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緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査 2021 年版

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):958.962,2023c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2田中宏樹*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科TheCurrentStatusofApplicantsforVisualImpairmentCerti.cationforGlaucomain2021SatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),HirokiTanaka2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)取得申請を行った緑内障患者について検討した.対象および方法:2021年1.12月に手帳申請を行った緑内障153例を対象とした.緑内障病型,視覚等級,視野測定方法を調査した.2015年調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(22.2%)などだった.視覚等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%)だった.視野測定はGoldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)だった.視覚障害5級が2015年調査より有意に増加した.結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚等級は1級と2級で60%を超えていた.視野測定はGoldmann型視野計が依然として多かった.Purpose:Toreportthestatusofvisualimpairmentcerti.cationinglaucomapatients.Methods:Atotalof153glaucomapatientswhoappliedforvisualimpairmentcerti.cationin2021wereenrolled.Thetypeofglaucoma,thegradeofvisualimpairment,andvisual.eld(VF)measurementswereinvestigated.Theresultswerethencomparedwiththoseinthe2015survey.Results:Ofthe153patients,theglaucomatypeswereprimaryopen-angleglaucoma(POAG)in54.2%,secondaryglaucomain22.2%,andother.ThegradeswereGrade1in12.4%,Grade2in50.3%,Grade3in2.6%,Grade4in7.8%,andGrade5in26.8%.TheVFmeasurementdevicesusedweretheGoldmannperimeterin60.1%andtheautomaticperimeterin39.9%.Grade5signi.cantlyincreasedcomparedwiththatinthe2015survey.Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved,thetotalofGrades1and2wasmorethan60%,andGoldmannperimetrywasstillthemostcommonmeasurementmethodused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):958.962,2023〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycerti.cate,perimeter.はじめに厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が2018年4月27日に公布された.これを受けて2018年7月に視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.視力障害では「両眼の視力の和」が「視力の良い方の目の視力と他方の目の視力」となった.視野障害ではGoldmann型視野計では「周辺視野角度が左右眼ともI/4視標の視野が10°以内である」が「周辺視野角度の総和が80°以下」となった.また,視能率,損失率という用語を廃止し,視野角度,視認点数を用いた明確な基準が導入された.さらにGoldmann型視野計による認定基準に加え,現在普及している自動視野〔別刷請求先〕正井智子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SatokoMasai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN958(110)計でも認定が可能となった.緑内障は視覚障害による手帳認定者の原因疾患の常に上位である.そこで手帳に該当する緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで筆者らは,井上眼科病院において2005年1),および井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2012年2),2015年3)に視覚障害による手帳の申請を行った緑内障患者の実態を調査して報告した.今回筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2021年に手帳の申請を行った緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2015年に行った調査3)の結果と比較し,経年変化を検討した.I対象および方法2021年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に視覚障害による手帳の申請を行った153例(男性71例,女性82例)を対象とし,後ろ向きに研究を行った.年齢は41.95歳で,平均年齢は73.9±11.3歳(平均±標準偏差)であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann型視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を比較した.視野検査方法別に視野障害等級を比較した.2015年に行った同様の調査3)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.統計学的検討にはIBM統計解析ソフトウェアSPSSで|2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%),6級0例(0%)であった(図2).病型別の視覚障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級11例(13.3%),2級43例(51.8%),3級2例(2.4%),4級5例(6.0%),5級22例(26.5%)であった.続発緑内障では1級4例(11.8%),2級18例(52.9%),4級4例(11.8%),5級8例(23.5%)であった.正常眼圧緑内障では1級3例(10.3%),2級13例(44.8%),3級2例(6.9%),4級2例(6.9%),5級9例(31.0%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級1例(20.0%),5級2例(40.0%)であった.発達緑内障では1級1例(50.0%),2級1例(50.0%)であった.緑内障の病型別に視覚障害等級に差はなかった(p=0.8729).視力障害で申請したのは72例,視野障害で申請したのは153例であった.その内訳は,視力障害は1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%)で,視野障害によるもの2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%)であった(表1).重複障害申請を行ったのは72例で,重複申請により上位等級に認定された症例は11例であった.内訳は視野障害2級・視力障害2級が7例,視野障害2級・視力障害3級が3例,視野障害3級・視力障害4級が1例であった(表2).申請に使った視野検査方法は,Goldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)であった.Goldmann型視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかには明確な基準がなく,視野障害を評価する医師の判断で視野計を選択した.視野障害等級は,Goldmann型視野計は2級69例(75.0%),5級23例(25.0%),自動視野計は2級25例(41.0%),3級3例(4.9%),5級33例(54.1%)であった.視野障害2級の症例はGoldmann型視野計が自動視野計より有意に多く(p<0.0001),視野障害5級の症例は自動視野計のほうがGoldmann型視野計より有意に多かった(p=0.0003).2015年調査3)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障33例(54.1%),続発緑内障16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26.2%),正常眼圧緑内障7例(11.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(6.6%),発達緑内障1例(1.6%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(23%),2級29例(47%),3級1例(2%),4級3例(5%),5級8例(13%),6級6例(10%)であった(図2).今回調査と2015年調査6)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.5736)(図1),視覚障害等級は5級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に増加し(p=0.0320),6級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に減少した(p=0.0004)(図2).視力障害等級は,今回調査では1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%),2015年調査3)では1級9例(20.0%),2級6例(13.3%),3級2例(4.4%),4級3例(6.7%),5級6例(13.3%),6級19例(42.2%)であった(表1).今回調査では2015年調査3)に比べて4級が有意に多く(p<0.0001),5級が有意に少な今回調査(153例)2015年調査(61例)発達緑内障(2例,1.3%)原発閉塞隅角緑内障(5例,3.3%)*p<0.05今回調査(153例)2015年調査(61例)6級*図2視覚障害等級の比較今回調査と2015年調査で今回調査の視野等級では,5級の割合が有意に増加し(p=0.0320),6級の割合が有意に減少した(p=0.0004).表1今回調査と2015年調査との視力障害等級,視野障害等級の比較等級今回調査2015年調査p視力障害1級7(9.7%)9(20.0%)0.16582級10(13.9%)6(13.3%)>0.99993級5(6.9%)2(4.4%)0.70564級28(38.9%)3(6.7%)**<0.00015級1(1.4%)6(13.3%)0.0127*6級21(29.2%)19(42.2%)0.1650視野障害3級3(2.0%)0(0.0%)>0.99994級0(0.0%)0(0.0%)─5級56(36.6%)8(19.5%)0.0406*6級0(0.0%)0(0.0%)─かった(p<0.05).視野障害等級は,今回調査では2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%),2015年調査3)では2級33例(80.5%),5級8例(19.5%)であった.今回調査では2015年調査3)に比べて2級が有意に少なく(p<0.05),5級が有意に多かった(p<0.05).III考按視覚障害による手帳認定者の全国規模の疫学調査が2015年4月.2016年3月の患者を対象にして行われた4).原因疾患は緑内障(28.6%),網膜色素変性(14.0%),糖尿病網膜症(12.8%),黄斑変性(8.0%)の順だった.筆者らは,井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に2021年1.12月に通院し,視覚障害による手帳を申請した患者を調査して報告した5).原因疾患は緑内障(46.5%),網膜色素変性(15.8%),網脈絡膜萎縮(9.1%),黄斑変性(8.2%)の順だった.2015.2016年に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で行った同様の調査6)と比較すると,今回調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.緑内障患者の早期発見,治療薬や手術の開発,ロービジョンケアがますます重要になっている.そこで今回2021年1.12月に視覚障害による手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに2015年に行った同様の調査3)の結果と比較した.2015年から2021年までの間に視覚障害による手帳の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.今回はこの改正の影響も検討した.緑内障病型は今回調査と2015年調査3)で順位は同様で割合に差もなかった.引き続き,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では,注意深い経過観察が必要である.視力障害は4級の割合が2015年調査3)6.7%より今回調査62.2%で有意に増加し(p<0.0001),5級の割合が2015年調査3)13.3%より今回調査2.2%で有意に減少した(p<0.05).視力障害認定基準の改正により2015年調査3)で5級だった症例が今回調査で4級となった可能性が考えられる.緑内障症例に限定しないが,同様の変更が既報でも多く報告されている7.10).視野検査方法は2018年から視野障害判定に利用可能となった自動視野計が39.9%で使用されていた.今回調査の全症例での検討5)では,自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮に比べて有意に多く使用されていた.視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは,緑内障患者にとって有益であったと考えられる.視野障害等級は,Gold-mann型視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,5級の症例が存在し,自動視野計のほうが詳細に視野障害を評価できる可能性がある.視野障害は5級の割合が2015年調査3)19.5%より今回調査36.6%で有意に増加し(p<0.05),2級の割合が2015年調査3)80.5%より今回調査61.4%で有意に減少していた(p<0.05).2018年の改正により,自動視野計による判定が可能となり,自動視野計による5級認定が54.1表2重複申請で上位等級となった症例視野等級視力等級視覚等級症例数(例)2級2級1級72級3級1級33級4級2級1%と多かったことが寄与したと考えられる.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では62.7%,2015年調査3)では70%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが判明した.2015年から2021年の間に緑内障治療分野では,点眼薬として新たにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用可能となった.また,手術ではmicroinvasiveglaucomasurgery(MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式abinternoマイクロフックロトミー,TrabExが行われるようになった.これらの新しい点眼薬や手術手技により緑内障患者の手帳申請が減ることを期待したが,今回調査では2015年調査3)に比べて,件数,割合ともに増加していた.この6年間で緑内障患者が増加したと考えるよりも,緑内障に対する啓発活動により緑内障が発見されやすくなったと思われる.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院ではロービジョンケアに力を入れており,光学補助具の使用や福祉施設への紹介にあたり積極的に手帳取得をすすめていることも増加の理由と考えられる.2021年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による手帳を申請した緑内障症例153例を調査した.病型は原発開放隅角緑内障が54.2%で最多で,視覚障害等級は2級以上が62.7%を占めていた.2015年調査3)と比較すると視覚障害5級が有意に増加したが,これは2018年の視野障害の認定基準の改訂,具体的には自動視野計による視野障害認定が可能となった影響によると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20072)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,20133)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版).あたらしい眼科34:1042-1045,20174)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)井上賢治,鶴岡三惠子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2021年).眼臨紀(印刷中)6)井上賢治,鶴岡三惠子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現状(2015年)─過去の調査との比較─.眼臨紀10:380-385,20177)江口万祐子,杉谷邦子,相馬睦ほか:認定基準改正後の手帳取得状況とQOLの変化.日本ロービジョン学会誌20:101-104,20208)中川浩明,本田聖奈,間瀬智子ほか:視覚障害認定基準改正前後の等級とFunctionalVisionScore.眼科62:795-800,20209)黄丹,間宮紀子,武田佳代ほか:身体障害者手帳申請件数の新旧基準での比較.日本ロービジョン学会誌21:24-28,202110)相馬睦,杉谷邦子,青木典子ほか:視覚障害認定基準改正による身体障害者手帳等級への影響.日本ロービジョン学会誌21:34-38,2021***