《原著》あたらしい眼科31(11):1727.1730,2014c小児におけるオルソケラトロジーの有効性および安全性の検討箱﨑理花*1稗田牧*2中村葉*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命医科学部医工学科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学EfficacyandSafetyofOrthokeratologyinChildrenRikaHakozaki1),OsamuHieda2),YouNakamura2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)TheDepartmentofBiomedicalEngineering,FacultyofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.対象および方法:対象はオルソケラトロジーレンズを6カ月間装用した小児9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.初診時に眼科的異常のないことを確認のうえ,オルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズの就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.結果:裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前後で有意差を認めた(p<0.01).角膜内皮細胞密度は治療開始前後で有意差は認めなかった.中央部角膜厚は治療開始前と開始後6カ月で有意差を認めた(p<0.05).角膜前面のbestfitsphere(BFS),中央部elevationともに治療開始前後で有意差を認めた.角膜後面のBFS,中央部elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.結論:6カ月間におけるオルソケラトロジーは小児に適応しても,角膜内皮細胞への影響は認められず,その変化は成人と同等に角膜前面の変化のみであり,安全で効果的であることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofovernightorthokeratologyinchildren.Methods:Recruitedfor6monthsoforthokeratologywere13eyesof9children(5male,4female);age(mean±standarddeviation):10.0±1.8years;range:8.12years;subjectivesphericalequivalentrefractiveerror:-2.31±0.57D;datefromalleyeswereanalyzed.Thechildrenexhibitednormalocularfindings;overnightlenswearwasinitiated.Lensfitting,cornealepithelialfindings,uncorrectedvisualacuity,subjectivesphericalequivalentrefractiveerror,cornealendothelialcelldensity,cornealthicknessandcornealshapewereinvestigated.Results:Uncorrectedvisualacuityandsubjectivesphericalequivalentrefractiveerrorexhibitedsignificantdifferenceinthetreatmentperiod(p<0.01).Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreaseduringthetreatmentperiod.Cornealthicknessatthecenterexhibitedsignificantdifferencebetweenstartoftreatmentandafter6months(p<0.05).Best-fitsphere(BFS)andcentralelevationoftheanteriorsurfaceofthecorneachangedsignificantlyduringthetreatmentperiod.BFSandcentralelevationoftheposteriorsurfaceofthecorneadidnotchangeduringthetreatmentperiod.Conclusions:Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreasewithin6months.Changeincornealshapewasseenonlyattheanteriorsurface,asinadults.Ourdatesuggestthat6monthsoforthokeratologyinchildreniseffectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1727.1730,2014〕Keywords:オルソケラトロジー,角膜内皮細胞,角膜厚,角膜形状.orthokeratology,cornealendothelialcell,cornealthickness,cornealshape.〔別刷請求先〕箱﨑理花:〒630-0101奈良県生駒市高山町8916-5学生宿舎1405Reprintrequests:RikaHakozaki,GakuseiShukusha1405,8916-5Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(161)1727はじめにオルソケラトロジーとは,特殊に設計されたコンタクトレンズ(オルソケラトロジーレンズ)を装用することで,角膜形状を変化させ,屈折異常を矯正することを目的とする角膜屈折矯正療法である.継続的な装用で良好な裸眼視力の維持が見込まれるが,角膜形状の変化は可逆的であり,装用を中止すると角膜形状が戻り,裸眼視力も治療前の状態に戻る1).近年は酸素透過性の高いレンズ素材の開発により,就寝時にレンズを装用し,起床時に裸眼視力の改善をめざす治療が主流である.オルソケラトロジーレンズは角膜中央部をフラット,中間周辺部をスティープに角膜矯正をする.ウサギにオルソケラトロジーを行った報告2)によると,中央部角膜上皮層のみが菲薄化する.レンズによる角膜矯正は角膜実質層に影響を与えないと考えられ,成人に対するオルソケラトロジーの報告3,4)によると,レンズによる角膜形状変化は角膜全体ではなく角膜前面で起こる.オルソケラトロジーは近視矯正法として,世界各国に普及している.特に開発,研究をした米国ではFoodandDrugAdministrationがその安全性を承認している.また,近視進行が抑制されるというmyopiacontrolの報告5,6)があるが,症例数の少なさや個人差があることも報告されている.角膜感染症の問題から,未成年に対するオルソケラトロジーの適応は慎重にするべきと考えられているが,近視進行抑制の効果を期待しアジア各国では小児に対する治療を積極的に行っている.本研究は,報告が少ない小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.I対象および方法対象は,京都府立医科大学付属病院眼科を受診し,本研究の趣旨,また京都府立医科大学倫理委員会の承認を受けたことを説明したうえで同意を得た9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.毛様体筋の調節麻痺下でオートレフケラトメータARK-730A(NIDEK社)による他覚的屈折検査および自覚的屈折検査を行い,自覚的屈折検査値が等価球面度数.1.5D..4.50Dの症例のみを適応とした.他に不同視差が1.5D未満,乱視が1.5D未満,斜視でない,狭隅角でない,眼科の手術歴や眼外傷歴がない,緑内障,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,弱視,円錐角膜,ヘルペス角膜炎,乳頭増殖などの眼疾患がない,Marfan症候群,糖尿病などの全身疾患がない,過去にバイフォーカルや累進屈折力の眼鏡またオルソケラトロジーレンズを装用したことがないことを確認した.初診にオルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズ1728あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014の就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.裸眼視力が0.6以下の場合,レンズを再度調整した.スペキュラーマイクロスコープEM-3000(Tomey社)で角膜内皮細胞密度を検査した.ペンタカムHR(オクレル社)で中央部角膜厚,角膜前面,後面形状を検査した.角膜厚はオルソケラトロジーレンズが作用している箇所が最も菲薄化するはずであるから,thinnestの値を比較検討した.角膜前面,後面形状は角膜の曲率半径を示すbestfitsphere(BFS)とBFSを基準球面とした高さの差分を示す中央部elevationを比較検討した.対象はペンタカムHRに搭載されている信頼指数の範囲にないデータは除外し,n=13とした.統計学的検討は対応のあるt検定を用いた.II結果治療開始前後の平均裸眼視力,等価球面度数の経過を図1,2に示す.開始前の裸眼視力は0.14,開始後は1日0.35,1週間0.85,1カ月1.06,3カ月1.02,6カ月1.23であった.開始前の裸眼視力の分布は,0.1未満1眼,0.1以上0.3未満12眼であるが,開始後1週間で0.7未満4眼,0.7以上1.0未満4眼,1.0以上5眼であり,開始後1カ月で0.7未満1眼,0.7以上1.0未満3眼,1.0以上9眼であった.開始前の等価球面度数は.2.31±0.57D,開始後は1日.1.51±1.05D,1週間.0.48±0.44D,1カ月.0.29±.0.32D,3カ月.0.40±0.45D,6カ月.0.22±0.29Dであった.裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前と開始後1日以降すべてで有意差を認め(p<0.01),視力の改善がみられた.治療開始前後の角膜内皮細胞密度の経過を図3に示す.開始前の角膜内皮細胞密度は3,057±180.9cells/mm2,開始後は1カ月2,996±184.7cells/mm2,6カ月3,045±195.5cells/mm2であった.治療開始前後で有意差は認めなかった.治療開始前後の中央部角膜厚の経過を図4に示す.開始前の中央部角膜厚は545±21.9μm,開始後は1カ月542±15.3μm,3カ月538±14.6μm,6カ月538±16.9μmであった.治療開始前と開始後6カ月で有意差を認め(p<0.05),中央部角膜の菲薄化がみられた.角膜前面のBFSとelevationを図5,6に示す.開始前の角膜前面のBFSは7.92±0.19mm,開始後は1カ月7.96±0.20mm,3カ月7.94±0.19mm,6カ月7.96±0.20mmであった.開始前の中央部角膜前面のelevationは1.77±1.24μm,開始後は1カ月.3.62±1.50μm,3カ月.4.23±1.54μm,6カ月.4.54±1.90μmであった.BFS,elevationともに治療開始前と開始後1カ月以降すべてで有意差を認めた(p<0.05).角膜後面のBFSとelevationを図7,8に示す.開始前の(162)レンズ装用日数レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月0.11裸眼視力************p<0.01,n=13-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.500.5等価球面度数(D)************p<0.01,n=13図1裸眼視力経過図2等価球面度数経過3,500570560n=13**p<0.05,n=13BFS(mm)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,000Elevation(μm)角膜厚(μm)5502,5005402,000治療前1カ月6カ月530レンズ装用日数520図3角膜内皮細胞数経過レンズ装用日数*p<0.05,**p<0.01,n=13図4中央部角膜厚経過治療前1カ月3カ月6カ月8.28.18.0*****24治療前1カ月3カ月6カ月**p<0.01,n=13******レンズ装用日数7.907.8-27.7治療前1カ月3カ月6カ月-4レンズ装用日数図5角膜前面BFS経過-6-8角膜後面のBFSは6.39±0.13mm,開始後は1カ月6.38±0.14mm,3カ月6.39±0.13mm,6カ月6.38±0.12mmであった.開始前の中央部角膜後面のelevationは1.08±2.22μm,開始後は1カ月1.31±2.63μm,3カ月1.62±2.47μm,6カ月1.62±2.29μmであった.BFS,elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.感染症,治療を中止するような重度な角膜障害は生じなかった.また,経過観察中,裸眼視力が0.6以下でありレンズの規格を変更した症例が3例あったが,レンズ変更後良好な裸眼視力を得た.図6角膜前面elevation経過III考察本研究は,オルソケラトロジーが小児に対しても効果的,また安全であるかどうかを検討した.対象の9割が治療開始後1カ月で良好な裸眼視力を得られるとともに,最終的に全員に有効な屈折矯正ができた.また,角膜形状は角膜の前面のみ変化しており,成人と同等の結果となった.(163)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201417296.6n=135n=1346.53BFS(mm)0治療前1カ月3カ月6カ月6.2治療前1カ月3カ月6カ月-1レンズ装用日数-2Elevation(μm)6.4216.3レンズ装用日数図7角膜後面BFS経過コンタクトレンズ装用の安全性を検討するうえで,角膜障害は重要な要因となる.コンタクトレンズは長時間眼表面を覆うため,酸素供給不足による角膜障害が考えられ,また角膜上皮欠損,レンズの長期装用による角膜内皮細胞密度の減少が起こりうる.本研究では,角膜内皮細胞密度の著しい減少はなく,安全に治療できたと思われる.しかし,スペキュラーマイクロスコープは角膜全体を検査しているわけではなく,中央部の一定の箇所の角膜内皮細胞しか記録してない.経過観察中,角膜内皮細胞密度の値には多少の増減が認められたが,これは撮影条件が違うことによる撮影箇所の違いが原因と考えられる.角膜内皮細胞の著しい減少を判断するには長期的なデータが必要かと考えられた.角膜前面形状はオルソケラトロジー開始後,BFSが大きくなり,角膜がフラットになることがわかった.また,角膜中央部の角膜厚,elevationからも角膜中央部が菲薄化し,BFSの基準面球面より凹面に変化した.このことはオルソケラトロジーレンズにより角膜中央部が圧迫,矯正されたことを顕著に示している.従来の報告と同様に角膜後面形状は変化せず,レンズの矯正は角膜上皮層のみであり,角膜実質層に影響を与えないことが示唆された.オルソケラトロジーは小児に対して,成人と同様な効果を期待できるが,レンズの使用に関してはむずかしい点がみられた.本研究に用いたオルソケラトロジーレンズはハードコンタクトレンズであり,破損しやすい.また,レンズケア方法も個人差があり,現時点では角膜感染症がなかったが,今後長期的な治療を続ける場合,注意すべきである.小児にハードコンタクトレンズ装用,ケアを任せるのは不十分である図8角膜後面elevation経過ため,本研究でも基本的に親の管理下で治療を行ったが,経過観察中の小児の成長とともに自身で行うこともある.小児に対するオルソケラトロジーはレンズ管理が課題ともいえる.今回の検討により,小児に対するオルソケラトロジーは短期的には安全かつ有効であり,その変化は成人と同様であることが示唆された.今後,さらに長期的な有効性と安全性の検討をすることが必要と考えられた.文献1)ChenD,LamAK,ChoP:Posteriorcornealcurvaturechangeandrecoveryafter6monthsofovernightorthokeratologytreatment.OphthalmicPhysiolOpt30:274280,20102)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratoligylens.EyeContactLens30:198-204,20043)TsukiyamaJ,MiyamotoY,FukudaMetal:Changesinanteriorandposteriorradiiofthecornealcurvatureandanteriorchamberdepthbyorthoketatology.EyeContactLens34:17-20,20084)YoonJH,SwarbrickHA:Posteriorcornealshapechangesinmyopicovernightorthokeratology.OptomVisSci90:196-204,20135)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy,InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20126)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013***1730あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(164)