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角膜移植・濾過手術既往眼に眼内炎を発症した1 例

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1119.1124,2022c角膜移植・濾過手術既往眼に眼内炎を発症した1例山中碧*1,2赤木忠道*1,3高橋綾子*1須田謙史*1亀田隆範*1池田華子*1三宅正裕*1長谷川智子*1辻川明孝*1*1京都大学大学院医学研究科眼科学教室*2京都桂病院眼科*3新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野CACaseofEndophthalmitisAfterPenetratingKeratoplastyandTrabeculectomyMidoriYamanaka1,2)C,TadamichiAkagi1,3)C,AyakoTakahashi1),KenjiSuda1),TakanoriKameda1),HanakoO.Ikeda1),MasahiroMiyake1),TomokoHasegawa1)andAkitakaTsujikawa1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicine,KyotoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoKatsuraHospital,3)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:角膜移植・濾過手術後の唯一眼に眼内炎を発症した症例を報告する.症例:58歳,男性,両眼角膜変性症に対して全層角膜移植術の既往がありC16年前に両眼続発緑内障に対して濾過手術を施行されていた.X年末より感冒症状があり翌年C1月C2日に右眼霧視の増悪を自覚し京都大学医学部附属病院眼科を受診した.右眼視力は手動弁,左眼は光覚なし,右眼眼圧C10CmmHg.耳上側に無血管性の濾過胞とその周囲に強い結膜充血を認め,著明な角膜混濁のため前房内や眼底は透見不能だった.濾過胞感染と診断し,抗菌薬治療を開始するも超音波検査で硝子体混濁が増悪したためC1月C4日・9日に内視鏡併用硝子体手術を施行した.内視鏡下では虹彩の表面と網膜前面に多量のフィブリンを認めた.術後眼内炎は鎮静を得られ術後C3カ月時には右眼矯正視力はC0.08に改善した.結論:本症例では角膜混濁のために感染の波及範囲を把握することに難渋したが,眼内内視鏡併用硝子体手術により眼内炎の鎮静を得られた.CPurpose:Toreportacaseofendophthalmitisthatoccurredafterpenetratingkeratoplasty(PKP)andtrabec-ulectomy(TLE)C.Case:Thiscaseinvolveda58-year-oldmalewithahistoryofbilateralPKPforcornealdystro-phyandTLEforsecondaryglaucomawhopresentedattheendofayearwiththeprimarycomplaintofblurredvisioninhisrighteye(theonlyeyewithvision)followingcoldsymptomsandfever.Theobservedischemicblebwithconjunctivalhyperemiasuggestedblebinfection.Theposteriorsegmentoftheeyecouldnotbeobservedduetocornealopacity.Despitetreatmentwithanintravitrealantibioticinjection,theechointensityinthevitreouspro-gressed.CEndoscopicCvitrectomyCperformedConCJanuaryC4,CrevealedCmassiveC.brinConCtheCirisCandCretina.CAtC3-monthsCpostoperative,CtheCinfectionCwasCcontrolledCandCvisualCacuityChadCimprovedCtoC0.08.CConclusion:Endo-scopicvitrectomyisausefulmethodforthetreatmentofendophthalmitisreultingfromblebitiswithcornealopaci-ty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1119.1124,C2022〕Keywords:濾過胞感染,角膜混濁,眼内炎,眼内内視鏡.blebinfection,cornealopacity,endophthalmitis,endo-scopicvitrectomy.Cはじめに全層角膜移植術の術後は,周辺虹彩前癒着や移植片に対する拒絶反応防止のためのステロイド使用などにより眼圧が上昇し,続発緑内障を発症するリスクがある1,2).緑内障に対する手術治療ではステロイドの影響が大きい患者などでは線維柱帯切開術などの流出路再建術が奏効することもあるが,実際には濾過手術を要することも少なくない3).濾過手術後の感染は視機能予後に大きく影響する重篤な合併症であるが,線維柱帯切除術後に濾過胞感染を発症する確率はC5年間でC2.2%,あるいはC10年間でC2%と報告されており,まれならず発症しうることに注意が必要である4,5).一方で,角膜混濁の高度な症例で濾過胞感染が疑われた場合,眼内への炎〔別刷請求先〕須田謙史:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町C54京都大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:KenjiSuda,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,54Kawahara-cho,Shogoin,Sakyo-ku,Kyoto606-8507,JAPANC図1初診時の右眼前眼部および超音波Bモード所見a:初診日の前眼部所見.角膜および前房内は混濁していた.Cb:初診日の眼球結膜所見.耳上側に無血管性の濾過胞を認め,周囲は強い充血を認めた.Cc:初診日の超音波CBモード所見.軽度の硝子体混濁を認めた.Cd:初診C2日後の超音波CBモード所見.後極部に高輝度な膜様構造物を認めた.症波及を正確に診断することがむずかしいことが問題点としてあげられる.今回,角膜移植後の唯一眼に施行された線維柱帯切除術後に眼内炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,男性.主訴:右眼霧視,右眼視力低下.現病歴:小児期より両眼角膜変性症があり,両眼とも複数回の全層角膜移植術の既往があった.25年前に右眼に白内障手術が施行され右眼無水晶体眼となった.16年前に両眼の続発緑内障に対して線維柱帯切除術が施行されたが,左眼は眼圧コントロール不良でC9年前に光覚なしとなっていた.右眼は無水晶体眼用コンタクトレンズを日常装用しており,近医にて定期的に通院加療中であった.右眼矯正視力はC0.2であった.X年C12月C27日頃より感冒症状,発熱がありCX+1年C1月C2日に右眼霧視の増悪を自覚し急病診療所を受診し即日京都大学医学部附属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.当科初診時現症:右眼視力は手動弁,右眼眼圧はC10mmHgであった.角膜には混濁と著明な結膜血管の侵入を認め,前房内にはフィブリンと思われる混濁を認めた.耳上側に無血管性の濾過胞とその周囲に強い結膜充血を認め(図1a,b),濾過胞からは房水の漏出を認めた.著明な角膜混濁のため眼底は透見不能であり,超音波CBモード検査では軽度の硝子体混濁を認めた(図1c).血液検査では白血球数は8,070/μl(好中球C79%),CRP6.1Cmg/dlと高値を認め,プロカルシトニン弱陽性(0.062Cng/ml)だった.経過:濾過胞感染を疑い眼脂,前房水,血液より検体を採取し培養に提出した後,バンコマイシン塩酸塩(VCM,10図2内視鏡併用硝子体手術中の眼内所見a:初回手術時の前房内所見.内視鏡下では虹彩の表面に多量のフィブリンを認めた(C.).b:初回手術時の眼底所見.網膜前面にも多量のフィブリンを認めた.Cc:再手術時の広角眼底観察システム下での前眼部所見.Cd:再手術時の広角眼底観察システム下での眼底所見.硝子体腔に多量のフィブリンを認めた.前房内のフィブリンを除去することにより,広角眼底観察システムでも後極部は観察可能となった.視神経乳頭の色調は良好であった.e:再手術時の内視鏡下での周辺部網膜所見.一部の網膜血管の白線化を認めた.mg/ml,0.1Cml),セフタジジム水和物(CAZ,20Cmg/ml,0.1Cml)の前房内注射を行いモキシフロキサシン塩酸塩,セフメノキシム塩酸塩のC1時間おきの点眼およびCVCM1g/日,CCAZ1g×2/日の静脈内投与を開始した.しかしC2日後(1月C4日)の超音波CBモード検査で硝子体腔内のエコー輝度の上昇を認めたため(図1d),同日緊急で内視鏡併用硝子体切除術を施行した.内視鏡下では虹彩の表面と網膜前面に多量のフィブリンを認めたためこれらをC25ゲージ硝子体カッターで可及的に切除した(図2a,b).1月2日に採取した前房水培養からインフルエンザ桿菌を同定したためC1月C4日に感受性に合わせて静脈内投与の抗菌薬をセフトリアキソンナトリウム水和物(CTRX)2CgC×2/日に変更した.また,1月C5日からはC36時間おきにCVCM(10mg/ml,0.1Cmg),CAZ(20Cmg/ml,0.1Cmg)を硝子体内注射していたが,再び透見性が悪化し,炎症の増悪が疑われたため,同月C9日に内視鏡併用硝子体手術および濾過胞切除を施行した.内視鏡下で硝子体腔に多量のフィブリンを認め,一部の網膜血管の白線化を認めたが,視神経乳頭の色調は比較的良好だった(図2c,d,e).術中に網膜裂孔形成を認めたため裂孔周囲に網膜光凝固を施行し,シリコーンオイルを留置した.2回目の硝子体手術後,眼内炎は鎮静を得られ,硝子体ならびに眼底の透見性は改善した(図3).1月C15日に抗菌薬静脈内投与を終了した.2月C27日にシリコーンオイル抜去.術後C3カ月時には右眼眼圧はC7mmHg,右眼矯正視力はC0.08に改善した.しかし,術後C1年C3カ月が経過したころより移植片の混濁が進行し,右眼矯正視力がC0.03に低下,右眼眼圧がC17CmmHg程度に上昇した.眼圧下降剤(タフルプロスト,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼)を使用するも右眼眼圧C22CmmHgに上昇し,術後C2年C3カ月時にマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した.X+3年3月(最終受診時),右眼矯正視力はC0.03,右眼眼圧はC12CmmHg(タフルプロスト,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼下),角膜混濁に対する角膜移植術を検討している.本症例の治療経過を図4に示す.図3術後の右眼前眼部・後眼部所見a:再手術C12日後の前眼部所見,Cb:再手術C1年後のCGoldmann視野検査,Cc:再手術C12日後の眼底所見,Cd:再手術C23日後の眼底COCT画像.眼底の透見性は改善した.(mmHg)30X+3年3月26日MP-CPC25X+1年1月4日X+1年1月9日X+1年2月27日0.07vitrectomyPPV+濾過胞切除+SOSO抜去x+3年203/27時点0.05眼圧15VCM,CAZ前房内投与VCM,CAZ硝子体内投与右矯正視力0.030.030.01右眼圧1012mmHg指数弁5手動弁光覚便0x+1年1/21/41/91/214/1x+2年x+3年VCM+CAZdivCTRXdiv2/32/22図4本症例の治療経過矯正視力当院初診時からの右眼矯正視力(橙折れ線)および右眼眼圧(青折れ線)の推移,および施行した投薬・手術の内容を示す.CAZ:セフタジジム水和物,CMX:セフメノキシム塩酸塩,CTRX:セフトリアキソンナトリウム水和物,MFLX:モキシフロキサシン塩酸塩,MP-CPC:マイクロパルス毛様体光凝固術,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,SO:シリコーンオイル,VCM:バンコマイシン塩酸塩.II考按本症例はC16年前に施行された線維柱帯切除術で作製された濾過胞からの感染による眼内炎と診断した.本症例には濾過手術の他に複数回の全層角膜移植術の既往,無水晶体眼であり長期のコンタクトレンズ装用の既往,当院受診数日前からの発熱などの要素が随伴していた.鑑別診断としては濾過胞感染の他に1)角膜移植術後の移植片感染や拒絶反応,2)コンタクトレンズ装用に伴う角膜潰瘍,3)内因性眼内炎などが考えられた.角膜移植術後の移植片感染に関しては,移植後C12カ月経過してから感染したという報告がある6).また,移植片の拒絶反応に関しては緑内障手術後にはそのリスクが上昇することも指摘されており,マイトマイシンCCの使用や前房内サイトカインの上昇,血液前房関門の破綻などがその理由として考えられている2).しかし,移植手術から数十年が経過していること,また,前眼部の所見からも移植片感染や拒絶反応を積極的に疑う状態ではなかった.コンタクトレンズ装用に伴う角膜感染の可能性に関しても,角膜上皮欠損を伴っていなかったために否定的であった.内因性眼内炎に関しては初診時の血液検査にてCCRPに高値を認めたものの白血球数の増加が軽微であることから積極的には疑わなかった.図1aで示したように,耳上側の無血管性濾過胞,その周囲の結膜充血および濾過胞からの房水漏出の所見から,濾過胞感染の可能性がもっとも高いと考えた.濾過胞感染のおもなリスクは房水漏出および年齢が若いことであると報告されている4).本症例も初診時に房水漏出を認め,またC58歳と比較的若年であったため感染のリスクは高かったと考えられる.房水漏出に関連した因子としては,無血管性濾過胞であったこと,コンタクトレンズを装用していたことがあげられる.Kimらの報告では濾過胞感染を発症したC24眼のうちC22眼が無血管性濾過胞を有しており5),無血管性濾過胞と濾過胞感染に密接な関連があることが示唆されている.また,Ex-PRESS挿入後の濾過胞感染の報告ではC5例中C2例がコンタクトレンズ装用眼であった(1例が円錐角膜のためにハードコンタクトレンズを,もうC1例が強度近視のためにソフトコンタクトレンズを装用していた)7).いずれの症例でも濾過胞からの房水漏出を認めており,コンタクトレンズによる機械的刺激が房水漏出や濾過胞感染の引き金になっていると考えられるが,コンタクトレンズ表面に形成されるバイオフィルムが細菌感染に関与している可能性も推察されている8).濾過胞感染症はCStageIからCStageIIIbまでのC4段階に分類される4).StageIは濾過胞炎,StageIIは濾過胞炎に加え前房内波及を認めるもの,StageIIIは硝子体内波及を認めるものと定義され,抗菌薬の硝子体内注射や抗菌薬全身投与が選択される.とくに硝子体内波及が高度なものはCStageIIIbと定義され,硝子体混濁が高度であれば速やかに硝子体手術を行う必要がある.本症例では細隙灯顕微鏡所見からは前房内波及は確実であったが,角膜移植術後の角膜混濁が高度であることも影響し硝子体内波及の程度が不明であった.ただし無水晶体眼であることは感染の前房内波及がすなわち硝子体内波及も意味するため,StageIII以上という判断が妥当と考えられた.StageIIIbであれば速やかな硝子体手術が必要と考えられたが,超音波CBモードで硝子体混濁が軽度と判断したこと(図1c),また,角膜混濁眼であるため硝子体手術中の眼内観察が困難であることが予想され,年末年始の休暇中であり人手や器材の十分な確保ができなかったことから,抗菌薬の眼内注射を行う方針とした.StageIIIaでは硝子体内注射を行うことになっているが,無水晶体眼であること,これまでの病歴や手術内容・手術回数の詳細が不明であり濾過胞の数や範囲が特定できなかったことから,抗菌薬は前房内を通じて硝子体側に向けて注射を行った.角膜混濁を合併している患者に硝子体手術を行う際にはいくつかの選択肢が考えられる.大別すると,1)角膜混濁を除去してから硝子体手術を行う(全層角膜移植術との同時手術9),一時的人工角膜の使用10)),2)眼内視認性を向上させるデバイスを使用する(広角観察系システム,眼内内視鏡など)となるが,当院では角膜移植治療を行っておらず,後者しか選択することができなかった.また,昨今日進月歩の改良が行われている広角観察系システムを使用することで本症例でもある程度の眼内観察を行うことができたが(図2c,d)十分な視認性は得られなかったため,眼内内視鏡を併用することとなった(図2e).DeSmetらの眼内炎に関する症例集積研究では,眼内内視鏡が濾過胞感染に対する手術にも使用されており,最終的には眼球摘出を余儀なくされた症例もあった一方で,視機能改善を得られた症例も報告されている11).また,Daveらは角膜混濁を伴う眼内炎の治療に眼内内視鏡を利用し,82%の症例で不要な角膜移植術を回避できたと報告している12).緑内障診療で三次医療を担う施設においては重度の角膜混濁を伴う濾過手術症例が取り扱われることも多いため,角膜混濁を伴うCStageIIIの濾過胞感染に対する対応を常日頃から準備しておくことが望ましい.今回,角膜移植・濾過手術後の唯一眼に眼内炎を発症した症例を経験した.年末年始の休暇中に初診として来院されたため初期対応に難渋したが,眼内内視鏡を併用した硝子体手術により眼内炎は鎮静を得られ,視機能を残存させることができた.角膜混濁を伴う濾過胞感染はまれであるが緊急的に対応を行う必要があるため,常日頃から眼内炎の対応を準備しておくことが望ましい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BanittCM,CLeeRK:ManagementCofCpatientsCwithCcom-binedCglaucomaCandCcornealCtransplantCsurgery.CEye(Lond)C23:1972-1979,C20092)KornmannH,GeddeS:Glaucomamanagementaftercor-nealCtransplantationCsurgeries.CCurrCOpinCOphthalmolC27:132-139,C20163)IshiokaM,ShimazakiJ,YamagamiJetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforpost-keratoplastyglaucoma.BrJOphthalmolC84:714-717,C20004)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CCollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20156)ChenCH-C,CLeeCC-Y,CLinCH-YCetal:ShiftingCtrendsCinCmicrobialCkeratitisCfollowingCpenetratingCkeratoplastyCinTaiwan.Medicine(Baltimore)C96:e5864,C20177)YarovoyD,RadhakrishnanS,PickeringT-Detal:Blebi-tisCafterCEX-PRESSCglaucomaC.ltrationCdeviceCimplanta-tion-Acaseseries.JGlaucomaC25:422-425,C20168)ZegansME,BeckerHI,BudzikJetal:Theroleofbacte-rialCbio.lmsCinCocularCinfections.CDNACCellCBiolC21:415-420,C20029)DaveCA,CAcharayaCM,CAgarwalCMCetal:OutcomesCofCcombinedCkeratoplastyCandCparsCplanaCvitrectomyCforCendophthalmitisCwithCcompromisedCcornealCclarity.CClinCExperimentOphthalmolC47:49-56,C201910)KimCSH,CKimCNR,CChinCHSCetal:EckardtCkeratoprosthe-sisCforCcombinedCparsCplanaCvitrectomyCandCtherapeuticCkeratoplastyinapatientwithendophthalmitisandsuppu-rativeCkeratitis.CJCCataractCRefractCSurgC46:474-477,C202011)DeCSmetCMD,CCarlborgEAE:ManagingCsevereCendo-phthalmitiswiththeuseofanendoscope.RetinaC25:976-980,C200512)DaveCV,CPappuruCR,CKhaderCMCetal:EndophthalmitisCwithCopaqueCcorneaCmanagedCwithCprimaryCendoscopicCvitrectomyCandsecondaryCkeratoplasty:PresentationsCandoutcomes.IndianJOphthalmolC68:1587-1592,C2020***

角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1 例

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):978.981,2022c角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1例千葉麻夕子*1,2大口剛司*1,3三田村瑞穂*1金谷莉奈*1野田友子*1,4田川義晃*1木嶋理紀*1岩田大樹*1田川義継*5石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究院眼科学教室*2北海道医療センター眼科*3大口眼科クリニック*4KKR札幌医療センター眼科*5北1条田川眼科CACaseofMultipleMyelomaDiagnosedbyCornealFindingsMayukoChiba1,2),TakeshiOhguchi1,3),MizuhoMitamura1,3),RinaKanaya1),TomokoNoda1,4),YoshiakiTagawa1),RikiKijima1),DaijuIwata1),YoshitsuguTagawa5)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,2)COphthalmology,HokkaidoMedicalCenter,3)OhguchiEyeClinic,4)CDepartmentofCenter,5)TagawaEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,KKRSapporoMedical目的:角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の症例を報告する.症例:84歳,男性.両眼の視力低下を主訴に近医受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内で,角膜混濁および白内障を指摘された.白内障手術が施行されたが,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられ精査目的に北海道大学病院を紹介受診した.両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い不定形な混濁がみられ,上皮下には渦状の混濁を伴っていた.鑑別として多発性骨髄腫による角膜混濁が考えられたため血液検査を施行したところ,貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認め,骨髄検査にて多発性骨髄腫の診断となった.化学療法が開始され,角膜混濁および霧視症状の改善を認めた.結論:多発性骨髄腫により角膜混濁を生じた症例を経験した.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫を疑い,全身精査を行うべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofmultipleCmyeloma(MM)diagnosedCbyCcornealC.ndings.CCaseReport:An84-year-oldCmaleCinitiallyCvisitedCanCeyeCclinicCcomplainingCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inCbothCeyes.CUponCexamination,CcornealCopacitiesCandCcataractsCwereCdetected,CandCalthoughCcataractCsurgeriesCwereCperformed,CtheCVACinCbothCeyesCdidCnotCimproveCandCblurredCvisionCdueCtoCcornealCopacitiesCgraduallyCdeveloped.CThus,CheCwasCreferredtoourhospitalfortreatment.Slit-lampexaminationrevealedapalehazeovertheentirecornealregioninbothCeyes,CaccompaniedCwithCanCatypicalCsubepithelialCspiral-shapedC.gure.CBloodCtestC.ndingsCrevealedCanemia,Chyperproteinemia,Chypoalbuminemia,CandCrenalCdysfunction.CAfterCaCboneCmarrowCexamination,CheCwasCdiagnosedCwithCMMCandCtreatedCwithCchemotherapy,CwhichCledCtoCimprovementsCofChisCcornealCopacityCandCblurredCvision.CConclusion:AlthoughCocularC.ndingsCcanCbeConeCofCtheCinitialCsymptomsCofCMM,CwhenCanCunexplainedCcornealCopacityCisCdetectedCinCtheCelderly,CMMCshouldCbeCconsideredCasCaCdi.erentialCdiagnosisCandCthoroughCsystemicCexaminationsshouldbeconducted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):978.981,C2022〕Keywords:多発性骨髄腫,M蛋白,角膜混濁.multiplemyeloma,Mprotein,cornealopacity.はじめに多発性骨髄腫は単クローン性に増殖した形質細胞から大量の免疫グロブリン(M蛋白)が分泌される疾患である.病的骨折や貧血症状,高カルシウム血症,易感染性など多彩な症状をきたし,初発症状は骨痛が多い1).わが国では人口C10万人当たり約C5人の発症率で,死亡者数は年間C4,000人前後であり,発症率,死亡率ともに年々増加傾向にある2).眼所見としては腫瘍の眼窩内浸潤や,過粘稠度症候群による網膜病変などの報告が多い3).今回筆者らは,角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕千葉麻夕子:〒060-8638札幌市北区北C15条西C7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:MayukoChiba,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPANC978(124)図1初診時前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁,上皮下に不定形な混濁と,左眼に一部渦状の混濁がみられた.CI症例患者:84歳,男性主訴:両眼の霧視.現病歴:両眼の視力低下を主訴に近医を受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内,角膜混濁および白内障を指摘された.前医へ紹介され,両眼の白内障手術が施行された.角膜混濁は軽微で手術は通常どおり終了し,術後の合併症もみられなかった.しかし,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,かつ霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられたため,精査目的に北海道大学病院眼科を紹介受診した.既往歴:喉頭癌術後,甲状腺全摘出後,脂質異常症,肺気腫.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.6(0.8),左眼C0.6(0.9),眼圧は両眼とも正常範囲内だった.角膜内皮細胞密度は右眼C2,833Ccells/mm2,左眼C2,933Ccells/mmC2と両眼とも低下は認めず,細隙灯顕微鏡所見では両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁がみられ,上皮下には不定形な混濁と,左眼には一部渦状の混濁を伴っていた(図1).角膜上皮障害や,実質浮腫,Descemet膜皺襞はみられなかった.また,結膜充血や,角膜後面沈着物,前房炎症はみられなかった.眼底は異常所図2初診時前眼部OCT角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった.図3化学療法開始1カ月後前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)角膜混濁の改善を認めた.見を認めなかった.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった(図2).全身検査所見:採血結果にて,Hb9.9Cg/dl,TP8.4Cg/dl,CAlb3.1Cg/dl,BUN21.6Cmg/dl,Cr1.19Cmg/dlと貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認めた.経過:多発性骨髄腫を疑う血液所見を認め,血液内科に紹介された.血清蛋白分画で高ガンマグロブリン血症を認め,尿中蛋白分画ではCM蛋白の指標となるCBence-Jones蛋白を認め,血清免疫電気泳動ではCM蛋白が検出された.X線検査では頭蓋骨溶骨性病変および胸椎圧迫骨折を認めた.骨髄穿刺・生検にて形質細胞増多を認めた.多発性骨髄腫の診断で,化学療法が開始された.治療開始後,両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁や,上皮下の不定形な混濁および渦状の混濁は改善し,霧視症状も改善がみられた(図3).CII考按多発性骨髄腫に伴うCM蛋白血症により角膜混濁を生じた患者を経験した.本症例は両眼性に角膜全体および全層に混濁を認め,一部渦状混濁を伴っていたことから,原因として薬剤によるものか,もしくは全身疾患によるものが疑われた.薬剤性としてはアミオダロンやクロロキン,インドメタシン,抗癌剤などが鑑別に上がる4,5).本症例の内服薬はレボチロキシン,アレンドロン酸,アンブロキソール,アトルバスタチン,酸化マグネシウム,ロラゼパム,ルビプロストン,ツロブテロール,ジクロフェナクCNaと合致するものは認めなかった.また,全身疾患としてはCFabry病やシスチン尿症,ムコ多糖類代謝異常,多発性骨髄腫などが鑑別に上がる6,7).年齢や経過から代謝性疾患は否定的で,全身検査結果から多発性骨髄腫の診断となった.多発性骨髄腫の角膜所見はCM蛋白が角膜内に沈着することにより生じる.両眼性で角膜上皮,Bowman膜,実質内のあらゆる層にびまん性の混濁をきたし4),結晶状の沈着物を上皮および実質内に認める場合もある3,8).角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,いずれの経路由来であるかは不明である9).また,本症例のように上皮下に渦状混濁をきたす例も報告されている10).過粘稠度症候群による網膜病変や腫瘍の眼窩内浸潤を契機に発見された多発性骨髄腫の症例は散見される11.14)が,角膜所見から多発性骨髄腫が発見された報告はまれである8,10).多発性骨髄腫のうち治療対象となるものはCCRABと称される臓器障害である高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変のうち一つ以上を有する症候性多発性骨髄腫であり,65歳以下かつ基礎疾患のない場合には自家造血幹細胞移植と全身化学療法が併用され,それ以外の場合には全身化学療法のみが適応となる2).本症例は年齢より自家造血幹細胞移植の適応とはならず,全身化学療法が施行された.本症例は角膜所見を初発として発見された多発性骨髄腫の患者であった.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,とくに高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫の可能性を疑い,全身精査を行うべきである.利益相反石田晋【F】(IV)参天製薬株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,バイエル薬品株式会社,株式会社ニデック,株式会社ボナック【P】文献1)池田昌弘,鈴木憲史:M蛋白・骨病変から骨髄腫の診断への道.MedicalPracticeC32:276-280,C20152)日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン.20183)小川葉子:多発性骨髄腫.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p769-770,医学書院,20164)中司美奈:高ガンマグロブリン血症.角膜疾患改訂第C2版(木下茂編),p243,メジカルビュー社,20155)山田昌和:角膜障害をきたす全身薬.あたらしい眼科C35:C1335-1338,C20186)山田昌和:角膜上皮の沈着物.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p346-347,C20167)加藤卓次:M蛋白血症.前眼部アトラス(大鹿哲郎編),眼科プラクティス,p162,文光堂,20078)LiN,ZhuZ,YiGetal:Cornealopacityleadingtomulti-pleCmyelomaCdiagnosis:ACcaseCreportCandCliteratureCreview.AmJCaseRepC19:421-425,C20189)細谷比左志:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁.あたらしい眼科C25:1515-1516,C200810)SharmaP,MadiAH,BonshekRetal:Cloudycorneasasaninitialpresentationofmultiplemyeloma.ClinOphthal-molC8:813-817,C201411)名取一彦,和泉春香,石原晋ほか:眼球突出を初発症状として診断された多発性骨髄腫のC1例.癌の臨床C53:395-398,C200712)村田一弘,高木大介,白木育美ほか:著明な乳頭浮腫で発見されたCIgG-k型多発性骨髄腫のC1例.眼科C57:59-64,C201513)関伶子,坂上富士男,難波克彦ほか:特異な眼底変化を伴った多発性骨髄腫のC2例.眼紀C36:580-585,C198514)野田拓也,高木優介,長谷川愛ほか:多発性骨髄腫による圧迫性視神経症のC1例.眼科C61:199-203,C2019***

高度な角膜障害を発症したため,バルベルト緑内障インプラントを摘出した1例

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):975.979,2020c高度な角膜障害を発症したため,バルベルト緑内障インプラントを摘出した1例砂川珠輝*1小菅正太郎*1太田博之*2横山康太*2齋藤雄太*2恩田秀寿*2*1昭和大学江東豊洲病院眼科*2昭和大学医学部眼科学講座CACaseofBaerveldtGlaucomaImplantExtractionforSevereCornealDisorderTamakiSunakawa1),ShotaroKosuge1),HiroyukiOta2),KotaYokoyama2),YutaSaito2)andHidetoshiOnda2)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversityKoto-ToyosuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicineC目的:バルベルト緑内障インプラント(BGI)挿入術を施行後C27カ月目に遷延性角膜浮腫を発症しCBGIを摘出したC1症例を報告する.症例:32歳,男性.既往歴はアトピー性皮膚炎,糖尿病.他院にて併発白内障で両眼白内障手術を施行後,右眼眼圧上昇を認め,線維柱帯切除術を施行されるも眼圧が下降しないため,当院受診.初診時眼圧右眼60CmmHg,左眼C43CmmHg.両眼眼内レンズ挿入眼で前眼部清明,眼底所見上視神経乳頭陥凹拡大を認めた.右眼CBGI挿入術を施行し,術後経過良好となり,4カ月後に左眼CBGIを挿入した.両眼チューブは前房内上耳側に留置し,角膜との接触はなく,術後眼圧はC10CmmHg台前半に下降した.術C2年後から左前房内チューブの先端と角膜裏面との間に白色線維性索状物を認め,その位置に角膜混濁を発生した.徐々に混濁は拡大し,遷延性角膜浮腫を認めたため,術27カ月後に左眼CBGIを摘出した.しかし,角膜混濁はさらに悪化したため,左眼全層角膜移植術を施行した.結論:BGI術後の角膜障害はチューブと角膜が接触してなくとも発症することがあり,長期的な経過観察が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCinCwhichCaCBaerveldtglaucomaCimplant(BGI)wasCextractedCatC27-monthsCpostCimplantationCdueCtoCtheCdevelopmentCofCpersistentCcornealCedema.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC32-year-oldCmaleCpatientwithatopicdermatitisanddiabeteswhoexperiencedincreasedintraocularpressure(IOP)inhisrighteyepostcataractsurgery.HewasreferredtoourhospitalaftertrabeculectomyperformedatanotherclinicresultedinnodecreaseofIOP.Uponexamination,theIOPinhisrightandlefteyewas60CmmHgand43CmmHg,respectively,andexpansionofoptic-disccuppingwasobserved.ABGIwasimplantedinhisrighteye,andalsoinhislefteye4monthslater.BothBGItubeswereplacedintotheuppertemporalsideoftheanteriorchamberwithouttouchingthecornea.At2-yearspostoperative,arestiformbodyappearedbetweenthecorneaandthetubeintheleft-eyeanteriorchamber,andcornealopacitywasobserved.Theopacityhadspreadandcausedpersistentcornealedema,sotheBGIinhislefteyewasextractedat27-monthspostoperative.However,thecornealopacityworsenedpostBGICextraction,CsoCpenetratingCkeratoplastyCwasCperformed.CConclusion:EvenCifCtheCBGICtubeCdoesCnotCcontactCwithcornea,cornealproblemsmayoccurpostBGIsurgery.Thus,long-termfollow-upisnecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):975.979,C2020〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,術後晩期合併症,角膜混濁,BGIの摘出.BaerveldtCglaucomaCim-plant,latepostoperativecomplications,cornealopacity,removedBGI.Cはじめに少や水疱性角膜症などの角膜障害があげられる.線維柱帯切バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucoma除術とCBGIを比較したCTubeVersusTrabeculectomyStudyimplant:BGI)挿入術の重篤な術後期合併症の一つに角膜内(TVTStudy)1)において,遷延性角膜浮腫は術後C17%に発皮細胞密度(coronealCendothelialCcelldensity:ECD)の減生したと報告されている.術後浅前房や前房内のチューブの〔別刷請求先〕砂川珠輝:〒135-8577東京都江東区豊洲C5-1-38昭和大学江東豊洲病院眼科Reprintrequests:TamakiSunakawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversityKoto-ToyosuHospital,5-1-38Toyosu,Koto-ku,Tokyo135-8577,JAPANC先端が角膜内皮に接触すること,また眼圧の急激な変化などがCECDの減少原因とされている2.4).今回,BGI挿入術後,前房内のチューブと角膜は接触していないにもかかわらず,急激に遷延性角膜浮腫が進行し,術後C27カ月目にCBGIを摘出するに至ったC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:32歳,男性.主訴:右眼圧上昇.現病歴:2012年に他施設で併発白内障に対し,両眼白内障手術〔右眼水晶体全摘術+眼内レンズ(IOL)縫着術,左眼超音波乳化吸引術+IOL〕を施行された.その後,両眼の眼圧上昇を認め,点眼にて左眼は下降したが,右眼はコントロール不良で線維柱帯切除術,前部硝子体切除術が行われた.しかし術後も右眼眼圧高値が持続するため,2014年C6月に昭和大学病院附属東病院を受診となった.既往歴:アトピー性皮膚炎(皮膚科通院中),2型糖尿病(HbA1c5.5%),高度肥満(身長C161Ccm,体重C130CKg:BMI50以上).家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.4(0.6C×.2.5D(cyl.1.75DAx165°),左眼C1.2(n.c.).眼圧は右眼C60mmHg,左眼C43mmHg.両眼とも角膜は透明で,前房は深く清明であった.右眼はC10時方向に周辺虹彩切除を認め,IOL縫着眼(3,9時結膜下に縫着糸)で,左眼はCIOL挿入眼であった(図1).眼底所見上として右眼は視神経乳頭陥凹拡大を認め,左眼は特記すべき所見はなかった(図2).Goldmann視野検査は右眼湖崎分類CIIb,左眼は正常であった.隅角所見は両眼ともShaffer分類Cgrade4,Scheie分類Cgrade0であり,右眼C2時方向と左眼C6時方向に周辺虹彩前癒着(peripheralanteri-orsynechia:PAS)を認めた.また,ECD値は右眼C2,119個/mm2,左眼C2,410個/mmC2であった.経過:2014年C6月に右眼CBGI(BG101-350)挿入術を施行し,術後眼圧はC15CmmHg前後に下降した.その後外来にて,左眼に対し薬物加療を行うも,眼圧が下降しなかったた図1初診時前眼部写真a:右眼.10時方向に周辺虹彩切除を認める.IOL縫着眼(3,9時結膜下に縫着糸).b:左眼.IOL挿入眼.図2初診時眼底写真a:右眼.視神経乳頭陥凹拡大を認める.b:左眼.特記すべき所見はなかった.図3術後12カ月目前眼部写真(a:右眼,b:左眼)両眼ともチューブは前房内の上耳側に留置されている.図4術後前眼部OCT写真(a:右眼,b:左眼)前房内チューブは角膜と虹彩の中間に位置し,角膜内皮面との接触はない(C.).図5術後24カ月目前眼部写真(左眼)前房内チューブと角膜裏面の間に白色線維性索状物を認め,その位置に角膜混濁が発生.め,同年C10月左眼にもCBGI(BG101-350)挿入術を右眼同所見は,視力右眼C0.9(n.c.),左眼C0.4(n.c.),眼圧右眼C15様に施行した.両眼とも保存強膜パッチを行った.両眼チュmmHg,左眼C10CmmHg,ECD右眼C1,873個/mmC2,左眼ーブは前房内の上耳側に留置され(図3),前眼部光干渉断層2,105個/mmC2であった.隅角所見は両眼とも開放隅角で,計(前眼部COCT;CASIA)で前房内チューブは角膜と虹彩左眼はC6時方向のCPASは増加していたが,隅角・虹彩ともの中間に位置し,角膜内皮面との接触はなかった(図4).術新生血管は認めなった.後眼圧は両眼とも緑内障点眼薬(ブリンゾラミド・チモロー左眼は術後C18カ月目に虹彩新生血管や網膜血管の蛇行,ルマレイン酸塩配合,ブリモニジン酒石酸塩)を使用して,黄斑浮腫を認め,視力(0.08)に低下した.そのためラニビ10CmmHg台前半に落ち着いていた.術後C12カ月目の検査ズマブ硝子体内注射をC1回施行したが,視力の大きな改善は図6BGI抜去手術中写真a:結膜を切開すると厚い被膜に包まれたCBGIを認めた.Cb:被膜を切開し,プレートのホール内を貫通している結合組織を切断した.図8BGI抜去後12カ月前眼部OCT写真(左眼)虹彩前癒着が進行し,前房がほぼ消失した.図7BGI抜去後12カ月前眼部写真(左眼)角膜混濁は改善することなく,ほとんど前房が透見できないほどに悪化.図9PKP後8カ月前眼部写真(左眼)PKPを行うも,徐々に遷延性角膜浮腫の再発を認めた.なかった.また,虹彩新生血管は減少するも消失までは至らなかった.その間,眼圧は緑内障点眼を使用し,10台前半を推移していた.しかし,術後C24カ月目に前房内チューブとC2時方向の角膜裏面との間に,白色線維性索状物を認め,その位置に角膜混濁が発生した(図5).その角膜混濁は徐々に拡大し,遷延性角膜浮腫となり,左眼視力(0.01),ECD約C1,000個/mmC2に低下した.また,前房内の透見性が不良となり,虹彩新生血管の有無などは観察することができなくなった.そのため,術後C28カ月目に左眼CBGI抜去術を施行した.手術はCTenon.下麻酔で行い,結膜を切開し,厚い被膜に包まれたCBGIを露出させた(図6a).そののち,前房内チューブを引き抜き,続いて被膜を切開し,プレートと強膜を縫着している縫合糸およびプレートのホール内を貫通している結合組織を切断し(図6b),BGIを摘出した後,結膜を縫合した.また,術中に病理検査の検体として,前房内のチューブと角膜裏面間に存在した白色線維性索状物を摘出した.その病理所見は,炎症細胞の浸潤を伴わない,扁平な上皮で覆われた無構造な線維様組織であった.しかし,BGIを摘出後も角膜混濁は改善することなく,ほとんど前房が透見できないほどに悪化した(図7).前眼部OCTでは,虹彩と角膜内皮面の癒着が徐々に進行し,前房がほぼ消失した所見を認めた(図8).BGI抜去後C12カ月目には左眼視力は手動弁に低下し,左眼眼圧はC22CmmHgであった.そのため摘出後C22カ月目に全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)を施行した.術直後は角膜の透明性が改善し眼底の透見も可能であったが,全身状態の悪化などで術後加療困難となった時期もあり,徐々に遷延性角膜浮腫の再発が出現した(図9).角膜移植後C8カ月で左眼は視力(0.01),眼圧C16CmmHgとなっており,再度CPKPなどの外科的治療を検討している.右眼は視力C0.6(0.9C×.0.75D(cyl.1.75DAx20°),眼圧16mmHgとなっている.CII考察BGI挿入術は一般的に線維柱帯切除術の不成功例や血管新生緑内障などの難治性緑内障に対し施行される術式であるが,その晩期合併症である角膜浮腫はCTVTStudy1)ではC17%,またCBGIともう一つのロングチューブインプラントであるアーメド緑内障インプラントの手術成績を他施設ランダム化で比較したCAhmedBaerveldtComparison(ABC)Study2)やCAhmedversusBaerveldt(AVB)Study3)においても,それぞれC22%,12%に認めており,比較的高頻度に発生する.その原因としてはチューブの挿入位置不良による物理的な障害や術後の眼圧変動が大きいことなどが影響するのではないか4)といわれている.またCIwasakiら5)は,角膜と前房内に留置されたチューブとの距離が術後CECD減少率と負の相関があると述べている.しかし,今症例は前眼部COCT検査所見上(図4),角膜とチューブとの距離は十分にあったと思われる.また,BGI挿入術後の眼圧もC15CmmHG前後で安定しており,大きな眼圧変動は認めなかった.それにもかかわらず,徐々に角膜混濁を認め,急激に遷延性角膜浮腫が進行し,術後C27カ月目にCBGIを摘出するに至った.患者はアトピー性皮膚炎の既往があるので,日頃からの強い瞬目や眼球圧迫により,前房内チューブが角膜内皮面に近づいて,徐々に角膜障害が起こった6)可能性が考えられる.また,植田ら7)は角膜移植眼に,小菅ら8)はぶどう膜炎続発緑内障にCBGIを挿入し,角膜と留置したチューブとの接触はないにもかかわらず,角膜混濁の悪化やCECDの大きな減少を認めた症例を報告している.そのことから,物理的な障害以外にも角膜を悪化させる要因があると思われる.実際,本例ではCBGI挿入術後C18カ月目に虹彩新生血管を認めた.眼底所見上,網膜血管の蛇行も認めており,網膜中心静脈閉塞症などの網膜血管の閉塞性病変が疑われたが,網膜出血は認めなかった.年齢的にも血管炎によるものではないかと考えられるが,はっきりとした原因はわからなかった.BGI抜去時に採取した白色索状物からは炎症を示唆する物質は認められなかったものの,前房内は血管内皮増殖因子(vascular(79)endothelialCgrowthfactor:VEGF)などの何らかのサイトカインの増加が予想され,そのような環境変化が角膜混濁の誘因になったのかもしれない.今症例ではCBGI挿入後の角膜障害に対しCBGIを抜去したが,抜去後の眼圧コントロールや抜去術の侵襲を考慮すると,BGIを摘出するのではなく前房内チューブを毛様溝に再挿入する対処9)でよかった可能性がある.また,そもそも左眼は緑内障手術の既往がなかったにもかかわらず,右眼にBGIを挿入し良好な眼圧下降を示したという理由で,初回手術からCBGI挿入術を選択した.しかしCBGI挿入術は緑内障診療ガイドライン10)が指摘するように,ロングチューブインプラント挿入術は代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な症例,線維柱帯切除術の成功が見込めない症例などが適応であり,まずは他の緑内障手術を選択すべきであったと思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesCinCtheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)StudyCafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20122)BartonK,FeuerWJ,BudenzDLetal:AhmedBaerveldtComparisonCStudyCGroup:Three-yearCtreatmentCout-comesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.COph-thalmologyC121:1547-1557,C20143)ChristakisCPG,CTsaiCJC,CKalenakCJWCetal:TheCAhmedCversusBaerveldtstudy:Three-yeartreatmentoutcomes.OphthalmologyC120:2232-2240,C20134)赤木忠道:AhmedCBaerveldtStudy(ABCCStudy,CAVBStudy)の長期成績.眼科手術C28:72-76,C20155)IwasakiK,ArimuraS,TakiharaYetal:ProspectivecohortstudyofcornealendothelialcelllossafterBaerveldtglau-comaimplantation.PLoSONEC13:e0201342,C20186)小林賢,杉本洋輔,柳昌秀ほか:広島大学病院におけるバルベルト緑内障インプラントの術後成績.臨眼C70:C315-321,C20167)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部CBaerC-veldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌C115:C581-588,C20118)小菅正太郎,塚越美奈,安田健作ほか:続発緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術.眼科手術C29:149-153,C20169)田辺芳樹,伊藤勇,植田俊彦ほか:バルベルト緑内障インプラントのチューブ先端を毛様溝から挿入したC1例.臨眼68:1459-1462,C201410)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C2018あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C979

涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):217?219,2020c涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例奥拓明*1,2脇舛耕一*1,2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学ACaseofCornealBurnthatOccurredduetotheDiathermyProcedureAppliedforPunctalOcclusionHiroakiOku1,2),KoichiWakimasu1,2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineはじめに外眼部の手術あるいは処置に関係した医原性の眼表面あるいは眼内損傷の症例は多数報告されている.Shiramizuらは霰粒腫摘出時の局所麻酔で網膜内に麻酔薬の誤注入の症例を2例1),Chanらは球後麻酔時の眼内誤注射による症例を1例報告しており2),いずれも高度の視力低下を認めている.また,Luらは角膜異物除去時の灌流中にシリンジから針がはずれることで角膜穿孔に至った1例を報告している3).その他,処置時に消毒薬を誤点入したための角膜化学外傷4,5),美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射6)などの報告がある.通常,外眼部への手術,処置は手術後の視力に直接影響しないが,これらの報告のように,医原性の合併症により重篤な視力低下を生じる可能性がある.今回,手術時のジアテルミー使用による医原性の角膜熱傷で角膜実質混濁を生じ,角膜移植に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:67歳,女性.〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN図2角膜移植後3年経過時の前眼部写真角膜の透明治癒が得られ,視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)であった.図1初診時所見a:初診時の右眼前眼部写真.角膜中央部に角膜実質混濁を認める.b:初診時の右眼前眼部スキャッタリング像.角膜中央部の角膜実質混濁をより明確に把握できる.c:前眼部OCT画像.VisanteOCT(CarlZeissMeditec社)により得られた画像,角膜中央部の実質内に高輝度の反射像を認める.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:なし.現病歴:2008年4月に近医にて右眼ドライアイに対し,涙点閉鎖術を施行された.そのときにジアテルミーの熱遮断器具がはずれており,ジアテルミーの通電部分が角膜に触れ,角膜上皮障害を含む角膜熱傷を生じた.このため,ガチフロキサシンおよびリン酸ベタメタゾンを右眼に1日4回の点眼加療が行われたが改善が認められなかった.2008年8月,角膜混濁などの治療目的で京都府立医科大学眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.01(0.07×sph+15.0D(cyl?2.0DAx90°),左眼0.6(1.0×sph+0.25(cyl?1.0DAx85°),眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,右眼角膜中央部に角膜実質混濁を認めた(図1a,b).前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomog-raphy:OCT)(VisanteOCT,CarlZeissMeditec)断層像でも右眼角膜実質中央部に高輝度となる画像所見を認めた(図1c).スペキュラマイクロスコープ(TOMEY)で測定した右眼角膜内皮細胞密度は角膜中央部では測定不能であったが,角膜周辺部は2,520cells/mm2と正常範囲であった.また,角膜輪部構造は正常であり,角膜上皮幹細胞疲弊症は生じていなかった.経過:保存的加療による角膜混濁の改善を図るため,0.1%フルオロメトロンの1日3回点眼にて経過観察を行った.その後2014年7月の時点で,右眼視力は0.1(0.3×sph?4.0D)まで回復を認めた.矯正視力低下の原因として,角膜混濁のほか角膜不正乱視が考えられたため,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)装用を試行した.しかし,HCL装用下右眼視力(0.4)であり,視力改善を得られなかったため,2015年10月にフェムトセカンドレーザーによるzigzag切開を用いた全層角膜移植術と水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜移植片の透明治癒が得られ,右眼の手術1カ月後の視力は0.06(0.3×sph+9.0D(cyl?8.0DAx40°)となった.手術1年9カ月後に角膜移植片縫合糸の全抜糸を施行し(図2),手術3年後の右眼視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)まで改善した.眼圧は9mmHgであった.経過観察期間中,重篤な角膜移植術後合併症を認めなかった.II考按保存的治療で改善しない重症ドライアイの治療法として,涙点プラグ挿入術や涙点焼灼術などの涙点閉鎖術は有効であり7),保険診療としても承認されている確立された術式であるが,本症例ではジアテルミーの熱遮断の部品が装着されないまま使用されたことにより,角膜上皮および実質に障害をきたした.その後保存的加療および全層角膜移植により視力回復を得ることができたが,このような報告は国内外ともに調べる限りではみられなかった.今回の症例では角膜混濁は実質にまで及んでおり,長時間ジアテルミーに接触していたことが考えられる.通常,涙点焼灼術などの外眼部の手術施行時は局所麻酔薬を使用するため患者の痛みの自覚がないことも発見が遅れた要因の一つであると考えられる.既報の美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射による角膜実質混濁をきたした症例でも局所麻酔薬による痛みの自覚を認めなかったと考察されている6).このように,外眼部の手術時には局所麻酔点眼薬による角膜表面の感覚遮断を行うため,手技中は患者,術者両者とも気がつかないまま予期せぬ箇所にも影響が及んでいる可能性があるということを常に念頭に置いて操作を行う必要がある.また,バイポーラピンセットの誤操作により口角部熱傷を生じることが指摘されている.絶縁体コーティングのないバイポーラピンセットでは他組織を侵襲するリスクが高く,絶縁体コーティングがあるピンセットの使用が推奨されている.しかし,絶縁体コーティングがあるピンセットでもコーティングの劣化により予期せぬ熱傷が生じる可能性がある.熱凝固を行う際には絶縁体型を使用するべきであるが,コーティングの劣化が判別しにくい場合があり,常に先端以外は周辺組織に触れないよう注意する必要がある.手術手技が確立された外眼部の手術であっても角膜や眼内組織を損傷する可能性がある.執刀医の手技の習得に加え,手術機器の知識や準備,確認を含めたコメディカルへの教育など,システム構築を行い,可能な限り医原性の合併症を回避する対策が必要であると考えられた.文献1)ShiramizuKM,KreigerAE,McCannelCAetal:Severevisuallosscausedbyocularperforationduringchalazionremoval.AmJOphthalmol137:204-205,20042)ChanBJ,koushanK,LiszauerAetal:Atrogenicglobepenetrationinacaseofinfraorbitalnerveblock.CanJOphthalmol46:290-291,20113)LuCW,HaoJL,LiuXFetal:Pseudomonasaeruginosaendophthalmitiscausedbyaccidentaliatrogenicocularinjurywithahypodermicneedle.JIntMedRes45:882-885,20174)PhinneyRB,MondinoBJ,HofbauerJDetal:Cornealedemarelatedtoaccidentalhibiclensexposure.AmJOphthalmol106:210-215,19885)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒液による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19986)日野智之,上田真由美,木下茂ほか:美容外科において角膜実質内にヒアルロン酸ナトリウムが誤注入された1例.日眼会誌122:406-409,20187)YaguchiS,OgawaY,KamoiMetal:Surgicalmanage-mentoflacrimalpunctalcauterizationinchronicGVHD-relateddryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.BoneMarrowTransplant47:1465-1469,2012◆**

アカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験

2019年2月28日 木曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(2):253.261,2019cアカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験佐々木香る*1嶋千絵子*2大中恵里*1髙橋寛二*2冨田信一*3*1JCHO星ヶ丘医療センター眼科*2関西医科大学眼科*3玉川大学農学部CLow-dosageApplicationofSteroidEyeDropsintheTreatmentofAcanthamoebaKeratitisKaoruAraki-Sasaki1),ChiekoShima2),EriOhnaka1),KanjiTakahashi2)andShinichiTomita3)1)DepartmentofOphthalmology,JCHOHoshigaokaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)FacultyofAgriculture,TamagawaUniversityC緒言:アカントアメーバは自己の生存に不利な環境となった場合,栄養体がシスト化し治療に抵抗する.さらに,栄養体とシストのC2形態間の変化や掻爬による侵襲は,炎症所見を修飾し治療効果判定を困難とする.一方,ステロイドは炎症抑制作用のほかに,シスト化抑制作用をもつ.これらを根拠として今回,低濃度ステロイドを併用したアカントアメーバ角膜炎(AK)の治療経過を報告する.症例:症例C1はC17歳,男性.発症後C1カ月の完成期CAK.症例2は30歳,男性.発症後C3週間の移行期CAK.症例C3はC45歳,男性.発症後C1カ月の移行期CAK.いずれも,抗アメーバ療法として,ピマリシン眼軟膏,クロルヘキシジン点眼,抗菌薬点眼,角膜掻爬を施行し,治療開始とともに,0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C4回使用した.AKの確定診断は臨床所見と培養,塗抹検査で行い,角膜掻爬の回数はそれぞれ,4回,4回,2回であった.0.1%フルオロメトロン点眼の平均投与期間はC40日間であった.3症例とも掻爬後の一過性炎症悪化や,治療途中の炎症再燃を認めず,疼痛も軽度に抑えられ,経時的に順調に治癒した.また,0.1%フルオロメトロン点眼中止後もCAKの再燃を認めなかった.考按:適切な比較検討は困難であるが,ステロイド非使用で治療した経験に比して,0.1%フルオロメトロン点眼併用は,炎症の再燃なく,治療経過の推移が順調であり,途中悪化を認めなかった.結論:診断が確定しているCAKにおいて,抗アメーバ療法に加え,低濃度ステロイドを一貫した濃度,回数で併用することは,シスト化や掻爬による一過性悪化を抑制することで,良好な経過を得た.さらなる症例の蓄積が必要である.CPurpose:Basedontheanti-in.ammatorye.ectsandanti-encystmente.ectsofsteroid,wehaveappliedtopi-calCsteroidCinClowCdosageCforCtheCtreatmentCofCacanthamoebakeratitis(AK)C.Cases:AC17-year-oldCmale,CaC30-year-oldmaleanda45-year-oldmale.Allhadde.nitivediagnosisofAKinmiddlestage.Thetopicalsteroid(0.1%C.uorometholoneCfourCtimesCaday)hadCbeenCappliedCatCtheCsameCtimeCasCtheCanti-amoebicCtreatmentCwithCtopicalnatamycin,chlorhexidineandantibiotics.Thecorneawasscrapedseveraltimesforremovalofamoeba.ThedurationCofCsteroidCapplicationCwasC40daysConCaverage.CNoneCofCtheseCcasesCsu.eredCtemporaryCworseningCafterCscraping,CorCreboundCofCthein.ammation;allCrecoveredCsmoothlyCwithoutCpain.CConclusion:Low-dosageCapplica-tionCofCtopicalCsteroidCwithCanti-amoebicCtherapyCresultedCinCsmootherCrecoveryCbecauseCofCitsCanti-in.ammatoryCandanti-encystmente.ects.Moreexperiencesandcarefulobservationsareneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):253.261,C2019〕Keywords:シスト,栄養体,感染性角膜炎,角膜潰瘍,角膜混濁.cyst,trophozoite,infectiouskeratitis,cornealulcer,cornealopacity.C〔別刷請求先〕佐々木香る:〒573-8511大阪府枚方市星丘C4-8-1JCHO星ヶ丘医療センター眼科Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationHoshigaokaMedicalCenter,4-8-1Hoshigaoka,Hirakata,Osaka573-8511,JAPANCはじめにアカントアメーバは自己の生存に不利な環境となった場合,栄養体からシストへと形態を変化させ,治療に抵抗性となる.シストは栄養体に比して,種々の薬剤に対する感受性が低いことが報告されており1,2),これが難治の一因である.一般的にアカントアメーバの治療には角膜掻爬,つまり外科的除去という手技が必要となり,侵襲を加えつつ治療を行うことになる.もともとアカントアメーバそのものは,神経炎や強い毛様充血といった強い炎症所見を惹起することが知られており,これらが複雑に影響して,治療の経過途中,寛解,増悪を繰り返すため,治療効果の判定に悩むことが多い.一方,炎症を制御する手段として,ステロイドの投与が一般的であるが,アカントアメーバ治療に対するステロイドの併用については,そのCrisk-bene.tに関して種々の見解がある.免疫系統を抑制することで,病原体の活動を活発化させることも懸念され,ステロイド投与による予後不良が報告されていたが3.5),アカントアメーバに対する治療薬の変遷もあり,再検討が必要とされるところである.2016年になり,196例という多数例のアカントアメーバ角膜炎の治療に関する多施設Cstudyが報告され,抗アメーバ療法(ピグアナイド系+withCorwithoutブロレン)を施行したのち,ステロイド点眼を投与することは,予後に影響なく,むしろ患者の自覚症状や痛みを改善し,治療に有効であるという報告がなされた6).そこで,今回,アカントアメーバ治療において,抗アメーバ療法にステロイド点眼を併用したC3例の臨床経過の推移を,ステロイド非併用のC1例と比較して報告する.CI方法角膜所見のグレーディングは,既報を参考に7,8),角膜浸潤の長径,濃さ,毛様充血の項目について表1のように分類した.+1と+2の間,また+2と+3の間と判定した所見はそれぞれ+1.5,+2.5と判定した.角膜所見の判定は角膜専門医C2人によって写真とカルテ記載を参考に別々に判定し,照らし合わせた.なお,抗アメーバ療法として,北川らと同じく9),ピマリシン眼軟膏C1日C2.4回,0.05%クロルヘキシジン点眼(自家調整剤)C×1時間ごと,キノロン点眼C1日C4回を基本とした.CII症例ステロイド非併用症例:34歳,男性.2週間頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(以下,2W-FRSCL)使用.1カ月前にC2W-FRSCL装用中,子供の手が右眼にあたり,充血と違和感が継続していた.2週間前に近医を受診し,角膜ヘルペスの診断の元にアシクロビル眼軟膏,抗菌薬を処方されるも改善なく,当科を紹介された.初診時所見(図1)では,放射状神経炎を認め,塗抹鏡検にて好中球よりやや大きい球形のファンギフローラCY染色陽性所見を認めたため,アカントアメーバ角膜炎と判断した.初診時,角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+2,浸潤の濃さ+2,毛様充血+2,合計+6と判断した.角膜掻爬は合計C4回施行した.1回目の掻爬後,つまり治療開始C12日目には浸潤も毛様充血も悪化し,合計+9と判定した.治療開始C15日目には改善したものの,治療開始C22日目には再び炎症が増強した.また,掻爬のたびに炎症の増強のため,強い疼痛を訴えた.その後,角膜所見のグレーディングは横ばいとなり,改善の傾向は認めにくく,治療開始C49日目には再び混濁が増強した.経過とともに,次第に消炎傾向となり,最終的には治療開始C120日目に治癒と判断し,すべての薬剤を中止した.その後,再燃は認めていない(表2).ステロイド併用症例1:17歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.1カ月前から右眼の充血が表1角膜所見のグレーディングGrade角膜浸潤・長径角膜浸潤・濃さ毛様充血(血管拡張)C0所見なし所見なし所見なし+12Cmm未満わずかな混濁数本+22.4Cmm1と3の間多数+34Cmm以上瞳孔透見困難多数びまん性表2ステロイド非併用症例の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)12日15日22日37日49日92日120日掻爬〇〇〇〇充血+2+3+3+3+2+2.5+10浸潤大きさ+2+3+1.5+2+2+2+2+1浸潤濃さ+2+3+2+2.5+3+3+2+1合計+6+9+6.5+7.5+7+7.5+5+2C図1ステロイド非使用症例の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始6日目,Cc:治療開始C15日目,Cd:治療開始C22日目,Ce:治療開始C37日目,Cf:治療開始C49日目,Cg:治療開始C120日目.出現し,抗菌薬およびステロイド点眼を処方されていた.3日前から痛みと霞視が増強し,近医にてアシクロビル眼軟膏を追加された.初診時所見(図2)では,上皮障害はなく,大きな円形の免疫輪を認めた.初診時の角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+3,合計+9と判断した.学業の都合があり,掻爬をC1カ月後に延期を希望されたため,抗ヘルペス加療を継続した.角膜混濁は改善するも,毛様充血は継続し,途中放射状神経炎を認めたため,アカントアメーバ角膜炎を強く疑った.初診C1カ月後に,本人の同意を得て角膜掻爬を施行し,ファンギフローラCY染色を用いた塗抹鏡検において,蛍光顕微鏡下で球形の陽性染色を認めたため,アカントアメーバ角膜炎と診断した.この時点での角膜所見は+5であった.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C4回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,12日後に+4,38日後に+3,75日後に+2と経時的に改善し,その後,軽度角膜混濁を残して治癒した.なお,掻爬後には,とくに疼痛が増強することはなかった.治療終了後も再燃は認めない(表3).ステロイド併用症例2:30歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.3週間前から右眼の充血,視力低下が出現し,近医で抗菌薬,ステロイド点眼,アシクロビル眼軟膏を処方されていたが治癒しないため,当科を紹介された.初診時所見(図3)では,毛様充血を伴う円板状の角膜浮腫,混濁を認め,フルオレセイン染色では偽樹枝状病変を疑う不整な線状陽性所見を認めた.角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+2,合計+8と判断した.同日,角膜掻爬し,後日培養にてアカントアメーバ陽性の結果を得た.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C4回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,2日後に+9,6日後に+7,10日後に+5,14日後に+3,16日後は+2,24日後は+1.5,そしてC43日後には+1と軽度混濁を残して経時的に改善し,途中,疼痛の悪化は認めなかった.その後,治療終了後も再燃は認めない(表4).ステロイド併用症例3:45歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.1カ月前から左眼の充血,視力低下が出現し,近医で抗菌薬,ステロイド点眼を処方されていたが症状が悪化したため,当科を紹介された.初診時所見(図4)では,毛様充血を伴う免疫輪を呈した角膜浮腫,混濁を認め,フルオレセイン染色では,偽樹枝状病変は認めないものの上皮浮腫を認めた.角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+2,合計+8と判断した.同日,角膜掻爬し,後日培養にてアカントアメーバ陽性の結果を得た.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C2回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,2日後に+7.5,11日後に+6,10日後に+5,14日後に+3.5,24日後は+1.5,46日後は+1.5,そしてC81日後には+1と経時的に改善し,軽度混濁を残して治癒をした.掻爬後の疼痛は自制内であり,強い痛みは訴えなかった(表5).ステロイド非併用C1例および併用C3例の抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングの推移を図5に示す.非併用例では,寛解,増悪を繰り返しながら長期に炎症所見が継続する傾向にあるのに対して,併用例では速やかな消炎傾向を示した.CIII考按今回,アカントアメーバ治療初期から抗アメーバ療法にステロイド点眼を併用したところ,臨床経過の途中増悪なくスムーズで,最終的にも再燃を認めず,疼痛の悪化もなく,速やかな治癒過程を示した.今回は少数例の経験であり,CReal-timePCRや塗抹鏡検で経時的なアメーバ数の推移を確認したわけではなく,また実際に使用したステロイドの力価によって脱シストが生じるかどうかが不明であることなどから,このC3例の臨床経過をもってステロイド使用の是非を結論づけるには不十分であると考える.しかしながら,少なくとも今回の経験において,ステロイド併用による再燃や悪化,副作用など不利な点は認めなかった.むしろ,角膜所見推移の印象として,臨床経過のグラフに示されるように再燃なく経時的に順調な改善を示し,従来のステロイド非使用の治療例と比較すると,治療経過において臨床所見の変化が把握しやすく,患者自身も疼痛が制御され,安定して治療を受けることができた.あくまでも推測の域を出ないが,ステロイドの効果として,鎮痛・消炎以外に,その脱シスト作用を通じて,アカントアメーバを均一な栄養体に保ったまま治療できた可能性もありうると考える.2001年に,McClellanら10)は,ステロイドのアカントアメーバに対する作用として,脱シスト作用,栄養体増殖作用があることを報告している.従来,ステロイドはアカントアメーバ角膜炎を重症化させる可能性があるとして,Sternら4)は,アカントアメーバ角膜炎の治療にはステロイドは禁忌と述べている.しかし,当時に比してアカントアメーバシストに対する薬剤の感受性の報告が明らかとなり,ピマリシンあるいはクロルヘキシジンなどシストにも有効な薬剤が判明してきた11).さらに,2016年にはC196例のアカントアメーバ多施設Cstudyにおいて,抗アメーバ療法を開始したのちのステロイド併用は,決して予後を悪化させないことが報告されている6).実際には,現在の米国で図2ステロイド併用症例1の細隙灯顕微鏡写真a:初診日,Cb:初診後C26日目(抗アメーバ療法開始0日目),Cc:治療開始C12日目,Cd:治療開始C38日目,Ce:治療開始C75日目.表3ステロイド併用症例1の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数(初診)0日12日38日75日82日掻爬〇〇〇〇0.1%CFLM点眼C×4Cこの間抗ヘルペス療法×2C→C→C→中止充血+3(アシクロビル眼軟膏+2+1+1C0C0浸潤大きさ+3+ステロイド点眼)+2+2+1+1+1浸潤濃さ+3+1+1+1+1+1合計+9+5+4+3+2+2C図3ステロイド併用症例2の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始C6日目,Cc:治療開始C10日目,Cd:治療開始C16日目,Ce:治療開始C24日目,Cf:治療開始C43日目.表4ステロイド併用症例2の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)2日6日10日14日16日24日43日掻爬〇〇〇〇0.1%CFLM点眼C×2C→C→C→C→C→C×1→中止充血+3+3+2+2+1+0.5C0+0浸潤大きさ+3+3+2.5+1.5+1+1+1+0.5浸潤濃さ+2+3+2.5+1.5+1+1+0.5+0.5合計+8+9+7+5+3+2.5+1.5+1C図4ステロイド併用症例3の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始C11日目,Cc:治療開始C14日目,Cd:治療開始24日目,Ce:治療開始C43日目.表5ステロイド併用症例3の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)2日11日14日24日43日81日掻爬〇〇0.1%CFLM点眼C×2C→C→C→C→中止充血+3+2.5+1.5+1+0.5+0.5C0浸潤大きさ+3+2+2+1+0.5+0.5+0.5浸潤濃さ+2+3+2.5+1.5+0.5+0.5+0.5合計+8+7.5+6+3.5+1.5+1.5+1CAステロイド非併用109症例87Bステロイド併用6症例154Cステロイド併用3症例221D0ステロイド併用0日目20日目40日目60日目80日目100日目症例3抗アメーバ療法開始後日数図5角膜所見グレーディングの変化縦軸はグレーディングの合計点,横軸は抗アメーバ療法開始日数を示す.症例C1は,初診C1カ月後から抗アメーバ療法を開始した.その他の症例は,初診日が抗アメーバ療法開始である.アカントアメーバ角膜炎の治療にステロイドを使用することは全体のC37.8%にとどまっているが,適切に使用することは,決して予後不良ではないことが同論文で強調されている6).抗アメーバ療法の開始とともに,通常アメーバはシスト化する10,12,13)が,ステロイドを投与することによってシスト化が抑制される,つまりシストと栄養体という不均一な集団の微生物を,できるだけ薬剤に対する反応性のよい栄養体という均一な集団として治療することは有効な手段と考える.ただし,McClellanら10)はデキサメサゾンを用いて実証しているが,今回使用したフルオロメトロンで,どの程度が脱シスト化したかは不明であり,単なる消炎効果であった可能性も否定できないため,今回の結果がステロイドの脱シスト作用によるものとは結論づけることはできない.ステロイドの力価による脱シスト作用,実際の臨床経過におけるアメーバの量と形態の推移,アメーバ角膜炎の病期による反応性の差など,さらなるCinvivoおよびCinvitroの研究が必要とされる.ステロイドの併用については,いくつかの注意点もある.まずは,栄養体に有効な抗微生物薬を十分量,投与することが前提である.今までの報告に基づいて,抗アメーバ療法として,クロルヘキシジン点眼およびピマリシン軟膏を使用した9,11).また,共生する細菌がアジュバントの役割をしてアメーバの活動を活発化するという報告14.17)に基づいて,抗菌薬の併用も行った.フルオロメトロンといえども,ステロイドの抗炎症所見は大きなものである.不必要に見かけ上の臨床所見を改善することがないように,低濃度のステロイドを用い,終始一定した回数を心がけた.また,アメーバがシスト化し,上皮からBowman膜へ侵入すると遷延化をきたすとされ18),アメーバ確定前にステロイドを使用してしまうと,臨床所見をマスクして確定診断の妨げとなるため,必ず臨床所見,塗抹鏡検,PCR,あるいは迅速性には欠けるが,培養などでアカントアメーバ角膜炎であることが確定し,さらに抗アメーバ療法が開始されたのち,ステロイド点眼を使用すべきと思われる.今回,3例とも移行期から完成期の症例であったが,速やかな臨床経過で改善を得ることができた.症例数が少ないこと,前向きの検討ではないため,観察間隔が症例ごとに不均一であること,また写真の撮影方法が一定でないことなど不確実な点が多いが,診療録記載と写真を照らし合わせ,複数の眼科医により角膜グレーディングを判断した.今後は,種々の施設でのさらなる症例の蓄積と,実際のアメーバDNAコピー数の推移,ステロイドの適正な濃度と回数などを検討する必要があると考える.従来,アカントアメーバ角膜炎の治療において禁忌とされているステロイドについて,適正な使用法を再検討する余地はあると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LloydD:EncystmentCinCAcanthamoebacastellanii:aCreview.ExpParasitolC145(Suppl):S20-S27,20142)KilvingtonS,LamA:Developmentofstandardizedmeth-odsCforCassessingCbiocidalCe.cacyCofCcontactClensCcareCsolutionsCagainstCAcanthamoebaCtrophozoitesCandCcysts.CInvestOphthalmolVisSciC54:4527-4537,C20133)森谷充雄,子島良平,森洋斉ほか:アカントアメーバ角膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬投与の影響.臨眼C65:C1827-1831,C20114)SternGA,ButtrossM:Useofcorticosteroidsincombina-tionCwithCantimicrobialCdrugsCinCtheCtreatmentCofCinfec-tiouscornealdisease.OphthalmologyC98:847-853,C19915)RabinovitchT,WeissmanSS,OstlerHBetal:Acantham-oebakeratitis:clinicalsignsandanalysisofoutcome.RevInfectDis13(Suppl5):S427,19916)CarntN,RobaeiD,WatsonSLetal:Theimpactoftopi-calCcorticosteroidsCusedCinCconjunctionCwithCantiamoebicCtherapyConCtheCoutcomeCofCAcanthamoebaCkeratitis.COph-thalmologyC123:984-990,C20167)大橋裕一,秦野寛:細菌性結膜炎に対するガチフロキサシン点眼液の臨床第CIII相試験(多施設無作為化二重盲検比較試験).あたらしい眼科22:123-131,C20058)大橋裕一,秦野寛:0.3%ガチフロキサシン点眼液の多施設一般臨床試験.あたらしい眼科22:1155-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スーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1109.1113,2018cスーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例真鍋伸一林研林眼科病院CTwoCasesofSurgicalFailureofSutureTrabeculotomyabinternoCShin-ichiManabeandKenHayashiCHayashiEyeHospital目的:スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,iSLOT)を試みた症例で,施行不能症例の原因を探索すること.対象および方法:2014年C9月.2017年C5月にCiSLOTを試みた症例を後ろ向きに検討した.術前評価で適応外と判断し他手術が計画された症例は除外した.結果:手術を予定されたC211症例C239眼のうち,施行不能はC2眼あった.1眼は,白内障手術中破.による眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障で,隅角切開後の逆流性出血で視認性確保ができなかったためにスーチャートラベクロトミー眼外法に変更した.1眼はCLASIK既往のある原発開放隅角緑内障眼で,術前隅角鏡検査では線維柱帯の同定ができたものの術中は困難であり,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に変更した.結論:術中前房圧保持が困難なために大量の逆流性出血を生じる症例や,軽度角膜混濁でCiSLOTが施行困難な症例では,適応外とするか他術式への変更を念頭に手術に臨むべきである.CPurpose:Toinvestigatecausesofsurgicalfailureofsuturetrabeculotomyabinterno(iSLOT)C.Methods:Cas-esthathadundergoneiSLOTfromSeptember2014toMay2017werereviewedretrospectively.Results:Among239eyesof211cases,iSLOTwasnotcompletedin2cases.Incase1,whichwassu.eringfromexfoliationglauco-maCcomplicatedCwithCIOLCsubluxation,CmassiveChyphemaCinterferedCwithCsurgicalCmanipulation,CandCiSLOTCwasCconvertedCtoCsutureCtrabeculotomyCabCexterno.CInCcaseC2,CwhichCwasCsu.eringCfromCprimaryCopen-angleCglaucomaCwithpasthistoryofLASIK,Schlemm’scanalwasnotdetectedbecauseofcornealopacity,andiSLOTwasconvert-edtotrabeculotomyabexterno.Conclusion:Casesinwhichmassivebloodre.uxisexpectedtooccurduringsur-gerybecauseoflowanteriorchamberpressure,andcaseswithcornealopacity,arecontraindicatedforiSLOTandshouldbeperformedwithpossibleconversiontoothersurgeriesinmind.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1109.1113,C2018〕Keywords:スーチャートラベクロトミー眼内法,手術不成功,角膜混濁,眼内レンズ脱臼,逆流性出血.sutureCtrabeculotomyabinterno,surgicalfailure,cornealopacity,intraocularlenssubluxation,bloodre.ux.Cはじめに近年,緑内障手術のなかでも侵襲の少ない低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery:MIGS)という概念が提唱され関心が高まってきている1).わが国におけるMIGSとしては,2010年にCTrabectomeR2)が認可されたのが最初であり,2018年C1月現在ではCsutureCtrabeculotomyabCinterno(以下,iSLOT)3),KahookCDualCBladeR4),Micro-hookCtrabeculotomy5),iStentR6)が施行可能である.これらの術式はすべて前房からCSchlemm管への流出抵抗を減弱させることで眼圧下降を達成する手術である.一方でわが国においては承認されていないが,Schlemm管をターゲットにしたCHydrusTM7)や,上脈絡膜腔にデバイスを挿入するCCypassR8)なども開発されている.手技的にはいずれも隅角鏡下での操作を要する点で共通しており,良好な術野確保が手術成否に大きく影響すると思われる.よって,すでに導入されている隅角鏡下手術の手技的な問題点を探ることは,将来導入が見込まれる隅角鏡下緑内障手術の適応を考えるうえでも重要な知見になると考える.本研究の目的は,隅角鏡下緑内障手術の一つであるCiSLOTを予定した症例での手術施行不能原因を探索することである.〔別刷請求先〕真鍋伸一:〒812-0011福岡県福岡市博多区博多駅前C4-23-35林眼科病院Reprintrequests:Shin-ichiManabe,M.D.,Ph.D.,HayashiEyeHospital,4-23-35Hakataekimae,Hakata-ku,Fukuoka812-0011,CJAPAN表1手術適応基準と除外基準表2患者背景適応基準(①②両条件を満たす)①病型と隅角所見(以下の両条件を満たす)1.開放隅角緑内障ただし,周辺虹彩前癒着があっても全周でCSchwalbe線に達していない場合は手術適応とする.2.隅角鏡検査で少なくとも鼻側隅角が観察できる②病状(1,2のいずれかを満たす)1.緑内障性視神経症を認め緑内障点眼治療中だが,さらに眼圧下降が必要2.緑内障点眼中の白内障手術適応症例で,以下いずれかの病態A)眼圧と視野コントロールが良好な開放隅角緑内障B)前視野緑内障C)高眼圧症除外基準(①.④いずれか一つでも当てはまる場合)①目標眼圧が低い症例末期緑内障進行した正常眼圧緑内障②全周でCSchwalbe線に達する周辺虹彩前癒着がある症例③活動性のあるぶどう膜炎合併症例④隅角鏡検査で視認性が悪い症例(例:角膜混濁)ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因と思われる症例は除く.I対象および方法2014年C9月.2017年C5月に林眼科病院でCiSLOTを計画した症例を後ろ向きに検討した.検討項目は,年齢,緑内障病型,手術記録(含む動画)から手術の成否と不成功の場合はその原因,線維柱帯切開範囲(度)とした.手術の成否は,線維柱帯をC120°以上切開できた症例を施行症例,切開ができないかできてもC120°未満である症例を施行不能症例とした.後ろ向き研究であるが,単一施設で統一された手術適応基準,除外基準で診療しており表1に供覧する.診断と治療方針決定は緑内障診療ガイドラインに則って9),担当医の判断で行った.適応基準は,病型は開放隅角緑内障を対象としたが,炎症などで二次的に生じたと推測される周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)があっても全周Schwalbe線に達していなければ,隅角癒着解離術を併施することとして手術対象とした.病状としては,投薬加療中で緑内障性視神経症を認めさらに眼圧下降を要すると判断した症例に加え,緑内障点眼治療中の白内障手術適応症例のうち,視野コントロール良好な緑内障,前視野緑内障,高眼圧症いずれかを合併していて,口頭と文書によって緑内障同時手術の同意が得られた症例を対象とした.除外基準は,末期緑内障や進行した正常眼圧緑内障症例など目標眼圧が低い症例,全周にCSchwalbe線を越える高いCPASを認める症例,活動性のあるぶどう膜炎続発緑内障,角膜混濁などにより隅症例数214例239眼年齢C68.9±18.8(16.91)歳術前眼圧C29.4±9.4(14.63)mmHg病型原発開放隅角緑内障102眼落屑緑内障83眼その他54眼ぶどう膜炎23眼角膜移植後C6眼ステロイドC6眼発達C5眼白内障手術破.後C5眼混合緑内障C4眼硝子体手術後C2眼外傷性C2眼不明C1眼緑内障投薬数C3.8±0.9(1.5)剤角鏡検査で隅角視認性の悪い症例とした.ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因で隅角視認性不良であると判断した症例は,術中の眼圧下降によって良好な視認性が得られるとの前提で除外基準からはずして手術適応とした.術式は既報に則して3),隅角鏡(SwanCJacobCgonioprismCR,OcularInstruments)で観察しながらC5-0ナイロン糸を用いて線維柱帯切開を施行し,白内障同時手術の場合は先にiSLOT施行することを基本とした.鼻側にCPASのある症例では,鼻側のみ隅角癒着解離術を施行して線維柱帯を露出し,隅角切開部からナイロン糸をCSchlemm管内に挿入した.他部位のCPASはナイロン糸による線維柱帯切開と同時に癒着が解除されることを確認した.CII結果iSLOTはC214例C239眼で手術適応となった.患者背景を表2に示す.年齢はC68.9C±18.8(16.91)歳,術前平均眼圧はC29.4C±9.4(14.63)mmHgであった.病型は原発開放隅角緑内障が最多のC102眼で,落屑緑内障C83眼と合わせると全体のC77%を占めた.実際に施行された術式を表3に示す.237眼(99.2%)で手術を施行した.そのうちC9眼では隅角癒着解離術も併施した.Schlemm管内壁の切開範囲はC319C±71.3(120.360)°であった.一方,iSLOTが施行できなかった症例はC2例(0.8%)であり,以下に臨床経過を提示する.〔症例1〕83歳,男性.右眼眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障.現病歴は,3年前に近医で両眼白内障手術を施行された後,右眼眼圧上昇があり点眼加療受けるも,徐々に視野狭窄の進行と視力低下をきたし,セカンドピニオン目的で林眼科病院を受診した.緑内障点眼C4種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受け表3施行術式iSLOT施行症例237眼(C99.2%)iSLOT単独103眼iSLOT+PEA+IOL133眼iSLOT+IOL摘出+IOL毛様溝縫着1眼隅角癒着解離術併施9眼切開範囲C319±71.3°(C120.C360)iSLOT施行不能症例2眼(0C.8%)トラベクロトミー眼外法1眼スーチャートラベクロトミー眼外法+IOL縫着1眼iSLOT:sutureCtrabeculotomyCabCinterno,CPEA:phacoemulsi.cationCandCaspiration,IOL:intraocularlens.d図1症例1の臨床所見a:細隙灯顕微鏡による前眼部徹照像写真.眼内レンズは亜脱臼している.Cb:術前隅角鏡所見.視認性不良だが線維柱帯色素が観察される(→).c:Goldmann動的視野検査.Cd:術中写真.画面右端にある硝子体鉗子で把持したナイロン糸(.)をCSchlemm管切開部から挿入しようとしているが,出血(*)に覆われて詳細が見えない状態.Cていた.右眼視力C0.01(矯正不能)で,眼圧は右眼C47CmmHg浮腫のため詳細は不明であったが,開放隅角と推測される程(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,度には視認された(図1b).Goldmann動的視野検査では右右眼角膜実質および上皮浮腫のため透明性が低下していた.眼は中心視野が消失していた(図1c).眼圧下降によって隅角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるが角視認性は速やかに改善すると判断し,iSLOTと眼内レン1,399個/mmC2であった.眼内レンズは残存前.上で耳下側ズ整復術を予定した.上方水晶体支持部をC12時強膜に縫着に偏位しており(図1a),水晶体後.を認めないことから白した後,iSLOTを試みた.角膜の透明性は縫着術施行中の内障手術時の破.症例と推測された.隅角鏡検査では,角膜約C20分で改善され,隅角視認性は良好となった.前房に粘弾性物質を満たして隅角切開を施行したところ,大量の逆流性出血で視認性不良となったためCiSLOT施行不可能となり(図1d),360°スーチャートラベクロトミー眼外法変法に術式変更をして手術を終えた.〔症例2〕52歳,女性.開放隅角緑内障.14年前に両眼CLASIKの既往歴がある.現病歴は,4カ月前から左眼霧視を自覚して近医を受診,左眼C52CmmHgの高眼圧を指摘されて点眼での治療が開始されるも良好な眼圧下降が得られず紹介受診となった.緑内障点眼C3種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受けていた.右眼視力C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C53CmmHg(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,左眼角膜は実質および上皮浮腫のため若干透明性が低下していたのに加えて,上皮下に広範囲な非常に淡い混濁を認めた.角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるがC2,571個/mmC2であった.隅角鏡検査では,角膜透明性低下のため細部は観察できないものの,開放隅角であることは確認された.Goldmann動的視野検査では左眼鼻下側C1/4象限の狭窄が認められた.治療方針としては,前房穿刺による眼圧下降によって角膜透明性が改善して良好な隅角視認性が得られると判断し,iSLOTを予定した.前房穿刺によって角膜浮腫は軽減したものの,広範囲の角膜上皮下混濁によると思われる隅角視認性不良により線維柱帯ならびにCSchlemm管内壁を同定することができず,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に術式変更して手術を終えた.CIII考按従来,わが国で施行されてきた金属プローブによる線維柱帯切開術はC120°切開であるので,本研究での施行達成基準をC120°以上に設定したが,iSLOT施行を予定した症例の99.2%と大多数の症例で施行可能であった.本研究対象は当該施設での手術導入期からの症例を含んでおり,手術に習熟していない状態で施行した症例を含んでの高い施行率である.適切な手順に基づいて施行すれば,iSLOTは初心者であっても高い確率で施行できる手技と考える.適応病型に関しては,一般的には開放隅角緑内障が前提であるが,今回の調査対象期間においてはCSchwalbe線に達しないCPASであれば隅角癒着解離術を併施する前提で手術対象として手術を予定し,9例全例で手術施行可能であった.眼圧下降効果の評価は今後必要であるが,線維柱帯切開が可能であるか否かという手技的な観点からは,PASがあるということをもってCiSLOT適応外とする必要はないと考える.施行不能であった最初の症例は,隅角切開後の逆流性出血により視認性確保ができなかったことが原因であった.iSLOTを含むCSchlemm管内壁を操作する手術では,逆流性出血が必発である.これは,術中前房圧低下によってCSch-lemm管より近位の房水静脈圧が前房圧を上回ったことで生じる血液逆流現象であり,血管壁を損傷して起きる血管破綻性出血とは異なる.すなわち,前房圧がある程度以上に維持されていれば逆流性出血を抑えることができる.しかしながら本症例では破.によって前後房隔壁が損なわれていたため,前房圧を維持するには,硝子体腔を含む前後房に相当量の粘弾性物質を注入するか,灌流ポートの設置が必要であったと思われる.大量粘弾性物質注入はその後の抜去を考えると侵襲が大きすぎるし,灌流ポート設置では隅角鏡操作時の水流によって操作性が低下するために手術施行は困難となることが予想される.以上から,本症例のような前後房隔壁の脆弱な症例や無水晶体眼は,iSLOT適応外としてもよいのではないかと筆者らは考えている.症例C2は,術前隅角鏡検査では比較的視認性が改善すると予想したものの,術中隅角鏡検査では良好な視認性が得られなかったことが原因で施行不能となった.術前隅角鏡検査には一面鏡(HAAG-STREITCR)を用い,術中隅角鏡にはSwan-JacobCgonioprismを用いた.本症例の角膜上皮下混濁自体は非常に軽微であったものの広範囲に及んでいたため,観察光路の若干異なる一面鏡とCSwan-Jacobgonioprismでは視認性に違いを生じたものと考えられる.実際に,術後に角膜浮腫が消失してから一面鏡を用いて隅角を観察すると,比較的良好な視認性が得られていた(データ供覧なし).以上から,症例C2のような淡いが広範囲な角膜上皮下や実質浅層混濁があるケースでは,術前よりも術中視認性が不良であることも想定して他術式への変更を念頭に手術に臨むべきであると考える.2症例の施行不能原因はいずれも術中視認性の問題であり,ナイロン糸挿入などの手技的な難度が原因となって施行不能となった症例はなかった.iSLOTを含む隅角鏡下で施行する手術においては,術中の良好な視認性確保が手術の成否に大きな影響を及ぼす.筆者らは,本研究結果が今後増加の見込まれる隅角鏡下で施行される各種CMIGSの手術適応を考えるうえで参考になるものと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SahebCH,CAhmedCII:Micro-invasiveCglaucomaCsurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrCOpinCOphthalmolC23:96-104,C20122)MincklerCDS,CBaerveldtCG,CAlfaroCMRCetCal:ClinicalCresultsCwiththeTrabectomefortreatmentofopen-angleglauco-ma.OphthalmologyC112:962-967,C20053)GroverDS,GodfreyDG,SmithOetal:Gonioscopy-assist-edCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabeculoto-my:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COphthal-mologyC121:855-861,C20144)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinves-tigationCofCabCinternoCtrabeculectomyCusingCaCnovelCdual-bladedevice.AmJOphthalmolC155:524-529Ce522,C20135)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetCal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20156)SamuelsonCTW,CKatzCLJ,CWellsCJMCetCal:RandomizedCevaluationofthetrabecularmicro-bypassstentwithphaco-emulsi.cationCinCpatientsCwithCglaucomaCandCcataract.COphthalmologyC118:459-467,C20117)Pfei.erCN,CGarcia-FeijooCJ,CMartinez-de-la-CasaCJMCetal:ACrandomizedCtrialCofCaCSchlemmC’sCcanalCmicrostentCwithphacoemulsi.cationforreducingintraocularpressureinCopen-angleCglaucoma.COphthalmologyC122:1283-1293,C20158)HoehH,VoldSD,AhmedIKetal:Initialclinicalexperi-enceCwithCtheCCyPassCMicro-Stent:safetyCandCsurgicalCoutcomesCofCaCnovelCsupraciliaryCmicrostent.CJCGlaucomaC25:106-112,C20169)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C2012***

角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1606.1609,2017c角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例上.甲.覚国立病院機構東京病院眼科CMatureCataractSurgeryinaPatientwithOpaqueCorneaandPathologicMyopiaSatoruJokoCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital目的:角膜混濁と強度近視のある成熟白内障に,超音波水晶体核乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行ったC1症例の報告.症例:74歳,女性,左眼の白内障治療目的で受診した.幼小時に流行性角結膜炎の既往があった.所見と経過:初診時,左眼の矯正小数視力は手動弁で,成熟白内障と角膜混濁と強度近視を認めた.左眼の眼軸長は超音波CAモードでC30.33Cmmであった.術中合併症はなかった.術後最終視力はC0.04であったが,患者は結果に満足している.術後の経過観察期間はC3年で,合併症は生じていない.結論:角膜混濁と病的近視のため術後視力の改善は限定的だったが,患者の満足は得られた.今後,同様な疾患の症例が増えれば,インフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCmatureCcataractCwithCopaqueCcornealCandCpathologicCmyopiaCthatCunderwentCphacoemulsi.cationCcataractCsurgery.CCase:AC74-year-oldCfemaleCwhoCwasCreferredCtoCourChospitalCforCcataractCsurgeryconsultationhadahistoryofepidemickeratoconjunctivitisatyoungelementaryschoolage.FindingsandProgress:CorrectedCvisualCacuityCinCherCleftCeyeCwasChandCmovementCatC.rstCvisitCtoCourChospital.CTheCeyeCshowedsignsofmaturecataract,cornealopacityandhighmyopia.Axiallengthoftheeyewas30.33Cmminultra-sonicAmode.Therewerenointraoperativecomplications.At3yearsaftercataractsurgery,lefteye.nalvisualacuityCwasC0.04.CThereCwereCnoCpostoperativeCcomplications.CConclusion:ThoughCpostoperativeCvisualCacuityCimprovementwaslimitedtopathologicmyopiawithopaquecornea,herresultwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1606.1609,C2017〕Keywords:成熟白内障,角膜混濁,病的近視,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ.matureCcataract,CopaqueCcornea,pathologicmyopia,phacoemulsi.cationandaspiration,intraocularlens.Cはじめに超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulisi.cationCandCaspi-ration:PEA)を行う症例のなかで,角膜混濁のある白内障は難症例の一つと考えられている1.5).また,成熟白内障も難症例の一つと考えられている6,7).さらに,強度近視のある白内障も術中に注意すべき点がある8,9).これまでに,角膜混濁と強度近視をともに合併した白内障症例に対する超音波白内障手術の報告はまれで,その手術結果はあまり知られていない10,11).今回,角膜混濁と強度近視のある患者の成熟白内障に,PEAと眼内レンズ(intraocularClens:IOL)挿入術を行った1症例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:左眼の視力低下.現病歴:左眼の白内障手術目的で紹介受診した.受診のC3カ月前より視力低下が強くなった.初診時所見:矯正視力は右眼0.3(0.6×.2.00D(cyl.1.75DAx75°),左眼は20cm手動弁(矯正不能)であった.眼圧〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585清瀬市竹丘C3-1-1国立病院機構東京病院眼科Reprintrequests:SatoruJoko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital,3-1-1TakeokaKiyose,Tokyo204-8585,JAPAN1606(122)は右眼C17CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼は角膜混濁と成熟白内障を認めた(図1).右眼も白内障はあったが,角膜混濁は合併していなかった.左眼の超音波CBモードエコーでは,後部ぶどう腫の所見を認めた(図2).既往歴:4歳頃に流行性角結膜炎を罹患し,左眼は当時より視力が不良であった.術前検査:超音波CAモードでは,右眼の眼軸長はC26.28mm,左眼の眼軸長はC30.33Cmmであった.角膜内皮細胞密度は,右眼C2,839/mmC2,左眼C2,597/mmC2であった.白内障手術:手術は通常の顕微鏡照明下で行った.角膜耳側切開を行い,前.はインドシアニングリーンで染色した後,連続円形切.(continuousCcurvilinearCcapsulorhexis:CCC)を施行した.PEAとCIOL挿入術後,切開創は無縫合で終了した.術中合併症はなかった.術後経過:術後視力は改善し,最高視力はC0.07であった.術後早期の前眼部写真を図3に示した.術後の眼底検査で,黄斑部を含めた後極部に網脈絡膜萎縮を認めた(図4).術後の経過観察期間はC3年で,最終視力はC0.04であるが,患者は結果に満足している.術後の合併症は生じていない(図5).なお,右眼は,左眼の術C5カ月後に白内障の手術を施行し図1術前の前眼部写真角膜混濁(Ca)と成熟白内障(Cb)を認める.C図2術前の超音波Bモードエコー強膜が後方に突出している.図3術5カ月後の前眼部写真前眼部の状態は,術前と変わりない.図4術後の眼底写真黄斑部を含む後極部に網脈絡膜萎縮を認める.図5術3年後の前眼部写真明らかな前.の収縮や後.混濁もなく,IOLの偏位もない.C表1筆者の角膜混濁・病的近視の超音波白内障手術報告例報告年年齢・性患眼眼軸Cmm術前視力術後最高視力既往症例C1#177・女右C28.47C0.01C0.04麻疹C2013(左眼C0.9)(幼小時)症例C2#278・女右C29.82C0.08C0.5CpトラコーマC2015左C29.88C0.08C0.3(幼小時)本症例74・女左C30.33手動弁C0.07流行性角結膜炎(右眼C1.0)(4歳頃)#1,2:便宜上,過去に報告した症例をC1とC2とした.た.術中・術後に合併症はなく,最高視力はC1.0であった.CII考察角膜混濁の程度は,眼内の術中操作の難易度に強く影響を与える.通常,特定の限られた疾患以外は,角膜混濁併発例の白内障症例の数は多くはない12.15).したがって,そのような症例に慣れている術者は少ないと考える.最近,さまざまな角膜混濁モデル眼の作製が可能になった16.19).実際の症例に類似した模擬眼で練習を行えば,ある程度慣れることは可能と考える.角膜混濁症例の対策として,治療的角膜表層切除12,14)や「特殊な照明法」を利用する方法1.5)がある.また,水晶体核の処理方法として,水晶体.外摘出術の選択もある.事前に考えた手術計画は,角膜混濁モデル眼を利用して試すことも可能である.今回は,角膜混濁の範囲が限定的なので,通常の顕微鏡照明下で眼内の操作が可能であった.ただし,成熟白内障もあるため,前.染色法を利用してCCCCを行った.CCCはその後の手術操作に大きく影響するので,確実に行う必要がある.慣れていない術者は,事前に成熟白内障モデル眼で,CCCの練習を行うことも可能である20,21).さらに,術中の視認性対策以外に,強度近視眼の注意点も知っておく必要がある.強度近視は強膜が薄いこと,Zinn小帯が脆弱で液化硝子体のため前房深度が不安定になることがある8).黄斑障害のある病的近視眼では,固視の不良にも注意が必要である.ただし,強度近視の白内障モデル眼は調べた限りないので,実際の手術で慣れる必要がある.これまでに,筆者は強度近視と角膜混濁を併発した白内障手術をC2例報告している10,11).本症例を含めた臨床所見のまとめを表1に示した.各症例の角膜混濁の程度は異なるが,共通して幼小時に感染症による角膜障害の既往があり,視力は不良であった.幼小時の眼感染症疾患の治療は,適切に対応する必要がある.白内障手術時の年齢はC3例ともC70歳以上で,通常の強度近視に伴う白内障手術時の年齢より高い傾向である22).角膜混濁と黄斑病変の合併があるので,白内障がかなり進行しないと適応になりにくいことが理由として考えられる.その分,手術の難易度はさらに増すことになる.病的近視のない角膜混濁症例の白内障手術では,患者の満足度の高い報告がある1).本症例と症例C2(表1)の患者は,術後視力の改善は限定的だが,手術の結果に満足している.症例C1の右眼は,術中・術後に特記すべき合併症は生じていないが,患者の満足は得られなかった.ただし,その症例の左眼は病的近視がなく,白内障手術後の視力は良好なので,左眼の結果には満足している.病的近視の併発している角膜混濁症例は,その手術適応の判断はむずかしい.本症例の左眼の視力は,幼小時より中心視力は不良であった.ただし,周辺部はそれなりに見えて,役にたっていたことが,術前の問診でわかっていた.術前の超音波CBモードエコーの結果も踏まえて,最近の視力低下の原因はおもに成熟白内障にあると考え,手術の適応があると判断した.今後,同様な疾患の手術症例数が増えれば,これまで以上にインフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.本論文の要旨は,第C1回CTokyoOphthalmologyClub学術講演会(2015年C9月C12日)にて発表した.文献1)FarjoCAA,CMeyerCRF,CFarjoCQA:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCcornealCopaci.cation.CJCCataractCRefractCSurgC29:242-245,C20032)NishimuraCA,CKobayashiCA,CSegawaCYCetCal:EndoillumiC-nation-assistedcataractsurgeryinapatientwithcornealopacity.JCataractRefractSurgC29:2277-2280,C20033)岡本芳史,大鹿哲郎:手術顕微鏡スリット照明を用いた白内障手術.眼科手術17:365-367,C20034)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科C21:97-101,C20045)OshimaCY,CShimaCC,CMaedaCNCetCal:ChandelierCretroilluC-mination-assistedtorsionaloscillationforcataractsurgeryinpatientswithseverecornealopacity.JCataractRefractSurgC33:2018-2022,C20076)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:StainingofthelenscapsuleCforCcircularCcontinuousCcapsulorrhexisCinCeyesCwithCwhiteCcataract.CArchCOphthalmolC116:535-537,C19987)MellesCGR,CdeCWaardCPW,CPameyerCJHCetCal:TrypanCbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JCataractRefractSurgC25:7-9,C19998)原優二:強度近視眼の白内障.臨眼C58(増刊号):225-227,C20049)ZuberbuhlerCB,CSeyedianCM,CTuftCS:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCextremeCaxialCmyopia.CJCCataractCRefractCSurgC35:335-340,C200910)上甲覚:超音波白内障手術の長期経過観察ができたぶどう膜炎併発強皮症のC1例.臨眼67:1713-1718,C201311)上甲覚:超音波白内障手術後に強膜炎を合併した,角膜混濁と強度近視のあるC1症例.臨眼69:493-497,C201512)SalahT,ElMaghrabyA,WaringGO3rd.:ExcimerlaserphtotherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:C340-348,C199613)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌C65:170-173,C199614)兼田英子,根岸一乃,山崎重典ほか:治療的レーザー角膜切除施行眼に対する白内障手術における術後屈折値予測精度.眼紀55:706-710,C200415)上甲覚:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編.あたらしい眼科26:491-492,C200916)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの作製と使用経験.臨眼C64:465-469,C201017)上甲覚:初級者向けの白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科C27:1707-1708,C201018)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,C201119)上甲覚:角膜混濁モデルによるウエットラボ.眼科手術5白内障(大鹿哲郎編),p93-94,文光堂,201220)VanCVreeswijkCH,CPameyerCJH:InducingCcataractCinCpostmortemCpigCeyesCforCcataractCsurgeryCtrainingCpur-poses.JCataractRefractSurgC24:17-18,C199821)上甲覚:成熟白内障モデル眼の試作.あたらしい眼科C33:1801-1803,C201622)森嶋直人,中瀬佳子,林一彦ほか:強度近視の白内障術後視力.眼臨81:88-91,C1987***

角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術 ―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1519.1522,2014c角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―安田優介若生里奈高瀬範明吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Cataract-VitreousCombinedSurgeryAssistedbyChandelierEndoilluminationandWide-AngleViewingSysteminSevereCornealOpacityYusukeYasuda,RinaWako,NoriakiTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences角膜混濁例を有する症例に対し,白内障および硝子体同時手術をシャンデリア照明と広角眼底観察システムを用いて行った.症例は68歳,女性.主訴は2011年6月からの右眼の視力低下.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘され当院紹介受診となった.60歳時の右眼ヘルペス性角膜炎によって角膜中央部に広範囲にわたる混濁がみられ,眼底観察が困難であった.初診時の視力は右眼30cm手動弁,Bモードで下鼻側網膜に.離がみられた.シャンデリアによる後方からの照明を使用して水晶体超音波乳化吸引術を施行し,広角眼底観察システムを併用して25ゲージ(G)硝子体手術を施行した.経過良好で,術後22日に退院した.右眼矯正視力は退院時0.04まで回復した.シャンデリア照明の使用により散乱光の影響を少なくし,水晶体全体を確認しながら安全に白内障手術を施行できた.また,広角眼底観察システム使用により混濁の少ない部位を通して眼底観察が可能であった.Combinedsurgery(cataractandvitrectomy)wasperformedinapatientwithcornealopacity,usingchandelierendoilluminationandawide-angleviewingsystem.Thepatient,a68-year-oldfemalewithvitreoushemorrhageinherrighteyeduetoproliferativediabeticretinopathy,hadseverecornealopacityinherrighteye,whichhadbeentreatedasherpetickeratitis.Thebest-correctedvisualacuityinherrighteyewas30cmhandmotion.Retinaldetachmentinthelowertemporalquadrantwassuspected.Surgerywassuccessfullyperformed,andrightvisualacuityimprovedfromhandmotionto0.04.Inthiscase,chandelierretroilluminationprovidedgoodvisibilitythroughahazycorneainthesurgicalfieldofthecataractsurgery.Ontheotherhand,thewide-angleviewingsystemenabledfundusobservationthroughtherelativelyclearerportionofthecornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1519.1522,2014〕Keywords:角膜混濁,白内障手術,硝子体手術,シャンデリア照明,広角眼底観察システム.cornealopacity,cataractsurgery,vitreoussurgery,chandelierretroillumination,wide-angleviewingsystem.はじめに角膜混濁を伴う症例の白内障手術や硝子体手術は眼内の視認性が悪く,術中操作が困難であるため合併症も生じやすい.このような症例における眼内手術には,一時的に人工角膜を用いて手術を施行し,その後に角膜移植を行う方法や1.3),眼内内視鏡を用いる方法がある4,5).人工角膜を使用することによって,術中の眼底の視認性は良好に保たれ,通常の手術手技が可能となるが,角膜の同時移植が必要であることはもちろん,術後炎症が高度で,長期的にみると移植片の生着不全や毛様体機能不全により前眼部の複雑化が起こると報告されている6).また,眼内内視鏡を用いる方法は,視認性が角膜や瞳孔の状態に左右されず,眼底最周辺部までの観察が可能である.しかし,内視鏡手術手技に習熟する必要があること,病巣の立体的把握や双手による操作が困難で繊細な手術を行うには限界があるなど,術後合併症や操作性などの問題が指摘され〔別刷請求先〕若生里奈:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RinaWako,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)1519 図1B.mode水平断下鼻側に網膜.離を認めた.図2手術開始前所見角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認め,周辺部よりわずかに水晶体を確認できる(下方が12時方向).チストトーム前.フラップ前.切開ライン図3前.切開の様子前.染色なども行うことなく,前.切開を行うことが可能であった.図4術中眼底所見広角眼底観察システム(ResightR)を使用した.眼球を下転し,上方の混濁の少ない部位から眼底を観察することができた.シャンデリア照明カッター視神経乳頭鑷子黄斑1520あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(98) ている7).今回,角膜混濁を伴う増殖糖尿病網膜症に対し,シャンデリア照明と広角眼底観察システムを使用することにより,人工角膜や内視鏡を使用せずに,白内障手術および硝子体手術を施行することのできた1例を経験したので報告する.I症例患者:68歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:32歳時,急性膵臓壊死により1型糖尿病,インスリン導入となった.60歳時,右眼ヘルペス性角膜炎を発症し,治癒したが,角膜中央部に角膜混濁が残存している.現病歴:2011年6月から右眼の視力低下を認めた.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘されたため,同年10月17日に名古屋市立大学病院眼科に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼30cm手動弁(矯正不能),左眼0.5(0.9×sph+2.0D(cyl.1.5DAx180°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHgであった.右眼の角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認めた.前眼部には,その他特記すべき所見は認められなかった.また,中等度核白内障を認め,眼底は角膜混濁および硝子体出血のために透見不良であった.Bモードで右眼下鼻側に網膜.離を認めた(図1).経過:シャンデリアによる後方からの照明を使用した水晶体超音波乳化吸引術と広角眼底観察システムを使用した25ゲージ(G)硝子体手術を施行した(図2.4).シャンデリア照明はアルコンエッジプラスRトロッカール用のシャンデリアライトシステムを,光源はコンステレーションR内蔵のキセノンを用いた.まず,5時方向に25Gポートを作製し,シャンデリア照明を設置した.これにより,水晶体.全体を観察することが可能となり,前.切開,超音波乳化吸引を行った.さらに25Gポートを3カ所設置し,広角眼底観察システム(ResightR)を併用して硝子体手術を施行した.硝子体切除を進めていくと,下鼻側に術前から認めていた網膜.離を確認した.意図的裂孔を作製して網膜下液を吸引除去した後,液-空気置換を行った.レーザー光凝固を追加,SF6(六フッ化硫黄)ガスを硝子体内へ注入し,手術終了となった.術後,網膜は復位し経過良好で術後22日に退院した.右眼視力は退院時に矯正0.04へ回復した.II考按角膜混濁を伴う症例において白内障および硝子体手術を施行する際,眼内の視認性を確保することは困難で,合併症も生じやすい.先に述べたように,角膜混濁を伴う眼内手術の方法として,一時的に人工角膜を使用する方法や眼内内視鏡を用いる方法があるが,いずれも問題点が多く手術施行はむ(99)ずかしい.角膜混濁例に対する白内障手術の方法として,前房内にイルミネーションライトを挿入し,前.切開を行う方法が報告されている8).顕微鏡による外部照明では観察光が混濁部位を2回通して検者の眼に入ってくるのに対して,この方法の場合は,光源が角膜下にあるため1回しか角膜を光が透過せず,その結果散乱光の影響を少なくし,観察が容易となる.また,硝子体出血に対して,シャンデリア照明を先に設置し,白内障および硝子体同時手術を行った症例も報告されている9).シャンデリア照明を使用することで,水晶体の後方から照明することになり,前.切開時から視認性が上がるとともに,硝子体手術まで一連の操作をバイマニュアルで行うことが可能である10).今回,筆者らは,白内障手術においてシャンデリア照明を使用することで,前.切開,水晶体分割,乳化吸引など一連の手術手技において,混濁した角膜を通しても良好な視認性と操作性を得ることができ,安全に手術を施行することが可能であった.硝子体手術には,広角眼底観察システムが有用であった.広角眼底観察システムは前眼部付近で観察光がいったん収束する光学経路設計となっているため,小瞳孔など狭い部分を利用しての眼底観察が可能である.角膜混濁も部分的に混濁の少ない部分があればそこを通しての観察が可能である.さらに,非接触型システムの場合,眼球を傾けて,光学経路と角膜透明帯が合致する場所に調節して眼底観察を行うことが可能である.本症例では,眼底の観察が困難な場合は眼内内視鏡の併用も考慮し,術中準備していたが,眼内内視鏡を使用することなく,広角眼底観察システムを用い,術中に眼球を下転して上方の角膜透明帯を通して眼底観察を行い,手術を施行することができた.角膜混濁を伴う症例の白内障および硝子体手術に対し,シャンデリア照明および広角眼底観察システムの使用は比較的簡便で,特別な器具や手技を必要とせず,眼内の視認性を向上させ,安全かつ正確に手術を施行できる一つの方法と考えられる.文献1)LandersMB3rd,FoulksGN,LandersDMetal:Temporarykeratoprosthesisforuseduringparsplanavitrectomy.AmJOphthalmol91:615-619,19812)EckardtC:Anewtemporarykeratoprosthesisforparsplanavitrectomy.Retina7:34-37,19873)古城美奈,中島伸子,外園千恵ほか:人工角膜を用いた網膜硝子体手術6症例.あたらしい眼科22:1289-1293,20054)KitaM,YoshimuraN:Endoscope-assistedvitrectomyinthemanagementofpseudophakicandaphakicretinalあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141521 detachmentswithundetectedretinalbreaks.Retina31:1347-1351,20115)KawashimaM,KawashimaS,DogruMetal:Endoscopyguidedvitreoretinalsurgeryfollowingpenetratingcornealinjury:acasereport.ClinOphthalmol19:895-898,20106)檀上眞次,細谷比左志,池田恒彦ほか:角膜混濁を有する症例に対する硝子体手術.臨眼46:817-820,19927)池田恒彦:角膜混濁に対する硝子体手術.あたらしい眼科25:515,20088)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科21:97-101,20049)JangSY,ChoiKS,LeeSJ:Chandelierretroilluminationassistedcataractextractionineyeswithvitreoushemorrhage.ArchOphthalmol128:911-914,201010)OshimaY,ShimaC,MaedaNetal:Chandelierretroillumination-assistedtorsionaloscillationforcataractsurgeryinpatientswithseverecornealopacity.JCataractRefractSurg33:2018-2022,200711)MorishitaS,KitaM,YoshitakeSetal:23-gaugevitrectomyassistedbycombinedendoscopyandawide-angleviewingsystemforretinaldetachmentwithseverepenetratingcornealinjury:acasereport.ClinOpthalmol5:1767-1770,2011***1522あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(100)