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無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1191.1195,2017c無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績宮平大輝與那原理子新垣淑邦酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座COutcomesofSurgicalRevisionforAvascularFilteringBlebHirokiMiyahira,MichikoYonahara,YoshikuniArakakiandHiroshiSakaiCOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績を報告する.対象:琉球大学医学部附属病院において,2011年10月.C2015年C9月に線維柱帯切除術後の無血管濾過胞に対し濾過胞再建術を施行した連続症例C8例C8眼.7眼で濾過胞漏出を,2眼で濾過胞感染を合併していた.方法:手術はC1眼で無血管濾過胞下にCTenon.被覆を,1眼は濾過胞除去+結膜縫合を,6眼は濾過胞除去+結膜円蓋部減張切開+自家結膜有茎弁移植を行った.結果:術後経過観察期間は12.48カ月(平均C24.8カ月).術前眼圧はC4.16mmHg(7.6C±4.3mmHg),緑内障点眼数はC1.9C±1.2であった.Tenon.被覆を行ったC1眼と,濾過胞除去と減張切開併用結膜被覆を行ったC6眼で術後有血管性濾過胞が形成された.濾過胞除去と結膜被覆のみを行ったC1眼では濾過胞は消失した.濾過胞漏出再発はなく,最終観察時眼圧はC8.18mmHg(13.5C±2.8CmmHg),点眼数C2.1C±1.1であった.結論:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術により濾過胞漏出は解消され,眼圧もコントロールされた.結膜円蓋部減張切開を併用した結膜被覆術は,濾過胞を維持する有効で安全な方法である.CPurpose:Toreportthesurgicalresultsofblebrevisionforleakingavascularblebaftertrabeculectomy.Sub-jects:EightCconsecutiveCeyesCofC8CpatientsCwhoChadCundergoneCtrabeculectomyCdevelopedCleakingCavascularCblebCorblebitis.Methods:Sixeyesunderwentblebremoval+autologousconjunctivatransplantationwithrelaxinginci-sion.CTennon’sCcapsuleCtransplantationCorCsimpleCconjunctivaCsuturingCwereCperformedCinCtheCotherC2Ceyes.CResults:PreoperativeCintraocularCpressure(IOP)wasC7.6C±4.3CmmHg,CtreatedCwithC1.9±1.2Canti-glaucomaCeye-drops.Inanaverageof24.8months’(range12-48)follow-upperiod,IOPwascontrolledwithin8-18CmmHg(13.5C±2.8)withC2.1±1.1Canti-glaucomaCeyedrops.CVascularCblebCwasCobservedCinC7Ceyes,Cexcepting1CeyeCthatCreceivedCsimplesuturing.Conclusions:Surgicalblebrevisionforavascularblebise.ectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1191.1195,C2017〕Keywords:線維柱帯切除術,無血管濾過胞,濾過胞漏出,濾過胞炎,結膜移植.trabeculectomy,avascularbleb,leakingbleb,blebitis,autologousconjunctivatransplantation.Cはじめに緑内障は世界において失明原因の第C2位1),日本において視力障害の原因の第C1位2)とされている.治療法として眼圧下降療法の有用性が示されており,開放隅角緑内障に対しては薬物治療が第一選択とされるが,眼圧コントロールが不十分な症例には手術が行われる.手術による眼圧下降療法としてはレーザー線維柱帯形成術,流出路再建術,線維柱帯切除術や深層強膜切除術などの濾過手術,緑内障インプラント手術などがある.なかでも,マイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術(trabeclectomy:TLE)は,確実な眼圧下降によりわが国において標準術式として広く行われている3).一方,TLEにはさまざまな合併症が存在することが知られている.浅前房・前房消失,濾過胞漏出,脈絡膜.離,巨大濾過胞,悪性緑内障,上脈絡膜出血,線維柱帯切除部の閉鎖,encapsulatedCbleb,角膜乱視,中心視野消失,過剰濾過,濾過胞漏出,低眼圧黄斑症,濾過胞感染,白内障,over-hangingbleb,眼瞼下垂,角膜乱視の増加などのさまざまな合併症のなかでも,濾過胞感染および術後眼内炎は失明の可〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,Ophthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN表1濾過胞漏出に対する保存的加療の報告治療方法Cn成功寧(%)合併症ソフトコンタクトレンズ7)C15C80ドライアイ(6.7%)CSimmons’shell8)C5C80C.フィブリン糊9)C12C75記載なしシアノアクリレート9)C8C37.5記載なし自己血清点眼10)C42C42.1C.自己血濾過胞内注入11)C12C58.3前房出血(58.3%)全眼球炎(8.3%)ヒアルロン酸CNa濾過胞内注入12)C2C100C.トリクロロ酢酸による焼灼13)C3C100C.Nd:YAGレーザー14)C14C57.1医原性漏出(42.9%)虹彩収縮(42.9%)高眼圧(7.1%)Argonレーザー15)C15C86.7医原性穿孔(20%)角膜実質混濁(6.7%)表2濾過胞漏出に対する手術療法の報告(海外,国内)術式Cn術後眼圧(mmHg)緑内障手術追加漏出再発濾過胞感染発症49C13.8±4.8C2C..上方結膜前方移動16.18)C34C14.08±7.36C1C1C1C海外濾過胞切除+遊離結膜弁19)C羊膜移植18)C強膜移植20)C15C58C15C15C12.7±1.3C12.67±4.83C10.9±0.9C14.1±3.3C3C2C3C.1C3C4C..1.1濾過胞焼灼+遊離結膜弁21)C47C11.9±4.1C.2C.国内濾過胞切除+上方結膜前方移動22)C遊離結膜弁23)C337.1C5C6.1C6C……Tenon.遊離移植24)C54.1C4C.1C.濾過胞切除または温存+羊膜移植25)C211.1C5C…濾過胞拡大+compressionsuture26)C21.9C…能性のある重篤な合併症と考えられている.最近,日本においてCTLE術後の濾過胞感染症の発症頻度を研究する前向きの多施設前向き研究CCollaborativeCBleb-relatedCInfectionIncidenceCandCTreatmentCStudy(CBIITS)が行われ,TLE術後の濾過胞感染症の発症率はC5年間で累積C2.0C±0.5%と報告された4).TLE術後の濾過胞感染症の実態を調査する多施設調査研究CJapanGlaucomaSocietySurveyofBleb-relatedInfection(JGSSBI)では,開放隅角緑内障眼の術後濾過胞感染における失明率は全濾過胞関連感染においてC16%,眼内炎を発症した場合にはC44%と報告されている5).筆者らは当院において硝子体手術を必要とした重症濾過胞感染症例の視力予後の検討を行い,失明率がC70%(10眼中C7眼)と高率であることを報告した6).TLE術後の濾過胞感染の危険因子として濾過胞漏出の既往が示されており,CBIITSによれば術後C5年間での発症率は濾過胞漏出の既往がある場合C7.9C±3.1%であり,既往のない場合C1.7C±0.4%の約C5倍である4).濾過胞漏出に対する治療としてさまざまな方法が報告され1192あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017ている.手術以外の保存的方法には,濾過胞内に物質を注入する方法と濾過胞を被覆する方法がある.(表1)7.15)有効率の低さ,治療後の重篤な合併症の可能性も報告されており,菲薄化した濾過胞が残存するという根本的な問題点も存在する.手術加療には大きく分けて二つの方法がある.一つは濾過胞を拡大させ,濾過胞にかかる内圧を減少させることにより漏出を止める方法,もう一つは濾過胞を自家組織(結膜,Tenon.)や生体材料(羊膜,ドナー強膜)を用いて被覆する方法である.表2に国外,国内から報告されている手術方法およびその術後眼圧,緑内障手術追加,漏出再発,濾過胞感染発症などの術後成績を示す16.26).わが国においては過剰濾過に対する濾過胞再建術の術後成績の報告は比較的少ない.今回,筆者らは当院で行った濾過胞再建術の経過についてその術式を含めて報告する.CI対象および方法対象:2011年C10月.2015年C9月に,濾過手術後に無血(118)術前術後術前術後図1濾過胞再建術前(a,c,e,g,i,k,m,o,q)および術後(b,d,f,h,j,l,n,p,r)濾過胞の細隙灯顕微鏡写真および前眼部OCT写真(o,p)Ca,b:症例1,Cc,d:症例2,Ce,f:症例3,Cg,h:症例4,Ci,j:症例5,Ck,l:症例6,Cm,n,o,p,:症例7,Cq,r:症例8.C管濾過胞を呈し濾過胞再建術を行った全症例C9例C9眼.このうち,無血管濾過胞に広範な強膜壊死と眼内炎を生じ,緊急で姑息的に結膜被覆術を行ったC1症例(図1a,b)を除外したC8例C8眼を解析対象とした.1例のみ通院自己中断があり,その他C7例はC2016年C9.11月が最終診察で,現在術後C1.5年の経過観察中である.観察期間はC12.48カ月,平均C24.8カ月であった.濾過手術の術式はすべて線維柱帯切除術であり,1例を除いてCMMCを併用していた.術前背景,術後眼圧,術後点眼,術後濾過胞の経過について検討した.術式:濾過胞再建術はCTenon.または結膜+Tenon.の自家移植または縫合で行った.1例では濾過胞は切除せずにTenon.を輪部側へ進展させ無血管濾過胞の下の強膜に10-0ナイロン糸で縫着した(症例C1,図1c,d).7例では無血管濾過胞を切除した.このうち,1例では,強膜弁縫合と10-0ナイロン糸により周辺結膜を寄せて縫合する結膜縫合のみを行った(症例2,図1e,f).6例(症例3.8,図1i.t)で円蓋部で結膜のみを減張切開し,Tenon.を伸展させ結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植を施行した.後方の結膜を寄せて角膜輪部をC10-0ナイロン糸にて縫合した.輪部へと寄せるための円蓋部結膜の減張切開は1.3列,すだれ状に行いCTenon.を伸展させ,結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植(図2)を施行した.円蓋部結膜減張切開部は縫合や被覆は行わず,abc図2濾過胞切除術+減張切開併用結膜有茎弁移植術a:濾過胞切除+円蓋部結膜減張切開(灰色線).b:結膜減張切開のさらに円蓋部側に結膜切開をすだれ状に追加.Cc:結膜弁を前方移動させ輪部にC7-0バイクリル糸で縫合,円蓋部CTenon.は露出(斜線).Tenon.が露出した状態で手術を終了した.このC6例のうちC1例では強膜弁縫合を追加し,1例では同時手術として白内障手術を行った.CII結果全C8症例の術前,術後の細隙灯顕微鏡写真および症例C7の術前および術後の前眼部COCT所見を図1に示す.Tenon.移植した症例C1と,結膜有茎弁移植を行った症例C3.8において術後も丈のある濾過胞が維持された.濾過胞再建術前,術後の視力,眼圧,薬剤数(1薬C1点,アセタゾラミド内服2点),術後濾過胞の有無,術後の濾過胞漏出の有無を表3に示す.術後に矯正視力が術前からC2段階以上の視力低下を表3術前,術後患者背景と所見MMC発症までの術前濾過胞性状濾過胞術後術前術後術前眼圧術後最終術前術後術後術後症例年齢性別緑内障病型C観察眼圧濾過胞濾過胞(0.04%)期間(年)丈血管漏出C感染期間視力視力(mmHg)(mmHg)点眼数点眼数の有無漏出1C70CM血管新生緑内障5分C10.3ありなしありなしC14C0.04C0.01C4C13C1C3ありなしC2C75CMCPOAG5分C4.0ありなしなしありC48C0.01手動弁C4C15C2C3なしなしC3C68CMCPOAG3分30秒C4.0ありなしありありC37C0.7C0.9C4C12C4C3ありなしC4C56CMぶどう膜炎続発4分20秒C8.4ありなしありなしC31C0.9C1.2C6C14C2C1ありなしC5C56CM血管新生緑内障不明約8ありなしありなしC22C0.03C0.06C16C16C3C3ありなしC6C72CM落屑緑内障5分C0.8ありなしありなしC19C0.5C0.7C6C8C0C2ありなしC7C59CFCPACG4分C7.3ありなしありなしC15C0.04C0.03C10C14C2C0ありなしC8C57CM色素緑内障なしC26.4ありなしありなしC12C1.0C1.2C11C14C1C2ありなしPOAG:原発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.きたした症例はなかった.濾過胞再建後に水晶体再建術がC2眼に施行され,1例で術前C0.9が術後C1.2,1例で術前C0.5が術後C1.5に回復した.点眼数は術前平均C1.9,術後C2.1で統計的に差はなかったが,眼圧は術前平均C7.6C±4.3CmmHgからC13.5C±2.8CmmHgへと有意に上昇した(p=0.0032,対応のあるCt検定).術前眼圧はC6CmmHg以下の低眼圧がC5眼であったが,術後に低眼圧症例はなかった.術後に濾過胞漏出や感染をきたした症例はなく,眼圧上昇により緑内障手術の追加を要した症例もなかった.CIII考按濾過胞漏出に対してはさまざまな保存的療法が報告されており,当院においても過去に自己血注射,粘弾性物質の注入,レーザー光凝固などを施行してきた.しかしながら,その成績は既報のとおり満足のいくものではなかった.そのため,保存療法としては眼軟膏の点入などを行っているだけであった.また,濾過胞漏出への対応としては強膜フラップの縫合により濾過胞を完全に機能させなくすることが有効であると考えていたが,緑内障性視神経症の進行予防のためにはより低い眼圧が望ましいと考えられるため,こうした観血的手術の施行を行うことは非常にまれであった.しかしながら,TLE術後症例数の増加に伴い,当院においても術後感染症例は近年増加傾向である.筆者らも参加した全国的な多施設研究であるCCBIITSによれば,線維柱帯切除術後に濾過胞漏出のある濾過胞では術後C5年以内にC12.7人にC1人(7.9%)が感染性の眼内炎を発症する4).濾過胞漏出の発症時期は術後一定期間を経てからであることを考慮すると,漏出した濾過胞を呈して眼が数年以内に濾過胞感染を引き起こす可能性は十分に高いことが認識できる.また,硝子体手術を必要とする重症濾過胞感染症例の視力予後が失明率C70%(10眼中C7眼)と不良であったこと6)を考慮すると,濾過胞漏出に対して再建術を行うことを検討しなければならない.濾過胞再建術は,海外から比較的多数例の報告があるが,わが国においてその報告は少ない.眼圧下降が得られている濾過胞に対して侵襲を加えることにより濾過効果が失われ,眼圧上昇,緑内障性視神経症が進行することには懸念がある.一方で,TLE術後眼内炎の頻度は高く,予後不良であることから治療の必要性は高い.わが国において濾過胞漏出に対する再建術の報告が少ない理由の一つとしては,日本人では西洋人よりも術後瘢痕の形成が強いと推定されていることがあるだろう.加えて,沖縄県住民は眼球構造が小さく27),濾過胞形成の条件はさらに不利であることが推定される.結膜円蓋部も浅く濾過胞形成に不利である眼に形成された濾過胞に侵襲を加えるためには,濾過胞再建術の成績を検討する意義は大きい.今回,筆者らがC4年間に行った濾過胞再建術の成績は,おおむね海外からの報告どおり良好であった.また,筆者らは結膜.が狭い症例への対応のための必要性から結膜円蓋部の減張切開をC5眼に施行したが,結果として濾過胞圧の軽減と術後濾過胞の維持に貢献した可能性がある.円蓋部の結膜を大きく無縫合にする術式であり濾過胞漏出や結膜被覆不全も懸念されたが,Tenon.により濾過胞漏出はなく,結膜上皮欠損部は上眼瞼結膜上皮にシールドされて結膜上皮の増殖による被覆に問題が起きた症例もなかった.今回の検討はC8眼と少なく,最小経過観察期間がC1年と短いことは本研究の限界である.過去の報告にあるように濾過胞漏出の再発,眼内炎の発症,眼圧上昇による緑内障手術の追加の可能性については今後とも経過観察を行いたい.結論として,TLE後の濾過胞漏出漏出に対する濾過胞再建術は安全で有効な方法であり,減張切開を併用する結膜有茎弁移植濾過胞維持の可能な術式である.濾過胞感染の発症率の高さを考慮すると,TLE術後に濾過胞漏出が出現した場合濾過胞再建術を検討する必要がある.文献1)WorldCHealthCOrganization.CVisualCimpairmentCandCblind-ness,FactsheetNo.282.April2011.Availableat:http://Cwww.who.int/mediacentre/factsheets/fs282/en/.CAccessedAugust6,20112)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricCMedicineC44:1221-1224,C20063)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C116:3-46,C20124)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafter.lteringsurgerieswithadjunctivemitomycinC.col-laborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreatmentCstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)YamamotoT,KuwayamaY,NomuraEetal:ChangesinvisualCacuityCandCintra-ocularCpressureCfollowingCbleb-relatedCinfection:theCJapanCGlaucomaCSocietyCSurveyCofCBleb-relatedCInfectionCReportC2.CActaCOphthalmolC91:Ce420-e426,C20136)宮平大輝,新垣淑邦,與那原理子ほか:琉球大学眼科における重症濾過胞炎の臨床的特徴と経過,眼科手術C30:335-340,C20177)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetCal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19908)RudermanCJM,CAllenCRC:SimmonsC’CtamponadeCshellCforCleaking.ltrationblebs.ArchOphthalmolC103:1708-1710,C19859)AsraniSG,WilenskyJT:Managementofblebleaksafterglaucoma.lteringsurgery.Useofautologous.brintissueglueasanalternative.OphthalmologyC103:294-298,C199610)MatsuoCH,CTomidokoroCA,CTomitaCGCetCal:TopicalCappli-cationofautologousserumforthetreatmentoflate-onsetaqueousCoozingCorCpoint-leakCthroughC.lteringCbleb.CEyeC19:23-28,C200511)LeenCMM,CMosterCMR,CKatzCLJCetCal:ManagementCofCover.lteringCandCleakingCblebsCwithCautologousCbloodCinjection.ArchOphthalmolC113:1050-1055,C199512)出口香穂里,横山知子,木内良明:線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出に対し高分子量ヒアルロン酸ナトリウム高濃度製剤の濾過胞内注入を行ったC2例.あたらしい眼科C26:969-972,C200913)GehringCJR,CCiccarelliCEC:TrichloraceticCacidCtreatmentCof.lteringblebsfollowingcataractextraction.AmJOph-thalmolC74:622-624,C197214)GeyerCO:ManagementCofClarge,Cleaking,CandCinadvertant.lteringblebswiththeneodymium:YAGlaser.Ophthal-mologyC105:983-987,C199815)HennisCHL,CStewartCWC:UseCofCtheCargonClaserCtoCcloseC.lteringCblebCleaks.CGraefesCAuchCClinCExpCOphthalmolC230:537-541,C199216)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200417)Al-ShahwanS,Al-TorbakAA,Al-JadaanIetal:Long-termCfollowCupCofCsurgicalCrepairCofClateCblebCleaksCafterCglaucomaC.lteringCsurgery.CJCGlaucomaC15:432-436,C200618)RauscherCFM,CBartonCK,CBudenzCDLCetCal:Long-termCoutcomesofamnioticmembranetransplantationforrepairofCleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:1052-1054,C200719)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201120)HarizmanCN,CBen-CnaanCR,CGoldenfeldCMCetCal:DonorCscleralpatchfortreatinghypotonyduetoleakingand/orover.lteringblebs.JGlaucomaC14:492-496,C200521)HarrisCLD,CYangCG,CFeldmanCRMCetCal:AutologousCcon-junctivalCresurfacingCofCleakingC.lteringCblebs.COphthal-mologyC107:1675-1680,C200022)木内良明,梶川哲,追中松芳ほか:房水が漏出する濾過胞(Leakingbleb)の再建術.眼科C39:667-672,C199723)岡部純子,木村英也,野崎実穂ほか:房水漏出を認める濾過胞に対する遊離結膜弁移植.臨眼C55:545-549,C200124)山内遵秀,澤口昭一,江本宜暢ほか:Tenon.移植による漏出濾過胞再建術.あたらしい眼科C25:557-560,C200825)椋野洋和,金森章泰,瀬谷隆ほか:晩発性濾過胞漏出に対する羊膜を用いた濾過胞再建術.臨眼C57:1699-1704,C200326)三浦聡子,臼井審一,多田明日美ほか:強膜弁直上に漏出点がある場合の新しい濾過胞再建術を施行したC2症例.眼臨紀C7:174-178,C201427)鯉淵浩,早川和久,上原健ほか:沖縄県久米島住民の前眼部生体計測.日眼会誌C97:1185-1192,C1993

抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響

2015年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(12):1757.1761,2015c抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響辻拓也竹下弘伸山本佳乃嵩翔太郎山川良治久留米大学医学部眼科学講座PerioperativeImpactsofAntithromboticTherapyinTrabeculectomyTakuyaTsuji,HironobuTakeshita,YoshinoYamamoto,ShotaroDakeandRyojiYamakawaDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine目的:線維柱帯切除術において,抗血栓薬の内服の有無による影響について検討した.対象および方法:2008年4月.2012年12月に,初回線維柱帯切除術(白内障同時手術を含む)を施行した130例143眼.年齢は平均68.9±10.8歳,術後観察期間25.4±14.9カ月.対象を抗血栓薬内服群と非内服群に分類し,術後の経過について後ろ向きに検討した.抗血栓薬内服群は全症例が術前に休薬して手術を行った.結果:抗血栓薬内服群25例27眼,非内服群105例116眼であった.眼圧のコントロールについては,24カ月の時点では両群に有意差はなかった.術中・術後の合併症では,前房出血が内服群9眼(33.3%),非内服群15眼(12.9%)で有意であった.前房洗浄が必要となった2眼は内服群の症例であった.結論:線維柱帯切除術において,抗血栓薬を休薬しても術後前房出血に注意すべきと考えられた.Purpose:Toevaluateantithrombotictherapyintrabeculectomy.Subjectsandmethods:Thisstudyincluded143eyesof130patientswhounderwentprimarytrabeculectomyortrabeculectomycombinedwithcataractsurgerybetweenApril2008andDecember2012.Meanagewas68.9±10.8years.Meanfollow-upperiodwas25.4±14.9months.Patientswereclassifiedintoantithromboticgroupandnon-antithromboticgroup.Surgicaloutcomeswereretrospectivelyevaluated.Antithrombotictherapywasdiscontinuedbeforetrabeculectomy.Results:Theantithromboticgroupincluded27eyesof25patients.Thenon-antithromboticgroupincluded116eyesof105patients.Therewasnosignificantdifferencebetweenthegroupsintermsofintraocularpressurecontrolat24months.Theincidenceofhyphemawassignificantlygreaterintheantithromboticgroup(9eyes,33.3%)thaninthenon-antithromboticgroup(15eyes,12.9%)(p=0.01).Anteriorchamberwashoutwasrequiredin2eyesoftheantithromboticgroup.Therewerenosignificantdifferencesinothercomplicationsbetweenthegroups.Conclusion:Hyphemacouldoccuraftertrabeculectomy,evenduringdiscontinuationofantithrombotictherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1757.1761,2015〕Keywords:線維柱帯切除術,抗血栓療法,合併症,眼圧コントロール.trabeculectomy,antithrombotictherapy,complications,controlofintraocularpressure.はじめに手術の周術期における抗血栓薬管理は,日常臨床でしばしば問題となる1,2).抗血栓薬は,抗凝固薬と抗血小板薬に分類され,休薬すれば観血的処置時の止血操作は容易になると期待されるが,血栓・塞栓性疾患発症のリスクは高くなる.一方,抗血栓薬継続下で処置を行えば,血栓・塞栓症発症のリスクを上げることはないが,術中の止血操作が困難になる可能性がある3).眼科手術と抗血栓療法については,近年いろいろ議論されるようになってきた3.7).とくに抗血栓薬内服患者の緑内障手術では,周術期の出血性合併症の頻度が高くなるという報告8.12)がある.当院においては抗血栓薬を内服している場合,原則として休薬して緑内障手術を行っている.今回,線維柱帯切除術の手術成績を抗血栓薬療法の有無で検討した.I対象および方法2008年4月.2012年12月に,久留米大学病院眼科にて初回線維柱帯切除術(白内障同時手術を含む)を施行した〔別刷請求先〕辻拓也:〒830-0011福岡県久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuyaTsuji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1757 表1おもな抗凝固薬・抗血栓薬の術前投与休止期間危険率5%未満を有意差ありとした.おもな商品名休止期間(術前)ワーファリンRII結果5日プラビックスR14日内服群は25例27眼,非内服群は105例116眼であった.パナルジンR7.14日症例背景を表2に示す.年齢,性別は両群間で有意差はなバイアスピリンR,バファリンR7.10日エパデールR7.10日く(Wilcoxonsigned-ranktest),各病型も両群間に有意差プレタールR1.4日はなかった(c2検定).抗血栓薬の種類は抗血小板薬20眼,ペルサンチンR1.2日抗凝固薬4眼,抗血小板薬+抗凝固薬3眼であった.アンプラーグR1.2日全身既往症は,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患,脳梗塞,不ドルナーR,プロサイリンR1.2日オパルモンR,プロレナールR1日整脈の割合が内服群で有意に高かった.眼圧の経過を図1に示す.平均眼圧(内服群/非内服群)は,術前30.93±7.80mmHg(n=27)/31.42±6.78mmHg(n130例143眼(男性75眼,女性68眼)を対象とした.年齢=116),術後6カ月12.12±3.97mmHg(n=25)/13.39±は平均68.9±10.8歳,術後観察期間は平均25.4±14.9カ月5.33mmHg(n=113),術後12カ月12.68±3.80mmHg(n(3.60カ月).病型の内訳は,落屑緑内障46眼,続発緑内=22)/13.84±5.88mmHg(n=96),術後24カ月10.18±障40眼,原発開放隅角緑内障35眼,血管新生緑内障17眼,3.74mmHg(n=11)/13.54±5.70mmHg(n=56)であった.原発閉塞隅角緑内障3眼,発達緑内障2眼であった.続発緑両群とも術前と比較して術後24カ月まで有意に眼圧は下降内障はぶどう膜炎や他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用した(Wilcoxonsigned-ranktest).また,術前および術後が原因となって眼圧上昇が生じた緑内障で,落屑緑内障,血12カ月まで両群間の眼圧値に有意差はなかった(Mann管新生緑内障を除いたものとした.続発緑内障は,ぶどう膜WhitneyUtest).炎による緑内障25眼,硝子体手術・白内障手術後の緑内障薬剤スコアの経過を図2に示す.平均薬剤スコア(内服群10眼,外傷後の緑内障2眼,虹彩角膜内皮症候群2眼,ス/非内服群)は,術前5.08±0.85点(n=27)/5.05±1.02点(nテロイド緑内障1眼であった.=114),術後6カ月は0.40±1.11点(n=25)/0.66±1.17点対象症例を抗血栓薬を内服している患者で術前に休薬した(n=113),術後12カ月0.59±1.22点(n=22)/0.96±1.34症例(以下,内服群)と,抗血栓薬をもともと内服していな点(n=96),術後24カ月0.46±1.21点(n=11)/1.10±1.41い症例(以下,非内服群)に分類して検討した.内服群は全点(n=11)であった.両群とも術前と比較して術後24カ月症例で休薬可能かを処方医に確認し,適切な休薬期間5,7)(表まで有意に薬剤スコアは減少し(Wilcoxonsigned-rank1)の後に手術を行った.test),両群間の薬剤スコアに有意差はなかった(Mann線維柱帯切除術の術式は,結膜を円蓋部基底で切開し,4WhitneyUtest).mm×4mmの表層強膜弁を作製した.0.04%マイトマイシ眼圧20mmHg以下でのKaplan-Meier生命表を用いた群ンCを結膜下・強膜弁下に3.4分塗布後,生理食塩水100別の累積生存率を図3に示す.内服群の生存率は,術後6カmlで洗浄した.深層に強膜トンネルを作製し,線維柱帯を月96.3%(n=25),術後12カ月96.3%(n=22),術後24カ含む強角膜片を切除後,周辺虹彩切除を行った.表層強膜弁月90.3%(n=11)であった.非内服群の生存率は,術後6を10-0ナイロン針にて4.5糸縫合した後,結膜を10-0ナカ月93.9(n=111),術後12カ月93.9%(n=93),術後24イロン針にて縫合した.術後,浅前房,脈絡膜.離など過剰カ月89.1%(n=53)であり,両群間に有意差はなかった濾過が生じた症例には,圧迫眼帯などを行った.眼圧下降が(Log-ranktest,p=0.848).不十分な場合,濾過胞の丈が低い場合はレーザー切糸術を適術中・術後の合併症を表3に示す.出血性合併症として前宜施行した.房出血,硝子体出血,上脈絡膜出血を認めた.非内服群の2検討項目は,眼圧,薬剤スコア,生存率,術中・術後の合眼は,前房出血と硝子体出血,前房出血と上脈絡膜出血の重併症,追加処置とした.薬剤スコアは,緑内障点眼1剤1複例があった.出血性合併症の頻度は,内服群27眼中10点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.眼(37.0%),非内服群116眼中19眼(16.4%)と内服群に統計学的検討は,Wilcoxonsigned-ranktest,Mannおいて有意に高かった.とくに前房出血が非内服群16眼WhitneyUtest,c2検定,Fisher’sexacttestを用いた.生(13.8%),内服群9眼(33.3%)と内服群が有意に高かった存率はKaplan-Meier生命表法を用い,2回連続で20(c2検定).濾過胞漏出,脈絡膜.離は両群間に有意差はなmmHgを超えた時点,再手術を追加した時点を死亡と定義かった.また,内服群では抗血栓薬の休薬による全身的な血した.2群間の生存率の比較にはLog-ranktestを用いた.栓・塞栓症の発症はなかった.さらに抗血栓薬の種類と出血1758あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(126) 表2症例背景抗血栓薬内服群(内服群)抗血栓薬非内服群(非内服群)(n=27)(n=116)pvalue年齢(Mean±SD(years))69.5±11.068.8±10.90.77*性別(男性/女性)18/957/590.10*抗血栓薬抗血小板薬20抗凝固薬4抗血小板薬+抗凝固薬3病型0.34**原発開放隅角緑内障8(29.6%)27(23.3%)0.49**原発閉塞隅角緑内障03(2.6%)>0.99***落屑緑内障8(29.6%)38(32.4%)0.75**続発緑内障5(18.5%)35(30.2%)0.15**血管新生緑内障6(22.2%)11(9.5%)0.07**発達緑内障02(1.7%)>0.99***全身既往歴高血圧16(61.5%)42(35.9%)0.016**糖尿病13(50.0%)21(17.9%)<0.001**冠動脈疾患9(34.6%)2(1.7%)<0.001***脳梗塞5(19.2%)5(4.3%)0.009***不整脈4(15.4%)4(3.4%)0.03****Mann-WhitneyUtest,**c2test,***Fisher’sexacttest.眼圧(mmHg)4035302520151050非内服群内服群01234567薬剤スコア(点)非内服群内服群術前術後136121824術前術後1M361218観察期間(月)観察期間(月)図2薬剤スコア図1眼圧の経過両群とも術前に比べて有意に薬剤スコアの低下を認め,両群間両群とも術前眼圧に比較していずれの時点でも有意に下降した.両群を比較すると術前および術後12カ月まで両群間の眼圧値に有意差はなかった.表3合併症に有意な差はなかった.02040608010096.3%90.3%93.9%89.1%(%)非内服群内服群06121824抗血栓薬内服群抗血栓薬非内服群(内服群)(n=27)(非内服群)(n=116)pvalue出血性合併症前房出血硝子体出血上脈絡膜出血濾過胞漏出10(37.0%)9(33.3%)1(3.8%)0(0.0%)9(33.3%)19(16.4%)+16(13.8%)3(0.9%)2(1.7%)20(17.2%)0.016*0.016*0.57**0.5**0.06*脈絡膜.離6(22.2%)17(14.6%)0.33*+2眼重複あり,*c2test,**Fisher’sexacttest.図3Kaplan.Meier生命表を用いた眼圧コントロール率(20mmHg以下)両群間に有意差はなかった.観察期間(月)(127)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151759 表4抗血栓薬の種類と出血性合併症出血性合併症あり(n=10)出血性合併症なし(n=17)計pvalue抗血小板薬515200.065抗凝固薬2240.613抗血小板薬+抗凝固薬3030.041Fisher’sexacttest.性合併症について表4に示す.抗血小板薬+抗凝固薬において,出血性合併症3眼(100%),出血性合併症なし0眼(0%)と有意に高かった(Fisher’sexacttest).追加処置を表5に示す.出血性合併症に対する処置として,内服群の2眼(7.4%)で前房出血に対して前房洗浄を行った.非内服群で上脈絡膜出血を起こした2眼のうち1眼に対して脈絡膜下排液を行った.脈絡膜.離に対して圧迫眼帯で軽快し,追加処置はなかった.前房洗浄が必要になったのは,内服群の2眼であった.結膜縫合,ニードリングは両群間に有意差はなかった.III考按日本循環器学会が作成した「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」では眼科領域では白内障手術については記述されているが,緑内障手術や硝子体手術などに対しては明記されていない3).白内障手術は,抗血小板療法継続下での白内障の手術時や手術後に出血を合併したとの症例報告もあるが,抗血栓薬を術前に休薬すると血栓症や塞栓症を発症する恐れがあることと,角膜と水晶体には血管がないため通常の白内障手術では出血しないことから,休薬せずに出血の少ない方法で手術するほうが安全であるとの意見が強いと述べられている.緑内障手術は,術後出血への対応が容易な場合のワルファリンや抗血小板薬内服継続下での体表の小手術あるいは出血性合併症が起こった場合の対処が困難な体表の小手術やペースメーカ植込み術での大手術に準じた対処にあたると考えられる.抗血栓薬内服による緑内障手術の報告として,Cobb8)は,抗凝固薬内服群と対照群の線維柱帯切除術後の前房出血において,抗凝固薬内服群は有意に前房出血の頻度が高く(抗凝固薬内服群55.0%,対照群28.0%),抗凝固薬使用の全例が著明な前房出血を生じたとしている.Law9)は,緑内障手術(線維柱帯切除術,チューブシャント手術)における抗血栓薬の出血性合併症(前房出血,上脈絡膜出血,硝子体出血)について報告している.その頻度は,抗血栓薬内服群347眼で10.1%,非内服群347眼で3.7%と内服群が有意に高いと報告しており,抗血栓薬内服は緑内障手術の出血性合併症を有意に増加させる結果であった.また,Kojimaら10)は,表5追加処置抗血栓薬内服群(内服群)(n=27)抗血栓薬非内服群(非内服群)(n=116)pvalue前房洗浄脈絡膜下液排液結膜縫合ニードリング2(7.4%)03(11.1%)3(11.1%)01(0.9%)9(7.8%)9(7.8%)0.035>0.9990.6990.699Fisher’sexacttest.抗血栓療法は線維柱帯切除術での前房出血の危険因子として報告している.本検討では前房出血が,内服群27眼中9眼(33.3%),非内服群116眼中16眼(13.8%),と内服群が非内服群に比べ有意に高く,Cobb8),Law9),Kojimaら10)の報告と同様に抗血栓薬内服は出血性合併症の頻度を増加させる可能性があると考えられた.術後の上脈絡膜出血については,今回上脈絡膜出血は非内服群に2例みられたが,内服群と有意差はなかった.Tuliら11)の2,285症例,Jaganathanら12)の2,252症例の検討では,抗血栓療法が上脈絡膜出血の危険因子と報告している.上脈絡膜出血については今後も症例数を増やして検討を要すると考えられた.休薬については,Lawら9)は,抗血栓薬を内服している群を,抗凝固薬内服,抗凝固薬・抗血小板薬両方内服群,抗血小板薬内服群に分け,それぞれ継続群と休薬群の6群に分け検討している.抗凝固薬内服の継続群における出血性合併症の割合は,21眼中7眼(33.3%)と他の群より有意に高く,またこの6群すべてが抗血栓薬を内服していない対照群よりも有意に高いと報告している.今回の検討では,抗血栓薬は全症例が休薬して手術を行い,抗血栓薬を継続して行った症例はなかった.術後の成績(眼圧,薬剤スコア,生存率)に有意差はなかったが,抗血栓薬内服を休薬しても,非内服群より出血性合併症の頻度が高く,前房洗浄の追加処置が必要となった症例があった.緑内障手術は長期に濾過効果を保つことが重要であり,他の内眼手術に比べ,周術期の出血性合併症が手術手技や術後の管理を困難にさせる可能性が示唆された.以上より,抗血栓薬を継続して線維柱帯切除術を行った場合,さらに出血性合併症が起こる可能性が高く,可能であれば術前に休薬して手術したほうが良いと考えられた.文献1)山崎由加里:眼科診療における抗血小板薬全身投与.臨眼56:141-146,20022)KatzJ,FeldmanMA,BassEBetal:Riskandbenefitsofanticoaglantandantiplateletmedicationusebeforecataractsurgery.Ophthalmology110:1784-1788,20031760あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(128) 3)循環器病の診断と治療に関するガイドライン:循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版).2008年度合同研究班報告4)松下知弘,山本禎子,菅野誠:増殖糖尿病網膜症患者の硝子体手術における抗凝固療法の術後合併症発生への影響.あたらしい眼科25:1157-1161,20085)喜多美穂里:眼科手術と抗血小板薬.日本の眼科80:33-34,20096)結城賢弥:トラベクレクトミー合併症のEBM.眼科手術25:33-37,20127)加藤聡:抗凝固薬・抗血小板薬内服中の内眼手術.日本の眼科84:34-35,20138)CobbCJ,ChakrabartiS,ChadhaVetal:Theeffectofaspirinandwarfarintherapyintrabeclectomy.Eye21:598-603,20079)LawSK,SongBJ,YuFetal:Hemorrhagiccomplicationfromglaucomasurgeryinpatientsonanticoagulationtherapyorantiplatelettherapy.AmJOphthalmol145:736-746,200810)KojimaS,InataniM,ShobayashiKetal:RiskfactorsforhyphemaaftertrabeclectomywithmitomycinC.JGlaucoma23:307-311,201411)TuliS,WuDunnD,CiullaTetal:Delayedsuprachoroidalhemorrhageafterglaucomafiltrationprocedures.Ophthalmology108:1808-1811,200112)JaganathanVS,GhoshS,RuddleJBetal:Riskfactorsfordelayedsuprachoroidalhaemorrhagefollowingglaucomasurgery.BrJOphthalmol92:1393-1396,2008***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151761

治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1201.1204,2015c治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例田川小百合*1陳進輝*1田川義晃*1新明康弘*1大口剛司*1木嶋理紀*1宇野友絵*1石嶋漢*1新田卓也*2南場研一*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ACaseofRefractorySecondaryGlaucomaAssociatedwithPsoriaticUveitisSayuriTagawa1),ShinkiChin1),YoshiakiTagawa1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),RikiKijima1),TomoeUno1),KanIshijima1),TakuyaNitta2),KenichiNamba1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Sapporo,Japan,2)Kaimeido-ophthalmologyanddentalclinic症例は45歳の男性で,10数年前より乾癬の診断を受け,数年前から両眼にぶどう膜炎による発作を繰り返し,プレドニゾロン内服とステロイド点眼治療を受けていた.繰り返す発作と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を受診,左眼眼圧のコントロール不良に対し,左マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した.術後数カ月間にわたる遷延性の低眼圧が持続したため,毛様体機能不全による房水産生能低下を考え,左強膜弁縫合術を行った.その後,左眼眼圧は落ち着いたが,半年後に右眼の続発緑内障をきたし,さらに左眼眼圧の再上昇をきたしたため,前回の経過を踏まえ,右眼に360°suturetrabeculotomy変法,左眼に240°trabeculotomy変法を施行した.右眼の眼圧は良好だったが,3カ月後に左眼眼圧が再上昇したため,左眼濾過胞再建術を追加した.その後は両眼とも眼圧が10mmHg前後と落ち着いている.A45-year-oldmalepatientwhohadbeendiagnosedwithpsoriasisformorethan10yearsandwhohadrecurrentattacksofbilateraluveitiswastreatedwithoralandtopicalsteroidsforseveralyearsatanotherfacility.Hewaslaterreferredtoourhospitalduetoelevatedintraocularpressure(IOP)inhislefteye,andwetreatedthateyebyperformingtrabeculectomywithmitomycinC.Postoperativeocularhypotonycontinuedforseveralmonthsafterthetrabeculectomy.Sincethereductionofaqueoushumorproductionappearedtocausetheocularhypotony,weperformedanadditionalsurgerytosuturethescleralflaptightly.Hisleft-eyeocularhypotonyrecovered,yet6-monthslaterbilateralocularhypertensionemerged.Therefore,weperformedamodified360-degreesuturetrabeculotomyonhisrighteyeandamodified240-degreetrabeculotomyonhislefteye.Asaresult,theIOPinhisrighteyewascontrolled,buttheIOPinhislefteyeincreasedagainafter3months,leadingtoblebreconstructionsurgeryofhislefteye.Consequently,theIOPinbotheyessettledatapproximately10mmHg.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1201.1204,2015〕Keywords:乾癬,ぶどう膜炎,続発緑内障,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術.psoriasis,uveitis,secondaryglaucoma,trabeculectomy,trabeculotomy.はじめに乾癬に伴うぶどう膜炎は,ときに前房蓄膿を伴う前房炎症型の発作を起こし,再発を繰り返すことが知られている1).今回筆者らは,乾癬に伴うぶどう膜炎の続発緑内障に対するマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術(LEC)後に,毛様体機能不全が原因と思われる持続性の低眼圧の症例を経験した.さらにその後両眼の高眼圧を呈したため,右眼に360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法を,左眼に240°のtrabeculotomy(LOT)を施行したので,その経過について報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:視曚感.〔別刷請求先〕田川小百合:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayuriTagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita-15,Nishi-7,Kita-ku,Sapporocity,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1201 既往歴:高血圧症,頸椎圧迫骨折,骨粗鬆症,心筋炎(心不全にて入院加療歴あり),左眼眼内レンズ挿入眼.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:尋常性乾癬の診断を受けてから10数年,シクロスポリンで加療された.数年前に両眼の前部ぶどう膜炎を発症し,乾癬に伴うぶどう膜炎と診断された.その後はステロイド薬の内服と点眼にてコントロールされていたが,繰り返す眼炎症と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(0.8×.1.50D),左眼0.2(0.8×.1.25D(cyl.1.25DAx75°).眼圧は右眼13mmHg,左眼22mmHg(アセタゾラミド内服,0.1%ベタメタゾン点眼,緑内障点眼3剤点眼継続下).前眼部所見は右眼2+flare,2+cellsで,右眼のみ全周に虹彩後癒着があり,左眼は2.3+flare,2+cellsであった.隅角所見は,右眼に異常はなく広隅角.左眼は周辺虹彩前癒着が2カ所あり,Shaffer4,色素はScheieIIであった.中間透光体は右眼に軽度の核性白内障を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.右眼の視神経乳頭には緑内障性変化はみられなかったが,左眼は視神経乳頭陥凹比0.7の緑内障性変化を認めた.臨床経過:プレドニゾロン(PSL)5mg内服は継続とし,アセタゾラミド内服および抗緑内障点眼を追加したが,左眼眼圧が40.50mmHgと高眼圧を持続したため,術1週間前よりPSLを20mgへ増量し,左眼にMMC併用LECを施行した.術後矯正視力は左眼(0.7),術後3カ月間の左眼眼圧は3.7mmHgであった.濾過胞は平坦で,浅前房が持続していた.術4カ月後,突然左眼視力低下を訴えて当科を再診した.このときの視力は右眼0.3(0.5×.0.50D),左眼手動弁(矯正不能)で,前房は消失していた.また,濾過胞は平坦で,Seidel現象はみられなかった(図1).超音波生体顕図1左眼前眼部写真(線維柱帯切除術後3カ月)前房は消失し,平坦な濾過胞がみられた.左前房消失左強膜フラップ縫合術左眼濾過胞再建術左眼240°LOT右眼360°S-LOT6050403020100右眼圧左眼圧03カ月6カ月9カ月12カ月15カ月図2経過のまとめMMC併用線維柱帯切除術後に左前房が消失した時点からの治療経過と眼圧の推移.左眼強膜フラップ縫合術後に眼圧は一旦落ち着いたが再び上昇し,両眼に線維柱帯切開術を施行した.その後,左眼はまた眼圧が再上昇したため,左濾過胞再建術を追加した.眼圧(mmHg)1202あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(136) 微鏡検査(UBM)にて,明らかな毛様体の前方回旋は認めず,脈絡膜.離などもみられなかった.粘弾性物質(ヒーロンVR)および空気を計4回前房内へ注入したが,いずれも1週間.10日間で再び浅前房となり,低眼圧を呈した.炎症による毛様体産生機能の著しい低下が原因と考え,ステロイドパルス療法を施行するも,改善はみられなかった.左眼前房消失から1カ月後に結膜を切開して強膜弁を確認したところ,房水の濾過が確認されたため,左眼強膜弁縫合術を施行した.術後の左眼前房は深く保たれ,眼圧も良好となった.その後PSLを徐々に漸減して様子をみていたところ,左眼眼圧が徐々に上昇し始めたため,ドルゾラミド/チモプトール配合点眼,タフルプロスト点眼,ブリモニジン点眼を順次追加した結果,左眼眼圧は10mmHg前後に落ち着いた.しかし,その後右眼眼圧が徐々に上昇しため,抗緑内障点眼やアセタゾラミド内服を追加し,PSLを10mgから20mgへ増量したが眼圧は低下しなかった.右眼に360°S-LOT変法を施行し,右眼眼圧は10mmHg台前半に落ち着いた.しかし,左眼眼圧もほぼ同時期に上昇したため,左眼に240°LOT(180°S-LOT変法+60°金属ロトームによるLOT)施行し,両眼圧とも10台前半に落ち着いた.しかし,その3カ月後,左眼眼圧が45mmHgへ再上昇したため,左眼に濾過胞再建術を施行し,現在まで両眼圧とも良好に経過している(図2).II考按本症例は乾癬に伴うぶどう膜炎に続発した緑内障で,左眼の眼圧コントロールが不良であったため,左眼MMC併用LECを行うも術後持続的な低眼圧に陥った.さらに,経過中に僚眼であった右眼の眼圧上昇もきたしたため,右眼360°S-LOT変法を施行し,眼圧は下降した.一方,左眼は強膜弁閉鎖後に再度眼圧上昇がみられたため,左眼240°LOTを施行したが3カ月後に眼圧が上昇し,最終的に濾過胞再建術を施行して眼圧が落ち着いた.本症例にみられた経過について考えてみたとき,①なぜ,左眼はMMC併用LEC後に前房が消失したのか?②なぜ,右眼は360°S-LOT変法により良好な術後経過が得られたのか?③なぜ,左眼は240°LOT変法により一時的に眼圧は落ち着いたが,数カ月で再度眼圧上昇をきたしたのか?という疑問が生じる.①については,乾癬性ぶどう膜炎のような繰り返す前眼部発作に伴う続発緑内障は,房水産生機能の低下と流出路抵抗の上昇の両方を伴っていることがあり,非生理的な流出路を作るMMC併用LECはそのバランスを大きく崩す可能性がある.本症例において左眼MMC併用LEC後に前房消失をきたした際には,すでに度重なる発作のため房水産生機能が低下した状態で濾過したため,持続的な低眼圧が生じたと考(137)えられた.言い換えれば,術前に房水産生機能が低下していたにもかかわらず,それを上回る流出路抵抗の上昇があったため,結果的に眼圧上昇が引き起こされていたと推察される.②については,360°S-LOT変法は原発開放隅角緑内障(POAG)だけでなく,ぶどう膜炎を含む続発開放隅角緑内障(SOAG)にも有効とされる2).線維柱帯流出路の流出抵抗を改善するLOTはMMC併用LECと異なり生理的な流出路をそのまま使用するため,低眼圧を生じにくく,良好な結果が得られたのではないかと考えられた.③については,左眼の240°LOT後の再眼圧上昇は,右眼に比べて左眼の炎症が遷延していたため,炎症によって切開部の閉塞やSchlemm管以降の流出路抵抗が増大した可能性があると考えられた.左眼のLOTについては,LECにより線維柱帯を切除した箇所は通糸できないため,180°S-LOT変法と金属ロトームによる60°の切開により,計240°の切開を行った.今回の眼圧下降効果が切開範囲の違いによるものなのかどうかは,今後症例を積み重ねての検討が必要であると考えられる.また,左眼の濾過胞再建術後に過濾過による浅前房をきたしていない点については,房水産生量が安定したことに加え,初回手術と異なり一度癒着した後の濾過胞であったため,濾過胞内に適度な肉芽腫や癒着などが存在し,結膜下での吸水あるいは排水能力に乏しいために,初回のMMC併用LEC時よりも房水産生と濾過量のバランスがとれているものと考えられた.眼圧は基本的に房水産生と房水流出のバランスによって決まる.眼内にぶどう膜炎などの炎症が生じると,たとえ毛様体の房水産生が低下しても房水流出抵抗が上昇して房水流出が減少すると考えられる.したがって,眼内の炎症による房水産生低下が房水流出減少を上回れば,結果的に眼圧は下降するし,房水流出減少が房水産生低下を上回れば眼圧は上昇すると考えられる.実際,過去の報告でも炎症により眼圧は上昇することも下降することもあると報告されている3,4).Kaburakiらの報告によれば,POAGとSOAGに対するMMC併用LECの成績を比較したところ,成功率は変わらなかったが,晩期合併症として持続的な低眼圧が指摘されている5).乾癬に伴うぶどう膜炎のような炎症が持続することによる続発緑内障では,房水産生能が著しく低下していることがあり,濾過手術時には注意が必要であると考えられた.一方,本症例が示すように,生理的な流出路を使うLOTは,房水産生機能が著しく低下している場合でも術後浅前房をきたすことがないという点においては安全である.しかし,術後予後に関してはMMC併用LECの予後と同様に,術後炎症のコントロールが重要と考えられる5).さらに,ぶどう膜炎の症例におけるLOTの線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果については,さらなる症例の積み重ねと長期的な経過観察あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151203 が必要であると考えられた.原疾患である尋常性乾癬については,ステロイドの使用や漸減・中止により膿疱性乾癬へ移行する場合があり,実は皮膚科分野ではステロイド使用は禁忌である6).しかし,本症例の場合,当院受診時にはすでにPSLを内服しており,炎症の再燃などのリスクがあるため,ステロイド内服を継続せざるをえなかった.また,シクロスポリンやステロイドの使用がすでに長期間に及んでおり,腎機能障害や骨粗鬆症など全身的な合併症もあるため,今後はインフリキシマブなどの生物製剤による治療も検討していく必要があると思われた7).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)奥貫陽子,毛塚剛司,臼井嘉彦ほか:乾癬に伴うぶどう膜炎の検討.臨眼62:897-901,20082)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:Apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)沖坂重邦,猪俣孟:毛様体の炎症反応の多様性─臨床と基礎の融合─.日眼会誌108:717-749,20044)田内芳仁,板東康晴,小木曽正博:Behcet病患者の眼発作時における血液房水関門障害と眼圧変動.臨眼47:373376,19935)KaburakiT,KoshinoT,KawashimaHetal:InitialtrabeculectomywithmitomycinCineyeswithuveiticglaucomawithinactiveuveitis.Eye23:1509-1517,20096)難病情報センター:膿胞性乾癬診療ガイドラインTNF-a阻害薬を組み入れた治療指針20107)渡邉裕子,蒲原毅,佐野沙織ほか:インフリキシマブが有効であった乾癬性ぶどう膜炎の1例と乾癬性ぶどう膜炎の当科4症例および本邦報告例のまとめ.日皮会誌122:2321-2327,2012***1204あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(138)

血管新生緑内障におけるベバシズマブ併用線維柱帯切除術の予後不良因子の検討

2014年8月31日 日曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(8):1207.1210,2014c血管新生緑内障におけるベバシズマブ併用線維柱帯切除術の予後不良因子の検討上乃功*1廣岡一行*2馬場哲也*2天雲香里*2新田恵里*2*1香川県立中央病院*2香川大学医学部眼科学講座PrognosticFactorsofPreoperativeIntravitrealBevacizumabRegardingTrabeculectomyOutcomesinNeovascularGlaucomaIsaoUeno1),KazuyukiHirooka2),TetsuyaBaba2),KaoriTenkumo2)andEriNitta2)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,2)KagawaUniversity目的:血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対するベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)後,線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)の予後不良因子について検討する.対象および方法:2006年9月から2013年3月の間に香川大学医学部付属病院眼科にてIVB後LETを行ったNVG患者80例80眼の連続症例.平均年齢63.9±12.7歳(平均値±標準偏差,以下同様).2回連続して眼圧が21mmHgを超えるものと光覚なしを死亡と定義した.Cox回帰分析を用い予後不良因子を検討した.結果:経過観察期間は,27.0±33.0月であった.術後12カ月および24カ月の生存率はそれぞれ87.5%,81.1%であった.IVB併用後LETの予後不良因子は,年齢,基礎疾患,術前眼圧,周辺虹彩前癒着,白内障手術既往,硝子体手術既往について解析を行ったが,有意に予後不良となる因子は認めなかった.結論:NVGにおけるIVB後LETの予後不良因子は同定できなかった.Purpose:Toevaluatetheprognosticfactorsforsurgicaloutcomesofintravitrealbevacizumab(IVB)beforemitomycinCtrabeculectomy(LET)forneovascularglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Wereviewedthemedicalrecordsof80patients(80eyes)withNVGtreatedatKagawaUniversityHospitalbetweenSeptember2006andMarch2013.Theprimaryendpointwaspersistentintraocularpressure(IOP)>21mmHg,deteriorationofvisualacuitytonolightperception,andadditionalglaucomasurgeries.Thefollowingvariableswereassessedaspotentialprognosticfactorsforsurgicalfailure:age,etiologyofNVG,preoperativeIOP,peripheralanteriorsynechiae(PAS),previousvitrectomyandpreviouscataractsurgery.MultivariateanalysiswasperformedusingtheCoxproportionalhazardmodel.Result:Patientmeanfollow-upwas27.0±33.0months.Theprobabilityofsuccessat1and2yearsafterLETwas87.5%and81.1%,respectively.ThemultivariatemodelshowednoprognosticfactorsforsurgicalfailureamongtheNVGpatients.Conclusion:BeforemitomycinCLETforNVG,therewerenoprognosticfactorsforsurgicalfailureofIVBinanyNVGpatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1207.1210,2014〕Keywords:血管新生緑内障,ベバシズマブ硝子体内注射,線維柱帯切除術,予後不良因子.neovascularglaucoma,intravitrealbevacizumab,trabeculectomy,prognosticfactor.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症や,網膜静脈閉塞症などの眼虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで虹彩・隅角の新生血管が形成され,房水流出路を閉塞させるために眼圧上昇をきたす1).眼圧が上昇すると,それに伴い眼虚血が増悪,新生血管が増加,さらに眼圧が上昇するという悪循環に陥るため,早急に眼内虚血に対する網膜光凝固術や眼圧上昇に対する薬物治療,線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)が施行されてきた.しかし,新生血管の活動性が高い状態での外科的治療は合併症も多く,術〔別刷請求先〕上乃功:〒760-8557香川県高松市番町5-4-16香川県立中央病院眼科Reprintrequests:IsaoUeno,DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,5-4-16Ban-cho,Takamatsu,Kagawa760-8557,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(127)1207 後成績にも影響を及ぼしてきた.新生血管に直接作用する抗VEGF薬であるbevacizumabが臨床的に使用されるようになり,NVGに対するLETの周術期管理に変化がもたらされた.ベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)は,新生血管の消退に有効であり2),IVBを施行することで眼圧が下降し,薬物のみで眼圧がコントロールできる症例が増加してきている3).また,手術が必要になった症例でも,IVB併用によりLETの術後成績が向上するといった報告がある4,5)一方で,IVB併用の有無がLETの術後成績に影響を及ぼさないという報告もあり6),見解の一致は得られていない.また,NVGに対してIVBが行われていなかったときのNVGに対するLETの予後不良因子は,50歳以下の若年例,硝子体手術既往眼,原因疾患が糖尿病網膜症の症例における僚眼発症であり7),硝子体手術後のLETに対する予後不良因子は術前高眼圧,NVGと報告されている8).しかし,これまでにNVGに対するIVB併用LETの予後不良因子に関しては報告がなされていない.そこで今回筆者らは,NVGに対するIVB併用LETの術後成績を改めて検討するとともに,予後不良因子についても検討したので報告する.I対象および方法対象は2006年9月から2013年3月までの間に香川大学医学部附属病院眼科にてIVB後にLETを行ったNVG患者で6カ月以上経過観察できた80例80眼をレトロスペクティブに検討した.両眼LETを施行した症例は,最初にLETを行った眼を対象とした.IVBは当院倫理委員会の承認を得て行い,すべての患者に書面による同意を得た.1.25mg/0.05mlIVBはLET施行3.7日前に行った.LETは円蓋部基底結膜切開で行い,白内障手術同時施行例は全例同一創で行った.IVB併用LETの術後成績はKaplan-Meier生存曲線を用いて評価し,2回連続して眼圧が21mmHgを超えるものと光覚なしを死亡と定義した.眼圧下降薬の使用は可とした.薬剤スコアはアセタゾラミドの内服が2点,点眼薬は1剤につき1点とした.予後不良因子に関しては年齢(50歳以上,50歳未満),性別,基礎疾患(眼虚血の有無),術前眼圧(31mmHg以上,31mmHg未満),周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)(100%またはそれ未満),白内障手術既往,硝子体手術既往の有無についてそれぞれc2検定にて単変量解析を行った.さらにCox回帰分析を用い多変量解析を行った.II結果患者背景を表1に示す.平均年齢63.9±12.7歳,男性601208あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014眼,女性20眼であった.NVGの病因は糖尿病が57眼,眼虚血12眼,網膜中心静脈閉塞症8眼,網膜静脈分枝閉塞症1眼,網膜中心動脈閉塞症1眼,ぶどう膜炎が1眼であった.平均経過観察期間は27.0±33.0カ月,術前眼圧は32.1±7.8mmHgであった.IVB併用後LETの術後生存率は,術後12カ月が87.5%(n=54),24カ月が81.1%(n=31)であった(図1).死亡の定義を満たした症例の内訳は,2回連続して眼圧が21mmHgを超えたものが13眼,術後に光覚を失ったのは2眼であった.術前および術後6,12,18,24,30,36カ月後の平均眼圧はそれぞれ31.6±6.9mmHg,11.9±4.9mmHg,12.3±4.7mmHg,11.9±4.2mmHg,11.8±4.7mmHg,11.1±4.7mmHg,9.9±4.4mmHgであり,いずれの時点においても有意な眼圧の低下を認めた(図2).術前および術後6,12,18,24,30,36カ月後の薬剤スコアはそれぞれ3.82±0.97,0.30±0.79,0.20±0.65,0.32±0.92,0.31±0.95,0.27±0.68,0.30±0.81であり,術後有意な薬剤スコアの低下を認めた(図3).また,術後予後不良因子として,年齢,性別,基礎疾患,術前眼圧,PAS,白内障手術既往,硝子体手術既往をそれぞれ単変量解析を用いて行ったが,いずれの因子も有意差を認めなかった(表2).さらに,Cox回帰分析でも有意に予後不良となるものは認めなかった(表3).さらにPASの範囲が50%以上と50%未満,あるいは基礎疾患を糖尿病とそれ以外に分けて検討してみたが,いずれにおいても有意差は認めなかった.糖尿病網膜症が原因のNVGについて,LETを施行した僚眼にNVGがある場合とない場合で単変量解析を行ったが,これに関しても有意差は認めなかった(p=0.18).また,年齢,硝子体手術既往,僚眼にNVGありの計3項目を説明変数としてCox回帰分析を行ったが,有意に予後不良となるものは認めなかった(表4,5).III考按今回筆者らの検討では,IVB併用後LETの予後不良因子は,年齢,性別,基礎疾患,術前眼圧,PAS,白内障手術既往,硝子体手術既往のどの因子でも有意差を認めなかった.今回の結果は,過去に報告されたNVGに対してIVB非併用時のNVGに対するLETの予後不良因子(50歳以下の若年例,硝子体手術既往眼,原因疾患が糖尿病網膜症の症例における僚眼発症)7)とは異なっていた.この理由として,今回年齢に関して有意差が出なかったのは,50歳未満の症例数が少なかったため,統計的に有意差が出にくくなった可能性がある.また,硝子体手術既往に関しては,硝子体手術が現在の小切開硝子体手術で行われるようになり,以前のように大きく結膜を切開しなくなったため,濾過胞の形成維持が阻(128) 表1症例背景年齢(歳)63.9±12.7(17.92)性別(男/女)60/20原因疾患糖尿病57眼虚血12網膜中心静脈閉塞症8網膜静脈分枝閉塞症1網膜中心動脈閉塞症1ぶどう膜炎1経過観察期間(月)27.0±23.0(2.77)術前眼圧(mmHg)32.1±7.8(21.61)100生存率曲線806040200生存率(%)010203040506040観察期間(月)図1生命表法30術後12カ月および24カ月の生存率はそれぞれ87.5%,20******81.1%であった.10(80)(73)(48)(34)(29)(27)(24)50術前61218243036経過観察(月)4眼圧(mmHg)******薬剤スコア図2眼圧の推移術前に比べ術後は有意に眼圧の下降がみられた.()内は眼数.*:p<0.05.3210術前61218243036表2術後成績に影響を及ぼす因子の単変量解析結果経過観察(月)生存死亡p値図3薬剤スコアの推移年齢50歳以上59110.54術前に比べ,術後有意に薬剤スコアは減少した.*:p<50歳未満910.05.性別男50100.38女182基礎疾患眼虚血930.26眼虚血以外599表3Cox回帰分析結果術前眼圧31mmHg以上3480.2995%信頼区間31mmHg未満344オッズ比下限上限p値周辺虹彩前癒着100%710.66100%未満6111年齢0.9680.9251.0120.15白内障手術既往あり5080.43硝子体手術既往0.7830.2825.3700.78なし184白内障手術既往0.9290.2213.9650.93硝子体手術既往あり2240.59周辺虹彩前癒着<0.001<0.0010.98なし468基礎疾患2.4810.6259.8470.20術前眼圧1.0500.9921.1110.09表4Cox回帰分析結果表5Cox回帰分析結果(術後因子)オッズ比95%信頼区間p値下限上限オッズ比95%信頼区間p値年齢0.3910.0285.4750.49下限上限硝子体手術既往0.4370.0962.3370.36前房出血1.5700.4755.1870.46僚眼にNVG3.6800.66120.4980.14房水漏出2.3570.47811.6140.29(129)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141209 害されにくく硝子体手術既往の有無がLETの術後成績に及ぼす影響が小さくなってきたためと考えた.さらに,硝子体手術が必要な症例や若年者では,病態の活動性が高いと考えられるが,IVBを使用することにより,病態の活動性が低下したことで,症例間の活動性の差が小さくなってきたことも,予後不良因子が同定できなかった原因と考えた.Takiharaらは,NVG眼にLET前にIVBを行った場合は,行わない場合に比べ術後前房出血が減少し眼圧も下降するが,生存率では有意差は認めらなかったと報告している6).この報告によるIVB群の生存率は,4カ月で87.5%,8カ月で79.2%,12カ月で65.2%,IVB非併用群の生存率は,術後4カ月で75.0%,8カ月で79.1%,12カ月で65.3%であった.しかし,SaitoらのNVGに対するIVB後LETでは,術後6カ月の生存率はIVB使用では95%,IVB非使用では50%(p<0.001)と,IVB使用により有意に良好な生存率が得られている4).今回の生存率も12カ月が87.5%,24カ月が81.1%であり,IVB使用により術後生存率は改善していると考えられた.IVBはNVGの治療に不可欠なものになりつつあり,IVB併用後LETの予後不良因子については多数例のより長期での臨床研究が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20063)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,1580,20084)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,20105)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Clinicalfactorsrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovascularizationaftertreatmentincludingintravitrealbevacizumab.AmJOphthalmol149:964-972,20106)TakiharaY,InataniM,KawajiTetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,20117)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:TrabeculectomywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147:912-918,918,20098)InoueT,InataniM,TakiharaYetal:PrognosticriskfactorsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmol56:464-469,2012***1210あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(130)

円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):427.432,2014c円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績青山裕加*1村田博史*1相原一*2*1東京大学医学部眼科学教室*2四谷しらと眼科Medium-TermOutcomesofTrabeculectomyAloneforPhakicEyesorPseudophakicEyes,versusCombinedTrabeculectomyforCataractYukaAoyama1),HiroshiMurata1)andMakotoAihara2)1)DepartmentofOphthalmology,theUniversityofTokyo,2)YotsuyaShiratoEyeClinic2009年9月から1年間東京大学医学部附属病院にて同一術者により円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術を施行された122眼を対象として,有水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(TLE群),偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(IOL群),白内障手術・線維柱帯切除術同時手術(同時手術群)に分類し眼圧下降効果,術後の合併症や処置の頻度を後ろ向きに検討した.4眼は6カ月の間に再手術となった.入院中および退院後の処置・合併症の頻度に3群間で差は認めなかった.TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前21.4±8.5,23.0±6.5,23.3±7.3mmHgから術後6カ月で9.3±4.3,11.7±4.6,12.0±3.7mmHgと有意に低下した.再手術4眼を含めた122眼で経過中,眼圧12mmHg以下が2回連続得られなかったとき,または再手術となったときを死亡と定義したときの生命表解析では,全体,TLE群,IOL群,同時手術群の生存率は71.2%,87.5%,58.7%,54.1%であった.Weretrospectivelyexaminedthe6-monthoutcomesoffornix-basedtrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonandanalyzedthedifferenceinoutcomesamongsurgicalmethods.Includedwere122eyesthathadundergonetrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonfromSeptember2009toSeptember2010atTokyoUniversityHospital.Postoperativecomplicationsandprocedureswereanalyzedaccordingtosurgicalmethods,includingtrabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomyforcataract.Lifetableanalyseswerethenmadeaccordingtothesecriteriaoffailure:IOPwasover12mmHgaftertwoconsecutivemeasurements,oranothersurgerywasneeded.Within6months,4eyeswerere-operated.Duringandafterhospitalization,theincidenceofcomplicationsoradditionalproceduresdidnotdifferamongthethreegroups.Cumulativesurvivalratesat6monthsafterallsurgeries,trabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomycaseswere71.2%,87.5%,58.7%,and54.1%,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):427.432,2014〕Keywords:線維柱帯切除術,緑内障,濾過胞,合併症,円蓋部基底.trabeculectomy,glaucoma,bleb,complication,fornix-basedconjunctivalflap.はじめに緑内障に対する眼圧下降手術はさまざまな手法が行われている.なかでもマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は眼圧下降効果が高い手術の一つとして,10年以上前から数多くの国で行われてきた.しかし,この手術にはいまだ多くの合併症がみられており,その合併症は緑内障の病型,手術歴のみならず,術式の術者による相違,術後管理の相違などさまざまな因子に関連していると考えられる.そこでTLEを施行するにあたり,合併症が少なく,眼圧下降効果の高い条件を探ることが重要である.今回筆者らは,TLEの手術成績を検討するにあたり,単〔別刷請求先〕相原一:〒160-0004東京都新宿区四谷1-1-2四谷しらと眼科Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,Ph.D.,YotsuyaShiratoEyeClinic,1-1-2Yotsuya,Shinjuku,Tokyo160-0004,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)427 独術者による同一手技を用い,また同一施設での術後管理を行うことで周術期の条件を一定にしたうえで,100以上の連続した日本人眼における有水晶体眼,偽水晶体眼に対するTLE単独手術およびTLEと白内障同時手術後の成績を後ろ向きに比較検討したので報告する.I方法2009年9月.2010年9月までに東京大学医学部附属病院にて,同一術者(MA)により円蓋部基底結膜切開線維柱帯切除術(FB-TLE)を施行され,同病院で通常2週間の入院および外来通院による術後管理を行った連続症例107例122眼の術後成績を6カ月間後ろ向きに検討した.対象眼は,薬物およびTLE以外の外科的治療を含めた最大限の治療を行っても緑内障性視神経症の進行を抑制できず,さらなる眼圧下降が必要と判断された緑内障眼とした.除外基準は,TLE,線維柱帯切開術,毛様体光凝固術など眼圧下降目的の手術を結膜上耳側または鼻側に行ったことがあるなどで,同部位結膜が瘢痕化している症例は除外した.ただし,他の部位からの線維柱帯切開術やビスコカロストミー,レーザー線維柱帯形成術,隅角癒着解離術,レーザー虹彩切開術を行った眼は検討に含めた.また,結膜瘢痕の有無にかかわらず白内障術後および硝子体手術後の眼も除外しなかった.すべての患者には,手術および術後の処置を行う前に説明を行ったうえ,同意を得た.また,本研究はヘルシンキ宣言に従っており,東京大学医学部附属病院の倫理委員会の承認を得てUMIN000006522として登録された.1.術後評価最大矯正視力,Goldmann圧平眼圧測定,細隙灯顕微鏡および眼底鏡診察により確認された合併症,必要とされた術後処置について,10.14日間程度の入院期間中は毎日,退院後は術後3週間.1カ月ごとに6カ月まで評価を行った.2.手術方法手術は同一術者によるFB-TLEにて行った.鼻上側から円蓋部基底結膜切開で開始し,結膜は輪部に沿って5.6mm幅切開し,4.5mmの放射状切開を加え,そこからTenon.下麻酔を行った.凝固止血を行った後,3×3mmの強膜フラップを作製し,0.05%MMC(協和発酵キリン)をM.Q.A.(イナミ)に1.5分間浸み込ませ,balancedsaltsolution(BSS)100mlで洗浄した.1×1mmの強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った後,10-0ナイロン糸(CU-8,日本アルコン)4針で強膜フラップを縫合した.房水流出が多すぎる場合には追加縫合も行った.結膜創に対しては10-0ナイロン糸(1475,マニー)で連続縫合を行った.さらに房水漏出がみられる場合には,追加縫合を行った.白内障同時手術の場合には,上耳側より角膜切開し,粘弾性物質としてはビスコートR(日本アルコン)とヒーロンR(AMO428あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014Japan)を使用した.術後点眼は0.1%ベタメタゾンとレボフロキサシンを使用し,同時手術の場合には,トロピカミド・フェニレフリン合剤とジクロフェナクナトリウムも併用した.3.術後管理入院中は目標眼圧を10mmHg以下とし,レーザー切糸術にて眼圧を調整した.レーザー切糸を3本施行したのちも濾過胞形成不良で眼圧が10mmHg以上となっている場合には,30G針でニードリングを行った.浅前房を伴う過剰濾過の場合には,前房内に空気もしくはオペガンR(参天製薬)を注入,あるいは経結膜強膜弁縫合を行った.浅前房を伴う脈絡膜.離が出現した場合または低眼圧網膜症が明らかな場合にも,経結膜強膜弁縫合を行った.低眼圧や房水漏出の際に圧迫眼帯や点眼内服による処置は一切行わなかった.退院後に濾過胞形成が不良になった場合には可及的速やかにレーザー切糸術もしくはニードリングを行った.ステロイドおよび抗生物質点眼は術後最低3カ月使用した.4.データ解析FB-TLE後の生存率について,以下の2つの基準で,Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1として,退院後の眼圧が眼圧下降薬剤使用の有無にかかわらず,12mmHgを2回連続で上回ったとき,あるいはさらなる濾過胞再建術もしくは別創への線維柱帯切除術が必要になった場合を死亡と定義した.半数の症例で投薬下ベースライン術前眼圧が20mmHg以下であり,術後の眼圧を10mmHg台前半に下げることが目標であるため,この数値を目標として設定した.基準2では15mmHgを基準眼圧として解析を行った.過去の報告では15mmHgを基準としているものが多く,この数値は本研究の結果とこれまでの報告を比較するために設定した.術前と術後の眼圧はpairedt-testで比較した.3群の眼圧下降率はANOVAで比較した.3群の合併症と処置の頻度についてはFisher’sexacttestで比較した.Kaplan-Meier法による生存率の比較は,log-ranktestを用いて行った.p値は0.05未満であった場合に有意と定義した.II結果1.患者背景本研究期間の適応症例は連続107例122眼であった.術後6カ月間の経過観察中に1眼は検査データ不足,4眼は他院紹介後の経過不明で5カ月目にドロップアウトとなり,4眼は術後6カ月の間に再度眼圧下降手術が必要になった.表1に患者背景と術式の内訳を示す.また,術前の平均眼圧は22.1±7.7mmHgであり,TLE群,IOL群,同時手術群の3群の術前眼圧に有意差はなかった(p=0.3ANOVA).3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意(124) 表1患者背景と緑内障病型対象眼全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)眼(右:左)59:6328:2814:2017:140:1性別(男:女)74:4834:2221:1318:131:0年齢(歳)64.0±13.056.3±12.170.9±10.870.5±8.959緑内障病型眼原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障10眼を含む)67(57+10)4013140落屑緑内障237970炎症性緑内障165740Posner-Schlossman症候群2101ぶどう膜炎後に続発する緑内障8350血管新生緑内障6123原発閉塞隅角緑内障80440混合型緑内障31020発達緑内障11000外傷による緑内障21001ステロイド緑内障21100TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意差が認められた(p<0.01ANOVA).差が認められた(p<0.01ANOVA).平均入院期間は同一入院期間中に両眼手術した症例が6眼,白内障手術と隅角癒着解離術を施行したのち,同一入院期間中にTLEを施行した症例2眼を含み,14.1±4.1日であった.2.合併症および処置入院期間中および退院後.術後6カ月に出現した合併症および行った処置については表2と表3に示した.入院中,結膜縫合部位より漏出を認めたものが15/122(12.3%)眼,そのうち6眼は数日で自然に消失した.浅前房は21/122(17.2%)眼に認め,20/122(16.4%)眼に対して経結膜強膜弁縫合を行い,5/122(4.1%)眼は経結膜強膜弁縫合の前に前房内空気もしくはオペガンR置換を施行した.脈絡膜.離は35/122(28.7%)眼に出現した.そのうち浅前房を伴う過剰濾過を認めたものは経結膜強膜弁縫合を施行し,徐々に消失した.残りは一過性の低眼圧による脈絡膜.離であったため,その後の眼圧上昇に伴って消失した.数週間で脈絡膜.離は全例で消失した.低眼圧黄斑症は入院中は2/122(1.6%)眼,退院後から術後6カ月までの期間では2/122(1.6%)眼で認められたが,数カ月以内に全例改善した.3群間で合併症の発症に有意差は認めなかった.脈絡膜.離の排液を必要とした症例はなかった.ニードリングに関しては,入院中は15眼に対して26回,退院後から術後6カ月までの期間では42眼に対して合計101回施行したが,3群間に有意差は認めなかった(p=0.1ANOVA).3.眼圧下降効果Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1では,全群での6カ月生存率は71.2±4.1%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,87.5±4.4%,58.7±8.5%,54.1±9.1%であり,TLE群は他2群に比較して有意に生存率が高い結果となった(p<0.01log-ranktest).基準2では,全群での6カ月生存率は82.7±3.4%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,89.3±4.1%,73.9±7.5%,80.1±7.3%であり,3群の生存率に有意差は認められなかった(p>0.2log-ranktest)(図1).再手術を必要とした4眼を除いた全症例で,術前平均眼圧22.1±7.7mmHgから術後6カ月平均眼圧10.6±4.4mmHgへ,平均48.8±22.0%の眼圧下降率を認めた.必要薬剤は術前3.3±0.7種類から術後0.4±0.8種類へと有意に減少した(p<0.001pairedt-test).TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前20.9±8.4mmHg,23.1±6.8mmHg,23.2±7.5mmHgから術後9.2±4.3mmHg,11.7±4.4mmHg,12.0±3.7mmHgへと有意に下降した.3群間の眼圧下降率に有意差は認めなかった(p=0.2ANOVA)(図2).III考察本研究におけるTLE術後6カ月での累積生存率は目標眼圧を12mmHgとすると71.2%であり,目標眼圧を15mmHgとすると82.7%であった.本研究は一定期間の連続(125)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014429 表2入院中の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出15(12.3%)4(7.1%)5(14.7%)6(19.4%)0創部追加縫合11for9eyes2for2eyes4for3eyes5for4eyes0浅前房21(17.2%)10(17.9%)5(14.7%)6(19.4%)0脈絡膜.離35(28.7%)12(21.4%)10(29.4%)13(41.9%)0前房内出血14(11.5%)6(10.7%)6(17.6%)2(6.5%)0退院時低眼圧(IOP≦5mmHg)3721127低眼圧黄斑症2(1.6%)2(3.6%)000レーザー切糸率†60±31%49±31%57±28%85±17%50%ニードリング回数26for15eyes5for4eyes10for6eyes11for5eyes0経結膜強膜弁縫合20(16.4%)9(16.1%)5(14.7%)6(19.4%)0Air注入5(4.1%)3(5.4%)1(2.9%)1(3.2%)0TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.†切糸数/総縫合数の各眼平均値.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).表3退院後の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出脈絡膜.離低眼圧黄斑症濾過胞感染9(7.4%)8(6.6%)2(1.6%)04(7.1%)2(3.6%)1(1.8%)03(8.8%)1(2.9%)002(6.5%)5(16.1%)1(3.2%)00000ニードリング回数再手術101for42eyes4(3.3%)35for14eyes2(3.6%)41for15eyes1(2.9%)25for13eyes1(3.2%)00TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).TLE対象症例に対して白内障同時手術も行った症例も含むため,連続症例への後ろ向き試験としたが,TLE施行症例としては前向き試験と同様の評価をしているため,過去の前向き試験と比較してみた.前向き試験は3報しかなく,そのうちWuDunnらはほとんど原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)を対象にしたMMC併用輪部基底結膜切開TLE単独術後の6カ月生存率は,目標眼圧を15mmHgとすると88%,12mmHgとすると77%であったと報告し1),Mostafaeiは開放隅角緑内障の患者に対するMMC併用TLE術後の6カ月生存率は目標眼圧を6.22mmHgとすると88.9%だったと報告している2).日本人ではKitazawaらが発達緑内障,血管新生緑内障,炎症性緑内障,POAGについて検討しており,MMC併用群の6カ月生存率は目標眼圧を20mmHgとすると100%だったと報告している3).後2報は目標眼圧が高く,本研究と比較することは意味がない.WuDunnらの研究は同様な目標眼圧での報告で,目標眼圧を15mmHgとすると前報88%と本報82.7%,12mmHgとすると77%と71.2%と筆者らがやや劣る.高い術前眼圧は生存率を下げる有意な危険因子との報告4)もあるが,WuDunnらの術前眼圧は21.9±6.6mmHg,今回の対象患者の術前眼圧は22.1±7.7mmHgと同等であった.しかし,前報はTLE単独手術で,POAGが84.4%,白人72%,アジア人は1症例2%と,本報告と術式と病型,人種間に差があるため単純には比較できないが,今回の結果は大きく劣るものではないと考える.続いて有水晶体眼と眼内レンズ眼でのTLE単独手術について考察する.Takiharaらは,結膜上方切開によるPEAを施行後の眼内レンズ眼に対するTLE術後と,有水晶体眼に対するTLE単独手術後を後ろ向きに比較し,眼内レンズ眼では有水晶体眼に比べて成功率が低く,PEAの既往を予後不良因子と報告している5).一方でShingletonらが後ろ向きに調査した報告では,濾過胞を作製する結膜部位に手術を行った既往のある眼内レンズ眼に対するTLE術後の成績を,手術の既往のない眼に対して行ったTLE術後の成績と比較430あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(126) AB1.001.000.800.80累積生存率TLE群IOL群同時手術群*p>0.01(log-ranktest)*累積生存率0.600.400.600.40*0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)CD1.001.000123456観察期間(カ月)累積生存率TLE群IOL群同時手術群3群間に有意義なし(p>0.2(log-ranktest))0.800.600.400.800.600.40累積生存率0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)0123456観察期間(カ月)図16カ月累積生存率A:基準1による全群,B:基準1による術式別生存率,C:基準2による全群,D:基準2による術式別生存率.全群TLE群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00IOL群同時手術群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00図2術前後眼圧変化TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.し,2群間で最終眼圧,眼圧下降薬,最大矯正視力に有意差15mmHgを基準とした累積生存率が同等であったことから,はなかったとしている6).Supawavejらは,有水晶体眼に対Supawavejらの結果に矛盾しない.さらに開放隅角緑内障するTLEと角膜切開からのPEA後のTLEを後ろ向きに比眼において有水晶体眼と眼内レンズ眼で比較すると,眼内レ較しているが,眼圧下降効果について同等であったと報告しンズ眼のほうが有意に房水中の炎症性サイトカイン濃度が高ている7).この報告は長期成績であるため単純には比較できいとのInoueらの報告8)もあり,白内障手術がTLEの予後ないが,本研究ではTLE群とIOL群は眼圧下降効果およびに何らかの影響を与えていると考えられる.(127)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014431 つぎにTLE群と同時手術群の比較を検討する.有水晶体眼に対してTLE単独手術を施行した場合,その後に白内障が進行し,手術が必要となる場合がある.Donosoらは,TLE施行後の眼に対してPEA手術を行った場合の眼圧への影響と,TLE白内障同時手術を施行した場合の眼圧への影響について後ろ向きに比較しており,2群間の生存率に有意差はなかったと報告している9).この結果は本研究の結果と異ならない.すでにPEAが濾過胞に与える影響についての検討はこれまで多くなされている.PEA後に濾過胞のある眼では眼圧が上がると報告するものもあれば10,11),白内障手術は濾過胞のある眼の眼圧コントロールに影響しないと報告するものもある12).また,PEAを施行する時期によって濾過胞に与える影響が異なるとする報告もある.Awai-Kasaokaらは,TLE施行後にPEAを行いTLE失敗となった眼について予後不良因子を検討し,TLE術後1年以内にPEAを行うことが予後不良因子だと報告している13).また,Siriwardenaらが術後の前房内炎症を調べた報告によれば,TLE術後眼よりもPEA術後眼で前房内炎症が長く続くため,PEAを施行する時期によってTLE成功率が左右されうるとしている14).本研究では6カ月のフォロー期間中に白内障が進行し手術を必要とした症例はなかったため,この検討は今後の検討課題の一つである.術後合併症としての房水漏出,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は2週間の退院後も認められたが,いずれも縫合処置によりただちに改善した.合併症は避けられないが即時に対処することにより改善が得られることが判明した.また,短期的には濾過胞感染は生じていない.術後処置として,ニードリングの回数が多いが,1眼について2.4回の処置を行っており癒着傾向が強い症例では反復した処置を要することがわかり,今後の術式改善が必要と考えられる.この研究期間中の術式では術後ニードリングの際に細胞増殖抑制薬は使用していないが,現在MMC併用ニードリングによる術後処置の改善を検討している.病型別では炎症性緑内障と閉塞隅角緑内障の半数以上で,1眼につき2回以上の処置を必要としたことが判明している(他誌投稿中).今回の結果は,12mmHgを目標眼圧とするとTLE群の中期成績はIOL群や同時手術群に比較して良い結果となったが,15mmHgを目標眼圧としたときの中期成績には差はなく,また術後の合併症や処置にも差はみられなかった.今回は脱落も含め半年の経過での検討だったが,さらなる長期経過を検討する予定である.本稿の要旨は第23回日本緑内障学会(2012)にて発表した.文献1)WuDunnD,CantorLB,Palanca-CapistranoAMetal:Aprospectiverandomizedtrialcomparingintraoperative5-fluorouracilvsmitomycinCinprimarytrabeculectomy.AmJOphthalmol134:521-528,20022)MostafaeiA:AugmentingtrabeculectomyinglaucomawithsubconjunctivalmitomycinCversussubconjunctival5-fluorouracil:arandomizedclinicaltrial.ClinOphthalmol5:491-494,20113)KitazawaY,KawaseK,MatsushitaHetal:Trabeculectomywithmitomycin.Acomparativestudywithfluorouracil.ArchOphthalmol109:1693-1698,19914)AgrawalP,ShahP,HuVetal:ReGAE9:baselinefactorsforsuccessfollowingaugmentedtrabeculectomywithmitomycinCinAfrican-Caribbeanpatients.ClinExperimentOphthalmol41:36-42,20135)TakiharaY,InataniM,SetoTetal:Trabeculectomywithmitomycinforopen-angleglaucomainphakicvspseudophakiceyesafterphacoemulsification.ArchOphthalmol129:152-157,20116)ShingletonBJ,AlfanoC,O’DonoghueMWetal:Efficacyofglaucomafiltrationsurgeryinpseudophakicpatientswithorwithoutconjunctivalscarring.JCataractRefractSurg30:2504-2509,20047)SupawavejC,Nouri-MahdaviK,LawSKetal:ComparisonofresultsofinitialtrabeculectomywithmitomycinCafterpriorclear-cornealphacoemulsificationtooutcomesinphakiceyes.JGlaucoma22:52-59,20138)InoueT,KawajiT,InataniMetal:Simultaneousincreasesinmultipleproinflammatorycytokinesintheaqueoushumorinpseudophakicglaucomatouseyes.JCataractRefractSurg38:1389-1397,20129)DonosoR,RodriguezA:Combinedversussequentialphacotrabeculectomywithintraoperative5-fluorouracil.JCataractRefractSurg26:71-74,200010)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification:aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,200511)WangX,ZhangH,LiSetal:Theeffectsofphacoemulsificationonintraocularpressureandultrasoundbiomicroscopicimageoffilteringblebineyeswithcataractandfunctioningfilteringblebs.Eye(Lond)23:112-116,200912)InalA,BayraktarS,InalBetal:Intraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationineyeswithprevioustrabeculectomy:acontrolledstudy.ActaOphthalmolScand83:554-560,200513)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:Impactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycin-C.JCataractRefractSurg38:419-424,201214)SiriwardenaD,KotechaA,MinassianDetal:Anteriorchamberflareaftertrabeculectomyandafterphacoemulsification.BrJOphthalmol84:1056-1057,2000利益相反:利益相反公表基準に該当なし432あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(128)

線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1174.1176,2013c線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼定秀文子竹中丈二望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EffectsofCataractSurgeryforPersistentChoroidalDetachmentafterTrabeculectomyAyakoSadahide,JojiTakenaka,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity線維柱帯切除術(TLE)後に遷延性脈絡膜.離(CD)をきたした3眼の治療経過を報告する.症例1は53歳,男性.TLE術後3カ月目の眼圧は両眼とも4.6mmHgでCDが出現した.白内障も進行したため右眼白内障手術と強膜縫合を行った.左眼は白内障手術のみを行った.術後眼圧は両眼とも8mmHgになりCDは消失した.右眼の視力はTLE前より改善し左眼はTLE術前と同様になった.症例2は74歳,男性.左眼のTLE術後眼圧は6.10mmHgであったが,術後11日目からCDが生じて白内障が進行した.左眼白内障手術と脈絡膜下液排除を行った.術後眼圧は10mmHgでCDは消失し,左眼の視力は(1.2)になった.TLE後の遷延性CDに対して白内障手術単独,あるいは強膜縫合,脈絡膜下液排除を組み合わせて行いCDは消失した.TLE後に遷延したCDには白内障手術を中心とした治療が有用であると思われた.Wereporton3eyesof2patientswithpersistentchoroidaldetachment(CD)aftertrabeculectomy(TLE).Case1:A-53-year-oldmaleunderwentTLEinoculusuterque(OU).Postoperativeintraocularpressure(IOP)decreasedto4.6mmHg;CDoccurred3monthsafterTLE.CataractsurgerywasperformedinOU,withscleralflapsuturinginoculusdexter(OD).Afterthesurgery,CDresolvedandIOPincreased8mmHginOU.Visualacuity(VA)improvedinOD,butreturnedtopre-TLElevelinoculussinister(OS).Case2:A-74-year-oldmaleunderwentTLEinOS.PostoperativeIOPdecreasedto6.10mmHg.Onday7,CDoccurred.At14monthsafterTLE,cataractsurgerywithsubchoroidalfluiddrainagewasperformed.PostoperativeIOPwas10mmHg;CDgraduallydisappeared.CorrectedVAwasimprovedto1.2.CataractsurgerycanbeusefulasameansoftreatingpersistentCDafterTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1174.1176,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,白内障手術,脈絡膜.離.trabeculectomy,cataractsurgery,choroidaldetachment.はじめに線維柱帯切除術(TLE)は術後早期の合併症が少なくない.術後早期の濾過過剰に伴う浅前房,脈絡膜.離を避けるために強膜弁を強めに縫合し,濾過量が不足するときにはレーザー切糸術を併用して眼圧を調整する.術後早期に生じた脈絡膜.離の治療としてはアトロピン点眼,房水産生阻害薬の投与,ステロイド薬の点眼,内服が推奨され,外科的な処置としては空気や粘弾性物質の注入,脈絡膜下液排除などを行うことが教科書的に記載されている1).ところが遅延した脈絡膜.離に対する明確な治療法は今のところ確立されていない.今回線維柱帯切除術後に脈絡膜.離が遷延した3眼を経験した.白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕単独,あるいは白内障手術に強膜弁縫合,または脈絡膜下液排除を組み合わせて行ったのでその治療経過を含めて報告する.I症例〔症例1〕53歳,男性.主訴は両眼の視力低下である.1997年頃両眼の開放隅角緑内障と診断された.点眼治療を行っていたが,2008年頃〔別刷請求先〕定秀文子:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:AyakoSadahide,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN117411741174あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY から両眼の視力低下が進行したため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は右眼0.1(0.7×sph.3.75D),左眼0.08(0.6×sph.3.25D(cyl.1.25DAx85°),眼圧は右眼22mmHg,左眼19mmHgであった.両眼Emery-Little分類でI度の白内障があった.眼軸長は右眼23.98mm,左眼23.86mmであった.両眼視神経乳頭は蒼白で陥凹拡大あり,開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年6月に左眼のTLE,2008年7月に右眼のTLEを行った.退院時の眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgで,眼底に異常所見はなかった.2008年9月受診時(右眼術後2カ月目)の眼圧は右眼4mmHg,左眼6mmHgで,右眼の前房深度は浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していたため炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の内服と散瞳薬(アトロピン・トロピカミドフェニレフリン塩酸塩)点眼を開始した.このときの左眼の前房深度は十分で脈絡膜.離はなかった.右眼の経過:2カ月経過しても右眼の前房は浅いままで脈絡膜.離が進行し3象限に及んだ.光干渉断層計(OCT)で:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)(0.6)(0.2)脈絡膜.離出現PEA+IOL+強膜弁縫合眼圧(mmHg)181614121086420術後期間(カ月)図1症例1右眼の術後の眼圧と視力は低眼圧黄斑症はなかった.また,水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.右眼視力は0.02(0.1×sph.5.00D(cyl.1.00DAx10°)まで低下した.2008年11月(右眼術後4カ月目)右眼PEA+IOL+強膜弁縫合術を行った.PEA+IOL+強膜弁縫合術後1週間で脈絡膜.離はほぼ消失した.右眼眼圧は6.8mmHgで推移し脈絡膜.離の再発はなかった.視力も徐々に改善し術後3カ月目に(1.0×sph.6.00D(cyl.2.00DAx10°)となり,緑内障手術前より上がった(図1).左眼の経過:術後6カ月目の受診時の左眼眼圧は4mmHgであった.前房深度は1.77mmと浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.OCTで低眼圧黄斑症はなかった.薬物治療を行ったが,脈絡膜.離は2カ月間遷延した.水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.左眼視力は(0.3×sph.5.50D(cyl.1.25DAx20°)まで低下した.白内障手術による炎症で眼圧が上昇し脈絡膜.離が改善することを期待し2009年2月(左眼術後8カ月目)に左眼PEA+IOLを行った.眼圧は7.9mmHgで推移して脈絡膜.離は消失した.PEA+IOL術後5カ月で左眼の視力はTLE術前時の(0.6×sph.4.50D(cyl.3.00DAx10°)まで戻った(図2).〔症例2〕74歳,男性.主訴は両眼の視野狭窄である.1995年に両眼の開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行っていた.2007年頃から両眼の眼圧のコントロールが不良となり左眼の視野障害も進行するため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は1.0(1.2×sph+2.25D(cyl.3.00DAx85°),左眼0.8(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx95°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.水晶体は両眼Emery-Little分類でⅠ度の白内障があった.眼軸長は右眼24.03mm,左眼23.56mmであった.両眼とも視神経乳頭は陥凹拡大があり開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年5月に左眼TLEを行った.術後7日:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)眼圧(mmHg)1614121086420PEA+IOL脈絡膜.離出現(0.2)(0.6):眼圧(mmHg):視力0102030405060術後期間(カ月)眼圧(mmHg)20181614121086420脈絡膜下液排除+PEA+IOL脈絡膜.離出現(1.0)(0.6)(0.2)(1.5)術後期間(カ月)図2症例1左眼の術後の眼圧と視力図3症例2左眼の術後の眼圧と視力(131)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131175 表1まとめ症例1右眼左眼症例2視力術前術後(0.2)(1.0)(0.3)(0.6)(0.1)(1.2)眼圧術前術後4mmHg8mmHg4mmHg7mmHg6mmHg9mmHgCD発症時期術後3カ月術後6カ月術後11日目CD発症から白内障手術までの期間2カ月後2カ月後13カ月後CD:脈絡膜.離.目の左眼の視力は0.8(1.2×sph+0.50D(cyl.1.25DAx40°),眼圧は10mmHgであった.術後11日目の再診時には左眼眼圧は6mmHgで前房は浅くなり,鼻上側と鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.眼圧は8mmHg前後で経過したが脈絡膜.離が進行した.検眼鏡検査では黄斑部に網膜皺襞はなかった.3象限にわたる脈絡膜.離が13カ月の間改善せず白内障が進行した.左眼の視力は(0.2×sph+0.50D(cyl.2.00DAx10°)に低下した.2009年7月(術後14カ月目)に左眼のPEA+IOLと脈絡膜下液排除術を行った.術後脈絡膜.離は徐々に改善し2カ月後左眼の眼圧は9mmHgで脈絡膜.離は消失した.術後左眼の視力は6カ月目に(1.2×sph.1.50D)になり,現在まで脈絡膜.離の再発はない(図3,表1).II考按線維柱帯切除術後の脈絡膜.離発症には過剰濾過や房水漏出などによる術後低眼圧あるいは眼内炎症が関与すると考えられている.多くが術後早期(1カ月以内)に出現し眼圧の上昇に伴い自然治癒し,外科的治療を要することは少ない1,2).しかし,遷延する脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は視力障害をきたすことがあるため何らかの外科的治療が必要になる.眼圧を正常化させるための処置として,圧迫縫合(compressionsuture)や自己血注入,強膜弁縫合などがある.また,内眼手術を行うことで炎症が生じ濾過胞の縮小,眼圧上昇をきたすことがあることが知られている.原田ら3)の報告によれば,線維柱帯切除術の既往のある眼に白内障手術を行った12眼中2眼で術後眼圧が上昇し緑内障再手術が必要となっている.また,Rebolledaら4)は線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った67眼中2眼は6カ月以内に緑内障再手術が必要になったと報告している.他にもKlinkら5)によれば線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った30眼において1年後の眼圧は平均で約2mmHg上昇し,30眼中151176あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013眼は2mmHg以上眼圧が上昇したと報告している.AwaiKasaokaら6)は線維柱帯切除術後1年以内に白内障手術を行うと有意に眼圧が上昇すると報告している.Sibayanら7)は線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して白内障手術が有効であった症例を報告している.白内障手術により炎症が起こることで濾過胞の瘢痕化,濾過機能の減弱を招きそれに伴い眼圧が上昇し低眼圧黄斑症が改善した.また,彼らは白内障がある線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して,白内障の程度や低眼圧の期間に関係なく白内障手術が有益だと述べている.これを応用して線維柱帯切除術後の遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術が有効であるとの報告がある8).筆者らはそれにならい遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術を中心とした治療を行った.症例1の右眼にはPEA+IOL+強膜縫合,左眼にはPEA+IOLを単独で行った.症例2は左眼PEA+IOLと脈絡膜下液排除を行い3眼とも脈絡膜.離の改善,視力の改善が得られた.強膜弁の追加縫合や脈絡膜下液排除がどこまで有効であったかわからない.中崎ら9)は線維柱帯切除術後の脈絡膜出血に対して下液排除だけでは再発を繰り返す症例を報告している.線維柱帯切除術の術後に遷延する脈絡膜.離に対しては白内障手術を中心とした治療が有効であるといえる.遷延する脈絡膜.離の要因,適切な追加手術の時期など今後解明すべき点は多い.文献1)丸山勝彦:線維柱帯切除術後早期管理.眼科手術24:138142,20112)新田憲和,田原昭彦,岩崎常人ほか:線維柱帯切除術後の脈絡膜.離に関する臨床経過の検討.あたらしい眼科27:1731-1735,20103)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響.あたらしい眼科25:10311034,20084)RebolledaG,Munoz-NegreteFJ:Phacoemulsificationineyeswithfunctioningfilteringblebs.aprospectivestudy.Ophthalmology109:2248-2255,20025)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification.aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,20056)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:ImpactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycinC.JCataractRefractSurg38:419-424,20127)SibayanSA,IgarashiS,KasaharaNetal:Cataractextractionasameansoftreatingpostfiltrationhypotonymaculopathy.OphthalmicSurgLasers28:241-243,19978)狩野廉:線維柱帯切除術中長期管理.眼科手術24:143148,20119)中崎徳子,原田陽介,戸田良太郎ほか:線維柱帯切除術後の上脈絡膜出血にシリコーンオイルのタンポナーデが奏功した2例.臨眼66:1537-1542,2012(132)

前眼部三次元光干渉断層計を用いた線維柱帯切除術後早期の濾過胞評価

2013年7月31日 水曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(7):1017.1021,2013c前眼部三次元光干渉断層計を用いた線維柱帯切除術後早期の濾過胞評価成田亜希子渡邊浩一郎平野雅幸小橋理栄瀬口次郎岡山済生会総合病院眼科EvaluationofEarlyGlaucomaFilteringBlebsUsing3-DimensionalAnterior-segmentOpticalCoherenceTomographyAkikoNarita,KoichiroWatanabe,MasayukiHirano,RieKobashiandJiroSeguchiDepartmentofOphthalmology,OkayamaSaiseikaiGeneralHospital目的:前眼部三次元光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて,線維柱帯切除術後眼圧良好な濾過胞の術後早期の特徴を明らかにすること.対象および方法:術後6カ月以上経過観察できた36例40眼を対象とした.術後2週目に前眼部三次元OCTを用いて濾過胞内部構造の観察を行い,結膜下マイクロシスト,濾過胞壁内の多層性低反射領域(stripingphenomenon),濾過胞下強膜の反射消失(shadingphenomenon)の有無について調べた.つぎに,術後6カ月の眼圧により,眼圧良好群と眼圧不良群の2群に分類した.結果:眼圧良好群(n=27)では,マイクロシストを23眼に,stripingphenomenonを12眼に,shadingphenomenonを9眼に認めた.眼圧不良群(n=13)ではマイクロシストを12眼に,stripingphenomenonを1眼に認めたが,shadingphenomenonは認めなかった.術後2週のstripingphenomenon,shadingphenomenonの有無は術後6カ月の眼圧と関連があった.結論:術後早期のstripingphenomenonならびにshadingphenomenonは,術後6カ月の良好な眼圧の予測因子となる可能性がある.Thefilteringblebsof40eyesof36patientswhohadundergonetrabeculectomywereexaminedwith3-dimensionalanterior-segmentopticalcoherencetomography,focusingoninternalfeatures:subconjunctivalmicrocysts,multiplelow-reflectivelayerswithinthefilteringblebwall(stripingphenomenon)andlossofvisualizationofthesclerabelowthefilteringbleb(shadingphenomenon)at2weeksaftersurgery.Thepatientswereclassifiedinto2categoriesaccordingtointraocularpressure(IOP)at6monthspostoperatively:goodandpoor.EarlyfilteringblebsofeyeswithgoodIOP(n=27)hadstripingphenomenonin12eyes,shadingphenomenonin9eyesandsubconjunctivalmicrocystsin23eyes,whereasearlyfilteringblebsofeyeswithpoorIOP(n=13)hadnoshadingphenomenon,butstripingphenomenoninoneeyeandsubconjunctivalmicrocystsin12eyes.Earlyfilteringblebswithstripingand/orshadingphenomenonwereassociatedwithgoodIOPat6monthsfollowingsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1017.1021,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,前眼部光干渉断層計,濾過胞.trabeculectomy,anterior-segmentopticalcoherencetomography,filteringbleb.はじめに線維柱帯切除術は,1968年にCairns1)によって紹介されて以来現在に至るまで,緑内障手術のゴールドスタンダードとされてきた.線維柱帯切除術後に長期にわたって良好な眼圧コントロールが得られるかどうかは,手術手技のみならず,緑内障の種類,年齢,人種,手術既往,術前の緑内障点眼薬の使用などが関与している2)が,最も重要なのは術後の創傷治癒過程であるとされている3).従来から,濾過胞内の創傷治癒過程を推察し,機能良好な濾過胞の特徴を明らかにするため,組織学的検討や細隙灯顕微鏡,超音波生体顕微鏡,生体共焦点顕微鏡による観察が行われてきた2,4.12).2005年に前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomog〔別刷請求先〕成田亜希子:〒700-8511岡山市北区伊福町1-17-18岡山済生会総合病院眼科Reprintrequests:AkikoNarita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaSaiseikaiGeneralHospital,1-17-18Ifuku-cho,Kita-ku,Okayama700-8511,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(135)1017 raphy:OCT)が臨床応用され,非侵襲的に前眼部の撮影が可能となった.1,310nmの長波長光を使用しているため,高い組織深達度が得られ,隅角解析,濾過胞内部の観察に用いられている3,13.16).筆者らは,術後6カ月目に良好な眼圧を有する濾過胞の術後早期の特徴を明らかにすることを目的とし,スウェプトソース方式の前眼部三次元OCTを用いて濾過胞内部構造の観察を行った.I対象および方法2008年8月から2011年3月までに,岡山済生会総合病院で初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行し,術後6カ月以上経過観察できた36例40眼を対象とした.緑内障病型の内訳は,原発開放隅角緑内障19眼,落屑緑内障9眼,正常眼圧緑内障4眼,続発緑内障6眼,原発閉塞隅角緑内障2眼であった.血管新生緑内障や,結膜瘢痕を生じる可能性のある眼科手術の既往眼は除外した.結膜下マイクロシストA全症例に円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した.まず1象限にわたって輪部で結膜を切開し,円蓋部基底結膜弁を作製し,続いてリドカイン塩酸塩2%を用いてTenon.下麻酔を行った.強膜弁のサイズは縦3mm×横3mmで,1/2.2/3層の深さで作製し,その下に縦3mm×横2mm,深さ1/4層の内層強膜弁を作製した.0.4mg/mlマイトマイシンCを強膜弁下と結膜下Tenon.に3分間塗布したのち,約150mlの生理食塩水で洗浄した.つぎに,Schlemm管内壁とそれより約1mm前方までの強角膜片とともに,内層強膜弁を切除した.強膜弁は10-0ナイロン糸を用いて5糸縫合し,結膜弁も10-0ナイロン糸を用い,輪部は半返し縫合,放射状切開部は連続縫合を行った.最後にデキサメタゾン0.5mlを結膜下注射した.術後の経過観察は2週後,1カ月後,6カ月後まで1カ月毎,それ以降は2カ月毎に行った.検査項目は,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,前眼部三次元OCTSS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)を用いた濾過胞の観察を行った.BBA①①②②⑥③③④⑤⑦⑦①:濾過胞壁,②:内部水隙,③:強膜,④:強膜弁,⑤:線維柱帯切除部位,⑥:角膜,⑦:結膜下マイクロシストStripingphenomenonABBA①③③②④④①:濾過胞壁,②:内部水隙,③:強膜弁,④:stripingphenomenonShadingphenomenonABBA①③②②④④①:濾過胞壁,②:内部水隙,③:強膜弁,④:shadingphenomenon図1前眼部OCTによる濾過胞内構造1018あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(136) 細隙灯顕微鏡検査と前眼部三次元OCT画像から,濾過胞形成不良と判断した場合,あるいは眼圧が14mmHgを超えた場合にはレーザー切糸術を施行した.ニードリングは施行しなかった.術後2週目に前眼部三次元OCT画像を用いて濾過胞内構造の評価を行い,濾過胞内所見:①結膜下マイクロシスト,②濾過胞壁内の多層性低反射領域(stripingphenomenon),③濾過胞下強膜の反射消失(shadingphenomenon)の有無について調べた(図1).術後6カ月の眼圧により,全症例を2群に分類した.眼圧良好群:薬物療法なしでIOP≦14mmHg眼圧不良群:薬物療法の有無にかかわらずIOP>14mmHgあるいは薬物療法ありでIOP≦14mmHg統計解析にはStatMate(Version4.1)を使用した.眼圧値の比較にはWelchのt検定を用い,濾過胞内所見の出現率の比較にはFisherの直接確率計算法を用い,有意水準は5%未満とした.II結果対象となった36例40眼の平均年齢は71.3±10.4歳,男性19例,女性17例で,術前平均眼圧は28.0±11.2mmHg,術式は超音波水晶体乳化吸引術(眼内レンズ挿入を含む)と線維柱帯切除術の同時手術が18眼,線維柱帯切除術単独が22眼,経過観察期間は20.6±11.4カ月であった(表1).眼圧良好群は27眼,眼圧不良群は13眼で,術前の平均表1患者背景背景因子患者数36眼数40平均年齢(歳)(平均±標準偏差)71.3±10.4性別(男性/女性)19/17術式(PEA+IOL+LEC/LEC)18/22術前平均眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)28.0±11.2経過観察期間(月)(平均±標準偏差)20.6±11.4PEA:超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術,LEC:線維柱帯切除術.眼圧は眼圧良好群24.8±8.6mmHg,眼圧不良群24.1±7.8mmHg,術後2週の平均眼圧は眼圧良好群5.9±3.0mmHg,眼圧不良群7.5±5.7mmHgで,ともに両群間に有意差を認めなかった(p=0.814,0.368)(表2).術後2週の濾過胞内所見については,眼圧良好群で結膜下マイクロシストを23眼(85.2%),stripingphenomenonを12眼(44.4%),shadingphenomenonを9眼(33.3%)に認め,眼圧不良群では,結膜下マイクロシストを12眼(92.3%),stripingphenomenonを1眼(7.7%)に認め,shadingphenomenonは認めなかった.術後2週の濾過胞内のstripingphenomenon,shadingphenomenonの出現頻度は眼圧良好群で有意に高かった(p=0.030,0.019)(表2).III考按線維柱帯切除術後に良好な眼圧コントロールを得るためには,機能良好な濾過胞を長期にわたって維持することが必須条件である.濾過胞の形成に最も大きな影響を及ぼすのは,濾過胞内で生じる創傷治癒過程であり,それを評価するためにさまざまな試みがなされてきた.Pichtら2)は,細隙灯顕微鏡検査により,形態学的に「好ましい濾過胞発達」と「好ましくない濾過胞発達」に分類し,好ましい濾過胞発達においては,結膜マイクロシスト,びまん性濾過胞,結膜血管の減少,適度な隆起を認め,好ましくない濾過胞発達においては,結膜血管の増加,コルクスクリュー血管,被包化,丈の高いドーム状の外観を呈することを示した.さらにSacuら4)は,術後早期から1年間,細隙灯顕微鏡を用いて濾過胞形態を前向きに評価し,術後1,2週目に結膜下マイクロシストを有する眼は,術後平均眼圧が有意に低く,一方,術後1,2週目にコルクスクリュー血管を有する眼は,術後平均眼圧が有意に高かったことを示し,術後早期の形態学的特徴によって予後を予測できる可能性を示唆した.しかし,細隙灯顕微鏡による濾過胞表面の観察から濾過胞内の創傷治癒過程を推察したり,濾過胞機能を評価したりするには限界がある.さらに濾過胞深部の観察を行うことで,濾過胞発達に関するより詳細な情報が得られる可能性があ表2術後2週の濾過胞内構造と術後6カ月の眼圧との関係術後6カ月の眼圧良好群(n=27)不良群(n=13)p値術前眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)24.8±8.624.1±7.80.814術後2週間の眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)5.9±3.07.5±5.70.368術後6カ月の眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)8.4±2.816.4±3.2<0.001術後2週の濾過胞内構造結膜下マイクロシストStripingphenomenonShadingphenomenon23(85.2%)12(44.4%)9(33.3%)12(92.3%)1(7.7%)0(0%)0.6530.0300.019(137)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131019 る.そこで山本ら7)は,超音波生体顕微鏡を用いて輪部基底認めたのに対し,眼圧不良群では,stripingphenomenonを線維柱帯切除術後の濾過胞内部の観察を行い,濾過胞内部の7.7%に認め,shadingphenomenonは認めなかったことか反射強度,強膜弁下のルートが視認できるかどうか,内部水ら,stripingphenomenonならびにshadingphenomenonが隙の有無,濾過胞高の4つを検討項目として濾過胞を評価術後の良好な眼圧と関連があることを示した.濾過胞の組織し,濾過胞内部の反射強度ならびに強膜弁下のルートが視認学的検討ならびに生体共焦点顕微鏡を用いた観察において,できるかどうかが眼圧コントロールと関連性が高いことを示機能良好な濾過胞は結膜下結合組織の疎な配列を有することした.また,これらのパラメータにより濾過胞をtypeLが示された8.12).さらに生体共焦点顕微鏡による術後早期の(low-reflective),typeH(high-reflective),typeE(encap濾過胞観察で,機能不良な濾過胞は結膜下結合組織が緊密sulated),typeF(flattened)の4つに分類し,眼圧コントで,波形,網状のパターンを呈し,一方,機能良好な濾過胞ロールが良好な濾過胞のほとんどがtypeLであったことをでは,疎に配列した結膜下結合組織の柱状パターンがみら示し,超音波生体顕微鏡による濾過胞内部構造の観察によれ10),本研究において前眼部三次元OCTで認めたstripingり,濾過胞機能を評価できる可能性を示唆した.phenomenonに一致する所見であると考えた.またshadingさらに,2005年にタイムドメイン方式の前眼部OCTがphenomenonは,結膜下の結合組織内に貯留した房水のため登場し,非可視光で非侵襲的に前眼部の撮影が可能となり,に組織透過性が低下し,深部構造の後方散乱が制限されてい隅角解析,濾過胞解析に応用されるようになった.超音波生るために生じるとされており17),濾過胞内の豊富な水分量を体顕微鏡ではアイカップによる接触を要したが,前眼部反映していると考えた.OCTでは非接触にて検査が可能であるため,被検者への負結膜下マイクロシストは,光学顕微鏡と電子顕微鏡を用い担が少なく,感染症などの心配がないため,術直後でも撮影た濾過胞の観察から,線維柱帯切除術後に房水が経結膜的に可能となった.その後2008年にスウェプトソース方式の前排出されている解剖学的証拠とされており11,12),細隙灯顕微眼部OCTが使用可能となり,より高速,高解像度の解析が鏡ならびに生体共焦点顕微鏡を用いた濾過胞観察において,可能となっただけでなく,三次元解析により任意の部位の画眼圧コントロール良好な濾過胞に多く認められた2,4.6,8.10).像を取得することが可能となった.本研究では,結膜下マイクロシストの出現率は,眼圧良好群Singhら13)は,タイムドメイン方式の前眼部OCTで線維で85.2%,眼圧不良群で92.3%とともに高く,両群間で有柱帯切除術後濾過胞を観察し,濾過胞高,濾過胞壁厚,濾過意差を認めなかった.Nakanoら16)は,タイムドメイン方式胞壁内の.胞様スペースの存在,強膜弁の強膜床への付着のの前眼部OCTを用いて術後早期濾過胞を観察し,術後2週有無,線維柱帯切除部位の開口の有無を検討した.眼圧コン目の結膜下マイクロシストの出現率は術後6カ月の眼圧と関トロール良好な濾過胞では厚い濾過胞壁を認め,一方眼圧コ連を認めなかったと報告した.したがって,結膜下マイクロントロール不良な濾過胞は,概して濾過胞高が低く,線維柱シストは,術後早期において,術後6カ月の眼圧にかかわら帯切除部位の閉塞,結膜-上強膜の強膜への付着あるいは強ず高頻度にみられる所見であると考えた.膜弁の強膜床への付着を認めたと報告し,細隙灯顕微鏡では結論として,前眼部三次元OCTSS-1000を用いて,線維観察不可能な濾過胞内部の形態学的特徴を示した.Kawana柱帯切除術後に非侵襲的に濾過胞内部の詳細な観察を行うこら14)は,スウェプトソース方式の前眼部三次元OCTを用いとができた.本研究から,術後早期濾過胞内のstripingて輪部基底線維柱帯切除術後濾過胞を観察し,眼圧コントロphenomenonやshadingphenomenonは,術後6カ月の良ール良好な濾過胞の特徴として,「広い内部水隙」,「広範な好な眼圧の予測因子となる可能性が示唆され,今後,そのよ低反射領域」,「多数のマイクロシストを有する厚い濾過胞うな所見を有する濾過胞を形成させるために,どのような術壁」を示した.また,Pfenningerら15)は,タイムドメイン中手技や術後介入が有効かを明らかにすることで,線維柱帯方式の前眼部OCTを用いて線維柱帯切除術後濾過胞の内部切除術の成功率向上に繋がると考えた.水隙の反射強度を計算し,濾過胞内部水隙の反射強度と眼圧との間に強い相関があることを示した.さらにTheelenら3)は,前眼部OCTを用いて術後早期の濾過胞を観察し,眼圧利益相反:利益相反公表基準に該当なしコントロール良好な濾過胞では,術後1週目に濾過胞壁内の多数の低反射層,濾過胞下の強膜の描出不能といった所見を文献認めることを示した.1)CairnsJE:Trabeculectomy.AmJOphthalmol66:673本研究では,前眼部三次元OCTにて術後2週目に濾過胞679,1968内構造を観察し,術後6カ月の眼圧良好群ではstriping2)PichtG,GrehnF:Classificationoffilteringblebsintrabephenomenonを44.4%に,shadingphenomenonを33.3%にculectomy:biomicroscopyandfunctionality.CurrOpin1020あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(138) Ophthalmol9:2-8,19983)TheelenT,WesselingP,KeunenJEEetal:Apilotstudyonslitlamp-adaptedopticalcoherencetomographyimagingoftrabeculectomyfilteringblebs.GraefesArchClinExpOphthalmol245:877-882,20074)SacuS,RainerG,FindlOetal:CorrelationbetweentheearlymorphologicalappearanceoffilteringblebsandoutcomeoftrabeculectomywithmitomycinC.JGlaucoma12:430-435,20035)CantorLB,MantravadiA,WuDunnDetal:Morphologicclassificationoffilteringblebsafterglaucomafiltrationsurgery:TheIndianablebappearancegradingscale.JGlaucoma12:266-271,20036)WellsAP,CrowstonJG,MarksJetal:Apilotstudyofasystemforgradingofdrainageblebsafterglaucomasurgery.JGlaucoma13:454-460,20047)YamamotoT,SakumaT,KitazawaY:AnultrasoundbiomicroscopicstudyoffilteringblebsaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology102:1770-1776,19958)LabbeA,DupasB,HamardPetal:Invivoconfocalmicroscopystudyofblebsafterfilteringsurgery.Ophthalmology112:1979-1986,20059)MessmerEM,ZappDM,MackertMJetal:Invivoconfocalmicroscopyoffilteringblebsaftertrabeculectomy.ArchOphthalmol124:1095-1103,200610)GuthoffR,KlintT,SchlunckGetal:Invivoconfocalmicroscopyoffailingandfunctioningfilteringblebs.JGlaucoma15:552-558,200611)AddicksEM,QuigleyHA,GreenWRetal:Histologiccharacteristicsoffilteringblebsinglaucomatouseyes.ArchOphthalmol101:795-798,198312)PowerTP,StewartWC,StromanGA:Ultrastructualfeaturesoffiltrationblebswithdifferentclinicalappearances.OphthalmicSurgLasers27:790-794,199613)SinghM,ChewPTK,FriedmanDSetal:Imagingoftrabeculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:47-53,200714)KawanaK,KiuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftrabeculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:848-855,200915)PfenningerL,SchneiderF,FunkJ:Internalreflectivityoffilteringblebsversusintraocularpressureinpatientswithrecenttrabeculectomy.InvestOphthalmolVisSci52:2450-2455,201116)NakanoN,HangaiM,NakanishiHetal:Earlytrabeculectomyblebwallsonanterior-segmentopticalcoherencetomography.GraefesArchClinExpOphthalmol248:1173-1182,201017)SchmittJM,KnuttelA,YadlowskyMetal:Opticalcoherencetomographyofadensetissue:statisticsofattenuationandbackscattering.PhysMedBiol39:17051720,1994***(139)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131021

Bacillus属による遅発性濾過胞感染に伴う眼内炎の1例

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):385.389,2013cBacillus属による遅発性濾過胞感染に伴う眼内炎の1例田中宏樹重安千花谷井啓一渡辺健春畑裕二秋山邦彦山田昌和独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科ACaseofEndophthalmitisAssociatedwithLate-OnsetBlebitisCausedbyBacillusSpeciesHirokiTanaka,ChikaShigeyasu,KeiichiYatsui,KenWatanabe,YujiHaruhata,KunihikoAkiyamaandMasakazuYamadaDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenterBacillus属による濾過胞感染に伴う眼内炎を経験したので報告する.症例は67歳,男性.前日夜からの左眼の視力低下,疼痛を主訴として,翌朝9時に来院した.左眼の閉塞隅角緑内障に対して白内障手術と線維柱帯切除術を施行された既往歴があった.左眼の矯正視力は0.2で,著明な毛様充血,前房内に炎症細胞および前房蓄膿を認め,濾過胞は白濁し,眼底は透見困難であった.濾過胞感染による眼内炎と診断し,同日14時に硝子体手術を行った.術中硝子体の塗抹検査でグラム陽性桿菌が検出され,芽胞も認めたためにBacillus属による眼内炎を疑い,細菌培養検査で術後2日目にBacillus属と同定した.起炎菌が早期に判明し,感受性のある抗菌薬を投与したところ,術後4日目には眼内の炎症所見は改善傾向を示し,その後徐々に鎮静化した.術後4カ月には矯正視力は1.0まで回復し,良好な視力予後を得ることができた.術後眼内炎の治療においては,patient’sdelayやdoctor’sdelayをできるかぎり短縮して早期に治療できる体制づくりと起炎菌に応じた化学療法が重要であることが改めて示唆された.Wereportacaseofbleb-associatedendophthalmitisduetoBacillusspecies.A67-year-oldmalepresentedatourhospitalthemorningafterexperiencingdecreasedvision,painandepiphorainhislefteyeonthepreviousnight.Hehadapasthistoryofcataractsurgeryandtrabeculectomyinhislefteye.Thevisualacuity(VA)oftheeyewas20/100;slitlampexaminationrevealedciliaryinjection,severeinflammationandhypopyonintheanteriorchamber.Theblebwasinfiltratedandthefunduswasinvisible.Bleb-associatedendophthalmitiswasdiagnosed,andvitrectomywasperformed6hoursafterpresentation.Smearpreparationofvitreousaspiratesrevealedgram-positiverodswithspore-formingbacteria,suggestingBacillusspecies;thefindingwasconfirmed2dayslaterbypositivemicrobialculture.Severalactiveantibioticswereadministratedviavariousroutes.Theinflammationgraduallydiminishedwithin4dayspostoperatively;VArecoveredto20/20in4months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):385.389,2013〕Keywords:バチルス,眼内炎,濾過胞炎,線維柱帯切除術,硝子体手術.Bacillus,endophthalmitis,blebitis,trabeculectomy,vitrectomy.はじめにBacillus属は土壌や水中に広く生息するグラム陽性の芽胞形成桿菌である.眼外傷後の眼内炎やコンタクトレンズに関連した感染性角膜炎の起炎菌として知られており,特に眼内炎に関しては,Bacillus属は数種類の強い外毒素を有するため急速で劇症な経過をたどり,予後不良であると報告されている1,2).しかし,線維柱帯切除術後の眼内炎の起炎菌としてBacillus属はまれであり,筆者らが検索した限り,わが国において線維柱帯切除術後にBacillus属を起炎菌とする眼内炎の報告はない.今回,筆者らはBacillus属を起炎菌とする濾過胞感染に続発した眼内炎の1例を経験した.発症早期に診断し,迅速に硝子体手術と化学療法を行った結果,良好な予後を得ることができたのでその臨床経過を報告する.I症例患者:67歳,男性.主訴:左眼の視力低下.〔別刷請求先〕田中宏樹:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科Reprintrequests:HirokiTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2-5-1Higashigaoka,Meguro-ku,Tokyo152-8902,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(99)385 図1初診時前眼部写真前房内に著明な炎症細胞および前房蓄膿を認め,毛様充血を伴っていた.現病歴:2010年2月夜より左眼の視力低下,疼痛,流涙を自覚し,翌日午前9時に来院した.既往歴:2008年7月左眼の急性閉塞隅角緑内障発作を起こし,同日レーザー虹彩切開術を施行した.いったんは眼圧低下が得られたが,その後に眼圧の再上昇を認めたため,同年8月に白内障手術(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術),10月に線維柱帯切除術を施行した.線維柱帯切除術では,結膜弁は輪部基底で作製し,上方11時の位置で線維柱帯切除を行い,0.04%マイトマイシンC(MMC)を併用した.術後は2009年2月頃より無血管濾過胞の状態ではあったが,濾過胞からの房水漏出はなく,眼圧は点眼なしで15mmHgと安定していた.左眼の視力は(1.0),Goldmann視野検査では視野欠損を認めなかった.抗菌薬の点眼は行わずに,6週間に1回外来にて経過観察していた.家族歴,全身疾患:特記事項なし.眼内炎発症時の所見:視力は右眼(1.2×+1.50D(cyl.1.00DAx135°)左眼(0.2×+1.25D(cyl.0.50DAx180°).左眼は毛様充前房内に著明な炎症細胞および前房蓄膿を認め(図1),濾過胞は白濁していた(図2).硝子体は混濁し,眼底は透見困難であった.血液検査所見:白血球数は10,400/μlと軽度の上昇を認めたが,C反応性蛋白(CRP)は0.1mg/dlであり,その他のデータも正常範囲内であった.経過:濾過胞感染はすでに硝子体まで炎症が波及したstageIII3,4)の状態であり,同日14時に23ゲージ硝子体手術を行った.感染部位である濾過胞の結膜は,癒着が強かったため強膜血,(,)を一部含めて.離を行い切除し,細菌培養検査へ提出した.また,前房水,硝子体の採取も行い,同様に細菌培養検査へ386あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図2初診時濾過胞写真白濁した濾過胞が観察された.図3硝子体手術術中眼底写真眼内は強い硝子体混濁があり,網膜に斑状出血と樹氷状血管炎を認めた.提出した.眼内は強い硝子体混濁と網膜に斑状出血,樹氷状血管炎を認めたため(図3),可能なかぎり硝子体を切除した.セフタジジム20μg/ml,バンコマイシン40μg/mlを添加した術中灌流液に加え,術終了時にセフタジジム10mg/0.5mlとバンコマイシン5.0mg/0.5mlの結膜下注射,セフタジジム2.0mg/0.1mlとバンコマイシン1.0mg/0.1mlの硝子体内注射を行った.線維柱帯切除部位の強膜からの漏出はみられず,切除した結膜周囲の結膜下の癒着を解除した後,周囲の結膜を寄せて縫合した.術当日,採取した硝子体は遠心分離後に沈渣の塗抹検査を行った.グラム陽性桿菌が検出され,芽胞形成を認めたためにBacillus属による眼内炎を疑い,術後2日目には硝子体からの細菌培養検査によりBacillus属と同定した.術翌日から点眼薬は2%セフタジジム,1%バンコマイシン,0.5%(100) 退院2/345678910111213141516硝子体注射VCM1.0mg/0.1mlCAZ2.0mg/0.1ml結膜下注射VCM5.0mg/0.5mlCAZ10mg/0.5ml点眼薬1%VCM×8回0.5%ABK×8回2%CAZ×8回0.5%MFLX×8回全身投与CPFX600mgⅳFMOX1gⅳCPFX300mgoral図4術後抗菌薬使用状況感受性のある抗菌薬を硝子体注射,結膜下注射,点眼,全身投与とさまざまな方法で使用した.VCM:vancomycin,CAZ:ceftazidime,ABK:arbekacin,MFLX:moxifloxacin,FMOX:flomoxefsodium,CPFX:ciprofloxacin.図5術後半年眼底写真白濁し樹氷状血管炎を呈していた網膜の血流は回復し,斑状出血も消失した.モキシフロキサシンを1日8回,0.1%ベタメタゾンを1日4回,1%アトロピンを1日1回使用していたが,起炎菌がBacillus属と同定された術後2日目からは2%セフタジジムを0.5%アルベカシンへ変更した.Bacillus属はbラクタマーゼ産生性でペニシリン,セフェムが無効であることが多く,バンコマイシン,アミノグリコシドが第一選択として推奨されているためである.また,術翌日から9日間,セフタジジムとバンコマイシンの結膜下注射および硝子体内注射を連日継続した.全身投与の抗菌薬も硝子体移行性,薬剤感受性を踏まえ,術後2日目からフロモキセフナトリウム1gか(101)図6術後5カ月前眼部写真眼内の炎症所見は改善した.図7術後5カ月濾過胞写真濾過胞の再形成を認めた.らシプロフロキサシン600mgへ変更し10日間静脈内投与を行った後,300mg/日の経口投与へ変更して7日間継続した(図4).術後3日目に判明した薬剤感受性試験の結果においては,ペニシリン系のPCG(ペニシリンG),ABPC(アンピシリン),セフェム系のCTM(セフォチアム)には耐性を示し,アミノ配糖体系のGM(ゲンタマイシン),ニューキノロン系のLVFX(レボフロキサシン)には感受性であった.術後4日目には眼内の炎症所見は改善傾向を示した.白濁し樹氷状血管炎を呈していた網膜の血流は回復し,斑状出血も消失し,左眼の視力は(0.5)と改善した.術後4カ月には眼底所見は改善し,左眼の視力は(1.0)まで回復し,濾過胞の再形成を認めた(図5.7).0.03%ビマトプロスト点眼で眼圧は15mmHg程度と落ち着いており,視野欠損もなく2年4カ月経過した現在まで経過は良好である.あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013387 II考按線維柱帯切除術にMMCなどの線維芽細胞増殖抑制薬を併用するようになり,術後の眼圧コントロールの成績は改善した5).しかし,その一方で術後の濾過胞炎や眼内炎の発症の危険性は増大していることが報告されている6).線維柱帯切除術後の晩期感染症の発生頻度は,線維芽細胞増殖抑制薬を併用しない場合では0.2.1.5%,5-フルオロウラシル併用では1.9.5.7%,MMC併用では1.6.3.1%と報告されている7).線維芽細胞増殖抑制薬の併用以外に濾過胞感染を生じやすい危険因子として,濾過胞からの房水の漏出8),下方の濾過胞8),乏血管性の濾過胞9),易感染性の全身疾患10)などがあげられている.線維柱帯切除術後の抗菌薬点眼の予防的継続の是非については諸説あり6,9),一定の見解が得られていない.本症例では線維芽細胞増殖阻害薬の使用や乏血管性の濾過胞といった危険因子は存在したものの,長期的な抗菌薬の点眼は行わずに,患者に濾過胞感染に関する啓蒙,指導を行ったうえで,数週間に一度の定期的な診療を行っていた.線維柱帯切除術から濾過胞感染症までの期間については,Mochizukiら3.1年(0.4.6.0年)9),Busbeeら19.1カ月(3日.9年)11),Songら5年(0.7.12.2年)12)とさまざまな報告があるが,本症例では線維柱帯切除術後16カ月で濾過胞感染症を発症している.線維柱帯切除術後の眼内炎の起炎菌としてStreptococcus属やStaphylococcus属などが多いとされ11,12),これらは結膜.内に常在細菌叢として存在する菌である.本症例の起炎菌となったBacillus属は芽胞形成性のグラム陽性桿菌であり,水中や土壌に広く存在する環境菌である13).Bacillus属は術後眼内炎の起炎菌としてはまれであり,Bacillus属による眼内炎は外傷に伴うものが多いとされている1,2).本症例における発症要因としては外傷などの誘因はないため,感染経路として患者の手についた菌が擦過により,あるいは水を介して濾過胞に付着した可能性が推測される.Bacillus属はbラクタマーゼを産生し,ペニシリン,セフェムが無効であることが多く,抗菌薬選択は,バンコマイシン,アミノグリコシドが第一選択として推奨されている14.16).また,全身投与の抗菌薬は硝子体内への移行性,感受性を踏まえシプロフロキサシンが推奨されている17.19).本症例の感受性試験でもペニシリン,セフェムには耐性を示していたが,アミノグリコシド,ニューキノロンには感受性を認めた.このため術後2日目から点眼薬はセフタジジムをアルベカシンへ,全身投与の抗菌薬もフロモキセフナトリウムからシプロフロキサシンへ変更した.硝子体注射は,無水晶体無硝子体眼では半減期が短縮し20,21),バンコマイシンとセフタジジムの反復投与が網膜毒性を示さなかったという報告を踏まえ22),術後9日間継続した.線維柱帯切除術後のBacillus属による眼内炎の報告は少なく,筆者らが渉猟した限りでは3例であった14,15).Millerらの報告14)では,線維柱帯切除術後16カ月で眼内炎を発症し,診断後2時間で硝子体内にバンコマイシン,ゲンタマイシンを投与したが,予後不良であった.Hemadyらの2例15)は,線維柱帯切除術後に眼内炎を発症し,診断後6時間で,ゲンタマイシンとメチシリンあるいはセファロチンの結膜下注射,全身投与を行い,最終視力は0.6と0.4であった(表1).これらの予後の違いについて,まず菌種の違いや外毒素の産生能の違いが原因として考えられており,60種類以上あるBacillus属の種のなかでもBacilluscereusは最も予後の悪い菌として知られている1,2).つぎに感染から治療開始までの時間の違いがあげられる.Bacillus属は感染後に増殖し,ある一定以上の細菌数に達すると外毒素を放出するquorumsensingを行う菌である.Bacilluscereusは眼感染後,2.4時間で外毒素の放出を開始するため,4時間以内に表1線維柱帯切除後Bacillus眼内炎の報告例報告者(年)年齢(歳)/性別検出菌診断-治療時間手術点眼抗菌薬使用結膜硝子体全身発症時視力最終視力Hemady(1990)50/男性Bacillussp.6hr─BCNMDMPPCGMDMPPCGM─0.6Hemady(1990)80/男性Bacillussp.6hr─CETGMCETGMCETGM0.10.4Miller(2007)47/男性Bacilluscereus2hrTapVCMGMSLSL田中(2013)67/男性Bacillussp.5hrPPVVCMABKVCMCAZVCMCAZCPFX0.21.0MFLXABK:arbekacin,BC:bacitracin,CAZ:ceftazidime,CET:cephalothin,CPFX:ciprofloxacin,DMPPC:methicillin,GM:gentamicin,MFLX:moxifloxacin,NM:neomycin,VCM:vancomycin.PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術.388あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(102) 治療を始めたほうが,有意に予後がよいという報告もある23).最後に治療方法の違いが考えられる.Busbeeらは線維柱帯切除後の眼内炎で,硝子体手術を行った群と硝子体タップと抗菌薬硝子体注射を行った群とで視力予後を検討し,硝子体手術を行った群で有意に視力予後が良好であったと報告している11).一方,Songらは同様の検討を行い,硝子体タップと抗菌薬硝子体注射を行った群で有意に視力予後が良好であったと報告している12).本症例で1.0と良好な最終視力を得られたのは,早期の硝子体手術に加え,硝子体注射を含めた感受性の高い化学療法を行ったためであると考えられる.本症例で有効な治療が行えたのは,まず,発症から来院までの時間,patient’sdelayが少なかったことがあげられる.これは線維柱帯切除術後から,患者に濾過胞感染に関する啓蒙がしてあり,何か異常があればすぐ来院するように指導していたためである.つぎに,来院してから手術までが早く施行できたこと,doctor’sdelayが短かったことがあげられる.診断から手術まで早期に行える体制づくりが重要であることが改めて示唆された.最後に起炎菌が早期に判明したことがあげられる.結膜,前房水,硝子体を検体として細菌学的検査を行ったが,術当日の塗抹検査結果からBacillus属による感染を疑い,感受性のある抗菌薬を硝子体注射,結膜下注射,点眼,内服とさまざまな方法で使用することができた.以上により眼内炎発症から迅速に加療を開始することができ,良好な結果を得られたと考えられる.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会(2010)で発表した.文献1)DasT,ChoudhuryK,SharmaSetal:ClinicalprofileandoutcomeinBacillusendophthalmitis.Ophthalmology108:1819-1825,20012)FosterRE,MartinezJA,MurrayTGetal:UsefulvisualoutcomesaftertreatmentofBacilluscereusendophthalmitis.Ophthalmology103:390-397,19963)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:Complicationsofsurgeryinglaucoma.Earlyandlatebacterialendophthalmitisfollowingglaucomafilteringsurgery.Ophthalmology92:959-963,19854)GreenfieldDS:Bleb-relatedocularinfection.JGlaucoma7:132-136,19985)PalmerSS:Mitomycinasadjunctchemotherapywithtrabeculectomy.Ophthalmology98:317-321,19916)JampelHD,QuigleyHA,Kerrigan-BaumrindLAetal:Riskfactorsforlate-onsetinfectionfollowingglaucomafiltrationsurgery.ArchOphthalmol119:1001-1008,20017)望月清文,山本哲也:線維芽細胞増殖阻害薬を併用する緑内障濾過手術の術後眼内炎.眼科手術11:165-173,19988)SoltauJB,RothmanRF,BudenzDLetal:Riskfactorsforglaucomafilteringblebinfections.ArchOphthalmol118:338-342,20009)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitomycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOphthalmol81:877-883,199710)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,200011)BusbeeBG,RecchiaFM,KaiserRetal:Bleb-associatedendophthalmitis:clinicalcharacteristicsandvisualoutcomes.Ophthalmology111:1495-1503,200412)SongA,ScottIU,FlynnHWJretal:Delayed-onsetbleb-associatedendophthalmitis:clinicalfeaturesandvisualacuityoutcomes.Ophthalmology109:985-991,200213)岡山加奈,藤井宝恵,小野寺一ほか:手指消毒効果と手指細菌叢に影響する爪の長さ.環境感染誌26:269-277,201114)MillerJJ,ScottIU,FlynnHWJretal:EndophthalmitiscausedbyBacillusspecies.AmJOphthalmol145:883888,200815)HemadyR,ZaltasM,PatonBetal:Bacillus-inducedendophthalmitis:newseriesof10casesandreviewoftheliterature.BrJOphthalmol74:26-29,199016)KervickGN,FlynnHWJr,AlfonsoEetal:AntibiotictherapyforBacillusspeciesinfections.AmJOphthalmol110:683-687,199017)AlfaroDV,DavisJ,KimSetal:ExperimentalBacilluscereuspost-traumaticendophthalmitisandtreatmentwithciprofloxacin.BrJOphthalmol80:755-758,199618)KerenG,AlhalelA,BartovEetal:Theintravitrealpenetrationoforallyadministeredciprofloxacininhumans.InvestOphthalmolVisSci32:2388-2392,199119)BabaFZ,TrousdaleMD,GaudermanWJetal:Intravitrealpenetrationoforalciprofloxacininhumans.Ophthalmology99:483-486,199220)AguilarHE,MeredithTA,el-MassryAetal:Vancomycinlevelsafterintravitrealinjection.Effectsofinflammationandsurgery.Retina15:428-432,199521)ShaarawyA,MeredithTA,KincaidMetal:Intraocularinjectionofceftazidime.Effectsofinflammationandsurgery.Retina15:433-438,199522)YoshizumiMO,BhavsarAR,DessoukiAetal:Safetyofrepeatedintravitreousinjectionsofantibioticsanddexamethasone.Retina19:437-441,199923)CalleganMC,GuessS,WheatleyNRetal:EfficacyofvitrectomyinimprovingtheoutcomeofBacilluscereusendophthalmitis.Retina31:1518-1524,2011***(103)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013389

線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):107.111,2013c線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績有本剛丸山勝彦土坂麻子後藤浩東京医科大学眼科学教室OutcomeofTransconjunctivalScleralSuturingforLate-OnsetBlebLeakageFollowingTrabeculectomyGoArimoto,KatsuhikoMaruyama,AsakoTsuchisakaandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧を生じた6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った.縫合前眼圧は3.5±2.3(レンジ:0.6)mmHg,線維柱帯切除術から縫合までの期間は15カ月.30年であった.10-0ナイロン丸針を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸し結紮した.縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8(3.20)mmHg,1カ月後は7.8±6.2(2.19)mmHgであった.縫合後,1眼を除いてニードリングや経結膜的強膜縫合の追加を要した.最終的に房水漏出は2眼で消失し,これらの症例の最終観察時の眼圧(経過観察期間)はそれぞれ3mmHg(21カ月),14mmHg(24カ月)で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.房水漏出に伴う低眼圧が改善しなかった4眼に対しては観血的手術を施行した.Weevaluatedtheefficacyoftransconjunctivalscleralsuturing(TCSS)forthemanagementoflate-onsetblebleaksaftertrabeculectomywithmitomycinC.Sixeyesof6patientswithhypotonycausedbyavascularblebleakageunderwentTCSSusinga10-0nylonsuturewitharound,taperedneedle.TheperiodbetweentrabeculectomyandTCSSrangedbetween15monthsand30years.Theintraocularpressure(IOP)(mean±standarddeviation),3.5±2.3mmHg(range:0-6mmHg)beforeTCSS,was9.2±5.8mmHg(range:3-20mmHg)at1weekand7.8±6.2mmHg(range:2-19mmHg)at1monthafterTCSS.Fivecasesrequiredneedlerevisionand/orTCSStotreatpersistentblebleakage,whereastheblebleakageresolvedin2cases.TheIOP(follow-upperiod)inthese2caseswas3mmHgat21monthsand14mmHgat24months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):107.111,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,濾過胞,晩期,房水漏出,経結膜的強膜縫合.trabeculectomy,late-onset,blebleak,transconjunctivalscleralsuture.はじめに線維柱帯切除術後の晩期房水漏出は無血管性濾過胞を有する症例に生じやすく1),その頻度は1.10%とされ2),マイトマイシンCなどの代謝拮抗薬を併用した場合にはさらに高頻度になることが知られている3).房水漏出の存在は濾過胞関連感染症の発症リスクを高めるだけではなく4),低眼圧による視力低下,ならびに浅前房に伴う角膜内皮障害や白内障発生の原因となるため濾過胞の修復を要する.房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する処置として,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7),血清点眼8),コンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが報告されているが,低侵襲性かつ確実性の高い方法はなかった.結膜上から強膜を直接縫合する経結膜的強膜縫合は,線維柱帯切除術後の過剰濾過に対する処置として報告された手技である11).この経結膜的強膜縫合は,房水漏出部に行うことによって瘻孔部にかかる圧力を減弱させ修復を促すことができるため,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対しても有効である可能性があるが,これまで報告されて〔別刷請求先〕有本剛:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:GoArimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-Shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)107 はいない.今回,線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対して経結膜的強膜縫合を行い,有効性と安全性を検討したので報告する.I対象および方法マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後,無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で6mmHg以下の低眼圧をきたし,経結膜的強膜縫合を施行した6例6眼について診療録をもとに後ろ向きに調査した.対象の背景を表1に示す.縫合前眼圧は3.5±2.3mmHg(平均±標準偏差)で,症例2では脈絡膜.離を,その他の症例では低眼圧黄斑症を認めたが,角膜内皮と虹彩が接触するほどの浅前房をきたしていた症例はなかった.また,線維柱帯切除術での結膜弁作製方法は症例2のみ輪部基底結膜弁で,他の症例は円蓋部基底結膜弁であった.なお,いずれの症例も経結膜的強膜縫合前に房水漏出に対する処置は行われていなかった.無血管性濾過胞は細隙灯顕微鏡による観察で表面が白色調に透き通り湿潤で,血管が観察されない濾過胞と定義した.また,房水漏出は細隙灯顕微鏡の青色光による観察で判定し,湿ったフルオレセイン試験紙を濾過胞壁に静かに接触させ,濾過胞を圧迫しなくても漏出点から自然に房水が漏出する場合を陽性とした.経結膜的強膜縫合は以下のような方法で行った.リドカイン点眼液(キシロカインR点眼液4%,アストラゼネカ)による点眼麻酔後,クロルヘキシジングルコン酸塩(ステリクロンRW液0.05,健栄製薬)による消毒を行い,バラッケ氏開瞼器で開瞼を行った.続いて細隙灯顕微鏡で観察しながら滅菌綿棒で濾過胞を圧迫し濾過胞丈を減少させ,ただちに10-0ナイロン丸針(10-0針付縫合糸ナイロンブラック・モノ,品番1475,マニー)を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸,結紮した(図1).その後,房水漏出が持続あるいは再発した場合には経結膜的強膜縫合を追加し,濾過胞の限局化が強い症例に対してはニードリングを行って濾過胞境界の癒着組織を切開し濾過胞内圧の減圧を試みた.縫合後はレボフロキサシン点眼薬(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)とベタメタゾン酸エステルナトリウム液(リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%,塩野義製薬)の点眼を1日4回行い,適宜漸減した.経結膜的強膜縫合を行った翌日と,縫合後1カ月間は1週間ごとに,その後は1カ月ごとの診療記録を調査した.II結果各症例の縫合後の経過を示す(表2).初回の経結膜的強膜縫合後1カ月まで追加処置を行った症例はなく,縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8mmHg,1カ月後は7.8±6.2mmHgであった(平均±標準偏差).症例1は経結膜的強膜縫合後,房水漏出は消失したが縫合後6.12カ月の間に眼圧が高度に上昇したため眼圧下降目的のニードリングを計6回施行し,その後は最終観察時まで眼圧調整は良好であった.症例2は,1回目の経結膜的強膜縫合で一度房水漏出は消失したものの,縫合21カ月後に再度房水漏出をきたして低眼圧となったため経結膜的強膜縫合を追加し,その後は最終受診時まで房水漏出の再発はみられなかった.症例3は,初回の経結膜的強膜縫合直後は房水漏出が消失したものの経過とともに再発を繰り返し,縫合1週後に経結膜的強膜縫合を1回と,縫合1.6カ月の間に濾過胞内圧の減圧を目的としたニードリングを計3回追加した.その結果,最終的に房水漏出が消失しなかったため縫合後12カ月で結膜前方移動術を行った.症例4は経結膜的強膜縫合後も房水漏出が消失せず,縫合後2カ月で結膜前方移動術を,15カ月で水晶体再建術を行った.症例5は,縫合後1カ月で濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房水漏出が持続したため,縫合2カ月後に観血的手術を追加した.手術術式は,限局化した濾過胞の濾過胞境界に増殖した結合組織を切開する目的で,濾過胞再建用ナイフ(BlebknifeIIR,カイインダストリ表1対象の背景症例年齢性別左右病型*緑内障手術以外の手術既往期間縫合時眼圧線維柱帯切除術.房水漏出房水漏出.経結膜的強膜縫合178歳女性左SG水晶体再建術全層角膜移植4年0カ月1カ月0mmHg284歳男性右POAG水晶体再建術30年0カ月1カ月6mmHg362歳男性左POAG水晶体再建術1年3カ月1カ月5mmHg465歳女性右POAGなし5年3カ月1カ月2mmHg570歳男性左NVG水晶体再建術硝子体切除術1年7カ月3カ月3mmHg666歳男性右SG水晶体再建術5年0カ月2カ月5mmHg病型*SG:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障.108あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(108) abcd図1房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する経結膜的強膜縫合例a:縫合前,b:房水漏出を認める,c:縫合直後,d:最終観察時(ニードリングならびに経結膜的強膜縫合追加後).表2縫合後の経過症例縫合1週後眼圧縫合1カ月後眼圧縫合後追加処置(回数)房水漏出の転機追加した観血的手術経過観察期間19mmHg8mmHgニードリング*(6)消失なし21カ月‡220mmHg19mmHg経結膜的強膜縫合(1)消失なし24カ月‡39mmHg10mmHgニードリング†(3)経結膜的強膜縫合(1)持続濾過胞前方移動術12カ月¶48mmHg5mmHgなし持続濾過胞前方移動術水晶体再建術2カ月¶53mmHg3mmHgニードリング†(1)持続ブレブナイフによる濾過胞再建術2カ月¶66mmHg2mmHgニードリング†(1)持続緑内障チューブシャント手術5カ月¶*:高度眼圧上昇に対するニードリング,†:濾過胞内圧の減圧目的のニードリング,‡:縫合から最終経過観察期間,¶:縫合から観血的手術追加までの期間.ーズ)を用いた濾過胞再建術とした.症例6も縫合後1カ月能を消失させたうえで,他部位に緑内障フィルトレーションで濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房デバイス(アルコンエクスプレスR,日本アルコン)による水漏出が改善せず,縫合5カ月後に観血的手術を行った.本緑内障チューブシャント手術を行った.症例は無血管性濾過胞が広範囲で結膜前方移動術の施術が困このように,経結膜的強膜縫合後,症例4を除く6眼中5難だったため,経結膜的強膜縫合により元の濾過胞の濾過機眼には追加処置が必要となり,その結果,房水漏出は6眼中(109)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013109 2眼(症例1,症例2)で消失し,房水漏出が消失した症例の最終観察時眼圧ならびに経過観察期間はそれぞれ3mmHgと14mmHg,21カ月と24カ月で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.なお,全経過を通じて処置に伴う結膜損傷や濾過胞関連感染症をきたした症例はなかった.III考按マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧をきたした6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った結果,経結膜的強膜縫合の追加やニードリングなどの処置の併用は要したものの,2眼では房水漏出が消失し観血的手術の追加を回避することができた.房水漏出に対する低侵襲な処置として,血清点眼8)やコンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが行われることがあるが,確実に房水漏出を改善させることは困難なことが少なくない.血清点眼についてはMatsuoら8)が,代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術後晩期にoozingあるいはpointleakをきたした症例に対する有効性を検討しているが,血清点眼を1日4回12週間使用した結果,oozingは63%で消失したのに対し,pointleakの消失率は27%に留まったとし,中等度以上の房水漏出を有する症例に対する血清点眼の効果の限界が示唆される.また,コンタクトレンズ装用についてはBlokら9)が直径20.5mmの大型コンタクトレンズ装用による房水漏出消失率は8割と比較的良好な結果を示しているが,一方でBurnsteinら6)は,コンタクトレンズ装用をはじめとする非侵襲的な治療よりも結膜前方移動術を行ったほうが持続する房水漏出や濾過胞関連感染症の予防には優れていると報告しており,評価が一定していない.さらに,濾過胞内自己血注入についてはBurnsteinら10)が,注入後5カ月での房水漏出消失率は28%であったとしている.いずれにしても,これらの侵襲の小さい処置は,房水漏出を改善させるには確実性に乏しい方法であることがうかがえる.一方,房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する観血的手術に関しては,菲薄化し脆弱化した結膜を切除し,その結果生じた結膜欠損部位を他の組織で被覆する手術が行われており,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7)などが報告されている.これらの報告の成績をまとめると,各術式により50.80%の症例は術後数年間の眼圧調整は良好で,かつ房水漏出なく経過するとされているが,同一部位への再手術は侵襲が大きく,手術操作も煩雑になるため施術には熟練を要する.また,羊膜は医療材料として使用できる施設が限られるという難点もある.今回行った経結膜的強膜縫合は,追加処置の併用は必要な場合もあるが,1/3の症例で房水漏出に対する改善効果があ110あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013った.経結膜的強膜縫合は,房水漏出部にかかる圧力を低下させることで瘻孔部の修復を促す処置であるのに対し,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入の効果は脆弱化した濾過胞壁の補強のみが期待される処置である.このことから経結膜的強膜縫合は,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入より房水漏出改善の確実性が高い可能性がある.今回の対象のうち,4眼については経結膜的強膜縫合による房水漏出の改善はみられなかった.線維柱帯切除術後の無血管性濾過胞は,濾過胞境界の結合組織の増殖に伴って濾過胞の限局化が生じ,濾過胞内圧が上昇して濾過胞壁が菲薄化し,それに代謝拮抗薬の影響も加わった結果生じると考えられる.この無血管性濾過胞の形成機序を考えると,経結膜的強膜縫合は一時的に瘻孔部にかかる圧力を低下させるものの,濾過胞の限局化が高度な症例では濾過胞内圧がかえって上昇し,結果的には結膜菲薄部位に再度圧力がかかるため,瘻孔部の閉鎖が得られにくくなる.今回は初回の経結膜的強膜縫合を単独で行ったが,今後は縫合時にニードリングや濾過胞再建用ナイフを使用した濾過胞再建術を併用することにより成績が向上するか検証を行いたいと考えている.本研究は少数例を対象とした後ろ向き調査であり,症例の背景や経結膜的強膜縫合に併用した処置も一定していない.また,晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性を検証するには,他の対処方法との比較を行う必要がある.しかし,今回の結果から経結膜的強膜縫合により観血的手術の追加が回避できる症例があり,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対して侵襲の大きな追加手術を行う前に試みる価値のある処置と考えられた.今後症例数を重ね,他の処置との比較を行って晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性についてさらに検討したい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatsuoH,TomidokoroA,SuzukiYetal:Late-onsettransconjunctivaloozingandpointleakofaqueoushumorfromfilteringblebaftertrabeculectomy.AmJOphthalmol133:456-462,20022)WilenskyJ:Lateblebleaks.In:ShaarawyTMetal(eds):GlaucomaSurgicalManagement2,p243-246,Elsevier,20093)GreenfieldDS,LiebmannJM,JeeJetal:Late-onsetblebleaksafterglaucomafilteringsurgery.ArchOphthalmol116:443-447,19984)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitimycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOph(110) thalmol81:877-883,19975)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:Outcomesofblebexcisionwithfreeautologousconjunctivalpatchgraftingforblebleakandhypotonyafterglaucomafilteringsurgery.JGlaucoma20:392-397,20116)BurnsteinAL,WuDunnD,KnottsSLetal:Conjunctivaladvancementversusnonincisionaltreatmentforlate-onsetglaucomafilteringblebleaks.Ophthalmology109:71-75,20027)BudenzDL,BartonK,TsengSC:Amnioticmembranetransplantationforrepairofleakingglaucomafilteringblebs.AmJOphthalmol130:580-588,20008)MatsuoH,TomidokoroA,TomitaGetal:Topicalapplicationofautologousserumforthetreatmentoflate-onsetaqueousoozingorpoint-leakthroughfilteringbleb.Eye19:23-28,20059)BlokMD,KokJH,vanMilCetal:UseoftheMegasoftBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabeculectomy.AmJOphthalmol100:264-268,199010)BurnsteinA,WuDunnD,IshiiYetal:Autologousbloodinjectionforlate-onsetfilteringblebleak.AmJOphthalmol132:36-40,200111)ShiratoS,MaruyamaK,HanedaM:Resuturingthescleralflapthroughconjunctivafortreatmentofexcessfiltration.AmJOphthalmol137:173-174,2004***(111)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013111

円蓋部基底結膜弁線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期眼圧コントロール率

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c松下恭子*1内藤知子*1島村智子*1齋藤美幸*1高橋真紀子*2大月洋*1*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2笠岡第一病院眼科RelationbetweenEarlyPostoperativeIOPandIOPControlwithFornix-basedConjunctivalFlapinMitomycinCTrabeculectomyKyokoMatsushita1),TomokoNaito1),TomokoShimamura1),MiyukiSaito1),MakikoTakahashi2)HiroshiOotsuki1)and1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital目的:円蓋部基底線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期予後との関連を検討する.方法:2005年7月から2008年11月の間に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)症例を対象とした.眼圧コントロール率は術後1カ月以降に2回連続して眼圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点を死亡としてKaplan-Meier生命表法で検討した.結果:54例62眼が対象となった.術前眼圧は22.2±10.0mmHgに対し,最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHg,眼圧14mmHg以下へのコントロール率は術後1年,2年とも88.1%であった.術後早期の眼圧と予後の検討では,14日目の眼圧が9mmHg以上の群(n=27)は術後1年以降のコントロール率が77.3%であるが,9mmHg未満の群(n=35)は96.6%と有意に高かった(p=0.01,log-rank検定).結論:広義POAGの円蓋部基底線維柱帯切除術では14日目の眼圧を9mmHg未満に管理すると良好な眼圧コントロールが得られる可能性がある.Purpose:Toevaluateshort-andmiddle-termoutcomesoffornix-basedtrabeculectomies.Method:Westudiedprimaryopen-angleglaucoma(POAG)patientsundergoingtrabeculectomybetween2005and2008.Failurewasdefinedastwointraocularpressure(IOP)readingsover14mmHg,additionalmedicationorsecondsurgery.Results:Westudied62eyes(29males,25females;meanage:70.8±9.1years;meanfollow-up:16.8±10.6months).MeanpreoperativeIOPwas22.2±10.0mmHg;88.1%oftheeyeswere14mmHgorlessat1year.Ofthe35eyesthathadIOPof9mmHgorlessafter14days,96.6%were14mmHgorlessat1year.Incomparison,ofthe27eyeswithIOPover9mmHgafter14days,77.3%were14mmHgorlessat1year(logranktest,p=0.01).Conclusion:TrabeculectomyisveryusefulforPOAGtoachieveanIOPof9mmHgat14days.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1641.1644,2011〕Keywords:円蓋部基底,線維柱帯切除術,眼圧管理,広義原発開放隅角緑内障.fornix-based,trabeculectomy,controlofintraocularpressure,primaryopen-angleglaucoma.はじめに近年主流になっているマイトマイシンC併用線維柱帯切除術は,術中に強膜弁をタイトに縫合し,術後の適切な時期にレーザー切糸術を行いながら目標とする眼圧レベルまで調整する1.4)ことにより,手術が完結する.すなわち,術後管理の優劣がその成功を大きく左右するといっても過言ではない.しかし,目標眼圧を維持するために,どのように眼圧を調整していけばよいかという,術後管理についての報告は少なく6.8),術者の経験によるところが大きいのが現状である.また,過去の報告6.8)は輪部基底線維柱帯切除術後のもので,円蓋部基底線維柱帯切除術後の眼圧定量化に関する報告はない.〔別刷請求先〕松下恭子:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Reprintrequests:KyokoMatsushita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama-shi,Okayama700-8558,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(129)1641 今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.2005年7月から2008年11月に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義POAG54例62眼を対象とした.原則,眼科手術既往のある症例は除外したが,小切開白内障手術既往(22眼)のみ対象に含めた.術者は3名,術式・術後管理は統一して行った.術式を図1に示す.角膜輪部に7-0バイクリル糸で制御糸をかけたのち,円蓋部基底にて結膜を切開した.強膜を横4mm×縦3.5mmで切開,約1/2層の厚みで第一強膜弁を作製し,その内部にさらに第二強膜弁を約4/5層の厚みで作製した後に切除して,線維柱帯部から円蓋部側の強膜切開線に達する強膜弁下のトンネルを作製した.0.04%マイトマイシンCを浸した吸血スポンジ(MQAR)を結膜下および強膜弁の上下に3分塗布した後,生理食塩水100mlで洗浄した.その後,白内障同時手術例では強膜弁下前方から前房内に穿孔し,超音波白内障手術を施行,眼内レンズを挿入して前房内の粘弾性物質を洗浄した.強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った.強膜弁は10-0ナイロン糸にて4.7糸縫合,結膜は放射状切開部を連続縫合,輪部は半返し縫合を行った.房水を強膜弁後方から流出させ,びまん性の濾過胞を形成するため,レーザー切糸は基本的に円蓋部側から順に行っているが,押してみた際の濾過胞の広がり方や,術中の糸の圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点とした.統計解析はJMP8.0(SAS,東京)を用いて解析し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象となった症例は54例62眼であった.男性29例35眼,女性25例27眼,平均年齢は70.8±9.1歳(平均±標準偏差)(50.89歳),平均経過観察期間は16.8±10.6カ月(2.43カ月)であった.白内障同時手術は29例31眼に行った.強膜弁の平均縫合数は6.8±1.6本,術後2週間以内での平均切糸数は2.8±2.3本であった.平均眼圧は術前22.2±10.0mmHgから術後1年9.6±2.3mmHg(n=36),2年11.2±2.4mmHg(n=15),最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHgと有意に下降した(対応のあるt検定p<0.0001)(図2).全症例の眼圧コントロール率の結果を示す.KaplanMeier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後1年,2年とも88.1%であった(図3).術後1カ月目以降の生存群と死亡群の眼圧経過は,それぞれ1カ月目8.5±3.0mmHg,13.0±4.9mmHg(p=0.01),3カ月目8.4±2.0mmHg,14.2±3.4mmHg(p<0.0001),6カ月目8.9±2.3mmHg,14.3±2.6mmHg(p=0.002)といずれの時期も生存群の眼圧が有意に低かった(Mann-Whitneyの検定)(図4).353025討した.エンドポイントは術後1カ月以降に2回連続して眼54mm0術前369121518212427303642(月)眼圧(mmHg)効き具合で,切糸する糸を選択した.眼圧測定はGoldmann20applanationtonometerで行い,術後抗菌薬点眼とステロイ15ド点眼は1.3カ月間投与した.10眼圧コントロール率はKaplan-Meier生命表法を用いて検3.5mmn=62593623155図2平均眼圧経過死亡症例は除く.1.00.10.20.30.40.50.60.70.80.9①結膜切開②強膜弁作製③トンネル作製4~7糸連続半返し生存率061218243036424854(月)④強角膜片・虹彩切除⑤強膜弁縫合⑥結膜縫合図1当科の術式図3眼圧コントロール率1642あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(130) 死亡群死亡群400.99mmHg未満(n=35)350.8300.79mmHg以上(n=27)生存群0.6眼圧(mmHg)生存率250.50.40.320150.2100.15061218243036424854(月)0術前1369121518212427303642(月)図6術14日目の眼圧値とコントロール成績死亡群n=74221生存群55553421145図4生存群と死亡群の平均眼圧経過1.015:生存群(n=55):死亡群(n=7)死亡群(n=7)0.110生存群(n=55)5術後00.11.003日7日14日1カ月3カ月術前図5生存群と死亡群の術後早期眼圧経過図7術前後の視力変化2520眼圧(mmHg)生存群と死亡群の早期眼圧経過は,それぞれ3日目13.7±6.3mmHg,13.9±6.8mmHg(p=0.95),7日目10.1±4.1mmHg,9.9±4.0mmHg(p=0.72),14日目8.4±4.0mmHg,9.4±1.3mmHg(p=0.09)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定)(図5).術後早期の眼圧と中期予後との関係を検討するために,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けてKaplan-Meier生命表で比較したところ,9mmHg未満の群では術後1年以降の生存率が96.6%であったのに対し,9mmHg以上の群では77.3%となり,両群間に有意差がみられた(log-rank検定p=0.01)(図6).また,白内障同時手術での生存群と単独手術での生存群の平均眼圧経過は,それぞれ術前20.4±6.5mmHg,25.4±13.6mmHg(p=0.16),1カ月目8.2±2.7mmHg,8.9±3.4mmHg(p=0.64),3カ月目8.1±2.2mmHg,8.8±1.8mmHg(p=0.23),6カ月目8.8±2.6mmHg,9.1±1.8mmHg(p=0.42)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定).強膜弁の縫合数は生存群と死亡群でそれぞれ6.9±1.6本,6.1±1.6本(p=0.32),術後に切糸を始めた時期は2.8±4.0日,1.6±0.8日(p=0.50),術後14日以内の切糸数は2.7±2.5本,3.5±1.1本(p=0.57)で両群に有意差はなかった(Mann-Whitneyの検定).術前後の視力については,2段階以上の改善を認めたものが7眼(11.3%),不変であったものが50眼(80.6%),2段(131)階以上の悪化を認めたものが5眼(8.1%)であった(図7).術後早期合併症は,脈絡膜.離14眼(22.6%),浅前房11眼(17.7%),縫合不全3眼(4.8%)であった.強膜弁再縫合を行ったのは1眼(1.6%)のみであった.生存群と死亡群に分けた合併症の頻度は,脈絡膜.離13眼(23.6%),1眼(14.3%)(p=0.57),浅前房10眼(18.2%),1眼(14.3%)(p=0.79),縫合不全2眼(3.6%),1眼(14.3%)(p=0.21)で両群に有意差はみられなかった(Fisherの正確検定).III考按緑内障に対する濾過手術として線維柱帯切除術は広く行われている術式であるが,代謝拮抗薬マイトマイシンCの併用によって術後成績は格段に向上した.術中に強膜弁をタイトに縫合し,順次レーザー切糸して眼圧を調整していくが,このタイミングが遅すぎると,濾過胞は瘢痕化して眼圧は下がらないし,逆に早すぎると,持続的な低眼圧となり,遷延性の脈絡膜.離や黄斑症など,視力予後を脅かす深刻な合併症の誘因となる.今回,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討した.忍田ら5)は術後1週間の平均眼圧が15mmHg未満で長期予後が良好と報告している.また,Haraら6)は術後9.14日の平均眼圧が8mmHg,清水ら7)は術後4週間目の眼圧が7.12mmHgで長期予後が良好と報告している.しかし,これらの報告での術式は輪部基底線維柱帯切除術であたらしい眼科Vol.28,No.11,20111643 あり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらあり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらは円蓋部基底結膜弁と輪部基底結膜弁で術後眼圧に差はないが,円蓋部基底結膜弁では術後早期の管理に注意が必要であると述べている.線維柱帯切除術後の限局した無血管濾過胞は,その後の晩期濾過胞漏出や濾過胞関連感染症の原因となりやすいが,円蓋部基底結膜弁による線維柱帯切除術は後方に瘢痕を形成しにくく,びまん性に広がる血管に富んだ壁の厚い濾過胞を形成する傾向があることが報告されている9).輪部基底結膜弁による線維柱帯切除術に比較して,上述のような晩期合併症のリスクが減少する可能性があると考え,岡山大学眼科では基本的に初回手術は全例円蓋部基底線維柱帯切除術を選択しているが,後方の結膜の瘢痕で濾過胞がせき止められる輪部基底結膜弁と後方までびまん性に濾過胞が広がる円蓋部基底結膜弁とでは術後経過が異なるかもしれない.そのため,今回筆者らは広義POAGの初回手術例のみを対象として検討を行った.目標眼圧の設定においては,岩田10)が提唱した「初期は19mmHg以下,中期は16mmHg以下,後期は14mmHg以下」を指標の一つとしているが,線維柱帯切除術が必要となる症例はほとんどが後期症例であったため,今回は14mmHg以下へのコントロール率を用いて成績比較した.輪部基底線維柱帯切除術でHaraら6)が術後9.14日の平均眼圧が8mmHgの場合長期予後良好という報告より,筆者らも実際の臨床の場では,術後2週目に眼圧8mmHg前後でびまん性の濾過胞が形成されている状態を目標として管理してきた.生存群と死亡群の術後早期の眼圧経過をみたところ,術3日目から14日目まで両群で有意差は認めないものの,14日目で生存群の平均眼圧は8.4±4.0mmHgに対し,死亡群では9.4±1.3mmHg(p=0.09)で,14日目の眼圧が9mmHgを境に成績が左右されている傾向がみてとれた.そこで,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けて検討を行い,術後14日目の時点で眼圧が9mmHg未満の群では有意に成績が良好という結果となった.一方,生存群と死亡群の間で脈絡膜.離,浅前房,縫合不全など,術後早期合併症の頻度にも差は認めなかったので,術後14日目で9mmHg未満を目指して管理することによる術後早期合併症の大幅な増加はみられないものと思われた.また,生存群の術後眼圧経過において白内障手術の併用群と非併用群との間には統計学的な有意差はなかった.広義POAGの初回手術症例で,最終的に目標眼圧を14mmHg以下にする場合には,術後14日目で眼圧が9mmHg未満になることを目標に管理していけばよいと考える.ただし,最終的には,個々の症例の条件(年齢,結膜の状態)や施設での手術方法(結膜切開法,強膜弁の形・大きさ・厚み,強膜開窓部の大きさ,縫合糸の締め方)によっても左右されるので,臨機応変に対応していくことが必要と思われる.文献1)ShlomoM,IsaacA,JosephGetal:Tightscleraflaptrabeculectomywithpostoperativelasersuturelysis.AmJOphthalmol109:303-309,19902)KarlSP,RobertJD,PaulAWetal:LateargonlasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology100:1268-1271,19933)SinghJ,BellRWD,AdamsAetal:Enhancementofposttrabeculectomyblebformationbylasersuturelysis.BrJOphthalmol80:624-627,19964)AsamotoA,MichaelEY,MatsushitaMetal:Aretrospectivestudyoftheeffectsoflasersuturelysisonthelong-termresultoftrabeculectomy.OphthalmicSurg26:223-227,19955)忍田太紀,山崎芳夫:マイトマイシンンC併用線維柱帯切除術における術後眼圧定量化の指標.臨眼54:785-788,20006)HaraT,AraieM,ShiratoSetal:Conditionsforbalancebetweenlowernormalpressurecontrolandhypotonyinmitomycintrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol236:420-425,19987)清水美穂,丸山幾代,八鍬のぞみほか:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの術後成績に影響を及ぼす臨床因子.あたらしい眼科17:867-870,20008)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:Comparisonoffornix-andlimbus-basedconjunctivalflapsinmitomycinCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglaucomapatients.JpnJOphthalmol50:338-344,20069)AgbejaAM,DuttonGN:Conjunctivalincisionsfortrabeculectomyandtheirrelationshiptothetypeofblebformation─apreliminarystudy.Eye1:738-743,198710)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,1992***1644あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(132)