———————————————————————-Page1(127)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):549~552,2008?はじめに蜂による角膜外傷は過去多数報告されている1~7).スズメバチやアシナガバチ,ミツバチによる症例が多く,角膜に対する刺傷と刺傷からの蜂毒により種々の病態を発症する.蜂の種類や毒液量によって症状はさまざまで治療方法もステロイド療法のみで軽快した症例から,前房洗浄や角膜移植まで必要となった症例まで多岐にわたっている1~7).他報告では,アシナガバチによる蜂刺傷は予後良好な経過をたどり,スズメバチによる蜂刺傷は失明に至る例が多く予後不良である1~7).今回,筆者らは蜂による刺傷がないにもかかわらず,蜂毒の噴射のみによる水疱性角膜症と白内障を発症した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.〔別刷請求先〕高望美:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880番地獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-?????????????????-????????????-???????-???????????蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例高望美*1千葉桂三*1菊池道晴*1妹尾正*1千種雄一*2*1獨協医科大学眼科学教室*2獨協医科大学熱帯病寄生虫センターCaseReportofVesicularKeratitisandCataractCasedbyBeeVenomwithoutStingNozomiKoh1),KeizoChiba1),MichiharuKikuchi1),TadashiSenoo1)andYuichiChigusa2)?)??????????????????????????????)?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????今回,筆者らは蜂の刺傷を受けていないにもかかわらず,蜂毒自体によって水疱性角膜症と白内障を発症した1症例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.スズメバチが眼前数cmを通り抜けたと同時に毒を散布され霧視,視力低下が出現.当日に近医眼科受診.角膜浮腫と結膜充血,眼瞼浮腫を認めたために0.1%フルオロメトロン点眼,レボフロキサシン点眼,1%硫酸アトロピン点眼がすぐに開始され,受傷4日後よりプレドニゾロンの内服とデキサメタゾンの結膜下注射が開始となる.前房洗浄を勧めるも患者がこれを希望しなかった.症状の改善を認めないために受傷より10日目に当院眼科に紹介受診となる.水疱性角膜症と白内障,虹彩萎縮を認めた.当院でも前房洗浄を勧めたが患者が希望しなかった.当院は遠方で通院が困難であったため,近医にて経過観察となった.その後,改善を認めなかったために再度当院紹介受診となり,角膜全層移植・水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜は透明性を維持していて経過は良好である.蜂による刺創がないにもかかわらず,蜂毒のみの影響で水胞性角膜症と白内障を発症したケースは報告がなく非常に珍しいと考えられる.Wereportacaseofvesicularkeratitisandcataractcausedbybeevenomwithoutasting.Theeyesofa72-year-oldmaleweresprayedwithvenombyalargehornet?yingonlyafewcentimeters?distancefromtheman?sface.Themanexperiencedimmediatevisualimpairmentandvisitedanearbyophthalomologist.Examinationdisclosedcornealswelling,conjunctivalinjectionandpalpebraledema.Treatmentwasimmediatelyinitiatedwith0.1%?uorometholone,levo?oxacinand1%atropinesulfateeyelotion.Withoutimprovementinthecondition,perosprednisoloneandsubconjunctivalinjectionofdexamethasonwereinitiatedfromDay4.Anteriorchamberwash-outwasrecommendedaswell,butwasrefusedbythepatient.Theconditioncontinuedtodeteriorate;twomonthsafteronset,thepatientwasreferredtoourhospital.Examinationatthatpointdemonstratedvesicularker-atitis,cataractandirisatrophy.Keratoplastyandlensplastywereperformedsimultaneously;thepatientrecov-eredwell,withoutimmunologicalreaction.Thecornearemainedclear.Thisrarecaseshowsthatbeevenomtotheeyecancauseserioussymptomswithoutasting,andthattypeofthebeeandthedepthofthevenomin?ltrationmaybemajordeterminantoftheprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):549~552,2008〕Keywords:蜂毒,スズメバチ,水疱性角膜症,白内障.beevenom,vespid,bullouskeratopathy,cataract.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(129)襲われるケースが多い.本症例も巣に気がつかずにスズメバチに遭遇し受傷したものと思われた.受傷状況や,蜂の標本などで蜂の種類を同定できたことは予後や治療方針を決定するうえで重要であったと思われる.蜂毒の成分はマムシ毒,ハブ毒に並ぶ致死毒といわれており,特にスズメバチの毒性は強いことで知られている8~10).蜂毒に含まれるホスホリパーゼは激しい全身症状やアナフィラキシーショックをひき起こす.また,ホスホリパーゼ以外にも激痛誘引物質,神経毒,溶血毒や数々の内因性ペプチドが蜂毒には含まれている.特にスズメバチの毒は他の蜂毒と比べ内因性ペプチドの含有率,毒の絶対量が多いために毒性が強いといわれている10).このために蜂刺症は種々の症状を呈しやすく難治性の症候を示す.スズメバチによる眼外傷の予後は他の蜂より悪く,過去の報告では最終視力は0.2以下が大多数であった1~3).西山らの報告によると,アシナガバチによる角膜蜂刺症9例中8例が最終視力0.8以上であったのに対し,スズメバチによる角膜蜂刺症で8例中4例が光覚なしとなり,残りの4例は最終視力が0.1以下と報告している2).オオスズメバチの毒針の長さは7mmにもなり9),角膜を貫通しうるため眼内に毒素が混入しやすく,さまざまな内因性ペプチドが前房内に入ることにより重篤な眼内症状をひき起こすと推測される.今回筆者らが経験した症例は蜂針の刺創がなく,毒素が眼内深部まで到達しなかったことが,術後予後を好転させた原因と考える.全層角膜移植後の平均的な角膜内皮細胞減少は,術後2カ月目までは約25%(年率150%)であり,この2カ月の期間の変化の主因は,角膜ドナーの保存状態,手術の際の直接損在はレボフロキサシン点眼,リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼およびヒアルロン酸ナトリウム点眼を使用し経過観察中である.II考按角膜蜂外傷は,刺傷と蜂毒により角膜浮腫や水疱性角膜症,ぶどう膜炎,虹彩萎縮,白内障などを生じることが多数報告されている1~7).スズメバチによる刺蜂症は予後が最も悪く,失明または重度の視力障害に陥っており,特に蜂針が前房内にまで達すると網膜?離1)や全眼球炎2)を起こす可能性がある.筆者らの症例はスズメバチによる眼外傷であったが,最終視力予後は良好であった.これはスズメバチに刺されたわけではなく,蜂毒のみにより発症したからと考えられる.蜂の個体数がピークに達する9~10月は蜂の警戒心も強くなり被害数も多くなる8).危害を加えていないのに突然攻撃をしてくるのはスズメバチ科(Vespidae)に特有の習性である.オオスズメバチは土の中に巣を作るため,気づかずに図4術後17日目の細隙灯検査図5術後2カ月目の細隙灯検査上皮障害もなく透明性を維持している.図6術後視力と角膜内皮細胞数の変化0.20.30.40.50.60.70.80.9術後視力角膜内皮細胞数(個/mm2)1カ月:視力:角膜内皮細胞数———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(130)度の確認が重要と考える.しかし地方によっては蜂をまとめて「くまんばち」とよぶ地域もあり,蜂の種類を正確に把握するのは困難なこともあるので蜂の大きさや体の特徴など,患者からの細かい問診も角膜蜂刺症の診断,治療において重要であると考えられる.今回筆者らが経験した症例は,蜂に眼を刺されてはおらず,スズメバチの毒素が眼内深部までほとんど到達しなかったことが予後の良かった原因と考えるが,逆に言えば毒素の噴射のみでも角結膜を通して毒素が眼内に到達し虹彩萎縮や眼内炎が生じたと考えられ,たとえ刺し傷がなくとも十分に注意が必要と考える.文献1)前田政徳,国吉一樹,入船元裕ほか:蜂による眼外傷の2例.眼紀52:514-518,20012)西山敬三,戸塚清一:スズメバチによる角膜刺症.眼紀35:1486-1494,19843)三木淳司,阿部達也,白鳥敦ほか:スズメバチによる角膜刺症の1例.眼紀45:1063-1066,19944)岩見達也,西田保裕,村田豊隆ほか:角膜蜂刺症の2症例.あたらしい眼科20:1293-1295,20035)南伸也,山口昌彦,森田真一ほか:特異な経過をたどったアシナガバチによる角膜刺症の1例.眼臨97:961-964,20036)中島直子,塚本秀利,平山倫子ほか:前房洗浄を行わずに治癒したアシナガバチによる角膜刺症の2例.広島医学57:887-889,20047)米山高仁,竹田美奈子:視力回復が得られたスズメバチ角膜刺症の1例.眼紀36:705-707,19948)梅谷献二:原色図鑑野外の毒虫と不快な虫.全国農村教育協会9)小野正人:スズメバチの科学(本間喜一郎編),海遊舎,199810)白井祥平:沖縄有毒害生物大事典.新星図書出版,198211)坪田一男,島?潤ほか:角膜移植ガイダンス適応から術後管理まで.南江堂,2002傷による細胞脱落で,細胞数の減少に加え細胞の大小不同,六角形細胞率の減少もこの時期に起こるとされている.術後2年では約41%(術後2カ月から2年の間は年率20%)の減少率である.この期間の主因は手術創の修復による影響が多いとされている11).また,術後炎症が遷延した場合はこの期間の減少率が大きいとされている.その後2年以上経過すると,減少率は手術直後の侵襲や創の修復による影響が低下するため,減少率は術後から約65%(年率7.3%程度)となる.さらに5年から20年で術後から73%(年率1.3%)となる.移植片内皮は手術原疾患にも左右され,ホスト内皮が少なければグラフト内皮はホスト側へ移動し,グラフト内皮は減少するとされている.水疱性角膜症がその例であり,逆が円錐角膜である.円錐角膜の術後スペキュラーマイクロスコープ像は早期に安定し経過が良いが,水疱性角膜症では減少率が大きくパラメータが安定するのも遅いといわれている11).本症例をこれらの減少率で計算し比較してみたところ,角膜内皮術前からの減少率は,術後2カ月で約62%,術後2年で約75%であった.前述した平均的な減少率より本症例の減少率のほうが高く,移植後も毒素の影響が残っていた可能性と,原疾患であるスズメバチ毒素による細胞障害が相加的に働いた可能性の2つが考えられる.患者は前房洗浄を希望せず長期的に前房内が蜂毒に曝露されたことにより広範囲かつ高率に内皮細胞が減少し,ホスト角膜へのドナー内皮の遊走が大きかったと推察される.スズメバチによる角膜蜂刺症治療は受傷後早期前房洗浄による毒液の除去が重要とされている2,3,7).今回の症例では,患者の了解が得られなかったために早期前房洗浄を行うことができなかったが,刺傷がなく,蜂毒による障害部位が前眼部に限局していたため,最終的に視力の改善を得ることができたと考える.また蜂毒を噴霧されたことを考慮すると,一種の角膜化学傷とも考えられ,今後このような症例に遭遇した場合,大量の食塩水などで洗眼する方法も一法と考える.角膜蜂刺症の治療には蜂の種類の同定と毒液の量,針の深