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小児におけるオルソケラトロジーの有効性および安全性の検討

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1727.1730,2014c小児におけるオルソケラトロジーの有効性および安全性の検討箱﨑理花*1稗田牧*2中村葉*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命医科学部医工学科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学EfficacyandSafetyofOrthokeratologyinChildrenRikaHakozaki1),OsamuHieda2),YouNakamura2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)TheDepartmentofBiomedicalEngineering,FacultyofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.対象および方法:対象はオルソケラトロジーレンズを6カ月間装用した小児9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.初診時に眼科的異常のないことを確認のうえ,オルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズの就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.結果:裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前後で有意差を認めた(p<0.01).角膜内皮細胞密度は治療開始前後で有意差は認めなかった.中央部角膜厚は治療開始前と開始後6カ月で有意差を認めた(p<0.05).角膜前面のbestfitsphere(BFS),中央部elevationともに治療開始前後で有意差を認めた.角膜後面のBFS,中央部elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.結論:6カ月間におけるオルソケラトロジーは小児に適応しても,角膜内皮細胞への影響は認められず,その変化は成人と同等に角膜前面の変化のみであり,安全で効果的であることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofovernightorthokeratologyinchildren.Methods:Recruitedfor6monthsoforthokeratologywere13eyesof9children(5male,4female);age(mean±standarddeviation):10.0±1.8years;range:8.12years;subjectivesphericalequivalentrefractiveerror:-2.31±0.57D;datefromalleyeswereanalyzed.Thechildrenexhibitednormalocularfindings;overnightlenswearwasinitiated.Lensfitting,cornealepithelialfindings,uncorrectedvisualacuity,subjectivesphericalequivalentrefractiveerror,cornealendothelialcelldensity,cornealthicknessandcornealshapewereinvestigated.Results:Uncorrectedvisualacuityandsubjectivesphericalequivalentrefractiveerrorexhibitedsignificantdifferenceinthetreatmentperiod(p<0.01).Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreaseduringthetreatmentperiod.Cornealthicknessatthecenterexhibitedsignificantdifferencebetweenstartoftreatmentandafter6months(p<0.05).Best-fitsphere(BFS)andcentralelevationoftheanteriorsurfaceofthecorneachangedsignificantlyduringthetreatmentperiod.BFSandcentralelevationoftheposteriorsurfaceofthecorneadidnotchangeduringthetreatmentperiod.Conclusions:Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreasewithin6months.Changeincornealshapewasseenonlyattheanteriorsurface,asinadults.Ourdatesuggestthat6monthsoforthokeratologyinchildreniseffectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1727.1730,2014〕Keywords:オルソケラトロジー,角膜内皮細胞,角膜厚,角膜形状.orthokeratology,cornealendothelialcell,cornealthickness,cornealshape.〔別刷請求先〕箱﨑理花:〒630-0101奈良県生駒市高山町8916-5学生宿舎1405Reprintrequests:RikaHakozaki,GakuseiShukusha1405,8916-5Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(161)1727 はじめにオルソケラトロジーとは,特殊に設計されたコンタクトレンズ(オルソケラトロジーレンズ)を装用することで,角膜形状を変化させ,屈折異常を矯正することを目的とする角膜屈折矯正療法である.継続的な装用で良好な裸眼視力の維持が見込まれるが,角膜形状の変化は可逆的であり,装用を中止すると角膜形状が戻り,裸眼視力も治療前の状態に戻る1).近年は酸素透過性の高いレンズ素材の開発により,就寝時にレンズを装用し,起床時に裸眼視力の改善をめざす治療が主流である.オルソケラトロジーレンズは角膜中央部をフラット,中間周辺部をスティープに角膜矯正をする.ウサギにオルソケラトロジーを行った報告2)によると,中央部角膜上皮層のみが菲薄化する.レンズによる角膜矯正は角膜実質層に影響を与えないと考えられ,成人に対するオルソケラトロジーの報告3,4)によると,レンズによる角膜形状変化は角膜全体ではなく角膜前面で起こる.オルソケラトロジーは近視矯正法として,世界各国に普及している.特に開発,研究をした米国ではFoodandDrugAdministrationがその安全性を承認している.また,近視進行が抑制されるというmyopiacontrolの報告5,6)があるが,症例数の少なさや個人差があることも報告されている.角膜感染症の問題から,未成年に対するオルソケラトロジーの適応は慎重にするべきと考えられているが,近視進行抑制の効果を期待しアジア各国では小児に対する治療を積極的に行っている.本研究は,報告が少ない小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.I対象および方法対象は,京都府立医科大学付属病院眼科を受診し,本研究の趣旨,また京都府立医科大学倫理委員会の承認を受けたことを説明したうえで同意を得た9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.毛様体筋の調節麻痺下でオートレフケラトメータARK-730A(NIDEK社)による他覚的屈折検査および自覚的屈折検査を行い,自覚的屈折検査値が等価球面度数.1.5D..4.50Dの症例のみを適応とした.他に不同視差が1.5D未満,乱視が1.5D未満,斜視でない,狭隅角でない,眼科の手術歴や眼外傷歴がない,緑内障,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,弱視,円錐角膜,ヘルペス角膜炎,乳頭増殖などの眼疾患がない,Marfan症候群,糖尿病などの全身疾患がない,過去にバイフォーカルや累進屈折力の眼鏡またオルソケラトロジーレンズを装用したことがないことを確認した.初診にオルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズ1728あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014の就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.裸眼視力が0.6以下の場合,レンズを再度調整した.スペキュラーマイクロスコープEM-3000(Tomey社)で角膜内皮細胞密度を検査した.ペンタカムHR(オクレル社)で中央部角膜厚,角膜前面,後面形状を検査した.角膜厚はオルソケラトロジーレンズが作用している箇所が最も菲薄化するはずであるから,thinnestの値を比較検討した.角膜前面,後面形状は角膜の曲率半径を示すbestfitsphere(BFS)とBFSを基準球面とした高さの差分を示す中央部elevationを比較検討した.対象はペンタカムHRに搭載されている信頼指数の範囲にないデータは除外し,n=13とした.統計学的検討は対応のあるt検定を用いた.II結果治療開始前後の平均裸眼視力,等価球面度数の経過を図1,2に示す.開始前の裸眼視力は0.14,開始後は1日0.35,1週間0.85,1カ月1.06,3カ月1.02,6カ月1.23であった.開始前の裸眼視力の分布は,0.1未満1眼,0.1以上0.3未満12眼であるが,開始後1週間で0.7未満4眼,0.7以上1.0未満4眼,1.0以上5眼であり,開始後1カ月で0.7未満1眼,0.7以上1.0未満3眼,1.0以上9眼であった.開始前の等価球面度数は.2.31±0.57D,開始後は1日.1.51±1.05D,1週間.0.48±0.44D,1カ月.0.29±.0.32D,3カ月.0.40±0.45D,6カ月.0.22±0.29Dであった.裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前と開始後1日以降すべてで有意差を認め(p<0.01),視力の改善がみられた.治療開始前後の角膜内皮細胞密度の経過を図3に示す.開始前の角膜内皮細胞密度は3,057±180.9cells/mm2,開始後は1カ月2,996±184.7cells/mm2,6カ月3,045±195.5cells/mm2であった.治療開始前後で有意差は認めなかった.治療開始前後の中央部角膜厚の経過を図4に示す.開始前の中央部角膜厚は545±21.9μm,開始後は1カ月542±15.3μm,3カ月538±14.6μm,6カ月538±16.9μmであった.治療開始前と開始後6カ月で有意差を認め(p<0.05),中央部角膜の菲薄化がみられた.角膜前面のBFSとelevationを図5,6に示す.開始前の角膜前面のBFSは7.92±0.19mm,開始後は1カ月7.96±0.20mm,3カ月7.94±0.19mm,6カ月7.96±0.20mmであった.開始前の中央部角膜前面のelevationは1.77±1.24μm,開始後は1カ月.3.62±1.50μm,3カ月.4.23±1.54μm,6カ月.4.54±1.90μmであった.BFS,elevationともに治療開始前と開始後1カ月以降すべてで有意差を認めた(p<0.05).角膜後面のBFSとelevationを図7,8に示す.開始前の(162) レンズ装用日数レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月0.11裸眼視力************p<0.01,n=13-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.500.5等価球面度数(D)************p<0.01,n=13図1裸眼視力経過図2等価球面度数経過3,500570560n=13**p<0.05,n=13BFS(mm)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,000Elevation(μm)角膜厚(μm)5502,5005402,000治療前1カ月6カ月530レンズ装用日数520図3角膜内皮細胞数経過レンズ装用日数*p<0.05,**p<0.01,n=13図4中央部角膜厚経過治療前1カ月3カ月6カ月8.28.18.0*****24治療前1カ月3カ月6カ月**p<0.01,n=13******レンズ装用日数7.907.8-27.7治療前1カ月3カ月6カ月-4レンズ装用日数図5角膜前面BFS経過-6-8角膜後面のBFSは6.39±0.13mm,開始後は1カ月6.38±0.14mm,3カ月6.39±0.13mm,6カ月6.38±0.12mmであった.開始前の中央部角膜後面のelevationは1.08±2.22μm,開始後は1カ月1.31±2.63μm,3カ月1.62±2.47μm,6カ月1.62±2.29μmであった.BFS,elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.感染症,治療を中止するような重度な角膜障害は生じなかった.また,経過観察中,裸眼視力が0.6以下でありレンズの規格を変更した症例が3例あったが,レンズ変更後良好な裸眼視力を得た.図6角膜前面elevation経過III考察本研究は,オルソケラトロジーが小児に対しても効果的,また安全であるかどうかを検討した.対象の9割が治療開始後1カ月で良好な裸眼視力を得られるとともに,最終的に全員に有効な屈折矯正ができた.また,角膜形状は角膜の前面のみ変化しており,成人と同等の結果となった.(163)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141729 6.6n=135n=1346.53BFS(mm)0治療前1カ月3カ月6カ月6.2治療前1カ月3カ月6カ月-1レンズ装用日数-2Elevation(μm)6.4216.3レンズ装用日数図7角膜後面BFS経過コンタクトレンズ装用の安全性を検討するうえで,角膜障害は重要な要因となる.コンタクトレンズは長時間眼表面を覆うため,酸素供給不足による角膜障害が考えられ,また角膜上皮欠損,レンズの長期装用による角膜内皮細胞密度の減少が起こりうる.本研究では,角膜内皮細胞密度の著しい減少はなく,安全に治療できたと思われる.しかし,スペキュラーマイクロスコープは角膜全体を検査しているわけではなく,中央部の一定の箇所の角膜内皮細胞しか記録してない.経過観察中,角膜内皮細胞密度の値には多少の増減が認められたが,これは撮影条件が違うことによる撮影箇所の違いが原因と考えられる.角膜内皮細胞の著しい減少を判断するには長期的なデータが必要かと考えられた.角膜前面形状はオルソケラトロジー開始後,BFSが大きくなり,角膜がフラットになることがわかった.また,角膜中央部の角膜厚,elevationからも角膜中央部が菲薄化し,BFSの基準面球面より凹面に変化した.このことはオルソケラトロジーレンズにより角膜中央部が圧迫,矯正されたことを顕著に示している.従来の報告と同様に角膜後面形状は変化せず,レンズの矯正は角膜上皮層のみであり,角膜実質層に影響を与えないことが示唆された.オルソケラトロジーは小児に対して,成人と同様な効果を期待できるが,レンズの使用に関してはむずかしい点がみられた.本研究に用いたオルソケラトロジーレンズはハードコンタクトレンズであり,破損しやすい.また,レンズケア方法も個人差があり,現時点では角膜感染症がなかったが,今後長期的な治療を続ける場合,注意すべきである.小児にハードコンタクトレンズ装用,ケアを任せるのは不十分である図8角膜後面elevation経過ため,本研究でも基本的に親の管理下で治療を行ったが,経過観察中の小児の成長とともに自身で行うこともある.小児に対するオルソケラトロジーはレンズ管理が課題ともいえる.今回の検討により,小児に対するオルソケラトロジーは短期的には安全かつ有効であり,その変化は成人と同様であることが示唆された.今後,さらに長期的な有効性と安全性の検討をすることが必要と考えられた.文献1)ChenD,LamAK,ChoP:Posteriorcornealcurvaturechangeandrecoveryafter6monthsofovernightorthokeratologytreatment.OphthalmicPhysiolOpt30:274280,20102)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratoligylens.EyeContactLens30:198-204,20043)TsukiyamaJ,MiyamotoY,FukudaMetal:Changesinanteriorandposteriorradiiofthecornealcurvatureandanteriorchamberdepthbyorthoketatology.EyeContactLens34:17-20,20084)YoonJH,SwarbrickHA:Posteriorcornealshapechangesinmyopicovernightorthokeratology.OptomVisSci90:196-204,20135)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy,InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20126)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013***1730あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(164)

眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(139)999《原著》あたらしい眼科27(7):999.1003,2010cはじめに眼圧測定値は,その測定原理から角膜形状(角膜曲率半径,角膜厚)の影響を受け測定誤差を生じることが明らかになっている.角膜曲率半径が小さいほど,また角膜厚が厚いほど測定された眼圧値は過大評価され,この逆は過小評価されると報告1.5)されている.さらに,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用は角膜の形状や形態,生理的機能にさまざまな影響を及ぼす6)ことはよく知られている.このうち角膜形状についてはHCL装用に伴う角膜曲率の変化7,8)や,浮腫による角膜厚の増大,慢性的低酸素状態に基づく角膜実質の菲薄化6,9)などが報告され,これらは短期的,可逆的な角膜の変形と考えられている10).これらのことからHCL脱後に測定される眼圧値は,HCL装用による角膜形状変化により誤差が生じている可能性が考えられるが,その詳細は検討されていない.そこで今回HCL装用者を対象とし,HCL脱直後から経時的に眼圧値,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行い,HCL装用による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討したので報告する.I対象および方法対象は,HCL常時装用者(HCL装用群)17名34眼(男性〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響藤村芙佐子加藤紗矢香山田やよい庄司信行北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学InfluenceofHardContactLensonIntraocularPressureFusakoFujimura,SayakaKatou,YayoiYamadaandNobuyukiShojiDepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityハードコンタクトレンズ(HCL)による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討した.対象は眼科的疾患を有さない健常青年22名44眼とした.HCL脱後の角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧を経時的(脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間)に測定し,統計学的検討を行った.結果,眼圧値は脱直後と比較し,脱後10分,20分に有意な低下を認めた(p=0.0016,p=0.0267).角膜曲率半径は各測定時間と比較し,脱後24時間のみ有意な低下を認めた(脱後30分.24時間:p<0.0133,1時間.24時間:p<0.01,他時間.24時間:p<0.001).中心角膜厚は変化を認めなかった.HCL脱後に角膜形状変化を認めたが,眼圧値への影響は無視できる程度であり,脱後の眼圧下降はHCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果によるものと考えられ,眼圧測定はHCL脱後30分以降に行うべきと考えた.Weinvestigatedtheinfluenceofcornea-shapinghardcontactlens(HCL)onintraocularpressure(IOP).Participatinginthestudywere22younghealthyvolunteers.Cornealcurvature,centralcornealthicknessandIOPweremeasuredjustafterHCLremovalandat5,10,20,30minutes,1hourand24hoursafter.IOPshowedasignificantdecreaseat10and20minutes,comparedwithjustafterremoval(p=0.0016,p=0.0267,respectively).Cornealcurvatureshowedasignificantdecreaseonlyat24hours(30minutes.24hours:p<0.0133,1hour.24hours:p<0.01,alltheothertime.24hours:p<0.001).Centralcornealthicknessshowednochange.IOPmeasurementisnotaffectedbycornealshapechange.TheresultssuggestthattheIOPdecreasewascausedbythemassagingoftheeyeballwhentheHCLwasremoved.IOPshouldbemeasuredatleast30minutesafterHCLremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):999.1003,2010〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,眼圧,角膜形状,角膜曲率半径,中心角膜厚,マッサージ効果.hardcontactlens,intraocularpressure,cornealshape,cornealcurvature,centralcornealthickness.1000あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(140)1名,女性16名)であった.平均年齢は20.7±1.3歳(19.24歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.3.81±2.93D(+2.25..9.50D)であった.対照としてCL非装用者(CL非装用群)5名10眼(女性5名)を対象とした.平均年齢は21.6±0.55歳(21.22歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.0.40±0.96D(+0.50..2.25D)であった.全例,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年22名である.なお,HCL装用群においては測定前1週間以上のHCL終日装用,および測定当日の3時間以上の装用を条件とした.対象者には研究の主旨とその意義に関する説明を十分に行い,文書による同意を得た後,測定を開始した.測定方法は以下のとおりである.HCL脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間に眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行った.測定による角膜形状への影響を最小限にするために,すべて非接触で測定可能な機器を用い,角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧の順で測定した.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトメーターARK-730A(NIDEK社),中心角膜厚測定には前眼部解析装置PentacamTM(OCULUS社),眼圧測定には非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)を使用し,各測定は少なくとも3回以上行い,安定した3つの値の平均値を代表値とした.また,角膜曲率半径は弱主経線と強主経線から求められる平均値をその角膜曲率半径とした.さらに日内変動の影響を最小限に抑えるため,測定開始時刻は午前10時に統一した.CL非装用群においてもHCL装用群と同時刻に同様の方法にて眼圧測定を行った.得られた結果を用い,以下の3つの項目について検討を行った.検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化.検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関.検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化.統計学的解析検討は,検討①③にはScheffetest,検討②には単回帰分析を用い,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得てから開始した(承認番号2009-009).II結果検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化眼圧はHCL脱直後に比べ脱後10分(p=0.0016),脱後20分(p=0.0267)に有意な低下が認められた(図1a).角膜曲率半径は,脱後24時間に減少しており,HCL脱直後と脱後24時間(p<0.001),脱後5分と脱後24時間(p<0.001),脱後10分と脱後24時間(p<0.001),脱後20分と脱後24時間(p<0.001),脱後30分と脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間と脱後24時間(p<0.01)に有意な差を認めた(図1b).中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(図1c).8.38.28.18.07.97.87.77.67.5角膜曲率半径(mm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***************n=34Scheffetest:*p=0.0133,**p<0.01,***p<0.001図1bHCL脱後の角膜曲率半径の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後,脱後5分,10分,20分と比較し,脱後24時間の角膜曲率半径は有意に低下していた(p<0.001).同様に,脱後30分より脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間より24時間(p<0.01)に有意な低下を認めた(Scheffetest).600580560540520500中心角膜厚(μm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間n=34図1cHCL脱後の中心角膜厚の経時的変化(平均値±標準偏差)中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(Scheffetest).15141312111098眼圧(mmHg)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***n=34Scheffetest:*p=0.0267,**p=0.0016図1aHCL脱後の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後と比較し,脱後10分,脱後20分の眼圧は有意に低下していた(それぞれp=0.0016,p=0.0267).30分以降の眼圧は,脱直後の眼圧と有意差は認めなかった(Scheffetest).(141)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101001検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関検討①において,眼圧はHCL脱直後に比べ,脱後10分および脱後20分に有意な低下を認めたことから,HCL脱直後と脱後10分および脱直後と脱後20分の間の眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚それぞれの変化量を算出し,眼圧変化量と角膜曲率半径変化量,眼圧変化量と中心角膜厚変化量の相関について検討を行った.結果,HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に相関は認めなかった(図2a)が,脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量はわずかに有意な相関が認められた(単回帰分析y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(図2b).また,眼圧変化量と中心角膜厚変化量は両時間とも相関は認めなかった(図3a,b).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1615141312111010:0010:0510:1010:2010:3011:00時間n=10眼圧変化量(mmHg)図4くり返し眼圧測定を行ったCL非装用群の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)CL非装用者に対し,検討①と同様の時間帯で非接触眼圧計による複数回の眼圧測定をくり返したが,眼圧は有意な経時的変化を示さなかった(Scheffetest).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2bHCL脱後と脱後20分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量には,わずかに有意な相関が認められた(y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3bHCL脱直後と脱後20分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1002あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(142)検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化HCL装用者と同様の方法にて,くり返し眼圧測定を行ったCL非装用者の眼圧値には有意な経時的変化は認められなかった(図4).III考按検討①の結果において,眼圧の経時的変化は,脱直後と比べ脱後10分および20分に有意な低下がみられた.これに対し,検討②:眼圧と角膜曲率半径,眼圧と角膜厚の関連性について,相関が認められたのは,脱直後と脱後20分における眼圧変化量と角膜曲率半径変化量のみであった.このことから,HCL脱後の眼圧下降に対する角膜曲率半径および中心角膜厚の影響は無視できる程度であると考えられた.野々村ら11)は,成熟白色家兎20匹を用いた動物実験において,眼瞼の上から15分間の指の圧迫によるマッサージを施行し,全例に眼圧値の顕著な低下を認めている.これより,今回のHCL脱後の眼圧低下にもマッサージ効果が関与している可能性が推測される.このマッサージ効果を生じる要因の一つとしてくり返しの眼圧測定が考えられる.今回の眼圧測定に用いた非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)は,空気圧平型の眼圧計である.これは空気の噴射によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間から眼圧を求める機械である.噴射される空気圧は微弱であり,本来は眼圧に影響を及ぼすには至らないことが前提となっている.しかしながら,HCL脱直後の測定開始から脱後10分の測定終了までは,短時間の間に何度も測定を行わなければならなかった.1回の空気圧は微弱ではあるが,これがくり返されたことで,前述のようなマッサージ効果が生じた可能性が考えられる.マッサージ効果を生じる他の要因としては,HCL装脱時における,指による眼瞼および眼球への圧迫によるものが考えられる.HCLをはずす場合は指で目尻を押さえ,その指を耳側やや上方へ引っ張り,軽く瞬目してはずす方法や,上下眼瞼を両手人差し指で押さえ,レンズを固定しながら両眼瞼ではじき出す方法が一般的である12).マッサージ効果を生じ得る,これら2つの要因の両者,もしくは一方により眼圧が低下した可能性が考えられるが,検討③の結果から,HCL装用者,CL非装用者の測定方法が同様であるにもかかわらず,CL非装用者の眼圧値に有意な変化を認めなかったことから,HCL脱後の眼圧低下は,眼圧測定時の空気圧によるものではなく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果の影響によるものと判断した.さらに,HCL脱後30分以降には眼圧に有意な低下がみられなかったことから,脱後30分以降にはマッサージ効果が減弱するとともに,眼圧値が緩やかに上昇し,安定したと考える.HCL脱後の角膜曲率半径の変化は,眼圧値に影響を及ぼすには至らない程度であったと述べた.しかしながら,結果から角膜曲率半径は,各測定時間と比較し,HCL脱後24時間のみに有意な低下を認めた.CL装用による角膜曲率の長期的変化については急峻化,不変,扁平化の3通りの報告8,9,13,14)がある.石川ら15)によるとHCL長期装用例において角膜の扁平化を認め,従来いわれているmoldingeffect13,14)によるものであると説明している.またWilsonら10)は,HCLにより角膜が変形した眼では,レンズの装用中止後にTopographicModelingSystem(TMS)所見上で角膜形状が正常に回復するまでには,酸素透過性(RGP)HCLでは平均10週間,PMMA(ポリメチルメタクリレート)HCLでは15週間を要すると報告している.これらのことを踏まえると,今回も同様にHCL装用により角膜が扁平化し,さらにHCLを排除することで,HCLによる圧迫が除外され,本来の角膜形状に回復する過程でHCL脱後24時間に有意な急峻化を認めたと考えられる.また,検討②:眼圧と角膜曲率半径の変化量との関連性を検討した結果では,脱直後と脱後20分のみではあるが,両者の変化量は,わずかに有意な相関が認められた.藤田ら16)は,円錐角膜を有する8名10眼を対象とし,HCL脱後の角膜形状の経時的変化を検討し,HCL脱直後から20分後まで有意な変化がみられたと報告しており,円錐角膜に対するorthokeratology効果の評価は少なくともHCL脱後20分以降に行うべきであるとしている.このことから,HCL脱後の曲率半径が大きな変化を生じる対象には眼圧測定時間を考慮すべきであり,眼圧測定はHCL脱後20分以降に行う必要があると推察される.HCL装用に伴う角膜厚の変化について,短期的にはCL装用が原因して起こる浮腫による角膜厚増大,長期的には慢性的低酸素状態に基づく実質の菲薄化6,9,17)が報告されている.特に長期装用例ではCL脱直後に角膜厚を測定すると,これらの変化が相殺され見かけ上の変化を示さない可能性がある17).今回の角膜厚測定に際し,このような角膜厚の変化が相殺された状態を測定した可能性は否定できず,結果に有意な変化を認めなかった要因となりうると考えられる.前述の濱野ら7)は,同研究においてPMMAレンズ装用眼の角膜厚肥厚率は6.9%であったのに対し,RGPレンズ装用眼では変化を認めなかったとし,HCLの材質による角膜厚への影響の差についても報告している.本検討を行うにあたり,使用するHCLは指定せず対象が常用しているHCLを用い,材質は考慮していない.このことが結果に影響を及ぼした可能性もあり,今後,材質による角膜厚への影響についてもさらなる検討が必要と考える.今回HCLによる角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討を行った.HCL脱後の眼圧は有意な低下を認めたが,角膜曲率半径および中心角膜厚の変化が眼圧値へ及ぼす影響は小さく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果が原因であると考えられた.またその効果はHCL脱後20(143)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101003分まで持続し,眼圧測定値が変動しやすく本来の眼圧値より誤差を生じる可能性が示唆された.HCL装用者の眼圧測定において,より安定した値を得るためには脱後30分以降に測定することが望ましいと考えられた.文献1)MarkHH:Cornealcurvatureinapplanationtonomertry.AmJOphthalmol76:223-224,19732)松本拓也,牧野弘之,新井麻美子ほか:開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定に及ぼす影響.臨眼52:177-182,19983)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Aplanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol53:34-43,19754)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)MichaelJD,MohammedLZ:Humancornealthicknessanditsimpactofintraocularpressuremeasures:Areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,20006)LiesegangTJ:Physiologicchangesofthecorneawithcontactlenswear.CLAOJ28:12-27,20027)濱野光,前田直之,濱野保ほか:TMSデータを利用した角膜形状変化の解析─ハード系コンタクトレンズ装用による影響─.日コレ誌34:204-210,19928)LevensonDS:ChangeincornealcurvaturewithlongtermPMMAcontactlenswear.CLAOJ9:121-125,19839)LiuZ,PflugfelderSC:Theeffectoflong-termcontactlenswearoncornealthickness,curvature,andsurfaceregularity.Ophthalmology107:105-111,200010)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Topographicchangesincontactlens-inducedcornealwarpage.Ophthalmology97:734-744,199011)野々村正博:眼球マッサージの毛様体におよばす影響.日眼会誌89:214-224,198512)植田喜一:コンタクトレンズの装脱.眼科診療プラクティス94:88-91,200313)Ruiz-MontenegroJ,MafraCH,WilsonSEetal:Cornealtopographicalterationsinnormalcontactlenswearers.Ophthalmology100:128-134,199314)SanatyM,TemelA:Cornealcurvaturechangesinsoftandrigidgaspermeablecontactlenswearersaftertwoyearsoflenswear.CLAOJ22:186-188,199615)石川明,片倉桂,高橋里美ほか:コンタクトレンズ装用者におけるORBSCANIIによる角膜経常の検討.日コレ誌47:124-133,200516)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:HCL除去後1時間までの円錐角膜の形状変化.あたらしい眼科15:1299-1302,199817)HoldenBA,SweeneyDF,VannasAetal:Effectsoflong-termextendedcontactlenswearonthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1489-1501,1985***