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緑内障患者におけるNEI VFQ-25を用いたQuality of Lifeの評価

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)1145《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1145.1147,2010cはじめに近年,qualityoflife(QOL)の改善を目指した医療が注目されている.特に緑内障では慢性進行性疾患であり,長期予後を推定しながら治療計画を立てる必要があるため,緑内障による視機能がQOLに与える影響を知ることは大変重要である.the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)は眼疾患患者のQOLを測定する尺度として開発され,その信頼性,妥当性が検証され,確立されている1).日本語版VFQ-25を用いて,緑内障患者の視機能の質と視機能障害の程度における関係を検討した.I対象および方法対象は2008年12月から2009年8月までの間に苫小牧市立病院眼科で通院加療していた両眼に緑内障性視野異常がみられる83例(表1).男性41名,女性42名,年齢は30~84歳,平均年齢66.9歳.両眼ともに矯正視力が0.5以上で,過去に白内障手術,緑内障手術以外の内眼手術の既往がない症例を対象とした.病型は正常眼圧緑内障55例,原発開放隅角緑内障28例であった.緑内障以外に視力,視野に影響を及ぼす眼疾患のある患者は対象から除外した.視機能評価〔別刷請求先〕中村聡:〒053-8567苫小牧市清水町1-5-20苫小牧市立病院眼科Reprintrequests:SatoshiNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,1-5-20Shimizu-cho,Tomakomai-shi053-8567,JAPAN緑内障患者におけるNEIVFQ-25を用いたQualityofLifeの評価中村聡*1日景史人*1大黒浩*2田中尚美*1近藤隆徳*1*1苫小牧市立病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座EvaluatingQualityofLifeinGlaucomaPatients,Usingthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaireSatoshiNakamura1),FumihitoHikage1),HiroshiOoguro2),NaomiTanaka1)andTakanoriKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine方法:対象は緑内障患者83症例,視機能の質は日本語版the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)を用いて調査した.視力良好眼および不良眼の矯正視力,MD(標準偏差)値良好眼および不良眼のMD値,およびエスターマン(Esterman)による両眼視野のスコアとVFQ-25の各項目の関係について比較検討した.結果:視力不良眼の矯正視力と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」,MD値良好眼と「自立」,MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01).一方,日常視を重視したエスターマン両眼視野によるスコアとVFQ-25スコアの間には相関関係を認めなかった.結論:VFQ-25スコアは視力不良眼の矯正視力およびMD良好眼とMD不良眼のMD値と有意な相関を認めた.Weusedthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)toevaluatefeaturesofthequalityoflife(QOL)in83glaucomapatients.Questionsstronglyassociatedwithcorrectedvisualacuityinthebettereyerelatedto[generalvision],[mentalhealth],[rolelimitation]and[depend].Themeandeviation(MD)inthebettereyecorrelatedwith[depend]andtheMDintheworseeyecorrelatedwith[mentalhealth]and[depend](p<0.01).TherewaslittlecorrelationbetweenVFQ-25scoreandEstermanbinocularscore,whichwasweightedfordailylife.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1145.1147,2010〕Keywords:緑内障,視覚関連VFQ-25,生活の質,エスターマン両眼視野検査.glaucoma,the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire,qualityoflife,Estermanbinocularvisualfieldtest.1146あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(134)は矯正視力およびHumphrey自動視野計(HFA)中心30-2のプログラムによるMD(標準偏差)値と両眼視野検査であるEstermanvisualfieldtest(以下,エスターマン視野)によるスコア値を用いた.エスターマン視野はHFA内に内蔵されたアルゴリズムを使用し,両眼開放下で矯正レンズを使用せず施行した(合計120カ所の測定点からなり,0~100点で算出される).視機能の質はVFQ-25のアンケート用紙を用いて自己記入式で調査を行った.今回の研究では緑内障に関連があると考えられる7つの下位尺度「全体的見え方」,「近見視力による行動」,「遠見視力による行動」,「見え方による社会生活機能」,「見え方による心の健康」,「見え方による役割制限」,「見え方による自立」を用いた.これらの7つの下位尺度とエスターマンスコア,良いほうの眼の視力(矯正視力良好眼),悪いほうの眼の視力(矯正視力不良眼),良いほうのMD値(MD値良好眼),悪いほうのMD値(MD値不良眼)の相関関係を検討した.相関関係の解析にはPearsoncorrelationtestを用い,p<0.01を有意差ありとした.II結果VFQ-25による平均スコアは「全体的見え方」75.7±23.7,「近見視力による行動」77.3±20.1,「遠見視力による行動」74.4±17.0,「見え方による社会生活機能」71.2±19.2,「見え方による心の健康」70.9±22.6,「見え方による役割制限」69.3±27.5,「見え方による自立」84.7±17.5であった(図1).エスターマンスコアは94.5±9.9(23.3.100)であった.7つの下位尺度とエスターマンスコア,矯正視力良好眼,矯正視力不良眼,MD値良好眼,MD値不良眼の間の関係を表2に示す.エスターマンスコア,矯正視力良好眼とVFQ-25の7つの下位尺度の間には有意な相関関係がなかった.矯正視力不良眼と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」の間には有意な相関関係がみられた(それぞれp<0.01,p<0.01,p<0.001,p<0.01).また,MD値良好眼と「自立」(p<0.01),MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01,p<0.001).III考按Millsら2)は重症な緑内障患者においてVFQ-25とエスターマンスコアの間に中等度の相関関係がみられたと述べている.一方,Jampelら3)の調査ではエスターマンスコアの平均値は89.7±13.4点で,VFQ-25のスコアと有意な相関関係がなかったと述べている.Harrisら4)はエスターマン視野は指標輝度が高いために,ほとんどの症例で80点以上となってしまうことが問題点であり,重症ではない緑内障患者の評価にはあまり適していないと指摘している.本症例でもエスターマンスコアとVFQ-25の各下位尺度には有意な相関関係はみられなかった.その理由として,本研究の対象である矯正視力が0.5以上の緑内障患者でも,エスターマンスコアが高得点に集中してしまい,差がつかなかったことが一つの理由であると考えた.Jampelら5)はこれらの問題点を解決するため指標輝度をより低くした両眼視野検査を考案し,QOLとの関係を調べたが,それでも単眼視野のMD値のほうがQOLとより強く相関していたと結論づけている.またNelson-Quiggら6)は単眼ずつの視野を数学的に重ね合わせて両眼視野を推測する方法を提案し,BINOCULARSUMMATION(左右眼の閾値の二乗和の平方根),BESTLOCA-表2VFQ-25スコアと視機能の相関関係エスターマンスコア矯正視力良好眼矯正視力不良眼MD値良好眼MD値不良眼見え方0.170.140.29*0.180.26近見0.000.140.120.130.09遠見0.000.220.170.130.13社会生活0.020.030.180.210.10心の健康0.160.120.33*0.260.29*役割制限0.090.150.39**0.230.19自立0.200.150.29*0.33*0.37**(Pearsoncorrelationtest*:p<0.01,**:p<0.001)表1患者背景対象:男性41名,女性42名年齢:平均66.9±11.2歳(30~84歳)緑内障病型:原発開放隅角緑内障28例正常眼圧緑内障55例視野MD(dB):MD値良好眼.3.45±5.97(1.9~.27.82)MD値不良眼.8.28±7.58(1.15~.30.18)エスターマンスコア:94.5±9.9(23.3~100)屈折異常:右眼.2.67±3.15D(+4.0~.11.0D)左眼.2.47±2.95D(+3.0~.11.0D)100806040200自立役割制限心の健康社会生活遠見近見見え方スコア図1VFQ-25の各下位尺度の結果(135)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101147TION(左右いずれかの高いほうの閾値をその検査点の閾値として採用)が実際の両眼開放視野によく相関したと報告している.どのような症例にどのような両眼視野が適しているのか,今後のさらなる検討が必要であると考えられた.またViswanathanら7)は緑内障に特異的な質問票を用いたところエスターマンスコアとよく相関したと述べている.VFQ-25は眼疾患関連のQOLを評価する方法として確立されているが,中心視力が保たれて視野障害をもつ緑内障患者に対しての特異的な質問票でないことがエスターマンスコアとVFQ-25が相関しなかった2つ目の理由として考えられた.緑内障患者のQOLは良いほうの眼と悪いほうの眼のどちらがより関係しているかということについて,Magioneら8)は視力良好眼と視力不良眼,MD値良好眼とMD値不良眼とQOLの関係には大きな差がないと述べている.また山岸ら9)は視野の悪い眼が進行しても,視野の良い眼が進行してもその程度に比例してQOLは低下すると述べている.これに対してJampelら5)は緑内障患者のQOLはMD値良好眼より,MD値不良眼と強く相関していたと述べ,Turanoら10)は緑内障患者が障害物をよけて歩く速度は,MD値良好眼よりもMD値不良眼とより強い相関関係がみられたと報告している.浅野ら11)は視力良好眼のMD値が悪化するに従ってVFQ-25スコアが悪化するが,.20dBより悪い視野ではQOLに差がなくなると述べている.今回の筆者らの調査では矯正視力については視力良好眼よりも視力不良眼がQOLと強く相関し,視野については良いほうの視野よりも悪いほうの視野がVFQ-25の1項目だけより多く有意な相関関係がみられた.この結果は緑内障疾患がQOLに与える影響として特徴的であると考えられ,大変興味深い結果であった.VFQ-25の各下位尺度に関して,今回の研究では「近見」「遠見」のVFQ-25スコアと,エスターマンスコア,視力,視野の間に有意な相関関係はなかった.これは矯正視力0.5以上を調査対象としたため,中心視力が比較的良好であるために,「近見」「遠見」が損なわれていないと考えられた.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),JapaneseVersion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)MillsRP:Correlationofqualityoflifewithclinicalsymptomsandsignsatthetimeofglaucomadiagnosis.TransAmOphthalmolSoc96:753-812,19983)JampelHD:Glaucomapatients’assessmentoftheirvisualfunctionandqualityoflife.TransAmOphthalmolSoc99:301-317,20014)HarrisML,JacobsNA:IstheEstermanbinocularfieldsensitiveenough?PerimetryUpdate1995:403-404,19955)JampelHD,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Correlationofthebinocularvisualfieldwithpatientassessmentofvision.InvestOphthalmolVisSci43:1059-1067,20026)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCAetal:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,20007)ViswanathanAC,McNaughtAI,PoinoosawmyD:Severityandstabilityofglaucoma:patientperceptioncomparedwithobjectivemeasurement.ArchOphthalmol117:450-454,19998)MagioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20019)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,200910)TuranoKA,RubinGS,QuigleyHAetal:Mobilityperformanceinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2803-2809,199911)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,2006***