《原著》あたらしい眼科35(4):533.537,2018cLASIK術後眼に重症熱傷を生じた1例在田稔章*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CACaseofSevereThermalEyeInjuryafterLASIKSurgeryToshiakiArita1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)CandTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:LASIK術後眼に重症熱傷を生じたが,比較的良好な経過をたどった症例を報告する.症例:27歳,男性.2013年C10月に両眼にCLASIK手術を施行され経過良好だった.2014年C7月,左眼に打ち上げ花火が直撃し近医眼科で応急処置を受け,受傷からC3日目に開瞼困難を主訴に当科を受診した.重症の眼瞼熱傷と瞼球癒着を認めた.角膜上皮は全欠損しており,結膜上皮も広範に欠損していた.LASIKフラップに.離は認めなかった.視力はCVS=20cm手動弁(矯正不能)であった.抗生物質,ステロイドによる治療を開始したが上皮の再生が認められず,受傷からC5日目に羊膜移植術を施行した.術後経過は良好であったが結膜充血が遷延した.受傷からC19カ月後,睫毛乱生,偽翼状片を認めるもののCVS=0.8(1.0)と視力は良好である.結論:本症例では速やかな羊膜移植術が効果的であったと考える.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsevereCthermalCinjury,CpostClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis(LASIK)sur-gery,CwithCrelativelyCgoodCprognosis.CCase:AC27-year-oldCmaleCwhoChadCundergoneCLASIKCsurgeryCinCOctoberC2013wasinjuredbya.reworkhittinghislefteyeinJuly2014.Hereceived.rst-aidtreatmentatanotherclinic,thenC3CdaysCpost-injuryCvisitedCourChospitalCcomplainingCofCfusedCeyelid.CSevereCeyelidCburnCandCsymblepharonCwereCobserved.CCornealCepitheliumCwasCcompletelyCde.cient,CconjunctivalCepitheliumCwasCextensivelyCde.cient.AlthoughCnoCdislocationCofCcornealC.apCwasCobserved,CvisualCacuity(VA)wasC20Ccm/handCmotion.CConventionalCtreatmentwithantibioticsandsteroidswasinitiated,butprovedine.ective.Two-dayslater,amniotictransplanta-tionwasperformed.Thepostoperativeclinicalcoursewasfavorable,butstrongconjunctivalhyperemiaprolonged.AtC19CmonthsCpostCinjury,CalthoughCpseudopterygiumCandCtrichiasisCwereCobserved,CheChadCaCrelativelyCfavorableVAof0.8(1.0)C.Conclusion:Inthiscase,immediatetreatmentwithamniotictransplantationprovede.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(4):533.537,C2018〕Keywords:LASIK,熱傷,羊膜移植,花火,外傷.laser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK),thermalburn,amniotictransplantation,.rework,injury.CはじめにLaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)は表層の角膜上皮と実質の一部をフラップ状に切開したのち,角膜実質をレーザー照射する屈折矯正手術である.視力回復の速さ,眼痛がないことなどの利点から,現在,屈折矯正手術の主流となっている1).LASIKの術後にはフラップに関連する合併症を生ずることがあり,層間の感染症2)やCepithelialCingrowth3),外力によるフラップの.離4)などの報告が散見されるが熱傷を生じた報告は少ない.今回,筆者らはCLASIK術後眼に打ち上げ花火による重症熱傷を生じたが,比較的良好な経過をたどった症例を経験したので報告する.CI症例患者:27歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:2013年C10月,両眼にCLASIK手術を施行され良好に経過していた.現病歴:2014年C7月,左眼に打ち上げ花火が直撃し受傷後C4時間に近医眼科を受診した.紹介状によるとこの時点〔別刷請求先〕在田稔章:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiArita,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN図1初診時の外眼部写真眼瞼腫脹および瞼縁は一部白色化しており水疱は明らかではない.睫毛も部分的に脱落している.自力で開瞼は困難であった.図3初診時のフルオレセイン生体染色写真角膜上皮は全欠損している.健常な上皮がほとんど残存していないのでフルオレセイン染色でコントラストが不良であるが,結膜上皮も広範に欠損している.6.8時のフラップの縁が離開しているようにみえるが,その他の部分は滑らかである.で,眼瞼腫脹および結膜浮腫は著明で,眼球運動は下転が困難で開瞼器でようやく角膜下方が確認できる程度であったとのことである.1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,0.1%ベタメタゾン点眼C6回/日およびベタメタゾン内服C2Cmg/日を指示されたが,開瞼不能を主訴に受傷後C3日目に大阪医科大学眼科を受診した.初診時所見:左眼瞼にCII度の熱傷を認め,睫毛の一部は脱落していた(図1).強固な瞼球癒着があり開瞼不能であったため,開瞼器と硝子棒で瞼球癒着を解離する必要があった.眼球は上転したまま固定されていたが癒着を解離していくと眼球運動が可能となった.結膜に癒着を認めるものも角膜に癒着はなかった.結膜.内には花火の残骸が多量に残存図2初診時の前眼部写真耳側と鼻側に強い瞼球癒着がある.角膜輪部の結膜は白濁しておりCpalisadeofVogtは明らかでない.図4上皮欠損の範囲上皮欠損(★印)は広範囲で結膜上皮は鼻側と耳側の端にわずかに健常結膜上皮(▲印)が残存していた.しており可能な限り除去した.細隙灯顕微鏡所見で結膜上皮は輪部全周を含めて広範に凝固変性していた.角膜は混濁していたがフラップの.離は認めなかった(図2).PalisadeCofVogtは全周で不明瞭であった.前房出血や虹彩損傷は認めなかった.眼底の詳細な観察は困難だったが超音波CBモードで硝子体混濁や網膜.離は認めなかった.フルオレセイン生体染色所見で角膜上皮は全欠損していた(図3).結膜上皮も広範に欠損しており,健常な結膜上皮は鼻側と耳側の端にわずかに残存しているのみであった(図4).フラップはC12時にヒンジがあり,フラップ縁は全体的には滑らかであったが6.8時にかけて離開しているようであった.視力は右眼C1.2(矯正不能),左眼C20cm手動弁(矯正不能),眼圧は右眼C11mmHg,左眼は測定不能であった.治療経過:1.5%レボフロキサシン点眼C1日C6回,0.1%ベタメタゾン点眼C1日C6回,1%アトロピン点眼C1日C2回,プ図5受傷から19カ月後の前眼部写真7時に軽度の偽翼状片がある.結膜充血が遷延している.図6受傷から19カ月後の角膜形状解析5.9時の前面カーブにCsteep化がみられる.レドニゾロン眼軟膏C1日C1回,メチルプレドニゾロン点滴膜を除去したうえで,角膜,露出した強膜,結膜を覆うよう125Cmg/日C×3日の治療を開始したが角膜上皮の再生がみらに羊膜を絨毛膜面が眼球側になるように強膜にC10-0ナイロれなかったため,第C3病日に羊膜移植術(羊膜カバー)を施ン糸で縫着し,余剰の羊膜が周辺部の残存結膜上皮を覆うよ行した.手術では再発,残存していた瞼球癒着を解離したうにして手術終了した.術終了時にリンデロンC2Cmg(0.4%)後,フラップに注意しながら開瞼器を設置した.上方の結膜を結膜下注射しソフトコンタクトレンズは装用しなかった..内に花火の残骸が多数残存していた.輪部結膜は全周で凝術後はメチルプレドニゾロン点滴C125Cmg/日C×3日の後,固,変性しているようだった.異物および壊死,変性した結プレドニゾロン内服C10Cmg/日を開始した.点眼は術前と変更なく継続した.術後C13日目で羊膜は脱落したが,角膜上皮欠損は治癒していた.比較的強い結膜充血が続いた.プレドニゾロンの内服は漸減しながらC10カ月間内服して終了した.治療C11カ月後に眼圧がC26CmmHgに上昇したため,ベタメタゾン点眼を中止し,0.1%フルオロメトロン点眼C1日2回に変更したところ,結膜充血が増悪し,偽翼状片を生じた.タクロリムス点眼C1日C2回を追加したところ,結膜充血は改善し,偽翼状片の進行は抑制された.術後C19カ月の時点で睫毛乱生,結膜.の短縮を認めるがフルオレセイン生体染色所見で角膜上皮に目立った異常所見は認められない.角膜形状解析で不正乱視を認めるものの,視力は右眼C1.5(矯正不能),左眼C0.6(0.9C×sph+1.0D(cyl.2.0DCAx135°)である(図5,6).CII考按角結膜熱傷はもっとも重篤な眼表面外傷の一つである.急性期には熱エネルギーによる直接的な障害を皮膚,粘膜組織へ生じるが,熱エネルギーが大きいとより深部組織へ障害が及ぶ.重篤な症例では眼瞼の発赤,腫脹とともに睫毛の脱落がみられ,結膜は壊死し虚血性となり,充血せず白く浮腫状になる.また,角膜上皮は欠損し角膜実質の浮腫,混濁を生じる.急性期を過ぎると瘢痕化により眼瞼には外反症,内反症,睫毛乱生,角結膜には瞼球癒着や瞼瞼癒着,偽翼状片,輪部疲弊症,角膜瘢痕を生じ機能的,整容的問題を生じる5).視力予後を左右する要因に輪部疲弊症が重要である.角膜輪部には角膜上皮細胞の幹細胞が存在しているが,化学外傷や熱傷,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡などの病的な状態により輪部上皮が破壊されることがある.角膜上皮細胞の幹細胞が失われると,有血管性の結膜上皮に侵食され,通常の角膜移植では治療困難な重篤な視力低下を生じる6).熱傷や化学外傷では冷却や受傷部位の洗浄により,まず可能な限り受傷原因を取り除くことが重要である.ついで障害の程度を評価したうえで抗生物質による感染予防とステロイドの局所および全身投与を行うが,重症度の高い症例では外科的な治療も選択肢となってくる7).化学外傷による急性期の角結膜障害の重症度分類には木下分類8)があるが,grade3b以上では輪部疲弊症のリスクが高くなり外科的治療が必要になることが多いとされている.本症例では半周以上の輪部結膜の壊死,全角膜上皮欠損,palisadesCofCVogtの完全消失を認め,2日間の投薬中心の治療で上皮の再生がみられなかったため,治療初期の評価としては木下分類に当てはめるとCgrade4相当と考えられた.急性期の眼表面の熱傷,化学外傷に対する羊膜移植の効果について,Mellerら9,10)は受傷からC2週間後に羊膜移植を行ったC13眼の検討で,軽症から中等症の症例では角膜の再上皮化と消炎を促進し,晩期の瘢痕形成を抑制するものの,重症の症例では結膜の消炎により瞼球癒着は抑制したものの輪部疲弊症を抑制することはできなかったと報告している.この結果は受傷からC6日後に羊膜移植をした化学外傷の検討でも変わらなかったとしている.本症例では受傷からC5日目に羊膜移植が行われたが,輪部疲弊症には至らなかった結果を踏まえると角膜輪部機能が残存していたと推測される.今回,熱傷の急性期重症度の評価に化学外傷の重症度分類である木下分類を参考にしたが,本症例は化学外傷ではないことから輪部結膜の障害は比較的表層に限局しており深層の輪部幹細胞への障害は比較的軽症であったことが予後良好であった一因と考えている.一般的に熱傷は化学外傷に比較して予後は良好とされているが,比較的重症な熱傷に対する化学外傷の評価方法の有用性が検討されうると考える.今回の症例は受傷のC9カ月前に両眼のCLASIK手術を施行されていた.LASIK術後眼では術後数年たってもフラップの.離による合併症が報告されており,堀ら4)はCLASIK術後C7年に外傷によりフラップが再.離した症例を報告している.Schmackら11)はCLASIKの既往のあるアイバンク提供人眼を用いて,フラップの抗張力と角膜切開創部の組織学的所見との関係を検討し,結果,角膜周辺部のフラップ辺縁付近には細胞密度の高い線維性瘢痕が形成されるものの,角膜中央付近の切開創は細胞密度の低い線維性瘢痕が形成されており,眼球ごとに変動はあるが,術後C3.5年を経過していても正常眼に比べてC25.30%程度の抗張力であったと報告している.一方,花火による眼外傷では,熱傷の影響だけでなく,ロケット花火の衝突などによる鈍的眼外傷の側面が知られており,硝子体出血や脈絡膜破裂,水晶体破裂,虹彩離断や網膜裂孔を生じた症例の報告がある12,13).今回の症例ではフラップの.離や眼内に明らかな障害を認めず,鈍的外傷の側面やフラップへの外力は比較的軽度だったと推測されるが,瞼球癒着の解離や羊膜移植手術中の操作において慎重な操作を必要とした.角膜形状への影響であるが,治療後C19カ月の角膜形状解析でC5.9時の前面カーブにCsteep化が認められるが,初診時のフルオレセイン染色所見でC6.8時のフラップの辺縁にわずかな離開があり,受傷直後にフラップの収縮が生じていた可能性がある.最終的に比較的良好な視力が維持されたが,これは点眼・点滴による集約的な治療に加え,早期に羊膜カバーを施行することで角膜の再上皮化と炎症の鎮静化が促進され,角膜瘢痕化による角膜形状への影響が最小限になったことも一因と考えられた.文献1)MysoreN,KruegerR:Advancesinrefractivesurgery:MayC2013CtoCJuneC2014.CAsiaCPacCJCOphthalmol(Phila)C4:112-120,C20152)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20143)GuellJL,VerdaguerP,Mateu-FiguerasGetal:EpithelialingrowthafterLASIK:visualandrefractiveresultsaftercleaningCtheCinterfaceCandCsuturingCtheClenticule.CCorneaC33:1046-1050,C20144)堀好子,戸田郁子,山本亨宏ほか:LaserCinCsituCKer-atomileusis術後の外傷によりフラップずれを生じた症例の治療.日眼会誌112:465-471,C20085)K.l.cCMuftuo.lu.,CAyd.nCAkovaCY,CCetinkayaCA:ClinicalCspectrumCandCtreatmentCapproachesCinCcornealCburns.CTurkJOphthalmolC45:182-187,C20156)TsubotaK,SatakeY,KaidoMetal:Treatmentofsevereocular-surfaceCdisordersCwithCcornealCepithelialCstem-cellCtransplantation.NEnglJMedC340:1697-1703,C19997)近間泰一郎:外傷・熱化学腐食に対する手術適応とタイミング.臨眼60:238-243,C20068)木下茂:眼科救急処置マニュアル,第C1版,p150-155,診断と治療社,19929)MellerCD,CPiresCRT,CMackCRJCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationforacutechemicalorthermalburns.Oph-thalmologyC107:980-989,C200010)WestekemperCH,CFigueiredoCFC,CSiahCWFCetCal:ClinicalCoutcomesCofCamnioticCmembraneCtransplantationCinCtheCmanagementCofCacuteCocularCchemicalCinjury.CBrCJCOph-thalmolC101:103-107,C201511)SchmackI,DawsonDG,McCaryBEetal:Cohesiveten-sileCstrengthCofChumanCLASIKCwoundsCwithChistologic,Cultrastructural,CandCclinicalCcorrelations.CJCRefractCSurgC21:433-445,C200512)WilsonCRS:OcularC.reworksCinjuries.CAmCJCOphthalmolC79:449-451,C197513)河原彩,南政宏,今村裕ほか:歯科用C30CG針による虹彩離断の整復術を施行した花火外傷のC1例.眼科手術C17:271-274,C2004***