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併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用

2011年6月30日 木曜日

868(11あ6)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):868.873,2011cはじめに日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン1)によると,「現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである」とされており,したがって強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)関連薬あるいはb遮断薬が第一選択薬として使用されている.一方,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)阻害薬であるドルゾラミドは,眼圧下降効果および点眼回数などの点でやや劣ることから,これらに併用する形で使用されることがほとんどである.近年,ドルゾラミド点眼薬に眼循環改善作用があるとする報告が散見され2.4),緑内障神経保護治療の面で注目されている.2003年Arendら2)は原発開放隅角緑内障患者14例にドルゾラミド,0.5%マレイン酸チモロールあるいはラタ〔別刷請求先〕大黒幾代:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IkuyoOhguro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用大黒幾代片井麻貴田中祥恵鶴田みどり大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Dorzolamide1%AddedtoLatanoprostorTimololMaleate0.5%:EffectonOpticNerveHeadBloodFlowinGlaucomaIkuyoOhguro,MakiKatai,SachieTanaka,MidoriTsurutaandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールにドルゾラミドを併用した際の視神経乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.対象および方法:ラタノプロスト単剤(LP群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(TM群)で治療中の緑内障患者15症例に1%ドルゾラミドを追加投与し,2カ月後の眼圧,眼灌流圧および視神経乳頭血流量を測定した.結果:ドルゾラミド追加により両群で乳頭血流量に増加傾向がみられた.特にLP群では乳頭陥凹部のmeanblurrate(MBR)値が7.45±2.51から10.09±4.02,TM群では上耳側リムのMBR値が4.49±2.59から6.04±3.20とそれぞれ有意に増加した(p<0.05).一方,眼圧は群間での差はなく両群ともに有意に下降していた.結論:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールへのドルゾラミドの併用は,眼圧下降だけでなく視神経乳頭血流量増加にも有効であると考えられる.Purpose:Toevaluatetheeffectofadditionalinstillationofdorzolamide1%onopticnerveheadbloodflowinglaucomapatientsreceivingeitherlatanoprostortimololmaleate.CasesandMethod:Thisprospectivestudyinvolved15eyesof15patients,theseriescomprising10patientstreatedwithlatanoprost(LPgroup)and5treatedwithtimololmaleate(TMgroup).Opticnerveheadcirculationwasmeasuredusinglaser-speckleflowgraphy,beforeandat2monthsafterdorzolamideinstillation.Results:Laser-speckleflowgraphydisclosedsignificantbloodflowincreasesinthecuppingofLPgroupandinthesuperotemporalsegmentoftherimareaofTMgroup(p<0.05).Intraocularpressuredecreasedsignificantlyafter2monthsofinstillationinbothgroups.Conclusion:Theseresultssuggestthattheinstillationofdorzolamideadditionaltoeitherlatanoprostortimololmaleateisaneffectivetreatmentforincreasingopticnerveheadbloodflow,aswellasfordecreasingintraocularpressure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):868.873,2011〕Keywords:1%ドルゾラミド,視神経乳頭血流,ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール.dorzolamide1%,opticnerveheadbloodflow,latanoprost,timololmaleate0.5%.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011869ノプロストのいずれか1剤を4週間点眼し,網膜動静脈循環時間の短縮およびコントラスト感度の上昇がドルゾラミド群でのみ認められたと報告している.また,2005年にはFuchsjager-Mayrlら4)が原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者140名にドルゾラミドあるいは0.5%マレイン酸チモロールのいずれか1剤を6カ月間点眼し,ドルゾラミド群ではチモロール群に比べて視神経乳頭耳側リムおよび陥凹部の血流が有意に増加したと報告しており,これらの事実はドルゾラミドがマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに比べて網膜および視神経乳頭の循環改善作用を有するとするものであろう.しかしながら,PG関連薬と併用した際のドルゾラミド点眼薬の乳頭血流に関する報告はなく,また併用薬の違いによりドルゾラミドの乳頭血流に及ぼす効果に差が生じるか否かは不明である.そこで,今回はPG関連薬あるいはb遮断薬にドルゾラミド点眼薬を併用し,その乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.I対象および方法対象は札幌医科大学眼科緑内障専門外来に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト単剤(ラタノプロスト群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(ただし持続性点眼液は除く)(チモロール群)にて3カ月以上治療中で,効果が不十分と判断されかつ当臨床試験の趣旨に賛同した緑内障患者15例(男性7例,女性8例,年齢45.78歳)である.ラタノプロスト群は10例,その内訳は男性6例,女性4例,年齢は54.78歳(平均±標準偏差;68.8±7.2歳),病型は正常眼圧緑内障6例,原発開放隅角緑内障4例である.緑内障病期はHumphrey静的視野プログラム30-2にてmeandeviation(MD)値が.19.14.1.06dB(平均±標準偏差;.5.54±6.82dB)と初期から中期のものが大部分で,MD≦.12dBのAndersonら5)の重度視野欠損例は1例であった(表1).チモロール群は5例,その内訳は男性1例,女性4例,年齢は45.70歳(平均±標準偏差;61.0±10.0歳),病型は正常眼圧緑内障2例,原発開放隅角緑内障2例,虹彩切開術後の慢性閉塞隅角緑内障1例である.緑内障病期は同プログラムにてMD値が.10.85.1.16dB(平均±標準偏差;.5.26±4.70dB)とすべて初期から中期であった(表1).対象患者に1%ドルゾラミド点眼液を追加投与し,追加前,追加1カ月および2カ月後に眼圧,全身血圧より眼灌流圧を算出し,追加前および追加2カ月後に視神経乳頭陥凹部および耳側リムにおける組織血流を測定した.実際には既報6)のごとく,0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した.リム乳頭径比が0.1未満で矩形領域が設定困難な場合はやや黄斑部に寄せて矩形領域を設定した.統計学的解析は15例15眼に施行し,有意水準p<0.05を有意とした.なお,測定はすべての症例で点眼2時間から5時間後の午前10時から11時の間に行った.表1ドルゾラミド追加投与前の両群患者背景ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定年齢(平均±標準偏差)68.8±7.260.1±10.0NS(p=0.0647)(Mann-WhitneyUtest)性別(男性/女性)6例/4例1例/4例病型正常眼圧緑内障6例2例NS(p=0.3734)原発開放隅角緑内障4例2例(c2検定)慢性閉塞隅角緑内障(LI後)1例病期MD(平均±標準偏差).5.54±6.82dB.5.26±4.70dBNS(p=0.4724)MD>.6dB6例2例(c2検定).6dB≧MD>.12dB3例3例.12dB≧MD1例眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)14.6±2.515.3±2.3NS(p=0.6192)(Mann-WhitneyUtest)眼灌流圧(mmHg)(平均±標準偏差)49.2±6.1*39.5±6.7*(p=0.0373)(Mann-WhitneyUtest)収縮期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)135.7±17.9120.9±20.3NS(p=0.1583)(Mann-WhitneyUtest)拡張期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)75.5±7.3*62.9±7.6*(p=0.0142)(Mann-WhitneyUtest)LI:レーザー虹彩切開術,MD:meandeviation.870あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(118)また,当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,患者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.ドルゾラミド追加投与前の両群の患者背景両群の年齢,病型および病期に差はなく,ドルゾラミド追加投与前のラタノプロスト群およびチモロール群の眼圧値はそれぞれ14.6±2.5mmHg,15.3±2.3mmHgで有意な差はなかった.しかし,拡張期血圧はラタノプロスト群で有意に高く(p<0.05),血圧と眼圧値から算出した眼灌流圧はチモロール群(39.5±6.7mmHg)に比べてラタノプロスト群(49.2±6.1mmHg)で有意に高かった(p<0.05)(表1).2.ドルゾラミド追加投与前の両群の眼血流ドルゾラミド追加投与前における組織血流の指標であるMBR値は,乳頭陥凹部および上・下耳側リムいずれの部位においても両群に差はみられなかった(表2).3.ドルゾラミド追加投与後の眼圧ラタノプロスト群の眼圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前14.6±2.5mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ12.9±3.1mmHg(p<0.05),13.2±2.9mmHgと有意に下降した(図1).チモロール群の眼圧(平均±標準偏差)もドルゾラミド追加前15.3±2.3mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ14.1±1.3mmHg,12.7±1.8mmHg(p<0.05)と有意に下降した(図1).4.ドルゾラミド追加投与後の平均血圧平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,ラタノプロスト群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前95.6±8.9mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ88.5±13.4mmHg,93.3±7.8mmHgとやや低下傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図2).チモロール群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前82.2±10.3mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ82.9±11.6mmHg,84.7±14.3mmHgで,有意な変化はなかった(図2).5.ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧眼灌流圧は便宜的に2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ラタノプロスト群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前49.2±6.1mmHg,追加1カ月後および2カ表2ドルゾラミド追加投与前の両群眼血流ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定陥凹部(平均±標準偏差)4.49±2.596.12±2.83NS(p=0.2207)(Mann-WhitneyUtest)上耳側リム(平均±標準偏差)8.30±5.447.45±2.51NS(p=0.7389)(Mann-WhitneyUtest)下耳側リム(平均±標準偏差)8.15±6.567.17±1.60NS(p=0.6242)(Mann-WhitneyUtest)(単位:MBR)*:p<0.05pairedt-testベースライン眼圧(mmHg)201816141210015.3±2.314.1±1.31カ月後2カ月後12.7±1.8:チモロール群:ラタノプロスト群14.6±2.512.9±3.113.2±2.9**図1ドルゾラミド追加投与後の眼圧経過ベースライン平均血圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群120110100908070082.2±10.382.9±11.695.6±8.993.3±7.888.5±13.484.7±14.3図2ドルゾラミド追加投与後の平均血圧経過ベースライン眼灌流圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群70:ラタノプロスト群605040302010039.5±6.749.2±6.143.7±10.945.6±6.549.0±6.141.2±7.3図3ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧経過(119)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011871月後はそれぞれ45.6±6.5mmHg,49.0±6.1mmHgと有意な変化はみられなかった(図3).チモロール群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前39.5±6.7mmHg,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ41.2±7.3mmHg,43.7±10.9mmHgとやや増加傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図3).6.ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭血流組織血流の指標となるMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群の乳頭陥凹部で,ドルゾラミド追加前4.49±2.59から,追加2カ月後に6.04±3.20と有意に増加した(p<0.05)(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前8.30±5.44,8.15±6.56から,追加2カ月後に8.59±5.48,9.12±7.83と増加傾向を示した(図5,6).一方チモロール群では,乳頭陥凹部のMBR値(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前6.12±2.83から,追加2カ月後に6.75±3.45と有意ではないものの10%程度の増加傾向がみられた(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前7.45±2.51,7.17±1.60から,追加2カ月後に10.09±4.02(p<0.05),7.80±4.75となり,上耳側リムでは有意な増加を示した(図5,6).7.ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ドルゾラミド追加投与前のベースラインから投与2カ月後の変化量を群間で比較したところ,眼圧および眼灌流圧には差がなかったが,視神経乳頭上耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群(0.28±1.63)に比べてチモロール群(2.63±1.83)で有意に増加していた(p<0.05).視神経乳頭陥凹部および下耳側リムのMBR値には群間で差はなかった(表3).III考按CAは生体内におけるH2O+CO2.H2CO3.HCO3.+H+の可逆的反応を触媒する酵素で,房水産生に関与することが知られている.CA阻害薬であるドルゾラミドはヒトCA-II型に強い阻害活性を示す7)ことから,毛様体におけるCA-II型の活性を強く阻害することで房水産生を抑制し眼圧を下降させると考えられている.近年の免疫組織化学的研究からブ乳頭陥凹部(MBR)6.12±2.836.75±3.45109876543204.49±2.596.04±3.20**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群図4ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭陥凹部血流経過上耳側リム(MBR)131211109876540**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群7.45±2.5110.09±4.028.30±5.448.59±5.48図5ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭上耳側リム血流経過下耳側リム(MBR)ベースライン2カ月後10:チモロール群:ラタノプロスト群7.17±1.607.80±4.758.15±6.569.12±7.8350図6ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭下耳側リム血流経過表3ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)p値(Mann-Whitneytest)陥凹部(MBR)1.55±2.010.63±2.83NS(p=0.540)上耳側リム(MBR)0.28±1.632.63±1.83*p<0.05(p=0.028)下耳側リム(MBR)0.98±2.540.63±4.73NS(p=0.903)眼灌流圧(mmHg).0.15±9.144.24±4.95NS(p=0.142)眼圧(mmHg).1.35±2.24.2.60±1.67NS(p=0.294)872あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011タやサルの視神経毛細血管周囲さらにサルでは網膜毛細血管周囲にCA活性があり,ドルゾラミド添加によりこれら毛細血管が拡張することが示されている8).この事実はドルゾラミドにより網膜および視神経の毛細血管に存在するCA-II型活性が阻害され,局所炭酸ガス分圧が上昇し二次的に毛細血管が拡張して網膜および視神経乳頭血流が増加する可能性を示唆している.実際に筆者らの臨床試験において,ドルゾラミドを追加投与することにより両群で眼圧は有意に下降し眼灌流圧は変化しなかったことから,ドルゾラミドは血管抵抗を減弱することで血流を改善したと考えられ,先の可能性を支持するものであった.今回併用薬として用いた薬剤ラタノプロストはPGF2a誘導体で,強力な眼圧下降効果をもつことから第一選択薬として使用されている.眼血流に関しては不変とする報告もある2,3)が増加とする報告が多く9.10),ラタノプロストは眼圧を大きく下降させることにより眼灌流圧を上昇させるため,一般に眼血流は増加すると考えられる.Gherghelら9)は原発開放隅角緑内障患者未治療22例にラタノプロストを6カ月間投与したところ,眼圧は有意に下降し平均眼灌流圧は有意に上昇して視神経乳頭血流速度は有意に増加したと報告している.また,ラタノプロスト点眼にて有色家兎,カニクイザル,正常人の視神経乳頭血流量が増加したとする報告では,その機序としてPGF2a誘導体であるラタノプロストが内因性PGI2を誘導する可能性が考察で述べられている10).したがって,作用機序が異なるラタノプロストとドルゾラミドの併用は眼圧のみならず眼血流においても有用と考えられ,筆者らの臨床試験結果においても視神経乳頭,特に陥凹部血流は有意に増加していた.今回併用薬として用いたもう一つの薬剤であるマレイン酸チモロールは非選択性b遮断薬である.眼圧下降による眼灌流圧上昇は眼血流増加の方向に働くと考えられるが,一般にb遮断薬は末梢血管収縮作用を有することから,b遮断点眼薬が視神経や網膜の血流に抑制的に働く可能性も考えられる.これまでチモロールの眼血流に関する報告は多数あるものの,結果は増加11),不変12),減少13)と一定していない.Martinezら14)は0.5%マレイン酸チモロールで加療中の原発開放隅角緑内障初期40例80眼を対象に,片眼(視野障害の大きいほう)に2%ドルゾラミドを追加投与して,眼血流に関する4年間の前向き試験を行ったところ,チモロール・ドルゾラミド併用治療眼ではチモロール単独治療眼に比べて,有意な眼圧下降,眼動脈および短後毛様動脈の拡張終期血流速度の有意な上昇および抵抗指数の有意な低下,視野障害進行リスクの有意な減少がみられたと報告した.したがって,チモロールとドルゾラミドの併用により後眼部血流が増加することから,視神経乳頭血流の増加も期待できると予想され,筆者らの臨床試験においても視神経乳頭,特に上耳側リム血流は有意に増加しており矛盾しない結果であった.ドルゾラミドの単剤もしくはチモロールに追加した際の眼血流に関する報告は成されている2.4,14)が,ラタノプロストに併用した際の眼血流に関する報告はこれまでなく,今回の筆者らのものが初めてである.ドルゾラミドはチモロールに併用してもラタノプロストに併用しても視神経乳頭血流を増加することが示されたことから,併用薬として有用と考えられる.同時に,ドルゾラミドの乳頭血流増加作用には部位によって差があることも今回示された.この原因として,ベースラインにおける眼灌流圧の群間での違いやCA活性の部位による差,血管分布密度の部位別差などが考えられるが,詳細については多数例での検討が必要と考えられ,次回の課題としたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)ArendO,HarrisA,WolterPetal:Evaluationofretinalhaemodynamicsandretinalfunctionafterapplicationofdorzolamide,timololandlatanoprostinnewlydiagnosedopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand81:474-479,20033)HarrisA,MigliardiR,RechtmanEetal:Comparativeanalysisoftheeffectsofdorzolamideandlatanoprostonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucomapatients.EurJOphthalmol13:24-31,20034)Fuchsjager-MayrlG,WallyB,RainerGetal:Effectofdorzolamideandtimololonocularbloodflowinpatientswithprimaryopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol89:1293-1297,20055)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19996)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:緑内障眼における1%ドルゾラミド点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響.臨眼64:921-926,20107)大森政信,内藤恭三:塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)の薬理作用,臨床効果.眼薬理15:9-15,20018)Lutjen-DrecollE,RichterM,KiilgaardJetal:Speciesdifferencesindistributionofcarbonicanhydraseactivityandvasodilativeeffectsofdorzolamideinretinalandopticnervevasculature.InvestOphthalmolVisSci41:S560,20009)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye22:363-369,200810)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,200111)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.Invest(120)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011873OphthalmolVisSci33:604-610,199212)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199713)YoshidaA,FekeGT,OgasawaraHetal:Effectoftimololonhunanretinal,choroidalandopticnerveheadcirculation.OphthalmicRes23:162-170,199114)MartinezA,Sanchez-SalorioM:Effectsofdorzolamide2%addedtotimololmaleate0.5%onintraocularpressure,retrobulbarbloodflow,andtheprogressionofvisualfielddamageinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma:asingle-center,4-year,open-labelstudy.ClinTher30:1120-1134,2008(121)***

LSFG-NAVITM を用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)1279《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1279.1285,2010cはじめに眼循環障害と緑内障性視神経障害との関連を示唆する報告は比較的多く,視神経乳頭(乳頭)近傍の循環動態は緑内障の進行に関与する因子の一つと考えられている.しかし,その報告は傍証的で,血流障害と視神経障害との関連を直接的に証明した報告は少なく,その原因として眼底血流測定法が十分に確立されていないことがあると考えられる.今回の研究ではLSFG-NAVITM(ソフトケア,福岡)により乳頭辺縁部組織血流を測定した.LSFG-NAVITMはレーザースペックル法1)を応用した血流測定装置であり,2008〔別刷請求先〕柴田真帆:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPANLSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価柴田真帆*1杉山哲也*1小嶌祥太*1岡本兼児*2高橋則善*2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2(有)ソフトケアSectoralAnalysisofOpticNerveHeadRimBloodFlowUsingLaserSpeckleFlowgraphyMahoShibata1),TetsuyaSugiyama1),ShotaKojima1),KenjiOkamoto2),NoriyoshiTakahashi2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)SoftcareLtd.目的:視神経乳頭辺縁部の領域別組織血流を緑内障眼と正常眼で比較し,緑内障眼において視野障害の程度との関連を検討した.対象および方法:対象は広義の原発開放隅角緑内障31例54眼,preperimetricglaucoma13例18眼,正常対照21例39眼.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)-NAVITMで測定した乳頭4分割のMBR(meanblurrate)値の変動係数を比較した.また乳頭8分割領域の血流比(相対的MBR)を比較し,緑内障群では病期別に比較した.緑内障群でHumphrey視野パターン偏差の上下比と血流の上下比との相関を検討した.結果:MBR値の変動係数はいずれも10%未満で,3群とも再現性が良好であった.乳頭8分割血流比ではpreperimetricglaucoma群でおもに下方の有意な低下を認めた.緑内障群では病期の進行に伴い上耳側から耳側でより低下した.緑内障群でパターン偏差上下比と血流の上下比に有意な相関を認めた.結論:LSFG-NAVITMによる視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価は再現性が良好であり,緑内障眼での血流低下と視野障害の進行に関連性が示唆された.Purpose:Toinvestigatesectoralbloodflowintheopticnervehead(ONH)rimineyeswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)andtoevaluatethecorrelationbetweenimpairedONHbloodflowandvisualfielddefect.SubjectsandMethods:In54eyesof31POAGpatients,18eyesof13preperimetricglaucomapatientsand39eyesof21normalsubjects,opticnerveheadbloodflowwasmeasuredusinglaserspeckleflowgraphy(LSFG)-NAVITM.Results:Meanblurrate(MBR)measurementsshowedgoodreproducibility,aseverycoefficientvariationwasbelow10%.Analysisof8divisionsofsectoralbloodflowoftheONHrimshowedtheMBRvaluesofthepreperimetricglaucomagrouptobesignificantlylowerintheinferiorregion,comparedtothenormalsubjects.InthePOAGgroup,theMBRvaluesdecreasedmoreinthetemporalrimasthestageprogressed.Therewassignificantcorrelationbetweentheratioofsuperiorsumagainstinferiorsumofpatterndeviations,andthatofMBRvalues.Conclusion:TheseresultssuggestarelationshipbetweenimpairedONHrimbloodflowandvisualfielddefectinPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1279.1285,2010〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流,乳頭辺縁部,preperimetricglaucoma.laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,rim,preperimetricglaucoma.1280あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(114)年1月に医療機器認証を取得している.これまでレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)による眼血流研究では,乳頭上の同一部位における経時的な血流変化を比較している.しかし,今回の筆者らの研究のように乳頭を分割して領域別に血流測定し,解析したものは過去に報告がない.今回は陥凹部を除いた乳頭辺縁部における組織血流を測定・解析し,視野異常のないpreperimetircglaucoma眼と正常眼とで比較し,緑内障眼においては病期別に比較した.さらに緑内障眼については血流低下と視野の感度低下との関連を検討した.I方法1.対象対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来に通院中の患者で2009年5月から2009年7月までに外来受診した広義の原発開放隅角緑内障(POAG)31例54眼,preperimetricglaucoma13例18眼(いずれも連続症例)と,正常対照21例39眼である.POAG群は乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の狭小化,神経線維層欠損など緑内障性視神経障害があり,隅角鏡検査で正常開放隅角であり,Humphrey自動視野計(Carl-ZeissMeditec,Dublin,CA)による視野検査(プログラム30-2SITAスタンダード)で以下の基準を連続する2回の検査で認めるものとした.(1)緑内障半視野テストで正常範囲外,もしくはパターン標準偏差でp<5%であること,もしくは(2)パターン偏差確率プロットでp<5%の点が,最も周辺でない検査点に3つ以上かたまって存在し,かつそのうち1点がp<1%であること.乳頭辺縁部の血流測定を目的とするため,乳頭辺縁部を認めないほど陥凹が拡大した末期緑内障は除外した.Preperimetricglaucoma群は乳頭辺縁部の狭小化や神経線維層欠損など緑内障性視神経障害を認めるが,Humphrey視野検査において上記の基準を満たさないものとした.またPOAG群,preperimetricglaucoma群ではLSFG-NAVITMによる血流測定日3カ月前から点眼や内服内容に変更のないものとした.正常対照群は,正常眼圧・正常開放隅角であり,精密眼底検査にて緑内障性視神経障害を認めないものを対象とした.POAG群についてはmeandeviation(MD)値による病期分類を用い,.6dB以上を初期,.6dBから.12dBを中期,.12dB以下を末期とした.本研究においてはすべての対象について,高血圧症・糖尿病を含む重篤な全身合併症の既往,年齢が40歳以下,矯正視力が0.5以下のもの,.7D以下の近視,+3D以上の遠視,軽度白内障以外の眼疾患の既往,白内障手術以外の眼内手術の既往,Humphrey視野検査において固視不良>20%,偽陰性>25%,偽陽性>33%のものを除外した.本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われ,本学倫理委員会の承認を得ており,すべての対象について本研究に関する目的と方法について十分な説明の後,文書で同意を得ている.2.血流測定と解析すべての対象において0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬)で散瞳後に,同一検者がLSFG-NAVITMによる乳頭辺縁部組織血流を測定した.血流測定日はHumphrey視野検査日と同日,もしくは視野検査日から3カ月以内とした.今回使用したLSFG-NAVITMは毎秒30フレームの連続したスペックル画像を取り込むことができ,測定4秒間で連続した血流マップ120枚が得られ,そこから合成血流マップが作成される.得られた合成血流マップ上で,マウスカーソルを使って自由に解析領域を矩形や楕円形に描くことができ,血流解析する領域を指定するとmeanblurrate(MBR)値が表示される.MBR値はSBR(squareblurrate)値に比例する値であり2),SBR値はNB(normalblur)値に相関する値である3).NB値は元来,血流速度の指標であるが,表在血管を避けた部位では組織血流量をも反映すると報告されている4).本研究では血流解析部位として乳頭陥凹部を除いた辺縁部のみとしたため,LSFG解析ソフトversion3,プラグインLayerViewer(いずれもソフトケア)を用いて合成血流マップを作成し,まずその合成血流マップ上で乳頭周囲境界線に沿って楕円の血流解析領域を設定し,内部の乳頭分割数(4分割または8分割)を指定した(図1).つぎに血流解析から除外する乳頭陥凹部を合成血流マップ上でマウスカーソルを使って指定した.乳頭陥凹部はHeidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Germany)の結果から同一検者が判定した.そのうえで乳頭陥凹部を除図1LSFG-NAVITMの血流マップ上の乳頭4分割表示(左眼)合成血流マップ上で乳頭周囲境界線に沿って楕円の血流解析領域を設定し,内部の乳頭分割数(4分割または8分割)を指定した.(115)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101281き4分割または8分割した辺縁部を血流解析し,組織血流に対応する領域別MBR値(TM)を得た(図2,3).解析時には,組織血流値を得るため解析領域の主要血管血流を除外して解析したが,岡本らの報告のように,プラグインLayerViewerでは指定した領域に対して閾値を定めることにより,血管領域と組織領域を区分することができる5).今回の研究では,すべての症例において閾値0.5として解析し,組織血流値を得た.図2,3に示すVM,TM,AMは,それぞれの領域内の血管領域平均血流値(VesselMean),血管部分を除いた組織領域平均血流値(TissueMean),および領域内全域の平均血流値(AllMean)を示している.VM,TM,AMの各値は,各領域内のMBR値の総和を各領域の面積で除した平均血流値である.図2LSFG-NAVITMの乳頭辺縁部4分割領域別解析表示(典型例)VM:血管領域平均血流値,TM:組織領域平均血流値,AM:領域内全域平均血流値,S:上方,T:耳側,I:下方,N:鼻側.図3LSFG-NAVITMの乳頭辺縁部8分割領域別解析表示(典型例)VM:血管領域平均血流値,TM:組織領域平均血流値,AM:領域内前領域平均血流値,Sn:上鼻側,St:上耳側,Ts:耳上側,Ti:耳下側,It:下耳側,In:下鼻側,Ni:鼻下側,Ns:鼻上側.1282あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(116)3.評価方法まず,LSFG-NAVITMによる血流測定結果の再現性について評価するために,乳頭辺縁部を4分割(S:上方,T:耳側,I:下方,N:鼻側)して領域別にMBR値を算出し,3回測定した変動係数〔(標準偏差/平均値)×100〕(%)を算出して3群で比較検討した.つづいて乳頭辺縁部を8分割(Sn:上鼻側,St:上耳側,Ts:耳上側,Ti:耳下側,It:下耳側,In:下鼻側,Ni:鼻下側,Ns:鼻上側)して領域別にMBR値を算出し,鼻下側(Ni)に対する比を算出した.それをpreperimetricglaucoma群と正常対照群で比較検討した.さらにPOAG群においては下鼻側(In)に対する比をpreperimetricglaucoma群と病期別に比較検討した.つぎに乳頭血流変化と視野における感度閾値の低下との関連を調べた.POAG群においてHumphrey視野検査におけるパターン偏差値の合計の上下比と,乳頭辺縁部MBR値の合計の上下比との相関をみた.統計にはunpairedt-test,chi-squaretest,onewayanalysisofvariance(ANOVA),twowayANOVAを用い,ANOVAで群間に有意差がみられた場合はTukeyの多重比較,もしくはDunnettの多重比較を行った.なお,p値が0.05未満を統計学的に有意であるとした.乳頭血流変化と視野感度閾値の低下との関連についてはPearsonの相関係数を求め,有意性を検定した.II結果対象患者の内訳を表1に示した.POAG群,preperimetricglaucoma群,正常対照群の年齢,男女比に有意差はなかった(それぞれp=0.35,onewayANOVA,p=0.80,chisquaretest).正常対照群とpreperimetricglaucoma群の眼圧に有意差を認めなかった(p=0.37,unpairedt-test).正常対照群とPOAG群における初期,中期,末期群の眼圧に有意差を認めなかった(p=0.089,onewayANOVA).POAG群における初期,中期,末期群とpreperimetricglaucoma群の眼圧に有意差を認めなかった(p=0.41,onewayANOVA).POAG群における初期,中期,末期群とpreperimetricglaucoma群の緑内障点眼薬の内訳に有意差を認めなかった(p=0.052,chi-squaretest).LSFG-NAVITMによる乳頭辺縁部組織血流測定結果の再現性についての結果を図4に示した.乳頭を4分割したどの領域においても変動係数はほぼ10%未満であった.3群間(POAG:p=0.878,preperimetricglaucoma:p=0.416,正常対照:p=0.691,onewayANOVA),4分割した領域間(N:p=0.347,S:p=0.792,T:p=0.546,I:p=0.502,onewayANOVA)にも有意差を認めなかった.正常対照群とpreperimetricglaucoma群との乳頭辺縁部8分割組織血流のNiに対する比の比較結果を図5に示した.Preperimetricglaucoma群では正常対照群に比べてIt,In,Sn領域で有意に低い血流比を認めた(それぞれp<0.01,0.05,0.001,unpairedt-test).POAG群における病期別の乳頭辺縁部8分割組織血流のInに対する比の比較結果を図6に示した.病期の進行とともに血流比が低下する傾向があり,中期・末期緑内障群ではpreperimetricglaucoma群に比べて有意な血流比の低下を表1患者内訳と背景正常対照Preperimetricglaucoma原発開放隅角緑内障眼数391854年齢(歳)57.6±13.561.2±9.562.4±11.4性別(男/女)8/136/711/20病期初期中期末期(眼)26217眼圧(mmHg)13.9±1.6213.2±2.812.1±2.312.2±2.711.5±2.8MD値(dB).0.02±0.90.0.49±1.27.3.09±1.51.8.81±2.76.14.70±1.49緑内障点眼の内訳(眼)PG614124CAI0312b遮断薬4861a遮断薬0101ab遮断薬1232なし14651PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.(Mean±SD)(117)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101283認め(それぞれp<0.01,p<0.001,twowayANOVATukeytest),特にSt,Ts,Ti領域において,末期緑内障群ではpreperimetricglaucoma群に比べて有意な血流比の低下を認めた(それぞれp<0.01,p<0.01,p<0.05,onewayANOVADunnett’stest).乳頭辺縁部組織血流と視野における感度低下との関連をみた結果を図7に示した.POAG群において,パターン偏差の上下比と乳頭辺縁部MBR値の上下比に正の相関を認めた(r=0.289,p=0.03,Pearson’scorrelationcoefficient).III考按循環異常と緑内障の関連を示唆する報告は多く,特に正常眼圧緑内障で乳頭出血の頻度が高く6),視野進行に関与し7),乳頭周囲網脈絡膜萎縮が視野障害と関連している8)ことなど,乳頭循環障害が緑内障の進展に関与している可能性が考えられている.そのためこれまでにも,緑内障眼における視神経近傍の血流を測定する方法は多数報告されている.蛍光眼底造影法9),レーザードップラ法10,11),走査レーザー顕微鏡,超音波カラードップラ法12)などによる報告があるが,それぞれ全身副作用の可能性のあることや眼球運動に影響されること,微細な血管描出に問題があり同一部位反復測定が困難であることなどの問題点があった.今回の研究ではレーザースペックル法を用いたLSFG-NAVITMにより乳頭組織血流を測定した.LSFGでは乳頭,脈絡膜,網膜,虹彩などの末梢循環の測定が可能であり,その正確さや高い再現性からこれまでにもさまざまな眼血流研究に応用されてきた3).今回のLSFG-NAVITMによる乳頭辺縁部血流の測定結果においても,病期や乳頭測定部位にかかわらず比較的高い再現性が得られた.NST乳頭分割領域20151050変動係数(%)(Mean±SE)■:正常対照■:Preperimetricglaucoma■:POAGI図4変動係数N:鼻側,S:上方,T:耳側,I:下方,POAG:原発開放隅角緑内障(広義).NiNsSn1.210.80.60.40.20St乳頭分割領域MBR値(下鼻側に対する比)(Mean±SE):Preperimetricglaucoma:初期:中期:末期Ts*******TiItIn図6緑内障病期別の視神経乳頭辺縁・各部位における相対的血流(下鼻側に対する比)Sn:上鼻側,St:上耳側,Ts:耳上側,Ti:耳下側,It:下耳側,In:下鼻側,Ni:鼻下側,Ns:鼻上側,**:p<0.01,*:p<0.05vspreperimetricglaucoma,onewayANOVADunnett’stest.†***NiNsSnSt乳頭分割領域MBR値(鼻下側に対する比)TsTiItIn:正常対照:Preperimetricglaucoma1.4(Mean±SE)1.210.80.60.40.20図5Preperimetricglaucomaにおける視神経乳頭辺縁・各部位の相対的血流(鼻下側に対する比)Sn:上鼻側,St:上耳側,Ts:耳上側,Ti:耳下側,It:下耳側,In:下鼻側,Ni:鼻下側,Ns:鼻上側.*:p<0.01,†:p<0.05,**p<0.001,unpairedt-test.0510PDsuperior/inferiorSBRsuperior/inferior1520251.61.41.210.80.60.4図7乳頭辺縁部血流上下比とpatterndeviationの上下比の相関PD:patterndeviation.r=0.289,p=0.03,Pearson’scorrelationcoefficient.1284あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(118)しかしLSFGで得られるSBR値は相対値であり,同一部位における経時的変化を比較することはできるが,異なる部位の血流を数値で直接比較したり,異なる個体間で数値を直接比較したりすることには無理があるとされており3),今回用いたMBR値も同様と考えられる.そのため今回の研究では得られた血流値を個体間で比較するために,分割した乳頭辺縁部の一領域に対する血流比として比較した.算出された血流比を実測値と同様に比較するために,実測血流値の平均が比較する病期・群間で最も差の少なくなる領域を血流比の基準となる一領域として選択した.緑内障性変化の進行において,自動視野計における視野障害出現よりも先に,乳頭や神経線維層の変化が起こるといわれている13).視野に異常のない症例であっても画像診断で乳頭や神経線維層に変化のあることは,過去にも報告が多い14,15).また,緑内障性乳頭変化は上方よりも下方乳頭辺縁部の欠損からが多いことが報告されている16).今回の筆者らの結果では,正常対照眼に比較してpreperimetricglaucoma群においておもに乳頭下方辺縁部の組織血流比が低下していた.視野障害の出現よりも前に乳頭循環障害が存在し,循環障害も乳頭の形態変化と同様に下方から起こる可能性が示唆された.Piltzら11)は視神経乳頭辺縁部に局所的狭小化などがなく,眼圧が高く視野障害のないPOAG疑いの症例にも耳側乳頭辺縁部の血流低下を認めることをレーザードップラ法で証明したが,彼らの報告は高眼圧症例であり,眼圧の関与が考えられる.今回の研究では正常対照群とpreperimetricglaucoma群との間に眼圧の有意差はなく,血流減少の一因に眼圧は関与していないと考えた.しかし今回のpreperimetricglaucomaの症例は,乳頭もしくは神経線維束に緑内障性変化を認めるものを対象としているため,緑内障性変化による乳頭辺縁部の構造変化がレーザースペックルによる測定結果に影響した可能性も否定できない.また,今回の検討では緑内障病期の進行とともに耳側血流比の減少がみられた.これは過去の報告にあるGrunwaldら10,17)のレーザードップラ法を用いた研究で緑内障眼に耳側血流の低下を認め,その視野障害が進行するほど乳頭血流が低下したとする報告と一致するものであり,乳頭組織血流低下と緑内障性視野障害の進行とに関連性のあることが示唆された.しかし上述のように緑内障性変化による乳頭辺縁部の構造変化がレーザースペックルによる測定結果に影響した可能性も否定できないと考えられる.筆者らは視野障害のあるPOAG群において,乳頭辺縁部組織血流と視野における感度低下との関連をみたが,得られた血流値を実測値として直接比較できないため,得られたMBR値の上下比を算出し,その結果,パターン偏差の上下比と乳頭辺縁部MBR値の上下比に正の相関を認めた.今回の上下比の検討では,POAG群における血流値の低下と視野感度閾値の低下に関連があるとはいえないが,LSFGによる血流値の上下比が閾値低下の上下比を反映している可能性があると考えられた.今回の対象においてpreperimetricglaucoma群とPOAG群で緑内障点眼の内訳には有意差を認めなかったが,preperimetricglaucoma群に緑内障点眼使用が少ない一方で,ほとんどのPOAG患者は緑内障点眼加療を受けているため,点眼が血流測定結果に影響した可能性は否定できない.しかし,点眼加療は血流測定日前3カ月間変更がなかったこと,POAG群とpreperimetricglaucoma群で眼圧に有意差がなかったことから,点眼と眼圧による影響は少ないと考えた.また,今回の研究では同一眼において求めた各領域の相対値の比較であることからも,点眼による血流変動の影響はほぼ相殺されていると考えた.今回の研究では血流低下と血圧の関与を検討していない.全身血圧と緑内障性視神経障害との関連については意見の分かれるところである18,19)が,持続する高血圧は微小血管の障害による乳頭循環への影響があると考え,高血圧治療薬が多種にわたるような重篤な症例は今回の研究から除外したため,全身性高血圧による影響は少ないと考えた.しかし,眼灌流圧の低下と緑内障の進行には有意な関連があること18,19),夜間の低血圧は乳頭血流を減少させ,特に正常眼圧緑内障では乳頭循環障害の原因とする報告20)があること,緑内障眼において高血圧治療はさらなる乳頭血流の低下を招く可能性のあることが報告17)されていることから,今回の対象には夜間低血圧や拡張期眼灌流圧低下のある症例も含まれると考えられ,結果に影響した可能性も否定できない.今回の解析方法では乳頭辺縁部の血流解析を目的とし,強度近視眼やそれによる小乳頭,乳頭辺縁部を認めないほど陥凹が拡大した末期緑内障を除外したため,乳頭形状や乳頭周囲網脈絡膜萎縮の乳頭辺縁部血流への関与を検討していない.しかし今後は傾斜乳頭や小乳頭,循環障害と緑内障進行に関係があるとの報告がある乳頭周囲網脈絡膜萎縮21)などの症例において乳頭血流測定部位や方法,緑内障病期との関連などさらなる研究が必要であると考えられる.今回の結果から,LSFG-NAVITMによる乳頭辺縁部組織血流測定は再現性が高く,乳頭辺縁部の血流低下が緑内障の原因と関係するものか,緑内障性視神経障害の結果によるものかは明らかではないが,乳頭血流障害は緑内障の病期とともに進行し,緑内障眼での血流低下と視野障害の進行に関連性のあることが示唆された.文献1)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,twodimensionalmeasurementofretinalmicrocirculationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012853825-3834,19942)KonishiN,TokimotoY,KohraKetal:NewlaserspeckleflowgraphysystemusingCCDcamera.OpticalReview9:163-169,20023)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgraphyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol,inpress4)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19965)岡本兼児,レーフントゥイ,高橋則善ほか:LaserSpeckleFlowgraphyによる網膜血管血流量解析.あたらしい眼科27:256-259,20106)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853-857,19867)DranceSM,FaircloughM,ButlerDMetal:Theimportanceofdischemorrhageintheprognosisofchronicopenangleglaucoma.ArchOphthalmol95:226-228,19778)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychangesandprogressioninglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol226:510-515,19889)SugiyamaT,SchwartzB,TakamotoTetal:Evaluationofthecirculationintheretina,peripapillarychoroidandopticdiskinnormaltensionglaucoma.OphthalmicRes32:79-86,200010)GrunwaldJE,PiltzJR,HariprasadSMetal:Opticnerveandchoroidalcirculationinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci39:2329-2336,199811)PiltzJR,GrunwaldJE,HariprasadSMetal:Opticnervebloodflowisdiminishedineyesofprimaryopen-angleglaucomasuspects.AmJOphthalomol132:63-69,200112)ZeitzO,GalambosP,WagenfeldLetal:Glaucomaprogressionisassociatedwithdecreasedbloodflowvelocitiesintheshortposteriorciliaryartery.BrJOphthalmol90:1245-1248,200613)GardinerSK,JohnsonCA,CioffiGA:Evaluationofthestructure-functionrelationshipinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:3712-3717,200514)ChoplinN,LundyD,DreherA:Differentiatingpatientswithglaucomafromglaucomasuspectsandnormalsubjectsbynervefiberlayerassessmentwithscanninglaserpolarimetry.Ophthalmology105:2068-2076,199815)Sanchez-CanoA,BaraibarB,PabloLEetal:Scanninglaserpolarimetrywithvariablecornealcompensationtodetectpreperimetricglaucomausinglogisticregressionanalysis.Ophthalmologica223:256-262,200916)JonasJB,FernandezMC,SturmerJ:Patternofglaucomatousneuroretinalrimloss.Ophthalmology100:63-68,199317)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnervebloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.AmJOphthalmol127:516-522,199918)BonomiL,MarchiniG,MarrafaMetal:Vascularriskfactorsforprimaryopenangleglaucoma:theEgna-NeumarktStudy.Ophthalmology107:1287-1293,200019)LeskeMC,ConnellAM,WuSYetal:Riskfactorsforopenangleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.ArchOphthalmol113:918-924,199520)HayehSS,ZimmermanMB,PodlhajskiPetal:Nocturnalarterialhypotensionanditsroleinopticnerveandocularischemicdisorders.AmJOphthalmol117:603-624,199421)JonasJB,MartusP,BuddleWMetal:Smallneuroretinalrimandlargeparapapillaryatrophyaspredictivefactorsforprogressionofglaucomatousopticneuropathy.Ophthalmology109:1561-1567,2002(119)***