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テクニス®1 ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績

2015年6月30日 火曜日

8945106,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(6):894.897,2015cはじめに白内障手術時に,回折型多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入することで良好な遠方および近方の裸眼視力が得られることが報告され,近年,これら数多くの臨床報告がまとめられている1,2).多焦点IOL挿入例においては,良好な裸眼視力を得るために,精度の高いIOL度数計算のみならず,視力に影響する乱視をできるだけ軽減することが求められる3).術後乱視は1.0D以下が望ましいとされ4),術後乱視の予測性を高めるには,手術による惹起乱視を最小限に抑える,すなわちより小さな切開が有利である.このことは,多焦点IOLのみならず単焦点,特にトーリックIOLにおいても重要で,眼内レンズの形状は3ピースから,より小さな切開から挿入可能な1ピース形状が好まれている.回折型多焦点IOLにおいて,3ピース(ZMA00:AMO社)と1ピース(ZMB00:AMO社)を比較し,術後1カ月において,1ピースタイプのほうが安定した裸眼遠方および894(130)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANテクニスR1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績ビッセン宮島弘子吉野真未平沢学大木伸一南慶一郎東京歯科大学水道橋病院眼科One-YearPostoperativeResultsofTECNISRMultifocal1-PieceDiffractiveIntraocularLensInsertionHirokoBissen-Miyajima,MamiYoshino,ManabuHirasawa,ShinichiOkiandKeiichiroMinamiDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital回折型多焦点眼内レンズ(IOL)は近方加入度数やIOL形状の異なるものが開発されている.今回,アクリル製で支持部が前方に偏位したテクニスR1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入され,術後1年の経過観察が行えた症例の臨床成績を後向きに検討した.症例は109例167眼(平均年齢56.4±12.1歳)で,遠方視力(裸眼・矯正),近方視力(裸眼・遠方矯正下),自覚等価球面度数(MRSE),高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開施行率を調べた.遠方裸眼視力は術後1週より1年にわたり平均小数視力1.1以上,近方は0.7以上,MRSEは術後早期から後期にわずかに遠視化したが視力への影響はなかった.平均コントラスト感度は正常範囲内で,眼鏡装用率は7.8%,レーザー後.切開施行率は3.6%であった.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内IOLは挿入後1年にわたり,良好で安定した視機能が得られ,有用なIOLと考えられた.Multifocalintraocularlenses(IOLs)withdifferentnearadditionalpowersanddesignshavebeendeveloped.Inthisstudy,weretrospectivelyexaminedtheclinicaloutcomesineyeswithTECNISRMultifocal1-PieceIOL(ZMB00;AbbotMedicalOptics)upto1-yearpostoperative.Thisstudyinvolved169eyesof109patients(meanage:56.4±12.1years).Meanuncorrecteddistancedecimalvisualacuity(VA)was≧1.1andnearVAwas≧0.7.Meanmanifestrefractionsphericalequivalentwasstableandmeancontrastsensitivitywaswithinthenormalrange.Therateofspectacleusagewas7.8%andtherateofeyesthatunderwentNd:YAGlaserposteriorcapsu-lotomywas3.6%.ThefindingsofthisstudyshowthattheTECNISRMultifocal1-PieceIOLprovidesgoodandstablevisualfunctionfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):894.897,2015〕Keywords:多焦点レンズ,1ピース,裸眼視力,術後屈折.multifocallens,1-piece,uncorrectedvision,postop-erativerefraction.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績ビッセン宮島弘子吉野真未平沢学大木伸一南慶一郎東京歯科大学水道橋病院眼科One-YearPostoperativeResultsofTECNISRMultifocal1-PieceDiffractiveIntraocularLensInsertionHirokoBissen-Miyajima,MamiYoshino,ManabuHirasawa,ShinichiOkiandKeiichiroMinamiDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital回折型多焦点眼内レンズ(IOL)は近方加入度数やIOL形状の異なるものが開発されている.今回,アクリル製で支持部が前方に偏位したテクニスR1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入され,術後1年の経過観察が行えた症例の臨床成績を後向きに検討した.症例は109例167眼(平均年齢56.4±12.1歳)で,遠方視力(裸眼・矯正),近方視力(裸眼・遠方矯正下),自覚等価球面度数(MRSE),高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開施行率を調べた.遠方裸眼視力は術後1週より1年にわたり平均小数視力1.1以上,近方は0.7以上,MRSEは術後早期から後期にわずかに遠視化したが視力への影響はなかった.平均コントラスト感度は正常範囲内で,眼鏡装用率は7.8%,レーザー後.切開施行率は3.6%であった.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内IOLは挿入後1年にわたり,良好で安定した視機能が得られ,有用なIOLと考えられた.Multifocalintraocularlenses(IOLs)withdifferentnearadditionalpowersanddesignshavebeendeveloped.Inthisstudy,weretrospectivelyexaminedtheclinicaloutcomesineyeswithTECNISRMultifocal1-PieceIOL(ZMB00;AbbotMedicalOptics)upto1-yearpostoperative.Thisstudyinvolved169eyesof109patients(meanage:56.4±12.1years).Meanuncorrecteddistancedecimalvisualacuity(VA)was≧1.1andnearVAwas≧0.7.Meanmanifestrefractionsphericalequivalentwasstableandmeancontrastsensitivitywaswithinthenormalrange.Therateofspectacleusagewas7.8%andtherateofeyesthatunderwentNd:YAGlaserposteriorcapsulotomywas3.6%.ThefindingsofthisstudyshowthattheTECNISRMultifocal1-PieceIOLprovidesgoodandstablevisualfunctionfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):894.897,2015〕Keywords:多焦点レンズ,1ピース,裸眼視力,術後屈折.multifocallens,1-piece,uncorrectedvision,postoperativerefraction.はじめに白内障手術時に,回折型多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入することで良好な遠方および近方の裸眼視力が得られることが報告され,近年,これら数多くの臨床報告がまとめられている1,2).多焦点IOL挿入例においては,良好な裸眼視力を得るために,精度の高いIOL度数計算のみならず,視力に影響する乱視をできるだけ軽減することが求められる3).術後乱視は1.0D以下が望ましいとされ4),術後乱視の予測性を高めるには,手術による惹起乱視を最小限に抑える,すなわちより小さな切開が有利である.このことは,多焦点IOLのみならず単焦点,特にトーリックIOLにおいても重要で,眼内レンズの形状は3ピースから,より小さな切開から挿入可能な1ピース形状が好まれている.回折型多焦点IOLにおいて,3ピース(ZMA00:AMO社)と1ピース(ZMB00:AMO社)を比較し,術後1カ月において,1ピースタイプのほうが安定した裸眼遠方および〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANあたらしい眼科Vol.32,No.6,20150910-1810/15/\100/頁/JCOPY894894894(130) 近方視力が得られることがすでに報告されている5).また,同一プラットフォームの単焦点IOLにおいて,前方に偏位した支持部をもつ1ピースタイプは,水晶体.内において光学部が後.側に押され,より確実な固定が示唆されている6).これらの検討結果から,同デザインの支持部を有する1ピース回折型多焦点IOLは,良好で安定した術後成績が期待されるが,術後長期経過についての報告は筆者らの知る限りではない.そこで,今回,1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00)が挿入され,術後1年間経過観察できた症例の臨床成績を後向きに検討した.I対象および方法対象は,2011年7月から2013年11月までに東京歯科大学水道橋病院眼科にて白内障手術時に1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入された症例である.選択基準は視力に影響を及ぼす緑内障,網膜疾患(糖尿病性網膜症,黄斑変性など)の既往がなく,術中合併症がなく,IOLが水晶体.内固定され,術後1週の矯正遠方視力が0.7以上,術後1年間の経過観察がなされており,術後にエキシマレーザーによる追加屈折矯正手術やIOLの摘出または交換が行われていない症例とした.本研究は,東京歯科大学の倫理審査委員会の承認(承認番号:466)を得たのち,ヘルシンキ宣言に沿って実施された.白内障手術は,点眼麻酔下,2.4mm幅の角膜耳側切開から水晶体超音波乳化吸引術を行い,ZMB00を専用インジェクターにて水晶体.内に挿入した.本IOLにおける近見加入度数は4Dで,およそ30cmの近方視力が期待できる.IOL度数は,眼軸長と角膜屈折力を光干渉式IOLマスター(Zeiss)で測定し,ULIBで指定されたA定数119.5とSRK/T式を用いて,正視狙いで決定した.検討項目は,術後1週,1,3,6カ月,1年における遠方視力(裸眼,矯正),30cmにおける近方視力(裸眼,遠方矯正下),自覚屈折等価球面度数(manifestrefractionsphericalequivalent:MRSE),術後1年における高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開術の施行率である.視力は小数視力をlogMAR視力に変換して解析を行った.MRSEは,遠方矯正視力測定時の屈折値から求めた.高次収差は,散瞳後にウェーブフロントアナライザーKR-1W(Topcon)を用い,瞳孔径4,6mmにおける全高次収差(RMS値)を求めた.コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision)を用いてグレアなしのコントラスト感度を測定した.視力の経時的な変化に対しては,Kruskal-Wallis検定を行い,有意な変動がある場合は,Steel-Dwassの多重比較を行った.MRSEには,分散分析(ANOVA)を行った.p<0.05を統計学的に有意差ありとした.結果は,平均±標準偏差で表記する.II結果研究期間中,ZMB00は346眼に挿入されていたが,選択基準に合わない症例(術後に追加屈折矯正手術が施行されていた15眼,術後1年まで経過観察できなかった症例など)を除き,109例(男性43例,女性66例)167眼を解析対象とした.平均年齢は56.4±12.1歳であった.術前の平均眼軸長は25.0±1.7mm,平均角膜乱視度数は0.80±0.56D,挿入されたIOLの平均度数は17.4±5.4Dであった.術後1週から1年までの遠方視力および近方視力を表1に示す.遠方視力は裸眼,矯正ともに平均小数視力が1.1以上と良好で,術後1年間にわたり有意な変化はなかった.近方視力も裸眼,遠方矯正下ともに平均小数視力0.7以上と良好であった.経過観察時期による有意差は,遠方矯正下近方視力で術後3,6カ月と術後1年に認められた(p<0.016)が,その差は0.05logMARであった.各経過観察時期の自覚屈折等価球面度数は.0.12±0.36D,.0.12±0.38D,.0.12±0.33D,.0.04±0.35D,.0.03±0.39Dで,観察時期で統計学的に有意な変化はなかった(p=0.072).術後1年における全高次収差は,4mm径で0.15±0.08μm,6mm径で0.57±0.32μm(ともにRMS値)であった.術後1年の平均コントラスト感度は,18cycleperdegree(cpd)のみ正常値下限レベルで,他の空間周波数では正常範囲内で表1術後logMAR視力(平均±標準偏差)観察時期視力logMAR術後1週術後1カ月術後3カ月術後6カ月術後1年p値*裸眼遠方.0.05±0.13.0.05±0.14.0.05±0.11.0.05±0.12.0.07±0.130.51矯正遠方.0.14±0.07.0.14±0.08.0.14±0.09.0.14±0.10.0.15±0.080.074裸眼近方0.10±0.160.10±0.140.11±0.130.12±0.120.09±0.130.093遠方矯正下近方0.07±0.120.07±0.140.10±0.12†0.10±0.11†0.05±0.120.002*:術後1年間の変動に対するp値(KruskalWallis検定),†:術後1年に対して有意差あり(p<0.05,Steel-Dwass多重比較)(131)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015895 CSV-1000ContrastSensitivitySpatialFrequency─(CyclesPerDegree)図1術後1年時のコントラスト感度あった(図1).眼鏡を装用していたのは13例18眼で,使用目的は遠方視用が7眼,近方視用が6眼,中間視用(おもにパソコン使用時)が6眼で,装用率は7.8%であった.Nd:YAGレーザーによる後.切開術施行率は3.6%(6眼)で,施行時期は術後5カ月から11カ月であった.III考按1ピース多焦点IOLZMB00挿入眼の術後視力は,遠近両方において術後1週から1年まで良好であった.同多焦点IOLの報告は,術後1カ月で平均遠方裸眼logMAR視力が0.03,矯正視力が.0.15,近方裸眼視力が0.105),術後4.6カ月で平均遠方裸眼logMAR視力が0.25±0.10,近方裸眼視力が0.15±0.30と7),本検討の結果と差異はなかった.術後1年以降の報告はないが,本多焦点IOLと同じ光学部デザインをもつシリコーン製多焦点IOLの長期観察結果8)と比較しても,術後1年の視力は同等であった.また,apodized回折型多焦点IOL(SA60D3,Alcon)の術後1年の成績では,裸眼遠方視力は0.7以上が88%,裸眼近方視力は0.4以上が全例と報告されている9).本検討における該当する割合を求めると,97%,98%であり,apodized回折型と同等以上と考えられた.以上より,ZMB00挿入後,早期から良好な遠方および近方視力と,長期の安定性が示された.術後の屈折において,テクニスR1ピースIOL挿入眼における遠視化が指摘され5,6),その要因として前方に偏位した支持部が示唆されている.一方,本検討におけるMRSEは術後早期に0.14-0.15Dの近視化傾向を示したが,屈折誤差は少なかった.これは,理論値のA定数(118.8)を用いず,ULIBの最適化されたA定数を使用したためと考えられ,多焦点IOLにおいては,このように最適化したA定数を用いることで屈折誤差を最小限にすることが重要と考えられた5).MRSEの1年までの長期経過をみると,観察期間で有意な差はないものの,術後6カ月に平均で0.08D増加しており,IOLの約0.1mm前方偏位に相当する5).これは,本IOLの支持部が前方に偏位しているため,.への接触力が大きくなり10),術後に起こる.収縮の影響を受けやすかった可能性がある.後発白内障について,本検討では術後1年までに3.6%にNd:YAGレーザー後.切開術が施行されていた.多焦点IOLにおいては,軽度な後発白内障でも視力に影響し,とくに近方視力でその傾向が強く,Nd:YAGレーザーを早期に要する傾向がある2).後発白内障の抑制,すなわち水晶体上皮細胞の増殖を抑えるためには,IOL後面と後.の接着やIOLのシャープエッジ形状が有用とされている11,12).テクニスR1ピースの支持部による光学部の後.への強い密着は,invitro9)およびinvivo6)で検討されており,支持部もシャープエッジ形状のため,支持部根部からの水晶体内皮細胞の迷入の抑制も期待できる13).以上,テクニスR1ピース回折型多焦点IOLは,従来の多焦点IOL同様,良好な術後遠方および近方視力が得られ,術後1年まで安定した結果であった.IOL形状から,多焦点IOLに重要な後発白内障抑制面ですぐれている可能性があり,今後さらに長期の経過観察が望まれる.文献1)AgrestaB,KnorzMC,KohnenTetal:Distanceandnearvisualacuityimprovementafterimplantationofmultifocalintraocularlensesincataractpatientswithpresbyopia:asystematicreview.JRefractSurg28:426-435,20122)deVriesNE,NuijtsRM:Multifocalintraocularlensesincataractsurgery:literaturereviewofbenefitsandsideeffects.JCataractRefractSurg39:268-278,20133)deVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatisfactionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:859-865,20114)HayashiK,ManabeS,YoshidaMetal:Effectofastigmatismonvisualacuityineyeswithadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1323-1329,20105)宮田和典,片岡康志,本坊正人ほか:1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差と視力:3ピースとの比較.あたらしい眼科30:269-272,20136)MiyataK,KataokaY,MatsunagaJetal:ProspectiveComparisonofOne-PieceandThree-PieceTecnis(132) AsphericIntraocularLenses:1-yearStabilityanditsEffectonVisualFunction.CurrEyeRes2014Oct13:1-6.[Epubaheadofprint]7)SchmicklerS,BautistaCP,GoesFetal:Clinicalevaluationofamultifocalasphericdiffractiveintraocularlens.BrJOphthalmol97:1560-1564,20138)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:Two-yearfollow-upafterimplantationofdiffractiveasphericsiliconemultifocalintraocularlenses.ActaOphthalmol89:617621,20119)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:アクリソフApodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,200710)BozukovaD,PagnoulleC,JeromeC:Biomechanicalandopticalpropertiesof2newhydrophobicplatformsforintraocularlenses.JCataractRefractSurg39:1404-1414,201311)NishiO,YamamotoN,NishiKetal:Contactinhibitionofmigratinglensepithelialcellsatthecapsularbendcreatedbyasharp-edgedintraocularlensaftercataractsurgery.JCataractRefractSurg33:1065-1070,200712)ZemaitieneR,JasinskasV,AuffarthGU:Influenceofthree-pieceandsingle-piecedesignsoftwosharp-edgeoptichydrophobicacrylicintraocularlensesonthepreventionofposteriorcapsuleopacification:aprospective,randomized,long-termclinicaltrial.BrJOphthalmol91:644-648,200713)NixonDR,WoodcockMG:Patternofposteriorcapsuleopacificationmodels2yearspostoperativelywith2single-pieceacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:929-934,2010***(133)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015897

回折型多焦点眼内レンズ挿入後不満例の検討

2013年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(11):1629.1632,2013c回折型多焦点眼内レンズ挿入後不満例の検討ビッセン宮島弘子*1吉野真未*1大木伸一*1南慶一郎*1平容子*2*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2眼科龍雲堂醫院EvaluationofUnsatisfiedPatientsfollowingDiffractiveMultifocalIntraocularLensImplantationHirokoBissen-Miyajima1),MamiYoshino1),ShinichiOki1),KeiichiroMinami1)andYokoTaira2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)RyuundoEyeClinic目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後の不満例の割合と要因を検討した.対象および方法:東京歯科大学水道橋病院および眼科龍雲堂醫院において白内障手術時に回折型多焦点IOLが挿入された252例464眼のうち,挿入後3カ月以上経過しても見え方に不都合を訴える例を不満群,それ以外をコントロール群とし,不満群の割合,不満の原因および術前後の患者背景を検討した.結果:不満群は全体の6.7%で,コントラスト感度低下が原因と思われる自覚的な見え方への訴えが多かった.不満群はコントロール群と比較して,術前矯正視力が良好,術後裸眼・矯正近方視力が不良,コントラスト感度が低下していた.年齢,性別,術後屈折および裸眼・矯正遠方視力,残余屈折矯正目的にて施行のLASIK(laserinsitukeratomileusis),眼鏡装用率には有意差を認めなかった.結論:多焦点IOL挿入後の不満例の頻度は低いが,術前の期待度に比べコントラスト感度低下に起因する見え方や近方視力不良が原因となっていることが示唆された.Itiswellknownthatsomepatientscomplainaboutvisualqualityfollowingimplantationofthediffractivemultifocalintraocularlens(IOL).Of252patients(464eyes)whoreceiveddiffractivemultifocalIOLs,the6.7%whocomplainedaboutvisualqualityat3monthspostoperatively(dissatisfiedgroup)werecomparedtotheotherpatients(controlgroup).Higherriskofdissatisfactionwasfoundinpatientswithbetterpreoperativecorrectedvisualacuity,lowerpostoperativecontrastsensitivityanduncorrected/correctednearvisualacuities.Therewerenogroupdifferencesinpatientage,gender,postoperativerefraction,uncorrected/correcteddistancevisualacuities,LASIK(laserinsitukeratomileusis)forresidualrefractiveerrororspectacleusage.Althoughtherateofdissatisfiedpatientswaslow,visualsymptomsbasedonlowercontrastsensitivityandpoornearvisualacuityseemtobethemainreasonsfordissatisfaction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1629.1632,2013〕Keywords:多焦点レンズ,回折,不満,裸眼視力,コントラスト感度.multifocallens,diffraction,dissatisfaction,uncorrectedvision,contrastsensitivity.はじめに白内障手術時において,多焦点眼内レンズ(IOL)を用いた水晶体再建術が2008年に先進医療として認められ,施設基準を満たした医療機関は260施設以上(2013年時点,厚生労働省のウェブサイトによる)となっている.しかし,症例数は,2012年度で約4,000件と白内障手術の年間100.120万件の0.5%にも満たない数である.回折型多焦点IOLは,挿入後,良好な遠方と近方裸眼視力が得られ,日常生活における眼鏡依存度を減らすことができることから1.4),患者のQOL(qualityoflife)の向上が期待できる.一方,このような利点があるにもかかわらず症例数が少ないのは,手術費が単焦点IOLを用いた水晶体再建術と同じ保険適用でなく全額患者負担になること,多焦点IOL挿入後の不満例があることが考えられる5,6).今後,多焦点IOLが普及していくなか,不満例の割合および原因を知ることが重要と考え,回折型多焦点IOLが挿入された症例に対して後ろ向きに調〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(137)1629 査を行った.I対象および方法対象は2003年10月から2009年1月までに,東京歯科大学水道橋病院,および眼科龍雲堂醫院にて白内障手術時に回折型多焦点IOLが挿入された252例464眼である.挿入されたIOLはSA60D3,SN60D3,SN6AD3(アルコン社,274眼),および,ZM900(AMO社,190眼)で,手術は同じ術者が両施設で行った.術後3カ月以降の診察時に満足度を①非常に不満,②不満,③不満なくまあまあ,④満足,⑤非常に満足の5段階に分け聞き取り調査し,①および②を不満群,③から⑤をコントロール群とした.なお,多焦点IOL挿入後の屈折誤差に対しては希望があればLASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折矯正手術を施行し,後発白内障による視力障害がある場合はYAGレーザー後.切開を行った.これらの症例では,LASIKあるいはYAGレーザー後.切開後に満足度を調査した.不満例となった要因としては,年齢,性別,多焦点IOL挿入前の視力と屈折(等価球面度数,角膜乱視度数),挿入後の追加手術の有無(LASIK,YAGレーザー後.切開術),および挿入後の裸眼および矯正視力(遠方,近方),屈折(等価球面度数,自覚乱視度数),コントラスト感度,および,眼鏡装用状況を検討した.コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision社)を用いて遠方矯正下で測定した.各要因について不満群とコントロール群で統計学的に検定し,p<0.05を有意差ありとした.II結果1.不満例の割合と理由不満群は252例464眼中,17例31眼と全症例の6.7%で,5.6%は両眼挿入例(14眼),1.2%は片眼挿入例(3眼)であった.不満の理由は,“膜がかかったように見える”,“全体がかすむ”といったコントラスト感度低下に起因する視機能低下が62.5%と最も多く,“近くが見えない”(12.5%)“遠くも近くも見えない”(2.5%)と裸眼視力が期待以下であ(,)った例が15%,視力の左右差が2.5%の割合であった.2.不満例の要因a.術前の年齢,性別多焦点IOL挿入時の平均年齢は,不満群が64.8±8.2歳,コントロール群が65.0±11.0歳で両群間に有意差はなかった(p=0.90,対応のないt検定).両群の年齢分布を図1に示す.不満群は60代が47%で最も多かった.性別は不満群の88.2%が女性,11.8%が男性,コントロール群の69.4%が女性,30.6%が男性と女性が多かったが有意1630あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013不満群コントロール群50歳未満60~69歳47%70~79歳29%50~59歳80~89歳9%50~59歳24%5%15%60~69歳35%70~79歳36%図1術前の年齢分布表1術後処置不満群コントロール群眼数(不満群内での割合)眼数(コントロール群内での割合)YAGレーザ1(3.2%)13(3.0%)LASIK5(16.1%)29(6.7%)LASIKのみ有意差あり(p<0.05.c2検定).表2術後視力および屈折値不満群コントロール群遠方裸眼視力0.980.94矯正視力1.191.20近方裸眼視力0.610.72矯正視力0.780.95屈折等価球面(D)自覚乱視(D).0.06±0.45.0.39±0.56.0.05±0.46.0.57±0.52差はなかった(p=0.10,c2検定).b.術前視力および屈折遠方矯正小数視力の平均は不満群が0.97,コントロール群が0.61と,不満群のほうが良好であった(p=0.0005,Mann-Whitney検定).等価球面度数は不満群が.2.9±4.6D,コントロール群が.1.1±4.0Dと不満群で術後屈折が有意に近視寄りであった(p=0.046,t検定).角膜乱視は不満群が.0.8±0.4D,コントロール群が.0.8±0.6Dと両群とも1D以下であった.c.術後処置(表1)多焦点IOL挿入後に残余屈折異常の矯正目的でLASIKが施行された34眼のうち不満群は5眼,YAGレーザー後.切開が施行された14眼のうち不満群は1眼で,コントロール群で同処置を行った割合と比べて有意差はなかった(p=0.052,0.94,c2検定).d.挿入後の視力および屈折遠方視力(裸眼および矯正),近方視力(裸眼,遠方矯正下,および矯正),屈折値(等価球面度数,自覚円柱度数)の(138) CSV-1000ContrastSensitivityコントロール群不満群SpatialFrequency(CyclesPerDegree)12,18cpdで有意差あり(p=0.025,t検定)図2装用眼鏡の種類結果を表2に示す.近方視力は,裸眼,遠方矯正下,矯正とも不満群は有意に低下していた(p=0.011).それ以外の項目では両群間に有意差を認めなかった.e.コントラスト感度両群とも60.69歳の正常範囲に入っていたが(図2),不満群が12,18cpdにてコントロール群に比較して有意に低下していた(p=0.025,t検定).f.眼鏡装用状況不満群が16.2%,コントロール群が9.4%で両群に有意差はなかった(p=0.24,c2検定).装用眼鏡の種類は不満群で遠用40%,中間用20%,近方40%,コントロール群で遠用41%,中間用21%,近用38%と両群とも類似した傾向であった.III考按多焦点IOL挿入後は,単焦点IOL挿入後より不満を訴える例が多く,その程度が重篤な場合が多いことが危惧されている.すでに多焦点IOL挿入後の不満例について報告があるが,後発白内障,残余屈折,瞳孔径により視機能障害があり,これらの問題に対して処置を行うことで改善したというものである5,6).しかし,改善しない場合は多焦点IOLの摘出となり,回折型のみならず屈折型でも報告されている7,8).今回は,多焦点IOLのなかで挿入頻度が高い回折型における不満を訴える割合,術前あるいは術後の要因を検討した.(139)まず,不満例の割合だが,今までの報告は不満を訴えた症例が32例43眼5),49例76眼6)と複数施設における結果のため症例数は多いが,挿入された施設での不満例の割合は不明である.今回の6.7%という不満例の割合から,術前に適応を検討し,術後に何らかの処置をしても多焦点IOL挿入後に10%以下の割合で不満を訴える可能性があることを術者が知っておくことは重要と考える.今回の症例はLASIKやYAGレーザー後の不満例としたが,海外の不満例の報告と同様に術後屈折誤差や後発白内障例をすべて含めると全体の10.4%となり,不満を訴える例でも適切な処置を行うことで一部の症例では解決できることがわかる.不満の理由として全体の半数以上を占めた“膜がかかったよう”,“全体がかすむ”というのは,海外の報告で“blurredvision”が最も多かった結果と一致していた5.7).しかし,海外の報告では,これらの症例で後発白内障例にはYAGレーザー,不同視や乱視例には屈折矯正手術を施行し症状が改善しているが,本報告はこれらの処置を行っても不満を訴える例で,別の要因を考える必要がある.年齢,性別については不満例とコントロール群で有意差を認めなかったが,術前矯正視力が良好な例ほど不満を訴える可能性が高いことがわかった.術前に視力が低下している症例ほど術後の改善度が明らかに認識されるが,術前の視力が良好な症例は,術後に視力が改善しても見え方の質,すなわちコントラスト感度の低下をより自覚しやすく,そのため満足度が低い可能性がある9).欧米で白内障による視力低下がない場合でも,老眼への対処として多焦点IOLを挿入する際,不満を訴えやすい結果と類似する10).術後処置について,今回の検討は,視力に影響すると思われる屈折誤差,後発白内障がある場合,LASIKやYAGレーザー後.切開術を行ってからの満足度とした.施行率は両群で差がなかったが,これらの処置を施しても不満が残る例があることに注意すべきである.YAGレーザーは,多焦点IOLを摘出して単焦点IOLに交換する可能性を念頭におき安易に施行すべきでないとされている5).術後裸眼および矯正視力は,一般的に最も不満の原因につながる要素である.挿入されたIOLは近方加入度数が+4.0D,光学部全体が回折型,中央3.6mm径がアポダイズ回折型の2種類だが,明室における視力検査結果に差はでにくいと考えた.遠方視力は裸眼および矯正とも両群で有意差を認めなかったが,近方視力は裸眼,遠方矯正下,矯正とも不満群で有意に低下していた.挿入した不満群に近視眼が多かったことから,近方視力への期待度が高く,視力が出にくかったことが不満の原因につながっていた可能性は否定できない.術後コントラスト感度は不満例において中から高周波数領域で低下しており,これは自覚的な見え方に対する不満と一あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131631 致する.回折型デザインの欠点はコントラスト感度の低下であるが,多くの症例は両眼挿入で比較的良好なコントラスト感度が保たれている.事前にどのような症例でコントラスト感度低下を自覚するのか予測できないため,不満例をできるだけ少なくするには術前に十分な説明をし,患者の十分な理解を得て挿入することが重要である.眼鏡装用率は不満例のほうが高かったが,統計学的な有意差はなかった.見え方に不満がある場合,多少の屈折矯正でも自覚的な見え方が改善することに期待し,眼鏡装用を試みる場合が多いためと思われる.その他,不満の訴えとして,夜間のグレア・ハローがあるが,本症例における不満例でこれらの症状を訴える例はなかった.近年,高次収差が測定できるようになり,視機能を検討するうえで有用な検査法とされている.回折型IOL挿入眼では測定が困難な場合があり,本症例群で信頼できる結果が得られた症例数が限られたため,不満の要因としての検討は行わなかった.装置の測定ポイント数が増え,以前より測定可能な症例が増えているので,今後,高次収差と不満例についても検討していきたい.不満の要因として,その他にドライアイやIOL偏位があげられるが,本症例の不満例には人工涙液点眼を処方し,何らかの改善がみられるか確認している.IOL位置については,普通瞳孔で回折リングの位置で偏位が確認できるが,視機能に影響を及ぼすような偏位例はなかった.これらのことから,不満例の要因は,回折型デザイン特有のコントラスト感度低下に起因する見え方の不都合,あるいは近方視力が期待度以下であったことが考えられる.不満例をゼロにすることは不可能だが,術前にコントラスト感度低下に伴う見え方および現実的な近方の見え方を説明し,理解が得られなかったり,不安がある場合には多焦点IOLの挿入を見合わせることを考慮すべきである.特に術前視力が良好な症例ではこれらの点に留意すべきと考えられた.文献1)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:アクリソフRApodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,20072)AlfonsoJF,Fernandez-VegaL,AmhazHetal:Visualfunctionafterimplantationofanasphericbifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg35:885-892,20093)KohnenT,NuijtsR,LevyPetal:Visualfunctionafterbilateralimplantationofapodizeddiffractiveasphericmultifocalintraocularlenseswitha+3.0Daddition.JCataractRefractSurg35:2062-2068,20094)ビッセン宮島弘子,林研,吉野真未ほか:近方加入+3D多焦点眼内レンズSN6AD1の白内障摘出眼を対象とした臨床試験成績.あたらしい眼科27:1737-1742,20105)WoodwardMA,RandlemanJB,StultingRD:Dissatisfactionaftermultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:992-997,20096)DeVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatisfactionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:859-865,20117)GalorA,GonzalezM,GoldmanDetal:Intraocularlensexchangesurgeryindissatisfiedpatientswithrefractiveintraocularlenses.JCataractRefractSurg35:1706-1710,20098)鳥居秀成,根岸一乃,村戸ドールほか:羞明感と眼精疲労により多焦点眼内レンズを交換した2例.臨眼64:459463,20109)鳥居秀成:多焦点眼内レンズのコントラスト感度とグレア・ハロー症状.眼科手術26:419-425,201310)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses.Themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,2008***1632あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(140)

放射状角膜切開後の白内障に回折型多焦点眼内レンズを挿入した1例

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(125)839《原著》あたらしい眼科27(6):839.843,2010cはじめに回折型多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,欧米のみならずわが国でも良好な術後遠方および近方裸眼視力が報告され1.3),今後,今まで適応とされなかった症例にも挿入が検討されることが予想される.そのなかで,屈折矯正手術を受けた症例は,正確なIOL度数と術後コントラスト感度の低下,グレア,ハローといった視機能の面から,慎重に適応が判断される必要がある.すでに,laserinsitukeratomileusis(LASIK)後に回折型多焦点IOLを挿入した報告4),放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)に単焦点IOLを挿入した報告5,6)はあるが,今回,老視経験のない年齢で,RK施行15年後に片眼のみ白内障による視力低下をきたし,回折型多焦点IOLを挿入し,1年の経過観察ができた症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕西村麻理子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:MarikoNishimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPAN放射状角膜切開後の白内障に回折型多焦点眼内レンズを挿入した1例西村麻理子ビッセン宮島弘子吉野真未中村邦彦東京歯科大学水道橋病院眼科ACaseofCataractSurgerywithDiffractiveMultifocalIntraocularLensImplantationfollowingRadialKeratotomyMarikoNishimura,HirokoBissen-Miyajima,MamiYoshinoandKunihikoNakamuraDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital症例は放射状角膜切開術(RK)後,片眼のみ白内障による視力低下をきたした43歳,男性,眼鏡依存度を減らすため多焦点眼内レンズ(IOL)挿入を希望し,回折型IOLを挿入,術後1年経過観察できたので術後経過を報告する.術前視力は右眼0.02(矯正不能),左眼1.2(矯正不能),右眼は水晶体混濁のため光干渉法で眼軸測定できず超音波法を用い,屈折力は屈折矯正手術後に推奨される方法で決定し,SRK/T式で度数計算した.白内障摘出後,回折型IOLは.内固定され,術後視力は翌日から1年まで遠方裸眼1.2,近方0.4と安定,角膜内皮細胞数の減少はなく,コントラスト感度は全周波数領域で正常範囲内だが左眼より低下していた.自覚的な視力の日内変動,夜間グレア,ハローはなく,眼鏡を必要とせず満足度は高かった.RKを含む屈折矯正手術後は,正確なIOL度数決定および視機能面で多焦点IOL挿入が危惧されているが,症例によって慎重な検討を行うことで適応拡大が可能と思われた.Wereporttheclinicalresultsfor1yearfollowingtheimplantationofamultifocalintraocularlens(IOL)ina43-year-oldmalewhohadpreviouslyreceivedradialkeratotomy.Weemployedbiometry,whichisrecommendedforeyesthathaveundergonerefractivesurgery.CataractsurgerywasperformedontherighteyeandadiffractivemultifocalIOLwasimplanted.Postoperativeuncorrectedvisualacuityimprovedfrom0.02to1.2fordistanceand0.4fornear,withnosignificantendothelialcelllossobservedforupto1year.Contrastsensitivitywaslowerthanthatofthefelloweye,butremainedwithinthenormalrange.Thepatientdidnotcomplainofglareornighthalos,andwasverysatisfiedwiththeoutcome.Inaneyethathasundergonerefractivesurgery,multifocalIOLimplantationisamatterofconcern;however,favorableresultscanbeobtainedifcareistakeninselectingthepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):839.843,2010〕Keywords:回折型多焦点眼内レンズ,白内障,放射状角膜切開術,裸眼視力,コントラスト感度.diffractivemultifocalintraocularlens,cataract,radialkeratotomy,uncorrectedvisualacuity,contrastsensitivity.840あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(126)I症例患者:43歳,男性.主訴:右眼の視力障害.既往歴:15年前に,近視矯正目的で国内で両眼にRKを受けた.現病歴:1年前から右眼の視力低下を自覚し近医受診,白内障の診断を受けた.術後にできるだけ眼鏡装用したくない希望があり,多焦点IOL挿入の可能性につき,平成20年7月に当院を紹介された.初診時所見:視力は右眼0.02(矯正不能),左眼1.2(矯正不能),眼圧は両眼とも12mmHg,細隙灯顕微鏡検査にて,角膜に光学径3mm,角膜輪部近くまで12本のRKが両眼に施行されており,右眼水晶体は前.下と皮質混濁が主体で成熟白内障に近い状態であったが,左眼は透明であった.眼底検査は右眼が水晶体混濁のため透見できなかったが,超音波エコーにて網膜.離を示唆する所見はなく,左眼は正常であった.角膜内皮細胞密度数はノンコンロボ(コーナン社)にて右眼2,801個/mm2,左眼2,433個/mm2,角膜厚はオーブスキャンにて中央が右眼560μm,左眼559μmであった.経過:白内障手術適応のため,多焦点IOLに関して,屈折型と回折型の違い,RK後のためIOL度数ずれ,視力の日内変動,コントラスト感度低下,夜間グレア,ハローなどが起こりうることを説明し,職業はタクシー運転手だが,眼鏡依存度を減らすことを優先し,回折型多焦点IOL挿入を希望した.IOL度数決定は,眼軸長は光干渉法のIOLマスター(Zeiss社)で測定困難なため,Aモード(Alcon社)を用い27.81mmであった.角膜屈折力(K値)はオートケラトメータARK700A(NIDEK社)にて40.04D,角膜形状解析装置TMS4(TOMEY社)のリング3で39.29D,ハードコンタクトレンズ装用前後の屈折力から計算するハードコンタクトレンズ法7)で39.27Dであった.IOL度数計算はSRK/T式を用い,屈折矯正手術後に用いる角膜形状解析およびハードコンタクトレンズ法で得られたK値を用い,両者ともZM900(AMO社)の場合13.5Dとなり,この度数を選択した.白内障手術は,点眼麻酔下,RK切開の間で耳側やや下方の角膜2.0mm切開から行った.手術までに水晶体混濁が急速に進行し,成熟白内障となり水晶体が膨隆しているため,前.をトレパンブルーにて染色,ヒーロンRV(AMO社)で水晶体前面を十分に平坦にしてチストトームで前.切開を開始したが,水晶体穿刺と同時に一部前.に亀裂が入った.角膜内皮保護目的で,分散型と凝集型の粘弾性物質を用いたソ術後観察期間1日1週1カ月3カ月6カ月1年遠方視力裸眼1.21.21.21.01.01.2矯正1.51.21.21.21.21.5近方視力裸眼0.40.30.50.40.50.4遠方矯正下0.60.30.60.70.70.9矯正0.70.70.70.80.81.0012等価球面度数3(D)図1等価球面度数および視力の経時的変化ab図2術後細隙灯顕微鏡写真a:RK切開線,白内障に用いた耳側角膜切開(8時から9時の位置)が観察できる.b:眼内に挿入された多焦点IOLの回折リングが観察される.(127)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010841フトシェル法を用い,超音波乳化吸引術を行った.水晶体前.の亀裂はあるが,IOLの.内固定は問題ないので,切開創をRK切開線と交差しないよう注意しながら3.0mmに広げ,専用インジェクターでIOLを挿入した.術中,RK切開創の穿孔,離解はなく,角膜切開創の自己閉鎖が良好であったため,無縫合で手術を終了した.術後の屈折(等価球面度数)と遠方および近方視力の経時的変化を図1に示す.等価球面度数は術後3カ月まで遠視化傾向を認めたが,遠方裸眼視力は,術翌日から1年まで1.0以上で安定していた.近方裸眼視力は0.3から0.5で,術後1週以外,遠方矯正により向上していた.経過観察期間中,自覚的な視力の日内変動は認めなかった.術後細隙灯顕微鏡写真を図2に示す.角膜に焦点を合わせた図2aで角膜切開がRK切開の間となる8時から9時に観察され,IOL面に焦点を合わせた図2bで瞳孔領に回折リングが観察される.角膜形状解析では,術前と同様に,RKによると思われる中央の平担化が認められるが,切開創部分の変化はなかった(図3).CSV-1000(VectorVision社)によるコントラスト感度測定を術6カ月後に行い,右眼は白内障手術を受けていない左眼に比べ全周波数領域で低下していたが,正常範囲内であった(図4).グレア,ハローの訴えはなく,夜間もタクシーの運転を行っており,日常生活に問題はなく,術後の満足度は高かった.II考按わが国においてRKの症例数が限られているため,RK後の白内障手術については1例報告のみである5,6).近年,多焦点IOLが普及し,眼鏡依存度が減ることが報告されるなか,RKを受けた症例が白内障手術を受ける際,もともと眼鏡やコンタクトレンズ装用を好まないで屈折矯正手術を受けた背景から,多焦点IOLを希望する確率が高いことが予想される.本症例も,近医で多焦点IOLの説明を受けたところ興味をもち,当院を紹介され,いくつか起こりうる問題点を理解したうえで,眼鏡依存度を減らす多焦点IOLを選択した.RK後の白内障手術においては,エキシマレーザーを用いた屈折矯正手術同様,正確なIOL度数決定がむずかしいことと,術後に起こりうる視機能の問題を十分に理解してIOLの種類を検討すべきである.まず,IOL度数決定についてであるが,RK後に加え8,9),近年,エキシマレーザーが急速に普及したため,PRK(レーザー屈折矯正角膜切除術)やLASIK後に関する報告が増えている10,11).どの屈折矯正手術後においても共通している問題点は,通常,角膜の前後面の曲率半径比が一定とされているが,近視矯正後は角膜前面のみ中央が平坦化して曲率が変化している12).このため,一般に使用されているオートケラトメータの値をそのまま使ってIOL度数計算すると,術後図3術後の角膜形状解析中央にRKによると思われる平坦化(色の濃い部分)が認められる.耳側切開位置での変化はほとんど認められない.:右眼(術眼):左眼:両眼図4術6カ月後のコントラスト感度右眼(術眼),左眼とも全周波数領域で年齢の正常範囲内であるが,右眼のコントラスト感度はやや低下していた.842あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(128)予想外の遠視になる危険性がある.特に,術後良好な遠方のみならず近方裸眼視力を期待して,欧米では自費手術,わが国では先進医療で多焦点IOL挿入を希望した患者にとって,術後屈折がずれると,遠方のみでなく近方視力も落ちるため,高額な医療費を支払ったのに結果が期待はずれのため不満の原因となる.屈折矯正手術後のIOL度数計算は,屈折矯正手術を受ける前の角膜屈折力,屈折矯正度数があらかじめわかっている場合と,これらの情報がない場合によって種々の方法が紹介され,術後成績もさまざまである.筆者らの施設では,以前より屈折矯正手術後の単焦点IOL挿入に対し,コンタクトレンズ法を用い,術後に良好な成績が得られていることから,多焦点IOL挿入に対しても,同様の方法を用いた.近年,角膜形状解析のリング3の値,あるいは3mm径の平均値も推奨されており,これらの方法も導入して角膜屈折力を確認しているが,本症例では,コンタクトレンズ法と角膜形状解析のリング3で近似した値が得られた.IOL度数計算に関して,筆者らの施設では,単焦点および多焦点IOLともSRK/T法で安定した結果が得られていることと,屈折矯正手術後眼は長眼軸例が多いためSRK/T法が推奨されている13)2つの理由からSRK/Tを用いた.現在,屈折矯正手術後眼の角膜屈折力測定の研究が進んでいるが,将来,さらに精度の高いIOL度数決定が可能になると思われる.つぎに術式であるが,RK後の白内障手術において,RK切開の深さにもよるが,創の離解に注意すべきである.筆者らの施設ではRK後の単焦点IOL挿入,この症例後にも多焦点IOL挿入例を経験しているが,1例のみRK切開創が超音波乳化吸引術中に離解し縫合を要した例を経験している.強角膜切開を選択する方法もあるが,術者が慣れている角膜切開を用いる場合,RK切開と白内障の切開が交差しないよう注意すべきである.本症例では,2本のRKの間,すなわち8時から9時の位置で2mm切開を行い,IOL挿入時に3mmに切開創を注意深く広げ,創に圧力をかけないようにIOL挿入を行い,術中合併症はなかった.IOL挿入に必要な切開創が今後さらに小さくなることで,この問題は少なくなることが予想される.またRK後における白内障手術例の眼内炎の報告があり14),屈折矯正手術後は角膜形状が変化しているため,角膜切開を用いる場合,創閉鎖に何らかの疑問があれば,縫合すべきである.本症例では,縫合の準備もしておいたが,IOL挿入後に粘弾性物質を吸引除去し,灌流液を前房内に注入し,切開創からの漏れがなく十分に閉鎖していることが確認できたため無縫合とした.IOL挿入に関して,多焦点IOLでは計算された度数がずれないよう,水晶体.内固定が基本である.本症例は水晶体がかなり膨隆していたため,前.染色と粘弾性物質を十分用いて前.切開を開始したが,最初の穿孔部位から周辺に向かって亀裂が入った.水晶体核が比較的軟らかく,超音波乳化吸引が容易であったため,亀裂がさらに広がることなく水晶体摘出が可能であった.このため,IOLは予定どおり.内固定し,術終了時のセンタリングは良好であった.近年,超音波乳化吸引装置および手術手技の進歩で白内障手術中の破.が非常に少なくなっているが,IOLが水晶体.内固定できない状況,センタリングが困難な状況では,予定したIOLの挿入を断念し単焦点IOLに変更,あるいは日を改めて毛様溝用IOL挿入を検討すべきと思われる.術後視力について,裸眼視力は術翌日から1年後まで遠方は1.0以上,近方は術1週後を除き0.4以上と,眼鏡に依存しない視力として良好な結果で,自覚的にも,タクシーの運転手ということで領収書を見たり,日常生活の読書では問題なく,満足度が高かった.しかし,矯正に用いた等価球面度数は,術1週から6カ月まで遠視化傾向がみられ,遠方矯正下で近方視力がほぼ2段階向上していることから,今後,症例を増やし,長期の経時的変化を確認したうえで,この変化をIOL度数決定に反映すべきか検討することが望まれる.コントラスト感度は,両眼にRKを受けているが,低周波数から高周波数領域まで年齢の正常範囲内で良好な結果であった.しかし,自覚的に差はないものの,測定値では回折型IOL挿入眼のほうがやや低下していたことから,今後,RKに限らず,屈折矯正手術を受けた症例では,起こりうる可能性として十分に説明しておく必要があると思われる.グレア,ハローは,RKやPRK後15),さらに多焦点IOLそのものもグレア,ハローの原因となりうるため,本症例のように職業がタクシー運転手では,夜間運転時の対向車のライトが心配された.RKは光学径3mm,輪部近くまで12本切開されているが,RK後に夜間グレア,ハローは自覚していず,多焦点IOL挿入後に出現する可能性は説明したが,術後も同様に自覚していない.回折型は屈折型に比べグレア,ハローの出現は少ないが,RK後にグレアやハローを自覚している症例では増悪する可能性があることを考慮して,適応判断は慎重にすべきと思われる.角膜内皮細胞に関して,RK後の白内障手術で著明に減少した例があり5),本症例では,角膜内皮細胞への影響をできるだけ少なくするようソフトシェル法を用い注意深く行った.術後1年で減少傾向はなかったが,今後さらに経過観察を続ける予定である.RK後の単焦点IOL挿入ないしは屈折矯正手術後の多焦点IOL挿入の報告はあるが,RK後に多焦点IOLを挿入し,1年間経過観察された報告は,筆者らが調べた範囲ではなかった.わが国においてRKが積極的に施行されていなかったため,RK後の白内障例は少なく,かつ,多焦点IOL挿入となると,かなり症例が限定される.今回の症例は,術前に十分な説明を行い,術後の見え方への満足度は非常に高いが,術(129)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010843後屈折に遠視化が認められ,コントラスト感度が多焦点IOL挿入眼で低下していることから,今後,症例を増やし,長期の経過観察が必要と思われた.文献1)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:シングルピースアクリソフapodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,20072)HayashiK,ManabeS,HayashiH:Visualacuityfromfartonearandcontrastsensitivityineyeswithadiffractivemultifocalintraocularlenswithalowadditionpower.JCataractRefractSurg35:2070-2076,20093)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH,OokiSetal:Two-yearfollow-upafterimplantationofdiffractiveasphericsiliconemultifocalintraocularlenses.ActaOphtalmologica,2010,AprilE-pub4)JoseFA,DavidMC,AranchaPL:Visualqualityafterdiffractiveintraocularlensimplantationineyesmyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg34:1848-1854,20085)塙本宰,川上勉,林大助:放射状角膜切開後の白内障手術の1例.眼科手術13:451-455,20076)須藤史子,赤羽信雄:放射状角膜切開後の超音波白内障手術の1例.IOL&RS12:160-164,19987)HofferKJ:Intraocularlenspowercalculationforeyesafterrefractivekeratotomy.JRefractSurg11:490-493,19958)ChenL,MannisMJ,SalzJJetal:Analysisfointraocularlenspowercalculationinpost-radialkeratotomyeyes.JCataractRefractSurg29:65-70,20039)AwwadST,DwarakanathanS,BowmanRWetal:Intraocularlenspowercalculationafterradialkeratotomy:Estimatingtherefractivecornealpower.JCataractRefractSurg33:1045-1050,200710)FeizV,MoshirfaM,MannisMJetal:Nomogram-basedintraocularlenspoweradjustmentaftermyopicphotorefractivekeratectomyandLASIK.Anewapproach.Ophthalmology112:1381-1387,200511)MackoolRJ,KoW,MackoolR:Intraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusis:theaphakicrefractiontechnique.JCataractRefractSurg32:435-437,200612)飯田嘉彦:屈折矯正手術後の白内障手術.IOL&RS22:39-44,200813)HofferKJ:IOLcalculationafterpriorrefractivesurgery.MasteringrefractiveIOLs(ChangDF),546-553,SLACK,Thorofare,NJ,200814)長野悦子,忍足和浩,平形明人:放射状角膜切開術施行眼に生じた白内障手術後眼内炎の1症例.眼臨101:902-904,200015)ChaithAA,DanielJ,StultingDetal:Contrastsensitivityandglaredisabilityafterradialkeratotomyandphotorefractivekeratectomy.ArchOphthalmol116:12-18,1998***