《原著》あたらしい眼科34(11):1601.1605,2017c両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎に併発した水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した1例嵩翔太郎門田遊田口千香子山川良治久留米大学医学部眼科学講座CClinicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyforBullousKeratopathyinaPatientwithCytomegalovirusCornealEndotheliitisShotaroDake,YuMonden,ChikakoTaguchiandRyojiYamakawaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine両眼のサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎から水疱性角膜症に至り,両眼に角膜内皮移植(DSAEK)を施行したC1例を報告する.症例はC72歳,男性.両眼白内障術後で,虹彩炎,続発緑内障のため当科を紹介受診した.両眼に白色円形の角膜後面沈着物(KP),角膜浮腫,角膜内皮細胞密度の減少を認めた.両眼眼圧コントロール不良のため両緑内障手術を施行し,そのときの左眼前房水CPCR検査にてCCMV陽性のため,両眼CCMV角膜内皮炎と診断した.ガンシクロビル(GCV)点滴を行いCKPは消失したが,その後両眼の水疱性角膜症を併発したため,両眼CDSAEKを施行した.術後CGCV点滴を行ったが中止後C4カ月で角膜内皮炎の再燃を認め,GCV点眼を行い改善したが,点眼の減量・中止に伴い再燃を繰り返し,点眼を継続している.CMV角膜内皮炎に対してCGCV点眼が有効であるが,点眼中止後の再発が問題であり,DSAEK後もCGCV点眼の継続が望ましいと考えられた.ThisreportstheclinicaloutcomeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)forbul-louskeratopathyinapatientwithcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitis.A72-year-oldmalewhohadbeenreceivingCtreatmentCforCbilateralCrecurrentCiritisCandCsecondaryCglaucomaCafterCcataractCsurgeryCpresentedCwithwhitish,Ccoin-shapedCkeraticCprecipitates(KPs)C,CcornealCedemaCandCdecreasedCendothelialCcellCdensitiesCinCbothCeyes.CUncontrolledCintraocularCpressureCinCbothCeyesCrequiredCtrabeculectomy.CPolymeraseCchainCreactionCanalysisdetectedCMV-DNAintheaqueoushumorsample(collectedfromthelefteyeduringtrabeculectomy)C,leadingtoaCdiagnosisCofCbilateralCCMVCcornealCendotheliitis.CAfterCtreatmentCwithCintravenousCganciclovir,CKPsCresolved;Chowever,thepatientdevelopedbilateralbullouskeratopathyandunderwentDSAEKinbotheyes.HewastreatedwithintravenousganciclovirafterDSAEK,butCMVendotheliitisrecurred4monthsaftercessationoftheintrave-nousCtreatment.CTreatmentCwithCtopicalCganciclovirCwasCinitiated,CandCclinicalCimprovementsCwereCnoted.CIn.ammationrepeatedlyrecurredwhentopicalganciclovirwasreducedordiscontinued,andthetopicaltreatmentwascontinued.ThiscasestudysuggeststhatcontinueduseoftopicalganciclovirafterDSAEKmaybebene.cialforpreventingrecurrenceofCMVendotheliitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(11):1601.1605,C2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,角膜内皮移植,ガンシクロビル.cytomegalovirus,cornealen-dotheliitis,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)C,ganciclovir.Cはじめに体炎や続発緑内障を合併し,治療としてガンシクロビルサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)角膜内(ganciclovir:GCV)の全身投与,局所投与が行われている.皮炎はC2006年にCKoizumiら1)によって報告されて以降,おまた,GCVの治療中止に伴い角膜内皮炎が再燃し,進行すもにアジアから多数の症例が報告されている2.8).虹彩毛様る角膜内皮細胞密度の減少に伴い水疱性角膜症に至った症例〔別刷請求先〕嵩翔太郎:〒830-0011久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShotaroDake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANもある.今回,両眼性のCCMV角膜内皮炎の経過中に水疱性角膜症に至り角膜内皮移植術(DescemetC’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty:DSAEK)を施行した症例を経験したので報告する.CI症例患者:66歳,男性.主訴:両眼の眼圧上昇.現病歴:2000年に近医で両眼白内障手術を施行され,その後,両眼虹彩炎,角膜内皮炎,続発緑内障の診断で加療されていた.両眼ともにC0.5%マレイン酸チモロール点眼,1%ドルゾラミド点眼,ブナゾシン塩酸塩点眼,0.1%デキサメタゾン点眼による加療を継続されていたが眼圧コントロール不良となり精査加療目的にC2008年に久留米大学病院眼科を紹介受診した.既往歴:2003年に胃癌に対して胃全摘出術後,高血圧症.初診時所見:視力は右眼C0.8C×IOL(1.2C×.0.25D(cyl.1.25DCAx80°),左眼0.7C×IOL(1.0C×cyl.1.00DCAx65°).眼圧:右眼C31CmmHg,左眼C27CmmHg.角膜内皮細胞密度は右眼C1,518Ccells/mmC2,左眼C1,628Ccells/mmC2.両眼ともに下方に限局した角膜上皮浮腫,および白色円形の角膜後面沈着物(keraticCprecipitates:KP)を認め,前房内炎症細胞は認めなかった(図1).両眼眼内レンズ挿入眼で,両眼の視神経乳頭は乳頭陥凹/乳頭比C0.9.1.0であった.動的量的視野検査は,湖崎分類右眼CIIIa期,左眼CIIIa期であった.経過:受診時は両眼の眼圧は高値でありC2008年C3月に右眼,4月に左眼の線維柱帯切除術を施行し眼圧は低下した.その際,術中に採取した左眼前房水のCPCR検査にて単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルスは陰性でありCMVのみ陽性であったため両眼CCMV角膜内皮炎と診断した.術後から両眼ともに前房内炎症細胞の遷延がみられたため,6月にCGCV点滴C600Cmg/日をC14日間,300Cmg/日をC7図1両眼前眼部写真(初診時)a:右眼,b:左眼.両眼ともに角膜上皮浮腫,白色円形の角膜後面沈着物を認める.Cガンシクロビル点滴(術後7日間)ガンシクロビル点眼ベタメタゾン点眼炎症所見前房水PCR(CMV-DNA)(+)(-)(-)矯正視力(1.0)(1.0)(0.7)(0.5)角膜内皮細胞密度(個/mm2)2011年図3左眼前眼部写真(DSAEK施行後4カ月)2012年左眼矯正視力(1.0).白色の角膜後面沈着物(→)を認め,一部コイン状の配列(coinlesion)を認める(○内).ガンシクロビル点眼ベタメタゾン点眼炎症所見前房水PCR(-)(-)2013年(CMV-DNA)矯正視力3,000角膜内皮2,000細胞密度(個/mm2)1,00002014年図4右眼DSEAK後の治療経過ガンシクロビル点眼の中止後に炎症所見は再燃し,現在も点眼を継続している.日間行った.徐々に前房内炎症所見の改善を認め,経過中,両眼ともに眼圧は良好であった.しかし,両眼とも角膜内皮細胞密度は低下し,左眼は水疱性角膜症となり,矯正視力も(0.06)と低下したため,2010年C6月に左眼CDSAEKを施行した.左眼CDSAEK後の経過を図2に示す.術中に採取した前房水のCPCRではCCMV-DNAは検出されなかったが,CMV角膜内皮炎の再燃予防を目的に術後C7日間CGCV点滴600mg/日を行った.その後はC1.5%レボフロキサシン点眼C4回/日,ベタメタゾン点眼C4回/日を継続していた.術後C4カ月に矯正視力は(1.0)と良好であったが色素性CKPが出現し,続いて前房内炎症細胞を認めた.まず移植後拒絶反応を疑い,ベタメタゾン点眼回数を増やしたが炎症は改善せず,3週後に白色のCKP(図3)を認め,一部はコイン状の配列(coinlesion)を呈していた.CMV角膜内皮炎の再燃を疑い,前房水を採取したのちに,自家調整C0.5%CGCV点眼を左眼C4回/日で開始した.その後,PCRの結果CCMV-DNAを検出(1.25C×104copies)したため,CMV角膜内皮炎に伴う炎症の再燃と診断した.点眼開始後は徐々にCKPおよび前房炎症の消退を認め,点眼開始C10カ月後に中止とした.しかし,点眼中止C4カ月後に再度CKPと前房内炎症細胞が出現した.採取した前房水からCMV-DNAは検出されなかったが,CMV角膜内皮炎を繰り返している経過からCCMV角膜内皮炎の再燃を疑い,GCV点眼を再開した.GCV点眼再開後にKPと前房内炎症細胞の消退を認め,その後さらにC5カ月間GCV点眼を継続し中止したが,KPが出現したため点眼を再開した.KPが消退したことを確認しCGCV点眼回数を減量してみたが,KPが増加するため,最終的にCGCV点眼C4回/日を継続し再燃なく経過している.また.経過中,眼圧上昇は認めなかったが,角膜内皮細胞密度はCDSAEK術後C2,192Ccells/mm2から術後C3年C5カ月でC448Ccells/mmC2に低下し,矯正視力も(0.7)まで低下した.その後角膜内皮細胞密度は測定不能となり角膜浮腫が出現し,矯正視力(0.5)と低下したため再度CDSAEKを検討している.右眼も水疱性角膜症となり矯正視力(0.1)と低下したため,前房水中のCCMV-DNA陰性を確認し,2011年C5月にDSAEKを施行した.右眼CDSAEK後の経過を図4に示す.手術時に採取した前房水,虹彩のCPCR検査ではCCMV-DNAは検出されず,角膜内皮からはCCMV-DNAを検出するも定量では検出限界以下であった.左眼の経過を考慮し,右眼は術後CGCV点眼をC4カ月間行い中止した.中止後C1.5カ月時点での前房水からはCCMV-DNAは検出されず,その後も炎症再燃なく経過したが,中止後C12カ月で左眼と同時期にKPが出現したため,GCV点眼を再開した.左眼がCGCV点眼の中止・減量で炎症の再燃を繰り返していることを考慮し,現在もCGCV点眼を継続している.左眼同様に角膜内皮細胞密度はCDSEAK術後C1,724Ccells/mmC2から術後3年4カ月でC466Ccells/mmC2と減少を認めているが,矯正視力は(1.2)で保たれており現在経過観察中である.CII考按CMV角膜内皮炎の診断には,角膜浮腫やコイン状に配列(coinlesion)するCKPの特徴的な所見や眼圧上昇などの経過からCCMV角膜内皮炎を疑い,診断確定には前房水CPCRによるCCMV-DNAの検出が有用である.また,治療に対する経過も参考所見となりうるとされている9,10).現在,治療は0.5%CGCV点眼(自家調整薬)の使用や点滴による全身投与,GCVをプロドラック化したバルガンシクロビル(valganci-clovir:VGCV)の内服が行われている.その際,GCVやVGCVの全身投与に関しては骨髄抑制や腎機能障害の副作用に対する注意が必要となるが,GCV点眼は副作用が少なく長期の治療継続に適していると考えられる.一方でこれらの治療中止に伴う炎症の再燃が問題とされており,いつまで加療継続するべきかについては現時点で明確な指針が立っていない.また,経過中に角膜内皮機能の低下に伴い水疱性角膜症に至る症例も少なくない.2015年にCKoizumiらによって報告されたC106眼のCCMV角膜内皮炎を対象とした多施設研究においてもC106眼中C39眼で炎症の再燃を認め,またC43眼(39.4%)は経過中に水疱性角膜症に至り,そのうちC20眼(18.3%)に対して角膜移植が施行されている10).また,本症例と同様にわが国において水疱性角膜症に対して角膜移植を施行されたCCMV角膜内皮炎の症例C3例C3眼の報告がある3.5).3例ともに全層角膜移植を施行されているが,1例は術後約半年後に炎症を認めCCMV角膜内皮炎と診断しバラガンシクロビル内服(900Cmg/日)を開始し,内服中止に伴い炎症の再燃をC2回認めている.その他のC2例は,術後にCMV角膜内皮炎と診断されGCV点眼を使用し,1例はGCV点眼を継続して再燃なく経過しているが,もうC1例は点眼中止後にCCMV角膜内皮炎の再燃を認めたため点眼を再開し,以降は点眼継続で再燃なく経過している.いずれの症例も角膜移植後にCGCV点眼,もしくはバルガンシクロビル内服を開始されているが,3例中C2例において抗CCMV治療を中止し炎症が再燃している.本症例でも,経過中に水疱性角膜症に至り両眼ともにCDSAEKを施行し,術後にCGCV全身投与や点眼加療を行ったが,抗CCMV治療の中止・減量に伴い,複数回の再燃がみられている.うち一度はCGCV点眼を中断していた時期の両眼同時の再燃であった.CMV角膜内皮炎に伴う水疱性角膜症のため角膜移植術を施行した症例でも,GCV点眼など抗CCMV治療は継続の必要があると考えられた.今回の症例において,左眼CDSAEK後にはじめて炎症再燃を認めた際の前房水CPCR検査ではCCMV-DNA陽性であったが,以降の炎症再燃時に施行した検査ではCCMV-DNAは検出されていない.この点からは移植後の拒絶反応も否定はできないが,ステロイド点眼への反応は乏しい一方でGCV点眼にて比較的速やかにCKPなどの炎症所見の改善を認め,加えてその経過に再現性があることからもCCMV内皮炎の再燃と考えた.現時点でCCMVの角膜内皮細胞への感染経路は解明されていないが,単純ヘルペスウイルス同様に骨髄前駆細胞やマクロファージなど全身に潜伏感染したCCMVが前房に特異な免疫環境である前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedCimmuneCdeviation:ACAID)を背景として角膜内皮細胞に感染すると考えられている9,11).一方でGCVに関してはCCMVのCDNA合成を阻害することで作用するが,ウイルス遺伝子を発現していない潜伏感染中のCMVに対しては効果を示さない.これらの点から,角膜移植後もCCMV角膜内皮炎の再燃を予防するためには,何らかの経路で潜伏状態から再活性化して移植角膜内皮細胞に再感染しようとするCCMVを標的として永続的に予防し続けなければならない可能性もある.本症例の経過からも,前房水中のCCMV-DNAの陰性化は治療中止の基準にならない可能性もあり,予防的治療を継続することが望ましいと考えられた.CMV角膜内皮炎は経過中に水疱性角膜症をきたす可能性があり,本症例と同様に角膜移植が必要となる症例は少なからず存在する.虹彩毛様体炎,続発緑内障を合併した原因不明の角膜内皮炎を認めた際にはCCMVの関与も念頭に置いて,早期に精査・加療を行い,角膜内皮機能を維持することが重要である.以上よりCCMV角膜内皮炎によって水疱性角膜症に至った際には適切な時期に角膜移植を行い,移植後のステロイド点眼によりCCMVが再活性化しやすくなる可能性を考慮し,長期にわたりCGCV点眼を継続することが望ましいと考えられた.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmolC141:564-565,C20062)CheeCSP,CBacsalCK,CJapCACetCal:CornealCendotheliitisCassociatedCwithCevidenceCofCcytomegalovirusCinfection.COphthalmologyC114:798-803,C20073)細谷友雅,神野早苗,吉田史子ほか:両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎のC1例.あたらしい眼科C26:105-108,C20094)唐下千寿,矢倉慶子,郭權慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,C20105)三瀬一之,木村章,大浦福市ほか:ぶどう膜炎による続発性緑内障に認められたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の一例.眼臨紀C3:598-601,C20106)猪俣武範,武田淳史,本田理峰ほか:ガンシクロビル点滴と点眼が奏効したサイトメガロウイルス角膜内皮炎のC1例.臨眼C65:875-879,C20117)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎のC2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,C20128)KoizumiCN,CSuzukiCT,CUenoCTCetCal:CytomegalovirusCasCanCetiologicCfactorCinCendotheliitis.COphthalmologyC115:C292-297,C20089)小泉範子:サイトメガロウイルス角膜内皮炎.あたらしい眼科C28:1439-1440,C201110)KoizumiCN,CInatomiCT,CSuzukiCTCetCal:ClinicalCfeaturesCandCmanagementCofCcytomegalovirusCcornealCendotheli-itis:analysisCofC106CcasesCfromCtheCJapanCcornealCendo-theliitisstudy.BrJOphthalmolC99:54-58,C201511)ZhengX,YamaguchiM,GotoTetal:Experimentalcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisSciC41:C377-385,C2000***