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ポインティング法を用いた視覚の自己中心的定位

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1651.1654,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1651.1654,2011c江﨑秀子山崎芳夫日本大学医学部付属練馬光が丘病院眼科VisuallyEgocentricLocalizationinaPointingTaskHidekoEsakiandYoshioYamazakiDepartmentofOphthalmology,NihonUniversityNerimaHikarigaokaHospitalポインティング法を用いて視覚における自己中心的定位について検討した.対象は右利き眼,右利き手の健常者11名.実験は,手指の視覚情報を遮った視覚feedbackのないopen-loop条件下,検査距離は1/3mで頭部を固定した状態で施行した.Computertouchscreen上の中央および左右20°の位置に,あらかじめ3本の棒を表示し,棒の上部に1個の視標をランダムに呈示させた.被験者は,視標が出現した棒の下部を利き手の人差し指で触れた.視標は1本の棒につき10回呈示し,両眼固視と左右単眼固視で測定した.それらの測定平均値からポインティング誤差方向と量,眼偏位量とポインティング誤差の関与について考察した.ポインティング誤差方向は左単眼固視による左方視を除き,両眼固視と右単眼固視では右向き傾向を示した.3つの固視点での誤差量は両眼固視では固視方向による有意差はなく,左単眼固視(p<0.0001)と右単眼固視(p<0.05)では右方視するほど右向きの誤差が有意に増加した.眼偏位量とポインティング誤差との比較では両眼固視(p<0.05)と左単眼固視(p<0.05)で相関性を認められた.視覚の自己中心的定位には眼優位性の関与が考えられた.Visuallyegocentriclocalizationandtheroleofoculardominancewereinvestigatedusingthepointingtask.Subjectscomprised11healthyright-handedsubjectswithrightoculardominance.Experimentswereperformedaccordingtotheopen-loopprocedure,withoutvisualfeedback.Subjectswereseated1/3mdistant,withheadstabilized.Threeverticalpoleswerepresentedonthescreen,onepoleinthecenterandonepoleeachat20degreesleftandrightfromthecenter.Ablacksquaretargetwaspresentedatopeachpolerandomly.Thesubjectswereaskedtotouchthescreenwiththerightindexfinger.Thetargetwaspresented10timesseparatelyateachlocation.Deviationsofpointingerror,andcorrelationbetweenamountofpointingerrorandamountofoculardeviationwereevaluated.Pointingerrorshowedarightwardshiftunderbothmonocularandbinocularconditions,exceptingtheleftwardgazeintheleftmonocularcondition.Therewasnosignificantdifferenceinamountofpointingerroramongthe3targetpositionsunderthebinocularcondition.Pointingerroramountincreasedsignificantlyintherightwardgazeunderright(p<0.05)andamountsofpointingleft(p<0.0001)monocularconditions.Therewassignificantcorrelationbetweenamountsofpointingerrorandmonocularcondition.Thereweresignificantcorrelationsbetweenamountofoculardeviationandamountofpointingerrorinleftmonocularcondition(p<0.05)andbinocularcondition(p<0.05).Theseresultssuggestthatvisuallyegocentriclocalizationmightbeeffectedbyoculardominance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1651.1654,2011〕Keywords:ポインティング法,視覚の自己中心的定位,眼優位性,調節性輻湊.pointingtask,visuallyegocentriclocalization,oculardominance,accommodativeconvergence.はじめに自己中心的定位の検査は眼と手の協調運動による筋運動感視覚の自己中心的定位は空間における視対象物の位置を正覚系反応であるポインティング法1)が広く用いられ,定位の確に判断する能力であり,日常のさまざまな視覚誘導性行動誤認は自己中心的定位の誤差によるものである2).において重要な役割を演じている.ポインティング法における認知および統合系からの研究で〔別刷請求先〕江﨑秀子:〒179-0072東京都練馬区光が丘2-11-1日本大学医学部付属練馬光が丘病院眼科Reprintrequests:HidekoEsaki,DepartmentofOphthalmology,NihonUniversityNerimaHikarigaokaHospital,2-11-1Hikarigaoka,Nerima-ku,Tokyo179-0072,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)1651 は,ポインティング誤差は手の運動誤差に起因するは,ポインティング誤差は手の運動誤差に起因するとされ,眼優位性の機能的役割は否定的4)であり,ポインティング誤差と優位眼との関係はいまだ明確ではない.今回,自己中心的定位における視覚的位置覚を精査する目的で,視覚feedbackのないopen-loop下でポインティング法を用い,頭頸部を固定した状態で両眼固視・左右単眼固視において,視覚における自己中心的定位を計測した.また,対象者を右の利き眼と右利き手に限定して眼優位性5)について検討を加えた.I対象および方法対象は,右利き眼と右利き手を持つ11名で,実験はHelsinki条約に基づいた説明に対しての同意を得て行った.被験者はすべて矯正視力1.0以上で屈折異常と軽度斜位を除き眼疾患のない健常者である.利き眼はholeincardtest6)を用いて遠方視と近方視ともに右眼が優位を示すのを確認した.右眼が利き手はEdinburgh法7)で判定した.表1の眼偏位量は交代プリズム遮閉法を用いた1/3mでの値を示し表1被験者の一覧被験者性別年齢(歳)眼偏位量(1/3m)12345女性女性女性女性男性353744224406ΔX8ΔX2ΔX8ΔX6男性36078910女性男性男性女性3426253104ΔX4ΔX6ΔX11女性200たものである.ポインティング法は薄明順応下で輝度81cd/m2の実験用プログラム8,9)内蔵のcomputertouchscreenを用いた.画面中央0°と中央から左右各20°に3本の黒色垂直棒を予め呈示し,1本の棒の上へ視角0.9°,輝度14cd/m2の黒色正方形視標を表示した.被験者は画面中央から1/3mの距離で顎台に顎と額を固定した.手元は画面下部から顎台にかけてボードで覆い,視覚feedbackのないopen-loopの環境下で実験を行った(図1).視標は被験者の指が画面に接触すると消え,同時につぎの視標が別の棒の上にランダムに連続して表示される仕組みで,1本の棒につき計10回計測した.なお,実験は近方視力完全矯正下にて両眼固視下,および左右単眼固視下の3通りで行い,ポインティング誤差は画面の画素数を視角(°)に変換し,左向きを.,右向きを+で表した.顎の位置は画面中央に固定したので,単眼視時の検査結果は単眼の真向かいが0°になるよう換算した(たとえば,瞳孔間距離が60mmの場合,右眼固視では中心点は.5°,左20°は.24°,右20°は+15°となる).20°20°図1Computertouchscreenとその方法3本の棒の上部に視標(■)がランダムに呈示されると,被験者はその棒の下部を右人差し指で画面をタッチする.手元はボードで覆われている.X:外斜位.表2各固視点における各ポインティング誤差の個人平均値No固視眼固視点左単眼固視左20°正面0°右20°1.210226530784.15651646.6257.30.181639.52110.53511.424符号なし:右向き偏位,.:左向き偏位.左20°156344.24234両眼固視正面0°15634013020右20°13822200044右単眼固視左20°正面0°右20°11232314622355502620100.10.11.104124(単位:°)1652あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(140) 本実験では,左単眼固視,両眼固視,右単眼固視における正面0°,左右20°の各固視点でのポインティング誤差を求め,各固視眼と各固視点での向きと量を比較検討した.さらに,斜位の眼偏位量とポインティング誤差との相関についても検討を加えた.本実験では,左単眼固視,両眼固視,右単眼固視における正面0°,左右20°の各固視点でのポインティング誤差を求め,各固視眼と各固視点での向きと量を比較検討した.さらに,斜位の眼偏位量とポインティング誤差との相関についても検討を加えた.II結果対象ごとの各固視眼と各固視点でのポインティング誤差の平均を表2に,各固視眼の各固視点におけるポインティング誤差の比較は表3に示した.両眼固視では各固視点でのポインティング誤差方向はいずれも右向き傾向となり,誤差量に有意差はなかった.右単眼固視の各固視点でのポインティング誤差はいずれも右向きとなり,左20°と右20°の誤差に有意差(p<0.05)があった.左単眼固視では,正面0°と右20°では右向きを示したが,左20°のみ左向きのポインティング誤差を示し,正面0°と右20°では左20°とポインティング誤差の有意差(p<0.001)を認めた.一方,固視点について検討すると,正面0°と右20°は固視眼間にポインティング誤差表3各固視眼の各固視点におけるポインティング誤差の比較固視左単眼固視p<0.0001両眼固視n.s.右単眼固視p<0.05固視点左20°正面0°.2.0±2.8°+3.6±2.4°+2.9±2.8°+2.3±2.1°+1.3±2.4°+1.5±1.8°‡‡*******右20°+3.6±2.7°+2.40±2.4°+3.1±2.3°***:p<0.001,*:p<0.05(one-wayrepeatedANOVA,Turkey’smultiplecomparisontest).‡:p<0.01(two-wayrepeatedANOVA,Bonferroniposttest).の差異はなく,左20°の固視点では,右単眼固視と両眼固視の両者とも左単眼固視との間でポインティング誤差の有意差(p<0.01)が示された.被験者11名の眼偏位量と各固視眼下での正面0°における誤差量のPearson相関を検討すると,図2に示すように左単眼固視(p<0.005)と両眼固視(p<0.005)では正の相関が認められたが,右単眼固視では有意な相関はなかった.III考按右利き眼,右利き手の正常被験者を対象に,ポインティング法を用いた自己中心的定位の誤差について検討した結果,右単眼固視と両眼固視ではすべての固視点に対し,ならびに左単眼固視では左方視を除き,正面視と右方視の固視点に対しポインティング誤差はすべて右向きとなった.自己中心的定位には視方向と距離の情報が必要であり,視方向は左右眼の網膜対応点を重ね合わせた想像上の重複眼の視方向10,11)となる.その結果,重複眼の視方向は優位眼側へ偏る12)ため,視方向における眼優位性の影響13)が生じる.本研究でポインティング誤差が右向き偏位を示した結果は右利き眼,右利き手の被験者を対象にした眼優位性の影響と考えられる.左単眼固視の左方固視点ではポインティング誤差が左向きを示した.これは右優位眼を遮閉したために左眼に優位性が転じたことだけでは説明できない.正面視と右方視では誤差は右向きであるため,単に優位眼の遮断による影響のみとはいえない.左単眼固視の左方視のみでの左向き偏位を示した結果は,遮閉された右眼に非対称性輻湊が作用した可能性13,14),空間注意の非対称性15.18),外眼筋自己受容感覚19)による非固視眼の影響などが考えられ,さらに対象を追加し検討を行いたい.ポインティング誤差量の比較では,右単眼固視で,誤差量が増強したことは左眼の非対称性調節性輻湊13)の影響が考えられる.左単眼固視では左方視で左向きの誤差偏位を示したことから,他の固視眼よりも量的には他の固視条件下よりも高い有意差を示すと推察した.両眼視では斜視でみられるような非固視眼からの影響8)を受けないことから,量的差はポインティング誤差(°)05ポインティング誤差(°)8642005ポインティング誤差(°)0051086421010眼偏位量()Δ眼偏位量()Δ(a)左単眼固視;r=0.79p<0.005(b)両眼固視;r=0.79p<0.005(c)右単眼固視;r=0.43(n.s.)図2正面0°のポインティング誤差と眼偏位量(141)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111653-2-2眼偏位量()Δ 生じなかったものと考える.生じなかったものと考える.8,11)によると,左単眼固視では外眼筋受容感覚19)による非固視眼の影響が優位に作用した結果と考えられる.これは,斜視患者でポインティング誤差が非固視眼の眼偏位方向へ偏位すること,斜視のない健常者の遮閉眼を他動的に動かすと同方向へ誤差が出現する20)ことから外眼筋受容感覚による非視覚系の影響21)とされる.それに対し,右単眼固視ではその影響が優位とはならなかったことは興味深いところである.今回の結果から,自己中心的定位は眼優位性の影響を受けることが推察されたが,これを検証するには,今後,さらに対象者数を増やすと同時に左優位眼の対象者を併せて比較検討する必要がある.謝辞:稿を終えるにあたり,実験(2007年)の機会とご指導をいただいたLiverpool大学DivisionofOrthopticsのPaulCKnox教授およびFionaRowe博士に感謝の意を表します.文献1)近江政雄,中溝幸夫,近藤倫明ほか:視空間座標の構成.視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会編),p419-457,朝倉書店,20002)vonNoordenGK,AwayaS,RomanoPE:Past-pointinginparalyticstrabismus.TransAmOphthalmolSoc68:72-85,19703)SoechtingJF,FlandersM:Sensorimotorrepresentationsforpointingtotargetsinthree-dimensionalspace.JNeurophysiol62:582-594,19894)CareyDP:Visionresearch:Losingsightofeyedominance.Currbiol11:828-830,20015)新井田孝裕:眼優位性の機能的役割.神眼25:62-72,20086)FinkWH:Thedominanteye:itsclinicalsignificance.ArchOphthalmol4:555-582,19387)OldfieldRC:Theassessmentandanalysisofhandedness:TheEdinburghinventory.Neuropsychologia9:97-113,19718)WeirCR,ClearyM,ParksSetal:Spatiallocalizationinesotropia:doesextraretinaleyepositioninformationchange?InvestOphthalmolVisSci41:3782-3786,20009)WeirCR,ClearyM,ParksSetal:Spatiallocalizationafterdifferenttypesofretinaldetachmentsurgery.InvestOphthalmolVisSci42:1495-1498,200110)ParkK:Phoria,Hering’slaws,andmonocularperceptionofdirection.JExpPsycholHumPerceptPerform17:219-231,199111)OnoH:OnWells’s(1792)lawofvisualdirection.PerceptPsychophys30:403-406,198112)PickwellLD:Hering’slawofequalinnervationandthepositionofthebinoculus.VisionRes12:1499-1507,197213)vonNoordenGK,CamposEC:Physiologyofthesensorimotorcooperationoftheeye.BinocularVisionandOcularMotility:theoryandmanagementofstrabismus.p5284,Mosby,StLouis,200214)vanLeeuwenAF,CollewijnH,ErkelensC:Dynamicsofhorizontalvergencemovements:interactionwithhorizontalandverticalsaccadesandrelationwithmonocularpreferences.VisionRes38:3943-3954,199815)HeilmanKM,VanDenAbellT:Righthemispheredominanceforattention:themechanismunderlyinghemisphericasymmetriesofinattention(neglect).Neurology30:327-330,198016)DuBoisRM,CohenMS:SpatiotopicorganizationinhumansuperiorcolliculusobservedwithfMRI.Neuroimage12:63-70,200017)RobinsonDL,KertzmanC:Covertorientingofattentioninmacaques.III.Contributionsofthesuperiorcolliculus.JNeurophysiol74:713-721,199518)ZackonDH,CassonEJ,StelmachLetal:Distinguishingsubcorticalandcorticalinfluencesinvisualattention.Sub-corticalattentionalprocessing.InvestOphthalmolVisSci38:364-371,199719)DonaldsonIM:Thefunctionsoftheproprioceptorsoftheeyemuscles.PhilosTransRSocLondBBiolSci355:1685-1754,200020)GauthierGM,NommayD,VercherJL:Ocularmuscleproprioceptionandvisuallocalizationoftargetsinman.Brain113:1857-1871,199021)WeirCR,KnoxPC:Modificationofsmoothpursuitinitiationbyanonvisual,afferentfeedbacksignal.InvestOphthalmolVisSci42:2297-2302,2001***1654あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(142)