《原著》あたらしい眼科35(10):1432.1436,2018c日本人小児の中隔視神経異形成症11例における臨床所見の検討脇屋匡樹*1松村望*1藤田剛史*1浅野みづ季*1水木信久*2*1神奈川県立こども医療センター眼科*2横浜市立大学大学院視覚器病態学講座CReviewofClinicalFindingsin11JapaneseChildrenwithSepto-opticDysplasiaMasakiWakiya1),NozomiMatsumura1),TakeshiFujita1),MizukiAsano1)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:小児の中隔視神経異形成症(septo-opticdysplasia:SOD)の眼科所見と臨床像を報告する.対象および方法:1997.2016年に神奈川県立こども医療センター眼科を受診しCSODの診断基準を満たしたC11例について後ろ向きに検討した.結果:眼科的所見としては,視力障害は全例で認められ,視神経乳頭低形成がC10例(91%),眼振C8例(73%),斜視C8例(73%),黄斑低形成C1例(9%),眼球運動障害C1例(9%)がみられた.頭部CMRI所見としては,透明中隔は全欠損がC8例(73%),部分的欠損がC2例(18%)で認められ,視神経は両側低形成がC10例(91%),1例は正常範囲内であった.内分泌機能は,汎下垂体機能低下C4例(37%),成長ホルモン低値C2例(18%),正常範囲C4例(37%),不明C1例(9%)であった.結論:SODの臨床像は多彩であり,全身症状が少ない場合,眼科的所見を初期徴候として診断に至ることがある.視神経低形成を認めた場合には本疾患も念頭におき精査する必要がある.CPurpose:Toreportophthalmic.ndingsandclinicalfeaturesofsepto-opticdysplasia(SOD)inchildren.Meth-od:ClinicalCdataCfromC11CchildrenCwithCSODCwereCevaluatedCretrospectively.CResults:RegardingCophthalmicC.ndings,CallCtheCpatientsChadCvisualCdisturbance.COpticCdiscChypoplasiaCinCfundusCexaminationCwasCfoundCin91%,Cnystagmusandstrabismusin73%,andmacularhypoplasiaandocularmotilitydisorderin9%.MRIrevealedbilat-eralCopticCnerveChypoplasiaCin91%;1CpatientChadCnoCabnormality.CCompleteCabsenceCofCseptumCpellucidumCwasCfoundCin73%,CpartialCabsenceCin18%.CConclusions:TheCstateCandCseverityCofCSODCdependedConCtheCindividual.CAmongchildrenwithmildsystemicsymptoms,ophthalmic.ndingswereinitialsignsofSODinmostcases.There-fore,SODisoneoftheimportantdi.erentialdiagnosesinchildrenwithopticnervehypoplasia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1432.1436,C2018〕Keywords:中隔視神経異形成症,ドモルシア症候群,透明中隔,視神経低形成.septo-opticdysplasia,DeMorsi-er’ssyndrome,septumpellucidum,opticnervehypoplasia.Cはじめに中隔視神経異形成症(septo-opticCdysplasia:SOD)はCDeMorsier症候群ともよばれ,①脳の正中構造異常,②下垂体機能低下症,③視神経低形成をC3主徴とする先天性疾患である.罹患率は約C1/10,000生産児で,このC3主徴すべてを満たすものはCSOD患者全体のC30%と報告されており1,2),小児眼科領域では視神経低形成の鑑別診断としてあげられる疾患である.その歴史は古く,1941年に報告されたのが最初であり3),詳細な眼科所見を含めた臨床像に関して,海外では数十例規模の報告は存在するが4),筆者らの調べた限りわが国では眼科領域に関しては症例報告が散見されるのみである.今回筆者らは,神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)を受診した小児のCSOD患児C11例の眼科的所見および全身所見を含めた臨床所見についてまとめ,考察を交えて報告する.〔別刷請求先〕脇屋匡樹:〒232-8555神奈川県横浜市南区六ッ川C2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:MasakiWakiya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-shi,Kanagawa232-8555,JAPANC1432(120)表1SODの診断基準I.主要臨床症状1.眼症状(眼振・視力障害・半盲・斜視・小眼球)2.下垂体機能低下症(成長ホルモン分泌不全性低身長,中枢性甲状腺機能低下症,二次性副腎皮質機能低下症,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症,中枢性尿崩症),ただし,ゴナドトロピン分泌亢進による思春期早発症状を認めることもある.II.重要な検査所見1.眼底検査で視神経低形成を認める.2.頭部CMRIで,正中脳構造の異常(透明中隔欠損,脳梁欠損,視交叉低形成)を認める.III.その他の所見1.発達遅滞/知的障害I1かつCII2,II1かつCII2,または,I2かつCII2を満たすとき,本症と診断する.Cabc図1症例1:1歳6カ月,女児の頭部MRI所見a:T1WI冠状断.透明中隔は左右とも完全欠損している.Cb:T1WI矢状断.下垂体に異常は認めない.c:T2WI水平断.視神経は両眼とも細い.CI対象および方法1997年C1月.2016年C10月に当科を初診し,SODの診断基準を満たしたC11例(男児C6例,女児C5例,初診時平均年齢C1歳C10カ月)について後ろ向きに検討した.なお,診断基準については,本症は特定疾患(指定難病C134)に指定されており,厚生労働省の策定した診断基準(表1)5)を用いた.本研究は神奈川県立こども医療センター倫理委員会の承認を受けて実施した.CII代.表.症.例〔症例1〕在胎C35週,2,202g,切迫早産で出生した女児.0歳C6カ月時に眼振,内斜視の精査目的にて当科初診となった.軽度の精神発達遅滞あり,内分泌異常なし.1歳C6カ月時に施行した頭部CMRIにてCSODと診断された(図1).眼底検査では両側の視神経低形成を認めた.8歳C4カ月時の字ひとつ視力CVD=(0.15C×sph+1.25D(cyl.1.50DCAx170°),CVS=(0.35C×sph+2.50D(cyl.3.00DAx180°)であった.〔症例2〕在胎C39週,2,870g,正常分娩で出生した女児.周産期異常なし.0歳C6カ月時に内斜視を指摘され,0歳9カ月時に当科を紹介初診.左眼内斜視および左の軽度外転制限がみられた.右眼健眼遮閉開始.1歳C9カ月時に左眼内斜視(30°)に対し斜視手術を施行.その後,眼鏡装用を開始した.明らかな精神運動発達遅滞なし,内分泌異常なし.3歳C11カ月時に眼底検査で左眼優位の両側視神経低形成が認められ(図2),視力不良および視神経低形成の精査目的にて撮影した頭部CMRIにて,左透明中隔の部分欠損と左に優位な両側視神経の形成不全がみられ,SODと診断された(図3).6歳C9カ月時の字ひとつ視力CVD=(0.6C×sph+0.50D(cyl.1.75DAx180°),VS=(0.25C×sph+0.50D(cyl.2.00DAx180°)であった.動的視野検査では左眼に広く視野異常を認めた(図4).CIII結果1.眼科所見および臨床所見a.眼.科.所.見(表2)視力障害は全例で認められ,良いほうの矯正視力は,光覚弁以下C2例(18%),手動弁.0.01がC3例(27%),0.02.0.3がC3例(27%),0.3以上がC3例(27%)であった.他の眼科的所見として,眼振C8例(73%),眼位異常C8例(73%)が多図2症例2:6歳9カ月,女児の眼底写真乳頭黄斑/乳頭径比(distancebetweenthecentersofthediscandthemacula/discdiameter:DM/DD比)は右眼C3.11,左眼C4.00と左眼視神経乳頭のほうが小さい.図3症例2:SOD不全型,6歳9カ月,女児の頭部MRI所見a:T1WI冠状断,Cb:T1WI水平断.左透明中隔は部分的に欠損している.右は正常である(.).Cc:T2WI水平断.視神経は両眼とも細いが左眼のほうが細い.Cd:右眼,Ce:左眼.T1WI矢状断でも左眼のほうが視神経が細いのがわかる.かった.眼振の性状は,確認できた症例に関しては水平眼振屈折値に関しては,遠視も近視も認められたが,いずれもであった.眼位に関しては内斜視,外斜視,正位とさまざま中等度にとどまり,4Dを超える高度の屈折異常はみられなであった.左眼の軽度外転制限がC1例にみられた.かった.両側視神経乳頭低形成がC10例(91%)でみられ,1図4症例2:SOD不全型,6歳9カ月,女児の動的視野検査視神経低形成が重度な左眼に,広く視野異常を認める.表2眼科所見症例性別右眼屈折値(※)左眼右眼最高視力左眼眼位視神経乳頭その他の眼所見1女C.0.5DC.1DC0.15C0.35外斜視両眼低形成眼振C2女C.0.875DC±0DC0.6C0.25内斜視両眼低形成だが左眼のほうが小乳頭左軽度外転制限C3男+0.75D+0.75DC0.2C0.1内斜視両眼低形成眼振C4女+0.5D+0.5D光覚あり光覚あり正位両眼低形成眼振C5男+1.25D+1.125D追視なし追視なし不明正常範囲内なしC6女C.3.75DC.3.75DC0.005C0.025内斜視両眼低形成眼振C7女C.0.75DC.0.75D追視あり追視あり内斜視両眼低形成眼振C8男C.2.0DC.2.0D光覚あり光覚あり内斜視両眼低形成両眼黄斑低形成C9男C.3.875DC.3.25DC0.6C0.01外斜視両眼低形成だが左眼のほうが小乳頭眼振C10男+1.5D+1.5DC0.2C0.2外斜視両眼低形成眼振C11男C.0.75DC.0.5D追視あり追視あり不明両眼低形成眼振(※)屈折値は最終受診時の等価球面値とした.例は正常範囲内であった.両側視神経乳頭の異常を認める症例のうち,その程度に明らかな左右差を認めるものがC2例あった.このほかの眼底所見としては,黄斑低形成がC1例でみられた.Cb.頭部MRI所見(表3)透明中隔に関して,全欠損はC8例(73%),部分的欠損は2例(18%)で認められ,1例は正常範囲内であった.視神経に関しては両眼性の視神経低形成がC10例(91%),うちC2例は視神経低形成の程度に左右差があった.画像上正常であるものはC1例あったが,これは検眼上視神経乳頭に異常を認めない症例と同一症例である.視神経を含めた視路の所見に関しては,眼窩内視神経,頭蓋内視神経,視交叉,視索と全体的に異常がみられた.Cc.内分泌所見汎下垂体機能低下C4例(37%),成長ホルモン低値C2例(18%),正常範囲C4例(37%),不明C1例(9%)であった.C2.診断の契機となった初発所見と平均診断月齢(表4)診断の契機となった所見は,眼科所見がC4例,内分泌所見がC4例,画像所見がC2例,神経学的所見がC1例であった.CIV考按SODの病因は多岐にわたり,HESX-I,SOX-2,3などの遺伝子変異が報告されている6)が,遺伝子診断されるものは1%以下にすぎず,多くは原因不明の孤発例である.環境因子,催奇形因子として若年出産や母体の薬物,アルコール摂取や母体喫煙,母体感染症,早産などの影響が報告されている.臨床症状に関しては,出生後まもなく視力障害や複数の先天異常が契機で診断に至る場合や,後から成長障害などの下垂体症状を示して診断に至る場合など,表現型は多様であり,重症度は個人差が大きい1,2).出生直後に突然死した症表3頭部MRI所見症例透明中隔の所見視神経,視交叉,視索の所見下垂体の所見その他の所見1両側の全欠損両側の眼窩内視神経,頭蓋内視神経,視交叉,視索の正常範囲内なし低形成右は正常両側の眼窩内視神経,頭蓋内視神経は低形成だが,左2左は部分的に欠損眼のほうがより細い.視交叉と視索は正常範囲内正常範囲内なし両側の頭蓋内視神経,視交叉,視索の低形成.眼窯内3両側の全欠損視神経は正常範囲内正常範囲内なし両側の眼窓内視神経.頭蓋内視神経.視交叉,視索の4両側の全欠損低形成正常範囲内なしC5両側の全欠損正常範囲内下垂体柄の狭小,異所脳梁低形成性後葉C6両側の全欠損両側の視神経低形成(部位は不明)下垂体が確認できない大脳皮質の広範な腫脹,脳梁低形成脳実質萎縮,脳室拡7両側の全欠損両側の眼窩内,頭蓋内視神経,視交叉,視索の低形成下垂体が確認できない大下垂体柄の狭小,異所頭頂葉,後頭葉の脳C8両側の全欠損両側の視神経低形成(部位は不明)性後葉実質破壊像,嗅球低形成C9正常範囲内視交叉の低形成,両側の眼窩内視神経,頭蓋内視神経,下垂体柄の狭小なし視索の低形成左大脳半球全体の破10両側の全欠損両側視神経の低形成(部位は不明)正常範囲内壊像,脳梁低形成右は部分的に欠損両側の眼窩内視神経,頭蓋内視神経の低形成.視交叉,左大脳半球全体の破11左は全欠損視索は不明下垂体が確認できない壊像表4診断の契機となった初発徴候と診断時平均月齢SOD診断の契機となった初発徴候眼科所見4例(36%)内分泌所見4例(36%)画像所見(胎児期の脳室拡大)2例(18%)神経学的所見(右片麻痺)1例(9%)初発徴候と診断時平均月齢眼科所見生後C18カ月内分泌所見生後C0.9カ月画像所見(胎児期の脳室拡大)在胎37週神経学的所見(右片麻痺)生後C26カ月例も報告されている7).筆者らの結果では,眼科的症状を初発徴候として診断に至った症例が内分泌症状を初発として並んで多く,36%であった.初発症状が内分泌症状であった症例の診断時平均月齢がもっとも低かったのは,全身状態が悪い症例が多いためと考えられた.眼科所見としては,今回の結果では視力障害は必発であったが,視力障害の程度は,光覚なし.矯正C0.6と,さまざまであることがわかった.視神経乳頭の低形成はC2番目に多くみられたが,乳幼児の場合は詳細な眼底検査や画像診断がむずかしいことから,視神経低形成を初診時から明確に診断できない症例もあった.次に多かった眼振,斜視に関しては比較的発見しやすい症状であることから,眼科の初発症状である症例が多かった.出生時から認められる眼振の鑑別としては,先天性眼振,黄斑低形成,視神経低形成,脳の形成異常などが含まれ,眼振の性状および眼振以外の臨床症状や神経学的所見により鑑別を行うが,今回の結果から,MRIによる頭蓋内の精査がとくに重要であると考えられた.また,症例C2のように初診時内斜視と診断されていた症例もあり,明らかな精神発達遅滞を伴わない弱視,眼振,斜視などの症例においても,SODを念頭において鑑別診断を行う必要があると考えられた.今後,さらなる症例の検討がなされ,SODの理解が深まることが望まれる.文献1)FardMA,Wu-ChenWY,ManBLetal:Septo-opticdys-plasia.PediatrEndocrinolRevC8:18-24,C20102)前田知己:中隔視神経異形成.別冊日本臨牀,新領域別症候群シリーズC29,神経症候群(第C2版)4,p87-89,日本臨牀,20143)ReevesDL:CongenitalCabsenceCofCtheCseptumCpellu-cidum.BullJohnsHopkinsHospC69:61-71,C19414)RiedlCSW,CMullner-EidenbockCA,CPrayerCDCetal:Auxo-logical,ophthalmological,neurologicalandMRI.ndingsin25CAustrianCpatientsCwithsepto-opticCdysplasia(SOD)C.CHormResC3:16-19,C20025)http://www.nanbyou.or.jp/entry/4403診断基準6)KelbermanCD,CDattaniMT:GeneticsCofCsepto-opticCdys-plasia.PituitaryC10:393-407,C20077)BrodskyMC,ConteFA,TaylorDetal:Suddendeathinsepto-opticdysplasia.Reportof5cases.ArchOphthalmolC115:66-67,C1997