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発症から2 カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の 1 例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):415.419,2023c発症から2カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の1例髙岡秀輔日榮良介井田洋輔日景史人大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座CACaseofVitreomacularTractionSyndromethatSpontaneouslyImprovedatTwoMonthsPostOnsetShusukeTakaoka,RyosukeHiei,YosukeIda,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversityC症例はC63歳,女性.1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を自覚し眼科を受診.初診時,視力は右眼(1.5),左眼(0.6),両眼に軽度の白内障,左眼の黄斑部に硝子体黄斑牽引症候群による網膜牽引を認めた.左眼の硝子体黄斑牽引症候群に伴う視力低下と診断され,初診からC1カ月後に硝子体手術予定となった.しかし,手術前日の診察時に左眼の視力改善,自覚症状消失,左黄斑部の網膜牽引が改善していた.そのため手術は中止となった.硝子体黄斑牽引症候群は長期に牽引が持続することで不可逆的な視力低下をきたす可能性があるため手術適応であるが,本症例では発症からC2カ月の経過中に自然解除が生じ,視力低下や変視の自覚症状が完全に消失した.硝子体黄斑牽引症候群は数カ月程度の期間であれば後遺症なく自然解除される可能性があるため,手術の直前まで病状を確認することが重要であると思われた.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCvitreomaculartraction(VMT)syndromeCthatCspontaneouslyCimprovedCatC2Cmonthspostonset.Casereport:A63-year-oldfemalepresentedwiththecomplaintofdistortedvisioninherlefteyefor1month.Uponexamination,opticalcoherencetomography(OCT)revealedVMTinherlefteye,andcata-ractswereobservedinbotheyes.Shewasdiagnosedwithdecreasedvisualacuity(VA)duetoVMTsyndromeinherlefteyeandwasscheduledtoundergosurgeryinourhospital.However,onthedaybeforesurgery,theVAinherCleftCeyeCwasCimproved,CtheCsubjectiveCsymptomsCdisappeared,CandCtheCmacularCtractionCimageCimprovedConCOCT.Thus,thesurgerywascanceled.Conclusion:AlthoughVMTsyndromeisanindicationforsurgery,sponta-neousresolutionmaybeobservedduringfollow-up.Thus,incaseswherespontaneousresolutionislikelytooccur,observingthe.ndingsbyOCTuntiljustbeforesurgeryisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):415.419,C2023〕Keywords:硝子体黄斑牽引症候群,硝子体黄斑癒着,硝子体手術,自然解除.vitreomaculartractionsyndrome,vitreomacularadhesion,parsplanavitrectomy,spontaneousresolution.Cはじめに硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartraction:VMT)は特発性黄斑円孔,黄斑前膜とともに網膜と硝子体の境界面を病変の場とする網膜硝子体界面症候群の一つである1,2).眼球の内腔は硝子体とよばれる透明なゲル状の組織で満たされているが,硝子体は加齢によりゲルが液化,収縮し眼底から.離する.これが後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)である.PVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体ポケットの後壁にある薄い硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.この慢性的な牽引により黄斑.離や.胞様黄斑浮腫が生じ,変視や視力低下をきたすのがVMTである2.4).VMTの治療は硝子体手術が第一選択であり,過去の多くの研究では,高い割合での術後の視力改善が報告されている1.5).VMTのなかでも網膜と硝子体の接着面積が広い場合は自然経過で黄斑円孔が生じたり,手術のタイミングが遅〔別刷請求先〕髙岡秀輔:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目C291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShusukeTakaoka,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversity,16-291Nishi,Minami1Jo,Chuo-Ku,Sapporo060-8543,JAPANCれることで.胞様黄斑浮腫が黄斑円孔に至る場合もあることが報告されている5).一方で,網膜と硝子体の接着面積が狭いものでは症状の変化が少なかったり,自然解除に至る場合もあるため6),自然解除が期待される場合は手術をせずに経過観察するのが望ましいと考えられる.しかし,経過観察期間に関して一定の見解はない.今回筆者らは,VMTで手術を予定していたが,発症から2カ月後に自然解除が起こり,視力低下および変視の自覚症状が完全に消失した患者を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:左眼の歪視および視力低下.既往歴:とくになし.現病歴:1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を主訴にC2021年C3月(X日)に近医眼科を受診した.近医受診時,矯正視力は右眼0.5(1.5C×sph+2.75D(cyl.0.75DCAx90°),左眼C0.3(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.00DAx70°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C15mmHgであった.両眼にCnuclearCsclerosisgrade1.1.5の白内障を認め,光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)では左眼の黄斑部にVMTによる網膜牽引を認めた(図1).そのほかに眼底所見では明らかな網膜.離,出血を認めなかった.左眼の矯正視力の低下,OCTでCVMTによる網膜牽引が認められ,黄斑部に.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離がなく,硝子体手術による視力改善,歪視の軽減が期待できると判断したため,硝子体手術目的でC1カ月後に当院に紹介となった.経過:当院初診時(X+33日),矯正視力は右眼C0.8(1.25C×sph+2.75D(cyl.1.25DCAx100°),左眼C0.8(1.25C×sph+2.00D(cyl.1.00DCAx75°)と前医受診時と比較して左眼視力改善を認め,患者の自覚症状も消失していた.OCTでは左眼黄斑部にごくわずかな.胞性変化を認めたが,後部硝子体による黄斑部の牽引は認めなかった(図2).眼底検査でも病的所見を認めなかったため,手術は不要となった.当院初診時からC17日後(X+50日)に撮像されたCOCTでは.胞性変化は消失しており(図3),その後も左眼の視力は良好に推移している.CII考按網膜硝子体界面症候群は,網膜と硝子体の境界面に発生する疾患の総称であり,VMTの他に硝子体黄斑癒着(vitreo-macularadhesion:VMA),黄斑円孔(macularhole:MH),黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑偽円孔(macularpseudohole:PH),分層黄斑円孔(lamellarCmacularhole:LMH)を含む6).これら網膜硝子体界面症候群のなかでもCVMAとCVMTの定義は曖昧で,明確な診断基準が示されていなかったことから,過去の論文のなかには両病名を混同して用いている論文も散見される.しかし,2013年にCInternationalCVitreomacularCTractionCStudy(IVTS)GroupによってCOCT所見に基づいたCVMAとVMTの疾患の定義が定められた6).それによれば,VMAとCVMTはともに後部硝子体が網膜面から不完全に.離し,後部硝子体が黄斑部との接着を保った状態,すなわち傍中心窩の後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)が起こった状態(perifovealPVD)であるとされている.この黄斑部の接着により黄斑部の構造に変化がきたしたものがVMT,きたしていないものがCVMAと定義される.VMAとCVMTの鑑別は治療方針の決定に重要である.その理由は,VMAは正常な加齢変化として起こるCPVDの一段階であるので,VMTやCMHへの進行,ERMの形成がなければ基本的に治療を必要とせず,経過観察で問題ない7).それに対して,VMTに対しては黄斑部への硝子体牽引を解除する目的で硝子体手術が行われる7).しかし,硝子体手術の明確な適応基準は定まっておらず,施設や術者によって異なるのが現状である.したがって,VMTに対しては黄斑構造の変化をCOCTで観察しつつ,視力や患者の自覚症状を考慮して手術の時期を決定する必要がある.本症例の場合は,図1に示すようにCOCT上で黄斑部に後部硝子体による牽引が生じ,構造の変化をきたしていたことからCVMTと診断し,矯正視力の低下および患者の歪視の自覚症状が強かったため,発症早期から手術を予定することとなった.VMTに対する硝子体手術の効果に関して,術前のCOCT所見で.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離が生じている症例では視力改善効果が制限される8)とされており,これらの変化が生じる前の手術が望ましい.本症例の場合も黄斑部の牽引は認めるものの,これら黄斑浮腫や繊維化などの変化は生じておらず,手術により視力向上,自覚症状の改善が期待できると考えられた.実際,自然軽快後には自覚症状は消失した.VMTの自然解除はこれまでにも報告されている,Hikichiら6)は,VMTのC53眼中C6眼(11%)で経過中に自然解除が起こり,診断から解除までの中央値はC15カ月であったことを報告している.そのほかにもCOCTを用いたCVMTの自然解除の報告はあり9.14),VMT患者のうち一定の割合で経過中に自然解除が生じることは間違いない(表1).そうすると,VMT患者のうちどのような場合に自然解除が起こりやすいかが問題となるが,IVTSGroupは硝子体と黄斑網膜の接着部の直径がC1,500Cμm以下のものをCfocal,1,500Cμmより広いものをCbroadと定義し,focalのほうが自然解除されやすいこと,broadのCVMTでは硝子体の接着が強く,黄斑部の肥厚,網膜分離,.胞様黄斑浮腫,網膜血管漏出をきたab図1前医初診時(X日)のOCT画像a:黄斑部が後部硝子体に牽引されている(N:鼻側,T:耳側,S:上側,I:下側).b:黄斑部を拡大し,網膜と硝子体の接着部分を測定したところC87Cμmであった.図2当院初診時(X+33日)のOCT画像図3当院初診時から17日後(X+50日)のOCT画像前医初診時のCOCTと比較すると黄斑部にごくわずかな.胞性変.胞性変化は消失し,黄斑浮腫も認めない.化を認めるものの,後部硝子体による黄斑部の牽引が解除されている.しやすく,視力低下や変視症,小視症を起こしやすいことを報告しており,牽引の自然解除は直径と負の関係にあると述報告した6).また,Theodossiadisら10)は,接着部の直径がべている.本症例の初診時のCOCTで黄斑表面と硝子体の接400Cμm以上の患者は有意に自然解除の可能性が低かったと着部の直径はC87CμmとC400Cμmよりはるかに小さく,IVTS表1OCTを用いた硝子体黄斑牽引症候群の自然解除に関する既報報告者Odrobinaら9)Theodossiadisら10)Codenottiら11)Almeidaら12)症例数19眼46眼26眼61眼フォローの平均期間C8±4.4カ月記載なしC12.9±4.8カ月自然解除のない例はC10.0C±6.6カ月自然解除例はC13.7C±11.4カ月自然解除率47.37%26.09%23.01%34.43%自然解除までの平均期間記載なしC8.75±6.06カ月C7.3±3.1カ月記載なし網膜内層障害のみの例や自然解除に関する記載記載なし記載なし記載なし抗CVEGF薬硝子体内注射の既往例では自然解除しやすい手術選択黄斑円孔への移行記載なし7眼が手術施行11眼が手術施行記載なし報告者Stalmansら13)Erreraら14)症例数203眼183眼フォローの平均期間10.9カ月(中央値C6.9カ月)C17.4±12.1カ月自然解除率22.66%19.67%自然解除までの平均期間記載なしC15±14カ月自然解除に関する記載自然解除例のC69.6%は180日以内に解除記載なし手術選択黄斑円孔への移行52眼が手術施行視力はC35.7%が改善,1C4.3%が低下11眼が黄斑円孔へ移行15眼が手術施行し視力改善23眼が黄斑円孔へ移行し視力悪化Groupの分類ではCfocalに分類された(図1).そのため,本症例はもともと黄斑と後部硝子体の接着が自然解除されやすいケースであったと思われる.過去の報告ではCVMTの自然解除までの期間は表1に示すようにC7.3カ月.15カ月であり,本症例と比較すると比較的長かった.これは過去の自然解除が起こった症例のなかには視機能障害が残存したもの,回復したものが混在しているためと考えられた.さらに表1に示すように,VMTの自然経過を観察した報告では,手術後も視力が改善しなかったものや,黄斑円孔に移行したものも少なくない.これらはCVMT発症から手術に至るまでの期間が術後の視機能障害残存に影響を及ぼすことを示唆している.また,VMTの術後視力回復は解除時の黄斑部障害の程度に依存する8)とされており,症状が出現してから手術までの期間が短いほど術後視力の改善が良いことも報告されている15)ため,自然解除を待つべきか早期に手術するべきか判断がむずかしい場合も多い.TheodossiadisらはCVMT発症から自然解除するまでに平均でC8.75C±6.06カ月かかり,VMT解除後の視機能はCVMT出現前よりも悪化していたことを報告した10).本症例では初診時より歪視が強く,手術を予定していたが,手術直前にCVMTが改善,後遺症を残さずに治癒した.本症例の場合,初診時のCOCTで後部硝子体と黄斑部の接着部の直径が小さく,自然解除の可能性が高かったことが示唆された.このような後部硝子体膜と黄斑部の接着の小さい症例は自然解除が期待できる.これらのことから,VMTの手術時期,および手術適応に関しては統一した見解は示されておらず,個々の症例に対して術者が判断してC418あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023いる.本症例ではCM-CHARTSによる変視の評価やコントラスト感度の測定は行っていない.そのため,より精密に検査を行うと,本症例でも発症前と自然解除後で視機能に差が出ている可能性がある.しかし一般的な視力検査およびCOCTでは自然解除後に異常所見を認めず,自覚症状の訴えもなくなった.本症例の経験と,前述のCTheodossiadisの報告から,発症からC2カ月間は経過観察しても自覚症状が残存することなく改善すると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)McDonaldHR,JohnsonRN,SchatzH:SurgicalresultsintheCvitreomacularCtractionCsyndrome.COphthalmologyC101:1397-1402,C19942)MassinCP,CErginayCA,CHaouchineCBCetal:ResultsCofCsur-geryofvitreomaculartractionsyndrome.JFrOphthalmolC20:539-547,C19973)RouhetteH,GastaudP:Idiopathicvitreomaculartractionsyndrome.CVitrectomyCresults.CJCFrCOphthalmolC24:496-504,C20014)KoernerCF,CGarwegJ:VitrectomyCforCmacularCpuckerCandCvitreomacularCtractionCsyndrome.CDocCOphthalmolC97:449-458,C19995)WitkinCAJ,CPatronCME,CCastroCLCCetal:AnatomicCandCvisualCoutcomesCofCvitrectomyCforCvitreomacularCtraction(136)syndrome.COphthalmicCSurgCLasersCImagC41:425-431,C20106)HikichiT,YoshidaA,TrempeCL:Courseofvitreomacu-larCtractionCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC119:55-61,C19957)DukerCJS,CKaiserCPK,CBinderCSCetal:TheCInternationalCVitreomacularCTractionCStudyCGroupCclassi.cationCofCvit-reomacularCadhesion,Ctraction,CandCmacularChole.COphthal-mologyC120:2611-2619,C20138)MelbergCNS,CWilliamsCDF,CBallesCMWCetal:VitrectomyCforvitreomaculartractionsyndromewithmaculardetach-ment.RetinaC15:192-197,C19959)OdrobinaCD,CMichalewskaCZ,CMichalewskiCJCetal:Long-termCevaluationCofCvitreomacularCtractionCdisorderCinCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CRetinaC31:324-331,C201110)TheodossiadisGP,GrigoropoulosVG,TheodoropoulouSetal:Spontaneousresolutionofvitreomaculartractiondem-onstratedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC157:842-851,C201411)CodenottiCM,CIulianoCL,CFogliatoCGCetal:ACnovelCspec-tral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCmodelCtoCesti-matechangesinvitreomaculartractionsyndrome.GraefesArchClinandExpOphthalmolC252:1729-1735,C201412)AlmeidaDR,ChinEK,RahimKetal:Factorsassociatedwithspontaneousreleaseofvitreomaculartraction.RetinaC35:492-497,C201513)StalmansP:ACretrospectiveCcohortCstudyCinCpatientsCwithCtractionalCdiseasesCofCtheCvitreomacularCinterface(ReCoVit).GraefesArchClinExpOphthalmolC254:617-628,C201614)ErreraMH,LiyanageSE,PetrouPetal:AstudyofthenaturalChistoryCofCvitreomacularCtractionCsyndromeCbyCOCT.OphthalmologyC125:701-707,C201815)SonmezCK,CCaponeCACJr,CTreseCMTCetal:VitreomacularCtractionsyndrome:impactofanatomicalcon.gurationonanatomicalCandCvisualCoutcomes.CRetinaC28:1207-1214,C2008C***