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特別養護老人ホームに通所している高齢者の視覚関連Quality of Life

2020年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(6):763.767,2020c特別養護老人ホームに通所している高齢者の視覚関連QualityofLife多々良俊哉前田史篤生方北斗菊入昭金子弘阿部春樹新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科CVision-RelatedQualityofLifeinElderlySubjectsinaSpecialElderlyNursingHomeShunyaTatara,FumiatsuMaeda,HokutoUbukata,AkiraKikuiri,HiroshiKanekoandHarukiAbeCNiigataUniversityofHealthandWelfareDepartmentofOrthopticsandVisualSciencesC特別養護老人ホームに通所している高齢者(平均年齢C±標準偏差C86.0C±5.3歳)を対象に,25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)を用いて視覚に関連した健康関連CQOL尺度を測定し,視力との関係性について検討した.対象者の眼鏡常用率はC12.5%であった.本研究では矯正視力に加えて,眼鏡常用者は眼鏡視力,未常用者の場合は裸眼視力を測定し,それらを日常生活視力として評価した.日常生活視力は矯正視力と比較して,遠見でC0.23log(p<0.01),近見でC0.20log(p<0.01)低値であった.NEIVFQ-25の「遠見視力による行動」のスコアはC81.0,「近見視力による行動」では,74.0であり,それらはCworseeyeの日常生活視力と強く相関した(p<0.01).特別養護老人ホームに通所している高齢者には眼鏡非常用者が多かった.これらのことから高齢者は適切な屈折矯正がされていないため,日常生活のなかで行動制限が生じている可能性が示唆された.CInthisstudy,wemeasuredthehealth-relatedqualityoflife(QOL)levelusingthe25-itemNationalEyeInsti-tuteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)amongelderlysubjects[meanage:86.0C±5.3(meanC±standarddeviation)years]inaspecialelderlynursinghome,andexaminedtherelationshipbetweenQOLandvisualacuity(VA)C.OfCtheCsubjectsCexamined,12.5%CworeCglassesCregularly.CInCadditionCtoCcorrectedCVA,CweCmeasuredCVACwithglassesornakedeyeasvisionindailylife(dailylifeVA)C.DailylifeVAwas0.23Clog(p<0.01)inthedistanceand0.20Clog(p<0.01)inCtheCnearCvisionCcomparedCwithCtheCcorrectedCVA.CTheCNEICVFQ-25scoreCwasC81.0forC“di.cultyCwithCdistance-visionCactivities”andC74.0for“di.cultyCwithCnear-visionCactivities”,andCmostCofCtheCexaminedCsubjectsCdidCnotCwearCglassesCwhileCatCtheCfacility.COurC.ndingsCsuggestCthatCseniorsCmayCnotChaveCappropriaterefractivecorrection,andthatbehavioralrestrictionsmayoccurintheirdailylives.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):763.767,C2020〕Keywords:NEIVFQ-25,QOL,視覚,高齢者,特別養護老人ホーム.NEICVFQ-25,QOL,visual,elderly,spe-cialelderlynursinghome.Cはじめに2018年におけるわが国の平均寿命1)は女性C87.3歳,男性81.3歳であり,65歳以上の人口が全人口のC28.1%を占める超高齢社会である.加齢による機能低下は身体のみならず視機能にも生じ,qualityCoflife(QOL)の低下をきたす2).西脇ら3)は眼科の患者を対象とした研究において,眼疾患によって生じた視機能低下がCQOLに及ぼす影響について検討している.しかし眼科に通院せず,具体的な医療の介入を受けていない高齢者を対象とした報告は少ない4,5).信頼性と妥当性が確認されたCQOL尺度にC25-itemNation-alCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)6)がある.NEIVFQ-25は,51の質問項目があるCTheCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionCQuestionnaireの短縮版であり,Suzukamoら7)がその日本語版を作成した.CNEIVFQ-25は見え方による身体的,精神的,そして社会的な生活上の制限の程度を測定する.12の領域(下位尺度)〔別刷請求先〕多々良俊哉:〒950-3198新潟県新潟市北区島見町C1398新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科Reprintrequests:ShunyaTatara,NiigataUniversityofHealthandWelfareDepartmentofOrthopticsandVisualSciences,1398Shimami-cho,Kita-ku,Niigata-shi,Niigata950-3198,JAPANCから構成され,これらの領域は,眼疾患をもつ患者だけでなく,眼疾患をもたない人にも共通する内容で構成されている.したがって疾患別のCQOLが比較できるほか,疾患の有無にかかわらず利用することが可能である.本研究では特別養護老人ホームに通所している高齢者の視機能を評価し,NEIVFQ-25から求めた視覚に関連した健康関連CQOLとの関係性について検討した.CI対象および方法1.対象対象は特別養護老人ホームCAに通所している高齢者C40名で,その内訳は女性C36名,男性C4名であった.年齢はC70.96歳であり,平均年齢C±標準偏差はC86.0C±5.3歳であった.C2.方法a.NEIVFQ.25対象者に対し,NEIVFQ-25をC1対C1の面接方式で行った.検者C1名が各項目を読み上げ,対象者にC5段階の回答肢のなかから選択させた.NEIVFQ-25のデータ分析は「NEIVFQ-25日本語版(Ver1.4)使用上の注意」に従った.具体的には調査表の各項目にコード化された数値を再コード化のうえ,各項目をC0.100のスケールで得点化して下位尺度を算出した.検討した下位尺度はCSuzukamoら7)の使用法を参考に「全体的見え方」「近見視力による行動」「遠見視力による行動」「見え方による社会生活機能」「見え方による心の健康」「見え方による役割制限」「見え方による自立」のC7項目とした.スコア化についてはスコアC100を最高値としC0を最低値とした.回答が得られなかった項目については,平均代入法を用いて処理した.Cb.視力検査対象者には視機能検査として遠見および近見の視力検査を行い,得られた視力値はClogMAR値に換算した.なお,視力検査には視力表(半田屋商店)とひらかな万国近点検査表(半田屋商店)を用いた.室内照度はC270Clxであった.左右表1眼鏡の使用目的使用目的人数(常用者数)遠見3(1)近見5(1)遠見および近見10(2)中間距離および近見1(1)不明4(0)計C23(5)眼それぞれの完全屈折矯正下における矯正視力と日常生活における視力(以下,日常生活視力)を測定した.日常生活視力を求めるため,眼鏡常用者では眼鏡装用下の眼鏡視力を測定し,眼鏡を常用していない対象者の場合は裸眼視力を測った.また,左右眼の視力を比較し,視力良好であった眼をCbettereye,不良であった眼をCworseeyeと定義した.分析では矯正視力と日常生活視力について,左右眼およびCbettereye,worseeyeの視力値を比較した.Cc.統計解析遠見視力と近見視力,そして日常生活視力と矯正視力との比較をCWilcoxonの符号付き順位検定にて行った.遠見のCbettereye,worseeyeそれぞれの日常生活視力とNEIVFQ-25における下位尺度の「遠見視力による行動」の項目との相関を,Spearmanの順位相関係数を用いて求めた.同様に,近見のCbettereye,worseeyeそれぞれの日常生活視力とCNEIVFQ-25における下位尺度の「近見視力による行動」の項目との相関を,Spearmanの順位相関係数を用いて求めた.なお,統計処理において,小数視力C0.01未満であったC2眼は小数視力C0.01として扱った.すべての統計解析において,有意水準C5%未満を統計学的有意差ありとして判定した.本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した.CII結果1.眼鏡保有率と使用率眼鏡保有者はC40名中C23名(57%)であった.そのうち,眼鏡常用者はC5名であり全体のC12.5%であった.眼鏡の使用目的は表1のとおりであった.C2.視力矯正視力と日常生活視力(平均値C±標準偏差)を表2に示した.遠見視力よりも近見視力が低かった.日常生活視力は矯正視力と比較して,遠見でC0.23log(p<0.01),近見で0.20log(p<0.01)低値であった.C3.NEIVFQ.25の下位尺度スコアと日常生活視力との関係NEIVFQ-25の下位尺度スコア(平均値C±標準誤差)は「全体的見え方」66.3C±3.0,「近見視力による行動」73.9C±4.5,「遠見視力による行動」81.0C±3.6,「見え方による社会生活機能」83.1C±3.9,「見え方による心の健康」76.6C±4.3,「見え方による役割制限」78.8C±3.6,「見え方による自立」78.1C±4.1であり,対象者は「遠見視力による行動」よりも「近見視力による行動」に制限を感じていた(図1).「遠見視力による行動」「近見視力による行動」ともにCbet-tereyeに比べてCworseeyeの日常生活視力と相関が強かった(図2~5).表2対象者の視力値遠見近見p値矯正視力右眼C0.35±0.42C0.49±0.41Cp=0.01左眼C0.41±0.36C0.54±0.39p<0.01日常生活視力右眼C0.58±0.44C0.72±0.36Cp=0.02左眼C0.63±0.40C0.72±0.36Cp=0.06矯正視力CbettereyeC0.24±0.28C0.37±0.27p<0.01CworseeyeC0.51±0.44C0.67±0.45p<0.01日常生活視力CbettereyeC0.42±0.29C0.59±0.27p<0.01CworseeyeC0.80±0.44C0.85±0.40Cp=0.25C100100NEIVFQ-25「遠見視力による行動」908070605040302010NEIVFQ-25スコアGVNVDVSFMHRLDPNEIVFQ-25下位尺度図1NEIVFQ.25の下位尺度検討を行った下位尺度は「全体的見え方(generalvision:GV)」「近見視力による行動(nearvision:NV)」「遠見視力による行動(distancevision:DV)」「見え方による社会生活機能(socialfunction:SF)」「見え方による心の健康(mentalhealth:MH)」「見え方による役割制限(rolelimitations:RL)」「見え方による自立(dependency:DP)」のC7項目であった.バーは平均値を,エラーバーは標準誤差を示す.CIII考按1.眼鏡保有率と使用率本研究における眼鏡常用率はC12.5%であった.宮崎ら4)が特別養護老人ホームで行った調査では入所者の眼鏡常用率は20.0%であり,入所者は眼鏡の作製に対して「受診に手間がかかる」「介護者に依頼すると面倒なことを増やすだけ」といった意見があったと報告している.特別養護老人ホームの高齢者は眼科への受診が容易ではなく,眼鏡を作製しにくい状況にあると考えられる.また,河鍋8)はC40歳代に初診した患者の他覚的屈折度をC40年にわたって測定し,その屈折度の変化は球面度数+1.81D,円柱度数C.0.87Dであったと報告している.このことから本研究の対象群においても,経年的な屈折度の変化が生じていることが推測され,眼鏡を常用していない理由の一つとして眼と眼鏡の度数が合っていない可能性が考えられる.さらにCbettereyeの矯正視力がC0.24(121)02.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)bettereyeの日常生活視力(遠見)図2「遠見視力による行動」とbettereyeの日常生活視力縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「遠見視力による行動のスコア」,横軸はCbettereyeの日常生活視力(遠見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.r=.0.293,p<0.01で弱い相関があった.C±0.28であったことから白内障などの影響が推測され,眼鏡を装用しても視力が改善しにくいことも眼鏡を常用しない要因としてあげられる.C2.視力値日常生活視力は遠見のCbettereyeで+0.42±0.29,近見のCbettereyeで+0.59±0.27であった.平均年齢C77.52C±5.33歳を対象とした林の調査9)においてCbettereyeの日常生活視力(小数視力)は遠見でC0.63(logMAR換算値C0.20),近見で0.44(logMAR換算値C0.36)であったと報告されている.視力はC45歳を境として眼疾患がない場合でも加齢とともに低下する傾向にあり,75歳以上では急激に低下する10)ため,対象群の年齢の違いが今回の差の理由だと推測される.C3.NEIVFQ.25の下位尺度スコアと日常生活視力との関係大鹿ら11)は白内障患者における手術前後のCNEICVFQ-25あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C765100100908080NEIVFQ-25「遠見視力による行動」NEIVFQ-25「近見視力による行動」707060504030201060504030201002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)worseeyeの日常生活視力(遠見)図3「遠見視力による行動」とworseeyeの日常生活視力(遠見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「遠見視力による行動のスコア」,横軸はCworseeyeの日常生活視力(遠見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.495,p<0.01で相関があった.C10002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)bettereyeの日常生活視力(近見)図4「近見視力による行動」とbettereyeの日常生活視力(近見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「近見視力による行動のスコア」,横軸はCbettereyeの日常生活視力(近見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.263,p=0.12であった.た結果,「遠見視力による行動」および「近見視力による行90807060504030201002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)worseeyeの日常生活視力(近見)図5「近見視力による行動」とworseeyeの日常生NEIVFQ-25「近見視力による行動」動」のスコアは視力と相関した.大鹿ら11)の医療機関の研究において,その対象はClogMAR値C0.15以下の患者であった.本研究の対象は特別養護老人ホームの高齢者であり,そのClogMAR値は遠見でC2.0からC.0.08,近見でC2.0からC0.0と幅があった.そのためCQOLスコアについても一定の幅があり,両者の相関が得られやすかったと推測される.本研究の限界としては,調査対象が特別養護老人ホームAのC1施設のみであったことがあげられる.しかし,得られたデータは宮崎ら4)と同様の傾向を示しており,特別養護老人ホームを利用している高齢者の特徴を捉えていると考えられる.今後は多施設の調査を実施し,より詳細な特徴を明らかにしたい.本研究の眼鏡非常用者はC87.5%であり,視力低下と行動による制限には相関があった.視機能低下がわずかであって活視力(近見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「近見視力による行動のスコア」,横軸はCworseeyeの日常生活視力(近見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.686,p<0.01で相関があった.のスコア改善度は,手術前後それぞれのCbettereye,worseeyeの視力いずれとも相関しなかったことを報告している.本研究では特別養護老人ホームの高齢者の視機能とCNEIVFQ-25の各種の行動に関するスコアとの関係性を検討しも,QOLに与える影響は大きいとされている12).これらのことから高齢者は適切な屈折矯正がされていない,あるいは眼鏡を常用していないため,行動に制限が生じている可能性が示唆された.超高齢社会に向けて今後は高齢者に対する眼科受診の必要性について積極的な啓発活動を行うこと,さらには特別養護老人ホームへ眼科医療従事者が具体的に介入することについて検討が必要である.文献1)厚生労働省:平成C30年簡易生命表の概要2)田中清,田丸淳子:介護とCQOL.骨粗鬆症治療C3:44-49,C20043)西脇友紀,田中恵津子,小田浩一ほか:ロービジョン患者のCQualityCofLife(QOL)評価と潜在的ニーズ.眼紀C53:C527-531,C20024)宮崎茂雄,浜口奈弓,辻直美ほか:特別養護老人ホーム入所者の視活動に関する実態調査.眼臨C98:88-91,C20045)宮崎茂雄,青葉香奈,田畑舞:特別養護老人ホームにおける眼科的ケアについてのアンケート調査.眼臨C101:C578-581,C20076)MangioneCCM,CLeeCPP,CGutierrezCPRCetal:DevelopmentCofCtheC25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionCQuestionnaire.ArchOphthalmolC119:1050-1058,C20017)SuzukamoCY,COshikaCT,CYuzawaCMCetal:PsychometricCpropertiesCofCtheC25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)C,JapaneseCversion.CHealthQualLifeOutcomesC3:65,C20058)河鍋楠美:他覚的屈折度(等価球面度数)をC40年以上追えたC180眼の屈折度の変化.臨眼C69:1389-1393,C20159)林雅美:地域活動に参加している高齢者の視覚機能の実態と活動性との関連.老年社会科学C37:417-427,C201610)市川宏:老化と眼の機能.臨眼C35:9-26,C198111)大鹿哲郎,杉田元太郎,林研ほか:白内障手術による健康関連CqualityCoflifeの変化.日眼会誌C109:753-760,C200512)西永正典,池成基,上総百合ほか:老年症候群;わずかな視・聴覚機能低下が生活機能やCQOL低下に与える影響.日老医誌C48:302-304,C2007***