《原著》あたらしい眼科40(4):569.573,2023c頭部MRIにて構造的異常を認めた視索症候群の1例土橋一生*1原ルミ子*1槃木悠人*1中井駿一朗*1安田絵里子*1前田祥史*1中村誠*2*1加古川中央市民病院眼科*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofOpticTractSyndromeinwhichStructuralAbnormalityWasRevealedbyMagneticResonanceImagingKazukiTsuchihashi1),RumikoHara1),YutoIwaki1),ShunichiroNakai1),ErikoYasuda1),YoshifumiMaeda1)andMakotoNakamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,2)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:磁気共鳴画像(MRI)で構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告する.症例:52歳,女性.1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医を受診.光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の菲薄化および視野異常が認められたため,当院紹介受診となった.矯正視力は両眼ともC1.2と良好であったが,右眼の相対的求心路瞳孔障害が陽性であり,両眼の視神経乳頭に部分的蒼白を認めた.OCTで右眼は耳鼻側の乳頭周囲神経線維層厚と鼻側黄斑網膜の菲薄化,左眼は耳上下側の乳頭周囲神経線維層厚と耳側黄斑網膜の菲薄化があり,視野検査では右側の非調和性同名半盲を呈していた.MRIで左側視索の萎縮像があり,左視索症候群と診断した.結論:MRIで構造的異常を確認しえた貴重な視索症候群のC1例である.CPurpose:Toreportacaseofoptictractsyndromeinwhichstructuralabnormalitywasrevealedbymagneticresonanceimaging(MRI)C.Casereport:A52-year-oldfemalepatientwhowasbeingseenatanotherhospitalduetoCaC1-yearChistoryCofCvisualClossCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCafterCopticalCcoherenceCtomography(OCT)revealedathinningoftheretinalnerve.berlayerandvisual.elddefect.Uponexamination,hercorrectedvisualacuitywas1.2inbotheyes,relativea.erentpupillarydefect(RAPD)waspresentintherighteye,andbothopticCdiscsCwereCpartiallyCpaleCinCcolor.COCTCrevealedCreductionCofCcircumperipapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness(cpRNFLT)ofthetemporalandnasalsegmentsintherighteyeandthesuperior-andinferior-temporalsegmentinthelefteye.Visual.eldexaminationdemonstratedarightincongruoushomonymoushemianopsia,andMRIrevealedaleftoptictractatrophy,whichledtothediagnosisofoptictractsyndrome.Conclusion:WereportararecaseofoptictractsyndromeinwhichanatomicalabnormalitieswererevealedbyMRI.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(4):569.573,C2023〕Keywords:視索症候群,磁気共鳴画像.optictractsyndrome,magneticresonanceimaging.Cはじめに視索症候群は病変の反対側の非調和性同名半盲,相対的求心路瞳孔障害(relativeCa.erentCpapillarydefect:RAPD)および特徴的な視神経萎縮を呈する片眼性の視索機能異常である.近年では光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)の発達により定量的な乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)の計測や黄斑部解析が可能となり,その特徴的な所見などから視索症候群の診断が比較的容易になってきているが,多くは臨床的診断であり,実際に磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)で責任病巣が確認できた報告は少ない.今回,MRIで視索の構造的異常を認めた患者を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,女性.〔別刷請求先〕土橋一生:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:KazukiTsuchihashi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Honmachi,Kakogawacho,KakogawaCity,Hyogo675-8611,JAPANC図1眼底写真上段:初診時の眼底所見.下段:視神経乳頭拡大写真.主訴:左眼の視力低下.現病歴:1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診.OCTで網膜神経線維層の菲薄化や静的視野検査での右同名半盲があったため,精査目的に加古川中央市民病院紹介受診となった.既往歴:12年前に交通事故による頭部外傷.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph+1.25D),左眼C0.9(1.2C×sph+1.25D),眼圧は右眼C16.0mmHg,左眼C14.7mmHg,眼位は正位で眼球運動に異常はなかった.限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)は右眼C37CHz,左眼C37CHzで左右差なく,対光反射も両眼とも迅速かつ十分であったが,右眼のCRAPDは陽性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなかった.視神経乳頭は右眼で耳鼻側が蒼白化し,いわゆる帯状萎縮を呈していた.一方,左眼は耳上下方向に蒼白化し,砂時計状萎縮を呈していた(図1).また,それに一致してCOCT(Heidelberg社製CSpectralis)のcpRNFLTマップでは右眼は鼻側と耳側の菲薄化があり(図2),左眼は耳上側・耳下側が菲薄化していた.黄斑部網膜厚のカラーマップでも右眼は乳頭黄斑線維束領域が相対的に菲薄化し,左眼は上下の弓状線維領域が菲薄化していた.これらの形態的異常に一致してCHumphrey視野検査(図3)では右同名半盲,Goldmann視野検査(図4)では右非調和性同名半盲を認めた.以上の所見から左視索症候群を疑い,頭部MRIを施行したところ,T1強調画像で左視索に明らかな萎縮性変化を認め(図5),左視索症候群と診断した.ほかに動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などを認めず,頭部外傷の既往があったことから以前の外傷が原因と考えた.CII考按視索症候群は先天性あるいは外傷や動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などの後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,反対側の非調和性同名半盲と健側のCRAPD陽性,半盲様視神経乳頭萎縮の三つを特徴とする疾患である.その診断においてはこれa右眼bら三徴からの臨床的所見に基づいたものが主体であり,実際に視索の構造的変化を明らかにした既報は少ない1).近年COCTの飛躍的な発展に伴い,視神経疾患の分野でもCmultimodalimagingによる診断が普及し,視索症候群の診断においてもその有用性が報告されている2).視神経線維は視交叉部で交叉性線維と非交叉性線維に分かれるが,一側の視索障害では,反対側の交叉性線維と同側の非交叉性線維が障害されるため反対側の同名半盲となる.また,交叉性神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,これらの神経線維は視神経乳頭のおもに鼻耳側に投射することから,反対側(健眼)では鼻耳側のCcpRNFLが菲薄化し,検眼鏡的に視神経乳頭は帯状萎縮を呈する.一方,非交叉性神経線維は耳側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であるため,同側(患眼)の視神経乳頭においてとくに上下弓状線維が萎縮し,視神経乳頭は上下の砂時計状萎縮を呈する.これらの所見は視索障害に特徴的である.また,視索障害では,反対側のCRAPDが陽性となり,その理由として交叉線維が非交叉線維よりも多いためとした報告も多いが,そのあたりはまだ議論の余地がある3).本症例は視力低下を契機に眼科受診となったが,視力低下の原因は屈折異常によるものであり,たまたま施行したCOCTで異常があったため視索症候群を疑うきっかけとなった.反対側図3Humphrey視野検査(右)の非調和性同名半盲と右眼のCRAPD陽性,特徴的な視神経萎縮といったC3徴に加え,OCTでもCcpRNFLTならびに黄斑網膜マップにおいてそれぞれの神経線維障害に一致した菲薄化が証明され,左側の視索症候群を強く疑う根拠となった.通常視索症候群は,前述のような後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,他の神経学的異常があれば発症原因や発症時期を容易に推測することが可能であるが,本症例のように他の神経学的異常がなく,本人の自覚症状もない場合にはたまたま眼科受診をした際に発見されることも珍しくないと思われる.過去の外傷歴があっても,すでにその記憶がない場合もある.同名半盲性の視神経萎縮は通常視索障害後C6週以図2OCT所見a:乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFLT)マップ.Cb:黄斑部網膜厚のカラーマップ.左眼右眼図4Goldmann視野検査図5MRI所見a:頭部CMRI(T1強調画像).b:視索拡大像.左視索(.)に萎縮性変化を認める.内に発症するといわれており1),その診断においてCOCTは非常に有用であるが,MRIで構造的変化をとらえた報告は少なく,実際に構造的変化が生じているのかどうかは十分に解明されていない.本症例ではC12年前の事故と,既報に比べ発症までの経過は長い.視路病変のなかにはアクアポリン4やアクアポリンC9の異常値を示す病変もあるが4),上記所見により診断がついており,いまなお視力良好であることから,検査の意義が乏しかったために測定しなかった.Tat-sumiら5)は外傷性視索症候群のC1例において,受傷C1カ月のCMRIには異常所見はみられなかったとも述べている一方,Bruceら6)は一連の外傷性同名半盲症例を調べ,そのC10%に視索障害が起こるとしているが,MRIで異常を証明するのは神経放射線科医でも困難だと述べており,視索症候群におけるCMRIを用いた局在診断のむずかしさがうかがわれる.わが国で視索の器質的異常を証明した報告はCHayashiら1)の小児期てんかん既往のある視索症候群のC1症例しか見当たらず,その原因として胎生期または出生早期に生じた頭蓋内病変が原因と推測している.今回,本症例ではCT1強調画像で構造的変化を認めたため,それ以上の画像検査は行っていないが,NaghamらはCMRIの拡散テンソル画像(DTI)が外傷性視索症候群を診断するのに有用だと述べている7).拡散テンソル画像は拡散強調画像をもとに一定の方向に向かって連続する神経線維を画像化したもので,視索症候群において萎縮した視索が明瞭に描出されている.一般的なCMRIで原因の局在が判明しない場合には試してみてもよいかもしれない.今回筆者らはCOCT・視野検査でその特徴的な所見から視索症候群が疑われ,MRIにて視索に構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HayashiCK,CIshiiN:MorphologicalCchangesCofCtheCopticCtractinacaseofoptictractsyndrome.JpnJOphthalmolC69:231-236,C20152)金森章泰:視交叉部・視索疾患のOCT.神経眼科C31:175-180,C20143)KupferC,ChumbleyL,DownerJetal:Quantitativehis-tologyCofCopticCnerve,CopticCtractCandClateralCgeniculateCnucleusinman.JAnatC101:393-401,C19674)根木昭:視神経疾患の新しい展開.日眼会誌C117:187-210,C20135)TatsumiY,KanamoriA,KusuharaAetal:Retinalnerve.berClayerCthicknessCinCopticCtractCsyndrome.CJpnCJCOpthalmolC49:294-296,C20056)BruceCBB,CZhangCX,CKedarCSCetal:TraumaticChomony-moushemianopia.JNeurolNeurosurgPsychiatryC77:986-988,C20067)NaghamCA,CWaseemCA,CSteveCHCetal:Di.usionCtensorCimagingCinCtraumaticCopticCtractCsyndrome.CJCNeuro-OpthamolC34:95-104,C2014***