‘術後前房深度’ タグのついている投稿

低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に 関連する因子の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):112.117,2022c低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に関連する因子の検討川口ゆいこ*1玉置明野*1小島隆司*2澤木綾子*1加賀達志*1*1独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室CFactorsRelatedtoEarlyPostoperativeRefractiveChangesinEyesWithLow-Add-PowerSegmentedBifocalIntraocularLensImplantationYuikoKawaguchi1),AkenoTamaoki1),TakashiKojima2),AyakoSawaki1)andTatsushiKaga1)1)JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:低加入度数分節型眼内レンズと単焦点眼内レンズの術後屈折値の変化の検討.対象および方法:対象は水晶体再建術でCLS-313MF15(L群,31眼),SN60WF(S群,30眼),AN6KA(A群,30眼)を挿入した計C91例C91眼(平均年齢C73.5±7.5歳).術翌日,3カ月時の自覚等価球面度数(SE),前眼部COCTによる平均角膜屈折力(Real値),前房深度(ACD)を術翌日とC3カ月時で比較し,SE変化との関連因子について重回帰分析を行った.結果:SE変化量(D)は,L群C0.29±0.44,S群.0.11±0.38,A群.0.17±0.33でCL群は有意な遠視化を認めた(p=0.0004).ACD変化量(mm)はCL群C0.20±0.19,S群.0.18±0.13,A群.0.21±0.10でCL群のみ有意に深くなった(p=0.0071).Real値の変化はC3群とも有意な近視化を認めたが(p<0.0001),3群間に差はなかった.SE変化量を従属変数とした重回帰分析にて選択された独立変数は,ACD変化量のみであった(p=0.020).結論:L群の術後屈折値はC3カ月で遠視化し,IOLの後方移動によるCACDの増加が関連する.CPurpose:Toassessthepostoperativeaxialmovementoflow-add-powersegmentedbifocalintraocularlenses(IOLs)(LS-313MF15;Santen)andassociatedfactors.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved91eyesof91patientswhounderwentimplantationoftheLS-313MF15IOL(GroupL:31eyes)oramonofocalIOL[SN60WFIOL;Alcon(GroupS:30eyes)andAN6KAIOL;Kowa(GroupA:30eyes)].MultipleregressionanalysiswasperformedCtoCevaluateCtheCfactorsCtoCexplainCtheCchangesCinsphericalCequivalent(SE)valuesCpostCsurgery.CResults:PostCsurgery,Csigni.cantChyperopicCshiftCofCSEchange(p=0.0004)andCdeepeningCofCanteriorCchamberdepth(ACD)(p=0.0071)wasonlyobservedinGroupL.Thechangeintotalcornealpowershowedasigni.cantmyopicshiftinallthreegroups(p<0.0001),however,nosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthegroups.IntheCmultipleCregressionCanalysis,CwhenCtheCSECchangeCwasCsetCasCaCdependentCvariable,ConlyCACDCchangeCwasCselectedCasCtheCindependentvariable(p=0.020).CConclusion:TheChyperopicCshiftsCofCsubjectiveCrefractionCafterCimplantationoftheLS-313MF15IOLwasassociatedwithIOLposteriorshifts.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):112.117,C2022〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,術後前房深度,術後屈折変化,角膜屈折力.low-add-powerCsegment-edintraocularlens,postoperativeanteriorchamberdepth,postoperativerefractivechange,totalcornealpower.Cはじめに持部の素材が異なるスリーピース型,同素材で一体型となっこれまでに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の術後安ているワンピース型やプレート型などさまざまで,素材や.定性に関する報告は多数あり1.4),IOLの形状は光学部と支収縮による.内でのCIOL位置変化の大小が術後の屈折変化〔別刷請求先〕川口ゆいこ:〒457-8510愛知県名古屋市南区三条C1-1-10独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科Reprintrequests:YuikoKawaguchi,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoyacity,Aichi457-8510,JAPANC112(112)に関与する因子として報告されている4).スリーピースアクリルCIOLは,術後C1カ月でCIOL固定位置が前方移動し近視化するが,ワンピースアクリルCIOLは屈折変化が少ないと報告されている5.8).+1.50CDが扇状に加入された分節型CIOLレンティスコンフォート(モデルCLS-313MF15,参天製薬)は,親水性アクリル素材のプレート型CIOLで,術直後からC3カ月まで緩やかに後方移動し安定することが報告されている9).しかし,自覚的屈折値の変化量と術後前房深度変化量には相関を認めず,術後角膜屈折力の近視化傾向により,IOLの後方移動に伴う遠視化が緩和された可能性が指摘しているが,その後検証した報告はない.今回,自覚的屈折値の変化量に関連する因子について詳細に検証したので報告する.CI対象および方法対象は,2019年C1月.2020年C7月に独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院にて水晶体再建術を行い,術後C3カ月の矯正視力がC0.8以上であったC91例C91眼,平均年齢C73.5C±7.5歳である.LS-313MF15を挿入したC31例C31眼,男性9例,女性22例,平均年齢C71.4C±9.5歳をCL群とし,L群と年齢マッチングしたワンピースアクリルCIOL(SN60WF,Alcon社)を挿入した30例30眼,男性15例,女性15例,平均年齢C74.9C±5.3歳(以下,S群)と,スリーピースアクリルCIOL(AN6KA,興和)を挿入したC30例C30眼,男性C13例,女性C17例,平均年齢C74.3C±6.9歳(以下,A群)をコントロール群とした.両眼手術例は術後矯正視力がよい眼を対象とし,同一視力の場合は手術日が早い眼を対象とした.術翌日の一過性の眼圧上昇を含む術中術後合併症を認めたものは除外した.本研究は,ヘルシンキ宣言に則りCJCHO中京病院倫理審査委員会の承認を得て行われた後方視的無作為化比較試験である(承認番号#2020025).データ収集にあたっては,オプトアウトを掲示し,研究参加の拒否について配慮したうえで行った.IOL度数決定のための術前検査には,光学式眼内寸法測定装置CIOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)を用い,角膜屈折力と前房深度(角膜前面から水晶体ないしCIOL前面までの距離)の測定には前眼部三次元画像解析装置(CASIA2トーメーコーポレーション)を用いた.IOL度数計算式は,BarrettUniversalII式を使用した.検討項目は,自覚的屈折値(等価球面度:SE),CASIA2で角膜後面を実測した全角膜屈折力(Real値),前房深度および予測屈折誤差とし,術後C3カ月の測定値から術翌日の測定値を引いた値を比較した.予測屈折誤差は,術後の自覚的屈折値から予測屈折値を引いた値とした.さらに,L群の角膜屈折力の変化に関連する因子として,中心角膜厚と角膜後面屈折力について術翌日とC3カ月後の測定値を比較した.またCL群では,術後の自覚的屈折値の変化に関連する因子について,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立変数は角膜屈折力変化量,前房深度変化量,IOL度数,術後C3カ月の眼軸長(術後眼軸長)として重回帰分析を行った.さらに,角膜屈折力の変化量を眼鏡面での値に換算10)し,自覚的屈折値変化量から除いた値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化,IOL度数,術後眼軸長,および(前房深度変化C×IOL度数)を術後眼軸長で除した値として重回帰分析を行った.統計解析ソフトはCGraphPadPrismver.6.0(GraphPad社)とCIBMCSPSSCStatisticsver.21(IBM社)を用いた.正規性の判定にCShapiro-WilkCnormalitytestを行い,2群間の比較にはCpairedt-testまたはCWilcoxonmatched-pairssignedranktestを,3群間の比較には一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定を用い,postChoctestとしてCHolm-Sidak’sCmultipleCcomparisonstestまたはCDunnの多重比較を行った.統計学的有意水準は5%未満とした.CII結果3群の平均年齢と術前測定値は,すべての項目において有意差はなかった(表1).C1.術後屈折変化術後自覚的屈折値の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC.0.60±0.53D,C.0.31±0.49Dで,術後C3カ月で有意に遠視化した(p=0.0004).S群はC.0.07±0.37D,C.0.18±0.39Dで有意差はなかった(p=0.134).A群はC.0.34±0.39D,C.0.51±0.43Dで術後C3カ月では有意に近視化した(p=0.0014)(図1a).術後の自覚的屈折値変化量の平均±標準偏差は,L群がC0.29C±0.44D,S群はC.0.11±0.39D,A群はC.0.17±0.33DでC3群に有意差を認め(p<0.0001),L群はS群(p=0.0003),A群(p<0.0001)より有意に遠視化した.A群とCS群に有意差はなかった(p=0.5627)(図1b).C2.前房深度の術後変化術後前房深度の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC4.40C±0.31Cmm,4.63C±0.28mm,S群ではC4.88C±0.24Cmm,4.70C±0.25Cmm,A群ではC4.57C±0.28Cmm,4.38C±0.28Cmmで,術翌日と比べて術後C3カ月にはCL群では深く,S群とCA群では有意に浅くなった(p<0.0001,p<C0.0001,Cp=0.0071)(図1c).術後前房深度の変化量は,L群がC0.20C±0.19Cmm,S群はC.0.18±0.13Cmm,A群はC.0.21C±0.10Cmmで,L群のみ術後C3カ月で深くなり,S群,A群との間に有意差(いずれもCp<0.001)を認めたが,S群とCA群に有意差はなかった(図1d).表13群の平均年齢と術前測定値L群S群A群p値年齢(歳)C71.4±9.5C74.9±5.3C74.3±6.9C0.15眼軸長(mm)C23.73±0.99C23.78±0.94C23.70±1.08C0.95平均角膜屈折力(D)C43.10±1.61C43.05±0.98C42.92±1.21C0.85前房深度(mm)C3.24±0.43C3.31±0.44C3.22±0.41C0.68水晶体厚(mm)C4.47±0.60C4.61±0.35C4.61±0.40C0.25角膜横径(mm)C11.77±0.46C11.90±0.38C11.95±0.45C0.27IOL度数(D)C19.73±2.4C21.25±3.2C20.88±2.8C0.22すべての項目でC3群間に有意差は認められなかった.a.3群の術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値b.術後自覚的屈折値変化量1**1.51.0**術後自覚的屈折値変化量(D)術後自覚的屈折値(D)0-1-20.50.00.5-31.0L群S群A群L群S群A群c.3群の術翌日と術後3カ月の前房深度d.術後前房深度変化量6.01.0***n.s.術後前房深度変化量(mm)術後前房深度(mm)5.50.55.04.54.03.50.0-0.5L群S群A群1D:術翌日,3M:術後3カ月,**:p<0.01,***:p<0.001,n.s.:notsigni.cant.図1術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値と前房深度の変化a:自覚的屈折値の変化を示す.L群は術後C3カ月で有意に遠視化し,A群は有意に近視化した.S群は有意な変化はなかった.Cb:術後自覚的屈折値変化量を示す.L群は他のC2群と比較し有意に遠視化したが,S群とCA群に有意差はなかった.Cc:前房深度の変化を示す.術翌日と術後C3カ月の前房深度の変化は,L群が有意に後方移動し,S群とCA群は有意に前方移動した.Cd:術後前房深度変化量を示す.L群は,他のC2群と比較し有意に深くなったが,S群とCA群には有意差はなかった.C3.平均角膜屈折力の術後変化1.13D,42.98C±1.21D(p<0.001)であった.3群とも術翌平均角膜屈折力の平均±標準偏差は,術前,術翌日,術後日が術前より有意に小さく(いずれもCp<0.001),術後C3カ3カ月の順にCL群ではC43.10C±1.61D,42.76C±1.69D,43.13月が術翌日より有意に大きくなった(いずれもCp<0.001).3C±1.59Dで,S群はC43.05C±0.98D,42.79C±1.02D,43.11C±群とも術前と術後C3カ月には有意差は認められなかった.術0.99D(p<0.001)であり,A群ではC42.92C±1.21D,42.60C±後平均角膜屈折力の変化量は,L群がC0.37C±0.40D,S群は1D3M1D3M1D3ML群S群A群a.術後平均角膜屈折力変化量b.術前平均角膜屈折力変化量(D)1.51.00.50.0-0.5-1.0L群S群A群c.術翌日d.術後3カ月図2術翌日と術後3カ月の平均角膜屈折力変化量と前眼部OCTによる右眼耳側角膜切開部と角膜形状解析a:術後平均角膜屈折力変化量を示す.術翌日と術後C3カ月の平均角膜屈折力はいずれもC3カ月時が強くなり,3群に有意差はなかった.n.s:notsigni.cant.Cb:術前右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cc:術翌日右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cd:術後C3カ月右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cb~d共通:左上=AxialPower(Real),角膜後面を実測したCTotalCCornealPower,右上=AxialPower(Posterior),角膜後面屈折力,左下=水平断層像,矢頭=角膜後面の耳側切開位置,右下=Ks)強主経線の角膜屈折力,Kf)弱主経線の角膜屈折力,CYL)乱視量,Avg.K)平均角膜屈折力.術前(Cb)の角膜後面屈折力Ave.KはマイナスC6.3Dであり,術翌日(Cc)は角膜後面の浮腫により角膜後面屈折力CAvg.Kはマイナス6.8Dとなり,術後C3カ月(Cd)でマイナスC6.4Dに変化した.Real値のCAvg.Kは術翌日(Cc)42.1Dから術後C3カ月(Cd)43.1Dと強くなったことがわかる.C0.32±0.40D,CA群はC0.38C±0.42DでC3群間に有意差はなか前眼部COCTによる右眼の耳側角膜切開部と角膜形状解析った(図2a).CL群の角膜後面屈折力の平均C±標準偏差は,結果の典型例について,術前を図2b,術翌日を図2c,術後術前がC.6.23±0.24D,術翌日がC.6.40±0.29D,術後C3カ3カ月の結果を図2dに示す.C月が.6.25±0.24Dで,術前は術翌日より有意にマイナス度4.重回帰分析結果数が弱く(Cp<C0.0001),術翌日は術後C3カ月より有意にマイL群に対し,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立ナス度数が強くなった(Cp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有変数を角膜屈折力変化量,前房深度変化量,CIOL度数,術後意差は認められなかった.CS群CA群ともに術前と比較し術3カ月の眼軸長(術後眼軸長)とした重回帰分析では,前房翌日はマイナス度数が有意に弱く(いずれもp<0C.0001),術深度変化量のみが選択され(Cp=0.02,CRC2=0.1375),標準化翌日と比較し術後C3カ月はマイナス度数が有意に強くなった係数CbはC0.371,相関係数はC0.371であった(図3a).さら(いずれもCp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有意差は認めらに,全眼球屈折力から角膜屈折力(眼鏡面に変換)を引いたれなかった.中心角膜厚の平均C±標準偏差は,術翌日がC値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化量,CIOL度数,574.9±39.8Cμm,術後C3カ月がC541.9C±32.4Cμmで術翌日は術後眼軸長,および(CIOL移動量C×IOL度数)を術後眼軸長有意に厚かった(p<0C.0001).C0.1339で除した値として重回帰分析を行った結果,従属変数と相関a.術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係b.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係全角膜屈折力を除いた術後自覚屈折値変化量(D)図3L群の自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係a:術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.02,RC2=0.1375).b:術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.007,RC2=0.1893).関係が認められたのは,前房深度変化量(p=0.007,r=0.435)と(IOL移動量C×IOL度数)/術後眼軸長(p=0.025,Cr=0.355)であり,係数として選択されたのは前房深度変化量のみ(p=0.007,RC2=0.189)で,標準化係数CbはC0.435であった(図3b).CIII考按本研究において術後の自覚的屈折値は,ワンピースCIOL(S群)は有意な変化はなく,スリーピースCIOL(A群)は近視化し,低加入度数分節CIOL(L群)は遠視化した.術後前房深度の変化は,L群のみ深くなり,S群とCA群は浅くなった.平均角膜屈折力はすべての群で術後C3カ月は術翌日より大きく,近視化傾向を示し,L群について既報12)と同様の結果が確認された.平均角膜屈折力の変化について,大内は,術翌日は角膜厚が増加し,その後C2日以降で角膜後面の平坦化が生じ角膜屈折力は安定したと報告2)している.また,林らは,角膜切開ないし経結膜強角膜一面切開によるワンピースCIOL挿入後の平均角膜屈折力(keratometricpower)は,術翌日からC2カ月まで有意に強くなったと述べている4).本研究では角膜後面を実測して求めた平均角膜屈折力(Real値)にて術翌日と術後C3カ月時の測定値を比較し,同様な結果が確認された.L群において,中心角膜厚は術翌日と比較し術後C3カ月で薄くなり(p<0.0001),角膜後面屈折力は,切開部位の一時的な浮腫によって術翌日のみ術前と比べ有意にマイナス度数が大きくなった(p<0.0001).しかし,創傷治癒によって術後C3カ月の角膜後面屈折力は弱くなり角膜全屈折力は増加し,術翌日と比較し近視化したが,術前と同等の値に戻ったと考えられる.IOLの安定性については,支持部に角度がついているものは,光学部と支持部が同一平面にあるものと比べ,前後方向への移動が大きいことが報告11)されており,ワンピースIOLの術後前房深度は,術後早期の有意差はなく,スリーピースCIOLは有意に浅くなるとの報告5,6)がある.一方,杉山らは,低加入度数分節型CIOLは術後C4日からC3カ月まで前房深度は有意に深くなり,その後は安定したと報告9)している.本研究でも同様に,ワンピースCIOLとスリーピースIOLはともに術後翌日からC3カ月で前房深度は浅くなり,低加入度数分節型CIOLは深くなり,既報と一致していた.術後前房深度の変化は,年齢や眼軸長よりも光学部の素材やCIOL支持部の前後方向への抵抗力などの要因の影響を大きく受けること1)や,プレート型CIOLは素材上,前.収縮により周囲のプレートがやや後方に反ることで中央の光学部がやや後方に移動すると推察されている9).本研究の重回帰分析では,角膜屈折力の変化を含む自覚的屈折値の変化と術後前房深度の変化に弱い相関が認められた(RC2=0.137).しかし,前房深度の変化量が屈折値に与える影響は,IOLの度数や眼軸長に占める割合によって異なる.杉山らが指摘9)している術後の角膜屈折力の近視化による影響を除外した自覚的屈折値の変化は,前房深度変化と,眼軸長およびCIOLの(移動量×度数)との比に相関を認め,角膜屈折力変化の近視化を含む場合より決定係数(RC2=0.189)は若干大きくなり,術後早期の前房深度変化が低加入度数分節CIOLの自覚的屈折値の遠視化の一因であることが示された.しかし,いずれも決定係数は小さく,前房深度の後方移動のみで今回の自覚的屈折値の遠視化を説明することは困難である.本研究の限界として,術翌日の眼軸長は計測されておらず,術後の眼軸長の変化は不明であること,また,IOLのtiltや瞳孔径が与える影響についても不明であることがあげられ,IOLの圧縮試験を含めさらなる検証が必要である.一般的に使用頻度の高い単焦点CIOLは,デザインや素材により術後早期の位置変化が異なる1,12)ことが知られており,その挙動に伴う屈折変化を把握しておくことは,患者の裸眼視力に与える影響を説明するのに役立つ.低加入度数分節型CIOLは,中間距離(70Ccm)の良好な裸眼視力の獲得や,多焦点CIOLに特徴的なグレアやハローなどが少ないことが報告13,14)され,眼鏡依存度の低減が期待されているが,他覚的屈折値が自覚的屈折値と乖離し近視傾向を示し15),術後早期はCIOLの後方移動により遠視化することを考慮しておくことが肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaK:PostoperativeCrefrac-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C20082)大内雅之:白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討.あたらしい眼科34:1771-1775,C20173)石田秀俊,三田哲大,渋谷恵理ほか:3種類の単焦点眼内レンズの白内障術後の前房深度と屈折変化の比較.日本白内障学会誌32:58-62,C20204)林俊介,吉田起章,林研ほか:シングルピース疎水性アクリル眼内レンズ挿入術後早期の屈折誤差変化に関与する因子.日眼会誌124:759-764,C20205)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCfoldableCintraocularClenses.CRandomizedCcontrolledCtrial.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C20106)HayashiCK,CHayashiH:ComparisonCofCtheCstabilityCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheClensCcapsule.JCrataractRefractSurgC31:337-342,C20057)KoeppCC,CFindlCO,CKriechbaumCKCetal:PostoperativeCchangeine.ectivelenspositionofa3-pieceacrylicintra-ocularlens.JCrataractRefractSurgC29:1974-1979,C20038)NejimaR,MiyaiT,KataokaY,etal:Prospectiveintrapa-tientCcomparisonCofC6.0-millimeterCopticCsingle-pieceCandC3-pieceChydrophobicCacrylicCfoldableCintraocularClenses.COphthalmologyC113:585-590,C20069)杉山沙織,後藤聡,小川圭子ほか:低加入度数分節型眼内レンズの術後前房深度の経時的変化.日眼会誌C124:C395-401,C202010)KlijnS,SicamVA,ReusNJ:Long-termchangesinintra-ocularClensCpositionCandCcornealCcurvatureCafterCcataractCsurgeryCandCtheirCe.ectConCrefraction.CJCCataratCRefractCSurgC42:35-43,C201611)LaneS,CollinsS,DasKKetal:Evaluationofintraocularlensmechanicalstability.JCataratRefractSurgC45:501-506,C201912)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCrataractRefractSurgC30:45-51,C200413)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C201914)井上康:低加入度数分節眼内レンズ・レンティスコンフォートR.眼科グラフィックC8:257-264,C201915)橋本真佑,蕪龍大,川下晶ほか:低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼の測定機器による他覚的屈折値の相違.眼科62:69-72,C2020***