,チューブ横,左右どちらかに四角形の強膜半層切開を行い,それを反転させてチューブを覆う方法である.結果:眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHgから最終診察時C16.8C±11.5CmmHgへ有意に低下していた.強膜反転法ではプレート近くまでチューブを覆うことが可能であった.観察期間中結膜乖離やチューブの露出はC1例もなかった.結論:強膜反転法は簡便で大きさも任意に決定でき有用であった.CPurpose:Wereportontheshort-terme.ectsof“ScleralRotating,”asurgicaltechniqueforcoveringglauco-madrainageimplanttubes.Methods:Thiswasaretrospective,consecutivecaseseriesof15refractoryglaucomaeyesthatunderwentinitialglaucomatubeimplantationusingtheScleralRotatingtechnique.Meanpatientagewas61.2Cyrs;meanCobservationCperiodCwasC12.0Cmo.CTheCScleralCRotatingCtechniqueCwrapsCtheCimplantCtubeCwithCaCself-sclera,CformedCbesideCtheC.xedCtubeCbyCcuttingCaChalf-layerCofCscleraCtoCtheCpreferredClengthCandCsize.CResults:IntraocularCpressureCreducedCfromC39.4C±10.1CmmHgCtoC16.8±11.5CmmHgConCfollow-up.CUsingCthisCtech-nique,CweCcoveredCtheCtubeCnearCtheCplate,CwithCnoCtubeCexposureCinCallCpatients.CConclusion:ScleralCRotatingCisCaneasyandusefultechniquethatdoesnotrequirepatchgraftmaterial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):957.961,C2018〕Keywords:強膜,緑内障,インプラント手術,パッチグラフト,チューブ露出.sclera,glaucoma,implant,patchgraft,tubeexposure.Cはじめに緑内障インプラント手術後のチューブ露出は,術後いつでも起こりうる.臨床的特徴は,結膜充血,異物感,光視症,虹彩炎や低眼圧でありチューブ露出は眼内炎につながる1).パッチ材料としては,保存された強膜や角膜,自己または加工処理された強膜などさまざまな材料が使用されている.前向き研究ではチューブ露出はC5年間の経過観察でC1.5%と報告されている2.4).しかし,後向き研究ではC5.8.8.3%の高い発生率がパッチ素材にかかわらず報告されている5.7).明白なチューブ露出の原因は今のところ不明だが,機械的な刺激や8)異物に対する免疫反応など9)とされている.また,パッチ素材はその費用や感染症のリスク,ならびに外見上の問題点がつきまとう.その問題を克服するためにCAslanidesらはC1999年に最初に自己強膜の反転によるチューブ被覆術を報告した10).この方法は非自己パッチ素材を用いず,採取したフリーの自己強膜をパッチする方法よりも簡便で,チューブ露出の可能性が低いことが報告されている11).今回筆者らは日本でなじみのないこの方法を修正し,チューブの根元まで覆うように工夫した(図1)緑内障インプラント手術を施行したので,その結果を報告する.〔別刷請求先〕藤尾有希:〒671-1227兵庫県姫路市網干和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YukiFujio,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPAN図1強膜半転法のシェーマAslanidesらの方法(3C×3Cmm)を変法し,強膜を半層切開しできるだけプレート付近まで覆うようにした.I対象および方法この研究はツカザキ病院(以下,当院)倫理委員会の承認を得て行われ,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)臨床試験登録され(登録番号;UMIN000025504),ヘルシンキ宣言に準じて行われた.強膜反転法を初回の緑内障インプラント手術で施行した連続患者C14例C15眼を後ろ向きに調査した.術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2C±19.7歳(範囲34.89歳),男性C12名,女性C2名,右眼C9眼,左眼C6眼であった.原疾患は血管新生緑内障C11眼,落屑緑内障C2眼,開放隅角緑内障C1眼,続発緑内障C1眼であった.インプラント手術前の内眼手術歴(施行合計数)は抗CVEGF硝子体注射(25),眼内レンズ挿入術(15),硝子体手術(15),トラベクレクトミー(3),トラベクロトミー(3),全層角膜移植(2)であった.バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCRCGlaucomaImplant)(エイエムオー・ジャパン社):BG101-350をC9眼,アーメド緑内障バルブ(AhmedCTMGlaucomaCValve)(New-WorldCMedical社):ModelCFP7をC6眼に用いた.インプラントの設置部位は耳上側がC14例,鼻下側がC1例であった.鼻下側に挿入したC1例は全層角膜移植術症例で,耳下側にトラベクロトミー手術痕,上方結膜の菲薄化があったために同部位に設置した.硝子体腔内チューブ挿入例はC12例,前房内チューブ挿入例はC3例であった.硝子体手術施行例は角膜内皮障害を考慮し12),基本的に硝子体腔内に挿入した.強膜反転法術式手術は全例CTenon.麻酔で行った.従来の方法どおり,イニシエーションを行い輪部からC9.10Cmmの外直筋間にBG101-350とCModelCFP7のプレートを固定した.BG101-350はC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC2.3カ所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.前房内固定の場合:輪部から約C2CmmのところでC23CGCVランスで穿刺後,前房内に長さC2.3Cmm挿入できる程度にカットしたチューブ先端を挿入し,先に固定する(図2a).次にチューブの長さや方向を考慮しながら,両側の空いている強膜に四角形の反転用強膜をデザインする.このときなるべくプレート近くのチューブまで覆えるようにデザインした.予定切開範囲が決まれば強膜を半層切開し(図2b),チューブぎりぎりまで切開し対側に折り返せるようにする(図2c).折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜に固定し終了する(図2d).その後,なるべくCTenon.を前転してチューブの部位を覆い隠すようにし,結膜を縫合して終了した.硝子体腔固定の場合:輪部から約C4CmmのところでC23CGVランスで穿刺後,硝子体腔に約C4Cmmでるように長さを調節したチューブ先端を挿入,先に固定する(図3a).バルベルトタイプの場合,本来,毛様体扁平部挿入タイプとされるBG102-350があるが,Ho.mannCelbowは大きく強膜反転法にはむかない.Ho.mannelbowは脱出する頻度が高いことが知られており13),当院では前房内挿入用であるCBG101-350の先端の長さを調節し挿入した.その後,方法は前房内固定の場合と同じである(図3b~d).手術はすべて単一の術者が行い,術中,術後代謝拮抗薬は使用しなかった.眼圧はすべてCGoldmann眼圧計にて測定した.術後点眼はベタメタゾンC0.1%とレボフロキサシンC1.5%をC1日C4回約1カ月間投与した.CII結果眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHg(22.59CmmHg)から最終診察時C16.8C±11.5CmmHg(2.51CmmHg)へと有意に低下していた(p<0.001,対応あるCt検定).緑内障点眼薬の本数は,配合剤をC2,アセタゾラミド内服をC1とすると,術前C3.2±1.4本(0.6本)から最終観察時C0.8C±1.3本(0.4本)と有意に減少していた(p<0.001,対応あるCt検定).平均観察期間はC12.0カ月(7.19カ月)で,その期間中チューブの露出はC1例もなかった.血管新生緑内障患者のうちC2例は術後硝子体出血を発症した,1例は硝子体手術を施行し最終眼圧はC15CmmHgと落ち着いた.もうC1例は硝子体手術が困難なほどの硝子体出血と前房出血を術後C6カ月目で発症し,眼圧は上昇し失明に至った.最終診察時眼圧はC51mmHgであった.術後早期の脈絡膜.離や,感染症などは図2前房内固定の場合a:チューブ先端を輪部からC2Cmmのところで前房内にチューブを固定後(.),チューブの両サイドの強膜で,できれば厚いほうを選んで切開デザインを作成する.Cb:強膜を半層切開しチューブぎりぎりまで切開を進める.Cc:強膜を反転しチューブを覆えるか確認する.できれば少しチューブと強膜の間にスペースがあるほうがいい.Cd:折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜固定する.C認めなかった.最終観察時の前房内固定タイプと硝子体内固定タイプの前眼部写真と前眼部三次元画像解析(SS-1000(TomeyCorp,Nagoya,Japan)を提示する(図4,5).図4はC68歳,男性,落屑緑内障(左眼)でバルベルト(BG101-350)を前房内挿入した.術後C8カ月目の前眼部写真と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真を提示する.反転した強膜に覆われたチューブは白い隆起として観察され(図4a),前眼部三次元画像解析では反転した強膜と結膜の境目を高反射として観察された(図4b).図5はC79歳,男性,血管新生緑内障(右眼)で隅角はC360°完全閉塞していた.硝子体手術の既往があったため,バルベルト(BG101-350)を輪部からC4Cmmで硝子体腔に挿入した.術後C4カ月目の前眼部写真(図5a)と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真(図5b)を提示する.反転した強膜に覆われたチューブを観察できる.前眼部三次元画像解析では硝子体腔に滑らかに挿入されていることが確認できた.CIII考察今回筆者らは,Aslanidesらが報告した強膜反転法を用いた緑内障チューブインプラント手術を施行し,短期間ではあるが経過観察期間において良好な成績を得られた.原法ではC1/3層の強膜切開で3C×3mmの長さであり,チューブ全体を覆うことができない.一般的に前房内固定の場合では挿入部位からプレート根部までの距離は約C7.8mm,硝子体腔固定の場合,約C5.6Cmmもある.そのためこの方法を修正し,パッチした強膜が薄くならないように半層切開して,なるべくプレート近くまで長方形に反転強膜をデザインしチューブを覆った(図1~3).Wolfらは,自己強膜を使うメリットは免疫反応がない(異物でない)ことと,パッチ素材の色が本人の強膜と同じ色であるため外見上よいこととしている11).さらに自己遊離強膜パッチ法と比べた強図3硝子体腔固定の場合a:チューブ先端を輪部からC4Cmmで硝子体腔に固定する.Cb~d:以後前房型と同じ手技だが,硝子体固定のほうが前方に強膜が広範囲にありデザインしやすい.C図4前房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C8カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブは明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.内腔もよく視認できる.C膜反転法のメリットとして,強膜への血流が保たれるため,ーブの形に沿って隆起した強膜反転フラップが観察され,美より強膜が溶けにくくチューブの露出の可能性が低いとして容上の問題は良好であった(図4,5).大きなパッチ素材でいる.術後筆者らの症例でチューブ露出を生じた症例はC1例覆うとチューブの走行が不明で,術後に硝子体手術が必要なもないが,Wolfらはチューブ露出が術後C55カ月で,強膜反場合はポートの作製部位に注意が必要であるが,強膜反転法転法ではC2.1%(推定),自己遊離強膜パッチ法でC8.9%であではその必要はないと思われる.ったと報告している11).最終観察時での前眼部写真ではチュチューブ露出の危険因子はさまざま報告されており,たば図5後房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C4カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブ内腔は明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.こ7),ドライアイ7),落屑緑内障7),マイトマイシンCCの利用13),同時手術7,14),白人6),女性6)などがある.一方で糖尿病や高血圧など全身の合併症は危険因子でないとされている6,7,13,14).今回筆者らの症例は血管新生緑内障が多かった.血管新生緑内障を危険因子とする報告もある15)ため,今後の注意は必要である.移植したパッチ素材の違い(強膜,硬膜,心膜)はチューブ露出に関係ないとされている9).強膜反転法以外に自己強膜を利用する方法としては,長い強膜トンネルを作製し,その中にチューブを通す方法や16,17)C6×6Cmmの半層強膜下に設置する方法がある.筆者らの方法では全層の強膜を通してチューブを挿入するので,チューブの変位が生じにくいと予想されるのもメリットである.また,筆者らが用いたように,手術中にできるだけCTenon.を前転しておくことは結膜と強膜もしくはパッチ素材が直接触れ合うことを避けチューブ露出の防止に有効である17).今後長期的な経過観察が必要であるが,強膜反転法はパッチ素材を用いずに施行でき,簡便で大きさも任意に決定でき有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmol28:194-198,C20172)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetCal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmol163:75-82,C2016(111)4)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetCal:TheCAhmedversusCBaerveldtCstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetCal:GlaucomadrainageCdevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20156)MuirKW,LimA,StinnettSetal:Riskfactorsforexpo-sureofglaucomadrainagedevices:aretrospectiveobser-vationalstudy.BMJOpenC4:e00456,C20147)TrubnikCV,CZangalliCC,CMosterCMRCetCal:EvaluationCofCriskCfactorsCforCglaucomaCdrainageCdevice-relatedCero-sions:ACretrospectiveCcase-controlCstudy.CJCGlaucomaC24:498-502,C20158)HeuerCDK,CBudenzCD,CColemanCA:AqueousCshuntCtubeCerosion.JGlaucomaC10:493-496,C20019)SmithCMF,CDoyleCJW,CTicrneyCJWCJr:ACcomparisonCofCglaucomaCdrainageCimplantCtubeCcoverage.CJCGlaucomaC11:143-147,C200210)AslanidesCIM,CSpaethCGL,CSchmidtCCMCetCal:AutologousCpatchCgraftCinCtubeCshuntCsurgery.CJCGlaucomaC8:306-309,C199911)WolfA,HodY,BuckmanGetal:Useofautologousscleralgraftinahmedglaucomavalvesurgery.JGlaucomaC25:C365-370,C201612)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:Preservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheahmedglaucomavalve.JpnCJOphthalmolC56:119-127,C201213)ZaltaCAH:Long-termCexperienceCofCpatchCgraftCfailureCafterCAhmedCGlaucomaCValveRCsurgeryCusingCdonorCduraCandCscleraCallografts.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:408-415,C201214)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetCal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C201615)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetCal:RiskCfactorsCfortubeCshuntCexposure:aCmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201316)OllilaCM,CFalckCA,CAiraksinenCPJ:PlacingCtheCMoltenoCimplantCinCaClongCscleralCtunnelCtoCpreventCpostoperativeCtubeexposure.ActaOphthalmolScandC83:302-305,C2005Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C961

点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):258.262,2018c点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響鎌尾知行*1溝上志朗*2浪口孝治*1篠崎友治*3田坂嘉孝*2,3白石敦*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*3南松山病院眼科CIn.uenceofEyedropContainerPropertyandVisibilityonUsabilitybyPatientswithGlaucomaTomoyukiKamao1),ShiroMizoue2),KojiNamiguchi1),TomoharuShinozaki3),YoshitakaTasaka2,3)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandRegenerativeMedicine,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital目的:緑内障患者が点眼しやすい容器の形状と色調を調査する.対象および方法:対象は,南松山病院に通院中の緑内障患者C100例(男性C49例,女性C51例,平均年齢C64.6±13.5歳).「ルミガンR点眼液C0.03%」容器の旧型と新型で,キャップの大きさ,キャップの開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさについての聞き取り比較調査を行った.つぎに,容器の色調が異なるC3種類の現行型の容器で白色ノズルの視認性を調査した.結果:キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは新型の評価が高く(p<0.0001),総合的にも新型を好む者が多かった(p<0.0001).ノズルの視認性は,緑色,褐色,灰白色の容器の順に評価が高く,各群間に差を認めた(p<0.0001).結論:点眼容器の形状と色調は,ともに緑内障患者の使用性に影響する.CPurpose:Toinvestigatethein.uenceofeyedropcontainershapeandcolorcombinationonusabilityandvisi-bilityCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCcaseCseriesCstudyCcomprisedC100CglaucomaCpatients(49malesCandC51Cfemales)atCMinami-MatsuyamaCHospitalCfromCDecemberC2015CtoCMarchC2016.CAllCpatientsCwereCscoredCasCtoCusabilityCofCconventionalCandCcurrentCtypeCLumiganRCeyedropCcontainersCviaCquestionnaires,CrankingCvisibilityamong3di.erentcolorcombinationsofeyedropnozzles.Results:Thecurrenttypewassigni.cantlybet-terastocapsizes,bottlehandling,bottlesqueezingandfeelingofdrippingonedropthantheconventionaltype(p<0.0001).Amongthethreecontainers,colorevaluationswerehighintheorderofgreen>brown>grayish-white(p<0.0001).Conclusion:OurCresultsCsuggestCthatCeyedropCcontainerCusabilityCandCvisibilityCareCa.ectedCbyCcon-tainershapeandcolorcombination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(2):258.262,C2018〕Keywords:点眼容器,緑内障,使用性,視認性.eyedropcontainer,glaucoma,usability,visibility.Cはじめに点眼容器は形状や硬さ,キャップの大きさなどにより持ちやすさ,さしやすさ,開閉操作などの使用性が異なり1),患者は使用性に優れた点眼容器を支持することから2,3),点眼容器の使用性改善により点眼アドヒアランスの向上も期待できる.近年,プロスタグランジン関連薬の一つである「ルミガンR点眼液C0.03%」(以下,ルミガン)の容器が使用性の向上を目的として変更されたが4),実際に緑内障患者の使用性にどのような影響を与えたかに関してはまだ検討されていない.一方,視野障害を有する緑内障患者では,健常者に比べ点眼の際にノズル視認性に劣るため,眼表面への適切な滴下が困難であり5),より視認性の高いノズルを有する点眼容器が〔別刷請求先〕鎌尾知行:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:TomoyukiKamao,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN258(98)望ましい.しかしながら,筆者らが調べた限りではこれまで点眼容器の色調の違いがノズルの視認性に与える影響に関する検討もされていない.そこで今回,緑内障性視野障害を有する緑内障患者を対象として,ルミガンの旧型と新型容器(図1a)の使用性に関するインタビュー調査を行った.同様に,ノズル先端と点眼容器の色コントラストが視認性に与える影響について,同一の白色のノズルを有しながら容器の色が異なる,褐色のルミガン新型容器,緑色の「アイファガンCR点眼液C0.1%」(以下,アイファガン)容器,および灰白色容器(以下,コントロール)(図1b)を用いて検討した.CI対象および方法対象はC2015年C12月.2016年C3月に南松山病院眼科を受診した緑内障患者のなかから本研究に同意が得られた満C20歳以上の男女で,片眼もしくは両眼に緑内障性視野障害を認める患者を選択した.なお,過去にルミガンと同形状の点眼容器の使用経験がある者,手指の運動障害により点眼操作が不可能な者は除外した.点眼容器の使用性の調査は,評価者が被験者に開封済みのルミガンの新旧容器を渡し,キャップや容器の把持,開閉操作,点眼操作をさせた後,キャップと容器の使用性に関する5項目について,既報1)に準じて評価させた(表1).最後に継続して使用したい点眼容器を選択させた.ノズルの視認性の調査は,キャップをはずしたルミガン新型,アイファガン,コントロールの三つの点眼容器を被験者に擬似点眼操作をさせ,対象眼に実際に点眼する距離まで容器を近づけたときのノズル先端の視認性を順位づけさせた.評価する容器の順番はアトランダムに割り付けた.対象眼はHumphrey自動視野計のCMD(meanCdeviation)の低値側とした.さらに視認性に関与する因子を調べるため,ノズルと各容器の色差およびコントラスト比を測定した.色差は,ノズルとそれぞれの容器のCL*a*b*表色系を分光測色計(コニカミノルタ製,CM-5)にて測定し,色差(CΔE*ab)を評価した6).コントラスト比は,ノズル(白)とそれぞれの容器(緑色,褐色,灰白色)の輝度を二次元輝度計(コニカミノルタ製CA-2500)にてC3回測定し,輝度の比の平均を算出した.統計解析にはCJMPCR11.2(SASCinstitute,CNorthCCarolina,USA)を用いた.使用性のC5項目はC1.5点で点数化し,各項目についてルミガン旧型と新型でCWilcoxon符号順位検定旧型新型253522142121211717(mm)2123正面側面正面側面a:ルミガンR点眼液C0.03%(ルミガン)旧型と新型容器のキャップと容器写真.新型はキャップが小型化,容器が大型化し,形状が円柱から扁平型に変更された.ルミガン新型アイファガンコントロールb:褐色容器ルミガン新型,緑色容器アイファガンCR点眼液C0.1%(アイファガン),灰白色容器(コントロール)のキャップをはずしノズル側より撮影した写真.図1調査に使用した点眼容器表1使用性のアンケート調査の設問と選択肢小さすぎやや小さいちょうどよいやや大きい大きすぎ1.キャップの大きさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)開けやすいやや開けやすいふつうやや開けにくい開けにくい2.キャップの開閉操作のしやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)持ちやすいやや持ちやすいふつうやや持ちにくい持ちにくい3.容器の持ちやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)硬すぎやや硬いちょうどよいやや軟らかい軟らかすぎ4.容器の押しやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)出すぎるやや出すぎるちょうどよいやや出にくい出にくい5.1滴量の滴下のしやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)旧型容器がよい6.総合評価新型容器がよいキャップの大きさ,開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC5項目をルミガン新旧容器それぞれについて,5段階評価させた.最後に総合評価として継続して使用したいと考える点眼容器を選択させた.キャップの大きさ*Wilcoxon符号順位検定1滴量の*キャップの開閉操作*滴下のしやすさ容器の押しやすさ*容器の持ちやすさ*新型4.46±1.023.66±1.114.04±1.074.32±1.144.18±1.14p<0.0001p=0.0927p<0.0001p<0.0001p<0.0001図2使用性の平均スコア灰色五角形が旧型容器,黒線五角形が新型容器のC5項目それぞれの平均スコアのレーダーチャート.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは,有意に新型の評価が高かった(*p<0.0001,Wilcoxon符号順位検定)を行った.総合評価はC1変量のCc2検定で解析した.視認性はCSteel-Dwass法による多重比較を行った.有意水準は5%とした.本研究を実施するに際し,事前に愛媛大学医学部附属病院臨床研究審査委員会(1511007)の承認を得た.また,UMIN臨床試験登録に登録したうえで施行した(UMIN000020122).なお,本研究に使用したルミガン新旧型製品およびルミガン新型,アイファガン,コントロールの空き容器は千寿製薬より提供を受け,受託研究として行った.CII結果対象として選択されたのはC100例(男性C49例,女性C51例,平均C64.6C±13.5歳:34.88歳)だった.対象の緑内障罹病期間は平均C7.2C±5.2年:0.5.22年,使用緑内障点眼剤数は平均C1.3C±0.7剤(0.3剤),有水晶体眼C69眼,眼内レンズ挿入眼C31眼,近見視力は平均C0.32C±0.47(0.1.1.0),Hum-phrey自動視野計のCMD値は平均C.12.94±7.70CdB(C.32.07..0.76CdB)であった.白内障による視力低下を認めた症例はなかった.点眼容器の使用性は,キャップの大きさに関しては,ちょうどよいと答えたのは旧型がC39例(39.0%)に対して,新型がC76例(76.0%)であった.キャップの開閉操作のしやすさは,開けやすいと答えたのは旧型がC26例(26.0%)に対して,新型がC32例(32.0%)であった.容器の持ちやすさは,持ちやすいと答えたのは旧型がC13例(13.0%)に対して,新型が42例(42.0%)であった.容器の押しやすさは,ちょうどよいと答えたのは旧型がC19例(19.0%)に対して,新型がC71例(71.0%)であった.1滴量の滴下のしやすさはちょうどよいと答えたのは旧型がC32例(32.0%)に対して,新型が63例(63.0%)であった.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC4項目については,新型が旧型より有意に使用性が高いという結果であった(Wilcoxon符号順位検定,p<0.0001).2容器それぞれで使用性の評価結果の平均スコアを算出したレーダーチャートを図2に示した.点眼容器の使用性と患者背景の関連を調べるため,使用性のスコアと年齢の相関を検討した.新型はキャップの開閉操作と年齢に正の,旧型はキャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさと年齢に負の相関を認めた(Spearmanの順位相関係数=0.2899,C.0.2068,C.0.3477,C.0.2876,p=0.0034,0.0390,0.0004,0.0037).一方,男女C2群で使用性を比較したが,スコアは有意差を認めなかった.また,継続して使用したいと考える点眼容器については,旧型を選んだのがC21名(21.0%)だったのに対して,新型を選択したのがC79名(79.0%)で,総合的に新型を好む者が多かった(Cc2検定,p<0.0001).つぎに,点眼容器の視認性は,1位に順位付けされたのがルミガン新型C19例(19.0%),アイファガンC69例(69.0%),コントロールC12例(12.0%)であった(図3).2位はルミガ■ルミガン新型■アイファガン■コントロール9080706050403020100例数1位2位3位図3視認性の順位1位はルミガン新型C19例,アイファガンC69例,コントロールC12例.2位はルミガン新型C73例,アイファガンC22例,コントロールC5例,3位はルミガン新型8例,アイファガンC9例,コントロールC83例であった.アイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で有意に視認性が優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).ン新型がC73例(73.0%),3位はコントロールがC83例(83.0%)ともっとも多く,視認性はアイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).近見視力,中心窩閾値の中央値,0.4,34CdBを閾値としてC2群に分けて視認性を検討したが,同様の結果であり,視機能の良否にかかわらずアイファガンの視認性が優れていた.最後に,ノズルとルミガン新型,アイファガン,コントロールのC3つの点眼容器の色差(CΔE*ab)は,それぞれC15.4,21.2,7.1であった.コントラスト比は,それぞれC2.14C±0.09,2.10C±0.24,1.21C±0.06であった(表2).CIII考按ルミガンの新旧容器の使用性の比較では,新型容器のほうが,キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,およびC1滴量の滴下のしやすさのC4項目で,旧型容器よりも優れていた.なお,今回の調査では,使用経験の有無によるバイアスを排除するため,過去に新旧容器の使用経験のない者を対象として選択している.新型容器の大きな改良点としては,容器が円柱型から把持部面積の大きい扁平型になり,キャップが小型化したことがあげられる.とくに,容器の持ちやすさやと押しやすさに関しては,過去の報告でも把持部に十分な高さをもつものや凹みを有しているものが優れるとされており1),今回の把持部面積の大きい扁平型の新型容器が高く評価された結果は矛盾しない.また,キャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさのスコアは,旧型容器では年齢と負の相関を認めたが,新型容器では相関を認めなかった.つまり旧型容器は高齢者ほど使用性が悪いと評価しているが,新型容器は改善されていることが示唆される.表2ノズル先端と容器の色差,コントラスト比色差Cルミガン新型15.4Cアイファガン21.2Cコントロール7.1コントラスト比C2.14±0.09C2.10±0.24C1.21±0.06C一方,キャップの開閉操作については新旧容器間で使用性に差がなかった.円柱型のキャップを有する旧型に対し,新型はC10角形に成形され,把持性を向上させるためにキャップ全体に縦方向のねじれをつけているが,その使用感に差はみられなかった.しかし,新型容器は年齢と使用性に正の相関を認めたため,高齢者においては高評価を得ている.新型容器は旧型容器よりもC1滴量の滴下のしやすさに優れていた.新型容器では,旧型よりも軽いスクイズ力でC1滴目が滴下可能で,2滴目の滴下に要するスクイズ力は旧型よりも大きくなるように設計されていることで4),1滴を点眼しやすく,連続で射出されにくい構造になっている.この容器の物性の改良点が,患者の使用感の向上に寄与したと推測される.今回の調査では約C8割の患者が旧型容器よりも新型容器を支持した.この結果は,形状と物性の両面からの改良が反映された結果と推測されるが,旧型容器を好む患者も約C2割存在した.この結果は,点眼容器の好みには,手指の大きさやスクイズ力の違いなどの身体的要因,あるいは過去にどのような点眼容器をどれくらいの期間使用してきたかなどの経験的要因など,さまざまな因子が影響する可能性が考えられる.白色のノズルの視認性については,もっとも優れていたのは点眼容器が緑色のアイファガンであり,褐色のルミガン新型容器と灰白色のコントロールと続いた.この結果は視機能に影響されなかった.分光測色計を用いた色差の評価でもアイファガン,ルミガン新型容器,コントロールの順番であり,ノズル先端と容器の形状はC3容器ともに同一であることから,ノズルと点眼容器の配色やコントラスト比が視認性に影響を与えたことが示唆された.緑内障患者では色覚やコントラスト感度が低下しているため7,8),ノズルの視認が困難な患者が多く,とくに緑内障点眼薬の容器の設計にあたっては,配色やコントラスト比に留意する必要性が示唆された.以上,今回の結果より,点眼容器の形状や物性の改良以外にも,ノズルと容器の色コントラストを改善することは,患者の使用性の向上と,アドヒアランスの向上につながる可能性が示された.本稿の要旨は第C27回日本緑内障学会にて発表した.文献1)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,C20072)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行ほか:プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較.あたらしい眼科C27:1127-1132,C20103)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:押し圧力と滴下時間が点眼容器の使用性に与える影響.あたらしい眼科C28:C1050-1054,C20114)大塚忠史:点眼アドヒアランスの向上を指向した医療用点眼容器の開発.人間生活工学12:32-38,C20115)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCDCetCal:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtech-nique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20116)小松原仁:色差式の開発動向.照明学会誌C76:496-499,C19927)BullCO:BemerkungenCuberCdenCFarbensinnCunterCver-schiedenenCphysiologischenCundCpathologischenCVerhalt-nissen.CAlbrechtCvonCGraefesCArchivCfurCOphthalmologieC29:71-116,C18838)CampbellCFW,CGreenCDG:OpticalCandCretinalCfactorsCa.ectingvisualresolution.JPhysiolC181:576-593,C1965***

当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1196.1200,2017c当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績本田紘嗣*1野本洋平*1戸塚清人*2高田幸子*1曽我拓嗣*1杉本宏一郎*1中川卓*1*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科Short-termResultsofCombinedPhacoemulsi.cation,IntraocularLensandTrabeculotomywithSinusotomyatAsahiGeneralHospitalKojihonda1),YouheiNomoto1),KiyohitoTotsuka2),SachikoTakada1),HirotsuguSoga1),KouichirouSugimoto1)andSuguruNakagawa1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:当院で術後1年間フォロー可能であったサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術について検討を行った.対象および方法:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を施行した症例のうち,術後1年間フォロー可能であった症例39症例50眼を対象とした.病型,術前後眼圧,術前後点眼スコア,合併症および生存率について検討を行った.結果:眼圧に関しては,術前平均18.0±4.9mmHgから術後1年で13.0±3.3mmHgと下降していた.また,点眼スコアに関しても,術前4.3±1.8から術後1年で2.1±1.6と下降していた.合併症に関しては重篤なものはなかった.生存率に関して,原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に有意差は認めなかった.結論:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術は重篤な合併症なく,術後眼圧および点眼スコアにおいて下降が得られた.Purpose:Toevaluatethesurgicaloutcomeoftrabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomy(LOT+PEA+IOL+SIN).Methods:Weconductedaretrospectivestudy,1yearpostoperatively,ofpatientswhohadundergoneLOT+PEA+IOL+SIN.Analysisincludedtypeofglaucoma,preop-erativeandpostoperativeintraocularpressure(IOP),preoperativeandpostoperativeeyedropscore,postoperativecomplicationsandsurvivalrate.Results:IOPdecreasedfrom18.0±4.9mmHgpreoperativeaverageto13.0±3.3mmHgpostoperativeaverage.Eyedropscoredecreasedfrom4.3±1.8preoperativeaverageto2.1±1.6postop-erativeaverage.Therewasnoseriouspostoperativecomplication,norwasthereanysigni.cantdi.erencebetweenprimaryopen-angleglaucomaandexfoliationglaucomaasregardssurvivalrate.Conclusions:IOPandeyedropscoredecreasedafterLOT+PEA+IOL+SINwithoutseriouscomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1196.1200,2017〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,同時手術,超音波乳化吸引術,glaucoma,trabeculotomy,sinusotomy,combinedsurgery,phacoemulsi.cation.はじめに緑内障手術はさまざまな術式があるが,その中で線維柱帯切開術は緑内障手術のなかで流出路再建術として濾過胞を作らないため,術中および術後に重篤な合併症が少ない手術である.また,近年になってサイヌソトミーを併用することで術後の一過性眼圧上昇を予防するとともに,さらなる眼圧低下が報告されている1,2).既報では術前平均眼圧が19.8.26.1mmHgでの報告がなされている.今回当院での手術では緑内障や薬物治療を行ったうえで,平均術前眼圧18.0mmHgの緑内障症例で検討を行った.また,原発開放隅角緑内障お〔別刷請求先〕本田紘嗣:〒289-2511千葉県旭市イ1326総合病院国保旭中央病院眼科ReprintAdress:KojiHonda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,1326I,Asahicity,Chiba289-2511,JAPAN1196(122)よび落屑緑内障を中心に緑内障病型による術後眼圧の成績について検討を行った.I方法2013年7月23日.2015年10月28日に,当院でサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を行い,術後1年フォロー可能であった39症例50眼について,病型,術前および術後眼圧,術前および術後点眼スコア,合併症,生存率について検討を行った(表1).平均年齢は72.0±8.8歳,術眼は右眼27眼,左眼23眼であった.対象眼は緑内障として診断されたもので,術前に緑内障の薬物治療を行った症例とした.除外基準は,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,レーザー線維柱帯形成術,毛様体光凝固術などの眼圧降下目的の手術を施行されていた症例とした.病型としては,原発開放隅角緑内障がもっとも多く28眼,ついで落屑緑内障が15眼,ステロイド緑内障が3眼,正常眼圧緑内障が1眼,その他が3眼であった.視野としては,湖崎分類IV期までの緑内障を対象とした.1.術.後.評.価眼圧はGoldmann圧平眼圧測定を行い,細隙灯顕微鏡検査および眼底検査により合併症の評価を行った.2.手.術.方.法当院のサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術式は,耳側角膜切開による超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行する.その後,下耳側を基本に二重強膜弁を作製し,Schlemm管を剖出して深層強膜弁は切除する.プローブをSchlemm管に挿入してOcularPosnerGonioprismでSchlemm管への留置を確認した後,プローブを回旋させて線維柱帯切開を行う.強膜弁を10-0ナイロン角針で縫合して,サイヌソトミーを輪部に2カ所作製,結膜を10-0ナイロン丸針で縫合する.前房洗浄を行い,眼圧調整を行い終刀とする.3.術.後.管.理術後点眼はベタメタゾン,レボフロキサシン,ピロカルピ表1対象症例内訳対象眼数39症例50眼性別男性30眼女性20眼手術時平均年齢72.0±8.8歳術眼右眼27眼左眼23眼緑内障病型原発開放隅角緑内障(POAG)28眼(56%)落屑緑内障(PEgla)15眼(30%)ステロイド緑内障(Steroidgla)3眼(6%)正常眼圧緑内障(NTG)1眼(2%)その他(高眼圧症1眼,慢性閉塞隅角緑内障2眼)3眼(6%)ン,ジクロフェナクナトリウムを基本処方とした.術後の目標眼圧は術前眼圧または20mmHg以下とし,眼圧上昇を認めた場合は内服または点眼による薬物療法を行った.術直後の30mmHg以上の眼圧上昇に対しては,サイドポートからの前房穿刺を行った.4.データ解析手術成績判定は,Kaplan-Meier生命表法を用いて,眼圧18mmHg以下および15mmHg以下の生存率を検討した.一過性眼圧上昇も考慮し,術後は1カ月後より生存率の検討を行った.各眼圧が2回連続で規定眼圧を超えた最初の時期をエンドポイントとした.なお,点眼スコアについては,合剤およびアセタゾラミド内服については2として換算した.II結果術前平均眼圧は18.0±4.9mmHgで,術後1年での平均眼圧は13.0±3.3mmHgと下降を認めた.病型別では,原発開放隅角緑内障では術前平均眼圧17.5±4.6mmHgから術後1年での平均眼圧は13.1±3.9mmHgに,落屑緑内障では術前平均眼圧18.0±4.5mmHgから術後1年での平均眼圧は13.3±2.4mmHgに,ステロイド緑内障では術前平均眼圧20.7±9.8mmHgから術後1年での平均眼圧は13.7±2.5mmHgに,正常眼圧緑内障では術前眼圧11.0mmHgから術後1年での眼圧は8.0mmHgに,その他では術前平均眼圧21.1±4.5mmHgから術後1年での眼圧は12.2±2.7mmHgに下降を認めた.眼圧推移としては術翌日および1週間後に眼圧は上昇傾向にあり,2週間で眼圧は安定していた(図1).病型別ではどの病型においても全体と比較してほぼ同様の推移を記録した(図2~5).原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に眼圧の低下を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05).点眼スコアに関しては,術前4.3±1.8から1年後は2.1±1.6と改善を認めた(図6).点眼スコア推移に関しては,2日目より点眼スコアの上昇を認め,その後は安定していた.病型別でみても,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に点眼スコアの改善を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05)(図7).ステロイド緑内障に関しては,一過性眼圧上昇に対し使用していた点眼を中止しても眼圧が維持されたため,点眼スコアが低下していったものと考えられる.生存率に関して,18mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には43眼が生存となった.15mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には28眼が生存となった(図8,10).病型別では原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に差は認めなかった(図9,11).眼圧の上限設定や観察期間が既報によって違うところがあるので,一概に比30眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)252015105観察期間(月)観察期間(月)図1術後眼圧推移:全群(n=50)図2病型別の術後眼圧推移:原発開放隅角緑内障(n=28)35353030眼圧(mmHg)25201510252015105500観察期間(月)観察期間(月)図3病型別の術後眼圧推移:落屑緑内障(n=15)図4病型別の術後眼圧推移:ステロイド緑内障(n=3)35730術前123612術前1236126点眼スコア(点)25520415310250観察期間(月)図5病型別の術後眼圧推移:正常眼圧緑内障(n=1)較はできないが,20mmHg以下でおおむね1年の生存率は90%弱とほぼ同等の生存率であった5,7,10).合併症に関しては,1週間以上続くような前房出血が4眼,Niveauを形成するような前房出血が23眼,フィブリンの析出が6眼,Descemet膜.離が2眼,1週間以内の21mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は26眼であった.Descemet膜.離に関して,1眼は前房内に空気を入れたが,もう1眼は経過観察となっていた.いずれも視機能に影響するような10観察期間(月)図6点眼スコア:全群(n=50)*:Wilcoxonsignedranktestp<0.05.重篤な後遺症は残っていなかった.病型別では,原発開放隅角緑内障に術後のフィブリンやDescemet膜.離が生じる場合が多く,前房出血や一過性眼圧上昇は落屑緑内障に多い傾向となった(表2).III考按本研究では,進行性緑内障であることに加えて,将来的な薬物治療の継続やさらなる薬物治療の強化,それに伴う副作術前1236120.90.8POAGPEglaSteroidgla***************生存率点眼スコア(点)0.70.60.50.40.3観察期間(月)観察期間(月)図7点眼スコア比較:病型別(n=50)図8生存率:全群18mmHg(n=50)*:Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05.10.910.90.80.70.8(n=28)(n=15)生存率生存率0.20.10.70.60.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100024681012024681012観察期間(月)観察期間(月)図9生存率:病型別18mmHg図10生存率:全群15mmHg(n=50)10.90.80.70.60.50.40.30.20.1生存率0024681012観察期間(月)図11生存率:病型別15mmHg表2術中術後合併症(n=50)全群(n=50)POAG群(n=28)PEgla群(n=15)Steroidgla群(n=3)Descemet膜.離2(4%)2(7.1%)0(0%)0(0%)1週間以上続く前房出血4(8%)2(7.1%)2(13.3%)0(0%)Niveauを形成した前房出血23(46%)10(35.7%)10(66.7%)1(33.3%)Fibrin析出6(12%)5(17.9%)0(0%)0(0%)一過性眼圧上昇(>21mmHg,1週間以内)26(52%)14(50%)9(32.1%)1(33.3%)一過性眼圧上昇(>30mmHg,1週間以内)4(8%)1(3.6%)2(13.3%)1(33.3%)用を念頭に手術適応を判断した.また,薬物治療で正常眼圧が達成されていても,年齢,視野障害の程度,他眼の状態,全身状態,生活環境などを加味して手術適応を判断した.当院でのサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術前平均眼圧は18.0±4.9mmHg,術後1年での眼圧は13.0±3.3mmHgの結果となった.既報では術前眼圧が19.8.26.1mmHg,術後1年での眼圧が12.3.18.1mmHgと報告1.9)されており,今回の研究では術後眼圧は既報と同等であった.今回の研究では既報に比べると術前眼圧は低値であり,眼圧下降率としては27.8%と既報の29.7%.48.0%とほぼ同等であった.点眼スコアについて,既報では術前1.9±1.4から6年後1.0±1.0と半分に改善を認めたとの報告があり,本研究でも半分に改善しており,ほぼ同様の結果が得られた5).今回の研究でも緑内障合剤であれば1種類でのコントロールも可能であり,患者のアドヒアランスの向上にも寄与できると考えられた.術中・術後合併症では,全体として1週間以内の21mmHgを超える眼圧上昇は26眼(52%),30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は4眼(8%),前房穿刺の処置を行ったのは1眼であった.既報では30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は20%と報告があり6),本研究は良好な結果であった.また,前房出血が原因の眼圧上昇に対して観血的手術を要した症例は,本研究では認めなかった.また,Niveauを形成するような前房出血は全体の23眼(46%)が認められ,1週間以上の前房出血が持続したのは4眼(8%)であった.7日以上続くような前房出血は8%,フィブリン析出は8%との報告がなされており,既報と同程度であった6).病型別では,原発開放隅角緑内障にDescemet膜.離が2眼(7.1%)に生じ,他の病型には認められなかった.既報ではDescemet膜.離の症例は0%となっており,本症例では合併症として多い結果となった6).今回,眼軸長を含めた解析は行っていないが,近視などによる前房深度などの多様性があったのかもしれない.落屑緑内障に10眼(66.7%)の前房出血が認められ,1週間以上の前房出血は2眼(13.3%)であり,他の病型より多い結果となった.術後の一過性眼圧上昇は9眼(32.1%)で認め,原発開放隅角緑内障に比べると術後早期の眼圧上昇は比較的少ない結果であった.線維柱帯切開術は房水流失の主経路の大きな抵抗となる傍Schlemm管結合組織からSchlemm管内壁を直接開放する術式であり,落屑緑内障は比較的集合管以降の房水動態が保たれており,集合管からの逆流が多いことが考えられる.これらの結果より,緑内障を有する初期から中期の患者で白内障を手術する際は,点眼スコアの改善も考慮し,線維柱帯切開術を併用することが望ましいと考える.一方,7日以内に30mmHg以上の一過性眼圧上昇を認めたものは16.1.34.8%との報告がある3,6,7,11).サイヌソトミー併用により一過性眼圧上昇が少なくなったとはいえ,術後合併症としてかなりの症例数が存在するため,末期緑内障に対してはやはり線維柱帯切除術などを考慮したほうがよいと思われる.ただ,認知機能低下や易感染性などのリスクを有する患者においては,線維柱帯切開術も念頭においてもよいと考えられる.今後,長期的な成績をまとめ,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の有効性を検討していく必要があると考えられる.文献1)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19962)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicale.ectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmicScand78:191-195,20003)TaniharaH,HonjyoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalmicSurgLasers28:810-817,19974)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)福本敦子,松村美代,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,20136)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.JJpnGlaucomaSoc12:30-34,20027)野田理恵,山本佳乃,越山健ほか:落屑緑内障に対する線維柱帯切開術と白内障同時手術の成績.眼科手術26:623-627,20138)小野岳志:開放隅角緑内障に対する白内障同時手術(流出路再建術)トラベクロトミー(トラベクトーム,suture-lot-omyabinterno/externo含む).眼科手術29:182-188,20169)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,199610)落合春幸,落合優子,山田耕輔ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとPEA+IOL同時手術の長期成績.臨眼61:209-213,200711)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科32:583-586,201512)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,200813)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,2011

緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1169.1177,2017c緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症市.岡.伊.久.子市岡眼科CPeripapillaryRetinoschisisinGlaucomaEyesIkukoIchiokaCIchiokaEyeClinic緑内障症例に網膜分離症を認めることがあり,おもに黄斑部に及んだ例が報告されているが,網膜.離の合併がなく黄斑部に及ばない症例は見過ごされている可能性がある.当院で緑内障経過観察中の症例にCOCTにて視神経乳頭耳側断面を測定したところ,5眼に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めた.分離部形状は網膜各層間.層内の浮腫で黄斑部に進展した例はなく,経過を追えたC4眼では緩解,増悪を繰り返した.平均年齢C71.2歳,屈折はC.0.15±1.5D,発症時眼圧はC12.2C±1.3CmmHg,発症時CMD値はC.3.73±3.4CdBであった.網膜分離症の範囲は神経線維層菲薄部に一致し,網膜分離症の視神経乳頭部にC1眼に乳頭Cpitを認めた.頻度はC6カ月間にCOCTにて検査した緑内障患者C5人/490人(1.0%)に認めた.3眼は網膜分離症に対応する部の視野障害が進行した.眼圧は低めだが,さらなる眼圧下降によりC3眼の分離症は軽減している.OCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定では網膜分離症発症時の網膜神経線維層厚が厚く検出されるため,注意が必要である.Retinoschisiswithglaucomaisreportedasmainlyinvolvingthemacularregion;casesrestrictedtobesidetheopticdiscarerare.Atourhospital,thetemporalsideoftheopticdiscwasscannedusingCirrus(CarlZeissMed-itec,CInc.)OCT.CInC490CpatientsCundergoingCglaucomaCfollowCup,C5CretinoschisisCeyesCwereCfound(1.0%)C.CAverageagewas71.2years;1male,4female;refractionC.0.15±1.5D,intraocularpressureatonset12.2±1.3CmmHgandMDvalueatonset.3.73±3.4CdB.Theschisiswasinvolvedeachretinallayer,attachedtotheopticdiscandover-lappedwiththeretinalnerve.berlayerdefect(NFLD);nocaseinvolvedthemacula.OpticdiscpitwasobservedinConeCeye.CAlthoughCtheCintraocularCpressureCwasClow,CthreeCretinoschisisCeyesCwereCreducedCowingCtoCfurtherCreductionCofCintraocularCpressure.CAttentionCshouldCbeCpaidCinCmeasuringCtheCretinalCnerveC.berClayerCaroundCtheopticdisc(cpRNFL)withtheOCT,becauseincreaseinRNFLthicknessmeasurementwasobservedatthetimeofretinoschisis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1169.1177,C2017〕Keywords:緑内障,網膜分離症,視神経乳頭pit,視野障害.glaucoma,retinoschisis,opticdiscpit,visual.elddisturbance.Cはじめに緑内障症例に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めることがあり,黄斑部に及んだ例が報告されている1.4)が,視神経乳頭近傍に限局する場合,見過ごされやすい.近年ようやく光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い視神経乳頭近傍に限局した網膜分離症が注目されはじめているが報告は少ない5,6).今回当院で緑内障経過観察中の症例C5眼に視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症を認めたので,臨床所見を含め報告する.CI症例当院で緑内障にて経過観察中の男性C1人,女性C4人,計C5人の片眼C5眼にCCirrus(CarlCZeissCMeditec,CInc.)OCTにて傍視神経乳頭網膜分離症を認めた.当院ではC2012年より緑内障全例に経過観察中,6カ月ごとに視神経乳頭耳側の網膜断層撮影を施行し,網膜分離症疑い例にはC3-DCscanや検査〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(95)C1169表1症例の内訳網膜分離症発症部位経過観察期間(年)症例性別年齢左右屈折(D)眼軸長(mm)視神経乳頭発症まで発症後C1CMC62CRC0.5C24.37下C5.83C2.80C2CFC60CLC.2.75C24.59下C13.31C1.42C3CFC79CRC0.75C21.08下C18.63C1.08C4CFC69CLC0.25C21.74上C11.57C2.26C5CFC86CRC0.5C22.91下C9.3C0.1平均C71.2C.0.15±1.5C22.9±1.7C13.2±4.5表2症例の内訳症例初診時眼圧(mmHg)初診時CMD分離症発症時眼圧(mmHg)平均眼圧(mmHg)網膜分離症発症後平均眼圧発症時CMD(dB)CMDCslope(dB/年)分離症部CMDCslope(dB/年)CPit発症時CPVD分離症部位(Disc.CNFLD部)視野欠損部C1C21C2.35C12C13.4±1.9C12.2±1.1C.5.45C.0.35C.0.56+.耳下鼻上C2C13C.0.56C13C13.2±1.3C13.4±1.1C.5.47C.0.48C.0.59不明+耳下鼻上C3C14C.3.66C13C12.5±1.7C11.4±2.0C.7.17C.0.81C.1.16不明+耳下鼻上C4C13C1.84C10C8.6±0.9C8.5±1.0C1.39C0.01C.0.06不明+耳上鼻下C5C13C.1.95C13C12.6±1.8C.1.95C0.04C0.06不明+耳下上平均C14.8±3.5C.0.39±2.5C12.2±1.3C12.1±2.0C11.4±2.0C.3.73±3.4C.0.32±0.4C.0.5±0.5C部を変えて断層撮影を施行し視神経乳頭周囲の変化を精査している.平成C28年C3.8月のC6カ月間に緑内障患者C972眼490人中C5人C5眼に網膜分離症を認めた.症例の内訳を表1,2に示す.男性C1人,女性C4人,平均年齢C71.2歳,屈折は近視C1人,遠視C4人で高度近視症例はなかった.眼軸長は平均C22.9C±1.68Cmmであった.経過観察期間は平均C13.2C±4.5年,初診後網膜分離症を認める前は5.18年,認めた後はC0.1.2.8年経過をみていた(表1).初診時眼圧はC13.21mmHg,平均C14.8C±3.5CmmHg,初診時MD値はC.3.66.2.35CdB,平均C.0.39±2.5CdB,網膜分離症発症時の眼圧はC12.2C±1.3CmmHgと低めで発症時CMD値はC.7.17.+1.39CdB,平均C.3.73±3.4CdBであった(表2).網膜分離症は全例視神経乳頭から神経線維層菲薄部に一致し,黄斑部に分離症が及ぶ症例はなかった.症例C1は視神経乳頭耳下側に網膜分離症を認めた(図1a,b).視神経乳頭の分離症部に明らかなCpitを認め,OCTにてCpit部より網膜分離症をきたしている様子を認め,視神経乳頭陥凹内部に硝子体癒着を認めた(図1c,d).初診時眼圧はC21CmmHg,その後点眼薬で眼圧は下降し,経過観察中の平均眼圧はC13.4C±1.9CmmHg,視野感度低下部は下方網膜分離症に対応する上方視野欠損を認め,MDCslopeはC.0.35±0.2CdB/年であったが,下方網膜分離症に対応する上方視野は.0.56±0.24CdBの進行を認めた.図2に網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.眼圧と網膜厚とは連動してはいなかったが,最近は網膜分離症の程度はやや軽減している.症例C2は後部硝子体.離後の症例で,視神経乳頭陥凹は全体に深く下方C1/4に及ぶ網膜分離症をきたした.図3aにOCTCangiographyのCenCface画像,上層に網膜分離症部の神経線維層が描出されており,断面図(図3b)では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.蛍光眼底撮影では中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが漏出点は認めなかった(図4).眼圧平均は網膜分離症をきたした右眼C13.2C±1.3CmmHgと比較的安定しているが,MDslopeは.0.48±0.2CdB/年で他眼C0.11C±0.2CdB/年に比し,視野進行を認め,網膜分離症部に対応する上方視野はC.0.59±0.25dB/年の進行を認めた(表2).網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.この症例も眼圧と網膜分離症厚にあまり関連はないが網膜分離症がやや増悪傾向である(図5).本症例のCOCTでの視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(cpRNFL)の網膜分離症発症前後を比較すると,発症前に視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し左眼の菲薄化を認め図1症例1のOCT画像a:OCTenface画像で視神経乳頭耳下側の暗い部分が網膜分離症の範囲.Cb:OCT視神経乳頭下方断面,視神経乳頭Cpit部より下方に網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像にて耳下側のCpit部の深い陥凹を認める.Cd:OCT水平断にて視神経乳頭下方Cpit部内側に硝子体癒着を認める.C80016網膜厚(μm)700600500400300200100014121086420眼圧mmHg2014/112014/122015/12015/22015/32015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/72016/8disc下部厚(μm)耳側部厚(μm)眼圧(mmHg)図2症例1の眼圧と視神経乳頭下部,耳下側部の網膜厚眼圧と網膜厚は連動していない.Cるが(図6),網膜分離症発症後,下方網膜厚は厚く測定され,MDslopeはC.0.81±0.12dB/年と他眼C.0.35±0.17dB/年に左眼の神経線維層菲薄部が右眼より厚くなっている(図7).比し進行しており,とくに上方視野はC.1.16±0.2CdB/年の症例C3は右眼耳下側に網膜分離症を認め,OCTangiogra-進行を認めた(表2).phyの脈絡膜層で右眼視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた症例C4は左眼耳上側の網膜分離症を認め,視神経乳頭陥凹(図8).網膜分離症に対応する上方視野欠損の進行が著明で,は全体に拡大しており,OCT断面図で視神経乳頭陥凹内部図3症例2のOCT画像a:OCTangiographyのCenface画像,表層に網膜分離症部の神経線維層が描出されている.Cb:断面図では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.図4症例2の蛍光眼底撮影中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが,漏出点は認めなかった.80020網膜厚(μm)6001540010200500眼圧mmHg2015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/7disc下部厚(μm)眼圧(mmHg)図5症例2の眼圧と視神経乳頭下部の網膜分離症部の網膜厚経過眼圧と網膜厚は連動せず,網膜厚はやや増加し,網膜分離症が増悪傾向である.C図6症例2.網膜分離症発症前のOCT画像a:網膜分離症発症前のCcpRNFL測定にて右眼に比し左眼の視神経乳頭下部神経線維層の菲薄化を認める.Cb:同時期の視神経乳頭耳側網膜断面図.耳下側に網膜神経線維層の著明な菲薄化を認める.C図7症例2.網膜分離症発症後のOCT画像a:症例2,網膜分離症発症後のCcpRNFL測定にて左眼の視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し厚く測定されている.Cb:視神経乳頭下方に網膜分離症を発症し,網膜厚が厚くなっている.図8症例3のOCT画像a:症例3,右眼耳下側に網膜分離症を認める.OCTangiographyのCenface画像,網膜分離症部が暗く認められる.Cb:視神経乳頭下方の網膜分離症.外顆粒層より内層の各層間,層内に浮腫を認める.Cc:OCTangiographyの脈絡膜層で視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた.Cd:視神経乳頭耳下側の断面図.pitは不明だが網膜分離症に接する部分の陥凹が深くなっている.より網膜分離症発症を認める(図9).MDCslopeは+0.01±0.1CdB/年と進行傾向はなかったが,網膜分離症に対応する下方視野のCMDCslopeはC.0.06±0.08CdB/年と感度低下を認めた(表2).症例C5は約C1カ月前に右眼耳下側に網膜分離症を認めた症例である.OCTCangiographyのCenCface画像で網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く,分離症部と接していることがわかる(図10).CII考按緑内障眼における網膜分離症については以前より黄斑部に及ぶ症例が報告されていたが,最近ではCOCTの解像度の向上に伴い,視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症症例が報告され始めている.Leeら5)は視神経乳頭周囲の網膜神経線維層と黄斑部のCSD-OCTCscan,赤外線写真撮影により緑内障の網膜分離症を調査し,372人中C22人(5.9%)25眼に網膜分離症を認めたと報告.当院の症例と同様,網膜分離症は視神経乳頭に接続し,網膜神経線維層菲薄部にきたしており,C黄斑部に網膜分離症が波及している症例はなかったと報告している.Bayraktarら6)はCOCTを用いC940人の緑内障と801人の緑内障疑患者を比較調査し,緑内障群はC3.1%,緑内障疑群はC0.87%の網膜分離症を認めたとし,彼らの症例も黄斑部に網膜分離症が波及している症例はない.今回は当院で緑内障経過観察中,網膜分離症を視神経乳頭付近に認めたC5症例を報告した.当院では緑内障経過観察時全例半年ごとにOCTで視神経乳頭耳側断面を測定しており,当院での網膜分離症出現頻度は約C1.0%である.上記C2文献と比べると頻度が低いが,これらは視神経乳頭周囲全周の断面図CBモードスキャンを測定し調査しており,当院では視神経乳頭鼻側のみ測定したため,上方,下方にきたした軽度の網膜分離症を検出できなかったものと思われる.Leeらの報告5)では神経線維層のみの分離がC13眼C52%と報告しており,比較的軽度な症例が多く含まれていることがわかる.今回の症例では全例多層にわたって網膜分離をきたしていた.上記C2文献のように視神経乳頭サークルスキャンの断層像を用い軽度の症例を見逃さなければ,より高い検出率となる可図9症例4のOCT画像a,b:左眼耳上側の網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像,視神経乳頭陥凹は全体に拡大していた.Cd:OCT網膜分離症部断面図で視神経乳頭陥凹内部より分離症を認める.C図10症例5のOCT画像a:症例5,OCTangiographyのCenface画像,右眼耳下側に網膜分離症が暗く認められる.網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く分離症部と接している.Cb:網膜分離症部の断面図.視神経乳頭陥凹に接して網膜分離症を認める.能性がある.OCTの視神経乳頭周囲のサークルスキャンに緑内障の網膜分離症の原因は以前より黄斑部に網膜分離症おいては今回症例C2で表示したように,網膜分離症をきたすをきたした症例より考察されている.Zhaoら1)は正常眼圧と厚みが増加し,神経線維層菲薄部が改善したように見える緑内障の黄斑部網膜分離症症例を報告し,緑内障に伴い神経ため,断層像を直接チェックできない機種では注意が必要で線維層菲薄化や欠損部より液化硝子体が網膜内に入り,網膜ある.C分離症または網膜.離を引き起こす危険があると考察,Zumbroら2)は緑内障患者C5人の網膜分離症につき報告,明らかな視神経乳頭の先天異常を認めない症例に網膜分離症をきたしたことより,視神経乳頭に先天異常がなくても緑内障性陥凹拡大より黄斑網膜分離症,症例によっては網膜.離をきたすことを報告している.彼らは液化硝子体が乳頭陥凹の薄い組織の小孔より漏れ出た可能性がありCopticCpitと機序が類似していると考察している.Takashinaら3)はCpitを認めない緑内障患者に黄斑分離症をきたし硝子体手術を施行,視神経乳頭上膜様組織から網膜分離症をきたし,トンネル状に硝子体と網膜分離症がつながっていたと報告している.Inoueら4)は緑内障C11人C11眼の黄斑分離症(そのうちC10眼は.離症例)を報告,視神経乳頭陥凹拡大はC0.7以上でCpitは認めていない.脆弱神経線維層,視神経乳頭部に硝子体牽引が加わり,網膜血管に沿った裂け目より液化硝子体が入る可能性につき言及している.上記のように網膜分離症は乳頭pitを認めない緑内障例で多数報告されており,緑内障による視神経乳頭陥凹拡大症例に多く,低眼圧の症例でも報告されている.今回の症例は全例網膜分離症はすべて緑内障による網膜神経線維層菲薄部に生じ,OCTで視神経乳頭陥凹部内側の網膜分離を認めた.症例C1のみCopticpitとCpit部への硝子体癒着をCOCTにて認めた.その他の症例ではCpitを認めていない.OCTangiographyのCenface画像でCpitのある症例C1では網膜分離症に接する視神経乳頭部にCpitを認めたが,pitを認めていない症例C3,5において最深陥凹部が網膜分離部に偏り,近接していた.症例C2,4では陥凹が全体に拡大していた.症例2,3,5は網膜分離症を認めるC5年以上前より後部硝子体.離をきたしており,症例C4は分離症を認める約半年前に後部硝子体.離をきたしていた.Kiumehrら7)はEDI-OCTを用い緑内障C45眼中C34眼に篩状板障害を検出したと報告,そのうちC11眼は乳頭Cpitで他はCrimの菲薄化,欠損で下方耳下側に多く上方視野感度低下が強いことを報告,Youら8)は同様にCEDI-OCTで検出できた緑内障篩状板185眼中C40眼にClamellarhole(11眼),離断(36眼)を認めたことを報告している.このように緑内障症例では後天性pitのみでなくCOCTの発展とともに緑内障篩状板障害の頻度の高さが報告されてきている.今回COCTで網膜分離症を視神経乳頭陥凹内に認め,硝子体癒着が明らかな例以外に,後部硝子体.離数年後の硝子体牽引があった可能性の少ない症例にも網膜分離症を認めたことより,Zumbroら2)の考察したように乳頭下部の篩状板部の小孔より硝子体液が網膜内に侵入し網膜分離症をきたした可能性が考えられる.菲薄化した網膜や視神経乳頭縁,血管側の小孔から網膜分離症をきたす可能性については強度近視例や視神経乳頭部の硝子体癒着例でそのような症例を認めることがあるが,今回報告した網膜分離症は視神経乳頭内から隣接する網膜線維層欠損部に扇状に及んでおり,形状が異なると思われる.経過観察中,眼圧,硝子体牽引にかかわらず,網膜分離症部の網膜厚の増減を認め,自然閉鎖が困難な篩状板小孔が原因となっている可能性がある.網膜分離症は緑内障進行に影響があるかどうかだが,今回の症例1.3は網膜分離症に対応する視野の進行傾向を認め,症例C2,3は他眼に比しとくに著明な視野進行を認めた(表2).症例C4は耳上部の網膜分離症で軽度のためか進行は少なく,症例C5は網膜分離症を最近きたした状態で現在はまだ視野進行は認めていない.網膜分離症では分離した網膜神経線維層は著明に菲薄化しており,分離症自体が悪化要因になるかどうかは不明だが,眼圧が低めでも進行性緑内障に発症しやすい可能性がある.網膜分離症の原因が分離症部に接する視神経乳頭に篩状板障害をきたしているとするとCKiumehrら9)の症例と同様に進行しやすい可能性があると思われる.網膜分離症をきたした症例に対する治療法だが,黄斑部に進展した症例はCpit-macular症候群と同様硝子体手術を施行した症例が報告されており,Inoueら4)はC11眼に硝子体手術を施行し,消失まで平均C11カ月かかったと報告している.Zumbroら2)はC1眼は緑内障濾過手術,2眼は硝子体手術で治癒したと報告している.Leeら5)はC22眼中C2眼にトラベクレクトミー,5眼に緑内障点眼を追加し,眼圧下降後の網膜分離症は軽減したと報告している.以上の報告より緑内障合併網膜分離症は黄斑部に及ぶと黄斑.離をきたす危険性もあり,定期検査,注意が必要かと思われる.硝子体手術以外に緑内障手術でも網膜分離症が治癒した報告があり,機序が不明だが網膜分離症の発症に眼圧上昇や変動が誘因になっている可能性が報告されており5,9),濾過手術による大幅な眼圧低下が有効な可能性がある2,5).今回のC5症例は網膜分離症発症時眼圧はC10.13CmmHgと低めだが,視野進行傾向に伴い点眼薬を増加し症例C2以外はさらなる眼圧降下により網膜分離症は軽減している.症例C2に関しては網膜分離症をきたした後の眼圧平均はあまり低下していなかったのでさらに眼圧を低下させる必要があるのかもしれない.これら,網膜分離症の機序や治療についてはさらなる検討が必要かと思われる.網膜神経線維層菲薄部の網膜分離症はCOCTにて同部の断層撮影をしないと発見しにくい変化である.網膜分離症は悪化すると病変が黄斑部に及ぶ危険性もあり,より眼圧を下降させる必要があると思われる.また視神経乳頭周囲サークルスキャンでの神経線維層厚の増加に注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhaoCM,CLiCX:MacularCretinoschisisCassociatedCwithCnor-maltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1255-1258,C20112)ZumbroCDS,CJampolCLM,CFolkCJCCetCal:MacularCschisisCandCdetachmentCassociatedCwithCpresumedCacquiredCenlargedCopticCnerveCheadCcups.CAmCJCOphthalmolC144:C70-74,C20073)TakashinaS,SaitoW,NodaKetal:MembranetissueontheCopticCdiscCmayCcauseCmacularCschisisCassociatedCwithCaCglaucomatousCopticCdiscCwithoutCopticCdiscCpits.CClinCOphthalmolC7:883-887,C20134)InoueM,ItohY,RiiTetal:Macularretinoschisisassoci-atedCwithCglaucomatousCopticCneuropathyCinCeyesCwithCnormalCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC253:1447-1456,C20155)LeeEJ,KimTW,KimMetal:Peripapillaryretinoschisisinglaucomatouseyes.PLoSOneC9:e90129,C20146)BayraktarS,CebeciZ,KabaaliogluMetal:PeripapillaryretinoschisisCinCglaucomaCpatients.CJCOphthalmol,C2016:CID1612720C8pages,C20167)KiumehrCS,CParkCSC,CSyrilCDCetCal:InCvivoCevaluationCofCfocalClaminaCcribrosaCdefectsCinCglaucoma.CArchCOphthal-molC130:552-559,C20128)YouJY,ParkSC,SuDetal:FocallaminacribrosadefectsassociatedCwithCglaucomatousCrimCthinningCandCacquiredCpits.JAMAOphthalmolC131:314-320,C20139)KahookCMY,CNoeckerCRJ,CIshikawaCHCetCal:PeripapillaryCschisisCinCglaucomaCpatientsCwithCnarrowCanglesCandCincreasedCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC143:C697-699,C2007***

インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1165.1168,2017cインプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較植木麻理*1小嶌祥太*1河本良輔*1三木美智子*1杉山哲也*2徳岡覚*3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2京都医療生活協同組合・中野眼科医院*3北摂総合病院眼科CComparisonofOutcomeafterTubeShuntSurgeryviaParsPlanainDi.erentTypesofGlaucomaImplantMariUeki1),ShotaKojima1),RyohsukeKohmoto1),MichikoMiki1),TetsuyaSugiyama2),SatoruTokuoka3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,3)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)とバルベルト緑内障インプラント(BGI)の経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(シャント手術)成績を比較.対象および方法:術後,3年以上経過観察できたCAGI群(12例C12眼)とCBGI群(15例C16眼)の術後成績,処置を比較する.不成功はC5CmmHg≧IOP,21CmmHg<IOP,光覚なし,緑内障の再手術と定義した.結果:術後C3年の成功率はCAGIC75.0%,BGIC88.9%であった.術前,3年後の眼圧(mmHg)はCAGIC34.4±7.6,13.1C±6.1,BGIC38.0C±12.9,14.1C±3.7と有意差はなかったが,術後高眼圧期に眼球マッサージをCAGVで58.3%(平均C8.8カ月),BGIでC18.8%(平均C0.4カ月)とCAGVで有意に多く,かつ長期に施行していた.結論:シャント手術の成績は種類による差はなかったが,AGVで長期の眼球マッサージが必要であった.CPurpose:ToCcompareCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntCsurgeriesCwithCtheCAhmedCglaucomaCvalve(AGV)andtheBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Methods:Weretrospectivelyreviewedthemedicalrecordsof12eyesof12patients(AGVgroup)and16eyesof15patients(BGIgroup)C,whichwerefollowedupformorethan3Cyears.CMainCoutcomeCmeasuresCwereCsuccessCrate,CintraocularCpressure(IOP)andCtreatmentCafterCsurgery.CFail-ureCwasCde.nedCasCintraocularCpressureC≦5CmmHgCor>21CmmHg,ClossCofClightCperception,CorCneedCforCadditionalCglaucomasurgery.Results:At3years,successrateswere75.0%inAGVand88.9%inBGI.IOPs(mmHg)beforesurgeryCandCatC3CyearsCwereC34.4±7.6,C13.1±6.1CinCAGVCandC38.0±12.9,C14.1±3.7CinCBGI;thereCwasCnoCdi.erencebetweenthetwogroups.However,digitalocularmassageinthehypertensivephaseaftersurgerywasconductedCinC58.3%CofCpatientsCinCAGV(meanCduration:8.8Cmonths)andC18.6%CofCpatientsCinCBGI(meanCdura-tion:0.4Cmonths)C.CConclusion:AlthoughCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntsurgerieswithAGVandBGI,longer-termocularmassagewasnecessaryinAGVgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1165.1168,C2017〕Keywords:経毛様体扁平部チューブシャント手術,緑内障,アーメド,バルベルト,眼球マッサージ.pars-planatubeshuntsurgery,glaucoma,Ahmed,Baerveldt,ocular-massage.Cはじめにント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI),2014年からはプレートを有する緑内障ドレナージデバイスを用いたチュアーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomaCvalve:AGV)がーブシャント手術は結膜の瘢痕化した症例に対し有効な術式承認された.海外において前房挿入型CAGVとCBGIを比較しであり,わが国でもC2012年よりバルベルト緑内障インプラた報告は散見され,眼圧下降はCAGVよりもCBGIがよいとす〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigakucho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPAN表1患者背景AGV(1C2例C12眼)(C2009年C1月.C2012年C3月)BGI(1C5例C16眼)(C2012年C4月.C2013年C3月)p値病型NVG8例8眼(PDRC6眼CRVOC2眼)POAG3例C3眼SGL1例C1眼NVG7例7眼(PDRC6眼CRVOC1眼)POAG2例C3眼SGL7例C7眼内眼手術回数C3.2±1.4C2.4±1.6C0.12a緑内障手術回数C1.3±1.0C1.2±1.7C0.39a術前点眼スコアC3.3±1.8C4.1±1.7C0.28a術前眼圧C34.4±7.3C37.5±12.2C0.55a硝子体手術既往の有無有:無=10:2有:無=13:3C0.88ba:Mann-WhitneyのCU検定b:Fisherの直接法る報告が多い1,2).しかし,経毛様体扁平部挿入型同士を比較したものはない.今回,筆者らは経毛様体扁平部挿入型CAGVとCBGIを用いたチューブシャント手術の中期成績を比較したので報告する.CI対象および方法1.対象大阪医科大学にて経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(以下,シャント手術)を施行し,3年以上経過観察できた連続したC27例C28眼.シャント手術は同一術者(MU)が施行した.AGV群が12例12眼,BGI群が15例16眼であった.AGVについては大阪医科大学倫理委員会の承認を受け経毛様体扁平部挿入型のCPC-7を挿入している.内眼手術既往,緑内障手術既往,術前の点眼スコア,術前眼圧,硝子体手術既往の有無に群間の有意差はなかった(表1).C2.方法AGVとCBGIによるシャント手術後の眼圧推移(術前,術後C3カ月,6カ月,1年,2年,3年),視力,視野変化,角膜内皮細胞密度の変化,成功率,合併症の有無をレトロスペクティブに比較検討した.視野は湖崎分類のCI期をC1点,IIa期をC2点,IIb期をC3点とスコア化し,統計学検討を行った.検討には経時変化はCone-wayCANOVA,2群間の比較にはMann-WhitneyのCU検定,生存曲線はCKaplan-Meier曲線を用いた.手術不成功はCAhmedCBarveldtCComparisonCstudy(以下,ABCstudy)に準じて眼圧がC5CmmHg以下,21CmmHgを超えるもの,緑内障による再手術,インプラントの抜去,光覚消失と定義した1).C3.基本術式および術後処置a.AGV群結膜を輪部にてC100°切開.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,AGVを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部よりC4CmmでCV-ランスで穿刺,輪部よりC2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブ被覆はマイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて行った.全例CTenon.を直筋付着部に縫着,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続,その後C3カ月C1日C2回点眼を行った.術後C20CmmHgを超えた場合はC1日C3回の眼球マッサージを開始し,適宜,緑内障点眼を追加した,眼球マッサージはC3カ月継続後もしくはC15CmmHg以下となった時点で中止し,2週間後の再診時C20CmmHg以上でマッサージを再開し,維持できるまで継続した.適宜,眼圧下降点眼は追加した.Cb.BGI群結膜を輪部にてC120°切開した.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,BGIを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部より4mmでV-ランスで穿刺し,輪部より2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入し,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブの被覆はCMMC併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて被覆した.全例CTenon.を直筋付着部に縫着し,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続した,その後C3カ月1日C2回点眼を行った.5-0ナイロン糸にてCripcordを設置した.内服を含めたCfullmedicationでC25CmmHgを超えるものはC4週間後にCripcordを抜去した.抜去後にC20CmmHgを超えるものはCAGVと同様にマッサージ,緑内障点眼を開始した.両群とも術後C3カ月はレボフロキサシンC1日C4回,ベタメタゾンC1日C4回点眼,術後C3.6カ月はC1日C2回で継続した.CII結果眼圧は術前,AGV群でC34.4C±7.6CmmHg,BGI群でC38.0C±12.9CmmHgであった.術後C3年間において眼圧下降は維持され,術C3年後の眼圧はCAGV群でC13.1C±6.2mmHg,BGI群でC14.1C±3.7CmmHgであった.どの期間においてもC2群間に有意差はなかった(図1).手術成功率はC3年でCAGV群でC75.0%,BGI群でC88.9%と各群間に有意差はなく(図2),不成功の原因としては,眼圧がC21CmmHgを超えるものや緑内障再手術例はなく,原疾患や合併症にて光覚なしやチューブ摘出となったものや,眼圧がC5CmmHg以下となったものであった(表2).視力,視野は術前,術後経過観察期間で両群とも有意な変化はなく,3年間維持されていた.また,角膜内皮細胞密度(cells/mmC2)は術前,術C3年後でCAGV群C1,687.6C±997.4,C1,549.3±797.5,BGI群はC1,899.5C±680.4,1,814.4C±758.5と両群とも有意な減少はなかった.2群間で差があったのは術後処置の眼球マッサージであり,術後眼球マッサージをしていたものはCAGVでC12眼中7眼(53.8%),BGIで16眼中3眼(18.8%)とAGV群で有意に多く,マッサージ継続期間もAGVでC8.8C±8.9カ月,BGIでC0.4C±1.3カ月とCAGV群で有意に長かった(図3).CIII考按AGVとCBGIによるチューブシャント手術成績の多施設前向き研究はCABCCstudyとCAhmedCversusCBaerveldtCstudy(以下,AVBstudy)が知られている.ABCstudyでは不成功率はC3年でCAGV31.3%,BGI32.3%,5年でCAGV44.7%,BGI39.4%と有意差はなかったが,眼圧コントロールで不成功となったものは不成功群のなかでCAGI80%,BGI53%とCAGVで多く,眼圧コントロールはCAGVで悪かった.しかし光覚消失やインプラント摘出などの合併症はCBGIがAGVのC2倍であったという結果となった1,2).一方,AVBstudyでは,5年での不成功率はCAGV53%,BGI40%と有意にCBGIで少なく,最終眼圧もCBGIが低く,合併症の発症率は有意差がなかったとしている2).今回の結果ではC3年の経過観察で不成功がCAGVC25%,BGIC12.5%と両群間に有意差はなく,緑内障再手術はなく,不成功となったのは光覚消失および低眼圧,インプラント摘生存曲線1.8.6.4.203年生存率(AGV):75.0%p=0.18(BGI):88.9%061218243036術前36122436(月)(月)Mann-WhitneyのU検定図2生存曲線aorb:p<0.01(One-wayANOVA)図1眼圧の推移20表2不成功の原因眼球マッサージ継続期間(月)AGVCBGIIOP>2C1CmmHg0眼0眼CIOP≦5CmmHg3眼2眼緑内障再手術0眼0眼光覚なし2眼2眼チューブ摘出2眼2眼合計3眼(25%)2眼(1C2.5%)151050重複ありAGVBGI図3眼球マッサージ継続期間*:p<0.05:Mann-WhitneyのCU検定.C出によるものであった.ABCCstudyでのC3年の不成功率はAGV51%,BGI34%であり3),今回の結果はこれと比較して不成功率は低くなった.過去の経毛様体扁平部挿入型インプラント手術の成績はC2.3年でC80%以上の良好なものが多く4.6),また,前房型と経毛様体扁平部挿入型を比較した報告では,眼圧コントロール率はC80%以上と良好であり,有意差はなかった.これは前房型で血管新生緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障が多い傾向があったことが関与している可能性がある6).今回,筆者らの症例では半数以上が血管新生緑内障であったが,不成功例が少なかったのは硝子体手術により網膜病変が落ち着いていたことも一因ではないかと推察された.Hypertensivephase(HP)はチューブシャント術後,数週間.数カ月に発症する眼圧上昇で,どのタイプのインプラントでも起こるが,とくにCAGVにて多く,40.80%と報告されており7.9),その原因として術後,プレート周囲組織が炎症細胞やサイトカインに曝露することが推察されている10,11).HPは手術不成功のリスクファクターであるが7.11),McIlraithらはCHPに眼球マッサージを平均C4カ月継続することでC1年後の術後緑内障点眼を減少させることができる12)と初めてCHPに対する眼球マッサージの有効性を報告した.また,Smithらは眼球マッサージで眼圧が下降する症例では,6カ月後に半数の症例でC20%以上の眼圧下降が可能であったと報告している13).筆者らの症例ではCHPにCAGVでCBGIよりも多くの症例が眼球マッサージをしており継続期間も長かったが,観察期間内の眼圧は有意差なく,3年後には眼球マッサージなしで眼圧コントロール可能であった.経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術はC3年の中期において眼圧下降はCAGV,BGIで有意差なく,有効な術式であったが,AGVでは多くの症例が眼圧コントロール維持に長期にわたる眼球マッサージが必要であった,利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetCal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC112:308-316,C20152)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtCStudy:Five-YearCTreatmentCOutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)BartonK,FeuerWJ,BudenzDLetal:Three-yeartreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC121:1547-1557,C20144)JeongCHS,CNamCDH,CPaikCHJCetCal:ParsCplanaCAhmedCimplantationCcombinedCwithC23-gaugeCvitrectomyCforCrefractoryCneovascularCglaucomaCinCdiabeticCretinopathy.CKoreanJOphthalmolC26:92-99,C20125)BanittCMR,CSidotiCPA,CGentileCRCCetCal:ParsCplanaCBaer-veldtCimplantationCforCrefractoryCchildhoodCglaucomas.CJGlaucomaC18:412-417,C20096)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaer-veldtCglaucomaCdrainageCdevice.CJCGlaucomaC24:95-99,C20157)AyyalaCRS,CZurakowskiCD,CSmithCJACetCal:ACclinicalCstudyoftheAhmedglaucomavalveimplantinadvancedglaucoma.OphthalmologyC105:1968-1976,C19988)Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:EvaluationofthehypertenC-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimplantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOphthalmolC94:260-267,C201610)FreedmanCJ,CIserovichCP:Pro-in.ammatoryCcytokinesCinCglaucomatousCaqueousCandCencystedCMoltenoCimplantCblebsCandCtheirCrelationshipCtoCpressure.CInvestCOphthal-molVisSciC54:4851-4855,C201311)GeddeSJ,PanarelliJF,BanittMRetal:Evidenced-basedcomparisonCofCaqueousCshunts.CCurrCOpinCOphthalmolC24:87-95,C201312)McIlraithCI,CBuysCY,CCampbellCRJCetCal:OcularCmassageCforCintraocularCpressureCcontrolCafterCAhmedCvalveCinser-tion.CanJOphthalmolC43:48-52,C200813)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetCal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C2010***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015 年版)

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1042.1045,2017c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年版)比嘉利沙子*1井上賢治*1永井瑞希*1塩川美菜子*1鶴岡三恵子*1岡山良子*1井上順治*2堀貞夫*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofGlaucomaPatientsWhoAppliedforPhysicalDisabilityCerti.cateduringtheYear2015RisakoHiga1),KenjiInoue1),MizukiNagai1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),RyokoOkayama1),JunjiInoue2),SadaoHori2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を後ろ向きに調査した.年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.等級は,1級が14例(23%),2級が29例(47%)であり,両者で全体の70%を占めていた.病型では,原発緑内障が44例(開放隅角緑内障33例,正常眼圧緑内障7例,閉塞隅角緑内障4例)(72%),続発緑内障が16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26%),発達緑内障が1例(2%)で,開放隅角緑内障が全体の54%で最多であった.視力障害と視野障害を重複申請した症例は25例であった.2005年および2012年の調査と比較し,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Weretrospectivelyinvestigated61patients(32male,29female)withglaucomatreatedatInouyeEyeHospitalandNishikasaiInouyeEyeHospital,whoappliedforphysicaldisabilitycerti.catesbetweenJanuaryandDecember2015.Patientsintheir80snumbered23cases(38%),intheir70s18cases(9%),andintheir60s15cases(24%).Astograde,.rstgrade(14cases,23%)andsecondgrade(29cases,47%)accountedfor70%ofthetotal.Glauco-matypeincludedprimaryglaucoma(44cases;72%),secondaryglaucoma(16cases,26%)anddevelopmentalglaucoma(1case;2%).Primaryopen-angleglaucomawasthemostfrequentglaucomatype(54%).Atotalof25patientsappliedfordouble-disordercerti.cates.Glaucomatypeandgradewerenotdi.erentbetweenresultsat2005and2012.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1042.1045,2017〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野障害,等級.glaucoma,visualimpairement,physicallydis-abilitycerti.cate,visual.elddisturbance,grade.はじめに上眼科病院グループで行っている視覚障害による身体障害者現在,わが国における視覚障害者の原因疾患の第1位は緑手帳申請の実態調査2.5)で,緑内障は上位を占めていた(表内障である1).地域や施設の特徴により,身体障害者手帳申1).しかし,緑内障患者の身体障害者手帳申請の詳細を検討請の原因疾患が異なる可能性は否めないが,2005年から井した報告は少ない6.8).今回,視覚障害による身体障害者手〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda,Tokyo101-0062,JAPAN1042(126)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(126)10420910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1井上眼科病院グループにおける視覚障害の身体障害者手帳申請の原因疾患2005年2)2009年3)2012年4)2015年5)1位緑内障23%網膜色素変性症28%緑内障31%緑内障29%2位網膜色素変性症17%緑内障23%網膜色素変性症17%網膜色素変性症18%3位黄斑変性13%黄斑変性12%黄斑変性11%黄斑変性15%(%)602015年:61例5150384034302010312030代40代50代60代70代80代90代図1年齢分布帳取得申請を行った緑内障患者について検討した.I対象および方法井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を対象とした.年齢は74.2±10.3歳(平均値±標準偏差),33.90歳であった.実態調査は,身体障害者診断書,意見書の控えおよび診療記録をもとに後ろ向きに行った.検討項目は,1)年齢分布,2)等級の内訳,3)緑内障の病型,4)重複申請の内訳である.視覚障害は,視力障害と視野障害に区分して認定されるが,両障害が等級に該当する場合は重複申請が可能である.1)から3)の項目については,2005年および2012年に行った井上眼科病院グループの実態調査結果7,8)と比較した.ただし,2005年は,井上眼科病院のみを対象としているため,症例数が少なくなっている.統計学的解析には,c2検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.年.齢.分.布年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.その他の年代では,50歳代が3例(5%),90歳代,30歳代が各1例(2%)であった.2012年の調査では,同様に80歳代が最多で25例(34%),70歳代が22例(30%),60歳代が16例(22%)の順であった.2005年では,70歳代が最多で18例(51(%)1006級52805級4級603級402級1級2002005年2012年2015年図2等級の内訳%),60歳代が9例(26%),80歳代が5例(14%)の順であった(図1).2.等級の内訳1級が14例(23%),2級が29例(47%)で,両等級を合わせると全体の70%を占めていた.2005年,2012年と比較し,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.882)(図2).3.緑内障の病型緑内障の病型は,原発緑内障が44例(72%),続発緑内障が16例(26%),発達緑内障が1例(2%)であった.原発緑内障では,開放隅角緑内障(POAG)が33例(54%),正常眼圧緑内障(NTG)が7例(11%),閉塞隅角緑内障(PACG)が4例(7%)を占めていた.続発緑内障の原因疾患は,ぶどう膜炎が6例(10%),落屑緑内障が5例(8%),血管新生緑内障が4例(6%),虹彩角膜内皮症候群が1例(2%)であった.2005年,2012年の調査でも,同様に開放隅角緑内障が最多(43,63%)で,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.763)(図3).4.重複障害申請の内訳申請は,視力障害のみが20例(33%),視野障害のみが16例(26%),重複申請を行った症例が25例(41%)であった.重複申請を行った25例のうち,視野障害が視力障害より上位等級であった症例は18例(72%),視力障害が上位等級であった症例は3例(12%),両者が同等の等級であった症例は4例(16%)であった.重複申請により,4例が上位等級に認定された(図4).(127)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171043【2005年】白内障術後3%n=35血管新生3%外傷3%落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2012年】血管新生3%n=73落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2015年】ICE症候群2%n=61血管新生発達2%落屑ぶどう膜炎POAGPACGNTG(%)図3緑内障の病型III考按視覚障害を米国の基準に従い9),良いほうの目の矯正視力0.02以上0.3未満のロービジョンと0.01以下の失明の両者とすると,2007年現在,日本の視覚障害者数は約164万人,約19万人弱が失明と推定されている1).さらに,視覚障害者の有病率は2007年では1.3%であったが,2030年では2.0%(約200万人)に増加することが予測されている1).緑内障患者に限定した今回の調査では,手帳申請者は70歳代以上が67%,60歳代以上では91%を占めていた.同調査における年齢(平均値±標準偏差)の推移は,2005年は72.1±9.3歳7),2012年は72.4±12.5歳8),2015年は74.2±10.3歳であった.年代別のピークは,2005年では70歳代であったが,2012年と2015年では80歳代であった(図1).症例数の差もあり単純に比較することはできないが,社会の高齢化に伴い,手帳申請も高齢者が増えると予想される.n=61視野障害の等級無54327241311111213648214123456無視力障害の等級図4各症例における視力障害と視野障害の等級数字は症例数を示した.黒の塗りつぶしは,重複申請により上位等級に認定された症例を示した.病型においては,原発緑内障が約3/4に対し,続発緑内障が約1/4を占めていた.過去の調査においても,同様の割合であり,全体としては開放隅角緑内障(POAG)が最多であった.また,TajimiStudyでは,続発緑内障の有病率は0.5%と報告されているが10),身体障害者では続発緑内障の割合が多かった.同じ病型でも症例ごとで重症度は異なるが,続発緑内障では重症例が多いことが示唆された.既報と比較して病型に関しては目立った変化はみられなかった(図2).身体障害者福祉法の障害等級判定には,問題点も指摘されている.視力に関しては,左右の単純加算による妥当性,視野に関しては,半盲と10°以内の求心性狭窄の評価の妥当性などがあげられる.また,手帳交付までの流れは都道府県により多少異なる.東京都においては,東京都心身障害者福祉センターに交付申請進達される診断書は年間約1,200件であり,障害認定課障害者手帳係で手帳交付が決定されるのは600件弱とされている.残りの約半数は,センター指定医の書類判定となるが,そのうち80%が視野に関する問題であり,疾患では,とくに緑内障が問題にあげられている11).視野障害2.4級では,「ゴールドマン視野検査のI/4イソプターが10度以内」と規定がある.1995年に視覚障害認定基準が改訂され,末期の緑内障患者の視野障害は該当しやすくなった.本実態調査では,2級が最多で,3級と4級に該当する症例がなかったのは,判定基準が影響している可能性がある.各疾患の重症度に合わせて等級が判定されるべきであるが,現状では疾患によって重症度と等級が一致していない場合もあり,緑内障の視野障害の評価は依然として困難をきわめる.一方で,今回の調査では,重複申請により上位等級に認定された症例が4例(16%)あった.緑内障という疾患の特徴上,手帳申請においては,視野障害の判定は重要な要素である.本実態調査では,井上眼科病院グループに通院している緑(128)内障患者数が正確に算定できないため,緑内障患者のうち身体障害者手帳を申請した割合が明確にできず,調査の限界があった.失明予防は,われわれ医療従事者の責務であるが,高齢社会により,身体障害者手帳申請者の増加および高齢化が予想される.また,身体障害者手帳の申請により,各福祉サービスや公的援助が受けられるが,実際にロービジョンケアに結びついているか否かの実態調査も今後は必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:視覚障害の疾病負担本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20073)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院における視覚障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20114)井上順治,鶴岡三恵子,堀貞夫ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)─過去の調査との比較.眼臨紀7:515-520,20145)井上賢治,鶴岡三恵子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現況(2015年)─過去の調査との比較.眼臨紀10:380-385,20176)武居敦英,平塚義宗,藤巻拓郎ほか:最近10年間に身体障害者手帳を申請した緑内障患者の背景の検討─順天堂大学と江東病院の症例から─.あたらしい眼科22:965-968,20057)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20078)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科37:1029-1032,20149)ColenbranderA:Thevisualsystem.Chapter12inGuidestotheEvaluationofPermanentImpairment,6thedition(RodinelliReds),AmericanMedicalAssociationpublications,p281-319,UnitedStatesofAmerica,200810)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclousureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200511)久保田伸枝:現状の身体障害者認定基準に基づく視野判定.日本の眼科84:1584-1595,2013***(129)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171045

プロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):580.584,2017cプロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾永田竜朗近藤寛之落合信寿産業医科大学眼科学教室E.ectofSwitchingfromProstaglandinAnalogstoDorzolamideandTimololFixed-combinationEyedropsinGlaucomaPatientsShingoIshibashi,TatsuoNagata,HiroyukiKondouandNobuhisaOchiaiDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanプロスタグランジン関連点眼薬(prostaglandinanalogs:PG)の単剤療法を6カ月間以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例を対象に,PGを1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の眼圧を測定した.同時に,角膜上皮障害と結膜充血についても観察した.また,美容上気になっている副作用(眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化)の変化についても,変更前と変更6カ月後で比較した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はなかった.角膜上皮障害と結膜充血の程度にも治療前後で有意な変化はなかったが,結膜充血の程度には,変更6カ月後で有意傾向がみられた.美容上の眼局所副作用は,20例中18例に改善がみられた.PGによる眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えはPGと同等の眼圧下降を有し,かつ局所的に安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithprostaglandinanalogs(PG),thee.ectsonintraocularpressure(IOP),cornealepitheliumdisorder,conjunctivalhyperemiaandadversereactionssucheyelidpigmenta-tion,vellushairanddeepeningofupperlidsulcus,ofswitchingtodorzolamideandtimolol.xed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1,month3andmonth6aftertheswitch.Atmonths1,3and6afterDTFCinitiation,meanIOPrevealednosigni.cantchangesascomparedtobeforeswitching.Althoughtherewerenosigni.cantdi.erencesincornealstainingscoreorconjunctivalhyperemiascorebetweenbeforeandaftertheswitch,theconjunctivalhyperemiaindicesscoreshowedimprovingtendencyatmonths6afterDTFCinitiation.Adversereactionsalsoimprovedin18cases.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithPGwhoswitchedtoDTFCexhibitednosigni.cantdi.erencesinIOP,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucomawithadversereactions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):580.584,2017〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,眼局所副作用.dorzol-amideandtimolol.xed-combination,glaucoma,intraocularpressure,adversereaction.はじめに緑内障に対するエビデンスのある唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.開放隅角緑内障に対してプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG)で治療した群は,プラセボ群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告1)や,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)がなされている.緑内障治療は基本的に点眼薬治療であり,第一選択薬として眼圧下降効果にもっとも優れ,全身の副作用が少なく,1日1回点眼の利便性のよ〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN580(120)いPGが選択されることが多い.しかし,PGの眼局所副作用として,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化など3.5)があり,とくに女性において美容上の問題となる.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告7)がある.しかし,PG単剤使用症例にDTFC配合点眼薬への切り替えを行った場合の有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回PGの単剤使用による眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2014年3月.2016年9月の期間,産業医科大学病院と鈴木眼科,くろいし眼科でPGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,患者からは書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性2例,女性18例,年齢は73.3±8.7歳(平均値±標準偏差)である.病型は,正常眼圧緑内障9例,原発開放隅角緑内障3例,落屑緑内障3例,原発閉塞隅角緑内障1例,高眼圧症4例である.PGの種類は,ラタノプロスト7例,タフルプロスト6例,トラボプロスト5例,ビマトプロスト2例である.また,美容上気になった眼局所副作用の内訳は,眼瞼色素沈着6例,眼瞼色素沈着・多毛4例,眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例,多毛3例,上眼瞼溝深化2例,多毛・上眼瞼溝深化1例である.方法は,PGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた場合,PGを中止しwashout期間を置かずに,1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.眼圧(mmHg)15105DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に眼圧を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で1回ずつ測定した.また,DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に角膜上皮障害と結膜充血につ図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化いて,細隙灯顕微鏡検査で観察した.角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてArea-Density分類8)で評価し,AとDの合計をスコアとした.また,結膜充血は,全症例の平均眼圧は,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=20.332.52スコアスコア21.510.51図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=19.表1変更前,変更6カ月後の眼局所副作用の変化眼局所副作用変更後変更前改善変更後不変変更後悪化眼瞼色素沈着6例6例(片側1例,両側5例)0例0例眼瞼多毛3例3例(片眼2側,両側1例)0例0例上眼瞼溝深化2例1例(片側1例,両側1例)1例0例眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例3例(両側4例)1例0例眼瞼色素沈着・眼瞼多毛4例4例(片側1例,両側3例)0例0例上眼瞼溝深化・眼瞼多毛1例1例(両側1例)0例0例図3変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の結膜充血(平均値±標準偏差)の変化平均結膜充血スコアは,変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に有意な変化はないが,変更6カ月後で有意傾向がみられる.NS:有意差なし,†:0.10>p≧0.05,n=19.変更前変更6カ月後図4上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の症例64歳,女性.正常眼圧緑内障.トラボプロスト両眼投与症例.変更6カ月後,上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の改善がみられる.20例中18例で改善がみられる.上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例のみ不変である.悪化した症例はない.0.1±0.3で,変更前後で有意な差はなかったが,変更6カ月で有意傾向を認めた(p=0.076,図3).写真判定による眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用は,変更6カ月後で,20例中18例に改善がみられた.そのうち,眼局所副作用が2項目あった症例では,全症例で両項目ともに改善がみられた.変更前にみられた上眼瞼溝深化1例と眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化1例の2例で不変であった.悪化した症例はなかった.両眼瞼の症例で改善・不変に左右差があった症例はなかった(表1,図4).アンケート調査でも同様に20例中18例で改善,2例で不変と答え,他覚的所見と一致した.III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告1,2)されている.PGは緑内障治療薬の第1選択薬として使用され,プロスト系としてプロスタグランジンF2a誘導体であるラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストと,プロスタマイドF2a誘導体であるビマトプロストの4種類があり,ぶどう膜強膜経路を促進させることで眼圧が下降すると考えられている.しかし,PGによる副作用として結膜充血,角膜上皮障害,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などが報告3.5,9)されている.一方,1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCも緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制させることで眼圧が下降すると考えられているが,PGに特有の眼瞼色素沈着や虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などの副作用はない.今回,PG単剤使用で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,PGをDTFCに変更し,眼圧の変化と同時に角膜上皮障害,結膜充血の変化を変更前(ベースライン)と変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後と比較し,その結果を検討した.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用の変化についても,変更前と変更6カ月後と比較しその結果を評価した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はみられなかった.ドルゾラミド塩酸塩が1%ではなく2%でのDTFCの報告であるが,Leeらは正常眼圧緑内障に対して,ラタノプロストとDTFC(2%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬)の眼圧への効果をcrossoverdesignstudyによって調べた結果,眼圧下降率がラタノプロスト単剤治療群では13.1%,DTFC単剤治療群では12.3%であり,有意な差はなかったと報告10)している.本研究では,切り替え前に使用しているPGは,ラタノプロスト7眼,タフルプロスト6眼,トラボプロスト5眼と,ビマトプロスト2眼であった.ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの順で眼圧下降率が高いとの報告11)があり,そのため変更前のPGの種類によってはDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果の結果が異なる可能性があるが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧は変更前のPG単剤使用の眼圧とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPGを単剤使用している緑内障の眼圧下降治療において,代替となる優れた薬剤であるといえる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告12)されている.今回の研究では,切り替え後のDTFCの点眼回数がPGと比べて1回多いにもかかわらず,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のPGは,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの4種類であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが,塩化ベンザルコニウムの影響を減少させる作用があること13)が影響している可能性がある.一方,結膜充血の程度に有意な変化はみられなかったが,改善傾向であった.PGは副作用に結膜充血があり,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが結膜充血を引き起こす.また,DTFCにも副作用として結膜充血があるが,ラタノプロストに比べて結膜充血が少なかったとの報告9)がある.本研究では,PGの使用を中止しDTFCへ切り替えたこと,DTFCによる結膜充血の副作用が出現した症例がなかったことから,結膜充血の程度に改善傾向がみられたと考えられる.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用については,写真判定で20例中18眼に改善がみられ,上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は不変であった.自覚的にも同様の結果であった.眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化はどのPGでもみられる眼局所副作用であるが5),PGを中止または変更することで可逆性に改善すると報告されている4,14,15).本研究では,改善しなかった上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は,PG使用前の眼瞼所見の記録がなかったことから,PGによる眼局所副作用ではなかった可能性や観察期間が短かった可能性が考えられた.これらのことから,本研究のPGからDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告16)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要であるが,点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告17)がある.本研究で,DTFCに変更後6カ月の時点で,眼局所副作用が改善しなかった2例はPGへの変更を希望されたが,改善がみられた18例はPGからDTFCへの切り替えにより点眼回数が1回増えるものの,DTFCの継続治療を希望された.今回,アドヒアランスについて詳しく調査はしていないが,PGによる眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用がアドヒアランスの低下を招く恐れがある場合,DTFCへ切り替えることによって,PGによる眼局所副作用を回避することができ,良好なアドヒアランスが保てる可能性があると考えられる.本研究では,症例数が少なかったことやPGが4種類であったことから,各々のPGからのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用については,さらなる調査の必要があると考える.また,本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中3例で,20%以上の眼圧上昇率を示した症例は20例中2例であった.PGを使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,治療前のPGがノンレスポンダーであった可能性や,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性や,逆にDTFCの点眼回数が2回になったことによるアドヒアランスの低下の可能性も否定できない.さらに,DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.以上,PGの単剤療法で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化による眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えは同等の眼圧を維持することができ,結膜充血や美容上気になる眼局所副作用が改善し,角膜上皮障害の程度に変化させないことから,有効かつ局所的に安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)Graway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopenangle-glaucoma(UKGTS):arandomized,multi-centre,placebo-controlledtrial.Lancet385:1295-1304,20152)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20064)小川一郎,今井一美:ラタノプロスト点眼による眼瞼虹彩色素沈着眼瞼多毛:1年後の成績.あたらしい眼科17:1559-1563,20005)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglan-dinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20126)KimT-W,KimM,LeeEJetal:Intraocularpressure-loweringe.cacyofdorzolamide/timolol.xedcombinationinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma23:329-332,20147)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20118)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19949)KonstasAGP,KozobolisVP,TersisIetal:Thee.cacyandsafetyofthetimolol/dorzolamide.xedcombinationvslatanoprostinexfoliationglaucoma.Eye17:41-46,200310)LeeNY,ParkHYL,ParkCK:Comparisonofthee.ectsofdorzolamide/timolol.xedcombinationversuslatano-prostonintraocularpressureandocularperfusionpres-sureinpatientswithnormal-tensionglaucoma:ARan-domized,CrossoverClinicalTrial.PLoSONE11:e0146680.doi:10.1371/journal.pone.0146680,201611)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729-732,201013)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201114)井上賢治:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化.あたらしい眼科33:551-552,201615)SakataR,ShiratoS,MiyakeKetal:Recoveryfromdeep-eningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfrombimatoprosttolatanoprost.JpnJOphthalmol57:179-184,201316)RossiGCM,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadher-enceratesandglaucomatousvisual.eldprogressioncor-relate?EurJOphthalmol21:410-414,201117)高橋真紀子,内藤智子,溝上志郎ほか:緑内障点眼使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,2012***

Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty(DSAEK)術後に遷延性角膜上皮欠損をきたした1例

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):283.287,2017cDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)術後に遷延性角膜上皮欠損をきたした1例脇舛耕一*1,2稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2成田亜希子*3木下茂*1,4*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学視機能再生外科学*3岡山済生会総合病院眼科*4京都府立医科大学感覚器未来医療学ACaseofPersistentCornealEpithelialDefectPostDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyKoichiWakimasu1,2),OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2),AkikoNarita3)ShigeruKinoshita1,4)and1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)OkayamaSaiseikaiGeneralHospital,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)施行時に作製した角膜上皮欠損から遷延性上皮欠損をきたしたまれな症例を経験したので,その臨床経過を報告する.症例:80歳,男性.他院にてチューブシャント手術を含む緑内障多重手術を受けた.術後の右眼水疱性角膜症に対して,2015年9月25日にDSAEKを施行した.手術時に角膜上皮.離を機械的に作製し前房内の視認性を向上させ,Descemet膜の.離後にDSAEK用ドナーグラフトを挿入した.DSAEKグラフトの良好な接着が得られたが,手術3日後より角膜上皮欠損の創傷治癒過程がほぼ停止し,最終的に遷延性上皮欠損を生じた.本症例では手術前に角膜上皮障害や角膜輪部機能不全,ドライアイは認めず,手術時に施行した角膜上皮.離の範囲も輪部に及ばず,基底膜も損傷させていなかった.手術後,リン酸ベタメタゾン点眼を塩化ベンザルコニウム無添加の製剤に変更,また抗菌薬点眼も変更,薬剤量を減量し加療を継続した.以後,徐々に角膜上皮欠損は修復し,手術75日後に上皮欠損は消失した.その後は上皮.離の再発を認めていない.結論:DSAEK手術後に遷延性上皮欠損をきたした本症例では,手術前に抗緑内障点眼薬の長期使用歴があり,手術後点眼の影響も加わって角膜上皮修復が遅延した可能性が考えられた.Background:WepresentacaseofpersistentcornealepithelialdefectpostDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Case:An80-year-oldmaleunderwentDSAEKtotreatbullouskeratopathyduetorepeatedglaucomasurgery,includingatube-shunt,inSeptember2015.Duringsurgery,hiscornealepitheli-umwasmechanicallyremovedtoobtainbettervisibilityintheanteriorchamber,andalthoughtheDSAEKproce-durewassuccessfullycompletedtherewasdelayedhealingofthecornealepithelialdefect.Therewasnoepithelialstem-cellde.ciencyordryeye,noranydamagetothecorneallimbusorepithelialbasementmembraneduetoepitheliumremoval.Thepostoperativeeyedropmedicationwasthereforechangedfrombetamethasonewithben-zalkoniumchloridetothatwithout;antimicrobialeyedropswerealsochangedandreducedinfrequency.Theareaofepithelialdefectgraduallydiminished,eventuallydisappearingat75dayspostoperatively.Sincethentherehasbeennorecurrenceofepithelialdefect.Conclusion:PersistentcornealepithelialdefectpostDSAEKwithnopre-existingcornealepithelialabnormalitymayoccurduetodrugtoxicity,sochangeandreductionofpostoperativeeyedropmedicationshouldbeconsideredinsuchcasesfromtheearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):283.287,2017〕〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANKeywords:DSAEK,遷延性上皮欠損,薬剤毒性,緑内障.DSAEK,persistentcornealepithelialdefect,drugtoxicity,glaucoma.はじめにDescemets’strippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)は1998年にMellesらがposteriorlamellarkearto-plasty(PLK)として報告1)した後,次第に発展を重ね2,3),現時点では2006年にGorovoyが報告したマイクロケラトームでドナー作製を行うDSAEKが角膜内皮移植術のもっとも一般的な術式となっている4).DSAEKではDescemet膜.離やグラフト挿入・接着,層間スペースの確認などの前房内操作が必要であるが,ある程度進行した水疱性角膜症では角膜上皮,実質の浮腫により透見性が不良となっており,前房内操作が困難な場合がある.そのような症例においては,上皮浮腫を起こしている上皮を.離することで視認性を向上させることが一般的である.水疱性角膜症では上皮接着不良が生じており容易に上皮.離を作製することができるが,その際に上皮.離を6.8mm径程度として角膜上皮基底膜を損傷しないように機械的に.離すれば,1週間以内に被覆される.角膜上皮欠損部は,周囲の上皮細胞が伸展,移動し,その後細胞増殖,分化することで修復される5)が,その過程のいずれかが障害されると上皮の創傷治癒が滞り,遷延性上皮欠損をきたす6,7).遷延性上皮欠損を生じる背景としては糖尿病8)や神経麻痺性角膜炎9)などによる角膜知覚低下,化学外傷やStevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡などによる角膜輪部機能不全などがある.一方,水疱性角膜症では角膜上皮の接着不良から再発性角膜上皮びらんを生じるものの,角膜知覚や角膜上皮の創傷治癒機転は通常維持されており,遷延性上皮欠損をきたすことはまれである.しかし,今回,術前に角膜上皮欠損を認めず,術中の上皮.離操作後に上皮欠損が遷延し,上皮治癒に長期間を要した症例を経験したので報告する.I症例80歳,男性の右眼水疱性角膜症.既往歴として,他院にて1990年に右眼の水晶体.外摘出術および眼内レンズ挿入術を施行された.その後2005年頃より両眼の落屑症候群による緑内障を発症し,右眼に関しては2008年に線維柱帯切開術,2009年に複数回の線維柱帯切除術を施行された後,2014年4月にエクスプレスR(アルコン)を用いたシャント手術を施行された.その後2014年9月頃より角膜浮腫が出現し,水疱性角膜症に至った.右眼視力は0.01(矯正不能),右眼眼圧は7mmHgであり,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.手術前の涙液メニスカス高は0.2mmと正常範囲内であった.本症例に対し,2015年9月24日にDSAEKを施行した.DSAEK手術時は前房内の視認性を向上させるために約8mm径の上皮欠損を作製し,前房メインテナーを設置,約7mm径のDescemet膜.離を施行後,BusinglideRを用いた引き込み法にて8.0mm径のDSAEKドナーグラフトを挿入した.手術中,あるいは手術後に特記すべき合併症を認めず,グラフトの接着を得た.角膜上皮.離は上皮基底膜を損傷しないようにMQARスポンジを用いて鈍的に.離し,.離した角膜上皮をスプリング剪刀で切除した.図1本症例におけるDSAEK術後の前眼部OCT所見上段は手術1日後,中段は手術2週間後,下段は手術1カ月後.図2本症例における遷延性角膜上皮欠損の治癒過程左列はディフューザー,右列はブルーライトフィルターにより撮影した前眼部写真.上皮欠損面積(mm2)5045403530252015105013579111315171921232527293133353739414345474951535557596163656769717375(術後日数)図3本症例および通常のDSAEK術後症例における角膜上皮欠損の面積変化上皮欠損面積(mm2)はImageJを使用して計測した.1)は本症例,2)はDSAEK術後164眼での平均値.手術翌日から,ガチフロキサシン(ガチフロR)点眼,塩化ベンザルコニウム含有リン酸ベタメタゾン(リンデロンR)点眼,オフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏点入をそれぞれ1日4回ずつ施行した.ドナーグラフトの接着は手術1日後から良好で,角膜浮腫も軽減を認め,手術2日後以降もドナーグラフトの接着不良部位を認めなかった(図1).角膜上皮欠損は手術2日後にはやや縮小を認めたが,手術3日後から上皮欠損の修復が遅延してきたため,手術4日後の時点でリンデロンR点眼を1日3回に減量した.しかし,上皮欠損の修復はわずかで遷延性上皮欠損をきたしてきたため,手術12日後にリンデロンR点眼から塩化ベンザルコニウム無添加のリン酸ベタメタゾン(リンベタPFR)点眼へ変更し,同時にガチフロR点眼とタリビッドR眼軟膏も1日3回とした.しかし,その後も改善は緩徐で,手術16日後よりガチフロR点眼を1日2回,タリビッドR眼軟膏点入を眠前のみとし,手術19日後からは自家調整したBSSR点眼を1日3回で追加した.その後抗菌薬点眼を手術39日後からタリビッドR点眼1日2回に変更し,以後は点眼内容を変更せず加療を継続したところ,上皮欠損は次第に縮小し,術75日後に上皮欠損部は完全に被覆された.以後は上皮欠損の再発を認めていない(図2).当院最終受診時の右眼視力は0.02(0.04×sph+8.0D),右眼眼圧は3mmHgであった.残存した淡い角膜上皮下混濁のため角膜内皮細胞の撮影部位はわずかであり,角膜内皮細胞密度は測定できなかったが,約1,500個/mm2と推定された.グラフトの接着は良好で角膜浮腫を認めず,前眼部OCT(Casia,TOMEY)で測定した中心角膜厚は562μmであり,角膜内皮細胞機能は十分に機能しているものと考えられた.当院で2007年8月.2015年12月に施行したDSAEK症例533眼のうち,本症例を除き,術中に上皮.離を作製し術後治療用ソフトコンタクトレンズを装用せず上皮.離が治癒するまでの期間が確認できた164眼での治癒日数は3.2±1.3日(平均±標準偏差,2.10日)であった.全例が2週間以内には上皮欠損が消失しており,遷延性上皮欠損をきたした症例は本症例以外には認めなかった.また,上皮治癒速度も,通常のDSAEK眼では1時間当たり平均0.53mm2であったが,今回の症例では1時間当たり0.017mm2であり,1/30以下に低下していた(図3).II考察DSAEK術中の視認性を向上させるために角膜上皮欠損を作製することは一般的であり,欠損部の範囲が角膜輪部に及ばなければ術後の角膜上皮創傷治癒は速やかに行われるはずである.実際,筆者の知る限りでは,DSAEK術後に遷延性上皮欠損を合併した報告は以下の例だけである.これは,全層角膜移植術後の移植片機能不全例に対するDSAEK術後で遷延性上皮欠損を発症した報告であり10),全層角膜移植術後の神経麻痺の状態に伴い,遷延性上皮欠損を発症したと考えられる.今回,遷延性上皮欠損をきたした症例は,チューブシャント手術を含めた緑内障多重手術後の水疱性角膜症であり,2014年4月のシャント手術以後は抗緑内障薬点眼が中止されていたものの,それ以前まで多種類の抗緑内障薬を長期間投与されていた.抗緑内障薬による角膜上皮への影響については,ラタノプロストとbブロッカーの併用による角膜上皮障害などについての報告11)がなされているように,抗緑内障薬による角膜上皮への毒性が指摘されている.そのため今回の症例でも,多種類の抗緑内障薬を長期間投与されていたことにより角膜上皮層の薬剤透過性が亢進し,角膜実質内の薬剤濃度が著しく上昇することで,手術3日後まで治癒傾向にあった角膜上皮の創傷治癒が低下し,遷延性上皮欠損をきたした可能性が考えられた.今回,術後のステロイド点眼薬を塩化ベンザルコニウム無添加の製剤に変更し,ニューキノロン点眼薬も角膜上皮細胞毒性がより少ない種類へ変更,減量することで,角膜上皮の創傷治癒を阻害する薬剤の角膜実質内濃度が軽減し,治癒が得られた可能性も考えられた.本症例ではSchirmer試験による涙液検査や角膜知覚検査を行っていないが,手術前後の涙液メニスカスは正常範囲内であり,少なくとも涙液減少型のドライアイは生じていなかったと考えられる.また,上方結膜に水晶体.外摘出術や線維柱帯切開術による結膜瘢痕を認めるものの,明らかな結膜血管侵入は認めず,POVも比較的保たれていた.しかし,抗緑内障薬による薬剤毒性以外に,過去の内眼手術既往が角膜輪部機能をさらに低下させた可能性も考えられた.今回,本症例に対し,治療用ソフトコンタクトレンズの装用は行わなかった.遷延性上皮欠損に対する治療法の一つとして治療用コンタクトレンズの連続装用の有効性が指摘されている12).一方で,治療用ソフトコンタクトレンズの連続装用による角膜感染症のリスクが懸念されている13,14).本症例は80歳の多重内眼手術後であり,日和見感染を生じる可能性が危惧されたため,治療用ソフトコンタクトレンズを使用しなかった.神経麻痺性角膜炎,角膜輪部機能不全,ドライアイなどの既往がない症例においても,本症例のように遷延性上皮欠損と同様の病態をきたすことがあり,とくに緑内障手術後眼でのDSAEKではその可能性が否定できない.遷延性上皮欠損は治療に時間を要し感染の危険性が増加するだけでなく,遷延性上皮欠損部位に浅い潰瘍形成や角膜上皮下混濁が生じて視機能低下の原因となりうる.DSAEK術後に角膜上皮欠損の治癒遅延を認めた場合は漫然と経過を観察するのではなく,可及的速やかに点眼内容の変更や点眼回数の減少などの対応を行い,角膜実質内の薬剤濃度を軽減させ治癒を図ることが必要と考えられた.文献1)MellesGR,EgginkFA,LanderFetal:Asurgicaltech-niqueforposteriorlamellarkeratoplasty.Cornea17:618-626,19982)TerryMA,OusleyPJ:Deeplamellarendothelialkerato-plastyinthe.rstUnitedStatespatients;earlyclinicalresults.Cornea20:239-243,20013)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurg21:339-345,20054)GorovoyMS:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea25:886-889,20065)ThoftRA,FriendJ:TheX,Y,Z,hypothesisofcornealepithelialmaintenance.InvestOphthalmolVisSci24:1441-1443,19836)BetmanM,ManseauE,LawMetal:Ulcerationiscorre-latedwithdegradationof.brinand.bronectinatthecor-nealsurface.InvestOphthalmolVisSci24:1358-1366,19837)McCullyJP,HorowitzB,HusseiniZM:Topical.bronectintherapyofpersistentcornealepithelialdefects.Fibronec-tinStudyGroup.TransAmOphthalmolSoc91:367-386,19938)HyndiukRA,KazarianEL,SchultzROetal:Neurotroph-iccornealulcersindiabetesmellitus.ArchOphthalmol95:2193-2196,19779)LambiaseA,RamaP,AloeLetal:Managementofneu-rotrophickeratopathy.CurrOpinOphthalmol10:270-276,199910)中谷智,村上晶:全層角膜移植後角膜内皮機能不全への角膜内皮移植術.日眼会誌117:983-989,201311)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,200012)SchraderS,WedwlT,MollRetal:Combinationofserumeyedropswithhydrogelbandagecontactlensesinthetreatmentofpersistentepithelialdefects.GraefesArchClinExpOphthalmol244:1345-1349,200613)SainiA,RapuanoCJ,LaibsonPRetal:Episodesofmicro-bialkeratitiswiththerapeuticsiliconehydrogelbandagesoftcontactlenses.EyeContactLens39:324-328,201314)BrownSI,Bloom.eldS,PearceD:Infectionseiththetherapeuticsoftlens.ArchOphthalmol91:275-277,1974***

リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討

2017年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(1):124.126,2017cリパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討吉川晴菜*1池田陽子*2,3森和彦*2吉井健悟*4上野盛夫*2丸山悠子*5今井浩二郎*6外園千恵*2木下茂*7*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5福知山市民病院*6京都府立医科大学医療フロンティア展開学*7京都府立医科大学感覚器未来医療学InvestigationofIntraocularPressure-loweringE.ectsandSafetyofRipasudilHarunaYoshikawa1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori2),KengoYoshii4),MorioUeno2),YukoMaruyama5),KoujiroImai6),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita7)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)FukuchiyamaCityHospital,6)DepartmentofMedicalInnovationandTranslationalMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,7)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineリパスジル塩酸塩水和物(グラナテックR)点眼薬の眼圧下降効果と安全性について検討するために,2014年12月.2015年5月にグラナテックR点眼液を処方した225例のうち3カ月経過観察できた症例を対象に,眼圧下降効果および副作用をレトロスペクティブに検討した.処方した225例のうち,3カ月以内の中止例は20例であった.1カ月と3カ月に眼圧測定が可能であった125例のうち,グラナテックR追加群は94例(平均2.9剤に追加),切替群は31例(平均3.8剤より1剤切替)であり,経過中に副作用を認めたものは225例中76例で,半数以上に充血を認めた.点眼開始前眼圧は平均18.5±6.5mmHg,1カ月後の平均眼圧下降量は追加群/切替群は3.0±5.4/1.5±2.9mmHg,同じく3カ月後は3.1±5.4/2.9±3.0mHgであり,いずれも追加および切替前と比較して有意な眼圧下降効果を認めた.Subjectsofthisretrospectivestudywere225patientswhohadbeenprescribedGLANATECRfromDecember2014toMay2015.Statisticalanalysiswasdonebypairedt-test.Ofthe225patients,20werediscontinuedwithin3months.TheGLANATECRadditiongroupconsistedof94patients,andtheGLANATECRswitchinggroupof31patients.Sidee.ectsoccurredin76of225patientsduringthefollow-upperiod.Averageintraocularpressure(IOP)beforeGLANATECRinitiationwas18.5±6.5mmHg;averagedecreaseinIOPafter1and3monthswas3.0±5.4/1.5±2.9mmHgand3.1±5.4/2.9±3.0mmHg,respectively(additiongroup/switchinggroup).Inbothgroups,IOPwasstatisticallysigni.cantlydiminished.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(1):124.126,2017〕Keywords:リパスジル塩酸塩水和物,Rhoキナーゼ阻害薬,眼圧下降,緑内障.ripasudilhydrochloridehydrate,Rho-associated,coiled-coilcontainingproteinkinaseinhibitor,intraocularpressurelowering,glaucoma.はじめに2014年12月に発売されたリパスジル塩酸塩水和物(0.4%グラナテックR)点眼液は,Rhoキナーゼ阻害作用により主経路の房水流出を促進する1.5).これまでの抗緑内障点眼薬とは作用機序が異なることから,既存の点眼薬に追加,または切り替えることにより,さらなる眼圧下降の効果が期待されている.これまでに,多数例での0.4%グラナテックR点眼液処方による眼圧下降効果の報告はまだ行われていない.発売から1年以上経過し,多数の処方例を経験したので,リパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性につい〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN124(124)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(124)1240910-1810/17/\100/頁/JCOPYてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は2014年12月.2015年5月に当科および御池眼科池田クリニックを受診し,リパスジル塩酸塩水和物点眼液を処方した225例225眼(平均年齢68.0±35.0歳)である.本研究はヘルシンキ宣言のもと,厚生労働省倫理研究に関する倫理指針に則り個人情報を連結不可能匿名化した状態でレトロスペクティブな観察研究として行った.対象の内訳は男性111例111眼(平均年齢67.3±35.0歳),女性114例114眼(平均年齢69.4±35.3歳)であり,両眼に処方している場合は右眼のデータを選択した.副作用の検討は全例に対して行い,リパスジル塩酸塩水和物点眼開始前と開始後1カ月,3カ月の眼圧測定が可能であった症例に対して,眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.眼圧測定にはGoldmann圧平式眼圧計を使用し,測定時間は外来診察時間であった午前9時.午後19時とした.点眼前眼圧は直前の1回の値を採用した.統計的検討は対応のあるt検定を用い,多重比較の調整にはBonferroni法により,p<0.017の場合に有意とした.データ表示は平均値±標準偏差とした.II結果リパスジル塩酸塩水和物点眼開始後1カ月,3カ月の眼圧を測定可能であった症例は125例125眼(平均年齢68.8±12.1歳)であり,内訳は男性63例63眼(平均年齢67.5±14.2歳),女性62例62眼(平均年齢70.1±9.8歳)であった(表1).既存使用の抗緑内障点眼液にリパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加した群は94例94眼であり,平均2.9±1.2剤に追加されていた.1カ月後の平均眼圧下降量は3.0±5.4mmHgであり,3カ月後の平均眼圧下降量は3.1±5.4mmHgであった(図1).リパスジル塩酸塩水和物点眼眼圧下降作用に関しては5mmHg以上下降したHyperresponderが存在し,使用開始から3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例を9眼(25.5%),10mmHg以上下降した症例を5眼(5.3%)認めた.10mmHg以上下降した症例は全例が男性(平均年齢65.0歳)であったが,病型などその他の共通点は認めなかった.既存使用の抗緑内障点眼液平均3.8±1.0剤のうちの1剤をリパスジル塩酸塩水和物点眼液に切り替えた群は31例31眼であり,切り替え前の点眼薬はブナゾシン塩酸塩が19例,ブリモニジンが9例,その他が3例であった.1カ月後の平均眼圧下降量は1.5±表1患者背景(1カ月後と3カ月後に眼圧測定が実施できた症例125例)病型症例数(眼)男性:女性(人)平均年齢(歳)NTG4017:2368.0±11.8POAG3622:1471.6±13.5SG落屑緑内障154:1168.1±13.2ぶどう膜炎に伴う緑内障95:0464.6±16.0ステロイド緑内障11:0044血管新生緑内障22:0057.5±19.1その他のSG94:0559.3±18.1その他137:0677.0±4.2NTG:正常眼圧緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,SG:続発緑内障.*2220201818*1616眼圧(mmHg)14141212101088642200点眼前1M後3M後点眼前1M後3M後*有意差あり(p<0.01)*有意差あり(p<0.01)図1追加群図2切り替え群(125)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017125表2リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の副作用副作用症例数(眼)充血55眼瞼腫脹5霧視2頭痛2その他12合計762.9mmHg,3カ月後の平均眼圧下降量は2.9±3.0mmHgであった(図2).切り替えから3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例は9眼(29%)あり,10mmHg以上下降した症例は認めなかった.すでに4剤以上使用している多剤併用症例61例61眼(平均年齢66.8±12.8歳)に絞って検討しても,リパスジル塩酸塩水和物液点眼液の使用から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認め(p<0.01),多剤併用症例に対しても有意な眼圧下降効果を確認した.リパスジル塩酸塩水和物を処方した225例中,副作用を認めたものは76眼(33.8%)(表2)であり,半数以上に充血を認めた.また,処方した225例のうち,開始後3カ月継続できずに中止した症例は20眼(8.9%)であった.途中中止に至った理由の内訳は眼圧下降効果不十分により緑内障手術に至ったものが9眼(45%),頭痛2眼(10%),その他9眼(45%)(圧迫感,ふらつき,充血,気分不良,転院,胸のつっかえ感,かゆみ,咽頭の違和感,前房炎症それぞれ1例ずつ)であった.III考按今回,筆者らはリパスジル塩酸塩水和物液発売以来,多数の処方例を経験した.リパスジル塩酸塩水和物を追加した群,もしくは既存の点眼薬と切り替えた群ともに,使用後3カ月の時点で有意に眼圧が下降した.すでに4剤以上使用している多剤併用症例に対しても,リパスジル塩酸塩水和物点眼液使用開始から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認めた.これは,既存の抗緑内障薬とは作用機序が異なるために,多剤併用している症例に対してもさらなる眼圧下降効果を認めたと考える.緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果の報告6)や,ブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替えの報告7)と比較しても,ほぼ同等の眼圧下降効果を認めた.しかし,有意な眼圧下降効果を認めた一方で,副作用も処方例の33.8%で認め,点眼を中止せざるをえない症例も処方全体の8.9%に認めた.このように,眼圧下降効果を認めながらも,副作用の出現により使用を中止する症例もある.使用当初は副作用症状がなくても使用期間が延びるに伴い,充血や眼瞼炎が出現する症例もあるため,副作用の出現には毎回注意が必要である.眼圧下降作用に関してはhyperresponderも存在していたが,眼圧下降の効果が持続するのか,それとも一時的なものなのかは,今後症例数を増やし,経過観察期間を延長し,検討していかなくてはならないと考える.この研究でのバイアスとして,眼圧下降効果は3カ月以上継続できた症例に限っているので,3カ月を待たずに眼圧下降不十分で中止した症例は眼圧下降効果判定には含まれていない.そのために眼圧下降効果が比較的よい症例の解析結果となっている可能性がある.リパスジル塩酸塩水和物点眼液は2014年12月に発売され,処方後の報告なども少ない.長期の眼圧下降効果や副作用などについては,今後のさらなる検討が必要と考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeungT,ManserE,TanLetal:Anovelserine/threo-ninekinasebindingtheRas-relatedRhoAGTPasewhichtranslocatesthekinasetoperipheralmembranes.JBiolChem270:29051-29054,19952)IshizakiT,MaekawaM,FujisawaKetal:ThesmallGTP-bindingproteinRhobindstoandactivatesa160kDaSer/Thrproteinkinasehomologoustomyotonicdys-trophykinase.EMBOJ15:1885-1893,19963)MatsuiT,AmanoM,YamamotoTetal:Rho-associatedkinase,anovelserine/threoninekinase,asaputativetar-getforsmallGTPbindingproteinRho.EMBOJ15:2208-2216,19964)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofrho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20015)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115Clinical-StudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20136)平川沙織,井上俊洋,小嶋祥ほか:緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果.眼臨紀8:896-899,20157)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:眼圧下降薬4剤併用緑内障患者におけるブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替え.眼臨紀8:891-895,2015***(126)