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Vogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPD の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):389.394,2023cVogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPDの1例大久保麻希坂本万寿夫岩橋千春日下俊次近畿大学医学部眼科学教室CACaseofMTX-LPDwithOcularManifestationsSimilartoVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseMakiOkubo,MasuoSakamoto,ChiharuIwahashiandShunjiKusakaCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineC目的:Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似の眼病変で発症したメトトレキサート(MTX)関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)の症例を報告する.症例:68歳,男性.両眼視力低下と眼瞼腫脹を自覚し眼科受診,初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.2),両眼結膜浮腫,前房内炎症,脈絡膜肥厚,右眼漿液性網膜.離を認めた.同時期より間欠性の発熱や頸部リンパ節腫脹などがみられたこと,血清CsIL-2R36,478CU/ml,前房水CIL-10/IL-6>1より,リンパ腫病変を疑い頸部リンパ節生検を施行した.びまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫であり,また,3年前に発症した関節リウマチに対してC3カ月前よりCMTXの内服が開始されていたことより,MTX-LPDと診断した.MTX休薬を行うも全身症状が悪化したため,初診C2週間後よりCR-CHOP療法を施行,治療開始C4週間後には両眼とも視力(0.9)となり,眼炎症所見は速やかに改善した.しかし,4カ月後に中枢神経病変を認め,R-MPV療法を施行するも中枢神経病変増悪のため発症C7カ月後に死亡した.経過中,眼所見の再発はみられなかった.結論:MTX-LPDに原田病類似の眼所見を伴う可能性がある.CPurpose:Toreportapatientwithmethotrexate(MTX)-associatedlymphoproliferativedisorders(MTX-LPD)CwhoCpresentedCwithCocularCmanifestationsCsimilarCtoVogt-Koyanagi-Harada(VKH)disease.CCasereport:A68-year-oldmanpresentedwiththeprimarycomplaintofbilateralblurredvisionandswellingoftheeyelids.Anophthalmicexaminationshowedconjunctivaledemaandchoroidalthickeninginbotheyes,aswellasaserousreti-naldetachmentintherighteye,whichmatchedthesymptomsofVKH.Intermittentfeverandcervicallymphade-nopathy,CsymptomsCofCsystemicCinvolvement,CwereCobserved,CandCaCcervicalClymphCnodesCbiopsyCrevealedCdi.useClargeB-celllymphoma.HewasdiagnosedwithMTX-LPDbasedonhishistoryoforalMTXuse.MTXdiscontinu-ationwasine.ective,soR-CHOPtherapywasadministered.Fourweeksaftertreatmentinitiation,theocularmani-festationsimprovedrapidlyandtheconcentrationofinterleukin-10intheanteriorchamberwasnormalized.How-ever,CtheCpatientCdiedC7CmonthsCafterCtreatmentCdueCtoCtheCexacerbationCofCaCcentralCnervousCsystemClesion.CConclusion:MTX-LPDmaybeaccompaniedbyVKH-likeocularmanifestations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):389.394,C2023〕Keywords:MTX-LPD,関節リウマチ,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,眼内リンパ腫.methotrexate-associatedlymphoproliferativedisorders,rheumatoidarthritis,serousretinaldetachment,choroidalthickening,intraocularClymphoma.Cはじめにメトトレキサート(methotrexate:MTX)は葉酸代謝拮抗作用を有し抗腫瘍薬として悪性リンパ腫や急性白血病などに用いられる薬剤である.一方でCMTXは低用量で免疫抑制薬として自己免疫疾患にしばしば用いられており,とくに関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に対し,日本では2000年頃より治療の第一選択薬として使用されている.1991年,Ellemanら1)によりCMTX投与中のリンパ腫発症が報告され,同様な症例の報告数増加に伴いメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associatedClymphop-〔別刷請求先〕大久保麻希:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakiOkubo,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-higashi,Osakasayama,Osaka589-8511,JAPANC図1治療前後の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T2W画像)a:初診時右眼前眼部写真.耳側を中心に著明な結膜浮腫を認める.b:治療開始C4週間後の右眼前眼部写真.結膜浮腫は改善している.c:治療前の頭部CMRI.両眼眼球周囲,眼窩に軟部影(.),右眼の漿液性網膜.離を認める(▲).d:治療開始C5カ月後の頭部MRI.眼球周囲,眼窩の軟部影は消失している.roliferativedisorders:MTX-LPD)として疾患概念が確立された.2008年の世界保健機関(WorldCHealthCOrganiza-tion:WHO)によるリンパ系腫瘍の組織分類第C4版では「他の医原性免疫不全症関連増殖性疾患」の一つに分類されている2).MTX-LPDの多くはCRA患者であり,原因は明らかではないものの欧米よりわが国からの報告が多い.病理組織像はびまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫(di.useClargeCB-celllymphoma:DLBCL)がC35.60%,Hodgkinリンパ腫がC12.25%とされる3).60%の症例で節外病変を生じ,肺,骨髄,消化管・皮膚の順に多く4),近年は中枢神経系(centralner-voussystem:CNS)病変の報告が散見される5).一方,筆者らの知る限りでは眼科領域におけるCMTX-LPDは眼窩6)および眼内7)に発症した症例がC1例ずつであり,いずれも全身所見を伴わず眼単独病変である.今回,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似病変で眼症状を発症し,同時に間欠性の発熱や体重減少などリンパ腫に伴う全身症状も出現したMTX-LPDの症例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.3年前にCRAと診断され,プレドニゾロン2.5Cmg/日とサラゾスルファピリジンC1Cg/日で加療されていたが,RAのコントロール不良のため1年前のC12月よりCMTX8Cmg/週を追加されていた.翌年C3月より両眼の視力低下と眼瞼腫脹を自覚,近医眼科で右眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)と両眼脈絡膜肥厚を認めたため,原田病疑いでC4月に近畿大学病院眼科を紹介受診となった.初診時矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.2),眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C7CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両眼の結膜浮腫,前房内炎症C1+,角膜後面沈着物を認めた(図1a).眼底検査で右眼のCSRDを認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼の脈絡e図2初診時眼底写真および治療前後のOCT所見a,b:初診時広角眼底写真(Ca:右眼,b:左眼).硝子体混濁や網膜下腫瘤性病変は認めない.c,d:初診時黄斑部水平断のCOCT(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離を認める.Ce,f:治療開始C4週間後の黄斑部水平断のCOCT(Ce:右眼,f:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離が改善している.膜肥厚がみられた(図2a~d).網膜下の腫瘤性病変や硝子体混濁はみられなかった.急性期原田病にみられる頭痛,頭髪の違和感,耳鳴り,難聴はみられなかったが,全身症状としてC3月頃より間欠性の発熱,体重減少,4月以降には頸部リンパ節腫脹とそれに伴う食事摂取困難を伴っていた.血液検査で白血球数C5,950/μl,血色素量C12.2g/dl,血小板数137,000/μl,CRP6.941Cmg/dl,乳酸脱水素酵素(LDH)989U/l,可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)36,478CU/ml,フェリチンC1,550Cng/dl,EBV-DNA定量C3.18ClogIU/mlであった.全身状態不良のため,蛍光造影検査や眼病巣の生検は困難であったが,前房内のCIL-10,およびCIL-6の測定を行ったところ,IL-10:440Cpg/ml,IL-6:386Cpg/mlであり,眼内リンパ腫を疑う結果であった.血液内科の診察では悪性リンパ腫のCB症状である間欠性の発熱や体重減少がみられたこと,sIL-2RおよびCLDHの異常高値などの所見より悪性リンパ腫が疑われた.頸部および胸腹部CCTで多発する頸部リンパ節腫大(図3a),頭部CMRIでは眼窩周囲に軟部影を認めたがCCNS病変はみられなかった(図1c).頸部リンパ節生検を施行し,大型のリンパ球様の腫瘍細胞のびまん性増殖を認めた.免疫染色で,Bリンパ球表面抗原(CD20)陽性,多数のCKi-67陽性細胞を認めたことから,組織型はびまん性大細胞型(DLBCL)と判断された(図3c,d).MTX投与の既往や病理検査結果からCMTX-LPDと診断された.初診時よりCMTXを休薬していたものの,全身状態図3頸部リンパ節の病理組織検査およびCNS病変a:初診時頸部CCT.リンパ節腫大を複数認める(.).b:治療C7カ月後の頭部CMRI.左前頭部の病変(〇)による脳室圧迫がみられる.c:頸部リンパ節生検.HE染色(×200).大型のリンパ球様腫瘍細胞のびまん性増殖を認める.d:頸部リンパ節生検.CD20染色(×200).CD20陽性細胞を多数認める.の悪化とCsIL-2RがC43,023CU/mlまで上昇したため,初診日よりC2週間後から全身化学療法としてCR-CHOP(リツキシマブ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法を開始した.治療開始C4週間後に視力は右眼(0.9),左眼(0.9)まで改善し,結膜浮腫は消失し(図1b),OCTで両眼の脈絡膜肥厚や右眼のCSRDの改善がみられた(図2e,f).R-CHOP療法をC4クール施行し,治療開始C3カ月後には全身のリンパ節腫脹は縮小,sIL-2Rも579CU/mlまで低下した.しかし,4カ月後のCMRIでCCNS病変が出現しCR-MPV(リツキシマブ,メトトレキサート,オンコビン,プロカルバジン)療法を開始した.5カ月後診察時は両眼(1.0),眼窩軟部影の再燃,SRDおよび脈絡膜肥厚は認めず(図1d),前房水CIL-10:20Cpg/mlと眼病変再燃はみられなかった.しかし,治療開始C6カ月以降にCCNS病変の拡大により脳室圧迫が進行(図3b),CNS病変に対する放射線治療が追加されるも意識障害の出現と全身状態の急激な悪化のため治療開始C7カ月後に死亡した.CII考察本症例はCRAに対するCMTX導入C3カ月後に全身病変とともに原田病類似の眼病変が同時期に出現した患者であった.本症例では初診時の全身状態が不良のため硝子体生検や結膜生検が施行できず細胞診による眼疾患の診断は不可能であったが,前房水CIL-10/IL-6比がC1を超えていたこと,化学療法により早期に眼内病変および結膜病変も改善したこと,前房水中のCIL-10濃度が正常化したことから眼症状もCMTX-LPDに伴うものと考えられた.また,過去のCMTX-LPDに伴う眼病変では全身病変と合併した報告はなく,本症例は,MTX-LPDの全身病変と眼病変を同時期に発症したまれな一例と考えられる.MTX-LPDの発症年齢中央値はC65.70歳,RAの罹病期間中央値はC10年以上,MTXの服用期間中央値はC5.10年とされているが,本症例のようにCMTX内服開始後数カ月で発症することもあり8),MTX服用期間にかかわらずCRAに対しCMTX服用中の患者では常にCMTX-LPDの発症リスクを考え,疑わしい場合には本症例のようにリンパ節生検を行い確定診断することが重要である.本症例の眼病変は脈絡膜肥厚とCSRDを伴っており原田病が鑑別疾患としてあげられる.全身状態として発熱や倦怠感があったものの,原田病に特徴的な頭痛,難聴,皮膚症状はみられず,化学療法中もプレドニゾロンの増量なく眼病変は改善しており,症状や経過から原田病とは一致しないと考えられた.プレドニゾロンの投与歴やCOCT所見からは中心性漿液性網脈絡膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)の可能性も考えられるが,結膜浮腫や前房内炎症の眼随伴所見が一致せず,化学療法で脈絡膜肥厚も含め眼病変が改善していることからCCSCも否定的と考えられた.眼科領域におけるCMTX-LPDの報告は少ないが,本症例は頸部リンパ節の生検の結果,DLBCLであったことから,DLBCLが約C95%を占める眼内リンパ腫(intraocularClym-phoma:IOL)と類似した病態であることが予想される.IOLでみられる所見は硝子体混濁(91%)や網膜下の腫瘤性病変(57%)が多く,虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%),網膜血管炎(10%)など多彩であるが9),原田病に類似したCSRDや脈絡膜肥厚を伴う症例はCFukutsuらの報告を含む数例のみである10).Soneら7)は硝子体混濁が主体とするMTX-LPDの眼内病変に対して硝子体手術とCMTX休薬で軽快した症例を報告しており,MTX-LPDにおいてもさまざまな眼所見や経過を呈する可能性がある.IOLでみられるSRDや脈絡膜肥厚のメカニズムは明らかではないが,Chanら11)はCIOL眼の脈絡膜生検の結果として網膜と網膜下に悪性リンパ腫細胞,脈絡膜にはCT細胞が存在すること,このT細胞は腫瘍細胞に対する免疫反応を反映し,T細胞の増加が脈絡膜間質の面積の増加に寄与していると考えられることを報告している.一方,リンパ腫細胞の脈絡膜浸潤の可能性も否定されておらず,Fukutsuら10)はCIOLにおいても腫瘍細胞による脈絡膜肥厚と循環障害がCSRD出現に関与していると推測している.以上のことから本症例においても脈絡膜における炎症性細胞もしくはリンパ腫細胞の急激な浸潤による脈絡膜肥厚と脈絡膜循環障害によりCSRDが生じた可能性が考えられる.MTX-LPDの機序は不明な点も多いが,RAなどの自己免疫疾患による慢性炎症やCMTXの投与によるリンパ増殖抑制機能低下がCLPD発症に関与すると考えられている.また,EBVの関与も指摘されており,MTX投与による免疫抑制がCEBVを再活性化することでリンパ増殖をきたすとされ,MTX-LPD患者のC60%がCEBV陽性である12).MTX-LPDを疑った場合は,MTXを休薬することで約C2/3の患者で病変は自然退縮するが,自然退縮が得られなかった症例では化学療法が行われる.徳平ら13)はCDLBCL群では非退縮率が高い傾向にあり,またCMTX-LPD発症時のCCRP,LDH,sIL-2Rが高い群(平均値CCRP5.6Cmg/dl,LDH403.5CIU/l,CsIL-2R3,100CU/ml)では非退縮例が多いと報告している.本症例ではCMTXを休薬するも全身状態悪化とCsIL-2Rのさらなる上昇がみられたため化学療法を行った.化学療法により眼内病変や結膜病変はC1カ月以内に消失し視力の改善も得られたが,4カ月後にCCNS病変が出現し,7カ月後にCCNS病変増悪のため死亡した.EBV陽性であったことからMTX-LPDの発症リスクを有し,また組織型のCDLBCLと初診時のCCRP,LDH,sIL-2Rの値が大幅に非退縮群の平均値を上回っていたことから予後不良群であったと考えられる.IOLではC16%の症例で眼病変の診断時にCCNS病変の既往があり,眼病変の診断時にはCCNS病変を伴わない症例においても,経過中にCCNS病変を発症する症例も多く,眼病変とCCNS病変は前後して発症することが多い9).同様に眼病変を伴うCMTX-LPDではCCNS病変を後に発症する可能性があるため,経過観察中CCNS病変の出現に注意する必要があると考えられる.今回筆者らは,MTX服用中に原田病類似の眼病変および全身のリンパ腫病変を生じたC1例を経験した.MTXを休薬するも改善なく,化学療法で眼病変は改善したものの半年後に発症したCCNS病変により不幸な転帰をたどった.MTX-LPDでは原田病類似の眼病変を合併する可能性があり,MTX服用中のCRA患者で原田病に似た病変を呈する患者では,MTX-LPDを鑑別疾患にあげる必要があると考えられた.利益相反:日下俊次[F]参天製薬千寿製薬文献1)EllmanCMH,CHurwitzCH,CThomasCCCetal:LymphomaCdevelopingCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCtakingClowCdoseCweeklyCmethotrexate.CJCRheumatolC18:1741-1743,C19912)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,4thedition,volume2,IRAC,2008C3)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,revised4thedition,Volume2,IRAC,20174)TokuhiraM,SaitoS,OkuyamaAetal:Clinicopathologicinvestigationofmethotrexate-inducedlymphoproliferativedisorders,CwithCaCfocusConCregression.CLeukCLymphomaC59:1143-1152,C20185)UnedaCA,CHirashitaCK,CKandaCTCetal:PrimaryCcentralCnervousCsystemCmethotrexate-associatedClymphoprolifera-tivedisorderinapatientwithrheumatoidarthritis:casereportandReviewofLiterature.NMCCaseRepJC7:121-127,C20206)KobayashiCY,CKimuraCK,CFujitsuCYCetal:Methotrexate-associatedorbitallymphoproliferativedisorderinapatientwithCrheumatoidarthritis:aCcaseCreport.CJpnCJCOphthal-molC60:212-218,C20167)SoneK,UsuiY,FujiiKetal:Primaryintraocularmetho-trexate-relatedClymphoproliferativeCdisorderCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCundergoingClong-termCmetho-trexateCtherapy.COculCImmunolCIn.ammC29:456-459,C2021C8)BurgCMR,CSchneiderSW:EarlyConsetCofCmethotrexate-associatedClymphoproliferativeCdisorderCmimickingCHodg-kin’slymphoma.HautarztC73:71-74,C20229)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoCHCetal:ClinicalCfeaturesCandCdiagnosticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C201210)FukutsuCK,CNambaCK,CIwataCDCetal:Pseudo-in.am-matoryCmanifestationsCofCchoroidalClymphomaCresemblingCVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmultimodalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C202011)ChanCC:MolecularCpathologyCofCprimaryCintraocularClymphoma.CTransCAmCOphthalmolCSocC101:275-292,C200312)IchikawaCA,CArakawaCF,CKiyasuCJCetal:Methotrexate/CiatrogenicClymphoproliferativeCdisordersCinCrheumatoidarthritis:histology,CEpstein-BarrCvirus,CandCclonalityCareCimportantCpredictorsCofCdiseaseCprogressionCandCregres-sion.EurJHaematolC91:20-28,C201313)徳平道英,木崎昌弘:臨床的視点から理解するメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患.臨床血液C60:932-943,C2019C***

非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1622.1624,2017c非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例多田篤史西村智治町田繁樹獨協医科大学越谷病院眼科CAtypicalCaseofVogt-Koyanagi-HaradaSyndromewithSpontaneousResolutionAtsushiTada,TomoharuNishimuraandShigekiMachidaCDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital目的:漿液性網膜.離(SRD)と脈絡膜の肥厚が認められたが,Vogt-小柳-原田病(原田病)の診断に至らず,経過観察した症例を報告する.症例:症例はC29歳女性で出産後C8カ月の授乳婦である.1カ月前からの視力低下を主訴に紹介受診した.眼外症状なし.初診時の矯正視力は両眼C1.0で,光干渉断層計(OCT)では,両黄斑部のCSRDおよび脈絡膜肥厚が認められた.蛍光眼底造影では本症の典型的所見はみられなかった.原田病を疑ったが,授乳婦であったため,ステロイド全身投与は行わず厳重に経過観察した.SRDおよび脈絡膜肥厚は,それぞれ初診からC1およびC2カ月で消失した.自覚症状は改善したが,夕焼け状眼底を呈した.初診からC17カ月まで炎症の再燃はなく経過した.結論:本症例は,経過観察中に脈絡膜肥厚の改善および夕焼け状眼底が観察されたことから,軽症で非典型的な原田病と考えられ,ステロイド治療なしでも寛解が得られた.CPurpose:WeobservedacaseinwhichVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome(Harada’sdisease)washighlysus-pectedCbecauseCofCtheCpresenceCofCbilateralCmacularCdetachmentCandCchoroidalCthickening.CCasereport:A29-year-oldfemalevisiteduscomplainingofblurredvisioninbotheyes.Shehadserousretinaldetachmentsandchoroidalthickeningthatdidnotshowtypicalangiographic.ndings.AlthoughHarada’sdiseasewassuspected,shewasCobservedCwithoutCsystemicCadministrationCofCcorticosteroidsCbecauseCsheCwasClactating.CTheCserousCretinalCdetachmentsandchoroidalthickeningdisappeared1and2monthsaftertheinitialvisit,respectively.Sunsetfundidevelopedwithoutleavingintraocularin.ammatorychangesonthefollowingvisits,until17months.Conclusions:CSinceimprovementofchoroidalthickeninganddevelopmentofsunsetfundiwereseenduringobservation,shewasdiagnosedashavingHarada’sdisease.TherecanbecasesofHarada’sdiseasewithmildin.ammationinwhichsys-temicadministrationofhigh-dosecorticosteroidsmaynotbenecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1622.1624,C2017〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,夕焼け状眼底,授乳婦.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,serousretinaldetachment,choroidalthickening,sunsetfundus,lactating.CはじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)は,全身のメラノサイトに対する自己免疫反応による汎ぶどう膜炎である.症状は,前駆期に感冒様症状が多く,眼外症状では,耳鳴り,難聴,頭皮違和感などが認められる.急性期所見では,肉芽腫性の前眼部炎症,毛様体の浮腫と脈絡膜.離による浅前房,両眼性の胞状・多房性の漿液性網膜.離および視神経乳頭の浮腫がみられ,回復期の所見として,夕焼け状眼底および眼底周辺部の斑状網脈絡膜萎縮病巣などがあげられる1).治療としてはステロイド大量投与あるいはステロイドパルス療法が行われ,治療後の視機能は良好である.今回筆者らは,両側の漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚が認められたが,典型的な造影所見を呈さず,軽症の原田病と考えられた一例を経験した.授乳婦であったため,ステロイド全身投与を行わず経過観察したところ,夕焼け状眼底を呈して治癒した.眼所見,経過および原田病の国際診断基準2)から,probableCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndromeと思われた原田病と考えられた.〔別刷請求先〕町田繁樹:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷C2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:ShigekiMachida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minamikoshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPAN1622(138)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(138)C16220910-1810/17/\100/頁/JCOPYI症例患者:29歳,女性.主訴:1カ月前から両眼の霧視感.既往歴:橋本病(経過観察),授乳婦,アレルギー歴や常用の内服薬なし,妊娠高血圧症などの既往はない.現病歴:数日前から両眼の霧視感で近医を受診した.両眼底の視神経乳頭から黄斑にかけて漿液性網膜.離が認められ,ピット黄斑症候群の疑いで当院へ紹介受診となった.頭痛,難聴,感冒様症状などの全身症状はなかった.初診時所見:視力は,右眼C1.0(1.0C×.0.75D),左眼C1.0(1.0C×.1.00D),眼圧は両眼11mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では前房および硝子体内に炎症所見はなく,眼底所見として,両眼の黄斑部に漿液性網膜.離が認められたが,視神経乳頭に乳頭小窩は観察されなかった(図1a,b).また,図1初診時の眼底所見とフルオレセイン蛍光眼底造影の後期像右眼左眼初診時初診から1週間後初診から2カ月後図3初診時,初診から1週および2カ月の光干渉断層像矢印は脈絡膜と強膜との境界を示している.眼底の色調は正常であった.前房隅角所見では,周辺虹彩前癒着はなく,軽度の色素沈着が観察された.フルオロセイン蛍光眼底造影(fluoresceinCangiography:FAG)(図1c,d),およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocya-ninCgreenCangiography:ICGA)でも,後期の低蛍光斑を含めた特徴的な所見は認められなかった(図2).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)検査では,両眼の黄斑部の網膜.離が認められ,脈絡膜の肥厚が疑われた(図3).全身検査所見:採血結果はASTC17U/l,ALT11U/l,ALPC165CU/l,LDH367CU/l,gGTPC17CU/l,CNaC140Cmmol/l,KC4.1Cmmol/l,CUNC9Cmg/dl,CrC0.7Cmg/dl,WBCC7300/ul,RBCC464万/ul,PLT33.5万/ul,CRPC0.06Cmg/dl.HLA検査ならびに髄液検査は患者から同意が得られず,施行しなかった.経過:難聴,頭痛,皮膚症状などの身体症状に乏しかったが,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの眼底所見およびOCT所見から原田病を疑った.鑑別診断として,中心性漿液性網脈絡膜症,後部強膜炎,uvealCe.usionCsyndromeおよび妊娠中毒症があげられたが,FAGおよびCICGAでこれ図2初診時のインドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影上段:初期像,下段:後期像.C図4初診から3カ月後の眼底所見(139)Cあたらしい眼科Vol.34,No.11,2017C1623らの疾患を示唆する所見は認められなかった.原田病の確定診断に至らず授乳婦であり,ステロイドの全身投与が授乳に与える影響を考慮し,患者と相談のうえ,無治療で厳重に経過観察とした.また,前眼部の炎症も認められなかったため,ステロイド点眼も行わなかった.初診からC1週間後,視力は両眼C1.2(n.c.)となり,霧視感は改善した.OCTでは両眼とも漿液性網膜.離は減少していた(図3).漿液性網膜.離は初診からC1カ月後で消失した.初診からC2カ月後,漿液性網膜.離の再発はなく,脈絡膜と強膜の境界線が明瞭となり(図3,矢印),脈絡膜の肥厚が改善していた.初診からC3カ月後には眼底の色素は脱失し,いわゆる夕焼け状眼底を呈した(図4).初診からC17カ月まで漿液性網膜.離の再発ならびに炎症所見はみられずに経過している.経過中に皮膚白斑や白髪などの全身所見はみられなかった.CII考按本症例は,経過観察のみで治癒した軽症型の原田病と考えられる.原田病は診断後早期にステロイド全身投与することが多い3).ステロイドにより経過が修飾され,本来の重症度の評価が困難である3).また,軽症例の明確な基準はなく,報告も少ない3).筆者が調べた限り,無治療で緩解した報告は非常に少なく3,4),本症例は貴重なC1症例と考えられる.本症例は授乳婦であり,ステロイド全身投与を回避した.ステロイドの母乳への移行は,母体血中濃度のC5.25%程度と報告され5),ステロイドが乳児に移行する場合,乳児の成長障害が問題となる5,6).したがって,授乳婦に対して大量ステロイド療法を行う場合は,ステロイド投与と授乳の間隔を設けることや,母乳からミルクに切り替えることを考慮する必要がある.本症例の初診時では,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの所見が原田病に合致したが,炎症所見がなく,造影所見は典型的所見を呈さなかった.初診時に原田病の診断に至らなかったが,経過中に夕焼け状眼底を呈したことで原田病と確定診断できた.本症例のように,夕焼け状眼底により原田病と確定診断した症例は報告されている7).一方で,速やかに消炎した場合,回復期に夕焼け状眼底を呈さないことがある3).夕焼け状眼底は必ずしも無症状ではなく,コントラスト感度の低下あるいは後天性色覚異常が報告されている7).ステロイドパルス療法を行った場合,夕焼け状眼底の頻度が少なく視力予後が良好であったとの報告があり6),速やかな消炎により夕焼け状眼底を回避できると考えられ,本症例のように経過観察のみの軽症例が夕焼け状眼底を呈しやすいのかもしれない3).本症例が軽症型として発症した原因として,妊娠もしくは授乳が要因の可能性がある.免疫寛容状態にある妊婦は原田病に罹患しにくいとういう報告もある6).過去の報告では,妊娠中に発症した原田病に対し,ステロイドパルス療法もしくはステロイドCTenon.下注射など局所治療により,いずれも緩解し,比較的良好な経過をたどっている8.11).原田病が妊娠を契機に自然軽快あるいは妊娠中に自然治癒したとの報告がある12).授乳期における原田病の発症は,筆者が調べた限りその報告はなく,授乳と原田病の経過との関係は不明である.しかし,ぶどう膜炎と月経との関連を指摘する報告では,エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンとぶどう膜炎の消長との間の関連を推察しており12),月経直前から月経中に症状が悪化する症例が報告されている.授乳期では月経が休止するため,原田病の自然経過に好影響を与えた可能性がある.文献1)丸尾敏夫,本田孔子,薄井正彦ほか:ぶどう膜,眼科学第2版(大鹿哲郎編),p307-310,文光堂,20112)RussellCWR,CCaryCNH,CNarsingCARCetCal:RevisedCdiag-nosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJOphthalmolC131:647-652,C20013)早川むつ子,穂積沙紀,小沢佳良子ほか:原田病軽症例の臨床所見.眼臨C87:637-644,C19934)NoharaCM,CNoroseCK,CSegawaCK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCduringCpregnancy.CBrCJCOphthalmolC79:94-95,C19955)蕪城俊克:眼科におけるステロイド大量全身投与目的,薬剤選択と投与量,投与前検査,注意すべき症例.眼科C58:285-291,C20166)小林崇俊,丸山耕一,庄田裕美ほか:妊娠初期のCVogt-小柳-原田病にステロイドパル療法を施行したC1例.あたらしい眼科C32:1618-1621,C20157)安積淳:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療1.病態:定型例と非定型例.眼科47:929-936,C20058)奥貫陽子,後藤浩:【眼科薬物療法】ぶどう膜Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,C20129)MiyataCN,CSugitaCM,CNakamuraCSCetCal:TreatmentCofCVogt-Koyanagi-Harada’sCdiseaseCduringCpregnancy.CJpnJOphthalmolC45:177-180,C200110)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病のC1例.眼紀C57:614-617,C200611)正木究岳,林良達,劉百良ほか:トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射が奏効した妊婦の原田病のC1例.あたらしい眼科C28:711-714,C201112)高橋任美,杉田直,山田由季子ほか:ぶどう膜炎と月経との関係に関する調査.臨眼C63:1281-1283,C2009***(140)