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スペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1070.1074,2014cスペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化後藤克聡*1,2水川憲一*1今井俊裕*1山下力*1,3渡邊一郎*1三木淳司*1,3桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室*2川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*3川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科TimeCourseofDistancebetweenPhotoreceptorInner/OuterSegmentJunctionandRetinalPigmentEpitheliumafterRhegmatogenousRetinalDetachmentSurgeryUsingSpectral-DomainOpticalCoherenceTomographyKatsutoshiGoto1,2),KenichiMizukawa1),ToshihiroImai1),TsutomuYamashita1,3),IchiroWatanabe1),AtsushiMiki1,3)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DoctoralPrograminSensoryScience,GraduateSchoolofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,3)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:中心窩.離を伴う裂孔原性網膜.離(macula-offRRD)術後における視細胞外節の厚みを二次的に定量するために視細胞内節外節接合部(IS/OS)から網膜色素上皮までの厚み(TotalOS&RPE/BM)を定量し,経時的変化を検討した.対象および方法:対象はmacula-offRRD術後の30例30眼.方法は術前と術後1,3,6カ月のlogMARとスペクトラルドメイン(spectral-domain)光干渉断層計で中心窩下のTotalOS&RPE/BMを測定した.結果:IS/OSを連続的あるいは部分的に確認できた群の平均logMARは,術前0.77,術後1カ月0.14,3カ月0.02,6カ月.0.03と術後から有意な改善が得られた(p<0.000001).平均TotalOS&RPE/BMは術後1カ月65.2μm,3カ月77.1μm,6カ月81.8μmと術後1カ月(p<0.0001)と比べて術後3,6カ月(p<0.00001)で有意差があった.術後6カ月でのTotalOS&RPE/BMは,以前に筆者らが正常人で定量した値と同等であった.結論:TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生による可能性が示唆された.Purpose:Toquantifythedistancebetweenphotoreceptorinner/outersegmentjunction(IS/OS)andretinalpigmentepithelium(TotalOS&RPE/BM)aftersurgeryformacula-offrhegmatogenousretinaldetachment(RRD).CasesandMethod:Examinedwere30eyesof30patientswithmacula-offRRD;logMARwasexaminedpreoperativelyandat1,3and6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMunderthefoveawasalsoexaminedusingspectral-domainopticalcoherencetomography.Results:ThemeanlogMARinthecontinuousorirregularIS/OSlinegroupwas0.77preoperatively,0.14at1monthpostoperatively,0.02at3monthspostoperativelyand.0.03at6monthspostoperatively,asignificantimprovementfrompostoperatively(p<0.000001).ThemeanTotalOS&RPE/BMwas65.2μmat1monthpostoperatively,77.1μmat3monthspostoperativelyand81.8μmat6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMat1monthpostoperativelyshowedsignificantdifferenceascomparedwith3and6monthspostoperatively(p<0.0001,p<0.00001,respectively).TotalOS&RPE/BMat6monthspostoperativelywasequaltothenormalvaluewepreviouslyreported.Conclusion:TotalOS&RPE/BMshowedsignificantincreaseafter3monthspostoperatively,possiblyduetorestorationofthephotoreceptoroutersegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1070.1074,2014〕Keywords:裂孔原性網膜.離,視細胞外節,光干渉断層計,中心窩網膜厚,視力予後.rhegmatogenousretinaldetachment,photoreceptoroutersegment,opticalcoherencetomography,centralretinalthickness,visualacuityoutcome.〔別刷請求先〕後藤克聡:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室Reprintrequests:KatsutoshiGoto,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN107010701070あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(144)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY はじめに中心窩.離を含む裂孔原性網膜.離(macula-offrhegmatogenousretinaldetachment:RRD)では,手術により網膜が復位しても視力回復に時間を要す場合や改善が不良な症例をたびたび経験する.網膜復位後,視力不良例の多くに視細胞内節外節接合部(photoreceptorinner/outersegmentjunction:IS/OS)ラインの断裂が認められ,断裂部位に一致してマイクロペリメトリーによる網膜感度が低下することが報告されている1,2).また,macula-offRRD復位後の視力は修復したIS/OSラインの状態と相関し3),近年では外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)も術後視力の予測因子となることが示唆されている4,5).しかし,過去の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による報告では,術後視力と網膜外層の関連はIS/OSやELMの有無による定性的評価が主であり,定量的評価を行った検討は少ない6).視力の根源とされている視細胞外節の厚みを測定することは網膜層の自動セグメンテーションや解像度の問題から困難であり,定量するためにはhigh-speedultrahigh-resolutionOCT(UHR-OCT)7)が必要となる.そのため以前に筆者らは,視細胞外節の厚みを二次的に定量するために,spectral-domainOCT(SD-OCT)を用いてIS/OSから視細胞外節の代謝に重要である網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)までの厚み(TotalOS&RPE/BM7))を正常眼で定量した8).そこで今回,続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して術後のTotalOS&RPE/BMを定量し,経時的変化および視力との関連を検討した.I対象および方法対象は2008年8月.2010年10月までに川崎医科大学附属病院眼科を受診し,RRDと診断された179例のうち,本研究に対してインフォームド・コンセントが得られ,macula-offRRDに対して初回手術を施行した30例30眼であった.男性21例,女性9例.平均年齢は56.3±15.5歳(15.86歳),術前平均屈折度数は.2.63±2.60D(+2.50..6.75D),術前平均眼軸長は25.07±1.43mm(22.76.28.13mm),平均黄斑部.離期間は6.4±4.2日(1.16日),平均経過観察期間は4.5±1.5カ月であった.術後にOCTが未施行であった症例,再.離例,残存中心窩.離や黄斑浮腫をきたした症例,増殖硝子体網膜症は除外した.術式の内訳は硝子体手術27眼(白内障手術併用19眼),強膜内陥術3眼であった.方法は術前と術後1,3,6カ月に視力を測定し,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)にて評価を行った.また,SD-OCT(RTVue-100R;Optovue社,Fremont,CA,USA)を用い,スキャンパターンとして6.0mmlinescanで測定した.本機の仕様は,解像度5.0μm,26,000A-scan/second,256.4,096A-scan/Frameである.中心窩を通る水平断面をスキャンし,術後1,3,6カ月における中心窩下のTotalOS&RPE/BMおよび中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁からRPE外縁,CRTは内境界膜からRPE外縁と定義し,同一検者がRTVue-100Rに内蔵されているソフトを用いてキャリパー計測を行った(図1).また,術後1カ月のOCT所見からIS/OSラインが連続して確認できるものをIS/OS(+),確認できるが一部断裂や不整なものをIS/OS(±),確認できないものをIS/OS(.)と定義した.OCTデータは,signalstrengthindexが50以上得られたデータとし,固視不良の場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.検討項目は,IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群におけるlogMARの経過とCRTの推移,TotalOS&RPE/BMの推移,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量,視力とTotalOS&RPE/BMおよびCRTとの相関である.TotalOS&RPE/BMの検討については,術後1カ月のOCT所見からELMを認め,さらにIS/OS(+)(±)群のみを対象とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量は,術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月,それぞれの厚みの増減を変化量とし,増加をプラス,減少をマイナスとして算出した.統計学的検討は,logMARの経過,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの推移については一元配置分散分析を行い,Scheffeによる多重比較で検定した.IS/OS(+)(±)群と図1TotalOS&RPE.BMおよびCRTのセグメンテーション上段:TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁.RPE外縁とした.下段:CRTは内境界膜.網膜色素上皮外縁とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTのセグメンテーションは,内蔵ソフトで計測した.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,CRT:centralretinalthickness,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(145)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141071 IS/OS(.)群における各項目,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量についてはMann-WhitneyUtestを用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は川崎医科大学倫理委員会の承認を得て行った.II結果1.IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過とCRTの推移IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群の患者背景は,両群で年齢と術前屈折度数に有意差がみられた(表1).平均logMARは,IS/OS(+)(±)群で術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03,IS/OS(.)群で術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40であった.両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった〔IS/OS(+)(±)群:p<0.000001,IS/OS(.)群:p<0.01〕.また,両群間において,経過を通して有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,図2).CRTは,IS/OS(+)(±)群で術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群で術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで両群とも経過を通して有意な変化はなかった.両群間においては,経過を通して有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,図3).2.IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmと経時的に増加し,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった(術後3カ月:p<0.0001,術後6カ月:p<0.00001)(図4).3.IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量TotalOS&RPE/BMの変化量は術後1カ月から3カ月で表1IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群の患者背景IS/OS(+)(±)群(n=21)IS/OS(.)群(n=9)p値年齢(歳)50.5±13.769.9±10.20.0017黄斑部.離期間(日)6.5±3.86.4±5.20.7121術前屈折度数(D).3.35±2.49.0.57±1.610.0137術前眼軸長(mm)25.39±1.3224.30±1.400.1021IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction.11.7μm,術後3カ月から術後6カ月で2.76μm,CRTの変化量は術後1カ月から3カ月で10.8μm,術後3カ月から術後6カ月で2.47μmであった.術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月ともに両者の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882)(図5).4.IS.OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE.BMおよびCRTとの相関TotalOS&RPE/BMは,術後1カ月において視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,図6).しかし,術後3,6カ月ではいずれも相関はなかった(術後3カ月:r=0.1335,p=0.5857,術後6カ月:r=0.2094,p=0.5136).CRTは,術後の経過を通して視力との相関はなかった(術後1カ月:r=0.1193,p=0.6065,術後3カ月:r=0.2662,p=0.2706,術後6カ月:r=0.4454,p=0.1105).III考按本研究では,SD-OCTを用いて術後のTotalOS&RPE/BMの測定を行うことで,網膜外層の回復過程を経時的に捉えることができた.そして,術後1カ月の早期のみ視力とTotalOS&RPE/BMが相関していたこと,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも有意に良好な経過であったことから,IS/OSの修復後,術後早期ではTotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善して(logMAR)-0.200.000.200.400.600.801.001.201.40******:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群術後1カ月3カ月6カ月***術前図2IS.OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過IS/OS(+)(±)群は術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03で,IS/OS(.)群は術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40で両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,Mann-WhitneyUtest).**:有意差あり(p<0.000001),*:有意差あり(p<0.01),one-wayANOVA.IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.1072あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(146) (μm)280260240220200(μm)14121086420図3IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるCRTの推移IS/OS(+)(±)群は術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群は術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで,両群とも経過を通して有意な変化はなかった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,Mann-WhitneyUtest).IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,CRT:centralretinalthickness.:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群■3カ月6カ月術後1カ月p=0.7146:TotalOS&RPE:CRTp=0.5882術後1カ月→3カ月術後3カ月→6カ月図5IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量術後1カ月から3カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:11.7μm,CRT:10.8μm,術後3カ月から術後6カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:2.76μm,CRT:2.47μmであった.両群の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882,MannWhitneyUtest).くると考えられた.SD-OCT所見と術後視力との検討については,Shimodaら3)は網膜復位後にIS/OSが徐々に回復し,IS/OSの状態が視力と相関したと報告している.Wakabayashiら4)は,術後のIS/OSとELMシグナルの完全性は術後最高視力と相関し,術後ELMの状態から視細胞層の回復を予測できる可能性があるとしている.川島ら5)は,視力改善はIS/OS断裂の減少と強く相関し,ELM断裂の消失がIS/OS改善の前提であると述べている.また,Gharbiyaら6)はIS/OSやELMに加えて,外顆粒層厚やCOSTの状態が視力予後に最(147)(μm)9080706050***術後1カ月3カ月6カ月図4IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmで,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった.**:有意差あり(p<0.00001),*:有意差あり(p<0.0001),one-wayANOVA.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(μm)30405060708090100-0.200.000.100.200.300.400.500.60(logMAR)y=-23.247x+68.434r=0.5179,p=0.0162-0.10図6IS/OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE/BMの相関(術後1カ月)術後1カ月において,TotalOS&RPE/BMは視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,Spearman順位相関係数).も重要であると報告している.このように,IS/OSやELMの状態は術後視力と相関し,視力予後を予測できる重要な因子であるため,網膜復位後における術後視力の改善にはELMおよびIS/OSの修復が必須であり,さらなる術後早期の視力改善にはTotalOS&RPE/BMの増加が関連していると考えられた.しかしながら,術後3カ月以降でTotalOS&RPE/BMと視力に相関がなかった理由として,今回の検討ではELM(+)およびIS/OS(+)(±)の網膜外層の形態が比較的良好な症例を対象としたため,視力は術後1カ月の早期から有意に改善し,視力の改善は頭打ちの状態に近づいていたことが影響したと考えられる.TotalOS&RPE/BMは,術後3カ月から有意な増加を認め,術後6カ月で最も厚かった.一方,CRTは経過を通しあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141073 て有意な変化はみられなかった.術後1カ月のTotalOS&RPE/BMは平均65.2μmと筆者らが正常人で報告した平均値81.3μm8)よりも薄く,術後6カ月では81.8μmとほぼ同じであった.よって,今回の結果は復位後に残存している視細胞内節から外節が徐々に再生されたことを意味していると考えられる.つまり,網膜復位後におけるTotalOS&RPE/BMの増加は,視細胞外節の再生過程を捉えている可能性がある.動物モデルやヒトの眼における実験的研究では,網膜.離後,急速に視細胞のアポトーシスを起こすことがわかっている9,10).Lewisら11)は,実験的網膜.離の復位直後において視細胞外節長が減少することを報告している.また,組織学的研究における視細胞外節の再生については,復位後3カ月で視細胞外節の長さはほぼ回復したという報告や正常な外節長の約70%まで達したという報告がある12,13).Guerinら14)の検討では,復位後5カ月での視細胞外節長は正常値と比べて統計的に差はみられなかった.今回の結果は,これらの組織学的な報告と同様の結果であり,TotalOS&RPE/BMを測定することで視細胞外節の再生過程を二次的に定量することができたと考えられる.また,SD-OCTを用いた本研究では,視細胞外節長の増加は復位後6カ月まで続いていることも明らかとなった.本研究の問題点としては,症例数の少なさ,復位後にIS/OSが確認できない症例や術後に網膜下液が残存している場合には,TotalOS&RPE/BMを定量することがむずかしいため症例が限定されることが挙げられる.今後は,症例数を増やしてさらに詳細な検討が必要であり,純粋な視細胞外節厚の定量方法が課題である.続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して,術後の視細胞外節を含めたTotalOS&RPE/BMを定量し,視力との関連を検討した.その結果,経時的に網膜外層の回復過程を捉えることができ,TotalOS&RPE/BMは術後1カ月の早期のみ視力と相関した.また,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも良好な経過であった.よって,術後早期においてはELMおよびIS/OSの修復を前提として,TotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善してくると考えられた.また,TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生が示唆された.今後は,TotalOS&RPE/BMの機能評価を併せての検討や侵達性の高いswept-sourceOCTを用いて検討する予定である.文献1)SchocketLS,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahighresolutionopticalcoherencetomographyinpatientswithdecreasedvisualacuityafterretinaldetachmentrepair.Ophthalmology113:666-672,20062)SmithAJ,TelanderDG,ZawadzkiRJetal:High-resolutionFourier-domainopticalcoherencetomographyandmicroperimetricfindingsaftermacula-offretinaldetachmentrepair.Ophthalmology115:1923-1929,20083)ShimodaY,SanoM,HashimotoHetal:Restorationofphotoreceptoroutersegmentaftervitrectomyforretinaldetachment.AmJOphthalmol149:284-290,20104)WakabayashiT,OshimaY,FujimotoHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityafterretinaldetachmentrepair:imaginganalysisbyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:519-528,20095)川島裕子,水川憲一,渡邊一郎ほか:裂孔原性網膜.離復位後における視細胞外節の回復過程の検討.日眼会誌115:374-381,20116)GharbiyaM,GrandinettiF,ScavellaVetal:Correlationbetweenspectral-domainopticalcoherencetomographyfindingsandvisualoutcomeafterprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentrepair.Retina32:43-53,20127)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,20088)後藤克聡,水川憲一,山下力ほか:スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼での視細胞内節外節接合部網膜色素上皮間距離の定量.あたらしい眼科30:17671771,20139)CookB,LewisGP,FisherSKetal:Apoptoticphotoreceptordegenerationinexperimentalretinaldetachment.InvestOphthalmolVisSci36:990-996,199510)ArroyoJG,YangL,BulaDetal:Photoreceptorapoptosisinhumanretinaldetachment.AmJOphthalmol139:605-610,200511)LewisGP,CharterisDG,SethiCSetal:Theabilityofrapidretinalreattachmenttostoporreversethecellularandmoleculareventsinitiatedbydetachment.InvestOphthalmolVisSci43:2412-2420,200212)今井和行,林篤志,deJuanEJr:網膜.離─復位モデルの作製と評価.日眼会誌102:161-166,199813)SakaiT,CalderoneJB,LewisGPetal:Conephotoreceptorrecoveryafterexperimentaldetachmentandreattach-ment:animmunocytochemical,morphological,andelectrophysiologicalstudy.InvestOphthalmolVisSci44:416425,200314)GuerinCJ,LewisGP,FisherSKetal:Recoveryofphotoreceptoroutersegmentlengthandanalysisofmembraneassemblyratesinregeneratingprimatephotoreceptoroutersegments.InvestOphthalmolVisSci34:175-183,1993***1074あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(148)

強膜内陥術後にみられた続発緑内障の1例

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):391.395,2013c強膜内陥術後にみられた続発緑内障の1例山本麻梨亜新明康弘新田卓也齋藤航陳進輝石田晋北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野ACaseofSecondaryGlaucomaDevelopedafterScleralBucklingMariaYamamoto,YasuhiroShinmei,TakuyaNitta,WataruSaito,ShinkiChinandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine半年以上経過した陳旧性の裂孔原性網膜.離の23歳,男性に対し,強膜内陥術を施行した.初回手術でエクソプラントを施行したが,術後再.離がみられたため,再度輪状締結併用インプラントを行い,復位が得られた.しかし,初回手術直後から眼圧上昇をきたし,再手術により網膜が復位した後も高眼圧は続いた.抗緑内障薬を使用し,さらにステロイド薬を中止しても眼圧下降が得られず,初回手術から3週間にわたり高眼圧が持続した.線維柱帯切開術を施行したところ,十分な眼圧下降が得られ,有効であった.A23-year-oldmalediagnosedwithrhegmatogenousretinaldetachmentthathaddevelopedforover6monthswasreferredtoahospital.Afterweperformedscleralbucklingwithasiliconeexplantmaterial,theretinadidnotreattach.Afterthesecondsurgery,inwhichweusedasiliconeimplantcombinedwithanencirclingband,theretinareattached.However,thepatient’socularhypertensiondidnotdecreasefor3weeksafterthefirstscleralbucklingprocedure,despitemaximumanti-glaucomatherapyanddiscontinuationofcorticosteroid.Wethenperformedatrabeculotomy,whichsucceededinreducingtheintraocularpressure,provingtheproceduretobeeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):391.395,2013〕Keywords:裂孔原性網膜.離,強膜内陥術,続発緑内障,トラベクロトミー.rhegmatogenousretinaldetachment,scleralbuckling,secondaryglaucoma,trabeculotomy.はじめに裂孔原性網膜.離眼では,さまざまな機序により眼圧の変化が起こることが知られている.一般的に裂孔原性網膜.離眼では,50%の症例で術前眼圧が低下し,40%は不変,約10%で上昇をきたすといわれている1).眼圧下降の機序として,以前は毛様体機能の低下とされてきたが,近年の研究では,網膜裂孔部から脈絡膜へ流出するmisdirectedflowによる房水流量の減少もその原因と考えられている2).一方,眼圧上昇をきたす機序としては,外傷性緑内障の併発の他に,視細胞外節の前房中への移行によるSchwartz症候群などが知られている3,4).さらに網膜.離に対して強膜内陥術を選択した場合には,特に輪状締結の併用にかかわらず,眼圧上昇が起こる可能性がある5).裂孔原性網膜.離の場合,その緊急性から網膜.離手術が優先して行われることになるが,同時に眼圧に対しても注意を向ける必要がある.今回筆者らは,裂孔原性網膜.離の強膜内陥術後に持続性の高眼圧をきたした症例に対し,線維柱帯切開術(トラベクロトミー)を行い,良好な結果を得たので報告する.I症例患者は23歳,男性.近医を受診した際に左眼の網膜.離を指摘されたが,陳旧性のもので現在は落ち着いているといわれ,約半年間経過観察をしていた.その後本人が不安になり,手術治療を希望したため,当院を紹介された.外傷やアトピー性皮膚炎などの既往歴はなく,家族歴にも特記すべき事項はなかった.当院初診時の視力は,右眼0.3(1.2×sph.3.5D(cyl.1.5DAx10°),左眼0.02(0.07×sph.5.5D(cyl.2.0DAx170°).眼圧は,右眼16mmHg,左眼10mmHgであった.左眼の前房中に細胞がわずかにみられた.左眼眼底は,下方に網膜下索状物を伴った黄斑部にまで及ぶ丈の低い網膜.離があり,鼻上側に原因と思われる萎縮性の円孔と小裂孔がみられた(図1).右眼眼底には異常所見はみ〔別刷請求先〕山本麻梨亜:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野Reprintrequests:MariaYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(105)391 網膜下索状物黄斑部を含む丈の低い網膜.離原因裂孔?はっきりした毛様体.離は(ー)網膜下索状物黄斑部を含む丈の低い網膜.離原因裂孔?はっきりした毛様体.離は(ー)図1初診時の眼底チャート10時半の鼻上側に原因と思われる萎縮性の円孔と小裂孔がみられ,黄斑部を含む丈の低い網膜.離がみられた.6時から8時にかけて網膜下に索状物もみられた.られなかった.左眼の裂孔原性網膜.離と診断し,7.5×5.5mmのシリコーンスポンジ(#507,MIRA社)をトリミングして厚みを4mm程度までに減らし,上直筋の下を通して,筋付着部ぎりぎりに寄せて円周状にエクソプラントで置いた.経強膜的に裂孔周囲を冷凍凝固し,網膜下液の排出も行った(図2).手術時に圧迫して眼底を詳細に観察したが,他に裂孔は見つからず,毛様体.離もはっきりしなかった.手術終了時にはデキサメタゾン(デカドロンR)の結膜下注射とオフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏と硫酸アトロピン(アトロピンR)眼軟膏の点入を行った.術翌日より40mmHg以上の高眼圧となり,D-マンニトール(マンニットールR)300mlの点滴を1日2回,アセタゾラミド(ダイアモックスR)3錠とL-アスパラギン酸カリウム(アスパラKR)6錠の内服薬を投与した.その他に,レボフロキサシン(クラビットR)点眼を4回,0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロン液R)点眼を4回行い,さらに0.0015%タフルプロスト(タプロスR)点眼1回,0.5%マレイン酸チモロール(チモプトールR)点眼を2回,1%塩酸トルゾラミド(トルソプトR)点眼を3回追加した.しかし,40mmHg以上の高眼圧はその後も続いた.初回手術直後は角膜上皮浮腫のために眼底の透見性は不良ではあったが,小裂孔・円孔ともバックル上にのっているようにみえ,明らかな網膜下液の残存はなく,網膜は復位していた.しかし,術後1週間の時点で再.離がみられ,網膜.離は再び下方にまで広がっており,9時から11時にかけて毛様体.離も出現したため,毛様体裂孔の存在を疑った(図3).さら392あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013鼻側上方で排液裂孔を囲むように冷凍凝固#507を薄くトリミングして強膜に3糸マットレス縫合図2初回手術上直筋の下を通して,シリコーンスポンジを筋付着部ぎりぎりに寄せて10時から13時にかけて円周状にエクソプラントで置いた.経強膜的に裂孔周囲を冷凍凝固し,網膜下液の排出も行った.毛様体.離が出現バックルを超えて下方に網膜.離が広がってきた図3再.離時の眼底チャート術後6日目にバックルの範囲を超えて網膜.離が再び広がってきた.新たに9時から11時にかけて毛様体.離が出現した.に,前房中には細胞の浮遊がみられた.再.離後も眼圧は変わらず高いままであった.初回手術から10日後,前回のエクソプラントのシリコーンスポンジを除去し,内直筋下に9mm幅のシリコーンタイヤ(#277,MIRA社)を輪部から3mmのところまで強膜半層切開してインプラントを行った.さらに,輪状締結術を併用した(#270,#240,MIRA社).毛様体.離の部分には冷凍凝固の追加も行った(図4).手術終了時には,前回同(106) 様にデキサメタゾンの結膜下注射,オフロキサシン眼軟膏とれた.その後網膜は復位したが,なお40.60mmHgの高眼硫酸アトロピン眼軟膏の点入を行った.術中の所見として,圧は持続した.術後浅前房などはみられなかったが,炎症に10時半の位置に毛様体裂孔が確認され,原因裂孔と同定さよる高眼圧の可能性も考え6),4日間にわたりプレドニゾロン(プレドニンR)30mgの内服を行ったが,眼圧はまったく変化しなかった.術翌日からの急激な眼圧の上昇のため,ステロイドレスポンダーの可能性は低いと考えたが,この可能性も除外するためステロイド薬点眼および内服を中止したが眼圧は変わら図4再手術前回の手術から10日後に,前回エクソプラントしたシリコーンスポンジを除去し,内直筋下にシリコーンタイヤをインプラント,さらに輪状締結術を併用した.毛様体.離の部分にはさらに冷凍凝固の追加も行った.プレドニゾロン30mg内服0.1%ベタメタゾン点眼0.1%ベタメタゾン点眼マンニトールdivアセタゾラミド3T/3×内服0.0015%タフルプロスト1×0.5%チモロール2×0.0015%タフルプロスト1×1%ドルゾラミド3×0.5%チモロール2×強膜を半層切開し#277をインプラント#270を巻き#240で締める3mm毛様体.離の部分に冷凍凝固を追加図5線維柱帯切開術結膜の瘢痕部を避けるように,下耳側に4×4mmの2重強膜弁を作製し,金属製ロトームをSchlemm管に挿入して,Schlemm管内壁および線維柱帯を120°切開した.眼圧(mmHg)706050403020100前房洗浄線維柱帯切開術網膜.離再発網膜復位術②インプラント+輪状締結網膜復位術①エクソプラント010203040100150200経過(日)図6眼圧グラフ経過中の眼圧の推移を示した.初回手術後25日目にトラべクロトミーを,29日目に前房洗浄を施行して,その約4日後より眼圧下降が得られている.(107)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013393 図7術後眼底写真網膜は復位している.ず,中止後1週間以上経過しても眼圧は下降しなかった.この時点で高眼圧がすでに3週間以上持続していたため,これ以上の高眼圧は視神経に対して非可逆的な障害を起こす可能性があると判断し,手術療法に踏み切った.すでに2度の網膜.離手術で結膜切開を行っているので,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)ではなく,耳側下方にトラベクロトミーを行った(図5).術後前房出血が多く眼圧が下降しなかったため,一度前房洗浄を行い,その後眼圧は下降した(図6).術後約半年経過しているが,現在のところ再上昇はみられない.なお,術後27週の最終受診時の視力は,右眼(1.2)左眼(0.1),眼圧は右眼18mmHg,左眼18mmHgで,網膜(,)は復位していた(図7).II考按本症例の眼圧上昇の機序として,①Schwartz症候群,②強膜内陥術による房水の流出障害,③ステロイド緑内障,④もともと緑内障を合併していた,の4つの可能性が考えられる.Schwartz症候群は,前房中に細胞の浮遊がみられ,ステロイド薬に反応しなかった点は一致するが,術前の眼圧上昇がなかった点や網膜復位後も眼圧が正常化しなかった点が異なる.それでもなお,あえてSchwartz症候群として解釈するなら,術前は網膜.離が鋸状縁まで.がれていなかったため,網膜視細胞外節がそれほど多く前房中に遊走せず高眼圧とならなかったが,1回目の強膜内陥術で復位せず鋸状縁周394あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013辺部まで.離が広がってしまったため,さらに多くの網膜視細胞外節が前房中に遊走し,線維柱帯閉塞が増強して眼圧上昇した可能性は否定できない.通常Schwartz症候群では,復位後数日以内に眼圧下降が得られることが多いが,数カ月間抗緑内障薬が必要な症例もあり,この場合も線維柱帯の閉塞が解消されるのにさらなる時間を要したためとも考えられる.また,強膜内陥術は強膜および脈絡膜を圧迫するため,Schlemm管以降の房水流出路(distaloutflowsystem)が障害され,眼圧上昇をきたした可能性もある.しかし,本症例では,線維柱帯およびSchlemm管内壁を切開して房水流出抵抗を減らすトラベクロトミーが奏効したことから,Schlemm管以降の流出路障害があったとは考えにくい.このことは,バックルを置いた象限が小さく輪状締結術を併用しなかった初回手術からすでに眼圧の上昇がみられていたことからも裏付けられる.ステロイド緑内障は,トラベクロトミーが奏効した点については矛盾しない7).しかし,ステロイド薬の内服および点眼中止後もまったく眼圧が下がらなかった点は一致せず,手術終了時のデキサメタゾン結膜下注射の影響が術後2週間以上持続したとも考えにくい.最後に,もともとの緑内障眼に裂孔原性網膜.離が合併した可能性である.つまり,緑内障の高眼圧眼に裂孔原性網膜.離が生じたため,.離が生じていた受診時に眼圧が下がっていた眼が,復位したことで高眼圧に戻った可能性が考えられる.実際,裂孔原性網膜.離眼では,原発開放隅角緑内障が合併している頻度が高いと報告されている8).さらに,発達緑内障の合併に関しては,横井らはSchwartz症候群で網膜の復位後に眼圧上昇をきたした症例を報告し,隅角の形態異常もみられたことから,Schwartz症候群に発達緑内障が合併していたと結論づけている9).筆者らの症例も20歳代と若く,緑内障とすれば原発開放隅角緑内障あるいは遅発性の発達緑内障の可能性が高いが,緑内障の家族歴はなく,両視神経乳頭に緑内障性変化もみられなかった.さらに,術後に確認した隅角にも異常所見がみられなかったことから,本症例ではこの可能性も低いと考えられた.本症例では,最終的に眼圧上昇の原因は特定できなかったが,2度にわたって結膜が切開され,特に2度目の手術では,全周の結膜が切開されていたため,結膜の状態が予後に影響するトラベクレクトミーによる濾過胞維持はむずかしいと考えた10.12).さらに,患者の若い年齢も考慮したうえで,最終的にトラベクロトミーを選択した.筆者らの研究13)では,トラベクロトミー施行例の約11%に前房洗浄を必要としたが,今回の症例でも術後前房出血が多く眼圧が下降しなかったため,前房洗浄を行った.その結果,トラベクロトミーが奏効し,眼圧が正常化した.しかしながら,今後とも注意深(108) い経過観察が必要と考えられた.本論文の要旨は,第21回日本緑内障学会(福岡)で発表した.文献1)宇山昌延:網膜.離と眼圧.眼科MOOK20,網膜.離,p62-68,金原出版,19832)大鹿哲郎:裂孔原性網膜.離患者における房水蛋白濃度の経時変化.日眼会誌94:594-603,19903)SchwartzA:Chronicopen-angleglaucomasecondarytorhegmatogenousretinaldetachment.AmJOphthalmol75:205-211,19734)MatsuoN,TakabatakeM,UenoHetal:Photoreceptoroutersegmentsintheaqueoushumorinrhegmatogenousretinaldetachment.AmJOphthalmol101:673-679,19865)田中住美:輪状締結術後のうっ血.眼科診療プラクティス60,p26,文光堂,20006)河野眞一郎:強膜バックリングと眼圧.眼科診療プラクティス30,p87,文光堂,20097)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabeculotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,20008)PhelpsCD,BurtonTC:Glaucomaandretinaldetachment.ArchOphthalmol95:418-422,19779)横井由美子,大黒浩,大黒幾代ほか:発達緑内障にSchwartz症候群を合併した1例.眼科48:265-268,200610)TheFluorouracilFilteringSurgeryStudyGroup:Fiveyearfollow-upoftheFluorouracilFilteringSurgeryStudy.AmJOphthalmol121:349-366,199611)StomperRL:LateFailureofFilteringBleb.GlaucomaSurgicalManagement,Volume2,p239-242,SAUNDERS,UK/USA,200912)SalmonJF,KanskiJJ:Trabeculectomy.Glaucoma,ThirdEdition,p139-149,Butterworth-Heinemann,UnitedKingdom,200413)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,2012***(109)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013395