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回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の薄暮でのコントラスト感度

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1019.1021,2012c回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の薄暮でのコントラスト感度清水恒輔*1河原温*1吉田晃敏*2*1札幌徳洲会病院眼科*2旭川医科大学ContrastSensitivityunderMesopicConditionsafterDiffractiveMultifocalAsphericIntraocularLensImplantationKosukeShimizu1),AtsushiKawahara1)andAkitoshiYoshida2)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoTokusyukaiHospital,2)AsahikawaMedicalUniversity目的:回折型非球面多焦点眼内レンズ(IOL)であるZMA00(AMO社)の薄暮でのコントラスト感度を検討した.方法:屈折異常と白内障以外に眼疾患を有せず術中術後合併症がない症例,ZMA00挿入眼12例12眼とZA9003(AMO社)挿入眼(20例20眼)を比較した.術後6カ月でCGT1000(タカギセイコー社)を用いて薄暮(照度10lx)でのコントラスト感度,グレア付加コントラスト感度を測定した.結果:コントラスト感度は各視標サイズで有意差を認めなかったが,グレア付加コントラスト感度は,視角1.6°の視標のみ多焦点群が有意に低値であった(p<0.05).結論:ZMA00挿入眼のコントラスト感度は悪条件下のみわずかに低下がみられるが,単焦点IOLとほぼ同等である可能性がある.Purpose:Toevaluatecontrastsensitivityineyeswithadiffractivemultifocalasphericintraocularlens(IOL)undermesopicconditions.Methods:AdiffractivemultifocalasphericIOL,theZMA00(AMO),wasimplantedin12patients(12eyes).Servingascontrolswere20eyesof20patientswithamonofocalIOL,theZA9003(AMO),ofthesamematerialandasphericdesign.Nopatientshadoculardiseaseexceptingametropiaandcataract.At6monthsafterimplantation,thecontrastsensitivitywasmeasuredundermesopicconditionswithandwithoutglare.Results:Thetwogroupsshowednosignificantdifferenceincontrastsensitivitywithoutglare,atanytargetsize.MeasurementofcontrastsensitivitywithglareshowedthatthemultifocalIOLgrouphadsignificantly(p<0.05)lowercontrastsensitivityonlyatthetargetsizeof1.6degreesofarc.Conclusion:ThediffractivemultifocalasphericIOLcanprovidecontrastsensitivitysimilartothatprovidedbythemonofocalasphericIOL,exceptunderadverseconditions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1019.1021,2012〕Keywords:回折型多焦点眼内レンズ,非球面眼内レンズ,コントラスト感度,薄暮視.diffractivemultifocalintraocularlens,asphericintraocularlens,contrastsensitivitymesopicvision.はじめに白内障手術の進歩に伴い視力以外の視機能の向上のために付加価値眼内レンズ(IOL)が注目されている.近年登場した新世代の多焦点IOLは術後良好な視力が得られている1.6).しかし,日常生活では明所から暗所まで変化し,目標物のコントラストもさまざまであることから,高コントラスト視標で得られる視力だけではQOV(qualityofvision)を評価することはできず,コントラスト感度測定の重要性が高まっている.回折型多焦点IOLは良好な遠方,近方視力を得られる1.6)が,入射光を遠方と近方に分配するために構造上コントラスト感度の低下が懸念される7).特に低照度下ではコントラスト感度が低下するため8),回折型多焦点IOL眼では薄暮条件下でさらにコントラスト感度が低下する可能性がある.非球面IOLは角膜の球面収差を補正するため,瞳孔径の拡大に伴い球面収差が増大する低照度下でのコントラスト感度が良〔別刷請求先〕清水恒輔:〒004-0041札幌市厚別区大谷地東一丁目1番1号札幌徳洲会病院眼科Reprintrequests:KosukeShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoTokusyukaiHospital,1-1-1Ooyachihigashi,Atsubetsu-ku,Sapporo-shi004-0041,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(143)1019 好である9,10).今回筆者らは,球面収差を低減するために非球面構造を用いた回折型多焦点IOLと,同形状,素材である単焦点IOLの薄暮での視機能を評価するために両者のコントラスト感度を比較検討した.I対象および方法1.対象対象は白内障と屈折異常以外に眼疾患がなく,術中術後合併症がない患者とした.症例の内訳は多焦点群(ZMA00,AMO社)12例12眼(平均年齢64.1±9.6歳,47.79歳)と,単焦点群(ZA9003,AMO社)20例20眼(平均年齢70.8±7.2歳,57.83歳)である.2.術式手術はすべて同一術者が施行した.術式は2.8mm強角膜切開にて超音波乳化吸引術を施行し,両群とも同インジェクター(アンフォルダーエメラルドAR,AMO社),同カートリッジ(エメラルドカートリッジ,AMO社)を使用しIOLを水晶体.内に挿入した.3.IOLII結果1.患者背景年齢,IOL度数に両群間で有意差を認めなかった(表1).2.視力術後の遠方裸眼視力はlogMAR(小数視力)で多焦点群.0.03±0.07(1.09),単焦点群.0.05±0.07(1.13)でどちらも良好で有意差を認めなかった.遠方矯正視力も各.0.10±0.07(1.26),.0.09±0.08(1.24)と同様に有意差を認めなかった.多焦点群の近方視力も裸眼,遠方矯正下でいずれも良好であった(表2).3.コントラスト感度コントラスト感度はいずれの視標サイズでも単焦点群のほうが高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった.グレア付加コントラスト感度は視標サイズ1.6°のみで多焦点群が単焦点群と比べ有意に低値であったが,その他は有意差を認めなかった(図1,2).表1年齢,眼内レンズの比較今回使用したZMA00とZA9003は両者ともスリーピース構造で,光学部は非球面構造を採用しており直径6.0mm,全長13.0mmである.素材はアクリル製である.多焦点IOLのZMA00は光学部後面に32の回折構造を有しており,多焦点群単焦点群p値年齢64.1±9.670.8±7.20.0761IOL度数18.8±5.120.6±0.50.1977年齢や挿入IOL度数に有意差は認めなかった(Mann-Whitney回折現象を利用することで入射光を遠方と近方に41%ずつU検定).分配する.さらに散乱光として18%が失われてしまうため,単焦点IOLと比較し理論上コントラスト感度の低下が懸念表2術後視力(logMAR)される.また,回折構造が全面に配置されていることにより入射光は瞳孔径にかかわらず遠方と近方に均等に分配される.4.検査項目術後6カ月目に両群の遠方裸眼,矯正視力,多焦点群では,近方視力(裸眼,矯正,遠方矯正下),および両群のコ多焦点群単焦点群p値遠方裸眼視力.0.03±0.07.0.05±0.070.0628遠方矯正視力.0.10±0.07.0.09±0.080.7107近方裸眼視力0.15±0.22遠方矯正下近方視力0.11±0.13近方矯正視力0.06±0.08遠方裸眼,矯正視力は両群間で有意差を認めなかった(Mannントラスト感度を測定した.コントラスト感度測定には,WhitneyU検定).多焦点群の近方視力も良好であった.CGT1000(タカギセイコー社)を用いた.本装置はボックス100型コントラストグレアテスターの一つで,薄暮(照度10lx)でのコントラスト感度と,グレア付加コントラスト感度の測定が可能である11).視標のサイズとコントラストが自動的に:多焦点群:単焦点群80コントラスト感度変化して表示され,被検者は認識した時点でスイッチを押し測定される.視標はダブルリング視標でサイズは視角6.3°から0.7°の6種類ある.5.統計解析604020各群間の比較はMann-WhitneyU検定を用いp<0.05を統計学的有意差ありとした.16.34.02.51.61.00.7視標サイズ(degofarc)図1コントラスト感度全視標サイズで有意差は認めなかった(Mann-WhitneyU検定).1020あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(144) グレア付加コントラスト感度100806040201:多焦点群:単焦点群*6.34.02.51.61.00.7視標サイズ(degofarc)図2グレア付加コントラスト感度視標サイズ1.6degofarc(視角1.6°)のみで有意差を認めた(Mann-WhitneyU検定,*p<0.05).III考察多焦点IOLと単焦点IOLのコントラスト感度を比較した報告は多数ある.今回筆者らが用いたIOLと同形状のものの報告ではシリコーン製多焦点非球面IOLのZM900と単焦点IOLのZ9000を比較したものがあり,どの照度でも両者に差はないとする報告1,2)や,薄暮視,暗所視で低周波,高周波数領域で低下していたとの報告3),明所視で中間から高周波数領域で低下していたとの報告4)など結果はさまざまである.今回使用したZMA00については,他の多焦点IOLと比較し薄暮視での中間周波数領域でのコントラスト感度が良い傾向にあったという報告がある5).本研究での薄暮視のコントラスト感度は,多焦点群が低い傾向を認めるものの,有意差を認めたのはグレア付加時の一部の視標サイズのみであった.今回単焦点と比較し,コントラスト感度低下が少なかった原因の一つとして,非球面構造が球面収差を低減している可能性がある.単焦点IOLでは薄暮条件下では非球面のものが球面のものよりコントラスト感度が良好であるとする報告9,10)もあり,多焦点IOLにおいても同様の効果が得られた可能性がある.その他の原因としてCGT1000で測定する周波数領域の範囲があげられる.CGT1000の視標は視角6.3.0.7°の範囲であるが,これは他のコントラスト感度測定機器の6.12cpdの中間周波数の範囲である11).高周波数領域でのコントラスト感度低下の報告と比較し中間周波数でのコントラスト感度低下の報告は多くはない.視覚系全体における空間周波数特性は中間周波数で最も高いことが知られており,それによる影響も考えられる12).さらに,本研究で両群間のコントラスト感度の差が小さかったことや,統計学的有意差は出なかったが年齢が多焦点IOL群で低い傾向にあったことについては,サンプル数が少なかったことが要因の一つとなった可能性がある.今後症例数を重ね検討していきたい.今回筆者らは,多焦点IOLであるZMA00と同形状・同素材の単焦点IOLの薄暮でのコントラスト感度を比較検討した.ZMA00は大きなコントラスト感度の低下もなく,コントラスト感度を低下させる他の疾患を考慮すれば有効なIOLであると考えられた.文献1)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20102)CillinoS,CasuccioA,DiPaceFetal:One-yearoutcomeswithnew-generationmultifocalintraocularlenses.Ophthalmology115:1508-1516,20083)MartinezPalmerA,GomezFainaP,EspanaAlbeldaAetal:Visualfunctionwithbilateralimplantationofmonofocalandmultifocalintraocularlenses:aprospective,randomized,controlledclinicaltrial.JRefractSurg24:257264,20084)MesciC,ErbilHH,OlgunAetal:Differencesincontrastsensitivitybetweenmonofocal,multifocalandaccommodatingintraocularlenses:long-termresults.ClinExperimentOphthalmol38:768-777,20105)GilMA,VaronC,RoselloNetal:Visualacuity,contrastsensitivity,subjectivequalityofvision,andqualityoflifewith4differentmultifocalIOLs.EurJOphthalmol22:175-187,20116)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:Two-yearfollow-upafterimplantationofdiffractiveasphericsiliconemultifocalintraocularlenses.ActaOphthalmol89:617621,20117)大沼一彦:回折型多焦点眼内レンズの光学特性.あたらしい眼科24:137-146,20078)PuellMC,PalomoC,Sanchez-RamosCetal:Normalvaluesforphotopicandmesopiclettercontrastsensitivity.JRefractSurg20:484-488,20049)森洋斉,森文彦,昌原英隆ほか:非球面眼内レンズ(TECNISZA9003)挿入眼の収差とコントラスト感度.あたらしい眼科25:561-565,200810)OhtaniS,MiyataK,SamejimaTetal:Intraindividualcomparisonofasphericalandsphericalintraocularlensesofsamematerialandplatform.Ophthalmology116:896901,200911)高橋洋子:コントラストグレアテスター.IOL&RS15:192-199,200112)魚里博,中山奈々美:視力検査とコントラスト感度.あたらしい眼科26:1483-1487,2009***(145)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121021