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緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1169.1177,2017c緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症市.岡.伊.久.子市岡眼科CPeripapillaryRetinoschisisinGlaucomaEyesIkukoIchiokaCIchiokaEyeClinic緑内障症例に網膜分離症を認めることがあり,おもに黄斑部に及んだ例が報告されているが,網膜.離の合併がなく黄斑部に及ばない症例は見過ごされている可能性がある.当院で緑内障経過観察中の症例にCOCTにて視神経乳頭耳側断面を測定したところ,5眼に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めた.分離部形状は網膜各層間.層内の浮腫で黄斑部に進展した例はなく,経過を追えたC4眼では緩解,増悪を繰り返した.平均年齢C71.2歳,屈折はC.0.15±1.5D,発症時眼圧はC12.2C±1.3CmmHg,発症時CMD値はC.3.73±3.4CdBであった.網膜分離症の範囲は神経線維層菲薄部に一致し,網膜分離症の視神経乳頭部にC1眼に乳頭Cpitを認めた.頻度はC6カ月間にCOCTにて検査した緑内障患者C5人/490人(1.0%)に認めた.3眼は網膜分離症に対応する部の視野障害が進行した.眼圧は低めだが,さらなる眼圧下降によりC3眼の分離症は軽減している.OCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定では網膜分離症発症時の網膜神経線維層厚が厚く検出されるため,注意が必要である.Retinoschisiswithglaucomaisreportedasmainlyinvolvingthemacularregion;casesrestrictedtobesidetheopticdiscarerare.Atourhospital,thetemporalsideoftheopticdiscwasscannedusingCirrus(CarlZeissMed-itec,CInc.)OCT.CInC490CpatientsCundergoingCglaucomaCfollowCup,C5CretinoschisisCeyesCwereCfound(1.0%)C.CAverageagewas71.2years;1male,4female;refractionC.0.15±1.5D,intraocularpressureatonset12.2±1.3CmmHgandMDvalueatonset.3.73±3.4CdB.Theschisiswasinvolvedeachretinallayer,attachedtotheopticdiscandover-lappedwiththeretinalnerve.berlayerdefect(NFLD);nocaseinvolvedthemacula.OpticdiscpitwasobservedinConeCeye.CAlthoughCtheCintraocularCpressureCwasClow,CthreeCretinoschisisCeyesCwereCreducedCowingCtoCfurtherCreductionCofCintraocularCpressure.CAttentionCshouldCbeCpaidCinCmeasuringCtheCretinalCnerveC.berClayerCaroundCtheopticdisc(cpRNFL)withtheOCT,becauseincreaseinRNFLthicknessmeasurementwasobservedatthetimeofretinoschisis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1169.1177,C2017〕Keywords:緑内障,網膜分離症,視神経乳頭pit,視野障害.glaucoma,retinoschisis,opticdiscpit,visual.elddisturbance.Cはじめに緑内障症例に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めることがあり,黄斑部に及んだ例が報告されている1.4)が,視神経乳頭近傍に限局する場合,見過ごされやすい.近年ようやく光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い視神経乳頭近傍に限局した網膜分離症が注目されはじめているが報告は少ない5,6).今回当院で緑内障経過観察中の症例C5眼に視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症を認めたので,臨床所見を含め報告する.CI症例当院で緑内障にて経過観察中の男性C1人,女性C4人,計C5人の片眼C5眼にCCirrus(CarlCZeissCMeditec,CInc.)OCTにて傍視神経乳頭網膜分離症を認めた.当院ではC2012年より緑内障全例に経過観察中,6カ月ごとに視神経乳頭耳側の網膜断層撮影を施行し,網膜分離症疑い例にはC3-DCscanや検査〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(95)C1169表1症例の内訳網膜分離症発症部位経過観察期間(年)症例性別年齢左右屈折(D)眼軸長(mm)視神経乳頭発症まで発症後C1CMC62CRC0.5C24.37下C5.83C2.80C2CFC60CLC.2.75C24.59下C13.31C1.42C3CFC79CRC0.75C21.08下C18.63C1.08C4CFC69CLC0.25C21.74上C11.57C2.26C5CFC86CRC0.5C22.91下C9.3C0.1平均C71.2C.0.15±1.5C22.9±1.7C13.2±4.5表2症例の内訳症例初診時眼圧(mmHg)初診時CMD分離症発症時眼圧(mmHg)平均眼圧(mmHg)網膜分離症発症後平均眼圧発症時CMD(dB)CMDCslope(dB/年)分離症部CMDCslope(dB/年)CPit発症時CPVD分離症部位(Disc.CNFLD部)視野欠損部C1C21C2.35C12C13.4±1.9C12.2±1.1C.5.45C.0.35C.0.56+.耳下鼻上C2C13C.0.56C13C13.2±1.3C13.4±1.1C.5.47C.0.48C.0.59不明+耳下鼻上C3C14C.3.66C13C12.5±1.7C11.4±2.0C.7.17C.0.81C.1.16不明+耳下鼻上C4C13C1.84C10C8.6±0.9C8.5±1.0C1.39C0.01C.0.06不明+耳上鼻下C5C13C.1.95C13C12.6±1.8C.1.95C0.04C0.06不明+耳下上平均C14.8±3.5C.0.39±2.5C12.2±1.3C12.1±2.0C11.4±2.0C.3.73±3.4C.0.32±0.4C.0.5±0.5C部を変えて断層撮影を施行し視神経乳頭周囲の変化を精査している.平成C28年C3.8月のC6カ月間に緑内障患者C972眼490人中C5人C5眼に網膜分離症を認めた.症例の内訳を表1,2に示す.男性C1人,女性C4人,平均年齢C71.2歳,屈折は近視C1人,遠視C4人で高度近視症例はなかった.眼軸長は平均C22.9C±1.68Cmmであった.経過観察期間は平均C13.2C±4.5年,初診後網膜分離症を認める前は5.18年,認めた後はC0.1.2.8年経過をみていた(表1).初診時眼圧はC13.21mmHg,平均C14.8C±3.5CmmHg,初診時MD値はC.3.66.2.35CdB,平均C.0.39±2.5CdB,網膜分離症発症時の眼圧はC12.2C±1.3CmmHgと低めで発症時CMD値はC.7.17.+1.39CdB,平均C.3.73±3.4CdBであった(表2).網膜分離症は全例視神経乳頭から神経線維層菲薄部に一致し,黄斑部に分離症が及ぶ症例はなかった.症例C1は視神経乳頭耳下側に網膜分離症を認めた(図1a,b).視神経乳頭の分離症部に明らかなCpitを認め,OCTにてCpit部より網膜分離症をきたしている様子を認め,視神経乳頭陥凹内部に硝子体癒着を認めた(図1c,d).初診時眼圧はC21CmmHg,その後点眼薬で眼圧は下降し,経過観察中の平均眼圧はC13.4C±1.9CmmHg,視野感度低下部は下方網膜分離症に対応する上方視野欠損を認め,MDCslopeはC.0.35±0.2CdB/年であったが,下方網膜分離症に対応する上方視野は.0.56±0.24CdBの進行を認めた.図2に網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.眼圧と網膜厚とは連動してはいなかったが,最近は網膜分離症の程度はやや軽減している.症例C2は後部硝子体.離後の症例で,視神経乳頭陥凹は全体に深く下方C1/4に及ぶ網膜分離症をきたした.図3aにOCTCangiographyのCenCface画像,上層に網膜分離症部の神経線維層が描出されており,断面図(図3b)では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.蛍光眼底撮影では中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが漏出点は認めなかった(図4).眼圧平均は網膜分離症をきたした右眼C13.2C±1.3CmmHgと比較的安定しているが,MDslopeは.0.48±0.2CdB/年で他眼C0.11C±0.2CdB/年に比し,視野進行を認め,網膜分離症部に対応する上方視野はC.0.59±0.25dB/年の進行を認めた(表2).網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.この症例も眼圧と網膜分離症厚にあまり関連はないが網膜分離症がやや増悪傾向である(図5).本症例のCOCTでの視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(cpRNFL)の網膜分離症発症前後を比較すると,発症前に視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し左眼の菲薄化を認め図1症例1のOCT画像a:OCTenface画像で視神経乳頭耳下側の暗い部分が網膜分離症の範囲.Cb:OCT視神経乳頭下方断面,視神経乳頭Cpit部より下方に網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像にて耳下側のCpit部の深い陥凹を認める.Cd:OCT水平断にて視神経乳頭下方Cpit部内側に硝子体癒着を認める.C80016網膜厚(μm)700600500400300200100014121086420眼圧mmHg2014/112014/122015/12015/22015/32015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/72016/8disc下部厚(μm)耳側部厚(μm)眼圧(mmHg)図2症例1の眼圧と視神経乳頭下部,耳下側部の網膜厚眼圧と網膜厚は連動していない.Cるが(図6),網膜分離症発症後,下方網膜厚は厚く測定され,MDslopeはC.0.81±0.12dB/年と他眼C.0.35±0.17dB/年に左眼の神経線維層菲薄部が右眼より厚くなっている(図7).比し進行しており,とくに上方視野はC.1.16±0.2CdB/年の症例C3は右眼耳下側に網膜分離症を認め,OCTangiogra-進行を認めた(表2).phyの脈絡膜層で右眼視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた症例C4は左眼耳上側の網膜分離症を認め,視神経乳頭陥凹(図8).網膜分離症に対応する上方視野欠損の進行が著明で,は全体に拡大しており,OCT断面図で視神経乳頭陥凹内部図3症例2のOCT画像a:OCTangiographyのCenface画像,表層に網膜分離症部の神経線維層が描出されている.Cb:断面図では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.図4症例2の蛍光眼底撮影中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが,漏出点は認めなかった.80020網膜厚(μm)6001540010200500眼圧mmHg2015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/7disc下部厚(μm)眼圧(mmHg)図5症例2の眼圧と視神経乳頭下部の網膜分離症部の網膜厚経過眼圧と網膜厚は連動せず,網膜厚はやや増加し,網膜分離症が増悪傾向である.C図6症例2.網膜分離症発症前のOCT画像a:網膜分離症発症前のCcpRNFL測定にて右眼に比し左眼の視神経乳頭下部神経線維層の菲薄化を認める.Cb:同時期の視神経乳頭耳側網膜断面図.耳下側に網膜神経線維層の著明な菲薄化を認める.C図7症例2.網膜分離症発症後のOCT画像a:症例2,網膜分離症発症後のCcpRNFL測定にて左眼の視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し厚く測定されている.Cb:視神経乳頭下方に網膜分離症を発症し,網膜厚が厚くなっている.図8症例3のOCT画像a:症例3,右眼耳下側に網膜分離症を認める.OCTangiographyのCenface画像,網膜分離症部が暗く認められる.Cb:視神経乳頭下方の網膜分離症.外顆粒層より内層の各層間,層内に浮腫を認める.Cc:OCTangiographyの脈絡膜層で視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた.Cd:視神経乳頭耳下側の断面図.pitは不明だが網膜分離症に接する部分の陥凹が深くなっている.より網膜分離症発症を認める(図9).MDCslopeは+0.01±0.1CdB/年と進行傾向はなかったが,網膜分離症に対応する下方視野のCMDCslopeはC.0.06±0.08CdB/年と感度低下を認めた(表2).症例C5は約C1カ月前に右眼耳下側に網膜分離症を認めた症例である.OCTCangiographyのCenCface画像で網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く,分離症部と接していることがわかる(図10).CII考按緑内障眼における網膜分離症については以前より黄斑部に及ぶ症例が報告されていたが,最近ではCOCTの解像度の向上に伴い,視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症症例が報告され始めている.Leeら5)は視神経乳頭周囲の網膜神経線維層と黄斑部のCSD-OCTCscan,赤外線写真撮影により緑内障の網膜分離症を調査し,372人中C22人(5.9%)25眼に網膜分離症を認めたと報告.当院の症例と同様,網膜分離症は視神経乳頭に接続し,網膜神経線維層菲薄部にきたしており,C黄斑部に網膜分離症が波及している症例はなかったと報告している.Bayraktarら6)はCOCTを用いC940人の緑内障と801人の緑内障疑患者を比較調査し,緑内障群はC3.1%,緑内障疑群はC0.87%の網膜分離症を認めたとし,彼らの症例も黄斑部に網膜分離症が波及している症例はない.今回は当院で緑内障経過観察中,網膜分離症を視神経乳頭付近に認めたC5症例を報告した.当院では緑内障経過観察時全例半年ごとにOCTで視神経乳頭耳側断面を測定しており,当院での網膜分離症出現頻度は約C1.0%である.上記C2文献と比べると頻度が低いが,これらは視神経乳頭周囲全周の断面図CBモードスキャンを測定し調査しており,当院では視神経乳頭鼻側のみ測定したため,上方,下方にきたした軽度の網膜分離症を検出できなかったものと思われる.Leeらの報告5)では神経線維層のみの分離がC13眼C52%と報告しており,比較的軽度な症例が多く含まれていることがわかる.今回の症例では全例多層にわたって網膜分離をきたしていた.上記C2文献のように視神経乳頭サークルスキャンの断層像を用い軽度の症例を見逃さなければ,より高い検出率となる可図9症例4のOCT画像a,b:左眼耳上側の網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像,視神経乳頭陥凹は全体に拡大していた.Cd:OCT網膜分離症部断面図で視神経乳頭陥凹内部より分離症を認める.C図10症例5のOCT画像a:症例5,OCTangiographyのCenface画像,右眼耳下側に網膜分離症が暗く認められる.網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く分離症部と接している.Cb:網膜分離症部の断面図.視神経乳頭陥凹に接して網膜分離症を認める.能性がある.OCTの視神経乳頭周囲のサークルスキャンに緑内障の網膜分離症の原因は以前より黄斑部に網膜分離症おいては今回症例C2で表示したように,網膜分離症をきたすをきたした症例より考察されている.Zhaoら1)は正常眼圧と厚みが増加し,神経線維層菲薄部が改善したように見える緑内障の黄斑部網膜分離症症例を報告し,緑内障に伴い神経ため,断層像を直接チェックできない機種では注意が必要で線維層菲薄化や欠損部より液化硝子体が網膜内に入り,網膜ある.C分離症または網膜.離を引き起こす危険があると考察,Zumbroら2)は緑内障患者C5人の網膜分離症につき報告,明らかな視神経乳頭の先天異常を認めない症例に網膜分離症をきたしたことより,視神経乳頭に先天異常がなくても緑内障性陥凹拡大より黄斑網膜分離症,症例によっては網膜.離をきたすことを報告している.彼らは液化硝子体が乳頭陥凹の薄い組織の小孔より漏れ出た可能性がありCopticCpitと機序が類似していると考察している.Takashinaら3)はCpitを認めない緑内障患者に黄斑分離症をきたし硝子体手術を施行,視神経乳頭上膜様組織から網膜分離症をきたし,トンネル状に硝子体と網膜分離症がつながっていたと報告している.Inoueら4)は緑内障C11人C11眼の黄斑分離症(そのうちC10眼は.離症例)を報告,視神経乳頭陥凹拡大はC0.7以上でCpitは認めていない.脆弱神経線維層,視神経乳頭部に硝子体牽引が加わり,網膜血管に沿った裂け目より液化硝子体が入る可能性につき言及している.上記のように網膜分離症は乳頭pitを認めない緑内障例で多数報告されており,緑内障による視神経乳頭陥凹拡大症例に多く,低眼圧の症例でも報告されている.今回の症例は全例網膜分離症はすべて緑内障による網膜神経線維層菲薄部に生じ,OCTで視神経乳頭陥凹部内側の網膜分離を認めた.症例C1のみCopticpitとCpit部への硝子体癒着をCOCTにて認めた.その他の症例ではCpitを認めていない.OCTangiographyのCenface画像でCpitのある症例C1では網膜分離症に接する視神経乳頭部にCpitを認めたが,pitを認めていない症例C3,5において最深陥凹部が網膜分離部に偏り,近接していた.症例C2,4では陥凹が全体に拡大していた.症例2,3,5は網膜分離症を認めるC5年以上前より後部硝子体.離をきたしており,症例C4は分離症を認める約半年前に後部硝子体.離をきたしていた.Kiumehrら7)はEDI-OCTを用い緑内障C45眼中C34眼に篩状板障害を検出したと報告,そのうちC11眼は乳頭Cpitで他はCrimの菲薄化,欠損で下方耳下側に多く上方視野感度低下が強いことを報告,Youら8)は同様にCEDI-OCTで検出できた緑内障篩状板185眼中C40眼にClamellarhole(11眼),離断(36眼)を認めたことを報告している.このように緑内障症例では後天性pitのみでなくCOCTの発展とともに緑内障篩状板障害の頻度の高さが報告されてきている.今回COCTで網膜分離症を視神経乳頭陥凹内に認め,硝子体癒着が明らかな例以外に,後部硝子体.離数年後の硝子体牽引があった可能性の少ない症例にも網膜分離症を認めたことより,Zumbroら2)の考察したように乳頭下部の篩状板部の小孔より硝子体液が網膜内に侵入し網膜分離症をきたした可能性が考えられる.菲薄化した網膜や視神経乳頭縁,血管側の小孔から網膜分離症をきたす可能性については強度近視例や視神経乳頭部の硝子体癒着例でそのような症例を認めることがあるが,今回報告した網膜分離症は視神経乳頭内から隣接する網膜線維層欠損部に扇状に及んでおり,形状が異なると思われる.経過観察中,眼圧,硝子体牽引にかかわらず,網膜分離症部の網膜厚の増減を認め,自然閉鎖が困難な篩状板小孔が原因となっている可能性がある.網膜分離症は緑内障進行に影響があるかどうかだが,今回の症例1.3は網膜分離症に対応する視野の進行傾向を認め,症例C2,3は他眼に比しとくに著明な視野進行を認めた(表2).症例C4は耳上部の網膜分離症で軽度のためか進行は少なく,症例C5は網膜分離症を最近きたした状態で現在はまだ視野進行は認めていない.網膜分離症では分離した網膜神経線維層は著明に菲薄化しており,分離症自体が悪化要因になるかどうかは不明だが,眼圧が低めでも進行性緑内障に発症しやすい可能性がある.網膜分離症の原因が分離症部に接する視神経乳頭に篩状板障害をきたしているとするとCKiumehrら9)の症例と同様に進行しやすい可能性があると思われる.網膜分離症をきたした症例に対する治療法だが,黄斑部に進展した症例はCpit-macular症候群と同様硝子体手術を施行した症例が報告されており,Inoueら4)はC11眼に硝子体手術を施行し,消失まで平均C11カ月かかったと報告している.Zumbroら2)はC1眼は緑内障濾過手術,2眼は硝子体手術で治癒したと報告している.Leeら5)はC22眼中C2眼にトラベクレクトミー,5眼に緑内障点眼を追加し,眼圧下降後の網膜分離症は軽減したと報告している.以上の報告より緑内障合併網膜分離症は黄斑部に及ぶと黄斑.離をきたす危険性もあり,定期検査,注意が必要かと思われる.硝子体手術以外に緑内障手術でも網膜分離症が治癒した報告があり,機序が不明だが網膜分離症の発症に眼圧上昇や変動が誘因になっている可能性が報告されており5,9),濾過手術による大幅な眼圧低下が有効な可能性がある2,5).今回のC5症例は網膜分離症発症時眼圧はC10.13CmmHgと低めだが,視野進行傾向に伴い点眼薬を増加し症例C2以外はさらなる眼圧降下により網膜分離症は軽減している.症例C2に関しては網膜分離症をきたした後の眼圧平均はあまり低下していなかったのでさらに眼圧を低下させる必要があるのかもしれない.これら,網膜分離症の機序や治療についてはさらなる検討が必要かと思われる.網膜神経線維層菲薄部の網膜分離症はCOCTにて同部の断層撮影をしないと発見しにくい変化である.網膜分離症は悪化すると病変が黄斑部に及ぶ危険性もあり,より眼圧を下降させる必要があると思われる.また視神経乳頭周囲サークルスキャンでの神経線維層厚の増加に注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhaoCM,CLiCX:MacularCretinoschisisCassociatedCwithCnor-maltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1255-1258,C20112)ZumbroCDS,CJampolCLM,CFolkCJCCetCal:MacularCschisisCandCdetachmentCassociatedCwithCpresumedCacquiredCenlargedCopticCnerveCheadCcups.CAmCJCOphthalmolC144:C70-74,C20073)TakashinaS,SaitoW,NodaKetal:MembranetissueontheCopticCdiscCmayCcauseCmacularCschisisCassociatedCwithCaCglaucomatousCopticCdiscCwithoutCopticCdiscCpits.CClinCOphthalmolC7:883-887,C20134)InoueM,ItohY,RiiTetal:Macularretinoschisisassoci-atedCwithCglaucomatousCopticCneuropathyCinCeyesCwithCnormalCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC253:1447-1456,C20155)LeeEJ,KimTW,KimMetal:Peripapillaryretinoschisisinglaucomatouseyes.PLoSOneC9:e90129,C20146)BayraktarS,CebeciZ,KabaaliogluMetal:PeripapillaryretinoschisisCinCglaucomaCpatients.CJCOphthalmol,C2016:CID1612720C8pages,C20167)KiumehrCS,CParkCSC,CSyrilCDCetCal:InCvivoCevaluationCofCfocalClaminaCcribrosaCdefectsCinCglaucoma.CArchCOphthal-molC130:552-559,C20128)YouJY,ParkSC,SuDetal:FocallaminacribrosadefectsassociatedCwithCglaucomatousCrimCthinningCandCacquiredCpits.JAMAOphthalmolC131:314-320,C20139)KahookCMY,CNoeckerCRJ,CIshikawaCHCetCal:PeripapillaryCschisisCinCglaucomaCpatientsCwithCnarrowCanglesCandCincreasedCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC143:C697-699,C2007***