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点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):258.262,2018c点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響鎌尾知行*1溝上志朗*2浪口孝治*1篠崎友治*3田坂嘉孝*2,3白石敦*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*3南松山病院眼科CIn.uenceofEyedropContainerPropertyandVisibilityonUsabilitybyPatientswithGlaucomaTomoyukiKamao1),ShiroMizoue2),KojiNamiguchi1),TomoharuShinozaki3),YoshitakaTasaka2,3)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandRegenerativeMedicine,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital目的:緑内障患者が点眼しやすい容器の形状と色調を調査する.対象および方法:対象は,南松山病院に通院中の緑内障患者C100例(男性C49例,女性C51例,平均年齢C64.6±13.5歳).「ルミガンR点眼液C0.03%」容器の旧型と新型で,キャップの大きさ,キャップの開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさについての聞き取り比較調査を行った.つぎに,容器の色調が異なるC3種類の現行型の容器で白色ノズルの視認性を調査した.結果:キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは新型の評価が高く(p<0.0001),総合的にも新型を好む者が多かった(p<0.0001).ノズルの視認性は,緑色,褐色,灰白色の容器の順に評価が高く,各群間に差を認めた(p<0.0001).結論:点眼容器の形状と色調は,ともに緑内障患者の使用性に影響する.CPurpose:Toinvestigatethein.uenceofeyedropcontainershapeandcolorcombinationonusabilityandvisi-bilityCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCcaseCseriesCstudyCcomprisedC100CglaucomaCpatients(49malesCandC51Cfemales)atCMinami-MatsuyamaCHospitalCfromCDecemberC2015CtoCMarchC2016.CAllCpatientsCwereCscoredCasCtoCusabilityCofCconventionalCandCcurrentCtypeCLumiganRCeyedropCcontainersCviaCquestionnaires,CrankingCvisibilityamong3di.erentcolorcombinationsofeyedropnozzles.Results:Thecurrenttypewassigni.cantlybet-terastocapsizes,bottlehandling,bottlesqueezingandfeelingofdrippingonedropthantheconventionaltype(p<0.0001).Amongthethreecontainers,colorevaluationswerehighintheorderofgreen>brown>grayish-white(p<0.0001).Conclusion:OurCresultsCsuggestCthatCeyedropCcontainerCusabilityCandCvisibilityCareCa.ectedCbyCcon-tainershapeandcolorcombination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(2):258.262,C2018〕Keywords:点眼容器,緑内障,使用性,視認性.eyedropcontainer,glaucoma,usability,visibility.Cはじめに点眼容器は形状や硬さ,キャップの大きさなどにより持ちやすさ,さしやすさ,開閉操作などの使用性が異なり1),患者は使用性に優れた点眼容器を支持することから2,3),点眼容器の使用性改善により点眼アドヒアランスの向上も期待できる.近年,プロスタグランジン関連薬の一つである「ルミガンR点眼液C0.03%」(以下,ルミガン)の容器が使用性の向上を目的として変更されたが4),実際に緑内障患者の使用性にどのような影響を与えたかに関してはまだ検討されていない.一方,視野障害を有する緑内障患者では,健常者に比べ点眼の際にノズル視認性に劣るため,眼表面への適切な滴下が困難であり5),より視認性の高いノズルを有する点眼容器が〔別刷請求先〕鎌尾知行:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:TomoyukiKamao,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN258(98)望ましい.しかしながら,筆者らが調べた限りではこれまで点眼容器の色調の違いがノズルの視認性に与える影響に関する検討もされていない.そこで今回,緑内障性視野障害を有する緑内障患者を対象として,ルミガンの旧型と新型容器(図1a)の使用性に関するインタビュー調査を行った.同様に,ノズル先端と点眼容器の色コントラストが視認性に与える影響について,同一の白色のノズルを有しながら容器の色が異なる,褐色のルミガン新型容器,緑色の「アイファガンCR点眼液C0.1%」(以下,アイファガン)容器,および灰白色容器(以下,コントロール)(図1b)を用いて検討した.CI対象および方法対象はC2015年C12月.2016年C3月に南松山病院眼科を受診した緑内障患者のなかから本研究に同意が得られた満C20歳以上の男女で,片眼もしくは両眼に緑内障性視野障害を認める患者を選択した.なお,過去にルミガンと同形状の点眼容器の使用経験がある者,手指の運動障害により点眼操作が不可能な者は除外した.点眼容器の使用性の調査は,評価者が被験者に開封済みのルミガンの新旧容器を渡し,キャップや容器の把持,開閉操作,点眼操作をさせた後,キャップと容器の使用性に関する5項目について,既報1)に準じて評価させた(表1).最後に継続して使用したい点眼容器を選択させた.ノズルの視認性の調査は,キャップをはずしたルミガン新型,アイファガン,コントロールの三つの点眼容器を被験者に擬似点眼操作をさせ,対象眼に実際に点眼する距離まで容器を近づけたときのノズル先端の視認性を順位づけさせた.評価する容器の順番はアトランダムに割り付けた.対象眼はHumphrey自動視野計のCMD(meanCdeviation)の低値側とした.さらに視認性に関与する因子を調べるため,ノズルと各容器の色差およびコントラスト比を測定した.色差は,ノズルとそれぞれの容器のCL*a*b*表色系を分光測色計(コニカミノルタ製,CM-5)にて測定し,色差(CΔE*ab)を評価した6).コントラスト比は,ノズル(白)とそれぞれの容器(緑色,褐色,灰白色)の輝度を二次元輝度計(コニカミノルタ製CA-2500)にてC3回測定し,輝度の比の平均を算出した.統計解析にはCJMPCR11.2(SASCinstitute,CNorthCCarolina,USA)を用いた.使用性のC5項目はC1.5点で点数化し,各項目についてルミガン旧型と新型でCWilcoxon符号順位検定旧型新型253522142121211717(mm)2123正面側面正面側面a:ルミガンR点眼液C0.03%(ルミガン)旧型と新型容器のキャップと容器写真.新型はキャップが小型化,容器が大型化し,形状が円柱から扁平型に変更された.ルミガン新型アイファガンコントロールb:褐色容器ルミガン新型,緑色容器アイファガンCR点眼液C0.1%(アイファガン),灰白色容器(コントロール)のキャップをはずしノズル側より撮影した写真.図1調査に使用した点眼容器表1使用性のアンケート調査の設問と選択肢小さすぎやや小さいちょうどよいやや大きい大きすぎ1.キャップの大きさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)開けやすいやや開けやすいふつうやや開けにくい開けにくい2.キャップの開閉操作のしやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)持ちやすいやや持ちやすいふつうやや持ちにくい持ちにくい3.容器の持ちやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)硬すぎやや硬いちょうどよいやや軟らかい軟らかすぎ4.容器の押しやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)出すぎるやや出すぎるちょうどよいやや出にくい出にくい5.1滴量の滴下のしやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)旧型容器がよい6.総合評価新型容器がよいキャップの大きさ,開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC5項目をルミガン新旧容器それぞれについて,5段階評価させた.最後に総合評価として継続して使用したいと考える点眼容器を選択させた.キャップの大きさ*Wilcoxon符号順位検定1滴量の*キャップの開閉操作*滴下のしやすさ容器の押しやすさ*容器の持ちやすさ*新型4.46±1.023.66±1.114.04±1.074.32±1.144.18±1.14p<0.0001p=0.0927p<0.0001p<0.0001p<0.0001図2使用性の平均スコア灰色五角形が旧型容器,黒線五角形が新型容器のC5項目それぞれの平均スコアのレーダーチャート.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは,有意に新型の評価が高かった(*p<0.0001,Wilcoxon符号順位検定)を行った.総合評価はC1変量のCc2検定で解析した.視認性はCSteel-Dwass法による多重比較を行った.有意水準は5%とした.本研究を実施するに際し,事前に愛媛大学医学部附属病院臨床研究審査委員会(1511007)の承認を得た.また,UMIN臨床試験登録に登録したうえで施行した(UMIN000020122).なお,本研究に使用したルミガン新旧型製品およびルミガン新型,アイファガン,コントロールの空き容器は千寿製薬より提供を受け,受託研究として行った.CII結果対象として選択されたのはC100例(男性C49例,女性C51例,平均C64.6C±13.5歳:34.88歳)だった.対象の緑内障罹病期間は平均C7.2C±5.2年:0.5.22年,使用緑内障点眼剤数は平均C1.3C±0.7剤(0.3剤),有水晶体眼C69眼,眼内レンズ挿入眼C31眼,近見視力は平均C0.32C±0.47(0.1.1.0),Hum-phrey自動視野計のCMD値は平均C.12.94±7.70CdB(C.32.07..0.76CdB)であった.白内障による視力低下を認めた症例はなかった.点眼容器の使用性は,キャップの大きさに関しては,ちょうどよいと答えたのは旧型がC39例(39.0%)に対して,新型がC76例(76.0%)であった.キャップの開閉操作のしやすさは,開けやすいと答えたのは旧型がC26例(26.0%)に対して,新型がC32例(32.0%)であった.容器の持ちやすさは,持ちやすいと答えたのは旧型がC13例(13.0%)に対して,新型が42例(42.0%)であった.容器の押しやすさは,ちょうどよいと答えたのは旧型がC19例(19.0%)に対して,新型がC71例(71.0%)であった.1滴量の滴下のしやすさはちょうどよいと答えたのは旧型がC32例(32.0%)に対して,新型が63例(63.0%)であった.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC4項目については,新型が旧型より有意に使用性が高いという結果であった(Wilcoxon符号順位検定,p<0.0001).2容器それぞれで使用性の評価結果の平均スコアを算出したレーダーチャートを図2に示した.点眼容器の使用性と患者背景の関連を調べるため,使用性のスコアと年齢の相関を検討した.新型はキャップの開閉操作と年齢に正の,旧型はキャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさと年齢に負の相関を認めた(Spearmanの順位相関係数=0.2899,C.0.2068,C.0.3477,C.0.2876,p=0.0034,0.0390,0.0004,0.0037).一方,男女C2群で使用性を比較したが,スコアは有意差を認めなかった.また,継続して使用したいと考える点眼容器については,旧型を選んだのがC21名(21.0%)だったのに対して,新型を選択したのがC79名(79.0%)で,総合的に新型を好む者が多かった(Cc2検定,p<0.0001).つぎに,点眼容器の視認性は,1位に順位付けされたのがルミガン新型C19例(19.0%),アイファガンC69例(69.0%),コントロールC12例(12.0%)であった(図3).2位はルミガ■ルミガン新型■アイファガン■コントロール9080706050403020100例数1位2位3位図3視認性の順位1位はルミガン新型C19例,アイファガンC69例,コントロールC12例.2位はルミガン新型C73例,アイファガンC22例,コントロールC5例,3位はルミガン新型8例,アイファガンC9例,コントロールC83例であった.アイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で有意に視認性が優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).ン新型がC73例(73.0%),3位はコントロールがC83例(83.0%)ともっとも多く,視認性はアイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).近見視力,中心窩閾値の中央値,0.4,34CdBを閾値としてC2群に分けて視認性を検討したが,同様の結果であり,視機能の良否にかかわらずアイファガンの視認性が優れていた.最後に,ノズルとルミガン新型,アイファガン,コントロールのC3つの点眼容器の色差(CΔE*ab)は,それぞれC15.4,21.2,7.1であった.コントラスト比は,それぞれC2.14C±0.09,2.10C±0.24,1.21C±0.06であった(表2).CIII考按ルミガンの新旧容器の使用性の比較では,新型容器のほうが,キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,およびC1滴量の滴下のしやすさのC4項目で,旧型容器よりも優れていた.なお,今回の調査では,使用経験の有無によるバイアスを排除するため,過去に新旧容器の使用経験のない者を対象として選択している.新型容器の大きな改良点としては,容器が円柱型から把持部面積の大きい扁平型になり,キャップが小型化したことがあげられる.とくに,容器の持ちやすさやと押しやすさに関しては,過去の報告でも把持部に十分な高さをもつものや凹みを有しているものが優れるとされており1),今回の把持部面積の大きい扁平型の新型容器が高く評価された結果は矛盾しない.また,キャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさのスコアは,旧型容器では年齢と負の相関を認めたが,新型容器では相関を認めなかった.つまり旧型容器は高齢者ほど使用性が悪いと評価しているが,新型容器は改善されていることが示唆される.表2ノズル先端と容器の色差,コントラスト比色差Cルミガン新型15.4Cアイファガン21.2Cコントロール7.1コントラスト比C2.14±0.09C2.10±0.24C1.21±0.06C一方,キャップの開閉操作については新旧容器間で使用性に差がなかった.円柱型のキャップを有する旧型に対し,新型はC10角形に成形され,把持性を向上させるためにキャップ全体に縦方向のねじれをつけているが,その使用感に差はみられなかった.しかし,新型容器は年齢と使用性に正の相関を認めたため,高齢者においては高評価を得ている.新型容器は旧型容器よりもC1滴量の滴下のしやすさに優れていた.新型容器では,旧型よりも軽いスクイズ力でC1滴目が滴下可能で,2滴目の滴下に要するスクイズ力は旧型よりも大きくなるように設計されていることで4),1滴を点眼しやすく,連続で射出されにくい構造になっている.この容器の物性の改良点が,患者の使用感の向上に寄与したと推測される.今回の調査では約C8割の患者が旧型容器よりも新型容器を支持した.この結果は,形状と物性の両面からの改良が反映された結果と推測されるが,旧型容器を好む患者も約C2割存在した.この結果は,点眼容器の好みには,手指の大きさやスクイズ力の違いなどの身体的要因,あるいは過去にどのような点眼容器をどれくらいの期間使用してきたかなどの経験的要因など,さまざまな因子が影響する可能性が考えられる.白色のノズルの視認性については,もっとも優れていたのは点眼容器が緑色のアイファガンであり,褐色のルミガン新型容器と灰白色のコントロールと続いた.この結果は視機能に影響されなかった.分光測色計を用いた色差の評価でもアイファガン,ルミガン新型容器,コントロールの順番であり,ノズル先端と容器の形状はC3容器ともに同一であることから,ノズルと点眼容器の配色やコントラスト比が視認性に影響を与えたことが示唆された.緑内障患者では色覚やコントラスト感度が低下しているため7,8),ノズルの視認が困難な患者が多く,とくに緑内障点眼薬の容器の設計にあたっては,配色やコントラスト比に留意する必要性が示唆された.以上,今回の結果より,点眼容器の形状や物性の改良以外にも,ノズルと容器の色コントラストを改善することは,患者の使用性の向上と,アドヒアランスの向上につながる可能性が示された.本稿の要旨は第C27回日本緑内障学会にて発表した.文献1)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,C20072)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行ほか:プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較.あたらしい眼科C27:1127-1132,C20103)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:押し圧力と滴下時間が点眼容器の使用性に与える影響.あたらしい眼科C28:C1050-1054,C20114)大塚忠史:点眼アドヒアランスの向上を指向した医療用点眼容器の開発.人間生活工学12:32-38,C20115)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCDCetCal:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtech-nique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20116)小松原仁:色差式の開発動向.照明学会誌C76:496-499,C19927)BullCO:BemerkungenCuberCdenCFarbensinnCunterCver-schiedenenCphysiologischenCundCpathologischenCVerhalt-nissen.CAlbrechtCvonCGraefesCArchivCfurCOphthalmologieC29:71-116,C18838)CampbellCFW,CGreenCDG:OpticalCandCretinalCfactorsCa.ectingvisualresolution.JPhysiolC181:576-593,C1965***