《原著》あたらしい眼科34(4):571.574,2017cHC-HA/PTX3複合体投与によるGVHDマウスモデルのマイボーム腺と周辺組織への影響小川護*1小川葉子*1HuaHe*2,3向井慎*1山根みお*1Sche.erS.C.Tseng*2,3坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2OcularSurfaceCenter*3TissueTech,Inc.ChangesofMeibomianGlandsinaGVHDMouseModelTreatedwithHC-HA/PTX3Puri.edfromAmnioticMembraneMamoruOgawa1),YokoOgawa1),HuaHe2,3),ShinMukai1),MioYamane1),Sche.erS.C.Tseng2,3)KazuoTsubota1)and1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)OcularSurfaceCenter,3)TissueTech,Inc.ヒト羊膜抽出物のheavychain-hyaluronan/pentraxin3(HC-HA/PTX3)投与による慢性GVHD(移植片対宿主病)マウスモデルのマイボーム腺所見の変化について報告する.B10.D2マウスをドナーに,BALB/cマウスをレシピエントに用いて骨髄移植を行い,慢性GVHDモデルマウスを作製した.結膜下と眼瞼周囲にHC-HA/PTX3を骨髄移植後週2回28日目まで経皮および経結膜投与し,眼瞼とマイボーム腺を観察した.PBS(リン酸緩衝液生理食塩水)投与対照群ではマイボーム腺の萎縮および炎症細胞浸潤と線維化が高度であり,HSP(heatshockprotein)47+線維芽細胞を高頻度に認めた.一方,HC-HA/PTX3群では腺構造が維持され,炎症性細胞浸潤と線維化,HSP47+線維芽細胞の浸潤数の減少が観察された.HC-HA/PTX3局所投与によりGVHDのマイボーム腺周囲の線維芽細胞の集積が,炎症,線維化とともに減少することが示唆された.Meibomianglanddysfunctionrelatedtochronicoculargraft-versus-hostdisease(cGVHD)iscausedbyexces-sivein.ammationand.brosisinmeibomianglands.HC-HA/PTX3,acomplexpuri.edfromhumanamnioticmem-brane(AM),isknowntoexertanti-in.ammatoryandanti-.brotice.ects.Weusedawell-establishedmousemod-elofcGVHDtoexaminewhetherHC-HA/PTX3couldattenuatethemorphology,in.ammation,abnormalactivationof.broblastsand.brosisinmeibomianglandsa.ectedbycGVHD.Preliminaryresultsshowedthatsub-conjunctivalandsubcutaneousinjectionofHC-HA/PTX3reducedthenumberof.broblasts,.broticareasandin.ammatorycellsaroundmeibomianglands,andpreservedmeibomianglandmorphologyincomparisonwithPBS-injectedcontrolsamples.Collectively,our.ndingssuggestthatsubcutaneousandsubconjunctivalinjectionofHC-HA/PTX3couldreducecGVHD-elicitedaccumulationofactivatedHSP47+.broblasts,.brosisandin.ammationinandaroundmeibomianglandsinacGVHDmousemodel.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):571.574,2017〕Keywords:慢性移植片対宿主病,羊膜,HC-HA/PTX3,線維化,マイボーム腺.chronicgraft-versus-hostdis-ease,amnioticmembrane,HC-HA/PTX3,.brosis,meibomianglands.はじめにヒト胎盤羊膜は抗炎症作用と抗線維化作用を有することが知られている.これまでに羊膜移植が,難治性眼表面疾患であるStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡に対し,炎症抑制作用や,瘢痕化抑制作用があることが報告されてきた1).その後,Tsengらは羊膜中の抗炎症,抗線維化作用を示す成分としてheavychain-hyaluronan/pentraxin3(HC-HA/PTX3)の抽出精製に成功し,本複合物が難治性眼表面疾患の免疫抑制,線維化抑制に有効であることを報告した2).移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)は〔別刷請求先〕小川護:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MamoruOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN血液悪性疾患などの根治療法としての造血幹細胞移植後に生じる合併症のうちの一つであり,造血幹細胞移植の成功を阻んでいる3).GVHDはドナーの移植片とレシピエントの細胞,または組織との間に生じる免疫応答であり,眼,口腔,肺,皮膚,腸管,肝臓が標的臓器となる.各標的臓器の過剰な免疫応答による炎症と病的線維化が病態の中心となることが知られている4,5).マイボーム腺機能不全はGVHDによる眼合併症として高頻度に認められ,共焦点レーザー生体顕微鏡による観察の研究で,GVHDにおけるマイボーム腺には高度な炎症と線維化の所見を認めることが報告されている6).Sche.erらにより抽出されたHC-HA/PTX3複合体は,HA(hyaluronan)とHC(heavychain)との結合体と,PTX3(pentraxin3)との複合体である.このHC-HA/PTX3複合体は,胎盤羊膜中に存在する成分であり,免疫抑制機能や抗線維化作用があることが報告されている7).今回筆者らは,これまで有効で特異的な薬剤がない慢性GVHDによる難治性眼表面病態に対し,本薬剤が治療薬になりうるかを検討した.確立された慢性GVHDマウスモデルを使用しHC-HA/PTX3の経皮および経結膜的局所投与を試みた結果,マイボーム腺において投与前後の所見の変化について,若干の知見を得たので報告する.I方法マウスの骨髄移植には確立されている方法を用い,8週齢B10.D2(H-2d)オスマウスをドナーに,8週齢BALB/c(H-2d)メスマウスをレシピエントに用いて,同種異系の骨髄移植を行った.ドナーの骨髄細胞1×106と脾臓細胞2×106を混合し,レシピエントの尾静脈より移植した.これにより主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)が適合し,副組織適合抗原が不一致の慢性GVHDモデルマウスを作製した.本マウスモデルはヒト涙腺,結膜などの眼表面のGVHDの所見をよく再現していた8).すべての動物実験は慶應義塾大学医学部動物実験ガイドラインの諸規定に従い,動物福祉の精神に沿った科学的な動物実験が行われるよう配慮した.動物実験のプロトコールを作成して,学内の動物実験委員会の承認を得た(承認番号09152).また,ARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisionResearchの規定に従った.このGVHDマウスモデルに対しHC-HA/PTX3複合体(1mg/ml)10μlを,経結膜および経皮的にそれぞれ2カ所ずつ,計4カ所に骨髄移植後4日目から1週に2回投与し,骨髄移植後28日目まで7回投与を行った.対照群としてリン酸緩衝液生理食塩水(phosphatebu.eredsaline:PBS)投与を同時に施行した.最終投与より4日後に眼瞼および眼球摘出を行い,今回は眼球結膜および涙腺以外の組織の予備的な検討として,マイボーム腺およびその周辺組織を各群2眼ずつのみ検討した.10%中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色,Mallory染色に加え活性化線維芽細胞のマーカーでありコラーゲン産生細胞の指標として一次抗体HeatShockProtein47(HSP47)(クローン名SPA-470,会社名:StressgenBiotechnologiesCorp,SanDiego,CA)を使用した.HSP47の染色にはパラフィン切片を用い,キシレンにて脱パラフィンを行い,エタノール系列で脱水後,抗原不活化を施行,PBSで洗浄後一次抗体HSP47について4℃オーバーナイトで免疫染色を施行した.PBSで洗浄後,Alexa488蛍光標識二次抗体(Ther-moFisherScienti.cInc.MolecularProbe,Kanagawa,Japan)を用いて45分間室温で4’,6-diamidino-2-phenylin-dole(DAPI)(ThermoFisherScienti.cInc.MolecularProbe)による核染色を同時に染色した.抗原不活化にはクエン酸緩衝液(DAKO,Japan)を用いてオートクレーブを使用し120℃20分間施行した.HC-HA/PTX3抽出方法は,Biotissue社から提供される羊膜を無菌条件下で分離し,羊膜を薄い膜にカットし.80℃に凍結し,4℃で1時間ホモジナイズした.その後4℃,48,000gで30分間の遠心分離をすることにより羊膜の抽出物を回収した.回収した羊膜の抽出物をさらにCsCl/4MグアニジンHCLにより48時間,15℃,35,000回転/分の条件で超遠心を2回施行した.遠心後の溶液からhyaluronan(HA)は得られたが蛋白を抽出できなかった画分を集め蒸留水に対して透析を行い,羊膜の抽出物としてHC-HA/PTX3混合物を得た9).II結果慢性GVHDのモデルマウスにおけるHC-HA/PTX3投与例およびPBS投与例について,マイボーム腺の組織構築の観察,炎症性細胞浸潤,HSP47+線維芽細胞浸潤および線維化の程度の観察を行った.活性化線維芽細胞についてはHSP47+で細胞内に核が認められた紡錘形の細胞を調べた.その結果,PBS投与コントロ―ルマウスのマイボーム腺組織のHE染色像では,HC-HA/PTX3投与マウスに比して間質に著明な炎症性細胞浸潤を認めた(図1a,b).Mallory染色像ではPBS投与マウスには広範囲な線維化とマイボーム腺の萎縮が観察された.一方,HC-HA/PTX3投与マウスにおいては,マイボーム腺周囲の線維化が若干減少し,マイボーム腺の構築が保たれていた(図1c,d).また,マイボーム腺周囲間質における単位面積当たりの線維芽細胞数が,PBS投与マウスに比して減少していることが観察された(図1e,f).HC-HA/PTX3複合体投与により,マイボーム腺の構築がPBS投与コントロールマウスに比して保たれていた.これらの結果より,慢性GVHDのマウスモデルに生じたマイボーム腺周囲の炎症性細胞浸潤,線維化,線維芽細胞数が,HC-HA/PTX3複合体の経結膜投与および経皮的投与により減少した可能性が考えられた.III考按慢性GVHDが進行すると眼瞼およびマイボーム腺周囲の高度な炎症細胞浸潤と線維化が特徴的であることが臨床所見として報告されている6).今回の研究では,マウスGVHDモデルにおけるPBS投与マウスの病理組織像を検討したところ,臨床的な共焦点レーザー生体顕微鏡による観察の報告と同様に,マイボーム腺およびその周囲に高度な炎症細胞浸潤と線維化所見を認めた.HC-HA/PTX3には他疾患において抗炎症作用と抗線維化作用が報告されている10).HC-HA/PTX3の投与により炎症性細胞浸潤の減少とともに,HSP47の発現の減弱とHSP47+線維芽細胞の浸潤数が減少している可能性が考えられた.炎症および線維化の減弱によりマイボーム腺組織の構築が保たれる可能性があると考えられる.マイボーム腺機能不全をきたす線維化疾患には慢性GVHDに加え,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,化学外傷などがある.HC-HA/PTX3局所投与はマイボーム腺機能不全を伴う難治性眼線維化疾患に対して局所的に疾患の発症初期からの治療法として有用であることが考えられる.今回の検討では観察例が少なく,探索的な観察をprelimi-naryな所見として報告した.今後の課題として異なった検討数を増やして再現性を確認する必要がある.次のステップの基礎研究として異なったGVHDマウスモデルを用いた検証や,HC-HA/PTX3の安全性の検証と投与方法,投与回数を検討する必要がある.また,HC-HA/PTX3は分子量が大きく,血流へ流入することはないとされるが,HC-HA/PTX3が骨髄移植におけるドナー細胞の生着を妨げないことを確認することも必要と考えられる.将来の展望として,現在GVHDによるマイボーム腺機能不全およびドライアイの炎症と線維化に対する有効な治療薬がないことから,HC-HA/PTX3によるマイボーム腺の炎症と線維化抑制による治療は新規性,優位性に富んでいる.今後HC-HA/PTX3がGVHDの難治性眼表面障害例に有効な新規治療法になり得る,検討を重ねる必要があると考える.利益相反:小川護,向井慎,山根みお;利益相反公表基準に該当なし小川葉子,坪田一男;「HC-HA/PTX3による慢性移植片対宿主病によるドライアイの治療薬としての有用性」特許申請中.HuaHe,Sche.er.C.G.Tseng;TissueTech,Inc.の雇用者.坪田一男,Sche.er.C.G.Tseng;TissueTech,Inc.の株主.図1GVHDマウスモデルにおけるHC-HA/PTX3投与によるマイボーム腺への影響a,b:ヘマトキシリン・エオジン染色.PBS投与マウス(a)に比してHC-HA/PTX3マウス(b)では炎症性細胞浸潤が減少している.Scalebar=25μm.c,d:マロリー染色.PBS投与マウス(c)に比して,HC-HA/PTX3投与マウス(d)では線維化面積(青)の減少が認められる.マイボーム腺の構造が比較的保持されている.線維化部位(青)Scalebar=25μm.e,f:HSP47+線維芽細胞(緑)の分布.核(青)PBS投与マウス(e)に比してHC-HA/PTX3投与マウス(f)ではHSP47+線維芽細胞数の減少が認められる.HSP47+線維芽細胞(緑),核(青)Scalebar=50μm.文献1)TsengSC,EspanaEM,KawakitaTetal:Howdoesamnioticmembranework?OculSurf2:177-187,20042)TsengSC:HC-HA/PTX3puri.edfromamnioticmem-braneasnovelregenerativematrix:insightintorelation-shipbetweenin.ammationandregeneration.InvestOph-thalmolVisSci57:ORSFh1-8,20163)PavleticSZ,FowlerDH:ArewemakingprogressinGVHDprophylaxisandtreatment?HematologyAmSocHematolEducProgram2012:251-264,20124)JagasiaMH,GreinixHT,AroraMetal:NationalInsti-tutesofHealthConsensusDevelopmentProjectonCrite-riaforClinicalTrialsinChronicGraft-versus-HostDis-ease:I.The2014DiagnosisandStagingWorkingGroupreport.BiolBloodMarrowTransplant21:389-401,20155)OgawaY,MorikawaS,OkanoHetal:MHC-compatiblebonemarrowstromal/stemcellstrigger.brosisbyacti-vatinghostTcellsinasclerodermamousemodel.Elife5:e09394,20166)BanY,OgawaY,IbrahimOMetal:Morphologicevalua-tionofmeibomianglandsinchronicgraft-versus-hostdis-easeusinginvivolaserconfocalmicroscopy.MolVis17:2533-2543,20117)HeH,TanY,Du.ortSetal:InvivodownregulationofinnateandadaptiveimmuneresponsesincornealallograftrejectionbyHC-HA/PTX3complexpuri.edfromamniot-icmembrane.InvestOphthalmolVisSci55:1647-1656,20148)ZhangY,McCormickLL,DesaiSRetal:Murinesclero-dermatousgraft-versus-hostdisease,amodelforhumanscleroderma:cutaneouscytokines,chemokines,andimmunecellactivation.JImmunol168:3088-3098,20029)HeH,LiW,TsengDYetal:Biochemicalcharacteriza-tionandfunctionofcomplexesformedbyhyaluronanandtheheavychainsofinter-alpha-inhibitor(HC*HA)puri.edfromextractsofhumanamnioticmembrane.JBiolChem284:20136-20146,200910)HeH,ZhangS,TigheSetal:Immobilizedheavychain-hyaluronicacidpolarizeslipopolysaccharide-activatedmacrophagestowardM2phenotype.JBiolChem288:25792-25803,2013***