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Bevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)1495《原著》あたらしい眼科28(10):1495?1498,2011cはじめに増殖糖尿病網膜症1),網膜静脈閉塞症をはじめとする虚血性眼疾患2)に続発することの多い血管新生緑内障は難治性で予後不良である.薬物治療・網膜光凝固で対処できる症例は比較的少なく,線維柱帯切除術を施行せざるをえないことが多い.近年マイトマイシンCなどの代謝拮抗薬の併用によって,術後成績の向上は認められたものの,血管新生緑内障の場合,術中術後の著しい前房出血,強膜開窓部の閉鎖などにより房水の流出が阻害され,十分な眼圧下降が得られなくなり再手術になる場合もあり治療がむずかしい3).このような症例に対して筆者らの施設ではbevacizumab(AvastinR)を術前に硝子体内投与するbevacizumab併用線維柱帯切除術を行っている.抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮〔別刷請求先〕齋藤美幸:〒700-8558岡山市北区鹿田町2丁目5番1号岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Reprintrequests:MiyukiSaito,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikatacho,Okayama,Okayama700-8558,JAPANBevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績齋藤美幸*1内藤知子*1松下恭子*1山本直子*1河田哲宏*1大月洋*1高橋真紀子*2*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2笠岡第一病院眼科MiddlePeriodSurgicalOutcomeofTrabeculectomywithAdjunctiveIntravitrealBevacizumabInjectionforNeovascularGlaucomaMiyukiSaito1),TomokoNaito1),KyokoMatsushita1),NaokoYamamoto1),TetsuhiroKawata1),HiroshiOhtsuki1)andMakikoTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital血管新生緑内障に対して行った線維柱帯切除術の術後成績におけるbevacizumab術前硝子体内投与の効果を検討した.線維柱帯切除術を施行した29例31眼を対象とし,後ろ向きに検討した.対象をbevacizumab投与群15眼と非投与群16眼の2群に分け,術後の眼圧経過,術後合併症を比較・検討した.投与群と非投与群の最終受診時眼圧はそれぞれ11.9±6.6mmHg,15.6±9.1mmHgであり,両群とも有意に眼圧下降が得られた(p<0.0001,p<0.0001).Kaplan-Meier生命表分析による眼圧20mmHg以下への生存率は,術後24カ月の時点で投与群90.9%,非投与群59.1%であり,投与群で有意に良好であった(p=0.0495).また,術後追加処置として非投与群では著明な前房出血に対し前房洗浄を2眼に要したが,投与群では処置を要した症例はなかった.Bevacizumab併用線維柱帯切除術は,術後の合併症を軽減させ,術後の眼圧を良好にコントロールできる可能性がある.Aretrospectivecasecontrolstudywasperformedon31eyesof29consecutivecasesthathadundergonetrabeculectomywithmitomycinC(MMC)forneovascularglaucoma.Theeyesweredividedinto2groups:15eyesreceivedMMCtrabeculectomywithpreoperativeIVB(IVB+group)and16eyesreceivedMMCtrabeculectomyonly(IVB?group).Postoperativeintraocularpressure(IOP),probabilityofsuccessandcomplicationswerecomparedbetweenthegroups.MeanIOPatlastvisitwas11.9±6.6mmHgintheIVB+groupand15.6±9.1mmHgintheIVB?group.IOPreducedsignificantlyinbothgroups.TheKaplan-Meiermethodshowedthatthesurvivalrateatpostoperative24monthswassignificantlydifferentinbothgroups.IntheIVB?group,2eyesrequiredanteriorchamberlavage,whileintheIVB+groupnoeyehadthatextentofhyphema.IVBisaneffectivemodalityforreducingpostoperativecomplicationsoftrabeculectomyforneovascularglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1495?1498,2011〕Keywords:bevacizumab,血管新生緑内障,線維柱帯切除術.bevacizumab,neovascularglaucoma,trabeculectomy.1496あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(128)増殖因子)抗体としてbevacizumabは転移性大腸癌の治療などに使用されており,日本では2007年4月に製造・販売が承認されたが,眼科領域の疾患には適応のない静脈注射用製剤である.しかし,眼内の新生血管の発生・増殖にも重要な役割を果たすことが知られており,虚血性網膜疾患(糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)および脈絡膜新生血管(加齢黄斑変性症,強度近視など)の治療のために抗VEGF薬としてbevacizumabが使用され,海外では良好な結果が報告されている4,5).それを踏まえ,現在日本でもbevacizumabが臨床診療に多く用いられている6).筆者らは血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術にbevacizumabを併用することにより,術後の重篤な合併症が減少し,術後管理が容易となることを報告した7).今回は,さらに経過観察期間を延ばし,血管新生緑内障に対して行ったbevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績を検討したので報告する.I対象および方法対象は2005年2月から2008年12月までの間に岡山大学病院で線維柱帯切除術を施行した血管新生緑内障症例29例31眼(男性19例,女性10例)である.2007年11月以降の症例には,基本的に全例bevacizumabを使用している.線維柱帯切除術前にbevacizumab投与を行った例を投与群,行わなかった例を非投与群とし,線維柱帯切除術後の眼圧経過・術後合併症について,後ろ向きに比較検討した.投与群は硝子体内にbevacizumab1.25mgを注入し,投与後平均5.7±4.8(1?14)日後に線維柱帯切除術を施行した.投与方法はbevacizumab1.25mg/0.05mlを30ゲージ針の注射筒にとり,必要に応じた量の前房水を抜去し眼圧降下させたのち経毛様体扁平部的に硝子体内に注入した.一連の操作は清潔下に施行し刺入部は輪部より後方3.5mm(有水晶体眼では4.0mm)とした.Bevacizumabの使用については,岡山大学病院倫理委員会にて承認されており,患者の同意を得て行った.Bevacizumab投与群14例15眼は平均年齢58.5±18.7歳(12~82歳),経過観察期間は平均11.1±5.3カ月(5~24カ月)であり,原因疾患は,増殖糖尿病網膜症8眼,網膜静脈閉塞症5眼,網膜中心動脈閉塞症1眼,続発緑内障(vonRecklinghausen病)1眼であった.Bevacizumab非投与群15例16眼については平均年齢56.8±13.3歳(32~76歳),経過観察期間は平均22.0±13.4カ月(3~48カ月)であり,原因疾患は,増殖糖尿病網膜症11眼,網膜静脈閉塞症3眼,眼虚血症候群2眼であった.Kaplan-Meier生命表分析により投与群と非投与群で眼圧の生存率を検討した.なお,死亡の定義は2回以上連続して術後眼圧20mmHgを超えた時点,もしくは緑内障手術(濾過胞再建術・別部位からの線維柱帯切除術)を追加した時点とした.統計解析は,JMP8.0(SAS東京)を用いて解析し,有意水準はp<0.05とした.II結果患者の背景因子は,投与群・非投与群の間で,経過観察期間を除いて有意差は認めなかった(表1).両群の眼圧経過表1術前患者背景因子投与群(15眼)非投与群(16眼)p値年齢(歳)平均±SD58.5±18.756.8±13.30.5930*性別男性12(80%)8(50%)0.1351**女性3(20%)8(50%)診断糖尿病網膜症8(53.3%)11(68.8%)0.5169***CRVO,BRVO5(33.3%)3(18.8%)眼虚血症候群,CRAO1(6.7%)2(12.5%)その他1(6.7%)0(0%)視力指数弁以下4(26.7%)4(25.0%)0.8088***0.01~0.157(46.7%)7(43.5%)0.2~0.52(13.3%)4(25.0%)0.6~1.02(13.3%)1(6.3%)術前眼圧平均±SD41.5±10.740.1±12.10.7066*点眼スコア平均±SD3.3±1.23.6±1.20.6820*硝子体手術既往8(53.3%)6(37.5%)0.4795**水晶体の有無有水晶体眼5(33.3%)6(37.5%)1.0000**眼内レンズ眼10(66.7%)10(62.5%)無水晶体眼0(0%)0(0%)経過観察期間平均±SD11.1±5.322.0±13.40.0570**Mann-Whitneyの検定,**Fisherの正確検定,***c2検定.CRVO:網膜中心静脈閉塞症,CRAO:網膜中心動脈閉塞症,BRVO:網膜静脈分枝閉塞症.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111497(死亡例は,死亡となった時点で除外)を示す(図1).Bevacizumab投与群では術前平均眼圧41.5±10.7mmHgに対し,最終受診時平均眼圧11.9±6.6mmHg,bevacizumab非投与群では,術前平均眼圧40.1±12.1mmHgに対し,最終受診時平均眼圧15.6±9.1mmHgであり,両群とも有意に眼圧下降が得られた(対応のあるt検定:投与群:p<0.0001,非投与群:p<0.0001).Kaplan-Meier生命表分析による投与群と非投与群の生存率は術後24カ月の時点で,投与群90.9%,非投与群59.1%と,投与群で有意に予後良好であった(Log-ranktest:p=0.0495)(図2).術後合併症について比較したところ,前房出血は投与群8眼(53.3%),非投与群6眼(37.5%),脈絡膜?離は投与群2眼(13.3%),非投与群0眼(0.0%),浅前房は投与群2眼(13.3%),非投与群1眼(6.3%)であり,いずれも両群に有意差は認めなかった(直接確率計算法:前房出血:p=0.4795,脈絡膜?離:p=0.2258,浅前房:p=0.5996)(表2).術後に要した追加処置を比較したところ,投与群における前房出血はいずれも軽度で瞳孔領にかかるほどの症例や強膜開窓部への嵌頓はなく,前房洗浄を要したものは1例もなかった.それに対し非投与群では著明な前房出血のために前房洗浄を要した例が2例認められた.III考按近年,bevacizumabの眼内投与が血管新生緑内障の治療法として一般的に行われるようになってきているが,bevacizumabが眼科疾患に対して最初に用いられた投与方法は全身投与であった8).当初bevacizumabは硝子体内投与をしても網膜下まで浸透しないと考えられていたが,その後,実際には硝子体内投与でも効果が認められたため,より全身的に影響が少なくより安全と考えられる局所投与が施行されるようになった9).最近では血管新生緑内障の治療法としてbevacizumab硝子体内投与のほかに,bevacizumab前房内注射10),虹彩ルベオーシスに対するbevacizumab結膜下注射11)の効果も報告されている.硝子体内投与の場合,1回のbevacizumab投与量は全身投与量の約400分の1(1.25mg/0.05ml)と極少量であるため,全身投与により生じうる合併症が硝子体内投与で発生する可能性は低いと考えられる.しかしながら過去の報告では,薬剤によると考えられる眼合併症として,結膜下出血,眼圧上昇,ぶどう膜炎,網膜中心動脈閉塞症,硝子体出血などがあり12),全身合併症としては血圧上昇,蛋白尿,骨形成抑制,不毛症,深部静脈血栓,脳梗塞などがある13).手技によると思われる合併症は角膜障害,水晶体損傷,眼内炎,網膜?離などが報告されている14).今回の使用では,そのような合併症は1例もみられなかった.Bevacizumabの硝子体内投与単独では,眼圧降下作用は限られており,多くの場合のちに線維柱帯切除術を施行されることになる.今回当院におけるbevacizumab投与群と非投与群における線維柱帯切除術後の眼圧の生存率の比較では,術後24カ月の時点で投与群では90.9%であったのに対し非投与群では59.1%と,投与群で有意に良好であった.Saitoらも,bevacizumabの投与により血管新生緑内障に対する初回線維柱帯切除術の術後中期成績は有意に良好になると報告している15)が,その理由として投与群では術後の前房出血が有意に少なく,出血性合併症の抑制による手術成績改善を示唆している.今回,当科では前房出血の発生頻度に両群の有意差は認めないものの,非投与群では著明な前房出血のために前房洗浄を要した症例を2例認めた.このことか表2術後合併症(Fisherの正確検定)投与群非投与群前房出血8眼(53.3%)6眼(37.5%)p=0.4795脈絡膜?離2眼(13.3%)0眼(0.0%)p=0.2258浅前房2眼(13.3%)1眼(6.3%)p=0.5996眼圧(mmHg)0102030405060術前612182430364248:投与群:非投与群期間(カ月)図1平均眼圧経過死亡例は,死亡となった時点で除外.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0生存率0612182430364248生存期間(カ月):投与群:非投与群図2Kaplan?Meier生命表分析による眼圧の生存率死亡:2回以上連続して眼圧>20mmHg,緑内障手術の施行.1498あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(130)らbevacizumab併用線維柱帯切除術は術後の重篤な出血性合併症を軽減させることができ,非投与群と比べ術後管理が容易になると思われる.また,原発開放隅角緑内障術後にbevacizumab結膜下注射によって濾過胞が有意に良好に維持されたという報告もあり16),bevacizumab硝子体内投与により線維芽細胞の遊走が阻害され,術後早期の創傷治癒が抑制されたことより濾過胞が維持された可能性も否定できないと考える.一方で血管新生緑内障に対する緑内障手術成績の差について効果がないという報告もあり17),今回は後ろ向きレトロスペクティブな検討であったため,投与群と非投与群の術後管理などが異なっていた可能性も否定できない.しかしながら,死亡例についてみてみると,非投与群では術後3カ月以内の死亡が大多数であり(図2),術後早期の合併症や再増殖に伴う眼圧上昇を回避することができれば,血管新生緑内障の術後成績は良好になることが示唆される.この点で,bevacizumabは,長期的な眼圧下降効果・濾過胞維持効果については不明であるが,術後早期の合併症を減少し術後管理を容易とすることで,術後早期に死亡に至る症例を減少させ,中期成績の改善に寄与したのではないかと推測された.今後もさらに症例を増やし,検討を重ねていく必要があると思われる.文献1)向野利寛,武末佳子,山中時子ほか:増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障の治療成績.臨眼61:1195-1198,20072)樋口亮太郎,遠藤要子,岩田慎子ほか:眼虚血症候群による血管新生緑内障の検討.臨眼58:1457-1461,20043)新垣里子,石川修作,酒井寛ほか:血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期治療成績.あたらしい眼科23:1609-1613,20064)ChanWM,LaiTY,LiuDTetal:Intravitrealbevacizumab(avastin)forchoroidalneovascularizationsecondarytocentralserouschorioretinopathy,secondarytopunctateinnerchoroidopathy,orofidiopathicorigin.AmJOphthalmol143:977-983,20075)ArevadoJF,SanchezJG,WuLetal:Intravitrealbevacizumabforsubfovealchoroidalneovascularizationinagerelatedmaculardegenerationattwenty-fourmonths:ThePan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup.Ophthalmology,inpress6)木内貴博:Bevacizumabを用いた血管新生緑内障の治療.眼科手術21:193-196,20087)河田哲宏,山本直子,内藤知子ほか:血管新生緑内障に対するベバシズマブ併用線維柱帯切除術の術後成績.臨眼63:1457-1460,20098)MichelsS,RosenfeldPJ,PuliafitoCAetal:Systemicbevacizumab(Avastin)therapyforneovascularage-relatedmaculardegenerationtwelve-weekresultsofanuncontrolledopen-labelclinicalstudy.Ophthalmology112:1035-1047,20059)坂口裕和:抗VEGF抗体:Bevacizumab(AvastinR).あたらしい眼科24:281-286,200710)上山杏那,岡本史樹,平岡孝浩ほか:血管新生緑内障に対するBevacizumab(Avastin)の眼内投与.眼臨101:1082-1085,200711)田中茂登,山地英孝,野本浩之ほか:虹彩ルベオーシスに対するベバシズマブ結膜下注射の効果.眼臨101:930-931,200712)WuL,Martinez-CastellanosMA,Quiroz-MercadoHetal;PanAmericanCollaborativeRetinaGroup(PACORES):Twelve-monthsafetyofintravitrealinjectionsofbevacizumab(Avastin):resultsofthePan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).GraefesArchClinExpOphthalmol246:81-87,200813)SimoR,HernandezC:Intravitreousanti-VEGFfordiabeticretinopathy:hopoesandfearsforanewtherapeuticstrategy.Diabetologia51:1574-1580,200814)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,200615)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,201016)DilrajSG,RajeevJ,HarshKetal:Evaluationofsubconjunctivalbevacizumabasanadjuncttotrabeculectomy.Ophthalmology115:2141-2145,200817)TakiharaY,InataniM,KawajiTetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,2011***

Posner-Schlossman 症候群に対する緑内障手術

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)891《原著》あたらしい眼科28(6):891.894,2011cはじめにPosner-Schlossman症候群は,1948年に初めてPosnerとSchlossmanにより紹介された疾患で,片眼性で,再発性に眼圧上昇を伴う軽い非肉芽腫性虹彩炎を発作性に起こし,自然寛解し,開放隅角で,視野,視神経乳頭には異常をきたさない予後良好な疾患と考えられてきた1).しかし,近年,Posner-Schlossman症候群を長期にわたって経過をみていると,緑内障性変化をきたし,視機能障害をきたすこともあるという報告がみられるようになってきている2.6).今回,筆者らは,当院でPosner-Schlossman症候群と診断され,緑内障に対する手術が必要となった症例8例を経験し,その術式について考案したので報告する.I対象および方法1990年3月から2008年3月の間に,眼圧下降薬で眼圧コントロールが得られず,手術が必要なため,名古屋市立大学病院眼科へ紹介となった8例8眼について検討した.全8例の内訳を表1に示す.発症年齢は13.50歳(平均36.8±14.2歳),男性5眼,女性3眼であった.手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年),手術までに起こった発作の回数は2.17回(平均7.2±5.3回)であった.経過観察期間は2カ月.17年(中央値2.0年)であった.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPANPosner-Schlossman症候群に対する緑内障手術森田裕野崎実穂高瀬綾恵吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学GlaucomaSurgeryforPosner-SchlossmanSyndromeHiroshiMorita,MihoNozaki,AyaeTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences予後良好と知られているPosner-Schlossman症候群と診断された症例で,濾過手術が必要となった8例を経験したので報告する.発症年齢は13.50歳(平均36.8歳),手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術が1眼,線維柱帯切開術が3眼,線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった.Posner-Schlossman症候群において,視野進行症例や薬物療法に抵抗する症例を経験した.これらの症例に対して,流出路再建術は無効であり,全例,濾過手術が必要となった.Posner-Schlossmansyndrome(PSS)isaself-limiting,benignconditioncharacterizedbyunilateral,recurrentattacksofmild,non-granulomatousiritiswithelevatedintraocularpressures(IOP)duringtheacuteattack,openangles,normalvisualfield,andopticdiscs.Wereport8casesofPSSthatrequiredglaucomasurgerytocontrolIOP(5males,3females;meanageatonset:36.8years;mediandurationofPSS:7.0years).Oneeyeunderwentnon-penetratingdeepsclerectomy,3eyesunderwenttrabeculotomyabexternoand4eyesunderwentglaucomafilteringsurgerywithantimetabolites.All4eyesthatdidnotreceivefilteringsurgerycontinuedtohaveepisodesofiritisaftersurgery,withelevatedIOPduringtheepisodes,andrequiredfilteringsurgerywithantimetabolitestocontrolIOP.InPSSpatients,glaucomadevelopsovertime,andfilteringsurgeryisneededtocontrolIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):891.894,2011〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,線維柱帯切開術,非穿孔性線維柱帯切除術,線維柱帯切除術,流出路再建術.Posner-Schlossmansyndrome,trabeculotomyabexterno,non-penetratingdeepsclerectomy,trabeculectomy,canalsurgery.892あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(140)全例,入院時,前房内炎症は認めず,隅角は開放隅角で虹彩後癒着はなく,色素沈着は僚眼に比べ少なかった.視神経乳頭陥凹拡大を認めたものは,8眼中5眼(62.5%)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術を施行された症例が1眼,線維柱帯切開術が3眼,マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった(表1).以下に代表症例を提示する.症例:54歳,女性.現病歴:2000年に近医で左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,点眼や内服で眼圧下降する一過性のものであった.2006年の発作後,遷延性の眼圧上昇が起こり,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬点眼では眼圧コントロールがつかず,炭酸脱水酵素阻害薬内服も処方された.その後も炭酸脱水酵素阻害薬の内服を中止すると眼圧が上昇し,眼圧下降薬だけでは眼圧のコントロールができなくなったため,当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.7(1.2×sph.0.75D(cyl.0.5DAx150°),左眼0.2(1.2×sph.1.50D(cyl.0.25DAx160°),abcd図1代表症例(54歳,女性)の2006年受診時所見6年前に左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,眼圧のコントロールがつかなくなったため,当科へ紹介受診となった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5(a),左眼0.9(b)と左眼で著明に陥凹拡大がみられた.Goldmann視野検査では,右眼(d)に特記する異常はなかったが,左眼(c)は鼻側階段状の視野欠損とBjerrm暗点を認めた.表1全症例の内訳発症年齢(歳)発症から手術までの期間(年)術前発作回数最高眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)初診時乳頭陥凹比最終乳頭陥凹比初回術式初回手術後発作回数追加術式初回手術から追加手術までの期間LET後経過観察期間術前矯正視力術後最終矯正視力1507856100.50.5NPT2LET3年1年1.00.42456173490.90.9LOT2LET8カ月8カ月1.20.83435245150.60.6LOT3LET7カ月2年0.81.042314N/A58170.60.9LOT4LET8年8年0.61.5548N/AN/A6514N/A0.9LET──2カ月0.060.96131352140.6N/ALET──4カ月1.01.572515638140.51LET──8年0.0130cm手動弁84777511011LET──7カ月30cm手動弁50cm手動弁NPT:非穿孔性線維柱帯切除術,LOT:線維柱帯切開術,LET:線維柱帯切除術,N/A:データなし.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011893眼圧は0.1%フルオロメトロン点眼,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服下で,右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.両眼前眼部に特記する異常はなく,左眼前房は清明,隅角は開放隅角で,虹彩前癒着はなく,色素沈着は右眼に比べ少なかった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5,左眼0.9と左眼で著明に陥凹拡大がみられた(図1).Goldmann視野検査では,右眼に特記する異常はなかったが,左眼は鼻側階段状の視野欠損とBjerrum暗点を認めた(図1).経過:2006年左眼線維柱帯切開術を施行.術後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,0.5%チモロール点眼,2%ピロカルピン点眼,ウノプロストン点眼,ベタメタゾン点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服でも眼圧コントロールがつかないため,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.現在濾過胞は扁平で,0.5%チモロール,ウノプロストン,ドルゾラミドの眼圧下降薬3剤を点眼しており,視力は右眼1.0(1.5×sph.0.50D),左眼0.5(1.0×sph.2.25D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHgとコントロールは良好で,視野,視神経乳頭所見とも2006年受診時と比べ変化はなかった(図2).II考按従来比較的予後良好と考えられてきたPosner-Schlossman症候群であるが,最近,緑内障性変化をきたすこともあるという報告2.6)がいくつかみられるようになってきた.その原因として,Posner-Schlossman症候群のなかに,原発開放隅角緑内障(POAG)を併発している症例がある7,8)といわれており,報告によっては,Posner-Schlossman症候群の45%もの症例でPOAGを併発していたというもの8)もある.POAGを併発している症例は,発作のない期間でも高眼圧を呈していたが,今回筆者らが検討した8例では,POAGを併発していた症例はみられなかった.Japら3)は,Posner-Schlossman症候群のうち,4分の1の症例で,緑内障性変化をきたし,POAGの併発は認めなかったとしている.また,Posner-Schlossman症候群で緑内障性変化をきたす症例は,罹病期間と相関していた,と報告している.筆者らの症例8例のうち,発症から手術までの期間をみると,不明であったものが1例,1年であったものが1例であるが,それ以外の6例は5.17年(平均10.6年)と比較的長期経過している症例が多かったといえる.一方,緑内障を発症したPosner-Schlossman症候群に対する術式であるが,隅角所見からは,開放隅角であり周辺虹彩前癒着もみられないことから,流出路再建術の適応もあると考え,当科では,1例に非穿孔性線維柱帯切除術,3例に線維柱帯切開術を行った.Posner-Schlossman症候群2例に対して線維柱帯切開術を行ったという過去の報告9)では,ステロイド緑内障を併発しており,術後眼圧コントロールは良好であった.この報告は線維柱帯切開術後の経過観察期間が9.11カ月と比較的短いため,その後の経過中に眼圧が図2代表症例の2007年受診時所見左眼線維柱帯切開術を施行後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.視神経乳頭所見(a:右眼,b:左眼),Goldmann視野検査所見(d:右眼,c:左眼)とも,2006年受診時(図1)と比べ,変化はなかった.abcd894あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(142)上昇している可能性もあるが,ステロイド緑内障自体に対しては線維柱帯切開術の有効性はすでに確立されており10),この2例の眼圧上昇機序が,Posner-Schlossman症候群によるものではなく,ステロイド緑内障が背景にあれば,線維柱帯切開術で眼圧コントロールが良好となったという結論に納得できる.Posner-Schlossman症候群での眼圧上昇機序についてはまだ不明な点が多いが,小俣ら6)は,Posner-Schlossman症候群で,線維柱帯切除術を施行した1例の線維柱帯を病理組織学的に検討し,線維柱帯間隙,Schlemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Schlemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外物質で満たされていたと報告している.今回,Posner-Schlossman症候群に対して,流出路再建術では眼圧コントロールが得られず,濾過手術で眼圧コントロールが良好となった筆者らの結果からも,線維柱帯,Schlemm管より後方の集合管や傍Schlemm管結合組織といった周囲組織の変化がPosner-Schlossman症候群の眼圧上昇機序に大きく関与していると思われる.また,発作をくり返し,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対して,線維柱帯切除術を行ったところ,眼圧が下降するだけでなく,発作頻度も減少したという報告がある3,4).その機序として,濾過手術で作製した濾過胞によって,炎症細胞が眼外に排出されるため,濾過手術により発作頻度が減少するという可能性が提言されている3).また,線維柱帯切除術が奏効している場合,発作時の眼圧上昇がないため,炎症が起きても自覚症状がなく,眼科受診しないため,みかけの発作頻度が減少するためとも考えられる.今回検討した8例は,眼圧コントロール良好となり,前医に戻り経過観察をうけている症例がほとんどのため,全例の検討はできなかったが,初回から線維柱帯切除術を行った4例では,その後発作をきたした症例はみられなかった.従来Posner-Schlossman症候群は,比較的予後の良い疾患と考えられており,発症年齢も比較的若年が多いため,できるだけ点眼や内服薬で保存的な治療を続ける傾向があるが,今回検討した8例中5例ですでに視神経乳頭陥凹が拡大し,視野異常がみられていた.今回の結果からも,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対しては,時期を逃すことなくMMC併用線維柱帯切除術を施行することが必要と考えられた.また,罹病期間が長くなるほど緑内障性変化を呈する症例が多くなるため,Posner-Schlossman症候群に対して,慎重な経過観察が必要と思われる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecurrentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)繪野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,20003)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosner-Schlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20014)DinakaranS,KayarkarV:TrabeculectomyinthemanagementofPosner-Schlossmansyndrome.OphthalmicSurgLasers33:321-322,20025)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20026)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼24:825-830,20077)RaittaC,VannasA:Glaucomatocycliticcrisis.ArchOphthalmol95:608-612,19778)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma[casereport].AmJOphthalmol75:668-673,19739)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,200510)TheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:Successratesoftrabeculotomyforsteroidinducedglaucoma:acomparative,multicenter,retrospective,cohortstudy.AmJOphthalmol,2011,inpress***

前眼部光干渉断層計(RTVue-100®)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)435《原著》あたらしい眼科28(3):435.439,2011cはじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,おもに眼底観察,特に黄斑疾患の観察や,その病態評価での有用性が認められ著しく発展した.最近は,前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)により前眼部観察にも適応が拡大され,角膜,結膜,前房,隅角の定量的,客観的解析が可能となり,さまざまな前眼部疾患の病態解明に貢献している.また,前眼部OCTは従来から前眼部観察に用いられてきた超音波生体顕微鏡とは異なり,眼組織に接触せず非侵襲的に前眼部断層像を取得できるという特徴がある.RTVue-100R(Optovue社製)は眼底観察用として開発されたスペクトラルドメインOCTであり,おもに網膜疾患や緑内障の病態評価に用いられているが,前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部〔別刷請求先〕清水恒輔:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学講座Reprintrequests:KosukeShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1-1Midorigaokahigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計(RTVue-100R)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察清水恒輔*1川井基史*1花田一臣*2坪井尚子*1山口亨*1阿部綾子*1吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学講座*2同医工連携総研講座EvaluationofTrabeculectomyBlebsUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography(RTVue-100R)KosukeShimizu1),MotofumiKawai1),KazuomiHanada2),NaokoTsuboi1),ToruYamaguchi1),AyakoAbe1),andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)をRTVue-100R(Optovue社製)に前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して観察した.RTVue-100Rは波長840nmの眼底観察用光源を使用しているため,波長1,310nmの光源を使用する前眼部光干渉断層計と比較して組織深達度は低いが,解像度が高いという特徴がある.本装置を用いて房水漏出のある術後早期濾過胞を観察すると,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部との離開が観察できた.また,縫合閉鎖により房水漏出が消失すると,同部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われる所見が得られた.RTVue-100Rを用いると,濾過胞結膜上皮と角膜上皮が描出でき,濾過胞表層における組織構造の観察が可能であった.WeimagedtrabeculectomyblebsusingtheRTVue-100R(Optovue,Inc.,Fremont,CA)withthecornealanteriormodule.Becausethisopticalcoherencetomography(OCT)instrument,whichwasdevelopedforfundusimaging,employsan840-nmwavelengthlightsource,tissuepenetrationislessthanthatofotheranterior-segment(AS)-OCTinstrumentsemployinga1,310-nmwavelengthlightsource.However,imagesofhigheraxialresolutionmaybeobtainedusingtheRTVue-100R.Inacaseofleakingbleb,theconjunctivawasseparatedfromthecorneallimbusatthesiteoftheblebleakintheearlypostoperativeperiod.Aftertheblebleakwasresolvedbysuturerepair,weobtainedanimageofthesite,coveredbyconjunctivalandcornealepithelium.UsingthisAS-OCTinstrument,weobtainedimagesoftheblebandcornealepitheliumandhistologicimagesofsuperficialfeaturesinthebleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):435.439,2011〕Keywords:緑内障,前眼部光干渉断層計,線維柱帯切除術,濾過胞.glaucoma,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,trabeculectomy,bleb.436あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(128)OCTとしても使用可能である.本装置は波長840nmの眼底観察用光源を使用しているが,これは前眼部に特化した他の前眼部OCT(波長1,310nm)と比較して短波長である.前眼部は眼底とは異なり組織表面の凹凸が多く,さらに強膜や結膜,虹彩といった不透明組織を含んでいる.したがって,短波長光源を使用する本装置を用いて前眼部を撮影した場合,組織深達度が不足するため十分な観察を行えない可能性がある.しかし一方で,本装置は解像度が高いという特徴があり,花田ら1)は本装置を用いて糖尿病角膜症での上皮の治癒過程を詳細に観察した.近年,前眼部OCTを用いて細隙灯顕微鏡では観察に限界のある線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)の内部構造を非侵襲的に評価できることが報告2,3)されているが,本装置を用いて濾過胞を観察した報告はない.今回筆者らは,RTVue-100Rを前眼部OCTとして用い,濾過胞の観察を行ったので報告する.I対象および方法対象は,円蓋部基底結膜弁を用いて線維柱帯切除術を施行後,房水漏出が認められず良好な眼圧が長期間維持されている濾過胞(機能性濾過胞)を有する1例(症例1)と,術後早期濾過胞を有する2例である(症例2,3).濾過胞の観察には,細隙灯顕微鏡とRTVue-100RにCAMを装着した前眼部OCT(図1)を用いた.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で測定した.II症例〔症例1〕68歳,女性.続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後64日目の所見である.眼圧は8mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞形状はびまん性であった(図2a).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図2b),広い強膜弁上腔と濾過胞壁内のマイクロシストが観察された.また,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図2c).〔症例2〕71歳,男性.全層角膜移植術後に発症した続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後10日目の所見である.眼圧は9mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はびまん性であった(図3a).Seidel試験は陰性であった(図3b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図3c),症例1と同様に,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図3d).〔症例3〕74歳,男性.原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後9日目の所見である.眼圧は4mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はやや縮小していた*SS250μmabc図2症例1(機能性濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).c:広い強膜弁上腔,マイクロシスト(矢頭)が観察できる.濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.図1前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着したRTVue-100R(Optovue社製)の外観(129)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011437abcd*SS250μm図3症例2(房水漏出のない術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:Seidel試験.房水漏出は認められない.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.abcdefSSSSSS250μm250μm250μm図4症例3(房水漏出のある術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はやや縮小している.b:Seidel試験.房水漏出を認める.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部は離開している(矢印).e:房水漏出部位を縫合閉鎖後翌日の所見.縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全である(矢印).f:縫合閉鎖後9日目の所見.縫合部位は再生した上皮で覆われている(矢印).SS:強膜弁上腔.438あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(130)(図4a).Seidel試験は陽性であった(図4b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図4c),症例1,2とは異なり,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離開していた(図4d).その後,同部位からの房水漏出が遷延したため10-0ナイロン糸で縫合閉鎖したところ,翌日のSeidel試験は陰性となり,眼圧は15mmHgに上昇した.このときの画像所見では,縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の描出は不鮮明であった(図4e)が,縫合閉鎖9日後の所見では,同部位における上皮の存在が確認できた(図4f).Seidel試験は陰性を維持しており,眼圧は18mmHgであった.III考按RTVue-100Rを前眼部OCTとして用いた報告には,角膜厚4),涙液メニスカス5,6)を対象としたものがあるが,濾過胞を対象とした報告はない.前眼部OCTを用いた濾過胞観察では,Singhら2)はプロトタイプの前眼部OCT(CarlZeiss社製)を用いて,機能性濾過胞では濾過胞壁が厚く,機能不全の濾過胞では濾過胞の丈が低く,強膜窓が閉塞していたと報告した.またMullerら3)は,スリットランプに接続した前眼部OCT(Heidelberg社製)を用いて濾過胞を観察し,機能性濾過胞では低信号で,マイクロシスト,粗な内部構造が観察されたと報告した.今回筆者らは,RTVue-100Rを用いて濾過胞を観察したところ,濾過胞深部の描出は不鮮明であったが,濾過胞壁とその内部に存在するマイクロシスト,強膜弁上腔の描出が可能であった.さらに,本装置を用いて得られた画像所見で特徴的であったのは,濾過胞結膜上皮と角膜上皮を描出でき,それらの経時変化を観察できたことである.OCTには1,310nmと840nmの波長を採用する様式がある.波長1,310nmのOCTは解像度が25μm以下と低いが,組織深達度は7mmと高く,おもに前眼部観察用に使用されている.一方,波長840nmのOCTは,組織深達度が2~2.3mmと低いが解像度は5μmと高いため鮮明な画像が得られるという特徴があり7),おもに眼底観察用として使用されている.Singhら8)は,前眼部OCTである波長840nmのCirrusHD-OCTR(CarlZeiss社製)と,波長1,310nmのVisanteOCTR(CarlZeiss社製)を用いて得られた濾過胞所見を比較したところ,前者では濾過胞内腔,強膜弁,強膜弁下腔,強膜窓など濾過胞深部の検出力は劣っていたが,濾過胞壁内部構造の検出には優れていたと報告しており,短波長光源を使用する前眼部OCTは濾過胞壁の観察に有用であると考えられる.今回,筆者らが用いたRTVue-100RはSinghらが使用した前眼部OCTと同じ波長840nmの光源を使用している.したがって,長波長光源を使用する前眼部OCTでは検出困難な濾過胞表層の組織構造が観察できたと考えられた.また,本装置はスペクトラルドメインOCTであるためタイムドメインOCTと比較して撮影時間が0.01~0.15秒と短く,被験者の眼球運動に左右されにくいという特徴もある.そこで,濾過胞結膜上皮と角膜上皮の所見について着目すると,症例1,2に示した機能性濾過胞と房水漏出のない術後早期濾過胞では,結膜切開部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われている様子が観察できた.このような所見を認める場合,症例2のように術後早期であっても房水漏出が生じにくく,良好な濾過胞が維持されることが示唆された.一方,症例3に示した房水漏出のある術後早期濾過胞では,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離解していた.本症例では保存的に経過観察を行ったが,同部位からの房水漏出が遷延したため,10-0ナイロン糸で縫合閉鎖した.翌日の所見では縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全であったが,9日後には再生した上皮で覆われていた.その後も房水漏出は再発せずに良好な濾過胞が維持された.本症例では,房水漏出部位の縫合閉鎖により房水漏出が減少または消失すると,同部位において濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生が促進される様子を観察できたと考えられた.このように,RTVue-100Rを前眼部OCTとして使用すると,濾過胞表層の組織構造を観察することが可能であった.しかし先にも述べたとおり,眼底観察用に開発された本装置を用いて濾過胞深部を観察するのには限界があり,本装置を濾過胞観察に適応する際には観察部位を限定する必要があると思われる.以上,RTVue-100Rを用いて濾過胞観察,特に濾過胞表層の組織構造を観察できることが確認できた.今後症例を積み重ね,本装置を線維柱帯切除術後早期管理の補助装置として活用できるか否かを検討していきたい.本稿の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)花田一臣,五十嵐羊羽,石子智士ほか:前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症.あたらしい眼科26:247-253,20092)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrabeculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:47-53,20073)MullerM,HoeraufH,GeerlingGetal:Filteringblebevaluationwithslit-lamp-adapted1310-nmopticalcoherencetomography.CurrEyeRes31:909-915,20064)IshibazawaA,IgarashiS,HanadaKetal:CentralCornealThicknessMeasurementswithFourier-DomainOpticalCoherenceTomographyversusUltrasonicPachymetry(131)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011439andRotatingScheimpflugCamera.Cornea,inpress5)WangY,ZhuangH,XuJetal:Dynamicchangesinthelowertearmeniscusafterinstillationofartificialtears.Cornea29:404-408,20106)KeechA,FlanaganJ,SimpsonTetal:TearmeniscusheightdeterminationusingtheOCT2andtheRTVue-100.OptomVisSci86:1154-1159,20097)川名啓介,大鹿哲郎:前眼部OCT検査の機器機器一覧.あたらしい眼科25:623-629,20088)SinghM,SeeJL,AquinoMCetal:High-definitionimagingoftrabeculectomyblebsusingspectraldomainopticalcoherencetomographyadaptedfortheanteriorsegment.ClinExperimentOphthalmol37:345-351,2009***

線維柱帯切除術後の脈絡膜剝離に関する臨床経過の検討

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)1731《原著》あたらしい眼科27(12):1731.1735,2010cはじめに緑内障手術後早期に低眼圧や浅前房に伴い脈絡膜.離がしばしば出現する.緑内障手術,特に線維柱帯切除術後の脈絡膜.離の発症原因として,過剰濾過や房水漏出による低眼圧,眼内炎症が関与すると報告されている1~5).脈絡膜.離が持続すると,低眼圧のため濾過創からの房水流出が低下し,その間に結膜下の癒着が進み,術後の眼圧コントロールが不良になる可能性が懸念される.今回,線維柱帯切除術単独もしくは白内障との同時手術を行った症例で,術後3週間以内に脈絡膜.離が出現した眼の臨床経過と術6カ月後の眼圧コントロールについて検討した.I対象および方法1.対象2006年1月1日.2007年12月31日までの2年間に産業医科大学病院で,緑内障に対しマイトマイシンC(MMC)併〔別刷請求先〕新田憲和:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorikazuNitta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu807-8555,JAPAN線維柱帯切除術後の脈絡膜.離に関する臨床経過の検討新田憲和田原昭彦岩崎常人藤紀彦久保田敏昭産業医科大学眼科学教室InfluenceofEarlyOnsetChoroidalDetachmentonOcularClinicalCourseafterTrabeculectomyNorikazuNitta,AkihikoTawara,TunehitoIwasaki,NorihikoTouandToshiakiKubotaDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan緑内障に対する線維柱帯切除術後3週間以内に脈絡膜.離をきたした眼について臨床経過を検討する.2006年1月1日.2007年12月31日までの2年間に産業医科大学病院で,緑内障に対し線維柱帯切除術単独もしくは白内障との同時手術を行った眼で,術後3週間以内に脈絡膜.離を生じた眼を対象に以下の項目について調べた.すなわち,上記の期間に同様の手術を行い脈絡膜.離を生じなかった眼を対照として,脈絡膜.離の発症に関係する要因,脈絡膜.離に対する処置,脈絡膜.離消失までの期間,脈絡膜.離消失後の眼圧経過と緑内障点眼薬数の変化について調べた.線維柱帯切除術を行った122例128眼中,術後3週間以内に脈絡膜.離が出現したのは12例12眼(9.4%)であった.水晶体再建術既往眼で非既往眼に比べ脈絡膜.離が有意に多かった.術6カ月後の平均眼圧は14.9±5.6mmHgで,術前平均眼圧(29.6±10.3mmHg)に比べ有意に低かった(p<0.01).また,術6カ月後の平均眼圧と緑内障点眼数に関して,脈絡膜.離発症眼と脈絡膜.離非発症眼の間に有意差はなかった.線維柱帯切除術後における脈絡膜.離発症の有無は,術後6カ月の眼圧コントロールに影響しない.ThesubjectsofthisstudycomprisedpatientswhounderwenteithertrabeculectomyorcombinedsurgeryoftrabeculectomyandlensreconstructionattheUniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthHospitalduringthetwoyearsfromJanuary1,2006toDecember31,2007.Weexaminedfactorsrelatingtothedevelopmentofpostoperativechoroidaldetachment(CD),treatmentsforthedisease,periodrequiredforCDdisappearance,timecourseofintraocularpressure(IOP)andchangeofmedicationineyeswithCD,ascomparedwitheyesthathadundergonethesameoperationbuthadnotexperiencedCD.Of128eyesof122patients,12eyes(9.4%)of12patientsmanifestedCDwithin3weekspostsurgery.Thereweresignificantlymorechoroidaldetachmentsineyeswithahistoryoflensreconstructionthanineyeswithoutsuchhistory.IOPat6monthspostoperatively(14.9±5.6mmHg)wassignificantlylowerthanthepreoperativelevel(29.6±10.3mmHg)(p<0.01).TherewasnosignificantdifferenceineitherIOPoranti-glaucomaeyedropdosagebetweeneyeswithandwithoutCD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1731.1735,2010〕Keywords:線維柱帯切除術,脈絡膜.離,低眼圧.trabeculectomy,choroidaldetachment,hypotony.1732あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(100)用線維柱帯切除術単独あるいは白内障との同時手術を行った症例122例128眼である.術後3週間以内に検眼鏡的に脈絡膜.離が確認された眼について検討した.同期間に線維柱帯切除術を行い,術後3週間以内に脈絡膜.離を生じなかった眼を対照として,下記の項目について調べた.2.検討項目脈絡膜.離の発症に関係する要因として年齢,性別,術眼(左右),水晶体再建術の既往,緑内障の病型,結膜切開部位について検討し,さらに脈絡膜.離に対する処置,脈絡膜.離消失までの期間,脈絡膜.離眼の眼圧経過,術6カ月後の眼圧と緑内障点眼薬数を調べた.術6カ月後の眼圧と緑内障点眼薬数に関しては,術後6カ月経過観察できた脈絡膜.離非発症眼と脈絡膜.離発症眼との間で平均眼圧と緑内障点眼薬数を比較検討した.3.統計学的解析統計学的解析は,年齢と眼圧についてはStudentのt検定を,性別,術眼(左右),結膜切開部位,水晶体再建術の既往,緑内障の病型についてはc2検定を,脈絡膜.離消失後の緑内障点眼治療薬の数についてはMann-Whitney’sUtestを用いた.脈絡膜.離消失後眼圧について,術前,脈絡膜.離出現時,脈絡膜.離消失時,脈絡膜.離消失後1カ月,2カ月,3カ月,6カ月の平均眼圧をそれぞれ多重比較した(Bonferroni/Dunn).危険率5%以下を有意水準とした.4.術式手術は,複数の術者によって行われた.線維柱帯切除術の術式は,結膜弁(輪部基底あるいは円蓋部基底)を作製し,結膜下組織を.離した.つぎに四角形の強膜半層フラップを作製し,結膜下と強膜半層フラップ下にMMCを塗布(0.04%,3分間)した後,生理食塩水250mlで洗浄した.線維柱帯を含む強角膜片を切除して,周辺虹彩切除を行った.強膜フラップを10-0ナイロン糸で5糸縫合した後,結膜を縫合して手術を終了した.II結果線維柱帯切除術後3週間以内に脈絡膜.離をきたした症例は12例12眼(9.4%)であり,脈絡膜.離非発症眼は110例116眼であった.脈絡膜.離消失後6カ月以上経過観察できたのは101例106眼(脈絡膜.離発症眼12眼と脈絡膜.離非発症眼94眼)であった.脈絡膜.離発症眼12例12眼と脈絡膜.離非発症眼110例116眼の患者背景を表1に示す.平均年齢,性別,術眼,眼圧下降薬,術前平均眼圧は脈絡膜.離発症眼と脈絡膜.離非発症眼との間で有意差はなかった.脈絡膜.離発症眼では輪部基底結膜切開は4眼,円蓋部基底結膜切開は8眼で,脈絡膜.離非発症眼では輪部基底結膜は42眼,円蓋部基底結膜切開は74眼であった.結膜切開の方法の違いによって脈絡膜.離の発症頻度に有意差はなかった.緑内障の病型では,続発緑内障で脈絡膜.離発症の割合が高かった(13.0%).しかし,統計学的には緑内障病型によって脈絡膜.離発症に差はなかった(p値=0.56).水晶体再建術既往眼で非既往眼よりも有意に多く(p値=0.037)脈絡膜.離が発症していた.脈絡膜.離発症直前と脈絡膜.離発症時の平均眼圧は,それぞれ4.7±2.3mmHgと4.5±2.3mmHg(図1)で,全例9mmHg以下であった.低眼圧の原因は,術後の過剰濾過(9表1患者背景非脈絡膜.離眼(110例116眼)脈絡膜.離眼(12例12眼)p値年齢(歳)66.4±15.569.9±16.30.42**性別0.22*男性67例(60.9%)5例(41.7%)女性43例(39.1%)7例(58.3%)術眼0.45*右眼56眼(48.3%)5眼(41.7%)左眼60眼(51.7%)7眼(58.3%)平均眼圧(mmHg)27.4±9.629.6±10.30.45**緑内障病型別0.56*原発開放隅角緑内障36眼(31.0%)1眼(8.3%)原発閉塞隅角緑内障10眼(8.6%)1眼(8.3%)発達緑内障10眼(8.6%)1眼(8.3%)続発緑内障60眼(51.7%)9眼(75.0%)水晶体再建術既往0.037*なし87眼(75.0%)5眼(41.7%)あり29眼(25.0%)7眼(58.3%)結膜切開部位0.56*輪部基底切開42眼(36.2%)4眼(33.3%)円蓋部基底切開74眼(63.8%)8眼(66.7%)*:c2検定,**:Studentのt検定.35302520151050術前CD発症時CD消失時1カ月後2カ月後3カ月後6カ月後眼圧(mmHg)******図1脈絡膜.離眼の眼圧の経過脈絡膜.離発症時眼圧は,4.5±2.3mmHgである.また脈絡膜.離発症眼の術6カ月後平均眼圧(14.9±5.7mmHg)は,術前平均眼圧(29.6±10.3mmHg)に比べて有意に低下している.:脈絡膜.離発症眼,:脈絡膜.離非発症眼.*:p<0.01(Bonferroni/Dunn法).(101)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101733眼)と濾過胞からの房水漏出(3眼)で,過剰濾過ではレーザー切糸後に起こったものが3眼あった(表2).過剰濾過によるものでは,ほぼ全例(8眼/9眼)で一時的に浅前房がみられたが,脈絡膜.離の軽快とともに浅前房は改善した.脈絡膜.離に対し表3に示す処置を行い,全例23日以内に脈絡膜.離は消失した.全例アトロピン点眼を行っており,脈絡膜.離消失までの平均日数は9.2±5.7日(4~23日)であった.このうちアトロピン点眼のみを行った眼や,さらに圧迫眼帯や副腎皮質ステロイド薬の内服を併用したが外科的処置を行わなかった眼は12眼中9眼(75%)で,脈絡膜.離消失までの期間が外科的処置を行った眼に対して比較的長かった.濾過胞周辺の結膜癒着による房水漏出に対して,ニードリングと同時に結膜縫合を行った.脈絡膜.離発症眼の6カ月間の眼圧の経過を図1に示す.術前の平均眼圧(29.6±10.3mmHg)に比較して,脈絡膜.離消失6カ月後の平均眼圧(14.9±5.7mmHg)は有意に低かった.また,脈絡膜.離消失6カ月後の眼圧は,脈絡膜.離発症眼では14.9±5.7mmHgであり,脈絡膜.離非発症眼13.6±6.0mmHgに比べてやや高値であったが,統計学的に有意差はなかった(p値=0.76)(表4).術6カ月後の緑内障点眼薬数に関しても,両群間に有意差はなかった(p値=0.37)(表4).III考按緑内障手術後の脈絡膜.離発症と患者背景との関係について,Berkeら6)は,慢性かつ再発性の術後脈絡膜.離は,高齢,高血圧,動脈硬化性心疾患,高度近視,房水産生抑制薬の使用や眼内炎症,全層性濾過手術の既往を有する患者で多くみられたと報告している.Altanら7)は,年齢,性別,高血圧,糖尿病,術前の眼圧,術前の緑内障点眼薬の数,MMC併用の有無において脈絡膜.離発症に有意な差はなかったが,視神経乳頭の陥凹が大きい眼,術前視力不良眼,落屑緑内障眼において統計学的に脈絡膜.離が多くみられたと報告している.落屑緑内障眼で脈絡膜.離が多かった理由として,血液房水関門の破綻による術後炎症の悪化をあげている.今回の検討では,年齢,性別,術眼(左右),術前平均眼圧,緑内障病型,結膜切開部位による違いで,脈絡膜.離の発症に差はなかったが,水晶体再建術既往眼で非既往眼に比較して脈絡膜.離が有意に多かった.水晶体再建術既往眼で脈絡膜.離が多い理由は不明であるが,水晶体再建術時にZinn小帯を通じて毛様体に外力が及び,それが脈絡膜上腔の接着などに影響して線維柱帯切除術後に脈絡膜.離発症を起こしやすくした可能性が推測される.線維柱帯切除術後の脈絡膜.離発症には,過剰濾過や房水漏出などによる術後低眼圧あるいは眼内炎症が関与すると考えられている1~5).眼内炎症や毛様体.離があると房水産生機能が低下し低眼圧になることで,脈絡膜上腔ヘの水分の滲表2脈絡膜.離を起こした低眼圧の発症要因①過剰濾過(線維柱帯切除術後(レーザー切糸後9眼6眼)3眼)②房水漏出3眼表3脈絡膜.離に対する処置処置の組み合わせ眼CD消失までの日数①アトロピン3眼11.3日②アトロピン+圧迫眼帯3眼11.6日③アトロピン+ステロイド内服2眼6.5日④アトロピン+圧迫眼帯+副腎皮質ステロイド内服1眼10日⑤アトロピン+圧迫眼帯+濾過胞圧迫縫合1眼4日⑥アトロピン+圧迫眼帯+自己血結膜下注射1眼7日⑦アトロピン+結膜縫合+ニードリング1眼7日CD:脈絡膜.離.表4術6カ月後の平均眼圧と緑内障点眼数脈絡膜.離非発症眼(94眼)脈絡膜.離発症眼(12眼)p値眼圧(眼圧±SDmmHg)13.6±6.0mmHg14.9±5.7mmHg0.76*緑内障点眼薬数0.37**0剤58眼6眼1剤17眼2眼2剤13眼3眼3剤5眼1眼4剤1眼0眼*Studentのt検定,**Mann-Whitney’sUtest.1734あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(102)出が促進される.炎症でも脈絡膜上腔への蛋白質の蓄積が増えて,脈絡膜上腔への水分滲出を促進し,結果として脈絡膜.離の発生が助長される4).今回の症例において,脈絡膜.離発症時の平均眼圧は4.5±2.3mmHg,脈絡膜.離発症直前の平均眼圧は4.7±2.4mmHgであり,脈絡膜.離発症前後の平均眼圧はともに低眼圧であった.このことから,脈絡膜.離発症の原因の一つに低眼圧が関与していると考えられる.大黒ら4)は,線維柱帯切除後に重篤な脈絡膜.離をきたした続発緑内障の2症例を報告し,脈絡膜.離発症の原因の一つに,術後炎症で促される毛様体機能低下による低眼圧をあげている.ぶどう膜炎による続発緑内障眼に関して,Jasonら8)は,線維柱帯切除術を行ったぶどう膜炎眼と非ぶどう膜炎眼とで術後の低眼圧,脈絡膜出血,眼内炎の発症率に有意差はなかったと報告している.Kaburakiら9)も,線維柱帯切除術を行ったぶどう膜炎眼(53眼)と原発開放隅角緑内障眼(80眼)において,長期の術後低眼圧と低眼圧黄斑症はぶどう膜炎眼に多くみられたが,脈絡膜.離発症率に関して差はなかったとしている.ぶどう膜炎眼において長期の低眼圧や低眼圧黄斑症が多くみられた理由として,術後炎症による房水産生機能低下をあげている.今回,緑内障の病型(表1)では,脈絡膜.離眼において続発緑内障が12眼中9眼で比較的多かったが,非.離眼との間で統計学的有意差はなかった.続発緑内障眼を含め脈絡膜上腔ドレナージを必要とする重篤な脈絡膜.離はなかった.Shiratoら10)は線維柱帯切除術後の脈絡膜.離の大部分(40眼/41眼)は,薬物治療(副腎皮質ステロイド薬内服など)や圧迫眼帯などの保存的加療で3週間以内に消失すると報告している.今回の検討では,薬物治療(副腎皮質ステロイド薬内服点眼,アトロピン点眼)や圧迫眼帯で脈絡膜.離が消失したものが12眼中9眼(75%)で,過去の報告と同様に保存的加療が多くの症例に有効であった.今回過剰濾過に対する外科的処置として自己血結膜下注射(1眼)と濾過胞圧迫縫合(1眼)を行い,短期間に眼圧上昇し脈絡膜.離は消失した.過去の報告においても遷延する過剰濾過による低眼圧に対して,自己血結膜下注射や濾過胞圧迫縫合は短期間に眼圧上昇させ脈絡膜.離を改善する有効な外科的手段と報告されている12,13).線維柱帯切除後の脈絡膜.離は一過性であり,脈絡膜.離の改善は眼圧の正常化と炎症の沈静化により得られると報告されている14).今回の検討においても脈絡膜.離消失までの期間(図2)は平均9.8日(最短4日,最長23日)と比較的短期間であり,全例眼圧が上昇するとともに,脈絡膜.離は消失した.脈絡膜.離発症眼の術6カ月後の眼圧は術前に比べ有意に低下していた(図1).術6カ月後の眼圧と緑内障点眼薬数に関しても,脈絡膜.離発症眼(12眼)と脈絡膜.離未発症眼(94眼)とで有意差はなかった.このことから,脈絡膜.離の発症は,術6カ月の時点において線維柱帯切除術の眼圧下降効果に影響はないと考えられる.Stewartら15)は術後3カ月以内に生じた脈絡膜.離発症眼18眼の臨床経過を検討し,脈絡膜.離非発症眼18眼と比較し,1年後の平均眼圧および緑内障点眼数において,両群間で統計学的な有意な差はなかったと報告しており,今回の結果と同様である.今回の検討から,線維柱帯切除術後早期に発症した脈絡膜.離は,術後6カ月において線維柱帯切除術の眼圧下降効果に影響しないと考えられる.文献1)PedersonJE,GaasterlandDE,MacLellanHM:Experimentalciliochoroidaldetachment:Effectonintraocularpressureandaqueoushumorflow.ArchOphthalmol97:536-541,19792)BrubakerRF,PedersonJE:Ciliochoroidaldetachment.SurvOphthalmol27:281-289,19833)CapperSA,LeopoldIH:Mechanismofserouschoroidaldetachment:Areviewandexperimentalstudy.ArchOphthalmol55:101-113,19564)大黒幾代,大黒浩,中澤満ほか:緑内障濾過手術後に重篤な脈絡膜.離を来した続発緑内障の2症例.眼紀55:575-578,20045)VladislavP:Earlychoroidaldetachmentaftertrabeculectomy.ActaOphthalmolScand76:361-371,19986)BerkeSJ,BellowsR,ShingletonBJetal:Chronicandrecurrentchoroidaldetachmentafterglaucomafilteringsurgery.Ophthalmology94:154-162,19877)AltanC,OzturkerC,BayraktarSetal:Post-trabeculectomychoroidaldetachment:notanadverseprognosticsignforeithervisualacuityorsurgicalsuccess.EurJOphthalmol18:771-777,20088)JasonN,LarissaDD,TheodoreRetal:OutcomeoftrabeculectomywithintraoperativemitomycinCforuveiticglaucoma.CanJOphthalmol42:89-94,20079)KaburakiT,SiratoS,AraieMetal:InitialtrabeculectomywithmitomycinCineyeswithuveiticglaucomawith76543210~4日5~8日9~12日13~16日17~20日21日~眼数脈絡膜.離消失までの日数図2脈絡膜.離消失までの日数脈絡膜.離消失までの平均日数は,9.2±5.7日である.(103)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101735inactiveuveitis.Eye23:1509-1517,200910)ShiratoS,KitazawaY,MishimaS:Acriticalanalysisofthetrabeculectomyresultsbyaprospectivefollow-updesign.JpnJOphthalmol26:468-480,198211)KuWC,LinYH,ChuangLHetal:Choroidaldetachmentafterfilteringsurgery.ChangGungMedJ28:151-158,200512)OkadaK,TsukamotoH,MishimaHetal:AutologousbloodinjectionformarkedoverfiltrationearlyaftertrabeculectomywithmitomycinC.ActaOphthalmolScand79:305-308,200113)HaynesWL,AlwardWL:Combinationofautologousbloodinjectionandblebcompressionsuturestotreathypotonymaculopathy.JGlaucoma8:384-387,199914)ObuchowskaI,MariakZ:Choroidaldetachment-pathogenesis,etiologyandclinicalfeatures.KlinOczna107:529-532,200515)StewartWC,CrinkleyCM:Influenceofseroussuprachoroidaldetachmentsontheresultsoftrabeculectomysurgery.ActaOphthalmolScand72:309-314,1994***

マイトマイシンC 併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)963《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):963.966,2010cはじめに緑内障においてエビデンスのある治療は眼圧下降のみである1).しかし一方で,眼圧を十分に下降させても視野障害進行を抑制できない例が存在するという事実もある2).近年,眼圧日内変動幅3)および仰臥位眼圧上昇幅4,5)が,緑内障視野障害進行と関係していることを示唆する報告が散見される.眼圧日内変動幅に関しては,薬物治療でもある程度小さくすることができる6)が,仰臥位眼圧上昇幅は,薬物治療7)およびレーザー線維柱帯形成術8)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)の併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっているが,仰臥位眼圧上昇幅に対する抑制効果に関しては現時点では明らかではない.今回,MMC併用線維柱帯切除術後眼の体位変換による眼圧変化を測定し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,平成21年4月20日から8月31日に東京警察病〔別刷請求先〕小川俊平:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:ShumpeiOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPANマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化小川俊平中元兼二福田匠里誠安田典子東京警察病院眼科PosturalChangeinIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomafollowingTrabeculectomywithMitomycinCShumpeiOgawa,KenjiNakamoto,TakumiFukuda,MakotoSatoandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察できた広義の原発開放隅角緑内障20例32眼を対象に,Pneumatonometerを用いて座位と仰臥位の眼圧を測定した.眼圧は,座位から仰臥位へ体位変換直後有意に上昇し,仰臥位10分後も有意に上昇した(p<0.05).また,再度,座位へ体位変換後,眼圧は速やかに下降した(p<0.05).仰臥位眼圧上昇幅は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg,仰臥位10分後で3.43±1.8mmHgであった.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅には有意な正の相関があった(仰臥位直後:r2=0.41,r=0.64,p<0.0001,仰臥位10分後:r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).In32untreatedeyesof20patientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucoma,weevaluatedtheposturalchangeinintraocularpressure(IOP)followingtrabeculectomywithmitomycinC.UsingaPneumatonometer,IOPwasmeasuredafter5minutesinthesittingposition,andat0and10minutesinthesupineposition.SittingIOP,and0and10minutessupineIOPwere10.2±3.3mmHg,12.2±4.2mmHgand13.7±4.5mmHg,respectively.Thedifferencebetweensupine0minIOPandsittingIOP(ΔIOP0min)was1.95±1.4mmHg(p<0.05);thedifferencebetween10minsupineIOPandsittingIOP(ΔIOP10min)was3.43±1.8mmHg(p<0.05).ThereweresignificantcorrelationsbetweensittingIOP,ΔIOP0min(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)andΔIOP10min(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):963.966,2010〕Keywords:仰臥位,体位変換,眼圧,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,線維柱帯切除術.supineposition,posturalchange,intraocularpressure,normal-tensionglaucoma,primaryopen-angleglaucoma,trabeculectomy.964あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(104)院眼科外来に受診した原発開放隅角緑内障(広義)20例32眼である.年齢は57.6±10.8(平均値±標準偏差)歳,男性5例8眼,女性15例24眼,病型は原発開放隅角緑内障(狭義)22眼,正常眼圧緑内障10眼である.選択基準は,熟練した2人の術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察されたものである.除外基準は,術後6カ月以内のもの,初回手術以外にレーザー治療を含む内眼手術既往のあるもの,白内障同時手術例,僚眼へb遮断点眼薬を使用しているもの,Seidel試験で濾過胞に明らかな漏出点があるもの,高血圧・糖尿病の既往のあるものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.線維柱帯切除術の方法を以下に記す.まず,輪部基底の結膜弁を作製し,4×3mmの強膜半層三角弁作製後,0.04%MMC0.25mlを浸した小片状スポンジェルRを4分間結膜下に塗布した.その後400mlの生理食塩水で洗浄し,線維柱帯切除,周辺虹彩切除後,強膜半層弁を10-0ナイロン糸で房水がわずかに漏出する程度に5針縫合した.最後に結膜を連続縫合した.眼圧測定は,Pneumatonometer:PT(MODEL30CLASSICTMPneumatonometer,Reichert社)とGoldmann圧平式眼圧計(GAT)を用いて行った.眼圧測定は,外来ベッド上でPTを用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位へ体位変換した直後に眼圧を測定した.同時に,各測定時に自動眼圧計で右上腕の血圧および脈拍数を測定した.その後,診察室へ移動し,細隙灯顕微鏡検査およびSeidel試験を行った.最後に座位安静5分後にGATを用いて眼圧を測定した(図1).すべての眼圧測定は,同一検者(S.O.)が午後2時から4時の間に行った.眼圧測定は,すべて右眼より行い,仰臥位眼圧測定時は枕を使用しなかった.まず,PT測定値とGAT測定値の一致度を調べるため,GAT眼圧と座位安静5分後および再座位直後の眼圧をBland-Altman分析を用いて比較した.さらに,体位変換により眼圧および血圧が変動するかを検討するため,全対象の座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再座位直後の眼圧を,ボンフェローニ(Bonferroni)補正pairedt-testを用いて比較した.また,座位安静5分後の眼圧と座位安静5分後から仰臥位直後の眼圧上昇幅(ΔIOP直後)および仰臥位10分後の眼圧上昇幅(ΔIOP10分後)の関係について回帰分析を用いて検討した.有意水準はp<0.05(両側検定)とした.II結果手術日から本試験眼圧測定日までの期間は,2,385±1,646(214.5,604)日であった.Bland-Altman分析ではGATと座位安静5分後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35〕および再座位直後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.2.GAT-再座位直後眼圧(GAT+座位安静5分後眼圧)/2(GAT+再座位直後眼圧)/2GAT-座位安静5分後眼圧05101520531-1-3-505101520531-1-3-5図2GATとPTの一致度Bland-Altman分析では,GATと座位安静5分後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35]および再座位直後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.2..2.2,r2=0.005,p=0.69]の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった.座位安静5分後仰臥位直後仰臥位10分後再座位直後ベッド上PT診察室GAT図1眼圧測定順序眼圧は,Pneumatonometer(PT)を用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位直後に測定した.最後にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)で眼圧を測定した.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010965.2.2,r2=0.005,p=0.69〕の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった(図2).各体位の全症例の眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHg,GAT:9.2±3.9mmHgであった.仰臥位直後および仰臥位10分後の眼圧は,いずれも座位安静5分後,再座位直後より有意に高かった(p<0.05).また,仰臥位10分後の眼圧が他の測定値のなかで最も有意に高かった(p<0.05)(図3).体位変換による仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg(ΔIOP直後),仰臥位10分後で3.43±1.8mmHg(ΔIOP10分後)であった.座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった(図4).血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後が最も高かった(p<0.05).また,脈拍数は,座位安静5分で最も多かった(p<0.05)(表1).血圧および脈拍数は,ΔIOP直後およびΔIOP10分後のいずれとも有意な相関はなかった.III考按緑内障における確実な治療法は,眼圧下降治療のみであり,薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない場合は観血的手術を行う必要がある.線維柱帯切除術はMMCの併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となった1).しかし,手術治療で十分な眼圧下降効果が得られても,視野障害が進行する症例が少なくないことはよく知られている.近年,外来眼圧2)や眼圧日内変動幅3)のみならず仰臥位眼圧上昇幅も,緑内障視野障害進行と関与している可能性が指摘されている4,5).Hirookaら5)は,原発開放隅角緑内障患者11例を対象にして,同一症例の左右眼のうち視野障害がより高度な眼と軽度な眼の仰臥位眼圧上昇幅を比較したところ,視野障害がより高度な眼が軽度な眼より仰臥位眼圧上昇幅が有意に大きかったと報告している.Kiuchiら4)は,正常眼圧緑内障患者を対象に,座位眼圧,仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,MDslopeと座位眼圧には有意な相関はなかったが,MDslope表1体位変動と血圧,脈拍数の変化座位仰臥位直後仰臥位10分再座位直後収縮期血圧(mmHg)129.7±15.0129.8±21.0126.1±16.1137.8±19.5*拡張期血圧(mmHg)80.7±9.675.8±12.174.6±10.984.7±9.6*脈拍数(回/分)73.4±15.0*68.7±14.267.0±13.270.9±13.9*:他の3体位との比較(p<0.05,Bonferroni補正pairedt-test).平均値±標準偏差.血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後で最も高かった.脈拍数は,座位安静5分で最も多かった.6543210-1-205101576543210-1051015ΔIOP直後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)ΔIOP10分後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)図4座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(ΔIOP直後=.0.26+0.23×GAT,r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(ΔIOP10分後=0.59+0.30×GAT,r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった.0510152025仰臥位直後座位安静5分後再座位直後仰臥位10分後n=32Mean±SE眼圧(mmHg)*****図3体位変換による眼圧変化各体位の平均眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHgであった.PTで測定された体位変換後の眼圧は仰臥位10分後が最も高かった(*p<0.05).966あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(106)と仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅との間には有意な負の相関を認めたと報告している.眼圧下降治療の質を向上させるためには,仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが望まれる.線維柱帯切除術により,仰臥位眼圧上昇幅が抑制できるかは,Parsleyらによりすでに報告されている9).Parsleyらは,座位から仰臥位への体位変換により,眼圧が対照群では1.08mmHgの上昇であったのに対して,片眼手術群では3.31mmHg,両眼手術群では5.49mmHgと大きく上昇したことから,線維柱帯切除術の仰臥位眼圧上昇抑制効果はほとんどなかったと述べている.しかし,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6.17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(広義)患者を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧が体位変換によりどの程度変化するかについて検討したところ,座位から仰臥位への体位変換により,仰臥位直後平均1.90mmHg,仰臥位10分後平均3.40mmHg有意に上昇した.その後,再度座位へ体位変換すると,眼圧は速やかに有意に下降した.仰臥位眼圧上昇のおもな機序の一つとして,上強膜静脈圧の上昇が考えられている10.12).体位変換による上強膜静脈圧の上昇とともに,眼圧も1.3分で速やかに上昇することが知られている13,14).Fribergら11)によれば,健常人において,眼圧は体位変換後10.15秒以内に上昇幅の80%が上昇し,30.45秒で最大となり体位を保持するかぎり上昇幅は保たれていた.また,体位変換1分後と5分後では差がなく,座位に戻ると2.3分でベースラインへ戻ったと報告している.Tsukaharaら15)は,健常人と手術既往のない緑内障患者のいずれも,仰臥位直後より仰臥位30分後のほうが眼圧は高かったと報告している.今回の結果とあわせ,MMC併用線維柱帯切除術後も体位変換により,眼圧は速やかに変動することが確認できた.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)の間には有意な正の相関があり,術後座位眼圧が低いほど,仰臥位眼圧上昇幅がより小さかった.仮にMMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅が抑制されるとすると,その機序は座位から仰臥位への体位変換後,房水が濾過胞へ速やかに流出するためと推測される.これは術後座位眼圧が低い症例ほど,術後の濾過機能がより良好であった可能性が高いためと考えられる.このことから,できるだけ座位眼圧が低い,良好な濾過機能をもった濾過胞を形成することで,仰臥位眼圧上昇幅をより小さくできる可能性が示唆された.今回の検討では,術前の仰臥位眼圧上昇幅を測定していないため,MMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅を,術前より術後で抑制できたかについては明らかでない.この点に関して検証するためには,今後,MMC併用線維柱帯切除術前後に仰臥位眼圧上昇幅を前向きに測定し比較する必要があると考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20004)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,20075)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20036)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20047)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,19908)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,19929)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198710)KrieglsteinGK,WallerWK,LeydheckerW:Thevascularbasisofthepositionalinfluenceontheintraocularpressure.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthalmol206:99-106,197811)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198712)BlondeauP,TetraultJP,PapamarkakisC:Diurnalvariationofepiscleralpressureinhealthypatients:apilotstudy.JGlaucoma10:18-24,200113)WeinrebR,CookJ,FribergT:Effectofinvertedbodypositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol98:784-787,198414)GalinMA,McIvorJW,MagruderGB:Influenceofpositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol55:720-723,196315)TsukaharaS,SasakiT:PosturalchangeofIOPinnormalpersonsandinpatientswithprimarywideopen-angleglaucomaandlow-tensionglaucoma.BrJOphthalmol68:389-392,1984

線維柱帯切除術におけるAdjustable Suturesとレーザー切糸術との比較

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(105)14330910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14331438,2008c〔別刷請求先〕小林博:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1-1小倉記念病院眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifune-machi,Kitakyusyu802-8555,JAPAN線維柱帯切除術におけるAdjustableSuturesとレーザー切糸術との比較小林博*1小林かおり*2*1小倉記念病院眼科*2倉敷中央病院眼科ComparisonofIntraocularPressure-loweringEfectofAdjustableSuturesandLaserSutureLysisinTrabeculectomyHiroshiKobayashi1)andKaoriKobayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:強膜縫合に対してadjustablesuturesおよび従来のレーザー切糸術を用いた線維柱帯切除術の降圧効果を比較検討した.方法:対象は線維柱帯切除術を施行し,6カ月以上経過観察を行った40名である.20名に対してはadjustablesuturesを用い,20名に対してはレーザー切糸術を使用した.Adjustablesuturesは,Khawらが報告した方法を用い,強膜弁の両隅を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した後,3辺を1本ずつのナイロン糸で4-0-0で仮縫合した.術後,仮縫合を結膜上から鑷子で緩めて眼圧を調節した.レーザー切糸群は強膜弁を7本のナイロン糸で縫合し,術後眼圧はレーザー切糸で調整した.結果:ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,術後のいずれの時期においても,adjustablesuture群は眼圧下降が大きかったが両群間に有意差はなかった.Adjustablesuture群では仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかったが,レーザー切糸術群では4名がみられた.結語:眼圧下降作用は,adjustablesuture群はレーザー切糸術群と同等であった.Adjustablesuturesは,仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に低眼圧および浅前房をきたすことが減少させる可能性があると考えられた.Tocomparetheintraocularpressure-loweringeectandsafetyofadjustablesuturesandlasersuturelysisintrabeculectomy,weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising40patientswithopen-angleglaucomahav-ingintraocularpressuregreaterthanorequalto22mmHg.Ofthesepatients,20underwenttrabeculectomyusingadjustablesuturesand20underwenttrabeculectomyusingconventionalsuturesandlasersuturelysis.AdjustablesutureswereimplementedasreportedbyKhawetal.Meanbaselineintraocularpressurewas28.1±2.9mmHgintheadjustablesuturegroupand27.6±3.0mmHginthelasersuturelysisgroup.Meanpostoperativeintraocularpressurewas11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHgand11.9±2.4mmHgintheadjustablesuturegroupand10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHgand13.0±3.3mmHginthelasersuturelysisgroupat1,3and6months,respective-ly;therewasnosignicantdierencebetweenthetwogroupsatanyvisit.Shallowanteriorchamberwasfoundinnopatientintheadjustablesuturegroupandin4patientsinthelasersuturelysisgroupafterlooseningoftheadjustablesuturesorlasersuturelysis.Therewasnosignicantdierenceinhypotensiveeectbetweentheadjustablesuturegroupandthelasersuturelysisgroup.Theuseofadjustablesuturesmayreducetheincidence———————————————————————-Page21434あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(106)はじめに薬物治療で制御できない緑内障に対しては,一般的に線維柱帯切除術が行われている.しかし,線維柱帯切除術の合併症としては,術後早期での低眼圧,浅前房,脈絡膜離,前房出血,術後晩期での白内障の進行および濾過胞に由来する眼内炎が知られており,その頻度は決して低くない14).術後早期の合併症の多くは過剰な濾過に起因しているために,術中,強膜弁をしっかりと縫合し,術後に眼圧を調節するためにレーザーで切糸することが行われる5)が,Khawらが線維柱帯切除術において術中に仮縫合しておいた10-0ナイロン糸を,術後に鑷子などで緩められるadjustablesutures法を報告しており6),筆者らも良好な成績を報告している7).今回,線維柱帯切除術において,adjustablesutures法と従来の縫合してレーザー切糸で眼圧を調節する方法を比較検討した.I対象および方法対象は,薬物治療にかかわらず眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障40名40眼である.全例とも緑内障手術を含めた内眼手術の既往がない症例である.閉塞隅角緑内障,外傷性緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,血管新生緑内障および高血圧,糖尿病などの全身性合併症は除外した.6カ月間において,眼圧の変化について観察した.対象患者に対してすべて,Humphrey視野検査,隅角鏡検査,共焦点レーザートモグラフを含む眼科的検査を施行した.患者を登録後,封筒法によって無作為に2群に分け,1群は強膜縫合にadjustablesuturesを用い(adjustablesuture群),もう1群は従来の縫合を使用した(レーザー切糸群).経過観察開始後の眼圧はベースライン眼圧測定時±1時間に測定した.ベースライン眼圧は,経過観察前2週間ごとに3回眼圧を測定し,その平均値とした.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,その平均値を統計処理には用いた.安全性は,術中および術後の合併症の頻度によって評価した.低眼圧は,術後に眼圧が4mmHg以下に下降した場合と定義した.浅前房はTeehasaeneeとRitchの報告に拠ったが,術後,仮縫合を緩めた場合あるいはレーザー切糸の場合,処置後の前房深度が処置前に比較して30%以上減少した場合は処置後前房深度減少とした.前房出血は,術後に前房の下方に細隙灯顕微鏡で出血が確認できた場合とした.高眼圧は,術翌日の眼圧が術前に比較して3mmHg以上上昇した場合とした.1.手術手技(図1)12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSS(平衡食塩液)を用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.その後,虹彩切除を施行した.強膜外方弁は以下のように縫合した.1)Adjustablesuture群:外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.2)レーザー切糸群:外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.2.術後管理手術後,すべての緑内障薬を中止し,デキサメタゾン0.1%およびレボフロキサシン0.1%を3回/日,1カ月間点眼させた.術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,以下のように調整した(図2).1)Adujustablesuture群:仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.2)レーザー切糸群:レーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.中止例は,(1)連続して2回の検査で,眼圧が21mmHg以上であった場合,(2)予定された診察を受けなかった場合とした.脱落・中止症例では,脱落・中止直前の診察時の眼圧を最終診察時の眼圧とした.3.統計解析標本の大きさは,標準偏差3mmHg,危険率5%として,少なくとも3mmHgの眼圧の差異を90%の検出力で検出でofshallowanteriorchamberandhypotonyafterlooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14331438,2008〕Keywords:線維柱帯切除術,adjustablesuture,レーザー切糸.trabeculectomy,adjustablesuture,lasersuturelysis.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081435(107)きる症例数とした.連続変数の比較には,両側Studentt-検定を用いた.分割表での比較には,c2検定,Fisher検定を用いた.生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.II結果表1に,患者の背景をまとめた.平均年齢は,adjustablesuture群が69.9±9.0歳,レーザー切糸群が69.7±7.9歳であり,年齢,性,視力,視野,視神経乳頭陥凹において両群BCDE強膜弁縫合虹彩切除Descemet膜に小孔Adjustablesuture群外方弁作製内方弁作製Descemet膜?離4mm4mm1.5mm2.5mm2mm円蓋部結膜切開マイトマイシンC3分間塗布BSSで洗浄結膜縫合Wingstretchレーザー切糸群AF図1手術術式A:12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSSを用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.B:その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.C:さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.D:内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.E:その後,虹彩切除を施行した.F:強膜外方弁は以下のように縫合した.Adjustablesuture群では外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.レーザー切糸群では外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.A.Adjustablesuture群B.レーザー切糸群鑷子レーザーレーザー図2術後処置A:術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,adujustablesuture群では仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.B:レーザー切糸群ではレーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.———————————————————————-Page41436あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(108)間に有意差はなかった.1.眼圧の変化ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001)(図3).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,手術3カ月後のいずれの時期においても,adjustablesuture群がレーザー切糸群に比較して大きかったが両群間に有意差はなかった(図4).手術6カ月後において,無治療で眼圧が20mmHg以下である症例数は,adjustablesuture群が19名(95%),レーザー切糸群が19名(95%)であり,両群に差はなかった(図4,表2).無治療で眼圧が16mmHg以下である症例数は,図4生命表における無治療での20mmHg以下(A)および16mmHg以下(B)の生存確率生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群期間(月)確率1.00.80.60.40.20.0012345期間(月)1.00.80.60.40.20.001234566A.眼圧20mmHgB.眼圧16mmHg表1患者の背景Adjustablesuture群レーザー切糸群患者数20名20名男性女性9(45%)11(55%)10(50%)10(50%)年齢69.9±9.0歳(4784歳)69.7±7.9歳(5382歳)視力0.889(0.31.0)0.827(0.81.0)LogMAR視力0.051±0.1320.082±0.222Humphrey視野測定(Meandeviation)15.67±6.46dB(5.6726.33dB)15.95±5.57dB(4.8827.48dB)陥凹面積/乳頭面積比0.613±0.178(0.348to0.842)0.621±0.185(0.358to0.882)眼圧28.1±2.9mmHg(2332mmHg)27.6±3.0mmHg(2334mmHg)図3眼圧の変化A:眼圧の推移,B:眼圧変化値の推移,C:眼圧変化率の推移B眼圧変化値(mmHg)0-5-10-15-20-25期間(月)0123456C眼圧変化率(%)100-10-20-30-40-50-60-70-80期間(月)0123456A眼圧(mmHg)3530252015105期間(月)0123456:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081437(109)adjustablesuture群が19名(90%),レーザー切糸群が17名(85%)であり,adjustablesuture群が良好であったが有意差はなかった(図4).2.術後処置および合併症術後処置としては,adjustablesuture群の11名(55%)は仮縫合を緩めたが,それで不十分であったので4名(20%)は両隅のナイロン糸をレーザーで切断した.レーザー切糸群は13名(65%)がレーザーで10-0ナイロン糸を切断した(表3).その後,レーザー切糸群では前房深度が有意に減少したのに対して,adjustablesuture群では認められなかった(p=0.0350).各群とも,1名(5%)にニードリング濾過胞形成術を施行した(表3).術中合併症は,両群ともみられなかった.術後合併症として,低眼圧および浅前房がadjustablesuture群で1名(5%),レーザー切糸群で2名(10%)に認められたが,いずれの合併症でも両群間に有意差はなかった(表4).III考按強膜弁の縫合にadjustablesutureを用いた線維柱帯切除術は,従来のレーザー切糸を使用した線維柱帯切除術とほぼ同様な眼圧下降効果が得られた.低眼圧および浅前房の発症頻度が5%であり,過剰な濾過による合併症が従来のレーザー切糸を用いた線維柱帯切除術と有意差はなかった.従来,術後早期の眼圧調整には,レーザー切糸術や鑷子などで糸を抜くreleasablesuturesで行われてきた5,8).その問題点として,糸を切ったり抜いたりするとその糸が弁を抑えられなくなり,その処置直後に浅前房あるいは低眼圧をきたす危険性があった.それに対して,adjustablesuturesでは糸を緩めることで糸が弁を抑える加減を調整でき,浅前房を起こしにくいことが特徴である.今回の研究では,adjust-ablesuturesを緩めた場合あるいはレーザー切糸後に30%以上前房深度減少が,adjustablesutureを用いた症例ではみられなかったのに対して,レーザー切糸群では4名に認められた.また,レーザー切糸術では,切糸の本数で眼圧を調整するために7本かけていたのに,糸が弁を抑える力を調整できるためにかける糸の本数を減少させることができるようになった.レーザー切糸術では,低熱量のレーザーとはいえ,結膜,Tenon,強膜に熱傷が起こり,炎症が起こることは否めない.それによって,‘ringofsteel’などの結膜瘢痕化が生じる可能性があると考えられ,adjustablesutureではレーザーによる熱作用を減らすことができると思われた.元来,Khawの報告では10-0ナイロン糸を緩める際には,特殊な鑷子が用いられていた5)が,基本的はに無鉤鑷子であればよく,綿棒でも代用できた.眼球マッサージでも糸を緩めることができるので,マッサージしながら糸を緩めて眼圧を調整することも可能であった.術中手技も簡単であり,今後,レーザー切糸術の代用になるものと考えられた.本研究の第一の問題点は,単盲検試験であるために,バイアスの可能性が高く信頼性が低いことである.第二の問題点は,症例数が少ないことである.そのため,手術3カ月以降のいずれの時期でも,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術群は,レーザー切糸群に比較して眼圧下降は大きかっ表2術前および6カ月後の眼圧,薬剤数の変化と成功率Adjustablesuture群レーザー切糸群p値患者数20名20名─術前眼圧28.1±2.9(2334)27.6±3.0(2334)─薬剤数3.3±0.6(24)3.2±0.7(24)─6カ月後眼圧12.6±2.7(818)12.6±4.3(824)─薬剤数0.05±0.22(01)0.15±0.67(03)─無投薬で≦20mmHg19(95%)19(95%)─投薬(+/)で≦20mmHg20(100%)19(95%)─無投薬で≦16mmHg19(95%)17(85%)─表4合併症の頻度Adjustablesuture群(20名)レーザー切糸群(20名)p値低眼圧1(5%)2(10%)─浅前房1(5%)2(10%)─脈絡膜離1(5%)1(5%)─高眼圧2(10%)2(10%)─前房出血0(0%)1(5%)─虹彩前癒着0(0%)0(0%)─虹彩後癒着0(0%)0(0%)─濾過胞の平坦化0(0%)1(5%)─白内障0(0%)0(0%)─濾過胞炎/眼内炎0(0%)0(0%)─表3術後処置Adjustablesuture群レーザー切糸群眼数20眼20眼Adjustablesutureを緩める11(55%)─レーザー切糸4(20%)12(60%)Adjustablesuture調整あるいはレーザー切糸後の前房深度減少0(0%)4(20%)ニードリング1(5%)1(5%)5-フルオロウラシル注射0(0%)0(0%)———————————————————————-Page61438あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(110)たが,有意差がなかった.さらに症例数を増加して検定力を上げる必要があると思われた.また,安全性に関しても,合併症の頻度の比較が困難であり,稀有な合併症の検出もむずかしいと思われた.今回,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術の降圧作用は,従来報告されているレーザー切糸術を使用した線維柱帯切除術の成績に比較して同様であり,合併症に関しては術後眼圧を下降させる処置後の前房深度の安定性が良好であった.さらに症例数を増加させて検討する必要があると考えられた.文献1)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,20002)PoulsenEJ,AllinghamRR:Characteristicsandriskfac-torsofinfectionsafterglaucomalteringsurgery.JGlau-coma9:438-443,20003)DeBryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.ArchOphthalmol120:297-300,20024)RothmanRF,Liebmann,RitchR:Low-dose5-uoroura-ciltrabeculectomyasinitialsurgeryinuncomplicatedglaucoma:long-termfollow-up.Ophthalmology107:1184-1190,20005)SavegeJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19886)KhawPT:Improvementintrabeculectomyandtech-niquesofantimetabolitesusetopreventscarring.Pro-ceedingof3rdInternationalCongressonGlaucomaSur-gery,Toronto,Canada,20067)小林博,小林かおり:AdjustableSuturesの線維柱帯切除術への応用.あたらしい眼科25:1301-1305,20088)StarkWJ,GoyalRK:Combinedphacoemulsication,intra-ocularlensimplantation,andtrabeculectomywithreleasablesutures.ProceedingofCurrentConceptinOph-thalmology,Baltimore,USA,2000***

Adjustable Suturesの線維柱帯切除術への応用

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(113)13010910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):13011305,2008c〔別刷請求先〕小林博:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1-1小倉記念病院眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifune-machi,Kitakyusyu802-8555,JAPANAdjustableSuturesの線維柱帯切除術への応用小林博*1小林かおり*2*1小倉記念病院眼科*2倉敷中央病院眼科ApplicationofAdjustableSuturestoTrabeculectomyHiroshiKobayashi1)andKaoriKobayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:Adjustablesuturesを用いた線維柱帯切除術の降圧効果および安全性を検討した.方法:対象はadjustablesuturesを用いた線維柱帯切除術を施行し,12カ月以上経過観察を行った30眼である.Adjustablesuturesは,Khawらが報告した方法を用いた.強膜弁の縫合は,強膜弁の両隅を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した後,3辺を1本ずつのナイロン糸で4-0-0で仮縫合した.術後,仮縫合を結膜上から鑷子で緩めて眼圧を調節した.結果:経過観察期間は1218カ月(平均14.3±2.8カ月)であり,ベースライン眼圧は,27.9±3.0mmHgであった.手術3カ月後,6カ月,12カ月後および最終診察時の眼圧は11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHg,12.6±1.4mmHgであり,いずれの時期においても術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001).眼圧の変化は,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後では16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg,(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%),15.5±3.4mmHg(54.6±7.4%)であり,眼圧変化値および眼圧変化率は術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001).合併症としては,低眼圧1名(3%),脈絡膜離1名(3%)が認められたが,adjustablesuturesを緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかった.結語:Adjustablesuturesを用いた眼圧下降作用は,従来の手術と同等であり,特殊な機械が不要であり簡便であった.Adjustablesuturesを使用することによって,レーザー切糸術後に起こる低眼圧および浅前房を減少させる可能性があると考えられた.Tostudytheintraocularpressure-loweringeectandsafetyoftrabeculectomyusingadjustablesutures,weconductedaprospectiveclinicalstudyof30open-angleglaucomapatientshavingintraocularpressuregreaterthanorequalto22mmHg.AdjustablesutureswereusedasreportedbyKhawetal.Meanfollow-upperiodwas14.3±2.8months;meanbaselineintraocularpressurewas27.9±3.0mmHg.Meanpostoperativeintraocularpres-surewas11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHgand12.6±1.4mmHgat3,6,12monthsandnalvisit.Intraocularpressuredecreasedsignicantlycomparedwithpreoperativepressureatallvisits(p<0.0001).Meanintraocularpressurechangewas16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%)and15.5±3.4mmHg(54.6±7.4%)at3,6,12monthsandnalvisit(p<0.0001).Com-plicationsincludedhypotensionandchoroidaldetachmentinonecase(3%).Noinstancesofshallowanteriorcham-berorhypotonywerefoundafterlooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.Thehypotensiveeectoftrabeculectomywithadjustablesutureswassimilartothatofprevioustechniques.Thistechniquemayreducetheincidenceofshallowanteriorchamberandhypotonyafterthelooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):13011305,2008〕Keywords:線維柱帯切除術,adjustablesutures,レーザー切糸.trabeculectomy,adjustablesutures,lasersuturelysis.———————————————————————-Page21302あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(114)はじめに薬物治療で制御できない緑内障に対しては,一般的に線維柱帯切除術が行われている.しかし,線維柱帯切除術の合併症としては,術後早期での低眼圧,浅前房,脈絡膜離,前房出血,術後晩期での白内障の進行および濾過胞に由来する眼内炎が知られており,その頻度は決して低くない14).術後早期の合併症の多くは過剰な濾過に起因しているために,術中,強膜弁をしっかりと縫合し,術後に眼圧を調節するためにレーザーで切糸することが行われている5).今回,術中に仮縫合しておいた10-0ナイロン糸を,術後に鑷子などで緩められるadjustablesutures6)を線維柱帯切除術に用いたので検討した.I対象および方法対象は,薬物治療にかかわらず眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障30名30眼である.閉塞隅角緑内障,外傷性緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,血管新生緑内障および高血圧,糖尿病などの全身性合併症は除外した.12カ月間において,眼圧,自覚症状および他覚所見について観察した.対象患者に対してすべて,Humphrey視野検査,隅角鏡検査,共焦点レーザートモグラフを含む眼科的検査を施行した.経過観察開始後の眼圧はベースライン時±1時間に測定した.ベースライン眼圧は,経過観察前2週間ごとに3回眼圧を測定し,その平均値とした.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,その平均値を統計処理には用いた.安全性は,術中および術後の合併症の頻度によって評価した.低眼圧は,術後に眼圧が4mmHg以下に下降した場合と定義した.前房出血は,術後に前房の下方に細隙灯顕微鏡で出血が確認できた場合とした.高眼圧は,術翌日の眼圧が術前に比較して3mmHg以上上昇した場合とした.1.手術手技(図1)12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を3分間,強膜に塗布した後,250mlBSS(平衡食塩液)を用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に1mmの切開を加え,虹彩切除を施行した.外方弁を耳上端と鼻上端を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した.外強膜弁の側辺と上辺の中央を4回廻した仮縫合でしっかりと縫合した.結膜を円蓋部基底の結膜弁を作製マイトマイシンCを塗布した後,BSSにて洗浄10-0ナイロン糸を用いてwingstretchで結膜を縫合内方弁を切除後に,離Descemet膜の中央に1mmの切開ABCDEF虹彩切除Schlemm管外壁を開放し,幅2mmのDescemet膜を露出4×4mmの外方強膜弁を作製2.5×1.5mmの内方弁を作製4mm4mm2.5mm2mm外方弁を10-0ナイロン糸で2つの3-1-1縫合と3つの仮縫合を用いて閉じた1.5mm図1手術手技A:12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を3分間,強膜に塗布した後,250mlBSSを用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.B:その内側に,大きさが2.5×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.C:さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.D:内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に1mmの切開を加えた.E:その後,虹彩切除を施行した.F:外方弁を10-0ナイロン糸で2つの3-1-1縫合と3つの仮縫合を用いて閉じた.結膜を10-0ナイロン糸で37糸で縫合した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081303(115)10-0ナイロン糸で37糸で縫合した.2.術後管理手術後,すべての緑内障薬を中止し,デキサメタゾン0.1%およびレボフロキサシン0.1%を3回/日,1カ月間点眼させた.目標眼圧まで下降しない場合,仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,強膜弁の両隅の10-0ナイロン糸をアルゴンレーザーで切断した(図2).3.中止例中止例は,(1)5-フルオウラシル結膜下注射および外科的追加処置を施行した場合,(2)連続して2回の検査で,眼圧が21mmHg以上であった場合,(3)予定された診察を受けなかった場合とした.脱落・中止症例では,脱落・中止直前の診察時の眼圧を最終診察時の眼圧とした.4.統計解析連続変数の比較には,両側Studentt-検定を用いた.分割表での比較には,c2検定,Fisher検定を用いた.II結果表1に,患者の背景をまとめた.経過観察期間は1218カ月(平均14.3±2.8カ月)であった.平均年齢は70.8±8.4歳であり,男性15名(50%),女性15名(50%)であった.1.眼圧の変化ベースライン眼圧は,27.9±3.0mmHgであり,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後および最終診察時の眼圧は11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHg,12.6±1.4mmHgであり,いずれの時期においても術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001)(図3).眼圧の変化は,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後では16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%),15.5±3.4mmHgA.B.C.眼圧下降が不十分な場合仮縫合を結膜上から鑷子で緩めるアルゴンレーザーで切断レーザー鑷子図2術後処置A,B:眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合は,鑷子で結膜上から仮縫合を緩める.C:それでも不十分な場合は,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.ABC期間(月)期間(月)期間(月)眼圧(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)-80-60-40-202005101520253035-25-20-15-10-505036912036912036912図3眼圧の変化A:眼圧の推移,B:眼圧変化値の推移,C:眼圧変化率の推移.表1患者の背景患者数30名男性女性15名(50%)15名(50%)年齢70.8±8.4歳(4283歳)視力0.361(0.021.0)Humphrey視野測定(Meandeviation)16.14±6.76dB(4.8829.35dB)陥凹面積/乳頭面積比0.648±0.170(0.3960.888)眼圧27.9±3.0mmHg(2334mmHg)経過観察期14.3±2.8カ月(1218カ月)表2術前および最終診察時の眼圧の比較術前眼圧27.9±3.0mmHg(2334mmHg)薬剤数3.3±0.8(24)最終診察時眼圧12.4±2.7(817)薬剤数0.07±0.25(01)無投薬で≦20mmHg29(97%)投薬(+/)で≦20mmHg30(100%)無投薬で≦16mmHg27(90%)———————————————————————-Page41304あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(116)(54.6±7.4%)であった(p<0.0001)(図3).手術12カ月後において,無治療で眼圧が20mmHg以下である症例数は29名(97%)であり,無治療で眼圧が16mmHg以下である症例数は27名(90%)であった(表2,図4).2.術後処置と合併症Adjustablesuturesを鑷子あるいは綿棒で緩める操作は16名(53%)に対して施行し,レーザー切糸術は5名(17%),ニードリングは1名(3%)に施行した.5-フルオロウラシル注射は行っていない.術後合併症として,低眼圧1名(3%),脈絡膜離1名(3%)が認められたが,これは術直後からみられたものであり,adjustablesuturesを緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかった(表3).III考按強膜弁の縫合にadjustablesutureを用いた線維柱帯切除術は,従来のレーザー切糸を使用した線維柱帯切除術とほぼ同様な眼圧下降効果が得られた7,8).そのうえ,低眼圧および脈絡膜離の発症頻度が3%であり,過剰な濾過による合併症が従来のレーザー切糸を用いた線維柱帯切除術の報告に比較して有意に低いことがあげられる9,10).従来,術後早期の眼圧調整には,レーザー切糸術6)や鑷子などで糸を抜くreleasablesutures11)で行われてきたが,糸を切ったり抜いたりするとその糸が弁を抑える力がなくなり,その処置直後に浅前房あるいは低眼圧をきたす危険性があったのに対して,adjustablesuturesでは糸を緩めることで糸が弁を抑える加減を調整でき,浅前房を起こしにくいことが特徴である.そのため,レーザー切糸術では,切る糸の本数で眼圧を調整するために7本かけていたのに,糸が弁を抑える力を調整できるためにかける糸の本数を減少させることができるようになった.レーザー切糸術では,低熱量のレーザーとはいえ,結膜,Tenon,強膜に熱傷が起こり,炎症が起こることは否めない.それによって,‘ringofsteel’などの結膜瘢痕化が生じる可能性があると考えられ,adjustablesutureではレーザーによる熱作用を減らすことができると思われた12).元来,Khawらが報告した際には10-0ナイロン糸を緩める際には,特殊な鑷子が用いられていたが,基本的はに無鉤鑷子であればよく,綿棒でも代用できた6).眼球マッサージでも糸を緩めることができるので,マッサージしながら糸を緩めて眼圧を調整することも可能であった.術中手技も簡単であり,今後,レーザー切糸術の代用になるものと考えられた.今回,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術の降圧作用は,報告されているレーザー切糸術を使用した線維柱帯切除術の成績に比較して同様であり,合併症に関しては低眼圧が低率であった.さらにadjustablesutureとレーザー切糸術を直接比較する必要があると考えられた.文献1)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,20002)PoulsenEJ,AllinghamRR:Characteristicsandriskfac-torsofinfectionsafterglaucomalteringsurgery.JGlau-coma9:438-443,20003)DeBryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.ArchOphthalmol120:297-300,20024)RothmanRF,Liebmann,RitchR:Low-dose5-uorouraciltrabeculectomyasinitialsurgeryinuncomplicatedglauco-ma:long-termfollow-up.Ophthalmology107:1184-1190,20005)SavegeJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19886)KhawPT:Improvementintrabeculectomyandtech-niquesofantimetabolitesusetopreventscarring.Pro-ceedingof3rdInternationalCongressonGlaucomaSur-gery,2006,Toronto,Canada7)原岳,白土城照,宮田典夫ほか:マイトマイシンCを用いた初回線維柱帯切除術.日眼会誌99:1283-1287,表3合併症の頻度低眼圧1(3%)浅前房0(0%)脈絡膜離1(3%)高眼圧3(10%)前房出血0(0%)虹彩前癒着0(0%)虹彩後癒着0(0%)濾過胞の平坦化1(3%)白内障0(0%)濾過胞炎/眼内炎0(0%)A.B.期間(月)期間(月)眼圧≦20mmHg眼圧≦16mmHg確率00.20.40.60.8103691200.20.40.60.81036912図4無治療での20mmHg以下(A)および16mmHg以下(B)の確率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081305(117)19958)堀暢英,山本哲也,北澤克明:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績─眼圧コントロールと視機能─.眼科手術12:15-19,19999)KapetanskyFM:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.JGlaucoma12:316-320,200310)RalliM,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:OutcomesoflasersuturelysisafterinitialtrabeculectomywithadjunctivemitomycinC.JGlaucoma15:60-67,200611)StarkWJ,GoyalRK:Combinedphacoemulsication,intra-ocularlensimplantation,andtrabeculectomywithreleasablesutures.ProceedingofCurrentConceptinOph-thalmology,9-11/12/2000,Baltimore,Maryland12)L’EsperanceFA:Theocularhistopathologiceectofkryptonandargonlaserradiation.AmJOphthalmol68:263-273,1969***

緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(127)10310910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(7):10311034,2008cはじめに小切開で行う超音波水晶体乳化吸引術と折りたたみ式眼内レンズ(PEA+IOL)の普及で白内障手術の安全性は飛躍的に高まった.このことを背景として,開放隅角緑内障に対しても白内障手術が積極的に行われるようになっている.緑内障手術既往のない症例では白内障術後に眼圧は下降し,緑内障点眼薬数も減少すると報告されることが多い14).一方で線維柱帯切除術の既往のある症例ではさまざまな報告がなされており,眼圧コントロール不良になることがある5,6),長期的にみても眼圧に悪影響を及ぼさない7,8)など意見が一致しない.そこで今回,開放隅角緑内障眼にPEA+IOLを行ったときの眼圧および併用緑内障点眼薬数の変動を調べ,線維柱帯切除術既往が及ぼす影響について検討した.I対象および方法2004年11月から2007年6月に広島大学病院眼科にて白内障手術を施行した原発開放隅角緑内障患者34例34眼(男性22例,女性12例)を対象とし,別に白内障以外に眼疾患〔別刷請求先〕原田陽介:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:YosukeHarada,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響原田陽介*1望月英毅*2高松倫也*2木内良明*2*1県立広島病院眼科*2広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EectonIntraocularPressureafterPhacoemulsicationinGlaucomatousEyesYosukeHarada1),HidekiMochizuki2),MichiyaTakamatsu2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaPrefecturalHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity緑内障眼に対する白内障術後早期の眼圧について手術既往のない開放隅角緑内障22眼と線維柱帯切除術を受けている12眼で手術前および術後2カ月の時点での眼圧,点眼薬数について検討した.眼圧は手術既往のない群では術前14.37±3.01mmHgから術後13.22±3.45mmHgへ,線維柱帯切除術既往群では12.61±2.86mmHgから11.41±2.64mmHgへ低下した.緑内障点眼数は手術既往のないものでは1.66±1.01剤から1.00±0.94剤へ,線維柱帯切除術既往群は1.08±1.51剤から0.33±0.15剤へとともに術前に比べて減少した.しかし,線維柱帯切除術を受けている症例では1例が術後眼圧コントロール不良に,1例が濾過胞の機能不全となり,線維柱帯切除術や濾過胞再建術を施行されている.緑内障眼に白内障手術を行った場合,手術既往のない緑内障眼では術後眼圧は下降する傾向を認めたが,濾過胞を有する症例には細心の注意が必要である.Cataractsurgerywasperformedon34eyeswithopen-angleglaucoma,comprising22eyeswithnohistoryofsurgery(phaco-onlygroup)and12eyesthathadundergonelteringsurgery(trabeculectomygroup).Preopera-tiveintraocularpressure(IOP)was14.37±3.01mmHginthephaco-onlygroupand12.61±2.86mmHginthetra-beculectomygroup,whichdecreasedto13.22±3.45mmHgand11.41±2.64mmHgintwomonthsaftersurgery,respectively.Meannumberoftopicalmedicationsalsodecreased,from1.66±1.01to1.00±0.94inthephaco-onlygroupandfrom1.08±1.51to0.33±0.15inthetrabeculectomygroup.However,2outof12eyesinthetrabeculec-tomygroupunderwentadditionallteringsurgeryaftercataractsurgeryduetolossofIOPcontrolorreducedblebfunction.Theseresultsindicatethatineyeswithoutpreviouslteringsurgery,cataractsurgeryisbenecialforIOPcontrol,butthatinsomeeyeswithpreviouslteringsurgeryitmayjeopardizetheeect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10311034,2008〕Keywords:白内障手術,開放隅角緑内障,術後眼圧,線維柱帯切除術,一過性眼圧上昇.cataractsurgery,open-angleglaucoma,postoperativeintraocularpressure(IOP),trabeculectomy,transientIOPelevation.———————————————————————-Page21032あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(128)±2.90mmHg(p=0.014)といずれの群においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(表1).一過性眼圧上昇の有無を検討したところ,対照群では32眼中1眼のみであったのに対し,緑内障眼では手術既往のないものは22眼中7眼,線維柱帯切除術既往のあるものは12眼中5眼とともに対照群と比較して有意に一過性眼圧上昇をきたしやすいことが明らかになった(手術既往なし:p=0.004,線維柱帯切除術既往:p=0.001)(図1).緑内障眼においては一過性眼圧上昇の有無で年齢,術前眼圧,術前併用点眼薬数,術前MD値について検討したが,手術既往の有無にかかわらずこれらの因子との間には明らかな相関関係は指摘できなかった.2.併用緑内障点眼薬数の変化手術既往のない群では術前は平均1.66±1.01剤であった併用点眼薬数は術後2カ月の時点で1.00±0.94剤と有意に減少していた(p=0.014).一方,線維柱帯切除術既往のある症例では術前1.08±1.51剤が術後2カ月で0.33±0.15剤と減少傾向があるものの有意差はなかった(p=0.109)(表2).3.緑内障再手術が必要になった症例線維柱帯切除術の既往がある12眼のうち2眼は濾過手術が追加された.緑内障再手術に至る経緯としては,1眼では術前眼圧16mmHgから術後1日より30mmHgを超える眼圧上昇が続き,濾過胞の機能不全もきたしたため白内障手術後4日目に線維柱帯切除術を施行した.もう1眼は術後の急激な眼圧上昇はなかったが,術後1カ月より濾過胞機能不全となり,その後も改善が認められなかったため,白内障術後のない32例32眼の成績と比較した.緑内障患者において両眼白内障手術を施行された症例については,視野障害の進行した眼側を対象とした.症例の内訳は,手術既往のないものが22眼,線維柱帯切除術の既往があり,濾過胞のあるものが12眼である.対象には正常眼圧緑内障4眼(手術既往なし3眼,線維柱帯切除既往あり1眼)も含まれている.手術既往のない症例では強角膜切開で,濾過胞を有する症例では耳側角膜切開で白内障手術を行い折りたたみレンズを内に挿入した.全例とも白内障手術は問題なく行われ,術中に後破損,硝子体脱出などの合併症を生じた症例は対象から除外した.線維柱帯切除術は全例鼻上側または耳上側で施行している.各症例の手術前後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.術前眼圧は手術前の別の日に測定した2回の眼圧の平均とし,術後は術翌日から退院時までと術後1カ月,2カ月の眼圧を調べた.また,術後退院までに眼圧が30mmHg以上になったとき,術前と比べて5mmHg以上の眼圧が上昇したときを術後一過性眼圧上昇と定義し,緑内障群と対照群でその頻度を比較した.緑内障群では一過性眼圧上昇をきたした症例に共通の特徴があるか調べるために年齢,術前眼圧,術前点眼薬数,術前MD(平均偏差)値について検討した.結果は平均±標準偏差で表記し,術前後の眼圧変化はpaired-t検定,点眼数の変化はWilcoxonsigned-rankedtestを用い,p<0.05を有意差ありとした.緑内障群と対照群における術後一過性眼圧上昇をきたす頻度の比較はMann-WhitneyUtestを用い,Bonferroniの補正を行って,p<0.025を有意差ありとした.II結果1.眼圧の経過白内障手術前眼圧は緑内障手術の既往のない緑内障眼22眼では14.37±3.01mmHgであり,線維柱帯切除術を受けている12眼では12.61±2.86mmHgであった.白内障以外に眼疾患のない対照群の術前平均眼圧は14.23±3.17mmHgであった.白内障手術後2カ月の時点の眼圧は緑内障手術既往のないものは13.22±3.45mmHg(p=0.040),線維柱帯切除術の既往症例は11.41±2.64mmHg(p=0.031),対照群では12.47表1術前後の眼圧変化n術前眼圧(Mean±SDmmHg)術後眼圧(2カ月)(Mean±SDmmHg)対照群3214.23±3.1712.51±2.90(p=0.002)手術既往なし2214.37±3.0113.22±3.45(p=0.040)TLE既往1212.61±2.8611.41±2.64(p=0.031)手術既往なし:手術既往のない緑内障眼,TLE既往:線維柱帯切除術既往のある緑内障眼.(Pairedt-test)表2術前後の緑内障点眼薬数の変化術前,剤数(Mean±SD)術後(2カ月),剤数(Mean±SD)手術既往なし1.66±1.011.00±0.94(p=0.014)TLE既往1.08±1.510.33±0.15(p=0.109)Wilcoxonsingle-ranktest.図1術後早期における一過性眼圧上昇TLE既往(眼)Mann-WhitneyUtest手術既往なし対照群———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081033(129)の眼圧上昇は術後1カ月の時点で全例改善しているのに対し,手術既往のある1症例は術後早期の眼圧上昇が持続したため緑内障再手術に至っている.白内障術後の眼圧上昇のピークは術後46時間後に起こるとの報告もあり13),術後当日に眼圧測定し早期の対応ができるようにするなど注意が必要である.以上より,緑内障眼に対して白内障手術を行った症例を検討した結果,手術既往のない群では術後早期の一過性眼圧上昇はきたしやすいものの,術後2カ月の時点では点眼数が減少した状態で術前に比べ眼圧下降が得られた.一方,線維柱帯切除術既往例では手術既往のない群と同様に眼圧下降効果は認めるも,症例数は少ないが2/12の確率で術後に眼圧コントロール不良,濾過胞機能不全による緑内障再手術が必要となっている.したがって,患者へリスクの説明を十分行い,手術中には水晶体残渣や粘弾性物質を取り除くべく前房灌流を十分行い,術後は眼圧変動,濾過胞の状態に注意することが必要と考える.文献1)MonicaLM,ZimmermanTJ,McMahanLB:Implantationofposteriorchamberlensesinglaucomapatients.AnnOphthalmol109:9-10,19852)PohjalainenT,VestiE,UnsitaloRetal:Phacoemulsica-tionandintraocularlensimplantationineyeswithopen-angleglaucoma.ActaOphthalmolScand79:313-316,20013)尾島知成,田辺昌代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発性開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障の術後経過.臨眼59:1993-1997,20054)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発性開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19965)CassonR,RahmanR,SalmonJF:Phacoemulsicationwithintraocularlensimplantationaftertrabeculectomy.JGlaucoma11:429-433,20026)EhrnroothP,LehtoI,PuskaPetal:Phacoemulsicationintrabecutomizedeyes.ActaOphthalmolScand83:561-565,20057)ParkHJ,KwonYH,WeitzmanMetal:Temporalcornealphacoemulsicationinpatientswithlteredglaucoma.4カ月で濾過胞再建術を行った(表3).III考按今回筆者らは開放隅角緑内障眼に白内障手術を行った後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.その結果,線維柱帯切除術の既往のない群では,白内障術後2カ月の時点では術前と比べて眼圧は下降し,必要とされる緑内障点眼薬数も減少して,過去の報告14)と矛盾しないものであった.眼圧が下降する機序としては,①手術による房水産生量の低下,②血液房水関門の変化,③手術操作による線維柱帯からの房水排泄効率の上昇,④白内障手術により前房が深くなるためなどの仮説がある912)が詳細は不明である.線維柱帯切除術既往のある群では,眼圧は手術既往のないものと同様に下降していた.しかし点眼数については,減少効果はあるものの有意差はなかった.これは症例数が限られていたことも要因となっているであろう.手術既往群では12眼中2眼で緑内障再手術が必要となっていることは注目に値する.手術既往のある症例に対する白内障手術の眼圧への影響は1年以上経過を追っている文献でも,眼圧上昇傾向を示すもの5)もあれば逆に眼圧に悪影響を及ぼさないとの報告7,8)もあり意見は分かれている.白内障手術後1年間経過観察したParkらの報告によると,白内障術後3カ月以降は術前眼圧とほぼ同等になっているが,白内障術後1カ月までは眼圧は変動し術前に比べ高眼圧の傾向にある7).われわれもひき続き長期的に眼圧の変動を観察し過去の報告との比較検討が必要である.しかし,白内障手術により血液房水関門が破綻し,炎症メディエーターが前房中に放出されることで,強膜弁の瘢痕形成と周辺結膜の癒着が起こり,濾過胞の機能不全に陥る可能性は十分考えられる.したがって,手術既往のある症例に対する白内障手術は術後早期に緑内障再手術の危険性を伴うことを念頭に置く必要がある.術後の一過性眼圧上昇は対照群に比べ,手術既往の有無にかかわらず,緑内障眼で高頻度に起こった.術後の一過性眼圧上昇をきたす機序としては,①血液房水関門の破綻,②線維柱帯の浮腫や屈曲による流出障害,③水晶体残渣による流出抵抗の増大,④房水蛋白の増加,⑤粘弾性物質の残留などが考えられている13).また,手術既往のない緑内障群ではこ表3術後眼圧上昇をきたした2例過去の緑内障手術の回数術前眼圧(mmHg)一過性眼圧上昇経過症例1(77歳,男性)2線維柱帯切除術1濾過胞再建116+眼圧上昇のため術後4日目に線維柱帯切除術施行症例2(80歳,女性)1線維柱帯切除術114.7眼圧上昇,濾過胞限局化のため術後4カ月で濾過胞再建施行———————————————————————-Page41034あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008ArchOphthalmol115:1375-1380,19978)MietzH,AndersenA,WelsandtGetal:Eectofcata-ractsurgeryonintraocularpressureineyeswithprevi-oustrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol239:763-769,20019)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.TransAmAcadOphthalmolOtolar-yngol75:260-272,197110)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Evtracapsularcata-ractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198711)MeyreMA,SavittML,KopitasE:Theeectofphaco-emulsicationonaqueousoutowfacility.Ophthalology104:1221-1227,199712)SteuhlKP,MarahrensP,FrohnCetal:Intraocularpres-sureandanteriorchamberdepthbeforeandafterextra-capsurecataractextractionwithposteriorchamberlensimplantation.OphthalmicSurg23:233-237,199213)大西健夫,小池昇,浅野徹ほか:白内障術後24時間における瞳孔径・眼圧・角膜乱視の経時的変化.あたらしい眼科10:835-839,1993(130)***

増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対する手術成績

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(113)10170910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10171021,2008cはじめに血管新生緑内障は眼内虚血を主体とする難治性疾患であり,その治療の基本は眼底最周辺部に至るまでの汎網膜光凝固の完成である.しかしながら,散瞳不良や高度の角膜浮腫の症例,硝子体出血を伴った症例など,必ずしもすべての症例に汎網膜光凝固が十分に施行できるわけではない.また,すでに隅角に周辺虹彩前癒着(PAS)を生じた症例では汎網膜光凝固を密に行っても眼圧コントロールが不良な症例も少なくない.従来より,そのような症例に対してはマイトマイシンC併用線維柱帯切除術やcyclophotocoagulationabexterno(臼井法),毛様体破壊術などさまざまな治療が試みられ,ある程度の治療効果をあげているが,いまだ眼球癆に至る例は少なくない14).最近では眼内光凝固を併用した硝子体手術による治療効果が報告されているが,重症の症例では十分な効果が得られないことも多い59).筆者らはこれまでに増殖糖尿病網膜症に伴った血管新生緑内障に対して,眼内光凝固を併用した硝子体手術と組み合わせて,線維柱帯切除術か網膜切除術もしくはその両者を併用する治療を行ってきた.今回,福岡大学病院眼科(以下,当科)における増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対する手術成績につい〔別刷請求先〕尾崎弘明:〒814-0180福岡市城南区七隈7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HiroakiOzaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversity,SchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jyonan-ku,Fukuoka814-0180,JAPAN増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対する手術成績尾崎弘明*1ファンジェーン*1近藤寛之*1大島健司*2内尾英一*1*1福岡大学医学部眼科学教室*2村上華林堂病院眼科OutcomeofSurgicalTreatmentforDiabeticNeovascularGlaucomaHiroakiOzaki1),HuangJane1),HiroyukiKondo1),KenjiOshima2)andEiichiUchio1)1)DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversity,SchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MurakamikarindoHospital目的:増殖糖尿病網膜症(PDR)に伴った血管新生緑内障の手術成績について報告する.対象および方法:汎網膜光凝固が困難もしくは施行後も眼圧コントロールが不良であった血管新生緑内障のうち,術後1年以上経過観察のできた47例56眼.平均年齢は52.2歳,平均経過観察期間は3年2カ月.全例,初回手術として硝子体手術を行い,隅角が閉塞した症例には網膜切除術を併用,その後,必要に応じて線維柱帯切除術を行った.手術回数は平均2.3回であった.結果:術前平均眼圧は33.8±13.4mmHgで,最終受診時の平均眼圧は12.3±5.8mmHg.視力予後は改善が18眼(32.1%),不変が21眼(37.5%),悪化が17眼(30.4%).最終視力は0.7以上が10眼(17.9%),0.10.6が17眼(30.4%),0.010.09が11眼(19.6%),光覚指数弁が8眼(14.3%),光覚なしが10眼(17.9%)であった.結論:硝子体手術,線維柱帯切除術を組み合わせた治療にて隅角が閉塞している症例でも長期に視機能を保つことができた.Wereportthetreatmentoutcomeforneovascularglaucoma(NVG)associatedwithproliferativediabeticreti-nopathy(PDR)atFukuokaUniversityHospital.Selectedforthisstudywere56eyeswithNVG:averageagewas52.2years;averagefollowuptimewas38months.Allcasesunderwentvitrectomyasinitialsurgery.Thoseeyeswithuncontrollableintraocularpressureuponextensiveretinalphotocoagulation,trabeculectomyand/orvitrecto-mywerecandidatesforretinectomy.Therewereanaverageof2.3surgicalinterventions.Intraocularpressurewasreducedfrom33.8±13.4mmHgto12.3±5.8mmHg.Visualacuityof0.7orbetterwasachievedin10eyes(17.9%),0.10.6in18eyes(32.1%),0.010.09in11eyes(19.6%),ngercountingtolightperceptionin8eyes(14.3%),andnolightperceptionin10eyes(17.9%).Wehaveperformedvitrectomy,trabeculectomy,orcombinedretinec-tomyforNVGwithPDR.ThevisionwasalsopreservedinNVGpatientswithangleclosed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10171021,2008〕Keywords:血管新生緑内障,硝子体手術,線維柱帯切除術,網膜切除術,手術成績.neovascularglaucoma,vit-rectomy,trabeculectomy,retinectomy,surgicaloutcomes.———————————————————————-Page21018あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(114)は有水晶体眼が39眼(69.6%),偽水晶体眼は7眼(12.5%),無水晶体眼は10眼(17.9%)であった.術前に増殖組織による牽引性網膜離を伴っていた症例は11眼(19.6%),硝子体出血は13眼(23.2%)に認められた.増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の術後に血管新生緑内障を発症した症例は9眼(16.2%)であった.初診時に汎網膜光凝固による治療が可能であった症例に対しては最周辺部に至るまで徹底的に行った.眼圧下降が得られなかった症例,角膜混濁や散瞳不良のために網膜光凝固が完成できなかった症例,硝子体出血や牽引性網膜離を伴った症例を今回の対象とした.当科における血管新生緑内障の各病期に対する手術治療の方針を表3に示す.隅角が閉塞していない1期と2期の症例に対しては水晶体切除および眼内光凝固を併用した硝子体手術を行った.有水晶体眼は全例に経毛様体扁平部水晶体切除術を施行した.偽水晶体眼では開放隅角(2期)であった3眼は眼内レンズを温存したが,閉塞隅角を生じていた3期の4眼は硝子体手術の際に眼内レンズを摘出した.硝子体手術時に施行した眼内光凝固数は平均約1,000発であった.術前検査で隅角が広範囲に閉塞していた3期の症例に対しては,水晶体切除(もしくは眼内レンズ摘出),眼内光凝固を併用した硝子体手術の際に網膜切除術を併用した1113).網膜切除の手技は既報に従って行った.範囲は網膜の下方および側方の2象限に2乳頭径の幅で施行した(図1).術中,切除予定の網膜の範囲に過剰のレーザー光凝固を行い,切除予定の網膜はソフトチップのバックフラッシュニードルにて軽くこすって除去した.その後,経過中に眼圧のコントロールが不良な症例にはマイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術を随時行った.術前の眼圧を4群に分類し,視力予後との関連を検討して報告する.I対象および方法対象は2000年1月から2005年10月までに当科にて加療され,術後1年以上経過観察することができた増殖糖尿病網膜症に関連する血管新生緑内障47例56眼.男性31例,女性16例.年齢は2674歳(平均52.2歳),経過観察期間は1270カ月で平均37.9カ月であった.血管新生緑内障の病期分類は臼井による分類を用いた10).1期は新生血管が瞳孔縁と隅角に出現するが,眼圧は正常域.2期は新生血管が虹彩表面に広がり,隅角が線維血管膜に覆われ,眼圧が上昇.3期では線維血管膜の収縮に伴い虹彩前癒着を生じる.今回の対象の術前の病期分類では1期の症例が4眼(7.1%),2期が17眼(30.4%),3期が35眼(62.5%)であった(表1).3期の症例でPASindexが50%未満のものが17眼(30.4%),50%以上の症例が18眼(32.1%),そのうちの11眼(19.6%)がほぼ全周閉塞の状態であった.術前の水晶体の状態および眼底の背景を表2に示した.水晶体図1網膜切除術のシェーマ矢印で示す網膜切除の部位より眼内の水が脈絡膜側へ移行する.表1当科初診時の病期分類1期(開放隅角,眼圧正常)4眼(7.1%)2期(開放隅角,高眼圧)17眼(30.4%)3期(閉塞隅角)35眼(62.5%)PASindex50%未満17眼PASindex50%以上18眼(11眼はほぼ全周閉塞)表2術前の状況有水晶体眼39眼(69.6%)水晶体温存0眼経毛様体扁平部水晶体切除39眼偽水晶体眼7眼(12.5%)眼内レンズ温存3眼眼内レンズ摘出4眼無水晶体眼10眼(17.9%)網膜離11眼(19.6%)硝子体出血13眼(23.2%)硝子体術後眼9眼(16.1%)表3各病期に対する治療方針病期治療1期1)硝子体手術(水晶体切除を含む),汎網膜光凝固2期2)硝子体手術(水晶体切除を含む),汎網膜光凝固+線維柱帯切除手術3期3)硝子体手術(水晶体切除を含む),汎網膜光凝固,網膜切除術4)硝子体手術(水晶体切除を含む),汎網膜光凝固,網膜切除術+線維柱帯切除手術———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081019(115)った1期の4眼は全例最終視力が0.3以上と良好であった.術前高眼圧であった症例を2129mmHg(17眼),3039mmHg(17眼),40mmHg以上(18眼)3群に分類し,視力予後を検討した.その結果,3群間に有意差は認められず,術前眼圧のレベルと最終視力予後には相関はみられなかった(表6).また,各病期別の視力予後を検討した.1期は2期,3期に比較して有意に良好であった(p<0.05)が,2期および3期のPASindex50%未満の群とPASindex50%以上の群では3群間に視力予後に有意差は認められなかった(表7).4.手術と術後合併症手術回数は1回から6回で平均2.3回であった.表3に示す治療方針のうち,硝子体手術+汎網膜光凝固を行った症例が25眼(42.8%),硝子体手術+汎網膜光凝固に加え,後に線維柱帯切除術を施行したものが5眼(8.9%),進行した3た.また,各症例の病期,すなわち隅角の状態を分類し,最終視力予後との関連を検討した.2群間の統計学的検討にはFisher直接確率法を用いた.II結果1.術前眼圧と術後眼圧術前の眼圧は20mmHg以下が4眼(3.6%),2129mmHgが17眼(30.3%),3039mmHgが18眼(32.1%),40mmHg以上が17眼(30.3%)であった.平均眼圧は33.8±13.4mmHgであった.最終受診時の眼圧は全例21mmHg未満であり,平均眼圧は12.3±5.8mmHgであった.各病期別の術前眼圧と最終眼圧を表4に示す.術前眼圧は1期では平均15.3±1.5mmHg,2期は30.1±11.8mmHg,3期は37.9±12.6mmHgであり,病期が進行するに伴って統計学的に有意に高眼圧を呈していた(p<0.05).術後の最終眼圧は,1期では平均13.3±2.0mmHg,2期は12.6±5.8mmHg,3期は11.7±5.6mmHgとすべての病期において下降していた.2.術前視力と術後視力術前視力は0.7以上が1眼(1.8%),0.10.6が26眼(46.4%),0.010.09が16眼(28.6%),光覚弁指数弁が13眼(23.2%),光覚なしは0眼(0%)であった(表4).視力予後は2段階以上の改善が18眼(32.1%),不変が21眼(37.5%),2段階以上の悪化が17眼(30.4%)であった.最終視力は0.7以上が10眼(16.1%),0.10.6が17眼(30.4%),0.010.09が11眼(19.6%),光覚弁指数弁が8眼(14.3%),最終的に光覚なしに至ったものが10眼(17.9%)であった(表5).3.眼圧および各病期と視力予後術前眼圧と視力予後を表6に示した.術前眼圧が正常であ表4術前後の平均眼圧術前術後全症例33.8±13.4mmHg12.3±5.8mmHg病期1期15.3±1.5mmHg13.3±2.0mmHg2期30.1±11.8mmHg12.6±5.8mmHg3期37.9±12.6mmHg11.7±5.6mmHg表5術後視力成績視力術前術後0.7以上1眼(1.7%)10眼(17.9%)0.10.626眼(46.4%)17眼(30.4%)0.010.0916眼(28.6%)11眼(19.6%)光覚弁指数弁13眼(23.2%)8眼(14.3%)光覚なし0眼(0.0%)10眼(17.9%)表6術前眼圧と視力予後術後視力術前眼圧21mmHg未満(4眼)2129mmHg(17眼)3039mmHg(18眼)40mmHg以上(17眼)0.1以上4眼10眼9眼4眼光覚弁0.090眼3眼6眼10眼光覚なし0眼4眼3眼3眼表7各病期と視力予後術後視力1期(4眼)2期(17眼)3期(35眼)PASindex50%未満PASindex50%以上0.1以上4眼9眼9眼5眼光覚弁0.090眼5眼5眼9眼光覚なし0眼3眼3眼4眼表8術後合併症早期合併症晩期合併症フィブリン反応11眼(19.6%)高眼圧12眼(21.4%)前房出血10眼(17.9%)眼球癆10眼(17.9%)硝子体出血4眼(7.1%)膜形成8眼(14.3%)網膜離4眼(7.1%)———————————————————————-Page41020あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(116)の視野への影響も防ぐようにしている.本手技はバイパスを持続させることが困難な若い年齢の症例や,強膜輪状締結術などの術後で結膜瘢痕の強い症例には良い適応と考えられる.しかしながら,硝子体手術に網膜切除術を併用した26眼のうち,8眼(30.7%)は術後の眼圧コントロールが不良であったため,後日,マイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術を行った.また,初回手術として硝子体手術と汎網膜光凝固のみを行った30眼のなかでも5眼(16.7%)に線維柱帯切除術を施行した.二期的に線維柱帯切除術を行う場合は,硝子体手術と汎網膜光凝固により,虹彩の新生血管が消退し,瘢痕化しているために線維柱帯切除術の際の出血などの合併症を最小限に抑えることができる9,11).松村らは増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障において,術前の隅角検査でPASindexが25%未満であれば,術前に高眼圧であっても硝子体手術により眼圧コントロールが良好であり,PASindexが25%以上あれば眼圧コントロールが不良と報告している5).今回の筆者らの検討では,術前眼圧が正常であった1期の症例は予後良好であったが,高眼圧となった症例では術前眼圧と視力予後には相関は認められなかった.隅角閉塞を生じた3期の症例においても35眼中14眼(40%)が0.1以上の視力を得ることができ,2期の症例と比較して視力予後に差を認めなかった.また,術前の隅角のPASindexと視力予後の間にも明らかな相関は認められなかった.筆者らが検討した56眼ではPASindexが100%の症例も11眼あり,たとえ隅角が閉塞していても網膜切除術を併用することにより開放隅角の症例群とほぼ同様の成績を得ることにつながったと思われる.血管新生緑内障の治療成績は一般的に不良であり,硝子体手術に濾過手術を追加した場合は,5869%で眼圧コントロールされ,3850%で術後に0.1以上の視力が得られたと報告されている79).最近,向野らは増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障39眼において硝子体手術と毛様体扁平部濾過手術または線維柱帯切除術を行い,平均4年4カ月の経過観察で34眼(87%)において視機能が維持でき,良好な長期成績が得られたと報告している18).症例の背景は異なるが,本報告でも平均3年2カ月の経過観察期間で最終的に56眼のうち46眼(82.1%)に視機能を維持することができ,ほぼ同様の成績であった.しかしながら,たとえ術後に眼圧が下降しても最終的に視機能が改善しない症例も少なくない.筆者らの症例では,10眼(17.9%)は術後に低眼圧となったが,最終的に前部硝子体線維血管増殖や再増殖ならびにhemophthalmosを生じて光覚なしとなった.糖尿病網膜症における血管新生は虚血網膜から放出される血管新生促進因子であるvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)が中心的な原因物質であることが知られている2123).最近では,その阻害薬が加齢黄斑変性症や糖尿病黄斑浮腫な期の症例で硝子体手術+汎網膜光凝固の際,網膜切除術を施行したものが18眼(32.1%),さらに硝子体手術+汎網膜光凝固+網膜切除術の後,線維柱帯切除術を後日に追加して行ったものが8眼(14.3%)であった.硝子体手術から線維柱帯切除術を行うまでの期間は1カ月から36カ月までで,平均5.6カ月であった.術後合併症を表8に示す.早期合併症としては,フィブリン反応が11眼(19.6%)と最も多く,すべて一過性で消失した.他に前房出血が10眼(17.8%),硝子体出血が4眼(7.1%)に認められた.晩期の合併症としては高眼圧により線維柱帯切除術を施行したものが12眼(21.4%)であり,眼球癆が10眼(17.9%),膜形成が8眼(14.2%),網膜離が4眼(7.1%)であった.III考按血管新生緑内障の治療は汎網膜光凝固を徹底的に行うことにより,虚血網膜を改善させ,虹彩ルベオーシス消退させることが重要である.しかしながら,硝子体出血,牽引性網膜離,角膜混濁,散瞳不良のために汎網膜光凝固を完成させることができなかった症例に対しては積極的な硝子体手術適応があると考えられる.硝子体手術により,眼内液中に高濃度に貯留している血管新生促進因子を排出することができ,さらに増殖の基盤となる後部硝子体膜の除去ができるとともに,周辺部の硝子体の徹底的な郭清と最周辺部までの眼内光凝固を確実に行うことができる.しかし,隅角閉塞が生じた血管新生緑内障では緑内障手術を併用しなければ十分な眼圧下降を得られないことが多い5,1417).筆者らは表2に示すように,それぞれの症例の病期に応じて,硝子体手術と他の手術手技とを組み合わせた治療を行っている.隅角が高度に閉塞した3期の症例および活動性の高い虹彩血管新生が広範囲に認められた症例に対して,筆者らは硝子体手術の際に網膜切除を併用した.網膜切除術による眼圧下降の機序は,巨大裂孔の裂孔原性網膜離の際に著明な眼圧低下がみられるように,網膜切除部を通じて眼内の水が脈絡膜へと移行していくと考えられる.Negiらは過去に動物実験においてその機序を報告している19,20).Kirchhofらは難治性の緑内障に対して網膜切除術を9眼に施行し,後にその長期成績についても報告している21,22).その結果,種々の緑内障44眼に施行し,52%の眼圧下降成功率であった.血管新生緑内障は44眼中の12眼で,そのなかで2眼のみに眼圧コントロールと視機能の維持ができたと報告している.今回筆者らは26眼に網膜切除術を併用し,そのうち18眼では線維柱帯切除術を追加施行せずに最終的に15眼に視機能の維持と眼圧コントロールが得られた.Kirchhofらの方法に比べ,筆者らはより広範囲に網膜を切除していることが良好な成績につながったと考えられる.また,術前に視野を確認し,視野欠損の部分に相当する網膜を切除することで,術後———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081021(117)10)臼井正彦:血管新生緑内障.眼科診療プラクティス10:182-185,199411)大島健司:血管新生緑内障.眼科診療プラクティス88:104-109,200212)KirchhofB:Retinectomylowersintraocularpressureinotherwiseintractableglaucoma:preliminaryresults.Oph-thalmicSurg25:262-267,199413)JoussenAM,WalterP,Jonescu-CuypersCPetal:Retinectomyfortreatmentofintractableglaucoma:longtermresults.BrJOphthalmol87:1094-1102,200314)松山茂生,三嶋弘,野間英孝ほか:血管新生緑内障に対する硝子体手術併用毛様体扁平部濾過手術.眼科手術13:149-152,200015)木内良明,中江一人,杉本麗子ほか:血管新生緑内障を伴う増殖糖尿病網膜症に対する線維柱帯切除,硝子体同時手術.眼科手術13:75-79,200016)井上吐州,小沢忠彦,谷口重雄ほか:血管新生緑内障に対する硝子体手術と濾過手術の併用療法.眼臨95:1185-1187,200117)KonoT,ShigaS,TakesueYetal:Long-termresultsofparsplanavitrectomycombinedwithlteringsurgeryforneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasersImaging36:211-216,200518)向野利寛,武末佳子,山中時子ほか:増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障の治療成績.臨眼61:1195-1198,200719)NegiA,MarmorMF:Mechanismsofsubretinaluidresorptioninthecateye.InvestOphthalmolVisSci27:1560-1563,198620)NegiA,MarmorMF:Theresorptionofsubretinaluidafterdiusedamagetotheretinalpigmentepithelium.InvestOphthalmolVisSci24:1475-1479,198321)OzakiH,HayashiH,VinoresSAetal:Intravitrealsus-tainedreleaseofVEGFcausesretinalneovascularizationinrabbitsandbreakdownoftheblood-retinalbarrierinrabbitsandprimates.ExpEyeRes64:505-517,199722)OzakiH,SeoMS,OzakiKetal:Blockadeofvascularendothelialgrowthfactorreceptorsignalingissucienttocompletelypreventretinalneovascularization.AmJPathol156:697-707,200023)浜中輝彦:血管新生緑内障の病態と病理.眼科手術15:439-446,200224)IlievME,DomigD,Wolf-SchnurrburschUetal:Intravit-realbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofneovascu-larglaucoma.AmJOphthalmol142:1054-1556,2006どの眼科疾患に用いられ,さらに血管新生緑内障に対しても使用され,良好な成績が報告されている24).過去の多くの報告ならびに本報告が示すように,血管新生緑内障を汎網膜光凝固と手術療法で完全に失明を防ぐことは現状では不可能である.近い将来,これらの薬剤と手術療法を併用することにより治療成績をより向上させることができればと期待する.今回,増殖糖尿病網膜症に関連する血管新生緑内障に対する当科における治療成績を報告した.血管新生緑内障を併発した増殖糖尿病網膜症は,それぞれが複雑で,背景もさまざまであるためすべての条件を揃えることは困難である.筆者らの検討では隅角閉塞を起こした症例においても開放隅角の症例とほぼ同様の成績を得ることができた.病勢の進行の状態をよく理解し,病期に応じた積極的な治療を行うことで平均3年2カ月の経過観察期間で約8割の症例において視機能を維持することが可能であった.文献1)川瀬和秀:血管新生緑内障に対する濾過手術(線維柱帯切除術).眼科手術15:455-460,20022)浜野薫,豊口晶子,山本和則ほか:Cyclophotocoagula-tionabexterna.眼臨86:2381-2385,19923)BloomPA,TsaiJC,SharmaKetal:“Cyclodiode”.Trans-scleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreatmentofadvancedrefractoryglaucoma.Ophthalmolo-gy104:1508-1520,19974)NabiliS,KirknessCM:Trans-scleraldiodelasercyclo-photo-coagulationinthetreatmentofdiabeticneovascularglaucoma.Eye18:352-356,20045)松村美代,西澤稚子,小椋祐一郎ほか:虹彩隅角新生血管を伴う増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.臨眼47:653-656,19936)水谷聡,荻野誠周:虹彩隅角ルベオーシスを伴う増殖糖尿病網膜症硝子体手術後の緑内障.眼科手術8:405-413,19957)松村哲,竹内忍,葛西浩ほか:血管新生緑内障を伴う増殖糖尿病網膜症の初回硝子体手術.眼紀48:643-647,19978)佐藤幸裕:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術適応:最近の考え方.眼科手術11:307-312,19989)野田徹,秋山邦彦:血管新生緑内障に対する網膜硝子体手術.眼科手術15:447-454,2002***

Tenon 嚢移植による漏出濾過胞再建術

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(135)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):557~560,2008?はじめに濾過手術,特に線維柱帯切除術に線維芽細胞増殖阻害薬の5-フルオロウラシルやマイトマイシンC(MMC)が併用されるようになり,術後の眼圧コントロールはそれ以前に比べ飛躍的に向上した1,2).その一方で,胞状の菲薄化した無血管性の濾過胞が形成されやすくなり,濾過胞からの漏出をきたす症例が散見されるようになってきた3,4).漏出濾過胞は濾過胞感染,眼内炎,低眼圧黄斑症などの重篤な合併症の原因となる可能性があり,その対処法が必要とされ報告されてきた5~10).房水産生抑制を含めた内科的な治療や自己血清の点眼,自家血の結膜下注射はその効果の持続性に問題があり,近年,羊膜を用いた修復術が報告されはじめている11)が,羊膜の準備,移植羊膜の安全性などから日常臨床で普及するまでには至っていない.また,保存強膜を用いた修復術では術後眼圧コントロールの問題などが指摘されており,より簡便で安全,確実な手技の開発が求められている.今回筆者らは漏出濾過胞に対してTenon?を用いた再建術を行い,良好な結果が得られたのでその効果について報告する.I対象および方法症例は5例5眼で男性4例,女性1例,年齢は平均67歳(58~77歳)である.緑内障の内訳は原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,閉塞隅角緑内障が各1眼,ぶどう膜炎による続発緑内障が2眼であった.術式は全症例にMMCを併用し,非穿孔性線維柱帯切除術が4眼,線維柱帯切除術が1眼であった.濾過胞漏出の際,すべての症例に眼圧3mmHg以下の低眼圧があり,濾過胞炎が1眼あった.低眼圧黄斑症を生じた症例はなかった.濾過胞漏出からTenon?移植手術までの平均日数は401日(3~784日)であった.術後の観〔別刷請求先〕山内遵秀:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野Reprintrequests:??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-?????????????-????????????-???????-???????????Tenon?移植による漏出濾過胞再建術山内遵秀*1.2澤口昭一*2江本宜暢*1中村裕介*1小林和正*1湯口琢磨*1海谷忠良*1岩田和雄*3*1海谷眼科*2琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野*3新潟大学TenonCapsuleTransplantationforRepairofLeakingFilteringBlebYukihideYamauchi1,2),ShouichiSawaguchi2),YoshinobuEmoto1),YusukeNakamura1),KazumasaKobayashi1),TakumaYuguchi1),TadayoshiKaiya1)andKazuoIwata3)?)?????????????????????)????????????????????????????????????????????????????????????????????)?????????????????????目的:マイトマイシンC併用線維柱帯切除後の漏出濾過胞に対して濾過胞修復のために行ったTenon?移植術を報告する.方法:晩発性濾過胞漏出がある5例5眼を対象としてTenon?移植を行った.結果:3眼は術後翌日に,1眼は術後2週間目に,1眼は再手術後3週間目に濾過胞からの漏出が消失した.結論:Tenon?移植は簡便で漏出濾過胞の修復に有用であった.WereportsubconjunctivalTenoncapsuletransplantationtorepairleakingblebsafterprevioustrabeculectomywithmitomycinC(MMC).Subjectsofthisreviewcomprised5eyesof5patientswithlate-onsetleakage.Ofthe5eyestreated,leakageceasedin3eyesbythenextday,in1eyeby2weeksafterthe?rstinterventionandin1eyeby3weeksafterthesecondtransplantation.Tenoncapsuletransplantationisasimpleande?ectivemeansofrepairingleakingblebs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):557~560,2008〕Keywords:緑内障,線維柱帯切除術,マイトマイシンC,漏出濾過胞,Tenon?移植.glaucoma,trabeculecto-my,mitomycinC,leakingbleb,Tenoncapsuletransplantation.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(136)た.術後の観察期間は平均8.8カ月(4~10カ月)と短いものの再漏出を認めず,眼圧は最終観察時で4~14mmHgであった(図2).典型的な症例と再手術例を提示する.〔症例1〕58歳,女性.平成8年に近医で原発開放隅角緑内障と診断され,聖隷浜松病院眼科を紹介受診した.眼圧コントロール不良のため,同年に右眼,ついで左眼にMMC併用非穿孔性線維柱帯切除術を施行した.平成10年より海谷眼科に転院し,眼圧は両眼8mmHgと良好であったが,平成16年(術後7年11カ月)に右眼濾過胞より房水の漏出が出現した.所見:視力は右眼0.15(矯正0.2),左眼は1.2(矯正不能).眼圧は右眼2mmHg,左眼8mmHgで,両眼とも血管に乏しい菲薄化した濾過胞であり,右眼の濾過胞からは房水の漏出を認めた.前房は深く,炎症性細胞はなく軽度白内障と軽度の虹彩後癒着を認めた.低眼圧黄斑症や脈絡膜?離は生じていなかった.視神経乳頭陥凹/乳頭比は0.9,視野は湖崎分類Ⅲaであった.経過:血清点眼を開始したが,濾過胞からの漏出改善を認めなかった.平成17年10月(濾過胞漏出から9カ月)に察期間は平均8.8カ月(4~10カ月)である.手術方法は図1に示す.まず上直筋に4-0シルクの制御糸をかけ十分に下転させる.菲薄した結膜より円蓋部側に濾過胞に沿って結膜切開を行う.結膜剪刀で結膜と強膜を瘻孔部位に向かって?離していく.その際,結膜を損傷しないように慎重に行う.結膜の瘻孔部位まで?離できたら,結膜切開部の円蓋部側よりTenon?を採取する.Tenon?は結膜瘻孔より大きめに採る.5眼中4眼は採取したTenon?を強膜の上に広げ,それが結膜瘻孔部位にあたるように結膜をかぶせて結膜切開創を丸針付き10-0ナイロン糸で3カ所端々縫合しその間を連続縫合した(図1).この4眼のうち強膜弁からの房水漏出が多かった1眼は強膜弁の耳側と鼻側を丸針付き10-0ナイロン糸で端々縫合した後Tenon?を移植した.また結膜を強膜から?離している際に元々の結膜の瘻孔部が拡大した症例も1眼あり丸針付き10-0ナイロン糸で瘻孔のある結膜を1針端々縫合した後,上記と同様にTenon?を結膜下に挿入し切開した結膜創を縫合した.5眼中1眼は強膜弁が融解しており結膜を強膜弁から?離した際房水が過剰に漏出してきたため,Tenon?を強膜弁の上に広げその耳側,鼻側に丸針付き10-0ナイロン糸でTenon?を強膜に固定した後,結膜をかぶせ結膜切開創を上記同様に縫合した.漏出部の結膜は非常に薄く縫合により新たな瘻孔ができる可能性を考慮し,移植したTenon?と結膜の縫合は行わなかった.II結果Tenon?移植による漏出濾過胞の再建術を行い5眼中4眼が初回手術で房水の漏出が停止したが,1眼は手術翌日より別の部位から房水の漏出を認めた.改善をみないため再手術を施行し,漏出は停止した.眼圧は全例術後3カ月まで抗緑内障薬を使用せずに4~14mmHgにコントロールされた.漏出が消失するまでの期間は3眼で手術翌日に,1眼で2週間目に,再手術の1眼は再手術後3週間目であった.再手術を必要とした症例は術中結膜?離の際に瘻孔ができた可能性があるが,その他の4眼は術中,術後に合併症を認めなかっ結膜切開線Tenon?濾過胞瘻孔abcde図1手術方法a:菲薄した結膜より円蓋部側で結膜を切開する.b:結膜剪刀で結膜を強膜から?離する.c:円蓋部側よりTenon?を採取する.d:採取したTenon?を強膜上に広げ瘻孔部にあたるように結膜をかぶせる.e:結膜切開創を丸針付き10-0ナイロン糸で縫合する.図2術後の眼圧変動最終観察時には全眼圧14mmHg以下でコントロールされている.NTG:正常眼圧緑内障.———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(138)with5-?uorouracil.???????????????(Copenh)72:455-461,19912)KitazawaY,KawaseK,MatsushitaHetal:Trabeculec-tomywithmitomycin;acomparativestudywith?uoro-uracil.???????????????109:1693-1698,19913)Green?eldDS,LiebmannJM,LeeJetal:Late-onsetblebleaksafterglaucoma?lteringsurgery.????????????????116:443-447,19984)DebryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.???????????????120:297-300,20025)山本哲也,北澤克明:線維芽細胞増殖阻害薬を併用するトラベクレクトミー:その光と陰.眼科37:39-46,19956)FitzgeraldJR,McCarthyJL:Surgeryofthe?lteringbleb.???????????????68:453-467,19627)SugarHS:Complications,repairandreoperationofanti-glaucoma?lteringblebs.???????????????63:825-833,19678)WilsonMR,Kotas-NeumannR:Freeconjunctivalpatchforrepairofpersistentlateblebleak.???????????????117:569-574,19949)BuxtonJN,LaveryKT,LiebmannJMetal:Reconstruc-tionof?lteringblebswithfreeconjunctivalautografts.?????????????101;635-639,199410)木内良明,梶川哲,追中松芳ほか:房水が漏出する濾過胞(leakingbleb)の再建術.眼科39:667-672,199711)KeeC,HwangJM:Amnionicmembranegraftforlate-onsetglaucoma?lteringleaks.???????????????133:834-835,200212)MatoxC:Managementoftheleakingbleb.???????????4:370-374,1995で濾過胞からの房水の再漏出の阻止に成功している.最終観察期間までに1眼で眼圧が14mmHgまで軽度上昇しているが,眼圧コントロールへの悪影響はほとんどみられなかった.また自己組織のため特別な装置や準備は必要なく,しかも術式は非常に容易であり再手術も可能であることから今後多施設での検討が待たれる.Tenon?を用いた漏出濾過胞の治療はFitzgerald6)やSugar7)の報告がある.彼らは管錐術(強膜全層と線維柱帯を切除)術後の漏出濾過胞に対して有茎でのTenon?移植を行っている.Sugarは術後5眼すべてで漏出が停止したと述べているが,2眼は眼圧が再上昇し点眼加療が必要であったと述べている.移植されたTenon?模