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DSAEK術後長期経過後の角膜真菌症

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):538.541,2018cDSAEK術後長期経過後の角膜真菌症奥村峻大*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CFungalKeratitisafterLong-termDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyTakahiroOkumura1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:角膜内皮移植術(DSAEK)長期経過後に角膜真菌症をきたしたC2症例を報告する.症例:症例1は77歳,男性.右眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C32カ月に遷延性の角膜上皮びらんを認めた.術後C37カ月にソフトコンタクトレンズを装用させたところ.3週間後に角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.症例C2はC84歳,女性.両眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C11カ月間,部分的な角膜浮腫が遷延した.術後C8カ月より右眼の充血と眼痛の訴えがあり,術後C15カ月に右眼の角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.掻爬した角膜上皮より塗抹培養検査でそれぞれCCandidaCparapsilosisおよびCCandidaCalbicansが同定された.結論:DSAEK術後で角膜上皮びらんや角膜浮腫を認めた症例では角膜真菌症も鑑別診断の一つとして念頭においておく必要がある.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCfungalCkeratitisCafterClong-termCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK).CCaseReports:CaseC1CinvolvedCaC77-year-oldCmaleCwhoCunderwentCDSAEKCforCbullouskeratopathy(BK)inChisCrightCeye.CAtC32CmonthsCpostoperatively,CpersistentCcorneal-epithelialCerosionCwasCobserved.CAtC37-months,Cmedical-soft-contact-lensCwearCwasCinitiated.CThreeCweeksClater,CwhiteCin.ltratesCwereCobservedonthecornealsurface.Case2involvedan84-year-oldfemalewhounderwentDSAEKforbilateralBK.PartialCcornealCedemaCwasCprolongedCforC11monthsCpostoperatively.CAtC8CmonthsCpostoperatively,Cright-eyeCcon-junctivalhyperemiaandocularpainoccurred.At15months,whitein.ltrateswereobservedonherright-eyecor-nealsurface.Ineachofthesecases,CandidaparapsilosisCandCandidaalbicansCwereidenti.edfromsmearmicros-copyCandCbacterialCcultureCofCcornealCepithelium.CConclusion:FungalCkeratitisCmayCbeCselectedCasCaCdi.erentialCdiagnosiswhencornealerosionandcornealedemaareobservedonthecornealsurfacepostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):538.541,C2018〕Keywords:DSAEK,角膜真菌症,カンジダ,角膜びらん,角膜浸潤.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),fungalkeratitis,Candida,cornealerosion,cornealin.ltration.Cはじめに水疱性角膜症に対する治療として従来は全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)が行われていたが,近年は角膜内皮移植術のなかでも,とくにCDSAEK(DescemetstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty)が主流となってきている1,2).PKPと比較したCDSAEKの利点は,①術中のオープンスカイがないため駆逐性出血のリスクが低い,②外傷に強い,③術後の視力改善が早い,④術後の不正乱視が少ない,⑤角膜移植片の縫合はない場合が多く,感染など縫合糸関連の合併症が少ない,⑥拒絶反応が少ないなどがあげられる2).DSAEK術後の角膜感染症はCinterfaceCinfection(host-graft創間の感染)が問題となるものの,角膜移植片の縫合はない場合が多いため,表層からの角膜感染症のリスクは一般にCPKPに比べ低いと考えられる.さらにCDSAEK術後の角膜表層からの感染と考えられる角膜真菌症は報告例が少なく,比較的まれであると考えられる.今回,筆者らは,DSAEK施行後,良好な視力経過をたどっている症例に角膜表層から感染した角膜真菌症を経験したので報告する.〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-City,Osaka569-8686,JAPAN538(120)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(120)C5380910-1810/18/\100/頁/JCOPYI症例〔症例1〕77歳,男性.眼科既往歴:1994年C1月に右眼の白内障に対して水晶体.外摘出術+眼内レンズ挿入術(ECCE+IOL),1995年C11月に左眼に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を他院で施行された.その後,両眼とも緑内障を発症し,2001年C1月に左眼,2001年C2月に右眼に対して線維柱体切除術(trabeclectomy)が施行された.現病歴および経過:2010年C8月中旬より右眼の視力低下を自覚し近医受診.右眼矯正視力は(0.4)と低下しており,虹彩切除部より.外固定された眼内レンズ支持部の前房内への脱出と角膜内皮細胞密度の減少を認めた.同年C9月精査・加療目的に大阪医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となったが,水疱性角膜症となり右眼視力はC0.02(矯正不能)まで低下した.2012年C2月に右眼のCDSAEKを施行し,手術は明らかな合併症なく終了した.術後はC0.3%ガチフロキサシン点眼およびC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C4回/日で治療した.徐々に角膜の透明性は回復し,術後C9カ月に矯正視力は(0.6)に改善した.しかし,術直後より鼻側下方に角膜浮腫が遷延しており,スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は測定困難であった.術後C32カ月に角膜下方にびらんを生じ,矯正視力は(0.1)に低下した(図1a).角膜浮腫はやや範囲が広がったような印象で,角膜後面沈着物を認めた.5カ月間,オフロキサシン眼軟膏,レバミピド点眼で加療するも改善がみられず,角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ(SCL)装用を開始した.装用開始からC2週間後,角膜びらんはやや改善しているように思われたが,眼脂を認め,右眼矯正視力は(0.06)と低下した(図1b).さらにCSCL装用を継続したところ,1週間後の受診の際に眼痛の訴えがあり,角膜浸潤を生じていた.そのためベタメタゾン点眼およびCSCL装用を中止し,角膜掻爬のうえC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.前回受診の際に採取した眼脂と角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.1カ月の治療で炎症は鎮静化した(図1c).現在,右眼矯正視力は(0.1)で,角膜びらんや角膜浮腫,眼痛の再発は認めずに経過している.〔症例2〕86歳,女性.現病歴および経過:2004年より白内障で近医にて経過観察されていた.経過中に視力低下を認めたため,2013年C7月に白内障手術目的に当科紹介受診された.当科初診時,白内障に加えて角膜内皮細胞密度が右眼C559/mmC2,左眼測定不能と両眼とも低下していたため,白内障手術後に水疱性角図1症例1の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C37カ月.角膜上皮びらんは改善を認めず.角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ装用を開始した.Cb:ソフトコンタクトレンズ装用開始後C3週間.角膜浸潤を認める.角膜上皮の塗抹鏡検,培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.Cc:治療開始後C4週間.角膜上皮びらんは治癒した.角膜真菌症は瘢痕治癒を認めた.C膜症となるリスクを説明したうえでC2013年C8月C30日に右眼に対してCPEA+IOLを施行した.術後いったん視力は改善したが,その後水疱性角膜症が発症し右眼の矯正視力が(0.2)まで低下した.2013年C11月C19日に右眼に対して(121)Cあたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C539図2症例2の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C4カ月.術後部分的にCgraftの接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫が遷延している.Cb:DSAEK術後C15カ月.角膜実質浅層に浸潤があり,衛星病巣を認める.Cc:治療開始後C3カ月.角膜は瘢痕治癒した.CDSAEKを施行し,明らかな合併症なく手術は終了した.術後はC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日を含む点眼加療を開始した.術直後よりChost角膜とCdonorCgraft間に部分的な接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫を認めた(図2a).術後C8カ月に異物感と軽度の充血が出現した.術後C10カ月に眼圧が上昇したためC0.1%ベタメタゾン点眼をC0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日に変更した.術後C11カ月にはhost角膜とCdonorgraftは接着し,遷延していた角膜上皮浮腫も改善したものの,同部の角膜実質浅層に混濁が残存した.術後C15カ月に同部の角膜表層に浸潤を認めたが角膜上皮欠損は認めなかった.感染が強く疑われ精査を勧めたが,矯正視力は(0.7)で改善傾向が続いており,家庭の事情もあり慎重な経過観察を希望された.1カ月後に再診し,角膜浸潤の増大と角膜上皮欠損を認めた(図2b).矯正視力は(0.8)であったが,異物感と充血が続いており,説得して角膜.爬を施行した.角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaalbicansが検出された.フルオロメトロン点眼は中止しC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.治療開始後C3カ月で瘢痕治癒した(図2c).治療開始以降,異物感の訴えは認めない.現在矯正視力は(1.2)である.角膜内皮細胞密度は術前のCdonorCgraftでC2,625/mmC2であり,術後は測定困難が続き術後C27カ月でC1,407/mmC2,術後C42カ月でC1,156/mmC2であった.CII考按角膜移植後の角膜感染症の危険因子としては,角膜縫合糸のゆるみや断裂,遷延性上皮欠損,コンタクトレンズ装用,局所のステロイド点眼および抗菌薬点眼の併用などがあげられている3).DSAEKは角膜表層への侵襲が少ないこと,角膜縫合糸を使用しない場合が多いことから,PKPと比較して術後感染症は少ない可能性が考えられる.PKPとCDSAEKそれぞれの術後角膜感染症を疫学的にみてみると,MarianneらはCCorneaDonorStudyに基づいて,角膜移植術後の角膜感染症の発症頻度についてC3年間経過観察し,DSAEK173例で0%,PKP術後C1,101例で2%認めたと報告している4).NuhmanらはCDSAEK術後のCinterfaceinfectionを,8年間経過観察したC1,088眼でC0.92%に認めたと報告しており,内訳はC0.53%が細菌性,0.39%が真菌性であったとしている5).これに対して,脇舛らはCPKP術後の558例についてC6年間で,細菌感染症をC1.4%,真菌感染症を2%認めたと報告している6).上記の報告からはCDSAEK術後の角膜感染症はCPKPに比較すると少なく,真菌性は細菌性よりも頻度は低いと考えられるが,海外の報告ではグラフト汚染に起因した角膜真菌症の報告が多い7.19).グラフト汚染に起因した角膜真菌症は術後C3カ月以内(術後C7日.3カ月)で発症し7.19),移植したdonorgraftとChost角膜の層間に沿って真菌が増殖し,予後不良の転帰をたどることもある10,13),このため術後のグラフト自体に浸潤性の病変が生じていないか慎重に経過観察することが重要である.診断にはコンフォーカルマイクロスコープが有用であるとする報告もみられる12,13).グラフト作製後に残った強角膜片の培養をあらかじめ施行しておくことも有効である9.12).原因菌は今回の症例と同じCCandida属が多い.治療には抗真菌薬の点眼を施行するが,保存的治療だけ(122)で完治は困難でありグラフト抜去9,13)や治療的角膜移植8,10.12)が有効なようである.症例C1は術直後より部分的な角膜浮腫が遷延していたため,角膜真菌症と診断されるまでC37カ月間C0.1%ベタメタゾン点眼が継続されていた.術後C32カ月の時点で難治性の角膜びらんを発症したが,経過中に眼痛や視力など自覚症状および診察所見に大きな変化がなく,角膜浸潤が明らかになり角膜真菌症が診断されたのはCSCL装用を開始したC3週間後であった.本症例ではステロイド点眼の長期継続に加えて,遷延する角膜浮腫と角膜びらんが発症の一因となっていた可能性があり,SCL装用が増悪因子となったと考えられるが,どの時点で角膜感染が生じていたかは明らかでない.症例C2も術直後より角膜浮腫が遷延していた.眼圧上昇を認めたため術後C9カ月でベタメタゾン点眼をフルオロメトロンに変更したものの,変更前より異物感と充血を認めていた.術後C11カ月に角膜浮腫の消退した部位に上皮下混濁を認めており,さらにC4カ月後に角膜真菌症を発症した.本症例でも角膜浸潤が明らかになるより以前に角膜感染が生じていた可能性が考えられるが,どの時点かは明らかでない.発症時期についての検討だが,PKP,表層角膜移植術の角膜感染症の発症時期は,術後早期では細菌感染症が,3年以降の晩期では真菌感染症が多いと報告されている4).ArakiらはCDSAEK術後C2年に発症したCgraft汚染によらない角膜真菌症を報告している14)が,今回のC2症例の発症時期はそれぞれ術後C38カ月とC15カ月であり,DSAEK術後のCgraft汚染によらない角膜真菌症の発症時期についてはCPKPに準ずる可能性があると考えられた.また,2症例とも角膜浮腫が遷延しており,浮腫のあった部分に真菌感染を生じている.視力経過が比較的良好な症例でも角膜上皮浮腫や角膜びらんなど角膜上皮にトラブルのある症例では角膜感染のリスクがあると考えられる.角膜移植後は拒絶反応を予防するためにステロイド点眼が併用されるが,DSAEKはCPKPと比較して拒絶反応のリスクが低いとされており,比較的早期に投与量を減量されることが多いと考えられる.今回のC2症例では,角膜浮腫が遷延していたため,ベタメタゾン点眼を他の症例に比べて長期に使用した傾向がある.岡宮ら15)は白内障術後に角膜びらんが遷延し,ステロイド点眼をC7カ月使用していた症例にCCandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を発症した症例を報告しており,今回のC2症例と総合すると,遷延する角膜浮腫やそれに続発する眼痛や角膜びらんは,CandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を示唆する所見であると考えられる.以上,DSAEK術後の視力経過が比較的良好な症例でも,角膜浮腫の遷延する症例に眼痛や角膜びらんを生じてきた場合,角膜真菌症を鑑別診断の一つとして念頭に置いておく必(123)要があると考えられた.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurgC21:339-345,C20052)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科C32:77-81,C20153)藤井かんな,佐竹良之,島.潤:角膜移植後の角膜感染症.あたらしい眼科31:1697-1700,C20144)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetCal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCthree-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C20135)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20146)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,C20047)YamazoeCK,CDenCS,CYamaguchiCTCetCal:SevereCdonor-relatedCCandidaCkeratitisCafterCDescemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC249:1579-1582,C20118)HolzCHA,CPirouzianCA,CSudeshCSCetCal:SimultaneousCinterfaceCcandidaCkeratitisCinC2ChostsCfollowingCdescemetCstrippingCendothelialCkeratoplastyCwithCtissueCharvestedCfromCaCsingleCcontaminatedCdonorCandCreviewCofCclinicalCliterature.AsiaPacJOphthalmolC1:162-165,C20129)KitzmannAS,WagonerMD,SyedNAetal:Donor-relat-edCCandidaCkeratitisCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC28:825-828,C200910)KoenigSB,WirostkoWJ,FishRIetal:CandidakeratitisafterCdescemetCstrippingCandCautomatedCendothelialCkera-toplasty.CorneaC28:471-473,C200911)TsuiE,FogelE,HansenKetal:Candidainterfaceinfec-tionsafterDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.CorneaC35:456-464,C201612)LeeWB,FosterJB,KozarskyAMetal:Interfacefungalkeratitisafterendothelialkeratoplasty:aclinicopathologi-calCreport.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC42Online:Ce44-48,C201113)Ortiz-GomarizCA,CHigueras-EstebanCA,CGutierrez-OrtegaARCetCal:Late-onsetCCandidaCkeratitisCafterCDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:clinicalandconfocalCmicroscopicCreport.CEurCJCOphthalmolC21:498-502,C201114)Araki-SasakiK,FukumotoA,OsakabeYetal:ThecliniC-calCcharacteristicsCofCfungalCkeratitisCinCeyesCafterCDes-cemet’sCstrippingCandCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CClinOphthalmolC8:1757-1760,C201415)岡宮史武,宇野敏彦,鈴木崇ほか:ステロイド長期点眼中に発症したCCandidaparapsilosis角膜真菌症のC2例.あたらしい眼科C18:781-785,C2001あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C541

眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):451.454,2016c眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例鈴木智浩*1大口剛司*1北尾仁奈*1木嶋理紀*1岩田大樹*1水内一臣*1野村友希子*2田川義継*3石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野*3北1条田川眼科ACaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedbyOcularFindingsTomohiroSuzuki1),TakeshiOhguchi1),NinaKitao1),RikiKijima1),DaijuIwata1),KazuomiMizuuchi1),YukikoNomura2),YoshitsuguTagawa3)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)UniversityGraduateSchoolofMedicine,3)TagawaEyeClinicDepartmentofDermatology,Hokkaido目的:皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したStevens-Johnson症候群(SJS)の1例について報告する.症例:20歳,女性.当院初診の10日前,発熱と両眼の充血,眼脂を自覚し総合感冒薬を内服.3日後内科を受診し,咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス結膜炎の診断で点眼処方されるも炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.両眼瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,角膜びらんがみられ,SJSが疑われた.皮膚科を受診し,口腔内に粘膜疹を認めたが皮膚病変はみられなかった.しかし,発熱・粘膜病変および眼所見よりSJSと診断し,即日ステロイドパルス療法が開始された.その後徐々に充血,偽膜,瞼球癒着,角膜びらんは改善した.結論:SJSは皮膚病変を伴わず,眼症状を含めた粘膜病変のみを呈することがあり,十分な注意が必要である.Purpose:WereportacaseofStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatmainlydevelopedocularfindingswithoutskinlesions.Case:A20-year-oldfemalehada3-dayhistoryoffever,eyerednessanddischarge.Althoughshetookacetaminophen,thesymptomswerenotresolved.Inaneyeclinic,adenovirusconjunctivitiswassuspectedandshewastreatedwithtopicaltreatments,buthersymptomswereexacerbated.Onherfirstvisittoourhospital,shehadbilateralpseudomembranousconjunctivitis,symblepharonandcornealerosion.Oralmucousmembranedisorderwasalsodetected,butnoteruptionofskin.AdiagnosisofSJSwasestablishedbasedontheseobservations.Methylprednisolonepulsetherapywasinitiatedandhersymptomsgraduallyimproved.Conclusion:MostSJSpatientshaveocularfindingsandmucousmembranedisorder;somelackskineruption.Thediagnosisshouldbecarefullyestablishedforapatientwithoutskinlesions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):451.454,2016〕Keywords:Stevens-Jonson症候群,ステロイドパルス療法,瞼球癒着,角膜びらん,アセトアミノフェン.Stevens-Jonsonsyndrome,steroidpulsetherapy,symblepharon,cornealerosion,acetaminophen.はじめにStevens-Johnson症候群(SJS)は発熱を伴って全身の皮膚および粘膜にびらんと水疱を生じる,急性の全身性皮膚粘膜疾患である.SJSの発症頻度は人口100万人当たり1.6人である1).その原因のほとんどは薬剤によるものであるが,ウイルス感染などで発症することもある.今回筆者らは皮膚病変を伴わず,眼所見および他の粘膜病変のみを呈したSJSの1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,女性.主訴:両眼痛,開瞼困難.現病歴:当院初診の10日前,38℃の発熱があり市販の総合感冒薬を内服.その後両眼の充血,眼脂を自覚した.3日後内科を受診したところ咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス〔別刷請求先〕鈴木智浩:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomohiroSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)451 結膜炎の診断で0.1%フルオロメトロン,1.5%レボフロキサシン点眼処方されるも眼症状改善なく0.01%リン酸ベタメタゾン点眼に変更された.しかし,前眼部の炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:両眼とも結膜充血著明で濾胞形成なく,瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,広範な角膜びらんを認めた(図1).開瞼不可のため視力は測定できなかった.全身検査所見:WBC6,300/μl,CRP2.75mg/dlでCRPが軽度上昇していた.肝機能,腎機能,電解質,血糖に異常は認めなかった.HSV,VZVのIgM,IgGは上昇なし,マイコプラズマ抗体価は初診日80倍,3週間後80倍でペア血清の上昇はなし,寒冷凝集素検査は8倍で基準範囲内であった.HLA遺伝子型はHLA-A*24:02,A*33:01,B*44:03,B*46:01であった.リンパ球刺激試験ではアセトアミノフェンの陽性率が415%と陽性を示した(表1).経過(図2):現病歴,眼所見よりSJSを疑い,皮膚科にて診察したところ,口腔内と肛門周囲にわずかに粘膜疹がみられた(図3).全身に皮疹はなかったが,発熱,重篤な眼所見,口腔内と肛門周囲に粘膜疹を認めたことからSJSと診断した.ただちにステロイドパルス療法〔メチルプレドニゾロン(mPSL)1日1g3日間〕を開始した.点眼は0.1%リ表1リンパ球刺激試験薬剤名成分名陽性率(%)ペアコール錠R無水カフェイン122カンゾウエキス104キキョウエキス95アセトアミノフェン415地竜乾燥エキス散109d-クロルフェニラミンマレイン散141図1初診時前眼部写真両眼とも結膜充血が著明で,瞼球癒着,角膜に広範なびらんをmPSL1g/日PSL60mg/日頻回点眼6×4×3×頻回点眼6×4×2×1×6×陽性:陽性率200%以上,疑陽性:180.199%,陰性点眼治療認めた.179%以下PSL50mg/日PSL40mg/日PSL30mg/日PSL25mg/日PSL20mg/日偽膜除去ベタメタゾンレボフロキサシンヒアルロン酸角膜びらん結膜充血瞼球癒着上眼瞼偽膜角膜上皮下混濁初診日1週間後1カ月後図2臨床経過452あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(122) 図3口腔内写真口腔内にびらんを認めた.ン酸ベタメタゾン,抗菌薬を1時間ごと,ステロイド眼軟膏を就寝前に点入し,偽膜除去,瞼球癒着.離を連日施行した.初診3日後の視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.07(0.1),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHgであった.ステロイドパルス療法が奏効し,角膜びらん,上眼瞼の偽膜,他の粘膜病変は速やかに消失し,PSL60mgから漸減した.結膜充血は徐々に改善し,角膜上皮下混濁と瞼球癒着は軽度残存あるも改善を認めた(図4).その後視力も徐々に改善し,初診2週間後の視力は右眼0.7(1.0),左眼0.1(0.5)となった.初診2カ月後の視力は右眼(1.2),左眼(1.5)で炎症所見は鎮静化しており(図5),ステロイド内服は中止となり,その後再燃もなく経過している.II考按皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したSJSの症例を経験した.SJSは突然の高熱,紅斑,水疱などの皮膚症状と,口腔,眼球結膜などの粘膜疹やびらん所見が特徴である.しかし,まれではあるが皮膚病変を伴わず,粘膜病変のみを呈したSJSの報告がおもに小児科領域から散見される2.4).これらの報告では小児のマイコプラズマ感染に起因するSJSに多いが,本症例では検査結果よりマイコプラズマ既感染で急性期ではないと考えられ,リンパ球刺激試験でアセトアミノフェンが陽性を示したことから,アセトアミノフェンが原因と考えられた.また,近年HLA解析でHLA-A*02:06とHLA-B*44:03は感冒薬(アセトアミノフェンも含む)に関連して発症した重篤な眼合併症を伴うSJSに特異的な遺伝子素因であることが示唆されており5),本症例でもHLA-B*44:03を認めた.このことから,何らかの遺伝的背景の関与も示唆された.SJSの治療はステロイド治療と点眼での局所治療が有用とされている.本症例では当院初診日よりステロイドパルス療法と局所治療を行い,所見の改善が得られた.SJSで急性期(123)図4初診1週間後の前眼部写真結膜充血,角膜びらんの改善を認めた.図5初診2カ月後の前眼部写真結膜充血は消失している.角膜混濁は軽度残存している.視力右眼(1.2),左眼(1.0).あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016453 に角膜上皮幹細胞が消失すると遷延性上皮欠損に陥り,慢性期には上皮欠損部は周囲から伸展する結膜組織に覆われ視力障害をきたす.過去に発症から4日以内にステロイドパルス療法およびステロイド点眼治療を行った10眼の検討で,全症例で6週以内に偽膜は消失し角膜上皮は修復され発症から1年後視力(1.0)以上だった報告があり6),早期の治療が視力予後に影響すると考えられる.またSJSの死亡率は3%,重症型である中毒性表皮壊死症に進展すると19%,死亡原因は敗血症などの感染症,多臓器不全であり7),このことからもいかに早期に治療開始するかが重要となる.本症例は皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみ呈した非典型的なSJSであったが,早期に治療を行うことにより良好な経過が得られた.発熱に続く充血,角膜障害をみた場合,アデノウイルス結膜炎と診断されることが多いが,SJSである可能性を考慮する必要がある.粘膜病変のみを呈するSJSは稀だが,眼所見より診断される例があり,眼科医の役割は重要である.文献1)RoujeauJ,KellyJ,NaldiL:MedicationuseandtheriskofStevens-Johnsonsyndromeortoxicepidermalnecrolysis.NEnglJMed333:1600-1607,19952)LatschK,GirschickH,Abele-HornM:Stevens-Johnsonsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiol56:16961699,20073)高峰文江,立元千帆,渡辺雅子:マイコプラズマ感染により発症し,粘膜症状のみを呈した非典型的なStevens-Johnson症候群の1例.小児科診療76:1157-1161,20134)牧田英士,黒田早恵,羽鳥誉之:重篤な眼病変を認めた皮疹のないStevens-Johnson症候群の1例.小児科臨床67:1511-1515,20145)UetaM,KaniwaN,SotozonoC:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithseveremucosalinvolvement.SciRep4:4862,20146)ArakiY,SotozonoC,InatomiT:SuccessfultreatmentofStevens-Johnsonsyndromewithsteroidpulsetherapyatdiseaseonset.AmJOphthalmol147:1004-1011,20097)末木博彦:Stevens-JohnsonSyndrome/ToxicEpidermalNecrolysis─What’sNew?JEnvironDermatolCutanAllergol7:6-13,2013***454あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(124)