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瞬目異常を主症状とした小児Lid-Wiper Epitheliopathy の 2 症例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):524.528,2022c瞬目異常を主症状とした小児Lid-WiperEpitheliopathyの2症例小林加寿子*1,2横井則彦*3外園千恵*3*1中日病院眼科*2名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学*3京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学CTwoCasesofLid-WiperEpitheliopathyinChildrenPresentingAbnormalBlinkingKazukoKobayashi1,2),NorihikoYokoi3)andChieSotozono3)1)DepartmentofOphthalmology,ChunichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC瞬目異常を主症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児Clid-wiperepitheliopathy(LWE)のC2例を報告する.症例C1はC9歳,男児.5カ月前より瞬目異常に対し抗菌薬およびステロイドの点眼にて改善せず京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.左眼にCLWEと角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液開始後C6週間で治癒した.経過中右眼にも同様の所見を生じたが,同治療によりC2週間で治癒した.症例C2はC9歳,男児.1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,抗アレルギー薬およびステロイドの点眼と抗アレルギー薬の内服にて改善せず紹介された.両眼の結膜炎,LWE,および角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液およびC0.1%フルオロメトロン点眼液による治療にて,6カ月で治癒した.LWEは小児では瞬目異常が主症状となる場合があることおよび,レバミピド懸濁点眼液がCLWEならびに瞬目異常の治療に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCoflid-wiperCepitheliopathy(LWE)inCchildrenCwhoCpresentedCwithCabnormalblinking(AB).CaseReports:Case1involveda9-year-oldmalewithABwhoshowednoimprovementfollowingaC5-monthCtreatmentCwithCantibioticCandCsteroidCeyeCdrops.CLWECandCcornealepithelialCdamage(CED)wasCobservedCinChisCleftCeye.CAllCsymptomsCresolvedCatC1.5CmonthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithrebamipide(RBM)Ceyedrops.Duringthetreatmentcourse,LWEandCEDwereobservedinhisrighteye,yetresolvedviathesametreatment.CCaseC2CinvolvedCaC9-year-oldCmaleCwithCABCandCocularCitchiness.CThereCwasCnoCimprovementCafterCaC1-monthtreatmentwithtopicalandgeneralanti-allergymedicationandsteroideyedrops.Bilateralconjunctivitis,LWE,CandCCEDCwereCobserved,CyetCallCsymptomsCresolvedCatC6-monthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithCRBMCandCsteroideyedrops.Conclusion:LWEinchildrencanresultinAB,andLWEandassociatedblinkabnormalitiescane.ectivelybetreatedwithRBMeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):524.528,C2022〕Keywords:lid-wiperepitheliopathy,瞬目異常,角膜上皮障害,レバミピド懸濁点眼液,小児.lid-wiperepithe-liopathy,abnormalblinking,cornealepithelialdamage,rebamipideeyedrops,children.Cはじめに2002年,Korbらは,瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼下溝から上眼瞼の後縁に及ぶ眼瞼結膜部位をClidwiper,この部位の結膜上皮障害をClid-wiperCepitheliopathy(LWE)と命名した1).その後,Shiraishiらは,上眼瞼に比べて下眼瞼にCLWEの頻度が高いことを示し2),現在,LWEは上下のlidwiper領域の上皮障害として認知されるようになってきている.LWEの発症メカニズムとして,瞬目時の摩擦亢進が考えられており1),ドライアイと同様,さまざまな症状を引き起こす原因となる.今回,瞬目異常を症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児CLWEのC2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕橫井則彦:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyotocity,Kyoto606-8566,JAPANC524(132)I症例〔症例1〕患者:9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:5カ月前に左眼の瞬目異常に母親が気づき,近医を受診.近医にて抗菌点眼液(オフロキサシン点眼液,左眼1日C2回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,左眼C1日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.5(矯正不能),左眼:1.2(矯正不能).眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:14CmmHg,左眼:14CmmHgであった.左眼に下方優位のCLWEと,角膜下方に密な点状表層角膜症を認めた(図1).右眼にはCLWEも角膜上皮障害も認めなかった.経過:レバミピド懸濁点眼液を左眼にC1日C4回点眼で開始し,6週間後には,左眼の瞬目異常,LWEおよび点状表層角膜症は治癒した(図1).経過中,右眼にも左眼と同様の瞬目異常とCLWEを認めたが,レバミピド懸濁点眼液を右眼にもC1日C4回点眼で開始し,2週間で治癒した.〔症例2〕9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,近医にて抗アレルギー点眼液(オロパタジン点眼液,両眼C1日C4回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,両眼C1初診時日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.2(1.5×+0.50D),左眼:1.2(矯正不能),眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:11CmmHg,左眼:11CmmHgであった.両眼の下方眼瞼結膜に充血,乳頭形成,高度のCLWE,上方にも軽度のCLWEおよび角膜下方に,角膜上皮障害を認めた(図2,3上段).経過:オロパタジン点眼液は中止とし,レバミピド懸濁点眼液を両眼にC1日C4回,0.1%フルメトロン点眼液を両眼に1日C1回点眼として開始し,6カ月で瞬目異常,掻痒感,結膜充血,乳頭形成,LWEおよび角膜上皮障害は治癒した(図2,3下段).CII考按LWEは,その発症機序として,瞬目時の摩擦亢進が推定される,瞼板下溝から上眼瞼の後縁に及ぶClidwiper領域における上皮障害であり1),高齢者より若年者に多く,異物感,眼痛といったドライアイに類似したさまざまな症状を訴える.危険因子として,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用,ドライアイなどが知られている1.3).SCL装用は,LWEが発見される最初の契機となった危険因子であり,SCL表面は,角膜表面に比べて涙液層が薄いことや水濡れ性が悪いことが,LWEの原因として考えられる.一方,ドライアイ,とくに涙液減少型ドライアイにおいては,治療後図1症例1の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた点状表層角膜症(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回開始C6週間後に,それぞれ治癒した(b,d,f).初診時治療後図2症例2の右眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(ただし,縦線状の外観を示すことから,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できない)(a)およびClid-wiperCepi-theliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).初診時治療後図3症例2の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).潤滑作用をもつ涙液の不足のために,瞬目時の摩擦亢進が生じやすく,このことがCLWEが涙液減少型ドライアイに合併しやすい理由としてあげられる.LWEは,症状がない場合があり4),本症例のように小児やCSCL非装用眼でも発症する.今回の症例とドライアイの関連については,.uore-sceinbreakuptime(FBUT)やC.uoresceinbreakuppattern(FBUP)検査を試みたが,小児のため,正確な評価はできなかった.また,LWEは,一般に涙液減少型ドライアイを合併しやすいが,今回の症例では,涙液メニスカスの高さは正常範囲と考えられ,小児のためCSchirmerテストは施行できなかったが,結膜上皮障害がみられなかったことから,涙液分泌減少の合併はないと考えた.しかし,今回瞬目異常がみられたことを考慮すると,眼瞼けいれんで報告されている5)ような,涙液減少を伴わないCBUT短縮型ドライアイ,とくに水濡れ性低下型ドライアイが表現されていた可能性が考えられる.そして,今回の症例では,母親が気づいた瞬目異常が,LWEの診断につながったことは,注目に値する.小児に瞬目異常を起こす疾患には,チックなど内因性によるものや,心身障害といった全身疾患によるもの,顔面神経麻痺や,眼疾患によるものがある(表1).鑑別すべき疾患は多くはないが,とくに,チックや心身障害によるものは,小児科や精神科からのアプローチが主となり,診断や治療も複雑である.今回経験した症例のうち,1例目は患者自身の自覚症状はなかったが,母親が瞬目異常に気づいて受診しており,小児は年齢や成育の程度とも関連して,患者が症状を訴えない場合や訴えられない場合もあるため注意が必要と思われる.そして,小児で瞬目異常を認めた場合は,LWEのような,瞬目時の摩擦亢進が関係する眼表面疾患が原因である可能性も念頭において,鑑別診断を進めてゆく必要がある.瞬目時の摩擦亢進は,lidwiper領域の眼瞼結膜と眼球表面を構成する角膜および球結膜との間で生じ,眼瞼の背後で生じる病態のため,直接観察することができない.そのため,摩擦亢進の結果としての上皮障害からその病態を推察する必要がある.LWEは,フルオレセイン,ローズベンガル,あるいは,リサミングリーン染色でClidwiper領域の染色陽性所見として観察されるが,本症例ではC2例とも,下眼瞼を主体としてClidwiper領域に帯状のリサミングリーン染色陽性所見を認めた.LWEの頻度は上眼瞼よりも下眼瞼が高く,さらに下方CLWEでは,重症度が高いほど,眼瞼圧も高いことが知られることから,高い眼瞼圧は,下方CLWEの発症要因の一つと捉えることができる6).また,上眼瞼は眼瞼圧との明らかな関連はないが,瞬目は上下眼瞼の共同作業であるため,今回のC2例では,下眼瞼の眼瞼圧が高いことによって引き起こされる眼球運動変化や,それに基づく瞬目摩擦の亢進が上眼瞼にも影響して,LWEを発症した可能性がある.表1小児で瞬目異常を起こす原因チック重症心身障害(脳炎,てんかん,脳症など)顔面神経麻痺児童虐待眼疾患:結膜炎(感染性結膜炎,アレルギー性結膜炎,春期カタルなど)ドライアイ,コンタクトレンズ装用,マイボーム腺機能不全,lidwiperepitheliopathy,睫毛内反,睫毛乱生また,症例C2では,眼掻痒感を伴っていたことから,手指で眼瞼を掻くことが,瞬目時の摩擦を増強させ,LWEを増悪させた可能性もある.Yamamotoらによると下方のCLWEには高い眼瞼圧が関係しているとされ6),表1にあげた瞬目異常の原因となる眼疾患では,生理的な瞬目時よりも瞬目が強くなることでCLWEひいては瞬目摩擦による角膜上皮障害を伴いやすくなっている可能性があり,その視点から眼表面を観察する意義があると思われる.眼瞼圧は加齢に伴って減少し7),小児では眼瞼圧が高いと考えられるため,LWEを発症しやすい可能性がある.今回の症例では,下方のCLWEのみならず,それと摩擦を生じうる関係にある下方の角膜領域にフルオレセインで染色される上皮障害所見がみられたことから,両上皮障害部位の摩擦亢進による悪循環,ひいてはそれによって生じるさまざまな眼不快感によって,瞬目という上下眼瞼の一連の相互作用が影響を受け,瞬目異常の症状を引き起こしたと推測される.ただし,症例C2の右眼では,角膜上皮障害は,縦線状の外観を示しており,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できないと考えられる.LWEの治療としては,眼瞼結膜のClidwiper領域と眼球表面との瞬目摩擦の軽減が鍵となるが,そこには,眼瞼圧の減少,瞬目時の眼瞼速度の減少,涙液の粘度の減少,lidwiper領域と眼球表面を構成する角結膜表面の潤滑性の増加の切り口がある8).今回のC2症例で使用したレバミピド懸濁点眼液を含め,わが国で認可されているドライアイ治療薬は,涙液の潤滑性を高め,瞬目摩擦の軽減に寄与する可能性がある.涙液層の液層は水分と分泌型ムチンから構成されており,一方,眼表面上皮には,膜型ムチンが分布して,lidwiper領域と眼球表面の摩擦に対して潤滑性を発揮する.人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液は涙液の水分量を一時的に増やすが,それぞれ,3分,5分程度の効果であり9),ムチン増加作用がないため,摩擦軽減効果は短時間と考えられる.一方,分泌型ムチンであるCMUC5ACを産生,分泌する杯細胞は,眼球結膜や眼瞼結膜,結膜.円蓋部,lidwiper領域に多く存在している10).レバミピド懸濁点眼液は,分泌型ムチンであるCMUC5ACを分泌する杯細胞をClidwiper領域で増加させるため11),lidCwiper領域の潤滑性が高まり,瞬目摩擦を効率よく軽減させる効果が期待できる.また,レバミピド懸濁点眼液は,角膜上皮における膜型ムチンであるMUC16を増加させ12),眼表面上皮の水濡れ性を高める効果も期待できる.さらに,レバミピド懸濁点眼液は,眼表面炎症に対する抗炎症作用も期待でき13),このことも,摩擦亢進の結果生じうる炎症の軽減,ひいては,眼不快感の軽減につながることが期待される.以上より,レバミピド懸濁点眼液は,水分分泌作用はないが,摩擦の鍵となるClidwiper領域で特異的に杯細胞を増加させて,分泌型ムチンを緩徐に増加させるとともに,膜型ムチンを増加させることでClidCwiper領域の瞬目摩擦を軽減し,LWEや,それに伴う角膜上皮障害に効果が期待できると考えられる.以上,今回,筆者らは,瞬目異常を伴う高度のCLWEに対して,レバミピド懸濁点眼液を使用し,2症例とも治癒し,その後の再発を認めていない.本剤投与によってClidCwiper領域で杯細胞が増加し,潤滑剤としての分泌型ムチンの産生が促され,さらに膜型ムチンの発現が亢進したことで,瞬目摩擦の悪循環が改善し,LWEが治癒したと推察している.また,レバミピド懸濁点眼液だけではなく,低力価ステロイド点眼液も,摩擦亢進の結果として生じる炎症に対して効果があったと思われる.レバミピド懸濁点眼液は,糸状角膜炎14),上輪部角結膜炎15)といった瞬目摩擦が関係しうる他の眼表面疾患に対して,有効であることが報告されており,本症例の経験から,小児のCLWEに対してもレバミピド懸濁点眼液は有効と考えられた.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C20143)白石敦,山西茂喜,山本康明ほか:ドライアイ症状患者におけるClid-wiperepitheliopathyの発現頻度.日眼会誌C113:596-600,C20094)KorbDR,HermanJP,GreinerJVetal:Lidwiperepithe-liopathyCandCdryCeyeCsymptoms.CEyeCContactCLensC31:C2-8,C20055)HosotaniY,YokoiN,OkamotoMetal:Characteristicsoftearabnormalitiesassociatedwithbenignessentialblepha-rospasmCandCameliorationCbyCmeansCofCbotulinumCtoxinCtypeAtreatment.JpnJOphthalmolC64:45-53,C20206)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:Involvementofeyelidpressureinlid-wiperepitheliopathy.CurrEyeResC41:171-178,C20167)SakaiE,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Blepharo-tensi-ometer:newCeyelidCpressureCmeasurementCsystemCusingCtactileCpressureCsensor.CEyeCContactCLensC38:326-330,C20128)加藤弘明,橫井則彦:瞬目摩擦の基礎理論とその診断.あたらしい眼科34:353-359,C20179)YokoiCN,CKomuroA:Non-invasiveCmethodsCofCassessingCthetear.lm.ExpEyeResC78:399-407,C200410)KnopCN,CKorbCDR,CBlackieCCACetal:TheClidCwiperCcon-tainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.CorneaC31:668-679,C201211)KaseCS,CShinoharaCT,CKaseM:E.ectCofCtopicalCrebamip-ideongobletcellsinthelidwiperofhumanconjunctiva.ExpTherMedC13:3516-3522,C201712)UchinoCY,CWoodwardCAM,CArguesoP:Di.erentialCe.ectCofCrebamipideConCtransmembraneCmucinCbiosynthesisCinCstrati.edocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeResC153:C1-7,C201613)TanakaCH,CFukudaCK,CIshidaCWCetal:RebamipideCin-creasesCbarrierCfunctionCandCattenuatesCTNFa-inducedCbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancor-nealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C201314)青木崇倫,橫井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C201915)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):589〜593,2016©周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果今野公士*1,2山田昌和*2重安千花*2近藤義之*1*1近藤眼科*2杏林大学医学部眼科学教室Effectof2%RebamipideOphthalmicSolutiononOcularSurfaceafterCataractSurgeryKimihitoKonno1,2),MasakazuYamada2),ChikaShigeyasu2)andYoshiyukiKondo1)1)KondoEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine目的:低侵襲白内障術後でも,角膜上皮障害(SPK)を呈する症例を認める.2%レバミピド点眼液を術前後28日間併用し,眼表面の状態と自覚症状を検討した.対象および方法:無作為抽出した32例47眼(平均年齢76.4±4.9歳,男性13例女性19例)を対象に2%レバミピド点眼液を併用した群(A群)と併用しなかった群(B群)に分けて検討した.Schirmer変法第1法,涙液層破壊時間(BUT),SPKの程度を評価し,自覚症状をDEQS質問表で調査した.結果:Schirmer値は両群に有意な変化を認めなかったが,BUTはA群で術後1週,2週において術前と比較して有意に延長した(p<0.01).SPKスコアはA群で術前と比較して術後1週で有意に減少していた(p<0.01).DEQSは両群ともに術前と比較して術後1週で有意に減少した(A群:p<0.01,B群:p<0.05).考察:DEQSが白内障術後に両群で改善したのは視機能の改善によるものと考えられた.2%レバミピド点眼液を白内障周術期に併用すると,BUTが延長し,SPKの改善に効果があり,周術期の眼表面管理および保護に有用と考えられた.Purpose:Toevaluatetheprotectiveeffectsof2%rebamipideeyedropsonocularsurfacedamagecausedduringandaftercataractsurgery.CasesandMethod:Randomlydividedintotwogroupswere47eyesof32cases(13malesand19females,averageage76.4±4.9yrs)whounderwentcataractsurgery.ThepatientsinGroupAwereprescribed2%rebamipideeyedropsfor28daysaroundtheperioperativeperiod;thepatientsinGroupBdidnotreceiverebamipide.Schirmer’stest,tearfilmbreak-uptime(BUT)andfluoresceincornealstainingscore(FCS)bythescaledNationalEyeInstitutemethodwereexamined.Ocularsymptomswerealsoevaluatedineachpatientbeforeandaftersurgery,usingtheDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)questionnaire.Results:TherewerenosignificantdifferencesinSchirmer’stestlevelbetweenthepreoperativeandpostoperativephases,thoughtheTBUTvaluesofGroupAatweeks1and2weresignificantlyextendedincomparisontothepreoperativeperiod(p<0.01).FCSscoresinGroupAweresignificantlylowerthaninGroupBatweeks1and2(p<0.01).DEQSwassignificantlyimprovedcomparedtothevaluebeforedrugadministrationinGroupA(p<0.01)andGroupB(p<0.05).Conclusion:Itisconsideredthat2%rebamipideimprovesBUTandfacilitateshealingofsuperficialpunctatekeratopathycausedbycataractsurgery.Therefore2%rebamipidesolutionhasefficacyforocularsurfaceprotection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):589〜593,2016〕Keywords:2%レバミピド点眼液,白内障周術期,涙液層破壊時間,角膜上皮障害,眼表面保護.2%rebamipideeyedrops,cataractsurgery,tearfilmbreak-uptime,superficialpunctatekeratopathy,ocularsurfaceprotection.はじめに昨今の低侵襲の白内障手術においても,手術時の洗眼や開瞼による乾燥,術前後の点眼薬などにより術後に角膜上皮障害(superficialpunctatekeratopathy:SPK)を呈する症例を時おり認める1~4).白内障術後の矯正視力がそれほど改善しなかった症例,もしくは視力が改善していても不満をもつ症例は,術後のSPKが原因であることも多い.近年,2%レバミピド点眼液(ムコスタ点眼液UD2%,大塚製薬株式会社)は角結膜のムチン増加作用5,6)に加えて,結膜ゴブレット細胞の増加作用7)や角結膜上皮微細構造の修復作用8)などが報告されている.今回筆者らは,合併症のない白内障手術症例において2%レバミピド点眼液を周術期に計28日間併用し,術前後の眼表面の状態および自覚症状についてプロスペクティブに調査,検討したので報告する.I対象2014年6月24日~9月30日に近藤眼科にて白内障手術を施行し,無作為に組み入れを企図した症例42例60眼のうち,術中合併症がなく,10分以内に白内障手術を遂行した症例32例47眼(男性13例,女性19例,平均年齢76.4±4.9歳)を解析対象とした.これらの対象に対し,手術2週前より2%レバミピド点眼液を1日4回点眼併用かつ術後2週まで併用する群をA群とし,2%レバミピド点眼液を併用しない群をB群とに区分けした.今回の点眼投与方法は,従来のドライアイに対する一般的投与方法と同様に1日4回とし,これをレバミピド点眼加療として行った.A群は17例26眼(平均年齢:75.9±5.4歳),B群は15例21眼(平均年齢:76.8±4.5歳)である.術前にドライアイと診断され,人工涙液もしくはヒアルロン酸ナトリウム点眼,3%ジクアホソルナトリウム点眼液,2%レバミピド点眼液をすでに使用されていた患者,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,Sjögren症候群,試験開始6カ月以内の眼手術の既往,コンタクトレンズの使用,試験期間中の放射線療法,前述以外に担当医が不適切と判断した患者は除外した.II方法術前洗眼は10%希釈PAヨードを使用した.白内障手術は2.4mmの角膜切開法を用い,水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入法を施行した.術前点眼は0.3%トスフロキサシン(トスフロ点眼液0.3%,日東メディック株式会社)を術眼に術日3日前から1日4回使用した.術後点眼は,ジクロフェナックナトリウム点眼(ジクロード点眼液0.5%,わかもと製薬株式会社),レボフロキサシン点眼(クラビット点眼液0.5%,参天製薬株式会社),デキサメタゾン点眼(サンテゾーン点眼液0.1%,参天製薬株式会社)を使用した.検討項目は,Schirmer試験(第1法変法による),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),SPKはNationalEyeInstitute染色スコアを用いて評価9)した(図1).スコアは点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.つぎにDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)質問票10)を用いて,眼の症状と日常生活への影響を含む自覚症状を解析した.DEQSは眼の症状6項目,日常生活への影響9項目の各々の頻度と程度を問う質問票であり,QOLスコアは,各項目の重症度スコア/有効回答項目数×25で算出する.術前(Pre),術後翌日(1D),術後1週間(1W),2週間(2W)でSchirmer値,BUT,SPKスコア,DEQSの経時的変化と2群間における比較を行った.統計学的検定にはWilcoxonsignedranktestを用い,有意水準は5%とした.III結果Schirmer値(以下,第1法変法の値)はPre:A群8.9±3.7mm,B群12.2±8.8mm,1W:A群8.0±3.8mm,B群10.9±5.9mm,2W:A群7.8±4.4mm,B群9.9±4.4mmで,両群ともに術前後で有意な変化を認めなかった.BUTはPre:A群4.3±2.1秒,B群4.8±1.5秒,1D:A群5.3±2.3秒,B群4.7±1.9秒で両群ともに術前と1Dでは変わらなかった.しかし,1W:A群7.3±2.0秒,B群5.4±2.3秒,2W:A群8.2±2.0秒,B群5.5±2.0秒であり,A群においてのみPreと比較して1W,2Wともに有意に延長した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest)(図2).SPKスコアはPre:A群3.1±2.4,B群2.3±2.1であり,1D:A群2.8±2.4,B群2.8±2.4,1W:A群1.3±1.8,B群1.8±1.6,2W:A群0.6±1.1,B群1.8±2.5であった(図3).A群においてのみPreと比較して1W,2Wでスコアは有意に減少した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest).自覚症状スコア(DEQS)は,Pre:A群20.6±19.5,B群11.7±13.2,1W:A群9.6±10.9,B群3.1±3.7,2W:A群4.9±7.3,B群2.6±3.4であった.両群ともに術前と比較して術後1W,2Wで有意に減少した(いずれもp<0.05,Wilcoxonsignedranktest).しかし,A群の2例に術前術後のDEQSがほとんど改善しない症例を認めた.うち1例は,検討項目の4の“眼が疲れる”と6の“眼が赤くなる”,14の“眼の症状のため外出を控えがち”がそれぞれ1点増悪していた.また,他の1例では7の“眼を開けているのがつらい”と,14の“眼の症状のため外出を控えがち”に,それぞれ1点増悪していた.IV考察白内障術後に発症するSPKには,抗菌薬やステロイド,非ステロイド性抗炎症薬など点眼薬の影響,角膜切開による角膜知覚神経の切断,術中の洗眼や開瞼維持による機械的・化学的侵襲,術後の炎症反応などさまざまな要因が関係すると考えられている.要因の多くは術中や術直後に生じるため,SPKも術後比較的早期に出現し,早期に収束に向かうといわれている4).近年普及した小切開白内障手術により,以前に比べて手術侵襲の軽減,手術時間の短縮,術後炎症の軽減が図られている.しかし,術中の合併症なしに短時間で手術を終了した症例においても,術後にSPKを認めることが少なくない.このことは,現代の白内障手術においても手術侵襲や周術期に使用する点眼液が角膜上皮に少なからず影響を及ぼすことを示している.涙液と眼表面上皮は一方が障害されると他方にも影響を及ぼす関係にあるため,手術によってどちらか一方が障害されると両者の関係に悪循環が生じやすくなる11,12).このように白内障周術期の眼表面は短時間でも悪循環が起きやすく,ドライアイに伴う視力低下や眼不快感が発生しやすいといえる.こうした術後ドライアイに対する点眼治療では,水分補給を目的とした人工涙液および水分保持作用をもつヒアルロン酸ナトリウム点眼液が一般に使用されてきた.しかし,人工涙液は水分と電解質を補給するという意味では有効であるが,その効果持続時間は5分程度と短く,症状を抑えるためには頻繁に点眼する必要がある13).ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の主作用である保水効果も持続時間は15分程度であり,涙液量がきわめて少ない場合に頻回点眼すると,ヒアルロン酸ナトリウムが眼表面の少ない水分を吸収して,ドライアイがかえって増悪する可能性があるといわれている14).また,眼表面のバリア機能が低下しているドライアイの患者においては,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の多くに防腐剤として含まれているベンザルコニウム塩化物が,角膜や結膜に障害を与えると報告されている15,16).一方,ドライアイで角膜や結膜上皮の障害が生じると眼表面上皮のムチンが減少し,それによりムチンが涙液水層を安定化させる機能が障害され,眼表面の涙液層が不安定で均一に維持されない状態にもなる17).この涙液層の不安定化がさらなる角膜・結膜上皮障害をもたらすという悪循環を生じ,ムチン減少がドライアイの発症および悪化として注目されている18~20).ドライアイの発症は視機能にも影響することがわかっている21).このように近年,ドライアイではムチンの役割が重要視されており,ドライアイ患者の角膜および結膜で産生されるムチンを増加させることにより涙液の安定化を図る作用は,角膜・結膜上皮障害および自覚症状を改善する新たな治療につながると期待されている1).涙液の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)という新しい概念22)が最近は提唱されており,それぞれの点眼薬の薬理作用を考慮したTFOTに基づいた治療が行われるようになってきている.レバミピドは,胃粘膜のムチンを増加させる作用があり,以前より胃潰瘍および胃炎の治療薬として承認され,広く臨床に用いられている.こうしたレバミピドのムチン増加作用に注目し,眼ムチン減少モデル動物で検討したところ,ムチンを産生する結膜のゴブレット細胞数を増加させ,角膜および結膜ムチンを増加させ,角膜・結膜上皮障害を改善することが報告されている23).レバミピドを有効成分とする点眼液は,ドライアイ患者の眼表面ムチンを増加させることによって涙液の安定化を図る作用がある.こうした一連のレバミピドの作用がSPKの改善に有効であったとの報告もあり8,24),本検討でもSPKはレバミピドを併用した群において有意に改善していた.また,レバミピド点眼液には防腐剤が入っていないため,薬剤起因性SPKを引き起こす可能性が少ない点も有利と考えられる25).しかし,レバミピドは涙液の増加には寄与しない.ヒアレイン酸ナトリウム点眼液とレバミピドの両群における涙液分泌量をSchirmer検査を用いて測定したところ,両者とも有意な変化を認めなかったという報告がある24).本検討でもSchirmer値と変法の値を直接には比較できないが,レバミピド点眼中のSchirmer値に有意な変化は認めなかった.また,ドライアイ患者154例に2%レバミピド点眼液を1日4回52週間の期間使用したところ,フルオレセイン角膜染色スコア,リサミングリーン結膜染色スコアおよびドライアイ関連眼症状は点眼開始2週後より有意な低下を示し,BUTは点眼開始2週後より有意な延長を示し52週後まで維持できたという報告がある26).本検討例でもSPKとBUTはレバミピドの点眼によって有意に改善した.今回の白内障周術期の検討においても,レバミピド点眼でみられた眼表面検査の変化は薬剤の特性に沿った効果であったと考えられる.本研究では自覚症状についてDEQS質問票を用いて検討したが,両群ともに術後に有意に改善していた.これはドライアイのない白内障手術患者を対象にしており,術前のDEQSが低かったこと,白内障手術を施行することにより視機能が改善したため,術前に認めていた不定愁訴を含むさまざまな自覚症状が改善したものと思われる.よって,本研究ではレバミピドによる自覚症状の改善効果を比較検討することはむずかしいと思われた.なお,レバミピド点眼を使用することで“眼を開けているのがつらい”と“眼の症状のため外出を控えがち”らが増悪した症例があったことは,この点眼液の特性である白い粉の付着や点眼後に感じる苦みからくるもの26)と考察された.本検討から白内障術前術後にレバミピドを点眼することで眼表面の保護効果があることが確認できた.白内障手術2週間前から術後2週間までのレバミピド点眼の併用は,白内障周術期の管理において有用と考えられた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)VenincasaVD,GalorA,FeuerWetal:Long-termeffectsofcataractsurgeryontearfilmparameters.ScientificWorldJournal10:643-7,20133)竹下哲二:白内障術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼の効果.臨眼67:327-340,20134)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20095)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20026)UrashimaH,OkamotoT,TakejiY:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20047)UrashimaH,TakejiY,OkamotoT:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20128)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20129)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryworkshoponClinicalTrialsinDryEyes.CLAOJ21:221-232,199510)SakaneY,YamaguchiM,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.JAMAOphthalmol131:1331-1338,201311)山田昌和:ドライアイ:新しい定義に基づいた疾患概念と病態.治療.日眼会誌113:541-552,200912)横井則彦:眼手術とドライアイ.IOL&RS23:189-194,200913)福田昌彦,下村嘉一:人工涙液.ドライアイ研究会編ドライアイ診療PPP.p194-197,メジカルビュー社,200214)高静花,渡辺仁:ドライアイ点眼治療のコツ.あたらしい眼科20:17-22,200315)BursteinNL:Theeffectsoftopicaldrugsandpreservativesonthetearsandcornealepitheliumindryeye.TransOphthalmolSocUK104:402-409,198516)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAFetal:Effectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofchangeconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,199917)AlbertsmeyerA,KakksseryV,Spurr-MichaudSetal:Effectofpro-inflammatorymediatorsonmembrane-associatedmucinsexpressedbyhumanocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeRes90:444-551,201018)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,200519)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,199520)小野眞史:病態と診断.島崎潤,坪田一男編角膜診療ハンドブック.p34-46,中外医学社,199921)TounakaK,YukiK,KouyamaKetal:DryeyediseaseisassociatedwithdeteriorationofmentalhealthinmaleJapaneseuniversitystaff.TohokuJExpMed233:215-220,201422)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコアメカニズム─涙液安定性仮説の考え方.あたらしい眼科28:291-297,201223)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:RebamipideOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,201324)高良由起子,高良俊武,高良広美ほか:レバミピド混濁点眼液の点状表層角膜症に対する影響.臨眼67:1217-1222,201325)福田正道,中嶋英雄,春田淳平ほか:レバミピド点眼液の角膜上皮に対する安全性に関する検討.あたらしい眼科30:1467-1471,201326)藤原豊博:眼ムチン産生促進およびゴブレット細胞数増加作用を併せもつ新規ドライアイ治療剤レパミピド懸濁点眼薬(ムコスタ点眼液UD2%)の基礎と臨床.薬理と治療40:1048-1070,2012〔別刷請求先〕今野公士:〒192-0081東京都八王子市横山町22-3メディカルタワー八王子近藤眼科Reprintrequests:KimihitoKonno,M.D.,KondoEyeInstitute,MedicalTowerHachioji,22-3Yokoyamacho,Hachioji-shi,Tokyo192-0081,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(107)589図1NationalEyeInstitute染色スコアを用いた角膜上皮障害(SPK)の評価角膜全体を5つに区分し,各々の領域で点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.右にスコア9点のSPKの1例を示す.590あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(108)図2BUTの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に延長した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.図3SPKスコアの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に減少した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.(109)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016591592あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(110)(111)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016593

レバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1369.1373,2014cレバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例池川和加子山口昌彦白石敦坂根由梨原祐子鄭暁東鈴木崇井上智之井上康大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EfficacyofRebamipideOphthalmicSolutionforTreatment-ResistantFilametaryKeratitis:ThreeCaseReportsWakakoIkegawa,MasahikoYamaguchi,AtsushiShiraishi,YuriSakane,YukoHara,XiaodongZheng,TakashiSuzuki,TomoyukiInoue,YasushiInoueandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine背景:糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,角膜上皮障害を起点に角膜糸状物を形成する慢性疾患で,強い異物感を伴い治療に難渋することも多い.今回レバミピド点眼液(RM)が奏効した糸状角膜炎の3例を報告する.症例:症例1:79歳,女性.Sjogren症候群.両総涙小管閉塞にて涙小管チューブ挿入術後にドライアイが顕性化し,角膜全面にFKが多発した.ヒアルロン酸点眼,ベタメタゾン点眼,ソフトコンタクトレンズ(SCL)連続装用にて軽快せず,RMを追加したところSCL非装用でもFKの出現は認められず,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例2:90歳,男性.両角膜実質炎後混濁の角膜移植後で,0.1%フルオロメソロン点眼(FL)が投与されている.ドライアイによる点状表層角膜症(SPK)が出現し,ジクアホソルナトリウム点眼(DQ)を追加したところFKが出現した.DQを中止したが軽快せず,RMを開始したところFKは消失し,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例3:67歳,女性.右顔面神経麻痺の既往.最初右下方,両角膜下方にFKが出現するようになり,DQ,FLを投与したが軽快せず,DQをRMに変更したところFKは消失し,RM単独で15カ月間寛解状態である.結論:従来の治療に抵抗性のFKに対してRMは有効であると考えられた.Threecasesoffilamentarykeratitis(FK)inwhichrebamipideophthalmicsolution(RM)waseffectivearereported.Case1:FKappearedalloverthebilateralcornealsurfaces.SinceFKtherapycomprisinghyaluronicacid,betamethasoneophthalmicsolutionandsoftcontactlens(SCL)continuouswearwasnoteffective,RMwasadministrated.Subsequently,FKhasbeencontrolledwithoutSCLfor18months,withRMonly.Case2and3:DiquafosolNaophthalmicsolution(DQ)and0.1%fluorometholonewereadministratedfordry-eyetherapy;howeverFKdidnotimprove.AfterDQwasreplacedwithRM,FKimprovedimmediatelyandhasbeencontrolledfor18monthsinCase2and15monthsinCase3,withRMonly.RMisefficaciousforconventionaltreatment-resistantFK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1369.1373,2014〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド点眼液,ドライアイ,角膜上皮障害,炎症,ムチン.filamentarykeratitis,rebamipideophthalmicsolution,dryeye,cornealepithelialdisorder,inflammation,mucin.はじめに糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,種々の眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与して発症し,眼手術後や眼外傷後などに発症頻度が高まることが知られている1,2).FKの治療は,綿棒などにより角膜糸状物を物理的に除去した後,多くの症例で合併しているドライアイに対して,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼などを用い,ほとんどの例において眼表面炎症が病態に関与しているため,低濃度ステロイド点眼やシクロスポリン点眼を併用する.しかし,これらの保存療法だけでは再発を繰り返す場合も多く,バンデージ効果を図るためにメディカルユースソフトコンタクレンズ(MSCL)の連続装用を行うが,寛解状態を保つためには,〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1369 しばしばMSCLから離脱困難となり,継続中に角膜感染症の発生などが問題となる.このように,FKに対してはさまざまな治療が行われるものの,治癒させるのはきわめて困難な疾患であるといえる.レバミピド点眼液(ムコスタRUD点眼液2%,大塚製薬,以下RM)は,2012年1月にドライアイ治療薬として発売され,実験的には,結膜杯細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)を有することが報告されている.また臨床的にも,ドライアイの自他覚症状を改善させる5,6)ことが明らかになっており,新しい作用機序をもったドライアイ治療薬として注目されている.今回筆者らは,これまでの既存の治療には抵抗性であったFKに対し,RMを投与することによって,長期寛解状態に持ち込めた3症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕69歳,女性.既往例として,Sjogren症候群が存在する.2006年10月,両側の総涙小管狭窄症による流涙症に対して,両側の鼻涙管シリコーンチューブ挿入術を施行した.2008年5月から両眼の乾燥感を自覚し始め,軽度の角結膜上皮障害がみられたため,人工涙液点眼(ソフトサンティア点眼液,参天製薬)と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)をそれぞれ両眼に1日6回投与し,途中からヒアルロン酸点眼液を防腐剤無添加の0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,日本点眼薬研究所)に変更して経過観察していた.2012年2月8日に左眼角膜下方にFKが出現し異物感が増強してきたため,オフロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏,参天製薬,以下TV)を開始したが軽快せず,2週間後には左眼角膜中央にも多数のFK(図1b)がみられるようになってきたため,消炎が必要と考えて0.1%ベタメタゾン点眼液(リンベタPF眼耳鼻科用液0.1%,日本点眼薬研究所)を左眼に1日3回で開始した.しかし,左眼はFKによる異物感が軽快しないため,MSCL連続装用を開始したところ,異物感はコントロール可能になり,左眼の0.1%ベタメタゾン点眼は中止した.4月5日には右眼にもFKを認めるようになり異物感が増強してきたため(図1a),両眼ともMSCL連続装用となった.その後,右眼はMSCL装用を中止しても異物感のコントロールは可能であったが,左眼はMSCL装用を止めるとFKが増悪する状態を繰り返したため,左眼はMSCL継続のまま6月21日にRM両眼1日4回を開始した.右眼は8月2日以降FKがほとんど認められなくなり(図1c),左眼は9月6日以降MSCLを中止してもFKの再発はみられず(図1d),異物感も消失した.その後,ときに軽微なFKの再発がみられるものの,強い異物感を訴えるようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を維持している.〔症例2〕60歳,男性.両眼の角膜実質炎後の角膜混濁に対して,右眼は表層角膜移植術,左眼は全層角膜移植術をacbd図1症例1a:右眼FK多発期.角膜中央.下方にFKを認める.b:左眼FK多発期.角膜ほぼ全面にFKを認める.c:右眼RM投与6週目.FKはほぼ消失している.d:左眼RM投与11週目.FKはほぼ消失している.1370あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(122) acbdacbd図2症例2a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与3週目.FKは消失している.d:左眼RM投与3週目.FKはほぼ消失している.受けている.2008年ごろから両眼のSPKが増加し,FKを繰り返すようになった.2011年4月,右眼に再度表層角膜移植を行い,0.1%フルオロメソロン点眼液(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,以下FL)とレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)を1日3回投与していた.2012年1月,両眼角膜中央の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)が軽快せず,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も両眼とも1秒と短縮していたため,ドライアイ改善の目的でジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下DQ)を追加したが,同年3月に右眼角膜下方に,4月に左眼角膜下方にFKを認めるようになった(図2a,b).FKが改善しないため,DQとFLを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与後3週目に両眼のFKが消失した(図2c,d).その後,RM投与のみとしたが,自覚症状を伴うようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を保っている.〔症例3〕57歳,女性.右側顔面神経麻痺の既往はあるが,閉瞼状態は回復しており,明らかな兎眼はみられなかった.2011年7月,右眼の充血,流涙感,異物感を訴え,両眼のBUTは1秒,両角膜下方にSPKが存在し,右眼角膜下方にはFKがみられたため,ドライアイ治療の目的でDQとFLを開始した.その後,右眼のFKは出現,消失を繰り返していたが,2012年6月には左眼角膜下方にもFKを認(123)めるようになったため,TVOを追加した(図3a,b).同年8月再診時,両眼のFKが軽快しないため,DQを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与2週間目にFKは消退した(図3c,d).その後,RM単独投与で15カ月間,寛解状態を維持している.3症例のまとめを表1に示す.II考察Taniokaらは,臨床例から得られた角膜糸状物サンプルを免疫組織化学的に解析し,その発生メカニズムについて詳細に考察している7).すなわち,角膜上皮障害を起点として,上皮細胞成分をコアにその周囲にムチンが絡みつき,瞬目に伴う摩擦ストレスの影響下に基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成されるという.その結果,瞬目とともに糸状物が動くことで角膜知覚が刺激され,持続的な異物感を伴うようになる.したがって,治療戦略としては,起点となっている角膜上皮障害を速やかに修復させるとともに,炎症などによる分泌型ムチンの増加を抑制し,ドライアイやその他の要因による涙液クリアランスの悪化を改善させ,炎症起因物質やムチンをできる限り早く眼表面から排除することが必要である.しかし,SCLによる眼表面保護効果を除けば,ヒアルロン酸など,これまでの点眼薬治療では,上記の病態を持続的に改善させるのは困難であった.RMは,動物実験や培養角膜上皮による実験から,結膜杯あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141371 acbdacbd図3症例3a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与2週目.FKは消失している.d:左眼RM投与2週目.FKは消失している.表1糸状角膜炎3症例の所見と治療(まとめ)症例1(79歳,女性)症例2(90歳,男性)症例3(67歳,女性)全身疾患Sjogren症候群――眼疾患の既往総涙小管閉塞にて両)涙小管チューブ挿入術後角膜実質炎にて両)角膜移植後右)顔面神経麻痺(閉瞼不全なし)FK出現部位両)角膜全面,右<左両)下方,右≒左両)下方,右≒左RM投与前治療軟膏――オフロキサシン眼軟膏ステロイド点眼0.1%ベタメタゾン点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%フルオロメトロン点眼ドライアイ治療0.1%ヒアルロン酸点眼ジクアホソル点眼ジクアホソル点眼SCL装用+――RM投与後FK消失までの期間右)6週,左)11週両)3週両)2週RM投与後FK寛解持続期間18カ月18カ月15カ月FK:filamentarykeratitis,RM:rebamipideophthalmicsolution.細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)が確認されている.また,治験における結果から,臨床的にもドライアイの治療に有効であることが報告されている5,6).さらに,抗炎症作用を介して,角膜上皮の治癒促進に働く可能性が示されている8,9).RMは,分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用によって,FKの起点となる遷延性の角膜上皮障害を改善させ,FKの再発を抑制している可能性がある.症例2と3においては,ドライアイによる角膜上皮障害の1372あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014悪化と考えられたため,DQを追加したがFKは改善しなかった.DQには,RMと同様に分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンを増やす作用があり,そのうえ,結膜上皮細胞からの水分移動作用があるため,RMと同様に涙液安定性を向上させて,ドライアイを改善し,FK抑制の方向へ働くことが予想される.しかし,この2症例ではDQの追加投与では改善がみられず,RMへの変更によって改善が得られた.このことは,RMが眼表面ムチンを増やすうえに,角膜上皮障害の治癒促進という作用も持ち合わせているため,FKの発症をその機序のより上流で抑制している可能性があるのではない(124) かと推察される.また,3症例とも最終的には,ヒアルロン酸点眼やステロイド点眼を使用せずにRMのみでFKがコントロールできている点においても,FKに対するRMの有効性が示されているところであると思われた.他方,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの眼瞼疾患においては,涙液クリアランスの悪化や眼表面摩擦の亢進がFK発症の原因になることが知られている10).これらのケースではFKの発症部位もドライアイによるものとは異なっており,観血的な眼瞼異常の是正により初めて寛解する.今回の3症例には,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの要因はみられなかったが,眼瞼異常が主因となって生じるFKに対するRM投与の有効性については今後の検討課題である.以上,種々の治療に対する反応が不良で,RMへの変更投与が奏効したFKの3症例を提示した.RMは,その薬理作用によって種々のFKの発症要因を抑制し,長期間にわたって自覚症状および他覚所見を寛解させるのではないかと考えられた.文献1)KinoshitaS,YokoiN:Filamentarykeratitis.TheCorneafourthedition(FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds),p687-692,Philadelphia,20052)DavidsonRS,MannisMJ:Filamentarykeratitis.Cornea2ndedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20044)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20125)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20126)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Resolutionofpersistentcornealerosionafteradministrationoftopicalrebamipide.ClinOphthalmol6:1403-1406,20127)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofcornealfilamentinfilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,20098)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2572-2760,20139)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201310)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,2011***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141373

カプサイシン処置による角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果

2013年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科30(9):1309.1313,2013cカプサイシン処置による角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果竹治康広中嶋英雄香川陽人浦島博樹篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所EffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCapsaicin-inducedCornealEpithelialDamageinRatsYasuhiroTakeji,HideoNakashima,YotoKagawa,HirokiUrashimaandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.レバミピド点眼液は,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイ治療薬である.今回,カプサイシン処置を施したラットにおける角膜上皮障害および涙液安定性の低下に対する効果について検討した.カプサイシン処置を行ったラットに2%レバミピド点眼液または基剤を1日4回,15日間点眼した.角膜上皮障害はフルオレセイン染色スコアにより評価した.また,涙液量,涙液層破壊時間(BUT)および涙液中Muc5AC量を測定した.カプサイシン処置により,角膜上皮障害,涙液量の低下およびBUTの短縮が観察された.レバミピド点眼液により,経時的なフルオレセイン染色スコアの低下が観察され,さらに涙液量の回復,BUTの延長および涙液中Muc5AC量の増加が認められた.レバミピド点眼液は,カプサイシン処置を施したラットにおける涙液の減少を伴う角膜上皮障害を抑制することが明らかとなり,この作用は涙液中のムチン増加を介して涙液保持能を高めることにより,涙液安定性を向上させた可能性が示唆された.Rebamipideophthalmicsuspensionisatherapeuticagentfordryeyethatpromotestheproductionofmucininthecorneaandconjunctiva.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealepithelialdamageanddecreaseintearstabilityinrats.Rebamipideophthalmicsuspension(2%)orvehiclewasadministeredtopically4timesdailyfor15daystoratstreatedwithcapsaicin.Cornealepithelialdamagewasevaluatedbyscoringfluoresceinstaining.Tearvolume,breakuptime(BUT)andtearMuc5ACweremeasured.Theadministrationofcapsaicininducedcornealepithelialdamage,decreaseintearvolumeanddepressionoftearstability.Rebamipideophthalmicsuspensionshowedtime-dependentimprovementofcornealepithelialdamage,restorationoftearvolume,shorteningofBUTandincreaseintearMuc5AC.Rebamipideophthalmicsuspensionwasshowntoimprovecapsaicin-inducedcornealepithelialdamageinrats.TheactionofrebamipideophthalmicsuspensionmayimprovetearstabilitybyenhancingtearretentionviaincreasedtearMuc5AC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1309.1313,2013〕Keywords:レバミピド点眼液,涙液減少,角膜上皮障害,涙液安定性,ムチン.rebamipideophthalmicsuspension,tear-deficiency,cornealepithelialdamage,tearstability,mucin.はじめにドライアイは涙液の状態から涙液減少型と涙液蒸発亢進型の2つに大別される.涙液減少型ドライアイは,Sjogren症候群や,術後の知覚神経の障害などの要因により,涙腺からの涙液の供給の低下を生じ,涙液減少に伴い涙液交換の低下,浸透圧上昇など涙液の質の悪化がひき起こされる1).涙液蒸発亢進型ドライアイは,内的および外的なさまざまな要因による涙液の安定性低下が原因である.涙液安定性低下の因子の一つとして,眼表面のムチン減少による角膜表面の水濡れ性低下があげられる.実際,ドライアイ患者において,分泌型ムチン2)および膜型ムチン3)発現が低下していることが報告されている.〔別刷請求先〕竹治康広:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:YasuhiroTakeji,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita,Ako,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(109)1309 また,これらドライアイの発症・増悪のコア・メカニズムとして,涙液層の安定性の低下に伴い角膜上皮に障害がひき起こされ,上皮の水濡れ性が低下して,再び涙液層の安定性低下へと続く悪循環が問題とされている.レバミピド点眼液は,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイ治療薬である.N-アセチルシステイン処置によるムチン被覆障害モデルにおいて,レバミピド点眼液は,ムチン被覆障害,涙液安定性および角結膜表面の微細構造を改善することを報告している4,5).このムチン被覆障害モデルでは涙液量の低下は認められていないことより,レバミピド点眼液は,ムチンの減少が原因で涙液安定性が低下したドライアイには有効であると考えられるが,涙液が減少したドライアイにおける角膜上皮障害に対する効果については明らかにされていない.今回,カプサイシン処置を施したラットを用いて,涙液の刺激性分泌の低下を伴う角膜上皮障害および涙液安定性の低下に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.カプサイシンの処置カプサイシンの処置は香川らの方法6)を参考にした.生後4日齢のWister/ST雌性ラット(日本エスエルシー)に50mg/kgのカプサイシン(和光純薬)を皮下投与することによりモデルを作製した.カプサイシンは10%エタノール(和光純薬),10%Tween80(Sigma)を含有した生理食塩水で溶解させ使用した.正常群は,非処置とした.カプサイシン投与4週後に,涙液量測定および角膜フルオレセイン染色を行い,群分けを実施した.本研究は,「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守し実施した.2.薬物の投与カプサイシンを処置したラットのうち,レバミピド群には2%レバミピド点眼液を,コントロール群には基剤を1回5μL,1日4回,15日間点眼した.正常群は点眼を実施しなかった.3.涙液量および涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の測定涙液量の測定は,1.5mm幅に切断したシルメル試験紙を下側結膜に挿入し,1分間保持した.測定は点眼開始13日目の薬物点眼30分後に実施した.BUTの測定は,既報を一部改変した7).0.2%フルオレセイン溶液を5μL点眼し,強制的に瞬きさせた後,細隙灯顕微鏡(SL-7E,TOPCON)を用いて測定した.測定は点眼開始14日目の点眼30分後に実施した.4.角膜上皮障害の観察ラットの角膜上皮障害の観察は麻酔下で行った.麻酔は吸入麻酔剤であるイソフルラン(フォーレン吸入麻酔液,ア1310あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013表1スコア評価基準スコア角膜の染色状態0点状染色がない(正常)1点状染色が疎である2点状染色が密でもなく疎でもない3点状染色が密であるボット)を実験動物ガス麻酔システム(片山化学)を用いて実施した.1%フルオレセイン溶液を1μL点眼した後,余分な染色液を生理食塩水で洗浄した.共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡(F-10,NIDEK)にて角膜を撮影し,スコア評価は角膜を上部・中央部・下部に分け,各領域の染色状態を戸田らの方法8)に従って0.3点にスコア化し,角膜全体を9点満点とした(表1).角膜上皮障害の観察は,すべて盲検下で点眼前,点眼5,10および15日後に実施した.5.涙液中ムチンMuc5AC量の測定点眼開始13日目にシルメル試験紙を用いて涙液を採取した.シルメル試験紙をあらかじめ0.15mLリン酸緩衝生理食塩水〔PBS(.)〕が入ったチューブに入れ,撹拌することにより抽出した.遠心(15,000rpm,10分,4℃)後,上清を0.1mL採取し,Muc5AC量をRatMuc5ACELISAkit(CUSABIOBIOTECH)を用いて測定した.6.統計解析データは平均値±標準誤差で示し,統計解析は,SAS(Release9.1,SASInstituteJapan,Ltd)を用いて実施した.角膜上皮障害について,コントロール群とレバミピド群の間で繰り返し測定による分散分析を,各時間における2群間の違いを対応のないt-test(両側)を実施した.涙液量,BUTおよび涙液中Muc5ACについて,正常群とコントロール群の間およびコントロール群とレバミピド群の間で対応のないt-test(両側)を行った.いずれの検定も5%を有意水準として解析した.II結果1.角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果について,点眼開始15日目の典型的な角膜フルオレセイン染色の観察像を図1に示す.コントロール群では,正常群に比べ多数の点状染色が出現したのに対し,レバミピド群では点状染色は減少した.図2はフルオレセイン染色スコアの経時変化を示し,正常群のスコアは最大でも開始10日目の1.2±0.3であり,観察期間を通して低い値を示した.一方,コントロール群に関して,開始前のスコア(4.9±0.3)は正常群に比べ明らかに高く,開始15日目においても3.5±0.5を示し,観察期間を通して高いスコアを維持した.レバミピド群は,経時的な染色(110) 図1角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果点眼開始15日目の角膜フルオレセイン染色像を示す.コントロール群では,正常群に比べ,点状の染色が観察された.一方,レバミピド群では,点状の染色は減少した.正常ラットコントロールレバミピドカプサイシン投与ラット:正常ラット##**0123456涙液量(mm)6543:コントロール:レバミピド051015*角膜フルオレセイン染色スコア#*210正常ラットコントロールレバミピド時間(日)図2角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)*:p<0.05vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.#:p<0.05vsコントロール〔繰り返し測定による分散分析〕.スコアの低下を示し,点眼開始10および15日後のレバミカプサイシン投与ラット図3涙液量に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)点眼開始13日目に測定した.##:p<0.01vs正常〔対応のないt-test(両側)〕.**:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.ピド群のスコア(2.0±0.6,1.7±0.6)は,コントロール群のスコア(3.9±0.5,3.5±0.5)に比べて有意に低下した.2.涙液量およびBUTに対するレバミピド点眼液の効果涙液量およびBUTに対するレバミピド点眼液の効果の結果を図3および図4に示す.正常群の涙液量は4.4±0.2mmを示すのに対し,コントロール群の涙液量は2.6±0.1mmに有意に低下した.それに対してレバミピド群は3.1±0.1mmに有意に増加させた.BUTに関して,正常群は10.0±0.7秒を示したのに対し,コントロール群では5.9±0.5秒に有意に短縮した.レバミピド群のBUT(8.9±0.8秒)は,コントロール群に対して有##**024681012BUT(秒)正常ラットコントロールレバミピド意な延長を示した.3.涙液中Muc5ACに対するレバミピド点眼液の効果涙液中Muc5ACに対するレバミピド点眼液の効果の結果を図5に示す.コントロール群のMuc5AC量(19.7±2.8pg)は,正常群(26.6±3.5pg)に対して有意な差はないが低値を示した.一方,レバミピド群(52.4±9.3pg)は,コントロー(111)カプサイシン投与ラット図4BUTに対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)点眼開始14日目に測定した.##:p<0.01vs正常〔対応のないt-test(両側)〕.**:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131311 涙液中Muc5AC量(pg)706050403020100NS##正常ラットコントロールレバミピドカプサイシン投与ラット図5涙液中Muc5AC量に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=11.12)点眼開始13日目に採取した涙液を測定した.##:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.NS:有意差なしvs正常〔対応のないt-test(両側)〕.ル群(19.7±2.8pg)に対して有意な増加を示した.III考按涙液の減少を伴う角膜上皮障害の治療は,涙液量を増加させることであり,人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液が用いられている.しかし,人工涙液の頻回点眼は,涙液の希釈を誘導し眼表面に悪影響を及ぼすこと9),涙液が極度に減少している患者に対してヒアルロン酸ナトリウム点眼液の効果が低いこと10)が報告されており,涙液の量だけでなく質の改善も必要と考えられる.そこで,涙液の減少を伴う角膜上皮障害および涙液安定性に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.涙液分泌の低下を示す動物モデルとしては,涙腺を摘出したモデル11)や,副交感神経遮断薬であるスコポラミンの投与により涙腺からの涙液分泌を遮断するモデル12)が報告されているが,今回筆者らは,涙腺自身は正常な機能を保っているカプサイシン処置モデルを用いた.カプサイシンは知覚神経の伝達物質であるサブスタンスPの枯渇をひき起こすため,知覚神経からの栄養物質の欠如,および刺激による涙液分泌の低下を伴う角膜上皮障害を発症することが報告されている6,13).筆者らは,本モデルにおいて涙液量低下および角膜上皮障害だけでなく,涙液安定性の指標となるBUTも短縮していることを確認した.Pengらの報告によれば正常ラットのBUTは14.3.15.3秒であり14),筆者らは既報と大きな違いがない測定系において,カプサイシンモデルにおけるBUT短縮を明らかにした.レバミピド点眼液を反復投与すると,角膜上皮障害が改善することが明らかになった.以前,レバミピド点眼液はムチ1312あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013ン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微細構造を改善し,それには角結膜のムチン増加が関与していることを報告している5).本モデルにおいても涙液中Muc5ACの増加が観察されていることより,上皮障害改善作用にはムチン増加が関与していると推測される.さらに,涙液量の回復とBUTの延長を示していることより,レバミピド点眼液は眼表面のムチン増加を介して,涙液保持能の向上および角膜上皮障害の改善により安定した涙液層の形成を促したことが示唆された.なお,レバミピド点眼液は本モデルにおける知覚の低下に対して効果を示さないことを確認しており,涙液量の増加および角膜上皮障害の改善は,知覚神経自身の機能の改善を介したものではないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)術後の知覚神経の障害に伴う涙液分泌低下,BUTの短縮は,ドライアイの要因の一つとされていること15)から,カプサイシン処置ラットを用いた今回の結果より,レバミピド点眼液は涙液の刺激性分泌の減少に起因した角膜上皮障害が生じているドライアイ患者に対しても有効な治療薬として期待される.文献1)TheInternationalDryEyeWorkShop:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease:reportoftheDefinitionandClassificationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop.OculSurf5:291-297,20072)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20023)ArguesoP,Spurr-MichaudS,RussoCLetal:MUC16mucinisexpressedbythehumanocularsurfaceepitheliaandcarriestheH185carbohydrateepitope.InvestOphthalmolVisSci44:2487-2495,20034)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20045)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20126)KagawaY,ItohS,ShinoharaH:Investigationofcapsaicin-inducedsuperficialpunctatekeratopathymodelduetoreducedtearsecretioninrats.CurrEyeRes38:729735,20137)JainP,LiR,LamaTetal:AnNGFmimetic,MIM-D3,stimulatesconjunctivalcellglycoconjugatesecretionanddemonstratestherapeuticefficacyinaratmodelofdryeye.ExpEyeRes93:503-512,20118)TodaI,TsubotaK:Practicaldoublevitalstainingforocularsurfaceevaluation.Cornea12:366-367,19939)大竹雄一郎,山田昌和,佐藤直樹ほか:点眼薬中の防腐剤による角膜上皮障害について.あたらしい眼科8:15991603,1991(112) 10)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,200611)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200212)DursunD,WangM,MonroyDetal:Amousemodelofkeratoconjunctivitissicca.InvestOphthalmolVisSci43:632-638,200213)FujitaS,ShimizuT,IzumiKetal:Capsaicin-inducedneuroparalytickeratitis-likecornealchangesinthemouse.ExpEyeRes38:165-175,198414)PengQH,YaoXL,WuQLetal:EffectsofextractofBuddlejaofficinaliseyedropsonandrogenreceptorsoflacrimalglandcellsofcastratedratswithdryeye.IntJOphthalmol3:43-48,201015)TodaI:LASIKandtheocularsurface.Cornea27:S7076,2008***(113)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131313

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え

2013年6月30日 日曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):861.864,2013cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え添田尚一*1宮永嘉隆*1佐野英子*1堀貞夫*1井上賢治*2富田剛司*3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科SwitchingtoTravoprost/TimololFixedCombinationsfromLatanoprost/TimololFixedCombinationsShoichiSoeda1),YoshitakaMiyanaga1),EikoSano1),SadaoHori1),KenjiInoue2)andGojiTomita3)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(LTFC)をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(TTFC)へ切替えた際の効果を検討する.対象および方法:LTFCを使用中に角膜上皮障害が出現し,涙液層破壊時間(BUT)が10秒以下の緑内障患者12例23眼を対象とした.LTFCを中止しTTFCへ切替えた.眼圧,眼表面の安全性〔area-density(AD)スコアを合計〕,涙液の安定性(BUT)を6カ月間比較した.結果:眼圧は切替え前(14.9±3.6mmHg)と比べて切替え後(12.3.12.9mmHg)に有意に下降,A+Dスコアは切替え前(2.2±0.6)と比べて切替え後(0.1.1)に有意に改善,BUTは切替え前(7.7±3.7秒)と比べて切替え後(8.8.15.6秒)に有意に延長した(p<0.0001).結論:LTFC使用中に角膜上皮障害が出現した際に,TTFCへ切替えることで眼圧は維持し,眼表面への影響を軽減できる.Purpose:Toevaluatetheeffectoncornealsurfaceandintraocularpressure(IOP)afterswitchingfromlatanoprost/timololfixedcombinations(LTFC)totravoprost/timololfixedcombinations(TTFC).SubjectsandMethod:Thisstudyincluded11primaryopenangleglaucomapatientsand1secondaryglaucomapatientwhodevelopedsuperficialpunctuatekeratitiswithtearfilmbreakuptime(BUT)ofunder10secondsduringLTFCtreatmentforover3months.AllpatientswereswitchedtoTTFCwithoutawashoutperiod.IOP,keratopathy(area-densityscore)andBUTwereevaluatedfor6monthsaftertheswitch.Result:IOPreducedsignificantly,from14.9±3.6mmHgbeforetheswitchto12.3±1.8mmHgafter6months.Area-densityscoreimprovedsignificantly,from2.2±0.6beforetheswitchto0.0±0.0after6months.BUTalsoimprovedsignificantly,from7.7±3.7secondsbeforetheswitchto15.6±4.0secondsafter6months(p<0.0001).Conclusion:TTFCprovideshypotensiveeffectsimilartoLTFCandappearstobesaferforthecornealepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):861.864,2013〕Keywords:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液,breakuptime(BUT),角膜上皮障害,眼圧.latanoprost/timololfixedcombinations(LTFC),travoprost/timololfixedcombinations(TTFC),breakuptime(BUT),superficialpunctuatekeratitis(SPK),intraocularpressure.はじめにわが国では2010年に,緑内障・高眼圧症治療薬のプロスタグランジンF2a誘導体とb遮断薬を配合した点眼液が製造承認を取得した.緑内障治療では,眼圧下降が視野障害の進行抑制には重要な因子である1).薬物療法では,房水流出促進作用をもつプロスタグランジン誘導体と,房水産生抑制作用をもつb遮断薬の点眼液がおもに使用される.この2剤のうち,1剤だけで長期間眼圧をコントロールすることには限界があることが多く,しばしば2剤が併用される.だが,5分以上の点眼間隔が原因で2剤目の点眼を忘れてしま〔別刷請求先〕添田尚一:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:ShoichiSoeda,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(139)861 うこと,つまり多剤併用によるアドヒアランスの低下を招く場合がある.承認されたプロスタグランジンF2a誘導体・b遮断薬配合点眼液は,1日1回の点眼で従来のプロスタグランジンF2a誘導体(1日1回点眼)とb遮断液(1日2回点眼)を併用した場合と同程度の眼圧下降効果を有する2).しかし,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(LTFC)には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)が含有されることによる眼表面への影響が懸念される3).一方,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(TTFC)には,防腐剤としてBACではなく塩化ポリドロニウムが含有されており,眼表面への安全性が期待される.今回筆者らは,LTFCを使用中に角膜上皮障害が出現した原発開放隅角緑内障および続発緑内障患者を対象に,TTFCへ切替え,眼圧,眼表面の安全性,涙液の安定性について検討した.I対象および方法西葛西・井上眼科病院に通院中で,LTFCを3カ月間以上単剤使用中で,点状表層角膜症(SPK)が存在し,かつbreakuptime(BUT)が10秒以下の原発開放隅角緑内障および続発緑内障患者12例23眼(男性6例,女性6例)を対象とした.平均年齢は67.4±7.8歳(平均±標準偏差,54.78歳)であった.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障11例21眼,続発緑内障(ぶどう膜炎による)1例2眼であった.方法は,LTFC(夜1回点眼)からウォッシュアウト期間なしでTTFC(夜1回点眼)に切替え,6カ月間経過を観察した.評価項目は,area-density(AD)分類4)(フルオレセイン染色検査:表1),BUT,眼圧値(Goldmann圧平眼圧計にて測定)とした.AD分類は,A(area)をA0.3,D(density)をD0.3の4段階にそれぞれ分類し,A(0.3)+D(0.3)でスコア化した.有意差検定はANOVAおよびBonferroni/Dunn検定を用い,有意水準をp<0.01とした.表1びまん性表層角膜炎重症度分類(AD分類)範囲密度A1角膜面積の1/3未満A2角膜面積の1/3以上2/3未満A3角膜面積の2/3以上D1SPKが散在D2SPKが中等度D3SPKが密に隣接異常なし:(A0D0)862あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013なお,本調査はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,井上眼科病院の倫理委員会の承認の後,すべての患者に本調査の趣旨を十分説明し,参加の同意を得て実施した.II結果1.AD分類(図1,2)切替え前の平均ADスコアは2.2±0.6で,切替え1カ月後は1.1±1.0,3カ月後は0.5±0.9と切替え後に有意に改善を認め,6カ月後は0と全例でSPKは消失した(p<0.0001).2.BUT(図3)切替え前は7.7±3.7秒で,切替え1カ月後は8.8±3.6秒,3カ月後は10.3±3.9秒,6カ月後は15.6±4.0秒と切替え後に有意にBUTは延長した(p<0.0001).3.眼圧値(図4)切替え前は14.9±3.6mmHgで,切替え1カ月後は12.7±2.4mmHg,3カ月後は12.9±1.5mmHg,6カ月後は12.3±1.8mmHgで切替え後に有意に眼圧は下降した(p<0.0001).脱落例は3例5眼で,1例は切替え1カ月以降,2例は切替え3カ月以降の来院が中断したが,副作用による脱落例はなかった.III考按BACは界面活性剤で,細胞膜の透過性を亢進させ細菌を破壊することによる抗菌作用をもつ5)ことで,防腐剤として多くの点眼液に使用されている.また,BACは薬剤透過性亢進により薬剤効果に影響を及ぼすこと,角結膜上皮障害を出現させること,涙液を減少させること,涙液層の不安定化をひき起こすことが報告されている5).BAC非含有トラボプロスト点眼液とBAC含有ラタノプロスト点眼液の眼表面への影響を検討した報告では,BAC非含有トラボプロスト点眼液のほうが角膜上皮細胞への毒性が少なく,副作用出現の頻度も少なかった6).他にもBAC非含有トラボプロスト***3.02.52.01.51.00.50.0切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後*p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)図1AD分類スコアの変化切替え後にAD分類スコア(A+D)は有意に改善した.(140)AD分類スコア 治療開始時(切替え前)治療薬切替え1カ月後治療薬切替え3カ月後治療薬切替え6カ月後AreaAreaAreaAreaDensityA0A1A2A3A0A1A2A3A0A1A2A3A0A1A2A3D045.0%(9/20)75.0%(15/20)100.0%(18/18)D1(87.0%20/23)8.7%(2/23)55.0%(11/20)25.0%(5/20)D24.3%(1/23)D3A1/D187.0%A1/D24.3%A3/D18.7%A0/D045.0%A1/D155.0%A0/D075.0%A1/D125.0%A0/D0100%図2AD分類割合の変化切替え後に徐々にarea,densityともに改善した.25.020****p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)****p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)181614121086420眼圧(mmHg)20.015.010.0BUT(sec)5.00.0切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後図3BUTの変化切替え後にBUTは有意に延長した.点眼液とBAC含有ラタノプロスト点眼液のBUTを比較した報告では,BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC非含有トラボプロスト点眼液に切替えた結果,切替え8週間後には切替え前よりもBUTが平均4.32秒延長した7).今回の調査では,BACを0.02%含有するLTFCからBACを含まないTTFC(塩化ポリドロニウム含有)への切替えによりADスコアとBUTの有意な改善を認めた.これは,BAC起因による角膜上皮障害が改善されたためと考えられ,過去の報告6,7)も踏まえてTTFCはLTFCよりも眼表面への影響が少ないと考えられる.眼圧に関してのTTFCとLTFCの差は,夜間点眼後の24時間眼圧測定においてベースライン28.5±2.6mmHgに対して24時間平均眼圧がTTFCは18.7±2.6mmHg,LTFCは19.6±2.6mmHgでTTFCのほうがLTFCに比べて有意な(141)切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後図4眼圧値の変化切替え後に眼圧値は有意に下降した.眼圧下降を認めた8).また,BACの含有と非含有が眼圧に影響するかどうかは,トラボプロスト点眼液でのBAC含有・非含有について調査した報告では眼圧下降効果には差がなかった9).BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC含有トラボプロスト点眼液への切替えにより,眼圧は下降もしくは同等であった10).BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC非含有トラボプロスト点眼液への切替えにおいても眼圧下降効果はほぼ同等であった3).今回の調査では,LTFCからTTFCへ切替えることにより約2mmHgの有意な眼圧下降が得られた.1mmHgの眼圧下降効果は緑内障進行リスクを約10%軽減させる11)ことからも,LTFCからTTFCへの切替えで,さらに緑内障進行リスクを軽減できることを示唆する.眼圧が有意に下降した理由として,TTFCへ切替えることにより角膜上皮障害が改善し,点眼アドヒアランスあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013863 が向上した可能性がある.副作用が少なくて差し心地が良い点眼液は,主作用の眼圧下降効果を十分に発揮させることができると考えられる.緑内障患者は点眼液を長期にわたり多剤併用することが多く,配合点眼液の発売によりアドヒアランスの向上につながっている.そして,副作用を可能な限り抑えることによりさらなるアドヒアランスの向上が期待できる.今回は23眼を対象として6カ月間の経過観察を行ったが,母集団が少ないこと,緑内障の長期管理は年単位を要することから,今後は症例数を増やして1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.今回の調査から,LTFCやその他のBAC含有の緑内障治療点眼液を継続中に副作用である角膜上皮障害が出現した患者には,TTFCへ切替えることを検討してもよいと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)TopouzisF,MelamedS,Danesh-MeyerHetal:A1-yearstudytocomparetheefficacyandsafetyofonce-dailytravoprost0.004%/timolol0.5%toonce-dailylatanoprost0.005%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaofocularhypertension.EurJOphthalmol17:183-190,20073)大谷伸一郎,湖﨑淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,20104)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,20066)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,20067)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,20098)KonstasAGP,MikropoulosDG,EmbeslidisTAetal:24-hIntraocularpressurecontrolwithevening-dosedtravoprost/timolol,comparedwithlatanoprost/timolol,fixedcombinationsinexfoliativeglaucoma.Eye24:1606-1613,20109)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,2003***864あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(142)

安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液への切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1401.1404,2012c安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液への切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果南泰明*1星最智*1近藤衣里*1岩部利津子*2森和彦*2*1藤枝市立総合病院眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学ImprovementofDrugInducedCornealEpithelialDisturbanceuponSwitchingtoLatanoprostOphthalmicSolutionContainingSodiumBenzoateYasuakiMinami1),SaichiHoshi1),EriKondoh1),RitsukoIwabe2)andKazuhikoMori2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的,対象および方法:先発医薬品から防腐剤として塩化ベンザルコニウムではなく安息香酸ナトリウムを含有するラタノプロスト点眼液に切替え,1および3カ月後の眼圧と角膜上皮障害の程度(AD分類)を検討して切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果の評価を行った.対象は先発医薬品ラタノプロスト点眼液を3カ月以上使用している広義原発開放隅角緑内障または高眼圧症66例97眼(男性31例46眼,女性35例51眼)とした.結果:切替え前と1カ月後,3カ月後では眼圧に有意差を認めなかった(各々p=0.355,p=0.244).AスコアとDスコアは切替え1カ月後,3カ月後に有意に改善した(各々p<0.010).結論:先発医薬品ラタノプロスト点眼液を安息香酸ナトリウム含有の後発医薬品へ変更することで,眼圧下降効果を維持しつつ角膜上皮障害の改善効果が期待できる.Purpose:Toreporttheimprovementofcornealepithelialdisturbanceuponswitchingfromalatanoprostophthalmicsolutioncontainingbenzalkoniumchloride(BAC)toalatanoprostophthalmicsolutioncontainingsodiumbenzoate.Cases:PrimaryopenangleglaucomaorocularhypertensionpatientswhohadbeentreatedwithlatanoprostophthalmicsolutioncontainingBAC(XalatanReyedrops0.005%)forlongerthan3months(66cases,97eyes).Method:Superficialpunctatekeratopathy,gradedonthebasisofarea-densityclassificationandintraocularpressure(IOP),wasevaluatedat1and3monthsafterswitchingfromXalatanRtoa0.005%latanoprostophthalmicsolution「Nitten」RcontainingsodiumbenzoateinsteadofBAC.ResultandConclusion:At1and3monthsafterswitching,therewasnosignificantchangeinIOP(p=0.355,p=0.244,respectively),thoughareascoreanddensityscoreimprovedsignificantly(p<0.010).SwitchingtolatanoprostcontainingsodiumbenzoatecouldimprovecornealepithelialdisturbanceduetoBAC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1401.1404,2012〕Keywords:ラタノプロスト,塩化ベンザルコニウム,安息香酸ナトリウム,角膜上皮障害,薬剤毒性.latanoprost,benzalkoniumchloride,sodiumbenzoate,cornealepithelialdisturbance,drugtoxicity.はじめにプロスタグランジンF2a誘導体であるラタノプロストは優れた眼圧下降作用をもつ薬剤であるが,その先発医薬品であるキサラタンR点眼液0.005%(ファイザー株式会社)(以下,Xal)は塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:以下,BAC)による角膜上皮障害が生じやすいことが指摘されており1.3),過去の報告では単剤使用症例でも頻度として約15.40%に認められるといわれている4,5).Xalを処方中に薬剤性角膜上皮障害をきたした場合は,主剤の異なる点眼液へ切替えるなどの方法で対処していた6,7)が,2010年にラタノプロスト点眼液の後発医薬品が多数市場に出ることにより,添加物の異なる種々のラタノプロスト点眼液から選択することが可能となった.ラタノプロスト後発医薬品にはBACを低減させたものや防腐剤不要の容器を〔別刷請求先〕南泰明:〒426-8677藤枝市駿河台4丁目1番11号藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:YasuakiMinami,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)1401 表1先発医薬品との組成比較主剤防腐剤その他の基剤キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト(1ml中に50μg)塩化ベンザルコニウム無水リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム一水和物,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」Rラタノプロスト(1ml中に50μg)安息香酸ナトリウムホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸ナトリウム水和物,pH調節剤用いたものなど製剤によって工夫がみられるが,そのなかでラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」R(日本点眼薬研究所)(以下,LatNT)はBACの代わりに食品添加物としても使用されている安息香酸ナトリウムを防腐剤として用いており,他のラタノプロスト後発医薬品にない特徴を有している(表1).本剤はBACを含まないためにXalよりも角膜上皮細胞に対する毒性が低いことが予想されるが,多数の緑内障症例における眼圧下降効果や眼表面への影響については十分な検討がなされていないのが現状である.今回筆者らは,XalからLatNTへ変更することによる眼圧と角膜への影響について比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は2010年9月から2011年3月までに藤枝市立総合病院眼科を受診した広義原発開放隅角緑内障または高眼圧症で,眼圧下降薬としてXalを3カ月以上単剤使用している症例とした.①コンタクトレンズ装用者,②慢性あるいは再発性のぶどう膜炎・強膜炎・角膜ヘルペスを合併しているもの,③6カ月以内に眼外傷・内眼手術・レーザー手術の既往のあるもの,④炭酸脱水酵素阻害薬の全身投与を受けているもの,⑤Sjogren症候群を含むドライアイの患者については対象より除外した.XalからLatNTへの切替え前,1および3カ月後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計を使用して,眼圧日内変動に配慮して測定した.角膜上皮障害の程度は切替え前,1および3カ月後にAD分類8)を用いて評価した.切替え前後の眼圧,AスコアおよびDスコアについて,解析にはSPSSStatisticsVersion19(IBM)を用いて統計学的に比較検討した.統計学的解析はWilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は5%とした.II結果1.対象者の特徴対象は66例97眼(男性31例46眼,女性35例51眼)であり,平均年齢は71.3±10.2(平均値±標準偏差)歳であった.病型の内訳は,正常眼圧緑内障が50例72眼,原発開放隅角緑内障が11例15眼,高眼圧症が5例10眼であった.表2脱落症例の詳細症例年齢(歳)性別病型対象眼ベースラインの角膜上皮障害脱落理由切替え1カ月までの離脱症例157女NTG右A1D2コンプライアンス不良左A1D2284女NTG右A0D0通院自己中断左A0D0385男NTG右A2D3コンプライアンス不良左A1D2473男NTG右A0D0コンプライアンス不良左A0D0切替え1カ月後から3カ月までの脱落症例591男NTG左A0D0通院自己中断684男NTG左A0D0通院自己中断770男NTG右A0D0点眼後不快感左A0D0NTG:正常眼圧緑内障.1402あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(86) AスコアDスコア***0.60.7**00切替え前1カ月後3カ月後切替え前1カ月後3カ月後***:p<0.01**:p<0.001図1ADスコアの平均値の推移切替え前切替え1カ月後切替え3カ月後Dスコアの平均値0.50.60.50.4Aスコアの平均値0.40.30.30.20.20.10.1A0A1A2A3D043D13230D2520D3000→A0A1A2A3D065D12000D2000D3000→A0A1A2A3D062D12100D2200D3000図2角膜上皮障害の変化脱落症例は,切替え1カ月後まででは通院自己中断が1例2眼,コンプライアンス不良が3例6眼であり,切替え1カ月以降3カ月まででは通院自己中断が2例2眼,点眼後不快感による投薬変更が1例2眼であった(表2).調査期間中に重篤な有害事象は認めなかった.2.眼圧変化3カ月後までに脱落した症例を除いた59例85眼について,眼圧は切替え前の12.8±2.7(平均値±標準偏差)mmHgから切替え1カ月後に12.6±2.7mmHgとなり,有意な変化は認めず(p=0.355),切替え3カ月後には12.9±2.8mmHgであり,切替え前との比較で有意な変化は認めなかった(p=0.244).3.角膜上皮障害の変化3カ月後までの脱落症例を除いた59例85眼について,切替え前と切替え1カ月後のAスコアとDスコアを比較すると,Aスコアは0.59±0.66(平均値±標準偏差)から0.24±0.43へと有意に改善し(p<0.001),Dスコアも0.54±0.59から0.24±0.43へと有意に改善した(p<0.001).同様に切替え前と切替え3カ月後のAスコアとDスコアを比較すると,Aスコアは0.27±0.45へと有意に改善し(p<0.001),Dスコアも0.29±0.51へと有意に改善した(p=0.003)(図1).切替え前,切替え1カ月後と3カ月後のAスコアとDスコアの推移は図2のとおりであった.III考按ラタノプロストの先発医薬品であるXalはその優れた眼圧下降効果により1999年の発売以降,わが国でも広く用いられてきた.そのなかでXal使用患者において薬剤性と考えられる角膜上皮障害についての報告1,2)が散見されるようになり,原因の一つとしてBACの細胞毒性が指摘されるようになった2,9.11).福田らは,BACの培養家兎由来角膜細胞に対する影響について評価し,BACの濃度依存性に細胞毒性が高まることを報告している12).重度の薬剤性角膜上皮障害を認めた場合,これまではXalから他剤への変更を余儀なくされていたが,2011年にラタノプロストの後発医薬品が多数発売されるようになってからは主剤を変更することなく眼表面への毒性がより少ないと考えられる点眼剤を選択できるようになった.しかしながら,後発医薬品ごとに添加物の種類や濃度が異なるため,実際にどの製剤を使用すべきかの医学的根拠が不足している状況である.LatNTは,BACの代わりに安息香酸ナトリウムを防腐剤として用いたラタノプロスト点眼液であり,防腐剤不要の特別な容器を必要としない製剤であるが,その眼圧下降効果と角膜への影響については多数の緑内障患者を対象として評価する必要があると考え,今(87)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121403 回の調査を行った.眼圧に関しては,切替え前と切替え1カ月後および3カ月後の眼圧の比較では有意差を認めなかった(各々p=0.355,p=0.244).したがって,XalからLatNTに変更しても眼圧下降効果は維持できていると考えられた.角膜上皮障害に関しては,切替え前と切替え1カ月後の比較においてAスコアとDスコアともに有意に改善した(各々p<0.001).さらに切替え前と切替え3カ月後の比較においてもAスコアとDスコアともに有意に改善した(各々p<0.001,p=0.003).眼科領域における安息香酸ナトリウムの安全性と細胞毒性に関する研究では,杉浦らがヒト羊膜由来培養細胞を用いて検討しており,生存細胞の減少速度は塩化ベンザルコニウムに比較して安息香酸ナトリウムで少なかったと報告している13).さらに,福田らはXalと後発医薬品ラタノプロスト点眼液の培養家兎由来角膜細胞に対する影響について評価し,Xalに比較してLatNTで細胞障害が少なかったと報告している12).上記のような研究結果は,今回の筆者らの結果と矛盾しないものと考えられ,Xalを使用中に薬剤性と考えられる角膜上皮障害がみられた場合には,LatNTへ切替えることも有用な対処法の一つと考えられた.得られた結果について,LatNtとXalの2剤の防腐剤が異なることが,今回SPK(点状表層角膜症)が改善したおもな理由と考えられるが,他の基剤成分が影響を与えている可能性も考えられる.本研究における問題点としては,まず,切替え3カ月後の眼圧までしか評価していない点である.眼圧の季節性変動までを考慮するならば,さらに長期の眼圧の推移をみる必要がある.つぎに,LatNTと他のラタノプロスト後発医薬品との比較である.ラタノプロストの後発医薬品にはXalよりもBACの濃度が低いものや,防腐剤不要の容器を用いたものが存在する.これらの点眼液とLatNTとの比較も必要と考えられる.また,両眼を解析していることが患者の個別要因による影響を与えている可能性もある.Xalを継続した対照群との比較試験なども今後の追加検討が必要と思われる.結論としては,先発医薬品ラタノプロスト点眼液による薬剤性角膜上皮障害に対して安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液に変更することで,眼圧下降効果を維持しつつ角膜上皮障害の改善効果が期待できる.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年9月,於秋田)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,20002)田聖花,中島正之,植木麻理:ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害.臨眼55:1995-1999,20013)井上順,岡美佳子,井上恵理:プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響.あたらしい眼科28:886890,20114)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729732,20105)北澤克明・ラタノプロスト共同試験グループ:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20066)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-518,20067)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.002%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,20088)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層性角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19949)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討.日本の眼科58:945-950,198710)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,198911)井上順,岡美佳子,井上恵理:プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響.あたらしい眼科28:886-890,201112)福田正道,稲垣伸亮,荻原健太ほか:ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討.あたらしい眼科28:849-854,201113)杉浦栄一,今安正樹,岩田修造:コンタクトレンズ用材の生体適合性に関する研究第5報点眼用防腐剤の細胞毒性.日コレ誌26:78-83,1984***1404あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(88)

電気生理学的手法を用いたチモロールマレイン酸塩点眼液の角膜上皮障害性の検討

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):536.540,2012c電気生理学的手法を用いたチモロールマレイン酸塩点眼液の角膜上皮障害性の検討中嶋幹郎*1手嶋無限*1中嶋弥穂子*1上松聖典*2北岡隆*2*1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床薬学講座*2同眼科・視覚科学講座EvaluationofCornealEpithelialBarrierBreakdownCausedbyTimololMaleateEyedropsUsinganElectrophysiologicMethodMikiroNakashima1),MugenTeshima1),MihokoNNakashima1),MasafumiUematsu2)andTakashiKitaoka2)1)DepartmentofClinicalPharmacy,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversityドナー相ターンオーバーシステムと家兎角膜を用いた電気生理学的手法により,チモロールマレイン酸塩点眼液の角膜上皮障害性を検討した.塩化ベンザルコニウム(BK)を防腐剤として含有するチモロールマレイン酸塩の3種類の点眼液〔チモプトールR点眼液0.5%,リズモンTGR点眼液0.5%,リズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤:0.001%BKを含有)〕とBK以外の防腐剤を含有する1種類のチモロールマレイン酸塩の点眼液(チモプトールXER点眼液0.5%)を試験薬として用いた.各点眼液を摘出家兎角膜に添加し,ヒト涙液の代謝回転を再現したドナー相ターンオーバーシステムを用いた電気生理学的手法により,角膜表面の経上皮電気抵抗(TEER)の変化を測定した.点眼液の角膜上皮障害性はTEERの低下を指標として評価した.その結果,点眼液添加後の角膜TEERの低下は,防腐剤のBK濃度に依存し,リズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤:0.001%BKを含有)添加後の値が最も小さかった.また,BK以外の防腐剤を含有する点眼液もBKを含有する点眼液と同様に角膜TEERの低下が認められた.Cornealepithelialdisorderscausedbytimololmaleateeyedropswerereviewedbytheelectrophysiologicmethod,usingadonor-phaseturnoversystemandrabbitcorneas.Usedinthisstudywerethreekindsoftimololmaleateeyedropscontainingbenzalkoniumchloride(BK)asanophthalmicpreservative:TIMOPTOLROphthalmicSolution0.5%,RYSMONTGROphthalmicSolution0.5%andRYSMONTGROphthalmicSolution0.5%(alow-BKpreparationcontaining0.001%BK),andatimololmaleateeyedropcontaininganophthalmicpreservativeotherthanBK:TIMOPTOLXEROphthalmicSolution0.5%.Eacheyedropswereappliedtoexcisedrabbitcorneas,andchangesintransepithelialelectricalresistance(TEER)inthecornealsurfaceweremonitoredbytheelectrophysiologicmethod,withdonor-phaseturnoversystem,tomimichumantearturnover.CornealepithelialdisorderscausedbytheeyedropswereassessedusingTEERdecreaseasanindex.ResultsshowedthattheextentofdecreaseincornealTEERaftereyedropapplicationwasdependentonBKcontent,thedecreasebeingleastafterapplyingRYSMONTGROphthalmicSolution0.5%(alow-BKpreservativecontaining0.001%BK).TheeyedropcontainingapreservativeotherthanBK,liketheeyedropscontainingBK,alsoshowedadecreaseincornealTEER.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):536.540,2012〕Keywords:角膜上皮障害,防腐剤,塩化ベンザルコニウム,チモロールマレイン酸塩点眼液,電気生理学的手法.cornealepithelialdisorders,preservative,benzalkoniumchloride,timololmaleateeyedrops,electrophysiologicmethod.〔別刷請求先〕中嶋幹郎:〒852-8521長崎市文教町1-14長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床薬学講座Reprintrequests:MikiroNakashima,DepartmentofClinicalPharmacy,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-14Bunkyo-machi,Nagasaki852-8521,JAPAN536536536あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(102)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY はじめに緑内障はわが国の失明原因の上位に位置する疾患として知られている.国内で40歳以上の緑内障の有病率は5.0%とされ,300万人近い罹患患者が存在すると推定されている1,2).緑内障治療は,患者の視機能維持が主目的となり,長期間の点眼液による治療が必要となるため,目に優しく安全に使用できる点眼液の有用性は高い.最近,点眼液に含まれる防腐剤の塩化ベンザルコニウム(以下,BK)によるさまざまな副作用が報告されており,臨床における点眼液治療の問題となっている3).このBKは角膜表面の上皮層のバリア機能に悪影響を及ぼすことが知られている4).したがって,点眼液の角膜上皮バリア能に対する影響を検討し,角膜障害性の少ない点眼液を用いた治療を選択することは,患者のQOL(qualityoflife)やアドヒアランス向上のために重要な取り組みといえる.筆者らは,角膜表面の経上皮電気抵抗(TEER)が,点眼液適用時に現れる角膜上皮バリア機能の変化を検出できる感度の高いパラメータであると考え,8種類の抗アレルギー点眼液について摘出角膜を用いた電気生理学的試験と角膜上皮の培養細胞を用いた細胞毒性試験を行ったところ,角膜TEERの低下の程度が角膜上皮の細胞障害性の強度と有意な相関性を示したことから,角膜TEERの低下を指標として角膜上皮障害性を評価できることを報告した5).最近,緑内障点眼液として汎用されているチモロールマレイン酸塩点眼液では,防腐剤の種類やその添加濃度が異なるゲル化製剤が市販されている.そこで本研究では,筆者らが考案した電気生理学的手法5,6)を用いて,チモロールマレイン酸塩点眼液の各種製剤の角膜上皮障害性を検討し,得られた結果を比較した.I実験材料1.実験動物空調および温度管理を行った個別のケージにて標準実験動物用飼料(ORC4,オリエンタルイースト)で飼育された2.0.2.5kgの雄性日本白色家兎(KBT:JW系,KBTオリエンタル)を用いた.家兎は自由に飼料と水の摂取できる状態で飼育した.なお,すべての実験は,動物の飼育と使用の指針となる原則(DHEWPublication,NIH80-23),動物の研究利用に関するARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)決議およびヘルシンキ宣言に従った.2.チモロールマレイン酸塩点眼液の試験薬防腐剤としてBKを含む3種類のチモロールマレイン酸塩点眼液ならびに防腐剤として臭化ベンゾドデシニウムを使用している1種類のチモロールマレイン酸塩点眼液を用いた.チモプトールR点眼液0.5%(防腐剤として0.005%BKを含有)およびチモプトールXER点眼液0.5%(防腐剤として0.012%臭化ベンゾドデシニウムを含有)は参天製薬から入手した.一方,リズモンTGR点眼液0.5%(防腐剤として0.005%BKを含有)およびリズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤)(防腐剤として0.001%BKを含有)はわかもと製薬から入手した.II実験方法1.電気生理学的手法前報5,6)の方法に準拠し,ドナー相にヒト涙液の代謝回転速度と同じ16%/minのターンオーバーシステムを備えたUssingチャンバーシステム(CHM1,WorldPrecisionInstruments)を用いて実験を行った(図1).Ussingチャンバーシステムのドナー相とレシーバー相に取り付けたAg/AgCl電極によって電流および電圧の測定を行った.各チャンバーは,グルタチオン重炭酸加リンゲル液7)(以下,GBR)で満たし,95%O2と5%CO2の混合気によって曝気し,37℃に保ったGBRを循環させた.すべての実験は37℃に保ったUssingチャンバーで行った.家兎をペントバルビタールナトリウムの投与により屠殺した後,角膜を摘出し,ゴム製アダプターとO-リングを取り付けたUssingチャンバーのドナー相とレシーバー相の接合部(面積0.53cm2)に装着し,ドナー相とレシーバー相の容量がそれぞれ6mlと7mlとなるようにGBRを加えた.Ag/AgCl電極の電流は自動電圧測定装置(CEZ-9100,日本光電)につなぎ測定した.摘出した角膜の上皮細胞のアピカル側細胞膜とベーサル側細胞膜の電位差(PD)を2対のAg/AgCl電極で測定した.直流電流は1対のAg/AgCl電極(角膜組織と遠位の電極)で測定した.また,ドナー相─角膜─レシーバー相を流れる短絡回路電流(Isc)は0V(ゼロボルト)の状態で測定を行った.角膜TEERは,60秒間隔で10mVのパルス電圧を1秒間かけたときに流れる最大電流量より角膜の単位面積当たりの電気抵抗値として計算した.摘出角膜を実験装置に装着後,80分間プレインキュベーションを行った後,角膜TEERが約1,000W・cm2の定常状態に達した後にドナー相のGBRの半量を試験薬の各種点眼液で置換し,実験を開始した.点眼液をドナー相に添加した後,ドナー相はただちにぺリスタポンプにより新鮮なGBRを0.96ml/min(16%/min)の速度で100分間にわたりターンオーバーさせた.その際,電気生理学的パラメータは5分間隔で100分間測定した.点眼液添加後に低下した角膜TEERを定量的に評価するため,初期値を100%として点眼液添加後の60分間における低下面積を5分間隔で台形法を用いて算出し,その合計を計算した5).2.統計解析統計学的解析は,分散分析とScheffeの検定により行い危険率は5%未満とした.(103)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012537 チモプトールXE.チモプトール.(0.012%臭化ベンゾドデシニウム)150(0.005%BK)150拡散セルAg/AgCl電極Ussingチャンバーシステム自動電圧測定装置UssingチャンバーシステムぺリスタポンプTEERの変化(%)TEERの変化(%)TEERの変化(%)TEERの変化(%)1005010050080080120160120160時間(分)時間(分)リズモンTG.リズモンTG.(0.005%BK)(0.001%BK)1501005015010050080080120160120160時間(分)時間(分)図2ドナー相の代謝回転を有する電気生理学的実験システムで測定した4種類のチモロールマレイン酸塩点眼液の角膜表面の経上皮電気抵抗(TEER)に与える影響摘出角膜を実験装置に装着80分後の角膜TEER値を100%とし,点眼液添加後のTEER値の変化を測定した.各値は実験3回の平均値±標準誤差を表す.し,製剤改良によりBK濃度が1/5に減量されたリズモン摘出角膜添加試料ドナー相レシーバー相Ag/AgCl電極16%/minターンオーバーぺリスタポンプ直流電流FlowFlow自動電圧測定装置図1電気生理学的実験装置III結果防腐剤としてBKを含む3種類のチモロールマレイン酸塩点眼液ならびに防腐剤として臭化ベンゾドデシニウムを使用している1種類のチモロールマレイン酸塩点眼液の角膜上皮バリア能へ及ぼす影響を調べた結果を図2に示す.チモプトールR点眼液0.5%とリズモンTGR点眼液0.5%では,角膜TEERの低下パターンに違いが認められたものの,ともに不可逆的な角膜TEERの中等度の低下が観察された.しか538あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012TGR点眼液0.5%(BK減量製剤:0.001%BKを含有)では,添加直後に一過性の角膜TEERの低下がみられたが,その後角膜TEERは初期値近くにまで回復した.また,BK以外の防腐剤を含有するチモプトールXER点眼液0.5%でも不可逆的な角膜TEERの中等度の低下が観察された.そこで,各種点眼液の角膜TEERの添加直後から初期の60分間における低下面積を算出した.算出結果はチモプトールR点眼液0.5%(1,921±137%・min),リズモンTGR点眼液0.5%(1,742±579%・min),チモプトールXER点眼液0.5%(1,412±639%・min),リズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤:0.001%BKを含有)(1,269±651%・min)の順で,試験薬のなかではチモプトールR点眼液0.5%の角膜TEER低下面積が最も大きく,それに比べてリズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤:0.001%BKを含有)の値は有意に小さかった(p<0.05).IV考按角膜は,点眼液が眼球を透過する際の主要な経路である.角膜上皮のうち,表層上皮細胞の間の頂端側タイトジャンクションが傍細胞経路を通過する際の拡散に対する強い抵抗を生じ,親水性薬物が傍細胞経路を通過するのを制限している.上皮組織の傍細胞経路は,通常,電気生理学的パラメー(104) タによる評価が可能である.一般的に,角膜TEERは,上皮組織の傍細胞経路の透過性により生じる変化に最も感受性が高い8).Rojanasakulら9)は,家兎の各組織の上皮細胞についてTEERを比較し,他の組織と比べて角膜上皮細胞は互いに非常に緊密な結合組織であることを報告している.その報告でのTEERは以下のとおりであった.皮膚(9,703W・cm2)>口腔(1,803W・cm2)>角膜(1,012W・cm2)>直腸(406W・cm2)>腟(372W・cm2)>気管(291W・cm2)>気管支(266W・cm2)>鼻(261W・cm2)>小腸(211W・cm2).この報告での角膜TEERの値は,筆者らの前報の結果5)とほぼ一致している.筆者らは角膜TEERの低下を指標として角膜上皮障害性を評価できる新しい評価系を報告した5)が,一方,BursteinとKlyce10)は,点眼液によって角膜TEERが低下する程度が,角膜上皮の形態学的な障害度を示すことを明らかにしている.ヒトの結膜.に保持されている涙液は通常7μlであるが,その16%が1分間に入れ替わると報告されており,この涙液の代謝回転により,点眼液は点眼後速やかに外眼部から排出される11).Ussingチャンバーシステムを用いた今回の実験方法では,ヒト涙液の代謝回転を考慮し,ドナー相の溶液がぺリスタポンプにより16%/minの交換率でGBRを灌流して実際に点眼した状態のクリアランスを再現している.この方法により,4種類のチモロールマレイン酸塩点眼液の角膜上皮に対する影響を検討した結果,角膜TEERの低下はBKの濃度変化に依存することが示された.また,臭化ベンゾドデシニウムを含有する点眼液も,BKを含有する点眼液と同様に角膜TEERが低下することがわかった(図2).BKは,静菌性と殺菌性の作用があるため,眼科用保存剤として市販点眼液に0.001.0.02%の濃度で広く使用されている.しかし,その一方で角膜上皮障害など眼組織への影響が懸念されている12).筆者らは,Ussingチャンバーのドナー相ターンオーバーシステムによる電気生理学的手法を用いて摘出家兎角膜の電気生理学的特性を測定し,キサラタンR点眼液0.005%(0.02%BK含有0.005%ラタノプロスト点眼液)が角膜TEERを不可逆的に大きく低下させることを明らかにした13).また,そのなかで角膜TEERが,0.005%ラタノプロストのみを添加しただけでは変化しないものの,0.02%BKを添加すると不可逆的に大きく低下することを示した.近年,福田らは,角膜抵抗測定装置を用いて家兎生体眼に対する4種類のプロスタグランジン点眼液の角膜障害性を検討し,BK添加濃度が高いキサラタンR点眼液の角膜障害性が最も高かったことを報告している14).Wangらは,家兎角膜上皮の培養細胞を用いて,レスキュラR点眼液0.12%(0.01%BK含有0.12%イソプロピルウノプロストン点眼液)の添加が角膜バリア機能を障害することに加え,0.12%イソプロピルウノプロストンのみではバリア機能に障害を与え(105)ないことを報告している15).したがって,キサラタンR点眼液0.005%およびレスキュラR点眼液0.12%による角膜TEERの低下は,点眼液に含有される高いBK濃度(0.01.0.02%)が影響した可能性が考えられる.今回の検討の結果,BK添加濃度を0.001%に大きく減量したリズモンTGR点眼液0.5%(BK減量製剤)では,BKを0.005%含有する他の2製剤に比べて角膜TEERの低下率が少なかったが,これはBKの角膜に対する影響が軽減されていることを示す結果である.本研究では,BK添加濃度が同じ0.005%のチモプトールR点眼液0.5%とリズモンTGR点眼液0.5%で角膜TEERの低下パターンに違いが認められた.これは点眼液に含まれるBK以外の添加剤により,角膜TEERの変化が影響を受けることを示唆している.また,BK以外の防腐剤を含有するチモプトールXER点眼液0.5%もBKを0.005%含有する2製剤と同程度の角膜TEERの低下を認めた.筆者らが抗アレルギー点眼液の角膜TEERに対する影響を検討した結果では,防腐剤にクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸エステルの総称)を含有するゼペリンR点眼液0.1%では,角膜TEERの低下はわずかであったことから5),BK以外の防腐剤でも,その種類により角膜上皮バリア機能に対する影響が異なることが示唆された.以上の結果から,ドナー相ターンオーバーシステムと家兎角膜を用いた電気生理学的手法により観察された角膜TEERの変化は,点眼液によって生じる角膜上皮障害を予測する指標として有用であると考える.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudy,Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2,PrevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20084)相良健:オキュラーサーフェスへの影響:防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,20085)NakashimaM,NakamuraT,TeshimaMetal:Breakdownevaluationofcornealepithelialbarriercausedbyantiallergiceyedropsusinganelectrophysiologicmethod.JOculPharmTherap24:43-51,20086)NakamuraT,TeshimaM,KitaharaTetal:Sensitiveandreal-timemethodforevaluatingcornealbarrierconsideringtearflow.BiolPharmBull33:107-110,2010,7)SchoenwaldRD,HuangH-S:Cornealpenetrationbehaviorofbeta-blockingagentI:Physiochemicalfactors.Jあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012539 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ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)549《原著》あたらしい眼科28(4):549.552,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討福田正道矢口裕基藤田信之稲垣伸亮長田ひろみ柴田奈央子佐々木洋金沢医科大学眼科学EffectofSodiumHyaluronateEyedropsonCornealCellsMasamichiFukuda,HiromotoYaguchi,NobuyukiFujita,ShinsukeInagaki,HiromiOsada,NaokoShibataandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:市販のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の角膜上皮細胞に対する安全性を従来の培養家兎由来角膜細胞株(SIRC)による評価法(invitro)および角膜抵抗測定装置を用いた評価法(invivo)により評価した.方法:SIRCにヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン),アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア),ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)およびベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)を0,5,10,15,30および60分接触した際の細胞数を測定し,各測定時点の細胞数から細胞生存率(%)を算出した.また,角膜抵抗測定法では家兎の結膜.内に各点眼液およびBAKを5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:Invitroによる評価ではヒアレインは接触時間の増加に伴い,生存率は徐々に減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんど認められなかった.なお,BAKでは接触8分後で24.2%まで生存率は減少した.Invivoで一般的に汎用されている角膜染色による障害性評価ではBAK以外のいずれの製剤にも障害性は認められなかった.角膜抵抗測定法(CR比)による評価においても点眼前に対するCR比はヒアレインでは105.4±5.0%,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%,BAKでは67.0±10.3%であった.結論:今回,従来から汎用されている角膜染色による障害性評価およびCR比によるinvivoでの評価においてはBAK以外のヒアルロン酸点眼液で角膜障害性は認められなかったものの,invitro試験の結果から,ティアバランスとアイケアの角膜障害性はほとんどなく,角膜障害はBAK>ヒアレイン>ティアバランス=アイケアの順であった.Purpose:Theeffectofcommerciallyavailableeyedropscontaining0.1%sodiumhyaluronateoncornealepithelialcellswasevaluatedinvitrobyaconventionalmethodusingculturedstatensseruminstitutrabbitcornea(SIRC)cells,andinvivobycornealresistance(CR)measurement.Methods:CulturedSIRCcellswereincubatedwithHyaleinR0.1%eyedrops(Hyalein),EyecareR0.1%eyedrops(Eyecare),TearbalanceR0.1%eyedrops(Tearbalance)or0.2%benzalkoniumchloridesolution(BAK)for0,5,10,15,30and60min;thecellswerethencountedateachtimepointtocalculatethecellsurvivalrate(%).TomeasureCR,eachoftheeyedropsandBAKwereadministeredtotheconjunctivalsacsoftherabbits5timesevery5min;CRwasmeasured2minafteradministration.Results:TheinvitroevaluationshowedthatcellsurvivalratesgraduallydecreasedascellcontacttimewithHyaleinincreased.After60minofcellcontactwithHyalein,theratedecreasedto64.3%.Ontheotherhand,cellsurvivalratesafter60minofcontactwithEyecareandTearbalancewere89.2%and92.7%,respectively,almostcomparablerates;almostnocelldamagewasobservedaftercontactwithEyecareandTearbalance.Incontrast,BAKdecreasedthecellsurvivalrateto24.2%after8minofcontactwiththecells.Thecornealstainingexaminationwidelyusedforinvivoassessmentofcornealinjuriesdisclosednodifferencesbetweentheeyedrops,exceptingBAK.CRratio,asdeterminedbyCRmeasurementbeforeandaftereyedropadministration,was105.4±5.0%forHyalein,110.8±16.4%forEyecare,110.8±2.1%forTearbalanceand67.0±10.3%forBAK.Conclusion:Inthisstudy,cornealinjuryinvivoevaluationbywidelyusedconventionalcornealstainingandCRratiomeasurementdisclosednocornealinjuriescausedbysodiumhyaluronateeyedrops,exceptingBAK.TheresultsofinvitroexaminationindicatedthatTearbalanceandEyecaredidnotcausecornealcelldamage.Resultsshowedthatthe550あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(94)はじめにヒアルロン酸ナトリウム点眼液はSjogren症候群,Stevens-Johnson症候群,眼球乾燥症候群(ドライアイ)などの内因性疾患および術後,薬剤性,外傷,コンタクトレンズ(CL)装用などによる外因性疾患に伴う角膜上皮障害治療用点眼薬として,わが国では1995年から発売されている.その作用機序はヒアルロン酸ナトリウムが自身の保水性とともに,フィブロネクチンと結合し,その作用を介して上皮細胞の接着,伸展を促進するといわれている1~4).本剤の眼科臨床での貢献度は大きく,先発品のヒアレインRに加えて後発品が多数開発され市販されている.筆者らは先にヒアレインRおよび各後発品について培養家兎由来角膜細胞(SIRC)株による評価法(invitro)を用いて角膜上皮細胞に対する安全性を評価し,各点眼液に含まれる添加物の違いにより角膜上皮細胞に対する影響が異なることを確認している5).今回,SIRCによる評価法(invitro)に加え,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,各ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜上皮への影響を検討した.I実験材料1.試験薬剤(表1)ヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%にはヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン)〔参天製薬(株)〕,アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア)〔科研製薬(株)〕,ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)〔千寿製薬(株)〕および,ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)〔東京化成(株)〕を使用した.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg,雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学動物使用倫理委員会の使用基準に従うとともにARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従い,動物への負担配慮を十分に行い施行した.3.使用細胞株使用細胞株はSIRC(ATCCCCL60),10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’smedium(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は弯曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定した6).角膜抵抗値(CR)の測定にはつぎのような筆者らが開発した角膜抵抗測定装置〔CRD(Cornealresistancedevice)Fukudamodel2007〕を用いた6).角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC.USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)を使用した.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角膜形状に対応すcornealepithelialdamageobservedwas,intheorderofdecreasingseverity,BAK>Hyalein>Tearbalance=Eyecare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):549.552,2011〕Keywords:角膜抵抗,培養家兎由来角膜細胞株,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedstatensseruminstitutrabbitcorneacells,sodiumhyaluronateeyedrops,cornealepithelialdamage,livingeyes.表1試験製剤とその添加物製品名ヒアレインティアバランスアイケア(処方変更前)アイケア(処方変更後)添加物防腐剤ベンザルコニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩ベンゼトニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩液その他イプシロン-アミノカプロン酸,エデト酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化ナトリウム,pH調節剤ホウ酸,ホウ砂,塩化ナトリウム,塩化カリウムリン酸二水素カリウム,リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,エデト酸ナトリウム水和物,ポリソルベート80トロメタモール,pH調節剤,等張化剤pH6.0~7.06.5~7.56.0~7.06.8~7.8浸透圧比0.9~1.10.9~1.10.9~1.10.9~1.1製造販売元参天製薬㈱千寿製薬㈱科研製薬㈱科研製薬㈱(95)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011551る直径とベースカーブを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ12mm,4.8mm,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は,交流周波数:1,000Hz,波形:duration,矩形波:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.SIRCによる評価(invitro)SIRC(2×105cells)を35mmdishで10%FBS添加DME培地37℃,5%CO2下でコンフルエント状態になるまで5日間培養後,各点眼液(1,000μl)あるいはBAKを0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)(図1)成熟白色家兎の結膜.内に各点眼液あるいはBAKを5分ごと5回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.1群に家兎4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/(100μA×10.6)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%フルオレセインナトリウム溶液2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.4.統計学的処理検定法はStudent’st-testで行い,有意水準は0.05未満とした.III結果1.SIRCによる評価(invitro)ヒアレインでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんどみられなかった.薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過するとヒアレインと2種点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた(p<0.05).BAKの接触8分後では24.2%まで生存率は減少した(図2).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,ヒアレインが105.4±5.0%(平均±標準偏差)であったのに対して,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%であった.3種点眼液間には有意差はなく,いずれも角膜抵抗測定法によるCR比の低下はなかった.BAKでは67.0±10.3%まで低下した(表2).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,どの点眼薬においても,A0D0であった.BAKでは溶液接触2分後ではA2D2程度の障害がみられた.IV考按ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は1995年にヒアレインが発売になり,その後後発品が多数発売されている.いずれの後発品も先発品のヒアレインとの生物学的同等性試験により表2角膜抵抗測定法による評価(invivo)試験製剤角膜抵抗(CR)比(%)アイケアR点眼液0.1%110.8±16.4ティアバランスR点眼液0.1%110.8±2.1ヒアレインR点眼液0.1%105.4±5.0ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液67.0±10.3図1角膜抵抗測定装置(Current=±50μA,Frequency=1,000Hz)IsolatorPowerLabTrigger(Functiongenerator)ContactlenselectrodesComputer+-図2培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)100120806040200020406080生存率(%)時間(分)**:アイケア(0.1%):ヒアレイン(0.1%):ティアバランス(0.1%):BAK(0.02%)*:p<0.05%552あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(96)効果に差がないことは認められているが,主成分であるヒアルロン酸ナトリウム以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,界面活性剤,他)が異なるために,安全性,特に点眼液で重要な角膜障害性については同一とはいえない.そこで,すでに筆者らはSIRCに対する影響に関する検討を行い,先発品ヒアレインおよびヒアレインミニ,後発品(アイケア,ヒアール,ヒアロンサン,ティアバランス)のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の安全性を評価した結果,配合されている防腐剤の影響が大きく,ベンザルコニウム塩化物とベンゼトニウム塩化物は角膜障害性が大きく,エデト酸ナトリウムの関与が考えられ,クロルヘキシジングルコン酸塩やパラベン類の角膜への影響は比較的小さいものと考えられた5,8,9).今回使用したアイケアは前回使用のアイケア中の防腐剤であるベンゼトニウム塩化物をクロルヘキシジングルコン酸塩液に変更した.変更理由としては,アイケアが角膜上皮障害の治療薬であるため,点眼液に必要な保存効力を維持しながら,さらに,細胞障害性を軽減させることである.対照点眼液としてティアバランス,ヒアレインを用いて比較検討した.その結果,処方変更後のアイケアを接触させたときの細胞生存率はティアバランスとほぼ同等で,角膜上皮障害はほとんどみられなかった.処方変更後のアイケアとリン酸緩衝液を比較検討したところ,ほぼ同等の結果が得られた.さらにこの結果を,すでに筆者らが報告したベンゼトニウム塩化物を含む処方変更前のアイケアの結果と比較すると,有意に角膜障害性が軽減されていた.先発品であるヒアレインでは既報とほぼ一致する細胞障害性を示したことは,ベンゼトニウム塩化物やベンザルコニウム塩化物はクロルヘキシジングルコン酸塩に比べ細胞障害性が強いことを示すものであった5).Invivoの実験ではいずれの点眼液においても生体眼でのCR値の低下はみられず,フルオレセイン染色においても角膜上皮障害は確認されなかった.この点はinvitroの成績とは大きく異なり,invivoでは細胞障害を生じにくい傾向がみられたが,この原因は涙液や角膜上皮細胞の生理的条件が異なるためと推測している.しかし,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液はドライアイなどすでに角膜に障害がある患者に使用される薬剤であり,本実験で行った正常家兎眼での結果をそのまま適応して考えることはできない.ドライアイ患者などのハイリスク群では,添加剤の角膜障害性の影響はより大きくなることが予想されるため,十分注意が必要である.今回,市販の各種ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜障害性をSIRC細胞で評価した結果,薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過すると各点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた.検討した点眼液の角膜障害性はクロモグリク酸ナトリウム点眼液やジクロフェナクナトリウム点眼液あるいはマレイン酸チモロール点眼液に比べて少なかった7,8)が,治療の対象となる疾患が角膜障害を有する点でこれらの薬剤での結果と同一レベルの安全基準で評価することはできない.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の障害性は配合されている添加物,特にベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物などの第四アンモニウム塩による影響が大きいと考えられた.正常な生理的条件下であれば,これらの防腐剤を含むヒアルロン酸ナトリウム点眼液であっても角膜障害は発症しにくいと考えるが,涙液量が少なく角膜上皮の状態が悪い症例においては,より角膜障害を生じにくい薬剤の選択が重要であると考える.文献1)LaurentTC:Biochemistryofhyaluronan.ActaOtolaryngolSuppl442:7-24,19872)GoaKL,BenfieldP:Hyaluronicacid.Areviewofitspharmacologyanduseasasurgicalaidinophthalmology,anditstherapeuticpotentialinjointdiseaseandwoundhealing.Drugs47:536-566,19943)北野周作,大鳥利文,増田寛次郎:0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の重症角結膜上皮障害に対する効果.あたらしい眼科10:603-610,19934)NishidaT:Extracellularmatrixandgrowthfactorsincornealwoundhealing.CurrOpinOphthalmol4:4-13,19935)福田正道,山本佳代,佐々木洋:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の培養家兎角膜細胞に対する障害性.医学と薬学56:385-388,20066)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20077)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20098)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20099)福田正道,村野秀和,山代陽子ほか:グルコン酸クロルヘキシジン液の培養角膜上皮細胞に対する影響.眼紀56:754-759,2005***

角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)1581《原著》あたらしい眼科27(11):1581.1585,2010c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa-ken920-0293,JAPAN角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価福田正道*1佐々木洋*1高橋信夫*1吉川眞男*4北川和子*1佐々木一之*1,2,3*1金沢医科大学眼科学*2金沢医科大学総合医学研究所環境原性視覚病態研究部門*3東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科視覚機能学*(4有)メイヨーEvaluationofCornealDisordersCausedbyProstaglandinDerivativeOphthalmicSolutionsUsingaCornealResistanceMeasuringDeviceMasamichiFukuda1),HiroshiSasaki1),NobuoTakahashi1),MasaoYoshikawa4),KazukoKitagawa1)andKazuyukiSasaki1,2,3)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DivisionofVisionResearchforEnvironmentalHealth,MedicalResearchInstitute,KanazawaMedicalUniversity,3)VisualScienceCourse,DepartmentofRehabilitation,FacultyofMedicalScienceandWelfare,TohokuBunkaGakuenUniversity,4)MayoCorporation目的:角膜抵抗測定装置を用いて,4種類のプロスタグランジン関連薬の家兎眼の角膜上皮に対する安全性(invivo)を評価し,さらに培養兎由来角膜細胞障害性(invitro)との相関性を検討した.方法:培養兎由来角膜細胞株にキサラタンR点眼液(以下,キサラタン),ルミガンR点眼液(以下,ルミガン),トラバタンズR点眼液(以下,トラバタンズ)あるいはトラバタンR点眼液(以下,トラバタン)を0~60分間接触後の生存細胞数を測定し,各点眼薬の50%細胞致死時間(CDT50)を算出した.角膜抵抗測定法では,家兎の結膜.内に各点眼液を15分ごと3回点眼し,点眼終了2分,30分,60分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:各点眼薬のCDT50(分)はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,およびキサラタン11.6分の順であった.CR測定ではトラバタンの[点眼後CR×100/点眼前CR](CR比)は点眼終了で30分後81.0%,キサラタンは点眼終了2分後で82.0%でいずれも有意に低下した(p<0.05).一方,トラバタンズおよびルミガンではCR比の低下はみられなかった.結論:角膜抵抗測定装置で得た結果は培養角膜細胞による結果と相関性がみられ,生体眼でのプロスタグランジン関連薬の角膜障害性を評価するうえで有用であった.また,いずれの方法においても,角膜障害は,キサラタン>トラバタン>トラバタンズ=ルミガンであった.Objectives:Safetyof4prostaglandinderivativepreparationsforrabbitcornealepitheliumwasevaluatedinvivo,usingacornealresistancemeasuringdevice.Correlationwithcytotoxicityagainstculturedrabbitcornealcellsevaluatedinvitrowasalsoanalyzed.Methods:Culturedcellsofarabbit-derivedcornealcelllinewereexposedtotheophthalmicsolutionsXalatanR,LumiganR,TravatanzRorTravatanRfor0-60minutesandviablecellswerecounted,followedbycalculationofexposuretimecausing50%celldamage(CDT50)foreachsolution.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2,30and60minutesaftercompletionof3eyedropdoses(instilledatintervalsof15minutes)totheconjunctivalsacofeachrabbit.Results:CDT50was51.0minuteswithTravatanzR,50.5minuteswithLumiganR,25.3minuteswithTravatanRand11.6minuteswithXalatanR.CRratio(post-treatmentCR×100/pre-treatmentCR)was81.0%withTravatanR(30minutesafterendoftreatment)and82.0%withXalatanR(2minutesafterendoftreatment),indicatingsignificantreductionofCRtreatmentwiththesetwopreparations(p<0.05).CRdidnotdecreaseaftertreatmentwithTravatanzRorLumiganR.Conclusion:Theseresultssuggestthatthecytotoxiceffectswere:XalatanRophthalmicsolution>TravatanRophthalmicsolution>TravatanzRophthalmicsolution=LumiganRophthalmicsolution.Thedataoncornealresistancecorrelatedwiththedatafromculturedcornealcells,reflectingtheusefulnessofcornealresistanceasanindicatorofcornealinjurybyprostaglandinderivativesinvivo.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1581.1585,2010〕1582あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(100)はじめに一般に点眼薬には,有効性,安全性,安定性,さし心地という4つの条件が求められ,そのために主薬のほか種々の添加剤が加えられている.抗菌薬,抗ウイルス薬,抗真菌薬,非ステロイド薬,抗緑内障薬および表面麻酔薬などさまざまな点眼薬で比較的高頻度に発現する副作用である角膜上皮障害は,頻回点眼,多剤併用および長期連用ではさらにその発症頻度が高くなる.角膜上皮障害の原因として,添加剤である防腐剤が注目されている.筆者らはこれまでに,培養兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では4種類のプロスタグランジン関連薬の角膜上皮への影響を,invitroおよびinvivoの実験系で評価し,薬剤により異なる原因,および評価系の相関について検討した.I実験材料1.試験薬剤つぎの点眼薬について検討した.また,これらの製剤のおもな成分については表1に示した.・キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー):主成分ラタノプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,キサラタンと略す)・トラバタンズR点眼液0.004%(日本アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンズと略す)・トラバタンR点眼液(アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンと略す)・ルミガン点眼液0.03%(千寿製薬):主成分ビマトプロスト(プロスタマイド誘導体)(以下,ルミガンと略す)を用いた.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は湾曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.さらに,電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定する3).角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には図1に示した角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた.本装置は角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,Inc.USA),およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1579.1583,2010〕Keywords:角膜抵抗,培養角膜細胞株,プロスタグランジン関連薬,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedcornealcellline,prostaglandinderivatives,cornealepithelialinjury,eyeinvivo.表14種のプロスタグランジン系緑内障点眼剤の組成点眼液トラバタンR点眼液0.004%トラバタンズR点眼液0.004%キサラタンR点眼液ルミガンR点眼液0.03%有効成分トラボプロスト40μg(1ml中)トラボプロスト40μg(1ml中)ラタノプロスト50μg(1ml中)ビマトプロスト300μg(1ml中)添加物ベンザルコニウム塩化物ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,トロメタノール,ホウ酸,マンニトール,pH調整剤2成分,EDTA(エチレンジアミン四酢酸)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,プロピレングリコール,ホウ酸,D-ソルビトール,塩化亜鉛,pH調整剤2成分ベンザルコニウム塩化物リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,等張化剤ベンザルコニウム塩化物リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,クエン酸水和物,塩酸,水酸化ナトリウム(101)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101583膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.湾曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ,12mm,4.8mmおよび,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数:1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)を10%FBS添加DME培地37℃,5%CO25日間培養後,各点眼液(200μl)を0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2-4ac/2aにより求めた.Y軸に値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内にキサラタン,ルミガン,トラバタンズあるいはトラバタンを15分ごと3回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分,30分,60分後のCRを測定した.家兎を4群に分けて,1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/100μA×10.6CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の程度はAD分類5)により評価した.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は0.05%とした.III結果1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRCに対する評価では,トラバタンの生存率は接触30分後まではトラバタンズとほぼ同程度の生存率を示したが,接触60分時点では50.0%にまで減少しトラバタンズに比べて有意に減少した(p<0.05).ルミガンでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少した.一方,キサラタンでは接触時間とともに生存率は減少し,接触8分後では17.1%にまで減少した(図2).各種点眼薬のCDT50はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,キサラタン11.6分の順であった.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,トラバタン81.0%(点眼終了30分後),キサラタン82.0%(点眼終了2分後)とそれぞれ有意に低下した(p<0.05)が,その後,時間の経過とともに回復した.一方,トラバタンズではどの時点もほとんど低下はみられなかった.ルミガンにおいても,CR(%)の低Trigger(Functiongenerator)IsolatorPowerLab(current=±50μA,frequency=1,000Hz)ComputerContactlenselectrodes図1角膜抵抗測定装置の図0生存率(%)10203040時間(分)50607080**p<0.001:トラバタン120100806040200:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図2培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)010203040506070CR(%)時間(分)140120100806040200:トラバタン:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図3角膜抵抗測定法による評価(invivo)1584あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(102)下はみられず,むしろ,わずかに高い値を示す傾向がみられた(図3).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,トラバタンはA1D1(点眼終了30分後)(4眼中4眼),キサラタンはA1D2(点眼終了2分後)(4眼中4眼)であった.トラバタンズとルミガンでは各時点においてもA0D0(各4眼中4眼)であった(図4).IV考按今回,実験に用いた角膜抵抗測定装置は,これまでにいくつかの改良を加えて,得られる値の信頼性,生体に対する安全性を確立した筆者らが開発した装置であり,薬剤の角膜上皮障害の評価方法として有用性が高いことを報告している3).すなわち,本測定装置は,家兎眼の角膜上に電極を埋め込んだコンタクトレンズを装着して,交流電流を通電し,コンピュータ上に電圧を表示させ,電流と電圧の関係から抵抗値を算出するシステムで,invitroの実験系ではみることのできない角膜上皮バリア機能の回復過程を家兎眼でリアルタイムに定量的に確認することができる.培養角膜細胞(invitro)による実験系はSIRC細胞に各点眼薬を接触し,経時的に細胞数を測定して,CDT50(分)を算出するもので,筆者らはこれまでに,数多くの点眼薬の安全性の評価にこの方法を用いて行ってきた.この評価方法は測定感度が高いこと,データの再現性が良いこと,実験操作が簡便であることなどの長所を有する.一方,短所としては単層細胞系で生体眼での生理学的な現象と異なる環境であるため,得られたデータがどの程度,生体眼での影響を反映しているか不明の点がある.そこで,これらの異なる評価方法により,4種のプロスタグランジン系関連薬の角膜上皮細胞への影響の比較と合わせて,評価方法から得られた結果の相関性を明らかにする目的で検討を行った.その結果,CR比では,ベンザルコニウム塩化物(以下,BAKと略す)0.015%含有のトラバタンは81.0%(点眼終了30分後),BAK0.02%含有のキサラタンは82.0%(点眼終了2分後)にそれぞれ低下したが,時間の経過とともにいずれもCR値は上昇した.BAKを含まないトラバタンズとBAK0.005%含有のルミガンはいずれの時点でもCR比の低下はほとんどみられなかった.ルミガンでは点眼前に比べて,点眼後はわずかではあるが高値を示す傾向がみられたが,この原因は点眼薬中の添加剤であるクエン酸などが影響しているのではないかと考えている.このときの角膜上皮のフルオレセイン染色による評価ではキサラタンが最も障害がA1D2A0D0A0D0A1D1トラバタントラバタンズルミガン点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了2分後キサラタン図4フルオレセイン染色法による角膜障害例(103)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101585強く,ついでトラバタンで,トラバタンズとルミガンでは明らかな障害はみられず,角膜抵抗の結果と一致した.Invitro試験としてのSIRC細胞の60分接触の生存率では,トラバタンがトラバタンズに比べ有意に低下した(p<0.05%).また,CDT50についてもトラバタンズとルミガンに比べてキサラタンとトラバタンは短く,細胞障害を起こしやすい傾向がみられた.このようなトラバタンとトラバタンズの角膜障害の差は,おそらくBAKの有無によるものと考えられ,過去にもいくつかの報告がある5,6).BAKを含まないトラバタンズでもinvitroの実験では細胞生存率が薬剤接触直後から30~40%の減少がみられたが,この原因は細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている.しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくかったものと思われる.角膜上皮バリア機能の回復に関しては,Wolasinの家兎角膜細胞での報告によると,最表層1層のみの.離なら健常レベルに回復するまで1時間程度で,この程度では蛋白合成阻害の影響を受けない.一方,翼状細胞までの.離では健常レベルに回復するまでに8~10時間を要し,この過程では蛋白合成阻害の影響を受けることが知られている7).今回の実験で得られた生体眼でのCR値はおそらく,角膜上皮障害の程度と回復状態を反映していると考える.以上の結果はinvitro(培養兎由来角膜細胞)とinvivo(角膜抵抗測定およびフルオレセイン染色)による評価法はよく相関していることを示したものと考えてよい.したがって,生理的条件が異なるため培養細胞での細胞障害の結果をそのまま臨床評価に結び付けることはできないが,培養細胞の評価は生体眼での成績を予測する有用な検討方法と考える.本研究から4種類のプロスタグランジン関連薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.ただし,正常な角膜に対する1日1回の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用したい.最近,配合剤が点眼コンプライアンスの向上および角膜上皮障害の低減の面から注目されているが,最適な薬剤の選択には十分な眼圧下降効果を有することも考慮することが重要である.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20035)PellinenP,LokkilaJ:Cornealpenetrationintorabbitaqueoushumoriscomparablebetweenpreservedandpreservative-freetafluprost.OphthalmicResearch4:118-122,20096)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-518,20067)WolosinJM:Regenerationofresistanceandiontransportinrabbitcornealepitheliumafterinducedsurfacecellexfoliation.JMembrBiol104:45-55,1988***

前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)2470910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):247253,2009cはじめに糖尿病を有する患者の眼に手術を行ったり点眼薬を用いたりすると,角膜上皮障害がなかなか改善しないことを経験する.糖尿病角膜症とよばれるこの病態は平時には無自覚で経過しており,所見はあってもわずかで軽度の点状表層角膜症を有する程度で見過ごされているが,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する14).強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性角膜上皮びらんや遷延性角膜上皮欠損に移行しきわめて難治となることがある.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,光の波としての性質であるコヒーレンス(可干渉性)に着目し,反射波の時間的遅れを検出し画像化する新しい光断層画像解析装置である.OCTは後眼部の形態観察装置として広く認められ,その優れた画像解析能力は網膜疾患の解剖学的理解を深め,診断・治療に欠かせない要素の一つとなった5).前眼部領域においても,角膜や前房の形態描出に優れ6),角膜手術の術前後の評価7)や緑内障の診断治療8)に用いられ,〔別刷請求先〕花田一臣:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学医工連携総研講座Reprintrequests:KazuomiHanada,M.D.,DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1MidorigaokaHigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症花田一臣*1,2五十嵐羊羽*1,3石子智士*1加藤祐司*1小川俊彰*1長岡泰司*1川井基史*1石羽澤明弘*1吉田晃敏*1,3*1旭川医科大学医工連携総研講座*2同眼科学教室*3同眼組織再生医学講座CornealImagingwithOpticalCoherenceTomographyforDiabeticKeratopathyKazuomiHanada1,2),ShoIgarashi1,3),SatoshiIshiko1),YujiKato1),ToshiakiOgawa1),TaijiNagaoka1),MotofumiKawai1),AkihiroIshibazawa1)andAkitoshiYoshida1,3)1)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,3)DepartmentofOcularTissueEngineering,AsahikawaMedicalCollege増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に角膜上皮障害を生じた3例3眼について,Optovue社製のRTVue-100に前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着した前眼部光干渉断層計(OCT)で角膜形状と角膜厚を観察した.OCT像は前眼部細隙灯顕微鏡所見と比較しその特徴を検討した.前眼部OCTによって硝子体手術後の角膜に対して低浸襲かつ安全に角膜断層所見を詳細に描出でき,病変部の上皮の異常や実質の肥厚が観察できた.再発性上皮びらんを生じた症例では上皮下に生じた広範な間隙が観察され,上皮接着能の低下が示唆された.本法は,糖尿病症例にみられる角膜上皮障害の病態の把握に有効である.Wedescribetheuseofanteriorsegmentopticalcoherencetomography(OCT)inevaluatingcornealepithelialdamageaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy(PDR).ThreecasesofcornealepithelialdamageaftervitrectomyforPDRwereincludedinthisreport.AnteriorsegmentOCTscanswereperformedwiththeanteriorsegmentOCTsystem(RTVue-100withcornealanteriormodule;Optovue,CA).TheOCTimageswerecomparedtoslit-lampmicroscopicimages.TheanteriorsegmentOCTsystemisanoncontact,noninvasivetech-niquethatcanbeperformedsafelyaftersurgery.Theimagesclearlyshowedvariouscornealconditions,e.g.,epi-thelialdetachment,stromaledemaandsubepithelialspaces,ineyeswithrecurrentepithelialerosion.OCTimageshavethepotentialtoassesstheprocessofcornealwoundhealingaftersurgeryandtohelpmanagesurgicalcom-plicationsindiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):247253,2009〕Keywords:糖尿病角膜症,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,角膜上皮障害,前眼部光干渉断層計.diabetickeratopathy,proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,cornealepithelialdamage,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.———————————————————————-Page2248あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(110)その有効性が多数報告されている.今回筆者らは糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について,前眼部OCTを用いて経過を観察した3例3眼を経験し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後,遷延性角膜上皮障害を生じた3例3眼である.これらの症例の角膜上皮障害について前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)を用いて測定し修復過程を観察した.筆者らが用いた前眼部OCTはOptovue社製のRTVue-100である.後眼部の計測・画像解析用に開発された機種であるが,前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部OCTとして用いることができる(図1).測定光波長は後眼部用の840nm,組織撮影原理にはFourier-domain方式が用いられており,画像取得に要する時間が最短で0.01秒とtime-domain方式と比べ1/10程度に短縮されている.今回,角膜上皮層と上皮接着の状態,角膜実質層の形態および角膜厚について,前眼部OCTで得られた角膜所見と前眼部細隙灯顕微鏡所見を比較検討した.II症例呈示〔症例1〕32歳,女性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,手術所要時間は4時間34分,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.術後角膜上皮びらんが遷延し,2週間たっても上皮欠損が残存,容易に離する状態を呈していた(図2a).術前の角膜内皮細胞密度は2,848/mm2,六角形細胞変動率は0.35であった.術後2週間目の眼圧は24mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認めた(図2b).OCTで測定した角膜厚は中央部で675μmであった.この時点まで点眼薬はレボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンが用いられていたが,リン酸ベタメタゾンを中止,0.1%フルオロメトロンと0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを用いて上皮修復を促進するよう変更,治療用ソフトコンタクトレンズを装用して経過を観察した.術後4週間目で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で一部混濁を伴う隆起を生じていた(図3a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善傾向が認められた(図3b).術後6週間目で上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図4a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失,上皮基底に沿った低信号領域も消失した.実質浮腫もさらに改善がみられ(図4b),OCTab250μm2症例1a:32歳,女性.硝子体手術後上皮びらんが遷延し,2週間後も上皮が容易に離する.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の上皮肥厚と実質浮腫を認める.図1前眼部OCTOptovue社製RTVue-100.前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して前眼部光断層干渉計として用いる———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009249(111)で測定した角膜厚は中央部で517μmであった.〔症例2〕59歳,男性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.広範な牽引性網膜離があり,増殖膜除去後に硝子体腔内を20%SF6(六フッ化硫黄)ガスで置換して手術を終了,手術所用時間は1時間54分であった.術前の角膜内皮計測は行われていない.経過中に瞳孔ブロックを生じ,レーザー虹彩切開術を追加,初回術後3週間目に生じた網膜再離に対して2度目の硝子体切除術を行っている.手術所用時間は1時間12分.2度目の硝子体手術後4週間目に角膜上皮離が生じた(図5a).点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.術後4週間目の眼圧は17mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認め,上皮下には大きな間隙が生じていた(図5b).OCTで測定した角膜厚は中央部で793μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,経過を観察したところ,2週間で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴っていた(図6a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善がみられた(図6b).OCTで測定した角膜厚は中央部で527μmであった.その後も上皮びらんの再発をくり返し,術後12週間目で角膜上は血管侵入を伴う結膜で被覆された(図7a,b).ab250μm3症例1:上皮修復後①a:術後4週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴う隆起を生じている.b:前眼部OCT.上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底層に沿って1層の低信号領域を認める.実質浮腫には改善傾向がみられる.ab250μm図4症例1:上皮修復後②a:術後6週間.上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失,角膜上皮の基底層に沿った低信号領域が消失.実質浮腫もさらに改善がみられる.———————————————————————-Page4250あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(112)〔症例3〕48歳,女性.左眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.黄斑部に牽引性網膜離を生じており,増殖膜除去後に硝子体腔内を空気置換して手術終了,手術所要時間は2時間3分であった.血管新生緑内障に対して2%塩酸カルテオロール,0.005%ラタノプロスト点眼を用いて眼圧下降を得た.術後3日で角膜上皮は一度修復したが.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた(図8a).上皮離時の角膜内皮細胞密度は2,770/mm2,六角形細胞変動率0.29,眼圧は23mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.前眼部OCTでは上皮欠損とその部位の実質浮腫を認めた(図8b).OCTで測定した角膜厚は中央部で580μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用,術後7週間目で上皮欠損は消失し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図9a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられた(図9b).OCTで測定した角膜厚は中央部で550μmであった.III考察糖尿病角膜症14)とよばれる病態は,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する.強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性上ab250μm図5症例2a:59歳,男性.2度目の硝子体手術後4週間目に生じた角膜上皮離.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の角膜上皮肥厚と実質浮腫.上皮下には大きな間隙が生じている.ab250μm6症例2:上皮修復後①a:術後6週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整.b:前眼部OCT.角膜上皮の肥厚は残存し,修復した上皮の基底層に沿って1層の低信号領域が認められる.実質浮腫には改善がみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009251(113)ab250μm7症例2:上皮修復後②a:術後12週間.角膜上は血管侵入を伴う結膜によって被覆されている.b:前眼部OCT.肥厚した上皮によって角膜実質が覆われている.ab250μm図8症例3a:48歳,女性.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた.b:前眼部OCT.上皮欠損とその部位の実質浮腫を認める.ab図9症例3:上皮修復後a:術後7週間目で上皮欠損は消失.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられる.250μm———————————————————————-Page6252あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(114)皮びらんや遷延性上皮欠損に移行しきわめて難治となる.この病態の基礎には,角膜知覚の低下911),アンカーリング線維やヘミデスモゾームなどの密度低下による上皮接着能の低下12),上皮基底膜障害13),上皮下へのAGE(advancedgly-cationendproducts)の沈着14),上皮のターンオーバー速度の低下15,16)があるとされる.糖尿病網膜症に対する治療の際,手術侵襲や点眼薬の多剤使用,長期使用で上皮の異常が顕性化,重症化するといわれている1720).加えて,角膜内皮細胞の潜在的異常21),手術を契機とする内皮障害に伴う実質浮腫,術後高眼圧も角膜上皮にとってストレスとなりうる.今回検討した3症例いずれについても,内眼手術と角膜上皮掻爬の施行,術後高眼圧とその対応としての点眼薬の多剤使用が上皮障害の背景にある.この病態を把握し治療にあたるには角膜の様子を生体内でいかに的確に捉えるかが重要である.前眼部OCTは角膜・前房の形態観察装置として開発され,その優れた画像解析能力は種々の角膜手術の術前後の評価や緑内障の診断治療に役立つよう工夫されてきた68).再現性の高い角膜厚測定や形状解析とともに前房や隅角を捉える能力が必要とされ,そのためには混濁した角膜下の様子や結膜や強膜といった不透明な組織の奥にある隅角の所見を得るために見合った光源の波長が選択される.OCTに多く用いられる光源波長には,840nmと1,310nmという2つの帯域が存在する.多くの前眼部OCTは組織深達度の点を考慮して1,310nmを採用して混濁した角膜下の様子や隅角所見の取得を可能にしている.一方,網膜の観察を目的としたOCTでは,軸方向の解像度を優先して840nmを採用しているものが多い.網膜は前眼部の構造物と比べ薄く比較的均一で,光を通しやすいからである.筆者らが用いたOptovue社製のRTVue-100は,後眼部の計測・画像解析用に開発されたOCTであるが,CAMを装着することで前眼部OCTとして用いることができる.測定光の波長は後眼部用の840nmであり,網膜の観察にあわせた光源波長が選択されている.前眼部専用の機種ではないため,光源の特性から組織深達度が低いが逆に解像度が高いという特徴がある22).角膜の形態については詳細な描出が可能で,上皮と実質の境界がはっきりと識別できる.この特徴からRTVue-100とCAMの組み合わせは,糖尿病患者にみられる角膜病変の観察と評価に適しているといえる.筆者らが経験した糖尿病患者の硝子体手術後角膜上皮障害では,OCT画像で接着不良部の上皮の浮腫や不整の様子,上皮下に生じた広範な低信号領域が検出できた.これらは上皮分化の障害と上皮-基底膜間の接着能の低下を示唆する所見である.このような微細な所見は細隙灯顕微鏡ではときに観察や記録が困難であるが,RTVue-100とCAMの組み合わせは高精細な画像所見を簡便かつ低侵襲で取得することにきわめて有効であった.上皮修復過程を経時的に観察,記録することも容易であり,この点は病態の把握に有効で,実際の治療方針の決定にあたってきわめて有用であった.今回の3症例では上皮-基底膜間の接着が十分になるまでの保護として治療用コンタクトレンズの装用を行ったが,OCT画像でみられた上皮下低信号領域の観察はコンタクトレンズ装用継続の必要の評価基準として有用であったと考えている.前眼部OCTを用いて角膜画像所見とともに角膜厚を測定したが,いずれの症例も上皮障害時には角膜実質の浮腫による肥厚があり,上皮修復とともに改善する様子が観察された.上皮障害が遷延している糖尿病患者の角膜では,欠損部はもちろん,上皮化している部位でも,基底細胞からの分化が十分ではなくバリア機能が低下して実質浮腫が生じる.糖尿病患者の角膜内皮細胞については形態学的異常や内眼手術後のポンプ機能障害の遷延が知られており21),さらに術後遷延する前房内炎症や高眼圧がポンプ機能を妨げ角膜浮腫の一因となる.角膜上皮下に形成された低信号領域は上皮-基底膜接着の障害に加え,内皮ポンプ機能を超えて貯留した水分による間隙の可能性も考えられる.糖尿病症例においては十分に上皮-基底膜接着が完成しないことと角膜実質浮腫の遷延とが悪循環を生じて簡単に上皮が離し脱落してしまい,びらんの再発を生じやすい.前眼部OCTでは角膜形態と角膜厚の計測を非接触かつ短時間で行うことができるが,これは糖尿病症例のような脆弱な角膜の評価にきわめて有用である.今回筆者らは,糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について前眼部OCTを用いて経過観察することにより,生体内における糖尿病角膜症の形態学的特徴を捉え,従来の報告と比較することでその治癒過程について理解を深めることができた.この3例3眼の経験を今後の糖尿病症例に対する治療方針決定と角膜障害への対応の参考としたい.前眼部OCTの活用についても,引き続き検討を重ねていきたい.文献1)SchultzRO,VanHomDL,PetersMAetal:Diabeticker-atopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-199,19812)大橋裕一:糖尿病角膜症.日眼会誌101:105-110,19973)片上千加子:糖尿病角膜症.日本の眼科68:591-596,19974)細谷比左志:糖尿病角膜上皮症.あたらしい眼科23:339-344,20065)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19916)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1,310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20017)LimLS,AungHT,AungTetal:Cornealimagingwith———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009253(115)anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforlamel-larkeratoplastyprocedures.AmJOphthalmol145:81-90,20088)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Compari-sonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbio-microscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20059)SchwartzDE:Cornealsensitivityindiabetics.ArchOph-thalmol91:174-178,197410)RogellGD:Cornealhypesthesiaandretinopathyindiabe-tesmellitus.Ophthalmology87:229-233,198011)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabeticker-atopathyasamenifestationofperipheralneuropathy.AmJOphthalmol96:368-371,198312)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Decreasedpenetrationofanchoringbrilsintothediabeticstroma.Amorphometricanalysis.ArchOphthalmol107:1520-1523,198913)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Alteredepithelialbasementmembraneinteractionsindiabeticcorneas.ArchOphthalmol110:537-540,199214)KajiY,UsuiT,OshikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,200015)TsubotaK,ChibaK,ShimazakiJ:Cornealepitheliumindiabeticpatients.Cornea10:156-160,199116)HosotaniH,OhashiY,YamadaMetal:Reversalofabnormalcornealepithelialcellmorphologiccharacteris-ticsandreducedcornealsensitivityindiabeticpatientsbyaldosereductaseinhibitor,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