‘緑内障’ タグのついている投稿

人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):119.122,2014c人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連横田聡辻隆宏西川邦寿小堀朗福井赤十字病院眼科SuspectedGlaucomaandSystemicVascularDisorderunderHealthCheckupSatoshiYokota,TakahiroTsuji,KunihisaNishikawaandAkiraKoboriDepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital目的:当院における検診受診者で緑内障疑いと診断された症例について,検診検査項目のうち特に血管異常に関係する項目との関連について検討する.対象および方法:2010年1月から12月の間に当院検診センターを利用し,生活習慣病一般検査に加えて,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた全362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).Bodymassindex(BMI),腹囲,喫煙歴,血圧,血糖,脂質,眼圧,頭部MRI,頸部超音波検査の結果と眼底写真により判定した緑内障疑いとの関連について検討した.結果:362人のうち緑内障疑いは66人であった.緑内障疑い群では,収縮期血圧異常(37.9%),空腹時血糖異常(18.2%),頭部MRIでの虚血性変化あり(30%)の割合が対照群(それぞれ25.3%,8.8%,11%)と比較して有意に高かった(p<0.05:c2検定).平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHgであり,対照群の13.1mmHgと比較して有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定).また,回帰分析では,頭部MRI虚血性変化や高い眼圧は緑内障疑いのリスクファクターであった(p<0.05).結論:緑内障性の視神経変化には高眼圧のほか全身および頭部の血管障害が関与している可能性がある.Torevealtherelationbetweenglaucomatousfundusandcerebrovasculardisorder,wereviewed362patients(258males,104females)whohadundergonebrainmagneticresonanceimaging(MRI),cervicalultrasonographyandfunduscameraexaminationatourhospital’shealthcheckupcenterfromJanuarytoDecember2010.Bodymassindex(BMI),waistcircumference,smokinghistory,bloodpressure,fastingglucose,serumlipid,intraocularpressure(IOP),brainMRIandcervicalultrasonographywerestatisticallyanalyzedinrelationtodiscappearance.Ofthe362patients,66werediagnosedwithsuspectedglaucoma.Thesuspectedglaucomagroupwasmorelikelytohavesystolichypertension(37.9%),impairedfastingglucose(18.2%),brainischemia(30%)andhighaverageIOP(14.0mmHg),ascomparedtothecontrolgroup〔25.3%,8.8%,11%(chi-squaretest)and13.1mmHg(Student’st-test),respectively〕.MultivariatelogisticanalysisshowedthatbrainischemiaandhighIOPsubjectsweremorelikelytobeinthesuspectedglaucomagroup(p<0.05).OtherthanIOP,brainMRIischemicchangewasrelatedtosuspectedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):119.122,2014〕Keywords:緑内障,検診,頭部magneticresonanceimaging(MRI)虚血性変化,高血圧,耐糖能異常.glaucoma,healthcheckup,brainmagneticresonanceimaging(MRI)ischemicchange,hypertension,abnormalglucosetolerance.はじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).しかし,正常眼圧緑内障のなかには眼圧非依存因子を推定させる所見を呈することも多い2).過去にも,循環障害や糖尿病については緑内障の発症や進展因子として関与していることが示されている3).また,近年,網膜神経線維層欠損や視野障害と脳微小血管異常との関連が報告された4).これは,脳の微小循環障害のある患者においては網膜にも同様の微小循環障害があり影響を及ぼしたものと推察される.緑内障連続体5)として見たと〔別刷請求先〕横田聡:〒918-8501福井市月見2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:SatoshiYokota,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,Tsukimi2-4-1,Fukui,Fukui9188501,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)119 きに,どの時点から脳微小循環と眼の機能的構造的異常が関連しているか詳しく調べられた報告は少ない.今回,筆者らは検診における緑内障疑い例の緑内障性視神経異常と脳ドックを含む全身の検診の項目との関連について調べたので報告する.I対象および方法対象は2010年1月から12月の間に福井赤十字病院検診センターを利用し,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).院内の倫理規定に従い,検診用カルテより臨床情報を収集し後ろ向きに解析した.眼底検査は無散瞳カメラ(CanonCR-DG10)で眼底写真の撮影を行い,得られた写真より緑内障の有無を判定した.判定は日本緑内障学会による緑内障ガイドライン1)に沿って行い,いずれかの眼で緑内障診断基準もしくは緑内障疑いと判定する場合の基準を満たすものを緑内障疑い群,それ以外を対照群とした.すなわち,陥凹乳頭径比(C/D比)については,Glosterらの方法6)を採用し視神経乳頭陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径を定規で測定しその比を垂直C/D比とした.リム乳頭径比(R/D比)についても,Glosterらの方法6)を採用しリム部の幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径の比をR/D比とした.垂直C/D比とR/D比をもとに,Fosterらが提唱する診断基準7)を参考に,垂直C/D比が0.7以上,上極もしくは下極のリム幅が0.1以下,両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,網膜神経線維層欠損の存在のいずれかを満たすものを本研究においての緑内障疑い群とした.検診時の担当医の判定を知らない筆者らのうちの1人が改めて判定を行い,当時の検診担当医の判定と一致しない場合には筆者らの間で協議を行ったうえで決定した.Bodymassindex(BMI)は25以上を異常とした8).腹囲は男性で85cm以上,女性で90cm以上を異常とした9).喫煙歴は受診時までに1年以上の習慣的喫煙歴の有無で分けた.血圧は収縮期血圧が140mmHgを超えるものもしくは拡張期血圧が90mmHgを超えるもの10),もしくは受診時に降圧剤の内服をしているものを異常とした.耐糖能は空腹時血糖が126mg/dl以上のもの11),もしくは糖尿病治療薬の内服をしているものを異常とした.脂質代謝はTG(トリグリセリド)150mg/dl以上,HDL(高比重リポ蛋白)40mg/dl未満,LDL(低比重リポ蛋白)140mg/dl以上のいずれかを満たすものもしくは高脂血症の治療薬の内服をしているものを異常とした12).眼圧は非接触眼圧計(NIDEKNT-3000)を使用して計測した.頭部MRIは,放射線科医,神経内科医,脳神経外科医のいずれかが読影を行いラクナ梗塞を含む虚血性変化のあるものを異常とした.頸部超音波検査では放射線120あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014科医が読影を行い,内頸動脈の壁肥厚が1.3mm以上あるものを異常とした.各因子の異常の有無と眼底写真においての緑内障疑いとの関連について統計学的に解析を行った.統計解析にはJMP(SASInstituteInc.バージョン10.0.2)を用いた.II結果362人のうち緑内障疑いは66人であった.残りの296人を対照群とした.緑内障疑い群では男性48名,女性18名,平均年齢58.2歳,対照群では男性210名,女性86名,平均年齢56.0歳で両群間に男女比および年齢分布に有意な差は認められなかった(c2検定,Studentのt検定).BMI異常,腹囲異常,喫煙歴,血圧異常,脂質代謝異常,頸部超音波異常はそれぞれ緑内障群で27.3%,45.5%,59.1%,40.9%,50.0%,対照群で33.1%,47.0%,58.1%,29.4%.52.0%に認められたが,両群間に有意な差は認められなかった(それぞれc2検定).収縮期血圧異常は緑内障疑い群で37.9%,対照群で25.3%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).耐糖能異常は緑内障疑い群で18.2%,対照群で8.8%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).頭部MRIでの虚血性変化がみられた割合は緑内障疑い群で30%,対照群で11%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).左右の平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHg,対照群で13.1mmHgと緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定)(表1).単変量解析で用いたパラメータを用いて変数強制投入法によるロジスティック回帰分析を行ったところ,表2に示すように,頭部MRIでの虚血性変化および左右平均眼圧が高いことが緑内障疑い群となるリスクを有意に上げることがわかった(p<0.05).しかし,年齢はリスク要因とはならなかっ表1緑内障疑い群と対照群においての各パラメータの単変量解析対照群緑内障疑いn=296n=66男女比*1(男/女)210/8648/18年齢*256.058.2BMI肥満*198(33.1%)18(27.3%)腹囲異常*1139(47.0%)30(45.5%)喫煙歴あり*1172(58.1%)39(59.1%)高血圧*187(29.4%)27(40.9%)(収縮時高血圧)*175(25.3%)25(37.9%)p<0.05耐糖能異常*126(8.8%)12(18.2%)p<0.05脂質代謝異常*1153(51.7%)36(54.5%)MRI頭部虚血*133(11.1%)20(30.3%)p<0.05超音波頸動脈肥厚*1103(34.8%)29(43.9%)平均眼圧*213.1mmHg14.0mmHgp<0.01*1:c2検定,*2:Studentのt検定.(120) 表2ロジスティック回帰分析による緑内障疑いとなるリスクファクターオッズ比(95%信頼区間)pvalue男女比(男)0.975(0.439.2.184)0.952年齢*11.004(0.970.1.039)0.826BMI肥満0.597(0.270.1.310)0.198腹囲異常1.130(0.527.2.374)0.750喫煙歴あり0.910(0.453.1.855)0.910高血圧1.062(0.555.1.995)0.854耐糖能異常2.093(0.909.4.633)0.081脂質代謝異常1.106(0.617.1.991)0.734MRI頭部虚血3.190(1.496.6.812)0.003超音波頸動脈肥厚1.103(0.590.2.033)0.755平均眼圧*11.131(1.017.1.258)0.023*1:単位オッズ比(年齢は1歳,平均眼圧は1mmHgの変化の場合).た.III考按わが国の緑内障有病率は多治見スタディより5.0%程度とされている13,14).本研究では緑内障疑いは受診者の18.2%と高頻度であった.実際に緑内障と診断されるには視野検査が必要であり,今回はスクリーニング検査のため高値となった.実際の緑内障患者で今回と同様の結果になるかは今後の検討課題である.緑内障と全身疾患との関連については過去にも報告されている15).既報3,16)と同様に,検診での緑内障疑い例と収縮期血圧異常や耐糖能異常との関連が示された.肥満は眼圧上昇の誘因であるとの報告17)もあるが,本研究では肥満や脂質代謝異常と緑内障疑いとの関連は認められなかった.これら生活習慣病一般検査と緑内障の関連が示されていることで,食習慣や生活習慣の改善・運動の習慣化といった生活習慣病の予防につながるライフスタイルが緑内障の予防にもつながる可能性が示された.これまでも脳虚血性変化と視野進行の関連は報告されている4).本研究では新たに頭部MRIにおける虚血性変化と緑内障性視神経乳頭形状変化との関連が認められた.頭部での微小循環の障害の患者では同様に網膜や視神経乳頭においても微小循環が障害されている可能性が高く,緑内障の治療や診断面において眼局所での循環と緑内障の発症・進展との関係について今後注目すべきである.血圧異常,耐糖能異常,脳虚血性変化や緑内障は高齢になれば罹患率は上がるため年齢による交絡の可能性がある.しかし,本研究は多変量解析で,年齢は緑内障疑い群となる因子でなく,頭部MRI虚血性変化および高い眼圧が,年齢に関係なく緑内障疑い群となる因子の一つとして示された.眼圧以外に脳の微小循環障害はそれ単独でも緑内障危険因子と(121)なることが判明した.一方,本研究では検診受診時のデータを使用しており,測定している項目が限られているため緑内障と関連があるとすでに報告されている因子のいくつかについては検討ができなかった.多治見スタディでは,近視と開放隅角緑内障との関連が示されている18).しかし,当院の検診では持参の眼鏡やコンタクトレンズでの矯正視力の測定のみで,オートレフラクトリーメータや最大矯正視力検査を行っておらず,本研究では屈折値と緑内障疑い群との関連の検討はできなかった.本研究により緑内障は高血圧症や糖尿病,脳循環障害などの全身疾患との関連があることが明らかになった.緑内障の予防や治療にはこれら全身疾患の改善も必要であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,20133)雨宮哲士,関希和子,笹森典雄ほか:人間ドックデータと緑内障性眼底変化との関連.山梨医科大学雑誌14:91-97,19994)SuzukiJ,TomidokoroA,AraieMetal:Visualfielddamageinnormal-tensionglaucomapatientswithorwithoutischemicchangesincerebralmagneticresonanceimaging.JpnJOphthalmol48:340-344,20045)WeinrebRN,KhawPT:Primaryopen-angleglaucoma.Lancet363:1711-1720,20046)GlosterJ,ParryDG:Useofphotographsformeasuringcuppingintheopticdisc.BrJOphthalmol58:850-862,19747)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20028)松沢佑次,坂田利家,池田義雄ほか:肥満症治療ガイドライン.肥満研究12:93,20069)メタボリックシンドローム診断基準検討委員会:メタボリックシンドローム診断基準.日内会誌94:794-809,200510)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2009.200911)糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病53:450-467,201012)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版.201213)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,200414)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmologyあたらしい眼科Vol.31,No.1,2014121 112:1661-1669,200517)MoriK,AndoF,NomuraHetal:Relationshipbetween15)PacheM,FlammerJ:Asickeyeinasickbody?System-intraocularpressureandobesityinJapan.IntJEpidemiolicfindingsinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.29:661-666,2000SurvOphthalmol51:179-212,200618)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-16)KleinBE,KleinR,JensenSC:Open-angleglaucomaandangleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiolder-onsetdiabetes.TheBeaverDamEyeStudy.Oph-Study.Ophthalmology113:1613-1617,2006thalmology101:1173-1177,1994***122あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(122)

プロスタグランジン関連点眼液併用下でのβ遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液から1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液への変更時の眼圧下降効果と安全性

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):115.118,2014cプロスタグランジン関連点眼液併用下でのb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液から1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液への変更時の眼圧下降効果と安全性井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科OcularHypotensiveEffectandSafetyofTreatmentwith1%DorzolamideHydrochloride/0.5%TimololMaleateinPlaceofb-BlockerorCarbonAnhydraseInhibitorKenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:プロスタグランジン(PG)関連点眼液併用下で,b遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液(以下,CAI)を1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,DTFC)へ変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討する.対象および方法:PG関連点眼液とb遮断点眼液あるいはCAIの2剤併用中の原発開放隅角緑内障,落屑緑内障患者53例53眼を対象とした.b遮断点眼液(30例)あるいはCAI(23例)を中止し,washout期間なしでDTFCに変更した.眼圧を変更前と変更1,3カ月後に測定し,比較した.結果:眼圧は両群ともに変更1,3カ月後に変更前と比べて有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降率は変更1カ月後はb遮断点眼液群11.5±11.7%,CAI群16.5±13.1%,変更3カ月後はb遮断点眼液群15.0±13.0%,CAI群15.8±15.3%で変更1カ月後と3カ月後で有意差なく,b遮断点眼液群とCAI群の間に有意差はなかった.副作用が出現した症例はなかった.結論:PG関連点眼液とb遮断点眼液あるいはCAIを併用中に,b遮断点眼液あるいはCAIを中止してDTFCに変更することで,約15%の眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Weinvestigatedthesafetyandefficacyofswitchingfromb-blockerorcarbonanhydraseinhibitor(CAI)to1%dorzolamidehydrochloride/0.5%timololmaleatefixed-combinationeyedrops(DTFC)inanefforttoreduceintraocularpressure(IOP).SubjectsandMethods:Thestudypopulationcomprised53eyesfromprimaryopen-angleorexfoliationglaucomapatientswhowereconcomitantlyusingprostaglandinanalogsandb-blockersorCAI.Theb-blockersorCAIwerediscontinuedandthepatientsswitchedtoDTFC.IOPwasmeasuredat1monthbeforeandat1and3monthsaftertheswitch.Results:IOPhaddecreasedsignificantlyinbothgroupsat1and3monthsaftertheswitch(p<0.0001).TheIOPdecreaseratesafter3monthswereabout15%.Innocaseweretheeyedropsdiscontinuedduetoadversereaction.Conclusion:Patientsconcomitantlyusingprostaglandinanalogsandb-blockersorCAIsafelyreducedtheirIOPabout15%bydiscontinuinguseofb-blockerorCAIandswitchingtoDTFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):115.118,2014〕Keywords:1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液,b遮断点眼液,炭酸脱水酵素阻害点眼液,変更,眼圧,緑内障.1%dorzolamidehydrochloride/0.5%timololmaleatefixed-combinationeyedrops,b-blocker,carbonicanhydraseinhibitor,switch,intraocularpressure,glaucoma.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(115)115 はじめに近年アドヒアランスの向上を目的として配合点眼液が開発された.日本でも2010年に1%ドルゾラミド点眼液と0.5%チモロール点眼液の配合点眼液(コソプトR)が発売された.1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果は,b遮断点眼液と炭酸脱水酵素阻害点眼液からの切り替えの報告が多い1.5).点眼液治療における第一選択はプロスタグランジン関連点眼液である.その理由としてプロスタグランジン関連点眼液が強力な眼圧下降効果を有する点,全身性副作用が少ない点,1日1回点眼の利便性を有する点があげられる6).しかしプロスタグランジン関連点眼液単剤で眼圧下降効果が不十分な場合は他の点眼液の追加投与が必要となる.点眼液の作用機序を考慮するとb遮断点眼液や炭酸脱水酵素阻害点眼液が2剤目として適している.プロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液の併用を行っても眼圧下降効果が不十分な場合には3剤目の点眼液の追加投与が必要となる.3剤目としては2剤目までに使用していない炭酸脱水酵素阻害点眼液あるいはb遮断点眼液が使用されることが多い.2012年には,ブリモニジン点眼液が使用可能となり3剤目の選択肢として増えたが,今回はブリモニジン点眼液の使用経験が少ないため検討は行わなかった.このように多剤併用療法になるとアドヒアランスの低下が問題となる7).配合点眼液の登場により,従来の3剤目の追加投与ではなく,1剤を配合点眼液に変更する方法が考えられる.しかしこのような変更による眼圧下降効果の報告は多くない4,8.10).さらに3剤目を追加投与する場合と1剤を配合点眼液に変更する場合の眼圧下降効果の違いは不明である.そこで今回,プロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液の2剤併用中の緑内障患者に対して,b遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を中止して,1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液へ変更した際の眼圧下降効果と安全性を前向きに解析した.そして3剤目を追加投与した際の効果との比較を,文献的情報11,12)をもとに試みた.I対象および方法2010年12月から2011年7月までの間に井上眼科病院に通院中で,プロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液の2剤のみを使用中で目標眼圧に到達していない原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障も含む)あるいは落屑緑内障53例53眼(男性25例25眼,女性28例28眼)を対象とした.これらの症例をプロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液の併用群30例(男性16例,女性14例)(グループ1)とプロスタグランジン関連点眼液と炭酸脱水酵素阻害点眼液の併用群23例(男性9例,女性14例)(グループ2)に分けた(表1).緑内障手術既往歴を有する症例および3カ月以内に白内障手術を施行した症例は除外した.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を中止し,ウォッシュアウト期間なしで1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液(1日2回朝夜点眼)に変更した.プロスタグランジン関連点眼液は継続とした.変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,変表1患者背景(グループ1とグループ2)グループ1グループ2患者(例)3023年齢(歳)(平均±標準偏差,範囲)70.9±10.6,42.8572.3±7.2,55.84原発開放隅角緑内障2823緑内障の病型正常眼圧緑内障1─落屑緑内障1─プロスタグランジン関連点眼液ラタノプロストトラボプロストタフルプロスト27211562チモロール11─b遮断点眼液カルテオロールレボブノロール97──ベタキソロール2─ニプラジロール1─炭酸脱水酵素阻害点眼液ブリンゾラミド─13ドルゾラミド─10Meandeviation値(dB)(平均±標準偏差,範囲).11.9±6.88,.23.65..0.10.9.13±5.60,.19.12..0.71点眼変更前眼圧(mmHg)(平均±標準偏差,範囲)18.4±3.1,13.2521.0±4.5,15.31116あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(116) 更1,3カ月後の眼圧を変更前と比較した〔ANOVA(analysisofvariance)およびBonferroni/Dunnet検定〕.変更前2回の来院時の眼圧を測定し,各々の差が1mmHg以内で,眼圧が安定している症例を対象とした.そして今回用いた変更前眼圧は,変更時の眼圧値を使用した.変更1,3カ月後の眼圧下降幅,眼圧下降率を変更前と比べることで算出し,比較した(Mann-WhitneyのU検定).さらにグループ1とグループ2の変更1,3カ月後の眼圧下降幅,眼圧下降率を比較した(Mann-WhitneyのU検定).変更後に来院時ごとに副作用を細隙灯による前眼部の観察,眼底の観察,患者の自覚症状から調査した.統計学的有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果グループ1とグループ2の患者背景を表1に示す.プロスタグランジン関連点眼液は全例1日夜1回点眼で,ブリンゾラミド点眼液は全例1日2回朝夜点眼である.グループ1とグループ2の間に年齢,MD(meandeviation)値に有意差はなかった.眼圧はグループ2がグループ1に比べて有意に高かった(p<0.05).グループ1の眼圧は変更1カ月後16.2±3.1mmHg(平均値±標準偏差),3カ月後15.5±3.5mmHgで,変更前18.4±3.1mmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後(2.2±2.3mmHg)と3カ月後(2.9±2.6mmHg)で有意差がなかった(p=0.0875).眼圧下降率は変更1カ月後(11.5±11.7%)と3カ月後(15.0±13.0%)で有意差がなかった(p=0.0715).グループ2の眼圧は変更1カ月後17.2±3.1mmHg,3カ月後17.2±4.1mmHgで,変更前21.0±4.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後(3.8±3.5mmHg)と3カ月後(3.6±4.4mmHg)で有意差がなかった(p=0.6149).眼圧下降率は変更1カ月後(16.5±13.1%)と3カ月後(15.8±15.3%)で有意差がなかった(p=0.6009).グループ1とグループ2の眼圧下降幅は変更1カ月後,3カ月後ともに有意差がなかった(p=0.0686,p=0.7102).同様に眼圧下降率は変更1カ月後,3カ月後ともに有意差がなかった(p=0.0863,p=0.9714).変更後3カ月間に点眼液が中止となった症例はなかった.グループ2で変更1カ月後に2例(8.7%)で点状表層角膜症が出現したが,2例ともAD(area-density)分類13)ではA1D1で,点眼液を継続したところ,変更3カ月後には消失した.III考按プロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液あるいは(117)302520151050変更前変更1カ月後変更3カ月後眼圧(mmHg):グループ1:グループ2図11%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液変更前後の眼圧グループ1,グループ2ともに眼圧は変更1,3カ月後に変更前と比べて有意に下降した.グループ1はプロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液からの変更群,グループ2はプロスタグランジン関連点眼液と炭酸脱水酵素阻害点眼液からの変更群である.値は平均値±標準偏差を示す.炭酸脱水酵素阻害点眼液を併用中の患者の3剤目の点眼液としてさまざまな方法が考えられるが,今回は以下の2つの方法を検討した.b遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を中止し,1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液へ変更する方法と,2剤目までに使用していない炭酸脱水酵素阻害点眼液あるいはb遮断点眼液を追加投与する方法とした.アドヒアランスに関しては点眼液数,1日の総点眼回数が少ない配合点眼液へ変更したほうが有利である.しかし過去に今回と同様の変更を行った報告は多くはない4,8.10).Pajicらは,2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液使用中の患者の投与前後の眼圧と安全性を多施設で調査した8).ラタノプロスト点眼液とb遮断点眼液を使用中の37例で,b遮断点眼液を中止して2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液へ変更したところ,眼圧は変更前(19.8±4.2mmHg)に比べて変更後(16.5±3.3mmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅は3.3±2.9mmHgだった.石橋らは,タフルプロスト点眼液とb遮断点眼液併用中の20例で,b遮断点眼液を中止して1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液へ変更した9).眼圧は変更前(15.8±2.9mmHg)に比べて,変更1カ月後(14.0±2.8mmHg),3カ月後(14.0±2.7mmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅は1.8mmHgだった.早川らは,プロスタグランジン関連点眼液とチモロール点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液併用中の9例で,チモロール点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を中止して1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液へ変更した10).眼圧は変更前(17.6±2.1mmHg)に比べて変更4週間後(15.8±2.2mmHg),12週間後(15.0±2.7mmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅は1.8mmHgと2.6mmHgだった.今回,筆者らは,プロスタあたらしい眼科Vol.31,No.1,2014117 グランジン関連点眼液とb遮断点眼液の併用群,プロスタグランジン関連点眼液と炭酸脱水酵素阻害点眼液の併用群の2群に分けて解析したが,その結果は過去の報告8.11)とほぼ同等であった.一方,2剤目までに使用していない炭酸脱水酵素阻害点眼液を追加投与し,その眼圧下降効果を検討した報告11,12)として,Tsukamotoらは,ラタノプロスト点眼液とb遮断点眼液を使用中で眼圧下降効果が不十分な原発開放隅角緑内障患者52例に対して1%ドルゾラミド点眼液あるいはブリンゾラミド点眼液を8週間追加投与した11).8週間後には両群ともに眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1%ドルゾラミド点眼液群が1.8±1.4mmHg,ブリゾラミド点眼液群が1.9±1.3mmHgだった.また,丹羽らは,ラタノプロスト点眼液とb遮断点眼液を使用中で眼圧下降効果が不十分な慢性緑内障患者41例に対して1%ドルゾラミド点眼液を4週間追加投与した12).4週間後には眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.9mmHg,眼圧下降率は11.2%だった.以上をもとに考えると,眼圧下降幅は1剤を配合剤に変更する今回のグループ1(変更1カ月後2.2mmHg,3カ月後2.9mmHg),グループ2(変更1カ月後3.8mmHg,3カ月後3.6mmHg),過去の報告(1.8mmHg9,10),2.6mmHg10),3.3mmHg8))のほうが3剤目を追加投与する報告(1.8mmHg11),1.9mmHg12))より大きいと推測される.同様に眼圧下降率も1剤を配合剤に変更する今回のグループ1(変更1カ月後11.5%,3カ月後15.0%),グループ2(変更1カ月後16.5%,3カ月後15.8%),過去の報告(10.2%10),11.4%9),14.8%10),16.7%8))のほうが3剤目を追加投与する報告(9.8%11),11.2%12))より大きいと推測される.3剤目としてb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を追加投与するよりも配合点眼液へ変更するほうが,眼圧下降幅や眼圧下降率が大きかったが,その理由としてアドヒアランス,点眼液の刺激感,対象の平均年齢が70歳を超えていることなどが関与している可能性がある.今回のグループ1とグループ2の変更前眼圧に有意差があったが,変更1カ月後,3カ月後の眼圧下降率は両グループ間に有意差はなかった.さらにグループ1,グループ2ともに変更前眼圧が高値だったが,対象のなかにアドヒアランス不良例やプロスタグランジン関連点眼液のノンレスポンダー例が特にグループ2に多く含まれていた可能性がある.それらの詳細な検討は今回行わなかった.結論として日本人の原発開放隅角緑内障および落屑緑内障患者に対してプロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液の2剤併用中で,b遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液を中止して,1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更することで,点眼液数を増やすことなく眼圧を下降させることができ,患者の自覚症状や前眼部・眼底所見において安全性も良好だった.その眼圧下降率は3剤目を追加投118あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014与するよりも大きいと推測され,点眼液を2剤併用中の患者の3剤目として配合点眼液を使用することは有用であると考える.文献1)井上賢治,富田剛司:ドルゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼液1年間投与の効果.あたらしい眼科30:857860,20132)NakakuraS,TabuchiH,BabaYetal:Comparisonofthelatanoprost0.005%/timolol0.5%+brizolamide1%versusdorzolamide1%/timolol0.5%+latanoprost0.005%:a12-week,randomizedopen-labeltrial.ClinOphthalmol6:369-375,20123)InoueK,ShiokawaM,SugaharaMetal:Three-monthevaluationofocularhypotensiveeffectandsafetyofdorzolamidehydrochloride1%/timololmaleate0.5%fixedcombinationdropsafterdiscontinuationofcarbonicanhydraseinhibitorandb-blockers.JpnJOphthalmol56:559-563,20124)武田桜子,村上文,松原正男:b遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性.あたらしい眼科29:253-257,20125)嶋村慎太郎,大橋秀記,河合憲司:アドヒアランス不良な多剤併用緑内障治療眼に対する配合剤への切り替え効果の検討.眼臨紀5:549-553,20126)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20097)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20098)PajicB,fortheConductorsoftheSwissCOSOPTSurvey(CSCS):ExperiencewithCOSOPT,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,gainedinSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:95-101,20039)石橋真吾,田原昭彦,永田竜朗ほか:タフルプロスト点眼薬併用下でのb遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果.あたらしい眼科30:551-554,201310)早川真弘,澤田有,阿部早苗ほか:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験.あたらしい眼科30:261-264,201311)TsukamotoH,NomaH,MatsuyamaSetal:Theefficacyandsafetyoftopicalbrinzolamideanddorzolamidewhenaddedtothecombinationtherapyoflatanoprostandabeta-blockerinpatientswithglaucoma.JOculPharmacolTher21:170-173,200512)丹羽義明,山本哲也:各種緑内障眼に対する塩酸ドルゾラミドの効果.あたらしい眼科19:1501-1506,200213)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,2003(118)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした0.5%チモロール点眼液との第III相二重盲検比較試験

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1773.1781,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした0.5%チモロール点眼液との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)versusTimolol0.5%OphthalmicSolutioninPrimaryOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者166例を対象に,チモロールを対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.チモロール4週間点眼後の眼圧が20mmHg以上の被験者をDE-111群またはチモロール群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で3.2±2.1mmHg下降し,チモロール群の1.7±2.1mmHg下降と比較して統計学的に有意に大きかった.副作用発現率はDE-111群19.5%,チモロール群3.6%と,両群間に有意差を認めたが,DE-111群で発現した副作用の多くは軽度で忍容性に問題はなかった.DE-111点眼液は,緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftimolol0.5%in166patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension,inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.PatientswithIOP≧20mmHgaftertimololinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111ortimololgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalintraocularpressurereductionfrombaselinewas3.2±2.1mmHgintheDE-111groupand1.7±2.1mmHginthetimololgroup,withstatisticallysignificantdifferencebetweenthegroups.Atotalof19.5%ofthepatientswithDE-111and3.6%ofthosewithintimololreportedadversedrugreactions,butDE-111wastolerable,asmostoftheadversedrugreactionswithitweremild.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1773.1781,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめにDE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する配合点眼液である.タフルプロストは参天製薬株式会社および旭硝子株式会社で創製されたプロスタグランジン(PG)F2a誘導体で,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進による眼圧下降効果が報告されている1.3).b遮断薬であるチモロールは,房水産生を抑制することによって眼圧下降効果が得られる薬剤である4,5).DE-111点眼液は,これら作用機序の異なる2成分を配合することにより各単剤より〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(125)1773 も強い眼圧下降効果が期待されるのみならず,点眼回数が減ることにより患者の利便性やアドヒアランスさらにはQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.しかしながら,これら配合点眼液に関して,その有効性や安全性をチモロール単剤と二重盲検比較試験で検討した論文報告は,海外にはあるものの6.12)国内にはない.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液とDE-111点眼液の有効成分の一つである0.5%チモロール点眼液との多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2並びに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国16医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.治験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.2.目的DE-111点眼液の0.5%チモロール点眼液に対する優越性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,0.5%チモロール点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が20mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はDE-111第III相臨床試験であり,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を洗い流し,0.5%チモロール点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期には0.5%チ1774あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人社団山田眼科大谷地裕明渡辺眼科医院渡邉広己財団法人湯浅報恩会寿泉堂綜合病院眼科神田尚孝医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治医療法人社団瞳好会京王八王子松本眼科松本純医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院宮永嘉隆医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功むらまつ眼科医院村松知幸医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科石田玲子医療法人豊潤会松浦眼科眼科松浦雅子野村眼科野村亮二医療法人庸倫会スズキ眼科服部博之宇部興産株式会社中央病院眼科湧田真紀子医療法人杏水会右田眼科右田雅義医療法人明和会宮田眼科病院宮田和典医療法人仁志会西眼科病院藤井誠一郎表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくともいずれか一方の眼圧が20mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断モロール点眼液を1日2回朝夜両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝は0.5%チモロール点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が20mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群またはチモロール群に1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群は,DE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼した.チモロール群は,0.5%チモロール点眼液を1日2回朝夜両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日1回朝両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1(126) 回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111群にはチモロール型容器のプラセボ点眼液(1日2回朝夜両眼点眼),チモロール群には同意取得登録/割付け:1日2回(朝,夜)両眼点眼:1日2回(朝,夜)両眼点眼(チモロール型容器)DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【導入期】・0.5%チモロール点眼液【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液導入期4週間治療期4週間チモロール点眼液0.5%DE-111群二重盲検チモロール群・チモロール群0.5%チモロール点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼プラセボ点眼液:1日1回(朝)両眼点眼(DE-111型容器)図1試験デザインDE-111型容器のプラセボ点眼液(1日1回朝両眼点眼)をそれぞれ併用するダブルダミー法を用いて盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数DE-111群とチモロール群の眼圧変化量の差を2.0mmHg,標準偏差を4.0mmHg,有意水準を5%,t検定を用いた検出力を80%としたとき,1群の必要例数は64例である.脱落例を考慮し,目標症例数を1群70例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期0週以降は来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(-4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●(127)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131775 期開始時は午前中,治療期0週および4週は朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療薬およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の眼圧平均値と定義した.また副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られているすべての被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼1776あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合はFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,本論文は参天製薬株式会社が行った解析データを基に筆者が執筆した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は203例で,導入期が開始された被験者は188例,治療期が開始された被験者は166例であり,無作為にDE-111群82例,チモロール群84例に割り付けられた.治療期中に8例が試験を中止し(DE-111群5例,チモロール群3例),158例が試験を完了した(DE-111群77例,チモロール群81例).無作為化された166例(DE-111群82例,チモロール群84例)を安全性解析対象集団およびFAS集団とした.さらに,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった12例を除く154例(DE-111群74例,チモロール群80例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.緑内障前治療薬の有無についてのみ群間に偏りが認められた(Fisherの直接法:p=0.050).2.有効性FAS集団における平均日中眼圧変化量の推移および群間比較を図3と表5に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群20.8±2.1mmHg,チモロール群20.7±2.1mmHgであり,治療期終了時(治療期4週または中止時)には,DE-111群17.5±2.7mmHg,チモロール群19.0±3.3mmHgであった.主要評価である治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群.3.2±2.1mmHg,チモロール群.1.7±2.1mmHgであり,両群ともに0週に比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,変化量の群間差(DE-111群.チモロール群,平均値±標準誤差)は.1.5±(128) 文書同意を得た被験者:203例導入期の試験薬が投薬された被験者:188例導入期の試験薬未投与例:15例試験開始後に不適格が判明:13例試験継続の拒否:2例無作為割付された被験者:166例導入期中止例:22例DE-111群:82例チモロール群:84例有害事象発現:4例眼圧>34mmHg:1例試験開始後に不適格が判明:17例治療期の試験薬が投薬された被験者:166例DE-111群:82例チモロール群:84例試験を完了した症例:158例治療期に中止した被験者:8例DE-111群:77例チモロール群:81例有害事象発現:5例(DE-111群)試験開始後に不適格が判明:1例(チモロール群)転院,転居,多忙:2例(チモロール群)文書同意を得た被験者:203例導入期の試験薬が投薬された被験者:188例導入期の試験薬未投与例:15例試験開始後に不適格が判明:13例試験継続の拒否:2例無作為割付された被験者:166例導入期中止例:22例DE-111群:82例チモロール群:84例有害事象発現:4例眼圧>34mmHg:1例試験開始後に不適格が判明:17例治療期の試験薬が投薬された被験者:166例DE-111群:82例チモロール群:84例試験を完了した症例:158例治療期に中止した被験者:8例DE-111群:77例チモロール群:81例有害事象発現:5例(DE-111群)試験開始後に不適格が判明:1例(チモロール群)転院,転居,多忙:2例(チモロール群)図2被験者の内訳表4被験者背景項目分類DE-111群チモロール群合計例数8284166診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症36(43.9)46(56.1)37(44.0)47(56.0)73(44.0)93(56.0)性別男38(46.3)38(45.2)76(45.8)女44(53.7)46(54.8)90(54.2)年齢65歳未満46(56.1)35(41.7)81(48.8)65歳以上36(43.9)49(58.3)85(51.2)最小.最大24.8126.7924.81平均値±標準偏差61.6±11.463.1±12.462.4±11.9緑内障前治療薬なし21(25.6)11(13.1)32(19.3)あり61(74.4)73(86.9)134(80.7)合併症なし9(11.0)9(10.7)18(10.8)あり73(89.0)75(89.3)148(89.2)導入期の隅角331(37.8)31(36.9)62(37.3)(Shaffer分類)451(62.2)53(63.1)104(62.7)導入期の緑内障性の異常なし56(68.3)53(63.1)109(65.7)視野異常異常あり26(31.7)31(36.9)57(34.3)導入期の緑内障性の異常なし50(61.0)47(56.0)97(58.4)眼底異常異常あり32(39.0)37(44.0)69(41.6)導入期終了時の最小.最大17.3.28.718.0.30.717.3.30.7平均眼圧(mmHg)平均値±標準偏差20.8±2.120.7±2.120.7±2.1導入期終了時の最小.最大20.0.28.020.0.29.020.0.29.0トラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差21.7±1.821.6±1.721.6±1.8例数(%).(129)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131777 0.3mmHgであり,DE-111群の眼圧下降はチモロール群と比較して有意に大きかった(p<0.001).副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時刻における眼圧実1眼圧変化量(mmHg)測値の推移および群間比較を図4と表6に示した.DE-111群とチモロール群の群間比較では,DE-111はすべての測定時刻においてチモロール群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.01).被験者背景において,緑内障前治療薬の有無について群間に偏りがみられたため,緑内障前治療薬の有無別に各群の平均日中眼圧値を比較したが,全体での結果と差異は認められなかった.PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(治療期4週または中止時)において治療期0週からの平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群が32.9%であり,チモロール群の7.1%より有意に多かった(p<0.001)(図5).3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群82例,チモロール群0-1-2**-3:DE-111群:チモロール群-5-4-60週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表5平均日中眼圧DE-111群チモロール群DE-111群.チモロール群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)群間比較(mmHg)時期Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SE95%信頼区間p値0週20.8±2.1(82)──20.7±2.1(84)─────治療期終了時17.5±2.7(82).3.2±2.1(82)<0.00119.0±3.3(84).1.7±2.1(84)<0.001.1.5±0.3.2.2..0.9<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.眼圧(mmHg)2423222120191817161514:DE-111群:チモロール群********0週0週0週2週4週4週4週点眼前点眼2時間後点眼8時間後点眼前点眼前点眼2時間後点眼8時間後図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.01.1778あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(130) 表6眼圧実測値DE-111群チモロール群DE-111群.チモロール群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)群間比較(mmHg)時期Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SE95%信頼区間p値0週朝点眼前21.7±1.8(82)──21.6±1.7(84)─────0週点眼2時間後20.4±2.5(82)──20.6±2.6(84)─────0週点眼8時間後20.0±2.8(82)──19.8±2.7(84)─────2週18.0±2.3(82).3.7±2.2(82)<0.00119.3±3.5(84).2.2±2.6(84)<0.001.1.4±0.4.2.2..0.7<0.0014週朝点眼前17.6±2.7(79).4.1±2.2(79)<0.00119.3±3.2(83).2.3±2.3(83)<0.001.1.8±0.4.2.6..1.1<0.0014週点眼2時間後17.5±3.2(77).3.0±2.5(77)<0.00118.7±3.6(82).1.9±2.4(82)<0.001.1.0±0.4.1.8..0.30.0094週点眼8時間後17.3±3.1(77).2.7±2.9(77)<0.00118.8±3.5(81).1.0±2.5(81)<0.001.1.7±0.4.2.5..0.8<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.403020100図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合84例の計166例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発現率を表7に,副作用一覧を表8に示した.有害事象は,DE-111群で25.6%(21/82例),チモロール群で14.3%(12/84例)であり,そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で19.5%(16/82例),チモロール群で3.6%(3/84例)であった.有害事象の発現率は群間に差は認められなかったものの,副作用の発現率はDE-111群がチモロール群と比較して有意に高かった(有害事象:p=0.081,副作用:p=0.001).DE-111群のおもな副作用は,結膜充血(6.1%,5/82例)および眼充血(7.3%,6/82例)であった.チモロール群の(131)症例割合(%)32.9%(27/82)7.1%(6/84)DE-111群チモロール群副作用は,結膜出血(1.2%,1/84例),眼充血(1.2%,1/84例)および角膜障害(1.2%,1/84例)であった.両群ともに副作用はすべて眼障害で,重症度はDE-111群において中等度と判断された虹彩炎(1.2%,1/82例)を除きすべて軽度であり,いずれも試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,虹彩炎を発現した1例,眼充血,眼刺激および眼瞼浮腫を発現した1例,眼充血を発現した1例,結膜充血および眼瞼紅斑を発現した1例の計4/82例(4.9%)であり,いずれも試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で単球および尿糖(定性)が,チモロール群で好酸球,リンパ球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は認められなかった.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,DE-111群は0週と比較して有意な変動は認められなかった.チモロール群は,収縮期血圧について,0週と比較して有意な低下が4週(平均値±標準偏差,.2.45±11.10mmHg,p=0.048)に認められた.脈拍数について,DE-111群で0週と比較して有意な上昇が2週(平均値±標準偏差,5.5±7.8拍/分,p<0.001)および4週(4.6±8.1拍/分,p<0.001)に認められた.チモあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131779 表7治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群チモロール群検定(Fisherの直接法)安全性解析対象集団例数8284─有害事象発現例数(%)21(25.6)12(14.3)p=0.081副作用発現例数(%)16(19.5)3(3.6)p=0.001表8副作用一覧DE-111群チモロール群安全性解析対象集団例数8284副作用発現例数(%)16(19.5)3(3.6)結膜出血─1(1.2)眼瞼紅斑1(1.2)─眼刺激2(2.4)─眼瞼浮腫1(1.2)─虹彩炎1(1.2)─角膜炎1(1.2)─眼充血6(7.3)1(1.2)点状角膜炎2(2.4)─結膜充血5(6.1)─眼そう痒症1(1.2)─角膜障害1(1.2)1(1.2)例数(%).ロール群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの変動は,臨床的に問題となるものではなく,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見の結膜充血スコア(両眼)について,DE-111群で0週と比較して有意なスコアの上昇が2週(右眼:p=0.031,左眼:p=0.008)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.チモロール群では,有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査について,両群ともに有意な変動は認められなかった.III考察緑内障では,眼圧下降治療が唯一確実な治療法であり,通常薬物療法が第一選択となる.薬物療法では,まず単剤治療で効果を確認し,効果不十分な場合に多剤併用療法が行われるが,単剤で治療されていた患者は48.4%との報告13)もあるように,多剤併用療法が必要な患者も少なくない.多剤併用療法の問題点は,点眼回数の多さからくるアドヒアランス低下や,先に点眼した薬剤が後に点眼した薬剤によって眼表面から洗い流されることによる薬剤効果の減弱などが挙げられるが,このような懸念を解消しうる薬剤として配合点眼液がある.近年国内では,PG関連薬とb遮断薬や,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した点眼液が次々と発売され臨1780あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013床で使用されている.このような現状をふまえ,日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第3版)14)においては,『多剤併用療法の際には配合点眼液の使用により患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.本試験は,タフルプロスト・チモロールマレイン酸塩を含有するDE-111点眼液を,その配合成分の一つである0.5%チモロール点眼液と比較した国内二重盲検比較試験である.なお,DE-111点眼液をタフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用と比較した国内二重盲検比較試験については,すでに報告した15).主要評価である平均日中眼圧の治療期0週と比較した治療期終了時(治療期4週または中止時)での変化量は,DE-111群でチモロール群と比較して有意に大きかった.また,各測定時刻の眼圧値をみても,DE-111群の治療期4週の眼圧実測値は,朝点眼前(トラフ眼圧値)で17.6mmHg,点眼2時間後で17.5mmHg,点眼8時間後で17.3mmHgと大きな日内変動はなく,眼圧がトラフを含め1日中コントロール可能であることが確認された.さらに,眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群が32.9%であり,チモロール群の7.1%を有意に上回った.これらのことから,0.5%チモロール点眼液の単剤治療で効果不十分な患者がDE-111点眼液に切り替えることで,眼圧を良好にコントロールできる可能性が示された.PG関連薬・b遮断薬の配合点眼液とチモロール点眼液を比較した国内二重盲検比較試験の論文報告はないが,海外では,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)で5報6.10),トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)で2報11,12)の計7報の報告がある.これらのうち,今回のDE-111点眼液の試験と同様に,導入期に0.5%チモロール点眼液(1日2回)を使用した試験は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に関する2報があった6,7).これらの試験の治療期0週時の平均日中眼圧は21.6±3.8mmHg,もう1報では23.1±3.8mmHgであり,治療期終了時の平均日中眼圧はそれぞれ19.0±3.5mmHg,19.9±3.4mmHgであった.今回のDE-111点眼液の試験では,治療期0週時の平均日中眼圧は20.8±2.1mmHgとこれらの報告と比較してベースライン眼圧が低かったにもかかわらず,(132) 治療期終了時の平均日中眼圧は17.5±2.7mmHgと,大きな眼圧下降を示した.このことから,DE-111点眼液は眼圧が低い患者でも良好な眼圧下降効果を示すことが期待される.安全性については,試験期間を通じて重篤な副作用はみられなかった.DE-111群の副作用発現率はチモロール群と比較して有意に高かったものの,副作用はすべて眼局所性であり,おもなものは結膜充血(6.1%)および眼充血(7.3%)であった.タフルプロスト(タプロスR点眼液0.0015%)の第III相比較試験2)で高頻度に発現した副作用は,結膜充血(16.4%),眼充血(10.9%),眼掻痒症(9.1%)および眼刺激(7.3%)であったことから,本試験で高頻度に認められた副作用はDE-111点眼液の有効成分であるタフルプロスト由来であると考えられたが,これらの副作用はすべて軽度であり,発現率もタフルプロスト単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による各単剤の副作用増悪の懸念はないと考えられた.以上より,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,0.5%チモロール点眼液と比較して,優れた眼圧下降を示し,安全性についても問題ないことが確認された.さらに,DE-111点眼液は患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLの改善が期待できるので,緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として有用性の高い配合点眼液である.利益相反:井上賢治:(カテゴリーI:参天製薬)文献1)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20042)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20083)桑山泰明,米虫節夫,タフルプロスト共同試験グループ:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20104)新家真,高瀬正弥:交感神経作動薬及びb受容体遮断剤の人眼房水動態に及ぼす作用.日眼会誌84:1436-1446,19805)三島済一,東郁郎,相沢芙束ほか:Pilocarpineにより眼圧調整されている高眼圧症および原発開放隅角緑内障患者に対するtimololの臨床評価.臨床評価8:789-820,19806)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20027)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20028)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19989)PalmbergP,KimEE,KwokKKetal:A12-week,randomized,double-maskedstudyoffixedcombinationlatanoprost/timololversuslatanoprostortimololmonotherapy.EurJOphthalmol20:708-718,201010)HigginbothamEJ,OlanderKW,KimEEetal:Fixedcombinationoflatanoprostandtimololvsindividualcomponentsforprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.ArchOphthalmol128:165-172,201011)BarnebeyHS,Orengo-NaniaS,FlowersBEetal:Thesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationophthalmicsolution.AmJOphthalmol140:1-7,200512)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyofafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200513)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,201114)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,201215)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,2013***(133)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131781

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1761.1766,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性上田健治殿内麻花深野泰史浅田博之河津剛一参天製薬株式会社研究開発本部Tafluprost0.0015%/Timolol0.5%CombinationOphthalmicSolution(DE-111OphthalmicSolution)FormulationDesignandIntraocularPenetrationinRatsKenjiUeda,AsakaTonouchi,YasufumiFukano,HiroyukiAsadaandKouichiKawazuResearch&DevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの配合点眼液(DE-111)で,チモロールが1日2回から1回点眼となっても眼圧下降効果を最大限維持するための処方設計を行い,ラットを用いて眼内移行および全身曝露を調べた.チモロールの眼内移行は点眼液のpHの上昇に伴い増加したがタフルプロストは影響されなかったことおよび点眼液の室温保存可能性の観点から,DE-111のpHを7.0に設定した.DE-111点眼時の房水中チモロールは,チモロール単剤よりも高濃度で推移し,1日1回点眼のチモロールのゲル製剤よりCmaxはやや低くAUCはほぼ同じであった.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,単剤と同様であった.一方,DE-111点眼後の全身曝露は,チモロールおよびタフルプロストカルボン酸とも単剤のCmaxやAUCを上回らなかった.以上より,DE-111は,1日1回点眼で高い有用性を示すことが期待される.Thetafluprost0.0015%/timolol0.5%combinationophthalmicsolution(DE-111)formulationwasdesignedtomaintainIOP-loweringeffectwhentimololinstillationischangedfromtwicetooncedaily.ThisstudyexaminedDE-111ocularpenetrationandsystemicexposure.InconsiderationofdataindicatingthatpHaffectsboththeocularpenetrationoftimolol(butnottafluprost)andthestabilityoftafluprostinophthalmicsolution,thepHofDE-111wassetat7.0.Timololconcentrationsinaqueoushumor(AH)afterDE-111instillationwerehigherthanafterinstillationoftimololalone,andCmaxandAUCwerelowandsimilar,respectively,incomparisontotimololgelformulationusedinonce-dailyinstillation.PharmacokineticparametersoftafluprostacidinAHafterDE-111instillationweresimilartothoseseenaftertafluprostinstillation.Forsystemicexposure,theCmaxandAUCoftimololandtafluprostacidinplasmaafterDE-111instillationdidnotexceedthelevelsseenafterinstillationoftafluprostandtimolol.Once-dailyinstillationofDE-111isthereforeexpectedtobeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1761.1766,2013〕Keywords:緑内障,DE-111配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,眼内移行性.glaucoma,DE-111combinationophthalmicsolution,tafluprost,timolol,ocularpenetration.はじめにDE-111点眼液は,タフルプロストを0.0015%およびチモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,作用機序が異なり,かつ,臨床での使用頻度が最も高いプロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬の組み合わせである.2剤の点眼剤を同一時間帯に併用する場合には,先に点眼した薬剤が後に点眼した薬剤によって眼表面から洗い流され(洗い流し効果),薬効が減弱することが懸念されるため,5分以上点眼間隔をあけることが推奨されている.しかし,点眼間隔をあけることは患者にとって煩雑であり,間隔をあけずに点眼したり,間隔をあけようとしたものの点眼忘れにつながったりする可能性がある.配合点眼液であるDE-111点眼液は,洗い流し効果による薬効の減弱の懸念がなく,〔別刷請求先〕上田健治:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社奈良研究開発センターReprintrequests:KenjiUeda,NaraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma630-0101,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1761 PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって利便性が改善し,アドヒアランスの向上が期待される.一方で,b遮断薬(チモロール)点眼液の点眼回数は1日2回であることから,PG関連薬との1日1回点眼の配合点眼液では,b遮断薬の点眼回数が減少することによる効果減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討を行ったので,その結果を報告する.I実験材料1.点眼液検討には,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有し,緩衝剤を含有せず,pHを6.0,7.0および7.5に調整した配合点眼液(タフルプロスト/チモロール配合点眼液),同様な有効成分含量でpHを7.0とし緩衝能を付加した点眼液(DE-111点眼液),タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,pH5.7.6.3),チモロール点眼液(チモプトールR点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)およびゲル化剤を加えたチモロール製剤であるチモロールGS点眼液(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)を用いた.2.実験動物眼内移行性および全身曝露の検討には,6.7週齢の雌性SDラット(日本チャールス・リバー株式会社)を使用した.本研究は,「動物実験倫理規定」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規定を遵(,)守し,実施した.II実験方法1.点眼ラットの両眼に,タフルプロスト/チモロール配合点眼液,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を5μLずつ単独で単回点眼もしくはタフルプロスト点眼液とチモロール点眼液をそれぞれ5μLずつ単回併用点眼した.併用点眼は,チモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を点眼した.2.房水の採取眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響の検討では点眼後30分に,各点眼液の眼内移行性の比較検討では点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,イソフルラン麻酔下でラットの大動脈より全量採血して致死させ,房水を採取した.血漿中濃度と同じ方法で定量す1762あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013るため,採取した房水1眼分ごとに薬剤未投与のラット血漿200μLを添加・混和し,房水の測定試料とした.3.血漿の採取各点眼液の全身曝露の比較検討では,眼内移行性の比較検討と同様,点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,ラット頸静脈よりヘパリンナトリウム処理したシリンジで血液(約0.3mL)を採取した(各群4例).採取した血液は,遠心分離して血漿を採取し,血漿の測定試料とした.4.タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量タフルプロストは点眼後,活性本体であるタフルプロストカルボン酸に速やかに代謝される1)ことから,タフルプロストの眼内移行および全身曝露はタフルプロストカルボン酸を定量して評価した.血漿および房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量は,測定対象化合物をtert-ブチルメチルエーテルを用いた液-液抽出により精製後,LCMS/MSにより分析して行った.装置は,オートサンプラにHTCPAL(CTCAnalytics),HPLCにAgilent1100(Agilent),分析カラムにYMC-PackODS-AQS-3μm,50×3.0mmI.D.(YMC),質量分析計にAPI5000(ABSciex)を用いた.移動相は,流量0.5mL/minで0.1%酢酸/メタノール(80/20)→(25/75)のグラジェントとし,カラム温度を40°C,イオン化法をelectrosprayionization(タフルプロストカルボン酸:negativemode,チモロール:positivemode),モニタリングイオンをm/z409→93(タフルプロストカルボン酸)およびm/z317→74(チモロール)とした.なお,房水中薬物濃度は,測定試料中薬物濃度を房水採取量で補正して算出した.本法の定量下限は,血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロール濃度でいずれも0.1ng/mL,房水中タフルプロストカルボン酸濃度で0.764.10.2ng/mL,房水中チモロール濃度で0.822.2.14ng/mLであった(房水中濃度については,定量下限未満であった房水試料における値).5.薬物動態パラメータ血漿および房水中のタフルプロストカルボン酸およびチモロールについて,血漿は個体ごとの濃度値,房水は各測定時点における平均値を用いて,薬物動態パラメータを算出した.Cmax(最高血中濃度)は観測された値の最大値,Tmax(最高血中濃度到達時間)はCmaxに到達する時間とした.消失半減期(T1/2)は,横軸が点眼後時間,縦軸が濃度の対数のグラフにプロットして観測された消失相の傾き(ke)で,2の自然対数を除することにより算出した.濃度-時間曲線下面積(AUC)は線形台形法により算出し,無限大時間までのAUC(AUCinf)は,濃度が得られた最終時点の濃度値をkeで除した値と,その時点までのAUCの和として算出した.(114) III結果1.眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響3,0002,000房水中チモロール濃度(ng/mL)0チモロールpH6.0pH7.0pH7.5タフルプロスト/チモロール配合点眼液(pHは6.0,7.0および7.5),タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液を,それぞれラットに点眼したときの点眼後30分の房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度をそれぞれ図1および図2に示す.配合点眼液点眼後の房水中タフルプ1,000ロストカルボン酸濃度は,点眼液のpH変動により変化せず,タフルプロスト/チモロールまた,タフルプロスト点眼液点眼時とほぼ同様の値であっ配合点眼液た.一方,チモロールに関しては,配合点眼液のpHが高くなるに従って房水中チモロール濃度が高くなる傾向が認めら図1チモロールのラット房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)れ,pH7.5の配合点眼液では,チモロール点眼液に比べて各値は8眼の平均値+標準偏差.約2倍の値となった.2.各点眼液点眼後の眼内移行性の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用点眼したときの眼内移行性を比較するため,房水中薬物濃度推移を調べた.房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度推移をそれぞれ図3および図4に,房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータ房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)1000タフルプロストpH6.0pH7.0pH7.580604020をそれぞれ表1に示す.房水中チモロール濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても,点眼後0.25時間までにCmaxに達した後,タフルプロスト/チモロール配合点眼液速やかに消失した.DE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度は,チモロール点眼液0.5%よりも高い濃度推移を示した.また,チモロールGS点眼液0.5%と比較すると,Cmaxは低く,点眼後2時間以降は高い濃度推移を示し,AUCはほぼ同じであった.さらに,タフルプロスト点眼液0.0015%およびチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼時と同様の濃度推移を示した.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても点眼後約0.5時間にCmaxに達し,その後T1/2約0.3.0.4時間で消失して,点眼後約4時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となった.DE-111点眼液点眼時の房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,タフルプロスト点眼液0.0015%に比べて点眼後5分では低く,点眼後2時間では高い濃度を示したが,薬物動態パラメータに差はみられなかった.また,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼と同様の濃度推移を示した.3.各点眼液点眼後の全身曝露の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用図2タフルプロストの房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)各値は8眼の平均値+標準偏差(タフルプロストは7眼).点眼したときの全身曝露を比較するため,血漿中薬物濃度推移を調べた.血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度の推移をそれぞれ図5および図6に,血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータを表2に示す.血漿中チモロール濃度は,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用においては点眼後0.25時間までに,DE-111点眼液では,点眼後0.25.0.55時間にCに達し,その後T1/2約max0.7.0.9時間で消失した.CmaxおよびAUCともに個体間でバラツキがあり,点眼群間に明確な差はみられなかった.血漿中タフルプロストカルボン酸濃度は,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用のいずれにおいても,点眼後0.167時間(10分)までにCmaxに達した後,消失して点眼後1時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となり,各群の濃度推移に明確な差は認められなかった.(115)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131763 10,0001,0001,000100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa1234房水中チモロール濃度(ng/mL)房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)100101010101234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図3各種点眼液点眼後の房水中チモロール濃度推移図4各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸各値は6眼の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は6眼の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表1各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ測定対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmax(hr)AUC0-4ha(ng・hr/mL)AUCinfa(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストb2,3301,3303,3501,9600.250.08330.250.252,0801,2101,8201,6602,080NCNC1,6600.494NCNC0.438タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロスト90.475.60.50.587.579.084.977.40.3740.311チモロール+タフルプロストb89.70.41787.9c84.90.414各パラメータは6眼(3例)の平均房水中濃度を解析して算出.NC:算出せず.a:定量下限未満の値をゼロとして計算.b:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.c:AUC0-3.92h.IV考按緑内障の治療は眼圧下降剤による治療が主体となっており,単剤で効果が不十分であるときには併用療法が行われる2)が,長期にわたり継続して点眼治療を行う必要がある患者にとって,複数の点眼剤の併用は大きな負担であり,アドヒアランスの低下により十分な眼圧下降効果が維持されない状態が続くと,視野障害の進行につながることが懸念される.タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液であるDE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって,利便性の向上によるアドヒアランスの改善が期待されるが,一方で,チモロールの点眼回数がチモロール点眼液の1日2回からDE-111点眼液では1日1回に減少することによる眼圧下降効果の減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討1764あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013を行った.点眼液では,点眼後の薬物は速やかに鼻涙管を経て眼外へ排出されるため,点眼液への粘性の付与により眼表面での滞留性を高めることで薬物の眼内移行性を向上させることが可能である3).チモロールGS点眼液はゲル化剤を添加して粘性を増加させることによりチモロールの眼内移行性を向上させ(表1,図3),1日1回点眼の用法で承認されている.しかしながら,タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合剤をゲル製剤とした場合,タフルプロストの眼局所副作用(充血,睫毛の伸長,虹彩・眼瞼色素沈着)の増大の懸念や,タフルプロストの眼内移行量の増加に伴う効果の過大増強の可能性もあることから,課題が多いと考えられる.そこで,DE-111点眼液の製剤処方としては,ゲル化などの粘性を高める手法は採用しなかった.一般に,脂溶性の薬物はその濃度勾配に従い単純受動拡散により生体膜を透過する.この場合,透過しやすいのは分子型であり,薬物の酸解離定数(pKa)とpHにより影響を受ける(pH分配仮説).チモロールは塩基性化合物でpKaは(116) 1,00010100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa血漿中チモロール濃度(ng/mL)血漿中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)11010.100.1012341234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図5各種点眼液点眼後の血漿中チモロール濃度推移図6各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸各値は4例の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は4例の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表2各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ解析対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmaxa(hr)AUC0-4hb(ng・hr/mL)AUCinf(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストc45.5±14.6294±235371±23394.2±67.00.5[0.25-0.55]0.0833[0.0833-0.217]0.0833[0.0833-0.25]0.25[0.117-0.25]46.9±10.165.9±36.0d84.7±27.639.7±15.547.7±10.667.9±39.185.6±27.240.1±15.60.675±0.09670.890±0.4480.718±0.08660.705±0.0831タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロストチモロール+タフルプロストc0.378±0.09810.760±0.8410.590±0.2940.0833[0.0833-0.15]0.0833[0.05-0.117]0.167[0.0333-0.167]0.113±0.05040.142±0.1180.172±0.0858NCNCNCNCNCNC各値は4例の平均値±標準偏差.NC:算出せず.a:Tmaxは中央値[最小値-最大値]を表示.b:定量下限未満の値をゼロとして計算.c:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.d:ゼロ時間から約4時間までのAUCの平均値±標準偏差.約8.8であることから,中性領域ではpHは高いほど分子型の割合が増し,膜透過性が上昇することが予想される.実際に,ウサギにおいて,pHが6.2,6.9および7.5のチモロール点眼液を点眼したとき,pHの上昇に伴って眼内移行性が向上するとの報告もある4).そこで,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液において,点眼液のpHを変動させて房水中チモロール濃度を調べたところ,点眼後30分の房水中チモロール濃度は,点眼液のpHの上昇に伴って増加することが示された(図1).一方で,タフルプロストについては,配合点眼液のpHを変動させても房水中タフルプロストカルボン酸濃度は変化がみられず,タフルプロストの眼内移行は点眼液のpHによる影響を受けないことが示された(図2).タフルプロストは解離基を有さないことから,pHにより膜透過性が変動(117)しなかったものと考えられる.以上の結果より,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩の配合点眼液の処方設計において,pHを適切に調整することでチモロールのみの眼内移行量をコントロールすることが可能と考えられた.ただし,タフルプロストは,活性本体であるタフルプロストカルボン酸のイソプロピルエステルであり,水溶液中では徐々にではあるが加水分解される.この加水分解速度は溶液pHの影響を受けるため,pHが弱酸性では比較的安定であるもののpHを上げるほど,加水分解を受けやすくなる.以上のことから,チモロールの眼内移行を確保しつつタフルプロストの眼内移行量は変動させず,かつ,タフルプロストの点眼液中安定性を考慮し室温保存が可能と考えられるpHとして,DE-111点眼液のpHを7.0に設定した.また,製品としての品質維持(保存中pH変動抑制)を目的に緩衝剤(リン酸あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131765 二水素ナトリウム)を配合した.DE-111点眼液をラットに点眼したときの房水中チモロールは,Cmaxはチモロール単剤に比べて高くチモロールGS点眼液に比べて若干低い値であり,AUCはチモロールGS点眼液と同程度であった(表1).一方,房水中タフルプロストカルボン酸のCmaxおよびAUCは,タフルプロスト単剤点眼およびチモロールとの併用点眼と同程度であった(表1).これらの結果は,DE-111点眼液が,タフルプロストの薬効や眼局所副作用をタフルプロスト単剤と比べて変動させることなく,チモロールの眼圧下降効果が期待できることを示唆するものと考えられた.なお,チモロール単剤に比べてDE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度が高い推移を示した理由については,DE-111点眼液のpHを7.0と設定したことに加え,チモロール点眼液には含まれずDE-111点眼剤には含まれている添加剤(ポリソルベート80,濃グリセリン,エデト酸ナトリウム水和物)の影響,あるいは,タフルプロストが影響していることも可能性としては考えられるが,詳細は不明である.DE-111点眼液をラットに点眼したときのタフルプロストおよびチモロールの全身曝露については,いずれも単剤もしくは併用に比べてCmaxおよびAUCとも上回ることはなかった(表2).したがって,併用に比べてDE-111配合剤で全身の副作用が増悪する可能性は低いと予想された.以上の検討により,DE-111点眼液として最適な処方が決定できた.DE-111点眼液は,1日1回点眼で高い有用性が期待されるとともに,2剤の点眼液を5分以上間隔をあけて併用点眼する場合に比べて緑内障の患者の利便性が改善されることで,アドヒアランスの向上に寄与することが期待される.文献1)FukanoY,KawazuK:Dispositionandmetabolismofanovelprostanoidantiglaucomamedication,tafluprost,followingocularadministrationtorats.DrugMetabDispos37:1622-1634,20092)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20123)KaurIP,KanwarM:Ocularpreparations:theformulationapproach.DrugDevIndPharm28:473-493,20024)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1766あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(118)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1185.1194,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)VersusTafluprost0.0015%AloneorGivenConcomitantlywithTimolol0.5%inPrimaryOpenAngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者488例を対象に,タフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用を対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.タフルプロスト4週間点眼後の眼圧が18mmHg以上の被験者を,DE-111群,タフルプロスト群,併用群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で0.9±1.7mmHg,併用群で2.2±1.8mmHg下降し,タフルプロストに対する優越性,併用に対する非劣性が検証された.副作用発現率は,群間に有意差は認められなかった.DE-111点眼液は緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftafluprost0.0015%ophthalmicsolution(tafluprost)ortafluprost0.0015%andtimolol0.5%ophthalmicsolutiongivenconcomitantly(concomitant)in488patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)orocularhypertension(OH),inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.Patientswithintraocularpressure(IOP)≧18mmHgaftertafluprostinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111,tafluprostorconcomitantgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalIOPreductionfrombaselinewas2.6±1.8mmHgintheDE-111group,0.9±1.7mmHginthetafluprostgroupand2.2±1.8mmHgintheconcomitantgroup,DE-111beingsuperiortotafluprostandnotinferiortoconcomitant.Nointergroupdifferenceswereseeninadversedrugreactionincidencerates.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1185.1194,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,多剤併用,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,concomitant,DE-111.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(141)1185 はじめに緑内障に対する現在唯一確実な治療法は眼圧下降であり,通常薬物治療が第一選択となる.薬物治療では良好なアドヒアランスを維持することが治療の成否を左右する.しかし,単剤による眼圧コントロールが不十分なため多剤併用療法が必要な患者が少なからず存在しており,アドヒアランスを良好に維持することが困難な場合も多い.このようななか,近年いくつかの配合点眼液が開発されており,緑内障診療ガイドライン1)では,『多剤併用療法の際には配合点眼薬の使用により,患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.DE-111点眼液は,プロスタグランジン(PG)関連薬のタフルプロストとb遮断薬のチモロールを含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびqualityoflife(QOL)を改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.一方で,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液は,両薬剤の併用治療と比較するとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るため,眼圧下降効果が弱い可能性が危惧される.しかし,これまで国内では,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液についてはPG関連薬単剤治療を対照とした比較試験が第III相臨床試験として行われてきたが,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした二重盲検比較試験は行われていなかった.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロスト点眼液0.0015%単剤投与との比較のみならず,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の併用との比較を目的とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国58医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.目的DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液に対する優越性,タフルプロスト点眼液とチモロール点眼液0.5%の併用に対する非劣性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,タフルプロスト点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を消失させタフルプロスト点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期にはタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝はタフルプロスト点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が18mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群,タフルプロスト群,併用群に1対1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群はDE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,タフルプロスト群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,併用群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼,およびチモロール点眼液0.5%を1日2回朝夜両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111点眼液とタフルプロスト点眼液,そしてチモロール点眼液0.5%とプラセボ点眼液はそれぞれ同一の容器を使用し,盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査・確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.1186あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(142) 表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療機関名試験責任医師名医療法人大谷地共立眼科医療法人社団慈眼会環状通り眼科さど眼科医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院眼科君塚医院ののやま眼科医療法人社団いとう眼科医療法人秀緑会高山眼科緑町医院春日部市立病院医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック医療法人社団秀光会かわばた眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院丹羽眼科財団法人厚生年金事業振興団東京厚生年金病院日本赤十字社医療センター吉川眼科クリニック医療法人社団聖愛会中込眼科医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック医療法人社団善春会若葉眼科病院医療法人社団高友会立川通クリニック道玄坂加藤眼科成城クリニック大橋眼科クリニック医療法人社団高瀬会たかせ眼科平町クリニック医療法人社団慶緑会あまきクリニック医療法人松鵠会みたに眼科クリニック医療法人社団湯田医院きくな湯田眼科医療法人社団律心会辻眼科クリニック戸塚駅前鈴木眼科特定医療法人丸山会丸子中央総合病院曽根聡秋葉純佐渡一成板橋隆三君塚佳宏野々山智仁伊藤睦子高山秀男水木健二貞松良成川端秀仁呉輔仁丹羽康雄藤野雄次郎濱中輝彦吉川啓司中込豊安達京吉野啓髙橋義徳加藤卓次松崎栄島﨑美奈子高瀬正郎小林幸三谷貴一郎湯田兼次辻一夫鈴木高佳野原雅彦国立大学法人岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人社団秀浩会花崎眼科医院花﨑秀敏医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌吉村眼科内科医院吉村弦医療法人安間眼科安間正子医療法人大雄会大雄会クリニック伊藤康雄医療法人高橋眼科髙橋研一独立行政法人労働者健康福祉機構淺野俊哉中部労災病院医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男医療法人岩下眼科岩下憲四郎医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二地方独立行政法人神戸市民病院機構栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院長田眼科肱黒和子医療法人眼科康誠会井上眼科井上康広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀山口県厚生農業協同組合連合会小郡第一総合病院榎美穂医療法人広田眼科広田篤林眼科病院林研新井眼科医院新井三樹医療法人蔵田眼科クリニック蔵田善規医療法人しらお眼科医院白尾真日本赤十字社長崎原爆病院脇山はるみ医療法人出田会出田眼科病院川崎勉健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断する同意取得導入期登録/割付け治療期4週間4週間二重盲検DE-111群タフルプロスト点眼液タフルプロスト群併用群【導入期】・タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・タフルプロスト群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・併用群チモロール点眼液0.5%:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼図1試験デザイン(143)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131187 表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(.4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時では午前中,治療期0週および4週では朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週では朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療剤およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお,平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の平均値と定義した.また,副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.1188あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(144) d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合についてはFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は574例で,導入期が開始された被験者は558例,治療期が開始された被験者は489例であり,無作為にDE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群164例に割り付けられた.治療期中に5例が試験を中止し(DE-111群2例,タフルプロスト群2例,併用群1例),484例が試験を完了した(DE-111群159例,タフルプロスト群162例,併用群163例).無作為化された症例のうち,治療期用試験薬が投与されなかった1例を除く488例(DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例)を安全性解析対象集団とした.さらに,ベースライン眼圧(治療期0週)が得られなかった1例を除く487例(DE-111群161例,タフルプロスト群163例,併用群163例)をFAS集団に,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった13例を除く474例(DE111群156例,タフルプロスト群159例,併用群159例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.いずれの背景因子についても,群間に偏りはみられなかった.2.有効性FAS集団における平均日中眼圧や,その変化量の推移を図3と表5に,平均日中眼圧変化量の群間比較を表6に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群で19.6±2.0mmHg,タフルプロスト群で19.2±2.1mmHg,併用群で19.3±2.2mmHgであり,治療期終了時(4週または中止時)には,DE-111群で17.0±2.4mmHg,タフルプロスト群で18.3±2.8mmHg,併用群で17.1±2.5mmHgであった.文書同意を得た被験者:574例導入期の試験薬が投薬された被験者:558例無作為割付された被験者:489例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:164例治療期の試験薬が投薬された被験者:488例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:163例試験を完了した被験者:484例DE-111群:159例タフルプロスト群:162例併用群:163例導入期の試験薬未投与例:16例試験開始後に不適格が判明:10例試験継続の拒否:6例導入期中止例:69例有害事象発現:13例試験開始後に不適格が判明:51例転院,転居,多忙:5例治療期の試験薬未投与例:1例併用群:1例治療期に中止した被験者:4例有害事象発現:1例(DE-111群)通院が不可能:1例(DE-111群)転院,転居,多忙:1例(タフルプロスト群)試験開始後に不適格が判明:1例(タフルプロスト群)図2被験者の内訳(145)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131189 表4被験者背景項目分類DE-111群タフルプロスト群併用群合計例数161163163487診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症90(55.9)71(44.1)84(51.5)79(48.5)73(44.8)90(55.2)247(50.7)240(49.3)男85(52.8)68(41.7)82(50.3)235(48.3)性別女76(47.2)95(58.3)81(49.7)252(51.7)年齢平均値±標準偏差最小.最大65歳未満65歳以上61.6±11.626.8592(57.1)69(42.9)63.0±12.623.8581(49.7)82(50.3)60.6±13.623.8487(53.4)76(46.6)61.7±12.723.85260(53.4)227(46.6)緑内障前治療薬なしあり28(17.4)133(82.6)27(16.6)136(83.4)31(19.0)132(81.0)86(17.7)401(82.3)合併症なしあり17(10.6)144(89.4)18(11.0)145(89.0)21(12.9)142(87.1)56(11.5)431(88.5)導入期の隅角(Shaffer分類)3437(23.0)124(77.0)46(28.2)117(71.8)40(24.5)123(75.5)123(25.3)364(74.7)導入期の緑内障性視野異常異常なし異常あり89(55.3)72(44.7)94(57.7)69(42.3)101(62.0)62(38.0)284(58.3)203(41.7)導入期の緑内障性眼底異常異常なし異常あり71(44.1)90(55.9)74(45.4)89(54.6)88(54.0)75(46.0)233(47.8)254(52.2)導入期終了時の平均日中眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大19.6±2.016.0.27.319.2±2.115.0.27.319.3±2.215.3.30.319.4±2.115.0.30.3導入期終了時のトラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大20.1±1.918.0.29.019.8±1.918.0.27.019.9±2.118.0.32.019.9±2.018.0.32.0例数(%).10-1-2-3眼圧変化量(mmHg)**NS**-4-50週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.001,NS:有意差なし(p>0.05).主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群で.2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で.0.9±1.7mmHg,併用群で.2.2±1.8mmHgであり,いずれの群も0週からの有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,DE-111群とタフルプロスト群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.タフルプロスト群)は.1.7±0.21190あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013:DE-111群:タフルプロスト群:併用群0週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)mmHgであり,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.併用群)は.0.3±0.2mmHg,95%信頼区間は.0.7.0.1mmHgであり,上限は事前に設定した非劣性マージン1.5mmHgを超えなかったことから,DE-111群の併用群に対する非劣性が証明された.副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量(平均値±標準偏差)は表7と図4に示した.DE-111群とタフルプロスト群の群間比較では,DE111群はすべての測定時点において有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の群間比較では,DE-111群は治療期4週朝点眼前を含め,すべての測定時点において劣らない眼圧下降を示した(表8).なお,PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(4週または中止時)の治療期0週に対する平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%(図5)とDE-111群が最も大きく,タフルプロス(146) 表5平均日中眼圧とその変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週19.6±2.0(161)..19.2±2.1(163)..19.3±2.2(163)..治療期終了時17.0±2.4(161).2.6±1.8(161)<0.00118.3±2.8(163).0.9±1.7(163)<0.00117.1±2.5(163).2.2±1.8(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.表6平均日中眼圧変化量の群間比較DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値.1.7±0.2.2.1..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.098Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表7眼圧実測値の推移および変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週朝点眼前20.1±1.9(161)..19.8±1.9(163)..19.9±2.1(163)..0週点眼2時間後19.8±2.4(161)..19.3±2.5(163)..19.3±2.4(163)..0週点眼8時間後18.9±2.4(161)..18.5±2.6(163)..18.6±2.7(163)..2週朝点眼前17.4±2.4(160).2.7±2.0(160)<0.00118.3±2.7(163).1.5±1.9(163)<0.00117.3±2.8(163).2.7±2.3(163)<0.0014週朝点眼前17.0±2.4(160).3.1±2.2(160)<0.00118.5±2.9(163).1.3±2.0(163)<0.00117.2±2.6(163).2.7±2.2(163)<0.0014週点眼2時間後17.0±2.5(160).2.8±2.1(160)<0.00118.4±3.1(162).0.9±2.1(162)<0.00117.0±2.6(163).2.4±2.1(163)<0.0014週点眼8時間後17.0±2.9(159).1.9±2.3(159)<0.00118.1±3.1(162).0.4±2.2(162)0.01417.0±3.0(163).1.6±2.2(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.ト群と比較して有意であった(p<0.001).併用群との間には有意差はなかった.3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例の計488例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発(147)現率を表9に,副作用一覧を表10に示した.有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)であった.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で10.6%(17/161例),タフルプロスト群で7.9%(13/164例),併用群で8.6%(14/163例)であった.有害事象の発現率は群間に有意差が認められたが,副作用の発あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131191 2322212019181716151413時間後0時間後時間後4時間後**************:DE-111群:タフルプロスト群:併用群図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.DE-111群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).併用群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).DE-111群と併用群との比較:いずれも有意差なし(p>0.05).症例割合(%)眼圧(mmHg)**表8眼圧実測値変化量の群間比較時期DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値2週朝点眼前.1.2±0.2.1.6..0.7<0.0010.0±0.2.0.4.0.50.9054週朝点眼前.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.8.0.10.1474週点眼2時間後.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.1864週点眼8時間後.1.4±0.2.1.8..0.9<0.001.0.2±0.2.0.7.0.30.384Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.3020100DE-111群タフル併用群プロスト群19.9%(32/161)5.5%(9/163)13.5%(22/163)図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合1192あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013現率は群間に有意差は認められなかった(有害事象:p=0.035,副作用:p=0.707).DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例)および結膜充血(3.1%,5/161例),タフルプロスト群のおもな副作用は,点状角膜炎(2.4%,4/164例)および結膜充血(2.4%,4/164例),併用群のおもな副作用は点状角膜炎(3.1%,5/163例)および結膜充血(1.8%,3/163例)と,共通の副作用が認められ,発現頻度に大きな差はなかった.いずれの群においても,副作用はすべて眼障害で重症度は軽度であり,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,点状角膜炎を発現した1例(0.6%)で,軽度であり,試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で総ビリルビン,総蛋白およびアルブミンが,(148) 表9治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群タフルプロスト群併用群検定(Fisherの直接法)例数161164163有害事象発現例数(%)37(23.0)32(19.5)20(12.3)p=0.035副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)p=0.707表10副作用一覧DE-111群タフルプロスト群併用群例数161164163副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)眼精疲労1(0.6)──眼瞼色素沈着──1(0.6)眼瞼炎──1(0.6)結膜炎─1(0.6)─眼瞼紅斑1(0.6)──眼刺激2(1.2)1(0.6)1(0.6)眼痛1(0.6)──眼充血2(1.2)─2(1.2)羞明──1(0.6)点状角膜炎6(3.7)4(2.4)5(3.1)霧視─1(0.6)─睫毛の成長──1(0.6)眼の異物感─1(0.6)─結膜充血5(3.1)4(2.4)3(1.8)眼瞼.痒症──1(0.6)眼.痒症1(0.6)1(0.6)2(1.2)例数(%).タフルプロスト群で血小板が,併用群で好酸球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は,DE-111群で0.6%(1/161例,項目:尿糖)に認められたが,試験終了後に基準値内へ回復した.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,0週と比較して有意な変動はいずれの群においても認められなかった.脈拍数について,0週と比較して有意な下降がDE-111群で2週(平均値±標準偏差,.2.0±7.5拍/分,p=0.001)および4週(.1.3±7.9拍/分,p=0.034)に,併用群で2週(.5.3±7.6拍/分,p<0.001)および4週(.5.3±8.6拍/分,p<0.001)に認められた.タフルプロスト群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの脈拍数の変動は,臨床的に問題となるものではなかった.また,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見について,0週と比較して有意なス(149)コアの上昇がDE-111群で4週の角膜フルオレセイン染色スコア(左眼:p=0.012)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.タフルプロスト群と併用群では,有意なスコアの変動は認められなかった.また,本スコアの変動について,関連する有害事象は認められたものの,すべて軽度であった.視力検査について,いずれの群でも有意な変動は認められなかった.III考察現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼剤には,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカムR配合点眼液),およびトラボプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.これらの点眼液についてPG関連薬単剤を対照とした臨床試験は,国内外で実施されており配合点眼剤の優越性が検証されている2.6)が,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした臨床試験(二重盲検群間比較試験)は国内に報告がない.海外では併用治療を対照とした臨床試験の報告があり,非劣性が検証された報告7)もあるが,一部の測定時点で非劣性が検証されなかったり,配合点眼液の眼圧下降効果が併用治療を有意に下回ったとの報告8.10)もある.今回,DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液単剤投与に対する優越性と,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液0.5%(1日2回点眼)の併用治療との非劣性を同一試験で検証した.本試験では,主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧変化量において,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した.また,併用群と比較して劣らない眼圧下降を示し,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に対する配合点眼液の非劣性が,国内で初めて検証された.各眼圧測定時刻について比較しても,朝点眼前(トラフ値),点眼2時間後および点眼8時間後のすべての眼圧測定時刻において,DE-111群は併用群と比較して劣らない眼圧下降を示した.DE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に比べるとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るが,DE-111点眼液によって眼圧が1日中コントロール可能であることが確認された.チモロールはpHなあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131193 どさまざまな条件により眼内移行が変化することが知られており11),配合点眼液の製剤設計の違いが効果の持続性に影響する可能性が考えられる.また,眼圧下降達成率で比較して20%以上の眼圧下降が得られた症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%と,DE-111群が最も大きく,タフルプロスト群と比較して有意差が認められた.安全性について,有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)に認められ,群間に有意差が認められたものの,DE-111群では鼻咽頭炎(3.7%,6/161例)などの試験薬との因果関係が否定されたものが多く,副作用発現率では群間に差はなかった.いずれの群においても副作用はすべて眼局所のもので,かつ軽度で,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.また,いずれの群でも,重篤な副作用はみられなかった.DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例),結膜充血(3.1%,5/161例)であるが,これらの副作用はタフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の副作用情報において既知のものであり,各単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による副作用増大の懸念はないと考えられた.以上の結果から,PG関連薬単剤で眼圧下降効果が不十分な場合に,DE-111点眼液に変更することで,薬剤数および点眼回数を増やすことなく治療効果の増大が期待できる.また,すでにPG関連薬とb遮断薬を併用している場合には,DE-111点眼液に変更することで併用治療に劣らない治療効果が維持できるだけでなく,薬剤数および点眼回数が減ることで,アドヒアランス不良の患者ではより優れた治療効果が期待できる.以上,DE-111点眼液は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:広田篤(カテゴリーI:参天製薬)文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版):日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明,KP2035共同試験グループ:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたラタノプロスト・チモロール配合剤(KP2035)の第III相二重盲検比較試験.臨眼63:807-815,20093)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバR配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20114)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20025)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20026)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19987)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20068)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20049)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200510)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200511)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1194あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(150)

Goldmann動的視野検査がHumphrey静的視野検査(30-2)よりも早期発見に有効であった緑内障の3例

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1160.1164,2013cGoldmann動的視野検査がHumphrey静的視野検査(30-2)よりも早期発見に有効であった緑内障の3例石垣さやか*1新明康弘*1山口淑子*2溝口亜矢子*1阿部朋子*1大口剛司*1宇野友絵*1辻野奈緒子*1陳進輝*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2ひらぎし眼科クリニックThreeCasesofGlaucomaDetectioninWhichGoldmannPerimeterWasMoreEffectivethanHumphreyFieldAnalyzer(30-2SITA-Standard)SayakaIshigaki1),YasuhiroShinmei1),ToshikoYamaguchi2),AyakoMizoguchi1),TomokoAbe1),TakeshiOhguchi1),TomoeUno1),NaokoTsujino1),ShinkiChin1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)HiragishiEyeClinic目的:緑内障の早期発見におけるGoldmann動的視野検査(GP)の有用性を検討する.対象および方法:Hum-phrey静的視野検査(HFA)中心30-2プログラムでは,緑内障の診断に至らなかったが,GPによって緑内障性視野変化が確認でき,緑内障の診断となった3症例について,GPとHFA中心30-2SITA-Standardおよび中心10-2SITA-Standardの結果を比較する.結論:緑内障の早期発見には,GPがHFA中心30-2プログラムよりも,緑内障性視野変化の早期発見に有効な場合がある.HFA中心30-2で緑内障の診断に迷ったときには,GPを行い,さらに中心10-2を追加するとよいと思われる.Purpose:ToevaluatetheeffectivenessoftheGoldmannperimeter(GP)intheearlydetectionofglaucoma.SubjectsandMethods:ThreepatientswerediagnosedashavingglaucomawithGP,butnotwiththeHumphreyFieldAnalyzer(HFA)(30-2SITA-Standard).WecomparedthevisualfieldswithGP,HFA30-2andHFA10-2.Conclusions:TherearecasesinwhichGPismoreeffectivethanHFA30-2intheearlydetectionofglaucoma.WhenHFA30-2doesnotappeartoreachadefinitediagnosisofglaucoma,GPshouldbeusedincombinationwithHFA10-2,tosecurelydetectearlyvisualfielddefectinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1160.1164,2013〕Keywords:緑内障,Humphrey静的視野計,中心30-2プログラム,中心10-2プログラム,Goldmann動的視野計.glaucoma,HumphreyFieldAnalyzer,30-2SITA-Standard,10-2SITA-Standard,Goldmannperimeter.はじめに眼底所見などから緑内障が疑われた場合,視野検査によって,緑内障性視神経症の存在を証明する必要がある1).Humphrey静的視野計(HFA)は,わが国において最も普及している自動視野計であり,さまざまな測定プログラムのうち,中心30-2プログラムは,緑内障を含む視神経疾患の診断に広く用いられている.さらにSITA-Standard,SITAFastなどでは,アルゴリズムに工夫を加えることで,測定時間を短縮し,患者の肉体的な負担の軽減を図っている2).しかし,これらの進化にもかかわらず,HFAがすべての点でGPに対して優れているとまでいえるとは限らない.今回筆者らは,Goldmann動的視野検査(GP)がHFA中心30-2SITA-Standardプログラムよりも,緑内障性視野変化の早期発見に有効であった症例を経験したので報告する.I対象および方法北海道大学病院眼科外来通院中の患者で,HFA中心30-2SITA-Standardプログラムでは,緑内障の診断に至らなかったが,GPによって緑内障性視野変化が確認でき,緑内障〔別刷請求先〕石垣さやか:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayakaIshigaki,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN116011601160あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(116)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY の診断となった3症例について検討を行った.HFAの機種はHFA750を使用し,固視状態はHeijlKrakau法だけではなく,アイモニタにて検者が常時監視を行った.GPは北海道大学病院(以下,当院)の2名の視能訓練士が測定し,症例1は経験年数25年,症例2と3は経験年数10年目の者が行い,固視状態は良好であった.HFAとGPともに,患者の理解度は十分であった.II結果〔症例1〕73歳,女性.右網膜裂孔で網膜光凝固治療を行ったのちの経過観察中に,視神経乳頭所見から右眼の緑内障が疑われた.左眼眼底には緑内障性変化はみられなかった.視力は右眼(0.9×+0.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼(0.9×+0.25D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHgであった.眼底所見は右眼乳頭耳側下方の切痕(notching)と一致する部位に網膜神経線維層欠損(nervefiberbundlelayerdefect:NFLD)が認められ,C/D(陥凹乳頭)比は右眼0.7,左眼0.5.両眼に皮質白内障がみられた.HFA中心30-2では,右眼の上方に感度の低下が検出されたが,自動判定プログラムではボーダーラインと判定された(図1A).上眼瞼と白内障の影響を考えGPを行ったところ,鼻側の感度低下とMariotte盲点から繋がる中心10°.15°内の上方に弓状暗点が検出された(図1B).HFA中心10-2を行うと,GPに一致する弓状暗点が検出された(図1C).HFA中心30-2でははっきりせず,GPで明確にとらえられた暗点は,HFA中心10-2で再び深い暗点として検出された.〔症例2〕71歳,女性.右眼原発開放隅角緑内障で5年間にわたり,経過観察中.当初は,左眼には緑内障性変化は認められなかった.視力は右眼(1.0×.5.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼(1.2×.3.25D(cyl.0.75DAx100°),眼圧は右眼13mmHg,左眼18mmHgであった.眼底所見は右眼下方の視神経乳頭辺縁部(neuroretinalrim)がなく,耳側下方にNFLDが認められ,左眼は乳頭耳側下方に線状出血がみられた.C/D比は右眼0.4,左眼0.7であった.HFA中心30-2で左眼に中心上方の感度の低下が検出された(図2A).GPでは鼻側の感度低下とI/1,I/2にて中心10°内に暗点がみられ(図2B),HFA中心10-2では,中心上方にGPと一致する暗点が検出された(図2C).HFA中心30-2でわずかにとらえられた暗点は,GPではっきり検出され,HFA中心10-2でも再現性をもって確認された.〔症例3〕51歳,女性.複視を主訴に受診.初診時の視神経乳頭所見から右眼緑内障が疑われた.左眼眼底には緑内障性変化は認められなかった.視力は両眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼17mmHg,左図1症例1右眼A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.眼18mmHgであった.眼底所見は右眼乳頭耳側上方にNFLDが認められ,C/D比は右眼0.7,左眼0.5であった.右眼はHFA中心30-2では自動判定プログラムにて両正常(117)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131161 図2症例2左眼図3症例3右眼A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.1162あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(118) 範囲内と判定されたが,下方に感度の低下が検出されている(図3A).GPでは中心下方にMariotte盲点の拡大から繋がる弓状暗点が検出され(図3B),HFA中心10-2ではGPに一致する中心下方の暗点をより明確に検出できた(図3C).III考按今日,多くの眼科施設で用いられているのは,コンピュータによる静的視野検査であり,検者がマニュアルで操作するGPよりも,一般的に緑内障早期発見に優れているとされている3.5).当院ではHumphreyFieldAnalyzer(HFAII750)を使用しているが,同機種には早期緑内障検出に有効であるといわれているBlue-on-yellowperimetry(B/Yperimetry)のプログラムも搭載されている6).しかし筆者らは検査時間の長さや,過去のデータとの比較の点で利点が少ないと判断しており,その使用頻度はきわめて低い状態である.現在のところ,検査時間と緑内障性視野変化の検出力などのバランスを考慮し,緑内障スクリーニングテストとして中心30-2SITA-Standardを選択的に行っている.その測定時間は,個人差はあるが,片眼で約7分であり,GPの約20分と比較して半分以下である.過去の報告によるGPとHFAの比較では,GPとHFAでは,78%が同様な視野異常を示し,HFAで視野異常が検出される緑内障あるいは高眼圧の患者のうち,21%はGPで異常が出ない3)との報告や,GPと比較してHFA中心30-2の感度は90%,特異度は91%4)との報告がある.また水流らは,HFAでAulhorn分類ステージ1と判定された48.6%,同ステージ2と判定された36.0%の症例でGoldmann視野計測では異常が検出されなかったと報告している5).一方で,GPでは周辺視野を把握できるとともに,視標をマニュアルで提示することから,中心視野を静的と動的の両方で測定できる利点もある.HFAですべてGPを代用できるかというと,決してそうではない.特に,固視不良例,周【HFA中心30-2プログラム】【HFA中心10-2プログラム】10103030°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は6°で76点(10°内に測定点は12点).10°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は2°で68点.図4HFA中心30-2と10-2のプログラムによる提示視標の違い(119)辺視野に変化がある場合,中心付近の小さな暗点がある場合にはGPとHFA中心30-2の結果が乖離することがある7).HFA中心30-2と中心10-2プログラムの違いであるが,HFA中心30-2は30°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は6°で合計76点あり,10°内に測定点は12点である(図4左).HFA中心10-2では10°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は2°で合計68点ある(図4右).HFA中心30-2を行った際,測定点の間隔(6°)よりも小さな暗点がある場合には検出されない可能性があるが,HFA中心10-2では暗点の検出ができる.HFA中心30-2に比較して,GPでは常に患者の固視状態を監視しながら視標を出し,HFA中心30-2の測定点以外の箇所も測定することができるために,孤立暗点や沈下をみつけやすい8).しかし,HFAは反応の悪い高齢者などでは異常の検出が困難なことがある.今回提示した症例1は,HFA中心30-2では上眼瞼や白内障の影響を除外できず,明らかな緑内障性視野変化と判定するのはむずかしかった.緑内障性の暗点なのか,アーチファクトととらえるかの判断はしばしば困難なこともある.症例2と3においては,HFA中心30-2により暗点自体は検出できているが,感度低下を示すドットの数が少なく,HFA中心30-2単独では明らかな緑内障性視野変化として判定するのはむずかしかった.これは早期の緑内障性視野変化で,中心付近の暗点が比較的小さいことによると考えられた.一方,HFA中心10-2では,視神経線維の走行に従って,多数の感度低下を示す連続的なドットが検出されている.症例3では症例2よりも,より早期の緑内障性視野変化が検出されたと考えられた.緑内障の早期発見には,GPがHFA中心30-2よりも有効な場合があり,中心30-2で緑内障の診断に迷ったときにはGPを行い,さらに中心10-2を追加するとよいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)BengtssonB,HeijlA:SITAFast,anewrapidperimetricthresholdtest.Descriptionofmethodsandevaluationinpatientswithmanifestandsuspectglaucoma.ActaOphthalmolScand76:431-437,19983)BeckRW,BergstromTJ,LichterPRetal:Aclinicalcomparisonofvisualfieldtestingwithanewautomatedperimeter,theHumphreyFieldAnalyzer,andtheGoldmannperimeter.Ophthalmology92:77-82,1985あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131163 4)TropeGE,BrittonR:AcomparisonofGoldmannandofprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisHumphreyautomatedperimetryinpatientswithglauco-Sci31:1869-1875,1990ma.BrJOphthalmol71:489-493,19877)梶原喜久子,山口直子,御宿真理子ほか:自動視野計閾値5)水流忠彦,大久保彰,宮倉幹夫ほか:緑内障眼の網膜感検査で見逃された興味ある緑内障症例.日本視能訓練士協度HumphreyFieldAnalyzerによる網膜閾値測定(1)会誌20:138-142,1992Goldmann視野計測との比較.眼紀39:1343-1352,19888)勝島晴美:Goldmann視野計による診断.眼科診療プラク6)SamplePA,WeinrebRN:Colorperimetryforassessmentティス28,視野のすべて,p16-21,文光堂,1997***1164あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(120)

タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)

新潟大学ロービジョン外来における緑内障患者の受診状況

2013年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科30(7):1029.1033,2013c新潟大学ロービジョン外来における緑内障患者の受診状況本間友里恵*1張替涼子*1石井雅子*1,2阿部春樹*2福地健郎*1*1新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野*2新潟医療福祉大学GlaucomaPatientConsultationatNiigataUniversityLow-VisionClinicYurieHonma1),RyokoHarigai1),MasakoIshii1,2),HarukiAbe2)andTakeoFukuchi1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,2)NiigataUniversityofHealthandWelfare目的:ロービジョン外来を受診した緑内障患者の受診状況を検証し,緑内障患者にロービジョン外来受診を勧める時期や背景について検討した.対象および方法:対象は,2000年9月から2009年8月までの9年間にロービジョン外来を受診した緑内障患者121例,平均年齢61.5±17.2歳である.視覚障害による困難を聴取し,それに対応し必要なロービジョンケアを行った.良いほうの眼の視力を0.5以上の良好群と0.4以下の不良群の2群に,良いほうの眼のGoldmann視野病期を早期・中期群と晩期群の2群に,年齢を20.60歳の就労年齢群と61.88歳の高齢群の2群にそれぞれ分類し,改善したい困難(ニーズ)について視力,視野および年齢別に比較検討した.結果:視覚障害による困難は読書81.8%,羞明55.4%,歩行52.1%,書字33.9%,日常生活19.0%の順に多かった.羞明は視力良好群で80.5%および視野晩期群で73.1%,歩行は就労年齢群で64.2%,書字は視力不良群で41.3%および視野晩期群で44.8%,日常生活は視力良好群で36.6%,遠見は視力不良群で15.0%および視野晩期群で16.4%,就労は就労年齢群で17.0%とそれぞれ他群に比べ困難の訴えの割合が有意に多かった(p<0.05,c2検定).結論:視力および視野が良好であっても患者の生活・社会環境によってはさまざまな困難を自覚しており,障害が軽度であってもロービジョンケアを必要とする場合があることを理解する必要がある.Purpose:Toassessthetimingandbackgroundoflow-visionclinicvisitrecommendationbyexaminingtheconsultationsituationofglaucomapatientsconsultingourlow-visionclinic.SubjectsandMethods:Subjectscomprised121patients61.5±17.2yearsofagewhoconsultedourlow-visionclinicduringthe9yearsfromSeptember2000toAugust2009.Eachpatientconsultedwithusregardingdifficultiesarisingfromvisualimpairment;weprovidedthenecessarylow-visioncare.Weclassifiedthesubjectsintotwogroupsbasedonthevisualacuityofthebettereye:onegroupabove0.5,theotherbelow0.4.WealsoclassifiedthesubjectsintotwogroupsbasedontheimpairmentstageofthebettereyeintermsofGoldmannvisualfield:early,intermediateandlatestage.Thesubjectswerealsoclassifiedintotwoagegroups:theworkingagegroup(20-60yearsofage)andtheseniorgroup(61-88yearsofage).Wethenexaminedandcomparedthegroupsbasedonvisualacuity,visualfieldandage,intermsoftheirneeds(visionproblemstheywishedtoimprove).Results:Inorderofnumberofcases,manypatientssufferedfromvisualimpairmentthatcausedreadingdifficulties(81.8%),photophobia(55.4%),walkingdifficulties(52.1%),writingdifficulties(33.9%)andotherdifficultiesindailylife(19.0%).Ofthebettervisualacuityandseverevisualfieldimpairmentgroups,80.5%and73.1%,respectively,sufferedfromphotophobia;64.2%ofpatientsintheworkingagegroupexperiencedproblemswithwalking;41.3%oftheworsevisualacuitygroupand44.8%ofthelatevisualimpairmentstagegrouphadtroublereadingandwriting;36.6%ofthoseinthebettervisualacuitygrouphaddifficultiesindailylife;15.0%ofthoseintheworsevisualacuitygroupand16.4%intheseverevisualfieldimpairmentgroupsufferedfromfar-sightedness.Meanwhile,17.0%oftheworkingagegroupindicatedhavingdifficultyworking,showingasignificantlyhigherratioofdifficultiesthananyothergroup(p<0.05,chi-squaretest).Conclusions:Regardlessofgoodvisualacuityandvisualfield,patientsareawareofvariousdifficultiesrelatingtothesocialenvironmentandtheirdailylife.Thisstudyrevealedtheimportanceofunder〔別刷請求先〕本間友里恵:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:YurieHonma,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(147)1029 standingtheneedtoprovidelow-visioncareevenforindividualswithmildvisualimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1029.1033,2013〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,ニーズ.glaucoma,lowvisioncare,needs.はじめに近年,社会の老齢化に伴い治療できない視覚障害のために視機能が低下したままの状態,すなわちロービジョンで生活せざるをえない人口は増加している.日本眼科医会の報告では,わが国における視覚障害者は164万人ともいわれ,緑内障は視覚障害の原因の首位疾患である1).また,大規模な緑内障の疫学調査である多治見スタディでは,40歳以上の日本人の緑内障有病率は5.0%であることが報告されている2).緑内障では無症状のままゆっくりと緩慢に視機能が障害されるため,自覚症状が現れたときにはかなり病状が進行し患者のqualityoflife(QOL)が極端に損なわれていることもしばしばみられる.それゆえ治療・視機能の管理と並行してロービジョンケアを行う必要性について認識されつつあるが,ケア導入のタイミングはむずかしい3).今回,筆者らは緑内障により視機能に低下をきたし新潟大学眼科ロービジョン外来を受診した患者の視機能の状態と,視機能障害による困難およびロービジョンケアの内容について調査し検討したので報告する.I対象および方法2000年9月から2009年8月までの9年間にロービジョン外来を受診した340人のうち,緑内障と診断された121例(男性70例,女性51例)を対象とした.ロービジョンケアの開始年齢は5.88歳,平均61.5±17.2歳である.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)が52例,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)が31例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が24例,原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)および発達緑内障(developmentalglaucoma:DG)が各7例である.見えにくいことによる,どのような困難を改善したいのか(ニーズ)を聴取し,それに対応した必要なロービジョンケアを行った.ロービジョンケアの内容は遮光眼鏡,近用拡大鏡および単眼鏡などの処方,タイポスコープ,拡大読書器などの指導,福祉制度,便利グッズおよび障害年金などの情報提供である.良いほうの眼の視力を0.5以上の良好群と0.4以下の不良群2群に,良いほうの眼のGoldmann視野病期を湖崎分類4)に従って早期・中期群と晩期群の2群に,年齢を20.60歳の就労年齢群と61.88歳の高齢群の2群にそれぞれ分類し,ニーズについて視力,視野および年齢別に比較検討した.1030あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013データの解析にはc2検定を用い,危険率5%以下を有意差ありとした.II結果1.受診患者の視力および視野良いほうの視力は0.01未満が4例(3.3%),0.01.0.05が18例(14.9%),0.06.0.09が15例(12.4%),0.1.0.4が43例(35.5%),0.5.0.9が22例(18.2%),1.0以上が19例(15.7%)であった(図1).良いほうのGoldmann視野は湖崎分類のIIa期およびIIb期が各1例(0.8%),IIIa期が34例(28.1%),IIIb期が14例(11.6%),IV期が38例(31.4%),Va期が7例(5.8%),0.01未満1.0以上419(3.3%)0.01~0.0518(14.9%)0.1~0.443(35.5%)0.5~0.922(18.2%)(15.7%)0.06~0.0915(12.4%)図1良いほうの視力(n=121)0.4以下:80例,0.5以上:41例.n():症例数(%).不測IIa期41IIb期(3.3%)(0.8%)1Va期7(5.8%)IIIb期14Vb期22(18.2%)IIIa期(0.8%)34(28.1%)(11.6%)IV期38(31.4%)図2良いほうの視野(n=121)早期・中期:50例,晩期:67例,測定不能:4例.n():症例数(%).(148) Vb期が22例(18.2%)であった.3例は幼少のため,1例は明(55.4%),歩行(52.1%),書字(33.9%),日常生活(19.0知的な障害のため測定不能であった(図2).%),遠見(10.7%)と続く(図3).2.ニーズとロービジョンケアの内容ロービジョンケアの内容は,処方では多い順に,遠用遮光ニーズには複数の回答があった.読書の困難を改善したい眼鏡(34.7%),近用拡大鏡(30.6%),白杖(28.9%),近用という訴えが最も多く全体の81.8%にみられた.つぎに羞眼鏡(17.4%),拡大読書器(14.1%)であった.指導および情報提供では補装具および日常生活用具の身体障害者手帳(視覚)のサービス,税金の減免,NKK受信料の割引などの読書福祉制度についての情報提供が76.9%と最も多かった.つ羞明ぎに近用拡大鏡(57.9%),見えにくいことによる日常生活歩行書字の不自由さを助ける便利グッズ(52.9%),タイポスコープ・日常生活筆記用具(46.8%),拡大読書器(44.6%)と続く(図4).遠見ニーズに対応したケアでは,読書および書字の困難には近福祉情報心理的不安用拡大鏡,近用眼鏡,拡大読書器,近用遮光眼鏡,書見台の就労処方を行った.処方にあたっては十分な試用のうえ,可能でパソコンあれば1週間程度の貸し出しの後に処方した.再来時に使用就学その他状況を確認し,処方された補助具やタイポスコープを用いて01099(81.8)67(55.4)63(52.1)41(33.9)23(19.0)13(10.7)11(9.1)10(8.3)9(7.4)3(2.5)3(2.5)6(5.0)2030405060708090100(%)の読み書きの指導を行った.視機能を用いることが困難な場図3ニーズの割合(n=121:複数回答あり)合は音声パソコン教室および録音図書の情報提供を行った.その他:車の運転,携帯電話の使い方,時計が見えない,視力就労の困難には事務作業の効率を上げるための音声パソコン回復,内科の処方薬と眼との関係,暗順応障害が各1例.教室の情報提供,パソコン画面のハイコントラスト設定の指a.処方遠用遮光眼鏡42(34.7)近用拡大鏡37(30.6)白杖35(28.9)近用眼鏡21(17.4)拡大読書器17(14.1)遠用眼鏡14(11.6)近用遮光眼鏡12(9.9)音声時計11(9.1)書見台10(8.3)単眼鏡4(3.3)その他15(12.4)0510152025303540(%)b.指導・情報提供福祉制度93(76.9)近用拡大鏡70(57.9)便利グッズ64(52.9)タイポスコープ・筆記用具59(48.8)拡大読書器54(44.6)障害年金38(31.4)照明37(30.6)点字・録音図書35(28.9)音声パソコン教室34(28.1)パソコンの画面設定21(17.4)眼球運動・偏心視訓練17(14.1)日常生活14(11.6)単眼鏡12(9.9)就労9(7.4)就学3(2.5)その他17(14.1)0102030405060708090(%)図4ロービジョンケアの内容(149)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131031 表1ニーズの比較視力視野※1年齢※2良好群0.5以上n=41不良群0.4以下n=80p値早期・中期群IIa,IIb,IIIa,IIIbn=50晩期群IV,Va,Vbn=67p値就労年齢群20.60歳n=53高齢群61.88歳n=65p値n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)読書34(82.9)65(81.3)0.8239(78.0)56(83.6)0.4541(77.4)55(84.6)0.31羞明33(80.5)34(42.5)<0.01*18(36.0)49(73.1)<0.01*35(66.0)32(49.2)0.07歩行19(46.3)44(55.0)0.3728(56.0)35(52.2)0.6934(64.2)29(44.6)0.03*書字8(19.5)33(41.3)0.02*11(22.0)30(44.8)0.01*20(37.7)21(32.3)0.54日常生活15(36.6)8(10.0)<0.01*7(14.0)16(23.9)0.1812(22.6)11(16.9)0.44遠見1(2.4)12(15.0)0.03*2(4.0)11(16.4)0.03*6(11.3)7(10.8)0.92福祉情報4(9.8)7(8.8)0.863(6.0)8(11.9)0.498(15.1)3(4.6)0.05心理的不安3(7.3)7(8.8)0.794(8.0)6(9.0)0.855(9.4)5(7.7)0.74就労1(2.4)8(10.0)0.131(2.0)8(11.9)0.059(17.0)0(0.0)<0.01*パソコン2(4.9)1(1.3)0.22※32(4.0)1(1.5)0.40※33(5.7)0(0.0)0.05※3※1測定不能であった4例を除く.※2未成年の3例を除く.※3イエーツ(Yates)の補正済み.*p<0.05で有意差あり(c2検定).導を行った.3.ニーズと視力,視野および年齢おもなニーズを視力,視野および年齢をそれぞれ2群して比較した(表1).羞明は視力良好群で80.5%および視野晩期群で73.1%とそれぞれ視力不良群42.5%および視野早期・中期群36.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.歩行は就労年齢群で64.2%と高齢群44.6%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.書字は視力不良群で41.3%および視野晩期群で44.8%とそれぞれ視力良好群19.5%および視野早期・中期群22.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.日常生活は視力良好群で36.6%と視力不良群10.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.遠見は視力不良群で15.0%および視野晩期群で16.4%とそれぞれ視力良好群2.4%および視野早期・中期群4.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.就労は就労年齢群で17.0%と高齢群0.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.読書,福祉情報および心理的不安に関しては,2群間に差がみられなかった.III考按本研究は緑内障患者のロービジョンケアを導入した時期の状況を診療録から後ろ向きに調査したものである.緑内障のロービジョンケアについてはこれまでに多くの報告がある5.8).また,緑内障患者のQOL評価についてはThe25itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQueationnaire(VFQ-25)を用いての生活機能評価から,視機能の障害程度とQOLは相関することが報告されている8,9).筆者らは,質問紙を用いず視機能の低下によってもたらされた困難のなかで改善を希望することを十分な時間をかけて面談により聴取し,そのニーズに対応したロービジョンケアを行った.今回の対象のロービジョン外来を受診した緑内障患者の病型は原発開放隅角緑内障が最も多く,つぎに続発緑内障,正常眼圧緑内障の順であった.わが国の緑内障の疫学調査である多治見スタディでは,緑内障の頻度は正常眼圧緑内障が最も多く,原発開放隅角緑内障は少ない.しかし,原発開放隅角緑内障や続発緑内障のような高眼圧の緑内障では視機能障害が重症化しやすく正常眼圧緑内障は重症化しにくいといわれている2).ロービジョンケアを導入した緑内障患者は高眼圧で重症化しやすいタイプの緑内障が多かった.川瀬の報告8)ではケアを開始した時点の良いほうの眼の視力は0.7以上が89%,視野はHumphrey視野におけるAnderson分類10)にて重度が48%と最も多く,中心視力が良好なうちにケアが開始されていた.筆者らの調査では,ロービジョンケアを開始した時点の良いほうの眼の視力は0.1.0.4の35.5%が最も多く,視力0.7以上は20%に満たなかった.視野はGoldmann視野における湖崎分類4)でIV期の31.4%が最も多かった.ケア開始時の視力値に大きな違いがみられた.ロービジョンケア導入を勧めるタイミングが異なることがその原因であると考えられる.読書の困難をニーズとしてあげる者が全体の81.8%と最も多かった.視力,視野が良好であっても若年層においては読書の困難を自覚しやすいことがわかった.読書の困難に対応して近用拡大鏡の処方および指導,タイポスコープ・筆記用具の指導がロービジョンケアの内容として多かった.しか1032あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(150) し,川瀬8)のVFQ-25の下位尺度の平均点数では運転,心の健康や一般的健康の項目の点数が低く,近見の項目は低値を示していない.聞き取り方法の違いかもしれない.面談によるニーズの聴取では,患者は眼科医療機関で対応してもらえそうな困難を優先する.その結果,筆者らのクリニックでは補助具で解決できそうな読書や羞明のニーズが多く,心の不安を訴える患者は少なかったのではないかと推測される.ロービジョンケアの内容では,高橋ら7)は心のケアが最も多く,つぎに眼球運動訓練であると報告している.ロービジョンケアの内容は患者のニーズや導入時の緑内障の病期により異なる.視力良好群が不良群よりも,羞明および日常生活の困難の改善を訴えることは,興味深い結果であった.読書および歩行についてもわずかではあるが,視機能の良い群が悪い群より,困難の自覚の割合が多かった.その理由として,視機能障害の軽い群ではそれまでは自立して日常生活を送ってきたが不自由を感じ始めたという段階の患者が多いこと,また外出の機会が多いためではないかと推測できる.一方,視機能障害が進行している群ほど不自由になってからの期間が長く,保有視野での生活に適応している,家族の介助に頼ることに慣れてしまった,外出の機会が少なくなる,などの生活環境の変化により,困難を自覚しにくくなっている可能性がある.QOLの向上を目指すロービジョンケアは眼科医療において重要である11,12).しかし,ロービジョンケアの導入のタイミングには視機能からの明確な基準はない.緑内障は視機能障害の進行が遅く自覚症状に乏しいという特徴があり,患者自身が視機能障害による生活の不自由さに慣れてしまっていることがロービションケアの導入をむずかしくしているのかもしれない.新潟大学眼科では,緑内障外来主治医が患者からの視機能障害による困難の訴えがあった場合に,ロービジョン外来の受診を勧めている.そのため緑内障の罹患期間が長く中心視野が消失した状態ではじめてロービジョンケアを受けるという患者もいる.その場合,患者自身のロービジョンケアに対する意識が乏しく,視力を回復させたいという思いから補助具を用いることに抵抗がありロービジョンケアの受け入れがうまくいかないこともある.視機能障害が軽度なほど補助具での見え方の満足度が高い.また,治療への期待が強い患者では障害への受容が遅れがちである.通常の診療では患者は積極的に見えにくいことによる不自由さを訴えることは少ない.定期の視野検査の後に,生活に支障がないか尋ねることや有効視野の位置を患者とともに確認するなどの医療側からのアプローチが,早期のロービジョンケア導入を可能にすると考える.本論文は第22回日本緑内障学会(2011年)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本眼科医会研究班報告2006.2008:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80(6):付録9-11,20092)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1678,20043)張替涼子:4)緑内障IV.年齢と疾患によるケアの特徴/3.疾患別特徴.眼科プラクティス14巻,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),文光堂,20074)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病期分類.日眼会誌76:1258-1267,19725)浅野紀美江,川瀬和秀,山田敬子ほか:緑内障におけるロービジョンケア─視野による評価─.あたらしい眼科19:771-774,20026)西田朋美,三輪まり枝,山田明子ほか:医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2例.あたらしい眼科27:155-158,20107)高橋広,花井良江,土井涼子ほか:柳川リハビリテーション病院におけるロービジョンケア─第8報:緑内障患者に対するロービジョンケア─.あたらしい眼科19:673-678,20108)川瀬和秀:疾患別ロービジョンケア“緑内障”.眼紀57:261-266,20069)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,200910)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimeter.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199911)簗島謙次:視覚障害のリハビリテーション.ロービジョン・クリニック.あたらしい眼科9:1273-1279,199212)田淵昭雄,河原正明,廣田佳子ほか:眼科リハビリテーション・クリニックの重要性と課題.眼紀49:695-700,1998***(151)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131033

緑内障患者に対する光学的補助具の有効性

2013年6月30日 日曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):865.869,2013c緑内障患者に対する光学的補助具の有効性河本ひろ美*1柴田拓也*1麓智比呂*1伊藤裕美*1河原有美佳*1瀬谷剛史*1千葉マリ*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科AvailabilityofLowVisionAidsforHandicappedGlaucomaPatientsHiromiKohmoto1),TakuyaShibata1),ChihiroFumoto1),HiromiIto1),YumikaKawahara1),TakeshiSeya1),MariChiba1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院ではロービジョン患者に光学的補助具を処方しているが,光学的補助具を処方された緑内障患者31例に対して,アンケート調査を行い,その結果と診療録を検討した.アンケート調査は緑内障患者を対象にしたSumiの問診票を用いて不自由度を数値化し光学的補助具の処方前後で検討した.23例(74.2%)が補助具による日常生活の改善に満足していた.不便度が高かった文字の読解にも有意な改善がみられた.満足している症例が多いが,使用上の説明,訓練の不足のため,満足していない症例もあった.WeselectlowvisionaidsatInouyeEyeHospital.Weevaluatedvisualimpairmentin31handicappedglaucomapatientsbyquestionnaire,usingSumiTables.Lowvisionaidshavebeenusefulinimprovingthequalityoflifefor23(74.2%)ofthesepatients,especiallyhandicappedpatientsinreadingsignificantly.Somepatientsfeltnosatisfaction,becauseoflackofexplanationortraining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):865.869,2013〕Keywords:緑内障,光学的補助具,Sumiの問診票.glaucoma,lowvisionaids,SumiTables.はじめに緑内障患者の視覚障害による日常生活の不自由さは多岐にわたっている1).井上眼科病院では「目の相談室」を1999年11月に設置し,医師の指示に基づいて視能訓練士がロービジョン患者に光学的補助具を選定している.年間約150名が「目の相談室」を受診しており,疾患別では緑内障が23.2%と最多である2).今回筆者らは緑内障患者が日常生活にどのような不自由があるのか,どのような光学的補助具を希望したか,また処方された光学的補助具により不自由さがどのように改善したかを探る目的でアンケート調査を行った.I対象および方法2012年1月から8月までに「目の相談室」を受診したロービジョン患者は303例であり,そのうち緑内障患者は86例であり,光学的補助具を処方された緑内障患者31例(男性12例,女性19例,平均年齢74.3±10.7歳)を対象とした.対象症例の優位眼視力は,0.3未満が8例,0.3以上0.7未満が9例,0.7以上が14例であった.対象症例の視野は,Goldmann視野検査では,湖崎分類Iは2例,IIは5例,IIIは11例,IVは1例,Vは1例であった.Humphrey視野検査では,meandeviation(MD)値は,2例がMD>.6dB,5例が.12dB<MD≦.6dB,4例がMD≦.12dBであった.対象患者に以下に述べるアンケートを行い,その結果と診療録を検討した.アンケートは緑内障患者を対象にしたSumiの問診票3)(表1)を用いて不自由度を数値化し(非常に不便;2,やや不便;1,不便なし;0)(スコア),光学的補助具を処方前と処方1.2カ月後で比較した.また,光学的補助具に対する満足度,有効利用のための意見も聴取した.統計は対応のないt検定を用いた.有意差はp<0.05とした.当調査は井上眼科病院の倫理委員会の承認を受け,対〔別刷請求先〕河本ひろ美:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:HiromiKohmoto,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(143)865 表1Sumiの問診票(文献3より)読字(単語)1.新聞の見出しの大きい文字は読めますか.2.新聞の細かい文字を読めますか.3.辞書などの細かい文字は読めますか.4.電話帳や住所録の活字は読めますか.5.駅の料金表や路線図は見えますか.読字(文章)6.文章の読み書きに不自由を感じますか.7.縦書きの文章を書くとき,曲がってしまうことはよくありますか.8.文章を一行読んだ後,次の行に移るとき,見失うことはよくありますか.歩行(家の近所への外出について)9.見づらくて歩きづらいことはありますか.10.ひとりで散歩はできますか.11.信号を見落とすことはありますか.12.歩行中,人やものにぶつかることはありますか.13.階段を昇り降りするとき,つまずくことはよくありますか.14.道路に段差があったとき,気づかないことはありますか.15.知人とすれ違っても,相手から声をかけられてないとわからないことはありますか.16.人や走行中の車が脇から近づいてくるのがわからないときがありますか.移動〔交通機関(電車,バス,タクシーなど)を利用した外出〕17.見づらくて外出に不自由を感じることはありますか.18.知らないところに外出するとき,付き添いは必要ですか.19.タクシーを拾うとき,空車かどうか分からないことはありますか.20.電車やバスでの移動に不自由を感じますか.21.夜間の外出は見づらくて不安を感じますか.食事22.見づらくて食事に不自由を感じることはありますか.23.見づらくて食べこぼしたりすることはありますか.24.お茶やお湯を注ぐとき,こぼすことはよくありますか.25.おはしでおかずをつかむとき,つかみそこねることはありますか.着衣整容26.下着の表裏がわかりづらいことがありますか.27.お化粧や髭剃りの際,自分の顔は見えますか.その他28.テレビは見えますか.29.床に落とした物を探すのに苦労することがありますか.30.電話に顔を近づけないとかけづらいことがありますか.象者にはインフォームド・コンセントを施行した.II結果処方した光学的補助具のうち拡大鏡,ルーペ処方は10例であった.これら10例の平均年齢は79.0±4.3歳であった.優位眼視力は,0.3未満が4例,0.3以上0.7未満が5例,0.7以上が1例であった.Goldmann視野検査の結果は,湖崎分類Iは1例,IIは2例,IIIは5例,IVは1例,Vは1例であ866あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013った.遮光眼鏡処方は21例であった.これら21例の平均年齢は72.5±11.0歳であった.優位眼視力は,0.3未満が4例,0.3以上0.7未満が4例,0.7以上が13例であった.Goldmann視野検査の結果は,湖崎分類Iは1例,IIは3例,IIIは6例であった.Humphrey視野検査の結果では,2例がMD>.6dB,5例が.12dB<MD≦.6dB,4例がMD≦.12dBであった.選定された遮光眼鏡は,ブラウン系が10例と最も多く,ついでグレー系6例,グリーン系5例であった.光学的補助具処方前後の生活の改善度は,全体では,単語,文章ともに字の読みに有意に改善がみられた(p<0.05)(図1).さらに読字時の改善度を優位眼視力別に検討したところ,優位眼視力0.3未満の群,0.3以上0.7未満の群において,単語の読みで補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.0001).優位眼視力0.7以上の群において,文章の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.05)(図2).拡大鏡,ルーペは細かい字の読みの改善目的に処方するが,今回,拡大鏡,ルーペ処方群では単語の読みに関しては,新聞,辞書,電話帳などの細かい字の読みに有意に改善がみられた(p<0.05)(図3).遮光眼鏡は外出時の眩しさ軽減のために処方するが,遮光眼鏡処方群では,歩行,移動,食事において遮光眼鏡処方後,満足している症例が多かったが,処方前後で有意差はなかった(p=0.0679)(図4).満足度は,全体では8例(26%)が「とても満足」,15例(48%)が「少し満足」,8例(26%)が「満足なし」と回答した.拡大鏡,ルーペ処方群では,3例(30%)が「とても満足」,3例(30%)が「少し満足」,4例(40%)が「満足なし」と回答した.遮光眼鏡処方群では,5例(24%)が「とても満足」,12例(57%)が「少し満足」,4例(19%)が「満足なし」と回答した(表2).優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡,ルーペ処方群,遮光眼鏡処方群ともに,0.3未満の症例に満足度が低い結果となった(表3).有効利用度では,全体では12例(39%)が「とても有効利用している」,13例(42%)が「少し有効利用している」6例(19%)が「有効利用していない」と回答した.拡大鏡,(,)ルーペ処方群では,4例(40%)が「とても有効利用している」,3例(30%)が「少し有効利用している」,3例(30%)が「有効利用していない」と回答した.遮光眼鏡処方群では,8例(38%)が「とても有効利用している」,10例(48%)が「少し有効利用している」,3例(14%)が「有効利用していない」と回答した(表2).優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡,ルーペ処方群,遮光眼鏡処方群ともに,視力良好例ほど有効利用できているようであった(表3).III考按井上眼科病院の「目の相談室」において,ロービジョン患(144) スコアスコアスコア1.401.201.000.800.600.400.200.002.001.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00(n=31):前■:後*p<0.05(対応のあるt検定)1.11±0.130.82±0.141.12±0.020.85±0.080.71±0.070.71±0.070.82±0.030.83±0.070.54±0.110.51±0.140.52±0.060.51±0.110.74±0.040.70±0.07**読字…読字…歩行移動食事着衣…その他単語文章図1補助具選定前後の不便度(全体)単語,文章ともに字の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた.**1.53±0.201.16±0.04(n=31)1.63±0.231.42±0.28**1.33±0.200.84±0.25:前■:後1.40±0.071.00±0.11**p<0.0001,*p<0.05*0.71±0.170.62±0.080.62±0.220.46±0.12読字(単語)読字(文章)読字(単語)読字(文章)読字(単語)読字(文章)~0.30.3~0.70.7~(n=8)(n=9)(n=14)優位眼視力図2補助具選定前後の読字時の不便度(優位眼視力別)優位眼視力0.3未満の群(n=8),0.3以上0.7以下の群(n=9)において,単語の読みで補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.0001).優位眼視力0.7以上の群(n=14)において,文章の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.05).者に処方した光学的補助具は字の読み改善目的での拡大鏡,ルーペ処方が約75%と多く,視力良好(0.7以上)症例では,羞明改善目的での遮光眼鏡処方が66.7%と多かった2).中村らの報告によると,井上眼科病院の「目の相談室」において補助具を処方した40例の緑内障患者に面談したところ読み書きに対するニーズが92.5%と最も多かった4).今回の筆者らの対象は,視力0.7以上が45.2%と多く,処方された光学的補助具も遮光眼鏡が67.6%と多かった.比較的視力や視野が良好で,遮光眼鏡処方前も生活にあまり困っていない症例でも遮光眼鏡により羞明に改善がみられ,満足しているが,アンケート上の生活の不便さには,処方前後で有意差はみられなかった.今回はじめて遮光眼鏡の存在を知り,もっと早く知っていれば良かったという意見もあった.遮光眼鏡は身体障害者手帳を取得している場合,要件を満たしていれば疾患にかかわらず遮光眼鏡が支給されることに2010年に改正された.緑内障では次第に視野が障害されていくが,視(145)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013867 スコアスコア2.52p<0.05(対応のあるt検定)1.5図3補助具選定前後の不便度(拡大鏡・ルーペ選定群)1読字(単語),新聞,辞書,電話帳などの細かい字の読みに有意に改善がみられた.0.500.10±0.321.80±0.421.90±0.321.80±0.421.90±0.321.10±0.741.00±0.820.90±0.741.50±0.71***(n=10):前:後*1.新聞見出しの2.新聞読める3.辞書などの4.電話帳や5.駅の料金表大きい字が細かい字が住所録のや路線図は読める読める活字が読める見える0.90(n=21)0.80:前■:後0.700.60図4補助具選定前後の不便度(遮光眼鏡群)0.50歩行,移動,食事において遮光眼鏡処方後改0.40善がみられたが,処方前後で有意差はなかった.0.300.200.100.000.62±0.090.74±0.060.44±0.090.41±0.040.62±0.070.57±0.090.65±0.040.35±0.070.75±0.060.52±0.1歩行移動食事着衣整容その他表2補助具選定後の満足度,有効利用度(n=31)ルーペ遮光眼鏡全体とても満足3例(30%)5例(24%)8例(26%)少し満足3例(30%)12例(57%)15例(48%)満足なし4例(40%)4例(19%)8例(26%)とても有効利用4例(40%)8例(38%)12例(39%)少し有効利用3例(30%)10例(48%)13例(42%)有効利用なし3例(30%)3例(14%)6例(19%)野欠損の部位が広がると,羞明をきたす症例が多い5).井上眼科病院での遮光眼鏡の処方を調査したところブラウン系の処方が全体の4割,ついでグリーン系,グレー系,イエロー系であった6).柳澤らの報告では緑内障患者に選定された遮光眼鏡ではイエロー系が24%と最も多かった7).今回緑内障患者に選定された遮光眼鏡は,ブラウン系が10例(32.3%)と最も多く,ついでグレー系6例(19.4%),グリーン系5例(16.2%)であった.今回の筆者らの遮光眼鏡処方症例は,比較的視覚良好例が多く,外見上の問題からイエロー系が選ばれなかったと考えられた.視野欠損部位が邪魔になる,読み飛ばしをするなど,視野868あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013表3優位眼視力別満足度,有効利用度【ルーペ選定後の優位眼視力別満足度,有効利用度】優位眼視力0.3未満0.3以上0.7未満0.7以上とても満足2例1例少し満足1例2例満足なし3例1例とても有効利用1例2例1例少し有効利用1例2例有効利用なし2例1例【遮光眼鏡選定後の優位眼視力別満足度,有効利用度】優位眼視力0.3未満0.3以上0.7未満0.7以上とても満足1例1例5例少し満足1例2例12例満足なし2例1例4例とても有効利用1例2例8例少し有効利用2例1例10例有効利用なし1例1例3例優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡・ルーペ処方群(n=10),遮光眼鏡処方群(n=21)ともに,視力良好例ほど満足度が高く,有効利用できているようであった.(146) 異常による読字困難に対し,拡大鏡,ルーペが処方される.拡大鏡,ルーペ処方の症例は,比較的視野や視力が不良例が多く,処方前は困っていたことが改善され,満足している症例が多い.満足度では不便度が高かった細かい字の読解に改善がみられた.しかし高度に視力,視野が障害されている症例は光学的補助具を使用してもまだ不便であり有効利用できない症例があり,満足がみられなかった.練習をもっとしたいとの意見があった.このような症例でも視野障害を考慮したルーペの使用法を詳しく説明されて満足している意見もあり,個々の症例に合わせた詳しい説明と使い方の練習が重要である.今後ルーペ使用後にも再度使用法について面談すべきであると思われた.視野欠損において,川瀬らはタイコスコープの有用性を述べている5).当院でもルーペ使用でも読書時の不自由を訴える症例には,行間間違いの軽減目的でタイコスコープを検討してみたいと思われた.遮光眼鏡処方症例においては,眩しさ軽減のため外出時の不便度の改善がみられた.遮光眼鏡装用後,室内で洋服を選ぶのに色合いがわかりにくくなったという意見があり,遮光眼鏡処方後の着衣整容の不便度悪化の原因と考えられた.遮光眼鏡処方後満足している症例が多く,視力良好例ほど有効利用できている傾向であった.しかし使用上の説明,訓練の不足のため,満足していない症例もあった.これまで視覚補助具の有効活用に関するアンケート調査の報告では,有効利用の要因として,使用法が容易であることがあげられる8).有効利用のためには,行政担当者の視覚補助具に対する知識が必要だという意見が多い8).今回筆者らの症例でも役所に書類を揃えて持って行ったところ所得制限のため,対象外と言われた症例があった.書類を取りに行った段階でその説明をすべきだと思われた.われわれ医療関係者のみならず,行政担当者の視覚補助具に対する啓蒙活動が必要と思われる.緑内障患者は多く,日々の忙しい診療において,患者の視覚障害による生活の不自由度を詳しく知ることはむずかしいが,患者の声に耳を傾け,より良い光学的補助具を提案し,その使用法について詳しく説明することが大切だと思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)国松志保:緑内障患者のロービジョンケア.あたらしい眼科26:1077-1078,20092)中村秋穂,堂山かさね,石井祐子ほか:井上眼科病院での7年間におけるロービジョンエイドの選定.日本ロービジョン学会誌8:148-152,20083)SumiI,SiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20034)中村秋穂,細野佳津子,石井祐子ほか:井上眼科病院緑内障外来におけるロービジョンケア.あたらしい眼科22:821-825,20055)川瀬和秀,浅野紀美江:疾患別ロービジョンケア“緑内障”.眼紀57:261-266,20066)楡井しのぶ,堂山かさね,国谷暁美ほか:井上眼科病院における遮光眼鏡の選定に影響を及ぼす因子.日本視能訓練士協会誌39:217-223,20107)柳澤美衣子,国松志保,加藤聡ほか:眼科ロービジョン外来における使用頻度の高い光学的補助具.臨眼61:363366,20078)三柴恵美子,平塚英治,小町裕子:ロービジョン者用視覚補助具の保有状況と有効活用に関するアンケート調査.日本視能訓練士協会誌39:233-238,2010***(147)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013869

水晶体亜脱臼と多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を合併した緑内障の1例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):561.567,2013c水晶体亜脱臼と多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を合併した緑内障の1例善本三和子*1桃原久枝*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2丸の内中央眼科診療所ACaseofGlaucomawithLensSubluxationandMultifocalPosteriorPigmentEpitheliopathyMiwakoYoshimoto1),HisaeMomohara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)MarunouchiCentralEyeClinic症例:52歳,男性.経過:2001年9月10日,左眼視力低下・眼圧上昇にて東京逓信病院眼科紹介初診.初診時,視力は右眼0.6(1.0),左眼0.04(0.7),眼圧は両眼15mmHg(左眼ラタノプロストとドルゾラミド点眼下),左眼の浅前房,前房内炎症,漿液性網膜.離と耳鳴があり,原田病を考えステロイド薬を全身投与し,視力は回復した.2008年頃より眼圧コントロールが悪化し,両眼の水晶体亜脱臼と白内障(R>L)も進行したため,2009年8月右眼白内障手術(眼内レンズ縫着)を施行するも,その後さらに右眼眼圧は上昇した.2010年8月左眼胞状網膜.離を発症.多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を考え,左眼硝子体切除術を施行し,網膜は復位した.右眼は,同年9月線維柱帯切除術を施行後7日目に胞状網膜.離を起こしたが,経過観察のみで網膜は自然復位した.結論:漿液性網膜.離に対するステロイド薬治療後,両眼の胞状網膜.離を合併し,眼圧コントロールに苦慮した緑内障症例を経験した.Wereportthecaseofa52-year-oldmalewhoconsultedusonSept10,2001withvisualacuityof0.6(1.0)REand0.04(0.7)LE.Intraocularpressure(IOP)ofbotheyeswas15mmHg(withglaucomaeyedropsinLE),withshallowanteriorchamber;floatersandinflammatoryserousretinaldetachmentwerealsoobserved.Healsohadtinnitus.UpondiagnosisofHarada’sdisease,systemiccorticosteroidtreatmentwasadministered,resultinginrecoveryofvisualacuity.Sevenyearslater,IOPbecameelevatedandcataractouslenssubluxationdeveloped.AftercataractsurgerytoRE,itsIOPbecamecontinuouslyelevated.InAugust2010,bullousretinaldetachmentoccurredinLE;wediagnosedmultifocalposteriorpigmentepitheliopathy(MPPE).TheLEretinareattachedaftervitrectomy.TrabeculectomywasperformedinRE,butonpostoperativeday7,bullousretinaldetachmentoccurred.Within1month,however,theretinareattachedwithouttreatment.WeexperiencedacaseofHarada’sdiseasewithuncontrollablesevereglaucomathatdevelopedtoMPPE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):561.567,2013〕Keywords:浅前房,原田病,水晶体亜脱臼,多発性後極部網膜色素上皮症,緑内障.shallowanteriorchamber,Harada’sdisease,lenssubluxation,multifocalposteriorpigmentepitheliopathy(MPPE),glaucoma.はじめに浅前房の鑑別診断には,原発閉塞隅角緑内障と続発閉塞隅角緑内障があり,後者の原因のなかで,原田病は,水晶体後方組織の前方移動によるものの代表的な疾患である1).今回筆者らは,片眼の浅前房,前房内炎症,両眼後極部漿液性網膜.離,耳鳴を初発時症状とし,原田病と考え,ステロイド薬全身投与を行い,いったんは視力が回復した症例で,その数年後に水晶体亜脱臼と白内障が進行し,両眼に多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorpigmentepitheliopathy:MPPE)を合併した緑内障症例を経験したので報告する.I症例と経過症例:52歳,男性.〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)561 主訴:左眼視力低下.既往歴:右眼再発性角膜上皮.離.全身疾患は特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2001年5月頃より左眼のかすみと耳鳴を自覚したが放置していた.他に頭痛や感冒様症状,難聴,脱毛,毛髪および皮膚の白変などの症状はなかった.2001年8月29日,丸の内中央眼科診療所を受診し,視力は右眼(1.0),左眼(0.15),眼圧は右眼12mmHg,左眼18mmHg,左眼の浅前房を認めた.その後さらに左眼眼圧が上昇したため,ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液とドルゾラミド(トルソプトR)点眼液を開始し,2001年9月10日東京逓信病院眼科(以下,当院)を紹介初診となった.現症:初診時視力は,VD=0.6(1.5×.3.0D(cyl.0.75DAx115°),VS=0.04(0.7×.4.25D(cyl.1.0DAx70°),眼圧は両眼ともに15mmHg(左眼のみ上記2剤点眼下)であった.前眼部所見では,右眼は異常なく,左眼で浅前房(vanHerick法Grade1),散瞳後に前房内cell(+)出現,隅角所見は,右眼Shaffer分類3度,左眼はShaffer分類0.1度と左眼は狭隅角であったが,両眼とも色素沈着はSheie分類0度,周辺虹彩前癒着(PAS)や結節はみられなかった.両眼とも,視神経乳頭に緑内障性変化はみられなかったが,両眼後極部に漿液性網膜.離を認めた.経過:初診当日施行したフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,両眼に多発性の顆粒状の過蛍光と網膜下への蛍光色素の貯留を認めた(図1)ため,原田病を考え,ステロイド薬全身投与を開始した.治療開始時は,多忙で入院不可能であったため,髄液検査を施行することができず,プレドニゾロン(プレドニンR,以下PSL)80mg/日の内服から開始したが,効果不十分であった.2001年11月6日より入院にてステロイドパルス療法(PSL換算1,000mg/日×3日間)を施行し,その後漸減し,漿液性網膜.離は消失し,矯正視力も右眼(1.0),左眼(1.2)と改善したため,その後は,紹介元にて経過観察となった(図2).2002年6月24日,漿液性網膜.離が再発(図3)し,再度紹介受診となり,PSL40mg/日から開始し,漸減したところ,漿液性網膜.離は軽快したが,右眼には緑内障性視神経症が存在していた.2003年1月末まで当科にて経過観察したが,その間眼圧は右眼12.17mmHg,左眼13.21mmHgであった.2008年7月3日,緑内障性視神経症が進行したので再度紹介となり(図4),両眼にカルテオロール塩酸塩持続性点眼液(ミロルR)点眼にて,眼圧は右眼13mmHg,左眼16mmHg,矯正視力は右眼0.5p,左眼1.2,右眼には点状の角膜混濁とその周囲の角膜上皮障害(再発性)と水晶体亜脱臼を認め,左眼の水晶体亜脱臼ははっきりしなかったが,浅前房を認めた(図5).その後左眼眼圧が上昇したため,レーザー虹彩切開術を施行し,右眼はさらに水晶体亜脱臼が進行したため,2009年8月20日右眼水晶体全摘+眼内レンズ縫着術を施行したが,右眼は術後にさらに眼圧が上昇した.アセタゾラミド(ダイアモックスR)の内服やD-マンニトール(マンニトールR)の点滴静注を併用したが,眼圧のコントロールがつかず,経過中,ときに前房内炎症を認め眼圧が40mmHgに上昇したため,続発緑内障も考え,PSL20mg/日の内服を開始し,ようやく眼圧は20mmHg台に下降したが,その間に緑内障性視神経症が進行した.2010年3月,耳鳴と両眼後極部の漿液性網膜.離を認め,視力は右眼(0.4),左眼(0.9)と低下したため,原田病の再右眼左眼図1初診時FA写真右眼:後極部網膜には多発性の顆粒状の過蛍光があり,後期には蛍光色素の網膜下貯留(→)を認めた.左眼:黄斑部耳側に蛍光貯留所見(→)があり,視神経乳頭鼻側にも過蛍光部位が存在していた.562あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(134) 眼圧(mmHg)50454035302520151050:TOD:TOS80mg/日40mg/日左眼キサラタンR+トルソプトR両眼ミロルR左眼LI右眼catope20mg/日40mg/日左眼vit+catope右眼lectomyダイアモックスR内服右眼デタントールR右眼タプロスR右眼エイゾプトR右眼サンピロR左眼ミケランR+デタントールR:PSL内服治療:ステロイドパルス療法200109102001100320011029200112032002062420020715200208122002091920021031200212092008091820081106200903122009082520090903200910142009101820091029200911162009120320100114201003152010042620100520201006242010071201008262010101220101026201011102010120220101227201101202011021720110324201105122011063020110818経過観察日図2全経過表TOD=右眼圧,TOS=左眼圧,LI:レーザー虹彩切開術,catope:白内障手術,lectomy:線維柱帯切除術,vit+catope:硝子体切除術+白内障手術,PSL:プレドニンR.右眼左眼図32002年6月眼底写真漿液性網膜.離(→)が再発していた.(135)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013563 右眼左眼図42008年7月視神経乳頭写真両眼の緑内障性視神経症の進行を認めた.右眼左眼図52008年7月前眼部写真右眼:再発性の角膜上皮障害()と水晶体亜脱臼()を認めた.左眼:浅前房がさらに進行していた.発を考え,PSL40mg/日の内服を再開したが,効果が乏しく,2010年4月入院にて,ステロイドパルス療法を行った.1クール目のパルス療法には反応しなかったため,2クール目を施行したところ,視力は右眼(0.9),左眼(1.2)と回復したが,その後右眼の眼圧も20.30mmHg前後で経過し,PSL漸減中の2010年6月には眼底後極部に円形の漿液性網膜色素上皮.離を数カ所認めるようになった.PSLおよびアセタゾラミド(ダイアモックスR)両者ともに内服を中止することができずに経過観察していると,2010年7月より左眼の水晶体亜脱臼が進行し,同年8月12日には,左眼の胞状網膜.離を認め(図6),それまで矯正で1.2あった視力が0.3に低下した.網膜周辺部には明らかな裂孔形成はなく,Bモード超音波検査では,体位変換による網膜下液の移動が図62010年8月12日左眼眼底写真黄斑部を含む下方の胞状網膜.離を認めた.564あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(136) ☆☆☆☆図72010年8月13日左眼FA写真白矢印:点状の蛍光漏出部位を認め,後期にはその周囲に蛍光漏出が拡大した(☆).白縁取り矢印:色素上皮裂孔による強い過蛍光を認めた.図82010年9月17日右眼眼底写真(緑内障術後)黄斑部を含む,丈の高い胞状網膜.離を認めた.明らかであったが,強膜の肥厚や周辺部の脈絡膜.離は認められなかった.また,2009年8月右眼の白内障手術前に測定した眼軸長は,右眼で24.73mm,左眼では24.34mmであり,胞状網膜.離の原因としては,uvealeffusionではなく,MPPEを考えた.FAを施行した(図7)ところ,点状の蛍光漏出とその周囲に淡い後期過蛍光部位の拡大,黄斑部耳側から下方周辺部にかけて,色素上皮裂孔による境界明瞭な過蛍光を認めた.網膜.離のない蛍光漏出部位に対して,網膜光凝固を施行するも,胞状網膜.離はさらに拡大したため,同年9月3日,左眼硝子体切除術+眼内網膜光凝固+SF6(六フッ化硫黄)ガス注入術+亜脱臼水晶体摘出+眼内レンズ縫着術を施行した.術中所見では,広い範囲に網膜色素上皮裂孔に伴う網膜色素上皮の欠損が認められたが,幸いにも黄斑部は保たれており,術中に液-空気置換にて網膜を復位させた後に,術前FAの蛍光漏出部位には眼内光凝固術(137)を施行した.術後経過が比較的良好であったため,右眼の緑内障に対して,1週間後の9月10日線維柱帯切除術を施行した.術後は右眼の眼圧は10mmHg前後で経過していたが,右眼術後1週目の9月17日に右眼に胞状網膜.離が出現した(図8).左眼と同様にMPPEと考えたが,濾過手術直後であることを考え,硝子体手術は施行せずに経過観察としたところ,1カ月後右眼の網膜は自然復位した(図9).左眼は硝子体手術後,網膜.離の再発はなく網膜は復位した(図9).最終受診時の2011年8月18日,矯正視力は右眼0.2,左眼1.2,眼圧は右眼10mmHg,左眼はカルテオロール(2%ミケランR)点眼液とブナゾシン(デタントールR)点眼液点眼下で15mmHgであり,両眼ともに緑内障性視神経症が進行し,特に右眼では中心視野が消失し,視力は不良となったが,左眼ではMPPEと緑内障両方による視野障害を残したあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013565 右眼左眼左眼図92010年10月21日両眼眼底写真右眼:胞状網膜.離は1カ月で自然復位した.左眼:硝子体切除術後,網膜は復位した.右眼左眼MD-29.90dBMD-23.25dB図102011年8月視野検査:HumphreySITA30.2右眼:緑内障性視神経症と網膜萎縮により矯正視力は0.2に低下した.左眼:中心視野は残存したため,矯正視力は1.2に保たれた.が,中心と耳側視野は保たれ,中心視力を温存することが可能であった(図10).II考按本症例は,約10年間に,原田病,水晶体亜脱臼,緑内障,再発性角膜上皮.離,MPPEによる胞状網膜.離などの多彩な眼病変を両眼性に認め,ステロイド薬全身投与,硝子体手術,緑内障手術などの手術治療を行ったが,最終的には緑内障性視野障害が進行し,片眼の視力低下を避けられなかった1症例である.原田病は,浅前房の鑑別診断として,ときに見逃されやすく注意を要する疾患であるが,本症例では初診時より眼圧上昇と浅前房があり,前駆症状としての耳鳴,後極部の漿液性網膜.離と合わせて原田病と考え,ステロイド薬治療を開始した.入院が不可能で外来通院時よりステロイド薬内服を開566あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013始したため,髄液検査は施行できなかった.しかし,ステロイド薬治療に対する反応は良好で視力も回復したが,眼圧上昇は続き,水晶体亜脱臼が右眼に先行し進行性に増悪した.経過中の眼圧上昇の機序としては,浅前房と前房内炎症に伴う続発性との両方の機序が混合していると考えられたが,原田病の寛解期に施行した水晶体摘出と眼内レンズ縫着術後の著しい眼圧上昇は術前の予想を上回り,続発性の眼圧上昇と考えられ,ステロイド薬内服投与を追加することで,眼圧をいったんコントロールすることが可能であった.経過中のステロイド薬投与は,大きく分けるとパルス療法(PSL換算1,000mg/day×3日にて治療開始)が計3回,PSL内服単独治療(PSL40mg/dayにて投与開始)が計2回で,初発時のパルス治療に対する反応は良好で,その後のPSL内服治療は,眼底病変の再発と一時的な浅前房の進行,また右眼水晶体手術後の眼圧上昇時にそれぞれ使用したが,いずれも治療に反応していた.しかし,2010年3月以降の眼底病変に対する2回目のパルス療法には反応が悪く,その後同じ病変に対する2クール目として行った3回目のパルス療法に対する反応は良好であった(表1).過去に,原田病のステロイド薬治療中に胞状網膜.離をきたし,MPPEと診断された症例2)や,遷延化した原田病に胞状網膜.離を合併した症例などが報告3.5)されているが,MPPEなどの疾患を含む一連の網膜色素上皮症に対するステロイド薬治療は無効であるだけでなく,むしろ増悪させるともいわれており,ステロイド薬の投与は網膜色素上皮症の発症原因に関与しているとも考えられている6.8).本症例のステロイド薬治療に対する反応を顧みると,初発時とその後のステロイド薬投与によく反応していた時期は原田病の診断(138) として正しいと考えられたが,2010年3月の2回目のステロイドパルス療法の頃より認められた漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離は,MPPEの所見の一部をみていた可能性も考えられた.そして,本症例のMPPEの発症機序には,2001年の原田病発症時以降,その再発時,または浅前房の悪化,眼圧上昇時など,長年にわたるステロイド薬投与が,ステロイド薬による創傷治癒遅延をひき起こし,原田病により障害を受けた網膜色素上皮の修復が障害されてMPPEを発症したと推測された.本症例をMPPEと診断した根拠は,検眼鏡的に後極部網膜に黄白色の網膜色素上皮.離と漿液性網膜.離を認めたこと,FA所見で病変部位に一致する旺盛な蛍光漏出があったこと,また誘因と考えられているステロイド薬の長期使用歴があり,かつステロイドパルス療法が無効であったことなどであるが,胞状網膜.離を呈した際に大きな色素上皮裂孔を認めたことも,網膜色素上皮障害を根本原因とする網膜色素上皮症という一連の疾患群のなかにある疾患であるということを強く考えた.さらに胞状網膜.離の鑑別診断として,uvealeffusionがあげられるが,眼軸長測定により小眼球症はなく,Bモード超音波検査にて,強膜肥厚や周辺部の脈絡膜.離がないこと,FAにてleopar-spotに相当する周辺部の顆粒状の過蛍光がないこと,蛍光漏出があることなどより,uvealeffusionではなく,MPPEという診断に至った.さらに,本症例の長い経過のなかの反省点は,緑内障手術時期の遅れである.角膜病変,水晶体病変,前房内炎症,眼底病変など複数病変が生じる状態での緑内障手術時期の決定は大変むずかしいが,本症例における現在の右眼の視機能障害の主因は,緑内障性視野障害の進行による中心視野の消失であることを考えると,右眼の眼圧上昇に対しもう少し早期に積極的に手術治療の介入をすべきであったとも考えられる.しかしながら,脱臼水晶体の処理,その後に起こしえた胞状網膜.離に対する硝子体手術治療の可能性などを考えると,どの時点が緑内障手術治療として正しい時期であったのかを決めることはむずかしい症例であったと思われる.以上,原田病を発症後,水晶体亜脱臼,原田病の再発,MPPE,再発性角膜上皮.離などの病変を次々に発症し繰り返し,長い経過中,眼圧コントロールに大変苦慮し,最終的には,緑内障性視野障害の進行により,右眼視力低下に至った症例の経過を報告した.さらに類似症例を集積することにより,原因に対するアプローチを含めた適切な眼科治療を明らかにすることが必要と考えられた.本稿の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版),第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20122)竹内玲美,菅原道孝,鶴岡三恵子ほか:ステロイド全身投与で急性増悪した多発性後極部網膜色素上皮症の1例.眼科47:881-885,20053)井上俊輔,宮本文夫:原田病に対するステロイド内服療法中に,中心性漿液性網脈絡膜症様あるいは胞状網膜.離様所見を呈した1例.眼臨79:1849-1853,19854)山本晋,安藤伸朗,阿部達也ほか:遷延化した原田病に合併した胞状網膜.離の1例.眼紀45:323-327,19945)籠谷保明,伊藤美樹,山本節ほか:高度な胞状網膜.離を伴った原田病の1例.眼紀44:1463-1468,19936)山本陽子,間宮和久,大黒浩ほか:MPPEが疑われ,ステロイド治療がためらわれた原田病の2例.眼科45:1077-1081,20037)WakakuraM,IshikawaS:Centralserouschorioretinopathycomplicatingsystemiccorticosteroidtreatment.BrJOphthalmol68:329-331,19848)PolakBC,BaarsmaGS,SnyersB:Diffuseretinalpigmentepitheliopathycomplicatingsystemiccorticosteroidtreatment.BrJOphthalmol79:922-925,1995***(139)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013567