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脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1495.1498,2021c脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例福井歩美*1,2横井則彦*1渡辺彰英*1外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2京都府立医科大学附属北部医療センターCACaseofHemorrhagicLymphangiectasiaoftheConjunctivaAssociatedwithCerebralVenousMalformationsAyumiFukui1,2)C,NorihikoYokoi1),AkihideWatanabe1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC出血性結膜リンパ管拡張症は結膜静脈とリンパ管の異常な結合により拡張したリンパ管内に血液が流入する疾患であり,報告例は少ない.出血性結膜リンパ管拡張症に脳静脈奇形を合併した症例を経験した.症例は生来健康なC17歳,女性.近医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが術中の出血量が多く,手術は完遂困難であり,精査加療目的に当院紹介となった.初診時,びまん性の左結膜浮腫,数珠状に連なる拡張したリンパ管を認め,一部にリンパ管に流入した血液が水平面を形成しており,上眼瞼縁鼻側に脈管異常と思われる.胞性病変を認めた.頭部MRIでは左眼窩から前頭骨に及ぶリンパ管奇形,頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を認めた.結膜リンパ管拡張症は点眼治療で症状の改善がない場合は外科治療の対象となる.本症例では精査により,先天性の脈管異常が診断された.出血性結膜リンパ管拡張症では,脈管異常の有無の検討が重要と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofChemorrhagicClymphangiectasiaCofCtheconjunctiva(HLC)C,CaCdiseaseCinCwhichCbloodC.owsCintoCtheCabnormallyCexpandedClymphaticCvesselCthroughCtheCabnormalCconnectionCofCtheCconjunctivalCveinCandClymphaticCvessel.CCase:AC17-year-oldCfemaleCwithCHLCCinCherCleftCeyeCassociatedCwithCcerebralCveinCmalformationsCwasCreferredCafterCbeingCdiagnosedCasClymphaticCcystCofCtheCconjunctivaCresistantCtoCpunctureCandCresectioninwhichamassivehemorrhageoccurred,thusresultinginanincompleteoperation.Uponinitialexamina-tion,CcysticClesionsCinCtheClowerCconjunctivaCandCaCdilatedClymphaticCvesselCwithCformationCofCbloodCinCtheCupperCconjunctiva,CasCwellCasCvascularCabnormalityCatCtheCnasalCsideCofCtheCupperClidCmargin,CwereCobserved.CMagneticCresonanceimagingrevealedmalformationsoftheleftorbitandfrontalbone,andveinintheleftcerebellarpedun-cle.Conclusion:InHLCcases,itisimportanttoalsotakevascularabnormalitiesintoconsideration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(12):1495.1498,C2021〕Keywords:出血性結膜リンパ管拡張症,結膜リンパ.胞,脳静脈奇形,脈管異常,MRI.HemorrhagicClymphan-giectasiaofconjunctiva,lymphaticcyst,cerebralvenousmalformation,vascularabnormalities,MRI.Cはじめに結膜リンパ管拡張症は結膜のリンパ管が拡張し,結膜上に隆起を示す疾患である1).広範囲にわたるリンパ管拡張を認めるものと,限局性の.腫状病変となるものがあり1),結膜弛緩症との関連も指摘されている2).また,本疾患は日常臨床においてしばしば遭遇する.出血性結膜リンパ管拡張症は,結膜のリンパ管と静脈が異常吻合し,結膜リンパ管に血液が流入する疾患3)であり,1880年にCLeberによって初めて報告された3).好発年齢や性差はないとされ,過去の報告4,5)は特発性,先天性のもの,炎症,手術4),外傷を契機に発症したものなどさまざまであり,その発生機序は明らかではない.また,出血性結膜リン〔別刷請求先〕福井歩美:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AyumiFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC図1初診時の前眼部所見a,b:左眼下方結膜に広範囲に広がる.胞性病変を認める().c:鼻上側球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方球結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成している().d:鼻側上眼瞼縁にも脈管異常を示唆する病変を認める().パ管拡張症に脈管奇形を合併する症例の報告は,筆者らの知る限りない.今回,出血性リンパ管拡張症の所見からCMRIを施行し,脳静脈奇形を看破できた症例を経験したので報告する.CI症例患者:17歳,女児.既往歴:幼少期に左下眼瞼から.部にかけて血管腫が出現し,自然消失した.また,2年前に左眼に結膜下出血が生じたが経過観察で消失した.現病歴:前医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが,術中の出血量が多く,手術は完遂困難であった.結膜の.胞性病変は,術後も改善しなかったため,精査加療目的に当院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8(1.5C×sph.0.25D),左眼C1.2(1.2C×sph+1.00D),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13mmHgであった.左眼下方結膜に広範囲にわたる.胞性病変を(図1a,b),上鼻側の球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成していた(図1c).さらに,鼻側上眼瞼縁に脈管異常によると考えられる.胞様病変を認めた(図1d).全身検査所見:幼少期に左顔面に血管腫を認めていたこと,.胞性病変が球結膜だけでなく上眼瞼縁にまで及んでいたことから脈管異常を疑い,頭部CMRIを撮像した.その結果,左眼窩内側にリンパ管拡張,リンパ管の異常を疑う高信号域(図2a),頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(図2b),左前頭骨や眼窩周囲の軟部組織にもリンパ管奇形によるCSTIR高信号病変(図2c,d)を認めた.臨床経過:結膜のリンパ管異常の容量減少を目的に手術加療を行うことも考慮はしたが,出血のリスクが高いことから,経過観察を行う方針となった.経過観察期間中に両側鼻前庭部に有茎性の腫瘤を認めたため,耳鼻咽喉科で切除術を施行し,病理検査でリンパ管拡張症と診断された.現在も不定期に結膜下出血は起こしているものの,縮小や増大はなく,経過観察を継続している.CII考按出血性リンパ管拡張症はリンパ管の異常拡張部位に血管からの血液が流入する疾患であり,出血は自然消退することも多く6),まずは経過観察を行うが,出血が消退しない場合や再発を繰り返す場合には,各種の外科的治療が行われる場合がある.過去の報告では,Awdryは出血性結膜リンパ管拡図2頭部MRI(STIR画像)a:左眼窩内側に拡張したリンパ管,およびリンパ管の異常(円内)を認める.Cb:頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(C.)を認める.Cc,d:左前頭骨,眼窩周囲にもCSTIR高信号病変を認め(円内および),リンパ管奇形が示唆される.張症と診断したC5例に対し,3例は経過観察で改善し,残りのC2例はジアテルミー凝固により速やかに改善したと報告している5).また,LochheadらはC9人の出血性結膜リンパ管拡張症の患者に対し,6例は自然経過で改善し,3例はアルゴンレーザー照射にて改善したと報告している7).一方,生下時より出血性リンパ管拡張症を認め,経過観察で改善したC2歳,女児の報告があり5),今回の症例においても,幼少期に左下眼瞼から.部にかけての血管腫の自然消退の既往があったことから,先天性に広範囲の脈管異常があった可能性が示唆される.また,今回の症例では,前医で術中の出血量が多く,リンパ.胞と診断された病変部の完全切除が困難であったことや,初診時に出血性リンパ管拡張症が確認され,眼瞼縁にも脈管異常がみられたことから,左眼の周囲組織に広範囲の脈管異常を伴う可能性が考えられ,精査を行うことで,脈管異常が眼窩内と頭蓋内にも証明できた.結膜リンパ管拡張症や結膜リンパ.胞は,日常診療でしばしば遭遇する結膜病変であるが,その病変が結膜にとどまらない可能性も考え,とくに,出血性結膜リンパ管拡張症の患者では,眼表面のみならず,眼瞼を含めた眼付属器をくまなく観察し,異常がみられた場合は,他の脈管異常の有無や範囲を検索したうえで治療を決定することが重要と考えられた.文献1)WelchCJ,CSrinivasanCS,CLyallCDCetal:ConjunctivalClym-phangiectasia:aCreportCofC11CcasesCandCreviewCofClitera-ture.SurvOphthalmolC57:136-148,C20122)WatanabeCA,CYokoiCN,CKinoshitaS:ClinicopathologicCstudyofconjunctivochalasis.CorneaC23:294-298,C20043)LeberT:LymphangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivae.CGraefesArchOphthalmolC26:197-201,C18804)KyprianouCI,CNessimCM,CKumarCVCetal:ACcaseCofClym-phangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivaeCfollowingCphacoemulsi.cation.ActaOphthalmolScandC82:627-628,C20045)AwdryP:Lymphangiectasiahaemorrhagicaconjunctivae.BrJOphthalmolC53:274-278,C19696)HuervaCV,CTravesetCAE,CAscasoCFJCetal:SpontaneousCresolutionofararecaseofcircumferentiallymphangiecta-siahaemorrhagicaconjunctivae.Eye(Lond)28:912-914,C20147)LochheadJ,BenjaminL:Lymphangiectasiahaemorrhagi-caconjunctivae.Eye(Lond)C12(Pt4):627-629,C1998***