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神経麻痺性角膜穿孔に対し羊膜移植術併用表層角膜移植術 が奏効した1 例

2021年7月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科38(7):821.824,2021c神経麻痺性角膜穿孔に対し羊膜移植術併用表層角膜移植術が奏効した1例曽田里奈*1,2福岡秀記*1岩間亜矢子*1吉岡麻矢*1,3奥村峻大*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2大阪府済生会中津病院眼科*3大阪医科大学眼科学教室CACaseofAmnioticMembraneandSuper.cialCornealTransplantationforCornealPerforationwithTrigeminalNervePalsyRinaSoda1,2)C,HidekiFukuoka1),AyakoIwama1),MayaYoshioka1),TakahiroOkumura1,3)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)CNakatsuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeCDepartmentofOphthalmology,OsakaSaiseikai目的:神経麻痺性角膜症による角膜穿孔後,急速に白内障が進行し,表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術を同時に施行し経過良好な症例を経験したので報告する.症例:80歳,男性.既往歴は脳梗塞.左眼の角膜びらんと診断され,改善しないため京都府立医科大学病院を紹介受診した.当院初診時,遷延性角膜上皮欠損と角膜混濁を認めた.角膜知覚低下および著明な涙液減少を認めた.神経麻痺性角膜症と診断しドライアイの治療と,消炎にていったん上皮化を得たが上皮欠損と治癒を繰り返し角膜穿孔と続発白内障に至った.表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術を同時に施行した.羊膜移植後は前房内を透見可能であり,経過観察中羊膜は自然脱落したが術後半年経過し,上皮欠損なく経過良好である.結論:神経麻痺性角膜症は難治性な疾患であるが,表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術の同時手術が有効であった.今後のさらなる治療技術の発展が期待される.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCcornealCperforationCdueCtoCneurotrophickeratitis(NK)thatCrequiredClamellarkeratoplasty(LKP)C,Camnioticmembrane(AM)transplantation(AMT)C,CandCcataractCsurgery.CCasereport:An80-year-oldmalewhohadbeendiagnosedwithcornealerosioninhislefteyefollowingastrokewasreferredtousduetotheconditionworsening.Slit-lampexaminationrevealedpersistentcornealdefectandopacity.Moreover,cornealsensitivityandtearsecretionremarkablydecreased.WediagnosedhimwithNK.Althoughre-epithelializa-tionwasachievedwithtreatmentfordryeyeandin.ammation,hisconditionrepeatedlyworsened.Sincecornealperforationandsecondarycataractoccurred,LKP,AMT,andcataractsurgerywasperformed.TheAMnaturallydissolvedwithnorecurrenceofcornealdefectfor6-monthspostoperative.Conclusion:WereportacaseofNK-relatedCcornealCperforationCinCwhichCLKP,CAMT,CandCcataractCsurgeryCwasCe.ective,CandCanticipateCfurtherCadvancementsinthetreatmentofthisrefractorydisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(7):821.824,C2021〕Keywords:神経麻痺性角膜症,遷延性角膜上皮欠損,角膜穿孔,表層角膜移植術,羊膜移植術.neurotrophicCkeratitis,persistentcornealdefect,cornealperforation,lamellarkeratoplasty,amnioticmembranetransplantation.Cはじめに涙の促進,角膜上皮細胞への栄養供給の働きがあり,これに角膜は無血管で透明な組織であり,第五脳神経に由来するより角膜上皮の細胞増殖,恒常性の維持,創傷治癒に役立っ角膜知覚神経が上皮下実質浅層に密に分布している.角膜知ている1,2).角膜知覚神経の機能不全が生じると,角膜上皮覚神経には,瞬目や神経伝達物質,成長因子の放出による流の恒常性が損なわれ,神経麻痺性角膜症を生じる.神経麻痺〔別刷請求先〕曽田里奈:〒530-0012大阪市北区芝田C2-10-39大阪府済生会中津病院眼科Reprintrequests:RinaSoda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaSaiseikaiNakatsuHospital,2-10-39Shibata,Kita-ku,Osakacity,Osaka530-0012,JAPANC図1前眼部写真a:初診時,角膜中央部から下方に遷延性上皮欠損と実質混濁を認めた.b:上皮欠損の再発と治癒を繰り返していたが,初診からC1年経過後に角膜穿孔と虹彩嵌頓,膨化白内障を生じた.c:表層角膜移植術,羊膜移植術,白内障手術(水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入)を同時に施行し,治療用ソフトコンタクトレンズを装着して終了した.手術翌日,羊膜に覆われた部位は,前房の深さなども観察可能な程度の透見性があった.d:手術C6カ月経過,羊膜は自然脱落し上皮化が得られた.上皮欠損の再発はなくよい臨床経過を得ている.性角膜症はきわめて難治な神経変性疾患であり,三叉神経核から角膜知覚神経終末までのいずれかのレベルに損傷を与える眼局所疾患もしくは全身疾患に伴って生じる.原因疾患としては,ヘルペス性角膜炎や外傷,前眼部手術後,聴神経腫瘍術後の顔面神経・三叉神経麻痺,糖尿病,多発性硬化症,脳腫瘍などがあげられる3,4).臨床所見として,角膜上皮の不整,点状表層角膜症,遷延性角膜上皮欠損を呈し,重症例では角膜実質融解を伴う潰瘍,角膜穿孔を生じるが5,6),根本的治療が現在ないため非常に難治である.今回筆者らは,神経麻痺性角膜症により遷延性角膜上皮欠損を生じ角膜穿孔に至ったあとに急速に白内障が進行した症例に対し,表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術を同時に施行し経過良好な臨床経過を得たので報告する.CI症例脳梗塞の既往のあるC80歳,男性.脳神経外科からの紹介で近医眼科を受診した.左眼の角膜びらんと診断され,ヒアルロン酸ナトリウム点眼とオフロキサシン眼軟膏で治療されたが角膜上皮欠損が拡大した.悪化傾向を認めたためヘルペス性角膜炎が疑われ,0.3%ガチフロキサシン点眼左眼C3回,0.1%ベタメタゾン点眼左眼C3回,アシクロビル眼軟膏左眼4回へ処方を変更されたが改善なく,徐々に視力が低下したため,初診からC1カ月経過後に京都府立医科大学病院眼科(以下,当院)へ紹介となった.当院初診時の矯正視力は右眼C0.6,左眼C30Ccm手動弁,眼圧は両眼C17CmmHgで,角膜中央から下方に及ぶ広範囲の遷延性角膜上皮欠損と角膜混濁を認めた(図1a).また,CCochetBonnet角膜知覚計を用いて測定した角膜知覚は右眼60mm,左眼C10mmと左眼の角膜知覚の低下を認め,Schirmer試験CI法にて右眼C3Cmm,左眼C0Cmmと著明な涙液減少を認めた.ヘルペス性角膜炎を疑う所見を認めなかったため,アシクロビル眼軟膏を中止し,ガチフロキサシン点眼左眼C4回,ベタメタゾン点眼左眼C4回を継続,オフロキサシン眼軟膏左眼C1回,人工涙液点眼左眼C3回を追加し,上下涙点に涙点プラグを挿入した.その後徐々に上皮化が得られ,感染徴候を認めなかったため,ガチフロキサシン点眼とベタメタゾン点眼を漸減し,治療開始C7カ月目にようやく上皮欠損の修復が得られた.その後,上皮欠損の再発と治癒を繰り返していたが,治療開始C12カ月目に左眼の視力低下を主訴に再診した.左眼角膜穿孔,虹彩嵌頓,前房消失を認めた.膨化白内障も進行し(図1b),表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術を同時に施行した.図2手術手順a:単回使用組織生検用針デルマパンチにてC5Cmm径のパンチを行い,クレセントナイフとダイヤモンドメスを用いて角膜表層を切除した.Cb:凍結保存角膜を用いて表層角膜移植片を作製し,10-0ナイロン糸で単縫合を行った.c:嵌頓した虹彩を整復後,インドシアニングリーンで前.染色を行い前.切開を行った.d:透見性不良のためサージカルスリット下で水晶体乳化吸引術を行った.e:眼内レンズを挿入した.f:羊膜を移植部位(上皮欠損部位)を覆うように縫合を行い,余剰羊膜を切除し手術を終了した.手術はまず,単回使用組織生検用針デルマパンチにて5Cmm径のパンチを行い,クレセントナイフとダイヤモンドメスを用いて角膜表層から実質深層までを切除した後,凍結保存角膜を用いた表層角膜移植片を作製し,10-0ナイロン糸で単縫合を行った.嵌頓した虹彩を整復し,インドシアニングリーンで前.染色し前.切開を行ったあと,超音波乳化吸引,眼内レンズ挿入を行いアセチルコリン希釈液を注入した.最後に羊膜で角膜上皮欠損部位をカバーリングし,治療用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)をのせて終了した(図2,図1c).術後経過は良好で,ガチフロキサシン点眼左C4回,ベタメタゾン点眼左C4回を開始し,術後C2日目までベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC1Cmg点滴を施行,術後C3日目よりベタメタゾン錠C0.5Cmg1錠内服C4日間へ切り替え,術後C8日目に退院となった.その後,治療用CSCL脱落に伴い羊膜は自然脱落したが上皮伸展は良好で,術後点眼は漸減とした.表層角膜移植後C6カ月経過後も上皮欠損の再発なく,ガチフロキサシン点眼左眼C1回,ベタメタゾン点眼左眼C1回を継続し経過観察中である(図1d).CII考按神経麻痺性角膜症に対する従来の治療は,MackieがC1995年に提唱した神経麻痺性角膜症の重症度によるC3段階のステージ分類7)に基づいて選択されてきた.点状表層角膜症や角膜上皮の不整を生じるステージC1では,薬剤毒性を避けるため点眼薬の中止が推奨される8).保存剤が添加されていない人工涙液点眼を使用し,上皮欠損を伴う場合は予防的な抗菌薬点眼の併用が考慮される.遷延性角膜上皮欠損を伴うステージC2の症例では,治療用コンタクトレンズの使用,眼瞼縫合,眼瞼挙筋へのボツリヌスCA毒素の注入が考慮される.羊膜移植術は被覆による摩擦の軽減に加えて,成長因子やサイトカインを放出することで角膜上皮の創傷治癒促進,眼表面の炎症抑制に効果的とされる9).ステロイド点眼は炎症反応を抑制するが,同時に創傷治癒の遅延,ステロイド緑内障,ステロイド白内障のリスクがあり使用には注意を要する.角膜潰瘍や実質融解,角膜穿孔に至るステージC3の症例では,実質融解を防止するためコラーゲナーゼ阻害薬や眼瞼縫合が考慮される.角膜穿孔を生じた症例では表層角膜移植術や全層角膜移植術が必要である10).近年,海外では神経成長因子点眼やCP物質/インスリン様成長因子などの神経の再生や免疫調整を直接刺激する薬剤が注目されており,いずれも神経麻痺性角膜症患者において高い治癒率が得られている11.13).本症例では経過中に角膜穿孔が増悪し膨化白内障により前房も浅くなってきたため,緊急の角膜移植手術を実施した.透見性の維持という観点からは羊膜移植術は不利であるが,被覆による摩擦軽減のみではなく,創傷治癒促進,炎症抑制の効果が期待できる,とくに神経麻痺性角膜症においては,角膜知覚の低下,瞬目の減少,涙液分泌低下を伴っており,角膜移植術単独では上皮が伸展せず術後に遷延性上皮欠損を再発するリスクが高く14),角膜移植術と羊膜移植術の併施を行った.同時手術を行うことで,複数回手術を行うことと比較し患者負担が軽減することが期待される.今回の症例は,角膜穿孔部位の羊膜移植術による摩擦軽減,抗炎症作用などにより角膜上皮進展を得たが,術後も角膜知覚神経の機能不全の状態であることには変わりなく,一度上皮障害を発症すると再燃のリスクがあり綿密な経過観察が重要である.また,羊膜移植術は,複数術式をしても単独でしか算定できないため病院の負担となることがデメリットの一つである.また,角膜穿孔に伴って生じる合併症には,角膜実質混濁,白内障の進行,瞳孔膜形成,虹彩前癒着・後癒着,緑内障などがあり15)これらの疾患も同時に治療をする必要がある.本症例では角膜穿孔発症後に徐々に膨化白内障が進行したため角膜移植術,羊膜移植術施行時に水晶体再建術を同時に施行した.術後の前房炎症の程度の詳細な評価などが不可能になるのではないかと危惧されたが,実際は,羊膜に覆われた部位の透見性は細隙灯顕微鏡で眼内レンズ,前房の深さを観察することが可能であり問題は生じなかった.瞳孔膜や虹彩後癒着を生じた症例では白内障手術を施行する際に除去するが,瞳孔膜を残した症例では,虹彩後癒着を生じ瞳孔ブロックによる緑内障を発症した15)と報告されており,瞳孔膜の処理,虹彩癒着の解除も同時に行うことが緑内障の発症予防に重要である.角膜穿孔に至った症例では,角膜穿孔の原因,随伴する眼疾患の有無,炎症の程度,移植片のサイズ,拒絶反応の有無などさまざまな要因が影響するため,視力予後は症例により大きく異なる16).神経麻痺性角膜症に対して現時点では根本的治療法がなく難治性な疾患であるが,今回の症例では,表層角膜移植術,羊膜移植術,水晶体再建術の同時手術が有効であった.今後のさらなる治療技術の発展が期待される.文献1)MullerCLJ,CMarfurtCCF,CKruseCFCetal:Cornealnerves:structure,CcontentsCandCfunction.CExpCEyeCResC77:253,C20032)ShaheenCBS,CBakirCM,CJainS:CornealCnervesCinChealthCanddisease.SurvOphthalmol59:263-285,C20143)HyndiukRA,KazarianEL,SchultzROetal:Neurotroph-icCcornealCulcersCinCdiabetesCmellitus.CArchCOphthalmolC95:2193-2196,C19774)KaufmanSC:AnteriorCsegmentCcomplicationsCofCherpesCzosterophthalmicus.Ophthalmology115:S24-S32,C20085)MastropasquaCL,CMassaro-GiordanoCG,CNubileCMCetal:CUnderstandingCtheCpathogenesisCofCneurotrophicCkerati-tis:theCroleCofCcornealCnerves.CJCCellCPhysiolC232:717-724,C20076)BoniniCS,CRamaCP,COlziCDCetal:NeurotrophicCkeratitis.Eye(Lond)C17:989-995,C20037)MackieIA:NeuroparalyticCkeratitis.In:CurrentCOcularTherapy,CPhiladelphia(FraunfelderCF,CRoyCFH,CMeyerSM,eds)C,WBSaunders,p452-454,19958)SacchettiCM,CLambiaseA:DiagnosisCandCmanagementCofCneurotrophickeratitis.ClinOphthalmol8:571-579,C20149)GomesCJA,CRomanoCA,CSantosCMSCetal:AmnioticCmem-braneCuseCinCophthalmology.CCurrCOpinCOphthalmolC16:C233-240,C200510)FogleCJA,CKenyonCKR,CFosterCS:TissueCadhesiveCarrestsCstromalCmeltingCinCtheChumanCcornea.CAmCJCOph-thalmol89:795-802,C198011)BoniniCS,CLambiaseCA,CRamaCPCetal:PhaseCICtrialCofCrecombinanthumannervegrowthfactorforneurotrophickeratitis.Ophthalmology125:1468-1471,C201812)BoniniCS,CLambiaseCA,CRamaCPCetal:PhaseCIICrandom-ized,Cdouble-masked,Cvehicle-controlledCtrialCofCrecombi-nantChumanCnerveCgrowthCfactorCforCneurotrophicCkerati-tis.Ophthalmology125:1332-1343,C201813)NishidaT,ChikamaT,MorishigeNetal:Persistentepi-thelialCdefectsCdueCtoCneurotrophicCkeratopathyCtreatedCwithCaCsubstanceCp-derivedCpeptideCandCinsulin-likeCgrowthfactorJpnJOphthalmolC51:442-447,C200714)SeitzB,DasS,SauerRetal:Amnioticmembranetrans-plantationCforCpersistentCcornealCepithelialCdefectsCinCeyesCafterpenetratingCkeratoplasty.CEye(Lond)23:840-848,C200915)HillJC:Useofpenetratingkeratoplastyinacutebacterialkeratitis.BrJOphthalmol70:502-506,C198616)StamateAC,T.taruCP,ZembaM:Emergencypenetrat-ingCkeratoplastyCinCcornealCperforations.CRomCJCOphthal-mol62:253-259,C2018***

分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔の1例

2019年2月28日 木曜日

分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔の1例奥村峻大*1,2福岡秀記*2高原彩加*2吉川大和*1,2田尻健介*1池田恒彦*1外園千恵*2*1大阪医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学眼科学教室CACaseofCornealPerforationinaPatientwithRheumatoidArthritisinRemissionviaMolecular-targetTherapeuticAgentTakahiroOkumura1,2)C,HidekiFukuoka2),AyakaTakahara2),YamatoYoshikawa1,2)C,KensukeTajiri1),TsunehikoIkeda1)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC緒言:分子標的治療薬により内科的に関節リウマチ(RA)が寛解していたにもかかわらず角膜穿孔をきたし,表層角膜移植術(LKP)を施行した症例を報告する.症例:63歳,女性.25歳頃にCRAを発症し,近年はトシリズマブ(抗IL-6レセプター抗体)点滴加療を受け内科的に寛解状態であった.経過中突然左眼に角膜穿孔を生じ,応急処置とステロイド内服で加療された.角膜穿孔の発症からC3週間後に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.左眼矯正視力は(0.15)と低下しており,角膜穿孔と虹彩嵌頓,房水漏出を認め,保存的治療を開始した.内科ではCRAの再燃はないとの評価であった.その後も穿孔の閉鎖が得られなかったため,発症からC3カ月後に左眼CLKPを施行した.角膜穿孔は閉鎖し,矯正視力は(0.4)まで改善した.結論:分子標的治療薬により内科的に寛解状態であってもリウマチ性角膜穿孔を生じることがある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCrheumatoidarthritis(RA)withCcornealCperforationCunderCmedicallyCinducedCremissionCviaCmolecular-targetCtherapeuticCagentCthatCrequiredClamellarkeratoplasty(LKP)C.CCaseReport:A63-year-oldfemalewasreceivingtocilizumab(anti-IL-6receptorantibody)tokeeptheRAinastateofremission.Cornealperforationoccurredinherlefteye;.rst-aidandcorticosteroidtreatmentwereadministered.At3weeksafterperforationonset,shepresentedattheDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedi-cineCwithCdecreasedCvisualacuity(VA)inCherClefteye;conservativeCtreatmentCforCperforationCwasCinitiated.CRACwasCnotCexacerbated.CAsCtheCperforationCwasCnotCclosedCwithCconservativeCtreatment,CLKPCwasCperformedCatC3Cmonthspost-onset.AfterLKP,thecornealperforationclosed.Conclusion:Our.ndingsrevealedthatRA-associat-edCcornealCperforationCcanCoccurCevenCwhenCRACisCinCremissionCviaCmolecular-targetCtherapeuticCdrug,CsoCstrictCattentionisvital.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):282.285,C2019〕Keywords:関節リウマチ,角膜潰瘍,角膜穿孔,表層角膜移植術.rheumatoidarthritis,cornealulcer,cornealperforation,lamellarkeratoplasty.Cはじめにある1).RAはCtumorCnecrosisCfactor(TNF)C-aやCinterleu-関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は,免疫学的kin(IL)-6などの炎症性サイトカインが病態形成に関与する機序により引き起こされた滑膜炎により関節軟骨や関節近傍とされ,IL-6は細胞膜結合型受容体を介したクラシカルシの骨が破壊されることで関節機能が障害されていく関節炎でグナルリングと可溶性受容体を介したトランスシグナルとい〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC282(152)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(152)C2820910-1810/18/\100/頁/JCOPYするCRAの病態に対して,抗CIL-6受容体抗体であるトシリズマブは,シグナル伝達を阻害し,治療薬として臨床的・機能的・構造的寛解をもたらす効果がある2).リウマチ性角膜潰瘍はCRA患者に併発し,角膜周辺部.傍中心部に潰瘍を生じる.既報によると,リウマチ性角膜潰瘍はCRA患者のC1.4.2.5%に認められた3,4).また,角膜穿孔をきたす部位としては,瞳孔辺縁部あるいは最周辺部より中間部に多いとの報告がある5).今回筆者らは,分子標的治療薬であるトシリズマブにより内科的にCRAが寛解していたにもかかわらず角膜穿孔をきたしたため,表層角膜移植術(lamellarkeratoplasty:LKP)を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.眼科既往歴:ドライアイにて近医通院加療中.現病歴および経過:25歳頃にCRAを発症し,近年は膠原病内科外来にてトシリズマブ(抗Cinterleukin-6レセプター抗体)静脈内注射をC6.7週間隔でなされていた.2016年C10月に血清Cmatrixmetalloproteinase(MMP)-3がC133Cng/ml(基準値:17.3.59.7Cng/ml)に上昇し(図1),トシリズマブの静脈内注射はC4週間隔に変更となった.以降もCMMP-3は高値のまま経過したが,RA症状の再燃は認めず,臨床的にCRAは寛解状態とされていた.2017年C2月末に仕事にて海外渡航中に突然の左眼の流涙を自覚し,医療機関を受診したところ,左眼角膜穿孔と診断された.DermabondCR塗布と治療用ソフトコンタクトレンズにて応急処置が行われ,プレドニゾロン内服C50Cmg/日を処方され帰国した.帰国後眼科C2施設を受診し,2017年C3月中旬に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.初診時,左眼矯正視力(0.15)と低下しており,治療用ソフトコンタクトレンズ脱落,角膜穿孔,虹彩嵌頓,前房水漏出を認めた(図2).右眼の角膜に傍中心部潰瘍を認めたものの,穿孔は認めなかった.原疾患治療の強化のために膠原病内科へ照会したが,RA症状の再燃は認めず,RAは寛解状態と判断され治療は強化されなかった.治療用ソフトコンタクトレンズを再度装用し,0.1%フルオロメトロン点眼左眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼左眼C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏左眼C1日C1回,バンコマイシン眼軟膏左眼C1日C2回,プレドニゾロンC30Cmg/日内服,ソフトサンティアCRとヒアレインミニR左眼適宜にて治療を開始した.プレドニゾロンは,その後漸減した.初診時に行った眼脂培養にてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は否定的であり,バンコマイシン眼軟膏は投薬開始C14日後に中止とした.初診後29日の診察で右眼に角膜上皮欠損を認めたため,リウマチ性角膜潰瘍の悪化を疑い,両眼C0.1%ベタメタゾン点眼C1日3回,0.3%ガチフロキサシン点眼C1日3回に変更とした.しかし,左眼はその後も点眼,軟膏による保存的加療にて改善が得られなかったため,初診後C68日に左眼にCLKPを施行した(図3).術後も治療用ソフトコンタクトレンズを連続装用とし,0.1%ベタメタゾン点眼左眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼左眼C1日C4回,ソフトサンティアCR点眼左眼C1日C4回に変更した.左眼CLKP後,前房水漏出がなくなったことによりドライアイが悪化したため,ソフトサンティアRよりジクアホソルナトリウム左眼C1日C6回へ変更した.術後穿孔部は閉鎖し,房水漏出はなく,虹彩は整復された.術C1カ月後には,左眼矯正視力は(0.4)まで改善した.プレドニゾロン内服は,術C8カ月後の最終受診時にはC9Cmg/日まで漸減しており,角膜潰瘍の再発はない.CII考按リウマチ性角膜潰瘍は,RAにおける関節外病変の一つである.潰瘍部に接する結膜からのコラゲナーゼの産生6)やCIII型アレルギーによる免疫複合体が輪部血管網において血管炎を引き起こし,辺縁角膜に沈着する免疫学的機序によるものが原因と考えられている7).他の眼病変には,上強膜炎や強膜炎,虹彩炎や二次性CSjogren症候群による涙液分泌型ドライアイなどがある.とくに角膜潰瘍は角膜穿孔につながる可能性があるため,重篤な合併症である8).MMP-3(ng/ml)18016014012010080604020血清0図1血清matrixmetalloproteinase(MMP).3の推移2016年C10月に血清CMMP-3はC133.3Cng/mlと女性の基準値(59.7Cng/ml)を上回り,以降高値が継続している.(153)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C283図2症例の画像所見a:左眼前眼部.傍中心部の角膜の菲薄化と穿孔(C.)を認める.また,同部位は虹彩が嵌頓している.Cb:左眼フルオレセイン染色.前房水の漏出(C.)を認める.Cc:左眼前眼部三次元光干渉断層像.虹彩嵌頓(C.)を認め,下方の前房が一部消失している.図3Lamellarkeratoplasty(LKP)1カ月後の検査所見a:左眼前眼部.穿孔部は閉鎖されている(C.).Cb:左眼フルオレセイン染色.LKPにより穿孔は閉鎖された(.).前房水の漏出を認めない.Cc:左眼前眼部三次元光干渉断層像.虹彩は整復され,前房が形成された.角膜穿孔に対する外科的治療には,今回施行したCLKPのほかに,羊膜移植,全層角膜移植,結膜被覆などがある8.11).本症例では,穿孔部位と穿孔周囲の角膜菲薄化の状態などを総合的に考慮し,円形のCLKPを選択した.RA患者における角膜潰瘍の発症および悪化の分子生物学的メカニズムについて文献的検討を行った.RAは,IL-6を介した病態機序により滑膜炎を生じ,滑膜組織の増殖によるパンヌス形成や骨びらんの形成,軟骨変性,血管新生,破骨細胞分化因子(receptorCactivatorCofCNF-kBligand:RANKL)発現,matrixmetalloproteinase(MMP)産生による関節の破壊などを起こすとされている2).ヒトのCMMPにはC20種類以上あることが知られているが,RAの病態を反映するものとして血清CMMP-3があり,正常者と比較しCRA患者で有意に上昇することが知られている.MMP-3は軟骨や基底膜を構成する軟骨プロテオグリカン,III,IV,V,VII,IX型コラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンおよびゼラチンを分解する12).過去の動物実験での報告によると,MRL/Mp-1pr/1pr(MRL/1系)RAモデルマウスにおいては角膜上でおもにMMP-1のCmRNAが発現し,それと同期してCIL-1Cbが角膜上皮細胞から高いレベルで発現している13).このCIL-1bは,さらにCMMP-1を発現させ,そのほかにCMMP-9の発現を引き起こす13,14).MMP-9は角膜上皮基底膜に欠損を引き起こしCMMP-1が角膜実質障害に作用する.ただしMMP-1が角膜実質に作用するためには活性型に転換される必要があるが,MMP-3がその転換に必要である.MMP-3により活性化されたCMMP-1が角膜実質のコラーゲン線維に作用し,角膜潰瘍や角膜穿孔へと至ると考えられる15,16).本症例ではC20年以上前からCRAを発症し,近年ではトシリズマブ静脈内投与でコントロールされていた.しかし,臨床的に寛解状態であったにもかかわらずC2016年C10月以降,血清CMMP-3は基準値を超え高値となり,以降高値のまま経過した(図1).その後トシリズマブ治療の強化(投与期間の短縮化)がされたが,血清CMMP-3は高値のままであった.その経過中に,左眼角膜穿孔と右眼角膜潰瘍を認めたことから,血清CMMP-3の上昇が,血清CMMP-1の活性化などを介した角膜潰瘍のカスケードを進行させた可能性が考えられる.血清CMMP-3高値が持続した状態に対する治療強化について考察した.RAにおける生物学的製剤の薬効評価では,薬剤間で評価に差が生じない指標を用いる必要があり,血清MMP-3ではなくCClinicalCDamageCActivityIndex(CDAI)が有効であると考えられており17),治療が効いているかどうかの評価は血清CMMP-3には必ずしも依存しないと考えら(154)III結論今後さらなる検討が必要であるが,RAが寛解状態であっても,角膜潰瘍が進行する可能性があるため,内科と眼科との連携が重要となると考えられた.文献1)緒方篤:関節リウマチにおけるCIL-6阻害治療.ClinCRheumatol27:228-231,C20152)駒井俊彦,藤尾圭志,山本一彦:RAにおけるCIL-6の役割とトシリズマブの重要性.ClinCRheumatolC25:192-197,C20133)WatanabeCR,CIshiiCI,CYoshidaM:UlcerativeCkeratitisCinCpatientsCwithCrheumatoidCarthritisCinCtheCmodernCbiologicera:aCseriesCofCeightCcasesCandCliteratureCreview.CIntJRheumDisC20:225-230,C20174)BetteroCRG,CCebrianCRF,CSkareTL:PrevalanceCofCocularCmanifestationCinC198CpatientsCwithCrheumatoidarthritis:CaretrospectiveCstudy.CArqCBrasCOftalmolC71:375-369,C20085)野崎優子,福岡秀記,稲富勉ほか:リウマチ性角膜潰瘍穿孔例に対する臨床的検討.日眼会誌122:700-704,C20186)EifermanCRA,CCarothersCDJ,CYankeelovCJAJr:PeriperalCrheumatoidulcerationandevidenceforconjunctivalcolla-genaseproduction.AmJOpthalmolC87:703-709,C19797)MichelsCML,CCoboCLM,CCaldwellCDSCetal:RheumatoidarthritisCandCsterileCcornealCulceration.CAnalysisCofCtissueCimmunee.ectorcellsandocularepithelialantigensusingmonoclonalantibodies.ArthritisRheumC27:606-614,C19848)福岡秀記,外園千恵:救急疾患ごとの基本的な対処法5.角膜・結膜・強膜関節リウマチ患者の角膜が穿孔しています.どうしたらいいでしょう.あたらしい眼科C34:146-148,C20179)大路正人,切通彰,木下茂:膠原病の角膜穿孔に対する周辺部表層角膜移植.臨眼40:202-203,C198610)田村忍:辺縁に生じた角膜潰瘍の穿孔に対する手術療法.臨眼C77:1753-1756,C198311)BernauerCW,CFickerCLA,CWatsonCPGCetal:TheCmanage-mentCofCcornealCperforationsCassociatedCwithCrheumatoidCarthritis.AnnRheumDisC36:428-432,C197712)大内栄子,岩田和士,山中寿:関節リウマチにおける血清CMMP-3測定の有用性.In.ammationCandCRegenerationC24:154-160,C200413)近藤容子,岡本全泰,岡本茂樹ほか:慢性関節リウマチ患者における涙液中CIL-1Cb.眼紀C48:1363-1366,C199714)TsengHC,LeeIT,LinCCetal:IL-1CbpromotescornealepithelialCcellCmigrationCbyCincreasingCMMP-9CexpressionCthroughCNF-kB-andCAP-1-dependentCpathways.CPLoSCOne8:1-13,C210315)梁磯勇,清木元治:マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)研究の歴史と最先端.日消誌C100:144-151,C200316)崎元暢:角膜実質融解におけるCMMP.臨眼C66:342-345,C201217)鈴木康夫:関節リウマチの診断と治療.Up-to-date..日内会誌C104:519-525,C2014***(155)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C285