———————————————————————-Page1(121)11670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11671172,2008cはじめに腫瘍随伴症候群(paraneoplasticsyndrome)は,腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果により,悪性腫瘍患者にさまざまな症状を随伴するもので,腫瘍に対する抗体が,交差反応を起こすという自己免疫機序により発症すると考えられている.眼科領域では網膜が障害される疾患として,上皮由来の〔別刷請求先〕古田祐子:〒453-0801名古屋市中村区太閤3-7-7名古屋セントラル病院眼科Reprintrequests:YukoFuruta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,3-7-7Taiko,Nakamura-ku,Nagoya-shi453-0801,JAPAN腫瘍随伴視神経症と考えられた1例古田祐子*1,2中村誠*2熊谷あい*2西原裕晶*2青木はづき*3寺崎浩子*2*1名古屋セントラル病院眼科*2名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室*3一宮市民病院神経内科ACaseofPresumedParaneoplasticOpticNeuropathyYukoFuruta1,2),MakotoNakamura2),AiKumagai2),HiroakiNishihara2),HazukiAoki3)andHirokoTerasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,NagoyaUniversity,3)DepartmentofNeurology,IchinomiyaMunicipalGeneralHospital68歳,男性が,2週間前からの右眼視力低下を自覚して受診した.初診時視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2)で,前眼部・眼底に視力低下の原因となるような所見を認めず,蛍光眼底造影,網膜電図,頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)上も正常であった.副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイドと略す)パルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかし1カ月後には右眼視力は光覚()に低下し,左眼視力も20cm指数弁に低下した.左眼にも視力低下の原因となる所見はみられなかった.再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を施行したところ,一時的に右眼視力は指数弁,左眼視力は(0.3)に回復したが,発症約4カ月後には右眼光覚(),左眼手動弁となった.経過中,知覚異常,意識障害など原因不明の神経症状がみられ,発症約5カ月目には頭蓋内に異常を認めない小脳失調症状を発症した.精査にて肺癌と肝臓への多発転移が認められたため,これらの神経症状は,腫瘍随伴症候群による亜急性小脳変性症と考えられた.このことから,視力障害は腫瘍随伴視神経症によるものと考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,腫瘍随伴視神経症の可能性も考慮する必要があると考えられた.Wereportthecaseofa68-year-oldmalewithparaneoplasticopticneuropathysecondarytolungcancer.Thepatientnoticedprogressivevisuallossinhisrighteye;hisbest-correctedvisualacuity(BCVA)wasreducedtohandmotion(HM)OD.Noabnormalitywasfoundbyslit-lampexamination,funduscopy,uoresceinangiography,electroretinogramorbraincomputedtomography(CT)/magneticresonanceimaging(MRI).AftertreatmentincludingsystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2a,hisBCVAODimprovedto0.01;however,itreducedtolightsense(LS)()after1month.AtthistimehisBCVAOSwasalsoreducedtocountingingers(CF)from1.2.SystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2awereadministeredagainandhisBCVAtempo-rarilyimprovedtoCFODand0.3OS,butreducedtoLS()ODandHMOSafter2months.At5monthsheshowedcerebellarataxia;meanwhile,lungcancerandmultiplemetastasistotheliverhadbeenfoundbychestX-rayandCTscan.Hewasthendiagnosedwithparaneoplasticneurologicalsyndrome,hisvisuallossbeingduetoparaneoplasticopticneuropathy.Paraneoplasticneurologicalsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithvisuallossofunknownetiology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11671172,2008〕Keywords:腫瘍随伴視神経症,腫瘍随伴小脳変性症,肺癌.paraneoplasticopticneuropathy,paraneoplasticcer-ebellardegenerations,lungcancer.———————————————————————-Page21168あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(122)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成16年1月14日,2週間前から右眼の視力低下を自覚したため,近医眼科を受診した.視力低下の原因が不明のため,平成16年1月19日名古屋大学眼科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼10cm手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2×+1.75D(cyl0.50DAx110°)で,眼圧は両眼とも13mmHg.前眼部,中間透光体には両眼とも異常がみられなかった.瞳孔反応は右眼の相対的瞳孔求心路障害(rela-tiveaerentpapillarydefect:RAPD)が陽性であった.眼底は右眼黄斑部にわずかな色素性変化がみられたが,他に異悪性腫瘍に合併する癌関連網膜症(cancer-associatedretin-opathy:CAR)と,悪性黒色腫に合併する悪性黒色腫関連網膜症(melanoma-associatedretinopathy:MAR),および視神経が障害される疾患として,腫瘍随伴視神経症(parane-oplasticopticneuropathy:PON)が知られている.今回筆者らは,PONと考えられる1例を経験した.I症例患者:68歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:脳梗塞(50歳),腹部大動脈瘤(63歳).ab1初診時の眼底写真a:右眼,b:左眼.右眼黄斑部にわずかな色素性の変化がみられたが,他には特記すべき異常はみられない.ab2初診時の蛍光眼底造影写真a:右眼,b:左眼.特に異常はみられない.図3初診時のGoldmann動的量的視野検査右眼鼻上側に孤島状の残存が検出された.左眼は正常であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081169(123)て抗生物質投与による治療をうけた.また失禁,しびれ感,意識消失発作,呂律障害などの神経症状がみられたため脳外科,神経内科を受診し,MRI,脳血流シンチグラフィーによる検索が行われたが,神経症状の原因は不明で,多発性硬化症の可能性も否定された.またLeber遺伝性視神経症の可能性を考え,ミトコンドリア遺伝子の11778番塩基の検索を行ったが,点変異はみられなかった.約1カ月後の4月17日,視力は右眼光覚(),左眼20cm手動弁と,改善が得られないまま退院となった.約2カ月後の平成16年6月6日,嘔気,嘔吐,歩行困難などの小脳失調症状が現れ,一宮市民病院に緊急搬送され入院した.髄膜刺激症状はみられず,髄膜炎の可能性はないと考えられた.頭部CT/MRIでは,この神経症状の原因となる病変を認めなかったが,胸部X線写真および胸部CTでは,左肺野S6領域に肺癌(腺癌)と考えられる異常陰影がみられ(図6),腹部CTでは肝臓内に多発性の転移巣を認めた(図7).これらのことから小脳失調症状は,腫瘍随伴症候群のうち腫瘍随伴神経症候群に属する亜急性小脳変性症(subacutecelleblardegeneration)1)と,同院神経内科にて診断された.亜急性小脳変性症は肺癌に合併したものが多く,PONを合併する場合もあると報告されているため1),これらの臨床経過より,本症例は腫瘍随伴神経症候群に属するPONにより,視力障害をきたしたと考えられた.経気管支鏡生検を施行したが,肺癌の組織像を明らかにすることはできなかった.同院呼吸器内科にて6月18日より3クールの化学療法〔カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル常はみられず,視神経乳頭にも異常はみられなかった(図1).蛍光眼底造影でも異常は認めず,腕-眼時間は正常であった(図2).Goldmann視野では,右眼は鼻上側に孤島状の視野の残存を認めるのみで,左眼は正常であった(図3).網膜電図(electreoretinogram:ERG)の反応は,左右ともに正常であった(図4).光干渉断層計(opticalcoherencetomo-graphy:OCT)では,両眼とも黄斑部網膜厚は正常で,視神経乳頭周囲の神経線維層の厚さも全周にわたり正常範囲であった.頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)では,陳旧性の脳梗塞がみられたが,ほかに異常は認められず,占拠性病変や副鼻腔炎,視神経の炎症所見などはみられなかった.念のため脳外科,神経内科,耳鼻科を受診したが,特に異常はないとのことであった.経過:平成16年1月20日より名古屋大学医学部附属病院に入院し,ステロイドパルス療法(ソル・メドロールR1,000mg×3日間後,プレドニンR40mg/日から漸減)およびプロスタグランジン製剤投与(パルクスR10μg×14日間)を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかしその後指数弁に低下し,2週間後退院となった(図5).退院約3週間後の平成16年2月23日,左眼の急激な視力低下を自覚し,翌2月24日再診した.このとき左眼視力は20cm指数弁で,右眼も光覚()となっていた(図5).両眼とも前眼部,眼底に変化はなく,視力低下の原因となるような異常はみられなかった.同日より再入院して再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,2週間後の3月8日に視力は右眼光覚(+),左眼(0.3)に改善したが,この回復は一時的で,その後再び徐々に低下した(図5).3月12日に測定された限界フリッカー値は,右眼は測定不可能,左眼は8Hzと著しく低下していた.右眼の視神経乳頭は徐々に蒼白化した.この2回目の入院中,発熱を伴う尿路感染症のため,内科および泌尿器科に図4初診時の網膜電図(ERG)左右とも正常であった.1,0001,0004040303020201010155メチルプレドニロン投与(mg)視力1/192/22/163/23/163/304/13パルクスR10μg投与1.20.30.01CFHMLS(+)LS(-)0.1:右眼:左眼図5経過表———————————————————————-Page41170あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(124)から否定的であり,症状を説明できる明らかな異常を認めなかった.このため当初診断に苦慮し,経過中は除外診断的に後部虚血性視神経症として,ステロイドパルス療法を主体とする治療を行った.しかし両眼に続けて発症したことなどから,この診断にも疑問が残った.その後肺癌が発見され,この症例でみられた原因不明の小脳失調症状は,腫瘍随伴神経症候群(paraneoplasticneurologicsyndrome:PNS)の古典的症候である亜急性小脳変性症と診断された.これにより初めて,視力低下の原因もPNSの一症状であるPONと考えられるに至った.PNSの診断に関しては,近年Grausらが診断基準を提唱している1).これによれば,PNSで起こるさまざまな症候群を,古典的症候と,非古典的症候に分けて考えており,それぞれに付随する状況から,deinitePNSとpossiblePNSの2段階の診断基準を設けている.古典的症候には,しばしば癌と関連があるとされるencephlomyelitisやlimbicenchep-hlitis,chronicgastrointestinalpseudo-obstraction,Lam-bert-Eaton症候群など8つの神経症候群が定められており,亜急性小脳変性症もこれに含まれる.発症した神経症状が古典的症候と考えられる場合には,ほかに考えられる症状の原因となる神経疾患などを除外したうえで,①神経症状の診断と原因と考えられる癌の発現が[5年以内で]ある,②明らかな癌の存在はないが,癌関連自己抗体のうちPNSと強く関連があるとされるもの[抗CRMP-5(CV2),Yo,Hu,Ri,Ma2,amphysin抗体]が検出されている,のいずれかであればdeinitePNSとするとされている.本症例は小脳失調症状発症直後に肺癌が認められており,ほかに神経症状の原因となりうる病変を認めないことから,deinitePNSに相当した.一方,PONやCAR,MARは古典的症候には含まれず,Grausらの診断基準のなかでは,現在のところ眼症状単独ではPNSの診断の根拠に用いることは推奨されていない.本症例の直接の死因となったイレウスの原因は,剖検が得(TXL)〕が施行されたが,1カ月後にイレウスを発症し,平成16年7月19日に永眠した.剖検は得られなかった.II考按眼底に異常を認めず急激な視力障害を生じる疾患には,①頭蓋内疾患(脳腫瘍・下垂体腫瘍・水頭症・癌の脳転移など),②鼻性視神経炎(後部副鼻腔の膿胞・副鼻腔炎による),③球後視神経炎(多発性硬化症,ウイルス性),④眼窩疾患(眼窩内腫瘍・眼窩蜂窩織炎・眼窩先端症候群など),⑤網膜疾患(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOORなど),⑥遺伝性視神経症(Leber病),⑦後部虚血性視神経症が鑑別として考えられる.これらのうち本症例では,頭蓋内疾患,鼻性視神経炎,球後視神経炎は脳外科,神経内科,耳鼻科で否定され,眼窩疾患はCT/MRIで異常がないこと,網膜疾患はERGが正常であったこと,Leber病は遺伝子検査図63回目の入院時(平成16年6月)の胸部X線写真(左図)と胸部CT(右図)胸部X線写真(左図)では左肺野に肺癌と考えられる陰影(矢頭)が認められ,胸部CT(右図)では左肺野S6領域に肺癌と考えられる陰影(矢頭)を認めた.図73回目入院時(平成16年6月)の腹部CT肝臓内に癌の転移と思われる多発性の低吸収域が認められた(矢頭).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081171(125)症例と同様,急激な視力低下を生じ,視神経以外の中枢または末梢神経症状を伴っていた.またこれらのうちの多くは視神経乳頭浮腫を伴っており,PONでは視神経乳頭浮腫を伴う場合が多いと考えられるが,伴わない場合もある3).PONをきたす原疾患としては,肺小細胞癌が最も多いが,さまざまな原発巣から発症した報告がある(表1).PNSの多くでは,腫瘍の発見に先立ち神経症状が発症するため,これが腫瘍の発見に貢献するとされている8).眼科関連の腫瘍随伴症候群であるCARやMARでも,しばしば腫瘍の発見よりも眼症状が先行するが,本症例のように,PONでも原因となる腫瘍の発見に先立ち眼症状が発症することがある.このため原因不明の視力障害をきたした症例では,これらの疾患の可能性も念頭に置き全身的検索を進める必要がある.CARとMARではERGに明らかな異常が検出されることが診断に役立つ.しかしPONの場合には,視神経乳頭炎から重篤な網膜炎などを合併した場合にERGに異常をきたす場合もあるが,通常は必ずしもERGに異常をきたさない2).このため原因不明の視力障害では,ERGに異常がみられなくても腫瘍随伴症候群の可能性があることに留意する必要がある.PONでは経過中に小脳失調症状などの視神経症以外の神経症状を示すことが多く2),これが診断の一助になると考えられるが,本症例では視神経症以外の神経症状が遅れて発症したことにより,初期の診断がより困難であったと考られなかったため明らかにはされなかったが,PNSの末梢神経症状の一つに,先に述べた古典的症候のchronicgastro-intestinalpseudo-obstractionがあり,イレウスもPNSのために発症した可能性があると考えられた.PNSは腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果によって神経系が障害される疾患群で,腫瘍が産生した抗原に対してできた抗体が,神経系と交差反応を起こすという自己免疫機序によると考えられている1).腫瘍の遠隔効果による視力低下をきたす疾患としては,網膜が障害されてERGに反応の低下をきたすCARとMARが広く知られているが,ERGに必ずしも変化をきたさないPONの場合もあることに留意すべきだと考えられる.PONはCARやMARよりも頻度は低いと考えられ,筆者らが調べた限りでは,PONは,現在までに,海外で30例前後25),わが国では3例の報告があった6,7)(表1).これらの多くは本表1腫瘍随伴視神経症(Paraneoplasticopticneuropathy)関連疾患症例数報告者肺小細胞癌18例Bennetetal.BrJChest,1986Watersonetal.AustNZMed,1986DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Crossetal.(9例)AnnNeurol,2003Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006など肺腺癌1例大平ほか.眼科,1990悪性リンパ腫2例Coppetoetal.JClinNeuroophthalmol,1988Henchozetal.KlinMonatsblAugenheilkd,2003神経芽細胞腫1例Kennedyetal.PostgradMedJ,1987腎癌2例Hoogenaadetal.Neuroophthalmology,1989Crossetal.AnnNeurol,2003胃癌1例日下部ほか.臨眼,1994気管支癌1例Pillayetal.Neurology,1984喉頭癌1例日下部ほか.臨眼,1994鼻咽腔癌1例Hohetal.SingaporeMedJ,1991表3PONと関連のある自己抗体原因となる自己抗原症例数報告者CRMP5(CV2)10例Yuetal.AnnNeurol,2001DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006Yo2例Petersonnetal.Neurology,1992表2腫瘍関連自己抗体合併症状原因疾患認識する抗原抗Hu抗体(ANNA-1,typeⅡa)脳脊髄炎,感覚ニュロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌神経芽腫前立腺癌など中枢神経細胞核(HuR,Hel-N1,HuC/ple21,HuD)抗Ri抗体(ANNA-2,typeⅡb)オプソクローヌスミオクローヌス乳癌中枢神経細胞核(Nova-1)抗Yo抗体(PCA1)腫瘍随伴小脳変性症乳癌卵巣癌子宮癌など小脳Purukinje細胞抗CRMP5抗体(CV2)脳脊髄炎感覚ニューロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌末梢・中枢神経細胞———————————————————————-Page61172あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(126)文献1)GrausF,DelattreJY,AntoineJCetal:Recommendeddiagonosticcriteriaforparaneoplasticneurologicalsyn-dromes.JNeurosurgPsychiatry75:1135-1140,20042)CrossSA,SalamaoDR,ParisiJEetal:ParaneoplasticautoimmuneopticneuritiswithretinitisdeinedbyCRMP-5-IgG.AnnNeurol54:38-50,20033)ChanJW:Paraneoplasticretinopathiesandopticneuropa-thies.SurvOphthalmol48:12-38,20034)SheorajpandayR,SlabbynchH,VanDeSompelWetal:Smallcelllungcarcinomapresentingasparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:168-172,20065)LuizJE,LeeAG,KeltnerJLetal:Paraneoplasticopticneuropathyandautoantibodyproductioninsmall-cellcar-cinomaofthelung.JNeuro-ophthalmol18:178-181,19986)大平明彦,井上泰,福田直子ほか:Paraneoplasticopticneuropathyの1例.眼科32:1519-1522,19907)日下部健一,池田博之,溝田淳:Paraneoplasticopticneuropathyと考えられた2症例.臨眼88:1354-1357,19948)田中正美,田中恵子:抗Yo抗体と傍腫瘍小脳変性症.医学のあゆみ201:185-187,20029)PetersonK,RosenblumMK,KotanidesHetal:Paraneo-plasticcerebellardegeneration,I:aclinicalanalysisof55anti-Yoantibody-positivepatients.Neurology42:1931-1937,199210)CalvertPC:ACR(I)MPintheopticnerve:Recogni-tionandimplicationsofparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:165-167,200611)GuyJ,AptsiauriN:Treatmentofparaneoplasticvisuallosswithinteravenousimmunoglobulin.ArchOphthalmol117:471-477,1999えられる.近年,PNSの原因と考えられるいくつかの腫瘍関連自己抗体が患者血清より同定されている(表2)が,PONでは抗CRMP-5(CV2)抗体が検出された例が最も多く報告されており2),他に抗Yo抗体が検出されたとの報告もある9)(表3).本症例では抗CRMP-5(CV2)抗体,抗Yo抗体,およびPNSで比較的高い頻度で検出される抗Hu抗体や抗Ri抗体1)についても検討したが,いずれも血清から検出されなかった.PONに対する治療に関しては,原因腫瘍に対する治療が第一とされ10),これにより視力が改善したという報告がある2,10)が,視力の改善が得られなかった症例も多い10).また,PONへの対症療法として,ステロイド投与や,g-グロブリン投与の行われた報告もあり,劇的に回復したとされる症例がある10,11).しかしこれらの薬物を投与しても効果が得られない場合もあり,現在のところ,PONに対する治療法は確立されていない10).本症例では,腫瘍に対する治療の前に2回ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤投与が行われたが,その結果,いずれの場合も一時的に視力の改善がみられた.その後再び視力障害は進行したが,これらの薬剤がPONに対し有効であった可能性があると考えられる.PONの治療法に関しては,今後の症例の積み重ねが必要であると考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,PONの可能性も考慮する必要がある.視神経乳頭浮腫がみられ,ほかには眼底に異常がみられず,中心暗点などの視野異常が検出されるといった,視神経炎様の所見を呈する場合は,PONの可能性を考える必要があるが,PONでは視神経乳頭浮腫もみられず,眼底にまったく異常を呈さない場合もあるので注意が必要と考えられた.***