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Split fixationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):241.244,2025cSplit.xationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討井原茉那美平澤一法笠原正行庄司信行北里大学病院眼科CFactorsA.ectingtheChangesofVisualAcuityafterTrabeculectomyinPatientswithSplitFixationManamiIhara,KazunoriHirasawa,MasayukiKasaharaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:Split.xationを呈する症例において,線維柱帯切除術(TLE)後に視力が悪化する原因を調査する.対象および方法:対象は,split.xationを呈する広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうち,TLEを施行し,術前と術後C3カ月の時点で視力,静的視野検査を施行できたC65例C65眼.術後の視力低下がClogMARでC3段階未満を回復群,3段階以上を低下群とし,患者背景,眼圧,視野,合併症について検討した.結果:回復群はC50例,低下群はC15例であった.低下群は回復群に比べ,高齢であり(p<0.01),落屑緑内障の割合が多く(p=0.046),浅前房の割合が高かった(p=0.031).また,術前眼圧が高かったが(p=0.030),眼圧下降率に差を認めなかった.静的視野検査上,回復群に比べて低下群で術前の中心窩閾値が低かったが(p<0.01),その他のパラメータに有意差を認めなかった.結論:Split.xationを呈する緑内障患者のCTLE後視力悪化の原因は,高齢,落屑緑内障,術後浅前房,術前高眼圧,中心窩閾低下であった.CPurpose:Toinvestigatethecausesofincreasedvisualacuity(VA)lossposttrabeculectomy(TLE)inglauco-mapatientswithsplit.xation.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved65eyesof65glaucomapatientswithsplit.xationwhounderwentTLE.Postsurgery,patientsaVAlossoflessthan3logMARgradeswereclassi.edinthe‘recoverygroup’,whilethosewithaVAlossof3ormorelogMARgradeswereclassi.edinthe‘reductiongroup’.CPatientCbackground,Cintraocularpressure(IOP)C,CvisualC.eld,CandCcomplicationsCwereCexamined.CResults:CComparedtotherecoverygroup,thereductiongroupwasolder(p<0.01)C,hadahigherrateofexfoliationglauco-ma(p=0.046)andshallowanteriorchamber(p=0.031)C,hadhigherpreoperativeIOP(p=0.030)C,andlowerfoveathreshold(p<0.01)C.Conclusion:VAlosspostTLEinglaucomapatientswithsplit.xationwasfoundtoberelat-edCtoCadvancedCage,CexfoliationCglaucoma,CpostoperativeCshallowCanteriorCchamber,ChigherCpreoperativeCIOP,CandClowerfoveathreshold.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(2):241.244,C2025〕Keywords:視力変化,線維柱帯切除術,split.xation,開放隅角緑内障,落屑緑内障.visualacuitychange,trab-eculectomy,split.xation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.Cはじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).保存的治療による眼圧下降が不十分かつ視野障害の進行速度が十分に抑制できない場合には観血的手術が行われる.長年にわたり緑内障手術のゴールドスタンダードとされている術式は線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)であり,眼圧下降効果には優れるが,視力低下につながる合併症が生じるリスクは少なくない2.3).これまでに,筆者らは,TLE後に視力低下をきたす割合を調査し,一過性の視力低下の割合がC56.5%,長期的な視〔別刷請求先〕井原茉那美:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:ManamiIhara,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(107)C241図110-2測定点のクラスター(左眼)文献C7)の報告に準じてC10-2測定点をC4つのクラスターに分けた.中心C4点はグレーで示す固視点近傍C4点を示し,この4点をさらに上方,下方,鼻側,耳側C2点ずつに分けた.またさらにC1点ずつ上鼻側,上鼻側,下鼻側,下耳側のC4つに分けた.力低下の割合がC2%であることを報告した.長期的な視力低下が生じる要因として,術前に中心視野障害を有する進行例であること,術後低眼圧による浅前房,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症などの合併症があげられた.そのため,TLE後の視力維持に重要な点として,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めること,また,術後の眼圧下降率が高くなり過ぎないことを推奨した4).術前の中心視野障害にはさまざまなパターンがあるが,その中の一つにCsplit.xationがある.Split.xationは,動的視野検査では視野欠損が固視点を横切っている状態として定義され5),静的視野検査では黄斑プログラムにおいて,少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されている6).これまでに,Bhadraらは,静的視野検査におけるCsplit.xationを呈する症例の約C7割において,術翌日の視力はClogMARでC2段階以上の悪化を認めたが,術後C2カ月目までに全例で視力が回復したことを報告している6).しかし,この検討は症例数が少なく,検討項目も少ないため,十分なコンセンサスは得られていない.Split.xationを呈すような視野障害が進行した症例に対して手術を行う際に,視機能の予後が予測できる因子がわかれば,今後,TLEを提案する際の一つの指標となる可能性がある.本研究の目的は,split.xationを呈する症例におけるTLE後の視力低下に影響する因子を調査することである.I対象と方法本研究は後方視的観察研究であり,北里大学病院医学部・病院倫理委員会の承認後(B20-134),ヘルシンキ宣言を遵守し施行した.対象は2015年4月1日.2020年3月31日に当院でTLEを施行した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうちCsplit.xationを呈し,術前と術後C3カ月目に視力検査,眼圧検査,Humpgrey視野検査C10-2SITA-Standardを施行したC65例C65眼である.術前と比較した術後C3カ月の矯正視力の変化がClogMARでC3段階未満の症例を回復群,logMARでC3段階以上悪化した症例を低下群とし,2群に分けて解析を行った.なお,視野検査結果は術前の結果を解析し,術前平均C42.3C±38.4日に施行されたものである.静的視野検査におけるCsplit.xationは,黄斑プログラムにおいて少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されているが6),今回の検討では,固視点近傍4点の測定点のうち少なくとも一つの測定点において0CdBの状態になった視野と定義した.検討項目は,患者背景,眼圧変化,術前の視野検査結果,術後合併症である.視野検査結果は,中心窩閾値,meandeviation(MD)値,各クラスターの感度,中心C4点における視野感度を比較した.10-2測定点のクラスターはCNakani-shiらの報告7)を基に分類し(図1),さらに中心C4点の各測定点,4点の平均,2点の平均(上方,下方,耳側,鼻側)と,細かく分けて比較した.固視不良はモニター上で固視がよければ固視不良の値が高くても結果には大きな影響を与えないこと8),本研究で解析されているような後期症例の視野異常では偽陰性が高くなりやすいことや評価されないことを考慮し9),固視不良と偽陰性に関しては基準値を設けず,偽陽性がC15%未満の症例を採用した.統計解析にはCR(version4.0.0;TheCFoundationCforCSta-tisticalComputing)を使用し,対応のないC2群のデータの比較は対応のないCt検定,比率の比較はC|2検定を用いて解析を行った.CII結果回復群がC50眼(76.9%),視力低下群がC15眼(23.0%)であった.各群における患者背景,眼圧,合併症の比較の結果を表1に,視野検査結果の比較を表2に示す.病型の比率は,回復群では広義開放隅角緑内障がC43眼(86.0%)および落屑緑内障がC7眼(14.0%),低下群では広義開放隅角緑内障がC9眼(60.0%)および落屑緑内障がC6眼(40.0%)であり,視力低下群では落屑緑内障の割合が多かった(p=0.046).平均年齢は,回復群がC64.4C±13.6歳,低下群がC74.3C±9.4C242あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(108)表1回復群と低下群における患者背景,眼圧,合併症の比較回復群(50例)低下群(15例)p値病型(POAG/XFG)C43/7C9/6C0.046性別(男/女)C29/21C11/4C0.44年齢(歳)C64.4±13.6C74.3±9.4<0.01眼軸長(mm)C25.9±2.5C24.7±1.5C0.083術前眼圧(mmHg)C17.7±5.3C18.8±6.5C0.030眼圧下降率(%)C.41.3±30.2C.47.2±35.27C0.44術後合併症脈絡膜.離(有/無)C3/47C4/11C0.073浅前房(有/無)C2/48C4/11C0.031CPOAG:primaryCopen-angleCglaucoma,XFG:exfoliationCglau-coma.歳であり,低下群で年齢が高かった(p<0.01).術前眼圧は,回復群でC17.7C±5.3CmmHg,低下群ではC18.8C±6.5CmmHgであり,低下群で高かった(p=0.030).合併症に関しては,浅前房を認めた割合は,回復群でC50例中C2例(4%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多かった(p=0.031).脈絡膜.離を認めた割合は,回復群でC50例中C3例(6%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多い傾向であった(p=0.073).術前CHFA10-2では,回復群の中心窩閾値はC30.6C±4.3dB,低下群でC23.5C±9.4CdBであり,低下群において低かったが(p<0.01),その他のパラメータは両群間に差を認めなかった(表2)CIII考察本研究は,split.xationを呈した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障C65眼におけるCTLE後の視力低下の原因を患者背景,眼圧,術前の視野検査結果,術後合併症から解析した.その結果,術後視力低下の原因として,落屑緑内障,高齢,術前高眼圧,術後浅前房,中心窩閾値の低下が検出された.視力低下群では落屑緑内障の割合が高かった.Honjoらは落屑緑内障では線維柱帯切開術後に眼圧がコントロールされていても視野障害が進行する可能性を報告し10),Konstasらは落屑緑内障では眼圧以外にも進行因子が存在する可能性を報告している11).また,Kocaturkらは,落屑緑内障と健常対象者の眼動脈血流パラメータをカラードップラ画像で比較したところ,眼動脈の抵抗率指数は健常者よりも落屑緑内障患者で有意に高く,血管壁の抵抗が増加すると,拡張終期速度が最大収縮期速度よりも低下し,抵抗指数が高くなると報告している12).すなわち,落屑緑内障では血流障害が術後の視機能悪化に影響を及ぼした可能性を推察する.本研究における症例のように,split.xationを呈するような中心付近の感度低下を認める病期において,落屑緑内障では術後にさら(109)表2回復群と低下群における視野検査結果の比較回復群(50例)低下群(15例)p値中心窩閾値C30.6±4.3C23.5±9.4<0.01CMeanCdeviation(dB)C.25.9±5.6C.24.0±6.6C0.34クラスターの感度上鼻側(dB)C1.0±6.1C4.3±8.0C0.24上耳側(dB)C1.9±7.4C5.3±10.2C0.092下鼻側(dB)C7.2±10.2C7.3±10.6C0.76下耳側(dB)C13.2±8.8C13.1±7.2C0.97中心4点<0CdBの数(個)C1.4±0.7C1.4±0.6C1.0平均感度(dB)C10.7±5.8C10.6±6.5C0.95上鼻側(dB)C0.9±5.1C3.8±9.3C0.30上耳側(dB)C10.8±11.7C11.4±11.2C0.94下鼻側(dB)C13.1±13.6C10.5±13.6C0.52下耳側(dB)C17.8±13.0C16.7±12.7C0.60上方C2点(dB)C5.9±5.3C7.6±5.6C0.70下方C2点(dB)C15.5±10.3C13.6±11.6C0.51鼻側C2点(dB)C7.0±7.0C7.1±7.4C0.95耳側C2点(dB)C14.3±9.7C14.0±8.7C0.94Cに中心感度低下が進行したことにより恒常的な視力低下をきたした可能性を推察する.加えて,視力低下群では年齢が高い結果であったが,落屑緑内障の発症年齢は高く,結果に影響しているものと考える.また,Dumanらが行ったC80歳以上の高齢者とC80歳未満の群に分けて比較したCTLE後の視力経過の検討においても,1年の観察期間中のすべての観察点においてC80歳以上の高齢者群ではC80歳未満の群に比べ,平均術後視力低下をきたす結果であり,本研究結果と矛盾しなかった13).つぎに,視力低下群では術後浅前房をきたした症例が多かった.これまでに,線維柱帯切除術後C1カ月目のコントラスト感度は術前と比較して有意に低下し14),高次収差・コマ収差は有意に増加したと報告されている14.15).原因として,内部光学系の変化が推察されており,前房深度の変化も要因の一つとされる.ただし,通常,浅前房は自然経過や処置により比較的短期間に改善し得る合併症であり,本研究においても,もっとも長く認めた症例はC43日であった.したがって,浅前房のみが恒常的な視機能悪化に影響しているわけではなく,眼球形状に影響を及ぼすような低眼圧となることが,黄斑付近に何らかの血流障害や構造的変化を引き起こし,中心窩付近の視細胞を障害するのではないかと推察する.本検討において,有意差は認めなかったものの,脈絡膜.離を認めた割合も視力低下群で多い傾向であった.脈絡膜.離は,脈絡膜静脈圧を下回る低眼圧により相対的に血管透過性が亢進して血管外への血液成分の漏出が起こると推測されているが16),本症例では,いずれも黄斑部に及ぶ脈絡膜.離を認めた症例はなかった.すなわち,脈絡膜.離による直接的な黄斑部への器質的影響ではなく,眼球形状の変化によあたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C243って,黄斑部に何らかの間接的な影響が及んだ可能性を推察する.ただし,恒常的な視力低下をきたす明確な原因は不明であるものの,脈絡膜.離を起こさないように注意しながら術後管理を行う必要がある.筆者らはこれまでに,TLE単独手術を施行したC208眼を対象とし,脈絡膜.離を発症した症例の背景因子を調べた自験例において,脈絡膜.離は術前眼圧がC19CmmHg以上の症例で生じやすく,術後C3日目の時点では下降率C50%以上,7日目の時点ではC70%以上下降すると生じやすいことを報告した4).そのため,これらの基準を超えて下がり過ぎないように術後管理を行うことが重要と考える.また,筆者らは,TLE後に浅前房や脈絡膜.離を合併する症例には落屑緑内障の割合が多いと報告している17).やはり,落屑緑内障は,高齢であることや低眼圧に伴う合併症を介して,恒常的な視力低下をきたす一連の原因に大きく関与している可能性を推察する.視野検査結果において,視力低下群の術前の中心窩閾値は回復群に比べ低かった.これまでにも朝岡らは,乳頭黄斑線維の領域が視力低下に直結する部位であると報告しており18),筆者らも以前にCTLE後において乳頭黄斑線維の領域の感度は術後視力の回復に関連していることを報告した4).今回の研究では,split.xationの定義を少し緩和したため十分な検出力を得られなかった可能性がある.また,光干渉断層計による神経節細胞層の解析や血流変化の解析を行っていないため,構造的な変化をとらえることはできていないが,Csplit.xationの所見を呈し,すでに中心窩閾値が低下している症例では視力の予備能が低い可能性が高く,手術侵襲や術後の眼球形状,血流変化などに予備能が耐えられない可能性を推察する.今後,TLE前後の黄斑部の構造的変化や血流変化の評価を行い,視力低下をきたす本質的な原因解明を行うことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCcomplicationsCinCtheCtubeCversustrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19934)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1063-1076,C20225)KolkerAE:VisualCprognosisCinCadvancedglaucoma:aCcomparisonCofCmedicalCandCsurgicalCtherapyCforCretentionCofvisionin101eyeswithadvancedglaucoma.TransAmOphthalmolSocC75:539-555,C19776)BhadraTR,GhoshRP,SaurabhKetal:ProspectiveevalC-uationCofCwipe-outCafterCglaucomaC.ltrationCsurgeryCinCeyesCwithCsplitC.xation.CIndianCJCOphthalmolC70:3544-3549,C20227)NakanishiCH,CAkagiCT,CSudaCKCetal:ClusteringCofCcom-binedC24-2CandC10-2CvisualC.eldCgridsCandCtheirCrelation-shipCwithCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerCthick-ness.InvestOphthalmolVisSciC57:3203-3210,C20168)YohannanJ,WangJ,BrownJetal:Evidence-basedcri-teriaforassessmentofvisual.eldreliability.Ophthalmol-ogyC124:1612-1620,C20179)BengtssonCB,CHeijlA:False-negativeCresponsesCinCglau-comaperimetry:indicatorsCofCpatientCperformanceCorCtestreliability?InvestOphthalmolVisSciC41:2201-2204,C200010)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:Phacoemulsi.-cation,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurgC24:781-786,C199811)KonstasCAG,CHolloCG,CAstakhovCYSCetal:FactorsCassoci-atedwithlong-termprogressionorstabilityinexfoliationglaucoma.ArchOphthalmolC122:29-33,C200412)KocaturkCT,CIsikligilCI,CUzCBCetal:OphthalmicCarteryCblood.owparametersinpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmolC26:124-127,C201613)DumanCF,CWaisbourdCM,CFariaCBCetal:TrabeculectomyCinpatientswithglaucomaover80yearsofage:relativelyshort-termoutcomes.JGlaucomaC25:123-127,C201614)AbolbashariCF,CEhsaeiCA,CDaneshvarCRCetal:TheCe.ectCoftrabeculectomyoncontrastsensitivity,cornealtopogra-phyandaberrations.IntOphthalmolC39:281-286,C201915)FukuokaS,AmanoS,HondaNetal:E.ectoftrabeculec-tomyonocularandcornealhigherorderaberrations.JpnJOphthalmolC55:460-466,C201116)山本哲也:緑内障手術CABC:非観血的・観血的治療を成功させるためのCFirstCStep.C5.Cp124-125,メジカルビュー社,C200217)SatoCN,CKasaharaCM,CKonoCYCetal:EarlyCpostoperativeCvisualCacuityCchangesCafterCtrabeculectomyCandCfactorsCa.ectingvisualacuity.GraefesArchClinExpOphthalmolC261:2611-2623,C202318)AsaokaR:TheCrelationshipCbetweenCvisualCacuityCandCcentralvisual.eldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmolC97:1355-1356,C2013***244あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(110)

糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例

2024年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(8):1031.1035,2024c糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例藤原雅治田片将士横山弘荒木敬士関谷友宏五味文兵庫医科大学眼科学教室CTwoCasesofDiabeticRetinopathyAssociatedNeovascularGlaucomaSuccessfullyTreatedby27-GaugeParsPlanaVitrectomyCombinedwithTrabeculectomyMasaharuFujiwara,MasashiTakata,HiroshiYokoyama,TakashiAraki,TomohiroSekiyaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversityC目的:糖尿病網膜症(DR)による血管新生緑内障(NVG)に対しC27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)併用線維柱帯切除術(TLE)を施行したC2例を報告する.症例:症例C1はC56歳,男性.左眼視力低下を主訴に近医を受診,左眼血管新生緑内障と診断され兵庫医科大学病院(以下,当院)を紹介受診.初診時,左眼矯正視力C0.05,左眼眼圧C24CmmHg.水晶体再建術併用のCPPVとCTLEを同日施行した.術後,矯正視力C0.6,眼圧C15CmmHgとなった.症例C2はC60歳,男性.糖尿病加療中に右眼視力低下と眼痛を主訴に当科を受診.初診時,右眼矯正視力はC50Ccm手動弁,右眼眼圧はC44CmmHg.虹彩ルベオーシスと幅広い範囲に周辺虹彩前癒着を認めた.水晶体再建術併用のCPPVとTLEを同日施行した.術後,PPV併用CTLEにより良好な眼圧コントロールを得た.CPurpose:Toreporttwocasesofdiabeticretinopathyassociatedneovascularglaucomathatweresuccessfullytreatedwith27-gaugeparsplanavitrectomy(PPV)combinedwithtrabeculectomy(TLE)C.Casereports:Case1involvedCaC56-year-oldCmaleCwhoCpresentedCatCaCnearbyChospitalCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inhislefteyeandwassubsequentlyreferredtoourdepartmentafterbeingdiagnosedwithneovascu-larCglaucomaCinCthatCeye.CUponCexamination,CtheCcorrectedCVACandCintraocularpressure(IOP)inCthatCeyeCwereC0.05and24CmmHg,respectively.PPVcombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlens(IOL)implantation,andTLEwasperformedonthesameday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and15CmmHg,respectively.Case2,a60-year-oldmale,visitedourdepartmentwiththeprimarycomplaintofdecreasedVAandpaininhisrighteyeduringtreatmentfordiabetes.Uponexamination,thecorrectedVAandIOPinthateyewashandCmotionCatC50CcmCandC44CmmHg,Crespectively,CandCrubeosisCiridisCandCextensiveCperipheralCanteriorCsynechiaeCwereCobserved.CPPVCcombinedCwithCphacoemulsi.cation,CIOLCimplantation,CandCTLECwasCperformedConCtheCsameCday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and9CmmHg,respectively.Conclusion:IncasesofCneovascularCglaucomaCdueCtoCdiabeticCretinopathy,CgoodCIOPCcontrolCcanCbeCachievedCviaCtheCcombinationCofC27-gaugePPVandTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1031.1035,C2024〕Keywords:27ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術,線維柱帯切除術,血管新生緑内障,糖尿病網膜症.27-guageCparsplanavitrectomy,trabeculectomy,neovascularglaucoma,diabeticretinopathy.Cはじめにanteriorsynechia:PAS)を生じることで房水流出が阻害さ血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は,後眼れ,眼圧上昇が生じる難治性の続発緑内障である.糖尿病網部の虚血や血管閉塞により血管新生因子が放出され,前眼部膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症,眼虚血に新生血管が発生し,器質性の周辺虹彩前癒着(peripheral症候群がC3大原因疾患であるが,慢性ぶどう膜炎などの炎症〔別刷請求先〕藤原雅治:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1C-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasaharuFujiwara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospital,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1前眼部写真a:症例1.虹彩の広い範囲に新生血管を認める.Cb:症例2.虹彩下方に新生血管を認める.性疾患,眼腫瘍などでも発症しうる1).NVGでは点眼や内服では眼圧下降が不十分であることが多く,汎網膜光凝固術(panretinalCphotocoagulation:PRP),血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体の硝子体注射を行い,最終的に線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)などの外科的介入を必要とする1).PRPを最周辺部まで確実に行うことができる経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy:PPV)とCTLEの併用術は酸素需要を低下させ,血管新生因子の放出を抑制することで,眼圧下降が期待できる.今回,DRのCNVGに対し,27ゲージCPPVとCTLEの併用術により最終的に眼圧下降が得られたC2症例を経験したので報告する.CI症例[症例1]56歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは7%台),眼科受診歴は不明であった.1週間前からの左眼視力低下を自覚し同病院眼科にコンサルトされた.左眼視力30Ccm指数弁,左眼眼圧C36CmmHg,左眼虹彩ルベオーシスと高度角膜浮腫を認め,NVGと診断された.左眼にドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合液,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液およびアセタゾラミド250Cmgの内服を開始し,手術加療目的で兵庫医科大学病院眼科(以下,当院)紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.0C×sph.4.00D),左眼0.04(0.05C×sph.3.50D(cyl.1.50DAx180°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C24CmmHgであった.左眼は角膜透明平滑,前房深度は正常であったが,虹彩に広範囲に及ぶルベオーシス(図1a)を認め,隅角鏡検査にてCPASIndexはC50%程度であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeIIの核白内障を認めた.眼底には両眼とも点状出血,硬性白斑が散在していた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,両眼とも広範囲に無灌流領域を認め,右眼は新生血管を認めたが,左眼にはみられず,腕-網膜時間はC25秒と延長を認めた.経過:当科初診日より両眼のCPRPを開始,左眼に抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.右眼はC250.300Cμm/30msec/140.400CmWでC1,540発,左眼はC250Cμm/30Cmsec/340CmWでC1,924発施行した.その後も左眼眼圧はC24.37mmHgで推移していた.初診日よりC26日後に左眼水晶体再建術,PPV,TLEを施行した.水晶体再建術を施行後,3ポートを作製し中心部硝子体切除を行い,トリアムシノロンアセトニドで硝子体を可視化し後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)を作製,強膜圧迫子を使用し周辺部の網膜光凝固術を追加した.硝子体出血,牽引性網膜.離は認めなかった.インフュージョンチューブ灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製し,0.04%マイトマイシンCC(Mito-mycinC:MMC)をC3分間塗布後,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,10-0ナイロン糸で結膜縫合し手術を終了した(図3).術翌日より前房内および硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を左眼C4回からC6回に,リンデロン眼軟膏を左眼C3回追加したところ,次第にフィブリンは軽快した.適宜レーザー切糸(lasersuturelysis:LSL)を施行し,入院中左眼圧はC4.16CmmHgで,術C10日後で退院となった.術後C9週で左眼圧はC14CmmHg,虹彩ルベオーシスが残存していたため,抗CVEGF薬硝子体注射を施行した.術後C23週の時点での左眼視力は(0.4C×sph.3.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC14CmmHg,虹彩ルベオーシスは消失し,濾過胞の状態はCIndianaCBlebCAppearanceCGradingScale(IBAGS)でCH2CE3CV2S0であった.以降左眼眼圧はC10.18CmmHgで推移し,術後C55週にC24CmmHgに上昇したため,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.ab図2後眼部写真a:症例C1.両眼とも点状出血,硬性白斑の散在を認める.Cb:症例C2.左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた.後日右眼にも網膜前出血,軟性白斑を認めた.術後約C1年半が経過した当科最終受診時の左眼視力は(0.6C×sph.3.00D),緑内障点眼を併用し眼圧はC15mmHgであった.[症例2]60歳,男性.主訴:右眼視力低下と眼痛.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは6%台),近医眼科に通院中であったが,1週間前からの右眼視力低下と眼痛を自覚し当科受診となった.既往歴:2型糖尿病,心筋梗塞(冠動脈バイパス手術後).初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.9C×sph.1.75D),眼圧は右眼C44CmmHg,左眼C14CmmHgであった.右眼は前房深度正常であったが,中等度散瞳,角膜上皮浮腫,虹彩ルベオーシス(図1b)を認め,隅角鏡検査ではCPASIndexは100%であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeCIIIの核白内障を認めた.右眼は網膜前出血,軟性白斑を認め,左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた(図2b).経過:受診当日,右眼に抗CVEGF薬硝子体内注射を施行し,20%マンニトール点滴を施行したところ眼圧はC32mmHgに改善した.同日右眼にラタノプロスト,ブリンゾ図3術中写真インフュージョンチューブによる灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製している.ラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.翌日外来にて右眼のCPRPを開始したが,散瞳不良のため十分に施行できなかった.5日後の再診時に眼圧がC42CmmHg,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液の追加投与を行った.翌日には眼圧がC26CmmHgまで低下した.右眼虹彩ルベオーシスは改善したが,保存的治療では眼圧下降が得られなかったことから外科的治療を行うこととなった.水晶体再建術を施行し,3ポート作製後,中心部硝子体切除および周辺部の硝子体切除を施行した.PVDはすでに形成されており,強膜圧迫を行いながらCPRPを完成させた.トロッカーを抜去し,円蓋部基底で結膜切開を行い,角膜輪部の12時方向にC3mm四方の強膜C2枚弁を作製,0.04%CMMCをC3分間塗布し,前房メインテナーによる灌流下で線維柱帯切除を行い,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,結膜をC10-0ナイロン糸にて縫合し手術を終了した.術翌日より硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を右眼C4回からC6回に増量したところ,徐々にフィブリンは消失した.LSLを適宜施行し,術C7日後に退院となった.入院中の右眼眼圧はC3.16CmmHgであった.退院後しばらく右眼眼圧は一桁を推移していた.術後C13週で虹彩ルベオーシスは認めなかったが,硝子体出血と視神経乳頭付近に新生血管を認め,眼圧がC24CmmHgに上昇したため,抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.術後C16週の時点で右眼視力は硝子体出血のため(0.15C×sph+7.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC4CmmHg,濾過胞はCIBAGSでCH2CE3CV2CS0であった.3カ月後より濾過胞に部分的な癒着形成がみられ,眼圧がC35CmmHgまで上昇したため,術後C30週に右眼CNee-dling術を施行した.その後数カ月間,右眼眼圧はC2.8mmHgを推移,術後C1年後の最終受診時の所見は右眼視力(0.6C×sph+2.00D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は緑内障点眼なしでC9CmmHgであった.CII考按NVGは難治であることが知られ,TLEを行っても不成功に終わることが少なくない.後眼部の虚血による低酸素状態で誘導されるCVEGFは,眼内の新生血管発生に大きく関与する2).またCVEGFは,Tenon.線維芽細胞などの非血管系細胞を誘導することで濾過胞の瘢痕形成を促進することが報告されている3).TLE施行後に長期的な眼圧コントロールをめざすには,VEGFのさらなる産生を抑制し,濾過胞を維持することが重要である4).そのための手段として早期のCPRPと適切な抗CVEGF薬の投与が必須となる5).しかし,NVGでは角膜浮腫,散瞳不良,あるいは併発する硝子体出血などで,十分にCPRPができないことも少なくない.PPVを行うことで鋸状縁まで十分な網膜光凝固術を施行でき,とくに硝子体出血や硝子体混濁,眼外からのCPRPが困難な症例でも最周辺部まで確実な網膜光凝固術が可能となるため,同時CPPVはCTLEの成功に寄与する可能性がある.一方で同時にCPPVを行うデメリットもある.Takiharaら6)はCMMC併用CTLEの予後不良因子として,NVGの他に硝子体手術の既往を報告している.NVG発生のメカニズムには虚血によるCVEGFのほか,インターロイキン(interleu-kin:IL)-6,IL-8,monocytechemotacticprotein-1などの炎症性サイトカインの関与が示唆されている7).濾過胞の瘢痕形成にも炎症細胞から放出されるCtransformingCgrowthCfactor-bなどの炎症性サイトカインが関与していることが示されている8).PPVと眼内網膜光凝固術の併施はCTLE単独と比較して侵襲性が高まって術後炎症が増加することで,濾過胞の維持に影響する可能性が考えられる.本症例では,術後に追加の抗CVEGF薬硝子体内注射を要し,また症例C2では濾過胞維持のための追加処置が必要になったが,2例とも術後C1年の時点では良好な眼圧を得ている.Kiuchiら9)はCNVGに対するCPPV併用CTLEに関し,硝子体出血,増殖膜,牽引性網膜.離のある群と,これらを合併していない群とに分けて術後成績を報告している.それによると,増殖膜と牽引性網膜.離を合併している症例では眼圧は優位に低下せず,その他の症例では優位に眼圧下降が得られていた.今回のC2症例ではこれら予後不良因子の合併はなかったため,よい成績が得られたと考えられ,仮にこれらを合併していた場合は,もともと眼内のCVEGF濃度が高いと考えられるうえに手術侵襲が増すことで炎症も増え,術後成績が悪化した可能性がある.なおCTLEとの併用を考えた場合,PPV時のポート作製に伴う結膜損傷は最小限にしておくことが望まれる.家兎眼を対象とした異なるゲージで実施したCPPV後の比較試験では,小口径であるほど硝子体内蛋白濃度が有意に低く,結膜瘢痕化の程度が低いことが報告されている10,11).松本ら12)もNVGを含む続発緑内障に対するC25ゲージCPPVとCMMC併用CTLEの同時手術において,網膜周辺部まで十分な網膜光凝固を追加し,良好な眼圧コントロールと視力を得た症例を報告している.27ゲージシステムを用いた低侵襲硝子体手術(microCincisionCvitrectomysurgery:MIVS)は,従来のゲージシステムよりも結膜の温存と術後炎症反応の軽減に有効であると考えられる.今回経験したC2症例ではC27ゲージシステムを採用し,より低侵襲で手術を行うことができたことも,良好な経過をとった一因になった可能性がある.NVGの眼圧コントロールにおいて,PPVとCTLEのいずれもが重要な役割を果たす.現在のCMIVS時代におけるPPV併用CTLEの有用性を確認するためには,今後,症例数を増やした前向き研究が望まれる.文献1)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19842)CampochiPA:Ocularneovascularization.JMolMedC91:C311-321,C20133)LiCZ,CBergenCVanCT,CVanCdeCVeireCSCetal:InhibitionCofCvascularendothelialgrowthfactorreducesscarformationafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:5217-5225,C20094)BergenVanT,VandewalleE,VeireVandeSetal:TheroleCofCdi.erentCVEGFCisoformsCinCscarCformationCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CExpCEyeCResC93:689-699,C20115)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C20086)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20097)OhiraCS,CInoueCT,CShobayashiCKCetal:SimultaneousCincreaseCinCmultipleCproin.ammatoryCcytokinesCinCtheCaqueoushumorinneovascularglaucomawithandwithoutCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:3541-3548,C20158)SeiboldLK,SherwoodMB,KahookMY:Woundmodu-lationCafterC.ltrationCsurgery.CSurvCOphthalmolC57:530-550,C20129)KiuchiCY,CNakaeCK,CSaitoCYCetal:ParsCplanaCvitrectomyCandCpanretinalCphotocoagulationCcombinedCwithCtrabecu-lectomyforsuccessfultreatmentofneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC244:1627-1632,C200610)InoueCY,CKadonosonoCK,CYamakawaCTCetal:Surgically-inducedin.ammationwith20-,23-,and25-gaugevitrec-tomysystems:anCexperimentalCstudy.CRetinaC29:477-480,C200911)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:602-609,C201712)松本行弘,三浦克洋,筑田眞:続発緑内障に対する硝子体手術と線維柱帯切除術同時施行例の手術成績.眼臨C100:775-780,C2006***

線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1022.1025,2024c線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例小沢優輝中元兼二白鳥宙岡本史樹日本医科大学眼科学教室CUsefulnessofExtended-WearSoftContactLensesforOver-FiltrationafterTrabeculectomyYukiKozawa,KenjiNakamoto,NakaShiratoriandFumikiOkamotoCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC目的:マイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)の術後の過剰濾過による浅前房および脈絡膜.離に対して,ソフトコンタクト連続装用が有効であったC1例を経験したので報告する.症例:30代,女性,若年性特発性関節炎による両眼続発緑内障で日本医科大学付属病院を紹介受診した.右眼CTLEを施行したところ,術後,当日から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離を認めた.術翌日,眼所見の改善はなく,経結膜強膜弁縫合,圧迫縫合,ステロイド内服を行った.術後C9日目でも右眼の低眼圧が遷延し,脈絡膜.離が増悪した.術後C14日目より,ソフトコンタクトレンズを連続装用したところ,徐々に脈絡膜.離が改善し,術後C18日目に浅前房は改善し,術後C42日目に脈絡膜.離は消失した.結論:TLE術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有用であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCinCwhichCcontinuousCsoftCcontactlens(SCL)wearCwasCe.ectiveCinCmanagingCaCshallowanteriorchamberandchoroidaldetachmentduetoexcessive.ltrationaftertrabeculectomy(TLE).Case:CACwomanCinCherC30sCwithCbilateralCglaucomaCdueCtoCjuvenileCidiopathicCarthritisCwasCreferredCtoCourCclinic.CTLECcombinedwithmitomycinCwasperformedonherrighteye,yetat1-daypostoperative,ashallowanteriorcham-ber,alarge.lteringbleb,andchoroidaldetachmentwasobserved.At9-dayspostoperative,prolongedlowintraoc-ularpressureandworseningchoroidaldetachmentwasobservedinthateyedespiteinterventionssuchasscleral.apsuturing,compressionsutures,andoralsteroids.Startingat14-dayspostoperative,continuousSCLwearwasinitiated,resultingingradualimprovementofchoroidaldetachmentby18-dayspostoperativeandresolutionoftheshallowanteriorchamberby42-dayspostoperative.Conclusion:ContinuousSCLwearwasfoundtobee.ectiveformanagingexcessive.ltrationaftertrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1022.1025,C2024〕Keywords:線維柱帯切除術,過剰濾過,脈絡膜.離,ソフトコンタクトレンズ.trabeculectomy,over.ltration,choroidaldetachment,softcontactlens.Cはじめに緑内障は日本における中途失明原因の第C1位であり1),科学的証拠に基づいた唯一確実な治療は眼圧下降である.近年,緑内障手術では,低侵襲緑内障手術が広く行われるようになったが,特に続発緑内障ではマイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)が施行される機会は少なくない.TLEの術後早期合併症の一つに脈絡膜.離があり,その原因として,過剰濾過に伴う低眼圧,短眼軸,眼炎症などが指摘されている2).過剰濾過に対する治療法には,経結膜的もしくは結膜弁を開放しての強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合,前房内粘弾性物質(または空気)注入,濾過胞内自己血注入,圧迫眼帯などがある3,4).今回,TLE術後の過剰濾過に対して,経結膜強膜弁縫合および圧迫縫合を施行するも改善が得られず,ソフトコンタクト(softCcontactlens:SCL)連続装用で,過剰濾過が改善し浅前房および脈絡膜.離が治癒した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕小沢優輝:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiKozawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC1022(150)図1TLE術後当日の前眼部所見a,b:術当日から浅前房,巨大濾過胞があった.Cc:前眼部光干渉断層計検査所見.浅前房を認めた.Cd:超音波CBモード所見.高度な脈絡膜.離があった.I症例患者:35歳,女性.既往歴:若年性特発性関節炎.現病歴:小児期から若年性特発性関節炎に伴う両眼ぶどう膜炎を発症し,両眼続発緑内障で他院を受診していた.小児期に両眼白内障に対して水晶体再建術が施行され,無水晶体眼用の連続装用CSCLを使用していた.その後,左眼眼圧がコントロール不良となったため,TLEを施行されたが,緑内障の進行,水疱性角膜症による角膜混濁などで,視力は手動弁となっていた.今回,薬物治療で管理されてきた右眼の眼圧が徐々に高くなってきたため,緑内障手術目的で当院を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.4C×sph+16.50D(cylC.4.00DAx95°),左眼手動弁(矯正不能),眼圧は右眼30mmHg,左眼C12mmHg,眼軸長は右眼C22.97mm,左眼24.53Cmm,中心角膜厚は右眼C522Cμm,左眼C802Cμmであった.角膜は,右眼の鼻側と耳測に軽度の帯状角膜変性症,左眼に水疱性角膜症による角膜混濁があった.両眼とも人工的無水晶体眼で,右眼の瞳孔領にはわずかに硝子体線維の嵌頓があった.左眼は高度な角膜混濁があり,前房隅角および眼底は透見困難であったため,以下,右眼の所見のみ記す.隅角鏡検査では,ぶどう膜炎によると思われる台形状の周辺虹彩前癒着を全象限に認めた.眼底検査では,著明な乳頭陥凹拡大を呈していた.Gold-mann視野検査では,40°以内の視野のみ残存していた.緑内障治療として,両眼にドルゾラミドC1%/チモロールマレイン酸塩C0.5%C1日C2回点眼,ブリモニジンC0.1%C1日C2回点眼,リパスジルC0.4%C1日C2回点眼およびアセタゾラミドC250Cmg1日C1回朝内服が処方されていた.若年性特発性関節炎の治療として,小児科よりプレドニゾロンC2.5Cmg内服を継続処方され,内科的な症状は安定していた.経過:右眼に対してCTLEを施行した.術当日の術後診察時から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離があったが,眼圧はC20CmmHgであった(図1).ベタメタゾンC0.1%C1日C4回点眼,レボフロキサシンC1.5%C1日C4回点眼に加えて,悪性緑内障の可能性も考慮してアトロピンC1%C1日C1回点眼で治療を開始した.術翌日,眼所見に改善はなく,眼圧はC28図2TLE術後14日目の前眼部所見a:SCL終日装用C1日目,前房は術当日より深くなった.Cb:SCLは輪部結膜および強膜弁の一部を圧迫できていた.Cc:前眼部光干渉断層計所見.前房は術当日より深くなっていた.mmHgと上昇した.術後炎症および過剰濾過の影響を考え,経結膜強膜弁縫合C2針,圧迫縫合C1針,さらにプレドニゾロンC5.0Cmgを増量しC1日C7.5Cmgの内服を行った.術後C8日まで眼所見は変化しなかったが,術後C9日目に眼圧がC9CmmHgと低眼圧になり,その後,脈絡膜.離が徐々に増悪した.観血的な強膜弁縫合を提案したが,患者の同意が得られなかったため,術後C14日目より,SCLによる結膜弁および強膜弁の圧迫効果を期待して,もともと術前に装用していたCSCL(ブレス・オー,直径C13.5Cmm)を終日装用として再開した図3TLE術後42日目の眼所見a:SCL連続装用後C28日目,前房はより深くなっていた.Cb:前眼部光干渉断層計所見.前房は術後C14日目よりさらに深くなっていた.c:超音波CBモード所見.脈絡膜.離は消失していた.(図2).装用再開翌日,CLの辺縁が覆っている部位の濾過胞の丈は低くなり,前房は深くなった.SCLをはずすと,速やかに前房が浅くなるため,SCLを連続装用として継続した.以後,脈絡膜.離は徐々に改善し,18日目に浅前房は改善し,術後C42日目には視力(0.3),SCL装着中にCSCL上から手持ち眼圧計CiCareproで測定した眼圧はC16CmmHg,SCLをはずしたときのCGoldmann平眼圧計で測定した眼圧はC6CmmHg,前房深度は深く,脈絡膜.離は消失した(図3).現在,手術後C1年以上経過しているが,眼圧6.7CmmHg程度で濾過胞形態も安定しており,濾過胞感染などの合併症はない.CII考按TLEには多くの早期合併症があるが,頻度が高い合併症の一つに過剰濾過がある.過剰濾過は,しばしば巨大濾過胞,浅前房,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離など多彩な合併症の原因となる.過剰濾過に対する治療法には,保存的治療と外科的治療とがある.保存的治療として,炭酸脱水酵素阻害薬点眼・内服やCb遮断薬点眼などで房水産生を抑制する方法があり,奏効すると数日以内に改善することもある.また,過剰濾過による浅前房に対して,前房内粘弾性物質注入(あるいは空気注入)や濾過胞内自己血注入を行うことがある.外科的治療には経結膜強膜弁縫合,結膜弁を開放して直視下での強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合などがある3,4).本症例では,術当日から過剰濾過による浅前房,脈絡膜.離があったため,術翌日に経結膜強膜弁縫合と圧迫縫合を併施したが,過剰濾過を十分に抑制できなかった.そこで,結膜弁を開放して直視下で強膜弁縫合の追加を検討したが,炎症などによる眼圧の再上昇の懸念や,患者本人が観血的治療に同意しなかったため,SCL装着で経過観察する方針となった.TLE後のCSCL装用で期待できる治療効果として,角膜上皮の保護,切開部の治癒促進,過剰濾過の抑制などがある5.7).Liら8)は,SCL径が濾過胞を覆うのに十分であった場合には,切開部,濾過胞を覆い隠すことができるため,前房深度が改善することを報告している.SCLの直径は一般にC14.0Cmmであり,レンズが濾過胞の一部を覆って圧迫することで過剰濾過を抑制することができると考えられている8).本症例においては,使用したCSCLの直径がC13.5Cmmと一般的なCSCLよりも小さかったが,角膜径もC11Cmmと健常人9)よりやや小さかったため,強膜弁の一部を覆うことができたと考えられる.ただし,本症例でも,ブレス・オーを装着する前に医療用CSCLの装着を試みたが,切開部,濾過胞の一部を覆い隠すことはできていたにもかかわらず,過剰濾過を改善させることはできなかった.ブレス・オーは医療用CSCLより厚みと硬さがあるため,強膜弁を圧迫する効果が高まり,過剰濾過を改善できた可能性がある.よって,過剰濾過に対するCSCLによる治療では,濾過胞の圧迫に十分な素材の厚みや硬さも重要と考えられる.本症例は,術後早期では浅前房に加えて眼圧が高かったため,悪性緑内障の関与が疑われた.本症例は人工的無水晶体眼であるが,術前から瞳孔領に硝子体線維が少量嵌頓していた.TLE術後,瞳孔領に嵌頓した硝子体線維の量が検眼鏡的に増加しており,その結果,瞳孔における後房から前房への房水流出抵抗が増加した可能性がある.さらに,炎症や過剰濾過により,毛様体浮腫や脈絡膜.離が毛様突起を前方回旋させ,TLEの周辺虹彩切除部位を閉塞させたことで,後房の房水が前房に回りにくくなり,一過性の悪性緑内障を引き起こした可能性も考えられる.一方,術当日から巨大濾過胞および脈絡膜.離があったことを考慮すると,実際の眼内圧は一貫して低かった可能性もあり,術後早期の眼圧値が高く測定されたのは,もともと本症例の瞼裂が狭かったことに加えて,手術による眼瞼腫脹があったため,開瞼時の眼球圧迫などの影響も否定できない.今回の症例は,TLE術後の早期合併症の過剰濾過に対して,SCLが有用であったが,TLE術後のCSCL装用で懸念される合併症の一つに濾過胞関連感染症がある10).本症例は人工的無水晶体眼であるため,現在もCSCLを連続装用し,また,若年性関節リウマチでステロイド内服を継続しているため,濾過胞関連感染症にはとくに注意が必要と考えている.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白神史雄:厚生労働科学研究費補助金.難治性疾患政策研究事業.平成C28年度総括・分担研究報告書:32,20172)PopovicV:EarlyCchoroidalCdetachmentCafterCtrabeculec-tomy.ActaOphthalmolScandC76:361-371,C19983)金本尚志:トラベクレクトミー術後合併症への対応.眼科グラフィックC2020年別冊:191-196,C20204)伊藤訓子,狩野廉,桑山泰明:強膜弁再縫合を必要とした線維柱帯切除術後CUvealE.usion.眼紀C54:211-225,C20035)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19906)WuCZ,CHuangCC,CHuangCYCetal:SoftCbandageCcontactClensesinmanagementofearlyblebleakfollowingtrabec-ulectomy.EyeScienceC30:13-17,C20157)ShohamA,TesslerZ,FinkelmanYetal:Largesoftcon-tactClensesCinCtheCmanagementCofCleakingCblebs.CCLAOCJC26:37-39,C20008)LiB,ZhangM,YangZ:Studyofthee.cacyandsafetyofCcontactClensCusedCinCtrabeculectomy.CJCOphthalmol2019:18397129)Duke-ElderCS,CWyberK:TheCAnatomyCofCtheCVisualSystem:SystemCofCOphthalmologyCVol.2,Cp92-94.CHenryCKimpton,London,196110)BellowsCAR,CMcCulleyJP:EndophthalmitisCinCaphakicCpatientsCwithCunplannedC.lteringCblebsCwearingCcontactClenses.OphthalmologyC88:839-843,C1981***

線維柱帯切開術の既往が線維柱帯切除術後の前房出血へ 及ぼす影響

2024年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(7):859.862,2024c線維柱帯切開術の既往が線維柱帯切除術後の前房出血へ及ぼす影響岡田陽*1三重野洋喜*1吉井健悟*2上野盛夫*1森和彦*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学生命基礎数理学教室*3ハ゛フ゜テスト眼科長岡京クリニックCE.ectofPreviousTrabeculotomyonPost-TrabeculectomyHyphemaYoOkada1),HirokiMieno1),KengoYoshii2),MorioUeno1),KazuhikoMori1,3)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)BaptistEyeInstitute,NagaokakyoC目的:線維柱帯切開術(TLO)の既往が線維柱帯切除術(TLE)後の前房出血に及ぼす影響を明らかにすること.対象および方法:2021年C1月.2022年C12月に京都府立医科大学附属病院でCTLEを施行したC195眼を対象に,前房出血が出現したC23眼をCTLO既往群(T群)と非CTLO既往群(N群)に分け前房出血を経時的にスコア化した.出現率,出現日とスコアが最大となる日(最大日)の術後日数,出現日から最大日までの期間,出現日と最大日のスコア,出現時眼圧(IOP)を比較検討した.結果:出現率,出現日の術後日数とスコア,IOPは有意差を認めなかった.最大日の術後日数{6.9C±4.3日/2.9C±1.8日(T群/N群)}や出現日から最大日までの期間(3.6C±3.9日/0.60C±0.99日)はCT群で有意に長く,最大日のスコア(4.4C±1.2/3.1±1.4)も有意に大きかった.結論:TLO既往はCTLE後の前房出血の持続期間と最大量に影響する.CPurpose:ToCinvestigateCtheCin.uenceCofCpreviousCtrabeculotomyConCpost-trabeculectomyChyphema.CMeth-ods:AmongC195CeyesCthatCunderwentCtrabeculectomyCatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicine,CKyoto,CJapanCfromJanuary2021toDecember2022,23withhyphemawerecategorizedintotrabeculotomyhistory(TH)groupandnohistory(NH)groupandhyphemawasscored.Frequencyofhyphema,numberofpostoperativedaysuntilhyphemaConset,CdayCwithCmaximumscore(max-scoreday)C,CtimeCperiodCfromConsetCtoCmax-scoreCday,ConsetCandCmaximumCscore,CandCintraocularpressure(IOP)atConsetCwereCthenCcompared.CResults:NoCsigni.cantCdi.erenceCwasCfoundCbetweenCtheCTHCandCNHCgroupsCinCfrequency,CnumberCofCpostoperativeCdaysCuntilConset,ConsetCscore,CandCIOP.CHowever,CcomparedCtoCtheCNHCgroup,CtheCTHCgroupCshowedCaClongerCmeanCpostoperativeCperiodCuntilConsetandmax-scoreday(THgroup:6.9C±4.3days,NHgroup:2.9C±1.8days)andfromonsettomax-scoreday(THgroup:3.6C±3.9Cdays,CNHgroup;0.60C±0.99days)C,CandChigherCmaximumscores(THgroup:4.4C±1.2,CNHgroup:3.1C±1.4)C.Conclusion:Previoustrabeculotomysigni.cantlyin.uenceshyphemaseverityanddurationposttrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):859.862,C2024〕Keywords:前房出血,線維柱帯切開術既往,線維柱帯切除術.hyphema,historyoftrabeculotomy,trabeculecto-my.Cはじめに近年,低侵襲緑内障手術が普及したことで,従来からの線維柱帯切開術(trabeculotomy:TLO)眼外法に加えてCTLO眼内法の適応が拡大している.そのためCTLO既往眼に線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)を施行する機会も増えてきた.前房出血はCTLE,TLOのいずれにも生じる術後合併症であり,TLEでは線維柱帯切除部や虹彩切除部からの出血1.4)により生じ,TLOでは手術直後の低眼圧に伴う上強膜静脈からCSchlemm管への逆流性出血5)により生じるとされている.〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HirokiMieno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCTLO既往眼ではCTLE術後の低眼圧により前房出血が修飾される可能性がある.今回,TLO既往のCTLE術後の前房出血に及ぼす影響を検討した.CI対象および方法本検討は,京都府立医科大学附属病院においてC2021年C1月.2022年C12月に広義原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障に対してTLE単独を施行したC162例C195眼を対象とした.患者背景としてCTLE施行時の年齢,性別,病型,TLO既往とその術式,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服の有無,TLE後の前房出血スコアを診療録から収集した.前房出血スコアはCShimaneCUniversityCRLCCpostoperativehyphemaCscoringCsystem(SU-RLC)6)を用いて評価し,TLE後に前房出血スコアが初めてC1点以上になった日を出現日,前房出血スコアが最大となった日を最大日と定義した.対象を前房出血群(前房出血スコアC1点以上)と非前房出血群(前房出血スコアC0点)に分け,2群間における患者背景を比較検討した.さらに前房出血群をCTLO既往の有無でCTLO既往あり(TLO)群とCTLO既往なし(非CTLO)群の2群に分け,TLEから出現日までの期間,TLEから最大日までの期間,出現日から最大日までの期間,出現日と最大日の前房出血スコアならびに出現時眼圧について検討した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用いて計測し,術前投薬スコアは緑内障点眼薬単剤がC1瓶C1点,合剤がC1瓶C2点と計算し,炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)内服の場合はC1日内服量がC250CmgごとにC1点と計算した.統計解析は統計ソフトCR(version4.0.3;RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,Austria)を用いて行い,前房出血群と非前房出血群において順序変数についてはFisherの正確検定を用いて,連続変数についてはCt検定を用いて検定した.p値がC0.05未満と算出されたものを有意差ありとした.なお本検討は,世界医師会のヘルシンキ宣言に則り行われ,当院の倫理審査委員会による承認を得て行った.CII結果対象の背景を表1に示す.対象の年齢はC70.1C±11.6歳(平均±標準偏差)であった.TLO既往眼はC38眼で,内訳はTLO眼外法がC5眼,スーチャーCTLOがC25眼,マイクロフックCTLOがC5眼,カフークデュアルブレードがC3眼であった.術前眼圧はC21.4C±7.9CmmHgで,術前投薬スコアはC4.5±1.6であった.前房出血の有無に関連する因子の検討を表2に示す.前房出血群と非前房出血群はそれぞれC23眼とC172眼で,前房出血群と非前房出血群の間に,年齢,性別,病型,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服の有無において有意差を認めなかった.TLO既往の有無においても有意差を認めなかったが,前房出血はCTLO既往のあるC38眼中C8眼(21.1%)に,TLO既往のないC157眼中C15眼(9.6%)に認めた.前房出血の特徴とCTLO既往の検討を表3に示す.TLEから出現日までの期間はCTLO群でC3.3C±2.8日,非TLO群でC2.3±1.3日と有意差を認めず,TLEから最大日までの期間はTLO群で6.9C±4.3日,非CTLO群でC2.9C±1.8日と有意にTLO群のほうが長かった(p=0.0046).出現日から最大日までの期間はCTLO群でC3.6C±3.9日,非CTLO群でC0.60C±0.99日と有意にCTLO群のほうが長かった(p=0.0086).出現日の前房出血スコアはCTLO群でC4.0C±1.3,非CTLO群でC3.4C±1.5と有意差を認めなかったが,最大日の前房出血スコアはTLO群でC4.9C±1.5,非CTLO群でC3.6C±1.6と有意にCTLO群のほうが大きかった(p=0.029).また,出現時眼圧はCTLO群でC9.4C±5.9mmHg,非CTLO群でC9.7C±9.0mmHgと有意差を認めなかった.CIII考按TLE後の前房出血の発生頻度はC0.8.20%2.4)と報告されており,本検討ではC195眼中C23眼(11.8%)で前房出血が観察され,既報と同程度であった.TLO既往の有無で前房出血の発生頻度を検討すると,TLO群ではC21.1%,非CTLO群ではC9.6%と有意差を認めないもののCTLO群で高い傾向にあった.抗血栓薬の内服がCTLE後の前房出血の出現に影響を及ぼす7.9)という報告もあるが,本検討では有意差を認めなかった.本検討では,TLO群のほうが非CTLO群よりも出現日から最大日までの期間が有意に長く,前房出血スコア最大値が大きかった.これは,TLO既往眼ではCTLE後に前房出血を生じると出血が長引き,出血量が増加しやすいことを示唆している.Hamanakaら10)は病理組織学的検討の結果,手術直後はCTLOにより前房と集合管が直接交通するが,次第にSchlemm管内皮細胞がCSchlemm管開口部を覆うことで,その交通がなくなると報告している.本検討の結果からは,TLO後にCSchlemm管内皮細胞がCSchlemm管開口部を覆っていても,TLE後の眼圧管理のために行った眼球マッサージやレーザー切糸術による眼球圧迫が前房と集合管の再交通を引き起こす可能性が考えられる.また,トラベクトーム術11カ月後にCTLEを施行中,強膜弁作製直後に前房出血を認めた症例11)も報告されている.強膜弁作製直後は低眼圧となっているため,眼球圧迫以外にも低眼圧が誘引となり再交通する可能性も示唆される.前房と集合管が再交通すると,再度交通がなくなるまで前房出血が持続し,そのため最大量が増えたと考えられた.以上から,TLO既往はCTLE後の前房出血の持続期間と最表1対象の背景年齢(歳)C70.1±11.6性別(男性/女性)(眼)C99/96病型(POAG/PEG/SG)(眼)C93/45/57TLO既往(眼)(CTLO眼外法/スーチャーCTLO/38マイクロフックTLO/カフークデュアルブレード)C(C5/25/5/3)術前眼圧(mmHg)C21.4±7.9術前投薬スコアC4.5±1.6抗血栓薬内服(あり/なし)(眼)C24/171前房出血(あり/なし)(眼)C23/172平均±標準偏差POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,SG:ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障,TLO:線維柱帯切開術.表2前房出血の有無に関連する因子の検討前房出血群(2C3眼)非前房出血群(1C72眼)p値年齢(歳)C67.3±14.5C70.5±11.2C0.21性別(男性/女性)(眼)C13/10C86/86C0.66病型(POAG/PEG/SG)(眼)C15/2/6C78/43/51C0.84TLO既往(あり/なし)(眼)C8/15C30/142C0.09術前眼圧(mmHg)C23.8±8.9C21.0±7.7C0.12術前投薬スコアC5.0±1.9C4.4±1.6C0.10抗血栓薬内服(あり/なし)(眼)C2/21C22/150C0.75平均±標準偏差前房出血群と非前房出血群において,年齢や性別,病型,TLO既往,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服に関して有意差を認めなかった.POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,SG:ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障,TLO:線維柱帯切開術.表3前房出血の特徴とTLO既往の検討TLO群(8眼)非TLO群(15眼)p値TLE術から出現日までの期間(日)C3.3±2.8C2.3±1.3C0.26TLE術から最大日までの期間(日)C6.9±4.3C2.9±1.8C0.0046**出現日から最大日までの期間(日)C3.6±3.9C0.60±0.99C0.0086**出現日C4.0±1.3C3.4±1.5C0.55前房出血スコア最大日C4.9±1.5C3.6±1.6C0.029*出現時眼圧(mmHg)C9.4±5.9C9.7±9.0C0.94C平均±標準偏差TLO群と非CTLO群においてCTLEから最大日までの期間と最大日の前房出血スコアは有意差を認めた.また,TLEから最大日までの期間ならびに出現日から最大日までの期間はCTLO群のほうが非CTLO群よりも有意に長かった.TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術.有意水準(*:p<0.05,**:p<0.01).大量に影響を与える.TLO眼内法の手術件数の増加に伴いTLO既往眼にCTLEを施行する機会が増えているため,今後はCTLE後に前房出血が長引き,出血量が増える症例に遭遇する可能性が高まると考えられる.利益相反岡田陽:なし三重野洋喜:なし吉井健悟:なし上野盛夫:【P】あり,【R】CorneaGen,AurionBiotech森和彦:【P】あり外園千恵:【P】あり,【F】参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGen,AurionBiotech文献1)BansalCRK,CCasperCDS,CTsaiJC:IntraoperativeCcomplica-tionsCofCtrabeculectomy.CGLAUCOMACsurgicalCmanage-ment(ShaarawyTM,SherwoodMB,HitchingsRAetal),2,p797-804,ElsevierSaunders,Philadelphia,20152)EdmundsB,ThompsonJR,SalmonJFetal:Thenationalsurveyoftrabeculectomy.III.earlyandlatecomplications.EyeC16:297-303,C20023)MembreyCWL,CPoinoosawmyCDP,CBunceCCCetal:Glauco-maCsurgeryCwithCorCwithoutCadjunctiveCantiproliferativesCinCnormalCtensionglaucoma:1CintraocularCpressureCcon-trolCandCcomplications.CBrCJCOphthalmolC84:586-590,C20004)JayaramCH,CStrouthidisCNG,CKamalDE:TrabeculectomyCforCnormalCtensionglaucoma:outcomesCusingCtheCmoor.eldsCsaferCsurgeryCtechnique.CBrCJCOphthalmolC100:332-338,C20165)MosesCRA,CHooverCGS,COostwouderPH:BloodCre.uxCinCSchlemm’sCcanal.CI.CnormalC.ndings.CArchCOphthalmolC97:1307-1310,C19796)IshidaCA,CIchiokaCS,CTakayanagiCYCetal:ComparisonCofCpostoperativeChyphemasCbetweenCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCandCiStentCusingCaCnewChyphemaCscoringCsystem.JClinMedC10:5541,C20217)辻拓也,竹下弘伸,山本佳乃ほか:抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響.あたらしい眼科C32:C1757-1761,C20158)CobbCCJ,CChakrabartiCS,CChadhaCVCetal:TheCe.ectCofCaspirinandwarfarintherapyintrabeculectomy.EyeC21:C598-603,C20079)LawSK,SongBJ,YuFetal:HemorrhagiccomplicationfromCglaucomaCsurgeryCinCpatientsConCanticoagulationCtherapyCorCantiplateletCtherapy.CAmCJCOphthalmolC145:C736-746,C200810)HamanakaT,ChinS,ShinmeiYetal:HistologicalanalyC-sisoftrabeculotomyC─Caninvestigationontheintraocularpressureloweringmechanism.ExpEyeResC219:109079,C202211)KnapeCRM,CSmithMF:AnteriorCchamberCbloodCre.uxCduringCtrabeculectomyCinCanCeyeCwithCpreviousCtrabec-tomesurgery.JGlaucomaC19:499-500,C2010***

線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対し レバミピド点眼が著効した1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1587.1590,2023c線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対しレバミピド点眼が著効した1例大田啓貴*1近間泰一郎*2木内良明*2*1広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofFilamentaryKeratitisafterTrabeculectomyinwhichTopicalRebamipidewasE.ectiveHirokiOta1),TaiichiroChikama2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC背景:糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)は,角膜表面に糸状物を形成する慢性,再発性の角膜疾患であり,さまざまな眼表面の病態や疾患に関連して生じる.今回,線維柱帯切除術後眼に生じたCFKに対し,レバミピド点眼(RM)が著効した症例を報告する.症例:82歳,女性.複数回の線維柱帯切除術施行後,左眼に異物感が出現しCFKがみられたことから,0.1%フルオロメトロン点眼を行った.1カ月後に,重度の点状表層角膜症(SPK)も生じたことから,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合人工涙液点眼の適時使用を行った.SPKの改善はみられたが,FKの改善に乏しいため,RM単独で加療したところ,1カ月でCFKならびにCSPKは消失し,著しい改善が得られた.考察:本症例ではマイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCoverhangingblebによる眼表面の摩擦亢進がみられた.RMで,角膜ムチン産生を促進し,眼表面の摩擦を低下させ,眼表面の涙液が安定したことが著効した原因と考えている.CBackground:Filamentarykeratitis(FK)C,achronicrecurrentcornealdiseasethatforms.lamentsonthecor-nealsurface,isassociatedwithvariousocularsurfacedisorders.HereinwereportacaseofFKaftertrabeculecto-myCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithCtopicalCrebamipide.CCase:AnC82-year-oldCfemaleCinCwhomCFKCdevelopedCinCherCleftCeyeCafterCmultipleCtrabeculectomyCsurgery,CunderwentCsurgicalCremovalCofCcornealC.lamentsandadministrationof0.1%.uorometholoneeyedrops.At1-monthpostoperative,severesuper.cialpunctatekera-topathy(SPK)developed,CsoCallCmedicationsCwereCdiscontinuedCandCaCcombinedCtreatmentCofCboricCacidCandCinor-ganicsaltswasadministered.AfterSPKimproved,rebamipidealonewasadministeredtotreatthepersistentFK,whichCwasCmarkedlyCimprovedCatC1Cmonth.CConclusions:InCcasesCofCFK,CadministrationCofCrebamipideCpromotesCcornealmucinproduction,reducesfrictionontheocularsurface,andstabilizestear.uidontheocularsurface,thusresultinginmarkedimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1587.1590,C2023〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド,線維柱帯切除術,ドライアイ..lamentarykeratitis,rebamipide,trabecu-lectomy,dryeye.Cはじめに糸状角膜炎Cfilamentarykeratitis(FK)は,角膜表面に連なる糸状の構造物からなる慢性,再発性の角膜疾患である.FKの発症には,さまざまな眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与しており,そのメカニズムはいまだ明確にされていない.一般的にはドライアイが多くの症例で合併しているが,そのほかの基礎疾患として,上輪部角結膜炎などの眼表面疾患,各種眼手術後,糖尿病などの全身疾患,プロスタグランジン関連薬などの点眼薬,眼瞼下垂などがある1,2).FKにおける角膜糸状物は瞬目により牽引され,角膜の知覚神経が刺〔別刷請求先〕大田啓貴:〒722-8508広島県尾道市平原C1-10-23広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院Reprintrequests:OtaHiroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeberalHospital,1-10-23,CHirahara,Onomichi-shi,Hiroshima722-8508,JAPANC激されることで,強い異物感などの症状の原因となる3).FKの治療は,角膜糸状物を物理的に除去するだけでは再発を繰り返すため,完治をめざすためには発症に関与する原因疾患を治療する必要がある.保存的な治療としては,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼や,低力価副腎皮質ステロイド点眼,治療用ソフトコンタクトレンズの装着が知られている4.6).このように,さまざまな治療が行われるものの,満足いく効果が得られないことが多い疾患である.今回,線維柱帯切除術後眼に生じた難治性のCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCUD点眼液C2%CR,大塚製薬)が著効した症例を経験したので報告する.CI症例82歳,女性.両眼緑内障に対し,右眼はチューブシャント手術と線維柱体切除術を施行され,左眼は線維柱帯切除術や濾過法再建術を計C4回施行された.2019年C4月頃から左眼異物感があった.両眼前眼部所見では,マイボーム腺機能不全があり,涙液メニスカス高(tearCmeniscusheight:TMH)はCnormal,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-uptime:BUT)はC5秒以下だった.右眼はC11時方向にCblebがみられた.左眼はC2時,10時方向にCoverhangingblebがみられた.左眼異物感の症状は,overhangingblebによる合併症と考えられ,摩擦緩和目的にオフロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏,参天製薬)を開始した(図1a,b).眼軟膏開始後は自覚症状の改善がみられたが,2カ月経過時点で症状が再発した.症状緩和のため,同年C9月にジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス点眼液C3%,参天製薬)を追加したところ,同年C11月に糸状角膜炎が出現した(図1c,d).ジクアホソルナトリウム点眼が要因と考えられ,ジクアホソルナトリウム点眼を中止しレバミピド懸濁点眼液をC1日C4回で開始したところ,2020年C1月には自覚症状が改善して,FKは消失した.その後,レバミピド懸濁点眼液は自己中断していたが,角膜は寛解状態を保っていた.2021年C4月に左眼眼圧がC14CmmHgまで上昇したため,タフルプロスト点眼(タプロス点眼,参天製薬)を開始した.タフルプロスト点眼開始後,左眼異物感が生じ,眼球上方結膜の充血や上皮障害がみられた.レバミピド懸濁点眼液を再開したが,自覚症状や所見の改善はなく,上輪部角結膜炎の発症と考え,0.1%フルオロメトロン点眼液(フルメトロン点眼液C0.1%,参天製薬)を開始した.しかし,0.1%フルオロメトロン点眼開始C1カ月後に左眼異物感症状の悪化があり,左眼でびまん性に点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)とCFKの散在がみられた(図1e).中毒性角膜症の発症と考え,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合剤液(人工涙液マイティア点眼液,千寿製薬)を開始したが,点眼アドヒアランスの不良もあり,改善に乏しく,FKに対して糸状物除去術を施行しつつ,経過観察を行った(図1f).2022年C3月には,左眼眼圧がC18CmmHgまで上昇したため,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行した.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液C0.5%,参天製薬)とC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C3回でC1週間点眼したが,所見の悪化はなかった.2022年C5月にはSPKの一定の改善がみられ,眼表面の状態は薬剤毒性が解消され,ドライアイに伴うCSPKと糸状角膜炎のみになったと判断したことから,レバミピド懸濁点眼液をC1日C2回で開始したところ,2022年C6月にはCSPKとCFKは消失し,自覚症状は改善した(図1g,h).その後,眼圧コントロールは良好で,自覚症状は落ち着いており,FKの再発もみられていない.CII考察糸状物の構造は,ムチンと変性した角膜上皮細胞により構成されている.角膜上皮障害が原因となり上皮細胞の成分周囲にムチンが絡みつき,瞬目による摩擦ストレスで基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成される7).FKは,多様な疾患背景のもとに生じるために,対症的な治療が行われることが多いが,完治をめざすためには所見から病態を理解して治療方針を考慮する必要がある.本症例は,両眼で線維柱体切除術を施行し,右眼は経過中にラタノプラスト(キサラタン点眼液C0.005%,ヴィアトリス製薬)やブリモニジン酒石酸塩液(アイファガン点眼液C0.1%,千寿製薬)を点眼し,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行後したが,異物感の症状やCFKの発症はなかった.左眼は複数回の線維柱帯切除術後で,bleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足をきたしていると考えた.マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCblebによる角膜表面の摩擦亢進もあった.ドライアイによる異物感の症状に対しジクアホソルナトリウム点眼を開始したが,ジクアホソルナトリウム点眼は杯細胞からのムチン分泌を促し,ムチン/水分比の増加や涙液の粘性の増加を促すことで,結果的に摩擦亢進を引き起こし,糸状物が形成される可能性があると考えられている8).本症例でもジクアホソルナトリウム点眼を使用した際にCFKの発症を招いた.本来摩擦を生じない間隙(Kessingspace)9)がCoverhangingblebによって狭められ,瞬目摩擦が亢進した場合もしくはCbleb周囲に異所性涙液メニスカスが形成され,meniscus-inducedCthin-ningが起こった場合10),bleb周囲に優位にCFKを発症すると考えられる.しかし,本症例では当初角膜耳側の中央から下方優位に糸状物がみられた.10時方向よりもC2時方向のblebの丈が高いことから,耳側で摩擦亢進が強くなったと推測した.また,ドライアイによる涙液安定性の低下が背景にあり,摩擦亢進と強く相互作用する場所が角膜耳側の中央図1本症例の前眼部所見とその経時的変化a,b:2時,10時方向にCoverhangingblebがある.Cc,d:ジクアホソルナトリウム点眼投与後,耳側優位に角膜糸状物が発症している.Ce:0.1%フルオロメトロン点眼後,角膜ほぼ全面にCSPKと糸状角膜炎がある.中毒性角膜症と考え,全点眼中止し,人工涙液マイティアR投与開始した.f:人工涙液マイティアR投与C2週目.改善に乏しく,マイボーム腺機能不全による影響が考えられたため,ホットパックを併用開始した.Cg:人工涙液マイティア投与C21週目.一定の改善がある.従来のドライアイによる点状表層角膜症(SPK)や糸状角膜炎(FK)と考え,レバミピド懸濁点眼液投与開始した.h:レバミピド懸濁点眼液投与C5週目,SPKと糸状角膜炎はほぼ消失している.から下方であったことから,FKが下方に優位にみられたのから糸状角膜炎が再発した.結膜充血や点状の結膜上皮障害ではないかと考えているが,FKの発症部位に関しては今後があり,上輪部角結膜炎の発症を確認したため,炎症性変化さらなる検討が必要である.レバミピド懸濁点眼液でいったに対しC0.1%フルオロメトロン点眼を開始した.しかし,0.1んはCFKの寛解状態にあったが,タフルプロスト点眼開始後%フルオロメトロン点眼により角膜上皮細胞の増殖が抑制され,中毒性角膜症を引き起こしたと推察した.ホウ酸・無機塩類配合剤液で薬剤毒性を解消し,SPKの改善を試みたが,マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCbleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足,また点眼アドヒアランスの不良もあり改善に時間を要したと考えられる.薬剤毒性が解消された後に,遷延するCSPKやCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液単剤投与を行ったところ,著明に改善した.FKは,眼表面摩擦の亢進が要因となることが報告されている11).本症例は,左眼でCoverhangingblebによる眼表面摩擦の亢進もあった.レバミピド懸濁点眼液は,結膜杯細胞の増加作用や,角膜上皮での膜結合型ムチンの増加作用,角膜上皮創傷治癒促進作用,眼表面摩擦の軽減作用などが報告されている12.14).本症例では,すべての点眼薬の影響をいったん排除した後に,レバミピド懸濁点眼液によりムチン産生を促進し,眼表面の涙液を安定させ,眼表面の摩擦を低下させたことが糸状角膜炎に著効した原因ではないかと考えている.今回の症例では,緑内障点眼を再開することなく眼圧を保つことができている.しかし,緑内障点眼薬の多剤併用時に生じるCFKに対するレバミピド懸濁点眼液投与の有効性については,今後の検討課題である.文献1)KinoshitaCS,CYokoiN:FilamentaryCkeratitis.CtheCcornea,Cfourthedition(FosterCCS,CAzarCDT,CDohlmanCCHeds)C,Cp687-692,Philadelphia,20052)DavidsonCRS,CMannisMJ:FilamentaryCkeratitis.CtheCcor-nea,secondedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmolC93:466-469,C19824)AlbietsCJ,CSan.lippoCP,CTroutbeckCRCetal:ManagementCofC.lamentaryCkeratitisCassociatedCwithCaqueous-de.cientCdryeye.OptomVisSciC80:420-430,C20035)MarshCP,CP.ugfelderSC:TopicalCnonpreservedCmethyl-prednisoloneCtherapyCforCkeratoconjunctivitisCsiccaCinCSjogrensyndrome.OphthalmologyC106:811-816,C19996)Bloom.eldSE,GassetAR,ForstotSLetal:Treatmentof.lamentarykeratitiswiththesoftcontactlens.AmJOph-thalmolC76:978-980,C19737)TaniokaCH,CFukudaCK,CKomuroCACetal:InvestigationCofCcornealC.lamentCinC.lamentaryCkeratitis.CInvestCOphthal-molVisSciC50:3696-3702,C20098)青木崇倫,横井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C20199)KnopCE,CKnopCN,CZhivovCACetal:TheClidCwiperCandCmuco-cutaneousCjunctionCanatomyCofCtheChumanCeyelidmargins:anCinCvivoCconfocalCandChistologicalCstudy.CJAnatC218:449-461,C201110)横井則彦:涙液メニスカスの観察.ドライアイ診療CPPP(ドライアイ研究会),p25-27,メジカルビュー社,200211)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌C115:693-698,C201112)UrashimaCH,COkamotoCT,CTakejiCYCetal:RebamipideCincreasesCtheCamountCofCmucin-likeCsubstancesConCtheCconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.CorneaC23:613-619,C200413)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreas-esCtheCmucin-likeCglycoproteinCproductionCinCcornealCepi-thelialcells.JOculPharmacolTherC28:259-263,C201214)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績 ─経過眼圧と視野変化

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):950.957,2023c原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績─経過眼圧と視野変化柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CMid-termOutcomesofTrabeculectomyforPrimaryOpenangleGlaucoma-Follow-upIntraocularPressureandVisualFieldChangesMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後の経過眼圧と視野進行抑制効果について検討する.対象および方法:2012.2016年に永田眼科で原発開放隅角緑内障に対して線維柱帯切除術後を施行したC92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野をC3回以上施行した症例で経過中水疱性角膜症,加齢黄斑変性の発症,追加緑内障手術を施行した症例を除くC26眼を対象とした.経過眼圧C12CmmHg以下群(15眼)とC12CmmHg超過群(11眼)で術前後CMDスロープを後ろ向きに比較検討した.結果:経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群の平均術後観察期間はそれぞれC60.4,68.7カ月,両群とも術後有意な眼圧下降を認め,経過中の平均眼圧下降率はそれぞれC46.9,44.0%であった.術前後CMDスロープ比較において,12CmmHg以下群ではC30-2,10-2視野とも術後有意に改善したが,12CmmHg超過群ではC30-2視野で統計的有意な改善がなかった.術前後視力比較でC12CmmHg以下群では中心視野障害の強い症例で視力低下傾向があった.結論:経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CMDスロープは有意に改善したが,視力低下の傾向があった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCfollow-upCintraocularpressure(IOP)andCtheCe.cacyCofCtheCsuppressionCofCtheCdeteriorationCofCvisual.eld(VF)postCtrabeculectomyCforCprimaryCopenangleCglaucoma(POAG).CSubjectsandmethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofCPOAGCpatientsCwhoCunderwentCtrabeculectomyCbetweenCJanuaryC2012CandCDecemberC2016CatCNagataCEyeCClinicCandCwhoCcouldCbeCobservedCforCmoreCthanC2-yearspostoperativewithmorethan3reliablepre-andpostoperativeVFs.WeexcludedpatientswhodevelopedblurredCkeratoconus,Cage-relatedCmacularCdegeneration,CorCunderwentCadditionalCglaucomaCsurgeryCduringCtheCcourseofthestudy.Analyzedwere26eyes(Group1:15eyeswithanIOPof≦12mmHg;Group2:11eyeswithanCIOPCof>12CmmHg).CPre-andCpostoperativeCIOP,CglaucomaCmedications,Cmeandeviation(MD),CMDCslope,Candvisualacuity(VA)wasinvestigatedandcomparedbetweenthetwogroups.Results:InGroup1andGroup2,themeanCpostoperativeCfollow-upCperiodCwasC68.7CandC60.4Cmonths,Crespectively,CandCtheCmeanCpostoperativeCIOPCreductionCrateCwas44.0%Cand46.9%,Crespectively,CthusCshowingCsigni.cantCIOPCreductionCpostCsurgeryCinCbothCgroups.CInCtheCpre-andCpostoperativeCMDCslopeCcomparisons,CthereCwasCsigni.cantCpostoperativeCMDCslopeCimprovementinboththe30-2and10-2VFtestinGroup1,buttherewasnostatisticallysigni.cantimprovementinCtheC30-2CVFCtestCinCGroupC2.CInCtheCpre-andCpostoperativeCVACcomparisons,CVACtendedCtoCdecreaseCinCtheCpatientswithcentralVFdefectsinGroup1.Conclusions:Therewasasigni.cantimprovementinthepostopera-tiveMDslopeinGroup1,butVAtendedtodecreaseinthepatientswithcentralVFdefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):950.957,C2023〕Keywords:線維柱帯切除術,MDスロープ,眼圧.trabeculectomy,meandeviationslope,intraocularpressure.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC950(102)はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)は優れた眼圧下降効果とともに,視野障害の進行を緩徐化することが多数報告1.5)されている.緑内障治療の目的は眼圧を十分に下降させ進行を遅延もしくは抑制することにあるが,病期や病型に応じて目標眼圧は異なり,進行した緑内障では目標眼圧をより低く設定する必要がある.AdvancedGlaucomaInterven-tionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHgであったと報告されている.今回,LET後の経過眼圧による視野進行の違いを検討するため,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)に対するCLET後の,経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における視野進行抑制効果について後ろ向きに比較検討した.CI対象および方法2012年C1月.2016年C12月に永田眼科において,POAGに対しCLETを施行した連続症例C92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野検査CSITA-stan-dard30-2もしくは10-2を信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できた症例で,経過中に視力や視野に影響のあった症例(水疱性角膜症・加齢黄斑変性症発症眼,追加緑内障手術施行眼)を除いたC26眼を対象とした.26眼について診療録から後ろ向きに,術前後の眼圧,緑内障治療薬数,Humphrey視野Cmeandeviation(MD)値,MDスロープ,目標眼圧をC12mmHg以下としたC6年生存率を検討した.さらにC26眼を経過眼圧によりC2群に分け,経過中の観察時点でC2回連続して12CmmHgを超えない群を「経過眼圧C12CmmHg以下群」,12mmHgを超える群を「12CmmHg超過群」とした.このC2群間で術前後の眼圧,緑内障治療薬数,眼圧下降率,MDスロープ,視力変化を比較検討した.LETの術式を以下に示す.上方円蓋部基底結膜切開後,C3.5Cmm×3.5mmの外層強膜弁(1/3層強膜)を作製した.0.04%マイトマイシンCCをC4分塗布し生理食塩水で洗浄後,強膜床にC3.5CmmC×2.5Cmmの内層強膜弁を作製し切除,強角膜切除窓を作製し周辺虹彩切除後,強膜弁をC2.4針縫合,結膜を角膜輪部で水平縫合し閉創した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36,42,48,54,60,66,72カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,12CmmHg以下C6年生存率,眼圧下降率,術前後のCMD値とCMDスロープ,logMAR視力とした.緑内障治療薬数は,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でC12CmmHgを超えた時点とした.術後のレーザー切糸とニードリングは死亡に含めず,眼圧値は処置前の値を採用した.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における患者背景の群間比較にはCt検定,Fisherの直接確立計算法を用い,群間の眼圧・薬剤スコア・眼圧下降率経過の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.術前後CMDスロープ,logMAR視力の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2021-005).CII結果表1に全症例C26眼の患者背景を示す.平均年齢はC64.8C±13.1歳,術前平均薬剤スコアC3.7C±1.0による術前平均眼圧はC21.9C±6.6CmmHg,術前平均CMD値はCHumphrey30-2でC.19.2±7.3dB,術前後観察期間はそれぞれC86.7C±77.4カ月,C63.9±12.9カ月(すべて平均C±標準偏差)であった.26眼中,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼をC15眼含み,手術既往のなかった症例はC2眼であり,他は白内障もしくは緑内障手術既往眼であった.図1にC26眼の眼圧,薬剤スコア経過を示す.術C6年後の平均眼圧はC12.4C±6.8CmmHg,平均薬剤スコアはC0.8C±1.5であり,眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた生存曲線を示す.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C6年後の生存率は46.3%であった.表2にC26眼における術前後CMDスロープ比較を示す.CHumphrey30-2(14眼)において平均CMDスロープ値は術前.1.24±1.6から術後C.0.07±0.51CdB/年,10-2(17眼)において術前.1.76±1.7から術後C.0.19±0.38CdB/年となり,術後有意にCMDスロープが改善した(p<0.05,CpairedCttest).表3にC26眼を経過眼圧によりC2群に分けたC12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼の患者背景を示す.術前眼圧に群間で有意差があったが,その他年齢,術前薬剤スコア,MD値,術前後観察期間,IOL眼の割合,手術歴に有意差はなかった.観察期間中にニードリングを必要とした症例の割合に2群で有意差があった.図3にC12CmmHg以下群と超過群の眼圧経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に下降し(p<0.01,表1患者背景眼数26眼年齢C64.8±13.1歳(C37.C83歳)男:女17:9術前眼圧C21.9±6.6CmmHg(1C3.C40mmHg)術前薬剤スコアC3.7±1.0(2.5)術前MD3C0-2(n)C.19.2±7.3CdB(C.0.62.C.31.94dB)(2C2眼)10-2(Cn)C.26.1±7.9CdB(C.1.15.C.33.98dB)(2C0眼)術前観察期間C86.7±77.4カ月(1C4.C263カ月)術後観察期間C63.9±12.9カ月(3C6.C72カ月)IOL:aphakia:phakia15:1:1C0眼白内障・緑内障手術歴なし2眼緑内障手術既往(重複あり)LOT21眼CLET5眼(range)(mean±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.薬剤スコア眼圧(mmHg)3020100pre1122436486072(mean±SD)6420(mean±SD)観察期間(月)眼数262626262626262626232323231915図1眼圧・薬剤スコア経過眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C100ANOVA+Dunnett’stest),経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであっC806046.3%4020001020304050607080生存期間(月)図212mmHg以下6年生存率12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%であった.生存率(%)た.図4に薬剤スコアの経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には群間で差があり(p<0.001,two-wayANOVA),12CmmHg以下群は有意に経過中点眼数が少なかった.図5に眼圧下降率の経過を示す.両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,two-wayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であ表2術前後MDスロープ術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)*C115±95C57±1530-214眼C.1.24±1.6C.0.07±0.51C0.019(8.95)(36.87)*C87±71C56±2010-217眼C.1.76±1.7C.0.19±0.38C0.0005(20.235)(15.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)表3患者背景(12mmHg以下群と超過群)12mmHg以下12mmHg超過p値眼数15眼11眼年齢C69.0±10.3歳C59.2±14.8歳C0.06*男:女9:78:3C0.38+術前眼圧C18.5±3.9CmmHgC26.6±6.5CmmHgC0.0005*術前薬剤スコアC3.5±0.9C4.0±1.0C0.18*術前MD3C0-2(n)C.20.1±4.7CdB(1C3dB)C.17.8±10.1CdB(9dB)C0.16*10-2(Cn)C.26.5±5.4CdB(1C3dB)C.25.4±11.2CdB(7dB)C0.82*術前観察期間C96.2±76.8カ月C73.9±80.2カ月C0.48*術後観察期間C60.4±15.8カ月C68.7±4.9カ月C0.07*IOL:aphakia:phakia9:0:6眼6:1:4眼C0.49+白内障・緑内障手術歴なし2眼0眼C0.21+緑内障手術既往(重複あり)LOT12眼8眼CLET2眼3眼ニードリング1眼7眼C0.002+*:t-test,+:Fisher’sexacttest(meanC±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.C26.6±6.53025201535+1059.9±2.90pre1361218243036424854606672(mean±SD)観察期間(月)眼圧(mmHg)12mmHg以下1515151515151515151212121210812mmHg超過1111111111111111111111111197図3眼圧経過両群とも術後有意に下降したが(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),眼圧経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであった.65432薬剤スコア1.3±1.9+0.4±1.110観察期間(月)図4薬剤スコア経過両眼とも術後スコアは有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).C51.8±4.36050403020100眼圧下降率(%)NS1361218243036424854606672(mean±SE)観察期間(月)図5眼圧下降率経過両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,twowayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であった.った.図6に術前後CMDスロープの散布図と平均値比較を示す.CHumphrey30-2(図6a)において,平均CMDスロープ値は12mmHg以下群で術前C.1.03±1.10から術後C.0.03±0.47dB/年に有意に改善した(p=0.04,pairedCttest)が,超過群では術後統計的に有意な改善がなかった(p=0.11,pairedttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.19,0.38,ttest).Humphrey10-2(図6b)において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した(それぞれCp=0.003,0.002,CpairedCttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.98,0.54,ttest).図7に術前後ClogMAR視力の散布図と平均値比較を示す.12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があり(p=0.04,pairedCttest),術後視力低下傾向であった.超過群では術前後で有意差がなかった(p=0.31,pairedCttest).白内障進行による視力低下例を各群にC1眼ずつ認めた.両群の術後観察期間に有意差はなかった(p=0.17,ttest).12CmmHg以下群においてClogMAR値の差がC0.2より大きく悪化を示した症例は,術前強度近視眼(術前CHum-phrey10-2:C.31.32CdB,経過中平均眼圧:8.8CmmHg),術前中心視野障害例C2例(術前CHumphrey10-2:それぞれC.29.89CdB,C.30.31dB,経過中平均眼圧:それぞれC10.9mmHg,8.4CmmHg),または術後低眼圧黄斑症(経過中平均眼圧:7.1mmHg)であった.CIII考按POAGに対するCLET後の視野進行抑制効果について経過a:30-222術後MDslope(dB/年)術前(dBC/年)術後(dBC/年)p値術前視野観察期間(月)術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群6眼C.1.03±1.10C.0.03±0.47C0.04*C154±92(50.2C63)C53±15(36.73)12CmmHg超過群8眼C.1.40±2.03C.0.10±0.57C0.11*C87±91(8.2C13)C60±16(36.87)*:pairedttest(meanC±SD)(range)b:10-22術後MDslope(dB/年)術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)0.003*C86±69C53±2112CmmHg以下群11眼C.2.26±1.87C.0.25±0.33(20.234)(15.80)C0.002*C87±79C56±1912mmHg超過群6眼C.0.85±0.39C.0.07±0.47(22.235)(40.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)図6術前後MDスロープa:Humphrey30-2において,12CmmHg以下群では術後有意にCMDスロープが改善したが,超過群では統計的有意な改善がなかった.b:Humphrey10-2において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した.術前logMAR視力術前術後p値術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群C0.18±0.3C0.37±0.5C0.04*C54±1912CmmHg超過群C0.52±0.6C0.58±0.6C0.31*C64±16*:pairedttest(meanC±SD)(mean±SD)図7術前後logMAR視力12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があった.白内障進行による視力低下例(丸で囲む)を各群にC1眼ずつ認めた.眼圧C12CmmHg以下群と超過群で後ろ向きに比較検討した.今回対象となった症例群C26眼全体では,平均眼圧は術前C21.9±6.6CmmHgからC6年後にC12.4C±6.8CmmHgと有意に下降し,12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%,術前後CMDスロープ比較ではCHumphrey30-2で術前C.1.24±1.6dB/年から術後.0.07±0.51CdB/年と術後有意なCMDスロープの改善があり,これらは既報1.5)の術後成績と同等であった.しかし,経過眼圧C12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼で視野進行抑制効果を比較検討すると,12CmmHg以下群(経過中平均眼圧C9.4CmmHg)ではCHumphrey30-2,10-2とも術後有意なMDスロープの改善があったのに対し,超過群(経過中平均眼圧C14.2CmmHg)では,Humphrey30-2で術後有意なCMDスロープの改善がなかった.開放隅角緑内障に対する眼圧管理の重要性を示した多施設共同臨床試験の一つCAdvancedCGlaucomaCInterventionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHg,進行群の平均眼圧はC14.7CmmHgもしくはそれ以上であったと報告されている.今回の研究では経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CHumphrey30-2の変化がC.0.03±0.47CdB/年とほぼ非進行であり,経過眼圧C12CmmHg超過群では術後CMDスロープの有意な改善が得られなかったことから,今回の結果はこれと矛盾しないものと考えられた.一方CHumphrey10-2においては,経過眼圧C12CmmHg以下群も超過群も術後中心視野が維持された結果となった.中心視野,とくに耳側傍中心視野は緑内障性視野障害が進行しても保たれやすいという報告2,7,8)があり,これは視神経乳頭や乳頭黄斑線維束,黄斑部の組織的構造的特徴によるものである可能性もあるが,今回の検討は中期経過による結果のため長期経過の検討が必要と考える.今回の症例群には緑内障手術・白内障手術既往眼を含み,視野進行抑制効果の評価方法として術前後のCMDスロープを使ったトレンド解析で比較したが,既報6)と矛盾のない結果が得られた.これらのことから,進行したPOAGではC12CmmHg以下の眼圧を目標として治療することが望ましいことが示されたと考える.術後視力変化の比較では,経過眼圧C12CmmHg以下群は超過群に比較し,低下傾向であった.LET後の視力低下に関する報告は少なくない.海外の報告9.11)では術後視力低下症例は術前中心視野障害例や合併症症例であったと報告されている.わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたKashiwagiら12)の報告でも,術前の視野障害末期例や術後合併症発症例が視力低下と関連するとされている.LET後の視力変化について病型別に評価した庄司13)の報告でも,POAGにおいてCLET後視力不良例は術前の視機能(Hum-phrey10-2のCMD値)が低く,術後脈絡膜.離の割合が高かったと報告されている.今回の研究では術前中心視野障害例や術後低眼圧遷延症例で術後視力低下傾向を認めたことから,これは既報9.13)と矛盾のない結果と考えられた.一方経過眼圧C12CmmHg超過群で術後統計的に有意な視力低下を認めなかったことについて,信頼性のある視野検査結果が施行可能であった症例群ではあるもの,術前からClogMAR値C1.0を超える視力障害例を含むため,術後視力低下の評価に反映されにくかった可能性もあると考えられた.今回の症例群では,経過眼圧C12CmmHg以下群と比較し超過群で術前眼圧が有意に高く,術後ニードリングを必要とした症例の割合が有意に高かったが,わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたCSugimotoら14)の報告において,ニードリングと術前高眼圧は濾過手術の不成功因子であると報告され,これと矛盾のない結果と考えられた.経過中の晩期合併症として,経過眼圧C12CmmHg以下群に濾過胞からの房水漏出をC2眼に認めたが,濾過胞感染はなく結膜縫合のみ施行した.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,対象が少数例で術後中期経過であることから,今後多数例,長期での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にCHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できた症例ついて検討したが,当院における初回視野検査結果を含むことから,術前CMDスロープの結果に学習効果の影響があり,視野進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告15)があり,視野進行判定が不十分であった可能性がある.また,術後視力変化の検討において,LET後の視力低下には術前CHumphrey視野C10-2の中心窩閾値が関連することが報告13)されており,今回の研究では未測定であったことから今後の検討項目にする必要があると考える.今回の検討の結果,POAGに対するCLET後の中期経過において,経過眼圧C12CmHg以下群では超過群に比較し術後MDスロープの有意な改善を認め,進行したCPOAGに対する術後目標眼圧はC12CmmHg以下が望ましいことが示唆された.また,視野進行抑制効果の一方で,術前中心視野障害の強い症例や術後低眼圧遷延症例では術後視力低下傾向があることが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BertrandCV,CFieuwsCS,CStalmansCICetal:RatesCofCvisualC.eldClossCbeforeCandCafterCtrabeculectomy.CActaCOphthal-molC92:116-120,C20142)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C20023)CaprioliJ,DeLeonJM,AzarbodPetal:TrabeculectomycanCimproveClong-termCvisualCfunctionCinCglaucoma.COph-thalmologyC123:117-128,C20164)JunoyCMontolioCFG,CMuskensCRPHM,CJansoniusNM:CIn.uenceofglaucomasurgeryonvisualfunction:aclini-calcohortstudyandmeta-analysis.ActaOphthalmolC97:C193-199,C20195)FujitaCA,CSakataCR,CUedaCKCetal:EvaluationCofCfornix-basedCtrabeculectomyCoutcomesCinCJapaneseCglaucomaCpatientsCbasedConCconcreteClong-termCpreoperativeCdata.CJpnJOphthalmolC65:306-312,C20216)TheCAdvancedCGlaucomaCInterventionStudy(AGIS):7.CTheCrelationshipCbetweenCcontrolCofCintraocularCpressureCandvisual.elddeterioration.TheAGISInvestigators.AmJOphthalmolC130:429-440,C20007)WeberCJ,CSchultzeCT,CUlrichH:TheCvisualC.eldCinCadvancedglaucoma.IntOphthalmolC13:47-50,C19898)HoodCDC,CRazaCAS,CdeCMoraesCCGCetal:GlaucomatousCdamageCofCtheCmacula.CProgCRetinCEyeCResC32:1-21,C20139)SteadCRE,CKingAJ:OutcomesCofCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CBrJOphthalmolC95:960-965,C201110)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralvisioninpatientswithadvancedglaucomaunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C200711)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C201112)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alacuityandassociatedriskfactorsaftertrabeculectomywithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201613)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1036-1076,C202214)SugimotoCY,CMochizukiCH,COhkuboCSCetal:IntraocularCpressureCoutcomesCandCriskCfactorsCforCfailureCinCtheCCol-laborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentCStudy.OphthalmologyC122:2223-2233,C201515)ChauhanCBC,CGarway-HeahtCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsformeasuringratesofvisualchangeinglaucoma.BrJOphthalmolC92:569-573,C2008***

病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):354.357,2022c病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績上杉康雄徳田直人山田雄介豊田泰大塚本彩香塚原千広佐瀬佳奈北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-TermOutcomesofTrabeculectomyforEtiologicalNeovascularGlaucomaYasuoUesugi,NaotoTokuda,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,ChihiroTsukahara,KanaSase,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する線維柱帯切除術の術後長期成績について原因別に検討する.対象および方法:NVGに対して線維柱帯切除術を施行し,術後C36カ月経過観察可能であったC35例C39眼を対象とした.NVGの原因別に手術成績について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C22例C26眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(CRVO)13例C13眼(CRVO群)であった.眼圧はCDR群では術前C36.6CmmHgが術後C36カ月でC12.4CmmHg,CRVO群ではC36.0mmHgがC13.0CmmHgと両群ともに有意に下降した.Kaplan-Meier法による累積生存率は術後C36カ月でDR群C73.1%,CRVO群C83.9%であった.術後合併症はCDR群で硝子体出血がC5例存在した.結論:NVGに対する線維柱帯切除術は長期的に有効な術式だが,DR症例では眼圧コントロールが良好であっても硝子体出血を生じる患者が存在する.CObjective:Toinvestigatethelong-termpostoperativeoutcomesoftrabeculectomyforetiologicallyneovascu-larglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved39eyesof35patientswhounderwenttrabecu-lectomyforNVGandwhowerefollowedupfor36-monthspostoperative.Results:ThecausesofNVGweredia-beticretinopathy(DR)in26eyesof22cases(DRgroup)andcentralretinalveinocclusion(CRVO)in13eyesof13cases(CRVOgroup).IntheDRandCRVOgroups,themeanintraocularpressure(IOP)signi.cantlydecreasedfrom36.6CmmHgand36.0CmmHg,respectively,preoperative,to12.4CmmHgand13.0CmmHg,respectively,postopera-tive.At3-yearspostoperative,thecumulativesurvivalratesintheDRandCRVOgroupwere73.1%Cand83.9%,respectively.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC5CpatientsCDRCgroupCpatients.CConclu-sion:TrabeculectomyCforCNVGCwasCfoundCe.ectiveCoverCtheClong-termCperiodCpostCsurgery,Chowever,CvitreousChemorrhageoccurredinsomeDRpatientsdespitewell-controlledIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):354.357,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,線維柱帯切除術,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,続発緑内障.neovascularCglaucoma,trabeculectomy,diabeticretinopathy,centralretinalveinocclusion,secondaryglaucoma.Cはじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)など網膜虚血性疾患が原因となり発症する続発緑内障である.低酸素誘導され硝子体中に分泌された血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)などの液性血管新生因子により隅角新生血管が形成され,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇が生じる.治療法として線維柱帯切除術1),VEGF阻害薬投与2),緑内障チューブシャント手術3)などが行われ,その有効性が報告されている.線維柱帯切除術はCNVGに汎用される術式であるが,NVGの病因により術後経過が影響されるかについての検討は少ない.本研究ではCDRとCCRVOに続発したCNVGの術後経過を比較し,NVGに対する線維柱帯〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC354(92)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(92)C3540910-1810/22/\100/頁/JCOPY切除術の手術経過が病因により影響されるかについて検討した.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である.対象はC2011年C3月.2017年C5月のC7年間に当院でCNVGと診断され線維柱帯切除術を施行され,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C35例C39眼である.平均年齢C66.1C±12.3歳であった.NVG群の原因疾患がCDRであったC22例C26眼をCDR群,原因疾患がCCRVOであったC13例C13眼をCCRVO群とし,両群の術前後の眼圧推移と薬剤スコアの推移,術後合併症について比較検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬C1成分1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.また,Kaplan-Meier法による生存分析も行った.死亡の定義は,術後眼圧がC2回連続してC21CmmHg以上またはC5CmmHg未満を記録した時点,緑内障再手術を施行した時点,光覚喪失となった時点とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず生存とした.NVGに対する濾過手術の選択基準としては,線維柱帯切除術を基本とし,硝子体出血による視力低下を併発している症例のみ硝子体手術を併用した緑内障チューブシャント手術を選択した.線維柱帯切除術は全例円蓋部基底結膜弁で行った.結膜弁作製後,浅層強膜弁を作製しC0.04%マイトマイシンCCを結膜下に塗布し(作用時間は症例によって調整)生理食塩水100Cmlで洗浄,その後深層強膜弁を作製しCSchlemm管を同定し,深層強膜弁を切除,続いて線維柱帯を切除し周辺虹彩切除を行い,浅層強膜弁を縫合(4.7本)し,結膜を縫合し手術終了とした.全例同一術者(N.T.)により施行した.なお,2014年C2月以降に施行した症例については術前にベバシズマブの硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)を施行した.IVBについては適応外使用につき聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C2566号で承認を受け,患者への説明と同意のもと行われた.統計学的な検討は対応のあるCt検定,Mann-WhitneyCUtest,chi-squaretestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.CII結果表1に対象の背景について示す.年齢については,DR群はCCRVO群よりも有意に若かった(Mann-WhitneyCUCtestp<0.01).その他,術前眼圧,薬剤スコア,隅角所見(peripheralanteriorsynechia:PASindex),PASindex75%以上をCNVGの閉塞隅角期とした場合の割合,硝子体手術の既往,IVB実施のいずれにおいても両群間に有意差はなかった.図1にCDR群およびCCRVO群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧は両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図2にCDR群およびCCRVO群の術前後の薬剤スコアの推移を示す.薬剤スコアは両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図3にCDR群およびCCRVO群のCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後C3年の累積生存率は,DR群でC73.1%,CRVO群でC83.9%であり両群間に有意な差は認められなかった(LoglankCtestCp=0.43).なお,術前IVB実施の有無で累積生存率を検討した結果,DR群についてはCIVB無群でC68.8%,IVB有群でC80.0%(Loglanktestp=0.56),CRVO群についてはCIVB無群でC88.9%,IVB有群でC75.0%(LoglankCtestCp=0.62)と有意な差は認められなかった.表2に術後合併症について示す.術後合併症は,硝子体出血がCDR群でC5眼(19.2%),水疱性角膜症がCCRVO群でC1眼(7.7%),眼球癆がCDR群でC1眼(3.8%)に認められた.硝子体出血を生じたCDR群のC5眼うちC3眼は硝子体手術を要した.術後C2段階以上の視力低下が生じた症例は,表1対象の背景DR群CRVO群22例26眼13例13眼p値年齢(歳)C61.2±12.2C76.0±4.0C0.0001*術前矯正視力C0.36±0.5C0.30±0.4C0.27*術前眼圧(mmHg)C37.4±10.9C36.4±5.7C0.84*術前薬剤スコア(点)C4.5±0.6C4.6±0.5C0.46*PASindex(%)C46.2±17.9C43.9±20.2C0.46*閉塞隅角期(PASindex≧75%)(%)C11.5C15.4C0.87**硝子体手術の既往(%)C19.2C23.1C0.89**線維柱帯切除術前CIVB(%)C57.7C69.2C0.73**PAS:peripheralanteriorsynechia,IVB:intravitrealbevacizumab.*:Mann-Whitneytest,**:chi-squaretest.(93)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C355眼圧(mmHg)5040302010術前術後3カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間54321薬剤スコア(点)観察期間図2血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後の薬剤スコアの推移各群ともに術前と比較し術後有意な薬剤スコアの減少を示した.抗緑内障点眼薬1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点.エラーバー:標準偏差.合併症表2術後合併症DR群CRVO群(n=26)(n=13)p値DR群0.673.1%Loglanktestp=0.435眼0眼C0.09**硝子体出血(19.2%)(0%)0眼1眼C0.15**水疱性角膜症(0%)(7.7%)1眼0眼C0.47**C061218243036眼球癆(3.8%)(0%)2段階以上の4眼3眼観察期間(カ月)視力低下(15.4%)(23.1%)C0.56**累積生存率図3Kaplan.Meier生存分析PDR群で硝子体出血を生じたC5眼中C3眼は硝子体手術を要した.死亡定義:眼圧が2回連続して21mmHg以上または**:chi-squaretest.4CmmHg未満を記録した時点,または緑内障再手術となった時点.(94)DR群でC4眼(15.4%),CRVO群でC3眼(23.1%)認められた.CIII考按本研究は経過観察期間C36カ月という比較的長期の経過を検討している.同様に長期経過観察を行っているCTakiharaらの報告1)では,1,2,5年後の手術成功率がそれぞれ62.6%,58.2%,51.7%であった.また,Higashideらの報告2)ではベバシズマブを併用し,平均経過観察期間C45カ月でC1,3,5年後の手術成功率がそれぞれC86.9%,74.0%,51.3%であった.本研究ではC3年後生存率がCDR群C73.1%CRVO群C83.9%でCHigashideらの報告に近い結果となった.これはDR群15眼(57.7%),CRVO群9眼(69.2%)にVEGF阻害薬を併用して隅角新生血管の活動性を低下させてから線維柱帯切除術を行っていることが要因と考えられた.また,当院では,線維柱帯切除術を狩野らの報告4)と同様に強膜二重弁を作製し深層強膜弁を切除する方法で行っているが,NVGについてはCSchlemm管同定後,深層強膜弁をさらに角膜側まで進めてから強角膜片切除を行うようにしている.この方法によりCPASが生じているCNVG症例に対しても術後に前房出血を生じることが少なくできるため,手術成績の向上に貢献した可能性があると考える.DR群とCCRVO群の背景を比較してみると,年齢はCDR群のほうがCCRVO群のよりも有意に若くなっていたが,これはCCRVOが動脈硬化を生じやすい高齢者に多いことが影響したものと考える.眼圧,薬剤スコア,PASindexについては両群で有意差を認めなかったことから,術前のCNVGの活動性に大差はなかったと考えられる.また,ベバシズマブ使用率にも差はなく,術後眼圧推移,術後薬剤スコア推移とも両群で同様の推移を示した.つまり原因疾患が異なっていても筆者らが行ったCNVGに対する線維柱帯切除術は眼圧下降効果,持続性ともに有効であったことが示唆される.一方術後合併症に関しては,DR群で硝子体出血が多くみられ,再手術症例,眼球癆に至った症例もみられた.DR群では房水流出にかかわる前眼部には十分な濾過効果が得られたにもかかわらず,硝子体出血を生じた理由としては,血糖コントロールの悪化が影響したと考える.線維柱帯切除術後に硝子体出血をきたした症例は,術後しばらくしてから血糖コントロールが再度悪化し,その後硝子体出血を発症している.DRに続発したCNVGでは術後も血糖管理が重要であることを再確認する結果となった.また,これはあくまで推測の域を出ないが,CRVOでは発症からCNVGに至る経過は短期間であり,眼底に血管増殖膜や硝子体出血などの重篤な変化が生じる前に緑内障手術となることが多い印象がある.それに対して,DR群ではCNVGに至る時点ですでに線維血管増殖や牽引性.離など眼底に重篤な病変を形成していることも多い.このような症例では緑内障術後,眼圧下降により眼底虚血はある程度改善されたとしても,術前から存在する不可逆性の眼底病変が術後血糖コントロール不良などを引き金に再燃する可能性が残っている.つまり,NVGに至るまでの背景の違いが術後合併症の差につながったとも考えられる.本研究は少数例の後ろ向き研究であり,より多数例での検討が必要である.また,DR群とCCRVO群に年齢に有意差があり,CRVO群のなかに眼虚血症候群の症例が存在していた可能性はあるが,眼底病因にかかわらずCNVGに対して線維柱帯切除術は有効であることが示唆された.近年ではVEGF阻害薬治療をCNVGの初期治療として行うことがVENERA/VEGA試験により有効であることが示され,単独治療でも眼圧コントロールができる症例が報告されている5,6).本研究が行われた時期では,こうした比較的軽度な患者も手術対象となっていたと考えられる.また,DRやCRVOに関しては以前よりもCVEGF阻害薬で黄斑浮腫治療を行う場合が多くなり,NVGに至る病態は以前と異なってきている可能性がある.VEGF阻害治療のみでコントロールできない重篤な患者においても,病因によって術後経過に差異がないかなど今後の検討を要する点である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20092)HigashideCT,COhkuboCS,CSugiyamaK:Long-termCout-comesandprognosticfactorsoftrabeculectomyfollowingintraocularCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCglauco-ma.PLoSOneC10:e0135766,C20153)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucomaC20:433-438,C20114)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTher38:C1116-1129,C20216)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C2021(95)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C357

ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):738.741,2020cぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響水井理恵子丸山勝彦内海卓也禰津直也小竹修後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectofPhacoemulsi.cationandIntraocularLensImplantationonIntraocularPressureFollowingTrabeculectomyinEyeswithSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitisRiekoMizui,KatsuhikoMaruyama,TakuyaUtsumi,NaoyaNezu,OsamuKotakeandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC目的:ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術の眼圧調整に及ぼす影響を,原発開放隅角緑内障の二期的白内障手術後の場合と比較すること.対象および方法:線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行ったぶどう膜炎続発緑内障(UG群)15例C15眼と,同様に線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行った原発開放隅角緑内障(POAG群)23例C23眼を対象とした.平均経過観察期間はCUG群がC48カ月(13.121カ月),POAG群がC37カ月(12.128カ月)で,眼圧調整の定義は,①術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なしの二つとし,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.また,両群における眼圧調整良好例の術後C1年の時点での眼圧を対応のないCt-検定で比較し,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの正確検定で比較した.結果:術後C1年目の眼圧調整成績は,定義①ではCUG群C27%,POAG群C35%,定義②ではそれぞれC80%,70%で,両群間に差はなかった.また,術後C1年での眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群6.5±1.3CmmHg,POAG群ではC7.3±3.5CmmHg,定義②ではそれぞれC8.5±2.3CmmHg,8.7±3.3CmmHgとなり,両群間に差はなかった.さらに,術中,術後合併症の頻度も両群間に差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.結論:炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定してよいと考えられる.CPurpose:Tocomparethee.ectofphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)onintra-ocularpressure(IOP)followingtrabeculectomybetweenuveiticglaucoma(UG)eyesandprimaryopen-angleglau-coma(POAG)eyes.Methods:Weenrolled15eyesof15patientswithUG(UGgroup)and23eyesof23patientswithPOAG(POAGgroup,control)whounderwentPEA+IOLaftertrabeculectomy.TheprobabilityofsuccessfulIOPCcontrolCandCtheCincidenceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TheprobabilityofasuccessfulIOPcontrolofunder12CmmHgwithoutadditionalsurgerywas80%intheUGgroupand70%inthePOAGgroup(log-ranktest,p=0.82).Therewerenostatisticaldi.erencesintheinci-denceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCbetweenCtwoCgroups.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCstudyCsug-gestthattheindicationofcataractsurgeryaftertrabeculectomyinUGeyesissimilartothatinPOAGeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):738.741,C2020〕Keywords:ぶどう膜炎,続発緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障,線維柱帯切除術,白内障.uveitis,secondaryglau-coma,uveitisglaucoma,trabeculectomy,cataract.Cはじめに障(uveiticglaucoma:UG)を含めたすべての緑内障病型に線維柱帯切除術は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-適応される標準術式であるが1),術後合併症として白内障のCangleglaucoma:POAG)のみならず,ぶどう膜炎続発緑内発生が知られている2).その白内障の進行によって視機能が〔別刷請求先〕水井理恵子:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:RiekoMizui,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC738(94)表1対象の背景UG群POAG群p値眼数C1523C.年齢C55.1±10.5(35.73)歳C59.9±6.6(45.70)歳C0.11*男:女9:615:8C1.00†線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間C29.5±26.6(18.43)カ月C32.5±20.7(18.32)カ月C0.70*術前眼圧C7.8±2.3(4.12)mmHgC8.5±2.4(5.12)mmHgC0.45*角膜内皮細胞密度C2,527.9±446.8(1,370.3,155)/mmC2C2,517.7±269.7(2,141.3,378)/mmC2C0.89*経過観察期間C47.9±29.6(13.121)月C37.3±29.0(12.128)月C0.30*平均C±標準偏差(レンジ).UG:uveiticglaucomaぶどう膜炎続発緑内障,POAG:primaryopen-angleglaucoma原発開放隅角緑内障.*:対応のないCt-検定,C†:Fisherの正確検定.低下した場合には水晶体再建術が行われるが,線維柱帯切除Ca100眼圧調整成績(%)80604020術後に二期的白内障手術を行うと,POAG3,4),UG5,6)のいずれの場合であっても,その後の眼圧調整が悪化することが知られている.このような二期的白内障手術後の眼圧上昇は,白内障手術後に前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇し7),それらの影響によって濾過胞内の創傷治癒が促進され,濾過機能が減弱して生じる8)と考えられている.したがって,潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,二期的白内障手術の成績はPOAGと異なる可能性も考えられるが,これまで両者の比較は行われていない.01020304050607080生存数期間(月)15UG群:4422223POAG群:86311b100本研究の目的は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的眼圧調整成績(%)80604020白内障手術の成績をCPOAGと比較することである.I対象および方法線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行い,1年以上経過観察したCUG(UG群)15例C15眼とCPOAG(POAG群)23例C23眼を対象に,診療録を基にしたCcase-controlstudyを行った.対象の背景に両群間の差はなかった(表1).UG群のぶどう膜炎の内訳は,Behcet病,サルコイドーシス,急性前部ぶどう膜炎,サイトメガロウイルス虹彩炎が各C1眼で,他は同定不能であったが,二期的白内障術前に炎症反応を認めた症例はなかった.なお,両群とも全例が濾過胞所見によってC0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C1.2回使用していたが,眼圧下降薬を使用していた症例はなかった.なお,白内障手術時にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用した症例は対象から除外した.検討項目は以下のとおりである.まず,白内障術後の両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.眼圧調整の定義は,①術後の眼圧値が術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②術後の眼圧値がC12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし,の二つとし,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合は,1回目の時点で眼圧調01020304050607080生存数期間(月)UG群:151210740POAG群:231610652図1両群の眼圧調整成績の比較実線:UG群,点線:POAG群.Ca:定義①(術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C27%,POAG群C35%(術後C1年目),p=0.70.Cb:定義②(眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C80%,POAG群C70%(術後C1年目),p=0.82.整不良と判定した.なお,白内障術後の眼圧下降薬の使用やニードリング,眼球マッサージなどの処置追加の有無は眼圧調整の定義に含めなかった.また,両群の眼圧調整良好例について,術後C1年における眼圧を対応のないCt-検定で比較した.さらに,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの表2術中,術後合併症の頻度UG群POAG群(n=15)(n=23)p値‡C術中合併症後.破損0%0%C1.00結膜損傷0%0%C1.00術後合併症房水漏出0%0%C1.00低眼圧*27%9%C0.19後発白内障*0%9%C0.51角膜内皮細胞密度減少†7%0%C0.39濾過不全*20%44%C0.18緑内障再手術0%4%*:処置を要したもの,C†:術後C1年で減少率C10%以上のもの,C‡:Fisherの正確検定.正確検定で比較した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果白内障術後の眼圧調整成績を図1に示す.定義①,②の場合ともに両群間に有意差はなかった.術後C1年における眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群C6.5C±1.3CmmHg(5.8mmHg),POAG群ではC7.3C±3.5mmHg(3.12mmHg),定義②ではそれぞれC8.5C±2.3CmmHg(5.12CmmHg),8.7C±3.3CmmHg(3.12CmmHg)で,両群間に有意差はなかった(定義①Cp=0.728,定義②Cp=0.709).術中,術後合併症の頻度を表2に示す.両群間に有意差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.CIII考按本研究は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績をCPOAGと比較した初めての報告である.少数例ではあるが,今回の筆者らの検討では,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績はCPOAGと同等で,眼圧調整良好の術後眼圧や術中術後合併症の頻度も同等という結果になった.線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績に関しては,Almobarakら5)が,27眼(術前眼圧:14mmHg,線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間:平均C28カ月)を対象とした後ろ向き研究の結果,眼圧下降薬の併用なしで眼圧をC6.21CmmHgの間に調整できたのは術後C1年目でC84%であったと報告している.本報告では白内障術後の眼圧調整のカットオフ値の上限をC12CmmHgに設定したところ,術後C1年目ではC80%と良好な成績であったが,これは今回,筆者らが対象とした症例の術前眼圧が比較的低かったことを反映した結果と考えられる.有濾過胞眼に対して二期的白内障手術を行う際には,それまで良好にコントロールされていた眼圧が上昇する可能性を考慮し,眼圧値や濾過胞形態から症例に応じて白内障手術にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用することもある.本研究の対象は,それらの操作を併用する必要がないと判断された症例のみであり,術前眼圧は平均C7.8CmmHg,最高でもC12CmmHgとかなり低い値に調整されており,これらの背景が好成績につながった可能性も考えられる.線維柱帯切除術既往眼に対する二期的白内障手術の成績に影響する因子として,線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が知られている.すなわち,線維柱帯切除術後C1年以内に白内障手術を施行した場合の眼圧調整成績は,POAG,UGのいずれも不良であることが報告されている4,6).本研究では線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が平均C2年以上と長期間であったことも良好な成績につながった理由の一つと考えられる.今回の結果では,術後合併症のなかで,処置を要する低眼圧の頻度がCPOAG群よりCUG群で高い傾向があった.経結膜的強膜弁縫合などの処置を行ったあとで,両群とも全例が改善したことから,低眼圧の主原因は過剰濾過であったと考えられる.それに加えてCUG群では房水産生の低下も低眼圧発生に関与していた可能性があるが,正確に同定することは困難である.有濾過胞眼に対する二期的白内障手術後の濾過胞不全や眼圧上昇は,白内障手術により炎症性サイトカインの一つであるCmonocyteCchemoattractantprotein-1の前房内濃度が上昇し7),その影響により結膜下の線維化や濾過胞の瘢痕化が促進され,濾過機能が減弱することが推測されている8).潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,POAGと比較して二期的白内障手術後の眼圧調整成績は不良となる可能性は十分に考えられるが,今回の筆者らの検討では同等の成績となった.むろん,本研究は単一施設における少数例を対象とした後ろ向き研究であり,症例の選択バイアスの影響は否定できないが,炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定して良いことが示唆された.今後はさらに症例数を重ね,長期経過やぶどう膜炎の原因別に成績を検討していくことが必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FellmanCRL,CGroverD:Trabeculectomy.In:Glaucoma,SurgicalManagement(EdbyShaarawyTMetal)p749-780,Amsterdam,Elsevier,20152)BronAM,LabbeA,AptelF:Cataractfollowingtrabecu-lectomy.In:Glaucoma,CSurgicalCManagement(EdCbyCShaarawyTMetal)p882-999,Amsterdam,Elsevier,20153)RebolledaCG,CMunoz-NegreteFJ:Phacoemulsi.cationCineyeswithfunctioning.lteringblebs:aprospectivestudy.OphthalmologyC109:2248-2255,C20024)Awai-KasaokaCN,CInoueCT,CTakiharaCYCetal:ImpactCofCphacoemulsi.cationConCfailureCofCtrabeculectomyCwithCmitomycin-C.JCataractRefractSurgC38:419-424,C20125)AlmobarakCFA,CAlharbiCAH,CMoralesCJCetal:TheCin.u-enceCofCphacoemulsi.cationConCintraocularCpressureCcon-trolCandCtrabeculectomyCsurvivalCinCuveiticCglaucoma.CJGlaucomaC26:444-449,C20176)NishizawaCA,CInoueCT,COhiraCSCetal:TheCin.uenceCofCphacoemulsi.cationConCsurgicalCoutcomesCofCtrabeculecto-myCwithCmitomycin-CCforCuveiticCglaucoma.CPLoSCOneC11:e0151947,C20167)KawaiCM,CInoueCT,CInataniCMCetal:ElevatedClevelsCofCmonocytechemoattractantprotein-1intheaqueoushumorafterCphacoemulsi.cation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C7951-7960,C20128)TakiharaY,InataniM,Ogata-IwaoMetal:Trabeculec-tomyforopen-angleglaucomainphakiceyesvsinpseu-dophakicCeyesCafterphacoemulsi.cation:aCprospectiveCclinicalcohortstudy.JAMAOphthalmolC132:69-76,C2014***

濾過胞形成不全に対するニードリングの成績

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):735.737,2020c濾過胞形成不全に対するニードリングの成績嵜野祐二田村弘一郎横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座CResultsofNeedlingforBlebFailureYujiSakino,KouichiroTamura,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)後の濾過胞形成不全に対するニードリングの成績について検討した.対象および方法:ニードリングを施行したC20例C20眼が対象.ニードリング施行前後の眼圧,ニードリング施行回数につき検討した.結果:ニードリングのみ施行はC13眼,ニードリングが奏効せず追加観血的手術を要したのはC7眼であった.初回ニードリングからの観察期間は平均C10.2C±14.6カ月.ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.眼圧はC27.0C±5.9CmmHg(12.35CmmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36mmHg)と優位に下降した(p=0.0009).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離がC2例ずつみられたが自然軽快した.結論:ニードリングは重篤な合併症が少なく,およそ半数の症例で奏効する可能性があり,積極的に施行してよいと考える.CPurpose:ToCevaluateCtheCresultsCofCneedlingCrevisionCforCblebCfailurefollowingCtrabeculectomy(TLE)withmitomycinC(MMC)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved20eyesof20patientswhounderwentneedlingrevision.Inallpatients,intraocularpressure(IOP)andthenumberofneedlingrevisionsrequiredduringtheobser-vationCperiodCwasCexamined.CResults:ThirteenCeyesCunderwentCneedlingCrevisionCalone,CwhileC7CeyesCrequiredCadditionalCsurgeryCdueCtoCtheCneedlingCrevisionCbeingCunsuccessful.CTheCmeanCobservationCperiodCfollowingC.rstCneedlingrevisionwas10.2±14.6months.Themeannumberofneedlingrevisionswas2.3±1.7times(range:1-6times).MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom27.0±5.9CmmHg(range:12-35mmHg)to17.5±7.5CmmHg(range:9-36CmmHg)(p=0.0009)C.CComplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC2CcasesCandCchoroidalCdetachmentCinC2Ccases,CyetCtheyCwereCspontaneouslyCrelieved.CConclusions:NeedlingCrevisionChadCfewCseriousCcomplications,CandCwase.ectivein50%ofthepatientswithfailingblebsfollowingtrabeculectomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):735.737,C2020〕Keywords:線維柱帯切除術,ニードリング,濾過胞形成不全.trabeculectomy,needling,blebfailure.はじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は緑内障に対するもっとも標準的な外科手術で,眼圧下降効果が高い1).2012年にCglau-comaCdrainagedevice(GDD)を用いた緑内障手術が,2018年には水晶体再建術併用眼内ドレナージ挿入術が保険適用となり,治療の選択肢が広がったが,依然として緑内障手術の中でもっとも施行件数が多いのはCTLEである2).しかしながら,術後の濾過胞形成不全による房水流出障害,眼圧上昇が生じ,ニードリングを要することがある3.5).ニードリング施行後の合併症には過剰濾過,低眼圧,脈絡膜.離,硝子体出血などがあるが,外来で簡便に施行でき,良好な濾過胞形成や眼圧下降が得られるため,濾過胞再建の第一選択として施行されることが多い.本研究では,当院におけるCMMC併用CTLE後の濾過胞形成不全に対し,ニードリングを施行した症例について検討した.CI対象および方法対象は2013年1月.2019年5月末にMMC併用TLEを施行したC465例C465眼中,濾過胞形成不全でニードリング〔別刷請求先〕嵜野祐二:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YujiSakino,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama,Yufu-city,Oita879-5593,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C735表1対象症例の詳細症例年齢性別病型既往手術歴TLEから初回ニードリングまでの期間(週)ニードリング回数()はその内MMC使用回数追加手術観察期間*(月)眼圧(mmHg)合併症前後C1C69男性CPOAGCTLOTLEC172(0)なしC6C28C16なしC2C64男性CPOAGCTLOTLEC201(0)なしC16C20C18なしC3C57男性CPOAGCTLOC41(0)なしC7C12C9なしC4C81男性CPOAGC381(0)なしC5C21C15なしC5C84男性CPOAGCPEA+IOLC51(0)なしC4C26C16CCDC6C83男性CPOAGCPEA+IOLC81(0)なしC8C19C15なしC7C64男性CEXGC133(0)なしC9C29C10なしC8C69男性CEXGC41(0)なしC64C25C14なしC9C86男性CEXGC51(0)なしC5C30C9なしC10C81男性CEXGC51(0)なしC6C25C15なしC11C68男性CNVGC91(0)なしC3C33C12なしC12C51男性CNVGC352(1)なしC6C31C15CVHC13C80男性CSGC41(0)なしC16C35C10CCDC14C61男性CPOAGCPPVtripleC43(1)CTLEC28C24C18なしC15C85男性CEXGCTLOC54(0)CTLEC12C29C24なしC16C78男性CEXGCTLOTLEC94(1)CTLEC12C32C22なしC17C37女性CNVGCPPVtripleC36(2)再建,TLE,BGIC7C32C36なしC18C46女性CNVGCPPVtripleC93(2)再建C6C23C16CVHC19C22男性CSGCTLOC71(0)再建,BGIC3C30C32なしC20C71男性CCGCTLOtripleC86(2)再建,TLE,BGIC4C35C29なしPOAG:原発開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,NVG:血管新生緑内障,SG:続発緑内障,CG:小児緑内障,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,PEA+IOL:水晶体再建術+眼内レンズ挿入術,PPV:硝子体切除術,再建:観血的濾過胞再建術,BGI:バルベルト緑内障インプラント,CD:脈絡膜.離,VH:硝子体出血.*観察期間は,ニードリングのみ施行した症例は最終受診時まで,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前まで.を施行したC20例C20眼(男性C18眼,女性C2眼)である.診療録を後ろ向きに調査した.年齢はC66.7C±16.9歳(22.86歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)7眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)6眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)4眼,EXG以外の続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)2眼,小児緑内障(childhoodglaucoma:CG)1眼であった.MMC併用CTLEは全例で円蓋部基底結膜切開であった.手術既往のあるものはC12眼.TLEから初回ニードリングまでの期間はC10.6C±9.9週(3.38週)であった(表1).初回ニードリングは円蓋部結膜下にC0.2%キシロカインを注射後,濾過胞から十分離れた上方球結膜よりC25CG針を刺入し,濾過胞周囲結膜下の癒着を.離した.濾過胞形成が不十分の際は,針を強膜弁下に刺入して弁を浮かせ,良好な濾過胞が形成されるのを確認した.MMC結膜下注射を併用する場合は,0.04%CMMCとC0.2%キシロカインを1:1で混合したものを結膜下注射した後に施行した.術後に抗菌薬およびステロイド点眼を使用した.術後成績の評価にはCStudentのCt検定,Kaplan-Meier法を用いた.CII結果結果を表1に示す.単回あるいは複数回のニードリングを施行したのがC13眼,ニードリングが奏効せず追加手術を要したのがC7眼であった.追加観血的手術はCMMC併用CTLEがC5眼,観血的濾過胞再建術がC4眼.バルベルト緑内障インプラントがC3眼(重複あり)であった.ニードリング施行前および施行後(ニードリングのみ施行した症例は最終受診時,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前)の眼圧は,C27.0±5.9mmHg(12.35mmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36CmmHg)と有意に下降した(p=0.0009).初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義し,最終736あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(92)観察時までに死亡したのはC11眼であった(最終生存率C45%)(図1).ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.MMC結膜下注射を併用したニードリングはC6眼(計C9回)であった.MMC結膜下注射を併用したのはC2回目以降の施行であり,6眼のうちC5眼は追加観血的手術を要した.さらにこれらのC5眼には全例で内眼手術の既往があった(表1).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然経過した.CIII考按ニードリングで使用する注射針としては一般的にC25CG,27CG,30CGが多い.23CGを用いた報告もあるが5),径が太いと結膜縫合が必要となることがある.当院では初回施行時にはすべてC25CGを使用した.2回目以降は,結膜下組織が固いため注射針での.離が不十分な症例もあった.その際にブレブナイフ6)を使用したものがC2眼あったが,結膜縫合を要した症例はなかった.結膜下癒着の.離のみで十分な眼圧下降が得られない場合には,強膜弁下の増殖組織を解除する必要があるが7,8),その際にもC25CGは径や強度がほどよく有用性が高いと考える.初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義したところ,最終観察時での生存率がC45%であった.死亡したC11眼のうちC9眼で内眼手術の既往があり,手術既往のある眼は線維芽細胞の活動性が高くなることにより濾過胞の瘢痕化が生じやすく,ニードリングの効果が持続しづらくなるものと考える5).2回目以降のニードリングや追加手術を要さなかったものはC6眼(30%)で,既報とほぼ同様であった5).2回目以降を施行した症例のうち,MMC結膜下注射併用ニードリングを施行したのはC6眼(計C9回)であった.そのうちC5眼で内眼手術の既往があった.POAGではC7眼中C6眼で内眼手術の既往があったものの,単回のニードリングのみで最終的にC4眼が生存し,追加観血的手術を必要としたのはC1眼のみで,他の病型と比べニードリングが奏効した.追加観血的手術の内訳は濾過胞再建術C4眼,MMC併用CTLE5眼,バルベルト緑内障インプラントC3眼(重複あり)であった.最終的にはC3.18mmHg(9.4C±5.4CmmHg)と十分な眼圧下降が得られた.手術既往のある眼は,複数回のニードリングあるいは追加手術が必要となる症例が多く,線維芽細胞の活性化と濾過胞の瘢痕化が繰り返し生じて眼圧上昇すると考えられる.合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然軽快しており,眼内炎や水疱性角膜症などの重篤な合併症はなかった.本研究の限界は,対象がC20眼と少ない点であり,今後さ生存率(%)100806045%402000123456図1生存曲線初回ニードリング後,15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となったもの,あるいは追加観血的手術を施行したものを死亡と定義.4カ月を過ぎて以降,新たな死亡症例なし.らに症例を増やして検討を重ねる必要がある.ニードリングは手技が簡便で重篤な合併症が少なく,本研究ではC20眼のうちC9眼で奏効しており,濾過胞形成不全に対する第一選択として積極的に施行してよいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ErricoCD,CScrimieriCF,CRiccardiCRCetal:TrabeculectomyCwithCdoubleClowCdoseCofCmitomycinCCC-twoCyearsCofCfol-low-up.ClinOphthalmolC5:1679-1686,C20112)橋本洋平,道端伸明,松井宏樹ほか:本邦における近年の緑内障手術の傾向:大規模データベースを用いた記述研究.日眼会誌C123:815-823,C20193)TsaiCAS,CBoeyCPY,CHtoonCHMCetal:BlebCneedlingCout-comesCforCfailedCtrabeculectomyCblebsCinCAsianeyes:aC2-yearfollowup.IntJOphthalmolC8:748-753,C20154)LaspasP,CulmannPD,GrusFHetal:Revisionofencap-sulatedCblebsCaftertrabeculectomy:Long-termCcompari-sonCofCstandardCblebCneedlingCandCmodi.edCneedlingCpro-cedurecombinedwithtransconjunctivalscleral.apsutures.PLoSOneC12:e0178099,C20155)狩野廉,桑山泰明:注射針による濾過胞再建術(Needling)の術後成績.眼科手術C20:267-273,C20076)相良健:濾過胞再建用極細クレッセントナイフ「ブレブナイフ」.眼科手術23:71-74,C20107)相原一:線維柱帯切除術後の再発─同一創濾過胞再建術の実際─.MBOCULISTAC42:1-9,C20168)野村英一,安村玲子,石戸岳仁ほか:ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め.あたらしい眼科C34:1178-1181,C2017***(93)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C737

硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1070.1073,2019c硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較内海卓也丸山勝彦小竹修禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野SurgicalOutcomeofGlaucomaFilteringSurgeryinVitrectomizedEyes:AhmedGlaucomaValveversusEX-PRESSShuntTakuyaUtsumi,KatsuhikoMaruyama,OsamuKotake,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC硝子体手術既往眼に対してアーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行したC13例C16眼(アーメド群)とアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術を施行したC14例14眼(エクスプレス群)の成績を比較した.Kaplan-Meier法による術後C1年目の眼圧調整成績はアーメド群C38%,エクスプレス群C79%であった(Logrank検定,p=0.03).また,術後合併症の頻度に関しては,低眼圧がアーメド群で有意に多かった(Fisherの正確検定,p=0.03).なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.多変量解析の結果では,術式のみが独立して眼圧調整成績に影響することが判明した(Stepwise法,p=0.02).以上の結果から,硝子体手術既往眼に対しては,施術可能であるならアーメド手術よりエクスプレス手術のほうが術後成績がよい可能性がある.CWeCretrospectivelyCanalyzedC30CcasesCwithCmedicallyCuncontrolledCglaucomaCaftervitrectomy;16CeyesCinC13CcasesCwereCtreatedCwithCimplantationCofCtheCAhmedCglaucomavalve(AGVgroup)andC14CeyesCinC14CcasesCwithCimplantationoftheEX-PRESSglaucoma.ltrationdevice(EX-PRESSgroup).At1yearaftersurgery,thesuccessrateCwas38%CinCAGVCgroupCversus79%CinCEX-PRESSgroup(Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCanalysis,CLogrankCtest,Cp=0.03).CTheCincidenceCofCpostoperativeChypotonyCwasChigherCinCAGVgroup(Fisher’sCexactCtest,Cp=0.03).CExpulsivehemorrhagedidnotoccurineithergroup.Stepwisemultipleregressionanalysisshowedthatthesurgi-calprocedurewasofindependentin.uence;therefore,EX-PRESSimplantationmaybeasaferandmoree.ectiveprocedurethanAGVimplantationforglaucomapatientswithvitrectomizedeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(8):1070.1073,C2019〕Keywords:硝子体手術既往眼,緑内障手術,アーメド,エクスプレス,線維柱帯切除術.vitrectomizedCeye,Cglaucomasurgery,Ahmed,EX-PRESS,trabeculectomy.Cはじめに硝子体手術既往眼に対して線維柱帯切除術を行うと,急激な眼圧下降に伴って眼球が虚脱し,駆逐性出血などの重篤な合併症が生じる危険性が高いことが知られている1).このような問題点に対して,プレートを有するチューブシャントであるアーメド緑内障バルブ(以下,アーメド,NewCWorldMedical)は調圧弁を有するため,アーメドを用いたチューブシャント手術(以下,アーメド手術)では低眼圧に関連した合併症をきたしにくいという利点がある2).また,プレートのないミニチューブであるアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス,AlconLaboratories)を用いたチューブシャント手術(以下,エクスプレス手術)は濾過量が限定的であるため,線維柱帯切除術と比べ術後の低眼圧が生じにくいことがわかっている3).したがって,硝子体手術既往眼に対して眼圧下降手術を行う場合,線維柱帯切除術よりアーメド手術やエクスプレス手〔別刷請求先〕内海卓也:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:TakuyaUtsumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC1070(100)表1対象の背景アーメド群エクスプレス群p値症例数/眼数C年齢(歳)C病型(原発緑内障:続発緑内障)続発緑内障のうち血管新生緑内障(眼)C術前眼圧(mmHg)C術前薬剤数(合剤,内服はC2本として計算)C硝子体手術を必要とした原因増殖糖尿病網膜症C裂孔原性網膜.離C硝子体出血C黄斑円孔Cぶどう膜炎C黄斑前膜C後.破損C硝子体手術から緑内障手術までの期間(月)C硝子体手術以外の手術既往(眼,重複あり)白内障手術C緑内障濾過手術C強膜内陥術C角膜移植術C経過観察期間(月)C13/16C62.9±13.2(C35.C79)C1:1C513C27.6±7.3(18.43)C3.8±2.1(0.7)C12C1C2C0C1C0C0C22.8±23.4(2.84)C16C14C2C0C23.5±6.8(12.34)C14/14C59.8±12.7(C43.C80)C4:1C0C7C24.7±3.7(18.32)C2.9±1.0(0.4)C7C2C0C2C1C1C1C74.9±79.1(C3.C206)C14C50C2C59.3±15.1(C12.C74).0.51*0.16†0.12†0.19*0.09*0.26†0.59†0.49†0.21†1.00†0.47†0.47†0.02*1.00†<C0.01C†0.49†0.21†<C0.01C†平均±標準偏差(レンジ).*:対応のないCt-検定.†:Fisherの正確検定.術を適応したほうが低眼圧に伴う重篤な合併症が生じにくい可能性があるが,これまで十分な検討は行われておらず,アーメド手術とエクスプレス手術の成績の比較も行われていない.このような背景を踏まえ,本研究では硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の眼圧調整成績と合併症の頻度を後ろ向きに比較した.CI対象および方法対象は,一定期間内(2012年C9月.2017年C6月)に東京医科大学病院でアーメド手術,あるいはエクスプレス手術を施行し,術後C1年以上経過観察したC27例C30眼の硝子体手術既往眼である(それぞれアーメド群,エクスプレス群とした).なお,対象にシリコーンオイル注入眼はなかった.表1に内訳を記載した.手術方法は以下のとおりである.まず,アーメド手術はモデルCFP-7を用い,上耳側または下耳側に輪部からC9Cmmの位置でプレートを縫合し,症例に応じてチューブを前房,後房,硝子体腔に挿入して保存強膜で被覆した.なお,プレートを上耳側に縫合したのはC3眼,下耳側はC13眼,チューブの挿入部位は前房,後房,硝子体腔それぞれC8眼,5眼,3眼であった.また,エクスプレス手術はモデルCP-50を用い,術中マイトマイシンCCを塗布して,術後はレーザー強膜弁縫合切糸術で濾過量を調整し,適宜ニードリングを行った.両術式とも術後の濾過不全,眼圧上昇に対しては眼球マッサージや眼圧下降薬の追加を行い,必要に応じて緑内障手術の再手術を行った.検討項目は以下のとおりである.まず,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,Logrank検定で比較した.眼圧調整不良の定義は眼圧C18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前からの眼圧下降率C20%未満とし,3回連続でこれらの条件を満たしたときにC1回目の時点を不良とした.また,緑内障手術の再手術を行った場合も不良としたが,眼圧下降薬の使用やレーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は問わないこととした.つぎに,経過中の眼圧を対応のないCt-検定で,両群の術後合併症と追加処置の頻度をCFisherの正確検定で比較した.さらに,アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,これまで報告されている眼圧調整不良に影響する因子4),すなわち,年齢,血管新生緑内障か否か,術前眼圧,硝子体手術から緑内障手術までの期間に差があるかをCFisherの正確検定で比較した.そして,眼圧調整成績に影響する因子をCStepwise法で検討した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果両群の眼圧調整成績を図1に示す.術後C1年目における眼眼圧調整成績(%)10080604020(mmHg)03024.72011020304050607080平均眼圧100生存数アーメド群:16エクスプレス群:14114131020393040期間(950月)6057080図1アーメド群とエクスプレス群の眼圧調整成績と経過中の平均眼圧眼圧調整不良の定義:18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前眼圧からの眼圧下降率C20%未満,緑内障手術の再手術を行った場合(眼圧下降薬の使用,レーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は不問).経過中の眼圧:眼圧調整良好例のみの検討.*:Logrank検定.†:対応のないCt-検定.表2術後合併症と追加処置の頻度アーメド群(n=16)エクスプレス群(n=14)p値†術後合併症硝子体出血19%7%C0.06前房出血19%21%C1.00低眼圧*56%14%C0.03追加処置経結膜的強膜弁縫合C.29%C.ニードリングC.43%C.緑内障手術の再手術31%29%C1.00重複あり.*:眼圧C5CmmHg未満,2週間以上遷延するもの,†:Fisherの正確検定.圧調整率はアーメド群C38%に対しエクスプレス群C79%であり,アーメド群はエクスプレス群と比較し有意に眼圧調整が不良であった.また,術後C1年での平均眼圧もエクスプレス群で有意に低かった.術後合併症と追加処置の頻度を表2に示す.2週間以上遷延するC5CmmHg未満の低眼圧の頻度はアーメド群で有意に多かった.なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,背景因子の差の有無を検討した結果を表3に示す.いずれの因子にも差はなかった.眼圧調整成績に影響する因子の検討結果を表4に示す.独立変数を眼圧調整良好か否か,従属変数を本研究で有意差のみられた術式(アーメド手術かエクスプレス手術か),緑内障濾過手術の既往,術後低眼圧の有無,硝子体手術から緑内障手術までの期間,経過観察期間として解析したところ,説明変数として唯一術式が抽出され,独立して眼圧調整に影響していることがわかった.CIII考按本研究は,シリコーンオイル注入などを行っていない通常の硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の術後成績を比較した初めての報告である.眼圧調整成績はエクスプレス群のほうがアーメド群より良好で,術後低眼圧を生じる頻度も少なかった.また,多変量解析の結果でも術式が独立して眼圧調整に影響しており,アーメド手術よりエクスプレス手術のほうが成績良好であることがわかった.なお,本研究の対象のなかには駆逐性出血を生じた症例はなかった.硝子体手術既往眼に対する眼圧下降手術の成績に関しては,Inoueら4)が線維柱帯切除術についてC116眼を対象に検表3眼圧調整良好例と不良例の背景因子表4眼圧調整成績に影響する因子良好群(n=17)不良群(n=13)p値年齢C65.1±11.7歳(43.8C0歳)C56.6±13.0歳(35.7C4歳)C*0.07血管新生緑内障10眼10眼C0.23†術前眼圧C26.1±6.0CmmHg(18.4C3mmHg)C26.4±6.3CmmHg(18.4C2mmHg)C*0.88硝子体手術から緑内障手術までの期間C60.5±65.9月(3.2C06月)C29.1±52.4月(2.1C99月)C*0.17平均C±標準偏差(レンジ),*:対応のないCt-検定,†:Fisherの正確検定.討を行っている.眼圧がC21CmmHgを超えた場合や緑内障手術の再手術を行った場合,光覚が消失した場合を眼圧調整不良としたとき,術後C1年目での眼圧調整率はC55%であったと報告している.また,同報告では眼圧調整に影響する因子を多変量解析で検討しており,眼圧調整不良となる危険率は術前眼圧がC1CmmHg上がるごとにC1.05倍,病型が血管新生緑内障であるとC1.88倍になるとしている.この結果を踏まえ,本研究でも同様の検討を行ったが,術前眼圧や病型に有意差はなかった.このように,硝子体手術既往眼に対する成績が線維柱帯切除術とエクスプレス手術やアーメド手術で異なる可能性はあるが,本報告とCInoueら4)の報告には術式以外にも対象の背景因子や眼圧調整不良の定義など多くの相違があり,優劣は不明である.後ろ向き研究である本研究には各種バイアスの影響が否定できない.とくに,今回対象となった症例の背景は多彩であり,検討した項目以外に関連する臨床因子が存在する可能性がある.また,手術適応や手術操作が必ずしも一定していないという問題もあるが,今回の検討結果からは,さまざまな背景因子があったとしても,硝子体手術既往眼に対しては結膜弁作製,強膜弁作製などの操作が可能であればエクスプレ従属変数Crp値術式(アーメド手術Corエクスプレス手術)C緑内障濾過手術の既往C術後低眼圧C硝子体手術から緑内障手術までの期間C経過観察期間C.0.41C0.330.17.0.26.0.300.02アーメド手術:アーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術,エクスプレス手術:アルコンCRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術.ス手術を適応したほうがよい成績が得られる可能性があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SpeakerMG,GuerrieroPN,MetJAetal:Acase-controlstudyCofCriskCfactorsCforCintraoperativeCsuprachoroidalCexpulsivehemorrhage.OphthalmologyC98:202-209,C19912)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal;ABC-AVBStudyCGroups:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedBaerveldtcomparisonstudyandtheAhmedver-susCBaerveldtCStudy.CAmCJCOphthalmolC176:118-126,C20173)WangL,ShaF,GuoDDetal:E.cacyandeconomicanal-ysisCofCEx-PRESSCimplantationCversusCtrabeculectomyCinCuncontrolledglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.IntJOphthalmolC9:124-131,C20164)InoueT,InataniK,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C2012***