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白内障手術により両眼のDescemet膜剝離を発症し,片眼に角膜内皮移植を要した1例

2025年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(3):368.372,2025c白内障手術により両眼のDescemet膜.離を発症し,片眼に角膜内皮移植を要した1例生駒輝髙橋理恵原田一宏内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofBilateralDescemetMembraneDetachmentfollowingCataractSurgeryTreatedwithDescemetStrippingEndothelialKeratoplastyinOneEyeHikaruIkoma,RieTakahashi,KazuhiroHaradaandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:白内障手術により両眼に広範なCDescemet膜(DM).離を発症し,前房内空気注入・SF6ガス注入を試みたが,片眼はCDMが接着せず,角膜内皮移植術(DSAEK)により視力の改善を認めたC1例を経験したので報告する.症例:74歳,女性.前医にて右眼白内障手術を施行され,術翌日に広範なCDM.離を発症し紹介受診した.前房内に空気を注入したが,DMは接着・復位しなかった.SF6ガスを注入したが,DMの再.離を認めたため,DSAEKを施行し,右眼角膜の透明性が得られた.その後,左眼白内障手術を施行したところ,右眼同様にCDM.離が出現した.前房内空気注入で復位しなかったため,前房内CSF6ガス注入を行い左眼CDMは復位した.両眼とも(1.0)となった.結論:白内障術後に両眼のCDM.離を生じるケースがあり,その発症に注意するとともに,治療には前房内CSF6ガス注入とCDSAEKも考慮すべきと考えられた.CPurpose:ToreportacaseofextensivebilateralDescemet’smembrane(DM)detachmentduetocataractsur-geryCinCwhichCairCinjectionCandCSF6CgasCinjectionCintoCtheCanteriorCchamberCwasCperformedCbutCtheCDMCdidCnotCadhereCinConeCeye,CsoCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)wasCultimatelyCrequiredCtoimprovevision.Case:Thisstudyinvolveda74-year-oldfemalereferredtoourhospitalfromalocalclinicwithextensiveCDMCdetachmentC1CdayCafterCundergoingCcataractCsurgeryCinCherCrightCeye.CAirCwasCinjectedCintoCtheCanteriorchamber,yettheDMdidnotadhereorreattach,sointracameralSF6Cgaswastheninjected.However,DMredetachmentwasobserved,soDSAEKwasperformedandthecorneabecametransparent.Cataractsurgerywasthenperformedonherlefteye,andDMdetachmentoccurredinthesamemannerasinherrighteye.Asitdidnotrelocatepostairinjectionintotheanteriorchamber,intracameralSF6CgasinjectionwasperformedandtheDMreattached.Postsurgery,visualacuityinbotheyeswas(1.0).Conclusion:IncasesinwhichbilateralDMdetach-mentoccurspostcataractsurgery,anditisvitaltopaycloseattentionandconsiderintracameralSF6CgasinjectionandDSAEKastreatments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(3):368.372,C2025〕Keywords:白内障手術,Descemet膜.離,角膜内皮移植,前房内気体注入.cataractsurgery,Descemetmem-branedetachment,Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,intracameralgasinjection.Cはじめに白内障手術における合併症の一つにCDescemet膜(Des-cemetmembrane:DM).離があるが,多くは強角膜切開創または角膜切開創部の限局的なものであり,視機能に影響しないことがほとんどである.しかし,.離が広範囲なものは未治療で経過した場合,角膜内皮障害のため角膜浮腫や水疱性角膜症をきたし,重篤な視力障害を引き起こす原因となりうる1).DM.離が限局的な場合は自然治癒が望めるが,広範囲であれば前房内への空気注入やCSF6(六フッ化硫黄)ガス,C3F8(八フッ化プロパン)ガス注入が行われることが〔別刷請求先〕生駒輝:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HikaruIkoma,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1Nanakuma,Johnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC368(104)多い1.3).今回,両眼白内障術後に上方半分にわたる広範囲なCDM.離を発症し,前房内空気注入およびCSFC6ガス注入を行い,左眼はCDMが接着したものの,右眼はCDMが接着せず角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)を行い視力の改善を認めたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:2型糖尿病,高血圧症,潰瘍性大腸炎,リウマチ性多発筋痛症,気管支喘息,椎間板ヘルニア.家族歴:特記事項なし.現病歴:20XX年C10月,前医にて右眼白内障手術を施行した.術中,角膜内皮が上半分ほど.離しているのに気づいたが,DM.離を残したまま手術を終了した.翌日,細隙灯顕微鏡検査で水疱性角膜症を認めたが,角膜浮腫のためにDMの詳細が不明であった.このため,同日,患者は筆者らの施設(福岡大学附属病院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.02(矯正不能),左眼C0.5(0.9C×sph+0.25D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼17mmHg,左眼C15CmmHg.右眼角膜はびまん性の浮腫と角膜内皮側にDM皺襞を認め,上方の内皮側に線状構造が部分的にみられた(図1a).中央から下方にかけて明らかな二重前房は認められず,前房に浮遊している構造物もなく,角膜内皮の所在は不明だった.前房は形成され,眼内レンズは水晶体.内にあることが確認できた(図1b).眼底は角膜浮腫により透見不能であった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査では,角膜上方半分にCDMと思われる膜の.離を認め,連続性が確認できた.右眼CDM.離と診断した.スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は右測定不能,左眼C2,892個/mmC2であった.経過:初診時の前眼部COCT検査で広範なCDM.離を認めたため,同日に前房内空気注入を施行した.また,術後点眼としてレボフロキサシンC4回/日,フルオロメトロンC4回/日を開始した.第C1病日,前眼部COCT検査にて空気が接触している上方角膜はCDMの接着が確認できたが,下方は再度DM.離を認めたため,同日前房内にC30%CSFC6ガス注入を施行した.第C5病日,前房内のCSFC6ガスがC1/2に減少した時点でCDM.離が再発し,細隙灯顕微鏡検査では角膜中央部にCDMの欠損を認めた(図2).前房内気体タンポナーデによるCDMの整復はむずかしいと考え,第C28病日に右眼DSAEKと前房内空気注入を施行した(図3).術中,ホストのCDMと思われる構造物を眼外に除去し,角膜移植片を前房内に挿入し,位置を確認し最後に前房内に空気を注入して手術終了とした.術後,ドナー角膜の接着は良好であり,前房中の空気が消失してもドナー角膜の.離を認めなかったため,第C36病日で退院となった.退院後は徐々に右眼角膜の透明性が得られ,術後C1カ月で右眼視力(0.5)まで改善した.右眼術後C3カ月時の診察で,右眼虹彩と眼内レンズの後癒着を認め,膨隆虹彩と診断した.高眼圧のため緑内障点眼薬を使用し,ダイアモックス内服,マンニトール点滴を行ったが右眼高眼圧が持続したため,20XX+1年C4月に右眼瞳孔形成術・周辺虹彩切除術を施行した.その後,右眼眼圧は正常化した.また,右眼視力も術後C1年で(1.0)まで改善し,DMの再.離は認めていない.一方,外来経過中に左眼も白内障進行を認め視力が(0.6)まで低下し,本人の強い希望により,20XX+1年6月に左眼の水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した.術中,眼内レンズ挿入後に粘弾性物質を灌流液で洗浄をしている最中に,上方の強角膜創部からCDM.離が出現した(図4).その際は上方のみの.離だった.これ以上.離が広がらないように,白内障手術の最後に,前房内空気注入を施行し,手術を終了した.しかし術後,前房内の空気が減少するとともにCDM.離の再発を認めた..離の範囲は上方半分と広範囲であっため,術後C7日目に前房内にCSFC6ガス注入を施行した.SFC6ガスが減少してもCDM.離の再発なく経過した.その後,左眼は徐々に角膜の透明性が増し,術後C1カ月の時点で左眼視力(1.0)となり,それ以降両眼ともDMの再.離はみられていない(図5).CII考按小切開化が進んだ現在の白内障手術において,切開創やサイドポート部にできる小さい範囲のCDM.離は時にみられる合併症であるが,何かしらの処置が必要になる広範囲なDM.離はまれであり,その頻度はC0.028.0.044%と報告されている4,5).限局性のCDM.離の原因は,切れないメスの使用,器具の出し入れ方向の誤り,粘弾性物質や灌流液の誤注入など術者の手技の問題で発生することが多いといわれている.一方,広範囲に生じるCDM.離の原因としては,糖尿病の既往,梅毒による角膜白斑,角膜ジストロフィ,先天緑内障,外傷などによる角膜実質とCDM間の接着異常が考えられている4).本症例は,右眼は前医での手術となるため詳細が不明であるが,左眼の手術動画を確認しても手術手技には問題ないと思われた.また,左眼は術中最後に入れた空気が抜けた後のDM.離範囲を確認すると,術中に.がれていた範囲を超えてCDM.離が広がっていた.両眼とも上方半分にわたり広範囲にCDM.離を発症したため,手術の手技による合併症よりも,角膜の何らかの器質的脆弱性が原因ではないかと考えられた.DMと角膜実質との接着は,角膜実質からCDMに向か図1初診時の右眼前眼部写真(a)とOCT画像(b)a:角膜全体に高度な浮腫を呈し,上方にCDescemet膜(Descemetmembrane:DM).離を認める().b:上方から中央にかけてCDM.離を認める.図2SF6ガス注入後5日の右眼前眼部写真とOCT画像a:前房内のCSFC6ガスがC1/2まで減少しているが,角膜浮腫がみられる.角膜内皮の欠損部位に一致したCDMがみられる(点線範囲内).b:翻転し.離しているCDMを認める().って角膜実質線維が貫通することでなされているが6),DM.離をきたした症例のC71.4%に糖尿病を認めた過去の報告から,DM.離が起こりやすい素因の一つに糖尿病の可能性があげられている7).本症例も既往に糖尿病があるため,糖尿病がCDMと角膜実質間の接着に影響した可能性が考えられた.糖尿病の既往がある患者に対して内眼手術を行う際は,予期せぬ広範囲なCDM.離をきたす可能性があることを念頭に置く必要がある.治療方法はCDM.離の範囲で対応が異なる.MackoolとHoltzはCDMの.離がC1Cmm以内かどうか,平面型か非平面型かに分類して予後をみたとき,1Cmm以内の平面型の.離は自然治癒し予後がもっともよいと報告している8).Assiaらは,1Cmmを超えても平面型の.離は自然治癒する可能性を指摘している9).しかし,自然治癒までに数週間.数カ月かかり,Marconらは平均C9.8週要したとしている10).自然治癒は視力回復まで時間がかかるため,近年は早期治療が提唱されている.広範囲のCDM.離に対しては,空気やCSFC6ガス,CC3F8ガスの前房内気体注入が一般的である2,3,5).前房内気体注入は比較的簡便に行える手技であるが,気体による角膜内皮障害や,多くの症例で眼圧上昇をきたすことが報告されており,注入後の管理が重要である.本症例も空気,CSF6ガスによって高眼圧になり,点眼,点滴などによる眼圧図3DSAEK後の右眼前眼部写真SF6ガスがC1/2以下まで減少してもCDM.離は認めない.図4左眼白内障手術中写真前房洗浄中にCDM.離を認めた().図5白内障術後の左眼前眼部写真とOCT画像a:白内障術後C7日目.角膜浮腫とCDM皺襞がみられ,前房内に空気が残存している.Cb:白内障術後C7日目.OCTではCDM再.離を認める.Cc:SFC6ガス注入後C13日目.ガスが消失してもCDM.離はなく,角膜の透明性が維持されている.d:SF6ガス注入後C13日目.OCTでCDM.離は認められなかった.コントロールが必要であった.膜実質を縫いつける方法であるが,.離したCDMを平面に気体注入を複数回行ってもCDMが整復できない場合は,広げて縫合するため,DMが途中でちぎれたり,丸まったりDM縫着術,角膜移植術による治療法がある3,11).DM縫着すると縫合が困難であり,高度な手技が必要となる1).本症術は縫合糸を前房内から角膜実質に通して自己のCDMと角例の右眼は再々.離をきたした際に,DM角膜内皮の所在が不明となったため,角膜移植が必要と判断した.角膜移植に関しては,現在は角膜パーツ移植が発展してきており,病状に合わせた部位の角膜移植を行うことで,拒絶反応などの合併症を抑えることが可能となっている.Jainらは,DM.離を認めたC60症例に対して空気またはCCC3F8を前房内に注入しC95%は治療できたと報告している一方,5%は気体注入ではCDMの復位が困難であり,追加治療として角膜内皮移植術を施行したと報告した3).本症例も角膜内皮のみが欠損していることから,DSAEKを選択した.手術は通常のDSAEKと同じ方法で行い,最後に空気を前房内に注入して終了した.その結果,ドナー角膜内皮はホストの角膜実質と接合し,角膜機能の回復が得られ,角膜の透明性を維持することができた.数回気体注入を行っても整復されないCDM.離は,角膜の機能と視力を早期に回復させるためにも,DSAEKが有効であると考える.文献1)佐々木洋:デスメ膜.離.臨眼58:28-33,C20042)魚谷竜,井上幸次:白内障手術に伴う広汎なCDescemet膜.離を両眼に生じCSFC6ガス前房内注入を要したC1例.あたらしい眼科30:699-702,C20133)JainR,MurthySI,BasuSetal:Anatomicandvisualout-comesCofCdescemetopexyCinCpost-cataractCsurgeryCDes-cemet’sCmembraneCdetachment.COphthalmologyC120:C1366-1372,C20134)山口大輔,西村栄一,早田光孝:治療を要した小切開水晶体乳化吸引術後のデスメ膜.離.臨眼C71:1723-1729,C20175)TiCSE,CCheeCSP,CTanCDTHCetal:DescemetCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationsurgery:riskCfac-torsCandCsuccessCofCairCbubbleCtamponade.CCorneaC32:C454-459,C20136)永瀬聡子,松本年弘,吉川真理ほか:手術操作に問題のない超音波白内障手術中に生じたCDescemet膜.離.臨眼C62:691-695,C20087)KansalCS,CSugarJ:ConsecutiveCDescemetCmembraneCdetachmentCafterCsuccessiveCphacoemulsi.cation.CCorneaC20:670-671,C20018)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-63,C19779)AssiaCEI,CLevkovich-VerbinCH,CBlumenthalM:Manage-mentCofCDescemet’sCmembraneCdetachment.CJCCataractCRefractSurgC21:714-717,C199510)MarconCAS,CRapuanoCCJ,CJonesCM-RCetal:DescemetC’sCmembraneCdetachmentCafterCcataractsurgery:manageC-mentandoutcome.OphthalmologyC109:2325-2330,C200211)DasCM,CShaikCMB,CRadhakrishnanCNCetal:DescemetCmembraneCsuturingCforClargeCDescemetCmembraneCdetachmentCafterCcataractCsurgery.CCorneaC39:52-55,C2020C***

拒絶反応既往眼に対する複数回の角膜移植術後に良好な術後経過を得た1例

2020年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(11):1435.1438,2020c拒絶反応既往眼に対する複数回の角膜移植術後に良好な術後経過を得た1例川崎麻矢*1脇舛耕一*1北澤耕司*2粥川佳菜絵*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2木下茂*1,2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学眼科学教室CSuccessfulDSAEKPostRepeatKeratoplastySurgeryforCornealGraftRejectionMayaKawsaki1),KoichiWakimasu1),KojiKitazawa2),KanaeKayukawa2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,2)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC緒言:複数回の角膜移植術後では拒絶反応のリスクが高まるとされている.今回,筆者らは拒絶反応既往眼に対するC6回目の角膜移植で良好な経過を得たC1例を経験したので,その臨床経過を報告する.症例:48歳,女性.他院にて左眼角膜ヘルペス後の角膜混濁に対しC3回の角膜移植を受けたが,いずれも拒絶反応を生じ水疱性角膜症となった.バプテスト眼科クリニックにてC2010年C12月C17日に全層角膜移植術および白内障手術,2012年C8月C9日にデスメ膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)を施行したが,いずれも約C2カ月とC4カ月で拒絶反応を認め水疱性角膜症となった.2014年C12月C19日にCDSAEKを施行し,術後は,リン酸ベタメタゾン点眼およびシクロスポリンC500Cmg,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)1,000Cmg,プレドニゾロンC10Cmg内服を行い,漸減した.現在もリン酸ベタメタゾン点眼およびCMMF500Cmg内服は継続している.最終観察時の術後C5年の角膜内皮細胞密度はC2,018Ccells/mmC2,矯正視力(小数換算)はC0.4で,角膜は透明であり,眼圧コントロールは良好,術後合併症は認めていない.結論:複数回の角膜移植後拒絶反応を生じていても,角膜再移植により術後に良好な視機能改善が得られる可能性が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCanCexcellentCpostoperativeCoutcomeCinCaCpatientCwhoCunderwentCDescemet’sCstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)after5repeatkeratoplastysurgeriesforcornealgraftfail-urecausedbycornealendothelialrejection.Casereport:A48-year-oldfemalepresentedwithahistoryofunder-going5repeatkeratoplastysurgeriesduetopostoperativerejectionofthetransplantedcornealgraft.InDecember2014,CDSAEKCwasCperformed,CwithCaCpostoperativeCtreatmentCofCtopicallyCadministeredCbetamethasoneCsodiumCphosphateeyedropsandagraduallytaperedoraladministrationofcyclosporine,mycophenolatemofetil,andpred-nisolone.CPostCsurgery,CtheCpatient’sC.nalCspectacle-correctedCvisualCacuityCwasC20/50CandCherCcornealCendothelialCcellCdensityCwasC2,018Ccells/mm2,CandCnoCgraftCrejectionCorCocularCcomplicationsChaveCoccurred.CConclusion:Our.ndingsrevealthatDSAEKcanbesuccessfullyperformedwithagoodsurgicaloutcomeinpatientswhohavepre-viouslyundergonerepeatkeratoplastyforrejectionofthetransplantedcornealgrafts.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(11):1435.1438,C2020〕Keywords:角膜全層移植,角膜内皮移植,拒絶反応,再移植.penetratingkeratoplasty,Descemetstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,rejection,regraft.Cはじめにされた疾患であるとされている1).ただし,角膜再移植では角膜移植片機能不全は角膜移植の適応の一つであり,2018拒絶反応の出現頻度が高くなり,初回手術に比べて移植片生年のCEyeCBankCAssociationCofAmericaの報告では,Fuchs存率が低くなると考えられている.とくに術前に拒絶反応の角膜内皮ジストロフィに続いてC2番目に多く角膜移植が施行既往があると予後不良であると報告されている2,3).しかし,〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyou-ku,Kyoto606-8287,CJAPANC近年では手術技術の向上から移植片機能不全に対して全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)だけでなく,合併症がより少ないとされるデスメ膜.離角膜内皮移植術(Des-cemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)やデスメ膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)などの角膜内皮移植も選択肢の一つとなり,施行される機会も増加してきた4,5).今回,筆者らは,このような背景のなかで,角膜移植後に拒絶反応を生じた角膜移植片機能不全眼に対してC6回の角膜移植を繰り返し,6回目の角膜移植が長期にわたり角膜透明性を維持し,かつ高い角膜内皮細胞密度を維持し,良好な視機能改善を得た症例を経験したので,その臨床経過を報告する.I症例患者:48歳,女性.現病歴:片眼性の角膜ヘルペス(左眼)後の角膜混濁に対して,他院にてC2003年に表層角膜移植術,そしてC2004年,2009年にCPKPが施行されたが,いずれも手術後約C8カ月と5カ月で内皮型拒絶反応を発症し,水疱性角膜症に陥り,2010年C10月にバプテスト眼科クリニック(以下,当院)に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.9(1.5C×cyl.0.75DCAx90°),左眼C0.01(矯正不能)で,眼圧は右眼15mmHg,左眼11mmHgであった.細隙灯顕微鏡所見では右眼には特記すべき異常を認めず,左眼にはCPKP後の移植片機能不全による水疱性角図1術前および術後の前眼部所見a:2010年C10月,3回の角膜移植により移植片機能不全に陥ったCPKP術前の前眼部写真.Cb:2010年C10月,PKPおよび白内障手術後の前眼部写真.Cc:2012年C8月,術前の前眼部写真.Cd:2012年C8月,DSAEK術後の前眼部写真.Ce:2014年C12月,5回の角膜移植により移植片混濁に陥ったCDSAEK術前の前眼部写真.Cf:2014年C12月,DSAEK術後の前眼部写真.手術術後1カ月3カ月6カ月1年2年3年4年当日1週間図2術後投薬表ab図3術後5年の角膜所見a:前眼部写真.角膜は透明である.Cb:前眼部COCT.PASを認めない.Cc:スペキュラーマイクロスコープ像.高密度ソル・メドロール125mg静注リンデロン4mg静注リンデロン錠プレドニン錠ネオーラルカプセルセルセプトカプセルリンデロン点眼液ガチフロ点眼液ベストロン点眼液ゾビラックス眼軟膏10mg5mg100mg1,000mg4回/日1回/日5mg隔日100mg隔日50mg3日に1回500mg4回/日5mg3日に1回500mg隔日3回/日2回/日の角膜内皮細胞を認める.膜症を認めたが,周辺部虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)や続発緑内障などの合併症は認めなかった(図1a).経過:2010年C12月に当院にてCPKPおよび白内障同時手術を施行したが約C2カ月後に拒絶反応を生じたため,2012年C8月にCDSAEKを施行,術後約C4カ月で拒絶反応により移植片機能不全となった(図1b~d).この間,眼圧は正常範囲であった.その後,2014年C12月に再度CDSAEKを施行した(図1e,f).周術期および術後の全身投薬には副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬を併用した.副腎皮質ステロイドは,術当日にはメチルプレドニゾロン(ソル・メドロール)125Cmg,術翌日よりC2日間はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)4Cmg静脈内注射を行った.術後C3日目からは内服に切り替え,リンデロンC1CmgをC5日間,術後C8日目の退院時からはプレドニゾロン(プレドニン)10mgへ変更した.免疫抑制薬は,術当日よりシクロスポリン(ネオーラル)100Cmg内服を開始し,術後C6日目からはミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)1,000Cmgも併用した.局所投薬は術翌日よりリンデロン点眼およびガチフロキサシン(ガチフロ)点眼をC1日C4回で開始した.退院後は,図2のように投薬量の漸減を行った.現在もセルセプトの内服と局所投薬は継続している.最終観察時の術後C5年経過時点で移植片は透明で拒絶反応を認めず,角膜内皮細胞密度C2,018Ccells/mm2,矯正視力(小数換算)0.4を保っている.眼圧コントロールも良好であり,続発緑内障やCPASなどの術後眼合併症さらには全身合併症も認めていない(図3).CII考按従来,PKP後の移植片機能不全に対してはCPKPによる再移植が主流であった.しかし,繰り返すCPKPの予後は不良であるとの報告が多く2,3),移植片機能不全を繰り返す症例には人工角膜を用いた角膜移植が行われる場合もある.一方で,北澤らは複数回のCPKP施行眼の術後C5年の角膜透明維持率は約C64%であり,適切な手術と適切な免疫抑制により初回CPKPとほぼ同等の角膜透明性を維持できる可能性があると報告している6).また,最近はCPKPと比較して手術後の続発緑内障や感染症,拒絶反応などの合併症の発症率が低いといわれているCDSAEKをCPKP後の移植片機能不全例に対して行うことも増加してきている.PKP後の再CPKP群とDSAEK群のC3年生存率は,それぞれ,KitzmannらはC57.9%とC68.6%4),AngらはC66.8%とC86.4%5)と報告しており,後者のほうがより良好な傾向にあると考えられている.このため,本症例では拒絶反応や前述の合併症のリスクを減らすために,最終移植となるC6回目の手術時にはCDSAEKを選択した.角膜移植後の拒絶反応の危険因子としては拒絶反応の既往,緑内障,感染症,ステロイドレスポンダー,若年者などがあげられる7).DSAEKの拒絶反応発症率はC5年間でC5.0C±2.1%と報告されているが8),Mitryらは移植片機能不全に陥ったCPKPに対するCDSAEKではC16.7%に拒絶反応が発症したと報告している9).本症例はこれまでに拒絶反応を複数回発症しておりハイリスクと考え,術後は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の全身投与を用いての管理を行った.とくに,手術直後には自然免疫応答を抑制するためにメチルプレドニゾロンの全身投与を行った.副腎皮質ステロイドはCT細胞およびCB細胞の双方を抑制することができるが,易感染性,糖尿病,消化性潰瘍,骨粗鬆症など全身的な副作用も多く,長期投与にはリスクが高く注意を要する.そこで今回は副腎皮質ステロイドだけでなく,腎移植後と同様のネオーラルとセルセプトのC2種類の免疫抑制薬を併用した.一般的な急性拒絶反応は細胞性免疫の関与により生じCT細胞が主体となり引き起こされるため,T細胞を特異的に抑制するネオーラルが効果的であると考えられる.しかし,慢性拒絶反応では抗CHLA抗体などの関与も考えられており,その場合はCB細胞や形質細胞が主体となるため,ネオーラルのみでは免疫抑制が不十分な可能性が考えられる.そこで今回はC2012年のCDSAEK術直後には投与していなかったセルセプトの内服の併用も行った.このことが長期にわたった良好な角膜内皮細胞密度の維持に寄与した因子の一つであると推測された.また,本症例では初回移植手術時から最終移植手術時までにC10年以上経過している.一般に加齢とともに免疫能が低下することが知られており,羽室らはマウスにおいて,ヘルパーCT細胞におけるCTh1/Th2バランスは加齢によりCTh2に傾斜すると報告しており10),ヒトにおいても細胞性免疫を引き起こすキラーCT細胞を誘導するCTh1が減少することで良好な術後経過が得られた可能性がある.本症例では初診時から現在に至るまでに続発緑内障やPAS,感染症などの合併症を認めていない.今回の症例は,角膜移植後拒絶反応を繰り返した移植片内皮機能不全例であっても,その他の合併症,とくに続発緑内障を生じていなければ,角膜再移植によって良好な視機能改善が得られる可能性があること,そしてその際の術式の選択としては角膜内皮移植が有用であることを示唆している.文献1)EyeBankAssociationofAmerica:Statisticalreportanal-ysis.C2018CeyeCbankingCstatisticalCreport,C10,CEyeCBankCAssociacionofAmerica,WashingtonD.C.,20192)Al-MezaineCH,CWagonerM:RepeatCpenetratingCkerato-plasty:Indications,graftsurvival,andvisualoutcome.BrJOphthalmolC90:324-327,C20063)OnoCT,CIshiyamaCS,CHayashideraCTCetal:Twelve-yearCfollow-upCofCpenetratingCkeratoplasty.CJpnCJCOphthalmolC61:131-136,C20174)KitzmannA,WandlingG,SutphinJetal:ComparisonofoutcomesCofCpenetratingCkeratoplastyCversusCDescemet’sCstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforpenetrat-ingCkeratoplastyCgraftCfailureCdueCtoCcornealCedema.CIntCOphthalmolC32:15-23,C20125)AngCM,CHoCH,CWongCCCetal:EndothelialCkeratoplastyCafterCfailedpenetratingCkeratoplasty:AnCalternativeCtoCrepeatCpenetratingCkeratoplasty.CAmCJCOphthalmolC158:C1221-1227,C20146)KitazawaK,WakimasuK,KayukawaKetal:Moderatelylong-termCsafetyCandCe.cacyCofCrepeatCpenetratingCkera-toplasty.CorneaC37:1255-1259,C20187)PriceCM,CJordanCC,CMooreCGCetal:GraftCrejectionCepi-sodesCafterCDescemetCstrippingCwithCendothelialCkerato-plasty:Parttwo:TheCstatisticalCanalysisCofCprobabilityCandriskfactors.BrJOphthalmolC93:391-395,C20098)AngCM,CSohCY,CHtoonCHCetal:Five-yearCgraftCsurvivalCcomparingDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplastyCandCpenetratingCkeratoplasty.COphthalmologyC123:1646-1652,C20169)MitryCD,CBhogalCM,CPatelCACetal:DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCafterCfailedCpenetrat-ingCkeratoplasty:Survival,CrejectionCrisk,CandCvisualCout-come.JAMAOphthalmolC132:742-749,C201410)羽室淳爾:免疫とアンチエイジング眼科学.あたらしい眼科23:1283-1289,C2006***

両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎に併発した水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1601.1605,2017c両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎に併発した水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した1例嵩翔太郎門田遊田口千香子山川良治久留米大学医学部眼科学講座CClinicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyforBullousKeratopathyinaPatientwithCytomegalovirusCornealEndotheliitisShotaroDake,YuMonden,ChikakoTaguchiandRyojiYamakawaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine両眼のサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎から水疱性角膜症に至り,両眼に角膜内皮移植(DSAEK)を施行したC1例を報告する.症例はC72歳,男性.両眼白内障術後で,虹彩炎,続発緑内障のため当科を紹介受診した.両眼に白色円形の角膜後面沈着物(KP),角膜浮腫,角膜内皮細胞密度の減少を認めた.両眼眼圧コントロール不良のため両緑内障手術を施行し,そのときの左眼前房水CPCR検査にてCCMV陽性のため,両眼CCMV角膜内皮炎と診断した.ガンシクロビル(GCV)点滴を行いCKPは消失したが,その後両眼の水疱性角膜症を併発したため,両眼CDSAEKを施行した.術後CGCV点滴を行ったが中止後C4カ月で角膜内皮炎の再燃を認め,GCV点眼を行い改善したが,点眼の減量・中止に伴い再燃を繰り返し,点眼を継続している.CMV角膜内皮炎に対してCGCV点眼が有効であるが,点眼中止後の再発が問題であり,DSAEK後もCGCV点眼の継続が望ましいと考えられた.ThisreportstheclinicaloutcomeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)forbul-louskeratopathyinapatientwithcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitis.A72-year-oldmalewhohadbeenreceivingCtreatmentCforCbilateralCrecurrentCiritisCandCsecondaryCglaucomaCafterCcataractCsurgeryCpresentedCwithwhitish,Ccoin-shapedCkeraticCprecipitates(KPs)C,CcornealCedemaCandCdecreasedCendothelialCcellCdensitiesCinCbothCeyes.CUncontrolledCintraocularCpressureCinCbothCeyesCrequiredCtrabeculectomy.CPolymeraseCchainCreactionCanalysisdetectedCMV-DNAintheaqueoushumorsample(collectedfromthelefteyeduringtrabeculectomy)C,leadingtoaCdiagnosisCofCbilateralCCMVCcornealCendotheliitis.CAfterCtreatmentCwithCintravenousCganciclovir,CKPsCresolved;Chowever,thepatientdevelopedbilateralbullouskeratopathyandunderwentDSAEKinbotheyes.HewastreatedwithintravenousganciclovirafterDSAEK,butCMVendotheliitisrecurred4monthsaftercessationoftheintrave-nousCtreatment.CTreatmentCwithCtopicalCganciclovirCwasCinitiated,CandCclinicalCimprovementsCwereCnoted.CIn.ammationrepeatedlyrecurredwhentopicalganciclovirwasreducedordiscontinued,andthetopicaltreatmentwascontinued.ThiscasestudysuggeststhatcontinueduseoftopicalganciclovirafterDSAEKmaybebene.cialforpreventingrecurrenceofCMVendotheliitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(11):1601.1605,C2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,角膜内皮移植,ガンシクロビル.cytomegalovirus,cornealen-dotheliitis,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)C,ganciclovir.Cはじめに体炎や続発緑内障を合併し,治療としてガンシクロビルサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)角膜内(ganciclovir:GCV)の全身投与,局所投与が行われている.皮炎はC2006年にCKoizumiら1)によって報告されて以降,おまた,GCVの治療中止に伴い角膜内皮炎が再燃し,進行すもにアジアから多数の症例が報告されている2.8).虹彩毛様る角膜内皮細胞密度の減少に伴い水疱性角膜症に至った症例〔別刷請求先〕嵩翔太郎:〒830-0011久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShotaroDake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANもある.今回,両眼性のCCMV角膜内皮炎の経過中に水疱性角膜症に至り角膜内皮移植術(DescemetC’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty:DSAEK)を施行した症例を経験したので報告する.CI症例患者:66歳,男性.主訴:両眼の眼圧上昇.現病歴:2000年に近医で両眼白内障手術を施行され,その後,両眼虹彩炎,角膜内皮炎,続発緑内障の診断で加療されていた.両眼ともにC0.5%マレイン酸チモロール点眼,1%ドルゾラミド点眼,ブナゾシン塩酸塩点眼,0.1%デキサメタゾン点眼による加療を継続されていたが眼圧コントロール不良となり精査加療目的にC2008年に久留米大学病院眼科を紹介受診した.既往歴:2003年に胃癌に対して胃全摘出術後,高血圧症.初診時所見:視力は右眼C0.8C×IOL(1.2C×.0.25D(cyl.1.25DCAx80°),左眼0.7C×IOL(1.0C×cyl.1.00DCAx65°).眼圧:右眼C31CmmHg,左眼C27CmmHg.角膜内皮細胞密度は右眼C1,518Ccells/mmC2,左眼C1,628Ccells/mmC2.両眼ともに下方に限局した角膜上皮浮腫,および白色円形の角膜後面沈着物(keraticCprecipitates:KP)を認め,前房内炎症細胞は認めなかった(図1).両眼眼内レンズ挿入眼で,両眼の視神経乳頭は乳頭陥凹/乳頭比C0.9.1.0であった.動的量的視野検査は,湖崎分類右眼CIIIa期,左眼CIIIa期であった.経過:受診時は両眼の眼圧は高値でありC2008年C3月に右眼,4月に左眼の線維柱帯切除術を施行し眼圧は低下した.その際,術中に採取した左眼前房水のCPCR検査にて単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルスは陰性でありCMVのみ陽性であったため両眼CCMV角膜内皮炎と診断した.術後から両眼ともに前房内炎症細胞の遷延がみられたため,6月にCGCV点滴C600Cmg/日をC14日間,300Cmg/日をC7図1両眼前眼部写真(初診時)a:右眼,b:左眼.両眼ともに角膜上皮浮腫,白色円形の角膜後面沈着物を認める.Cガンシクロビル点滴(術後7日間)ガンシクロビル点眼ベタメタゾン点眼炎症所見前房水PCR(CMV-DNA)(+)(-)(-)矯正視力(1.0)(1.0)(0.7)(0.5)角膜内皮細胞密度(個/mm2)2011年図3左眼前眼部写真(DSAEK施行後4カ月)2012年左眼矯正視力(1.0).白色の角膜後面沈着物(→)を認め,一部コイン状の配列(coinlesion)を認める(○内).ガンシクロビル点眼ベタメタゾン点眼炎症所見前房水PCR(-)(-)2013年(CMV-DNA)矯正視力3,000角膜内皮2,000細胞密度(個/mm2)1,00002014年図4右眼DSEAK後の治療経過ガンシクロビル点眼の中止後に炎症所見は再燃し,現在も点眼を継続している.日間行った.徐々に前房内炎症所見の改善を認め,経過中,両眼ともに眼圧は良好であった.しかし,両眼とも角膜内皮細胞密度は低下し,左眼は水疱性角膜症となり,矯正視力も(0.06)と低下したため,2010年C6月に左眼CDSAEKを施行した.左眼CDSAEK後の経過を図2に示す.術中に採取した前房水のCPCRではCCMV-DNAは検出されなかったが,CMV角膜内皮炎の再燃予防を目的に術後C7日間CGCV点滴600mg/日を行った.その後はC1.5%レボフロキサシン点眼C4回/日,ベタメタゾン点眼C4回/日を継続していた.術後C4カ月に矯正視力は(1.0)と良好であったが色素性CKPが出現し,続いて前房内炎症細胞を認めた.まず移植後拒絶反応を疑い,ベタメタゾン点眼回数を増やしたが炎症は改善せず,3週後に白色のCKP(図3)を認め,一部はコイン状の配列(coinlesion)を呈していた.CMV角膜内皮炎の再燃を疑い,前房水を採取したのちに,自家調整C0.5%CGCV点眼を左眼C4回/日で開始した.その後,PCRの結果CCMV-DNAを検出(1.25C×104copies)したため,CMV角膜内皮炎に伴う炎症の再燃と診断した.点眼開始後は徐々にCKPおよび前房炎症の消退を認め,点眼開始C10カ月後に中止とした.しかし,点眼中止C4カ月後に再度CKPと前房内炎症細胞が出現した.採取した前房水からCMV-DNAは検出されなかったが,CMV角膜内皮炎を繰り返している経過からCCMV角膜内皮炎の再燃を疑い,GCV点眼を再開した.GCV点眼再開後にKPと前房内炎症細胞の消退を認め,その後さらにC5カ月間GCV点眼を継続し中止したが,KPが出現したため点眼を再開した.KPが消退したことを確認しCGCV点眼回数を減量してみたが,KPが増加するため,最終的にCGCV点眼C4回/日を継続し再燃なく経過している.また.経過中,眼圧上昇は認めなかったが,角膜内皮細胞密度はCDSAEK術後C2,192Ccells/mm2から術後C3年C5カ月でC448Ccells/mmC2に低下し,矯正視力も(0.7)まで低下した.その後角膜内皮細胞密度は測定不能となり角膜浮腫が出現し,矯正視力(0.5)と低下したため再度CDSAEKを検討している.右眼も水疱性角膜症となり矯正視力(0.1)と低下したため,前房水中のCCMV-DNA陰性を確認し,2011年C5月にDSAEKを施行した.右眼CDSAEK後の経過を図4に示す.手術時に採取した前房水,虹彩のCPCR検査ではCCMV-DNAは検出されず,角膜内皮からはCCMV-DNAを検出するも定量では検出限界以下であった.左眼の経過を考慮し,右眼は術後CGCV点眼をC4カ月間行い中止した.中止後C1.5カ月時点での前房水からはCCMV-DNAは検出されず,その後も炎症再燃なく経過したが,中止後C12カ月で左眼と同時期にKPが出現したため,GCV点眼を再開した.左眼がCGCV点眼の中止・減量で炎症の再燃を繰り返していることを考慮し,現在もCGCV点眼を継続している.左眼同様に角膜内皮細胞密度はCDSEAK術後C1,724Ccells/mmC2から術後3年4カ月でC466Ccells/mmC2と減少を認めているが,矯正視力は(1.2)で保たれており現在経過観察中である.CII考按CMV角膜内皮炎の診断には,角膜浮腫やコイン状に配列(coinlesion)するCKPの特徴的な所見や眼圧上昇などの経過からCCMV角膜内皮炎を疑い,診断確定には前房水CPCRによるCCMV-DNAの検出が有用である.また,治療に対する経過も参考所見となりうるとされている9,10).現在,治療は0.5%CGCV点眼(自家調整薬)の使用や点滴による全身投与,GCVをプロドラック化したバルガンシクロビル(valganci-clovir:VGCV)の内服が行われている.その際,GCVやVGCVの全身投与に関しては骨髄抑制や腎機能障害の副作用に対する注意が必要となるが,GCV点眼は副作用が少なく長期の治療継続に適していると考えられる.一方でこれらの治療中止に伴う炎症の再燃が問題とされており,いつまで加療継続するべきかについては現時点で明確な指針が立っていない.また,経過中に角膜内皮機能の低下に伴い水疱性角膜症に至る症例も少なくない.2015年にCKoizumiらによって報告されたC106眼のCCMV角膜内皮炎を対象とした多施設研究においてもC106眼中C39眼で炎症の再燃を認め,またC43眼(39.4%)は経過中に水疱性角膜症に至り,そのうちC20眼(18.3%)に対して角膜移植が施行されている10).また,本症例と同様にわが国において水疱性角膜症に対して角膜移植を施行されたCCMV角膜内皮炎の症例C3例C3眼の報告がある3.5).3例ともに全層角膜移植を施行されているが,1例は術後約半年後に炎症を認めCCMV角膜内皮炎と診断しバラガンシクロビル内服(900Cmg/日)を開始し,内服中止に伴い炎症の再燃をC2回認めている.その他のC2例は,術後にCMV角膜内皮炎と診断されGCV点眼を使用し,1例はGCV点眼を継続して再燃なく経過しているが,もうC1例は点眼中止後にCCMV角膜内皮炎の再燃を認めたため点眼を再開し,以降は点眼継続で再燃なく経過している.いずれの症例も角膜移植後にCGCV点眼,もしくはバルガンシクロビル内服を開始されているが,3例中C2例において抗CCMV治療を中止し炎症が再燃している.本症例でも,経過中に水疱性角膜症に至り両眼ともにCDSAEKを施行し,術後にCGCV全身投与や点眼加療を行ったが,抗CCMV治療の中止・減量に伴い,複数回の再燃がみられている.うち一度はCGCV点眼を中断していた時期の両眼同時の再燃であった.CMV角膜内皮炎に伴う水疱性角膜症のため角膜移植術を施行した症例でも,GCV点眼など抗CCMV治療は継続の必要があると考えられた.今回の症例において,左眼CDSAEK後にはじめて炎症再燃を認めた際の前房水CPCR検査ではCCMV-DNA陽性であったが,以降の炎症再燃時に施行した検査ではCCMV-DNAは検出されていない.この点からは移植後の拒絶反応も否定はできないが,ステロイド点眼への反応は乏しい一方でGCV点眼にて比較的速やかにCKPなどの炎症所見の改善を認め,加えてその経過に再現性があることからもCCMV内皮炎の再燃と考えた.現時点でCCMVの角膜内皮細胞への感染経路は解明されていないが,単純ヘルペスウイルス同様に骨髄前駆細胞やマクロファージなど全身に潜伏感染したCCMVが前房に特異な免疫環境である前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedCimmuneCdeviation:ACAID)を背景として角膜内皮細胞に感染すると考えられている9,11).一方でGCVに関してはCCMVのCDNA合成を阻害することで作用するが,ウイルス遺伝子を発現していない潜伏感染中のCMVに対しては効果を示さない.これらの点から,角膜移植後もCCMV角膜内皮炎の再燃を予防するためには,何らかの経路で潜伏状態から再活性化して移植角膜内皮細胞に再感染しようとするCCMVを標的として永続的に予防し続けなければならない可能性もある.本症例の経過からも,前房水中のCCMV-DNAの陰性化は治療中止の基準にならない可能性もあり,予防的治療を継続することが望ましいと考えられた.CMV角膜内皮炎は経過中に水疱性角膜症をきたす可能性があり,本症例と同様に角膜移植が必要となる症例は少なからず存在する.虹彩毛様体炎,続発緑内障を合併した原因不明の角膜内皮炎を認めた際にはCCMVの関与も念頭に置いて,早期に精査・加療を行い,角膜内皮機能を維持することが重要である.以上よりCCMV角膜内皮炎によって水疱性角膜症に至った際には適切な時期に角膜移植を行い,移植後のステロイド点眼によりCCMVが再活性化しやすくなる可能性を考慮し,長期にわたりCGCV点眼を継続することが望ましいと考えられた.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmolC141:564-565,C20062)CheeCSP,CBacsalCK,CJapCACetCal:CornealCendotheliitisCassociatedCwithCevidenceCofCcytomegalovirusCinfection.COphthalmologyC114:798-803,C20073)細谷友雅,神野早苗,吉田史子ほか:両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎のC1例.あたらしい眼科C26:105-108,C20094)唐下千寿,矢倉慶子,郭權慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,C20105)三瀬一之,木村章,大浦福市ほか:ぶどう膜炎による続発性緑内障に認められたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の一例.眼臨紀C3:598-601,C20106)猪俣武範,武田淳史,本田理峰ほか:ガンシクロビル点滴と点眼が奏効したサイトメガロウイルス角膜内皮炎のC1例.臨眼C65:875-879,C20117)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎のC2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,C20128)KoizumiCN,CSuzukiCT,CUenoCTCetCal:CytomegalovirusCasCanCetiologicCfactorCinCendotheliitis.COphthalmologyC115:C292-297,C20089)小泉範子:サイトメガロウイルス角膜内皮炎.あたらしい眼科C28:1439-1440,C201110)KoizumiCN,CInatomiCT,CSuzukiCTCetCal:ClinicalCfeaturesCandCmanagementCofCcytomegalovirusCcornealCendotheli-itis:analysisCofC106CcasesCfromCtheCJapanCcornealCendo-theliitisstudy.BrJOphthalmolC99:54-58,C201511)ZhengX,YamaguchiM,GotoTetal:Experimentalcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisSciC41:C377-385,C2000***

角膜内皮移植後一過性に光覚を消失した1例

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1070〜1072,2016©角膜内皮移植後一過性に光覚を消失した1例長島崇充*1湯田健太郎*1松澤亜紀子*2林孝彦*1加藤直子*3水木信久*4*1横浜南共済病院眼科*2聖マリアンナ医科大学眼科学教室*3埼玉医科大学医学部眼科学教室*4横浜市立大学医学部眼科学教室ACaseExhibitingTransientLossofLightPerceptionafterCornealEndothelialTransplantationTakamitsuNagashima1),KentaroYuda1),AkikoMatsuzawa2),TakahikoHayashi1),NaokoKatou3)andNobuhisaMizuki4)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamikyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversityHospital,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversity角膜内皮移植(DSAEK)は,空気を前房内に注入し,移植片を角膜後面に接着させる術式である.今回,術直後に意図的高眼圧による網膜循環障害を生じた可能性がある1例を経験したので報告する.症例は70歳,男性.白内障と2回の硝子体手術後に右眼水疱性角膜症を発症し,DSAEKを施行した.術中に前房内に空気を注入し,意図的高眼圧を維持し終刀とした.手術2時間後の診察時,前房内の空気は40%ほどであり,眼圧は13mmHgであったが,光覚を消失していた.網膜循環障害を疑い前房穿刺,血管拡張療法を行った.現在の矯正視力は(0.4)である.DSAEKでは,移植片の接着のために意図的高眼圧を要する.しかし,これにより網膜循環障害に陥る可能性があり,術中の眼圧測定,術後診察のタイミングなどの検討が必要である.Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)isasurgicalprocedureinwhichtheimplantisadheredtothecornealposteriorsurfacebyairinjectedintotheanteriorchamber.Wereportacaseinwhichintentionalhighintraocularpressurewasthesuspectedcauseofretinalcirculationfailure.Thepatient,a70-year-oldmale,developedbullouskeratopathy.WeinjectedairintotheanteriorchamberduringDSAEK.Attwohoursaftersurgery,intraocularpressurewas13mmHg.Duringthistime,thepatienthadlostlightperception.Suspectingretinalcirculatorydisorder,weremovedtheairfromtheanteriorchamberandperformedvasodilatortherapy.Currentcorrectedvisionis(0.4).InDSAEK,deliberatehighintraocularpressureisrequiredforgraftadhesion.Thissurgicalproceduremay,however,causecirculatorydisorderoftheretinaaftersurgery.Weshallconsiderthetimetopostoperativeexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1070〜1072,2016〕Keywords:角膜内皮移植,網膜循環不全.cornealendothelialtransplantation,retinalcirculatoryfailure.はじめに角膜内皮移植術は水疱性角膜症など角膜内皮機能不全による角膜混濁への治療に全世界で行われている術式である.DSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)では移植片接着のために前房内へ空気を注入するため,術後空気瞳孔ブロックに注意する必要がある.空気瞳孔ブロックによる眼圧上昇は,網膜視神経の障害から失明に至る重篤な合併症である.今回,空気瞳孔ブロックをきたすことなく網膜循環障害によるものと考えられる視力障害の1例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.既往歴:糖尿病性腎症で人工透析.心筋梗塞でステント留置.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)落下で硝子体手術後,再落下のため硝子体手術後にIOL縫着.現病歴:上記既往により2013年6月頃より右眼水疱性角膜症を認めるようになり,10月2日右眼移植片縫合を併用したDSAEKを他院にて施行された.その後,移植片機能不全となり視力低下を主訴に当院紹介となった.検査所見:・視力:右眼(0.06×sph+7.00D(cyl−8.00DAx130°),左眼(1.0×sph+1.00D(cyl−3.00DAx90°).・眼圧:右眼11mmHg,左眼8mmHg.・角膜内皮:右眼測定不能,左眼2,563cell/mm2.・角膜厚:右眼971μm,左眼531μm.・前眼部:右眼は水疱性角膜症による角膜混濁.左眼は異常なし(図1)・眼底:右眼はやや透見不良であったが,両眼とも汎網膜光凝固術後であり所見は安定していた.経過:上記にて右移植片機能不全による水疱性角膜症の診断で,2014年8月14日に全身麻酔下にてDSAEKを行った.前回の角膜創から機能不全の移植片を除去し,新しい移植片を通常の術式どおり挿入した.その後32G鋭針にて前房内を空気で全置換し移植片を接着した.術中の眼圧はトノペンXL®(米国ライカート社)で測定し35mmHgであった.15分待機し移植片の接着を確認した後,前房内の空気を一部抜去し眼圧を20mmHgに調整し手術終了とした.術後2時間の所見は,前房内空気40%,眼圧13mmHg,視力は光覚弁なしであった.空気瞳孔ブロックを疑う所見は認めず,眼底には桜実紅斑を認めなかったが,網膜循環障害による視力障害の可能性が高く緊急処置を行った.まずは前房穿刺による空気抜去を行い眼圧を下降(8mmHg)させ,血管拡張療法(ニトログリセリン0.3mg舌下投与,プロスタグランジン点滴療法)を行った.術翌日の朝には光覚を回復し視力は0.05(0.07×sph+6.50D(cyl−5.00DAx90°)であった.移植片の接着は良好であり,蛍光眼底造影検査では腕眼時間18秒と軽度遅延を認めたものの血流は再開していた.網膜電位図では右眼のa波b波は著明に低下していた.動的量的視野検査では明らかな視野障害は認めず,視神経疾患は否定的であった.その後,再度視力障害をきたすことなく経過良好につき退院となった.術3カ月後の視力は(0.4p×sph+3.00D(cyl−5.00DAx70°)であり,角膜の透明性の改善に伴い視力の改善を認めた.網膜電位図も徐々に改善が認められた(図2).II考按DSAEK術後に,空気瞳孔ブロックを生じなくても一過性眼圧上昇に伴い網膜循環障害をきたす危険性があることを学習した.網膜動脈障害は,眼圧と血圧のバランスで起こり,高眼圧・低血圧で起こりやすい1).動物実験の高眼圧モデルでは,1時間の虚血で有意な網膜障害が出現するとされている2).網膜動脈閉塞症で治療により回復できる時間帯は発症後90~100分以内とされる3).本症例は蛍光眼底検査で還流の遅延を認めており網膜循環不全の関与が大きいと考えられた.医原性網膜中心動脈閉塞症の発生機序はいまだ解明されていないが,網膜中心動脈への直接的な障害や麻酔薬による障害,麻酔薬による圧排の関与が推察されている4).また,眼球周囲への麻酔薬投与は網膜中心動脈の収縮を引き起こすという既報も認められる.網膜中心動脈閉塞症のリスクファクターとして高血圧や心疾患などの関与もあげられる.本症例は,全身既往として糖尿病性腎症・心筋梗塞によるステント留置があり血管閉塞リスクが非常に高かったと考えられる5~7).上記より角膜内皮移植(DSAEK/DMEK)では個々の症例ごとに前房内空気量や眼圧の管理を行うべきであり,全身の循環不全にも考慮し,手術や術後管理を行う必要性があると考えられた.本症例経験後,当院では空気注入後1時間後に診察を行うようにしている.文献1)PolkJD,RugaberC,KohnGetal:Centralretinalarteryocclusionbyproxy:acauseforsuddenblindnessinanairlinepassenger.AviatSpaceEnvironMed73:385-387,20022)RosenbaumDM,RosenbaumPS,SinghMetal:Functionalandmorphologiccomparisonoftwomethodstoproducetransientretinalischemiaintherat.JNeuroophthalmol21:62-68,20013)McDonaldHR,EliottD,FullerDGetal:Complicationsofgeneralanesthesiausingnitrousoxideineyeswithpreexistinggasbubbles.Retina22:569-574,20024)KleinML,JampolLM,CondonPIetal:Centralretinalarteryocclusionwithoutretrobulbarhemorrhageafterretrobulbaranesthesia.AmJOphthalmol93:573-577,19825)HørvenI:Ophthalmicarterypressureduringretrobulbaranaesthesia.ActaOphthalmol(Copenh)56:574-586,19786)Vinerovsky,RathEZ,RehanyUetal:Centralretinalarteryocclusionafterperibulbaranesthesia.JCataractRefractSurg30:913-915,20047)HazinR,DixonJA,BhattiMT:Thrombolytictherapyincentralretinalarteryocclusion:cuttingedgetherapy,standardofcaretherapy,orimpracticaltherapy?CurrOpinOphthalmol20:210-218,2009図1術前所見右眼の水疱性角膜症を認める.図2術翌日の所見a,b:前眼部所見.角膜の透明性の改善と移植片の接着良好を認める.c:動的量的視野検査.視神経疾患を疑う傍中心暗点は認めない.d:網膜電位図.右眼のa波・b波の低下を認める.〔別刷請求先〕長島崇充:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakamitsuNagashima,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN1070(144)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(145)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610711072あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(146)