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糖尿病網膜症に合併した脈絡膜新生血管の2例

2011年10月31日 月曜日

1468(10あ0)たらしい眼科Vol.28,No.10,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第16回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(10):1468?1472,2011cはじめに糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を合併することは比較的稀である1)が,最近わが国では,このような症例がいくつか報告されている2,3).今回,糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に,黄斑部に硬性白斑を集積し,その後に脈絡膜新生血管を併発した2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕北垣尚邦:〒569-1192高槻市小曽部町1-3-13愛仁会高槻病院眼科Reprintrequests:TakakuniKitagaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TakatsukiGeneralHospital,1-3-13Kosobe-cho,Takatsuki,Osaka569-1192,JAPAN糖尿病網膜症に合併した脈絡膜新生血管の2例北垣尚邦*1荻田小夜子*1宮本麻起子*1光辻辰馬*1家久来啓吾*2鈴木浩之*2佐藤孝樹*2石崎英介*2植木麻理*2池田恒彦*2*1愛仁会高槻病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室TwoCasesofChoroidalNeovascularizationAssociatedwithDiabeticRetinopathyTakakuniKitagaki1),SayokoOgita1),MakikoMiyamoto1),TatsumaMitsutsuji1),KeigoKakurai2),HiroyukiSuzuki2),TakakiSatou2),EisukeIshizaki2),MariUeki2)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege糖尿病網膜症に血管新生黄斑症を合併した2例を経験したので報告する.症例1:63歳,男性.増殖糖尿病網膜症に対し両汎網膜光凝固術,硝子体切除術を施行され,2008年10月20日,矯正視力は右眼0.4,左眼は中心窩硬性白斑集積のため0.05であった.同年12月15日,左眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血を認め,矯正視力は0.02に低下した.3カ月後に,出血は吸収されたが,矯正視力は0.01pである.症例2:60歳,男性.糖尿病網膜症に対し,両汎網膜光凝固術,黄斑浮腫に対し両トリアムシノロンTenon?下注射を施行し一時的に経過したが再発を生じたため,硝子体切除術を施行した.2009年4月26日,矯正視力は右眼0.3,左眼0.5であったが,右眼はその後黄斑部に硬性白斑の集積を認めた.同年6月20日,右眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血認め,矯正視力は0.1pに低下した.現在矯正視力は0.06である.2例とも黄斑部の硬性白斑集積後,脈絡膜新生血管を発症し,網膜下出血をきたした.黄斑部の硬性白斑集積は脈絡膜新生血管発生の一因となっている可能性がある.Purpose:Toreporttwocasesofneovascularmaculopathyassociatedwithdiabeticretinopathy.CaseReports:Case1wasa63-year-oldmalepatientwhounderwentpanretinalphotocoagulationandvitreoussurgeryforproliferativediabeticretinopathy(PDR)inbotheyes.InOctober2008,thepatient’scorrectedvisualacuitywas0.4righteye(RV)and0.05lefteye(LV),duetotheaccumulationofsubfovealhardexudates.InDecember2008,weobservedamacularsubretinalhemorrhageoriginatingfromsubfovealchoroidalneovascularization(CNV),whichresultedinLVdecreasingto0.02.ThesubretinalhemorrhagerecurredthreemonthslaterandLVremainedat0.01p.Case2wasa60-year-oldmalepatientwhounderwentpanretinalphotocoagulationforPDRandposteriorsub-Tenon’sinjectionoftriamcinoloneacetonideandvitreoussurgeryformacularedema.IntheSpringof2009,RVandLVwere0.3and0.5,respectively,andanaccumulationofhardexudateswasobservedintherighteye.InJune2009,hisRVdecreasedto0.1pduetoasubretinalhemorrhageoriginatingfromCNV.CurrentRVis0.06.BothcasespresentedCNVandsubretinalhemorrhageaftertheaccumulationofcentralfoveahardexudates.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthattheaccumulationofcentralfoveahardexudatesappearstobeinvolvedinthepathogenesisofCNVformation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1468?1472,2011〕Keywords:糖尿病網膜症,血管新生黄斑症,黄斑部網膜下出血,硬性白斑.diabeticretinopathy,neovascularmaculopath,subretinalhemorrhage,hardexudates.(101)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111469I症例〔症例1〕63歳,男性.既往歴:糖尿病,高血圧症,高脂血症.現病歴:両眼糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫に対し,近医にて経過加療を施されていたが,2001年4月2日,右眼硝子体出血をきたし,高槻病院(以下,当院)紹介となった.当院眼科初診時,両眼増殖糖尿病網膜症を認め,両眼の汎網膜光凝固術を開始した.一旦,右眼硝子体出血は自然吸収したが,2003年1月6日に再度,右眼硝子体出血をきたし,2003年2月4日に右眼経毛様体扁平部硝子体切除術+水晶体再建術を施行した.2004年1月13日に左眼にも硝子体出血を認め左眼経毛様体扁平部硝子体切除術+水晶体再建術を施行した.その後,左眼は硝子体出血をくり返し,液-ガス置換を施行するも軽快しなかったため,2005年1月18日,再度,左眼経毛様体扁平部硝子体切除術を施行した.2008年10月20日の時点で,矯正視力は右眼0.4,左眼は中心窩硬性白斑集積のため0.05であった(図1).2008年12月15日,左眼の中心暗点を自覚して受診した.このとき,左眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血を認め,矯正視力は0.02に低下していた(図2).患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察に留めた.2010年11月15日現在,網膜下出血は吸収されているが,血管新生黄斑症による瘢痕病巣のため矯正視力は0.01pに留まっている(図3).〔症例2〕60歳,男性.既往歴:糖尿病,高血圧症,狭心症.現病歴:2003年10月30日,視力低下を主訴に当院初診.初診時,前増殖糖尿病網膜症を認め,蛍光眼底造影検査にて両眼の広範な無血管領域を認め,両眼の汎網膜光凝固術を施図1症例1:2008年10月20日の眼底写真左眼眼底に硬性白斑の集積を認め,左眼硝子体出血の残存を認める(右).図2症例1:2008年12月15日の左眼眼底写真脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血を認める.図3症例1:2010年11月15日の左眼眼底写真網膜下出血は吸収されているが,血管新生黄斑症による瘢痕を認める.1470あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(102)図4症例2:2009年4月21日の眼底写真(左:右眼,右:左眼)両眼硝子体手術後,右眼に硬性白斑の集積を認める.図5症例2:2009年4月21日のフルオレセイン蛍光眼底撮影写真(左:右眼,右:左眼)右眼黄斑部に過蛍光を認める.図6症例2:2010年11月29日の眼底写真(左:右眼,右:左眼)右眼に脈絡膜新生血管を認める.(103)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111471行した.2004年7月6日の時点で黄斑浮腫の進行を認め,右眼矯正視力0.7p,左眼矯正視力0.4pであった.黄斑浮腫に対し,2005年8月16日に左眼,同年10月22日に右眼に対してトリアムシノロン20mg後部Tenon?下注射を施行したが,浮腫の改善を認めず,徐々に視力の低下を認めたため,2008年1月15日,左眼経毛様体扁平部硝子体切除術+水晶体再建術,同年8月4日,右眼左眼経毛様体扁平部硝子体切除術+水晶体再建術を施行した.手術施行後2009年4月21日の時点で右眼矯正視力0.3,左眼矯正視力0.5であった.この時点ですでに硬性白斑の黄斑部への集積を認め,脈絡膜新生血管の発生が認められた(図4,5).右眼はその後,同年6月22日には脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血を認めた.症例1と同様に患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察に留めた.2010年11月29日現在,出血は自然消退したが,右眼視力は0.06に留まっている(図6?8).II考按糖尿病網膜症に血管新生黄斑症が併発することは比較的稀とされてきた1).しかし近年,従来の蛍光眼底検査(フルオレセイン蛍光造影:FA,インドシアニングリーン蛍光造影:IA)に加えて,光干渉断層計(OCT)により網膜下病変をより詳細に観察できるようになり,糖尿病網膜症に血管新生黄斑症が合併することは決して稀ではないことがわかってきた2,3).奥芝らは糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管が発生する機序として,脈絡膜虚血,局所的脈絡膜血管障害,糖尿病黄斑症による網膜色素上皮障害などの関与,加齢黄斑変性症の合併などを指摘している3).糖尿病網膜症と加齢黄斑変性は両方とも発症頻度が高い疾患なので,単にこの2疾患が合併することも考えられるが,糖尿病が加齢黄斑変性症の危険因子とする報告は多い.Kleinらの報告によると75歳以上の685眼図7症例2:2010年11月29日のフルオレセイン蛍光眼底撮影写真(左:右眼,右:左眼)右眼脈絡膜新生血管に一致して過蛍光を認める.図8症例2:2010年11月29日のOCT画像(左:右眼眼底,中・右:右眼OCT)右眼網膜色素上皮下に脈絡膜新生血管を認める.1472あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(104)について検討したところ,非糖尿病患者の加齢黄斑変性症発症頻度は4.7%であったのに対し,糖尿病患者では9.4%と高い割合であったとしている4).また,以前より黄斑浮腫に対する光凝固(グリット光凝固)後の脈絡膜新生血管の発症の報告は多い.その機序としては黄斑部近傍の過剰な光凝固により網膜色素上皮が障害され,この部位から脈絡膜新生血管が生じるとされている5).また,びまん性糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後に黄斑部への硬性白斑集積が生じることはよく知られている6)が,その機序はいまだ明らかにはなっていない.丸一らは,硝子体手術後に硬性白斑が黄斑部に集積した増殖糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管が生じた1例を報告しており,脈絡膜新生血管の発症誘因として,硬性白斑を貪食するために集まってきたマクロファージが血管内皮増殖因子(VEGF)などのサイトカインを放出することを推測している7).また,高木らの報告によると硝子体手術時に摘出した黄斑部網膜下の硬性白斑に著明なVEGFの発現を認めたと報告している8).今回経験した2症例とも,黄斑浮腫に対する硝子体手術後に硬性白斑が黄斑部に集積した後,新生血管黄斑症を発症し,黄斑部網膜下出血をきたした.新生血管黄斑症の発症には上記のようなマクロファージによるVEGFなどのサイトカインの放出が関与した可能性がある.以前は新生血管黄斑症に対し,光凝固,光線力学的療法(PDT),経瞳孔的温熱療法(TTT),硝子体手術による脈絡膜新生血管抜去術などが行われてきた.また,網膜下出血に対してはガスタンポナーデによる血腫移動術の適応も考えられる.今回の2症例はいずれも,患者の希望で積極的な加療を行わなかったが,血管新生黄斑症の原因がVEGFなどのサイトカインであるなら,加齢黄斑変性と同様に抗VEGF薬の硝子体内注射が治療の第一選択になったのではないかと思われる.おわりに糖尿病網膜症に血管新生黄斑症を発症した2症例を経験した.黄斑部の硬性白斑集積を認める症例は血管新生黄斑症を発症する可能性があり,より注意深い眼底の経過観察が必要である.文献1)HenkindP:Ocularneovascularization.TheKrillmemoriallecture.AmJOphthalmol85:287-301,19782)宮嶋秀彰,竹田宗泰,今泉寛子ほか:糖尿病網膜症に伴う脈絡膜新生血管の臨床像と経時的変化.眼紀52:498-504,20013)奥芝詩子,竹田宗泰,今泉寛子ほか:糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を伴った15例.眼紀47:171-178,19964)KleinR,KleinBE,MossSE:Diabetes,hyperglycemia,andage-relatedmaculopathy.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:1527-1534,19925)宮部靖子,竹田宗泰:糖尿病黄斑浮腫における網膜下繊維増殖.眼紀52:201-205,20016)舘奈保子,荻野誠周:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の成績.眼科手術8:129-134,19957)丸一みどり,南政宏,植木麻理ほか:糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術後に発症した血管新生黄斑症の1例.眼臨95:1025-1028,20018)高木均,大谷篤志,小椋祐一郎:眼科図譜糖尿病黄斑症における中心窩硬性白斑の組織学的検討.臨眼52:16-18,1998***