‘緑内障’ タグのついている投稿

難治性角膜疾患に続発した緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント挿入術の短期成績

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):413.418,2015c難治性角膜疾患に続発した緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント挿入術の短期成績呉文蓮*1,2松下賢治*2河嶋瑠美*2桑村里佳*2臼井審一*2西田幸二*2*1淀川キリスト教病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Short-TermOutcomeofBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryforSecondaryGlaucomaAssociatedwithRefractiveCornealDiseaseBunrenGo1,2),KenjiMatsushita2),RumiKawashima2),RikaKuwamura2),ShinichiUsui2)andKohjiNishida2)1)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversity,GraduateSchoolofMedicine目的:緑内障インプラントは難治性緑内障への適応が期待される.筆者らは従来型の緑内障手術が奏効しなかった難治性角膜疾患の続発緑内障症例に対しバルベルト緑内障インプラント挿入術(BGI)を施行し1年間の観察を行った.方法:平成23年10月.平成24年3月,大阪大学医学部附属病院眼科でBGIを施行した難治性角膜疾患の続発緑内障3症例の眼圧,点眼スコア経過,合併症を検討した.結果:全例BGI直線チューブタイプを使用し,強膜弁作製1例,2例に強膜パッチを併用した.平均眼圧は術前33±5mmHg,術後1日目12±3.8mmHg,1週目16±10.1mmHg,1カ月目11±6.1mmHg,3カ月目12±2.1mmHg,1年後11±3.5mmHgと1カ月以降下降した.点眼スコアは術前5.7±0.6,術後1日目0±0,1週目2±0,1カ月目2±2,3カ月目0.7±1.2,1年目1.3±1.2と術前より減少した.重篤な合併症を認めなかった.結論:難治性角膜疾患の続発緑内障に対するBGIは,1年間安定した経過を示した.Purpose:Toreporttheshort-termoutcomeofBaerveldtglaucomaimplant(BGI)drainagesurgeryforsecondaryglaucomaassociatedwithrefractivecornealdisease.Methods:Thisstudyinvolved3patientswithsecondaryglaucomacausedbyrefractivecornealdiseasewhounderwentBaerveldtRBG101-350GlaucomaImplant(AbbotMedicalOptics,AbbotPark,IL)surgerybetweenOctober2011andMarch2012andwhowerefollowedupattheDepartmentofOphthalmologyofOsakaUniversityHospital,Osaka,Japan.Inall3cases,intraocularpressure(IOP),anti-glaucomatreatmentscore,andcomplicationswererecorded.Results:ThepreoperativemeanIOPwas33±5mmHg.At1day,7days,1month,3months,and1yearpostoperative,themeanIOPwas12±3.8mmHg,16±10.1mmHg,11±6.1mmHg,12±2.1mmHg,and11±3.5mmHg,respectively.Themeananti-glaucomatreatmentscoredecreasedfrom5.7±0.6to0±0,2±0,2±2,0.7±1.2,1.3±1.2at1day,7days,1month,3months,and1yearpostoperative,respectively.Nocomplicationswereobservedduringthefollow-upperiod.Con-clusion:BGIwasfoundtobeaneffectivetreatmentforcontrollingsecondaryglaucomaassociatedwithrefractivecornealdiseasefor1yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):413.418,2015〕Keywords:緑内障,インプラント挿入術,バルベルト,難治性角膜疾患,短期成績.glaucoma,glaucomadrainageimplant,Baerveldt,refractivecorneadisease,shorttermoutcome.はじめに様体扁平部挿入タイプに分けられ,直線チューブタイプにはバルベルト(Baerveldt)緑内障インプラントは弁のないシプレートの面積の違いによりBG101-350とBG103-250がリコーンチューブとシリコーンプレートが連結して構成されあり,毛様体扁平部挿入タイプにはBG102-350がある4).る.チューブタイプの違いによって直線チューブタイプと毛2011年,マイトマイシンC(mitomycinC:MMC)併用線〔別刷請求先〕呉文蓮:〒533-0024大阪市東淀川区柴島1-7-50淀川キリスト教病院眼科Reprintrequests:BunrenGo,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,1-7-50,Kunijima,HigashiYodogawa-ku,Osaka533-0024,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(103)413 表1対象症例症例123性別女性男性男性年齢76歳57歳27歳原疾患角膜感染偽類天疱瘡Stevens-Jhonson症候群角膜移植PKPなしLKP/AMT/COMETTLEC2回1回手術既往TLOT1回1回TSCPC3回濾過胞再建術1回一過性眼圧上昇に(以前の濾過胞をニードリング)施行せず――対する対策Sherwoodslit施行せず2カ所2カ所インプラントの種類BG101-350BG101-350BG101-350術式インプラント位置下耳側上耳側上耳側フラップ強膜移植4×4mm強膜移植視力0.01(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)眼圧33mmHg28mmHg38mmHgTLEC:trabeculectomy(線維柱帯切除術),TLOT:trabeculotomy(線維柱帯切開術),TSCPC:transscleralcyclophotocoagulation(経強膜毛様体光凝固術),PKP:penetratingkeratoplasty(全層角膜移植),LKP:lamellarkeratoplasty(表層角膜移植),AMT:amnioticmembranetransplantation(羊膜移植),COMET:culturedoralmucosalepithelialtransplantation(培養口腔粘膜上皮移植)維柱帯切除術と350mm2バルベルト緑内障インプラント手術の比較試験(TheTubeVersusTrabeculectomystudy:TVTstudy)の結果が発表され,術後5年における両者の眼圧下降効果,術後視力,術後の眼圧下降薬の併用状態(点眼スコア)はほぼ同等で,手術成功率ではインプラント手術が線維柱帯切除術を上回り,合併症も少ないことが明らかにされた1.3).日本では2011年8月に厚生労働省に認可され,2012年4月より保険診療が可能になり,今後緑内障治療用インプラント(glaucomadrainageimplant:GDI)は従来の緑内障手術が奏効しない難治性緑内障への適応が期待されている5).今回,筆者らは複数回の緑内障手術が奏効せず眼圧コントロール不良となった難治性角膜疾患の続発緑内障症例に対して,バルベルト緑内障インプラント(Barveldtglaucomadrainageimplant:BGI)挿入術を施行し,1年間の短期経過観察を行ったので報告する.I対象および方法対象は,平成23年10月.平成24年3月の間に大阪大学医学部附属病院眼科を受診した難治性角膜疾患の続発緑内障患者のうち,GDI挿入術を施行した3例3眼である(表1).症例の内訳は女性1例1眼(76歳),男性2例2眼(57歳および27歳)であった.全例重症角膜疾患に続発する緑内障で,原疾患は陳旧性ヘルペス性角膜実質炎1例1眼,偽類天疱瘡1例1眼,Stevens-Johnson症候群1例1眼であった.また,陳旧性ヘルペス性角膜実質炎とStevens-Johnson症候群の2例は角膜移植の既往があった.いずれの症例もこれまでに複数回の緑内障手術が施行されており,薬物治療を行うも眼圧コントロールが不良であった.すべての症例でBGI直線チューブタイプ(BG101-350)を使用し,プレートの挿入部位は下耳側1例,上耳側2例であった.強膜弁作製が1例で,強膜軟化症を合併していると判断した2例に強膜パッチを併用した.術直後に生じる一過性眼圧上昇への対策として,2例は術中にSherwoodslitを作製し,残りの1例は術後に以前の濾過胞にニードリングを加えることで対応する予定にしていた.しかし,その1例は術後の眼圧経過は良好であったため,ニードリングを用いることはなかった(表1).また,術後低眼圧予防策として術中にチューブ結紮をプレートから3mm程度の位置で,8-0バイクリル糸を用いて行った.経過中,術前後の平均眼圧値,点眼スコアを比較し,手術の合併症についても検討した.点眼スコアは緑内障点眼薬1剤を1点,配合点眼薬1剤を2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点とした.手術方法は,まず結膜切開を行い,強膜フラップ作製例では作製した後,強膜パッチ併用例ではただちに,BGIのチューブに対してプライミングを行い,チューブを結紮して閉塞させた.その後,外直筋と上直筋または下直筋の下へプレー414あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(104) ト部分を挿入し7-0ないし9-0ナイロン糸にて強膜に固定した.23G針で前房穿刺したのち,前房へチューブを挿入し,チューブを9-0ナイロン糸にて強膜に固定した.閉塞部より前方のチューブにSherwoodslitを2カ所作製し,チューブの露出部分を強膜フラップまたは強膜パッチで覆い10-0ナイロン糸で縫合した.最後に8-0バイクリル糸にて結膜縫合し,術創を覆った4).結膜の脆弱性が強い症例では,結膜縫合に対して10-0ナイロン糸を用いた.〔代表症例〕27歳,男性.現病歴:2歳8カ月時,発熱時近医で処方されたコスモシンとバッファリン内服後,顔面や全身の粘膜に水疱状発疹,結膜炎症状が出現,Stevens-Johnson症候群と診断され,近隣の大学付属病院皮膚科に紹介された.その後近医眼科でフォローされていた.2001年から近隣の大学医学部附属病院眼科および当科で両眼複数回の角膜移植術を施行された(表2).経過中,左眼続発緑内障が発症し,2004年7月に左眼トラベクレクトミーも施行された.2010年3月25日,右眼に続発緑内障を発症し,眼圧コントロール不良となったため,手術加療目的にて当科緑内障外来へ紹介受診となった.2010年4月6日に右眼トラベクロトミー施行するも眼圧は再上昇した.2010年,2011年,および2012年に合計3回の右眼に対する経強膜毛様体光凝固術(表3)を施行するもチモロール点眼,ビマトプロスト点眼,ジピベフリン点眼,アセタゾラミド内服を(点眼スコア5点)併用しても眼圧コントロール不良であったため,最終的にBGIの適応を考えた.既往歴:気管支喘息.術前所見:視力はVD=眼前/手動弁(矯正不能),VS=10cm/手動弁(矯正不能)と不良であったが,自覚的に視覚障害は進行していた.眼圧は,右眼38mmHg,左眼10mmHgと右眼は著明に上昇していた.図1Aで示すとおり,細隙灯顕微鏡検査にて,Stevens-Johnson症候群による重篤な角結膜障害が認められ,著明な角膜混濁のため隅角の状態は不明であった.そこで,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)で観察したところ,隅角が全体的に狭いが,前房は深く,上方での表2代表症例の手術歴2001年7月右)表層角膜上皮移植+羊膜移植2001年8月左)表層角膜上皮移植+羊膜移植2004年3月右)表層角膜上皮移植+羊膜移植2004年7月左)トラベクレクトミー+羊膜移植2005年1月18日右)輪部移植+羊膜移植2005年2月8日右)表層角膜上皮移植+培養口腔粘膜上皮移植+羊膜移植2010年4月6日右)トラベクロトミー2010年9月1日右)経強膜毛様体光凝固2011年12月7日右)経強膜毛様体光凝固2012年右)経強膜毛様体光凝固表3術後経過症例123術前視力直前0.01(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)術後視力2カ月後15cm/CF(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)1週後2811104週後1867眼圧経過3カ月後1014116カ月後10981年後91591週後2224週後420点眼スコア3カ月後2006カ月後2001年後220インプラント位置前房前房後房追加処置なしなしなし3症例とも術後眼圧経過,術後点眼スコアの経過は良好であった.症例1は術後眼圧コントロール良好のため,術後9カ月目で全層角膜移植術が施行された.角膜移植術後もしばらくは眼圧良好であった.角膜移植術後4カ月目でチューブ閉塞のため,眼圧上昇を認めたが,閉塞部の線維膜を除去し眼圧は下降した.表中n.c.は矯正不能,CFは指数弁,HMは手動弁を示す.(105)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015415 術前術後DCBAE術前術後DCBAE図1代表症例の術前後所見術前はStevens-Johnson症候群による重篤な角結膜障害を認める.前眼部OCTでは隅角が狭くなっていた.術後,角膜の浮腫はやや軽快,前房形成は維持されていた.チューブ先端が後房に迷入していることがUBMで確認された.チューブ挿入が可能であることが確認された(図1B).術式:結膜切開は円蓋部基底で行い,プライミングによりチューブの通水性を確認し,チューブを8-0バイクリル糸にて結紮しチューブの閉塞を確認し,プレートを上耳側の上直筋と外直筋の下に挿入し,プレートを強膜に7-0ナイロン2糸にて固定した.前房穿刺は23G針を用い,その創から長さを調整したチューブを前房内へ挿入し,7-0ナイロン2糸で強膜に固定した.チューブ創入口からのSeidelのないことを確認し,チューブに対してSherwoodslitを8-0バイクリル糸の角針で2カ所作製,強膜パッチを10-0ナイロン6糸で縫合し,チューブを覆った.いずれも角結膜上皮がきわめて脆弱であるため,抜糸を前提として炎症の起きにくい10-0ナイロン糸にて結膜縫合し閉創した.術後経過:2013年3月12日,全身麻酔下で右眼にBGI挿入術を施行した.右眼圧は術翌日10mmHg,1週間後10mmHg,1カ月後7mmHg,3カ月後11mmHg,6カ月後11mmHg,1年後9mmHgと術前より下降した(表3,図2A).点眼スコアも,術翌日0,1週間後0,1カ月以降は0と術前より下降した(表3).術後細隙灯顕微鏡とAS-OCTによる観察では,角膜浮腫はやや軽快し,前房形成は維持されたが,チューブの先端が前房内で観察できなかった(図1C,D).術後,角膜上皮が安定した2カ月後に,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)検査を行ったところ,チューブの先端が後房に迷入していることが確認された(図1E).II結果代表症例では術後の高眼圧はアセタゾラミド内服で抑えられ,術後10日過ぎをピークに下降し,術1カ月後からは薬剤治療なしでコントロール良好であった(図2A).3例の平均眼圧は,図2Bに示すように,術前の平均眼圧が点眼内服を含めた緑内障薬物治療下で33±5mmHgであったのに対し,術後の平均眼圧は1日目12±3.8mmHg,1週目16±10.1mmHg,2週目15±4.7mmHg,1カ月目10±6.7mmHg,2カ月目12±2.5mmHg,3カ月目12±2.1mmHg,6カ月目9±1mmHg,1年目11±3.5mmHgで,2週間以降に下降しその後1年間安定していた(図2B,術前後のpairedt-testp<0.05).緑内障点眼スコアは術前5.7±0.6に対して,416あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(106) 術後1日目0±0,1週目2±0,2週目3.3±2.3,1カ月目2±2,2カ月目0.7±1.2,3カ月目0.7±1.2,6カ月目0.7±1.2,1年目0.7±1.2と術前に比べ有意に減少し(図2C,術前後のpairedt-testp<0.05),術後1年目以降1例は点眼無しで,2例はチモロール+ドルゾラマイド配合剤点眼のみで眼圧コントロール良好であった(表3).術後に症例1で若干の視力低下を認めたが,眼圧下降による移植片のDescemet膜皺によるもので,3例とも著明な視力低下を認めず,眼圧や緑内障点眼スコアは有意に下降し経過良好であった.また,全例で術後の追加処置が必要なかった(表3).インプラントの挿入位置は症例3のみ後房に迷入し,その他の2例は前房に挿入されていた(図1E,表3)が,炎症もなく眼圧は維持された.術後合併症に関する調査では,3症例とも重症な角膜疾患を有するため,角膜内皮細胞の測定や.胞状黄斑浮腫の確認はできなかった.また低視力のため,複視は確認できなかった.さらに遅発性脈絡膜出血,網膜.離や硝子体出血がないことはB-modeエコーで確認した.その他,前房出血,前房消失,術後低眼圧(6mmHg以下),遷延性低眼圧(6mmHg以下,1カ月以上),術後高眼圧(22mmHg以上),チューブの露出,強膜穿孔,眼内炎は認めなかった.術直後の一過性眼圧上昇に対し,2症例はSherwoodslitを2カ所作製し,他の1症例は,以前の濾過胞にニードリングを加えることで対応する予定であったが,点眼と内服で眼圧コントロールが良好であったため施行しなかった.III考按緑内障治療用インプラント挿入術後の眼圧管理は,術直後からプレート周囲の線維膜が形成するまでの間の過剰濾過を防ぐために,強膜にプレートを縫着して約1カ月後に二次的にチューブ挿入を行う二段階的手術か,あらかじめチューブを結紮してから挿入する方法などの予防措置を取らねばならない.それらによって術直後の濾過量が制限されるため,約4.6週間の高眼圧期が続き,その後二次的チューブ挿入あるいは結紮糸の溶解により,眼圧が下降する.一般的には術直後の高眼圧期には薬物ないし術中のチューブに対するSherwoodslitによって濾過量を確保することが眼圧コントロール上必要である4).筆者らは現在あらかじめチューブを結紮する方法で術直後の過剰濾過を予防しているが,術後早期約1カ月の高眼圧期対策として2例ではSherwoodslit,残りの1例は当科における初回手術症例であり,術後高眼圧をコントロールしやすくする目的で,経験のある以前の濾過手術濾過胞に対してニードリングを行い対応することを予定していた.結果的に全例で薬物による眼圧コントロールが良好のために施行しなかった.また,薬物による眼圧管理については,今回の症例で(107)0510152025303540A:代表症例眼圧050100150200250300350400(日)0510152025303540B:平均眼圧050100150200250300350400(日)01234567C:平均投薬スコア050100150200250300350400(日)図2術前後の経過A:代表症例の術前後眼圧経過,B:3症例の平均眼圧経過,C:3症例の平均薬物スコア経過.インプラントの挿入位置は前房を予定したが,代表症例のみ術後後房であることが確認された.術後の平均眼圧経過,術後平均点眼スコアの経過は良好であった(pairedt-testp<0.05).は,角膜疾患のため,角膜上皮管理も重要であったことから,可能な限り点眼の使用を避け,アセタゾラミド内服治療を最初に選択した.追加点眼は末期緑内障が観察できた1例と途中で眼圧上昇のあった1例の合計2例であった.今回観察した3症例ともに重篤な高眼圧期がなかったのは,重症角膜疾患の続発緑内障が一般に前眼部炎症を伴い,術後の房水産生低下が眼圧経過に影響した可能性が考えられた.また,前房挿入口とチューブにわずかな間隙があることから,肉眼で確認されない房水漏出があった可能性も考えられる.今回のような眼表面疾患が関与する重症角膜疾患の続発緑内障は疾患自体と手術歴が結膜へ強く影響しており,過去の緑内障手術は奏効せず眼圧コントロールが困難で視力予後不良と思われていた症例である.これまではこのような通常の緑内障手術が奏効しない場合には,毛様体光凝固術や冷凍凝固術といった毛様体破壊術による管理しかなかった6).今回,筆者らはこのような難治性角膜疾患に伴う続発緑内障に対してGDIを適応したが,合併症もなく,眼圧経過,点眼スコア経過ともに良好であった.このような症例に対するBGIあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015417 挿入術は,適切な管理のもとでは安全で有効な治療となりうると考えられる.現在,緑内障チューブシャント手術に関するガイドラインでは初回GDIの適応は制限されているが5),今回の症例のように従来の手術が奏効しないと予測される難治性緑内障疾患には,今後早期のGDIの適応が望ましいと考えられる.しかし,今回の検討は少数例の検討で,かつ1年間の短期成績であり,今後多数例の長期経過検討が必要と思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TubeversusTrabeculectomyStudyGroup:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Studyafterfiveyearoffollow-up.AmJOphthalmol153:789-803,20122)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:Treatmentoutcomesinthetubeversustrabeculectomystudyafteroneyearoffollow-up.AmJOphthalmol143:9-22,20073)GeddeSJ,HeuerDK,ParrishRK2nd;TubeVersusTrabeculectomyStudyGroup:ReviewofresultsfromtheTubeVersusTrabeculectomyStudy.CurrOpinOphthalmol21:123-128,20104)濱中輝彦:Baerveldtインプラントの特徴と手術手技(前房型).緑内障チューブシャント手術のすべて(千原悦夫編.p26-39,メジカルビュー社,20135)緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388393,20126)KnapeRM,SzymarekTN,TuliSSetal:Five-yearoutcomesofeyeswithglaucomadrainagedeviceandpenetratingkeratoplasty.JGlaucoma21:608-614,2012***418あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(108)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):133.143,2015c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックALong-term,Open-labelStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)inPatientswithOpen-angleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic目的:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の52週間投与時の有効性と安全性を検討する.対象:2剤以下の治療,または無治療で両眼の眼圧13mmHg以上の開放隅角緑内障および高眼圧症患者136例を対象とした.デザイン:オープンラベルによる多施設共同試験とした.方法:導入期は0.0015%タフルプロスト単剤,0.5%チモロール単剤,または両剤の併用に無作為に割り付け,4週間点眼した.治療期はDE-111点眼液を52週間点眼した.結果:治療期間を通じて治療期0週に比べ.1.3±2.2..1.8±2.3mmHgと安定した眼圧下降作用を示し,治療期終了時の眼圧は.1.7±2.4mmHgと有意に低下した.副作用発現率は44.1%であり,その多くは軽度であった.結論:本剤の長期投与における安定した眼圧下降作用および安全性が確認された.Purpose:Theaimofthisstudywastoevaluatetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionof0.0015%tafluprost/0.5%timolol(DE-111),administeredfor52weeks.Subjects:Involvedwere136patientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension,whoseintraocularpressure(IOP)inbotheyeswasnotlessthan13mmHgundertreatmentwithtwoorfewerdrugs,orwithouttreatment.Design:Open-label,multicenterstudy.Method:Patientswererandomlyassignedtothetafluprost,timololorconcomitantgroup,theinitialdrugbeinginstilledfor4weeks,followedbyDE-111for52weeks,asatreatmentperiod.Result:IOPreductionfrombaselinewasstableintherangeof.1.3±2.2mmHgto.1.8±2.3mmHgthroughoutthetreatmentperiod,andwassignificantlyloweredby.1.7±2.4mmHgattheendoftreatment.Adversedrugreactionswereobservedin44.1%;mostofsuchcasesweremild.Conclusion:DE-111showedastableandexcellentIOP-loweringeffect,andwassafeinlong-termtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):133.143,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめに緑内障治療の目的は,患者の視機能を維持することであるが,唯一エビデンスが得られている治療法は眼圧を下降させることである.通常,緑内障治療の第一選択となるのは薬物治療であり,まず単剤から治療が開始される.しかし,単剤治療ですべての患者に対して十分な眼圧が達成できない場合もあり,2剤以上の薬剤が併用されている患者は少なくない1,2).併用治療では,薬剤数と点眼回数が増加するため,負担を感じる患者は多い.実際に,2000年に実施された緑内障患者へのアンケート調査3)でも,理想の点眼薬としては「少ない点眼回数でよいこと」が最上位に挙げられている.また,慢性疾患である緑内障は明確な自覚症状のない患者や〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(133)133 高齢者の患者も多く,多剤併用療法が必要な患者において複数の点眼液を規定どおりに点眼し続けることは容易ではない.規定どおりの点眼回数や推奨される点眼間隔が守られていなければ期待した眼圧下降効果が得られず,視野障害の進行を十分抑制できないため,良好なアドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが重要である.配合点眼液は薬剤数および1日の点眼回数を減らし,患者の利便性,アドヒアランスおよびQOL(qualityoflife)を改善しうる.このことから,近年国内では,緑内障の治療薬として配合点眼液が次々と販売され臨床使用されるようになった.『緑内障診療ガイドライン』(第3版)4)では「原則として配合点眼液は多剤併用時のアドヒアランス向上が主目的であり,第一選択薬ではない」と配合点眼液が位置づけされており,「原則的に初回から配合点眼液を使用することなく,単剤併用により副作用の有無や眼圧下降効果を評価することが望ましい」と述べられている.このことから,臨床現場では治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで配合点眼液が使用されることが原則となっている.また,慢性疾患である緑内障の治療において,視神経障害の進行を阻止しうる眼圧を長期間にわたり維持していくことが重要であることから,長期間の投与で安定した眼圧下降作用および忍容性を有することが配合点眼液にとって必要である.DE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.今回,開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,0.0015%タフルプロスト点眼液,0.5%チモロール点眼液,または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用からDE-111点眼液へ切り替えた際の52週間投与における安全性および眼圧下降効果を,オープンラベルによる多施設共同試験により検討したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.また,試験登録はClinicalTrials.gov(IdentifiedNo.NCT01343082)に行った.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国11医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子医療法人頼母会ごうど眼科神戸孝医療法人栗山会飯田病院眼科浅井裕子医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男たはら眼科田原恭治医療法人永山眼科クリニック永山幹夫医療法人社団越智眼科越智利行,朝比奈恵美表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)導入期開始前90日以内に前眼部または内眼の手術〔緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)を含む〕の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断した134あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(134) 同意取得0週登録/割付登録0週登録/割付登録導入期4週間治療期52週間タフルプロストDE-111併用(タフルプロスト+チモロール)チモロールオープン無作為化,オープン【導入期】導入期タフルプロスト群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼導入期チモロール群:0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼導入期併用群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼【治療期】DE-111:DE-111点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼図1試験デザイン2.目的DE-111点眼液の長期投与(52週間)における眼圧下降効果および安全性を検討することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障),落屑緑内障,色素緑内障または高眼圧症と診断され,両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施した.今回の試験では,臨床の使用状況と同じになるよう,治療期の前に導入期を設けた.被験者から文書による同意取得後,選択基準に適合し,除外基準に抵触しない被験者に導入期点眼液を無作為に割り付けた.導入期点眼液は0.0015%タフルプロスト点眼液(導入期タフルプロスト群),0.5%チモロール点眼液(導入期チモロール群),または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用(導入期併用群)のいずれかとし,導入期開始前の治療状況に関係なく各群1:1:1となるよう無作為に割り付けた.このとき,タフルプロストは1日1回朝両眼に,チモロールは(135)1日2回朝夜両眼に点眼した.なお,前治療薬の影響を消失させ,導入期点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.治療期0週当日朝は導入期点眼液を点眼せず来院し眼圧を測定したのちに,治療期開始登録を行って,52週間の治療期に移行した.治療期にはDE-111点眼液を1日1回朝両眼に点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.なお,導入期点眼液の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法・封筒法による無作為化(ブロックサイズ3,割付割合1:1:1)により行い,キーコードは全例の治療期開始が確認されるまで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E1ガイドライン「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間」(1995年)を参考として52週点眼例を100例以上とし,中止率を考慮して目標症例数を126例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015135 表3検査・観察スケジュール導入期治療期.4週0週4,8,12,16,20,24週28週32,36,40,44,48週52週/中止時文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●眼圧測定(9.10時)●(午前中)●●●●●隅角検査●視力検査●●●視野検査●●●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿・尿中hCG)●●●前眼部写真撮影●有害事象●a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,隅角検査,視力検査,視野検査,眼底検査,臨床検査(血液・尿)および前眼部写真撮影を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,および治療期4週ごとに,または中止時にGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時は午前中,治療期0.52週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.なお,細隙灯顕微鏡検査における角膜フルオレセイン染色スコアは,評価基準0:フルオレセインで染色されない,1:限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる,2:限局的に密なまたはびまん性の点状のフルオレセイン染色が認められる,3:びまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる,とした.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,緑内障または高眼圧症に対する治療136あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015薬,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価評価項目は,試験薬投与前後の朝点眼前の眼圧測定時(9.10時)の眼圧変化量とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,治療期の朝点眼前の眼圧測定値が1回でも得られた被験者(有効性解析対象集団)を対象とした.有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.b.安全性解析対象安全性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い規定来院日の許容範囲内に複数の検査値がある場合,検査当日朝の点眼遵守状況がより良好な検査値を採用した.なお,中止の来院時で得られた検査値は,中止時データとして採用した.(136) 文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例図2被験者の内訳d.解析方法有効性の評価の解析は,治療期0週からの変化量の平均,標準偏差を示し,対応のあるt検定を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,解析は参天製薬株式会社が実施した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得た被験者は162例で,導入期点眼液が無作為化割り付けされた被験者は148例,そのうち,導入期点眼液が投薬された症例は147例,導入期で中止となった症例が11例であった.この後,治療期に組入れられた症例は136例,治療期中に26例が治験を中止し,110例が試験を完了した.治療期に組み入れられた136例を有効性解析対象集団および安全性解析対象集団とした.被験者背景を表4に示した.(137)合併症では高血圧症の合併率が最も高くタフルプロスト群39.6%(19/48例),チモロール群57.8%(26/45例),併用群46.5%(20/43例)であった.眼合併症を有していた症例はタフルプロスト群47.9%(23/48例),チモロール群55.6%(25/45例),併用群51.2%(22/43例)であり,最も多かった合併症は白内障であった.各群の合併症の種類および合併率に特徴的な相違は認められなかった.2.有効性導入期.4週の眼圧平均値は17.8mmHg,治療期0週の眼圧平均値は16.7mmHgで有意に下降していた.治療期では,さらに眼圧下降がみられ,その眼圧下降は治療期0週と比較してすべての測定時点において有意であった.各測定時点の眼圧変化量の平均は,.1.3mmHg(p<0.001)..1.8mmHg(p<0.001)で推移しており,52週間眼圧下降効果の減弱はなかった(表5,図3).病型別でみると,治療期終了時での眼圧変化量の平均は,原発開放隅角緑内障(狭義).1.6mmHg(治療期0週:17.2mmHg),正常眼圧緑内障.1.5mmHg(治療期0週:15.2mmHg),高眼圧症.1.9mmHg(治療期0週:17.6mmHg)といずれの病型においても有意な眼圧下降(p<0.001)を示し,病型による差はなかった(表6).導入期点眼液別に比較すると,導入期タフルプロスト群では,導入期.4週から治療期0週に.1.3mmHg(p=0.002)の有意な眼圧下降を示し,DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.1.7mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示した.治療期52週.2.2あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015137 表4治療期に組み入れられた被験者背景項目分類導入期タフルプロスト群導入期チモロール群導入期併用群全体例数484543136病型原発開放隅角緑内障(狭義)17(35.4)16(35.6)15(34.9)48(35.3)正常眼圧緑内障16(33.3)16(35.6)16(37.2)48(35.3)落屑緑内障0(0.0)2(4.4)0(0.0)2(1.5)色素緑内障0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)高眼圧症15(31.3)11(24.4)12(27.9)38(27.9)性別男22(45.8)15(33.3)18(41.9)55(40.4)女26(54.2)30(66.7)25(58.1)81(59.6)年齢65歳未満24(50.0)22(48.9)16(37.2)62(45.6)65歳以上24(50.0)23(51.1)27(62.8)74(54.4)最小.最大28.8225.8337.8525.85平均値±標準偏差62.5±12.763.7±12.166.0±11.064.0±12.0緑内障前治療薬なし9(18.8)5(11.1)6(14.0)20(14.7)あり39(81.3)40(88.9)37(86.0)116(85.3)合併症なし8(16.7)4(8.9)4(9.3)16(11.8)あり40(83.3)41(91.1)39(90.7)120(88.2)導入期の隅角(Shaffer分類)349(18.8)39(81.3)8(17.8)37(82.2)12(27.9)31(72.1)29(21.3)107(78.7)導入期の緑内障性の視野異常なしあり21(43.8)27(56.3)17(37.8)28(62.2)22(51.2)21(48.8)60(44.1)76(55.9)導入期の緑内障性の眼底異常なしあり15(31.3)33(68.8)11(24.4)34(75.6)13(30.2)30(69.8)39(28.7)97(71.3)導入期開始時の眼圧最小.最大14.0.30.013.0.23.013.0.27.013.0.30.0平均値±標準偏差18.3±3.417.2±2.917.8±3.317.8±3.2導入期終了時の眼圧最小.最大13.0.24.511.0.24.010.0.24.010.0.24.5平均値±標準偏差17.0±2.417.1±2.715.8±3.016.7±2.7例数(%).mmHg(p<0.001)と眼圧下降効果は維持された.導入期チモロール群では,導入期.4週から治療期0週に.0.1mmHgの眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.2.1mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示し,治療期52週.2.7mmHg(p<0.001)とその効果は維持された.導入期併用群では,導入期.4週から治療期0週に.2.0mmHg(p<0.001)の有意な眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた後の治療期4週には治療期0週と比較して.0.4mmHgと有意な変動はなく,治療期52週も.0.4mmHgとその効果は維持された(図4,5).3.安全性a.有害事象および副作用治療期全体の有害事象の発現率は72.8%(99/136例)で138あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015あり,そのうち,DE-111点眼液との因果関係が否定できない有害事象(副作用)は44.1%(60/136例)であった(表7).DE-111点眼液の副作用により試験中止に至った被験者は,全身性皮疹を発現した1例および頭痛を発現した1例であり,いずれも投与中止後に回復した.また,重篤な副作用の発現はなかった.おもな副作用は,睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例),および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった(表8).副作用の重症度は,中等度と判断された全身性皮疹(0.7%,1/136例)を除き,すべて軽度であった.また,全身性皮疹(0.7%,1/136例),頭痛(0.7%,1/136例)および多毛症(2.2%,3/136例)を除き,すべて眼障害であった.副作用の初回発現時期は,治療期開始後0.29日:17例,30.59(138) 日:11例,60.89日:8例,90.119日:7例,120.149日:4例,その後329日まで30日ごとに1.3例で推移し,330日以降に新たな発現は認められず,投与期間が長くなっても発現頻度が高まることはなかった.また,おもな副作用別に発現時期をみると,睫毛の成長は30.59日:6例,60.89日:4例,90.119日:5例に,眼瞼色素沈着は60.89日:5例に,結膜充血は0.29日:6例に発現頻度が高かった.点状角膜炎は治験期間中30日ごとに0.2例で推移した.年齢別の有害事象発現率は,65歳未満で72.6%(45/62例),65歳以上で73.0%(54/74例)であった.そのうち副作用は,65歳未満で45.2%(28/62例),65歳以上で43.2%(32/74例)であり,65歳未満と65歳以上に差異は認められなかった.個別事象では65歳未満,65歳以上ともに睫毛の成長(65歳未満:27.4%,17/62例,65歳以上:21.6%,16/74例)が最も多く認められ,眼瞼色素沈着(65歳未満:6.5%,4/62例,65歳以上:6.8%,5/74例)も共通して認められた.その他,結膜充血(65歳未満:14.5%,9/62例,65歳以上:5.4%,4/74例)は65歳未満で多く,点状角膜炎(65歳未満:3.2%,2/62例,65歳以上:12.2%,9/74例)は65歳以上で多い傾向であったが,いずれの事象もすべて軽度であった.導入期点眼液群別にみると,導入期とDE-111点眼液に切り替えた際の治療期4週時点までの副作用発現率を比較すると,導入期タフルプロスト群で導入期6.3%(3/48例)治療期4週8.3%(4/48例),導入期チモロール群で導入期(,)2.2%(1/45例),治療期4週20.0%(9/45例),導入期併用群で導入期7.0%(3/43例),治療期4週14.0%(6/43例)2422201816141210-4048121620週週週週週週週眼圧(mmHg)であり(表9),導入期チモロール群で治療期4週時点までの副作用発現率が最も高かった.b.臨床検査臨床検査の各項目平均値では,治療期28週に赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数,Al-P,アルブミン,総コレステロール,K,Clが,治療期52週に尿酸,Al-P,アルブミン,K,Clが投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する副作用は認められなか表5眼圧実測値および眼圧変化値の推移DE-111群時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値.4週17.8±3.2(136)0週16.7±2.7(136).1.1±2.8*(136)<0.0014週15.2±3.0(136).1.4±2.3(136)<0.0018週15.2±2.9(131).1.5±2.2(131)<0.00112週15.2±3.0(126).1.4±2.1(126)<0.00116週15.1±2.9(120).1.4±2.3(120)<0.00120週15.0±2.5(118).1.4±2.2(118)<0.00124週14.9±2.7(116).1.5±2.2(116)<0.00128週15.1±2.9(115).1.3±2.2(115)<0.00132週15.1±2.6(114).1.3±2.2(114)<0.00136週15.0±2.8(113).1.5±2.3(113)<0.00140週14.7±2.7(113).1.7±2.2(113)<0.00144週14.8±2.6(112).1.7±2.3(112)<0.00148週14.7±2.8(110).1.8±2.3(110)<0.00152週14.7±2.5(111).1.8±2.2(111)<0.001治療期終了時15.0±2.8(136).1.7±2.4(136)<0.001平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定,*:0週は.4週からの変化値.**************************##:DE-1112428323640444852週週週週週週週週図3眼圧実測値の推移##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.(139)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015139 表6眼圧実測値および0週からの変化値の推移(病型別)原発開放隅角緑内障(狭義)正常眼圧緑内障高眼圧症落屑緑内障時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg).4週17.6±3.1(48)15.8±1.8(48)20.4±3.0(38)20.0±1.4(2)0週17.2±2.7(48)15.2±2.0(48)17.6±2.9(38)19.5±0.7(2)4週16.1±3.1(48).1.1±2.4(48)0.00313.6±2.2(48).1.7±2.2(48)<0.00116.1±3.1(38).1.4±2.3(38)<0.00116.0±0.0(2).3.5(2)8週16.1±2.9(46).1.3±2.3(46)0.00113.7±2.2(46).1.5±2.1(46)<0.00116.0±2.9(37).1.6±2.3(37)<0.00116.5±2.1(2).3.0(2)12週15.9±3.0(44).1.4±2.2(44)<0.00113.8±2.1(46).1.4±2.0(46)<0.00116.2±3.5(34).1.0±2.2(34)0.00915.3±2.5(2).4.3(2)16週15.8±2.9(40).1.4±2.5(40)0.00113.8±2.2(46).1.4±2.2(46)<0.00115.8±3.3(32).1.2±2.1(32)0.00216.5±0.7(2).3.0(2)20週15.8±2.9(40).1.3±2.4(40)0.00114.0±2.1(46).1.2±2.2(46)<0.00115.4±2.0(30).1.5±2.1(30)<0.00116.8±0.4(2).2.8(2)24週15.8±2.8(40).1.4±2.3(40)0.00113.9±2.5(44).1.4±2.2(44)<0.00115.4±2.6(30).1.6±2.0(30)<0.00115.0±1.4(2).4.5(2)28週16.0±3.0(39).1.2±2.5(39)0.00513.7±2.6(44).1.6±2.3(44)<0.00115.8±2.5(30).1.1±2.0(30)0.00417.3±1.8(2).2.3(2)32週15.9±2.8(39).1.2±2.7(39)0.00713.8±2.3(43).1.5±2.2(43)<0.00115.7±2.2(30).1.2±1.6(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)36週15.9±2.6(38).1.3±1.9(38)<0.00113.5±2.6(43).1.8±2.5(43)<0.00115.8±2.8(30).1.1±2.4(30)0.01415.5±0.0(2).4.0(2)40週15.7±2.3(38).1.6±2.1(38)<0.00113.5±2.5(43).1.8±2.5(43)<0.00115.1±2.6(30).1.8±2.2(30)<0.00118.0±0.0(2).1.5(2)44週15.8±2.3(37).1.5±2.1(37)<0.00113.4±2.3(43).1.9±2.5(43)<0.00115.1±2.4(30).1.8±2.3(30)<0.00119.8±3.2(2)0.3(2)48週15.6±2.4(36).1.7±2.2(36)<0.00113.3±2.7(42).2.1±2.6(42)<0.00115.5±2.5(30).1.5±2.0(30)<0.00118.8±2.5(2).0.8(2)52週15.5±2.2(37).1.8±2.3(37)<0.00113.5±2.4(42).1.9±2.4(42)<0.00115.1±2.3(30).1.9±2.0(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)治療期終了時15.7±2.5(48).1.6±2.3(48)<0.00113.7±2.4(48).1.5±2.6(48)<0.00115.6±3.0(38).1.9±2.2(38)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定.眼圧(mmHg)2422201816141210-40481216202428323640444852****************************************************###:導入期タフルプロスト群:導入期チモロール群:導入期併用群週週週週週週週週週週週週週週週図4導入期薬剤別の眼圧実測値の推移#p<0.01,##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.140あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(140) 眼圧(mmHg)76543210-1-2-3-4-5-6-70481216202428323640444852:導入期タフルプロスト群********************************:導入期チモロール群:導入期併用群********************週週週週週週週週週週週週週週図50週からの眼圧変化量の推移**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.表7有害事象と副作用の発現例数および発現率安全性解析対象集団例数136導入期有害事象発現例数(%)14(10.3)副作用発現例数(%)7(5.1)治療期有害事象発現例数(%)99(72.8)副作用発現例数(%)60(44.1)表9導入期点眼液別の副作用の発現例数および発現率(導入期と治療期4週までの比較)導入期タフル導入期チモ導入期プロスト群ロール群併用群安全性解析対象集団例数484543導入期(4週間)副作用発現例数(%)3(6.3)1(2.2)3(7.0)治療期4週まで副作用発現例数(%)4(8.3)9(20.0)6(14.0)った.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は1.5%(2/136例,項目:白血球数,尿ウロビリノーゲン)に認められたが,点眼を継続しても尿ウロビリノーゲンは試験中に,白血球数は終了後に試験開始時と同程度に回復した.c.血圧・脈拍数血圧の平均値は,収縮期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標準偏差:2.36±12.27mmHg,p=0.030),20週(2.63±14.17mmHg,p=0.046),28週(3.42±15.05mmHg,p=0.016)に認められた.拡張期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標表8治療期副作用一覧安全性解析対象集団例数136副作用発現例数(%)60(44.1)眼障害眼瞼色素沈着9(6.6)眼瞼炎1(0.7)結膜沈着物1(0.7)結膜出血2(1.5)アレルギー性結膜炎2(1.5)眼乾燥4(2.9)眼刺激4(2.9)くぼんだ眼1(0.7)涙液分泌低下1(0.7)眼充血1(0.7)点状角膜炎11(8.1)睫毛乱生2(1.5)睫毛の成長33(24.3)眼の異物感2(1.5)結膜充血13(9.6)眼瞼そう痒症1(0.7)眼そう痒症1(0.7)眼障害以外頭痛1(0.7)多毛症3(2.2)全身性皮疹1(0.7)準偏差:2.09±7.78mmHg,p=0.003),12週(1.43±7.61mmHg,p=0.037)に,治療期0週からの有意な下降が48週(.1.80±8.42mmHg,p=0.026),52週(.1.65±8.07mmHg,p=0.035)に認められた.ただし,その変化量は臨床上問題ない程度であった.脈拍数の平均値は,いずれの観察時点においても治療期0週からの有意な上昇を認めたが,その変化量は1.8.4.4拍/(141)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015141 分と臨床上問題ない程度であった.導入期点眼液群別に検討したところ,収縮期血圧および拡張期血圧は,どの群でも治療期0週に比較して治療期4週時点で有意な変動は認めなかった.脈拍数の平均値は,導入期チモロール群または導入期併用群において治療期0週から治療期4週に有意な上昇を認めたが,その変化量は臨床上問題ない程度であった.なお,以上の血圧,脈拍数の変動に関連する副作用はなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査,視野検査)細隙灯顕微鏡検査所見の角膜フルオレセイン染色スコアは,治療期0週と比較した有意なスコアの上昇が治療期16週の左眼,20週の右眼,24週の左眼,28週の左眼,40週の左眼,44週の両眼に認められた.その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査では,導入期.4週と比較して治療期の28週右眼についてのみ視力低下が25例,変動なしが95例,改善が12例と低下例が有意に多かった.しかし,治療期52週では両眼とも有意な差は認められなかった.また,視力低下を伴う有害事象として,網脈絡膜萎縮が1例(0.7%),後.部混濁が2例(1.5%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.視野検査では,緑内障性視野異常の有無に有意な変動は認められなかった.Humphrey視野計を用いた視野感度の平均偏差値は,導入期.4週と比較した有意な感度低下が治療期28週の両眼に認められたが,治療期52週では認められなかった.Octopus視野計を用いた視野感度の平均欠損値はいずれの測定時点でも有意な変動は認められなかった.また,視野の感度低下を伴う有害事象として,後.部混濁が1例(0.7%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.III考察近年国内では,プロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬,あるいはb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した配合点眼液が次々に発売され,臨床で使用されている.DE-111点眼液もPG関連薬であるタフルプロストとb遮断薬であるチモロールを含有する配合点眼液である.これらの配合点眼液は第一選択薬としてではなく,治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで使用されることが原則である.このことから,本試験では,単剤あるいは多剤併用から配合点眼液へ切り替えた場合の有効性および安全性を確認するため,導入期としてタフルプロスト,チモロールまたはそれらの併用を4週間投与した後,治療期としてDE-111点眼液に切り替え52週間投与する試験デザインとした.142あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015DE-111は,治療期のすべての測定時点において,治療期0週と比較して眼圧変化量が有意に下降し,その効果は治療期52週まで減弱を認めなかった.また,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障5)を含む緑内障病型別において眼圧下降作用に差異は認めず,安定した眼圧下降作用を示すことが確認された.導入期点眼液別にみると,導入期タフルプロスト群と導入期チモロール群では,治療期0週と比較して有意な眼圧下降が治療期4週に得られ,その後52週まで眼圧下降効果の減弱は認めなかった.導入期併用群では,治療期0週と比較して眼圧値に有意な変動はなく,治療期52週まで安定した眼圧推移を示した.このことから,DE-111点眼液は治療強化のために単剤治療から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,利便性やアドヒアランスの改善のために併用治療から切り替えた場合は併用治療時と同程度の眼圧下降効果が期待できる臨床的に有用な配合点眼液と考えられる.安全性については,試験期間を通じて,重篤な副作用はみられなかった.おもな副作用は睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例)および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった.発現時期は,睫毛の成長は投与1.4カ月後に,眼瞼色素沈着は投与2.3カ月後に,結膜充血は投与1カ月後に多く認められ,点状角膜炎は治験期間中を通じて認められた.副作用の多くは眼障害であり,すべて軽度であった.これらは,PG関連薬の副作用として知られていることから6.8),DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストに由来していると考えられた.各導入期点眼液群からDE-111点眼液に切り替えた際の副作用発現率を治療期4週時点までと比較すると,導入期チモロール群からの切り替えで最も高かった.導入期チモロール群からDE-111点眼液に切り替えて発現した副作用の内訳は結膜充血が3件のほか,眼瞼色素沈着,点状角膜炎,睫毛の成長,眼の異物感,眼瞼そう痒症,全身性皮疹が各1件であった.これらの多くはPG関連薬に特徴的な副作用であることから,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストが要因と考えられた.年齢別の比較では,65歳未満と65歳以上に副作用の発現頻度の差異は認められなかった.個別事象における副作用では結膜充血は65歳未満で,点状角膜炎は65歳以上で多く認められたが,睫毛の成長,眼瞼色素沈着などでは年齢の影響は認めなかった.また,臨床検査値,眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査所見,視力および視野),血圧,脈拍数についても,特に安全性上問題となるものは認められなかった.これまで,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボ(142) プロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)があり,日本人緑内障患者を対象とした臨床試験について数報の論文報告がある9.12).このうち,12カ月間の長期投与試験として,正常眼圧緑内障を含む原発開放隅角緑内障患者を対象とし0.005%ラタノプロスト点眼液と0.5%チモロール点眼液の併用治療を3カ月以上行った後に,washout期間を設けずにザラカムR配合点眼液に切り替え,12カ月間投与した報告12)では,配合点眼液による治療開始時の眼圧平均値は15.2mmHgであり,12カ月間点眼後の眼圧平均値は15.1mmHgであった.本試験では,併用群の治療期0週の眼圧平均値は15.8mmHg,治療期終了時の眼圧平均値は15.4mmHgであり,同様の結果であった.また,ザラカムR配合点眼液12カ月間投与では,眼圧下降不十分あるいは副作用により19.1%(31/162例)が試験中に中止していた.一方,今回の試験では併用からDE-111点眼液に切り替え後に,眼圧下降不十分あるいは有害事象による中止は11.6%(5/43例)であった.以上,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障および高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,52週間にわたり良好かつ安定した眼圧下降を示し,長期点眼時の安全性についても,問題ないことが確認された.このことから,DE-111点眼液は,長期にわたる緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20112)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20063)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20064)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20125)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20086)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,20127)InoueK,ShiokawaM,HigaRetal:Adverseperiocularreactionstofivetypesofprostaglandinanalogs.Eye(Lond)26:1465-1472,20128)YoshinoT,FukuchiT,ToganoTetal:Eyelidandeyelashchangesduetoprostaglandinanalogtherapyinunilateraltreatmentcases.JpnJOphthalmol57:172-178,20139)KashiwagiK:Efficacyandsafetyofswitchingtotravoprost/timololfixed-combinationtherapyfromlatanoprostmonotherapy.JpnJOphthalmol56:339-345,201210)InoueK,FujimotoT,HigaRetal:Efficacyandsafetyofaswitchtolatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombinationeyedropsfromlatanoprost0.005%monotherapy.ClinOphthalmol6:771-775,201211)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,201212)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Assessmentofocularhypotensiveeffectandsafety12monthsafterchangingfromanunfixedcombinationtoalatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombination.ClinOphthalmol6:607-612,2012***(143)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015143

金沢市における緑内障検診

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1523.1530,2014c金沢市における緑内障検診宮内修*1柳田隆*1川北聖子*1狩野宏成*1中川寛忠*1藤村和昌*1大久保真司*2杉山和久*2*1金沢市医師会*2金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学GlaucomaScreeninginKanazawaOsamuMiyauchi1),TakashiYanagida1),SeikoKawakita1),KouseiKarino1),HirotadaNakagawa1),KazumasaFujimura1),ShinjiOhkubo2)andKazuhisaSugiyama2)1)KanazawaMedicalAssociation,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告する.対象および方法:50,55,60歳の検診対象者に対し,問診・細隙灯顕微鏡検査・眼圧測定・眼底検査を行い,要精検と判断された場合は視野検査などの精密検査受診を勧奨し,症例検討会を経て最終的な緑内障診断を決定した.結果:平成20.24年度の累積データでは,対象者は53,768人,検診受診者数4,553人で受診率8.5%,要精検者数478人で要精検率10.5%,精検受診者数407人で精検受診率85.1%であった.最終診断の内訳は,狭義の原発開放隅角緑内障が検診受診者の0.2%,正常眼圧緑内障1.5%,緑内障疑い2.3%,原発閉塞隅角緑内障0.1%,原発閉塞隅角症0.1%,高眼圧症1.1%,緑内障以外の疾患0.5%.緑内障の検出率は1.9%であった.結論:発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.Purpose:ToreporttheresultsofglaucomascreeninginKanazawacity.SubjectsandMethods:Examineesunderwentmedicalinterview,slit-lampexamination,intraocularpressuremeasurementandfundusexamination.Aditionalexaminations,suchasvisualfieldtests,wereencouragedforthosewhohadabnormalfindings,andwedeterminedthefinaldiagnosisofglaucomaafteracaseconference.Results:Ofthe4,553personswhovisiteddoctorsforscreening,478peoplewererequiredfurtherexaminationsandwhom407ultimatelyunderwentthoroughexamination.Atfinaldiagnosis,0.2%ofscreeningparticipantswithprimaryopen-angleglaucoma,1.5%withnor-mal-tensionglaucoma,2.3%withsuspectedglaucoma,0.1%withprimaryangle-closureglaucoma,0.1%withprimaryangleclosure,1.1%withocularhypertension,0.5%withdiseasesotherthanglaucoma.Theglaucomadetectionratebythisscreeningwas1.9%.Conclusions:Themajorityoftheglaucomainthisscreeningisnormaltensionglaucoma.Thisresultsuggeststhatclosefundusexaminationbyanophthalmologistisessentialforearlydetectionofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1523.1530,2014〕Keywords:緑内障,検診,金沢市,眼科専門医,眼底検査.glaucoma,screening,Kanazawacity,ophthalmologist,fundusexamination.はじめに日本眼科医会の報告1)では,2007年現在の視覚障害者数は約164万人(矯正視力0.1超0.5未満の「ロービジョン者」が144万9,000人,失明者を含む矯正視力0.1以下の者が18万8,000人の計163万7,000人)に上り,高齢化がさらに進む2030年には202万人とピークに達し,医療費に加え,家族の負担,低雇用率やQOL(生活の質)の低下などを金額に換算した視覚障害のコストは11兆円に膨らむと試算されている.この視覚障害の原因疾患内訳は,上位より緑内障24%,糖尿病網膜症21%,変性近視12%,加齢黄斑変性症11%,白内障7%の順であり,上位5疾患で視覚障害全体の3/4を占める.これらの原因疾患は加齢により進行し,初期〔別刷請求先〕宮内修:〒920-0348金沢市松村4丁目305番地みやうち眼科Reprintrequests:OsamuMiyauchi,M.D.,MiyauchiEyeClinic,Matsumura4-305,Kanazawa-shi,Ishikawa-ken920-0348,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(101)1523 には自覚症状が現れにくいものばかりである.この報告のなかで日本眼科医会は,緑内障,糖尿病網膜症など原因疾患の予防・早期診断に対する国民意識の向上およびより積極的な治療が必要であるとしている.このような視覚障害による疾病負担を減らすために最も効果のあるものが,早期診断・早期治療のための公的な成人の目の健診プログラムであり,しかも早期発見がその後の視機能予後を最も大きく左右するのが緑内障であると考えられる.金沢市では,従来から基本健診の他に各種のがん検診などが行われてきたが,平成18年度より金沢市医師会に委託する形で緑内障検診を開始した2).平成18年度の検診開始から2年間は40,45,50歳を対象としたが,3年目の平成20年度からは50,55,60歳を対象としている.今回筆者らは,平成20年度から平成24年度までの累積データの解析結果について検討し報告する.I対象および方法図1に緑内障検診フローチャートを示す.平成20年度から50,55,60歳を対象として,金沢市が発行する受診券を持参した方に対して毎年度5月1日.10月31日に緑内障検診を行った(金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者の家族などを対象に受診券は送付され,協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外である).検診の目的を緑内障の早期発見のためとあらかじめ明記し,すでに緑内障で受療中である場合には,今回の解析対象から除外した.また,受診券には,受診結果データ(過去の受診結果も含めて)を金沢市医師会で実施する医療・健康に関する各種調査・分析に活用し,個人が特定される情報が開示されることがない旨もあわせて記載されている.図2に金沢市緑内障検診で使用している検診票を示す.検診施設の条件として,①圧平眼圧計あるいは非接触式眼圧計を所有していること,②前置レンズ,三面鏡あるいは双眼倒像鏡による視神経乳頭の立体観察が可能であること,③眼底カメラ,あるいは細隙灯顕微鏡下で眼底撮影ができ,ポラロイド写真あるいはプリントしたものを必要に応じて結果報告に添付できることとした.検診医は検診票の項目に従い,問診・前眼部検査・眼圧検査・眼底検査を行い,精密検査(以下,精検)が必要と判断された人に対して,視野検査などの精検受診勧奨を行った.問診では,本検診の受診歴とその結果・眼疾患や内眼手術の有無などの既往歴・全身疾患(糖尿病,高血圧,高脂血症)の合併症の有無・緑内障の家族歴をチェックした.細隙灯顕微鏡による前眼部検査では,浅前房・落屑・虹彩後癒着・その他の異常所見の有無と,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下かどうかもチェックした.眼圧検査では実測値と圧平眼圧計/非接触式眼圧計のどちらで眼圧測定したかを記入した.眼底検査では,視神経乳頭の陥凹拡大(垂直C/D>0.7)・陥凹の左右差・乳頭辺縁部の菲薄化・乳頭辺縁部ノッチ形成・乳頭辺縁部出血・網膜神経線維層欠損・眼底透見困難の有無をチェックした.要精検の判定基準は,①眼圧が20mmHg以上,②vanHerick⑤検診②受診⑨要精検者結果通知精検受診⑥検診結果報告・請求緑内障検診受診・問診・細隙灯顕微鏡検査・視神経乳頭検査・眼圧測定要精検者精検受診・視野検査など受託医療機関⑦検診料金支払い金沢市①受診券送付受診者金沢市医師会③検診票・眼底写真提出検診委員会④結果通知・眼底写真返却⑧検診料金支払い症例検討会⑩精検結果報告精度管理委員会(視野検査添付)図1緑内障検診フローチャート1524あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(102) 図2金沢市緑内障検診で使用している検診票図3金沢市緑内障検診で使用している精密検査票表1精密検査の最終診断基準最終診断の病型判定基準緑内障以下の1もしくは2のいわゆる緑内障性視神経症を認める1.信頼性のある視野検査結果で視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野異常が存在する場合:垂直C/D比が0.7以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,あるいは網膜神経線維層欠損が存在する2.乳頭所見のみから緑内障と診断してよい場合:垂直C/D比が0.9以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.05以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.3以上緑内障疑い①垂直C/D比が0.7以上であるが0.9より小さい②上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下であるが0.05より大きい③両眼の垂直C/D比の差が0.2以上であるが0.3より小さい④網膜神経線維層欠損が存在する,が単独もしくは複数存在しながら,視野検査の信頼性が低い,あるいは視野結果を参照できない,あるいは,視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野欠損が示されない原発閉塞隅角症原発性の隅角閉塞があり,眼圧上昇または器質的な周辺虹彩癒着を生じているが上記緑内障性視神経症を認めない高眼圧症眼圧22mmHg以上であるものの,上記緑内障性視神経症や閉塞隅角を認めない※C/D比:視神経乳頭陥凹乳頭径比(cup-to-discratio),R/D比:リム乳頭径比.法による判定で,前房深度が角膜厚の1/4以下で隅角閉塞目のいずれかを選び,緑内障以外の眼疾患が疑われる場合はが疑われる,③緑内障性視神経障害が疑われる,の3条件の想定される疾患を検診票のコメント欄に記入し,金沢市医師うち1つ以上が存在する場合と規定した.検診判定として,会に提出した.要精検と判定された場合には精検受診勧奨を異常なし・要精検・緑内障以外の眼疾患が疑われる,の3項行い,自院で実施・未精検・他施設に紹介の区別も検診票の(103)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141525 最後に記入することとした.図3に金沢市緑内障検診で使用している精密検査票を示す.精密検査の最終診断基準は表1のとおりで,病型分類は,平成20.22年度検診では緑内障診療ガイドライン初版3)に準拠したが,平成23年度より緑内障診療ガイドライン第2版4)に準拠し,最終診断に原発閉塞隅角症を追加した.精検担当医は,各精検受診者を,1.原発開放隅角緑内障,2.正常眼圧緑内障,3.原発閉塞隅角緑内障,4.続発緑内障(原因を記入),5.原発閉塞隅角症,6.高眼圧症,7.緑内障疑い,8.緑内障以外の眼疾患,9.異常なしのいずれかに分類診断し,その結果を眼底写真および視野検査結果とともに,金沢市医師会に提出した.金沢市医師会に集積した検診票・精密検査票・眼底写真・視野などの検診結果・精密検査結果をもとに,検診精度向上のため,検診期間終了後に症例検討会を開催し,この会への出席を検診受託医療機関に義務付けた.症例検討会では,精検にて緑内障と診断された症例や緑内障の疑いとされた症例を中心に,金沢大学眼科の緑内障専門医が最終診断する形式をとった.こうして得られた結果をもとに,緑内障検診の受診率,精検率,検出率などを算出し,最終診断結果を解析した.II結果表2に金沢市緑内障検診結果の概要を示す.平成20年度から平成24年度までの累積データ(5年間)では,対象者数53,768人(男19,313人/女34,455人)のうち,検診受診者数4,553人(男621人/女3,932人)で,受診率は8.5%(男3.2%/女11.4%)であった.検診受診者全体の平均年齢は55.9±4.2(平均±標準偏差)歳であった.年齢別男女構成は50歳1,247人(男137人/女1,110人),55歳1,240人(男148人/女1,092人),60歳2,066人(男336人/女1,730人)で,各年代とも女性が多く,50・55歳に比して60歳の受診が多かった.要精検者数478人で,要精検率は総検診受診者の10.5%,精検受診者数407人で精検受診率は要精検者の85.1%,緑内障の最終診断を受けたのは84人で緑内障検出率は総検診受診者の1.8%であった.また,精検を受けた人のなかで緑内障の診断を受けた割合(以後,精検陽性率)は20.6%であった.表3に要精検とした理由を示す.平成20年度からの5年間においては,各判定項目の重複があるが,眼圧20mmHg以上が91人(要精検となった人の18.7%),隅角閉塞の疑いが41人(同8.4%),緑内障性視神経障害の疑いが355人(同72.9%)であった.測定された眼圧値は正規分布を示し,平均値は左右とも14.0±2.8mmHg(平均±標準偏差,以下同様)で左右差はなく(Studentのt検定,p=0.08),左右の眼圧値はよく相関した(単回帰分析による相関係数|R|=0.83).また,検診に1526あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014使用された眼圧計は圧平眼圧計2,289人/非接触式眼圧計2,229人(測定した眼圧計不明35人)で,測定された眼圧値は,圧平眼圧計(右眼14.6±2.8mmHg/左眼14.5±2.7mmHg)のほうが非接触式眼圧計(右眼13.4±2.8mmHg/左眼13.5±2.7mmHg)より,左右とも有意に高い値を示した(Studentのt検定,p<0.0001).表4に平成20年度からの5年間の最終診断の内訳を示す.平成23年度より採用された原発閉塞隅角症は要精検者中の0.1%であった.緑内障と診断された人の内訳では,いずれの年度も正常眼圧緑内障が最も多く,5年間の通算で70人(緑内障と診断された人の83.3%),原発開放隅角緑内障が11人(同11.9%),原発閉塞隅角緑内障が4人(同4.8%)であった.また,提出された資料での判定では,「緑内障疑い」に留まるものも106人と,検診受診者の2.3%(全精検受診者の26.0%)にあった.さらに,緑内障以外の疾患も検診受診者の0.5%にあった.非緑内障,つまり緑内障が認められなかった検診受診者(n=4,320,平均年齢55.9±4.2歳,男586人,女3,734人)の眼圧は圧平眼圧計2,178人で右眼14.4±2.6mmHg/左眼14.3±2.6mmHg,非接触式眼圧計2,142人で右眼13.3±2.7mmHg/左眼13.5±2.6mmHgであり,一方,原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者(n=80,平均年齢56.1±4.2歳,男11人,女69人)の眼圧は圧平眼圧計46人で右眼16.0±2.8mmHg/左眼16.2±3.4mmHg,非接触式眼圧計34人で右眼14.2±3.3mmHg/左眼14.5±3.9mmHgと,非緑内障と比べ有意に高かったが(左右眼とも,Studentのt検定,p<0.0001),原発開放隅角緑内障(広義)と非緑内障との間に男女差はなく(c2検定,p=0.95),年齢差もなかった(Studentのt検定,p=0.55).眼圧に影響する因子として性別・年齢・測定する眼圧計の違い(圧平眼圧計/非接触式眼圧計)・緑内障の有無(原発開放隅角緑内障〔広義〕/非緑内障)を設定した多変量解析においても,眼圧計の違い・緑内障の有無がそれぞれ独立して有意に眼圧に影響しており(一元配置分散分析,それぞれ左右眼ともp<0.0001),性別(右眼p=0.841,左眼p=0.617)や年齢(右眼p=0.147,左眼p=0.167)の影響はなかった.vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例の最終結果は,原発閉塞隅角緑内障4例(41例中の10%)・原発閉塞隅角症4例(同10%)・原発閉塞隅角症の疑い7例(同17%)であった.緑内障と最終診断された84例の視野障害程度を分類した結果(簡便にHumphrey視野にて,平均偏差>.6dBを初期・.6dB≧平均偏差≧.12dBを中期・.12dB>平均偏差を後期とした),初期60例(84例中の71.4%)・中期11例(同13.1%)・後期1例(同1.2%),固視不良・視野測定(104) 表2金沢市緑内障検診結果の概要平成20.24年度平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積対象年齢(歳)50,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,60対象者数1227311520106209655970053768受診者数9769359118478844553受診者数(男/女)141/835129/806134/777111/736106/778621/3932受診率8.0%8.1%8.6%8.8%9.1%8.5%要精検者数949410481105478要精検率9.6%10.1%11.4%9.6%11.9%10.5%精検受診者数7676887196407精検受診率80.9%80.9%84.6%87.7%91.4%85.1%緑内障191818121784緑内障検出率1.9%1.9%2.0%1.4%1.9%1.8%精検陽性率25.0%23.7%20.5%16.9%17.7%20.6%表3要精検とした理由平成20.24年度要精検者内要精検と判定した理由平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合眼圧20mmHg以上19291413169118.7%隅角閉塞の疑い5712710418.4%緑内障性視神経障害の疑い705882628335572.9%合計949410882109487※精検理由には若干の重複例あり表4緑内障最終診断の内訳平成20.24年度検診受診者内精検受診者内緑内障の診断を精密検査後の診断平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合の割合受けた内の割合全緑内障1918181217841.8%20.7%原発開放隅角緑内障51310100.2%2.5%11.9%正常眼圧緑内障1314151117701.5%17.2%83.3%原発閉塞隅角緑内障1300040.1%1.0%4.8%続発緑内障0000000.0%0.0%0.0%原発閉塞隅角症0003140.1%1.0%高眼圧症1117669491.1%12.0%緑内障疑い20152924181062.3%26.0%緑内障以外の疾患42845230.5%5.7%異常なし22242722461413.1%34.6%合計7676887196407不能などで正確な視野評価負不能例が12例(同14.3%)であった.III考按緑内障スクリーニングの観点から,疫学調査である多治見スタディ5,6)と7地区共同緑内障疫学調査7),自治体における住民検診2,8.15),人間ドック16.22)の公表されている過去のデータを基に,金沢市緑内障検診の結果を比較検討した.本検診における例年の受診者数は平均910.6人であり,5年間の(105)累積で4,533人にのぼる.本検診では50,55,60歳を対象にしているが,過去疫学調査のデータはおもに40歳以上について解析されており,他の住民検診も老人保健法による基本健診を基軸にしてデザインされるケースが多いため,本検診のように5歳おきに受診させる形式2,8)や40歳以上のすべての住民を対象にする形式をとるなどさまざまであり,高齢化に伴い有病率が上がる緑内障のスクリーニング結果比較においては解析対象の年齢構成やスクリーニング方法の違いを十分に考慮する必要がある.住民検診では50歳代中盤からあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141527 60歳代が検診の中心であり,人間ドックでは住民検診より平均年齢がやや低い50歳前後に検診受診者が集まる傾向にある.各データの比較は年齢などの補正が必要とされる.住民基本台帳に基づく平成24年12月現在の金沢市の50.64歳人口は男42,734人/女45,216人であり,1歳ごとに区分した男女比も若干女性が多い程度である.このなかに今回の検診対象者の大部分が含まれると思われるが,本検診では毎回女性受診者(3,932人)のほうが男性受診者(621人)より明らかに多く,女性が総受診者の約86%を占める.本検診の対象者は,金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者本人の家族などであり,男性の占める割合の多い協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外であることから,必然的に女性対象者が多いことの一因になっていると考えられる.本検診では,最近5年間の受診率は8.9%,要精検率は約10%,精検受診率は80.90%であった.疫学調査である多治見スタディでこそ50.59歳の受診率も75.8%と高率であるが,他の住民検診8.15)でも受診率は0.21.27.3%,要精検率は5.6.25.2%,精検受診率は35.0.84.8%であり,緑内障の精密検査までたどり着く数が少なく,より多くの緑内障を発見しようとする検診本来の目的が十分達成されていないのが現状である.本検診では,各年度とも要精検理由として最も多かったのは,「緑内障性視神経障害の疑い」であり,平成20年度以降の検診で発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障(83.3%)であった.緑内障の病型別データが公表されている他の住民検診8.10,12,13)においても,正常眼圧緑内障の検出率は他の緑内障に比べて2.6.4.4%と高く,全緑内障に占める正常眼圧緑内障の割合は62.9.93.3%である.換言すれば,大部分の緑内障が眼底所見を基に診断されたものであり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底検査がいかに重要であるかを示している.以前の緑内障検診に関する報告14,15)は眼圧を中心としたスクリーニングであり,眼圧20mmHg以上であることなどの高眼圧であることが要精検理由の80.90%を占めていたが,近年の疫学調査などでは,わが国においては正常眼圧緑内障の割合が諸外国に比して高いことが判明していることを反映してか,眼底所見を重視した結果となっており,緑内障性視神経障害の疑いが要精検理由の66.7.77.0%を占めるに至っている2,5,6).本検診で測定された眼圧値(平均±標準偏差)は,圧平眼圧計で右眼圧14.6±2.8mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHgと,同じく圧平眼圧計が用いられた多治見スタディにおいて報告された眼圧(右眼圧14.6±2.7mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHg)とほとんど同値であり,また,非接触式眼圧計で右眼圧13.4±2.8/左眼圧13.5±2.7mmHgと,同じく非接触式眼圧計が用いられた7地区共同疫学調査8)において報告された眼圧(13.4±3.1mmHg)とほとんど同値であ1528あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014った.そして本検診においては,圧平眼圧計測定群のほうが非接触式眼圧計測定群より左右眼とも有意に高い値を示したが,これは同一検診対象に圧平眼圧計と非接触式眼圧計の両方で測定した報告13)(圧平眼圧計測定群15.5±2.6mmHg/非接触式眼圧計測定群15.0±2.9mmHg)でも同様であった.原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者の眼圧は,緑内障が認められなかった検診受診者の眼圧より有意に高かったものの,その平均の差はわずか1.4.1.6mmHg程度にすぎず,眼圧値を主体に緑内障スクリーニングを行うことの困難さは多治見スタディ6,7)の報告でも述べられているとおりである.ただし,本検診でも左右どちらかの眼圧が25mmHg以上の場合は50%以上の確率で開放隅角緑内障(狭義)と診断されており,これに続発緑内障や原発閉塞隅角緑内障までも考慮すると,緑内障スクリーニングを行ううえで,高眼圧を見逃さないよう十分な注意が必要なことは,万が一高眼圧を見逃して緑内障を進行させてしまうリスクを考えれば明らかである.このことは隅角検査でも同様であり,緑内障検診を,閉塞隅角を発見することにより緑内障発作や閉塞隅角緑内障の重症化を未然に防ぐ大きなチャンスととらえることが肝要である.平成20.24年度の検診おいて,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例中15例(37%)に原発閉塞隅角緑内障・原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角症の疑いの診断がなされ,緑内障検診におけるvanHerick法による閉塞隅角の検出力にも一定の効力があるものと考えられた.以上より,①高眼圧かどうか,②隅角閉塞が疑われるかどうか,③緑内障性視神経障害が疑われるかどうか,は緑内障スクリーニングの3本柱として認識すべきである.加齢とともに眼圧が下降傾向を示したとする報告8)もあるが,眼圧に影響する因子の多変量解析において,測定する眼圧計の違いや緑内障の有無が危険因子となった一方,年齢が危険因子とならなかった理由としては,今回の検診対象の年齢幅が50,55,60歳と限定されていることが影響していると考えられる.緑内障と診断された例の視野検査結果の程度分類では,初期例が70%以上を占めたが,中期・末期例も15%程検出され,早期に緑内障を発見し治療を開始する必要性が確認された.検診の精度を測るうえで,精検を受けたものが実際緑内障である割合を示す精検陽性率が重要であるが,他の住民検診のデータ7.15)では12.8%.28.6%であり,本検診の20.6%と同様であった.緑内障検出率は,40歳代を対象とした平成18・19年は約1%2),50歳代を対象とした平成20年以降は2%弱であったが,対象年齢を10歳高くしたことに伴う検出率の上昇は,多治見スタディ5,6)でも示されたごとく,高齢化に伴い緑内(106) 障の有病率が上昇することに起因する可能性が高いと推察される.本検診における50,55,60歳の平均緑内障検出率1.8%は,多治見スタディで示された50.59歳での緑内障有病率2.9%より低く,過去の住民検診14,15)や人間ドックのデータ16,20.22)の中には0.15.1.48%と比較的低い検出率のものも多いが,対象年齢構成や検診方法などの違いから単純な比較は困難であることを考慮しても,疫学調査と比しても遜色のない検出率(2.4.5.3%)を誇るデータ8,10,13,16,17)も散見される.本検診で緑内障と最終診断されたものの検診受診者に占める割合は,原発開放隅角緑内障0.2%,正常眼圧緑内障1.5%で広義の開放隅角緑内障としては1.7%であり,多治見スタディにおける50.59歳での広義の開放隅角緑内障の有病率2.7%と比すると低値であるが,原発閉塞隅角緑内障0.2%(多治見スタディの50.59歳のデータ0.2%),高眼圧症1.1%(多治見スタディの全体データ0.8%)は同様の値であった.本検診における緑内障全体の検出率が低値であった原因として考えられるのは,①すでに緑内障と診断され治療を受けている人は,この検診の対象外であること,②受診率が低く,検診受診者に偏りがある可能性があること,③精検受診勧奨した人の精検受診率が平均で85.1%であり,精検を受けなかった人のなかに緑内障の人が存在する可能性があり,精検未受診のなかに同様の比率で緑内障が存在すると仮定した補正検出率は1.8%×100/85.1=2.1%であること,④最終診断で緑内障と診断された割合は精密検査受診者の20.6%に留まっており,検診の精度という面においては課題が残っていて,検診での見逃しやデータ漏れを厳しく検証するシステムがまだ確立していないこと,⑤最終診断で「緑内障疑い」とされた106例(開放隅角緑内障〔広義〕の疑い101例,閉塞隅角緑内障5例)は,検診受診者の2.3%,精検受診者の26.0%にも上り,実際に緑内障と診断されるより大きい割合を占めるが,そのなかには,眼底写真が不鮮明,視野検査の信頼度が低いなどのさまざまな理由で緑内障と診断決定できないものの本当は緑内障である例や,近視性の眼底変化により緑内障性視神経障害が判定しにくい例が含まれていること,⑥実際に今回の検診で検出された開放隅角緑内障(広義)の検診受診者に対する割合は1.7%であるが,開放隅角緑内障(広義)の疑い2.2%と合わせて3.9%となり,多治見スタディでの疑いも含めた広義の開放隅角緑内障の有病率(50.59歳)が4.5%であることと遜色ない結果である,などが挙げられる.今回筆者らは,平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告した.発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.公的眼科成人検診の礎となるべく,検診受診年齢枠の拡大や受診率アップ,検診精度のよりいっそ(107)うの向上が望まれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)金沢市医師会緑内障検診委員会:狩野宏成,中川寛忠,藤村和昌ほか:金沢市緑内障検診.日本の眼科78:929-932,20073)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-156,20034)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20046)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:theTajimiStudyreport2.TheprevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20057)塩瀬芳彦,北澤克明,塚原重雄ほか:日本における緑内障疫学共同調査.あたらしい眼科7(Suppl1):7-13,19908)関保,濱畑和男,下村直樹ほか:東京都大田区における緑内障検診について.日本の眼科83:1049-1051,20129)石川誠:緑内障検診(1).あたらしい眼科27:207-208,201010)OhkuboS,TakedaH,HigashideTetal:Apilotstudytodetectglaucomawithconfocalscanninglaserophthalmoscopycomparedwithnonmydriaticstereoscopicphotographyinacommunityhealthscreening.JGlaucoma16:531-538,200711)鈴木万里子,安間哲史:愛知県眼科医会第2回「緑内障無料検診」事業について.日本の眼科78:1467-1470,200712)向井聖:緑内障集団検診の有用性について.厚生連尾道総合病院医報15:45-47,200513)勝島晴美,曽根聡,竹田明ほか:眼圧測定法の違いが緑内障検診結果に及ぼす影響.日眼会誌106:143-148,200214)弓削経夫,浅山孝彦,飯田洋子ほか:京都市伏見区の緑内障検診.日本の眼科63:631-635,199215)中村二郎,横井さち代,角屋博孝ほか:滋賀県湖北地区における緑内障検診システムとその問題点.臨眼45:919923,199116)冨岡敏也,原雅文,菊池英弥ほか:当院の人間ドックにおける緑内障スクリーニングの検討.眼臨101:5-6,200717)野田康子:当院人間ドックにおける緑内障検診の検討.弘前市立病院医誌13:52-55,200418)須網政浩,青島真一:浜松赤十字病院健診センターにおける緑内障検診の検討.浜松赤十字病院医学雑誌4:86-90,2003あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141529 19)中野匡,和田高士:総合検診におけるFrequencyDoublingTechnology視野計を用いた緑内障検診への応用.健康管理事業団研究助成論文集XVIII:35-42,200220)日比野佐和子,大鳥安正,渡辺仁ほか:人間ドックにおける緑内障検診の検討.眼紀52:652-655,200121)宮内修,伊藤彰,佐野信昭ほか:人間ドックにおける緑内障スクリーニングテスト.臨眼52:1151-1154,199822)山口洋,石龍良江,加藤桂一郎ほか:福島県における緑内障検診に関する検討.あたらしい眼科9:1046-1050,1992***1530あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(108)

眼科ドックにおける眼科疾患の発見

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1413.1416,2014c眼科ドックにおける眼科疾患の発見井上賢治黒栁優子高松俊行井上智子小栗真美岡山良子井上眼科病院OphthalmicDiseaseFindingsinOphthalmicCheckUpKenjiInoue,YukoKuroyanagi,ToshiyukiTakamatsu,SatokoInoue,ManamiOguriandRyokoOkayamaInouyeEyeHospital目的:井上眼科病院(以下,当院)では眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.眼科ドックを受診した患者の特徴を検討した.対象および方法:眼科ドックを受診した249例(男性102例,女性147例)を対象とした.視力検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),眼圧測定,眼位検査,涙液検査,調節機能検査,両眼視機能検査,細隙灯検査,眼底写真撮影,光干渉断層法(OCT)検査を施行し,異常を有する症例は「2次検査必要」と診断した.2次検査を当院で行った症例の結果を調査した.結果:2次検査必要症例は30例(12.0%)だった.内訳は緑内障疑い16例,白内障4例,黄斑異常2例,ドライアイ疑い2例などだった.2次検査を19例(7.6%)が当院で行い,最終診断は白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例などだった.結論:眼科ドックは自覚症状を有さない眼科疾患の早期発見に有用である.Purpose:Toreportonearly-stageeyeproblemdiscoveryinthosewhounderwentophthalmiccheckupatInouyeEyeHospital.SubjectsandMethods:Subjectswere249caseswhounderwenttheophthalmiccheckupcomprisingvisualacuity,visualfield,tonometry,eyeposition,lacrimalfluid,adjustmentfunction,binocularfunction,slit-lampexamination,fundusphotographyandopticalcoherencetomography(OCT)examination.Unusualcasesunderwentasecondinspection.Theresultsofthesecondinspectionwereinvestigated.Results:Thosereceivingasecondinspectionnumbered30cases(12.0%).Classificationwas:suspectedglaucomain16cases,suspectedcataractin4cases,maculaabnormalityin2casesandsuspecteddryeyein2cases.Ofthe30casesrequiringasecondinspection,19(7.6%)receiveditatourhospital.Finaldiagnosiswas3casesofcataract,2casesofglaucomaand2casesofepiretinalmembrane.Conclusion:Ophthalmiccheckupisusefulintheearlydetectionofeyediseasesthatdonothavesubjectivesymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1413.1416,2014〕Keywords:眼科ドック,眼科疾患,緑内障,白内障,黄斑上膜.ophthalmiccheckup,eyedisease,glaucoma,cataract,epiretinalmembrane.はじめに眼科疾患は全身性の疾患と同様に早期発見・早期治療が重要である.疫学調査での有病率は緑内障では40歳以上の5%1),加齢黄斑変性症では50歳以上の1.3%(滲出型1.2%,萎縮型0.1%)2)と報告されている.眼科疾患の早期発見のむずかしい点として,目は両眼あり,たとえ片眼に異常が生じてももう片眼がそれをカバーしてしまう点がある.また,緑内障のように初期には自覚症状が出現しない疾患もあり,早期発見がむずかしい.眼科疾患の早期発見の試みとして,住民健診を自治体が,企業健診を企業が,人間ドックを民間の業者が行っている.しかし,全国の自治体での成人眼検診の実施状況を調査した報告では,成人眼検診を実施している自治体は全体の16.3%と低率だった3).さらに,これらの健診での眼科検査は視力検査,眼圧測定,眼底写真撮影のみの場合が多い.そして,眼底写真撮影を受診者全員に行っている自治体においても,その41.7%の自治体では眼科医師が本来行うべき判定を眼科医師以外が行っている3).このような状況のなかでの眼科疾患の早期発見は困難と考え,井上眼科病院(以下,当院)では全身のスクリーニング〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(165)1413 (例)10100908070605040302010030歳代40歳代を行う人間ドックの眼科版である眼科ドックを2012年5月より開始した.今回,当院の眼科ドックを受診した人の特徴を後ろ向きに調査した.I対象および方法2012年5月から2013年3月の間に当院の眼科ドックを受診した249例を対象とした.眼科的な自覚症状を有さない人を対象とし,自覚症状を有する人には眼科ドックではなく,眼科受診を勧めた.性別は男性102例,女性147例だった.平均年齢は52.8±11.8歳(平均値±標準偏差),年齢は20.87歳までだった.年代別には40歳代が78例(31.3%)で最多だった(図1).眼科ドックには2つのコースがあり,通常コースは他覚的屈折検査,自覚的視力検査,眼圧測定,眼位検査,眼底写真撮影,涙液検査(Schirmerテスト),スペシャルコースは通常コースに加えて調節機能検査,両眼視検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),三次元眼底解析検査〔opticalcoherencetomography(OCT)による黄斑部の観察〕を施行した.対象の内訳は,通常コース99例,スペシャルコース150例だった.各種検査を施行後,眼科医師が細隙灯顕微鏡による診察を行った.4人の眼科医師が交代で担当した.各検査での異常の有無を確認し,それらの結果を基として,「異常なし」「経過に注意しましょう」「診察を受けましょう」「治療を受けましょう」の4段階で評価し,総合判定とした.なお,緑内障疑いは22mmHg以上の高眼圧,視野検査による異常,視神経乳頭陥凹拡大,網膜神経線維層欠損のいずれかを認める症例とした.調節機能検査の異常は調節機能が年齢との解離を認める症例とした.「診察を受けましょう」と「治療を受けましょう」と診断された症例には2次検査を受けるように指導した.年代ごとに2次検査必要症例と非必要症例の頻度を1414あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014図1眼科ドック受診者の年齢8例,3.2%20歳代20例,8.0%78例,31.3%74例,29.7%44例,17.7%20例,8.0%5例,2.0%■:男:女50歳代60歳代70歳代80歳代算出し比較した(c2検定).その後,2次検査を当院で行った症例について結果を調査した.II結果眼科ドックの総合判定は「異常なし」114例(45.8%),「経過に注意しましょう」105例(42.2%),「診察を受けましょう」27例(10.8%)「治療を受けましょう」3例(1.2%)だった(図2).2次検査必(,)要症例は30例(12.0%)だった.年代別の総合判定では20歳代が70歳代,80歳代に比べて有意に2次検査必要症例が少なかった(p<0.05)(図3).2次検査必要症例(30例)における各検査の異常は,矯正視力1.0未満の症例10例(33.3%),視野異常6例(20.0%),21mmHgを超える高眼圧症0例(0%),眼位異常1例(3.3%),Schirmerテスト10mm以下4例(13.3%),調節機能検査異常5例(16.7%),両眼視機能異常4例(13.3%),眼底異常17例(56.7%),OCT検査異常12例(40.0%)だった.2次検査必要症例の内訳は,緑内障疑い16例(53.3%),白内障4例(13.3%),黄斑部異常2例(6.7%),ドライアイ疑い2例(6.7%),表層角膜炎1例(3.3%),眼球振盪1例(3.3%),網膜色素変性症疑い1例(3.3%),外斜視1例(3.3%),網膜血管硬化症1例(3.3%),眼瞼下垂1例(3.3%)だった(図4).2次検査で当院を受診した症例は19例だった.それら19例の最終診断は,白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例,視神経乳頭陥凹拡大2例,眼瞼下垂1例,ドライアイ1例,網膜色素変性症1例,外斜視1例,網脈絡膜萎縮1例,異常なし5例だった.2次検査で緑内障と診断された2例は,62歳男性と66歳男性で正常眼圧緑内障だった.眼圧は前者は右眼15mmHg,左眼14mmHg,後者は両眼13mmHgだった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardのmeandeviation値は前者は右眼.1.37dB,左(166) 治療を受け診察を受けましょうましょう3例,1.2%27例,10.8%異常なし114例,45.8%経過に注意しましょう105例,42.2%図2眼科ドックの総合判定緑内障疑い16例,53.3%白内障4例,13.3%その他6例,20.0%ドライアイ疑い2例,6.7%黄斑異常2例,6.7%図4眼科ドックの2次検査必要症例眼.1.32dB,後者は右眼.1.16dB,左眼.6.07dBだった.III考按人間ドックや健康診断における眼科疾患の検出の有用性についての報告は多い4.14).緑内障に関しては緑内障の受診機転の調査4,5)や2次検査での緑内障発見率の報告6)がある.また,糖尿病網膜症7),黄斑部病変8),白内障9)の検出にも役立っている.2010年に人間ドックを受診した694施設3,077,352例の調査では,眼科に関しては要経過観察が288,764例(9.4%),要医療が100,420例(3.3%),要精査199,516例(6.5%)だった10).今回の2次検査必要症例は12.0%だったので笹森の報告10)の要医療+要精査9.8%より多かった.これは今回のドックのほうが眼科に関する検査項目が多いためと考えられる.人間ドックや健康診断での従来の検査に追加してfrequencydoublingtechnology(FDT)視野計による視野検査を導入したところ,緑内障の検出率が上昇したとの報告が多数ある11.13).宮本らは人間ドックにおいて緑内障の発見率が眼底写真,眼圧のみの検査では0.23%だったが,FDTによる視野検査を加えたところ,1.68%に上昇したと報告した11).(167)40.0%60.0%80歳代5.0%95.0%70歳代20.5%79.5%60歳代**10.8%89.2%50歳代11.5%88.5%40歳代5.0%95.0%30歳代100.0%20歳代0.0%20.0%40.0%60.0%80.0%100.0%■:2次検査必要:2次検査不要*p<0.05(c2検定)図3年齢別の眼科ドックの総合判定筆者らも人間ドックでの緑内障の有病率をFDT視野検査導入前後で検討した12,14).FDTによる視野検査導入前は視力測定,眼圧測定,眼底写真撮影を行っていた.緑内障の有病率はFDT導入前14)は1.17%,FDT導入後12)は1.76%に向上した.稲邊らは職員健診の際に238例の受診者に対して眼圧測定,眼底写真撮影,FDT視野検査を行った13).FDT検査で30例(12.6%)に視野異常を認め,そのうち10例が眼科を受診し,7例が緑内障あるいは緑内障疑いと診断された.一方,FDTで異常を認めず眼底写真で異常を認めた12例のうち8例が眼科を受診したが,緑内障疑いが1例認められたのみだった.Tatemichiらは,企業健診で14,814例の受診者にFDT視野検査を付加して導入したところ,過去の健診で発見されなかった緑内障を167例(1.13%)で検出した9).今回視野検査としてFDTではなく,Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.この検査はHumphrey視野閾値検査に比べて短時間で施行できる.また30°内76点の検査を行い,通常の緑内障診断で使用するHumphrey視野プログラム中心30-2と同様の配列検査点であり,緑内障検出に優れていると考えられる.林らは健診にて視野異常が疑われた症例にHumphrey視野計の全視野スリーゾーンスクリーニングプログラム120点を施行し,有用であったと報告した15).今回の眼科ドックには通常コースとスペシャルコースがあるが,緑内障検出の面からの違いは,スペシャルコースで視野検査を行っている点である.通常コースとスペシャルコースを比較すると,2次検査必要症例は通常コース12.1%(12例/99例),スペシャルコース12.0%(18例/150例)で同等だった.そのなかで緑内障疑い症例は通常コース5.1%(5例/99例),スペシャルコース7.3%(11例/150例)で,スペシャルコースのほうがやや多かった.2次検査を当院で施行した症例の最終診断における緑内障は通常コース0例,スペシャルコース2例だった.視あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141415 野検査が緑内障の検出に過去の報告9,11.13)と同様に有用であった.緑内障の定義は「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である.」と記されている16).今回視野検査を行うことで眼底検査による視神経の観察と合わせて緑内障疑いの診断が向上したと思われる.しかし,緑内障以外の疾患による視野障害を検出したり,初回検査ゆえに検査に対する十分な理解が得られず異常を検出(偽陽性)したりする可能性がある.これらの欠点を取り除くために視野検査として短時間で施行できるHumphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.今回視野検査に異常が検出された6例のうち当院で2次検査を施行した症例は5例だった.視野異常の原因は緑内障2例,網膜色素変性症1例,眼瞼下垂1例,Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardでは異常なし1例だった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardで異常が検出されなかった症例は視神経乳頭形状も正常だった.今回の視野検査による視野障害の部位から頭蓋内疾患を疑わせる症例はなかった.眼科ドックで検出された眼疾患は,白内障,緑内障,黄斑上膜,眼瞼下垂,ドライアイ,網膜色素変性症,外斜視,網脈絡膜萎縮と多岐にわたっていた.また,疾患ではないが視神経乳頭陥凹拡大を認める症例もあった.過去の報告10)においても緑内障以外に白内障,網膜中心動・静脈閉塞症,網膜色素変性,黄斑変性症,糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮などを検出した.当院の眼科ドックでは視力検査,眼圧検査,眼底写真撮影の他に通常コースにおいては眼位検査,涙液検査,細隙灯顕微鏡検査,スペシャルコースにおいては調節機能検査,両眼視検査,視野検査,三次元眼底解析検査を行っている.細隙灯顕微鏡検査から眼瞼下垂,涙液検査からドライアイ,眼位検査や両眼視検査から外斜視,三次元眼底解析検査や眼底写真撮影から黄斑部異常(黄斑上膜)が検出できたと考えられる.一方,2次検査を当院で行った19例のうち5例(26.3%)では特に疾患はなく,これらは偽陽性例と考えられる.通常の健康診断や人間ドックよりも今回の眼科ドックにおいて多数の検査を行っているためと考えられる.当院で眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.その後の2次検査により,白内障,緑内障,黄斑上膜などが検出された.眼科ドックは自覚症状を有さない人の眼科疾患の発見に有用だった.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation.theHisayamaStudy.Ophthalmology116:2135-2140,20093)川島素子,阿久根陽子,山田昌和:公的な成人眼検診の実施状況.日本の眼科83:1036-1040,20124)相馬久実子,大竹雄一郎,石川果林ほか:広義の開放隅角緑内障の受診機転および家族歴.あたらしい眼科22:1401-1405,20055)佐藤裕理,谷野富彦,大竹雄一郎ほか:慶應義塾大学病院における正常眼圧緑内障患者の受診機転.あたらしい眼科21:405-408,20046)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:人間ドックで緑内障が疑われた症例.あたらしい眼科22:683-685,20057)野村工,堀田一樹.人間ドックでの糖尿病患者の網膜症新規発症と背景.あたらしい眼科22:1577-1581,20058)元勇一,文鐘聲,黒住浩一ほか:当院における成人病健診の眼底スクリーニングと健診アンケート結果.人間ドック19:403-408,20049)TatemichiM,NakanoT,TanakaKetal:Performanceofglaucomamassscreeningwithonlyavisualfieldtestusingfrequency-doublingtechnologyperimetry.AmJOphthalmol134:529-537,200210)笹森典雄:2010年人間ドック全国集計成績.人間ドック26:638-683,201111)宮本祐一,木村美樹,柿本陽子ほか:人間ドックへの視野検査導入の意義について.人間ドック27:36-40,201212)井上賢治,奥川加寿子,後藤恵一:FrequencyDoublingTechnology導入後の人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科21:117-121,200413)稲邊富實代,高谷典秀,場集田寿ほか:正常眼圧緑内障早期発見を目的としたFrequencyDoublingTechnology視野計の予防医療導入の検討.人間ドック24:31-38,200914)荻原智恵,奥川加寿子,井上賢治:人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科19:521-524,200215)林裕美,木村奈都子,小林昭子ほか:Humphrey自動視野計によるスクリーニング─全視野スリーゾーンの臨床試用─.眼科39:1507-1511,199716)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,2012***1416あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(168)

身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)

2014年7月31日 木曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(7):1029.1032,2014c身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)瀬戸川章*1井上賢治*1添田尚一*2堀貞夫*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofPhysicalDisabilityCertificateDeclaredbyGlaucomaPatients(2012)AkiraSetogawa1),KenjiInoue1),ShoichiSoeda2),SadaoHori2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討.対象および方法:2012年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のなかで視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例,平均年齢72.4±12.5歳)を対象とした.申請時の緑内障病型,障害等級を調査した.さらに2005年に行った同様の調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障が46例(63.0%)と最多であった.障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)とを合わせて70%を超えていた.結論:原発開放隅角緑内障で重症例が多かった.2005年の調査と比較して,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Purpose:Toreporttheresultsofglaucomapatients’applicationforvisuallyhandicappedstatuscertification.ObjectsandMethod:Thisretrospectivestudyinvolved73patients(36males,37females,averageage:72.4±12.5years)whoappliedforthephysicallyhandicappedpersons’cardforvisualimpairmentfromJanuarythroughDecember2012,byregularlygoingtoInouyeEyeHospitalandNishikasai-InouyeEyeHospital.Glaucomatypeandgradeattimeofapplicationwereinvestigatedandcomparedwiththesameinvestigationconductedatourinstitutionin2005.Results:Primaryopen-angleglaucomanumbered46cases(63.0%),themostnumeroustype.Theclassesexceeded70%forthecombinedfirstgrade(13cases,17.8%)andsecondgrade(40cases,54.8%).Conclusion:Incomparisonwiththe2005surveyresults,glaucomatypeandgradeatthetimeofapplicationforthephysicallydisabledcertificatedidnotchange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1029.1032,2014〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycertificate.はじめに井上眼科病院におけるロービジョン専門外来受診者の実態を以前に報告した1).そのなかで原因疾患の第1位は緑内障(49%),第2位は網膜色素変性症(17%)であった.斉之平ら2)は,鹿児島大学附属病院のロービジョン外来受診者の原因疾患は,第1位は黄斑変性(52%),第2位は緑内障(30%)と報告した.ロービジョン外来を受診する原因疾患として緑内障は高い割合を占めると考える.身体障害者手帳申請者は井上眼科病院での2005年調査3)では,緑内障(23%),網膜色素変性症(17%),黄斑変性(12%)が原因疾患の上位を占めていた.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院での2009年調査4)では,第1位は網膜色素変性症(28.0%),第2位は緑内障(22.5%),第3位は網脈絡膜萎縮(11.9%)であった.視覚障害者を対象とした調査では,大澤ら5)は,変性近視,糖尿病網膜症,緑内障が,高橋6)は糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮,緑内障が,谷戸ら7)は糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性症が原因疾患の上位であると報告している.視覚障害の原因疾患としても,やはり緑内障は高い割合を占めると考える.ロービジョン外来受診者や身体障害者手帳取得者の原因疾患として緑内障は上位である.それらの緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点からは重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,また病型により重症度や身体障害者手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで井上眼科病院において2005年に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った緑内障患者の実態を報告した8).今回筆者らは,井上〔別刷請求先〕瀬戸川章:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkiraSetogawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)1029 眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2012年に身体障害者手帳の申請に至った疾患の第1位である緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2005年調査8)と比較した.I対象および方法2012年1.12月までに井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のうち,同時期に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例)を対象とし,後向きに研究を行った.年齢は35.92歳で,平均年齢は72.4±12.5歳(平均±標準偏差)であった.身体障害者手帳申請時の緑内障病型,視力,視野,障害等級を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.2005年に井上眼科病院で行った同様の調査8)と緑内障病型ならびに視覚障害等級の内訳をIBM統計解析ソフトウェアSPSSでANOVAおよびc2検定を用いて比較した.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障の4群として検討した.2005年調査8)と今回調査の違いは,対象者が2005年調査8)では井上眼科病院通院中の患者のみだったため35例で,今回の73例より少なかった.また,2007年にも井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で視覚障害による身体障害者手帳申請者の調査を行った4)が,そのなかの緑内障患者についての詳細な検討は行わなかったため,表1視力障害と視野障害の内訳視力1級2級3級4級5級6級申請なし視野2級042928195級0001022申請なし8225252005年■原発開放隅角緑内障2012年n=35■正常眼圧緑内障n=73■原発閉塞隅角緑内障今回は2005年調査8)と比較した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障46例(63.0%),続発緑内障18例(ぶどう膜炎後10例,落屑緑内障6例,血管新生緑内障2例)(24.7%),原発閉塞隅角緑内障5例(6.8%),正常眼圧緑内障4例(5.5%)であった.視覚障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)3級2例(2.7%),4級7例(9.6%),5級6例(8.2%),6級(,)5例(6.8%)であった.病型別の障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級10例(21.7%),2級28例(60.9%),3級1例(2.2%),4級2例(4.3%),5級3例(6.5%),6級2例(9.4%)であった.続発緑内障では1級3例(16.7%),2級8例(44.4%),3級1例(5.6%),4級3例(16.7%),5級1例(5.6%),6級2例(11.1%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級2例(40.0%),5級1例(20.0%)であった.正常眼圧緑内障では2級2例(50.0%),5級1例(25.0%),6級1例(25.0%)であった.緑内障の病型別に障害等級に差はなかった(p=0.3265).視力障害を申請したのは52例,視野障害を申請したのは49例であった.その内訳は,視力障害は1級8例,2級6例,3級4例,4級15例,5級4例,6級15例で,視野障害は2級44例,5級5例であった.重複障害申請を行ったのは28例であった.その内訳は視野障害2級・視力障害2級が4例,視野障害2級・視力障害3級が2例,視野障害2級・視力障害4級が9例,視野障害2級・視力障害5級が2例,視野障害2級・視力障害6級が8例,視野障害5級・視力障害4級が1例,視野障害5級・視力障害6級が2例であった(表1).2005年調査8)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障15例(42.9%),正常眼圧緑内障7例(20.0%),原発閉塞隅角緑内障4例(11.4%),血管新生緑内障4例(11.4%),落屑緑内障2例(5.7%),ぶどう膜炎による続発緑内障1例(2.93級2012年n=35■4級■5級■6級n=732005年■1級■2級42.92011.425.7635.56.824.7■続発緑内障22.942.9011.414.38.517.854.82.79.68.26.8図1緑内障病型の比較図2視覚障害等級の比較2005年調査と今回調査で緑内障病型に有意差はない.2005年調査と今回調査で視覚障害等級に有意差はない.1030あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(104) %),白内障手術による続発緑内障1例(2.9%),外傷性緑内障1例(2.9)であった.視覚障害等級は1級8例(22.9%),2級15例(42.9%),4級4例(11.4%),5級5例(14.3%),6級3例(8.5%)であった.今回と2005年調査8)との比較では,緑内障病型(p=0.066,図1)と障害等級(p=0.706,図2)ともに同等であった.III考按ロービジョンサービスの対象者は日本眼科医会では約100万人と推定している9).ロービジョン外来あるいは視覚障害の原因疾患として高い割合を占める緑内障患者の身体障害者手帳申請について今回は検討した.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院し,視覚障害による身体障害者手帳を申請した患者は236例で,原因疾患は緑内障73例,網膜色素変性症41例,黄斑変性症25例,糖尿病網膜症22例の順に多かった.一方,井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に同時期に通院した患者は130,281例であった.疾患別の内訳は緑内障39,745例,糖尿病網膜症18,796例,黄斑変性症11,458例,網膜色素変性症2,838例などであった.疾患別の視覚障害による身体障害者手帳の申請率は各々緑内障0.18%,網膜色素変性症1.44%,黄斑変性症0.22%,糖尿病網膜症0.12%であった.網膜色素変性症患者の割合が高く,他の疾患はほぼ同等であった.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院した緑内障患者は39,745例であった.これらの症例の緑内障病型は不明である.一方,2012年3月12.18日までに両院を含めた39施設で行った緑内障実態調査では正常眼圧緑内障47.6%,原発開放隅角緑内障27.4%,続発緑内障10.3%,原発閉塞隅角緑内障7.6%などであった10).今回の結果と比べると,今回のほうが正常眼圧緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多く,原発閉塞隅角緑内障はほぼ同等であった.つまり正常眼圧緑内障では身体障害者手帳に該当するほどの重症例は少なく,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では重症例が多いと考えられる.しかし,緑内障の病型別に障害等級に差はなく,身体障害者手帳に該当するほどの重症例においては個々の症例で重症度が異なり,一定の傾向はない.今回,視力障害の申請は1.6級まですべての等級に及んだが,視野障害の申請は2級と5級のみであった.これは1995年の身体障害者手帳の視覚障害の基準が改定され,視野障害の基準が緩やかになったが,やはり緑内障の視野障害の特徴が評価しがたいためではないかと思われる.今後,緑内障の視野障害も段階的に評価できるような,視覚障害の基準が制定されることを願う.しかし,視力障害と視野障害の重複障害により障害等級が上がった症例も6例あり,それら(105)の症例では制度の恩恵を受けていると考えられる.視覚障害を自覚してロービジョン外来を受診しても,身体障害者に該当しない患者がいる1).このことは,身体障害者手帳の申請に至っていない緑内障患者のなかにも,視覚障害の問題を抱える多くの患者が存在していることを示唆している.緑内障は末期まで視力が比較的よいのが特徴である.現在の視覚障害等級の基準だけで,患者のQOLをすべて評価することはむずかしく,視覚障害による身体障害者手帳の該当がなくてもロービジョンケアの必要性を考慮すべきである.身体障害者に該当するにもかかわらずさまざまな理由で身体障害者手帳の申請がなされていない患者についても報告されている5,7).藤田らは手帳取得に該当することを知らされていないこと,手帳を有した場合の福祉サービスについて情報が十分に伝達されていないことなどが要因の一つと報告している11).また,低い等級では該当していても申請を行わない症例もあるためと思われる.身体障害者手帳の取得は障害の告知と受容を意味するばかりでなく,ロービジョンサービスを充実させるための一つの手段である.2005年調査8)と今回調査の結果はほぼ同等であった.2005.2012年までの7年間にさまざまな緑内障点眼薬が新たに使用可能になった.しかし,依然として視覚障害による身体障害者手帳申請者の上位を緑内障が占め,緑内障病型や障害等級も変化はなかった.今後は2012年に緑内障チューブシャント手術が認可されたので緑内障による視覚障害者が減少することが期待される.2012年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による身体障害者手帳を申請した緑内障患者73例について調査した.病型は原発開放隅角緑内障が63.0%で最多で,障害等級は2級以上が72.6%を占めていた.2005年調査8)との変化は特になかった.今後も社会の高齢化に伴い視覚障害者も増加すると考えられる.改めて,円滑なロービジョンケアの提供,妥当な身体障害者手帳申請が日常外来において必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鶴岡三恵子,井上賢治,若倉雅登ほか:井上眼科病院におけるロービジョン専門外来の実際.臨眼66:645-650,20122)斉之平真弓,大久保明子,坂本泰二:鹿児島大学附属病院ロービジョン外来における原因疾患別のニーズと光学的補助具.眼臨紀5:429-432,20123)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20074)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院におけるあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141031 視覚障害による身体障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20115)大澤秀也,初田高明:外来における視覚障害患者の検討.臨眼51:1186-1188,19976)高橋広:北九州市内19病院眼科における視覚障害者の実態調査.第1報.視覚障害者と日常生活訓練.臨眼52:1055-1058,19987)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,8)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20079)日本眼科医会(編):あきらめないでロービジョン─社会復帰への道.199110)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,201311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***1032あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(106)

プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):917.921,2014cプロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性林泰博*1,2林福子*2*1清川病院眼科*2林眼科クリニックEfficacyandSafetyofAddingBrimonidine0.1%toProstaglandinAnalogueTreatmentfor6MonthsYasuhiroHayashi1,2)andSachikoHayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2)HayashiEyeClinic目的:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者に,2剤目としてブリモニジン点眼を追加したときの有効性と安全性について報告する.対象および方法:3カ月以上プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者18例27眼を対象とした.男性4例,女性14例で,年齢は38.86歳,平均74歳である.0.1%ブリモニジン点眼を追加し,1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また局所の安全性は角膜障害,充血,掻痒感について評価した.結果:ブリモニジン開始前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,1カ月後は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),3カ月後は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),6カ月後は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)と,いずれも有意に低下した.拡張期血圧は点眼追加1カ月後,6カ月後で有意に下降し,脈拍数は点眼追加1カ月後に有意に増加したが自覚症状はなかった.眼局所の副作用も有意な変化は認めなかった.結論:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者へのブリモニジン点眼追加により,さらなる眼圧下降効果が得られ,眼圧下降効果は6カ月間持続した.Purpose:Toreporttheeffectofaddingbrimonidineophthalmicsolutiontotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogue.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved27eyesof18patients(4males,14females;agerange:38to86years,average74years)whowerebeingtreatedbytopicalprostaglandinanaloguefor3monthsorlonger;theystartedreceiving0.1%brimonidineadditionally.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,pulserate,ocularsurfacedamage,conjunctivalinjectionanditchingwerecheckedafter1,3and6monthsoftreatment.Result:IOPaveraged12.2±3.3mmHgbeforeadditionaltreatment,10.2±2.2mmHg(p<0.0001)after1month,9.7±1.8mmHg(p<0.0001)after3months,and10.3±2.6mmHg(p<0.0005)after6months.IOPthusdecreasedsignificantlyafteradditionaltreatment.Diastolicbloodpressuredecreasedsignificantlyafter1monthand6monthsoftreatment.Pulserateincreasedsignificantlyafter1monthoftreatment,withoutsubjectivesymptoms.Nostatisticaldifferenceinocularsymptomswasobservedatanyobservationtime.Conclusion:BrimonidineophthalmicsolutionaddedtotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogueinducedfurtherdecreaseinIOPfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):917.921,2014〕Keywords:ブリモニジン,プロスタグランジン,眼圧,安全性,緑内障.brimonidine,prostaglandin,intraocularpressure,safety,glaucoma.はじめに緑内障治療における唯一のエビデンスが眼圧下降によるものであり,その中心となるのが緑内障点眼薬である.緑内障点眼液はまず単剤で開始し,単剤で目標眼圧に達することができない場合は緑内障ガイドラインに基づき薬剤の変更を図り,なお目標眼圧に達することができない場合は薬剤の追加(多剤併用療法)となる1).多剤併用療法の基本は薬理作用の異なる薬剤を組み合わせることであり,第一選択薬として広く使用されているプロスタグランジン(PG)関連薬に追加する場合,薬理作用が重複しないことが望ましい.ブリモニジ〔別刷請求先〕林泰博:〒248-0006神奈川県鎌倉市小町2-13-7清川病院眼科Reprintrequests:YasuhiroHayashi,DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2-13-7Komachi,Kamakura-shi2480006,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(143)917 ン点眼液は交感神経a2アドレナリン受容体作動薬であり,房水産生抑制と,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進という2つの機序による眼圧下降作用をもつことから,海外ではPG関連薬2.5)やb遮断薬6,7)に追加する,あるいはb遮断薬との配合剤といった使われ方で広く普及している.しかし,わが国でブリモニジンは2012年1月に承認されたばかりであり,国内の報告は少ない.また,海外では1996年の承認後,点眼液の濃度や防腐剤が変遷しており,海外の報告とわが国の報告を単純に比較することはむずかしく,わが国での知見の蓄積が待たれる.今回筆者らは,前回の報告8)からさらに観察期間を延長し,ブリモニジン点眼液をPG関連薬単剤に追加した際の有効性,安全性につき検討したので報告する.I対象および方法2012年5月.2013年2月の間で3カ月以上PG関連薬を単剤で使用中の患者のうち,目標眼圧に達していない緑内障患者に十分な説明のうえ,ブリモニジン点眼液を勧め,同意を得た症例を対象とした.対象は18例27眼,平均年齢73.8±13.5歳(38.86歳,男性4例,女性14例).病型は狭義原発開放隅角緑内障が4例7眼,正常眼圧緑内障が13例19眼,原発閉塞隅角緑内障が1例1眼であった.使用中のPG関連薬の内訳はラタノプロスト点眼液が10例16眼,トラボプロスト点眼液が2例2眼,タフルプロスト点眼液が4例6眼,ビマトプロスト点眼液が2例3眼であった.ブリモニジン点眼液を追加投与前の視野障害の程度は,Goldmann動的視野検査で経過観察した症例が11例17眼で,その内訳は湖崎分類9)でII期までの早期症例が9眼,中期に相当するIII期が6眼,晩期に相当するIV期以降が2眼であった.Humphrey静的視野プログラム30-2で経過観察した症例が5例6眼で,その内訳はAnderson分類10)でmeandeviation(MD)>.6dBの初期症例が2眼,.6dB≧MD>.12dBの中期症例が3眼,.12dB≧MDの後期症例が1眼であった.Octopus静的視野プログラム32で経過観察した症例が2例4眼で,その内訳はMD<6dBの症例が2眼であった.湖崎分類,MD値が早期の症例でも固視点近傍の視野障害が著明な症例が多かった.眼圧はブリモニジン点眼液を追加投与前,追加投与1カ月後,3カ月後,6カ月後のほぼ同時刻に同一検者がGoldmann圧平眼圧計にて測定を行った.血圧および脈拍数は,座位にて5分間,安静にした後に上腕動脈での収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数を測定した.眼局所の副作用については,充血は「正常範囲(0点),軽度(1点),中等度(2点),重度(3点)」,掻痒感は「痒くない(0点),少し痒い(1点),痒いが自制内(2点),痒みが強く点眼継続困難(3点)」のそれぞれ4段階で評価した.点状表層角膜症はAD(area-density)分類11)を用いて評価した.統計学的検定は眼圧,血圧,脈拍数は対応のあるt検定にて,充血などのスコアはWilcoxon符号付順位和検定にて解析を行い,p<0.05を有意水準とした.II結果1.有効性ブリモニジン点眼液を追加投与前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,追加1カ月後の平均眼圧は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),追加3カ月後の平均眼圧は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),追加6カ月後の平均眼圧は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)であり,各時点で有意に下降した(図1.4).眼圧下降幅は追加1カ月後2.0±2.0mmHg,追加3カ月後2.5±2.7mmHg,追加6カ月後1.9±2.2mmHgで,眼圧下降幅に差はなかった(p=0.61).眼圧下降率は追加1カ月後14.3±13.8%,追加3カ月後17.0±17.8%,追加6カ月後13.9±15.1%であった.ブリモニジン点眼液を追加したことで目標眼圧に達した症例は27眼中19眼(70.4%)であった.2.安全性ブリモニジン点眼液を追加投与前の収縮期血圧は135.1±22.0mmHg,追加1カ月後は131.6±20.9mmHg(p=0.41),追加3カ月後は133.2±21.7mmHg(p=0.61),追加6カ月後は135.3±19.3mmHg(p=0.97)であり,各時点で有意差を認めなかった(図5).ブリモニジン点眼液を追加投与前の拡張期血圧は79.4±12.1mmHg,追加1カ月後は74.5±10.0mmHg(p<0.05),追加3カ月後は74.1±11.0mmHg(p=0.09),追加6カ月後は74.1±11.3mmHg(p<0.05)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧が有意に下降した(図6).ブリモニジン点眼液を追加投与前の脈拍数は71.1±12.8回/分,追加1カ月後は75.1±11.3回/分(p<0.05),追加3カ月後は73.1±12.0回/分(p=0.25),追加6カ月後は72.4±11.5回/分(p=0.50)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で脈拍数が有意に増加した(図7).充血スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が1.2±0.6,追加1カ月後では1.0±0.5(p=0.14),追加3カ月後では1.0±0.5(p=0.12),追加6カ月後では1.3±0.4(p=0.77)で,いずれの時点でも差はなかった.掻痒感スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が0.1±0.3,追加1カ月後では0.3±0.5(p=0.14),追加3カ月後では0.0±0.0(p=1.00),追加6カ月後では0.2±0.5(p=0.14)で,いずれの時点でも差はなかった.角膜スコア(A+D)はブリモニジン点眼液を追加投与前が0.6±1.0,追加1カ月後では0.4±0.9(p=0.60),追加3カ月では0.4±0.8(p=0.28),追加6カ月後では0.5±0.9(p=0.81)で,いずれの時点でも差はなかった.観察期間中に点眼継続不可能な症例は認めなかった.918あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(144) 20181816161414(p<0.0001)(p<0.0001)(p<0.0005)12追1カ月後眼圧(mmHg)追加3カ月後眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12108642108642000追加前1カ月3カ月6カ月2468101214161820経過期間追加前眼圧(mmHg)図1眼圧の推移図2眼圧変化の散布図(追加1カ月後)各時点で有意な眼圧の下降を認めた.直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で眼圧は有意に下降した.20181614121086422018161412108642追加6カ月後眼圧(mmHg)000024681012141618202468101214161820追加前眼圧(mmHg)追加前眼圧(mmHg)図3眼圧変化の散布図(追加3カ月後)図4眼圧変化の散布図(追加6カ月後)直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加3カ月後直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加6カ月後で眼圧は有意に下降した.で眼圧は有意に下降した.180100収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)90807060160140120(p<0.05)(p<0.05)1008060402050403020100追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図5収縮期血圧の推移各時点で有意差を認めなかった.III考按今回報告したPG関連薬単剤に対するブリモニジン点眼液の追加効果についての検討は少なく,国内では新家らの市販前調査12)と,筆者らによる3カ月という短期での検討8)のみである.新家らはPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニ(145)0追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図6拡張期血圧の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月,6カ月で有意な拡張期血圧の下降を認めた.ジン点眼液を追加投与し,追加52週間後でベースライン眼圧18.7mmHgから15.9mmHgまで下降したと報告している.筆者らの短期検討ではPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧12.2mmHgから9.7mmHgまで下降した.つぎに海外で3カ月以上の観察期間を設けた報告を参照しあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014919 脈拍数(回/分)1009080706050403020100(p<0.05)追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図7脈拍数の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月で有意な脈拍数の増加を認めた.てみる.Feldmanら2)はトラボプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧21.7mmHgから19.6mmHgまで下降したと報告している.Dayら3)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.1%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン19.6mmHgから16.3mmHgまで下降したと報告している.またBourniasら4)はPG関連薬単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加4カ月後でベースライン21.9mmHgから17.1mmHgまで午前10時の測定時点で下降し,午後4時の測定時点でベースライン20.2mmHgから16.4mmHgまで下降したと報告している.ただしBourniasらによる報告は点眼回数が1日3回である.O’Connorら5)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加1年後でベースライン眼圧21.0mmHgから19.0mmHgまで下降したと報告している.これらの結果は,筆者らの報告以外,いずれも対象が狭義原発開放隅角緑内障,高眼圧症,落屑緑内障を中心に構成された報告であるため,追加前のベースライン眼圧は本研究より高めであるが,眼圧下降幅はおよそ2.3mmHgで,今回の筆者らの結果と同等であり,追加前のベースライン眼圧が低めであってもブリモニジン点眼液の追加投与は有効であると思われる.海外の報告はブリモニジン点眼液の濃度の違い,点眼回数の違い,対象症例の病型の違い,人種差があるため今後わが国でも病型ごとの検討をしていく必要があると思われる.また,ベースライン眼圧が同様に低い研究と比較してみると,田邉らは新規にPG関連薬を投与して,トラボプロストでは13.4mmHgから11.2mmHgへ,タフルプロストでは13.0mmHgから11.1mmHgへ,ビマトプロストでは12.9mmHgから11.1mmHgへ下降したとしている13).試験デザインは異なるものの,このPG関連薬の眼圧下降効果は今回のブリモニジンのものと同等で,第二選択薬として920あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014考えられているブリモニジンの眼圧下降効果としては良好な結果と思われる.ただし24時間を通じて安定した眼圧下降効果を示すPG関連薬と比べ,ブリモニジンは眼圧下降効果のピーク値とトラフ値の差が大きいことが指摘されており14,15),今回の結果が24時間を通じて保たれていたものかどうかについては,日内変動を考慮した検討が必要であると思われた.今回の結果ではブリモニジンの追加で眼圧はさらに下降したにもかかわらず8眼ではさらに視野障害が進行した.今回対象となった症例は,PG関連薬単剤ですでに平均眼圧が12.2mmHgまで下がっていても,視野障害が進行している症例であり,これらの症例は眼圧以外の影響も強く働いている可能性が示唆された.全身性副作用に関しては,今回の結果ではブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧の低下と,追加1カ月後で脈拍数の増加を認めたが自覚症状はなく,投与中止となるものはなかった.新家らの報告16)でも点眼2時間後に収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意に下降したが臨床上問題となるものはなかったと報告している.しかし,筆者らによるブリモニジン点眼の早期報告17)のように,著明に血圧が低下する症例もあり,その影響には個人差があると思われる.新規処方の際には点眼後の涙.圧迫などの基本的操作を今一度確認する必要があると思われる.局所の副作用では充血スコア,掻痒感スコア,角膜障害スコアのいずれも変化はなかった.ブリモニジンは眼圧下降薬としての作用以外にも,a2アドレナリン受容体作動薬としての血管収縮作用があり,海外ではその特性を生かして硝子体注射後の結膜下出血予防への使用18),その他にも屈折矯正手術後の充血,結膜下出血予防に使用している報告19)もある.ブリモニジンには副作用としてアレルギー性結膜炎,充血の発生がかねてより報告20)されているが,今回充血スコアに影響が出なかったのはブリモニジンの血管収縮作用と相殺されたのではないかと思われた.前回の3カ月での報告から観察期間を延長したが,有効性,安全性ともに臨床上問題となることはなかった.本研究はPG関連薬にブリモニジン点眼液を追加するというデザインの研究であったが,PG関連薬間での差については検討しておらず,それが結果に影響した可能性も否定できない.海外でもPG関連薬の種類によるブリモニジン点眼液の追加効果について検討した報告はなく,これからの課題である.今後さらに観察期間を延ばし検討するとともに,正常眼圧緑内障が多いというわが国の特徴を考慮して病型別に評価していく必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(146) 文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)FeldmanRM,TannaAP,GrossRLetal:Comparisonoftheocularhypotensiveefficacyofadjunctivebrimonidine0.15%orbrinzolamide1%incombinationwithtravoprost0.004%.Ophthalmology114:1248-1254,20073)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20084)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20095)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)SimmonsST,EarlML;Alphagan/XalatanStudyGroup:Three-monthcomparisonofbrimonidineandlatanoprostasadjunctivetherapyinglaucomaandocularhypertensionpatientsuncontrolledonbeta-blockers:toleranceandpeakintraocularpressurelowering.Ophthalmology109:307-314,20027)RuangvaravateN,KitnarongN,MetheetrairutAetal:Efficacyofbrimonidine0.2percentasadjunctivetherapytobeta-blockers:acomparativestudybetweenPOAGandCACGinAsianeyes.JMedAssocThai85:894-900,20028)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジンの追加効果.臨眼67:1889-1892,20139)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病気分類.日眼会誌76:1258-1267,197210)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)田邉祐資,菅野誠,山下英俊:正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科29:1131-1135,201214)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200915)vanderValkR,WebersCA,LumleyTetal:Anetworkmeta-analysiscombineddirectandindirectcomparisonsbetweenglaucomadrugstorankeffectivenessinloweringintraocularpressure.JClinEpidemiol62:1279-1283,200916)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験-チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201217)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,201318)KimCS,NamKY,KimJY:Effectofprophylactictopicalbrimonidine(0.15%)administrationonthedevelopmentofsubconjunctivalhemorrhageafterintravitrealinjection.Retina31:389-392,201119)NordenRA:Effectofprophylacticbrimonidineonbleedingcomplicationsandflapadherenceafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:468-471,200220)MundorfT,WilliamsR,WhitcupSetal:A3-monthcomparisonofefficacyandsafetyofbrimonidine-purite0.15%andbrimonidine0.2%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher19:37-44,2003***(147)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014921

ラタノプロスト・チモロール配合点眼液からトラボプロスト・チモロール配合点眼液への切り替え効果

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):913.916,2014cラタノプロスト・チモロール配合点眼液からトラボプロスト・チモロール配合点眼液への切り替え効果永山幹夫永山順子永山眼科クリニックEffectsofSwitchingfromLatanoprost/TimololFixedCombinationtoTravoprost/TimololFixedCombinationMikioNagayamaandJunkoNagayamaNagayamaEyeClinic目的:ラタノプロスト・チモロール配合点眼液(LTFC)をトラボプロスト・チモロール配合点眼液(TTFC)に変更した際の眼圧下降効果と患者評価について検討した.対象および方法:LTFCを投与中の(広義)原発開放隅角緑内障患者34名34眼を対象とした.TTFCに変更し,切り替え前,4週後,8週後の平均眼圧を比較した(t検定).対象を点眼後から眼圧測定までの時間が15時間未満の群と15時間以上の群で分けた場合についても調べた.さらに患者アンケートを行い,どちらの使用感がより好ましいかを調査した.結果:2名が副作用で脱落した.眼圧は切り替え前,4週,8週の時点でそれぞれ15.9±3.0mmHg,15.6±2.6mmHg,15.2±3.5mmHgで8週の時点で有意に下降した.点眼後測定まで15時間未満の群では同様の時点で16.4±1.8mmHg,16.1±1.9mmHg,15.9±3.1mmHg,15時間以上の群では15.3±4.1mmHg,15.0±3.3mmHg,14.3±3.8mmHgであり,15時間以上の群では8週の時点で有意に下降していた.患者評価ではどちらでもよいが20名(63%),TTFCを好ましいが9名(28%),LTFCを好ましいが3名(9%)であった.結論:TTFCは点眼後眼圧測定までの時間が長い場合,LTFCに勝る眼圧下降効果を有する可能性がある.また使用感でもより好まれる傾向がある.Purpose:Toevaluateeffectsonintraocularpressure(IOP)andpatientimpressionsafterswitchingfromlatanoprost/timololfixedcombination(LTFC)totravoprost/timololfixedcombination(TTFC).SubjectsandMethods:In34primaryopen-angleglaucomapatientswhoweretreatedwithLTFCformorethan2months,medicationwaschangedtoTTFCandmeanIOPwascomparedattimeofchangeandat4and8weeksafterthechange(t-test).Thesubjectsweredividedinto2subgroupsaccordingtowhethertheintervalfrominstillationuntilmeasurementwasmoreorlessthan15hours.Wesurveyedthepatientsandinvestigatedwhichregimenwaspreferred,basedonusability.Results:Twosubjectswereexcludedduetosideeffects.IOPwas15.9±3.0mmHgattimeofchange,15.6±2.6mmHgat4weeks,and15.2±3.5mmHgat8weeks.RespectiveIOPsinthesubgroupwithinterval<15hourswere16.4±1.8mmHg,16.1±1.9mmHgand15.9±3.1mmHg.CorrespondingIOPsofthesubgroup≧15hourswere15.3±4.1mmHg,15.0±3.3mmHgand14.3±3.8mmHg,showingsignificantdecreaseat8weeks.Astopatientevaluations,responseratesfor“eitherregimenisok”,“TTFCispreferable”and“LTFCispreferable”were20persons(63%),9persons(28%)and3persons(9%)respectively.Conclusion:TTFCmayhavelonger-lastingresidualeffectsthanLTFC.TTFCtendedtobepreferredforsuperiorusability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):913.916,2014〕Keywords:緑内障,配合点眼液,ラタノプロスト,トラボプロスト,チモロールマレイン酸塩.glaucoma,fixedcombination,latanoprost,travoprost,timolol.〔別刷請求先〕永山幹夫:〒714-0086岡山県笠岡市五番町3-2永山眼科クリニックReprintrequests:MikioNagayama,NagayamaEyeClinic,3-2Goban-cho,Kasaoka-shi,Okayama714-0086,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)913 はじめに点眼治療における患者のアドヒアランスは医師が期待しているよりも実際はかなり低いことが報告されている.Djafariらは緑内障治療に用いられる点眼薬が1剤から2剤に変更した場合,アドヒアランス不良となる患者の割合が19%から39%へと増加したことを報告した1).またRobinらは同様に点眼薬が1剤から2剤に増加するとアドヒアランス不良の症例が3.3%から36.7%へ大きく増加したことを報告した2).点眼薬の本数や点眼回数を増加させることは患者の治療に対するアドヒアランスへの大きなリスクとなる.一方で緑内障治療を開始した患者の50.75%は単剤治療では不十分となり,複数剤の点眼が必要になるといわれている3).そのため緑内障治療において眼圧を十分に低下させる目的を達成するために,治療におけるアドヒアランスをいかに高めるかが大きな問題となる.2010年から日本でも使用可能となった配合点眼液は,点眼回数を増加させることなく眼圧下降効果を高めることが可能となることから,アドヒアランスを向上させることが期待され,わが国でも急速に普及しつつある.それに伴ってプロスタグランジン薬(PG)とb遮断薬の併用療法において配合剤を用いる場合,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(LTFC)とトラボプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(TTFC)のどちらを選択すればよいか,臨床の場で選択に迷う機会も増加している.本論文では両者の違いを明確にする目的でLTFC点眼からTTFC点眼への切り替え試験を行い,眼圧の変化をみた.さらに患者アンケートを用いてそれぞれの点眼の使用感について,どちらがより好まれるかを調査した.I対象および方法当院で通院加療中の成人広義原発開放隅角緑内障患者でLTFC点眼を2カ月以上継続している者を対象とした.両眼に投与を行う場合はベースライン時の眼圧がより高い片眼を,左右の眼圧が同一の場合は右眼を選択した.すべての被検者に本研究の目的,意義,方法についての説明を行い,了解を得たのは34名であった.試験を開始した34名のうち,1名がTTFCへの切り替え後2週で接触性皮膚炎を生じたため中止となった.また1名が切り替え後2週で充血の訴えがあったため中止となった.そのため8週間TTFC点眼を継続し,最終的に解析が行われたのは32名32眼となった.解析が行われた対象の内訳は男性20名,女性12名,年齢は45.90歳(平均年齢64.7±12.0歳)であった.TTFCへの切り替え以前のLTFC点眼中に眼圧を1週間以上間隔を開けて2回測定し,これをベースライン眼圧とした.LTFC点眼を中止,TTFC点眼に切り替えた後ウォッシュアウト期間を設けず,眼圧を4週後,8週後に測定した.眼圧測定914あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014はGoldmann圧平式眼圧計を用いた.ベースライン時点での点眼測定の時刻を確認し,被検者に以後の点眼時間,来院時間をできるだけ変えないよう依頼した.さらに点眼後時間が長期に経過した時点で両者の効果がどうなるかを調べた.PGは点眼12時間後に効果がpeakになり24時間後でtroughとなるとされている4).Peakとなる点眼後12時間の時点よりもある程度時間が経過した時点として今回は15時間を基準として,対象を点眼から眼圧測定までの時間間隔が15時間未満の群(15時間未満群)と15時間以上の群(15時間以上群)の2つのサブグループに分類し,それぞれの眼圧経過を解析した.統計的解析には対応のあるt検定を用いた.また8週目の時点で被検者自身にアンケート形式で「総合的にどちらの点眼薬がより好ましいか」について尋ねた.回答は「デュオトラバがよい」,「ザラカムがよい」,「どちらでもよい」の3つの項目から1つのみをチェックして選択させる形式とした.また「その理由」についても自由回答書式で尋ねた.II結果眼圧はベースライン,4週,8週の時点でそれぞれ15.9±3.0mmHg(平均眼圧±標準偏差),15.6±2.6mmHg,15.2±3.5mmHgであった(図1).8週の時点でのみベースラインに比べて有意な下降を認めた(p<0.05).点眼から眼圧測定までの経過時間によってサブグループに分けて検討した結果は,15時間未満群(n=14)ではベースライン,4週,8週の時点でそれぞれ16.4±1.8mmHg,16.1±1.9mmHg,15.9±3.1mmHg,15時間以上群(n=18)では15.3±4.1mmHg,15.0±3.3mmHg,14.3±3.8mmHgであり,15時間以上群で8週の時点で有意に下降していた(p<0.05)(図2).患者評価アンケートでは「TTFCをより好ましい」とした者が9名(28%),「LTFCをより好ましいとした者」が3名(9%)「どちらでもよい」とした者が20名(63%)であった(図3).(,)評価の理由として「TTFCを好ましい」としたもののうち7名(78%)が「TTFCのほうが刺激感が少ないこと」をあげていた.一方,「LTFCを好ましい」としたもののうち2名(67%)が「充血が少ないこと」をあげていた.III考按今回の検討ではTTFCへの切り替え後,8週の時点においてLTFCを点眼していた時点(ベースライン時)の眼圧よりも平均眼圧の差で0.71mmHgの有意な下降が認められた.点眼後から眼圧測定までの経過時間の差によるサブグループに分けた検討においては,15時間未満群では眼圧はベースライン時と比べて有意な下降を得られなかったのに対して,15時間以上群では8週目にベースライン時と比べて有意な(140) 208週後**p<0.05201919181817171616*p<0.0515時間未満群15時間以上群*眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1515141413131212111110切り替え前4週後10切り替え前4週後8週後経過期間経過期間図1眼圧値の変化(全症例)図2眼圧値の変化(点眼後測定までの時間別)デュオトラバRがよい28%9%63%どちらでもしみないから7名患者に対してLTFC点眼時をベースラインとしてTTFCも調子がよい1名ザラカムはかすむ1名しくはGanfortR(ビマトプラスト・チモロールマレイン酸配合点眼液)へのクロスオーバー切り替え比較試験を行った7).ザラカムRがよい平均眼圧はベースラインの16.5mmHgから有意に低下し充血が少ない2名しみるが楽1名TTFCでは15.4mmHg,GanfortRで14.7mmHgとなったとしている.一方でRigolletらはLTFC,TTFC,GanfortR図3患者アンケート結果:「どちらがより好ましいか?」下降を認めた.しかもその差は平均1.05mmHgと全症例での差に比べてやや大きくなっていた.したがって今回の結果は,点眼後長時間経過した群において,TTFCがLTFCよりも眼圧下降作用が強力であったために,全体でも有意な差を生じたものと考えられる.切り替え後4週では有意差がなく8週後で認められた理由については,今回の試験では両者の眼圧下降作用の差がそれほど大きなものではなかったこと,LTFCからの切り替えにウォッシュアウト期間を設けていなかったため,4週の時点では若干ではあるがLTFCの影響が残存していた可能性があることがあげられる.また推測であるが点眼変更後の薬剤の使用に被検者が慣れ,薬剤が安定して作用を発揮するまでに時間を要することも影響しているのではないかと思われる.TTFCとLTFCとの効果の比較についてはすでに両点眼薬が長期に使用されている海外を中心に報告が散見される.Topouzisらは原発開放隅角緑内障と高眼圧症408例に対して12カ月観察を行い,TTFCはLTFCより平均0.3.1.0mmHg低い値を示し,TTFCが点眼後24時間前後での眼圧下降作用がLTFCより勝っているとしている5).Denisらは原発開放隅角緑内障と高眼圧症316例について後ろ向き横断的研究を行い,TTFCを点眼している群がLTFCを点眼している群よりも眼圧が1.9mmHg低値であったと報告している6).またDenisらもTopuzisらと同様に点眼後24時間以上経過した時点での眼圧下降効果はTTFCのほうが強力であると述べている.Marcoらは2010年に89例のOAG(141)の眼圧下降効果を12カ月観察した結果,ベースラインからの下降値はそれぞれ.9.02mmHg,.6.61mmHg,.8.56mmHgであり,TTFCよりもLTFC,GanfortRのほうが効果が強かったと述べている8).日本人に対するLTFCからTTFCへの切り替え比較試験では添田らが12例23眼に対して6カ月間比較試験を行い,眼圧が14.9±3.6mmHgから12.3±1.8mmHgと有意に減少し,角膜上皮障害の改善をみたと報告している9).また林らは21例41眼に対して3カ月比較を行い,眼圧が16.2±4.8mmHgから14.0±3.4mmHgと有意に下降し,点眼の際に生じる自覚症状も改善したと述べている10).海外から,トラボプロストはラタノプロストと比較してpeak後の効果の持続時間が長いとの報告があり11,12),チモロールマレイン酸との配合点眼液においても,その影響は同様にみられるようである5,6,13).Rigolletらの報告は点眼後10時間前後のpeakの時点で眼圧測定を行うような試験デザインであったため,LTFCの眼圧下降が大きくなった可能性があるのではないかと思われる8).わが国での報告では両点眼液について効果持続に関する検証はなされていないが,今回の結果から,海外の報告と同様にTTFCがLTFCよりも長時間眼圧下降作用が持続することが日本人においてもいえ,そのことが結果に影響したのではないかと考える.今回8週後の平均眼圧値の差は全体では0.71mmHgと比較的小さい値であり,点眼が変更されることによって被検者のモチベーションが上がるために生じる,いわゆる切り替え効果の影響は無視できないものと思われる.したがって,今回の試験のみでLTFCよりもTTFCの眼圧下降が勝っていると結論づけるのは早計であり,今後クロスオーバー試験をあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014915 取り入れたデザインでのさらに長期間に及ぶ多数例の検討が必要であると考える.また,点眼から測定までの時間の検討も後ろ向きに行われたものであり,より高いエビデンスを有する結果を得るためには前向き試験による検討が必要である.TTFCの副作用として点眼アレルギーと思われる症例を1例経験した.この症例はLTFCを使用していた際は接触性皮膚炎の発症は認められておらず副作用発現後再度LTFC点眼を行ったところ発症が認められなかったことからトラボプロスト,もしくは添加物に対するアレルギーが原因であったと思われる.最初にPG単剤の治療を行っている際に効果不十分と考えた場合,可能であれば他のPG剤へのスイッチングを行って作用とともにアレルギーなどの副作用の有無を確認しておくことがPG単剤から配合剤に変更する際にも副作用発現の問題を減らすことができる点で安全と考えられる.アンケートによる点眼の患者評価ではどちらでもよいが63%で最も多かった.理由をみると「使用感にかかわらずより効果の高いほうを使用したい」との本来の目的を重視した意見が多く,過半数の患者では使用感は選択の決定的な要素とはなっていなかった.一方TTFCを好ましいとした者も3割弱存在していた.その多くはLTFCの刺激感がいやであると回答しており,刺激感は個人差が大きいものの一部の患者では強く意識され敬遠されるようである.こういった使用感の問題は医師側に知らされることなくアドヒアランスの低下や治療中断,転医という結果につながる場合もあるため,点眼薬選択の際に留意し,処方を行う前に副作用について説明をしておくこと,その後の受診の際に意識して患者がどう感じたか問いかけをしていくことが大切であると思われる.IV結論TTFCは切り替え後もLTFCとほぼ同等の眼圧下降作用を維持した.日本人においてもTTFCは点眼後,時間が経過した時点での眼圧下降効果がLTFCに比べ優れる可能性がある.使用感についてはTTFCが刺激感が少ない点からLTFCより好まれる傾向があった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20092)RobinAL,NovakGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20073)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:Theocularhypertensiontreatmentstudyarandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20024)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmol112:1177-1185,20055)TopouzisF,MelamedS,Danesh-MeyerHetal:A1yearstudytocomparetheefficacyandsafetyofonce-dailytravoprost0.004%/timolol0.5%toonce-dailylatanoprost0.005%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.EurJOphthalmol17:183-190,20076)DenisP,LafumaA,JeanbatVetal:Intraocularpressurecontrolwithlatanoprost/timololandtravoprost/timololfixedcombinations:aretrospective,multicentre,cross-sectionalstudy.ClinDrugInvestig28:767-776,20087)CentofantiM,OddoneF,GandolfiSetal:ComparisonofTravoprostandBimatoprostplustimololfixedcombinationsinopen-angleglaucomapatientspreviouslytreatedwithlatanoprostplustimololfixedcombination.AmJOphthalmol150:575-580,20108)RigolletJPK,OndateguiJA,PastoAetal:Randomizedtrialcomparingthreefixedcombinationsofprostaglandins/prostamidewithtimololmaleate.ClinOphthalmol5:187-191,20119)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え.あたらしい眼科30:861-864,201310)林泰博,檀之上和彦:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼への切り替えによる眼圧下降効果.臨眼66:865-869,201211)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:30233027,200812)KonstasAG,KozobolisVP,KatsimprisIEetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostversustravoprostinexfoliativeglaucomapatients.Ophthalmology114:653-657,200713)KonstasAG,MikropoulosDG,EmbeslidisATetal:24-hintraocularpressurecontrolwithevening-dosedtravoprost/timolol,comparedwithlatanoprost/timolol,fixedcombinationsinexfoliativeglaucoma.Eye24:1606-1613,2010916あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(142)

赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):909.912,2014c赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例野村英一*1伊藤典彦*2澁谷悦子*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1国分沙帆*3深澤みづほ*3遠藤要子*4杉田美由紀*5水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2鳥取大学農学部附属動物医療センター*3横浜労災病院眼科*4長後えんどう眼科*5蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofanEx-PRESSTMGlaucomaFiltrationDeviceunderScleralFlapEiichiNomura1),NorihikoItoh2),EtsukoShibuya1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),SahoKokubu3),MizuhoFukazawa3),YokoEndo4),MiyukiSugita5)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)TottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaRosaiHospital,4)ChogoEndoEyeClinic,5)MaitaEyeClinic緒言:強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイス(Ex-PRESSTM)の確認は困難であるが赤外線(infraredrays:IR)画像を用いて確認を試みた.症例:82歳,男性.25年前,左眼に水晶体.内摘出術を受け,8年前,左眼.性緑内障と診断された.左眼瞳孔領に硝子体があり,Ex-PRESSTM併用濾過手術を施行された.術後1.165日目の間に13回,IR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalomoscope:SLO画像)と細隙灯顕微鏡によるカラー可視光画像を撮影し視認性を比較した.可視光画像では術後8,10日目のみでEx-PRESSTMのプレートの位置を確認できたが,IR画像ではすべての観察日で有意に良好に確認された(McNemar法,p<0.005).結論:IR画像は強膜弁下のEx-PRESSTMの確認に有用であった.Introduction:AnEx-PRESSTMglaucomafiltrationdevice(Ex-PRESSTM)underascleralflapisdifficulttosee.WereporttheimagingofanEx-PRESSTMwithinfraredrays(IR).Case:An82-year-oldmale,whohadundergoneanintracapsularlensextraction25yearspreviously,wasdiagnosedwithexfoliationglaucomainhislefteye8yearsago.Duetovitreousprolapseintothepupillaryarea,anEx-PRESSTMwasimplanted.Devicevisibilityviainfraredray(IR)imagingwithscanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis)wascompared13timeswiththatviavisiblerayimagingofacolordigitalcamerawithaslitlamp,through1to165daysaftertheoperation.TheplateofEx-PRESSTMcouldbeseenwithvisibleraysonlyatpostoperativedays8and10,butitcouldbeseensignificantlywellwithIRateveryobservationday(p<0.005,McNemar’schi-squaretest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):909.912,2014〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,Ex-PRESSTM,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,Ex-PRESSTM,imaging.はじめに波長がおよそ0.75μm.1,000μmの電磁波は赤外線(IR)とよばれる.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長を持っている.可視光線に近い特性のため,人間に感知できない光として,IRカメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用したIRカメラシステムによる乳がんのセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5.8).緑内障領域で,IRを利用した研究としては,Kawasakiらのサーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9).筆者らは,IR画像を用いることで,近赤外線の組織深達〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(135)909 性により,以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した10).Ex-PRESSTM併用濾過手術は手術操作が比較的簡便であり,虹彩切除が不要である.術早期の低眼圧が少なく11),トラベクレクトミーと同等の眼圧下降効果を持つとされる12).しかし,術後の強膜弁下でのEx-PRESSTMの位置を確認することはむずかしい.今回,Ex-PRESSTM併用濾過手術の術後に,組織深達度の高いIR画像を用いて強膜弁下のExPRESSTMのプレートの部分を観察した1例を経験したので報告する.I症例患者:82歳,男性.主訴:左眼視野障害.現病歴:25年前,他院で左眼に水晶体.内摘出術を受け,無水晶体眼となった.以後はコンタクトレンズを装用していた.21年前に左眼のコンタクトレンズの過剰装用による眼痛にて前医を受診した.8年前より左眼眼圧25mmHgとなり,左眼.性緑内障と診断され,点眼治療が開始された.アセタゾラミド錠250mg(ダイアモックス.錠250mg)の内服を追加されたが,胃腸障害のため中止された.2013年3月,視野障害の進行がみられたため当科へ紹介され,初診となった.既往歴:81歳時,尿管結石.家族歴:特記事項はなかった.初診時所見:視力はVD=0.1×IOL(1.2×IOL×sph.2.25D(cyl.1.75DAx80°),VS=(0.5×sph+9.50D(cyl.1.25DAx180°),前医からのタフルプロスト点眼液0.0015%(タプロスR点眼液0.0015%),ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトR配合点眼液),ブリモニジン酒石酸塩点眼液0.1%(アイファガンR点眼液0.1%),ブナゾシン塩酸塩0.01%点眼液(デタントールR0.01%点眼液),ニプラジロール点眼液0.25%(ハイパジールコーワR点眼液0.25%)の点眼下に眼圧は18mmHgであった.左眼には,上方結膜の広汎な癒着,無水晶体眼,瞳孔領に脱出した硝子体がみられた.隅角は左眼下方に丈の低い虹彩前癒着がみられる以外は開放隅角であった.左眼優位の視神経乳頭陥凹がみられ,C/D比(陥凹乳頭比)は右眼0.6,左眼0.8であった.また,湖崎分類で右眼はIa期,左眼はIIIb期の視野障害がみられた.表1術後日数ごとの可視光画像とIR画像の視認性の比較術後日数(日)観察部位画像の種類1810162332396781114123137165p値プレート可視光画像IR画像011111010100011101010101010.002569プレートのverticalchannel可視光画像IR画像011111010100011101010101010.002569液晶モニター上で判別できたときを1,判別できなかったときを0として表した.AB図1術後67日目の濾過胞(A:可視光画像,B:IR画像)矢頭部にIR画像でEx-PRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelが観察できた.910あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(136) 経過:2013年4月,さらなる硝子体脱出を回避するためEx-PRESSTM併用濾過手術を施行された.結膜の癒着を.離しながら,2時方向の結膜を円蓋部基底で切開した.4×4mmの強膜弁をsingleflapで作製し,Ex-PRESSTMを挿入した.術後1,8,10,16,23,32,39,67,81,114,123,137,165日目の13回,SLOによるIR画像およびカラー可視光画像を撮影し比較した.今回の研究に際し,当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および本人の文書による同意を得た.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLO(scanninglaserophthalmoscope)によるIR画像(光源は820nmのダイオードレーザー)を用いた.カラーの可視光画像の取得にあたっては,細隙灯顕微鏡に付属したカラーデジタルカメラによる画像を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,強膜弁下のEx-PRESSTMのプレートの部分が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.カラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートの位置を確認できたが,IR画像では13回すべての観察日でプレートの位置を有意に良好に確認できた(McNemar法,p=0.0026).またカラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートのverticalchannelを確認できたが,IR画像では13回すべての観察日でプレートのverticalchannelを視認できた(McNemar法,p=0.0026)(表1).術後67日目の濾過胞を示す(図1).図1Aの可視光画像ではExPRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelは確認できないが,図1BのIR画像では,矢頭部にEx-PRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelが観察できた.プレートの部分はIR画像では高輝度であり,verticalchannelは低輝度であった.手術後の眼圧経過は良好で,最終眼圧はタフルプロスト点眼液0.0015%で14mmHgであった.II考察カラー可視光画像では術後8,10日目でプレートの位置を確認できたが,IR画像ではどの時点でもプレートの位置を確認できた.またカラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートの位置を確認できたが,IR画像はすべての観察日においてプレートのverticalchannelを確認できた.このようにIR画像では可視光画像よりも強膜弁下のExPRESSTMの視認性が良好であった.IR画像ではプレートの上面が高輝度に写っていた.IRの組織深達性に加えて,Ex-PRESSTMのステンレス素材の平滑性がIRを効率よく反射させるため,強膜弁下にあっても高輝度になると考えられた.このため可視光画像よりも視認性がよいと考えられた.IR画像の撮影時に眼の方向によって輝度が高くなることがあり,この現象もステンレス素材の(137)平滑性で反射が起きるため発生すると考えられた.プレートのverticalchannel,特に開口部および切れ込み部分の反射が少ないため,またverticalchannelの段差によりverticalchannelの底の部分に入射する光が少ないため周囲より低輝度になりIR画像で確認できると考えられた.Ex-PRESSTM併用濾過手術は挿入が容易である,流出路の大きさを一定にできる,虹彩切除が不要である,線維柱帯切除が不要であるといった特徴がある.術早期の低眼圧が少なく11),トラベクレクトミーと同等の眼圧下降効果を持つとされる12).しかし濾過手術であり,濾過胞の機能不全からneedlingrevisionなどが必要になる可能性がある.その際,強膜弁下のEx-PRESSTMの位置が予測できることは,手術操作をするうえで有利であり,IR画像は位置特定の一つの方法となりうる.近年,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のように,近赤外光で断層像を作製する機器が登場している13).今回,すでに普及している機器を利用しても2次元的な像ではあるが強膜弁下のEx-PRESSTMが確認できた.IRによる強膜弁の観察は,Ex-PRESSTMの濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.III結論IR画像は,Ex-PRESSTM併用濾過手術施行後における器具の位置確認に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedSciDigest34:78-80,20085)清水弘一監修:ICG蛍光眼底造影-読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(米谷新,森圭介),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindoあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014911 cyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科28:879-882,201111)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPAetal:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,200712)NetlandPA,SarkisianSRJr,MosterMRetal:Randomized,prospective,comparativetrialofEX-PRESSglaucomafiltrationdeviceversustrabeculectomy(XVTStudy).AmJOphthalmol157:433-440,201413)VerbraakFD,deBruinDM,SulakMetal:OpticalcoherencetomographyoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplant.LasersMedSci20:41-44,2005***912あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(138)

開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と関連因子の検討

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):433.436,2014c開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と関連因子の検討寺尾亮*1平澤裕代*2村田博史*2朝岡亮*2間山千尋*2相原一*3*1東京厚生年金病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科*3四谷しらと眼科ChangeofIntraocularPressureafterVisualFieldExaminationinPrimaryOpen-AngleGlaucomaRyoTerao1),HiroyoHirasawa2),HiroshiMurata2),RyoAsaoka2),ChihiroMayama2)andMakotoAihara3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKouseinenkinHospital,2)GraduateSchoolofMedicine,3)ShiratoEyeClinicDepartmentofOphthalmology,theUniversityofTokyo開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と,変動量に関連する因子について検討した.正常眼圧緑内障を含む原発性開放隅角緑内障の34例34眼を対象として視野検査の直前および検査後20分以内の眼圧を測定し,眼圧変化量を従属変数,年齢,視野のmeandeviation値,他日に測定した眼軸長,前房深度を説明変数とした重回帰分析を行った.視野検査前の眼圧は14.9±2.7mmHg(平均±標準偏差),検査後の眼圧は15.4±2.9mmHgで0.5±1.4mmHgのわずかな上昇を認め(p=0.049,pairedt-test),眼圧変化量と前房深度の間に有意な正の相関が認められた(偏回帰係数=1.26,p=0.047).Changeofintraocularpressure(IOP)afterautomatedvisualfieldexamination,andthecorrelationsofassociatedfactors,werestudiedin34eyesof34patientswithprimaryopen-angleglaucoma,includingnormal-tensionglaucoma.IOPwasmeasuredbeforeandat≦20minutesaftervisualfieldexamination.Multipleregressionanalysiswasperformedtodeterminetheocularandsystemicfactors(independentvariables:age,meandeviationofvisualfield,anteriorchamberdepthandaxiallength)associatedwithIOPchange(dependentvariable).ResultsshowedthatIOPwas14.9±2.7mmHg(mean±standarddeviation)and15.4±2.9mmHgbeforeandaftervisualfieldexamination,respectively,IOPslightlyincreasingby0.5±1.4mmHg(p=0.049,pairedt-test).AnteriorchamberdepthwassignificantlycorrelatedwiththeextentofIOPincrease(b=1.26,p=0.047).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):433.436,2014〕Keywords:緑内障,眼圧,視野検査,前房深度,眼軸長.glaucoma,intraocularpressure,visualfieldtest,anteriorchamberdepth,axiallength.はじめに緑内障において眼圧変動は視野障害の悪化因子になりうると報告されている1).眼圧には身体的運動,アルコールやカフェインの摂取,喫煙,精神的ストレスなどの生活習慣も影響を与えるが,その変動には季節変動を含む長期的変動と日内変動のような短期的変動の要素が存在する.緑内障の診療においては変動を含めた眼圧の評価が重要になるが,特に長期的眼圧変動の評価には長期間の観察が必要であることに加え,経過観察中の生活習慣や点眼コンプライアンスも含めたさまざまな要素の影響を考慮しなければならないため,正確な評価は容易ではない.一方,短期的眼圧変動は外的影響を受けにくく,評価が比較的容易である.また,開放隅角緑内障眼は正常眼と比較し眼圧の日内変動や体位変換による眼圧の変動量が大きいことが報告されている2,3).開放隅角眼において,いわば狭隅角眼に対する負荷試験のような形で,短時間で特定の条件下での眼圧変動を評価することは,日常生活での眼圧変動を予測し視野障害の進行しやすい症例を短期間にスクリーニングする方法として有用な可能性がある.〔別刷請求先〕寺尾亮:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科視覚矯正科Reprintrequests:RyoTerao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,UniversityofTokyo,7-3-1Hongo,Bunkyoku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)433 自動静的視野検査は多くの緑内障患者で定期的に繰り返し実施されるが,原発開放隅角緑内障眼において静的視野検査後に眼圧が有意に上昇したとする報告があり4,5),視野検査後の眼圧上昇の原因としては暗室における散瞳状態や緊張状態の持続が推測されている6,7).これらの要素はいずれも緑内障患者が日常生活で経験しうる生理的なものであり,視野検査後に眼圧が変動する眼は日常生活でも眼圧変動が大きい可能性がある.視野検査は規定された照明条件の下で一定の作業を行うことから負荷試験的要素をもつため,視野検査前後の眼圧変動を評価することで,長期・短期の眼圧変動量と緑内障進行の危険を予測できる可能性があり,臨床上非常に有用な情報になると考えられるが,正常眼圧緑内障が多いなど欧米とは病型構成の異なるわが国での報告はみられない.本研究では,正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障眼を対象として,自動静的視野検査前後の眼圧変動と眼圧変動量に関連する因子について検討した.I対象および方法本研究は東京大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に従い以下のように実施した.平成24年1.3月の間に東京大学医学部附属病院緑内障外来を受診し,自動静的視野計で視野検査を施行した緑内障症例のうち隅角開大度が全周においてShaffer分類3度以上で本研究の趣旨に賛同し検査の同意が得られた原発開放隅角緑内障・正常眼圧緑内障患者を対象とした.調査対象日の視野検査が該当患者の1回目または2回目の視野検査である症例,過去3カ月以内に緑内障治療薬の内容を変更した症例,白内障手術や緑内障手術,レーザー手術,屈折矯正手術を含む内眼手術既往例は除外した.両眼とも基準を満たす症例では左右眼を無作為に抽出し1例につき1眼を選択した.視野検査はHumphrey視野計(HFA)を,測定プログラムは24-2SITA-Standardを用いた.眼圧測定はGoldmannapplanationtonometryを使用し,同一検者が同一の診察台にて視野検査の直前5分以内,および検査後20分以内に測定した.測定は続けて2回行い,2回の測定値に3mmHg以上の差を認めた場合は3回目の測定を行い,平均値を算出し表1対象の背景年齢(歳)62.3±11.6男女比(男/女)19/15眼軸長(mm)25.7±1.73前房深度(mm)3.50±0.50MD(dB).8.91±6.09MD:Humphrey視野計24-2SITA-Standardプログラムによるmeandeviation値.値は平均±標準偏差.た.また,他日にIOLMasterR(カールツァイスメディテック株式会社,東京)を用いて,眼軸長および前房深度を明所下にて測定した.視野検査後の眼圧値から視野検査前の眼圧値を差し引いた数値を眼圧変化量と定義した.眼圧変化量を従属変数,視野検査時の年齢,24-2SITA-Standardプログラムでのmeandeviation(MD)値,眼軸長,前房深度を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,統計学的有意水準としてp=0.05を採用した.II結果34例34眼(右眼19眼,左眼15眼)を対象に検討を行った.患者背景因子を表1に示す.視野検査前の眼圧は14.9±2.7mmHg(平均±標準偏差),検査後の眼圧は15.4±2.9mmHgであった.眼圧変化量のヒストグラムを図1に示す.眼圧変化量は.3mmHgから3.5mmHgの範囲で,視野検査後に0.5±1.4mmHgの統計学的に有意な眼圧上昇を認めた(pairedt-test,p=0.049).34眼中14眼(41.2%)で1mmHg以上の眼圧上昇を認め,2mmHg以上の上昇は6眼(17.6%),3mmHg以上の上昇は3眼(8.8%)に認めた.また1眼(2.9%)に3mmHgの下降を認めた.眼圧変化量に寄与する因子に関し重回帰分析を行った結024681012頻度(眼)眼圧変化量(mmHg)図1眼圧変化量のヒストグラム表2眼圧変化量を従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析の結果(n=34)説明変数偏回帰係数(95%信頼区間)p値年齢(歳)眼軸(mm)前房深度(mm)MD(dB).0.0047(.0.041:0.050)0.14(.0.21:0.50)1.26(0.0455:2.48)0.0088(.0.077:0.095)0.840.420.042*0.89MD:Humphrey視野計24-2SITA-Standardプログラムによるmeandeviation値.*:p<0.05.434あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(130) 果,前房深度が有意な正の相関をもって選択された(偏回帰係数=1.26,p=0.042)(表2).III考察視野検査による眼圧変化に関する過去の報告において,Niら4)は開放隅角緑内障眼109例109眼(平均年齢75.2歳)を対象に視野検査(HFA24-2または10-2SITA-Standardプログラム)を行い,視野検査後の眼圧を視野検査前の眼圧や次回来院日に測定した眼圧と比較し,視野検査後にはそれぞれ平均1.2,1.1mmHgの有意な眼圧上昇を認めたと報告した.またRecuperoら5)は点眼治療で眼圧21mmHg未満にコントロールされている原発開放隅角緑内障眼12例24眼(平均年齢50.8歳)に対し視野検査(HFA30-2full-thresholdプログラム)を行い,検査前と検査の7.21分後に眼圧測定を施行,検査後には平均約2.3mmHgの眼圧上昇を認め,眼圧変化量は年齢と正の相関を認めたと報告している.一方でMatin8)は緑内障眼40例,高眼圧症または緑内障疑い21例に対し視野検査〔HFASITA-FastまたはSITAStandardプログラムまたはhigh-passresolutionperimeter(HRP)〕直前と直後の眼圧を比較し,61例中14例(23%)は両眼または片眼に2mmHg以上の眼圧上昇を認めたが,全対象眼の平均値には両眼とも有意な変化は認めなかったと報告した.本研究では34例34眼の開放隅角緑内障眼を対象に自動静的視野検査前後の眼圧変化量を検討し,平均0.5mmHgのわずかな眼圧上昇を認めた.平均値としての変化量は既報と比べて小さく,臨床的に有意な眼圧変化とは考えられない.この結果を既報と比較する際には,対象の人種や背景因子の相違,視野検査測定所要時間の違いなどを考慮する必要がある.眼圧上昇の機序については,暗所での持続した散瞳状態による隅角狭小化に伴う房水流出抵抗の上昇や6),視野検査がもたらす精神的ストレスが交感神経系を介して毛様体の房水産生に与える影響が推測されている7).Niら4)は眼圧変化に関連する因子に関し,緑内障術後眼やb遮断薬,a1作動薬点眼症例では眼圧上昇が有意に小さく,眼圧変化量と年齢の有意な相関は認められなかったと報告している.本研究では内眼手術歴のある症例を対象から除外しており,また点眼薬使用の有無やその種類など,緑内障患者の多様な背景因子が眼圧変化量に与える影響を評価するには対象眼数が不十分と考えられた.対象眼のなかで視野検査後に3mmHgの眼圧低下を認めたものが1眼のみあったが,この眼圧下降の機序を推測することは困難である.視野検査後に眼圧測定を行うまでの間,対象患者は座位で安静に待機していたが,検査による眼精疲労のためか自分で眼球周囲を圧迫するようなマッサージを行(131)う患者もみられたため,そのような行為が一時的な眼圧下降を生じさせた可能性も否定できない.本研究では年齢,MD値,眼軸長と眼圧変動量の間に有意な相関がみられなかったものの,前房深度が眼圧変化量と有意な正の相関を示し,前房深度が深い眼ではより眼圧が上昇しやすいことが示唆された.超音波生体顕微鏡(UBM)を用いた検討によれば,明所-暗所間のangleopeningdistance(AOD)やtrabecularirisspaceareaの変化量は前房深度が深いほど大きく9),白内障術後眼ではAODの変化量が大きいほど眼圧の変化量も大きいことが報告されている10).狭隅角眼ではより前房深度が浅く,視野検査後に眼圧が上昇しやすい可能性があるが,本研究の対象は隅角開大度がShaffer分類3度以上の開放隅角緑内障眼であり,狭隅角眼は除外している.本研究の結果は,前房の深い開放隅角緑内障眼において,視野検査後により大きな眼圧上昇が生じる可能性を示唆すると考えられる.本研究では,開放隅角緑内障眼の視野検査後に統計学的には有意な眼圧上昇を認めたが,その変化量は平均0.5mmHgと小さかった.しかし一部の症例では3mmHg以上の眼圧変化を認め,開放隅角緑内障においても視野検査後の眼圧上昇に注意すべき症例のあることが示唆された.文献1)CaprioliJ,ColemanAL:Intraocularpressurefluctuationariskfactorforvisualfieldprogressionatlowintraocularpressuresintheadvancedglaucomainterventionstudy.Ophthalmology115:1123-1129,20082)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20033)DavidR,ZangwillL,BriscoeDetal:Diurnalintraocularpressurevariations:ananalysisof690diurnalcurves.BrJOphthalmol78:280-283,19924)NiN,TsaiJC,ShieldsMB,etal:Elevationofintraocularpressureinglaucomapatientsafterautomatedvisualfieldtesting.JGlaucoma21:590-595,20125)RecuperoSM,ContestabileMT,TavernitiLetal:Openangleglaucoma:variationsintheintraocularpressureaftervisualfieldexamination.JGlaucoma12:114-118,20036)GlosterJ,PoinoosawmyD:Changesinintraocularpressureduringandafterthedark-roomtest.BrJOphthalmol57:170-178,19737)BrodyS,ErbC,VeitR,RauH:Intraocularpressurechanges:theinfluenceofpsychologicalstressandthevalsalvamaneuver.BiolPsychol51:43-57,19998)MartinL:Intraocularpressurebeforeandaftervisualfieldexamination.Eye21:1479-1481,20079)LeungCK,CheungCY,LiHetal:Dynamicanalysisofdark-lightchancesoftheanteriorchamberanglewithあたらしい眼科Vol.31,No.3,2014435 anteriorsegmentOCT.InvestOphthalmolVisSci48:intraocularpressurereductionafteruneventfulpha4116-4122,2007coemulsificationforcataract.JCataractRefractSurg38:10)HuangG,GonzalezE,LeeRetal:Associationofbiomet108-116,2012ricfactorswithanteriorchamberanglewideningand***436あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(132)

円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):427.432,2014c円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績青山裕加*1村田博史*1相原一*2*1東京大学医学部眼科学教室*2四谷しらと眼科Medium-TermOutcomesofTrabeculectomyAloneforPhakicEyesorPseudophakicEyes,versusCombinedTrabeculectomyforCataractYukaAoyama1),HiroshiMurata1)andMakotoAihara2)1)DepartmentofOphthalmology,theUniversityofTokyo,2)YotsuyaShiratoEyeClinic2009年9月から1年間東京大学医学部附属病院にて同一術者により円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術を施行された122眼を対象として,有水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(TLE群),偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(IOL群),白内障手術・線維柱帯切除術同時手術(同時手術群)に分類し眼圧下降効果,術後の合併症や処置の頻度を後ろ向きに検討した.4眼は6カ月の間に再手術となった.入院中および退院後の処置・合併症の頻度に3群間で差は認めなかった.TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前21.4±8.5,23.0±6.5,23.3±7.3mmHgから術後6カ月で9.3±4.3,11.7±4.6,12.0±3.7mmHgと有意に低下した.再手術4眼を含めた122眼で経過中,眼圧12mmHg以下が2回連続得られなかったとき,または再手術となったときを死亡と定義したときの生命表解析では,全体,TLE群,IOL群,同時手術群の生存率は71.2%,87.5%,58.7%,54.1%であった.Weretrospectivelyexaminedthe6-monthoutcomesoffornix-basedtrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonandanalyzedthedifferenceinoutcomesamongsurgicalmethods.Includedwere122eyesthathadundergonetrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonfromSeptember2009toSeptember2010atTokyoUniversityHospital.Postoperativecomplicationsandprocedureswereanalyzedaccordingtosurgicalmethods,includingtrabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomyforcataract.Lifetableanalyseswerethenmadeaccordingtothesecriteriaoffailure:IOPwasover12mmHgaftertwoconsecutivemeasurements,oranothersurgerywasneeded.Within6months,4eyeswerere-operated.Duringandafterhospitalization,theincidenceofcomplicationsoradditionalproceduresdidnotdifferamongthethreegroups.Cumulativesurvivalratesat6monthsafterallsurgeries,trabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomycaseswere71.2%,87.5%,58.7%,and54.1%,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):427.432,2014〕Keywords:線維柱帯切除術,緑内障,濾過胞,合併症,円蓋部基底.trabeculectomy,glaucoma,bleb,complication,fornix-basedconjunctivalflap.はじめに緑内障に対する眼圧下降手術はさまざまな手法が行われている.なかでもマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は眼圧下降効果が高い手術の一つとして,10年以上前から数多くの国で行われてきた.しかし,この手術にはいまだ多くの合併症がみられており,その合併症は緑内障の病型,手術歴のみならず,術式の術者による相違,術後管理の相違などさまざまな因子に関連していると考えられる.そこでTLEを施行するにあたり,合併症が少なく,眼圧下降効果の高い条件を探ることが重要である.今回筆者らは,TLEの手術成績を検討するにあたり,単〔別刷請求先〕相原一:〒160-0004東京都新宿区四谷1-1-2四谷しらと眼科Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,Ph.D.,YotsuyaShiratoEyeClinic,1-1-2Yotsuya,Shinjuku,Tokyo160-0004,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)427 独術者による同一手技を用い,また同一施設での術後管理を行うことで周術期の条件を一定にしたうえで,100以上の連続した日本人眼における有水晶体眼,偽水晶体眼に対するTLE単独手術およびTLEと白内障同時手術後の成績を後ろ向きに比較検討したので報告する.I方法2009年9月.2010年9月までに東京大学医学部附属病院にて,同一術者(MA)により円蓋部基底結膜切開線維柱帯切除術(FB-TLE)を施行され,同病院で通常2週間の入院および外来通院による術後管理を行った連続症例107例122眼の術後成績を6カ月間後ろ向きに検討した.対象眼は,薬物およびTLE以外の外科的治療を含めた最大限の治療を行っても緑内障性視神経症の進行を抑制できず,さらなる眼圧下降が必要と判断された緑内障眼とした.除外基準は,TLE,線維柱帯切開術,毛様体光凝固術など眼圧下降目的の手術を結膜上耳側または鼻側に行ったことがあるなどで,同部位結膜が瘢痕化している症例は除外した.ただし,他の部位からの線維柱帯切開術やビスコカロストミー,レーザー線維柱帯形成術,隅角癒着解離術,レーザー虹彩切開術を行った眼は検討に含めた.また,結膜瘢痕の有無にかかわらず白内障術後および硝子体手術後の眼も除外しなかった.すべての患者には,手術および術後の処置を行う前に説明を行ったうえ,同意を得た.また,本研究はヘルシンキ宣言に従っており,東京大学医学部附属病院の倫理委員会の承認を得てUMIN000006522として登録された.1.術後評価最大矯正視力,Goldmann圧平眼圧測定,細隙灯顕微鏡および眼底鏡診察により確認された合併症,必要とされた術後処置について,10.14日間程度の入院期間中は毎日,退院後は術後3週間.1カ月ごとに6カ月まで評価を行った.2.手術方法手術は同一術者によるFB-TLEにて行った.鼻上側から円蓋部基底結膜切開で開始し,結膜は輪部に沿って5.6mm幅切開し,4.5mmの放射状切開を加え,そこからTenon.下麻酔を行った.凝固止血を行った後,3×3mmの強膜フラップを作製し,0.05%MMC(協和発酵キリン)をM.Q.A.(イナミ)に1.5分間浸み込ませ,balancedsaltsolution(BSS)100mlで洗浄した.1×1mmの強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った後,10-0ナイロン糸(CU-8,日本アルコン)4針で強膜フラップを縫合した.房水流出が多すぎる場合には追加縫合も行った.結膜創に対しては10-0ナイロン糸(1475,マニー)で連続縫合を行った.さらに房水漏出がみられる場合には,追加縫合を行った.白内障同時手術の場合には,上耳側より角膜切開し,粘弾性物質としてはビスコートR(日本アルコン)とヒーロンR(AMO428あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014Japan)を使用した.術後点眼は0.1%ベタメタゾンとレボフロキサシンを使用し,同時手術の場合には,トロピカミド・フェニレフリン合剤とジクロフェナクナトリウムも併用した.3.術後管理入院中は目標眼圧を10mmHg以下とし,レーザー切糸術にて眼圧を調整した.レーザー切糸を3本施行したのちも濾過胞形成不良で眼圧が10mmHg以上となっている場合には,30G針でニードリングを行った.浅前房を伴う過剰濾過の場合には,前房内に空気もしくはオペガンR(参天製薬)を注入,あるいは経結膜強膜弁縫合を行った.浅前房を伴う脈絡膜.離が出現した場合または低眼圧網膜症が明らかな場合にも,経結膜強膜弁縫合を行った.低眼圧や房水漏出の際に圧迫眼帯や点眼内服による処置は一切行わなかった.退院後に濾過胞形成が不良になった場合には可及的速やかにレーザー切糸術もしくはニードリングを行った.ステロイドおよび抗生物質点眼は術後最低3カ月使用した.4.データ解析FB-TLE後の生存率について,以下の2つの基準で,Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1として,退院後の眼圧が眼圧下降薬剤使用の有無にかかわらず,12mmHgを2回連続で上回ったとき,あるいはさらなる濾過胞再建術もしくは別創への線維柱帯切除術が必要になった場合を死亡と定義した.半数の症例で投薬下ベースライン術前眼圧が20mmHg以下であり,術後の眼圧を10mmHg台前半に下げることが目標であるため,この数値を目標として設定した.基準2では15mmHgを基準眼圧として解析を行った.過去の報告では15mmHgを基準としているものが多く,この数値は本研究の結果とこれまでの報告を比較するために設定した.術前と術後の眼圧はpairedt-testで比較した.3群の眼圧下降率はANOVAで比較した.3群の合併症と処置の頻度についてはFisher’sexacttestで比較した.Kaplan-Meier法による生存率の比較は,log-ranktestを用いて行った.p値は0.05未満であった場合に有意と定義した.II結果1.患者背景本研究期間の適応症例は連続107例122眼であった.術後6カ月間の経過観察中に1眼は検査データ不足,4眼は他院紹介後の経過不明で5カ月目にドロップアウトとなり,4眼は術後6カ月の間に再度眼圧下降手術が必要になった.表1に患者背景と術式の内訳を示す.また,術前の平均眼圧は22.1±7.7mmHgであり,TLE群,IOL群,同時手術群の3群の術前眼圧に有意差はなかった(p=0.3ANOVA).3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意(124) 表1患者背景と緑内障病型対象眼全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)眼(右:左)59:6328:2814:2017:140:1性別(男:女)74:4834:2221:1318:131:0年齢(歳)64.0±13.056.3±12.170.9±10.870.5±8.959緑内障病型眼原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障10眼を含む)67(57+10)4013140落屑緑内障237970炎症性緑内障165740Posner-Schlossman症候群2101ぶどう膜炎後に続発する緑内障8350血管新生緑内障6123原発閉塞隅角緑内障80440混合型緑内障31020発達緑内障11000外傷による緑内障21001ステロイド緑内障21100TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意差が認められた(p<0.01ANOVA).差が認められた(p<0.01ANOVA).平均入院期間は同一入院期間中に両眼手術した症例が6眼,白内障手術と隅角癒着解離術を施行したのち,同一入院期間中にTLEを施行した症例2眼を含み,14.1±4.1日であった.2.合併症および処置入院期間中および退院後.術後6カ月に出現した合併症および行った処置については表2と表3に示した.入院中,結膜縫合部位より漏出を認めたものが15/122(12.3%)眼,そのうち6眼は数日で自然に消失した.浅前房は21/122(17.2%)眼に認め,20/122(16.4%)眼に対して経結膜強膜弁縫合を行い,5/122(4.1%)眼は経結膜強膜弁縫合の前に前房内空気もしくはオペガンR置換を施行した.脈絡膜.離は35/122(28.7%)眼に出現した.そのうち浅前房を伴う過剰濾過を認めたものは経結膜強膜弁縫合を施行し,徐々に消失した.残りは一過性の低眼圧による脈絡膜.離であったため,その後の眼圧上昇に伴って消失した.数週間で脈絡膜.離は全例で消失した.低眼圧黄斑症は入院中は2/122(1.6%)眼,退院後から術後6カ月までの期間では2/122(1.6%)眼で認められたが,数カ月以内に全例改善した.3群間で合併症の発症に有意差は認めなかった.脈絡膜.離の排液を必要とした症例はなかった.ニードリングに関しては,入院中は15眼に対して26回,退院後から術後6カ月までの期間では42眼に対して合計101回施行したが,3群間に有意差は認めなかった(p=0.1ANOVA).3.眼圧下降効果Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1では,全群での6カ月生存率は71.2±4.1%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,87.5±4.4%,58.7±8.5%,54.1±9.1%であり,TLE群は他2群に比較して有意に生存率が高い結果となった(p<0.01log-ranktest).基準2では,全群での6カ月生存率は82.7±3.4%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,89.3±4.1%,73.9±7.5%,80.1±7.3%であり,3群の生存率に有意差は認められなかった(p>0.2log-ranktest)(図1).再手術を必要とした4眼を除いた全症例で,術前平均眼圧22.1±7.7mmHgから術後6カ月平均眼圧10.6±4.4mmHgへ,平均48.8±22.0%の眼圧下降率を認めた.必要薬剤は術前3.3±0.7種類から術後0.4±0.8種類へと有意に減少した(p<0.001pairedt-test).TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前20.9±8.4mmHg,23.1±6.8mmHg,23.2±7.5mmHgから術後9.2±4.3mmHg,11.7±4.4mmHg,12.0±3.7mmHgへと有意に下降した.3群間の眼圧下降率に有意差は認めなかった(p=0.2ANOVA)(図2).III考察本研究におけるTLE術後6カ月での累積生存率は目標眼圧を12mmHgとすると71.2%であり,目標眼圧を15mmHgとすると82.7%であった.本研究は一定期間の連続(125)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014429 表2入院中の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出15(12.3%)4(7.1%)5(14.7%)6(19.4%)0創部追加縫合11for9eyes2for2eyes4for3eyes5for4eyes0浅前房21(17.2%)10(17.9%)5(14.7%)6(19.4%)0脈絡膜.離35(28.7%)12(21.4%)10(29.4%)13(41.9%)0前房内出血14(11.5%)6(10.7%)6(17.6%)2(6.5%)0退院時低眼圧(IOP≦5mmHg)3721127低眼圧黄斑症2(1.6%)2(3.6%)000レーザー切糸率†60±31%49±31%57±28%85±17%50%ニードリング回数26for15eyes5for4eyes10for6eyes11for5eyes0経結膜強膜弁縫合20(16.4%)9(16.1%)5(14.7%)6(19.4%)0Air注入5(4.1%)3(5.4%)1(2.9%)1(3.2%)0TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.†切糸数/総縫合数の各眼平均値.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).表3退院後の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出脈絡膜.離低眼圧黄斑症濾過胞感染9(7.4%)8(6.6%)2(1.6%)04(7.1%)2(3.6%)1(1.8%)03(8.8%)1(2.9%)002(6.5%)5(16.1%)1(3.2%)00000ニードリング回数再手術101for42eyes4(3.3%)35for14eyes2(3.6%)41for15eyes1(2.9%)25for13eyes1(3.2%)00TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).TLE対象症例に対して白内障同時手術も行った症例も含むため,連続症例への後ろ向き試験としたが,TLE施行症例としては前向き試験と同様の評価をしているため,過去の前向き試験と比較してみた.前向き試験は3報しかなく,そのうちWuDunnらはほとんど原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)を対象にしたMMC併用輪部基底結膜切開TLE単独術後の6カ月生存率は,目標眼圧を15mmHgとすると88%,12mmHgとすると77%であったと報告し1),Mostafaeiは開放隅角緑内障の患者に対するMMC併用TLE術後の6カ月生存率は目標眼圧を6.22mmHgとすると88.9%だったと報告している2).日本人ではKitazawaらが発達緑内障,血管新生緑内障,炎症性緑内障,POAGについて検討しており,MMC併用群の6カ月生存率は目標眼圧を20mmHgとすると100%だったと報告している3).後2報は目標眼圧が高く,本研究と比較することは意味がない.WuDunnらの研究は同様な目標眼圧での報告で,目標眼圧を15mmHgとすると前報88%と本報82.7%,12mmHgとすると77%と71.2%と筆者らがやや劣る.高い術前眼圧は生存率を下げる有意な危険因子との報告4)もあるが,WuDunnらの術前眼圧は21.9±6.6mmHg,今回の対象患者の術前眼圧は22.1±7.7mmHgと同等であった.しかし,前報はTLE単独手術で,POAGが84.4%,白人72%,アジア人は1症例2%と,本報告と術式と病型,人種間に差があるため単純には比較できないが,今回の結果は大きく劣るものではないと考える.続いて有水晶体眼と眼内レンズ眼でのTLE単独手術について考察する.Takiharaらは,結膜上方切開によるPEAを施行後の眼内レンズ眼に対するTLE術後と,有水晶体眼に対するTLE単独手術後を後ろ向きに比較し,眼内レンズ眼では有水晶体眼に比べて成功率が低く,PEAの既往を予後不良因子と報告している5).一方でShingletonらが後ろ向きに調査した報告では,濾過胞を作製する結膜部位に手術を行った既往のある眼内レンズ眼に対するTLE術後の成績を,手術の既往のない眼に対して行ったTLE術後の成績と比較430あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(126) AB1.001.000.800.80累積生存率TLE群IOL群同時手術群*p>0.01(log-ranktest)*累積生存率0.600.400.600.40*0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)CD1.001.000123456観察期間(カ月)累積生存率TLE群IOL群同時手術群3群間に有意義なし(p>0.2(log-ranktest))0.800.600.400.800.600.40累積生存率0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)0123456観察期間(カ月)図16カ月累積生存率A:基準1による全群,B:基準1による術式別生存率,C:基準2による全群,D:基準2による術式別生存率.全群TLE群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00IOL群同時手術群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00図2術前後眼圧変化TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.し,2群間で最終眼圧,眼圧下降薬,最大矯正視力に有意差15mmHgを基準とした累積生存率が同等であったことから,はなかったとしている6).Supawavejらは,有水晶体眼に対Supawavejらの結果に矛盾しない.さらに開放隅角緑内障するTLEと角膜切開からのPEA後のTLEを後ろ向きに比眼において有水晶体眼と眼内レンズ眼で比較すると,眼内レ較しているが,眼圧下降効果について同等であったと報告しンズ眼のほうが有意に房水中の炎症性サイトカイン濃度が高ている7).この報告は長期成績であるため単純には比較できいとのInoueらの報告8)もあり,白内障手術がTLEの予後ないが,本研究ではTLE群とIOL群は眼圧下降効果およびに何らかの影響を与えていると考えられる.(127)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014431 つぎにTLE群と同時手術群の比較を検討する.有水晶体眼に対してTLE単独手術を施行した場合,その後に白内障が進行し,手術が必要となる場合がある.Donosoらは,TLE施行後の眼に対してPEA手術を行った場合の眼圧への影響と,TLE白内障同時手術を施行した場合の眼圧への影響について後ろ向きに比較しており,2群間の生存率に有意差はなかったと報告している9).この結果は本研究の結果と異ならない.すでにPEAが濾過胞に与える影響についての検討はこれまで多くなされている.PEA後に濾過胞のある眼では眼圧が上がると報告するものもあれば10,11),白内障手術は濾過胞のある眼の眼圧コントロールに影響しないと報告するものもある12).また,PEAを施行する時期によって濾過胞に与える影響が異なるとする報告もある.Awai-Kasaokaらは,TLE施行後にPEAを行いTLE失敗となった眼について予後不良因子を検討し,TLE術後1年以内にPEAを行うことが予後不良因子だと報告している13).また,Siriwardenaらが術後の前房内炎症を調べた報告によれば,TLE術後眼よりもPEA術後眼で前房内炎症が長く続くため,PEAを施行する時期によってTLE成功率が左右されうるとしている14).本研究では6カ月のフォロー期間中に白内障が進行し手術を必要とした症例はなかったため,この検討は今後の検討課題の一つである.術後合併症としての房水漏出,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は2週間の退院後も認められたが,いずれも縫合処置によりただちに改善した.合併症は避けられないが即時に対処することにより改善が得られることが判明した.また,短期的には濾過胞感染は生じていない.術後処置として,ニードリングの回数が多いが,1眼について2.4回の処置を行っており癒着傾向が強い症例では反復した処置を要することがわかり,今後の術式改善が必要と考えられる.この研究期間中の術式では術後ニードリングの際に細胞増殖抑制薬は使用していないが,現在MMC併用ニードリングによる術後処置の改善を検討している.病型別では炎症性緑内障と閉塞隅角緑内障の半数以上で,1眼につき2回以上の処置を必要としたことが判明している(他誌投稿中).今回の結果は,12mmHgを目標眼圧とするとTLE群の中期成績はIOL群や同時手術群に比較して良い結果となったが,15mmHgを目標眼圧としたときの中期成績には差はなく,また術後の合併症や処置にも差はみられなかった.今回は脱落も含め半年の経過での検討だったが,さらなる長期経過を検討する予定である.本稿の要旨は第23回日本緑内障学会(2012)にて発表した.文献1)WuDunnD,CantorLB,Palanca-CapistranoAMetal:Aprospectiverandomizedtrialcomparingintraoperative5-fluorouracilvsmitomycinCinprimarytrabeculectomy.AmJOphthalmol134:521-528,20022)MostafaeiA:AugmentingtrabeculectomyinglaucomawithsubconjunctivalmitomycinCversussubconjunctival5-fluorouracil:arandomizedclinicaltrial.ClinOphthalmol5:491-494,20113)KitazawaY,KawaseK,MatsushitaHetal:Trabeculectomywithmitomycin.Acomparativestudywithfluorouracil.ArchOphthalmol109:1693-1698,19914)AgrawalP,ShahP,HuVetal:ReGAE9:baselinefactorsforsuccessfollowingaugmentedtrabeculectomywithmitomycinCinAfrican-Caribbeanpatients.ClinExperimentOphthalmol41:36-42,20135)TakiharaY,InataniM,SetoTetal:Trabeculectomywithmitomycinforopen-angleglaucomainphakicvspseudophakiceyesafterphacoemulsification.ArchOphthalmol129:152-157,20116)ShingletonBJ,AlfanoC,O’DonoghueMWetal:Efficacyofglaucomafiltrationsurgeryinpseudophakicpatientswithorwithoutconjunctivalscarring.JCataractRefractSurg30:2504-2509,20047)SupawavejC,Nouri-MahdaviK,LawSKetal:ComparisonofresultsofinitialtrabeculectomywithmitomycinCafterpriorclear-cornealphacoemulsificationtooutcomesinphakiceyes.JGlaucoma22:52-59,20138)InoueT,KawajiT,InataniMetal:Simultaneousincreasesinmultipleproinflammatorycytokinesintheaqueoushumorinpseudophakicglaucomatouseyes.JCataractRefractSurg38:1389-1397,20129)DonosoR,RodriguezA:Combinedversussequentialphacotrabeculectomywithintraoperative5-fluorouracil.JCataractRefractSurg26:71-74,200010)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification:aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,200511)WangX,ZhangH,LiSetal:Theeffectsofphacoemulsificationonintraocularpressureandultrasoundbiomicroscopicimageoffilteringblebineyeswithcataractandfunctioningfilteringblebs.Eye(Lond)23:112-116,200912)InalA,BayraktarS,InalBetal:Intraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationineyeswithprevioustrabeculectomy:acontrolledstudy.ActaOphthalmolScand83:554-560,200513)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:Impactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycin-C.JCataractRefractSurg38:419-424,201214)SiriwardenaD,KotechaA,MinassianDetal:Anteriorchamberflareaftertrabeculectomyandafterphacoemulsification.BrJOphthalmol84:1056-1057,2000利益相反:利益相反公表基準に該当なし432あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(128)