———————————————————————-Page11426あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)1426(98)0910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14261432,2008c〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,PhD.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPANニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果─正常眼圧緑内障における検討─桑山泰明*1狩野廉*1中田敦子*1鈴木三保子*1菅波秀規*2,3浜田知久馬*3吉村功*3*1大阪厚生年金病院眼科*2興和株式会社臨床解析部*3東京理科大学大学院工学研究科EfectofNipradilolonCircadianVariationofIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaYasuakiKuwayama1),KiyoshiKano1),AtsukoNakata1),MihokoSuzuki1),HidekiSuganami2,3),ChikumaHamada3)andIsaoYoshimura3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)BiostatisticsandDataManagementDepartment,KowaCompanyLimited,3)GraduateSchoolofEngineering,TokyoUniversityofScience目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の眼圧日内変動に対するニプラジロール点眼の効果を検討した.対象および方法:NTG28例の眼圧日内変動を3時間ごとに自己測定空気眼圧計で測定した.ニプラジロール点眼の治療前,治療開始後1日目および3カ月目について,各時刻の眼圧の比較,交互作用項を含む線形モデルを用いた日内変動パターンの変化の検討を行った.さらに,コサインカーブに薬剤効果を表すパラメータを加えた周期線形混合効果モデルにより,本剤の効果を解析した.結果:治療開始後1日の21,3,9,12時と3カ月の21,0,9,12時で有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).日内変動のパターンは治療前後で変化していた(交互作用:p<0.001)が,1日と3カ月では変化がなかった(交互作用:p=0.317,時期効果:p=0.965).日内変動は周期線形混合効果モデルによってよく説明でき,薬剤効果を表すパラメータは昼間と夜間で差がなかった(切片:p=0.71,傾き:p=1.00).結論:ニプラジロール点眼の効果は,3カ月継続使用でも減弱せず,昼夜で差がないことが示された.Theeectofnipradiloloncircadianvariationofintraocularpressure(IOP)wasexaminedin28patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).IOPwasmeasuredevery3hours,usingaself-measuringpneumatictonometer,before,1dayafterand3daysaftertreatmentwithnipradilol.Changesinthepatternofcircadianvariationwereexaminedusingalinearmodelthatincludedinteractionterms.Theeectofthedrugwasalsoanalyzedusingacircularlinearmixed-eectmodel,towhichwasaddedaparametershowingthedrugeectinacosinecurve.IOPreducedsignicantlyat21:00,03:00,09:00and12:00after1day,andat21:00,0:00,09:00and12:00after3monthsoftreatment(p<0.05).Thepatternofcircadianvariationchangedaftertreatment(interaction:p<0.001),butnochangewasobservedbetweentherstdayandafter3monthsoftreatment(interaction:p=0.317,periodeect:p=0.965).Circadianvariationwaswellexplainablebythecircularlinearmixed-eectmodel,andtheparametershowingdrugecacydidnotdierbetweendaytimeandnighttime(intercept:p=0.71,slope:p=1.00).Theeectofnipradilolwasnotreducedevenafter3monthsofcontinuoususe,andtheeectdidnotdierbetweendayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14261432,2008〕Keywords:ニプラジロール,正常眼圧緑内障,眼圧,日内変動,自己測定眼圧計.nipradilol,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,circadianvariation,self-measuringtonometer.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081427(99)はじめに緑内障はさまざまな要因により視神経障害をきたし,その結果として視野障害をひき起こす疾患であるが,正常眼圧緑内障(NTG)を含め緑内障性視神経症の最大の危険因子は眼圧とされている1).眼圧は常に一定の値を示すわけではなく,日内変動,季節変動などさまざまな周期で変動することが知られている24).診療時眼圧が目標値に調整されていると判断されても,診療時間外に眼圧が上昇している可能性があるため,NTG患者における眼圧日内変動の測定は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.筆者らは,NTG患者に持ち運び可能な自己測定空気眼圧計を貸し出し,自宅で眼圧日内変動を測定し,診療に活用してきた.しかし,眼圧日内変動は,個体,時点,周期性など多数の因子を含んだ複雑な構造を擁しており,薬物治療の効果を評価するうえでその解析方法は定まっていない.今回,a1,b遮断薬であるニプラジロール点眼液(ハイパジールコーワR点眼液)を使用したNTG患者の眼圧日内変動に対して統計モデルを当てはめた解析を行うことにより,ニプラジロールの薬剤効果の特徴を明らかにすることができたので報告する.I対象および方法1.対象本調査は,ハイパジールコーワR点眼液の眼圧日内変動に関する特別調査として「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に則り実施した.2000年8月1日から2003年7月31日までに大阪厚生年金病院眼科を受診したNTG患者のうち,緑内障手術の既往がなく,無治療時の眼圧日内変動を把握する必要があり,ニプラジロール点眼単独による治療を開始した患者28名を本研究の対象として登録した.なお,NTGの診断基準は,初診時およびそれ以降の複数回の外来診察時の眼圧がGoldmann圧平式眼圧計による測定で常に21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化(網膜神経線維層欠損を含む)とそれに対応する緑内障性視野変化を有すること,視神経乳頭の緑内障性変化をきたしうる他疾患の既往もしくは存在がないこととした.対象の内訳は,男性12例,女性16例で,年齢は51.7±9.4歳(平均値±標準偏差)であった.2.眼圧日内変動の測定眼圧日内変動の測定には,自己測定空気眼圧計(Home-tonometer)5)を用いた.Hometonometerの測定値と,Gold-mann圧平眼圧計,通常の非接触式空気眼圧計の測定値の相関については,以前に85例85眼を対象に検討している.同一症例に対し,眼圧計ごとに異なる検者が,他の眼圧計の測定結果をマスクした状態で眼圧測定したところ,Home-tonometerとGoldmann圧平眼圧計の相関係数はr=0.86,Hometonometerと非接触式空気眼圧計の相関係数はr=0.84と,互いに高い相関があることを確認された(未発表データ).Hometonometerの使用方法を説明したうえで患者に貸し出し,自宅で患者自身が眼圧日内変動を測定した.ニプラジロール点眼の処方開始日にHometonometerを貸し出し,点眼開始前24時間の無治療時(0日)と点眼後24時間(1日)の眼圧日内変動を測定した.また,点眼後3カ月(3カ月)にもHometonometerを貸し出し,眼圧日内変動を測定した.眼圧は21時から3時間ごとに計8点/日(21,0,3,6,9,12,15,18時)を24時間1日とし,それぞれの時刻に両眼を5回ずつ測定するように指導した.ニプラジロール点眼は,用法・用量に従い,1回1滴,1日2回,朝は78時の間に,夜は1920時の間に両眼に点眼するよう指導した.3.眼圧日内変動の解析各時刻の,5つの測定値のうち,最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均を各眼で算出し,左右眼の平均値をその時刻の眼圧とした69).まず,0日,1日および3カ月における各時刻(21,0,3,6,9,12,15,18時)の眼圧値について,繰り返しの1標本t-検定を用いて,0日と1日,0日と3カ月および1日と3カ月との間で比較した.つぎに,時期(測定日)を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデル10)を用い,一日の最高眼圧を0日,1日および3カ月の間で比較した.また,時刻と時期を主効果とし,時刻×時期の交互作用項を含む線形モデルの当てはめ11)により,点眼後に眼圧日内変動のパターンが変化しているかどうかを検討した.眼圧(mmHg)時間b0b1b2図1コサインカーブモデルIOP=(b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))IOP:モデルより推定された眼圧値,b0:位置(平均眼圧),b1:振幅(日内変動幅),b2:位相(最高眼圧時刻),t:時刻.全症例の眼圧日内変動データに一つのコサインカーブを当てはめ,個体差は変量効果を示すパラメータ(b0,b1,b2)を導入することで表現した.———————————————————————-Page31428あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(100)さらに,眼圧日内変動に及ぼす薬剤効果の解析を統計モデルによって試みた.線形モデルの当てはめによる検討から1日と3カ月の眼圧日内変動は変わっていないとみなすことができたため,周期性を利用した解析においては,1日と3カ月の眼圧は投与後の測定としてまとめて取り扱った.無治療時(0日)の眼圧日内変動には,個体差を変量効果としてコサインカーブを当てはめ(図1),得られたパラメータ(位置,振幅,位相)から一日の平均眼圧,眼圧変動幅,最高眼圧時刻を推定した.点眼後(1日,3カ月)の眼圧日内変動には,コサインカーブに,点眼後の眼圧下降作用を線形モデルとして追加した周期線形混合効果モデルを当てはめ(図2),得られたパラメータから眼圧下降作用を推定した.ここで用いた周期線形混合効果モデルとは,非線形混合効果モデル12)の一種であり,眼圧の周期的な変動に個体差があることを認めたうえで,眼圧日内変動の大きさと点眼による眼圧の下降の程度とを分離して推定ができる方法である.なお,有意水準は両側5%未満とした.本研究で使用した統計解析手法の詳細と統計学的な解説は別報を参照されたい13).II結果登録した28例のうち,4例はニプラジロール点眼を中止したなどの理由により,3カ月時の測定値が欠測となった.副作用としては,眼瞼炎が1例に,点状表層角膜症が2例に認められた.無治療時(0日),点眼後1日および3カ月における3時間ごとの各時刻における眼圧の推移を図3に,各時刻での眼圧表1各時刻での眼圧の変化測定時刻1日0日p値*3カ月0日p値*3カ月1日p値*21時1.64±1.23mmHg<0.0011.37±1.60mmHg0.0010.36±1.57mmHg0.2990時0.43±1.61mmHg0.1820.76±1.38mmHg0.0130.12±1.12mmHg0.6023時0.75±1.56mmHg0.0300.31±2.02mmHg0.4660.29±1.55mmHg0.4106時0.20±1.05mmHg0.3240.04±1.76mmHg0.9090.30±1.39mmHg0.3049時1.55±1.24mmHg<0.0011.56±1.90mmHg<0.0010.05±1.41mmHg0.88112時1.00±1.37mmHg0.0011.28±1.67mmHg0.0010.28±1.45mmHg0.37615時0.16±1.22mmHg0.4990.44±1.68mmHg0.2350.23±1.76mmHg0.55618時0.26±1.65mmHg0.4260.54±1.97mmHg0.1910.59±1.55mmHg0.088*:1標本t-検定.眼圧(mmHg)時刻(時)216+918b3b4b5b6図2周期線形混合効果モデル21=<t=<6のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b3+b4・│t21│9=<t=<18のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b5+b6・│t9│b0b2,b0b2,tの説明は図1参照のこと.b3:夜点眼切片(夜点眼直後の眼圧変化量).b4:夜点眼傾き(夜点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).b5:朝点眼切片(朝点眼直後の眼圧変化量).b6:朝点眼傾き(朝点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).もともと存在する生理的な日内変動を表すコサインカーブに,ニプラジロール点眼の薬剤効果として,点眼直後が最大となりその後経時的に一定の割合で眼圧下降作用が変化する線形モデルを加えた.1日2回の点眼時刻から,9時から18時までを昼間,21時から翌朝6時までを夜間とし,薬剤効果を示す定数(b3,b4,b5,b6)は昼間と夜間に分割した.薬剤効果の項をいずれも0とすると,無治療時(0日)の眼圧に当てはめたコサインカーブモデルとなる.眼圧(mmHg)211615141312点眼0#3691215:0日:1日:3カ月18時刻(時)点眼#*#*#**図3ニプラジロール点眼前後における眼圧の変化平均値(mmHg).0日n=28,1日n=27,3カ月n=24点眼時刻を矢印で示す.各時刻の眼圧を1標本t-検定にて比較した.*:1日目の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).#:3カ月の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).1日目と3カ月の比較では差はなかった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081429(101)の変化量を表1に示す.点眼後1日では0日と比較して,21,3,9,12時に眼圧の有意な低下がみられ,点眼後3カ月でも0日と比較して,21,0,9,12時において眼圧の有意な低下が認められた(p<0.05,1標本t-検定).一方,点眼後1日と3カ月との比較では,いずれの時刻においても有意な差は認められなかった.線形混合効果モデルから推定された1日の最高眼圧は,0日,1日および3カ月で,それぞれ16.5mmHg,15.5mmHgおよび15.7mmHgとなり,1日と3カ月の最高眼圧は0日と比較して有意に低下していた(0日対1日:p=0.001,0日対3カ月:p=0.016).1日対3カ月では,最高眼圧に有意な差は認められなかった(p=0.685).交互作用項を含む線形モデルの当てはめでは,0日対1日および0日対3カ月の比較においていずれも交互作用が有意となり(p<0.001),ニプラジロール点眼後は眼圧日内変動の形状が変化していることが統計学的に示された.一方,1日対3カ月の比較では,交互作用は有意とならず(p=0.317),時期効果も認められなかった(p=0.965).無治療時(0日)の眼圧にコサインカーブを当てはめた結果を図4に示す.推定されたコサインカーブのパラメータは,位置(b0)が14.70mmHg,振幅(b1)が0.60mmHg,位相(b2)は0.49(およそ12時を指す)であった.点眼後(1日,3カ月)の眼圧に周期線形混合効果モデルを当てはめた結果を図5に,モデルから得られたパラメータを表3統計モデル当てはめにより得られた薬剤効果に関するパラメータパラメータ夜点眼朝点眼朝と夜の差p値*切片**b3=1.30(0.19)mmHgb5=1.29(0.19)mmHg<0.01mmHg0.71傾き***b4=0.13(0.03)mmHg/時間b6=0.12(0.03)mmHg/時間0.01mmHg/時間1.00*:1標本t-検定.**:ニプラジロール点眼直後の眼圧下降量(mmHg).***:点眼後,経時的に眼圧下降が減弱する割合(mmHg/時間).各パラメータの説明は図2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.表2統計モデル当てはめにより得られた生理的日内変動に関するパラメータパラメータ無治療時(0日)点眼後(1日,3カ月)前後差p値*位置:b014.70(0.29)mmHg14.69(0.28)mmHg──振幅:b10.60(0.10)mmHg0.57(0.11)mmHg0.040.71位相:b2**0.49(0.04)0.49(0.04)0.010.90*:1標本t-検定.**:21時を起点に表示.b2=0.49は午前11時46分に相当する.眼圧日内変動に,無治療時はコサインカーブモデルを,点眼後は周期線形混合効果モデルを当てはめた.各パラメータの説明は図1,2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.眼圧(mmHg)1615141312:測定値:推定値210369121518時刻(時)図4無治療時の眼圧日内変動に対するコサインカーブモデルの当てはめコサインカーブモデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(コサインカーブモデルの式)IOP(mmHg)=(14.70+b0)+(0.60+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))図5点眼後の眼圧日内変動に対する周期線形混合効果モデルの当てはめ周期線形混合効果モデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(周期線形混合効果モデルの式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.29+0.12・│t9│点眼時刻を矢印で示す.眼圧(mmHg)211615141312点眼0369121518時刻(時)点眼:測定値:推定値———————————————————————-Page51430あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(102)表2,3にそれぞれ示す.周期線形混合効果モデルから得られた推定値のカーブは,実際の測定値のカーブとよく一致しており,当てはまりは良好であった.モデルから得られたパラメータのうち,夜の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b3:1.30mmHg)と朝の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b5:1.29mmHg)に差は認められなかった(p=0.71).また,夜間点眼後(21翌朝6時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b4:0.13mmHg/hr)と昼間点眼後(918時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b6:0.12mmHg/hr)の間にも差は認められなかった(p=1.00).無治療時の眼圧日内変動から得られたコサインカーブと周期線形混合効果モデルのコサインカーブ成分では,振幅と位相に有意な差はみられなかった(振幅:p=0.71,位相:p=0.90).III考按眼圧日内変動は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.薬剤の日内変動に及ぼす影響については,これまで各時刻について点眼前後の眼圧値を1標本t-検定で比較するという手法が用いられてきた.今回のニプラジロール点眼についても,点眼後1日では0日と比較して21,3,9,12時に,点眼後3カ月では21,0,9,12時に眼圧が有意に低下していた(表1).しかし,薬剤効果を精密に評価するためには,個体,時刻,周期性など多数の因子を含んでいるため,各時刻の眼圧を薬剤点眼前後で比較するだけでは十分に評価できないことがある.たとえば,ニプラジロール点眼の使用前後の眼圧日内変動のプロット(図3)からは,「点眼直後(21,9時)と比較して,つぎの点眼直前(6,18時)の眼圧下降は小さくなっている」,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」などの解釈が直感的に得られる.また,1日と3カ月では眼圧日内変動は同じにみえる.点眼前後で各時刻の眼圧を1標本t-検定により比較した結果(表1)は,上述の解釈の幾つかをよく裏付けてはいるが,夜間と昼間の違いを説明できていない.また,1日と3カ月で検定結果が異なる時刻が存在したことを1日と3カ月の違いと捉えるか,ばらつきの結果と捉えるかで,薬剤の効果の維持性に対する解釈が異なることになる.1標本t-検定のみでは十分納得のいく解析法とはいえない.そこで,これらの問題に対し客観的な回答を与える解析手法を考案し,ニプラジロール点眼の効果を評価することを試みた.統計学的な詳細は別報に譲るが,その概要は以下のとおりである.一つ目は,「1日の最高眼圧」の解析である.1日の最高眼圧が低下したかどうかは,薬剤治療の効果を評価する単純で明確な指標と考えた.この検討では,各患者の「1日の最高眼圧」を0日,1日および3カ月で比較するため,時期を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデルを用いた.二つ目は,「眼圧日内変動の形状」の解析である.各測定時刻で得られた眼圧の測定値を直線で結ぶことで,眼圧日内変動の形状がイメージされる.この形状が薬剤効果により変化したか否かを検討することで,日内変動の変化の有無がわかる.この検討では,時点(測定時刻)と時期(0日,1日,3カ月)を主効果とし,時点×時期の交互作用項を有する線形モデルを用いた.線形モデルの交互作用が有意であるという場合には,時期効果が各時点で一定ではなく,日内変動の形状が変化したということになる.一方,交互作用が有意ではないが,時期効果が有意という場合には,日内変動の形状が保持された状態で,日内変動が上下に平行移動するように変化したということになる.また,交互作用も時期効果も有意でない場合には,各測定時期の間で眼圧日内変動が変化したとはいえないことを意味している.三つ目は,「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」である.Horieらは無治療時の原発開放隅角緑内障患者の日内変動にコサインカーブモデルを当てはめた14).筆者らは,先の1標本t-検定の結果からニプラジロール点眼は,点眼直後の時刻では眼圧下降効果が最大で,点眼直前の時刻ではその効果が減弱していると推察した.薬剤効果が点眼後速やかに発現し,時間の経過とともに徐々に減少していくことが前後差の比較から読み取れたため,これを線形項としてコサインカーブモデルに追加した.この日内変動を表す部分と薬剤効果を表す部分を同時にもつ“周期線形混合効果モデル”を当てはめることにより,ニプラジロール点眼の効果を数値で表現できると考えたわけである.これら三つの手法を用いてニプラジロール点眼の効果を解析した結果から,つぎのような解釈が成り立つ.線形混合効果モデルによる「1日の最高眼圧」の比較からは,点眼後1日と3カ月のいずれにおいても有意に最高眼圧を低下させていること,点眼後1日と3カ月の間では最高眼圧に差はみられないことが示された.交互作用項を含む線形モデルの当てはめによる「眼圧日内変動の形状」の解析結果から,眼圧日内変動の形状はニプラジロール点眼を点眼することにより変化し,1日と3カ月の間では変化していないことが示された.これら二つの解析結果から,ニプラジロール点眼は一日のなかの最高眼圧を有意に低下させているものの,時刻によって眼圧下降量が異なり,また,その眼圧下降効果は3カ月後も維持されているといえる.緑内障治療薬のなかでも特にb遮断薬は,長期間使用を継続した際に眼圧下降効果が減弱する,いわゆる薬剤耐性がみられることがあり,臨床上の問題の一つとなっている15).a1遮断作用とb遮断作用を併せ持———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081431(103)つニプラジロール点眼では眼圧下降効果が3カ月後も維持されることが示されたのは,興味深い結果である.「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」の結果では,無治療時の日内変動から推定されたコサインカーブは,Yamagamiらの報告16)と比較すると日内変動幅を表す振幅が小さめであったが,平均眼圧および最高眼圧を示す時刻はほぼ一致した.また,NTG患者における日内変動の挙動に関する既存の報告と比べても,平均的な眼圧日内変動とみなせるものであった(表2)5).周期線形混合効果モデルから推定されたパラメータのうち,生理的日内変動に該当するコサインカーブ成分は振幅,位相のいずれも,無治療時のものと変わらなかった(表2).すなわち,このモデルによって,点眼後の眼圧日内変動は生理的な眼圧日内変動とニプラジロール点眼の効果に分離されたといえる(図6).分離されたニプラジロール点眼の効果は,点眼直後に最大の眼圧下降を示し,その後は時間の経過に伴い一定の割合で減弱するという線形項で十分に説明された.このモデルは測定値から直感的に得られた解釈のうち,「点眼後一定の割合で薬効が減弱する」ということを支持している.一方,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」という直感的解釈に対しては,朝点眼と夜点眼の間で薬剤効果に該当する成分のパラメータに違いはみられないという否定的な結果となった(表3).代表的なb遮断薬の一つであるチモロール点眼は,昼間は有意に眼圧を下降させるが,夜間,特に明け方にかけて眼圧下降作用がみられない時刻が存在することが報告されている17,18).このように緑内障治療薬の眼圧下降効果に日内変動がみられる原因は,それぞれの薬剤の眼圧下降機序によると考えられている19).すなわち,b遮断薬の眼圧下降機序は房水産生の抑制によるものであり,房水産生の多い昼間は眼圧下降効果が大きく,房水産生の少ない夜間は眼圧下降効果が小さくなると考えられる.一方,a1遮断薬の眼圧下降機序は,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進によるものと考えられている.ぶどう膜強膜流出路からの房水流出は眼圧非依存性であるので,ぶどう膜強膜流出を促進する薬剤は,一般的に眼圧が高いとされる昼間も,眼圧が低いとされる夜間も同じように眼圧を下降させると考えることができる.今回,ニプラジロール点眼では夜間にも昼間と同様の眼圧下降効果が認められたが,これはニプラジロール点眼が,b遮断作用に加えa1遮断作用を併せ持つことに起因していると推測される.今までの解析方法ではグラフから読み取れることを直接証明できなかったが,周期線形混合効果モデルを用いることで,眼圧日内変動および薬剤効果についてこれまで以上に詳細な解析結果を得ることができた.本検討により,ニプラジロール点眼は夜間も昼間と同様の眼圧下降作用を示し,その作用は3カ月の継続使用においても維持されていることが示された.このような薬剤効果の特性は,治療薬の選択や治療効果を確認するうえで有用な情報である.ニプラジロール以外の緑内障治療薬についても,今後これらの統計学的手法を用いることにより薬剤効果の特性がさらに明らかになれば,眼圧日内変動に合わせた薬剤選択に役立つと考える.文献1)桑山泰明:眼圧.正常眼圧緑内障(新家眞,谷原秀信編),p17-23,金原出版,20002)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.TheGlaucomas(edbyRitchRetal),p429-445,Mosby,StLouis,19963)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma4thed.p48-49,Wil-liams&Wilkins,Baltimore,19974)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20015)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20036)石井玲子,山上淳吉,新家眞:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家眞,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:232-249,19759)梶浦祐子,坂井護,溝上國義:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.あたらしい眼科8:587-590,1991図6周期線形混合効果モデルの生理的日内変動および薬剤効果への分割周期線形混合効果モデル(推定値)を,もともとの生理的な眼圧日内変動(生理的日内変動)と,ニプラジロール点眼液による眼圧下降(薬剤効果,眼圧変化量として図に示す)に分割して示した.(生理的日内変動を表す項の式)IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))(薬剤効果を表す項の式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=1.29+0.12・│t9│眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)210369121518161514131210-1-2時刻(時):生理的日内変動:薬剤効果:推定値———————————————————————-Page71432あたらしい眼科Vol.25,No.10,200810)松山裕,山口拓洋:医学統計のための線型混合モデル─SASによるアプローチ初版.p43-46,株式会社サイエンティスト社,200111)鷲尾泰俊:実験の計画と解析.p102-115,岩波書店,198812)GeertM,GeertV:ModelsforDiscreteLongitudinalData.p265-276,Springer,NewYork,200513)SuganamiH,KanoK,KuwayamaYetal:Comparisonofestimationmethodsforparametersinthecircularlinearmixedeectmodelincorpotatingdiurnalvariationforevaluatingglaucomatherapy.JapaneseJournalofBiomet-rics28:1-18,200714)HorieT,KitazawaY:Theclinicalsignicanceofdiurnalpressurevariationinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol23:310-333,197915)WilliamPB:Shortterm“Escape”andlongterm“Drift”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28:235-240,198316)YamagamiJ,AraieM,AiharaMetal:Diurnalvariationinintraocularpressureofnormal-tensionglaucomaeyes.Ophthalmology100:643-650,199317)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199318)McCannelCA,HeinrichSR,BrubakerRF:Acetazolamidebutnottimolollowersaqueoushumorowinsleepinghumans.GraefesArchClinExpOphthalmol230:518-520,199219)赤石貴浩,島崎敦,松木雄ほか:自動眼圧測定系を用いた家兎眼圧日内変動に対する各種眼圧下降剤の評価.日眼会誌107:513-518,2003(104)***