《原著》あたらしい眼科42(3):363.367,2025c網膜色素変性症に対する遮光眼鏡処方の特徴と視機能との関連長野水紀*1藤原康太*1,2村上祐介*1,2塚本晶子*1,2堀江宏一郎*1伊藤雪乃*1高藤渚沙*1瀬戸寛子*1園田康平*1,2*1九州大学病院眼科*2九州大学大学院医学研究院眼科学分野CRelationshipsBetweentheCharacteristicsofAbsorptive-LensGlassesandVisualFunctioninPatientswithRetinitisPigmentosaMizukiNagano1)CKohtaFujiwara1,2)CYusukeMurakami1,2)CShokoTsukamoto1,2)CKohichiroHorie1)CYukinoIto1),,,,,,NagisaTakafuji1),HirokoSeto1)andCKoheiSonoda1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:網膜色素変性症(RP)患者に処方された遮光眼鏡の特徴(色,視感透過率)と視機能との関連について検討した.対象と方法:2019.2022年に屋外用遮光眼鏡を処方したCRP患者C34例について,診療録を後ろ向きに調査した.視機能の指標として,視力良好眼の矯正視力(logMAR)と視力・視野検査の結果からCFunctionalCAcuityCScore(FAS),FunctionalFieldScore(FFS),FunctionalVisionScore(FVS)を算出し,処方した遮光眼鏡の視感透過率との関連についてスコアを比較検討した.結果:平均年齢はC63.0C±11.3歳,処方した遮光眼鏡の色はブラウン系C17例,グレー系C9例,グリーン系C8例であった.各視機能スコアの平均値は,視力良好眼のClogMAR値:0.49C±11.3,FAS:C71±25,FFS:33C±16,FVS:26C±18であった.すべての視機能スコアと視感透過率との間に有意な相関が認められた(p<0.01).結論:RP患者の遮光眼鏡のカラー選択はブラウン系が多かった.視機能スコアの低い患者ほど視感透過率の低いレンズを選択した.CPurpose:ToCcompareCtheCcharacteristicsCofCabsorptive-lensCglassesCprescribedCtoCpatientsCwithCretinitisCpig-mentosa(RP)andtherelationshipbetweenluminoustransmittanceandvisualfunction.SubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof34RPpatientswhowereprescribedoutdoorabsorp-tive-lensglassesfor3yearsfrom2019to2022.FunctionalAcuityScore(FAS)C,FunctionalFieldScore(FFS)C,andFunctionalVisionScore(FVS)werecalculatedfromvisualacuity(VA)andvisual.eldtest.ndingsasindicesofvisualfunction,andVAtransmittanceoftheprescribedglasseswitheachFVSwascompared.Results:Themeanpatientagewas63.0±11.3years,andmean‘best-eye’VA(logMAR)C,FAS,FFS,FVS,andluminoustransmissionwas0.49±11.3,C71±25,C33±16,C26±18,and41±19%,respectively.Thecoloroftheprescribedlenseswasbrownin17cases,grayin9cases,andgreenin8cases.Asigni.cantcorrelationwasfoundbetweenallvisualfunctionscoresCandCluminousCtransmittanceCofCtheCprescribedlenses(p<0.01)C.CConclusion:ForCRPCpatients,CtheCcolorCofCtheprescribedabsorptive-lensglasseswasmostlybrown,andforpatientswithlowervisualfunctionscores,lenseswithlowerluminoustransmissionandlowervisualtransmittancewereoftenselected.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(3):363.367,C2025〕Keywords:網膜色素変性症,羞明,遮光眼鏡,視感透過率,視機能スコア.retinitispigmentosa,photophobia,absorptiveglasses,luminoustransmittance,FunctionalVisionScore.Cはじめに効な治療法の確立されていない遺伝性・進行性の疾患群であ網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)は現時点では有り,ロービジョンケアが患者の生活の質(qualityCoflife:〔別刷請求先〕長野水紀:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学病院眼科Reprintrequests:MizukiNagano,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityHospital,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC表1FVSに対応する視覚障害の国際分類FVSC100-93C92-73C72-53C52-33C32-13C12-0CAMAClassC0C1C2C3aC3bC4CICD-9CM正常軽度視覚喪失中等度視覚喪失重度視覚喪失極度視覚喪失(ほとんど)全視覚喪失WHOの国際LowVisionBlind統計範囲CロービジョンC盲QOL)向上に重要である.RPの症状の一つに羞明があげられ,遮光眼鏡はまぶしさを感じやすいとされる短波長光の透過を効果的に抑制することで羞明を軽減させる1).これまで処方された遮光眼鏡の色や疾患の特徴についての報告はあるが2.4),RP患者の視機能を含めた詳細な検討はされておらず,また視感透過率と視機能との関連を報告したものは少ない.現在,遮光眼鏡選定における明確な基準はなくCRP患者に処方された遮光眼鏡の特徴を調査することは,適切な遮光眼鏡を選択するうえで意義があると考えられる.本研究では,九州大学病院眼科(以下,当科)においてRP患者に処方された遮光眼鏡の(色,視感透過率)と視機能との関連について検討した.CI対象と方法2019年C4月.2022年C3月に当科にて屋外用遮光眼鏡を処方したCRP患者C34例(男性C12例,女性C22例)を対象とし,診療録から視力,視野,処方した遮光眼鏡の色と視感透過率を後ろ向きに調査した.視力は,視力良好眼の矯正視力をClogMAR値に換算したものと,両眼の視力スコアであるCFunctionalCAcuityCScore(FAS)を使用した.視野は,両眼のCGoldmann視野計(GP)の結果から算出するCFunctionalFieldScore(FFS)を使用した.視機能スコアとして,視力と視野を統合したスコアであるCFunctionalVisionScore(FVS)を使用した.FVSは米国医学会(AmericanMedicalAssociation:AMA)が推奨する視覚障害評価法であり,世界保健機関(WorldHealthOrga-nization:WHO)の国際疾患分類であるCInternationalCClassi.cationCofCDiseasesC9thRevision,ClinicalCModi.-cation(ICD9-CM)にも対応している5).FVSはC0.100の数字で表され,100が正常,0は機能が完全に失われた状態を表し,6段階に等級分類されている(表1).FASは両眼開放視力C×0.6+右眼視力×0.2+左眼視力×0.2で算出した5).両眼開放視力については,視力良好眼の最高視力とした.FFSはCGPのCIII/4視標の測定結果により,左右眼を重ね合わせた視野面積×0.6+右眼視野×0.2+左眼視野×0.2により算出した.III/4視標を測定していない症例についてはCV/4換算式にて変換して算出した6).FVSはFAS×FFS/100で求めた.遮光眼鏡の選定は東海光学のCCCP・CCP400シリーズの遮光レンズを用いて,屋外で矯正視力下にて行った.当科での選定は,まず視感透過率C50%のカラーを装用させ,羞明感が軽減されなければ視感透過率の低い濃い色,軽減されれば視感透過率の高い薄い色を順に装用し,装用感のよい視感透過率が決定したら,視感透過率の近い他のカラーも装用させ,自覚的に羞明感が改善されるものを処方している.統計解析にはCSpearman順位相関係数,C|2検定を用いた.なお,本研究は九州大学病院倫理委員会の承認を得て行った.CII結果処方した遮光眼鏡のカラーの内訳は,ブラウン系C17例,グレー系C9例,グリーン系C8例で,対象者の半数がブラウン系を選択した(図1).また,最初にトライするレンズが視感透過率C50%のレンズであるため,視感透過率C50%で対象者を分け,カラー選択の割合を比較すると,グリーン系は視感透過率C50%未満で有意に多い結果となった(図2).対象の平均は,年齢C63.0C±11.3歳,良好眼視力のClogMAR値:0.49C±11.3,FAS:71C±25,FFS:33C±16,FVS:26C±18,視感透過率:41C±19であった.視力は,比較的良好である例が多くみられた.視野はCIII/4eイソプターで中心C10°以内である求心性視野狭窄がC29例であり,対象者のC85%を占めていた.また,視感透過率と良好眼視力のClogMAR値(r=.0.51,p<0.01);(図3a),FAS(r=0.48,p<0.01);(図3b),FFS(r=0.43,p<0.01);(図3c),FVS(r=0.52,p<C0.01);(図3d)のすべての視機能スコアの間に有意な相関が認められた.CIII考按当科においてCRP患者に処方した遮光眼鏡の特徴(色,視感遮断率)と視機能との関連について検討した.カラー選択について,RP患者ではイエロー系とブラウン系の処方が多いことが報告されている2.4)が,本研究の対象者ではイエロー系の処方はなく,ブラウン系が半数を占めた.楡井らは,症例数(例)876543210TRCHFLNATSFRUGWHNLSCHGMGLG(19)(32)(59)(78)(85)(20)(25)(29)(50)(75)(30)(53)(73)カラー(視感透過率:%)図1処方した遮光眼鏡カラーの内訳ブラウン系C17例,グレー系C9例,グリーン系C8例であった.視感透過率50%未満視感透過率50%以上**p<0.01|2検定図2視感透過率レベル別にみたカラー選択の割合グリーン系は視感透過率C50%未満で有意に選択されていた.小数視力C0.4以下の視力不良群でイエロー系の処方が有意に多い3)と報告している.イエロー系のレンズは短波長光である青色の吸収が高いために色調の変化が大きく,視力が良好であると色調の変化をより感じやすいと考えられる.本研究の対象者は比較的視力が保たれている例が多いため,イエロー系より色調の変化が少なく,コントラスト向上効果もあるブラウン系を選択したと考えられる.また,視感透過率が50%未満の群においては,グリーン系が有意に多かった.山田らによると,可視光線のうち,短波長になるほど羞明をきたしやすく,RP患者ではC484Cnm付近の波長でとくに羞明を感じる7)と報告されている.カラーごとの分光透過率曲線をみると,グレー系は可視光域全体(380.780Cnm)を低減することで光量を全体的に下げ,グリーン系は中間波長域(約C400.600Cnm)を低減することにより光量を低下させる.484Cnmまでの波長を抑制する効果がより強いことから,視感透過率C50%未満の対象者ではC50%以上の対象者よりもグリーン系を多く選択したと考える.このことから羞明の訴えが強い患者や,視機能が低下している患者においてはブラウン系やグリーン系の装用テストを実施する必要があると考える.良好眼のClogMAR値,FAS,FFS,FVSのすべてで視感透過率と有意な相関関係がみられ,視機能スコアが低下するほど視感透過率の低い色を選ぶ傾向がみられた.FVSは視覚障害の評価法として国際基準に採択されており,視力と視acd図3各視機能スコアと視感透過率の関係a:良好眼視力のCLogMAR値と視感透過率の関係.良好眼視力と視感透過率の間には有意な負の相関がみられた(r=.0.51,p<0.01).Cb:FASと視感透過率の関係.FASと視感透過率の間には有意な正の相関がみられた(r=0.48,p<0.01).c:FFSと視感透過率の関係.FFSと視感透過率の間には有意な正の相関がみられた(r=0.43,p<0.01).d:FVSと視感透過率の関係.FVSと視感透過率の間には有意な正の相関がみられた(r=0.52,p<0.01).野の状態を統合し現状の視機能をスコア化することができるため,視覚関連CQOLとの関連が高い8)との報告や必要とされるロービジョンケアの選定に有用である9)との報告がある.視感透過率はCFVSとも有意な相関を認め,FVSが低下するほど視感透過率の低いレンズを選択する傾向があることから,FVSが低いほど羞明が強い可能性がある.羞明の程度を示す客観的指標は現在なく,FVSによる評価が羞明感の客観的指標になり得る可能性が示唆された.また,FAS,FFSの評価でも同様に有意な相関を認めており,RP患者では視力障害,視野障害が進むにつれて羞明感が強くなると考えられる.遮光眼鏡処方時には視感透過率に着目した色選定を提案することで視機能を考慮した羞明感の軽減につながる可能性があり,視覚関連CQOLの向上にも寄与すると考える.また,楡井らは良好眼視力C0.4以上では視感透過率の高い薄い色の処方が多く,良好眼視力C0.7以上では視感透過率57%以上の薄い色の処方が約C7割を占める3)と報告している.このように視力や視感透過率についての報告は散見されるが,視野と視感透過率についての詳細な検討は少ない.改田らは良好眼のCGPの測定結果からCI/4イソプターのC8方向総角度を算出して視感透過率との関連を検討し,関連性はみられなかった10)と報告している.本研究では,対象者のFFSの平均値はC33C±16であり,FFSと視感透過率との間に有意な相関関係がみられた.視野欠損の部位が広くなると羞明を訴える例が多い11)といわれており,本研究の対象者の85%がCIII/4eイソプターで中心C10°以内の求心性視野狭窄であり,視野欠損が進むほど視感透過率の低い暗い色を選択することが示された.視力が良好であっても羞明感が強い場合は,視野障害に着目した遮光眼鏡選定が重要であると考える.今回の研究の限界点として,症例数が限られており今回の結果がすべてのCRP患者に当てはまるわけではないこと,遮光眼鏡の選定において同じ条件下で行っておらず,照度を一定して検討できていないことがあげられる.当科でのCRPに対する遮光眼鏡処方の検討から,視感透過率が羞明感の客観的指標となりうる可能性が示唆された.遮光眼鏡処方においては視機能を考慮した色選定が必要であると考えられ,今後症例数を増やしたさらなる検討が望まれる.文献1)堀口浩史,仲泊聡:羞明の科学C.遮光眼鏡適合判定のために.視覚の科学31:77-81,C20102)志鶴紀子,吉里聡,久保恵子ほか:柳川リハビリテーション病院における遮光眼鏡処方の現状.日本ロービジョン学会誌8:139-144,C20083)楡井しのぶ,堂山かさね:井上眼科病院における遮光眼鏡選定に影響を及ぼす因子.日視会誌39:217-223,C20104)南稔浩,中村桂子,澤ふみ子ほか:大阪医科大学における遮光眼鏡の検討.日視会誌36:133-139,C20075)AmericanCMedicalAssociation:TheCvisualCsystem.In:CAMACGuidesCtoCtheCelevationCofCpermanentCimpairment,C6thed.AmericanMedicalAssociation,Chicago,p281-319,20076)原田亮,加茂純子:日本人正常者のCGoldmann視野計III/4eの測定結果でCFunctionalCFieldScore(FFS)がC100になるか?日本ロービジョン学会誌11:102-107,C20187)山田明子,新井田孝裕,靭負正雄ほか:網膜色素変性症の羞明生起における特異的波長.あたらしい眼科C32:1349-1354,C20158)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班網膜色素変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:網膜色素変性診療ガイドライン.日眼会誌120:846-861,C20169)斉之平真弓,山下高明,寺崎寛人ほか:網膜色素変性患者における視機能評価とqualityCoflifeの関係.日眼会誌C124:63-69,C202010)改田隼,柏井麻佑花,狩野文彦ほか:町田病院における遮光眼鏡処方の検討.日本ロービジョン学会誌C19:94-98,C202011)川瀬和秀,浅野紀美江:疾患別ロービジョンケア“緑内障”.眼紀57:261-266,C2006***