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タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)

緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey 視野計の視野指標との相関

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1127.1130,2012c緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey視野計の視野指標との相関加藤紗矢香*1浅川賢*2庄司信行*1,2森田哲也*1永野幸一*1山口純*1清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CorrelationbetweenOpticDiscParametersObtainedUsingStereoFundusImagingandVisualFieldIndexofHumphreyFieldAnalyzerinGlaucomatousEyesSayakaKato1),KenAsakawa2),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita1),KouichiNagano1),JunYamaguchi1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityNonmydWX(Kowa社製)を用いた立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータ(discパラメータ)とHumphrey視野計による視野指標との相関を検討した.対象は緑内障患者58例58眼(平均年齢61歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.NonmydWXにて眼底写真撮影後,discの外縁と陥凹(cup)の範囲を立体視下で決定し,discパラメータを得た.また,HumphreyFieldAnalyzerにて得られた視野障害の程度を,Hodapp-Anderson-Parrish分類を用いて早期,中期,後期に分類し,病期別にdiscパラメータとmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関を求めた.結果,PSD値はすべてのパラメータで相関がみられなかったが,MD値およびTD値は中期および後期においてdiscパラメータと相関し,特に垂直C/D(cup/disc)比,rimarea,areaR/D(rim/disc)比,上下rim幅が視野障害を反映していた.NonmydWXは,視神経乳頭の記録だけでなく形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.Weevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersobtainedusinganewlydevelopedfundusstereoscopiccamera(NonmydWX;KowaOptimed,Inc.)andthevisualfieldindexoftheHumphreyFieldAnalyzer.Thisstudyexamined58glaucomatouseyes(58glaucomapatients;meanage:61years),comprising30eyeswithprimaryopenangleglaucomaand28eyeswithnormaltensionglaucoma.Afterphotographing,theexaminer,usingpolarizedfilters,stereoscopicallyobservedtheopticdiscoutlinedisplayedonamonitor;thediscdiagnosticparameterswerethenobtained.Weclassifiedtheglaucomainto3stages(early,moderate,andsevere),usingtheHodapp-Anderson-Parrishscale,andevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersandmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD)andtotaldeviation(TD),respectively.MDandTDshowedhighormoderatecorrelationinmoderateandsevereglaucomatousstages,whilePSDshowednocorrelationinanystage.Particularlygoodcorrelationwasseenonlywithverticalcup-to-discratio,rimarea,arearim-to-discratio,upperrimwidthandlowerrimwidth.OurresultsindicatethatNonmydWXisusefulnotonlyfordiscrecords,butalsofordiscquantitativeanalysisinglaucomaclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1127.1130,2012〕Keywords:立体眼底写真,視神経乳頭,パラメータ,緑内障.stereofundusimaging,opticdisc,parameter,glaucoma.〔別刷請求先〕加藤紗矢香:〒252-0329相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SayakaKato,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0329,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)1127 はじめに緑内障の構造変化と機能変化の関係は,網膜神経節細胞が30.50%障害されないと視野異常を生じず,視神経の変化は視野異常よりも先行する1).したがって,現在の視野検査という機能障害評価法のみでは,緑内障の検出が遅れるという問題点がある.すなわち,緑内障の診断や経過観察には,視神経乳頭(以下,disc)や神経線維層の変化が重要であり,その詳細な観察や形状を記録することが重要である.近年では光干渉断層計(OCT)や共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRT)などの画像解析装置の進歩とともに視神経乳頭形状解析の自動化が進んでおり,解析ソフトも多数開発されている2,3).しかし,測定機器の再現性や検者間での測定誤差,緑内障検出力など,画像解析装置による解析より,緑内障専門医による眼底写真の読影のほうが有用であるといわれている4).緑内障診療における視神経乳頭形状変化の観察で最も重要となるものにcupの拡大や辺縁部(以下,rim)幅の減少があるが,これらは眼底が立体的であることから,より正確な形状の観察には平面画像ではなく立体画像を使用する必要がある.わが国における緑内障診療ガイドラインにおいても眼底写真による乳頭形状の観察は立体眼底写真の使用を推奨されている5).その一方で立体画像は定性的な解析は可能でも,定量的な解析は困難であり,主観的な解釈が中心になるという欠点があった.これに対し,近年開発された新しい立体眼底カメラであるNonmydWX(Kowa社製,名古屋)は,無散瞳にて同一光学系による2方向の光路から左右視差画像の同時撮影が可能であり,乳頭形状パラメータが定量的に解析可能である.今回,NonmydWXを用いた立体眼底写真によるdiscの解析パラメータとHumphrey視野計(HFA)のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関から解析パラメータの有用性を検討した.I対象および方法北里大学病院緑内障専門外来を受診した緑内障患者58例58眼(男性29眼,女性29眼)を対象とした.年齢は33.表2症例の背景早期中期後期症例数10例10眼12例12眼36例36眼年齢(歳)等価球面値(D)MD(dB)PSD(dB)上半視野TD値66±14.0.88±2.94.1.17±0.584.61±2.78.2.33±1.2659±10.3.29±3.97.3.20±0.897.28±3.07.3.28±2.2861±15.2.82±3.12.15.62±7.3312.42±3.05.16.16±8.54下半視野TD値.2.78±1.97.4.76±2.69.14.26±9.26MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,TD:totaldeviation.80歳(61±14歳)であり,病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.HFA30-2SITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)standardprogramにて得られた視野障害の程度を,HodappAnderson-Parrish分類(表1)を用いて早期,中期,後期に分類した(表2)..6Dを超える強度近視,固視不良20%以上,偽陽性15%以上,偽陰性33%以上の症例は対象に含めなかった.研究の主旨に関して十分な説明を行い,承諾を得た後に以下の測定を行った.眼底写真の撮影にはNonmydWXを用いた.NonmydWXは,1ショットで視神経乳頭の同時立体撮影ができ,偏光眼鏡を用いることで立体眼底観察が可能な眼底カメラである.また,視差が一定で眼底の形状変化を経時的に把握でき,長期にわたる経過観察に有用である.眼底写真撮影後,得られた両眼視差の付いた左右眼2枚の画像を1枚に重ね合わせ,付属の偏光眼鏡装用下にて解析を行った.まず画面に表示されたdiscの外縁をコンピュータのマウスでプロットし,その後,血管の屈曲を基準としてcupの外縁をプロットした.この操作により,discとcupの範囲が決定され,これをもとに視神経乳頭解析パラメータ(以下,discパラメータ)が算出される.これらのプロットは1人の検者(SK)が行った.なお,本機器の再現性や検者間の一致性に関してはあらかじめ確認している6).得られたdiscパラメータとMD値,PSD値との相関を早期,中期,表1Hodapp.Anderson.Parrish分類(C-30-2の場合)早期*中期後期**MD.6dB以上.12dB未満PD確率プロット中心5°以内の感度<5%18点未満かつ<1%10点未満・<15dBがない早期の基準を1つ以上越え,後期の基準を満たさない<5%38点以上または<1%20点以上・0dBが1点以上・<15dBが上下にあるMD:meandeviation,PD:patterndeviation.*早期は3つすべての基準を満たしたものを定義する.**後期は1つ以上基準を満たしたものを定義する.1128あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(102) 後期の病期別に求めた.TD値は上半視野,下半視野に分けて,部位別に比較が可能なため,discパラメータの中の上下rim幅の値との相関を,それぞれ検討した.相関はPearson積率相関係数にて解析し,有意水準は5%未満とした.II結果HFAのMD値とdiscパラメータは,早期ではいずれも有意な相関がみられなかった.中期では垂直C/D(cup/disc)表3MD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.020.95.0.680.01.0.500.01上側rim幅0.300.400.620.030.430.01下側rim幅.0.260.470.640.030.430.01Cuparea.0.070.84.0.060.860.030.87Discarea.0.220.550.410.190.190.27Rimarea.0.290.410.620.030.350.04AreaC/D比0.370.29.0.610.04.0.310.06AreaR/D比.0.370.290.620.030.310.06Cupvolume0.080.83.0.270.400.160.36Discvolume.0.010.97.0.020.940.320.06Rimvolume.0.250.49.0.050.870.300.08CupdepthAve0.140.70.0.300.350.060.74Cupdepthmax.0.020.96.0.280.38.0.040.81Discdepth.0.360.31.0.270.40.0.150.40表4PSD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.330.350.340.280.100.57上側rim幅.0.520.12.0.230.46.0.050.77下側rim幅0.100.78.0.330.29.0.190.27Cuparea.0.130.720.310.32.0.040.80Discarea0.080.840.010.96.0.120.47Rimarea0.210.56.0.220.48.0.180.28AreaC/D比.0.490.150.340.290.050.76AreaR/D比0.490.15.0.340.27.0.050.76Cupvolume0.120.740.210.500.020.93Discvolume0.280.43.0.030.930.090.61Rimvolume0.340.330.060.850.050.77Cupdepthave0.070.840.150.640.070.67Cupdepthmax0.350.320.120.700.120.49Discdepth0.200.580.080.800.000.98表5上下rim幅とTD値との相関早期中期後期rp値rp値rp値下側rim幅-上半視野上側rim幅-下半視野0.460.060.190.860.670.490.020.130.550.410.0010.01(103)比(r=.0.68,p=0.01),上側rim幅(r=0.62,p=0.03),下側rim幅(r=0.64,p=0.03)rimarea(r=0.62,p=0.03),areaC/D比(r=.0.61,p=0.04(,)),areaR/D(rim/disc)比(r=0.62,p=0.03)との間に有意な相関があり,後期では垂直C/D比(r=.0.50,p=0.01),上側rim幅(r=0.43,p=0.01),下側rim幅(r=0.43,p=0.01),rimarea(r=0.35,p=0.04)にて有意な相関がみられた(表3).PSD値ではいずれの病期別でもすべてのdiscパラメータにおいて相関はみられなかった(表4).上下rim幅と上下半視野のTD値との相関では,中期の下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.67,p=0.02),後期は上側rim幅と下半視野のTD値(r=0.41,p=0.01),下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.55,p=0.001)に有意な相関が得られた(表5).III考按本研究ではNonmydWXのdiscパラメータとHFAのMD値,PSD値,TD値との相関を早期,中期,後期の病期別に求めることで,discパラメータの有用性を検討した.その結果,得られたdiscパラメータは早期では相関せず,中期,後期において相関した.本機器における検者内の再現性については,volumeのパラメータが他と比べてやや低いとされている.検者間の一致性については,検者が正確なdiscとcupの定義を把握していることが前提であるが,cupが浅い症例や早期の症例などでは経験に依存するとされている6).しかし,本研究の結果は,得られたdiscパラメータの再現性の問題よりは緑内障の病態によるものと考えられる.すなわち,緑内障はHFAにて視野異常が検出された場合,約40%の神経線維が消失されており,早期は視野変化よりも構造変化が先行する1,7)といわれており,今回の結果でも乳頭形状と視野異常の程度とは必ずしも対応していなかったと考えられる.一方,中期,後期においてはdiscパラメータと視野は相関した.現在使用されている眼底画像解析装置として,HRTやOCTなどがあげられ,それぞれのパラメータとHFAのMD値との相関を検討した報告をみると,Saitoら8)によればHRTIIのrimareaとR/D比において,Danesh-Meyerらの報告9)ではrimarea,rimvolume,RNFL(retinalnervefiberlayer)cross-sectionalarea,垂直C/D比,meanRNFLthickness,areaC/D比,areaR/D比において,さらに,柳川らの報告10)ではcuparea,rimarea,cupvolume,rimvolume,areaC/D比,linearC/D比,meancupdepth,cupshapemeasure,meanRNFLthickness,RNFLcrosssectionalareaにおいて相関がみられていた.OCTはKangら11)がdeviationscoreと有意な相関を示していたと報告している.本機器に類似した立体眼底カメラではrimarea,R/D比,垂直C/D比にて有意な相関を示したと報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121129 いる8).これらの既報を踏まえると,垂直C/D比,rimarea,areaR/D比が本結果と一致しており,NonmydWXによる立体画像解析では,これらのdiscパラメータが視野障害を反映していると考えられる.さらに,本機器では従来機器にはない上側rim幅と下側rim幅のパラメータが備わっており,上下rim幅を部位別に評価するため,上半視野,下半視野に分けたTD値と上下rim幅の値との相関をそれぞれ検討すると,中期の下側rim幅と上半視野のTD値,後期は上下ともに有意な相関が得られた.中期において上半視野のみ相関がみられたのは,網膜神経線維層厚は下方が薄い12)という形態的な差異があるためではないかと考えられる.そのため本装置で採用された上下rim幅は視野障害を反映するパラメータになりうる可能性が考えられる.一方で上記HRTの報告8.10)と比較すると,NonmydWXでは相関したdiscパラメータが少なかったが,これは両機器の撮影原理の違いとともに,cupの定義が異なることも一つの要因と考えられた.すなわち,立体眼底カメラではdiscとcupを検者が偏光眼鏡装用下で三次元的に決定するが,HRTではdiscのcontourlineを決定すると,そのcontourlineの平均値から50μm下方に基準面が自動的に作成され,その基準面の下方がcupとして決定される.検者がcupも決めるNonmydWXのほうが,従来の緑内障診療におけるcupの解釈(すなわち血管の屈曲に基づく判断)に近く,緑内障診断能力が画像解析装置より緑内障専門医による眼底写真の読影が有用である4)ことを踏まえると,立体眼底カメラであるNonmydWXは緑内障診療において有用な診断補助装置であると考えられる.さらに本研究において筆者らは,NonmydWXを用いてdiscパラメータと視野指標との相関を検討した.中期および後期においてdiscと視野のパラメータが相関し,特に垂直C/D比,rimarea,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映していた.Tsutsumiら13)によると40歳以上の非緑内障群に対して大規模スタディを行った結果,垂直C/D比とR/D比によって緑内障性視野異常の早期変化を捉えられる可能性があると報告している.緑内障ガイドラインによれば,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,discの上側,下側あるいは両側でrimの進行性の菲薄化が生じ,視野障害をきたすとされている.このことからも本検討では垂直C/D比,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映しており,これらは早期の構造変化を反映するパラメータになりうると考えられる.したがってNonmydWXは,視神経乳頭の記録のみならず形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.1130あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HarwerthRS,Carter-DawsonL,ShenFetal:Ganglioncelllossesunderlyingvisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2242-2250,19992)KimHG,HeoH,ParkSW:Comparisonofscanninglaserpolarimetryandopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.OptomVisSci88:124-129,20113)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeffectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergretinatomograph.Ophthalmology104:545-548,19974)VessaniRM,MoritzR,BatisLetal:Comparisonofquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessmentbygeneralophthalmologiststodifferentiatenormalfromglaucomatouseyes.JGlaucoma18:253261,20095)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20126)AsakawaK,KatoS,ShojiNetal:Evaluationofopticnerveheadusinganewlydevelopedstereoretinalimagingtechniquebyglaucomaspecialistandnon-expertcertifiedorthoptist.JGlaucoma,inpress7)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453464,19898)SaitoH,TsutsumiT,IwaseAetal:CorrelationofdiscmorphologyquantifiedonstereophotographstoresultsbyHeidelbergRetinaTomographII,GDxvariablecornealcompensation,andvisualfieldtests.Ophthalmology117:282-289,20109)Danesh-MeyerHV,KuJY,PapchenkoTLetal:Regionalcorrelationofstructureandfunctioninglaucoma,usingtheDiscDamageLikelihoodScale,HeidelbergRetinaTomograph,andvisualfields.Ophthalmology113:603611,200610)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,200511)KangSY,SungKR,NaJHetal:ComparisonbetweendeviationmapalgorithmandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsusingcirrusHD-OCTinthedetectionoflocalizedglaucomatousvisualfielddefects.JGlaucoma21:372-378,201212)HarrisA,IshiiY,ChungHSetal:Bloodflowperunitretinalnervefibertissuevolumeislowerinthehumaninferiorretina.BrJOphthalmol87:184-188,200313)TsutsumiT,TomidokoroA,AraieMetal:Planimetricallydeterminedverticalcup/discandrimwidth/discdiameterratiosandrelatedfactors.InvestOphthalmolVisSci53:1332-1340,2012(104)

血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定

2011年3月31日 木曜日

448(14あ0)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(3):448.451,2011cはじめに眼内微小循環を評価することは,種々の眼疾患の病態を理解するうえで,きわめて重要であると考えられる.今日,最も一般的な眼内微小循環の評価法は,フルオレセインなどの造影剤を用いた色素希釈法であり,走査型レーザー検眼鏡との併用により,網膜動静脈の血流速度を定量的に測定することも可能である.しかしながら,色素希釈法では,視神経乳頭(乳頭)や網脈絡膜における定量的な微小循環の評価や短〔別刷請求先〕坪井明里:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:AkariTsuboi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,1-757Asahimachi-dori,Niigata951-8510,JAPAN血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定坪井明里*1白柏基宏*1八百枝潔*2,1阿部春樹*1*1新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野*2眼科八百枝医院OpticNerveHeadMicrocirculationasMesuredbyLaserSpeckleFlowgraphywithVascularExtractFunctionAkariTsuboi1),MotohiroShirakashi1),KiyoshiYaoeda2,1)andHarukiAbe1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,2)YaoedaEyeClinic目的:健常眼を対象として,血管描出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)による視神経乳頭(乳頭)微小循環測定について検討した.対象および方法:20例20眼を対象とした.散瞳下でLSFGを3回連続して行い,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)で乳頭血流マップを作成した.乳頭の上下耳鼻側におけるmeanblurrate(MBR)の測定を,検者が大血管のない部位を主観的に選択して行う旧手法と血管描出機能を用いて大血管のない部位を自動的に決定して行う新手法の両者で行った.旧手法と新手法により測定したMBRおよびMBRの変動係数を比較検討した.結果:乳頭の上側と鼻側において,新手法により測定したMBRは,旧手法により測定したMBRに比して高値であった(各々p<0.001).MBR測定の変動係数は,旧手法6.4.8.2%,新手法3.8.4.9%で,すべての測定部位において,後者が前者に比して有意に低値であった(p=0.015.0.044).結論:LSFGの乳頭微小循環測定の再現性は,新手法のほうが旧手法に比し良好であった.Purpose:Weevaluatedopticnervehead(ONH)microcirculationinnormalsubjects,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG)withvascularextractfunction.SubjectsandMethods:Westudied20eyesof20subjects,performingLSFGontheONH3timesconsecutively,andacquiredtheirperfusionmaps.Wemeasuredmeanblurrate(MBR)atsuperior,inferior,temporalandnasalregionsoftheONHusingboththeconventionalmethod,inwhichmeasurementregionswithoutmajorvesselsweresubjectivelydetermined,andthenewmethod,inwhichmeasurementregionswithoutmajorvesselswereautomaticallydeterminedbyvascularextractfunction.Results:MBRasmeasuredbythenewmethodwashigheratthesuperiorandnasalregionsthanasmeasuredbytheconventionalmethod.MBRmeasurementscoefficientsofvariationsweresmallerwiththenewmethodthanwiththeconventionalmethodatallregions.Conclusion:ThereproducibilityofONHmicrocirculationmeasurementwithLSFGusingthenewmethodwasbetterthanthatusingtheconventionalmethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):448.451,2011〕Keywords:健常者,眼内循環,視神経乳頭,レーザースペックルフローグラフィー,再現性.normalsubjects,intraocularbloodflow,opticnervehead,laserspeckleflowgraphy,reproducibility.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011449時間の反復的測定は不可能であり,また,造影剤による全身的な副作用の合併も否定できない.レーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)は,レーザースペックル法を応用した眼血流測定装置であり,乳頭や網脈絡膜における微小循環を非侵襲的,半定量的に評価することが可能である1~7).新しいLSFGであるLSFG-NAVITMでは,血管抽出解析機能が搭載され,大血管を除外した組織血流を評価することが可能となった.今回,筆者らは,健常眼を対象として,血管抽出解析機能を用いたLSFGによる乳頭微小循環の測定値および測定再現性の相違について検討した.I対象および方法対象は健常20例20眼〔男/女=13/7眼,年齢(平均±標準偏差,範囲):33.6±8.0歳,24~49歳〕である.全例で高血圧,糖尿病,心疾患などの血管病変がなく,矯正視力≧0.7,屈折≦±5D,眼圧≦21mmHgであり,軽度屈折異常以外明らかな眼疾患を認めなかった.LSFGによる乳頭微小循環測定の原理,方法は既報のごとくである1.7).本研究に際し,新潟大学医歯学総合病院医薬品・医療機器臨床研究審査委員会の承認を受け,被験者から事前に文書による同意を得たうえで研究を実施した.任意に選択した片眼を0.4%トロピカミド点眼液(ミドリンRM点眼液0.4%,参天製薬,大阪,日本)を用いて散瞳させ,LSFG-NAVITM(ソフトケア,飯塚,日本)による測定を3回連続して行い,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)を用いて3枚の乳頭の血流マップを作成した.乳頭微小循環の評価のため,作成された血流マップ(図1)から,乳頭上下耳鼻側における血流パラメータmeanblurrate(MBR)を算出した.乳頭上下耳鼻側におけるMBRの算出につき,検者が矩形指定領域(ラバーバンド)を用いて大血管のない部位を主観的に選択して行う旧手法(図1a)と,楕円ラバーバンドを用いて乳頭領域を決定した後,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)に備わっている血管抽出解析機能を用い,乳頭内の大血管のMBRを自動的に除外して行う新手法(図1b,2)を用いて行った.血管抽出解析は,楕円ラバーバンド内の大血管における血ab図1LSFGAnalyzerを用いて作成した血流マップa:矩形ラバーバンド,b:楕円ラバーバンド.ab図2LSFGAnalyzerによる血管抽出解析図1と同一乳頭における血管抽出解析の結果を示す.視神経乳頭上の大血管に該当する白い部位を除外して(a),乳頭上側,乳頭鼻側,乳頭耳側,乳頭下側におけるmeanblurrateを算出した(b).血管抽出レベルの決定はaの右下に示すバーを用いて行った.450あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(142)流と,大血管を除外した組織血流を分離して解析する方法である.乳頭における血流解析においては,楕円ラバーバンドを乳頭縁に乳頭上下耳鼻側に合わせて指定し,任意の血管抽出レベルを用いて大血管を抽出する(図2).血管抽出レベルを最高にする場合には組織血流は算出されず,また,同レベルは段階的ではなく連続的に決定されるので,最低にしない限りは主観的要素が含まれる.楕円ラバーバンド内の分割領域としては,上下耳鼻側の4分割のほか,6,8,12分割による解析が可能である.旧手法において,乳頭上下耳鼻側の矩形ラバーバンド作製は,ラバーバンドデータを保存せず,測定領域ごとにその都度指定して行った.3枚の血流マップ間についても,ラバーバンドデータを保存せず,測定領域ごとにその都度指定して行った.新手法についても旧手法と同様に,楕円ラバーバンドは血流マップごとに指定した.乳頭縁の決定は検査1年以内に取得した眼底写真を基に行った.血管抽出のレベルについて,検者の主観的要素を除外するため,抽出レベルは常に最低として大血管のMBRを除外した.楕円ラバーバンド内の分割領域としては,乳頭上下耳鼻側の4分割を選択した.旧手法および新手法につき,乳頭内の各測定部位におけるMBRの3回連続測定の平均,標準偏差,変動係数を算出した.MBR測定の再現性は変動係数および級内相関係数により評価した.2群間の値の比較はWilcoxonの符号付順位検定により行い,相関はSpearman相関係数により評価した.危険率5%未満を統計学的有意とした.II結果旧手法および新手法によるMBRの3回連続測定の平均値の平均,標準偏差および範囲につき表1に示す.乳頭の上側と鼻側において,新手法で測定したMBRは,旧手法で測定したMBRに比し,有意に高値であった.各測定部位において,旧手法と新手法によるMBRに有意な相関があった(Rs=0.553~0.842,p≦0.011).旧手法および新手法によるMBRの3回連続測定の変動係数につき表2に示す.各測定部位において,新手法における変動係数(3.8~4.9%)は,旧手法における変動係数(6.4~8.2%)に比し,有意に低値であった(p≦0.015).3回連続測定の級内相関係数は,旧手法(0.744~0.960),新手法(0.902~0.958)とも高値であった(表3).III考按今回のLSFGを用いた乳頭微小循環測定においては,旧手法と新手法による測定値の間に有意な相関があったが,乳頭の上側と鼻側において,新手法により測定したMBRが旧手法により測定したMBRに比して有意に高値であった.旧手法と新手法では,測定部位は重なるものの,測定領域が異なるため,MBRにある程度の相違があることは予想されたが,測定部位により新手法によるMBRが旧手法によるMBRよりも高値であった.これは,旧手法では主観的に微小血管を避けて矩形ラバーバンドを指定するため,結果としてMBRが低値になりやすいこと,新手法では大血管周囲のMBRが高い領域を測定領域に含みやすいことに加え,今回の検討において,血管抽出解析における抽出レベルを一定にするために,レベルを最低にしてMBRを算出したことなどが原因となっているものと考えた.今後,高い測定再現性を保たせながら,大血管の影響を除外した乳頭微小循環測定を行うために,どのレベルで血管を抽出するべきかを十分に検討する必要があると考えられる.従来より,乳頭微小循環は種々の眼血流測定装置を用いて検討されてきたが,乳頭微小血管の複雑な構造と,測定時のフォーカシングのむずかしさなどから,高い測定再現性を得ることが困難であった8).乳頭微小循環連続測定の変動係数表3旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の級内相関係数旧手法*新手法*乳頭上側0.907(0.817~0.959)0.958(0.914~0.982)乳頭下側0.878(0.763~0.945)0.958(0.915~0.982)乳頭耳側0.960(0.919~0.983)0.953(0.905~0.980)乳頭鼻側0.744(0.808~0.957)0.902(0.808~0.957)n=20.*括弧内は95%信頼区間.表1旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の平均値旧手法*新手法*p**Rs***p***乳頭上側11.3±3.2(6.4~16.0)13.2±3.2(8.6~20.0)<0.0010.804<0.001乳頭下側11.1±2.7(6.5~15.3)11.4±3.2(4.8~17.1)0.6540.5530.011乳頭耳側8.3±3.1(4.4~14.8)8.9±2.7(4.8~15.5)0.1450.842<0.001乳頭鼻側12.1±2.2(7.9~16.4)14.3±2.0(11.5~19.0)<0.0010.823<0.001*AU,平均±標準偏差(範囲),n=20.**Wilcoxonの符号付順位検定のp値.***Spearman相関係数とp値.表2旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の変動係数の平均値旧手法新手法p*乳頭上側7.7%4.4%0.015乳頭下側7.7%6.4%0.025乳頭耳側6.4%4.9%0.044乳頭鼻側8.2%3.8%0.025n=20.*Wilcoxonの符号付順位検定のp値.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011451について,laserDopplerflowmeterを用いた検討でJoosら9)は18~24%,Grunwaldら10)は18~21%,scanninglaserDopplerflowmeterを用いた検討でYaoedaら3)は18~20%,心拍や異成分の影響を除外した測定アルゴリズムであるfull-fieldperfusionanalysisを用いた検討でHafezら8)は11~18%と報告している.一方,LSFGによる乳頭微小循環連続測定の変動係数について,従来機による旧手法を用いた過去の報告では,新家5)は7.5%,Yaoedaら3)は9.7%,前田ら6)は9.5%と変動係数が10%を下回るものが多く,LSFGは他の眼血流測定装置に比し,良好な測定再現性を有すると考えられる.今回の検討においても,LSFG-NAVITMを用いた乳頭微小循環測定の再現性は,旧手法で6.4~8.2%,新手法で3.8~4.9%と良好な結果が得られた.また,連続測定の級内相関係数は,旧手法,新手法とも高値であった.LSFGと他の眼血流測定装置における測定再現性の相違については,測定時間や測定深度の相違などが原因であると考えられている3).今回の検討では,乳頭の上下耳鼻側の各測定領域において,新手法による測定の変動係数は,旧手法によるもの(6.4~8.2%)に比し,有意に低値であった.この原因としては,旧手法に比し,新手法では測定領域が広いこと,血管抽出解析における抽出レベルを一定にすることが可能であることのほか,旧手法では,各測定において一定の測定部位にラバーバンドを指定するためには,周囲の血管の位置関係を眼底写真や血流マップで確認したり,ラバーバンドの大きさを半透明紙で記録したりするなど,主観的要素や二次的な作業が必要である一方,新手法では自動的に乳頭を4,6,8,12分割にして測定部位を指定することが可能であることなどが考えられた.しかしながら,今回の検討では,従来のLSFGを用いた測定再現性の検討と比較するために矩形ラバーバンドを保存せずにMBRを算出したが,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)では,ラバーバンドデータを保存してMBRを算出することが可能であり,後者の方法を用いることにより,測定再現性を向上させることは可能と考えられる.また,新手法では血管抽出解析を用いても大血管を除外できない例がある一方,旧手法では視覚的に大血管を避けてラバーバンドを指定することが可能であり,新手法のほうが旧手法に比し乳頭微小循環測定に適しているとは結論づけ難い.前述したとおり,新手法における血管抽出レベルの決定については最低にしない限り検者の主観的要素が含まれるため,段階的なレベル設定の新設の必要があるものと考えられた.また,楕円ラバーバンドは楕円近似で定義されているため,種々の乳頭縁を忠実に決定するためにはスプライン曲線を用いるなどの改善点があるものと考えられた.LSFG-NAVITMを用いた乳頭微小循環測定は,新手法では高い測定再現性があり,種々の眼疾患の評価に有用と考えられるが,血管抽出機能の抽出レベルの設定方法についてさらなる検討が必要である.文献1)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19962)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasurementofopticnerveheadandchoroidcirculation,usingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmol41:49-54,19973)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:MeasurementofmicrocirculationintheopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyandscanninglaserDopplerflowmetry.AmJOphthalmol129:734-739,20004)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:Measurementofmicrocirculationinopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyinnormalvolunteers.AmJOphthalmol130:606-610,20005)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼研究への応用─.日眼会誌103:871-909,19996)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:CCDカメラを用いた新しいレーザースペックルフローグラフィーによる健常人における視神経乳頭および網脈絡膜組織血流測定.眼科48:129-133,20067)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgraphyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科26:269-275,20098)HafezAS,BizzarroRL,RivardMetal:ReproducibilityofretinalandopticnerveheadperfusionmeasurementsusingscanninglaserDopplerflowmetry.OphthalmicSurgLasersImaging34:422-432,20039)JoosKM,PillunatLE,KnightonRWetal:ReproducibilityoflaserDopplerflowmetryinthehumanopticnervehead.JGlaucoma6:212-216,199710)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnervebloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.AmJOphthalmol127:516-522,1999***