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緑内障患者点眼アドヒアランス向上を目指した製薬会社の啓発活動への医療従事者の評価

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1509?1517,2016c緑内障患者点眼アドヒアランス向上を目指した製薬会社の啓発活動への医療従事者の評価河嶋洋一*1菊池順子*2兵頭涼子*3木村泰朗*4*1京都ひとみケアリサーチ*2新お茶の水ファーマシー*3南松山病院眼科*4上野眼科医院EvaluationbyMedicalPersonnelofPharmaceuticalCompanies’EducationalActivities,AimedatImprovingInstillationAdherenceinGlaucomaPatientsYoichiKawashima1),JunkoKikuchi2),RyokoHyodo3)andTairoKimura4)1)KyotoHitomiCareResearch,2)Shin-OchanomizuPharmacy,3)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,4)UenoEyeClinic緑内障患者の点眼アドヒアランス向上を目的とした試みがいくつか報告されている.そのなかで,製薬会社の啓発活動に対する眼科施設や調剤薬局に在籍する医療従事者からの満足度,活用度を今回,医療従事者への直接面談方式によるアンケート調査で実施した.全国33施設,141名の協力を得た.その結果,緑内障疾患の説明資材や眼球模型などの満足度,活用度が高い反面,患者の正しい点眼方法や毎日の点眼の重要性に関する資材や点眼補助具などに対する満足度,活用度が低いことがわかった.さらに,今後の製薬会社に期待する活動内容として,資材類,実物類からの視点と製品開発からの視点の両面でいくつかの有用な提案を得た.Sometrialsaimedatimprovinginstillationadherenceinglaucomapatientshavebeenreported.Medicalpersonnelatophthalmicfacilitiesanddispensingpharmaciesweresurveyedbyquestionnaire,throughface-to-faceinterview,toinvestigatesatisfactionratingandutilizationofeducationalactivitiesprovidedbythepharmaceuticalcompanies.Cooperatinginthesurveywere141medicalpersonnelfrom33facilitiesthroughoutthecountry.Resultsclearlyindicatedthatsatisfactionratingandutilizationofexplanationmaterialandlikeeyeballmodelsaboutglaucomadiseasearehigh.Ontheotherhand,materialsexplainingtopatientstheproperinstillationmethodandtheimportanceofdailyinstillation,ortheinstillationguidetool,arelow.Thissurveyprovidedusefulsuggestions,fromtheviewpointofbothexplanationmaterialsandproductdevelopment,regardingpharmaceuticalcompanyactivitiesforthefuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1509?1517,2016〕Keywords:緑内障,点眼アドヒアランス,アンケート調査,製薬会社,満足度.glaucoma,instillationadherence,questionnaire,pharmaceuticalcompany,satisfactionrating.はじめに慢性疾患である緑内障治療において,正しい点眼の継続性,すなわち患者個々の点眼アドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1?3).一方,自覚症状に乏しく,長期間の点眼治療を必要とする緑内障において良好なアドヒアランスを維持するためには,疾患と点眼治療の重要性への理解を目的とした啓発活動が重要となる.そのなかで,医療従事者から患者への関与,すなわちコーチングとよばれる医療行為がきわめて重要である4?6).このコーチング内容をサポートする手段はいろいろあり,そのうちの一つとして,治療に用いられる緑内障点眼薬を販売する製薬会社の啓発活動,すなわち,疾患説明資材,点眼薬情報,点眼方法提案,点眼容器,点眼補助具などの資材類,実物類の提供がある.しかしながら,これらの製薬会社の活動に対する医療従事者側からの評価に関する体系だった調査はこれまでほとんど報告されていない.そこで,今回,製薬会社からの資材類,実物類の提供活動に対する評価を目的とし,調査者が対象者となる医療従事者に直接面談することでアンケート調査を実施した.本報では,種々の資材類,実物類に対するアンケート調査による評価結果とそこからみえてくる今後の製薬会社に期待される活動について報告する.I対象および方法2015年3?5月の3カ月間に,眼科治療を実施する医療施設に在籍し,事前の了解が得られた医療従事者を対象とした直接面談方式によるアンケート調査を実施した.まず,アンケート調査の目的を説明した後に,製薬会社が提供している実際の資材類,実物類(表1および図1)を供覧し,最後に,表2に示す設問内容のアンケート調査用紙に無記名式,自記式での回答とした.各医療従事者がこれまでに使用経験した資材類,実物類に限っての回答とし,また,職務内容上,回答できない設問に対しては,無記入とした.なお,表1(代表例を図1の写真に示す)に示す資材類,実物類は,各種の緑内障点眼薬を販売している参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社,日本アルコン株式会社,ファイザー株式会社と川本産業株式会社(市販の点眼補助具)の5社から提供を受けた.II結果アンケートを実施し,回収しえたのは全国33施設〔内訳は大学病院6施設,総合病院1施設,眼科病院3施設(薬剤科を含む),眼科医院14施設,調剤薬局9施設〕の141名〔内訳は眼科医37名,看護師40名,薬剤師21名,視能訓練士20名,その他(検査,受付などの眼科スタッフ)23名〕であった.1.アンケート調査結果最初に,全18設問のうち,数値での表示可能な14設問に対する回答結果を表3および図2(製薬会社から提供される資材類,実物類に関する設問)に示す.2.資材類,実物類に対するコメントおよび不満足理由つぎに,設問⑪および⑮で回答を得た,製薬会社から提供されている資材類,実物類のどういう点が評価されていないのかの回答を項目別に表4に示す(代表的な内容をそれぞれ3つ記載,括弧内は回答者の職種).3.結果のまとめ製薬会社から提供される資材類,実物類に関する調査結果を中心に簡単に列記する.1.自前の資材類との併用も合わせて,製薬会社からの資材類を約90%の割合で採用している.また,複数製薬会社の同様の資材類からの選択基準としては,「文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている」ことであった.2.資材類,実物類に対する満足度は,満足しているものもあるが不満足のものも両方あるという評価がもっとも高く,いずれも70%を超えていて,ほぼ不満足であるという評価と合わせると80?87%に達した.3.資材類に対する満足度としては,全体として緑内障疾患説明冊子が約40%ともっとも高い評価であったが,眼科医では眼球模型が34%と一番高い評価であった.一方,不満足であるのは,点眼治療重要性説明冊子,点眼指導法説明冊子,点眼チェックシート類の3つであった.4.実物類に対する満足度としては,点眼容器の使用性,識別性に対して,満足,不満足の両方があり,医療現場のなかで,使いやすい容器と使いにくい容器が混在している現状が示された.また,点眼補助具に対しては不満足が高く,とくに眼科医からの評価が低かった.III考按一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し,その場で対象者に回答を記入してもらう方法は,質の高い調査を行うことができる利点があり,さらに対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度や回答率の向上が期待できる7).一方,今回のような製薬会社の活動に対するアンケート調査において,製薬会社の構成員(調査者)が行うとバイアスがかかる可能性が否定できず,そういう意味からも特定の製薬会社に属さない調査者が行うことで精度の高い結果が得られるものと考える.また,今回は1人の調査者がすべてのアンケート調査を実施したので,調査者の違いによる説明や回答結果のバラツキなどが生じることはなかったと考察する.つぎに,点眼治療効果を高めるためには,疾患の理解,点眼薬治療の理解,正しい毎日の点眼の実行という3つのステップ(点眼アドヒアランスの維持)が必要とされ,さらに正しい毎日の点眼には,識別性(複数の点眼薬を間違えずに点眼),正確性(眼の上に正確に1滴を点眼),継続性(毎日,負担なく点眼)の3項目の理解と実施が重要である8).製薬会社から提供される資材類,実物類はこれらの3つのステップおよび3つの重要項目いずれにも関与し,今回の調査にあたっては,最初に医療従事者にこれらの資材類,実物類の再確認のための説明を行った.今回,緑内障患者の点眼アドヒアランス向上を目的とした製薬会社の啓発活動に対する医療従事者からの評価を調査した.すべての回答者の経験年数で5年以上が87%であり,とくに眼科医,看護師,薬剤師は90%以上であった.さらに約80%以上は10年以上の経験者であり,これまでの豊富な経験を元にした回答が得られたと考える(設問③).点眼アドヒアランス評価に重要な緑内障患者がどれぐらい正確に点眼できているかの設問④に対しては,眼科医,看護師,視能訓練士,その他といった眼科施設内の医療従事者では,56?70%で10人中7?8人以上が正確に点眼できているとの回答であった.一方,おもに調剤薬局に勤務する薬剤師では,半分以下の患者しか正確に点眼していないが約90%と差が出た.また,全体として,10人中1人未満の割合で,いくら点眼指導しても正確に点眼できない患者が存在するとの回答もあった.また,正確に点眼できていない根拠として(設問⑤),もっとも多いのは点眼薬の減少するスピードが予想より早すぎる,あるいは遅すぎるという回答であった.二番目の根拠として,眼科医では眼圧下降効果が期待以下であったというのに対し,看護師,薬剤師などでは患者本人からの申告,すなわち,毎日の点眼を忘れるときがあるとか,多剤のうち何種類か点眼していないなどの声を聞いているというものであった.患者は眼科医よりも看護師などのより身近と感じる医療従事者に毎日の点眼状況を申告していると考察される.さらに,患者からの申告による根拠では同じように高い比率である看護師などの眼科施設内の医療従事者とおもに調剤薬局での医療従事者である薬剤師との間に正確な点眼患者比率に差がみられたことに対しては,薬剤師は眼科医や看護師などと比較して,一人ひとりの患者の点眼状況について常に把握すべく,投薬本数管理や点眼正確度確認などをより細かく観察,判断していると考えられ,このことがより現実的な数字の差に表れたのではないかと考える.以上のような医療従事者および患者によるアドヒアランス評価(表3)をもとに,緑内障患者の点眼アドヒアランス向上への寄与を目的とした製薬会社の活動,すなわち,いろいろな資材類,実物類の提供に対する医療従事者の満足度,活用度を調査した(図2).まず,患者説明,指導用資材の出処については(設問⑥),自前の資材類との併用も合わせて,製薬会社からの資材類を約90%の割合で採用していることがわかった.また,複数の製薬会社からの同様の資材(たとえば,疾患説明資材)のどれを選択するかについては(設問⑦),「文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている」ことがもっとも高い基準であった.患者やその家族がより理解しやすい,読みやすいというのが一番大事だと考えられていて,今後の新しい資材類作成時の参考になるものと考える.まず,資材類に対する満足度では(設問⑧),ほぼ満足(20%),ほぼ不満足(9%)とともに,満足しているものもあるが不満足のものも両方ある,という評価が71%ともっとも高かった.個別の資材類への評価としては(設問⑨および⑩),全体として緑内障疾患説明冊子が約40%の一番高い評価を得ていたが,眼科医では25%であり,眼球模型が34%ともっとも高い満足度であった.一方,不満足であるのは,点眼治療重要性説明冊子,点眼指導法説明冊子,点眼チェックシート類の3つが高く,いずれも患者点眼アドヒアランスの向上を目的とした「正しい毎日の点眼の実行」に必要な資材類であった.これらの資材類に対する具体的な意見のうち代表的なものを表4(1)?(3)に示すが,患者の点眼実態など患者の現実に即した内容が多く,製薬会社の今後の活動改善に有用な意見と考える.また,緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査に関する高橋らの報告9)によると,年齢が若いほど指示どおりの点眼ができていないことも明らかになっているので,スマートフォンなどのアプリケーションソフトの充実が求められるという意見(表4(3)-2)も今後重要と考える.これらのアプリケーションソフトについては,現在2社からの提供があるが,現状ではその有用性に関する報告はなされておらず,今後の調査とさらなる開発が待たれる.さらに,満足度が高い疾患説明冊子や眼球模型に対しても,より満足度,活用度を高めたいという願望を込めた貴重な意見が得られた(表4(4),(5)).つぎに,実物類に対する満足度においても(設問⑫),ほぼ満足(13%),ほぼ不満足(13%)とともに,満足しているものもあるが不満足のものも両方ある,という評価が74%ともっとも高く,資材類への評価と類似していた.ただ,不満足であるという評価が眼科医と比較して看護師,薬剤師,視能訓練士で高く,患者の毎日の点眼がうまく行っていない理由として患者本人からの申告としている結果と関連しているのではないかと考える.満足,不満足両方の評価(設問⑬および⑭)で,点眼容器の使用性,識別性が挙げられているが,点眼補助具に対しては不満足が高く,とくに眼科医からの評価が低かった.今回,調査に用いた点眼補助具には,特定の製薬会社が自社の点眼容器形状のみに使用可能な点眼補助具(ファイザー株式会社からのXal-Ease)を無料提供しているもの(無料で提供する場合,自社の製品のみに使用できることが条件となる)と,市販品という形で,有料で入手できるもの(川本産業株式会社からのらくらく点眼など)の両者が含まれている.実際,医療現場では両者が使用されているが,前者は他の資材類などと同様,正しい点眼治療のための啓発を目的としたものであり,一方,後者は啓発というよりビジネスの要素が大きい.ただ,後者の場合,患者がインターネット情報などを元に購入するというケースよりも医療従事者が正しい点眼治療のための患者啓発を目的として,患者に紹介し,購入してもらっているケースが多いとの医療機関側からの情報を得,啓発活動の一環としての役割が存在するものと考え,今回は両者をまとめて評価した.これらの実物類に対する具体的な意見のうち代表的なものを表4(6),(7)示すが,現在までに報告されている点眼容器の使用性や識別性に関する研究結果10?13)に加え,今後の点眼容器開発に留意すべき重要な意見と考える.また,点眼しやすい容器と点眼しにくい容器など同一実物類で相反する回答を出したのが141名中44名と約30%の混在率評価であった.医療現場のなかで,使いやすい容器と使いにくい容器が混在している現状が示されていると考えるが,今回の調査では別々の設問であったため,もし混在しているかどうかを直接確認する設問であれば,この混在率はもっと高い数字が出ていたと予測する.また,点眼補助具に関しては,このような使いにくい容器を販売している製薬会社自らに新しい点眼補助具の開発を求める意見に繋がっていると考える.さらに,今後の製薬会社の活動を考える観点から,医療従事者が患者やその家族説明に対しての役割分担についてどのような意見を持っているか,設問⑰を設定した.単独あるいはいろいろな職種の組み合わせでの回答をみると,眼科医からその他(受付)までのすべての医療従事者のチーム医療体制が重要であることが改めて明らかとなり,製薬会社にはすべてのメンバーに均質化された情報提供が求められていると考えられる.また,視能訓練士については,種々の検査時に入手可能となる患者個々の運動能力,体位制限,認知力などの点眼アドヒアランス判断のための基本情報の共有化に力を発揮しているという意見が複数の医療従事者からあった.上記の満足度,不満足度を踏まえたうえでの今後の製薬会社への要望として,表5に示すような資材類や実物類が提案されたが(設問⑯),臨床試験段階も含めて世界的な緑内障点眼薬新薬が非常に少ない現状を考えたときに,現状のなかでの改善策としていずれも検討の価値があるのではと考える.最後に,医療従事者が毎日の点眼治療で考えていることを聞いた設問⑱に対しても多くの回答を得たが,そのなかでいくつかの回答をキーワード的にまとめたものをつぎに示す.“1回の説明ですべてを理解できる患者はいない.治療を繰り返すなかで,疾患の今の状態の説明,毎日の点眼重要性の理由説明,正しい点眼方法の理解,指導など,同じことを何度も繰り返すことで,患者のアドヒアランスは確実に上がると思う.患者が同じ質問を繰り返したとしても,それにしっかり答える必要がある.治療に携わる人間がこれをめんどうだと思っては,そこで緑内障の治療は「おしまい」と考える.”製薬会社にはこのような医療従事者の思いに応えるためにも,今後も継続して有用で活発な啓発活動が求められている.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20124)吉川啓司,松元俊,内藤知子ほか:緑内障セミナー緑内障3分診療を科学する!─アドヒアランスとコーチング─.眼科52:679-694,20105)兵頭涼子,山嵜淳,大音静香:点眼治療アドヒアランス向上を目指した意識調査.あたらしい眼科27:395-399,20106)荒佐夜香,菊池順子:緑内障治療開始時の服薬指導治療継続に向けて.薬局薬学5:76-81,20137)谷川琢海:第5回調査研究方法論?アンケート調査の実施方法?.日放技学誌66:1357-1361,20108)庄司純,河嶋洋一,吉川啓司:点眼薬クリニカルハンドブック第2版.p18-26,金原出版,20159)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,201010)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200711)大塚忠史:点眼アドヒアランスの向上を指向した医療用点眼容器の開発.人間生活工学12:32-38,201112)高橋嘉子,井上結美子,柴田久子ほか:緑内障点眼薬識別法とリスク要因,あたらしい眼科29:988-992,201213)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,2005〔別刷請求先〕河嶋洋一:〒610-1146京都市西京区大原野西境谷町3-8-54京都ひとみケアリサーチReprintrequests:YoichiKawashima,Ph.D.,KyotoHitomiCareResearch,3-8-54OharanoNishisakaidanicho,Nishikyo-ku,Kyoto610-1146,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY1510あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(124)表1製薬会社提供の資材類,実物類①疾患の理解のコーチング:緑内障疾患に関する冊子,緑内障患者の見え方シミュレーションツール,眼球模型,眼球断面図・パネル類②点眼薬治療の理解のコーチング:点眼薬の種類・効果・副作用に関する冊子,点眼治療の重要性に関する冊子③正しい毎日の点眼の実行のコーチング:(ⅰ)識別性:点眼容器・キャップの形状・色調,ラベルの表示・色調,点眼薬識別シール,点眼チェックシート(ⅱ)正確性:正しい点眼方法指導冊子(点眼方法実写DVDを含む),点眼しやすい点眼容器形状,点眼補助具(ⅲ)継続性:毎日の点眼の重要性説明冊子,点眼継続に負担のない点眼容器形状,点眼補助具,点眼チェックシート,点眼お知らせサイト表2アンケート設問内容①職種を教えて下さい.1.眼科医,2.看護師,3.薬剤師,4.視能訓練士,5.その他()②所属機関を教えて下さい.1.大学病院,2.総合病院,3.眼科病院,4.眼科医院,5.調剤薬局③今の職種での経験年数を教えて下さい.1.3年未満,2.3?5年未満,3.5?10年未満,4.10年以上④緑内障患者さんのどれぐらいが,毎日ちゃんと決められた通りに点眼していると思われますか?1.ほぼ全員,2.10人中7?8人,3.半分ぐらい,4.10人中2?3人,5.それ以下⑤ちゃんと点眼していないことは,どういうことで感じられていますか?複数回答可です.1.点眼液の減少のスピード(速すぎる,遅すぎる),2.効果の弱さ,3.副作用発現の多さ(眼瞼周りの変化など),4.その他()⑥患者さんへの説明,指導には,どのような資材を使用されていますか?1.製薬会社からの資材,2.自前の資材,3.両方の資材⑦製薬会社からの資材を使われている場合,複数会社からの種々の資材の中で一つを選択される基準としては,どういう点を一番重視されていますか?1.説明しやすい内容や順序となっている,2.文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている,3.最新の情報,知見も含め,レベルの高い内容となっている,4.その他()⑧現状の製薬会社からの資材で満足されていますか?1.満足している,2.満足していない,3.満足と不満足の両方が存在⑨満足している資材としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.疾患説明冊子,2.点眼治療薬説明冊子,3.点眼治療重要性説明冊子,4.点眼指導法説明冊子,5.眼球模型や眼球断面図・パネルなどの資材,6.点眼チェックシートや点眼薬識別シールなどの資材,7.その他()⑩満足していない資材としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.疾患説明冊子,2.点眼治療薬説明冊子,3.点眼治療重要性説明冊子,4.点眼指導法説明冊子,5.眼球模型や眼球断面図・パネルなどの資材,6.点眼チェックシートや点眼薬識別シールなどの資材,7.その他()⑪満足していない理由を教えて下さい.⑫製薬会社が提供しています実物(点眼容器や点眼補助具など)で満足されていますか?1.満足している,2.満足していない,3.満足と不満足の両方が存在⑬満足している実物としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.点眼しやすい容器,2.識別しやすい容器やラベル表示,3.点眼補助具,4.その他()⑭満足していない実物としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.点眼しにくい容器,2.識別しにくい容器やラベル表示,3.点眼補助具,4.その他()⑮満足度を上げるために,製薬会社に望まれるものとその理由を教えて下さい.(対象となる実物名:)(その理由:)⑯今後,製薬会社に新規に開発,提供して欲しい資材や実物はありますか?1.ある(),2.ない⑰患者さんやそのご家族への下記の「疾患と治療法」初めの6項目毎の説明は,どういう職種のメンバーが行うのが適切あるいは効果的だとお考えですか?次の番号からお選び下さい.複数回答可です.1.眼科医,2.看護師,3.薬剤師,4.視能訓練士,5.その他疾患と治療法(),効果と副作用(),用法・用量(),点眼方法(),禁忌,使用上の注意(),医療コスト()⑱最後に,先生が患者さんの毎日の点眼治療について,日頃お考えのご意見やご提言がありましたら,教えて頂けませんでしょうか.図1資材類および実物類の代表例の写真(125)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201615111512あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(126)表3アンケート調査結果(1)設問①および②職種および所属機関1.大学病院2.総合病院3.眼科病院4.眼科医院5.調剤薬局全体6施設17名1施設1名3施設17名14施設87名9施設19名眼科医6施設10名0施設0名3施設8名14施設19名0施設0名看護師1施設1名1施設1名1施設6名5施設32名0施設0名薬剤師0施設0名0施設0名1施設2名0施設0名9施設19名視能訓練士1施設5名0施設0名0施設0名5施設15名0施設0名その他1施設1名0施設0名1施設1名5施設21名0施設0名設問③経験年数1.3年未満2.3?5年未満3.5?10年未満4.10年以上全体10名(7%)9名(6%)25名(18%)97名(69%)眼科医0名(0%)1名(3%)3名(8%)33名(89%)看護師2名(5%)2名(5%)4名(10%)32名(80%)薬剤師0名(0%)0名(0%)5名(24%)16名(76%)視能訓練士7名(35%)2名(10%)5名(25%)6名(30%)その他1名(4%)4名(17%)8名(35%)10名(43%)設問④毎日の正確な点眼患者比率(10人中)1.ほぼ全員2.7?8人3.約半分4.2?3人5.それ以下全体4名(3%)69名(49%)57名(40%)11名(8%)0名(0%)眼科医1名(3%)20名(54%)14名(38%)2名(5%)0名(0%)看護師1名(3%)21名(53%)15名(38%)3名(11%)0名(0%)薬剤師0名(0%)3名(14%)13名(62%)5名(24%)0名(0%)視能訓練士0名(0%)14名(70%)6名(30%)0名(0%)0名(0%)その他2名(9%)11名(48%)9名(39%)1名(4%)0名(0%)設問⑤不正確な点眼根拠(複数回答可)1.減少スピード2.効果弱い3.副作用多い4.患者申告など全体106名(48%)30名(14%)22名(10%)61名(28%)眼科医31名(46%)16名(24%)8名(12%)12名(18%)看護師27名(44%)8名(13%)5名(8%)21名(34%)薬剤師19名(44%)4名(9%)8名(19%)12名(28%)視能訓練士8名(38%)1名(5%)1名(5%)11名(52%)その他21名(78%)1名(4%)0名(0%)5名(19%)設問⑰単独あるいは組み合わせによる患者説明(複数回答可)1位2位3位疾患・治療法眼科医眼科医+看護師眼科医+薬剤師効果・副作用眼科医+薬剤師眼科医眼科医+看護師+薬剤師用法・用量眼科医+薬剤師薬剤師眼科医+看護師+薬剤師点眼方法看護師+薬剤師薬剤師看護師眼科医+看護師+薬剤師禁忌・注意点薬剤師眼科医+薬剤師眼科医+看護師+薬剤師医療コスト薬剤師その他(眼科スタッフ)眼科医+薬剤師(127)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161513図2アンケート調査結果(2)(グラフ中の数字は回答人数を示す)1514あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(128)表4資材類,実物類に対するコメントおよび不満足理由(1)点眼治療重要性説明冊子1.薬理作用の異なる多剤併用時の科学的根拠の説明が不十分(眼科医)2.いくら重要性を説明しても脱落例が多いが,どれ位の眼圧を保っていればいいかとか,今自分がどれ位の位置にいるとか,目安になる情報が入っていれば良いのだが(薬剤師)3.1滴滴下でOKとしているが,1滴で十分である科学的根拠(薬理学的,薬動力学的)が説明されていない(薬剤師)(2)点眼指導法説明冊子1.説明冊子だけでは指導しきれないので,実際に目の前で点眼してみせる(薬剤師,看護師)2.視弱障害の程度にあった説明が必要で,たとえば軽症例と重症例では説明内容も変えたほうが良い(眼科医)3.高齢の患者や手指・首の動きの悪い患者が点眼する説明内容になっていない(薬剤師,看護師)(3)点眼チェックシート1.チェックシートは単独使用のものが多いが,点眼忘れが多いのは多剤併用者であるため,現行のものは使いにくい(看護師,薬剤師)2.アドヒアランスの悪い患者は若い忙しい世代が多いため,もっとスマートフォンなどのアプリケーションソフトを充実させたほうが良い(眼科医)3.実際の患者の要求に沿っているか,その有用性に疑問(眼科医)(4)疾患説明冊子1.機序やしくみの説明が多く,患者の将来困るであろうことのイメージがわきにくい(眼科医)2.「自分は大丈夫」と簡単に考える患者には,冊子だけでは十分に伝えられないが,結局は人と人で伝える部分が大きく,眼科スタッフの頑張る部分と思う(眼科スタッフ)3.患者によって疾患,自覚が違い,患者によっては余分な不安を誘発させたり,逆に安易にとらえられてしまうことがあり,使用しづらい(眼科スタッフ)(5)眼球模型1.現状のものは,緑内障の説明には使いづらく,病態に特化した模型へのアレンジを望む(眼科医)2.OCT(opticalcoherencetomograph,光干渉断層計)による診断結果と連動できるようなアレンジがあれば(眼科医)3.現状のものは壊れやすいから,もっと頑丈なものを(眼科医)(6)点眼容器の使用性・識別性1.容器の硬さに差が大きく,押す力によっては2?3滴出てしまう(薬剤師,看護師)2.使用性を向上させるために容器形状を工夫しようとすると,形状が似てきて,会社間での識別性が悪くなる(これまでは,同一会社製品間での問題であったが)(眼科医,薬剤師,看護師)3.ミニ点眼薬(使い切りユニットドーズタイプ点眼薬)について,最近1日1?2回点眼の緑内障ミニ点眼薬がいくつか販売されているが,ドライアイミニ点眼薬(1日5?6回点眼)との識別性が悪く,患者の過剰点眼を危惧する(眼科医,薬剤師)(7)点眼補助具1.現状のものは真上からの点眼でなければ,うまく眼の上に点眼できない.したがって,補助具を使って点眼できる人は,補助具なしでも点眼できる(薬剤師,看護師)2.患者の使用継続性が悪いのが問題(眼科医,看護師,薬剤師)3.点眼しにくい容器を出している製薬会社自らが,新しい補助具の開発,販売をすべきである(眼科医,薬剤師)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161515表5今後,製薬会社に新規に提供して欲しい資材類,実物類(代表例)(1)資材類,実物類からの視点1.今回明らかになった不満足点からの改良への着手(毎日の正確な点眼支援)2.製薬会社自らによる点眼補助具の開発(操作容易,真上からの点眼不要)3.押す力に関係なく,1滴だけ点眼できる容器(多剤点眼時には,とくに必要)(2)製品開発からの視点1.配合剤点眼薬の充実【PG(プロスタグランジン関連薬)+CAI(炭酸脱水酵素阻害薬),PG+CAI+b(b遮断薬)など】2.眼内(前房,後房内)埋め込み型などのDDS(drugdeliverysystem,薬物送達システム)製剤(毎回の点眼行為を必要としない究極のアドヒアランス)3.医療従事者や患者の安心度の高いオーソライズド・ジェネリック(先発メーカーとの契約のもと,添加剤の種類・量,製造方法などが同じ)の開発1516あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(130)(131)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161517

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

Ex-PRESS®併用濾過手術における術中光干渉断層計の有用性

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1053〜1056,2016©Ex-PRESS®併用濾過手術における術中光干渉断層計の有用性松崎光博*1,2広瀬文隆*1,2山本庄吾*1,2吉水聡*1,2宇山紘史*1,2藤原雅史*1,2栗本康夫*1,2*1神戸市立医療センター中央市民病院眼科*2先端医療センター病院眼科ClinicalUsefulnessofIntraoperativeOCTinGlaucomaFiltrationSurgeryUsingEx-PRESS®ShuntDeviceMitsuhiroMatsuzaki1,2),FumitakaHirose1,2),ShogoYamamoto1,2),SatoruYoshimizu1,2),HirofumiUyama1,2),MasashiFujihara1,2)andYasuoKurimoto1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,InstituteofBiomedicalResearchandInnovation目的:Ex-PRESS®併用濾過手術おける術中OCTの有用性を検証する.方法:神戸市立医療センター中央市民病院で開放隅角緑内障に対しEx-PRESS®併用濾過手術を同一術者にて施行した4例5眼を対象とし,Ex-PRESS®挿入時に術中OCTガイド下に強膜弁下から前房への穿刺を施行した.結果:いずれの症例もEx-PRESS®挿入のための前房穿刺に先だって,刺入部位と前房側出口および虹彩との位置関係をリアルタイムに確認することができた.挿入後術中OCTにてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを確認した.また,術終了時には深層強膜弁切除併用による強膜弁下のレイク形成と良好な濾過胞形成を術中OCT上で確認できた.5眼とも術後の濾過胞形成は良好であり,前眼部OCT(CASIA®)にてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを確認した.結論:術中OCTは,Ex-PRESS®併用濾過手術における穿刺部位の決定に有用である.Purpose:Toevaluatetheclinicalusefulnessofintraoperativeopticalcoherencetomography(OCT)forfilteringglaucomasurgeryusingtheEx-PRESS®shuntdevice.Methods:Thisstudyexamined5eyesof4patientsdiagnosedwithopen-angleglaucoma.Theyunderwentfilteringglaucomasurgerybyonesurgeon,usingtheEx-PRESS®shuntdevice.ThesurgeonperformedanteriorchamberparacentesisandEx-PRESS®insertionunderintraoperativeOCTguidance.Results:IntraoperativeOCTenabledreal-timevisualizationofpositionalrelationshipsbetweenthescleralsurface,underapartial-thicknessscleralflap,andtheanteriorchamber.AfterEx-PRESS®insertion,intraoperativeOCTdelineatedtheEx-PRESS®deviceaswellpositionedinsidetheanteriorchamber,thelakeunderthescleralflap,andawell-formedconjunctivalbleb.Postoperatively,eachEx-PRESS®devicewasassessedusinganteriorsegmentOCT(CASIA®),confirmingthatalldeviceswerefixedingoodpositionintheanteriorchamberangle.Conclusions:IntraoperativeOCTcanbeausefultoolinEx-PRESS®implantationsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1053〜1056,2016〕Keywords:緑内障,濾過手術,エクスプレス®,術中OCT,前眼部OCT.glaucoma,filtrationsurgery,Ex-PRESS®,intraoperativeOCT,anteriorsegmentOCT.はじめに緑内障フィルトレーションデバイスであるEx-PRESS®(Alcon社)併用濾過手術は,デバイスが流出量をコントロールするため,線維柱帯切除術に比べて術中の急激な低眼圧をきたしにくく,術後は浅前房などの早期合併症が少ないと考えられている.また,虹彩切除が不要で前房出血の頻度が低いことが知られている.これらの理由によりEx-PRESS®併用濾過手術は,線維柱帯切除術と同等の眼圧下降が得られる安全性の高い手技として広く普及している1,2).Ex-PRESS®の挿入位置は,通常,強膜弁下の強角膜移行部(いわゆるグレーゾーン)後端を目安として決定されるが,強角膜外側と前房隅角側や虹彩との位置関係には個人差があり,必ずしも想定した位置に前房穿刺が得られるとは限らない.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)手術顕微鏡RESCAN700(CarlZeiss社,以下,術中OCT)は,手術支援システムCALLISTeyeと連携して,術野内のリアルタイム断層像を得ることができる.術者の片眼の接触レンズにOCT画像が投影されるため,視線を外すことなくそのOCT像を参照できる.術中OCTを用いて,前房側の位置関係を確認しながら穿刺することができれば,より確実なEx-PRESS®挿入を行える可能性がある.術中OCTは硝子体手術3)や角膜手術4)などで使用されているが,これまでに緑内障手術にて使用した報告はない.今回,筆者らは,Ex-PRESS®併用濾過手術おける術中OCTの有用性を検証したので報告する.I対象および方法対象は,神戸市立医療センター中央市民病院(以下,当院)にて2015年3〜8月に,同一術者にて開放隅角緑内障に対しEx-PRESS®併用濾過手術を施行した4例5眼である(表1).このうち白内障同時手術は1例2眼であった.いずれの症例も4mm×3mmの表層強膜弁を作製し,マイトマイシンCを塗布処理した後,深層強膜弁部分切除を併用した.Ex-PRESS®挿入時に術中OCTガイド下に強膜弁下から前房への穿刺を施行した.術中OCTへの切り替えや術中OCTの操作は,術者がフットスイッチ操作で行った.うち1症例(症例4)では術中に深層強膜弁部分切除による強膜弁下のスペース(以下,レイク)の形成や結膜縫合後の濾過胞の形成を術中OCTにて確認した.また,術後,眼圧が安定してから外来にて前眼部OCT(SS-1000CASIA®,Tomey社)にてEx-PRESS®挿入位置を確認した.挿入位置は,Ex-PRESS®本体と虹彩や角膜との接触がなく,先端の流出口および上方の流出口(リリーフポート)が開放しているものを良好な位置と定義した.II結果Ex-PRESS®挿入のための前房穿刺に先だって,術中OCTにて角膜輪部を中心に描写し,強膜と虹彩隅角側の構造が同定可能な明瞭な画像を得ることを確認した.25ゲージ(G)Vランスにて強膜弁下の表面から軽く押すことや,Vランスのシャドウを参考にすることで,強膜弁下と前房側出口および虹彩との位置関係をリアルタイムで確認した(図1A,B).この際,前房側の様子がVランスのシャドウでマスクされる場合は,Vランスの投影面積が最小になるようにVランスを操作した.また,Vランスと平行にOCT断層面を動かすことでVランスを描出し,挿入角度が虹彩と平行であることをOCT上で確認した(図1C,D).術中OCTにて位置や角度を調整しても,短時間で前房穿刺を施行することが可能であった.挿入後,術中OCTにてリアルタイムで断層面を動かしながら確認することで角膜や虹彩との接触がなく適切な位置に挿入されているか確認することが可能であった(図2).また,強膜弁縫合後,深層強膜弁部分切除併用による強膜弁下のレイク形成(図3A,B)を確認した.さらに,結膜縫合後,丈の高い良好な濾過胞形成を術中OCT上で確認できた(図3C,D).いずれの症例も術後の濾過胞形成は良好であり,前眼部OCTにてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを撮像できた(図4).III考按Ex-PRESS®の使用成績調査(2012年7月9日〜2014年12月19日における中間集計)による安全性解析対象437眼において,虹彩接触症例が26.3%と位置異常の頻度が高いことがわかってきた5).以前,当院にて,線維柱帯切除術の経験が10症例以上ある複数の術者によるEx-PRESS®併用濾過手術後の52例62眼で検討した際は,虹彩接触症例は24.1%,角膜接触症例は1.6%であり,使用成績調査の中間集計とほぼ同様であり,症例ごとに挿入角度のばらつきを認めた(宇山紘史,亀田隆範,平見恭彦ほか:3次元前眼部光干渉断層計を用いたEx-PRESS®デバイスの観察.第37回日本眼科手術学会学術総会,2014).角膜や虹彩に接触したEx-PRESS®が必ずしも術後に問題を引き起こすわけではないが,角膜接触では角膜内皮障害が起こる可能性が指摘され6),虹彩接触では虹彩と癒着して房水流出口が閉塞し眼圧上昇した症例7)や,虹彩接触が慢性疼痛を引き起こした症例も報告されている8).本研究のように術中OCTアシスト下でEx-PRESS®挿入を行うことで挿入位置が安定し,位置異常による合併症の軽減が期待できる.一般に普及しているOCTの機種は撮像部の可動性がないため,手術中に術眼の断層像を撮影するのは困難である.さらに撮像部に可動性のある機種であっても,術中にOCTを撮影する場合は,いったん手術を止めて,機材を患者の顔に接近させてOCTを撮影し,また時間をかけて元に戻す必要があり,リアルタイムで画像を参照しながら手術を行うことは不可能であった.本研究で使用した術中OCTは顕微鏡と一体化しており,モードを切り替えるだけの操作でOCT像を術野に映しながら手術を継続できるため,患者への負担が少なく,術者の利便性が高い.一方で,現時点では広く普及しておらず,使用できる施設が限られてしまうことが問題点である.穿刺中に術中OCTを参照するのは挿入時に眼球が動きOCTの断層位置がずれるため困難であり,穿刺前の位置や角度の決定に留めるのがよいと考えられる.前房側の画像を参照しながら前房穿刺部位や角度を決定することで,より精度の高い挿入が可能になると思われる.外来の前眼部OCTにてEx-PRESS®の挿入位置を確認できる9)ように,術中にもリアルタイムで挿入位置を確認することができた.このことで,術中に微調整や再挿入の判断なども可能になると思われる.術中OCTは,Ex-PRESS®併用濾過手術での穿刺部位の決定における有用なツールとなりうる.また,OCTガイド下ではリアルタイムの画像的フィードバックが得られるため,術者の手術手技向上の一助になるというメリットも期待される.本研究では,症例数が少なく術中OCT非使用症例との術後成績の比較検討を行うことはできなかった.今後症例数を増やして術後のEx-PRESS®の位置異常発生率や術後成績などを検討する予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MarisPJ,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20072)WangW,ZhouM,HuangWetal:Ex-PRESSimplantationversustrabeculectomyinuncontrolledglaucoma:ameta-analysis.PLoSOne8:e63591,20133)EhlersJP,KaiserPK,SrivastavaSK:IntraoperativeopticalcoherencetomographyusingtheRESCAN700:preliminaryresultsfromtheDISCOVERstudy.BrJOphthalmol98:1329-1332,20144)StevenP,LeBlancC,LankenauEetal:OptimisingdeepanteriorlamellarKeratoplasty(DALK)usingintraoperativeonlineopticalcoherencetomography(iOCT).BrJOphthalmol98:900-904,20145)日本アルコン株式会社:アルコンエクスプレス緑内障フィルトレーションデバイス添付文章.2015年8月改訂(第3版)6)TojoN,HayashiA,MiyakoshiA:CornealdecompensationfollowingfilteringsurgerywiththeEx-PRESS®miniglaucomashuntdevice.ClinOphthalmol9:499-502,20157)内富一仁,藤本隆志,井上賢治ほか:エクスプレス®に膜様組織が付着し眼圧上昇した1例.臨眼69:1481-1485,20158)GroverDS,FellmanMA,FellmanRL:Newabinternotechniqueforremovalofiris-embeddedEX-PRESSshuntandchroniceyepaincausedbyshuntmalpositioning.JAMAOphthalmol131:1356-1358,20139)VerbraakFD,deBruinDM,SulakMetal:OpticalcoherencetomographyoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplant.LasersMedSci20:41-44,2005表1対象患者の背景年齢性別術眼病型水晶体再建術症例187男性左眼落屑緑内障既往症例251男性左眼原発開放隅角緑内障施行なし症例350女性右眼原発開放隅角緑内障施行なし症例471男性右眼原発開放隅角緑内障同時手術左眼原発開放隅角緑内障同時手術図1穿刺位置および角度を決定するときの手術顕微鏡写真(A,C)と同時に撮像した術中OCT像(B,D)Vランスにて強膜弁下の穿刺予定部(A⇨)を圧迫しながら,術中OCTでVランスのシャドウとして圧迫部位をリアルタイムに確認することにより(B⇨)穿刺位置を決定.強膜上のVランス(C⇨)を術中OCT像で描出(D⇨)し,虹彩面との角度を調整できる.A,Bは症例4,C,Dは症例3.図2症例2のEx-PRESS®挿入後の手術顕微鏡写真(A)と同時に撮像した術中OCT像(B)Bの上図は角膜輪部に直角な断層像(青線),下図は角膜輪部と水平な断層像(赤線).矢印の位置にEx-PRESS®が描出されている.Ex-PRESS®のシャドウで虹彩の一部が描出されていないため,前後の断層面から虹彩と前房の境界を点線で示した(B上図).角膜には牽引糸のシャドウが描写されている.図3症例4の手術顕微鏡写真(A,C)と同時に撮像した術中OCT像(B,D)A,B:前房に房水を注入し,矢印の位置にレイク形成を確認できた.C,D:結膜縫合後,丈の高い良好な濾過胞形成を確認できた.図4症例1の術後外来における前眼部OCT像(CASIA®)角膜や虹彩との接触なく,先端と上方の流出口が開放していることが確認できた.〔別刷請求先〕松崎光博:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町2-1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科Reprintrequests:MitsuhiroMatsuzaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital.2-1-1Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe650-0047,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(127)10531054あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610551056あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(130)

0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):729〜734,2016©0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用宮本純輔徳田直人三井一央宗正泰成北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室Efficacyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutiononIntraocularPressureReductionandSideEffectJunsukeMiyamoto,NaotoTokuda,KazuhisaMitsui,YasunariMunemasa,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)関連薬使用中の患者に0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)を追加し,眼圧下降効果とその持続性について検討した.PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジン追加後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)に対して,ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持について生存分析により検討した.ブリモニジン追加前眼圧16.0±4.0mmHgが追加後12カ月で14.6±3.2mmHgと有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降率はブリモニジン追加後12カ月で平均8.7%であった.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群46.7%,2剤併用群55.0%,3剤併用群46.7%であった.PG関連薬使用中の症例に対するブリモニジン追加はさらなる眼圧下降効果が得られる.Weexaminedtheeffectof0.1%brimonidinetartrateophthalmicsolution(brimonidine)onintraocularpressure(IOP)reductioninpatientsusingprostaglandin(PG)analogs.ThepersistenceofIOPreductionwasalsoexamined.Thisstudyincluded33glaucomapatients(50eyes,meanage=61.1±17.4years)whowereusingaPGanalogoranotherophthalmicantiglaucomaagent.Allsubjectswerefollowedforatleast12monthsaftertheadditionofbrimonidinetotheirmedicationregimen.Usingsurvivalanalysis,weexaminedIOPchangewithbrimonidineuse,IOPreductionrateandIOPreductionmaintenancefollowingbrimonidineaddition.IOPbeforebrimonidineuse(16.0±4.0mmHg)wassignificantlyhigherthanafterbrimonidineuse(14.6±3.2mmHg).MeanIOPreductionratewas8.7%after12monthsofbrimonidineuse.TheseresultsdemonstratethataddingbrimonidinecanfurtherreduceIOPinglaucomapatientsalreadyusingPGanalogs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):729〜734,2016〕Keywords:緑内障,ブリモニジン,プロスタグランジン関連薬.glaucoma,brimonidine,prostaglandinanalogs.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)はアドレナリンa2受容体作動薬であり,選択的にアドレナリンa2受容体を刺激することで房水産生の抑制とぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進の2つの機序により眼圧下降効果を発揮する抗緑内障点眼薬である1,2).ブリモニジンの眼圧下降効果については交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるマレイン酸チモロール(以下,チモロール)と比較するとやや劣るものの,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬併用下におけるブリモニジンの追加投与は有意な眼圧下降を認めたと報告されている3).ブリモニジン単剤の有効性も示されてはいるものの4),これらの報告を含めて臨床におけるブリモニジンの使用方法を振り返ると,ブリモニジンは作用機序が異なる既存の抗緑内障点眼薬との併用が選択しやすい印象が強い5,6).また,ブリモニジンを点眼した群とチモロールを点眼した群とでは,眼圧下降効果は同程度であったものの,視野異常の進行速度はブリモニジンのほうが緩やかであったという報告もあり7),ブリモニジンは臨床における神経保護効果についても期待されている.これらの報告を参考に,聖マリアンナ医科大学(以下,当院)緑内障外来におけるブリモニジンの使用法は,使用中のPG関連薬が有効であると思われる患者に,さらなる眼圧下降効果を期待してブリモニジンを追加投与することが多くなっている.実際,これにより眼圧下降が得られることは多いが,慢性疾患である緑内障においては,その状態がいつまで持続できるかが大きな問題となる.そこで今回筆者らは,PG関連薬使用中の症例に対して,ブリモニジンの追加投与後の眼圧下降効果とその持続性,また副作用についても検討したので報告する.I対象および方法当院緑内障外来にて6カ月以上PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジンを追加投与し,その後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)を対象とした.対象の緑内障病型は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)27眼,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)14眼,原発閉塞隅角緑内障(primarycloserangleglaucoma:PACG)5眼,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)4眼であった.対象のブリモニジン追加前の抗緑内障点眼薬については,PG関連薬単独が15眼(以下,単独群),PG関連薬とb遮断薬の併用が20眼(以下,2剤併用群),PG関連薬とb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の併用が15眼(以下,3剤併用群)であった.なお,全症例のうち,8例13眼(26.0%)において緑内障配合点眼薬が使用されていた.2剤併用群にはラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカム®配合点眼液)が4例8眼,3剤併用群にはドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(コソプト®配合点眼液)とPG関連薬の組み合わせが4例5眼存在した.ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移については,まず全症例で検討し,その後併用薬数別にも検討した.ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持については,併用薬数別にKaplan-Meier生存分析法を用いて検討した.死亡の定義は,ブリモニジン追加後,ブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続記録された時点,副作用などの理由でブリモニジンを中止した時点,緑内障手術を施行した時点とし,Logrank-testにより検定を行った.また,ブリモニジン追加後の副作用の出現頻度,種類についても検討した.II結果図1にブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は平均16.0±4.0mmHgであり,ブリモニジン追加後1カ月より,ブリモニジン追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点においてブリモニジン追加前よりも有意な眼圧下降を示した.図2にブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3に併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は,単剤群15.2±2.4mmHg,2剤併用群16.1±5.1mmHg,3剤併用群16.7±3.5mmHgであり,3群間に有意差を認めなかった(Dunn’stest).単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後3カ月以降は有意差を認めず推移した.3剤併用群については,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後8カ月以降は有意差を認めず推移した.図4に併用薬数別のブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であったが,それ以降は10%未満で推移した.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移し,それ以降10%未満となった.図5に併用薬数別にブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性を示す.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%と3群間に有意差を認めなかった(Logranktestp=0.828).なお,各群の死亡理由については,単剤群では,ブリモニジン追加後にブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続で記録された症例(以下,ブリモニジン効果不十分症例)が4例6眼,眼瞼炎が1例2眼,2剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が3例4眼,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)施行症例が1例1眼,観血的緑内障手術となった症例が1例2眼,眼瞼炎が1例2眼,3剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が1例2眼,SLTが1例2眼,観血的緑内障手術が1例2眼,肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした症例が1例1例,幻覚が1例1眼であった.図6にブリモニジン追加後の副作用とその出現頻度について示す.経過観察期間中にブリモニジン追加投与後,50眼中13眼(26.0%)に副作用が認められた.副作用の詳細は,眼瞼炎が3例6眼(46.1%),結膜蒼白が3例5眼(38.5%),幻視が1例1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1例1眼(7.7%)であった.眼瞼炎が認められた2例4眼は自覚症状が強かったためブリモニジンを中止した.結膜蒼白については患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.幻視が認められた1例と肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした1例については,ともにブリモニジン中止後,改善傾向を認めた.III考察ブリモニジンがわが国で使用可能となったのは2012年と比較的まだ日が浅いため,緑内障診療ガイドライン8)にはその使用法については明示されていないが,過去の報告3~6)を参考にすると,ブリモニジンはPG製剤を第1選択薬とした場合の第2選択薬以降の併用薬として使用されていることが多いと考える.そこで今回,ブリモニジンを第2選択薬または第3選択薬,第4選択薬とした場合の効果とその持続性について検討した.今回,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果は全症例でみた場合,追加後7カ月,8カ月の時点を除く12カ月まで有意な眼圧下降を示しており,ブリモニジン追加の有効性が示された.しかし,眼圧下降率でみるとおおむね10%以下で推移していた.ブリモニジン追加投与後の眼圧下降率については短期投与ではLeeら9)は17.9%,長期投与では新家ら4)は15.0%と報告している.今回の結果が既報と比べて低かった理由として,まずはブリモニジン追加投与前の眼圧が既報と比べ低値であったことが考えられる.対象のなかにNTGが14眼(28.0%)含まれており,それらの平均眼圧は13.6±2.2mmHgと他の病型群(POAG群:16.7±4.0mmHg,PACG群:17.1±5.4mmHg,SG群17.5±5.3mmHg)に比較して有意差は認めないものの低値であった(Kruskal-Wallistestp=0.058).また,ブリモニジン追加後の眼圧,および眼圧下降率に注目すると,どちらも標準偏差が比較的大きく,今回の検討についてはブリモニジンの効果が症例ごとに異なるという印象を受けた.これについても,対象の緑内障病型が多岐にわたっていたことが影響している可能性があり,今後ブリモニジンの追加効果について緑内障病型別に検討することも必要かと考える.つぎに,併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移をみると,単剤群,2剤併用群よりも3剤併用群でより長期間有意な眼圧下降を示した.眼圧下降率でみても,3剤併用群のみブリモニジン追加後7カ月まで10%以上の眼圧下降が維持されていた.多剤併用時のブリモニジン追加投与についてはさまざまな報告があるが,わが国で使用されているブリモニジンに限ると,森山ら10)の報告があり,その有効性が指摘されている.今回の筆者らの結果も多剤併用時のブリモニジン追加投与の有効性が認められたが,この結果については3剤併用群が単剤群,2剤併用群と比較し有意差を認めないものの,ブリモニジン追加前眼圧が高かったことが影響している可能性も考えられる.しかし,3剤併用時に4剤目としてブリモニジンを追加することが有効であったことは,緑内障手術が積極的に行うことができない場合などにはブリモニジン追加が選択肢の一つとなる可能性を示唆していると考える.ブリモニジン追加後の持続性については,3群ともに約半数の症例がブリモニジン追加後12カ月間眼圧下降を維持できたことを示している.単剤群,2剤併用群に関しては,目標眼圧がクリアできない場合に抗緑内障点眼薬の変更,または追加がしやすいが,3剤併用群でブリモニジン追加後しばらくしてから眼圧コントロールが悪くなるような症例は,その後多くが緑内障手術を施行されていた.しかし,この結果は約半数の症例においてブリモニジン追加により緑内障手術が回避できたという解釈も可能であり,今後緑内障手術が必要な症例に対して追加してみる価値があるのではないかと考える.ブリモニジンの副作用としては結膜炎,眼瞼炎,点状表層角膜炎,充血,結膜蒼白,虹彩炎,眩暈,血圧低下,徐脈などがあるが,頻度としてはアレルギー性結膜炎が多いとされている4~6).今回の対象において副作用が発現した13眼中,アレルギー性と思われる眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白5眼(38.5%)と比較的多く認められた.眼瞼炎が認められた症例のうち,自覚症状が強くブリモニジンが中止となった症例が2例4眼存在した.結膜蒼白については,患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.ブリモニジン追加後に幻視を自覚した1例については,ブリモニジンと同じくアドレナリンa2受容体作動薬であるクロニジンは,血液脳関門を通過しやすいため中枢神経症状を生じやすいことが報告されている11).ブリモニジンについては血液脳関門を通りづらいとされているが,今回生じた幻視とブリモニジンとは何らかの関係があるかもしれないため,今後さらなる検討を要する.ブリモニジン追加3日後に肉芽腫性ぶどう膜を発症し眼圧上昇が認められた症例が1例あり,一時的に視力低下をきたしたため即座にブリモニジンを中止としリン酸ベタメタゾン点眼を使用した.その後,肉芽腫性ぶどう膜炎は速やかに消退し,眼圧もブリモニジン追加前の値に戻った.本症例はもともと基礎疾患として糖尿病があり,無硝子体眼であり,肉芽腫性ぶどう膜炎を発症しやすい状態であったかもしれないが,ブリモニジン追加後3日目に肉芽腫性ぶどう膜炎が生じたことや,ブリモニジン中止後肉芽腫性ぶどう膜炎が速やかに改善したこと,加えて過去にも同様の報告12)があることなどを考えると,今回の肉芽腫性ぶどう膜炎の発症にブリモニジンは何らかの関与をしているのではないかと思われる.今後ぶどう膜炎既往のある患者に対するブリモニジン追加投与は注意が必要であると考える.以上,ブリモニジンの追加後の眼圧下降効果とその持続性について検討した.今回の検討において,ブリモニジン追加による眼圧下降効果は認められ,とくに3剤併用群においても眼圧下降効果が認められる症例が存在することが示された.また,その効果は約半数の症例でブリモニジン追加後12カ月間持続した.これらの結果からブリモニジン追加投与の有効性は示されたが,症例によってはブリモニジン特有の副作用が生じることもあるため,それを理解したうえでブリモニジン追加投与は行うべきであると考える.また,今回の対象においては,症例ごとにブリモニジン追加による効果に差があったように思われ,今後は緑内障病型,ブリモニジン追加前の眼圧値などにも配慮して検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:Effectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinhumaneyes.ArchOphthalmol113:1514-1517,19952)BurkeJ1,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimonidine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19963)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20146)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:199-203,20157)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelowpressureglaucomatreatmentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20118)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20129)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:臨床報告多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,201411)MarquardtR,PillunatLE,StodtmeisterR:Ocularhemodynamicsfollowinglocaladministrationofclonidine.KlinMonblAugenheilkd193:637-641,198812)BylesDB,FrithP,SalmonJF:Anterioruveitisasasideeffectoftopicalbrimonidine.AmJOphthalmol130:287-291,2000〔別刷請求先〕宮本純輔:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunsukeMiyamoto,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-kuKawasaki-shi216-8511,JAPAN図1ブリモニジン追加前後の眼圧推移眼圧はブリモニジン追加後1カ月より,追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点において,ブリモニジン追加前よりも有意な下降を示した.図2ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3ブリモニジン追加前後の眼圧推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.3剤併用群は,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.図4ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であった.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移した.図5ブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性(併用薬数別)ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%であった.図6ブリモニジン追加後の副作用ブリモニジン追加投与後の副作用は,眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白が5眼(38.5%),幻視1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1眼(7.7%)に認められた.0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(105)729730あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(106)(107)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016731732あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(108)(109)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016733734あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(110)

点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1197.1200,2015c点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討森千浩*1,2池田陽子*1,2森和彦*1中野恵美*2津崎さつき*2上野盛夫*1丸山悠子*1吉川晴菜*1今井浩二郎*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2御池眼科池田クリニックEvaluationoftheOne-Day-AmountChangeofEyeDropswithorwithouttheAssistanceoftheXal-EaseROcularHypotensiveDeliveryDeviceinGlaucomaPatientsYukihiroMori1),YokoIkeda1,2),KazuhikoMori1),YoshimiNakano2),SatsukiTsuzaki2),MorioUeno1)Maruyama1),HarunaYoshikawa1),KojiroImai1)andShigeruKinoshita1),Yuko1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)Oike-IkedaEyeClinic目的:緑内障患者が点眼補助具Xall-Ease(ザライーズ)を使用することで,点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討する.対象および方法:対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXall-Ease使用を希望した62例(男女比10:52,平均年齢70.6±10.8歳).対象患者をランダムにXall-Ease先行群と後行群に分類した.1カ月ごとにXall-Ease使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXall-Ease使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.また先行,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月の眼圧をアプラネーションで測定し,Xall-Ease使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択し,統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.結果:Xal-Easeの使用により1日当たりの平均点眼使用量が減少するわけではなく,眼圧にも影響はみられなかった.Inthisstudy,weevaluatedthe1-day-amount(1DA)changeofeyedropswithorwithouttheassistanceoftheXal-EaseR(XE)(Pfizer,NewYork,NY)eye-dropdeliverydeviceinglaucomapatients.Thisstudyinvolved62glaucomapatientswhousedlatanoprostoritsfixedcombinationeyedrops,andwhofeltthattheireye-dropadministrationproceduresweredifficultandagreedtousetheXEdevice.Thepatientswererandomlydividedintooneofthefollowingtwogroups:Group1:XEusedforthefirstmonthandnotusedforthesecondmonth,andGroup2:XEusagethereverseofGroup1.Eye-dropbottleweightsweremeasuredattheendofeachmonth.The1DAfromthechangeofbottleweightwasthencalculated.Afterexcludingdrop-outpatients,18patientsofGroup1and22patientsofGroup2(42patients)werefurtheranalyzedandthe1DAinbothgroupswerecompared.Thefindingsofthisstudyshowedsignificantdifferenceinthe1DAofEDwithorwithoutXE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1197.1200,2015〕Keywords:緑内障,ザライーズ,ラタノプロスト,点眼液.glaucoma,Xal-Ease,latanoprost,eyedrops.はじめにとして,薬物療法(点眼)が広く用いられている.しかし,緑内障において視野障害進行予防のため唯一エビデンスの緑内障点眼治療は長期に及び,また点眼が適正に行えなけれある治療法は眼圧下降療法1,2)であり,その主たる治療手段ば期待される眼圧下降効果が得られないばかりか,不要な副〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,KawaramachiHirokoji,Kamigyoku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(131)1197 図1Xal.EaseR本体作用3,4)を招く恐れがある.また,本来必要とされる滴下数以上に点眼薬を用いれば経済的な負担も問題となる.点眼薬を適正に眼の中に入れることは健常者であってもそれほど容易ではない.視機能が悪い場合,あるいは高齢者であったり,疾患により手の動きが不自由であったりした場合はなおさら困難5.7)になる.にもかかわらずその点眼困難な患者の存在割合,ならびに点眼補助具の有用性についての検討は十分なされていない.そこで筆者らが着目したのがXal-Ease(ザライーズ,図1)である.Xal-EaseRはラタノプロスト点眼薬の点眼補助具として開発され8,9),希望者および適応者に非売品として企業より無償で提供されている.今回はこのXal-EaseRを緑内障患者が使用することで点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討した.I対象および方法対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXal-EaseR使用を希望した患者全62例である.男女比は10:52,平均年齢は70.6±10.8歳であった.今回の研究を実施する前段階として,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用している患者に,日々の点眼で困難を感じているかどうかアンケートにて回答してもらった.このうち困難と感じている患者,または困難と感じていないがXal-EaseRを使用してみてもよいと回答した患者に本研究の趣旨を説明し,書面による承諾を得た患者について,今回の研究を行った.対象患者をランダムにXal-EaseR先行群と後行群に分類し,またXal-EaseRの使用法は実際にそれを用いて説明した.1カ月1198あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ごとにXal-EaseR使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXal-EaseR使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.先行群,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月においての眼圧をアプラネーションで測定し,使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択した.両眼使用の場合は点眼使用量を二分して片眼の使用量として解析した.統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.II結果点眼困難に関するアンケートを行った98例(図2)では,困難と感じている患者は全体の29%で,点眼を困難と感じる割合は50歳代以下でも50歳代以上でもおよそ28%と同等であった.ドロップアウト症例を除いた解析対象は40例40眼(男女比8:32,平均年齢70.6±10.4歳),先行群18例18眼,後行群22例22眼であった(表1).先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)ともに有意差はなかった.次に各群の1日点眼使用量を検討したが,先行群(Xal-EaseRあり36.7±11.1,なし46.9±32.5μl),後行群(Xal-EaseRなし33.1±13.1,あり48.9±35.0μl)もXal-EaseR使用前後で有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図3).また,Xal-EaseR使用により1日の点眼量が15μL以上増えた症例8例(男女比2:6,平均年齢74.4±9.1歳)は,Xal-EaseR使用の有無で差がない症例31例(男女比6:25,平均年齢68.0±10.7歳)と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05,表2).先行群でのXal-EaseR使用前,使用あり,使用なしでの眼圧は,12.5±2.5,11.8±2.6,11.8±2.3mmHgで,後行群でのXal-EaseR使用前,使用なし,使用ありでの眼圧は10.5±2.9,10.2±2.1,10.3±2.5mmHgであった.先行群も後行群もXal-EaseR使用前後で眼圧経過に有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図4).研究終了後,Xal-EaseRの使用感についてアンケートを行ったが,Xal-EaseRを使用してみて良かった,今後も使用したいと答えた患者は全体の11例(27%)であった.使用しないほうが良いと答えた患者は全体の22例(55%)であった.また,変わらなかったと答えた患者は6例(15%)であった(図5).III考按今回の研究において50歳代未満と60歳以上に分けた場合,点眼困難を感じる割合は同等の28%であったことから,年齢に関係なく困難と感じる割合が一定に存在することが明(132) %10010028例29%70例71%8060■点眼困難と感じている40■点眼困難と感じていない20020~50歳代60~80歳代A:点眼困難者の割合B:年代別点眼困難者の割合図2点眼困難者の割合若い世代と高齢の世代で点眼困難を感じる割合は28%と同等であった.200.0180.0μlXal-Ease使用先行群μlXal-Ease使用後行群160.0100100140.040.0202020.00.0000.050.0100.0150.0200.0XE使用ありXE使用なしXE使用なしXE使用ありXE使用なしA:Xal-Ease使用者の1日点眼使用量B:各群の1日使用量図3Xal.Ease使用先行群と後行群の1日使用量先行群および後行群においてXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差を認めなかった(Wilcoxon符号検定).表1解析対象症例の背景表2Xal.Ease使用によって1日点眼量が増減した症例80XE使用有120.0100.080.060.06040n男女比平均年齢(歳)点眼使用歴(月)先行群186/1267.7±11.56.3±6.6後行群222/2073.0±9.13.6±7.9先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)に有意差は認めなかった.らかになった.ラタノプロストをはじめとするプロスタグラn年齢(歳)男女比XE使用の有無で差なし(1日±15μl以内)3168.0±10.76:25XE使用で1日使用量増加(1日15μl以上)874.4±9.12:6XE使用で1日使用量減少(1日15μl以上)1620:1ンジン系の緑内障点眼薬は,点眼液により眼瞼周辺の色素沈着を発現することが報告10)されている.点眼容器から滴下される1滴量は,結膜.に保持可能な容量である30μl程度11)だが,今回の1日の点眼使用量は平均33.1.48.9μlであり,患者は1回1滴で点眼を行えていない可能性が示唆された.Xal-EaseRを使用することにより1日の使用量が15μl以上増えた症例は,使用量の変化がない症例(±15μl以内)と比較して有意に高齢であった.Xal-EaseRを用いても,設定どおり1滴だけ滴下することが高齢者ではむずかしい可能性が示唆された.Xal-Ease使用により1日の点眼量が15μl以上増えた症例はXal-Ease使用の有無で差がない症例と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05)今回の結果から,点眼補助具は必ずしも1日の点眼量を節約できるものではなく,眼圧にも影響を与えるものではないことが判明した.筆者らの研究ではXal-EaseR使用対象を点眼困難者のみに限っておらず,そのために使用しないほうが良いと回答した割合が高くなったと考えられる.しかしながら,それでも3割近くの患者が点眼補助具を使用して良かったと感じており,引き続いての使用を希望した.これらの(133)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151199 Xal-Ease使用先行群Xal-Ease使用後行群1616141410.610.310.91212眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12.211.811.8220XE使用前XE使用ありXE使用なしXE使用前XE使用ありXE使用なし0図4Xal.Ease使用先行群と後行群のXal.Ease使用有/無による眼圧変動経過先行群も後行群もXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定).1例3%6例15%利益相反:利益相反公表基準に該当なし101088664411例27%22例55%■良かった文献■悪かった■変わらない1)HeijlA,LeskeMC,BengtssonB,etal:Reductionof■無回答図5Xal.Easeの使用感アンケートXal-Easeを使用して良かった症例は使用しないほうが良かった症例より多かった.患者においてはXal-EaseRが日々の点眼の助けとなり,点眼アドヒアランスを高める一助になっていると考えられた.今回結果としては提出していないが,今後Xal-EaseRを使用したいと答えた患者と,使用しないほうがいい,あるいは使用してもしなくても同じであったと答えた患者を二群に分けて,Xal-EaseRを使用した場合と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧を検定したが,どの項目も2群間で有意差を認めなかった(Mann-WhitneyU検定).また,今後XalEaseRを使用したいと答えた患者のうち,そして使用しないほうがいいと答えたか使用してもしなくても同じであったという患者のなかでそれぞれXal-EaseRを使用した日と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧の検定を行ったが,すべて有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定,対応のあるt検定).Xal-EaseRを使用したほうが良いと答えた患者の1日の点眼使用量が減少したり,平均眼圧が低いという傾向は認めなかった.現在はこのXal-EaseR以外に他の企業からも点眼補助具が供与または販売されている.患者から点眼困難の要望や訴えがあった場合はXal-EaseRを含め,情報提供できることが望ましい.intraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20022)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)JohnstoneMA:Hypertrichosisandincreasedpigmentationofeyelashesandadjacenthairintheregionoftheipsilateraleyelidsofpatientstreatedwithunilateraltopicallatanoprost.AmJOphthalmol124:544-547,19974)SchloteT:Side-effectsandriskprofileoflatanoprost0.005%(Xalatan).Ophthalmologe99:724-729,20025)大味和恵,黒田正子,竹内美陽ほか:老年性白内障患者の点眼指導後の自立に影響を及ぼす要因.日本看護学会論文集成人看護II33:159-161,20036)宮田美智子,稲田初穂,川口美香ほか:老人の自己点眼の優劣に関する因子の検討.日本看護学会集録老人看護26:40-43,19957)相良有美,福永智美,有賀真紀子:自己点眼の技術習得に関する患者の因子.日本看護学会集録看護総合23:201204,19928)NordmannJP,BaudouinC,BronAetal:Xal-Ease:impactofanocularhypotensivedeliverydeviceoneaseofeyedropadministration,patientcompliance,andsatisfaction.EurJOphthalmol19:949-956,20099)SemesL,ShaikhAS:EvaluationoftheXal-Easelatanoprostdeliverysystem.Optometry78:30-33,200710)GriersonI,JonssonM,CracknellK:Latanoprostandpigmentation.JpnJOphthalmol48:602-612,200411)大橋祐一:点眼薬の眼組織内移行およびドラッグデリバリーシステム.点眼薬―常識と非常識―,眼科NewInsight第2巻,p27-28,メジカルビュー社,19961200あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(134)

健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1191.1195,2015c健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験木村聡木村亘木村眼科内科病院EfficacyandImpressionofBrinzolamide1%/Timolol0.5%FixedCombinationVersusDorzolamide1%/Timolol0.5%inHealthyVolunteers:ARandomized,Double-BlindComparativeStudySatoshiKimuraandWataruKimuraKimuraEye&Int.Med.Hospital目的:ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)の眼圧下降効果および点眼使用感をドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)と比較検討する.対象および方法:健常人45例45眼を対象とした前向き無作為化二重盲検クロスオーバー比較試験.対象を2群に分け,眼圧測定後にアゾルガR点眼液またはコソプトR点眼液を片眼に二重盲検にて点眼し1時間後に眼圧測定,24時間以上間隔を空けて逆の点眼液を点眼した.試験終了後に使用感に関してのアンケート調査を行った.結果:眼圧下降量に関しては両群間に有意差は認められなかった.使用感に関してはアゾルガR点眼のほうが有意にかすみ感と苦味が強く,コソプトR点眼のほうが有意に刺激感が強かった.結論:アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の眼圧下降効果に差は認められなかった.アゾルガR点眼液は「かすみ感」「苦味」が強かった.コソプトR点眼液は「刺激感」が強かった.Background:Thepurposeofthisstudywastocomparetheintraocularpressure(IOP)loweringefficacyandoculardiscomfortof2fixedcombinationeyedrops,brinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Brinz/Tim)anddorzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Dorz/Tim).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolvedhealthyvolunteersubjectswhowererandomlydividedinto2groups.EachgroupinstilledBrinz/TimorDorz/Timinadouble-blindmanneraftertheirIOPwasmeasured,and1-hourlatertheirIOPwasmeasuredagain.Onanotherday,wemeasuredeachsubject’sIOPusingthefirst-dayprotocol,yetwiththesolutioninstillationineachgroupbeingreversed.Finally,eachsubjectwasaskedtocompleteaquestionnairesurveytoconfirmwhetherornottheyhadexperiencedanyspecificsideeffects,andanumericalcomparisonbetweenthetwotypesofinstillationswasthenmade.Results/Conclusion:NosignificantdifferenceintheamountofIOP-loweringeffectwasfoundbetweenBrinz/TimandDorz/Tim.Asforthesideeffects,Brin/Timwasfoundtocausemore“blurredvision”and“bittertaste”,whileDorz/Timwasfoundtocauseincreased“eyeirritation”.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1191.1195,2015〕Keywords:緑内障,ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,点眼使用感,アンケート調査.glaucoma,brinzolamide/timololophthalmicsolution,dorzolamide/timololophthalmicsolution,oculardiscomfort,questionarysurvey.〔別刷請求先〕木村聡:〒737-0046広島県呉市中通2丁目3-28木村眼科内科病院Reprintrequests:SatoshiKimura,KimuraEye&Int.Med.Hospital,2-3-38Nakadori,Kure-shi,Hiroshima737-0046,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1191 はじめに緑内障はガイドラインによると「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている1).近年緑内障に対する治療法として神経保護・眼血流改善・遺伝子治療など新たなアプローチが着目されているが,現在確実な治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法として薬物治療が広く行われており,近年いくつかの緑内障配合点眼薬が開発された.配合薬点眼の利点として,①金銭的負担の軽減化・点眼液の容器の取り違え機会の減少といった患者負担の軽減化,②保存材として汎用されているベンザルコニウム塩化物の曝露量を減らすことによる眼表面障害リスクの軽減化,③点眼薬併用に伴う洗い流し效果の回避,④1日の点眼回数減少に伴う点眼コンプライアンスの向上,などがあげられ,配合点眼液は臨床的有用性が高いと考えられる.今回筆者らは健常人に対してb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合点眼薬である1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降量および点眼表1選択基準および除外基準1)選択基準①20歳以上の男性および女性②細隙灯顕微鏡検査にて前眼部疾患を認めない③眼底検査にて視神経乳頭陥凹拡大を認めない④過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない⑤眼圧測定時に眼圧が21mmHg以下2)除外基準①眼科現病歴および手術歴がある②気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患・心疾患などの全身疾患を有する③試験責任医師が本試験の対象として不適当と判断した者④眼圧測定時に眼圧が22mmHg以上使用感に関して無作為化二重盲検平行群間比較試験を実施したのでその結果を報告する.I対象および方法1.対象対象は表1に示された選択基準を満たす健康ボランティア45名〔男性11名,女性34名,平均年齢36.1±11.2歳(平均偏差±標準偏差)〕である.なお,本研究は当院臨床倫理員会で承認された同意説明文を対象者に渡し,文章および口頭による十分な説明を行い,書面による同意を得て行われた.2.試験方法試験デザインの概略を図1に示す.本試験は無作為割付による実薬を対象とした二重盲検平行群間試験で,試験期間は2日間を設定.1日目に両眼の眼圧測定後,二重盲検下でアゾルガR点眼液もしくはコソプトR点眼液を同一の検査員が片眼に点眼(点眼時に涙.の圧迫は行わず),1時間後に眼圧を測定し終了.24時間以上間隔を空けた後に同様に眼圧を測定し1日目に使用していない点眼液を1日目と同じ眼に対して点眼.1時間後に眼圧測定および点眼使用感に関するアンケート調査を行った.対象眼は点眼開始前の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.眼圧測定に関してはノンコンタクトトノメーター(NT530,NIDEK社,日本)を使用し両眼の眼圧を3回測定,平均値を眼圧値と設定した.3.評価方法点眼による眼圧下降の評価として,各点眼1時間後の眼圧変化量および1日目,2日目各点眼前のベースライン眼圧の比較を行った.点眼使用感に関する評価として,2日目眼圧測定終了後に刺激感・かすみ感・充血・苦味・良い印象の5項目を1日目の点眼と2日目の点眼を比較して図2に示す選択式アンケー片眼にコソプトR点眼液(orアゾルガR点眼液)点眼1時間後眼圧測定眼圧測定1日目と同一眼にアゾルガR点眼液(orコソプトR点眼液)点眼1時間後眼圧測定アンケート回答2日目眼圧測定1日目図1試験デザイン1192あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(126) 点眼の使用感に関してのアンケート調査①刺激感(最初のほうがかなり強い最初のほうが少し強い同程度後のほうが少し強い後のほうがかなり強い)②かすみ感(最初のほうがかなり霞む最初のほうが少し霞む同程度後のほうが少し霞む後のほうがかなり霞む)③充血(最初のほうがかなり赤い最初のほうが少し赤い同程度後のほうが少し赤い後のほうがかなり赤い)④苦味(最初のほうがかなり苦い最初のほうが少し苦い同程度後のほうが少し苦い後のほうがかなり苦い)⑤印象(最初のほうがかなり良い最初のほうが少し良い同程度後のほうが少し良い後のほうがかなり良い)図2点眼使用感調査(検査終了時に実施)トで回答してもらった.4.統計解析アゾルガR点眼液群とコソプトR点眼液群での眼圧下降量比較を対応のあるt検定で検討した.点眼使用感に関しては「同程度」の場合加算なし,1日目の点眼液が2日目の点眼液に比べて「少し強い」場合は1日目使用点眼液に対して1ポイントの加算,「少し弱い」場合は2日目の点眼液に対して1ポイントの加算を,同様に大変強い(弱い)場合は2ポイントの増減と設定して項目ごとに集計しMann-WhitneyU検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.II結果1.眼圧下降効果アゾルガR点眼群,コソプトR点眼群それぞれのベースラインからの眼圧変化量を図3に示す.アゾルガR点眼液による眼圧変化量(平均±標準偏差)は1.84±1.30mmHgであり,コソプトR点眼液による眼圧変化量は1.82±1.81mmHgで有意差を認めなかった(p=0.94pairedt-test).また,1日目の点眼前眼圧ベースラインはアゾルガR点眼群(n=22)が13.2±2.4mmHg,コソプトR点眼群(n=23)が14.2±2.8mmHgであり,2日目点眼開始前のベースライン眼圧はアゾルガR点眼群(n=23)が11.7±13.1mmHg,コソプトR点眼群(n=22)が12.8±2.6mmHgで1日目,2日目ともに眼圧ベースラインに有意差を認めなかった(p=0.30,0.12Mann-WhitneyU検定).2.アンケート調査(刺激感・かすみ感・充血・苦味・総合的な印象)各項目の人数分布を図4に示す.アゾルガR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人中11人(「少し」9人,「大変」2人),コソプトR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人2.001.95NS(p=0.94pairedt-test)1.901.841.851.821.801.751.70アゾルガRコソプトR図3ベースラインからの点眼毎の眼圧下降量(n=45前向き二重盲検比較試験)25454912581642427281416484614150%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%刺激かすみ感充血苦味印象■アゾルガが大変強い(良い)■アゾルガが少し強い(良い)差がない■コソプトが少し強い(良い)■コソプトが大変強い(良い)図4項目毎人数分布(n=45)中30人(「少し」16人,「大変」14人)であった.アゾルガR点眼のほうがかすみ感を感じたのが45人中17人(少し12人,大変5人),コソプトR点眼のほうがかすみ感を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうが充血を感じたのが45人中9人(少し5人,大変4人),コソプトR点眼のほうが充血を感じた(127)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151193 1.2p<0.01■アゾルガ1.0刺激かすみ充血苦味印象■アゾルガ0.290.490.220.400.53■コソプト0.980.090.290.090.360.00.20.40.60.8■コソプトp<0.001NSNSp<0.05図5項目毎平均スコア(n=45)のは9人(「少し」8人,「大変」1人)であった.アゾルガR点眼のほうが苦味を感じたのが45人中13人(少し8人,大変5人),コソプトR点眼のほうが苦味を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうに良い印象を感じたのが45人中20人(少し16人,大変4人),コソプトR点眼のほうに良い印象を感じたのは11人(「少し」6人,「大変」5人)であった.「少し」を1点,「大変」を2点と設定した場合の各項目スコア分布を図5に示す.刺激感のスコア(平均±標準偏差)はアゾルガR点眼液が0.29±0.55点,コソプトR点眼が0.98±0.81点で,コソプトR点眼液はアゾルガR点眼液よりも有意に高かった(p<0.01).かすみ感のスコアはアゾルガR点眼液が0.49±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p<0.001).充血のスコアはアゾルガR点眼液が0.22±0.47点,コソプトR点眼液が0.29±0.62点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.87).苦味のスコアはアゾルガR点眼液が0.4±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p=0.01).良い印象のスコアはアゾルガR点眼液が0.53±0.66点,コソプトR点眼液は0.36±0.68点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.09).III考察今回,日本人の健常者を対象としてブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)とドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降効果と点眼使用感を比較した.現在発売されているb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合薬点眼はアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の2種類である.ただしコソプトR点眼液に関しては,日本で使用されている点眼液と海外で使用されている点眼液では含有されて1194あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015いるドルゾラミド点眼液の濃度が異なっており,日本では1%なのに対して海外では2%となっている.この2%ドルゾラミドを含んだコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関しては海外での報告がある.眼圧下降効果に関しては海外の文献でもアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液との間に有意差は認められていない1.3).本研究でも有意差は認められなかった.点眼使用感に関して眼の不快感の平均スコア比較をVoldは平行群間試験で,Mundortは交叉試験でそれぞれ行いともに有意差を認めた4,5).GrahamはコソプトR点眼液からアゾルガR点眼液への切り替えを行い点眼ごとに刺激感・かすみ感・充血・苦味の各項目を検討した結果,刺激感はコソプトR点眼液のほうが有意に強く,かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に強かったと報告している6).これらの報告のスコアの基準や含有ドルゾラミドの濃度が異なるため本研究と海外の報告を単純に比較することはできないが,「コソプトR点眼液のほうが刺激感が強い」「アゾルガR点眼液のほうがかすみ感が強い」傾向はあると思われる.点眼による刺激感に関して,本研究ではコソプトR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.添付文書によるとコソプトR点眼液のpHは5.5.5.8であるのに対してアゾルガR点眼液のpHは6.7.7.7となっている.以上より,点眼による刺激感には点眼液のpHの差が関係していると考えられる.本研究の結果もpHが中性に近いアゾルガR点眼液のほうがより刺激が少なく感じられた結果と考えられる.点眼後の霧視・かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.アゾルガR点眼液中に含有されている1%ブリンゾラミドは白色の懸濁液であり,コソプトR点眼液中に含有されている1%ドルゾラミドは無色の水溶液である.このため点眼液の性状の差により霧視・かすみ感を感じたと考えられる.ドルゾラミドも無色水溶液であるが粘稠であるため霧視感が出現し,コソプトR点眼液の副作用として霧視・かすみ感の報告されることや,ブリンゾラミド点眼液とドルゾラミド点眼液のそれぞれでの霧視感の有無を検討した結果,統計学的に有意差がない報告も出ている.しかし,本研究でアゾルガR点眼が有意に高いスコアが示したのは,アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液のかすみ感を直接比較したためと考えられる.点眼時の苦味に関してはアゾルガR点眼のほうが有意に高いスコアを示した.添付文章によると,国内第II相試験においてブリンゾラミドの眼局所以外の副作用として味覚異常(苦味・味覚倒錯など)が7.9%に認められている.ドルゾラミドでも副作用として苦味の報告はあるが,その頻度は0.1%未満となっている.そのためブリンゾラミドを含有しているアゾルガR点眼液がドルゾラミドを含有しているコソプトR点眼液よりも苦味を感じる可能性は高いと考えられる.(128) 本研究では対象中に正常眼圧緑内障が入っている可能性はあるが,正常人と無加療の正常眼圧緑内障眼とでは点眼使用感に差はほとんどないと思われる.次に眼圧下降効果に関しては通常眼圧下降の評価は点眼2時間後から行っているが,本研究では点眼1時間後の測定値を使用している.そのために眼圧下降効果に関しては誤差が生じている可能性も考えられる.次に点眼使用感としての苦味に関しては点眼液が鼻涙管を通じて口腔内に入るためと考えられる.本研究では涙.圧迫は行わなかったが,行った場合は有意差はつかない可能性も考えられる.最後に臨床的にはコソプトR点眼液,アゾルガR点眼液はともに2剤目,3剤目として使用されることが一般的である.つまり臨床的には緑内障点眼薬を1剤以上使用している状況下でコソプトR点眼液あるいはアゾルガR点眼液を開始することになるが,本研究では対象を「過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない」と規定しており,臨床的な使用状況とは異なる状態での点眼使用感を確認したこととなる.このため本研究での結果と臨床的な評価は異なる可能性はある.しかし,純粋なコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液のみの評価も個々人に合わせた緑内障点眼治療を行う際に必要と考える.今回,健常人においてコソプトR点眼液はアゾルガR点眼より刺激性が強く,アゾルガR点眼液はコソプトR点眼液よりもかすみ感・苦味が強い,という結果となった.コソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の選択を行う際にこれらの要素が点眼コンプライアンスに与える影響も考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)AlezzandriniA,HubatschD,AlfaroRetal:Efficacyandtolerabilityoffixed-combinationbrinzolamide/timololinlatinamericanpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionpreviouslyonbrimonidine/timololfixedcombination.AdvTher31:975-985,20143)SezginAkcayB.,GuneyE,BozukurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20134)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,20085)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol2:623-628,20086)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151195

ドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):883.888,2015cドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果永山幹夫*1永山順子*1本池庸一*1馬場哲也*2*1永山眼科クリニック*2白井病院EffectsofSwitchingofBrinzolamide/TimololFixedCombinationsversusDorzolamide/TimololFixedCombinationsMikioNagayama1),JunkoNagayama1),YoichiMotoike1)andTetsuyaBaba2)1)NagayamaEyeClinic,2)ShiraiEyeHospital目的:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,コソプト)をブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,アゾルガ)に変更した際の眼圧変化と患者評価について検討する.対象および方法:コソプト点眼を2カ月以上継続している緑内障および高眼圧症患者48例48眼を対象とした.アゾルガに切り替え2カ月後,再度コソプトに切り替え2カ月経過をみた.切り替え後2週間の時点で患者アンケートを行い,点眼による刺激感,異物感,充血の自覚スコア,およびどちらがより好ましいかとその理由を調査した.結果:眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgで,すべての時点で差はなかった.自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(p<0.01).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点(アゾルガ切り替え2カ月後)ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%で,おもに霧視・粘稠感がない点,点眼操作がしやすい点から「コソプトがよい」とするものが有意に増加した(p<0.01).結論:アゾルガとコソプトの眼圧下降効果は同等であった.コソプトはアゾルガより刺激感が強く,アゾルガの使用感に対する不満は点眼期間が長くなると強くなった.Purpose:Toexaminethechangesinintraocularpressure(IOP)andpatientself-assessmentaftertheswitchfromdorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)tobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved48eyesof48patientswithglaucomatouseyesandocularhypertensionwhocontinuouslyunderwentDTFCtreatmentfor2monthsormore.TheirtreatmentwasthenswitchedfromDTFCtoBTFC.AfterBTFCwasinstilledfor2months,itwasswitchedagaintoDTFC,andthepatientswerethenfollowedupfor2months.Twoweeksaftereachswitch,thepatientswereaskedtocompleteaquestionnairetoobtainsubjectivescoresforirritation,foreignbodysensation,andhyperemiapostinstillation,aswellastoanswerthequestion“Whicheyedropwasmorepreferable?”andexplaintheirreasonsforthepreference.Results:MeanIOPwas15.8±2.8mmHgatbaseline,15.8±2.9mmHgat2monthsafterswitchingtoBTFC,and15.7±3.3mmHgat2monthsafterresuminginstillationofDTFC;nodifferencewasobservedatallmeasurementtime-points.ThemeansubjectivescoreswithBTFCwere0.15forirritation,0.30forforeignbodysensation,and0.20forhyperemia,whereasthosewithDTFCwere0.75,0.10,and0.25,respectively.ThescoreforirritationpostinstillationofDTFCwassignificantlyhigherthanthatofBTFC(p<0.01).Asfortheresponsestothequestion“Whicheyedropismorepreferable?”,postswitchingtoBTFC,14patients(29.1%)preferredBTFC,13patients(27.1%)preferredDTFC,and21patients(43.8%)reportednopreferencebetweenthetwoeyedrops.AfterresuminginstillationofDTFC(at2-monthspostswitchingtoBTFC),5patients(10.4%)preferredBTFC,28patients(58.3%)preferredDTFC,and15patients(31.3%)reportednopreference.ThenumberofpatientswhopreferredDTFCsignificantlyincreasedprimarilyduetoitnotcausingblurredvision/sensationofviscousfluidanditseaseofinstillation(p<0.01).Conclusions:BTFCandDTFCwerecomparableintheireffectonthereductionofIOP.AlthoughDTFC〔別刷請求先〕永山幹夫:〒714-0086岡山県笠岡市五番町3-2永山眼科クリニックReprintrequests:MikioNagayama,M.D.,NagayamaEyeClinic,3-2Goban-cho,Kasaoka-shi,Okayama,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)883 causedmoresevereirritationthanBTFC,ittendedtobepreferredforcontinuoususeduetoeaseofinstillation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):883.888,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,ブリンゾラミド,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩.glaucoma,fixedcombination,brinzolamide,dorzolamide,timolol.はじめに緑内障患者の多くは年余にわたる点眼治療の継続が必要であり,そのうちの少なくとも半数は複数剤の点眼が必要となる1).その場合,それぞれの投与間隔を一定時間空ける必要があること,決められた投与の時間,回数を守ること,多くの点眼瓶を管理しなければならないことなどの問題が生じるため,治療のアドヒアランスが単剤投与に比べ大きく低下することが知られている2).近年相次いで国内での発売が開始された配合点眼薬は,点眼回数を減少させることでアドヒアランス向上とともに,治療効果や患者のQOL(qualityoflife)を改善させることが期待される.プロスタグランジン製剤とb遮断薬の配合点眼液は日本ではすでに2010年に発売され,臨床の場での使用経験が蓄積されてきている.炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の配合点眼液については,2010年6月にドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR配合点眼液,以下,コソプト)が発売された.さらに2013年11月にブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(アゾルガR配合懸濁性点眼液,以下,アゾルガ)が新たに発売となった.両薬剤は海外での報告と同様に日本人に対しても,チモロール単剤療法よりも眼圧下降効果が強く3),単剤併用と同様の効果があり4,5),長期治療にも有効である6,7)ことが報告されている.本研究ではこれら2剤の眼圧下降作用,副作用の違いが日本人において実際にどうであるか,臨床の場で比較検証する2M以上2M2Mベースラインコソプトアゾルガコソプト眼圧測定第1回アンケート第2回アンケート図1プロトコール継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずに直接アゾルガに切り替えた(ベースライン).その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ月間経過観察を行った.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した.884あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015目的で,コソプトからアゾルガへ切り替えを行い,眼圧と被検者の点眼時の自覚症状の変化を調査した.なお,いわゆる「切り替え効果」の影響を避けるため,アゾルガ切り替え後に再度コソプトへの切り替えを行い,クロスオーバー試験に近い形で経過をみるデザインとした.I対象および方法対象は当院で加療中の成人開放隅角緑内障および高眼圧症で,コソプトを2カ月以上継続投与されている患者のうち,以下の条件を満たすものである.内眼手術後4カ月以内でないこと,活動性のぶどう膜炎を有さないこと,ステロイド点眼を使用していないこと.b遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬投与の禁忌事項に該当しないこと.重篤な腎障害を有さないこと.妊娠中および授乳中でないこと.被検者には研究の目的,内容について書面を用いて説明を行い,同意を得られたもののみをエントリーした.継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずにアゾルガに切り替え,この時点をベースラインとした.なお,切り替えの際には全例に処方前に点眼方法の注意として点眼瓶の底を押さえて滴下すること,点眼後に数分間涙.部を圧迫し眼瞼に付着した点眼液をウエットティッシュで拭くこと,点眼後数分間霧視を生じることを説明した.その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ自覚症状について伺います(│をつけて下さい)項目症状の程度白目の部分が赤い(充血)目がゴロゴロして異物感がある点眼時しみる全くない全くない全くない我慢できないくらい赤い最高にゴロゴロしている最高に痛い図2自覚症状のアンケート充血,異物感,刺激感の3点について「全くない」を0,「非常に強い」を4として自覚がどのくらいの数値になるか被検者が直線上にマークを記入する方法でカウントした.(120) 月間経過観察を行った.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で2回連続測定し,その平均値を用いた.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した(図1).また,それぞれの薬剤への切り替え後2週間の時点で使用感について患者アンケートを行った(図2).内容は「点眼による刺激感,異物感,充血の自覚のスコア」と「どちらがより好ましいと感じるか」と「好ましいと思った理由」である.自覚スコアについては「まったくない」を0,「非常に強い」を4として被検者の自覚がどのくらいの数値になるか直線上にマークして記入する方法でカウントした.理由については自由回答形式で複数回答可とした.アンケートの被検者への聞き取りはコメディカルが行った.併用眼圧下降薬については調査期間中変更しないこととした.両眼が対象となる条件を満たす症例についてはベースライン時の眼圧値のより高い1眼を選択し,両眼の眼圧値が同一の場合には右眼を選択した.55例55眼が試験にエントリーされ,経過中7例が脱落した.最終的に解析の対象となったのは48例48眼.内訳は男性28例,女性20例,年齢は31.88歳(70.0±12.5歳)であった.脱落した内容はアゾルガ切り替えの際に生じた副作用が原因のものが4例,コソプト再開時の副作用が原因のものが1例,併用薬のアレルギーによるものが2例であった.対象の緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障36例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障5例,高眼圧症1例であった.II結果眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±p<0.010.200.300.150.250.100.750.000.100.200.300.400.500.600.700.80充血異物感刺激感■:アゾルガ:コソプトNSNS3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定)(図3).アンケートによる自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定p<0.01)(図4).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%とコソプトをよいとするものが増加していた(c2検定p<0.01)(図5).その理由としては,アゾルガがよいと答えたものでは「しNS0510152025ベースライン1M(アゾルガ)2M(アゾルガ)1M(コソプト)2M(コソプト)NS眼圧(mmHg)図3眼圧経過ベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定).どちらでもアゾルガがどちらでもアゾルガが28%30%42%よいよい10%56%34%よいよいコソプトがコソプトがよいよい第1回アンケート第2回アンケート図5アンケート結果1「どちらがより好ましいと感じるか」アゾルガ切り替え時(第1回アンケート)では「アゾルガがよ図4自覚スコアい」が14例,「コソプトがよい」が13例,「どちらでもよい」充血,異物感は両者で差はなかった.コソプトは刺激感がアゾが21例であったのに対し,コソプト再開時(第2回アンケールガよりも有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定ト)ではそれぞれ5例,28例,15例とコソプトをよいとするp<0.01).ものが有意に増加していた(c2検定p<0.01).(121)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015885 アゾルガがよい理由(n=5)さし心地がよい,14しみない点眼液が出やすい0246人数(名)コソプトがよい理由(n=28)粘稠感がない霧視がない眼瞼が白くならない点眼液が出やすい振る必要がない刺激感がない異物感がない人数(名)図6アンケート結果2「好ましいと思った理由」(第2回アンケート結果,複数回答あり)「アゾルガをよい」としたものの理由では「しみないから」がもっとも多かった.「コソプトをよい」としたものの理由では「粘稠感がないから」「霧視が少ないから」「眼瞼が白くならないから」などアゾルガが懸濁液であることからくると思われる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由も多くみられた.みないから」がもっとも多かった.一方コソプトがよいと答えたものでは,「粘稠感がないから」が14例,「霧視が少ないから」が8例,「眼瞼が白くならないから」が5例で,アゾルガが懸濁液であることからくる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由もみられた(図6).III考按海外の研究でアゾルガの眼圧下降はコソプトと比較して非劣性であることがすでに報告されている8,9).しかし,海外で用いられるコソプトに含有されるドルゾラミドの濃度は2%であり,わが国で使用されているコソプトに含有される1%ドルゾラミドと同一ではないため,眼圧下降効果も異なっている可能性がある.今回の試験では,全期間を通じて眼圧の有意な変化はみられず,わが国でもアゾルガはコソプトと同等の眼圧下降効果を有しているものと考えられた.ただし,今回の対象はベースライン時の平均眼圧が15.8mmHgとやや低く,切り替えによる効果の差が出にくい状態であったと思われる.また,今回は点眼から眼圧測定までの時間は症例によって統一されていなかった.効果の差をより詳細にみるためには点眼時間を一定にして眼圧の日内変動を計測するプロトコールでの試験を行うことがより望ましいと思われ886あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015113578140246810121416る.点眼の使用感についての過去の報告ではコソプトは刺激感が問題となるとされている9.11).今回の試験でも,やはりコソプトは点眼時の「刺激感」のスコアがアゾルガよりも有意に高い結果となった.これはコソプトのpHは5.5.5.812)と涙液よりもやや酸性であるが,アゾルガのpHは6.7.7.713)と中性寄りであるためであると思われる.一方,アゾルガは点眼時の霧視が問題になるとされている10,11).今回,直接の評価項目に「霧視」がなかったが,自由回答形式で「コソプトをよい」とした理由に「霧視がないこと」をあげているものが多くみられた.「どちらがより好ましいか」に対する回答については,興味深いことにアゾルガに切り替えた時点でのアンケートで「アゾルガが好ましい」と答えた14例のうち,2カ月点眼を継続した時点でも「アゾルガが好ましい」と答えたものはわずか1例に減少した.それに対して最初のアンケートで「コソプトが好ましい」と答えた13例は2カ月後も全例が同様に「コソプトが好ましい」と答えていた.過去の報告をみるとVoldら14),Rossiら15)はさし心地に対する患者評価をスコア化し比較した結果,アゾルガの満足度が有意に高かったとしている.しかし,これらの報告では評価の対象項目に「霧視」が含まれておらず,アゾルガの副作用に対する評価が十分でない可能性がある.Lanzlら16)はコソプトからアゾルガに切り替えた2,937名のうち「アゾルガがよい」としたものは82%,「コソプトがよい」としたものは8.8%であったと報告している.この報告では切り替え理由の過半数が「コソプトに対するintoleranceのため」であった.今回の検討での対象はコソプト点眼を2カ月以上継続可能であった症例に限定されていた.そのため,もともとコソプトの刺激感に耐えられなかった症例は含まれておらず,Lanzlらの報告とは対象となった症例の背景に違いがあると考えられる.またMundorfら11),およびAnaら17)は2日間両者を比較し,刺激感が少ないことからアゾルガがより好まれたと報告している.筆者らの報告はアゾルガ点眼を2カ月間継続した後に最終調査を行っており,観察期間が異なっている.以上,多くの報告でアゾルガがより好まれるとされており,今回とは食い違う結果となっている.この理由については第1に,上記のようなスタディデザインの違いがあげられる.第2に,過去の報告の対象にはアジア人種はほとんど含まれていないが,点眼に対する感受性は人種間で異なるため,これが結果の差に関与している可能性がある.第3に,アゾルガの点眼瓶はコソプトに比べてやや堅く,アゾルガは点眼液の粘稠性が高いため,滴下に若干力を要する.「コソプトを好ましい」とした理由に点眼操作のしやすさについてのコメントも多くみられたことから,点眼瓶の違いも結果に影響した可能性がある.(122) アゾルガの評価が2カ月間で大きく変化した理由として,点眼開始当初はいわゆる切り替え効果で患者本人のモチベーションが高く,霧視がそれほど問題とされなかった可能性があげられる.コソプトの刺激感は点眼を継続することにより慣れ,あまり問題とならなくなるといわれている18)がアゾルガの粘稠性,霧視の自覚は軽減せず,長期的には逆により意識されるようになる印象を受けた.実際に,切り替えてから4.26週までの期間で調査を行った報告では両者の使用感に差はなかった10)とされている.ブリンゾラミド点眼後の霧視の副作用については閉瞼のうえ涙.部の圧迫を行うこと,ウエットティッシュによる眼瞼の拭き取りを行うことによって軽減されることが報告されている19).今回試験開始の際に全例に書面を渡したうえ,アゾルガ点眼後に生じる霧視と眼瞼が白くなる点について説明を行い,涙.部圧迫,拭き取りについて十分に指導を行った.にもかかわらず2カ月後には多くの症例で霧視に対する不満が生じていた.このなかには指導内容を忘れているケースもあり,自覚症状,不満の聞き取りとともに定期的に点眼指導を行ったほうがよいと思われた.今回の検討で,コソプト点眼を継続している症例に対してアゾルガへの切り替えを行った場合,長期の使用感において不満が生じる可能性があることがわかった.ただし,コソプトの刺激感が気になるという症例にアゾルガが明確に支持されたケースも存在した.自覚症状については個人による感受性の違いが大きく関与するため,各薬剤処方の前に副作用の可能性について説明を十分行い,患者の希望と薬剤の特性を考慮したうえで選択を行うのがよいと思われる.本稿の要旨は第25回日本緑内障学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)DjafariF,LeskMR,Harasymowycz,PJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20093)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20144)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyof(123)afixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌6:495-507,20116)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20147)磯辺美保,小泉一馬,辻智弘ほか:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合剤コソプト配合点眼液の特定使用成績調査.新薬と臨牀1:37-69,20148)SezginAB.,GuneyE,BozkurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20139)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma4:293-300,200910)GrahamAA,MathewR,SimonL:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,201211)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol3:623-628,200812)コソプトR配合点眼液インタビューフォーム.201313)アゾルガR配合懸濁性点眼液医薬品インタビューフォーム.201314)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,200815)RossiGC,TinelliC,PasinettiGMetal:Signsandsymptomsofocularsurfacestatusinglaucomapatientsswitchedfromtimolol0.5%tobrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombination:a6-monthefficacyandtolerability,multicenter,open-labelprospectivestudy.ExpertOpinPharmacother12:685-690,201116)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,201117)AnaS,JuanS,EmilioRSJetal:Preferenceforafixedcombinationofbrinzolamide/timololversusdorzolamide/timololamongpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol7:357-362,2013あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015887 18)StewartWC,DayDG,StewartJAetal:Short-termocu-19)亀井裕子,山田はづき,吉原文ほか:1%ブリンゾラミドlartolerabilityofdorzolamide2%andbrinzolamide1%点眼液点眼後の霧視に影響する要因.あたらしい眼科7:vsplaceboinprimaryopen-angleglaucomaandocular1007-1012,2012hypertensionsubjects.Eye9:905-910,2004***888あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(124)

見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜剝離手術を受けた1症例

2015年4月30日 木曜日

596あたらしい眼科Vol.5104,22,No.3(00)596(132)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(4):596.598,2015cはじめに眼内に飛入した鉄片異物は,鉄錆症や眼内炎を起こす可能性があり,発見されれば早急に摘出されるべきである.感染性眼内炎は失明に至る可能性があり,鉄錆症は,白内障,網膜色素変性,緑内障を起こし,予後不良である1).白内障手術,硝子体手術が進歩した現在では,視力良好の症例でも,視機能を低下させずに異物を摘出できる.しかし,眼内に異物があるにもかかわらず,自覚症状がなく長期間見逃された多くの報告がある2.7).また,白内障を発症し手術により発見されることや,網膜.離の治療のための硝子体手術中に発見されることもある8).鉄工所勤務中に鉄片が自覚なく眼内に飛入し,虹彩炎と緑内障を発症したが,見逃されたまま緑内障手術を受け,一度は安定したものの網膜.離を発症し,硝子体手術中に鉄片が発見された1症例を報告する.I症例患者:38歳,男性.〔別刷請求先〕田渕大策:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学眼科学教室Reprintrequests:DaisakuTabuchi,M.D,,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-chou,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜.離手術を受けた1症例田渕大策水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学眼科学教室ACasethatRequiredSurgeryforGlaucomaandRetinalDetachmentDuetoanOverlookedIntraocularIronForeignBodyDaisakuTabuchi,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine左眼網膜.離のため38歳の男性が当院に紹介された.患者は11カ月前に左眼線維柱帯切開術を受けていた.視力は右眼(1.0),左眼(0.01)であり,眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgであった.核白内障と裂孔原性網膜.離を左眼に認めた.白内障,硝子体同時手術を行ったところ,手術中に鉄片異物(1.6×0.6mm)が発見され,強膜創より除去された.網膜.離は再発したが,硝子体手術で復位した.患者は,線維柱帯切除術以前にフライス加工に従事しており,白内障,緑内障,網膜.離は,硝子体手術中に発見された鉄片異物により起きたものであると考えられた.患者が異物の自覚がなかったことが診断を困難にしたが,職歴を含めた予診に注意を払う必要があった.Wereportthecaseofa38-year-oldmalepatientwhowasreferredtoourhospitalduetoretinaldetachmentinhislefteye.Hehadundergonetrabeculotomyinthatsameeye11-monthspriortopresentation.Uponexamina-tion,hisvisualacuitywas1.0ODand0.01OS.Nuclearcataractandrhegmatogenousretinaldetachmentwereobservedinhislefteye,andcombinedphacoemulsification,intraocularlensimplantation,andvitrectomywassub-sequentlyperformed.Duringsurgery,anintraocularironforeignbody(1.6×0.6mminsize)wasfound,andremovedfromthescleralincision.Retinaldetachmentrecurred1-monthlaterandwasreattachedbyasecondvit-rectomy.Thepatienthadengagedinmillingbeforethetrabeculotomywasperformed,andweconcludedthattheironforeignbodythatwefoundcausedthecataract,glaucoma,andretinaldetachmentinhislefteye.Hisunaware-nessoftheforeignbodyinhislefteyemadethediagnosisdifficult,andaddedcareviaamedicalhistoryinterview,includinghisprofessionalexperience,wouldhaveprovedbeneficial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):596.598,2015〕Keywords:眼内異物,緑内障,線維柱帯切開術,網膜.離,硝子体手術.intraocularironforeignbody,glauco-ma,trabeculotomy,retinaldetachment,vitrectomy.(00)596(132)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(4):596.598,2015cはじめに眼内に飛入した鉄片異物は,鉄錆症や眼内炎を起こす可能性があり,発見されれば早急に摘出されるべきである.感染性眼内炎は失明に至る可能性があり,鉄錆症は,白内障,網膜色素変性,緑内障を起こし,予後不良である1).白内障手術,硝子体手術が進歩した現在では,視力良好の症例でも,視機能を低下させずに異物を摘出できる.しかし,眼内に異物があるにもかかわらず,自覚症状がなく長期間見逃された多くの報告がある2.7).また,白内障を発症し手術により発見されることや,網膜.離の治療のための硝子体手術中に発見されることもある8).鉄工所勤務中に鉄片が自覚なく眼内に飛入し,虹彩炎と緑内障を発症したが,見逃されたまま緑内障手術を受け,一度は安定したものの網膜.離を発症し,硝子体手術中に鉄片が発見された1症例を報告する.I症例患者:38歳,男性.〔別刷請求先〕田渕大策:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学眼科学教室Reprintrequests:DaisakuTabuchi,M.D,,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-chou,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜.離手術を受けた1症例田渕大策水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学眼科学教室ACasethatRequiredSurgeryforGlaucomaandRetinalDetachmentDuetoanOverlookedIntraocularIronForeignBodyDaisakuTabuchi,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine左眼網膜.離のため38歳の男性が当院に紹介された.患者は11カ月前に左眼線維柱帯切開術を受けていた.視力は右眼(1.0),左眼(0.01)であり,眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgであった.核白内障と裂孔原性網膜.離を左眼に認めた.白内障,硝子体同時手術を行ったところ,手術中に鉄片異物(1.6×0.6mm)が発見され,強膜創より除去された.網膜.離は再発したが,硝子体手術で復位した.患者は,線維柱帯切除術以前にフライス加工に従事しており,白内障,緑内障,網膜.離は,硝子体手術中に発見された鉄片異物により起きたものであると考えられた.患者が異物の自覚がなかったことが診断を困難にしたが,職歴を含めた予診に注意を払う必要があった.Wereportthecaseofa38-year-oldmalepatientwhowasreferredtoourhospitalduetoretinaldetachmentinhislefteye.Hehadundergonetrabeculotomyinthatsameeye11-monthspriortopresentation.Uponexamina-tion,hisvisualacuitywas1.0ODand0.01OS.Nuclearcataractandrhegmatogenousretinaldetachmentwereobservedinhislefteye,andcombinedphacoemulsification,intraocularlensimplantation,andvitrectomywassub-sequentlyperformed.Duringsurgery,anintraocularironforeignbody(1.6×0.6mminsize)wasfound,andremovedfromthescleralincision.Retinaldetachmentrecurred1-monthlaterandwasreattachedbyasecondvit-rectomy.Thepatienthadengagedinmillingbeforethetrabeculotomywasperformed,andweconcludedthattheironforeignbodythatwefoundcausedthecataract,glaucoma,andretinaldetachmentinhislefteye.Hisunaware-nessoftheforeignbodyinhislefteyemadethediagnosisdifficult,andaddedcareviaamedicalhistoryinterview,includinghisprofessionalexperience,wouldhaveprovedbeneficial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):596.598,2015〕Keywords:眼内異物,緑内障,線維柱帯切開術,網膜.離,硝子体手術.intraocularironforeignbody,glauco-ma,trabeculotomy,retinaldetachment,vitrectomy. 図1左眼初診時の前眼部写真核白内障を認める.現病歴:フライス加工に従事していたが,異物飛入などの自覚はなかった.2009年8月左眼の霧視のため前医を受診した.左眼に虹彩毛様体炎を認め,眼圧は40mmHgであった.眼圧がコントロールできないため,同年9月,左眼線維柱帯切開術が施行され,眼圧は正常化した.2010年5月突然の左眼視力低下のため近医受診し,左眼網膜.離を指摘され,同日当院へ紹介受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(1.0×.0.25D(cyl.2.25DAx175°),左眼0.2(0.6×+0.50D(cyl.2.50DAx180°),眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgで,左眼に核白内障(図1)と黄斑に及ぶ耳側裂孔原性網膜.離を認めた(図2).経過:2010年6月左眼に白内障硝子体同時手術を施行した.術中に耳側下方最周辺部の網膜上に被膜に被われない鉄片異物(1.6×0.6mm)を発見し,摘出した(図3).六フッ化硫黄(SF6)ガスを注入して手術終了した.1カ月後,再度網膜.離を起こしたため,硝子体手術を再施行した.術後,網膜は復位し,2年後左眼視力は0.2(0.6×+0.50D(cyl.2.50DAx180°)であり,再.離は認めていない.手術後の全視野刺激網膜電図(erectororetinogram:ERG)は正常であった.II考按眼内鉄片飛入の多くは鉄の加工などによる.フライス加工に従事していた本症例は眼内に異物が入った自覚はなかった.しかし,緑内障手術から硝子体手術まで仕事についておらず,異物は緑内障手術の前に侵入したものと考えられた.本症例左眼の白内障,緑内障,網膜.離はすべてフライス加工時に眼内に侵入した鉄片異物によると考えられた.しかし,本症例はまったく自覚症状がなく,前医も筆者らも鉄片を疑うことはなかった.前医では虹彩炎による眼圧上昇と診断され,緑内障手術が行われた.鉄片の位置は毛様体(133)図2左眼初診時の眼底写真黄斑に及ぶ網膜.離を認める.図3術中写真20G灌流ポートに隣接している金属片を認める.OFFISS40D前置レンズを使用している.扁平部であり,通常の眼底検査では発見が困難であったと考えられた.異物飛入の自覚や疑いを訴えて眼科を受診した場合には,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT)やX線写真撮影などが行われ,鉄片異物の診断は比較的容易である9).しかし,まったく異物の自覚症状がなく緑内障などの前眼部疾患で受診した場合には,異物の発見は著しく困難となると思われる.この症例での診断のヒントは職歴のみであった.この症例が網膜.離を発症しなければ,おそらく鉄片異物は発見できなかったと思われる.鉄片が長期間眼内に無症状で滞留した報告はわが国にも数多くあり,滞留期間は1.35年に及ぶ.Duke-Elderによれば,鉄片異物が眼内に存在したにもかかわらず鉄錆症とならない非典型症例には6つの経過がありうるという.1)鉄の含有量が少ないか,鉄片が組織で被われた場合には無症状であたらしい眼科Vol.32,No.4,2015597 ある.2)一度組織に被われ無症状で経過したものの,異物が移動したため著しい炎症を起こし,時に眼球摘出に至る.3)異物が移動していないにもかかわらず,著しい炎症を起こし前房蓄膿,眼球癆に至る.4)異物が自然排出される.5)鉄片異物が小さな場合には,自然吸収されることがある.6)交感性眼炎を起こすことがある10).本症例では,異物侵入より時間は経過しているものの,組織に被われない鉄片異物であり,すでに緑内障を発症していた.放置すればさらに大きな合併症を起こす可能性があった.網膜.離を起こし鉄片が摘出されたことは,この症例には不幸中の幸いであったといえる.1988年の岸本らの報告によれば,緑内障を発症した眼内鉄片異物症例の手術予後は不良であり,網膜.離の手術予後も芳しくないが1),本症例では前医の線維柱帯切開術で眼圧はよくコントロールされ,網膜.離も治癒している.2000年の大内らにより報告された鉄片異物による網膜.離の3症例も治癒している8).これは手術技術の進歩であると考えられる.III結語フライス加工時に眼内に鉄片が飛入したにもかかわらず見逃され,緑内障手術を受け,後に網膜.離を発症し,硝子体手術により異物が発見され摘出された1症例を報告した.今回の症例により,職歴を含めた予診の重要性を再認識した.文献1)岸本伸子,山岸和矢,大熊紘:見逃されていた眼内鉄片異物による眼球鉄症の7例.眼紀39:2004-2011,19882)佐々木勇二,松浦啓之,中西祥治ほか:長年月経過している眼内金属片異物の1例.臨眼82:2461-2464,19883)並木真理,竹内晴子,山本節:1年間放置された眼内異物の1例.眼臨82:2346-2349,19884)尾上和子,宮崎茂雄,尾上晋吾ほか:8年間無症状であった眼内鉄片異物の1例.眼紀45:467-470,19945)来栖昭博,藤原りつ子,長野千香子ほか:28年間無症状であった眼内鉄片異物の症例.臨眼51:1169-1172,19976)青木一浩,渡辺恵美子,河野眞一郎:長期滞留眼内鉄片異物の2例.眼臨94:939-941,20007)及川哲平,高橋嘉晴,河合憲司:受傷1年以上経過後に摘出した7mmの眼内鉄片異物の1例.臨眼63:1495-1497,20098)大内雅之,池田恒彦:硝子体手術中に眼内異物が発見された網膜.離の3例.あたらしい眼科17:1151-1154,20009)上野山典子:眼内異物.眼科MOOK,No5,p100-109,金原出版,197810)DukeElder:SystemofOphthalmology,14:477,HenryKimpton,1972***(134)

中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字能の関連性の検討

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):591.595,2015c中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字能の関連性の検討高橋純子*1,2今井浩二郎*1加藤浩晃*1池田陽子*1,2上野盛夫*1山村麻里子*1森和彦*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2御池眼科池田クリニックEvaluationofReadingSpeedAbilityinGlaucomaPatientswithCentralVisualFieldDefectsJunkoTakahashi1,2),KojiroImai1),HiroakiKato1),YokoIkeda1,2),MorioUeno1),MarikoYamamura1),KazuhikoMori1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)OikeIkedaClinic目的:中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字方向別の読字速度との関連ならびに障害部位の自覚による速度改善の可否を検討する.対象および方法:対象は近見両眼矯正視力が0.3以上かつHumphrey視野SITA-Standard30-2(HFA30-2)検査のパターン偏差において中心5°以内にp<0.5%未満の確率シンボルが片眼に1点以上存在,もしくはGoldmann視野検査において中心5°以内に絶対暗点が存在する緑内障症例67例(男女比36:31,平均年齢62.1±18.6歳)である.既報に従い読字速度判定用文章サンプルを用いて縦書き・横書き文章の音読速度(文字数/分)を測定し,年齢およびHFA30-2平均偏差(MD)値との関連について検討した(Pearsonの相関係数の検定).次いで偏心視訓練用近見チャートにより視野障害程度を判定し,障害部位を自覚した後に再度読字速度測定を行い,前後での改善効果を検討した(対応のあるt検定).結果:全症例の平均読字速度は縦読みで272.8±101.6字/分,横読みで291.8±94.4字/分であった.読字速度と年齢,MD値との関連は縦読み,横読みともに有意な相関関係(縦-年齢p<0.001,横-年齢p<0.001,縦-MDp<0.001横-MDp<0.01)を認めた.また,障害部位の自覚により縦読み,横読みとも有意に読字速度が改善(縦-読字速度p<0.01,横-読字速度p<0.05)した.結論:中心視野障害を有する緑内障患者における読字速度は年齢とMD値の影響を受け,視野障害部位の説明を受けることにより,読字速度が改善した.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoevaluatetherelationshipbetweenthereadingspeedabilityofglaucomapatientswithcentralvisualfielddefects,andthepossibilityofthatspeedimprovingafterpatientcognizanceoftheirvisualfielddefects.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved67glaucomapatients(36malesand31females,meanage:62.1±18.6years)followedupatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kyoto,Japanwhohadacorrectedvisualacuityover3/10andwhohadabsolutescotomawithin5degreesinatleast1eyebyHumphreyFieldAnalyzerSITAstandard30-2programorGoldmannperimeter.Forallsubjects,Nakano’ssampletextwasusedtojudgeandevaluatetheiroralreadingspeedincharactersperminute(CPM)ofverticalandhorizontaltext.Associationbetweenthefactorsofpatientageandmeandeviationvaluewasthenanalyzed.Next,visualfielddefectseverityineachpatientwasevaluatedwithanearvisionchartfortrainingeccentricviewinginordertomakethepatientcognizantofhis/hervisualfielddefects.Eachpatient’sreadingspeedwasthencomparedbetweenbeforeandafterbeingawareoftheirvisualfielddefects.Forstatisticalanalysis,thePearson’scorrelationcoefficienttestandthepairedttestwereused.Results:Themeanverticalandhorizontalreadingspeedwas272.8±101.6CPMand291.8±94.4CPM,respectively.Significantassociationwasfoundbetweenreadingspeedandpatientageandmeandeviation,bothinverticalandhorizontalreading.Afterbeingawareoftheirnear-visualfielddefects,bothverticalandhorizontalreadingspeedsweresignificantlyincreased.Conclusions:Thereadingspeedabilityofglaucomapatientshavingcentralvisualfielddefectswasaffectedbypatientageandmeandeviation,yetimprovementinreadingspeedafterthepatient’scognizanceoftheirvisualfielddefectsis〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyoku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(127)591 independentofthedirectionofthetextbeingread.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):591.595,2015〕Keywords:緑内障,読字能力,視野障害,読字速度,読字方向.glaucoma,abilityofreading,visualfielddefects,speedofreading,readingdirection.はじめに緑内障は緩徐に進行する慢性疾患であり,視野障害が比較的軽微な初期から中期には自覚症状がないにもかかわらず,末期になると急激に日常生活に支障をきたすようになる.なかでも,視覚障害者が日常生活において困難をきたすのは「読字」である1).客観的に確立された視野検査法には,Humphrey視野計に代表される静的視野検査法やGoldmann動的視野検査法があり,それらの視野検査結果から緑内障の進行状況を把握するが,実際に緑内障患者自身が自覚している文字の見にくさ,新聞や書物などの文章の読みづらさなどの不自由度を推測するのは困難である2,3).視力が数字上良好であっても,暗点や視野欠損の障害が強ければ同じく,文字を読むことに支障をきたす場合がある.視力が良いからといって読字能力を予測することはむずかしい3).末期緑内障患者のqualityoflife(QOL)を考えるうえで,視野障害程度と文字や文章を読む読字能力の関連性を知ることは重要である.読字能力を評価するツールとして,Leggeらの開発したMNREADチャートが各国の言語に翻訳され普及しており4),日本ではMNREAD-Jが市販されている5.7).MNREAD-Jは最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を測定するのに適したチャートであるが,文字数が限られていて反復して使用することによる学習効果が生じるため,視能訓練による読字速度の改善を評価する際に適しているとは言いがたい.その点,慶應義塾大学の中野らが開発した読字能力判定用文章サンプル8.12)(以下,「読字サンプル」という)は,脈絡のない文章の羅列と学習効果が生じない読み材料で,難易度が均質で,現実の読書に近い状況で速度を調べることができるといわれている.小学校3・4年生の国語の教科書に掲載されている物語文で,同時期までに学習する漢字で構成されており,文章が平易であり知的な影響を受けにくい点が特徴である(図1).視野障害の意識化に用いる「偏心視訓練用近見チャート」は,滋賀医科大学の村木早苗博士によって発案され,家庭での偏心視訓練に使用されているものである.本チャートは○□の単純な図形表示になっており,アムスラーチャートを応用したもので,中心の黒丸を見た状態での図形の欠損,見づらくなる部位を確認する(図2).非常に簡易的ではあるが,検査器械などを必要とせずに患者本人に障害部位を意識化させることができる.これまでの緑内障による中心視野障害と読字能力の関連をみた報告3)ではMNREAD-Jが用いられていたが,今回,筆者らは,ロービジョンケアの一環として中心視野障害部位の図1読字能力判定用文章サンプル右:縦読みサンプル,左:横読みサンプル.592あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(128) 意識化を試み,読字能力の改善程度を調査する目的で,「読字サンプル」を用いて中心視野障害が読字能力に与える影響を検討した.I対象および方法対象は2012年7月.2013年9月の間に当科緑内障外来を受診した緑内障患者のうち,両眼近見矯正視力0.3以上,かつHumphrey視野30-2SITA-Standard(CarlZeissMeditec,Dublin,CA)(HFA30-2)検査のパターン偏差において中心5°以内にp<0.5%未満の確率シンボルが片眼に1点以上存在,またはGoldmann動的視野検査結果においていずれかの眼の中心5°以内に絶対暗点が存在した67例67眼である.内訳は男性36例,女性31例(平均年齢:62.1±18.6歳),問診により回答を得た緑内障罹患平均年数は9.5±8.3年であった.今回の検討を行う前に,患者背景を把握する手法の一つとして視野欠損の自覚状況につき,問診(日常生活,歩行,読書などにおける視野欠損の自覚の有無について)を行った.すると日常生活において視野欠損の場所を自覚している,または視野欠損により見にくさを自覚してい検定を行い,視野障害の自覚前後の読字速度改善効果の検討には対応のあるt検定を用いた.II結果対象となった67例67眼の病型内訳は原発開放隅角緑内障25例(37%),続発緑内障19例(28%),閉塞隅角緑内障10例(15%),正常眼圧緑内障9例(14%),落屑緑内障4例(6%)であった(図3).両眼近見視力は0.09±0.18(平均logMAR値±標準偏差),判定に用いた視野はHFA30-2検査52例(MD値.13.10±6.29dB),Goldmann視野検査15例であった.これらの対象において年齢,平均MD値と読字速度の検討を行った.まず縦読みと横読みでの1分間の読字速度の比較検討では,縦読み,横読みともに読字速度に差はなかった(Studentt検定,図4).年齢と読字速度の相関の検討では縦読み,横読みともに高齢者のほうが有意に遅かった(Pearsonの相関係数の検定,縦読み:r=.0.41,p<0.001,横読原発開放隅角緑内障37%続発緑内障28%閉塞隅角緑内障15%正常眼圧緑内障14%落屑緑内障6%る割合は,全体の25%であった.読字速度の検討には,「読字サンプル」を使用した(図1).読字速度の評価は,両眼近見矯正下(30cm)で「読字サンプル」の縦書き・横書き文章を音読し,1分間に読める文字数を読字速度とした.「読字サンプル」の文字の大きさは12ポイントを使用した.視野障害部位の意識化による改善効果の検討には,偏心視訓練用近見チャートを使用し,近見30cmで両眼視野の評価を用い,近見視野障害を判定した(図2).判定結果を対象者に説明して障害部位を認識させた後,1回目に読ませた「読字サンプル」とは別の「読字サンプル」で縦書き,横書き文章の1分間の読字速度を再測定した.統計学的検討は年齢,HFA30-2MD値との関連についてはPearsonの相関係数の図3全症例の病型内訳(n=67)原発開放隅角緑内障25例(37%),続発緑内障19例(28%),閉塞隅角緑内障10例(15%),正常眼圧緑内障9例(14%),落屑緑内障4例(6%).10cm10cm500450400文字数/分350300250200150100500縦横図4障害部位認識前の縦読み,横読み速度比較障害部位認識前では縦読み,横読みの読字速度に差はなかった.p=0.26Studentのt検定.(129)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015593図2偏心視訓練用近見チャート縦10cm,横10cmの正方形.30cmの距離で使用する.(滋賀医科大学村木早苗博士のご厚意による) (ピアソンの相関係数の検定)500500y=-2.22x+410.49R2=0.160501001502002503003504004500102030405060708090r=-0.41**p<0.001y=9.44x+410.45R2=0.32050100150200250300350400450500-30-25-20-15-10-50r=0.57**p<0.001年齢(歳)MD値(dB)図5読字速度(縦読み,横読み)と年齢・MD相関読字速度と年齢には縦読み,横読みにて相関があった.縦読みr=.0.41,**p<0.001.横読みr=.0.54,**関係数の検定.読字速度とMDには縦読み,横読みにて相関があった.縦読みr=0.57,**数の検定.050100150200250300350500認識前認識後***■:縦読み■:横読み図6障害部位認識前後の読字速度比較450400350300縦文字数/分縦文字数/分横文字数/分横文字数/分250r=-0.54200**p<0.001150100500年齢(歳)p<0.01150MD値(dB)p<0.001.横読みr=0.40,**p<0.01.Pearsonの相関係み,横読みで比較検討した結果,縦読み,横読みともに有意450400に読字速度が改善された(対応のあるt検定,縦読み:p<文字数/分y=-2.73x+461.34R2=0.290102030405060708090y=6.22x+384.52R2=0.16050100200250300350400450500r=0.40**-30-25-20-15-10-500.01,横読み:p=<0.05,図6).III考按緑内障患者は視野障害が進行すると,日常生活に不便を感じ不安を抱えることが多くなる.日常生活で不便を自覚しやすい動作には書籍や新聞などの文章を読むことがあげられる13).本検討では,中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字方向別の読字速度との関連,ならびに障害部障害部位を認識することで縦読み,横読みともに障害部位認識前よりも読字速度が改善された.縦読み**p<0.01対応のあるt検定.横読み*p<0.05対応のあるt検定.み:r=.0.54,p<0.001,図5).次に両眼の平均MD値と読字スピードの相関の検討を行った.縦読みも横読みもMD値の良好な症例では有意に読字速度が速かった(Pearsonの相関係数の検定,縦読み:r=0.57,p<0.001,横読み:r=0.40,p<0.01,図5).次に障害部位を意識してもらった前後の読字速度を縦読594あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015p<0.001.Pearsonの相位を意識することによる読字速度改善の可能性を,「読字サンプル」「偏心視訓練用近見チャート」を用いて検討した.この「読字サンプル」は,MNREAD-Jが一つの文章に30文字で構成されているのに対し,文章が長く脈略がないため,繰り返し読んでも学習効果を生じにくい特徴がある.また,小学校3・4年生で学習する漢字を用いて構成されており,文章が平易である.文章の意味は掴めないながらも,純粋に文字を読み上げていく作業を行うため,文字読解能力をバイアスを除外して検査することができた.読字速度に影響を及ぼす要因について考察する.年齢と読字速度の検討では高齢になるほど縦横ともに読字速度は有意(130) に遅くなる傾向にあった.また,中心視野障害の少なからず存在する緑内障患者を対象とした検討であったが,MD値と読字速度の関係では,縦横ともに視野障害程度が強い(MD値が低い)ほど読字速度は遅かった.つまり,高齢で視野障害程度が強い患者ほど読字速度が低下しており,日常生活の充足度を改善させるためには何らかの対策を講じる必要性が感じられた.今回,その対策として,視野障害部位を「偏心視訓練用近見チャート」を用いて確認した後には縦読み,横読み両方の読字速度が有意に改善したことから,自らの視野障害部位を意識化することが読字能力の改善に有用であることが判明した.緑内障患者は日々の外来診療のなかで定期的に視野検査を受けており,その都度医師より視野障害部位を説明されているはずであるが,実際には患者の理解度は人それぞれに異なっており,短い外来受診時間内には十分に理解できていないことが示唆される.視野障害を治療により改善させることは困難であるが,自らの視野障害部位を改めて意識化させることができれば残存視機能を有効に活用することにつながると考えられる.本研究の限界としては,読字サンプルとして12ポイントという比較的大きな文字のみを用いて測定したため,より細かい文字のときの読字に差し障りがあるかどうかの検討ができなかった.また,中心視野の障害部位を「偏心視訓練用近見チャート」を用いて自覚させたが,視野障害部位をより的確に知覚させる手段の有無については,さらなる検討が必要と考えられる.今回の結果から,中心視野障害型の緑内障患者におけるロービジョンケアとして「偏心視訓練用近見チャート」を用いた障害部位の自覚は残存視機能を活用させ,読字能力向上に有用である可能性が示唆された.末期緑内障患者に対するロービジョンケアにおいては,視野検査結果を患者自身に理解させる手段を講じることで,読字能力を改善させ生活の質の向上をもたらすことができる可能性がある.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MangioneCM,BerryS,SpritzerKetal:Identifyingthecontentareaforthe51-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire:resultsfromfocusgroupswithvisuallyimpairedpersons.ArchOphthalmol116:227233,19982)RamuluP:Glaucomaanddisability:whichtasksareaffected,andatwhatstageofdisease?CurrOpinOphthalmol20:92-98,20093)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20064)LeggeGE,RossJA,LuebkerAetal:PsychophysicsofreadingspeedVIII.TheMinnesotaLow-VisionReadingTest.OptomVisSci66:843-853,19895)小田浩一,新井三樹:近見視力評価.わたしにもできるロービジョンケアハンドブック(新井三樹),p32-35,メジカルビュー社,20006)小田浩一:readingの評価.眼科プラクティス14,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),p98-101,文光堂,20077)藤田京子:読書検査の実際.日本の眼科75:1123-1125,20048)中野泰志,菊地智明,中野喜美子ほか:弱視用読書効率測定システムの試作(2)─読材料の生成方法について─.第2回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p46-49,19939)中野泰志,新井哲也:弱視生徒用拡大教科書に適したフォントの分析─好みと読書パフォーマンスの観点からの検討─.日本ロービジョン学会誌12:81-88,201210)中野泰志:弱視用読書効率測定システムの試作.日本特殊教育学会第30回大会発表論文集,p42-43,199211)中野泰志,中野喜美子:弱視(ロービジョン)用読書効率測定システムの試作(3)冊子版文字サイズ評価票とまぶしさの評価方法の試案.第4回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p120-123,199512)山村麻里子,横山貴子,外園千恵ほか:拡大読書器指導マニュアル作成の試み.日本ロービジョン学会誌10:S1-S7,201013)平林里恵,国松志保,牧野伸二ほか:後期緑内障患者の視野障害度と読書力.眼臨紀4:1060-1061,2011***(131)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015595

緑内障眼における網膜外層厚と視野障害程度の関連性の検討

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):435.438,2015c緑内障眼における網膜外層厚と視野障害程度の関連性の検討杉浦晃祐*1,2森和彦*2吉川晴菜*2丸山悠子*2池田陽子*2上野盛夫*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命科学部医工学科,*2京都府立医科大学眼科学教室RelationshipbetweenOuterRetinalLayerThicknessandVisualFieldDefectsonGlaucomatousEyesKosukeSugiura1,2),KazuhikoMori2),HarunaYoshikawa2),YukoMaruyama2),YokoIkeda2),MorioUeno2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofBiomedicalEngineering,DoshishaUniversityofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:視野障害程度に左右差のある中期および後期緑内障眼における黄斑部網膜内外層厚と視野障害程度との関連性を検討した.対象および方法:京都府立医科大学眼科緑内障外来にて経過観察中の緑内障症例のうち,Humphrey視野計による視野障害程度に左右差が存在し,黄斑疾患の合併例を除き,かつ両眼ともにニデック社製SD-OCT(RS3000Advance)を用いた黄斑部9×9mmの信頼性に足る黄斑マップ計測が可能であった中期および後期緑内障症例82例(男女比47:35,平均年齢66.8±11.7歳).黄斑部10-2領域の網膜全層厚と網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を計測し,これらの差分によって網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚を計算した.左右眼のmeandeviation(MD)値の差とGCC厚,ORL厚の差との間の相関を検討した(Spearman順位相関係数).結果:視野障害の大きいほうの眼のMD値平均は.18.9±6.26dB,僚眼は.7.98±7.94dBであった.左右眼のMD値の差と網膜全層厚,GCC層厚,ORL層厚の差との間にはいずれも有意な相関が認められた(r=0.51[p<0.01],0.64[p<0.01],.0.34[p<0.01]).結論:MD値の悪化に伴い網膜内層および網膜全層は菲薄化を生じたが,その一方で網膜外層は厚くなっており,この乖離に関しては今後さらなる検討が必要である.Purpose:Toevaluatetherelationshipbetweenmacularretinalthicknessandvisualfielddefectsinintermediateandlate-stageglaucomapatientswhohavesomegapsintheextentofvisualfielddefectintheirrightandlefteyes.Subjects&methods:Recruitedforthisstudywere82late-stageglaucomapatients(female35,male47;meanage66.8±11.7yearsold)whowerebeingfollowedintheGlaucomaClinicofKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,whosevisualfielddefectsshoweddifferentextentsinbotheyes,andfromwhomreliableimagesofmacularthicknessmapinSD-OCTmeasurements(RS-3000Advance,NidekCo.Ltd.,Gamagori,Japan)couldbeobtained.Wholeretinal(WR)thicknessandganglioncellcomplex(GCC)thicknesswereusedtocalculateouterretinallayer(ORL)thickness.Therelationshipbetweenthetwoeyes’differenceinvisualfielddefectmeandeviation(MD)andthethicknessofeachretinallayer(WR,GCC,ORL)wasinvestigatedusingSpearmancorrelationanalysis.Results:TherewasstatisticallysignificantcorrelationbetweenthedifferenceinMDvalueandthethicknessofeachretinallayer,WR,GCC,andORL(r=0.51[p<0.01],0.64[p<0.01],and.0.34[p<0.01],respectively).Conclusions:GlaucomatousdamageinthemacularareainfluencednotonlytheGCC,butalsoouterretinallayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):435.438,2015〕Keywords:光干渉断層計(OCT),緑内障,網膜外層(ORL),網膜神経節細胞複合体層(GCC),視野障害.opticalcoherencetomography(OCT),glaucoma,outerretinallayer(ORL),ganglioncellcomplex(GCC),visualfielddefect.〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMoriM.D.,Ph.D.,DeptofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)435 はじめに光干渉断層計(OCT)は光の干渉現象を応用して網膜断層像を描出する装置であり,本装置の登場によって網膜微細構造の評価が可能となった1).また,黄斑部には網膜神経節細胞の50%が集中していることから,黄斑部OCT画像を用いた早期緑内障診断が試みられてきた.タイムドメインOCT(TD-OCT)の時代の黄斑部を用いた緑内障診断は乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)には及ばないとされてきたが,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)の時代となり網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)をはじめとした網膜内層の詳細な測定が可能になり,黄斑部を用いた緑内障診断はcpRNFLと同等もしくは互いに相補的であるとされている2).これまでGCC層厚と緑内障病期との関連性に関しては過去によく報告されている3)が,GCCよりも外層に位置する網膜外層厚と緑内障病期との関連については筆者らの知る限り統一した見解がない.緑内障眼の網膜外層における組織学的変化の有無に関しては古くから議論されており,正常眼と比較して差がないとする報告4)や視細胞の膨化が認められるとする報告5)などがある.正常眼では神経線維層厚のみならず網膜全層厚も加齢に伴って菲薄化することが知られている6)ことから,緑内障症例においても高齢者では網膜外層厚が菲薄化する可能性がある.このような網膜外層厚の菲薄化は,後期緑内障例における網膜神経節細胞の障害に伴う逆行性変性が網膜外層にも及んでいるのか,加齢に伴う菲薄化のみであるのかについては検討されていない.今回筆者らは,左右眼の進行程度に差がある緑内障眼において,SD-OCTを用いて測定した網膜全層厚,GCC厚から網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚を計算し,自動視野計のmeandeviation(MD)値との関係ならびに両者の左右眼の差を検討した.I対象および方法対象は京都府立医科大学附属病院眼科緑内障外来にて経過観察中であり,左右眼の進行程度に差がある中期および後期緑内障患者82例164眼(男性47例94眼,女性35例70眼)である(表1).病型は原発開放隅角緑内障(POAG)66眼,正常眼圧緑内障(NTG)48眼,続発緑内障(SG)30眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)8眼,非緑内障眼10眼である.対象症例におけるOCT施行前後3カ月以内に測定したHumphrey自動視野計(HumphreyFieldAnalyzer:HFA,中心30-2SITAstandard)のMD値は視野障害程度の強い眼では.18.9±6.26dB,僚眼では.7.98±7.94dBであった.なお黄斑疾患の合併症例は対象から除外した.OCT測定はニデック社製SD-OCT(RS-3000Advance)を用い,黄斑部9×9mmのSSI(signalstrengthindex:シグナル強度)7以上の黄斑マップ計測画像が得られたもののみを対象とした.網膜全層厚(内境界膜層.Bruch膜層),GCC厚は各OCT画像ごとに視覚10°以内に対応する領域であるThicknessmap10-2で得られた68点における網膜全層厚(Thickness1)とGCC厚(Thickness2)を平均化し,各症例各眼の黄斑部10-2領域の網膜全層厚とGCC厚の代表値とした.また,両者の差から網膜外層(outerretinallayer:ORL,内顆粒層.網膜色素上皮層)厚を求め,同様に平均化して代表値を計算した.OCT施行前後3カ月以内に施行したHFA中心30-2SITAstandardのMD値と網膜全層厚,GCC厚,ORL厚の相関関係を検討した(Spearman順位相関係数).また,加齢に伴う影響や個体差による影響を除外するために視野障害程度の大きい眼と小さい眼のMD値の差(ΔMD値)を求め,それぞれの眼の網膜全層厚,GCC厚,ORL厚の差(Δ網膜全層,ΔGCC,ΔORL)との間の関係を同様にSpearman順位相関係数を用いて検討した.II結果1.MD値と網膜各層厚の関連性164眼全体におけるMD値と網膜全層厚,GCC厚,ORL厚との相関係数はr=0.42[p<0.01],r=0.58[p<0.01],r=.0.16[p<0.05]であった(図1a~c).網膜全層とGCC厚は視野障害の重症化に伴い菲薄化したが,ORL厚のみはやや厚くなる傾向にあった.2.MD値の差と網膜各層厚の差の関連性左右眼のMD値の差(ΔMD値)と網膜全層厚の差(Δ網膜全層)との相関関係はr=0.50[p<0.01]であり(図2a),ΔMD値とΔGCCはr=0.62[p<0.01](図2b),ΔMD値とΔORLはr=.0.34[p<0.01](図2c)と,いずれも有意な表1患者背景視野障害程度年齢眼圧屈折(等価球面度数)眼軸長SSIMD値網膜全層厚GCC厚ORL厚弱い眼強い眼66.8±11.713.8±2.9(8.23)13.7±4.4(4.27).1.8±3.7(.15.5.5).1.8±3.2(.12.3.5)24.7±2.0(20.30)24.7±2.1(20.30)8.10±1.17(6.10)7.88±1.24(6.10).8.0±7.9.18.9±6.3288±21(234.345)82.7±17.1(49.119)206±12(157.232)279±25(218.365)71.3±16.1(47.132)207±15(154.244)436あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(126) cba400350300250200150100500400350300250200150100500400350300250200150100500-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)MD値(dB)MD値(dB)網膜全層厚(μm)GCC厚(μm)ORL厚(μm)r=0.58p<0.01y=0.9017x+295.85r=0.42p<0.01y=1.079x+91.564r=-0.16p<0.05y=-0.1773x+204.28cba400350300250200150100500400350300250200150100500400350300250200150100500-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)MD値(dB)MD値(dB)網膜全層厚(μm)GCC厚(μm)ORL厚(μm)r=0.58p<0.01y=0.9017x+295.85r=0.42p<0.01y=1.079x+91.564r=-0.16p<0.05y=-0.1773x+204.28図1MD値と網膜各層厚との関係Meandeviation(MD)値と網膜各層厚(網膜全層(a),網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)(b),網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚(c)))との関係を示す.視野障害の重症化に伴い網膜全層厚,GCC厚は菲薄化し,MD値とORL厚は相関係数が低かった.a70503010-10-30-50-70-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)Δ網膜全層厚(μm)Δy=1.0573x+0.9768r=0.51p<0.01by=1.2991x+2.2725r=0.64p<0.01ΔGCC厚(μm)70503010-10c70503010-10-30-50-70-35-30-25-20-15-10-505網膜外層厚(μm)ΔMD値(dB)Δr=-0.34p<0.01y=-0.2419x+1.2958-30-50ΔMD値(dB)-70-35-30-25-20-15-10-505図2左右のMD値差と網膜各層厚差の関係左右のMD値の差と網膜各層厚(網膜全層(a),GCC(b),ORL(c))の差との関係を示す.各層厚の差は視野障害程度の大きいほうから小さいほうの眼の厚さを引くことによって算出した.MD値の差も同様に視野障害程度の大きいほうから小さいほうを引くことによって算出した.年齢要因を削除した場合,視野障害の重症化に伴い網膜全層厚,GCC厚は菲薄化し,ORL厚はやや厚くなった.相関がみられた.また,ΔMD値とΔ網膜全層,ΔGCCの関係は正の相関であったのに対し,ΔMD値とΔORLは負の相関であった.III考按Tanら7)は緑内障眼においてGCC厚の菲薄化が他の網膜各層に比べて顕著であることを示し,GCC厚が緑内障診断において重要であることを示している.また,自動視野検査では5(dB)の視野障害の進行に伴って20%の網膜神経節細胞が減少することが報告されている8).以上の報告のように緑内障の生体眼において網膜内層についてなされた研究は数多く存在するが,網膜外層についてなされた研究は少ない.そこで今回,筆者らは網膜内層のみならず網膜外層にも注目してOCTによる生体での検討を行った.なお,本検討においてOCTではThicknessMap10-2である一方,MD値はHFAの30-2を用いて解析を行っている.本来ならばMD値も10-2の値を用いるべきではあるが,サンプル数が非常に限定されてしまうため,30-2の値を用いて解析を行った.OCTは光学的な干渉現象を応用しており,網膜各々の部位からの反射光を画像に変換しているため,包埋,固定,染色という過程を経る従来の組織的学的手法で得られた所見とは必ずしも一致すると限らない.しかしながら,生体眼を経時的に追跡可能である点がOCTの大きなメリットであり,本研究においても多数例の生体眼を対象として検討を行った.まず最初にMD値と網膜各層厚との関係について検討を行ったところ,MD値と網膜全層厚およびGCC厚はともに正の相関を示した(r=0.42と0.58).過去の報告においても視野障害程度とGCC厚が有意に相関し,視野障害の進行に伴ってGCC厚が菲薄化することが報告されている9.12)が,今回も同様の結果が得られた.これは緑内障に起因した網膜神経節細胞の死滅によるものと考えられる.しかしながら,MD値とORL厚は有意であったが,相関係数は低かった(r=.0.16).正常者では約120万本ある網膜神経線維は加齢とともに年々減少していくことが報告されている13).加齢に伴う網膜(127)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015437 各層の菲薄化の影響は左右両眼ともに同様に作用すると考えられるため,視野障害程度に左右差のある症例を対象として左右の差を検討すれば,年齢要因を除去した状態で視野障害が網膜各層厚に及ぼす影響が調べられると考えた.その結果,今回のデータでは左右眼のMD値の差分(ΔMD)と網膜各層厚の差分(Δ網膜全層,ΔGCC,ΔORL)の相関係数をみると,ΔMDとΔ網膜全層,ΔGCC,およびΔORLとの相関係数は差分をとっていないものに比べて,いずれも強い相関を示した(r=0.51,0.64,.0.34).すなわち加齢による影響を除去することにより,緑内障に伴う網膜各層の菲薄化の影響のみを抽出できたためにより高い相関を得ることができたと考えられる.ただし,今回は緑内障病期別に差分を検討することができなかったため,同じMD値の差分であっても中期と末期では網膜各層に及ぼす影響が異なる可能性も示唆される.この点に関してはさらに症例数を増やして検討を行う必要があると考えられた.網膜外層に関しては,正常眼と緑内障眼を比較したところ緑内障眼のほうが網膜外層が厚いという報告がなされている14).本研究ではΔMDとΔORLは弱い負の相関を示した(r=.0.34)が,この結果は視野障害の進行に伴いORL厚が不変もしくはやや厚くなる傾向にあることを示している.緑内障の進行に伴って網膜外層厚が厚くなる傾向を示した原因として,過去の組織学的研究で得られた結果と合わせて推測すると,視細胞の浮腫をきたしている可能性5)や網膜外層に含まれるグリア細胞が反応した可能性15)などが考えられた.今回の検討からMD値の悪化に伴い,網膜内層および網膜全層は菲薄化を生じた.その一方で網膜外層は厚くなっており,この乖離に関しては今後さらなる検討が必要である.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HuangD,SwasonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:TheabilityofmacularparametersandcircumpapillaryretinalnervefiverlayerbythreeSD-OCTinstrumentstodiagnosehighlymyopicglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:6025-6032,20133)SevimMS,ButtanriB,AcarBTetal:Abilityoffourierdomainopticalcoherencetomographytodetectretinalganglioncellcomplexatrophyinglaucomapatients.JGlaucoma22:542-549,20134)KendellKR,QuigleyHA,KerriganLAetal:Primaryopen-angleglaucomaisnotassociatedwithphotoreceptorloss.InvestOphthalmolVisSci36:200-205,19955)NorkTM,VerHoeveJN,PoulsenGLetal:Swellingandlossofphotoreceptorsinchronichumanandexperimentalglaucomas.ArchOphthalmol118:235-245,20006)AlamoutiB,FunkJ:RetinalthicknessdecreaseswithageanOCTstudy.BrJOphthalmology87:899-901,20077)TanO,LiG,LuATetal:Mappingofmacularsubstructureswithopticalcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.Ophthalmology115:949-956,20088)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453454,19869)片井麻貴,今野伸介,前田祥恵ほか:光干渉断層計OCT3000による網膜神経線維層厚と緑内障性視野障害の関係.あたらしい眼科21:1707-1709,200410)伊藤梓,横山悠,浅野俊文ほか:緑内障眼における黄斑部網膜神経節複合体とHumphrey視野検査30-2中心8点との相関.臨眼66:1319-1323,201211)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:スペクトラルドメインOCTによる網膜神経線維層厚と黄斑部網膜内層厚の視野障害との相関.あたらしい眼科26:997-1001,200912)佐々木勇二,難波幸子,井上卓鑑ほか:光干渉断層計による緑内障症例の網膜神経節複合体厚計測.八鹿病誌18:31-35,200913)BalazsiAG,RootmanJ,DranceSMetal:Theeffectofageonthenervefiberpopulationonthehumanopticnerve.AmJOphthalmol97:760-766,198414)IshikawaH,SteinDM,WollsteinGetal:Macularsegmentationwithopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci46:2012-2017,200515)WangX,TaySS,NgYK:Anelectronmicroscopicstudyofneuronaldegenerationandglialdellreactionintheretinaofglaucomatousrats.HistolHistopathol17:10431052,2002***438あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(128)