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ステレオ視神経乳頭陥凹解析における臨床経験による差の検討

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(165)7410910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):741744,2008cはじめに緑内障診療においては視神経乳頭の評価が重要であるが,その評価には検者の技量が必要である.近年,HRTII(HeidelbergRetinaTomographII,HeidelbergEngineering社)やOCT(光干渉断層計)などの定量的解析により経験年数によらない視神経乳頭の客観的評価が可能となってきている14)が,これらは高額な機器でありすべての施設に設置できるものではない.従来の眼底写真を用いた視神経乳頭の半〔別刷請求先〕木村健一:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:KenichiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPANステレオ視神経乳頭陥凹解析における臨床経験による差の検討木村健一*1,2森和彦*1池田陽子*1成瀬繁太*1松田彰*1今井浩二郎*1木下茂*1*1京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2京都第一赤十字病院眼科EvaluatingOptic-DiscNerveHeadinGlaucomaPatientsviaStereoDiagnosisResearchSystem:ClinicalExperienceAectsResultsKenichiKimura1,2),KazuhikoMori1),YokoIkeda1),ShigetaNaruse1),AkiraMatsuda1),KojiroImai1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)KyotoFirstRedCrossHospital目的:HRTII(HeidelbergRetinaTomographII)と通常のモノラル(Mo),ステレオ(St)写真から得られたC/D(陥凹乳頭)面積比を臨床経験の異なる検者で比較検討し,誤差が生じやすい症例を検証した.対象および方法:緑内障性視神経乳頭ステレオ写真10例10眼を臨床的経験の異なる9名(臨床経験なし,10年未満,10年以上)の検者に提示し,MoとStそれぞれに乳頭縁と陥凹縁を引き,HRTII画像から計算したC/D面積比と比較検討した.結果:手動解析とHRT解析によるC/D面積比の差は症例ごとのばらつきが大きかった.Mo,StともにHRTIIの値との差が0.1以内に収まった症例は約半数であり,臨床経験を積むに従って改善した.HRTII解析でのC/D面積比が大きい症例(0.6以上)では,手動解析で過小評価しやすかった.結論:臨床経験の浅い検者では手動解析において乳頭陥凹の大きい症例を過小評価しやすく,3次元乳頭解析装置はトレーニングシステムとして有用である.ToinvestigatetheresultsobtainedbyexaminerswithvaryinglevelsofclinicalophthalmologyexperiencewhousedHeidelbergRetinaTomographyII(HRTII)oroptic-discphotographs(bothmonocularandstereo)toevalu-atethecup-to-disc(C/D)ratioofglaucomapatients,10optic-discphotographsofeitheramonocularphotoorofstereophotopairswereprepared,and9ophthalmologistswithvaryinglevelsofclinicalexperiencewereenrolled.Eachexaminer’sclinicalexperiencewasclassiedintooneofthefollowing3grades:1)none,2)lessthantenyears,and3)morethantenyears.Eachophthalmologistdrewthediscandcupmargin,andcalculatedtheC/DarearatiousingthenewsoftwaredevelopedatCardiUniversity(Cardi,UK).TheresultswerethencomparedtomeasurementresultsobtainedviaHRTII.Intheresultsforsomepatients,therewerelargedierencesbetweenthetwotypesofC/Dratioevaluationmethods.Fornearly50%ofthepatientdata,theresultantC/DratiodierencesbetweenHRTIIandCardisoftwarewerewithin0.1.Examinerswithmoreclinicalexperienceobtainedconsistentresults.Incaseswithmorethan0.6largerC/Dratio,theCardisoftwaretendedtogivesmall-ermeasurements.ExaminerswhohadlessclinicalexperiencetendedtoevaluatealargerC/Dratioasbeingsmall-er,evenwhenusingthestereophotopairs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):741744,2008〕Keywords:視神経乳頭解析,視神経乳頭陥凹比,HeidelbergRetinaTomographII,眼底写真,緑内障.opticnerveheadanalysis,cup-to-discratio,HeidelbergRetinaTomographII,opticdiscphotograph,glaucoma.———————————————————————-Page2742あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(166)HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討結果を図3に示す.横軸はHRTIIによるC/D面積比,縦軸はC/D面積比の差分絶対値の平均を表し,各指標は各症例各解析における3検者の平均を示す.ステレオ,モノラル解析を含めた全解析結果において,HRTIIによるC/D面積比との差分絶対値の平均が0.10以内に収まったものは約半数(26/60)であり,臨床経験を積むに従って差分は減少した.臨床経験による差が大きいC/D面積比0.6以上の症例(n=4)について各解析での結果を比較したところ(図4),経験年数が浅いほどC/D面積比を過小評価しやすい傾向があり,モノラル解析では「経験なし」と「10年未満」および「経験なし」と「10年以上」との間で,ステレオ解析では「経験なし」と「10年以上」との間で有意差を認めた(Tukey-Kramer検定,p<0.05).定量的解析57)では検者の臨床経験年数により結果が異なることが報告されている8).今回筆者らは英国Cardi大学において開発された視神経乳頭の3次元解析ソフトStereoDxResearchRを用いたステレオ乳頭解析9,10)を試み,モノラル解析とステレオ解析の結果をHRTIIによる解析結果と比較し,臨床経験年数によってどのような違いが出るかを検討した.I対象および方法臨床的経験年数の異なる9名(臨床経験なし群3名,10年未満群3名,10年以上群3名)の検者がランダムに配置した広義原発開放隅角緑内障患者の視神経乳頭写真10例10眼〔平均年齢68.2±8.1歳,平均屈折度(等価球面値)2.0±2.7D,meandeviation(MD)値11.4±4.9dB〕を解析し,同じ10眼のHRTII画像から計算したC/D(陥凹乳頭)面積比と比較検討した.眼底写真はTRC-50DXカメラ(トプコン社)を用い,平行法によるステレオ写真撮影で得られた画角20°の2枚のデジタル画像を使用した.10症例は可能な限り乳頭の大きさ,形状,緑内障病期の異なる緑内障性視神経乳頭を含めることを心がけた.眼底写真を用いた解析は,モノラル写真とステレオ写真それぞれをモニター上(Moni-torZscreen2000series,StereoGraphic社)に提示し,画面上でマウスを用いてトレースした乳頭縁と陥凹縁から乳頭面積と陥凹面積を算出した後にC/D面積比を計算した.ステレオ立体写真の合成ならびにC/D面積比の計算には,京都府立医科大学と協力関係にある英国Cardi大学で開発された視神経乳頭3次元解析ソフトStereoDxResearchRを用いた.HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討は「HRTIIによるC/D面積比」と「各検者の解析したC/D面積比」の差分により行った.なお,データはすべて平均±標準偏差で示し,統計解析はWilcoxon符号順位検定ならびにTukey-Kramer検定を用いた.II結果対象となった全10症例,全検者のHRTIIによるC/D面積比と眼底写真によるC/D面積比の相関分布を図1に示す.症例によって検者間のばらつきの差が大きいものの,経験の少ない検者ほどC/D面積比を過小評価する傾向があった.特にC/D面積比が0.6を超える症例においてばらつきが顕著であった.図2にはモノラルおよびステレオ解析によるC/D面積比の臨床経験別の比較を示す.ステレオ,モノラル解析ともに経験なし群と10年以上群との間で有意差を認めた(Tukey-Kramer検定,p<0.05)が,各群ともステレオ解析とモノラル解析との間には有意差を認めなかった(Tukey-Kramer検定).C/D面積比(眼底写真)1.000.800.600.400.200.000.000.200.400.600.801.00C/D面積比(HRT-II):経験なしmono:経験なしstereo:10年未満mono:10年未満stereo:10年以上mono:10年以上stereo図1HRTIIによるC/D面積比と眼底写真によるC/D面積比の相関分布面積比経験**以上*<0.05図2モノラルおよびステレオ解析によるC/D面積比の臨床経験別の比較———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008743(167)眼軸長,画角の影響を受けにくいC/D面積比を用いたが,図1に示されるようにモノラル解析,ステレオ解析ともに症例ごとのばらつきが非常に大きく,視神経乳頭の定量的解析法としての本法の限界を示すものと考えられた.基準として用いたHRTIIによるC/D面積比も乳頭縁を決定する際に主観的誤差が生じうるため,臨床経験10年以上の検者のC/D面積比との間に大きな差が生じていた症例が存在する.今後はHRTIIIの新プログラムであるGPS(glaucomaproba-bilityscore)11)のように視神経乳頭縁を自動的に決定して検者の主観や誤差が入り込まない真の客観的解析法が望まれる.今回の症例を具体的に検討すると,図5aのように陥凹部と蒼白部がほぼ一致した症例では9名の検者全員がステレオ解析の差分0.1以内となった.しかしながら図5bのように陥凹部と蒼白部が一致せず血管の屈曲点で判断する必要がある症例では,臨床経験10年以上ではステレオ・モノラル解析ともに全員が差分0.1以内であったが,臨床経験10年未満の6名では一致率が低かった.上記のことから立体視によIII考按視神経乳頭解析に用いたStereoDxResearchRは京都府立医科大学と協力関係にある英国Cardi大学で開発された視神経乳頭3次元解析ソフトである.視神経乳頭を立体的に観察しながら陥凹縁と乳頭縁の境界線を引くことで高解像度の眼底写真を利用した視神経乳頭解析が可能である.また,付属装置としてStereoGraphic社製MonitorZscreen2000seriesを用いており,偏光眼鏡により複数の検者が解析中のステレオ画像を同時に検討することができるため,臨床経験が少ない検者に対する教育的利用も可能である.今回の検討において視神経乳頭陥凹の評価には屈折度数や差分絶対値の平均0.600.500.400.300.200.100.000.000.200.400.600.801.00C/D面積比:経験なしmono:経験なしstereo:10年未満mono:10年未満stereo:10年以上mono:10年以上stereo図3HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討結果面積比経験***以上*<0.05図4C/D面積比0.6以上の症例における各解析の結果図5典型例の視神経乳頭の写真a:陥凹部と蒼白部がほぼ一致した症例.b:陥凹部と蒼白部が一致せず,血管の屈曲点で判断する必要がある症例.———————————————————————-Page4744あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(168)経乳頭形状測定の比較.臨眼58:2175-2179,20044)杉山茂,小暮諭,柏木賢治ほか:眼底像を利用したOCT3000による視神経乳頭解析.あたらしい眼科23:797-799,20065)DichtlA,JonasJB,MardinCY:Comparisonbetweentomographicscanningevaluationandphotographicmea-surementoftheneuroretinalrim.AmJOphthalmol121:494-501,19966)杉本栄一郎,曽根隆志,塚本秀利ほか:眼底写真とHRTIIによる視神経乳頭解析の比較.臨眼59:939-942,20057)JonasJB,MardinCY,GrundlerAE:Comparisonofmea-surementsofneuroretinalrimareabetweenconfocallaserscanningtomographyandplanimetryofphotographs.BrJOphthalmol82:362-366,19988)杉本栄一郎,曽根隆志,塚本秀利ほか:眼底写真とHeidel-bergRetinaTomographIIを用いた緑内障専門医と研修医による視神経乳頭評価の比較.あたらしい眼科22:805-807,20059)SheenNJL,MorganJE,PoulsenJLetal:Digitalstereo-scopicanalysisoftheopticdiscevaluationofateachingprogram.Ophthalmology111:1873-1879,200410)MorganJE,SheenNJL,NorthRVetal:Discriminationofglaucomatousopticneuropathybydigitalstereoscopicanalysis.Ophthalmology112:855-862,200511)CoopsA,HensonDB,KwartzAJetal:Automatedanaly-sisofHeidelbergretinatomographopticdiscimagesbyglaucomaprobabilityscore.InvestOphthalmolVisSci47:5348-5355,2006るステレオ解析を用いたとしても,臨床経験の乏しい検者にとっては正確に陥凹縁を決定することが困難であり,特にC/D面積比の大きい症例ほど陥凹を過小評価しやすいことがわかった.臨床経験を積むに従ってそのばらつきは縮小していたことから,教育的トレーニングによってある程度のばらつきの収束は可能であり,本装置のような指導医と研修生が同時に立体視可能なシステムによるトレーニングの重要性を示唆しているものと考えられた.IV結論臨床経験の浅い検者では手動解析において乳頭陥凹の大きい症例では陥凹を過小評価しやすい.3次元乳頭解析装置はトレーニングシステムとして有用である.文献1)DreherAW,TsoPC,WeinrebRN:Reproducibilityoftop-ographicmeasurementsofthenormalandglaucomatousopticnerveheadwiththelasertomographicscanner.AmJOphthalmol111:221-229,19912)RohrschneiderK,BurkRO,KruseFEetal:Reproducibil-ityoftheopticnerveheadtopographywithanewlasertomographicscanningdevice.Ophthalmology101:1044-1049,19943)岩切亮,小林かおり,岩尾圭一郎ほか:光干渉断層計およびHeidelbergRetinaTomographによる緑内障眼の視神***