‘視野障害進行’ タグのついている投稿

正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の 3 年成績

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):968.973,2022c正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の3年成績柴田真帆豊川紀子植木麻理黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesofTrabeculotomywithPhacoemulsi.cationinNormalTensionGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawa,MariUekiandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の術後C3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2015年C1月.2017年C12月に,正常眼圧緑内障に対して白内障同時線維柱帯切開術を施行した患者のうち,6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障薬の点眼数,3年生存率,平均偏差(meandeviation:MD)値,併発症について検討した.結果:術前眼圧C15.4±1.8はC3年後C12.5±2.3CmmHgへ有意に下降した.14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC77.2%,32.3%,眼圧下降率C20%,30%以上のC3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.術前後C3回以上視野測定のできたC16眼では,MDスロープが.0.51±0.9から術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した.このうち術後CMDスロープが.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,それぞれの術後眼圧経過に有意差はなかったが,進行群では有意に術前CMDスロープが低値であった.併発症として一過性高眼圧をC5眼に認めた.結論:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術は,術後有意な眼圧下降を認め視野障害進行抑制効果があったが,術前に視野障害進行の速かった例では術後も進行する傾向がみられた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCoftrabeculotomy(LOT)withCphacoemulsi.cationCinCnormal-ten-sionglaucoma(NTG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC59CNTGCeyesCthatCunderwentCLOTCwithCphacoemulsi.cationCatCtheCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2015CandCDecemberC2017CandCthatCcouldCbeCfollowedCforCatCleastC6-monthsCpostoperative.CIntraocularCpressure(IOP),glaucomamedications,meandeviation(MD),surgicalsuccess,andpostoperativecomplicationswereinvesti-gated.Surgicalsuccesswasde.nedasanIOPof≦14CmmHgand12CmmHg,andanIOPreductionof≧20%Cand≧30%CbelowCbaselineCwithCorCwithoutCglaucomaCmedications.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CmeanCIOPCwasC12.5±2.3CmmHg,CaCsigni.cantCreductionCcomparedCtoCthatCatbaseline(15.4±1.8CmmHg),CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCwere77.2%(IOP≦14CmmHg),32.3%(IOP≦12CmmHg),32.5%(IOPCreduction≧20%),Cand18.6%(IOPreduction≧30%).In16eyesthathadundergonepreoperativeandpostoperativevisual.eldexaminationatleast3Ctimes,CtheCmeanCMDCslopeCsigni.cantlyCimprovedCfromC.0.51±0.9CdB/YCpreoperativelyCtoC.0.0075±0.9CdB/Ypostoperatively.Whenthose16eyesweredividedintoanon-progressgroup(postoperativeMDslope≧.0.5CdB/CY,C13eyes)andCaCprogressgroup(postoperativeCMDCslope<.0.5CdB/Y,C3eyes),CnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCcourseofpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups,whereasthemeanpreoperativeMDslopeintheprogressgroupwassigni.cantlylowerthanthatinthenon-progressgroup.PostoperativecomplicationsincludedIOPCspikesCof>30CmmHg(n=5eyes).Conclusions:InCNTGCpatients,CLOTCwithCphacoemulsi.cationCshowedCsigni.cante.cacyinreducingIOPandsuppressionofvisual.eldprogressupto3-yearspostoperative.However,incaseswithahighervisual.eldprogressionrate,visual.eldtendedtoprogressevenaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):968.973,C2022〕Keywords:線維柱帯切開術,正常眼圧緑内障,眼圧,視野障害進行.trabeculotomy,normaltensionglaucoma,intraocularpressure,visual.eldprogression.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC968(114)はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy.以下,LOT)は,傍Schlemm管内皮網組織を切開し房水流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.これまで白内障との同時手術を含め多数の長期成績1.6)が示され,Schlemm管外壁開放術(sinusotomy:SIN)と深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)の併用で術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果が報告されている2.6).適応病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),小児緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障とされるが,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に限定した術後成績報告は少ない.これはCPOAGに対するLOT単独の術後眼圧がC18mmHg前後1),白内障手術(phacoemulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:CPEA+IOL)+LOT+SIN+DSの術後眼圧が15mmHg前後3,4)であることから適応症例に限界があるためと考えられ,NTGに対するCLOTの術後成績評価は十分ではなかった.今回,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年C1月.2017年C12月に永田眼科において,NTGに対しCPEA+IOL+LOT+SIN+DSを施行した連続症例C72眼のうち,術後C6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした(経過観察率C82%).緑内障手術既往眼は含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障治療薬の点眼数,平均偏差(meandeviation:MD)値,目標眼圧(12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上)におけるC3年生存率,術後追加手術介入の有無と併発症を調査,検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.NTGの診断基準は,無治療もしくは緑内障治療薬を中止しC3回以上の眼圧測定でC21CmmHgを超えないもので,正常開放隅角,緑内障性視神経乳頭変化と対応する視野変化があり,視神経乳頭の変化を起こしうる他疾患なし,の条件を満たすものである7).CPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術式は既報5)に準じ,すべての症例でCLOTを下方象限で施行しCSINとCDSを併用,CPEA+IOLは上方角膜切開で施行した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,目標眼圧をC12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上としたC3年生存率,術前後のCMD値とCMDスロープ,術後合併症とした.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査CSITA-Standard30-2が信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できたC16眼について検討し,術前後で比較した.緑内障治療薬数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と点眼スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とDunnettの多重比較,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.術前後のCMDスロープの比較には対応のあるCt検定,術後CMDスロープの差による群間比較にはCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示す.42例C59眼の平均年齢はC73.5±5.6歳,平均ベースライン眼圧はC17.3C±2.6CmmHg,術前平均点眼スコアC2.1C±1.1による術前平均眼圧はC15.4C±1.8mmHg,術前平均CMD値はC.11.9±7.7CdB(平均C±標準偏差)であった.図1に眼圧経過を示す.術C3年後の平均眼圧はC12.5C±2.3CmmHgであり,術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2に点眼スコア経過を示す.術前C2.1C±0.1の点眼スコアは術C3年後C1.2C±0.2(平均C±標準誤差)であり,すべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,CANOVA+Dun-nett’stest).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14mmHg)ごとの生存曲線を示す.成功基準を12,14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.3%,77.2%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧下降率(20,30%)ごとの生存曲線を示す.成功基準を眼圧下降率20%,30%以上とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.5%,18.6%であった.図5に術前後CMDスロープの平均値比較と散布図を示す.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討し,平均CMDスロープは術前.0.51±0.9から術後C.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した(p=0.02,pairedttest).視野平均観察期間は術前後でそれぞれC95.5C±54.5カ月,37.1C±13.4カ月であった.症例ごとの術前後CMDスロープ値を散布図に示した.術後も.0.5CdB/Yを超える視野障害進行例をC3眼認めた.術後CMDスロープ値がC.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,進行群で術前CMDスロープが有意に低値であった.年齢,術前眼圧,術前点眼スコア,術前CMD値,術後眼圧経過には群間で有表1患者背景症例数42例眼数59眼平均年齢C73.5±5.6(5C9.C87)歳男:女17:2C5右:左33:2C6ベースライン眼圧C17.3±2.6(1C2.C20)CmmHg術前眼圧C15.4±1.8(1C1.C19)CmmHg術前点眼スコアC2.1±1.1(0.4)術前CMD値C.11.9±7.7(C.0.86.C.31.84)CdB(mean±SD)(range)C20意差を認めなかった(表2).併発症として,30mmHgを超える一過性高眼圧をC5眼(8.5%)に認めたが,炭酸脱水酵素阻害薬内服もしくは一時的緑内障治療薬の点眼追加による保存的加療のみで軽快した.3Cmmを超える前房出血を認める症例はなかった.経過中に追加緑内障手術を必要とした症例はなかった.CIII考按NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後3年成績を検討した.平均眼圧はC15.4C±1.8CmmHgからC3年後に眼圧(mmHg)181614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図1眼圧経過術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C2018点眼スコア1614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図2点眼スコア経過術後すべての観察期間で有意な減少を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).100908077.2%7060504032.3%302014mmHg以下1012mmHg以下00510152025303540生存期間(M)図312,14mmHg以下3年生存率12,14CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC32.3%,77.2%であった.生存率(%)生存率(%)1009080706050403020100020%mmHg以下30%mmHg以下32.5%18.6%510152025303540生存期間(M)図4眼圧下降率20%,30%以上3年生存率眼圧下降率C20%,30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.12.5±2.3CmmHgと有意に下降し,PEA+IOL+LOT+SIN+DSはCNTGに対しても有意な眼圧下降が得られる術式と考えられた.POAGにおけるCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの報告3,4)と比較すると,今回の結果ではC14CmmHg以下C3年生存率がC77.2%であり,術前眼圧値が低いため眼圧値による生存率は良好であった.しかし,眼圧下降率C20%以上・30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であり,NTGにおいてCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは10台前半の眼圧を目標とするには限界がある術式と考えられた.術後MDslope(dB/Y)術前後のCMDスロープ比較では,術前C.0.51±0.9CdB/YCから術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意な改善が得られた.今-3-2-10123回の研究では術前平均CMDスロープがC.0.51±0.9CdB/Yと術前MDslope(dB/Y)視野障害進行は緩徐であり,症例群にはCMD値の低い白内障による感度低下症例を含むため,術後CMDスロープの改善は白内障手術による感度上昇の可能性があるが,今回のように術前ベースライン眼圧がChighteenの場合,PEA+IOL+LOT+SIN+DSは眼圧下降効果と点眼スコアの減少とともに,視野障害進行抑制効果がある可能性が考えられた.しかし,術後視野障害進行群と停止群の比較では,術後の眼圧経過は両群で同等であったが術前CMDスロープ値に有意差を認め,術前視野障害進行の早い症例では,PEA+IOL+術前術後p値MDスロープ(dB/Y)-0.51±0.9-0.0075±0.90.02*(mean±SD)(*pairedttest)図5術前後のMDスロープ比較○初期:MD≧.6dB,●中期:C.12dB≦MD<C.6dB,▲後期:MD<.12CdB.平均CMDスロープは術後有意に改善した.術後C.0.5CdB/Yを超える視野進行例(点線で囲む)をC3眼認めた.表2術後MDスロープ値による比較停止群進行群術後CMDスロープC術後CMDスロープp値≧.0.5CdB/Y<.0.5CdB/Y眼数C133年齢(歳)C72.3±5.5C65.0±4.4C0.05術前眼圧(mmHg)C15.0±1.8C14.7±1.5C0.77術前点眼スコアC2.5±0.8C2.0±1.0C0.34術前CMD値(dB)C.9.07±5.1C.8.50±2.5C0.79術前CMDslope(dB/Y)C.0.19±20.7C.1.91±0.7C0.001*術後平均眼圧C12.0±0.4C11.6±1.1C0.27(1.36M)(mmHg)術後平均眼圧下降率C18.9±2.7C21.9±6.9C0.29(1.36M)(%)術後CMDslope(dB/Y)C0.34±0.6C.1.52±0.3C0.0005*LOT+SIN+DSは視野障害進行抑制効果が弱いと考えられた.視野障害進行の早い患者には,濾過手術を選択せざるを得ないかもしれない.視野障害進行のあるCNTGに手術加療を行い術後の視野障害進行阻止を検証した報告8.13)は多いが,いずれも線維柱帯切除術である.長期の視野障害進行抑制にはC20%以上の眼圧下降もしくはC10CmmHg未満の眼圧維持が必要であると報告8)されている.NTGにおける眼圧下降の有効性を検証したCCollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudy(CNTGS)の報告14,15)では,濾過手術によるC20%の眼圧下降で視野C5年維持率がC80%であったとされ,この報告はCNTGへの濾過手術を意義の高いものにした.しかし,濾過手術では低眼圧による視力低下や濾過胞感染など術後合併症による視機能への影響も無視できない16,17).今回の研究でCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後併発症は一過性高眼圧のみであった.NTGはきわめて経過の長い慢性疾患であり,手術加療の適応には患者別の判断が必要とされる.視野障害進行程度,白内障進行の有無,年齢や余命などを考慮した場合,患者によってはCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの適応があると考えられた.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討したが,視野障害進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告18)があり,視野障害進行判定が不十分であった可能性がある.また術後C6カ月以上経過観察できた症(mean±SD)(*t-test)例群であり,手術から最終視野検査までの期間は進行群(884C±90Cdays)と停止群(1,166C±430Cdays)で統計的有意差はないが(p=0.23,CMann-WhitneyCUtest),視野障害進行判定には術後観察期間が不十分であった可能性があり,今後さらなる長期観察が必要であると考える.今回の検討の結果,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは術後有意な眼圧下降を認め,視野障害進行抑制効果があり,患者によっては適応があると考えられた.一方,術前に視野障害進行の速い患者では術後も進行する可能性があり,時機を逸することなく濾過手術を選択せざるをえないと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19963)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,C20024)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか.:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成(118)績.日眼会誌C116:740-750,C20127)TheCJapanCGlaucomaCSocietyCGuidelinesCforGlaucoma(4thEdition)C.NipponGankaGakkaiZasshiC122:5-53,C20188)AoyamaA,IshidaK,SawadaAetal:TargetintraocularpressureCforCstabilityCofCvisualC.eldClossCprogressionCinCnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmolC54:117-123,C20109)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:E.ectoftrabeculecto-myonvisual.eldperformanceincentral30degrees.eldinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC104:197-201,C199710)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C200211)HagiwaraCY,CYamamotoCT,CKitazawaY:TheCe.ectCofCmitomycinCtrabeculectomyontheprogressionofvisual.eldCdefectCinCnormal-tensionCglaucoma.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC238:232-236,C200012)BhandariCA,CCabbCDP,CPoinoosawmyCDCetal:E.ectCofCsurgeryConCvisualC.eldCprogressionCinCnormal-tensionCglaucoma.OphthalmologyC104:1131-1137,C199713)NaitoT,FujiwaraM,MikiTetal:E.ectoftrabeculecto-myConCvisualC.eldCprogressionCinCJapaneseCprogressiveCnormal-tensionCglaucomaCwithCintraocularCpressure<15CmmHg.PLoSOneC12:e0184096,C201714)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C199815)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup.:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C199816)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109:1336-1341,C200217)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C201418)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C2012C***

10年間以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障症例の視野障害進行

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):286.290,2019c10年間以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障症例の視野障害進行井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CVisualFieldProgressioninPrimaryOpenangleGlaucomaPatientswithFollow-upPeriodsofMoreThan10YearsKenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:原発開放隅角緑内障の視野障害進行状況と,関連する因子を後ろ向きに検討する.対象および方法:10年間以上経過観察を行い,その間に緑内障手術や緑内障レーザー治療を行っていない原発開放隅角緑内障C304例C304眼を対象とした.Humphrey視野検査のCmeandeviation(MD)スロープを算出した.MDスロープに関連する因子(性別,年齢,病型,屈折値,観察開始時眼圧,眼圧変動幅,平均眼圧,使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,中心角膜厚,白内障手術施行の有無)を検索した.結果:MDスロープはC.0.25±0.27CdB/年で,C.0.5CdB/年以下がC56例(18.4%)だった.MDスロープに関連する因子は年齢,使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,観察開始時眼圧だった.結論:10年以上経過観察を行っている原発開放隅角緑内障での視野障害進行はC18.4%でみられた.高齢で観察開始時CMD値が良好な症例で視野障害進行のスピードが速く,注意を要する.CPurpose:ToretrospectivelyinvestigatevisualC.eldprogressionandcorrelatedfactorsinprimaryopen-angleglaucoma(POAG)patientsCwithCfollow-upCperiodsCofCmoreCthanC10years.CMethods:SubjectsCwereC304patients(304eyes)withPOAGwhowerefollowed-upformorethan10years,duringwhichnosurgeryorlasertreatmentforCglaucomaCwasCperformed.CMeandeviation(MD)slopeCbyCHumphreyCwasCcalculated.CFactorsCcorrelatingCwithCMDslope(gender,age,typeofdisease,refractivevalue,baselineMDandIOP,IOPrange,IOPaverage,numberofmedicationsCatCbaseline,CnumberCofCincreasedCmedications,CcentralCcornealCthicknessCandCsurgicalChistoryCofCcata-ract)wereCsearched.CResults:SlopeCgradeCwasC.0.25±0.27CdB/year,CwithC56patients(18.4%)beingClessCthanC.0.5CdB/Cyear.CFactorsCthatCcorrelatedCwithCMDCslopeCwereCage,CnumberCofCmedicationsCatCbaseline,CnumberCofCincreasedmedications,andMDandIOPatbaseline.Conclusions:VisualC.eldprogressionoflessthanC.0.5CdB/ywasobservedin18.4%ofsubjects.ElderlypatientswithincipientstageofMDatbaselinehadworseprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):286.290,C2019〕Keywords:原発開放隅角緑内障,視野障害進行,MDスロープ,高齢,meandeviation値.primaryopenangleglaucoma,visualC.eldprogression,MDslope,elderlypatients,meandeviation.Cはじめに緑内障は視野障害をきたす疾患である.視野障害は改善することはなく,慢性進行性である.そのため緑内障治療は視野障害進行を抑制あるいは停止させることが最終目標となる.緑内障性視野障害の進行速度を示すCmeanCdeviation(MD)スロープは,無治療で経過観察した症例において正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)ではC.0.22CdB/年1),C.0.41CdB/年2),C.0.78CdB/年3),原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)ではC.0.46dB/年1)と報告されている.また,緑内障性視野障害の進行抑制に対して,唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降である4).しかし,眼圧を十分に下降(眼圧下降率C30%以上)させても視野障害が進行する症例や,無治療でも視野障害が進行しない症例が存在する4).どのような症例で視野障害が〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC286(156)進行するか判明すれば,緑内障の治療方針の参考となる.緑内障による視野障害進行を検討した報告は過去に多数あるが5.10),10年間以上の長期間にわたる視野障害進行を検討した報告は少ない9,10).また,300例以上の多数症例での報告は過去にない.そこで今回C10年間以上の長期にわたり経過観察できた多数症例の(広義)POAGの視野障害進行状況と視野障害進行に関連する因子を後ろ向きに検討した.CI対象および方法井上眼科病院に通院中で,10年間以上経過観察可能であった(広義)POAG304例C304眼を対象とした.対象の概要を表1に示す.組入基準として,Humphrey視野中心C30-2プログラムCSITAStandardの信頼性のあるデータがC16回以上得られた症例とした.信頼性のあるデータは固視不良20%以下,偽陽性C33%以下,偽陰性C33%以下とした.また,Humphrey視野検査によるCMD値がC.18.0CdB以上の症例とした.除外基準として経過観察中に選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClasertrabeculoplasty:SLT)施行眼,緑内障手術施行眼とした.両眼該当例では右眼を対象とした.Humphrey視野検査によるCMDスロープを各症例で算出した.MDスロープに関連する因子を重回帰分析で解析した.従属変数はCMDスロープとした.独立変数は性別,観察開始時年齢,病型,観察開始時屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,経過観察中の平均眼圧,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値,中心角膜厚,経過観察開始時の白内障手術施行有無とした.MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例に分けて上記各因子の相違を解析した.さらに視野障害度による症例の検討を行った.具体的には観察開始時CMD値をC.6.0dB超(初期),C.12.0dB以上C.6.0dB以下(中期),C.18.0dB以上C.12.0CdB未満(後期)のC3群に分けて上記各因子とMDスロープの相違を解析した.MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例の解析には,観察開始時年齢,観察開始時の屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時CMD値はCMann-WhitneyU検定を,平均眼圧,中心角膜厚は対応のないCt検定を,性別,病型,白内障手術施行有無はCc2検定を使用した.視野障害度による症例の解析には,観察開始時年齢,観察開始時屈折値,観察開始時眼圧,経過観察中の眼圧変動幅,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,中心角膜厚,MDスロープはCKruskal-Wallis検定を,3群に有意差があればCMann-WhitneyU検定を,平均眼圧はCone-wayANOVAを,3群に有意差があればCBonferroni-Dunn検定を,性別,病型,白内障手術施行有無はCc2検定を使用した.有意水準はp<0.05とした.表1対象の概要性別男性C135例,女性C169例観察開始時年齢C52.3±10.2歳(22.74歳)病型NTG185例,POAG119例観察開始時屈折値C.4.2±3.7D(C.17.0.+3.5D)観察開始時眼圧C15.7±2.3CmmHg(11.21mmHg)観察開始時使用薬剤数C1.8±1.2剤(0.4剤)観察開始時CMD値C.6.95±4.68CdB(C.17.69.+1.74dB)中心角膜厚C527.1±34.9Cμm(392.624Cμm)解析視野検査回数C24.0±4.8回(16.39回)平均観察期間C11.6±1.1年(10.14年)本臨床試験は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認された.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者が拒否できる機会を保障した.CII結果全症例(304例)のCMDスロープはC.0.25±0.27CdB/年(平均値C±標準偏差),C.1.30.0.30dB/年だった.MDスロープがC.0.5dB/年以下の症例はC56例(18.4%),C.1.0CdB/年以下の症例はC7例(2.3%)だった(図1).MDスロープに関連する因子は観察開始時年齢,観察開始時眼圧,観察開始時使用薬剤数,薬剤増加数,観察開始時MD値だった(表2).観察開始時年齢が高いほど,観察開始時眼圧が低いほど,使用薬剤数が多いほど,薬剤増加数が多いほど,観察開始時CMD値が高値なほどで,MDスロープの値が小さかった(視野進行障害が早かった).MDスロープC.0.5CdB/年以下とC.0.5CdB/年超の症例の比較では,観察開始時年齢,薬剤増加数に有意差がみられた(表3).MDスロープがC.0.5dB/年以下の症例ではC.0.5CdB/年超の症例に比べて有意に年齢が高く(p<0.001),薬剤数が増加していた(p<0.01).視野障害度による症例比較では,緑内障病型は後期症例で初期症例に比べてCNTGが有意に少なかった(p<0.01,p=0.008)(表4).使用薬剤数は初期症例が中期症例,後期症例に比べて有意に少なかった.(p<0.001,p<0.001).白内障手術施行例は中期症例が初期症例に比べて有意に多かった(p<0.05).MDスロープは初期症例と中期症例が後期症例に比べて有意に低値だった(p<0.05).CIII考按緑内障患者の視野障害進行の検討は多数報告されている5.10)が,報告により対象,経過観察期間,視野障害進行判定が異なるのでその評価はむずかしい.NaitoらはCPOAG,CNTG156例を平均C7.6年間経過観察した5).MDスロープの有意な悪化を視野障害進行と定義したところ,視野障害進行例はC44.9%だった.視野障害進行例の特徴は,ベースライ(例)60535250403020100-1.3-1.2-1.1-1.0-0.9-0.8-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10.00.10.20.3(dB/年)図1MDスロープの分布表2MDスロープに関連する因子独立変数p値Cb性別C0.6160C.0.029観察開始時年齢<C0.0001C.0.267病型C0.7683C.0.022観察開始時屈折値C0.2716C0.072観察開始時眼圧C0.0225C0.125経過観察中の眼圧変動幅C0.2502C.0.071経過観察中の平均眼圧C0.0862C0.128観察開始時使用薬剤数C0.0035C.0.215薬剤増加数C0.0001C.0.272観察開始時CMD値C0.0004C.0.214中心角膜厚C0.6054C.0.031白内障手術施行C0.1812C0.079表3MDスロープ.0.5dB/年以下と.0.5dB/年超の症例比較.0.5dB/年以下.0.5dB/年超項目C(有意に悪化)(有意な変化なし)p値56例C248例性別男性C21:女性C35男性C114:女性C134C0.249観察開始時年齢(歳)C57.5±11.9C52.3±10.3<C0.001病型(例)NTG33:POAGC23NTG152:POAGC96C0.744観察開始時屈折値(D)C.3.2±4.1C.4.2±3.6C0.065観察開始時眼圧(mmHg)C15.9±3.0C15.8±2.5C0.708経過観察中の眼圧変動幅(mmHg)C7.2±2.1C6.9±2.1C0.378経過観察中の平均眼圧(mmHg)C14.2±1.7C14.2±1.7C0.866観察開始時使用薬剤数(剤)C1.1±0.9C1.3±1.0C0.200薬剤増加数(剤)C1.1±1.1C0.6±0.8C0.001観察開始時CMD値(dB)C.5.77±3.55C.7.21±4.86C0.0957中心角膜厚(Cμm)C524.6±37.2C527.7±34.5C0.7002白内障手術施行あり4:なしC52ありC31:なしC217C0.257Cン眼圧が低い,眼圧下降率が低い,眼圧変動幅が大きいだっところ,視野障害進行例はC23.1%だった.視野障害進行例た.MuschらはCPOAG,色素緑内障C293例をC9年間経過観の特徴は最大眼圧が高い,眼圧変動幅が大きい,眼圧のばら察した6).MD値のC3CdB以上悪化を視野障害進行と定義したつき〔standarddeviation(SD)値〕が大きいだった.Fuku-表4視野障害度による症例比較.6.0CdB超C.12.0.C.6.0CdBC.12.0CdB未満項目(初期)151例(中期)99例(後期)54例p値性別男性C58:女性C93男性C48:女性C51男性C29:女性C25C0.093観察開始時年齢(歳)C53.3±10.8C53.8±11.3C52.6±10.3C0.777病型(例)NTG103:POAGC48NTG58:POAGC41NTG24:POAGC30C0.008観察開始時屈折値(D)C.3.8±3.6C.4.4±3.9C.4.2±3.6C0.388観察開始時眼圧(mmHg)C16.1±2.7C15.3±2.6C15.7±2.3C0.094経過観察中の眼圧変動幅(mmHg)C7.0±2.1C6.7±1.9C7.5±2.5C0.215経過観察中の平均眼圧(mmHg)C14.3±1.6C14.1±1.8C14.2±1.7C0.599観察開始時使用薬剤数(剤)C1.0±0.9C1.5±1.0C1.8±1.1<C0.001薬剤増加数(剤)C0.7±0.9C0.7±0.9C0.6±1.0C0.326中心角膜厚(Cμm)C528.6±34.4C530.6±36.5C516.7±32.0C0.062白内障手術施行ありC10:なしC141ありC19:なしC80あり6:なしC48C0.010MDスロープ(dB)C.0.28±0.13C.0.25±0.14C.0.15±0.13C0.01CchiらはCPOAG121例を平均C8.68年間,NTG166例を平均9.19年間経過観察した7).POAGのCMDスロープはC.0.51±0.63dB/年で,MDスロープに関連する因子は,性別(男性),観察開始時年齢,経過観察中の平均眼圧だった.NTGのMDスロープはC.0.35±0.41CdB/年で,MDスロープに関連する因子は観察開始時の年齢,観察開始時のCMD値,経過観察中の眼圧変動(SD)だった.KoonerらはCPOAG487例を平均C5.5年間経過観察した8).失明に至る症例の特徴を調査した.失明の定義は,矯正視力C20/200以下あるいは視野が中心C20°以内とした.失明に至る症例はC42.1%(205例/487例)で,その特徴は平均眼圧が高い,眼圧の変動が大きい,発見が遅れた,眼圧コントロール不良,コンプライアンス不良だった.KomoriらはCNTG78例を平均C18.3年間経過観察した9).MDスロープはC.0.30±0.29CdB/年だった.視野障害進行例をCMD値がC3CdB以上悪化とした場合には53.8%,MDスロープがC.0.5CdB/年以下とした場合にはC19.2%だった.視野障害進行の危険因子は視神経乳頭出血と経過観察中の眼圧変動だった.KimらはCNTG121例を平均C12.2年間経過観察した10).緑内障の進行を構造的変化と視野障害進行のいずれかとした場合にはC46.3%が該当した.危険因子は視神経乳頭出血と眼圧下降不良だった.今回の症例でのMDスロープはC.0.25±0.27CdB/年で,過去の報告7,9)より良好だった.また,MD値がC3CdB以上悪化した症例はC45.4%(138例/304例)で,Muschらの報告(23.1%)6),Komoriらの報告(19.2%)9)より視野障害進行例が多かった.今回CMDスロープに関連する因子として年齢,観察開始時使用薬剤数,観察開始時CMD値,観察開始時眼圧値,増加薬剤数があげられた.視野障害進行が早い(MDスロープ値が小さい)症例には年齢が高い,観察開始時の使用薬剤数が多い,観察開始時CMD値が高値,観察開始時眼圧が低値,使用薬剤数が増加という特徴がみられた.原因として年齢が高いほど余命を考えて緑内障手術は控える傾向となる.使用(159)薬剤が多い症例ではさらに薬剤を増やすことは困難なのでSLTや緑内障手術を施行することが多い.観察開始時CMD値が高値で初期の症例では,視野障害が進行する余地が大きい.言い換えるとCMD値が低値で後期の症例では,それ以上はなかなか進行しない.観察開始時眼圧が低値な症例では,加療がむずかしく,視野障害が進行しても経過観察する傾向がある.眼圧が高値な症例ではCSLTや緑内障手術を行う頻度も高い.使用薬剤数が増加した症例では視野障害が進行したために目標眼圧を下げる必要が生じた9)と考えられる.このことからたとえば他院で診療を行っている緑内障患者を初めて診察する場合は,年齢,使用薬剤数,MD値,眼圧を考慮し,その後の治療にあたる必要がある.FukuchiらはCMDスロープC.0.3CdB/年を基準としてCPOAG,NTG症例で各因子の相違を検討した7).POAG症例ではCMDスロープC.0.3CdB/年以下の症例ではC.0.3CdB/年超の症例に比べて,年齢は高く,経過観察期間は短く,経過観察開始時CMD値は良好で,平均眼圧は高く,経過観察中の最高眼圧が高く,最低眼圧が高く,平均眼圧下降率が不良だった.NTG症例ではCMDスロープC.0.3CdB/年以下の症例ではC.0.3CdB/年超の症例に比べて,経過観察中の最高眼圧が高く,眼圧変動幅が大きかった.今回の研究ではCMDスロープC.0.5CdB/年を基準として検討した.症例はCNTG(185例)がCPOAG(119例)より多かった.MDスロープC.0.5CdB/年以下の症例ではC.0.5CdB/年超の症例に比べて,年齢が高く,薬剤増加が多かった.Fukuchiらの報告7)と今回の研究の結果の共通点として年齢が高い症例はリスクが高いと考えられる.今回の研究の視野障害度による比較においても,初期症例(C.6.0CdB超)と中期症例(C.12.0CdB.C.6.0CdB)は後期症例(C.18.0CdB.C.12.0dB)に比べてCMDスロープが有意に小さかった.今回の研究の視野検査の経過観察開始時期はC2000年C1月.2007年C6月である.それ以前には視野検査はCHumphrey視野中心C30-2FullThresholdで行っていた.Humphrey視あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C289野検査のプログラムを中心C30-2SITAStandardへ変更したので,その時期を開始として検討した.そのため,すでに点眼薬治療中の症例も多く,各症例のベースライン眼圧は不明だった.理想的にはベースライン眼圧が判明し,治療開始時を観察開始時とするほうがよいが,今回は日常診療のなかでの評価を考えて,視野検査のプログラムを変更した時期を観察開始とした.したがって経過観察開始時に眼圧が高値,あるいは視野障害進行中の症例も含まれていた可能性がある.視野障害進行を検討したが,ベースラインからの視野障害進行の評価はできなかった.他にも今回の研究には問題点が多数ある.後ろ向き研究のためにさまざまな理由で来院中断となった症例は組入れされていない.治療強化の基準が定められていないので,点眼薬の追加や緑内障手術への移行のタイミングは症例ごとに異なっていた.視野障害が中心近傍に進行した症例では,Humphrey視野検査がC30-2プログラムからC10-2プログラムへ変更したり,Goldmann視野検査に変更したりするが,それらの症例は除外された.経過観察中に緑内障手術が行われた症例は除外されており,それらの症例では視野障害が進行している可能性が高い.眼圧測定時間は全症例で統一されておらず,症例ごとにおいても眼圧測定時間がほぼ同一の症例もあれば,さまざまな時間帯の症例も存在する.通院間隔も統一されておらず,眼圧測定回数も症例ごとに異なる.点眼アドヒアランスは評価されていないので,点眼薬をきちんと使用しているかは不明である.今回,10年間以上経過観察可能だったCPOAG症例の視野障害進行状況と視野障害進行に関連する因子を検討した.視野障害進行をCMDスロープC.0.5CdB/年以下と定義すると18.4%の症例が該当した.高齢で,多剤併用で,MD値が初期の症例で視野障害が進行しやすく,経過観察において注意を要する.文献1)HeijilA,BengtssonB,HymanLetal:Naturalhistoryofopen-angleCglaucoma.COphthalmologyC116:2271-2276,C20092)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CNaturalhistoryofnormal-tensionglaucoma.Ophthalmolo-gyC108:247-253,C20013)KosekiCN,CAraieCM,CYamagamiCJCetal:E.ectsCofCoralCbrovincamineonvisualC.elddamageinpatientswithnor-mal-tensionCglaucomaCwithClow-normalCintraocularCpres-sure.JGlaucomaC8:117-123,C19994)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19985)NaitoCT,CYoshikawaCK,CMizoueCSCetal:RelationshipCbetweenprogressionofvisualC.elddefectandintraocularpressureCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CClinicalCOph-thalmolC9:1373-1378,C20156)MuschCDC,CGillespieCBW,CNiziolCLMCetal:IntraocularCpressurecontrolandlong-termvisualC.eldlossinthecol-laborativeinitialglaucomatreatmentstudy.Ophthalmolo-gyC118:1766-1773,C20117)FukuchiCT,CYoshinoCT,CSawadaCHCetal:TheCrelationshipCbetweenthemeandeviationslopeandfollow-upintraocu-larpressureinopen-angleglaucomapatients.JGlaucomaC22:689-697,C20138)KoonerKS,AiBdoorM,ChoBetal:Riskfactorsforpro-gressionCtoCblindnessCinChighCtensionCprimaryCopenCangleglaucoma:ComparisonCofCblindCandCnonblindCsubjects.CClinicalOphthalmolC2:757-762,C20089)KomoriCS,CIshidaCK,CYamamotoT:ResultsCofClong-termCmonitoringofnormal-tensionglaucomapatientsreceivingmedicaltherapy:resultsofan18-yearfollow-up.GraefesArchClinExpOphthalmolC252:1963-1970,C201410)KimCM,CKimCDM,CParkCKHCetal:IntraocularCpressureCreductionwithtopicalmedicationsandprogressionofnor-mal-tensionglaucoma:aC12-yearCmeanCfollow-upCstudy.CActaOphthalmolC91:e270-e275,C201311)緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C2018C***