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ハードコンタクトレンズ装用者におけるScedosporium属による感染性角膜炎の1例

2019年3月31日 日曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(3):389.393,2019cハードコンタクトレンズ装用者におけるScedosporium属による感染性角膜炎の1例山本雅*1,2重安千花*1久須見有美*1藤井かんな*1千葉知宏*3長濱清隆*3菅間博*3山田昌和*1*1杏林大学医学部眼科学教室*2亀田総合病院眼科*3杏林大学医学部病理学教室CACaseofKeratomycosisCausedbyScedosporiumspecieswithHardContactLensWearCMasashiYamamoto1,2)C,ChikaShigeyasu1),YumiKusumi1),KannaFujii1),TomohiroChiba3),KiyotakaNagahama3),HiroshiKamma3)andMasakazuYamada1)1)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,2)CCenter,3)DepartmentofPathology,KyorinUniversitySchoolofMedicineCDepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalScedosporium属による真菌性角膜炎に対し,ボリコナゾールをはじめとする複数の抗真菌薬の併用により,良好な治療経過を得ることができたので報告する.症例はC67歳,女性.右眼の角膜ヘルペスと診断されたが改善がみられず,3日後に杏林大学病院を紹介受診した.ハードコンタクトレンズ装用以外に外傷歴などはなかった.初診時,右眼の視力は指数弁で,角膜中央に不整な円形潰瘍を認め,毛様充血,角膜浮腫,endothelialplaqueと前房蓄膿がみられた.比較的急速で高度な炎症所見がみられ,角膜擦過物の培養からCScedosporium属を認めたため,ボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏を処方し,ボリコナゾール内服および結膜下注射,ミカファンギン点眼も併用した.約C2カ月で毛様充血および角膜浮腫はほぼ消失し,角膜浸潤は中央部に集簇した.表層に限局した病巣は混濁がシート状の塊として.離され,病理組織学的にもCScedosporiumが確認された.12カ月目の現在,感染の再燃はみられず,矯正視力は(0.5)である.CWereportacaseofkeratomycosiscausedbyScedosporiumthatwassuccessfullytreatedbyseveralantifungaldrugs,includingvoriconazole.Thepatient,a67-year-oldfemalediagnosedwithherpetickeratitisinherrighteye,wasCreferredCtoCourChospital.CSheCworeChardCcontactClensesCandChadCnoChistoryCofCtrauma.COnCinitialCexamination,CvisualCacuityCwasCcountingC.ngers.CSlit-lampCexaminationCrevealedCaCcornealCulcerCwithCfeatheryCmargin,CciliaryCinjection,CcornealCedemaCwithCendothelialCplaque,CandChypopyon.CMicroscopicCcultureCofCcornealCscrapingCrevealedCScedosporiumCspecies.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCtopicalCvoriconazoleCandCnatamycinCointment,CwithCtheCassis-tanceCofCoralCandCsubconjunctivalCinjectionCofCvoriconazoleCandCtopicalCmicafungin.CAtC2CmonthsClater,CtheCciliaryCinjectionandcornealedemahadregressed.Sincethefocuswaslocalizedinthesuper.cialepithelia,cornealscrap-ingCwasCperformed.CPathologicalCdetectionCrevealedCthatCtheCdetachedCtissueCcontainedCScedosporiumCspecies.CNoCrecurrencehasbeenseenin12months,andvisualacuityhasimprovedto20/40.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):389.393,C2019〕Keywords:角膜真菌症,Scedosporium,ハードコンタクトレンズ,ボリコナゾール,角膜掻爬.keratomycosis,CScedosporium,hardcontactlens,voriconazole,corneascrape.Cはじめにいる1,2).Scedosporium属は真菌性角膜炎の起因菌としては真菌性角膜炎は抗真菌薬に治療抵抗を示すことが多く,難まれであるが,眼科領域では角膜炎3)のほかに,ステロイド治性眼感染症の一つであり,その起因菌としてわが国では点眼に誘発された可能性のある難治性の慢性結膜炎4),翼状Candida属,Fusarium属,Aspergillus属などが報告されて片術後のステロイド点眼治療中の強膜炎5),急性骨髄性白血〔別刷請求先〕山本雅:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasashiYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka,Tokyo181-8611,JAPANC病治療中の眼内炎6)などの報告があり,免疫の関与が考察されている.また,全身的には肺炎,髄膜炎,関節炎,副鼻腔炎の報告7)がある.Scedosporium属は土壌中や汚染水・腐敗した野菜など環境中から単離することのできる糸状真菌の一種であり,Scedosporium角膜炎は他の真菌性角膜炎と同様に異物や植物などによる外傷が契機となって発症することが多い8,9).Scedosporium属感染症はCS.apiospermum,S.proli.cansのC2種によるものが医学的に重要であり10),治療に難渋することが知られている.今回,コンタクトレンズ(CL)装用者に生じたCScedosporium属による真菌性角膜炎を経験し,良好な治療経過を得ることができたので報告する.CI症例患者:67歳,女性.主訴:右眼の眼痛,視力低下.既往歴:高血圧,糖尿病およびその他免疫能低下をきたす疾患はなし.全身的および局所的に長期の抗菌薬およびステロイドの使用なし.家族歴:特記すべきことなし.生活歴:自宅で家庭菜園を行うも,外傷歴なし.現病歴:2017年C5月,常用していたハードコンタクトレンズ(HCL)を装用したところ右眼痛を自覚したため近医を受診した.角膜中央に小型の樹枝状潰瘍を認めたことから,角膜ヘルペスの診断でC0.5%モキシフロキサシン点眼,3%アシクロビル眼軟膏を処方されたが,第C3病日,眼痛は増悪し視力低下も自覚したため前医を再診した.角膜中央の病巣の拡大がみられたため,同日杏林大学医学部付属病院眼科を紹介受診した.初診時所見:矯正視力は右眼指数弁,左眼C0.04(0.8C×.8.00D(cyl1.00DAx110°).眼圧は右眼20mmHg,左眼14CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で右眼の角膜中央に円形・辺縁不整の角膜潰瘍を認め,その周囲を取り囲むように免疫輪が生じていた(図1).周囲の角膜は浮腫状で,毛様充血,endothelialplaque,前房蓄膿がみられた.また,前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)では角膜内皮面に高輝度の沈着物が認められた(図2).HCLをC45年前から装用していたが,使用法などには問題はなかった.また,発症時に使用していたCHCLはC8カ月前に作製したものであり,HCL表面に明らかな傷や付着物は認められなかった.当日の角膜病巣擦過物の検鏡(グラム染色)では菌体は検出できなかった.経過:急速な進行がみられたため緑膿菌などの細菌感染の可能性を考慮し,0.5%アルベカシン点眼,0.5%セフメノキシム点眼を開始した.しかしながら病巣の悪化を認め,第C7病日,擦過物より糸状菌が分離培養されたため真菌性角膜炎と診断した.1%ボリコナゾール点眼およびC1%ピマリシン眼軟膏を開始し,0.5%アルベカシン点眼は継続し,0.5%セフメノキシム点眼は中止した.再度角膜擦過を行ったところ,糸状真菌を認め,初診日と第C7病日に行った角膜擦過物の微生物学的検査の結果はいずれもCScedosporium属であった.第C11病日,AS-OCT上は角膜浸潤と浮腫の改善を認めたが,Scedosporium角膜炎が難治性であることを考慮し,ボリコナゾールC400mg/日内服を開始した.さらに第C14病日,第C18病日にそれぞれC1%ボリコナゾールを結膜下注射し,その後病巣の縮小傾向がみられた.しかし,第C36病日に結膜充血および前房蓄膿の再増悪を認めたため,0.1%ミカファンギン点眼を追加したところ,2週間後(第C50病日)には結膜充血,前房蓄膿はほぼ消退した(図3).図1初診時前眼部所見角膜中央に辺縁不整な円形潰瘍を認め,その周囲に免疫輪が生じていた.周囲の角膜は浮腫状で毛様充血,endothelialplaque,前房蓄膿がみられた.図2初診時AS-OCT画像角膜内皮面に高輝度の沈着物を認めた.0.5%モキシフロキサシン点眼3%アシクロビル眼軟膏0.5%セフメノキシム点眼0.5%アルベカシン点眼1%ボリコナゾール点眼1%ピマリシン眼軟膏ボリコナゾール内服0.1%ミカファンギン点眼0371114183657(病日)当院初診角膜掻爬1%ボリコナゾール糸状真菌を検出結膜下注射図3治療経過当院初診時からセフメノキシム点眼,アルベカシン点眼で加療を開始するも病巣の悪化があり,糸状真菌を検出したためボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏へ変更し,ボリコナゾール内服および結膜下注射も追加した.図4角膜掻爬前(a)と後(b)の前眼部所見鑷子で病変を把持したところ白色シート状の混濁が容易に除去できた.抗真菌薬投与C7週後(第C57病日),病巣は角膜中央の表層に限局し,薬剤沈着物が主体の角膜プラーク状の病巣と思われたため角膜掻爬を試みたところ,シート状の白色塊が容易に.離できた(図4).掻爬した検体につき病理組織学的検査を施行したところ,壊死した角膜組織に多数の真菌塊が集簇,残存しているのが確認された.菌体はレモン型の分生子を有しており,その分枝は直角に近く,Scedosporium属として矛盾しない所見であった(図5).角膜の瘢痕化による扁平化は生じたものの,新たな感染兆候はみられず,抗真菌薬の点眼および内服はC3カ月目で漸減後,中止した.発症から12カ月後の現在,感染の再燃はみられず,右眼視力はC0.09(0.5×+5.00D(cyl.3.00DAx135°),右眼眼圧は10mmHgである.CII考按Scedosporium属は角膜炎の起因菌としてはまれである.米国南フロリダでの真菌性角膜炎のC10年間にわたる報告ではCScedosporium属に起因した症例はC125例中C1例(0.8%)図5角膜病理所見a:Hematoxylin-eosin(HE)染色C×40(対物レンズC4C×).壊死した角膜プラーク表層に菌体を多数認める.Cb:PeriodicCacidSchi.(PAS)染色C×200(対物レンズC20C×).菌体は紫色に染色される.Cc:Grocott染色C×400(対物レンズC40C×).黒色に染色される菌体はレモン型の分生子を持ち(.),分枝が直角に近い(.).組織学的にCScedosporiumとして矛盾しない.のみであった3).また,CChanderら11)は北インドにおける角べ,比較的良好な感受性を示すことが報告されている2,22).膜潰瘍C730例のうちC61例(C8.4%)から真菌が検出され,そ本症例では経過中に角膜炎の増悪を一度認め,ミカファンギのうちC1例(1C.6%)がCScedosporium属によるものであったン点眼を追加して改善を得たが,SCcedosporium属へのミカことを報告している.CScedosporium属は免疫能低下症例でファンギンの感受性が低いことや22),掻爬した角膜にCScedo-多く発症することが知られており,これまでの報告では,sporiumの菌体が残存していたことを考慮するとミカファンScedosporium属による角膜炎発症例の基礎疾患としては糖ギンの効果というより,ボリコナゾールの点眼アドヒアラン尿病8)や白血病12),消化器の悪性腫瘍13)などが報告されておスが低下したことで角膜炎が増悪し,その後アドヒアランスり,その他,ステロイドの投与14)があげられる.発症の契が改善したことで結膜充血や前房蓄膿の改善が得られたので機としては,異物や植物などの有機物による角膜外傷がもっはないかと考えている.とも多く8),その他,小切開白内障手術9),ClaserCinCsituCker-Scedosporium属による真菌性角膜炎は難治性であるため,atomileusis後8,15),CCLの使用10),翼状片手術時に併用したCb抗真菌薬点眼,内服に外科的治療のC3者を併用することが好線照射による強膜壊死16),ステロイドCTenon.下注射17),ましいとされている23).外科的治療の方法としては,病巣が他臓器の感染巣からの播種18)などが報告されている.わが角膜に限局している間は病巣掻爬,表層角膜切除,治療的角国では大串ら19)や高橋ら20)によって報告されているが,い膜移植8,21,24)が報告されており,CRyngaら21)の報告ではC23ずれも外傷が契機となったものであった.本症例は基礎疾患例中C5例が抗真菌薬に併用してこれらの外科的治療を行い良や外傷の既往はなかったが,HCCL装用者であった.今回CCL好な結果を得ている.さらに病巣が眼内に及べば,水晶体摘およびその保存液,保存ケースの培養検査を行っていないた出24),硝子体手術25)などで対処するが,その場合の視力予後め感染経路に関しては明らかではないが,CCLを介した感染は不良である.本症例では第C3病日に提出した培養結果に基である可能性が高いと考えている.づき,比較的早期の第C7病日には抗真菌薬による治療を開始従来,CScedosporium属による真菌性角膜炎は治療に抵抗することができた.真菌に対する薬剤感受性試験は当施設でし,予後が不良であるとされてきた.CWuら8)はC2002年には施行できなかったものの,過去の文献に基づきボリコナゾS.apiospermum感染のC28症例の報告について検討を行ってールをはじめとした複数の抗真菌薬を選択することにより,いる.その結果,C27例のうち眼球摘出に至ったものがC6例臨床所見の改善が得られた.さらに角膜掻爬を併用したこと(C21%),眼球内容除去術が行われたものC3例(C11%),眼球により,治癒を得ることができた.早期診断に基づく薬剤選癆C1例(C4%)と眼球を温存できなかった症例がC1/3以上,択が本症例において予後良好の経過を得ることができたと考失明C3例(C11%)も含めるとおよそ半数が失明に至ったと報え,改めて早期診断の重要性を確認した.告している.一方,CRyngaら21)はC2017年にCS.Capiosper-HCL装用者に生じたCScedosporium属によるまれな真菌性mumに起因した角膜炎C22例の報告について検討を行って角膜炎のC1例を経験した.微生物学的検査の結果に基づく早いる.その結果C18例のうちC15例で視力温存あるいは回復期の診断と,ボリコナゾールをはじめとする複数の抗真菌薬が得られたとしている.また,CRamakrishnanら9)はC2018の併用,病巣掻爬が奏効し,比較的良好な治療結果を得るこ年にCS.apiospermumに起因した角膜炎および強角膜炎の自とができた.験例C12例について報告しているが,眼球内容除去術が行われたものC2例,治療的全層角膜移植術が行われたものC1例を利益相反:利益相反公表基準に該当なし除く,C9例で薬物治療によって治癒が得られたとしている.Wuらの報告とCRyngaらやCRamakrishnanらの報告で大きく異なっている点は,ボリコナゾールやフルコナゾールなど文献のトリアゾール系抗真菌薬の承認時期と使用の有無であると1)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関す考えている.とくにCWuらの報告ではボリコナゾールがC1る多施設共同前向き観察研究患者背景・臨床所見・治療・例も使用されていないのに対し,CRyngaらの報告ではC9例予後の現況.日眼会誌C120:C5-16,C2016でボリコナゾールが使用されていた.また,RCamakrishnan2)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:臨床研究真菌性角膜らの報告では全例でボリコナゾールまたはフルコナゾールあ炎に関する多施設共同前向き観察研究:真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌C120:C17-27,C2016るいはその両方が使用されていた.ボリコナゾールはC20023)CRosaCRHCJr,CMillerCD,CAlfonsoCECCetal:CTheCchangingC年に米国食品医薬品局(CFDA)で承認されたトリアゾール系spectrumoffungalkeratitisinsouthFlorida.Ophthalmol-抗真菌薬であり,わが国でもC2005年に内服および静注用がogyC101:C1005-1013,C1994承認されている.ボリコナゾール点眼液は自家調整が必要と4)沖田絢子,吉川洋,吉村武ほか:CScedosporiumCapio-spermumによる真菌性結膜炎のC1例.臨眼C69:C1551-1555,なるが,CScedosporium属についてはその他の糸状真菌に比20155)宮永久美子,細谷友雅,三村治:翼状片術後にCScedospo-riumによる真菌性強膜炎を生じたC1例.眼科C58:893-898,C20166)伊野田悟,佐藤幸裕,新井悠介ほか:ScedosporiumCpro-li.cansによる両眼の内因性網膜下膿瘍のC1例.日眼会誌C119:632-639,C20157)RajR,FrostAE:Scedosporiumapiospermumfungemiainalungtransplantrecipient.Chest121:1714-1716,C20028)WuZ,YingH,YieSetal:FungalkeratitiscausedbySce-dosporiumCapiospermum:reportCofCtwoCcasesCandCreviewCoftreatment.Cornea21:519-523,C20029)RamakrishnanS,MandlikK,SatheTSetal:Ocularinfec-tionscausedbyScedosporiumapiospermum:Acaseseries.IndianJOphthalmol66:137-140,C201810)CortezCKJ,CRoilidesCE,CQuiroz-TellesCFCetal:InfectionsCcausedbyScedosporiumspp.ClinMicrobiolRevC21:157-197,C200811)ChanderJ,SharmaA:PrevalenceoffungalcornealulcersinnorthernIndia.Infection22:207-209,C199412)ReinosoR,CarrenoE,HileetoDetal:FataldisseminatedScedosporiumCproli.cansCinfectionCinitiatedCbyCophthalmicCinvolvementCinCaCpatientCwithCacuteCmyeloblasticCleuke-mia.DiagnMicrobiolInfectDis76:375-378,C201313)YoonCS,CKimCS,CLeeCKACetal:ACcaseCofCScedosporiumCapiospermumCkeratitisCcon.rmedCbyCaCmolecularCgeneticCmethod.KoreanJLabMed28:307-311,C200814)ThomasPA:FungalCinfectionsCofCtheCcornea.CEyeC17:C852-862,C200315)SridharCMS,CGargCP,CBansalCAKCetal:FungalCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC26:613-615,C200016)MoriartyCAP,CCrawfordCGJ,CMcAllisterCILCetal:Fungalcorneoscleritiscomplicatingbeta-irradiation-inducedscleralnecrosisCfollowingCpterygiumCexcision.CEyeC7:525-528,C199317)IkewakiCJ,CImaizumiCM,CNakamuroCTCetal:PeribulbarCfungalCabscessCandCendophthalmitisCfollowingCposteriorCsubtenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide.CActaCOph-thalmologicaC87:102-104,C200918)Vage.MR,KimET,AlvaradoRGetal:Bilateralendoge-nousCScedosporiumCproli.cansCendophthalmitisCafterClungCtransplantation.AmJOphthalmolC139:370-373,C200519)大串淳子,秦堅,西内貴子ほか:ピマリシンとミコナゾールの併用が有効であったCScedosporium属による角膜真菌症のC1例.眼科C31:1547-1551,C198920)高橋知子,望月清文,波多野正和ほか:Scedosporiumapio-spermumによる角膜真菌症.あたらしい眼科C19:649-652,C200221)RyngaCD,CCapoorCMR,CVarshneyCSCetal:ScedosporiumCapiospermum,anemergingpathogeninIndia:CaseseriesandCreviewCofCliterature.CIndianCJCPatholCMicrobiolC60:C550-555,C201722)佐々木香る,砂田淳子,浅利誠志ほか:ボリコナゾール眼局所投与の使用経験.あたらしい眼科27:531-534,C201023)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症のC2病型.臨眼C51:1447-1452,C199724)KepezCYildizCB,CHasanreisogluCM,CAktasCZCetal:FungalCkeratitisCsecondaryCtoCScedosporiumCapiospermumCinfec-tionCandCsuccessfulCtreatmentCwithCsurgicalCandCmedicalCintervention.IntOphthalmolC34:305-308,C201425)RoyCR,CPanigrahiCPK,CPalCSSCetal:Post-traumaticCendo-phthalmitisCsecondaryCtoCkeratomycosisCcausedCbyCScedo-sporiumCapiospermum.OculCImmunolCIn.ammC24:107-109,C2016C***

DSAEK術後長期経過後の角膜真菌症

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):538.541,2018cDSAEK術後長期経過後の角膜真菌症奥村峻大*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CFungalKeratitisafterLong-termDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyTakahiroOkumura1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:角膜内皮移植術(DSAEK)長期経過後に角膜真菌症をきたしたC2症例を報告する.症例:症例1は77歳,男性.右眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C32カ月に遷延性の角膜上皮びらんを認めた.術後C37カ月にソフトコンタクトレンズを装用させたところ.3週間後に角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.症例C2はC84歳,女性.両眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C11カ月間,部分的な角膜浮腫が遷延した.術後C8カ月より右眼の充血と眼痛の訴えがあり,術後C15カ月に右眼の角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.掻爬した角膜上皮より塗抹培養検査でそれぞれCCandidaCparapsilosisおよびCCandidaCalbicansが同定された.結論:DSAEK術後で角膜上皮びらんや角膜浮腫を認めた症例では角膜真菌症も鑑別診断の一つとして念頭においておく必要がある.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCfungalCkeratitisCafterClong-termCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK).CCaseReports:CaseC1CinvolvedCaC77-year-oldCmaleCwhoCunderwentCDSAEKCforCbullouskeratopathy(BK)inChisCrightCeye.CAtC32CmonthsCpostoperatively,CpersistentCcorneal-epithelialCerosionCwasCobserved.CAtC37-months,Cmedical-soft-contact-lensCwearCwasCinitiated.CThreeCweeksClater,CwhiteCin.ltratesCwereCobservedonthecornealsurface.Case2involvedan84-year-oldfemalewhounderwentDSAEKforbilateralBK.PartialCcornealCedemaCwasCprolongedCforC11monthsCpostoperatively.CAtC8CmonthsCpostoperatively,Cright-eyeCcon-junctivalhyperemiaandocularpainoccurred.At15months,whitein.ltrateswereobservedonherright-eyecor-nealsurface.Ineachofthesecases,CandidaparapsilosisCandCandidaalbicansCwereidenti.edfromsmearmicros-copyCandCbacterialCcultureCofCcornealCepithelium.CConclusion:FungalCkeratitisCmayCbeCselectedCasCaCdi.erentialCdiagnosiswhencornealerosionandcornealedemaareobservedonthecornealsurfacepostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):538.541,C2018〕Keywords:DSAEK,角膜真菌症,カンジダ,角膜びらん,角膜浸潤.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),fungalkeratitis,Candida,cornealerosion,cornealin.ltration.Cはじめに水疱性角膜症に対する治療として従来は全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)が行われていたが,近年は角膜内皮移植術のなかでも,とくにCDSAEK(DescemetstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty)が主流となってきている1,2).PKPと比較したCDSAEKの利点は,①術中のオープンスカイがないため駆逐性出血のリスクが低い,②外傷に強い,③術後の視力改善が早い,④術後の不正乱視が少ない,⑤角膜移植片の縫合はない場合が多く,感染など縫合糸関連の合併症が少ない,⑥拒絶反応が少ないなどがあげられる2).DSAEK術後の角膜感染症はCinterfaceCinfection(host-graft創間の感染)が問題となるものの,角膜移植片の縫合はない場合が多いため,表層からの角膜感染症のリスクは一般にCPKPに比べ低いと考えられる.さらにCDSAEK術後の角膜表層からの感染と考えられる角膜真菌症は報告例が少なく,比較的まれであると考えられる.今回,筆者らは,DSAEK施行後,良好な視力経過をたどっている症例に角膜表層から感染した角膜真菌症を経験したので報告する.〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-City,Osaka569-8686,JAPAN538(120)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(120)C5380910-1810/18/\100/頁/JCOPYI症例〔症例1〕77歳,男性.眼科既往歴:1994年C1月に右眼の白内障に対して水晶体.外摘出術+眼内レンズ挿入術(ECCE+IOL),1995年C11月に左眼に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を他院で施行された.その後,両眼とも緑内障を発症し,2001年C1月に左眼,2001年C2月に右眼に対して線維柱体切除術(trabeclectomy)が施行された.現病歴および経過:2010年C8月中旬より右眼の視力低下を自覚し近医受診.右眼矯正視力は(0.4)と低下しており,虹彩切除部より.外固定された眼内レンズ支持部の前房内への脱出と角膜内皮細胞密度の減少を認めた.同年C9月精査・加療目的に大阪医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となったが,水疱性角膜症となり右眼視力はC0.02(矯正不能)まで低下した.2012年C2月に右眼のCDSAEKを施行し,手術は明らかな合併症なく終了した.術後はC0.3%ガチフロキサシン点眼およびC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C4回/日で治療した.徐々に角膜の透明性は回復し,術後C9カ月に矯正視力は(0.6)に改善した.しかし,術直後より鼻側下方に角膜浮腫が遷延しており,スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は測定困難であった.術後C32カ月に角膜下方にびらんを生じ,矯正視力は(0.1)に低下した(図1a).角膜浮腫はやや範囲が広がったような印象で,角膜後面沈着物を認めた.5カ月間,オフロキサシン眼軟膏,レバミピド点眼で加療するも改善がみられず,角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ(SCL)装用を開始した.装用開始からC2週間後,角膜びらんはやや改善しているように思われたが,眼脂を認め,右眼矯正視力は(0.06)と低下した(図1b).さらにCSCL装用を継続したところ,1週間後の受診の際に眼痛の訴えがあり,角膜浸潤を生じていた.そのためベタメタゾン点眼およびCSCL装用を中止し,角膜掻爬のうえC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.前回受診の際に採取した眼脂と角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.1カ月の治療で炎症は鎮静化した(図1c).現在,右眼矯正視力は(0.1)で,角膜びらんや角膜浮腫,眼痛の再発は認めずに経過している.〔症例2〕86歳,女性.現病歴および経過:2004年より白内障で近医にて経過観察されていた.経過中に視力低下を認めたため,2013年C7月に白内障手術目的に当科紹介受診された.当科初診時,白内障に加えて角膜内皮細胞密度が右眼C559/mmC2,左眼測定不能と両眼とも低下していたため,白内障手術後に水疱性角図1症例1の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C37カ月.角膜上皮びらんは改善を認めず.角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ装用を開始した.Cb:ソフトコンタクトレンズ装用開始後C3週間.角膜浸潤を認める.角膜上皮の塗抹鏡検,培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.Cc:治療開始後C4週間.角膜上皮びらんは治癒した.角膜真菌症は瘢痕治癒を認めた.C膜症となるリスクを説明したうえでC2013年C8月C30日に右眼に対してCPEA+IOLを施行した.術後いったん視力は改善したが,その後水疱性角膜症が発症し右眼の矯正視力が(0.2)まで低下した.2013年C11月C19日に右眼に対して(121)Cあたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C539図2症例2の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C4カ月.術後部分的にCgraftの接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫が遷延している.Cb:DSAEK術後C15カ月.角膜実質浅層に浸潤があり,衛星病巣を認める.Cc:治療開始後C3カ月.角膜は瘢痕治癒した.CDSAEKを施行し,明らかな合併症なく手術は終了した.術後はC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日を含む点眼加療を開始した.術直後よりChost角膜とCdonorCgraft間に部分的な接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫を認めた(図2a).術後C8カ月に異物感と軽度の充血が出現した.術後C10カ月に眼圧が上昇したためC0.1%ベタメタゾン点眼をC0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日に変更した.術後C11カ月にはhost角膜とCdonorgraftは接着し,遷延していた角膜上皮浮腫も改善したものの,同部の角膜実質浅層に混濁が残存した.術後C15カ月に同部の角膜表層に浸潤を認めたが角膜上皮欠損は認めなかった.感染が強く疑われ精査を勧めたが,矯正視力は(0.7)で改善傾向が続いており,家庭の事情もあり慎重な経過観察を希望された.1カ月後に再診し,角膜浸潤の増大と角膜上皮欠損を認めた(図2b).矯正視力は(0.8)であったが,異物感と充血が続いており,説得して角膜.爬を施行した.角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaalbicansが検出された.フルオロメトロン点眼は中止しC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.治療開始後C3カ月で瘢痕治癒した(図2c).治療開始以降,異物感の訴えは認めない.現在矯正視力は(1.2)である.角膜内皮細胞密度は術前のCdonorCgraftでC2,625/mmC2であり,術後は測定困難が続き術後C27カ月でC1,407/mmC2,術後C42カ月でC1,156/mmC2であった.CII考按角膜移植後の角膜感染症の危険因子としては,角膜縫合糸のゆるみや断裂,遷延性上皮欠損,コンタクトレンズ装用,局所のステロイド点眼および抗菌薬点眼の併用などがあげられている3).DSAEKは角膜表層への侵襲が少ないこと,角膜縫合糸を使用しない場合が多いことから,PKPと比較して術後感染症は少ない可能性が考えられる.PKPとCDSAEKそれぞれの術後角膜感染症を疫学的にみてみると,MarianneらはCCorneaDonorStudyに基づいて,角膜移植術後の角膜感染症の発症頻度についてC3年間経過観察し,DSAEK173例で0%,PKP術後C1,101例で2%認めたと報告している4).NuhmanらはCDSAEK術後のCinterfaceinfectionを,8年間経過観察したC1,088眼でC0.92%に認めたと報告しており,内訳はC0.53%が細菌性,0.39%が真菌性であったとしている5).これに対して,脇舛らはCPKP術後の558例についてC6年間で,細菌感染症をC1.4%,真菌感染症を2%認めたと報告している6).上記の報告からはCDSAEK術後の角膜感染症はCPKPに比較すると少なく,真菌性は細菌性よりも頻度は低いと考えられるが,海外の報告ではグラフト汚染に起因した角膜真菌症の報告が多い7.19).グラフト汚染に起因した角膜真菌症は術後C3カ月以内(術後C7日.3カ月)で発症し7.19),移植したdonorgraftとChost角膜の層間に沿って真菌が増殖し,予後不良の転帰をたどることもある10,13),このため術後のグラフト自体に浸潤性の病変が生じていないか慎重に経過観察することが重要である.診断にはコンフォーカルマイクロスコープが有用であるとする報告もみられる12,13).グラフト作製後に残った強角膜片の培養をあらかじめ施行しておくことも有効である9.12).原因菌は今回の症例と同じCCandida属が多い.治療には抗真菌薬の点眼を施行するが,保存的治療だけ(122)で完治は困難でありグラフト抜去9,13)や治療的角膜移植8,10.12)が有効なようである.症例C1は術直後より部分的な角膜浮腫が遷延していたため,角膜真菌症と診断されるまでC37カ月間C0.1%ベタメタゾン点眼が継続されていた.術後C32カ月の時点で難治性の角膜びらんを発症したが,経過中に眼痛や視力など自覚症状および診察所見に大きな変化がなく,角膜浸潤が明らかになり角膜真菌症が診断されたのはCSCL装用を開始したC3週間後であった.本症例ではステロイド点眼の長期継続に加えて,遷延する角膜浮腫と角膜びらんが発症の一因となっていた可能性があり,SCL装用が増悪因子となったと考えられるが,どの時点で角膜感染が生じていたかは明らかでない.症例C2も術直後より角膜浮腫が遷延していた.眼圧上昇を認めたため術後C9カ月でベタメタゾン点眼をフルオロメトロンに変更したものの,変更前より異物感と充血を認めていた.術後C11カ月に角膜浮腫の消退した部位に上皮下混濁を認めており,さらにC4カ月後に角膜真菌症を発症した.本症例でも角膜浸潤が明らかになるより以前に角膜感染が生じていた可能性が考えられるが,どの時点かは明らかでない.発症時期についての検討だが,PKP,表層角膜移植術の角膜感染症の発症時期は,術後早期では細菌感染症が,3年以降の晩期では真菌感染症が多いと報告されている4).ArakiらはCDSAEK術後C2年に発症したCgraft汚染によらない角膜真菌症を報告している14)が,今回のC2症例の発症時期はそれぞれ術後C38カ月とC15カ月であり,DSAEK術後のCgraft汚染によらない角膜真菌症の発症時期についてはCPKPに準ずる可能性があると考えられた.また,2症例とも角膜浮腫が遷延しており,浮腫のあった部分に真菌感染を生じている.視力経過が比較的良好な症例でも角膜上皮浮腫や角膜びらんなど角膜上皮にトラブルのある症例では角膜感染のリスクがあると考えられる.角膜移植後は拒絶反応を予防するためにステロイド点眼が併用されるが,DSAEKはCPKPと比較して拒絶反応のリスクが低いとされており,比較的早期に投与量を減量されることが多いと考えられる.今回のC2症例では,角膜浮腫が遷延していたため,ベタメタゾン点眼を他の症例に比べて長期に使用した傾向がある.岡宮ら15)は白内障術後に角膜びらんが遷延し,ステロイド点眼をC7カ月使用していた症例にCCandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を発症した症例を報告しており,今回のC2症例と総合すると,遷延する角膜浮腫やそれに続発する眼痛や角膜びらんは,CandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を示唆する所見であると考えられる.以上,DSAEK術後の視力経過が比較的良好な症例でも,角膜浮腫の遷延する症例に眼痛や角膜びらんを生じてきた場合,角膜真菌症を鑑別診断の一つとして念頭に置いておく必(123)要があると考えられた.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurgC21:339-345,C20052)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科C32:77-81,C20153)藤井かんな,佐竹良之,島.潤:角膜移植後の角膜感染症.あたらしい眼科31:1697-1700,C20144)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetCal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCthree-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C20135)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20146)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,C20047)YamazoeCK,CDenCS,CYamaguchiCTCetCal:SevereCdonor-relatedCCandidaCkeratitisCafterCDescemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC249:1579-1582,C20118)HolzCHA,CPirouzianCA,CSudeshCSCetCal:SimultaneousCinterfaceCcandidaCkeratitisCinC2ChostsCfollowingCdescemetCstrippingCendothelialCkeratoplastyCwithCtissueCharvestedCfromCaCsingleCcontaminatedCdonorCandCreviewCofCclinicalCliterature.AsiaPacJOphthalmolC1:162-165,C20129)KitzmannAS,WagonerMD,SyedNAetal:Donor-relat-edCCandidaCkeratitisCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC28:825-828,C200910)KoenigSB,WirostkoWJ,FishRIetal:CandidakeratitisafterCdescemetCstrippingCandCautomatedCendothelialCkera-toplasty.CorneaC28:471-473,C200911)TsuiE,FogelE,HansenKetal:Candidainterfaceinfec-tionsafterDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.CorneaC35:456-464,C201612)LeeWB,FosterJB,KozarskyAMetal:Interfacefungalkeratitisafterendothelialkeratoplasty:aclinicopathologi-calCreport.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC42Online:Ce44-48,C201113)Ortiz-GomarizCA,CHigueras-EstebanCA,CGutierrez-OrtegaARCetCal:Late-onsetCCandidaCkeratitisCafterCDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:clinicalandconfocalCmicroscopicCreport.CEurCJCOphthalmolC21:498-502,C201114)Araki-SasakiK,FukumotoA,OsakabeYetal:ThecliniC-calCcharacteristicsCofCfungalCkeratitisCinCeyesCafterCDes-cemet’sCstrippingCandCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CClinOphthalmolC8:1757-1760,C201415)岡宮史武,宇野敏彦,鈴木崇ほか:ステロイド長期点眼中に発症したCCandidaparapsilosis角膜真菌症のC2例.あたらしい眼科C18:781-785,C2001あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C541

全層角膜移植術後の角膜感染症に対する治療的角膜移植術の検討

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):247.252,2018c全層角膜移植術後の角膜感染症に対する治療的角膜移植術の検討脇舛耕一*1,2粥川佳菜絵*1北澤耕司*1,3稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CRetrospectiveAnalysisofTherapeuticKeratoplastyforCornealInfectionPostPenetratingKeratoplastyKoichiWakimasu1,2)C,KanaeKayukawa1),KojiKitazawa1,3)C,OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)術後の角膜感染症に対し,治療的角膜移植術を行った症例について検討を行った.対象および方法:バプテスト眼科クリニックにおいて,2003年C1月.2016年C7月にCPKPを行ったC835眼中,細菌または真菌感染症を発症したC33眼のうち,ドナー角膜内に活動性の感染部位を認めるが,ホスト角膜への感染は波及前,あるいは保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで,治療的角膜移植術を行ったC5眼(0.6%)を対象とした.起因菌,発症時年齢,感染症発症までの期間,原疾患,予後および視機能についてレトロスペクティブに検討した.結果:起因菌は細菌がC2眼,真菌がC2眼,起因菌不明がC1眼であった.細菌感染症ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌,レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム属を,真菌感染症ではカンジダ属,酵母型真菌を各C1眼に検出した.発症時年齢(中央値)はC75歳(59.88歳),角膜移植から発症までの期間(中央値)はC7.0(1.0.9.6)年であった.原疾患は格子状角膜ジストロフィC2眼,水疱性角膜症C2眼,梅毒性角膜実質炎C1眼であった.治療的角膜移植術後の最終経過観察期間(中央値)はC1.0(0.7.1.2)年であり,5眼全例で透明治癒が得られていた.矯正視力(小数換算)は発症前C0.18,発症後C0.02,治療的角膜移植術後C0.23であった.結論:PKP術後の角膜感染症は,ホスト角膜への感染の波及前,あるいは保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで治療的角膜移植術を行うことで良好な視力予後を得られた.CPurpose:Toanalyzeeyesthatunderwenttherapeutickeratoplastyforcornealinfectionpostpenetratingker-atoplasty(PKP)C.CMethods:OfC835CeyesCthatChadCundergoneCPKPCatCBaptistCEyeCInstituteCfromCJanuaryC2003CtoJuly2016,fromamongthe33eyesthatdevelopedmicrobialkeratitisweretrospectivelyreviewed5eyes(0.6%)CthatChadCundergoneCkeratoplastyCforCmicrobialCkeratitisClocalizedCwithinCtheCdonorCgraftCandCwithCnoCactiveCinfec-tiouslesioninthehostcornea.Microbiologicaletiology,periodbetweenPKPandinfection,primarydisease,visualacuityandprognosiswerealsoevaluatedretrospectively.Results:Infectionsincludedbacterial(2eyes),fungal(2eyes),CandCunknown(1Ceye)C.CTheCbacterialCandCfungalCinfectionsCwereCcausedCbyCmethicillin-resistantCcoagulase-negativeCstaphylococci/levo.oxacin-resistantCCorynebacteriumCspecies,CandCCandidaCspecies/yeast-typeCfungus,respectively.MeanperiodbetweenPKPandinfectiononsetwas7.0years(range:1.0-9.6years)C.PrimarydiseasesprePKPwerelatticecornealdystrophy(2eyes),bullouskeratopathy(2eyes)andsyphilis(1eye)C.Meanlastfol-low-upCperiodCafterCtherapeuticCkeratoplastyCwasC1Cyear(range:0.7-1.2Cyears);donor-corneaCclarityCwasCobtainedinalleyesatthelastfollow-upperiod.Meanbest-correctedvisualacuitywas0.18preinfection,0.02postinfection,CandC0.23CpostCtherapeuticCkeratoplasty.CConclusions:TherapeuticCkeratoplastyCforCpostCPKPCinfectionCenabledbettervisualprognosispreinvasionorposthealingofinfectionatthehostcornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):247.252,C2018〕〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,CJAPANKeywords:全層角膜移植術後角膜感染症,治療的角膜移植術,細菌性角膜炎,角膜真菌症,薬剤耐性菌.postop-erativeinfectionpostpenetratingkeratoplasty,therapeutickeratoplasty,bacterialkeratitis,fungalkeratitis,resis-tantbacteria.Cはじめに全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)後角膜感染症は,視機能に影響を及ぼす重篤なCPKP術後合併症の一つである1.21).PKP術後角膜感染症の発症頻度はC1.76.12.1%とされているが2.21),施設による差異があり16),また,発展途上国では発症率が高いとの報告がある7,9,15,16).PKP術後角膜感染症の発症因子としては,縫合糸の緩みやソフトコンタクトレンズの使用,ステロイドの長期投与,遷延性上皮欠損,graftCfailureの存在などが指摘されている1.3,5.8,10.12,14.24).PKP術後角膜感染症の視力予後は一般的に不良であり1,2,5,6,15,16,21),保存的治療のみでは感染症の沈静化が得られても透明治癒を得られる症例はC30-40%とされている1,5,21).一方,角膜感染症に対する治療的角膜移植術は,術後感染の再燃や眼内炎への移行などにより,視機能改善が維持できる症例はC60.80%とされている25.28).今回,バプテスト眼科クリニック(以下,当院)で施行したCPKP術後の角膜感染症に対して,ドナー角膜内には活動性の感染部位を認めるが,ホスト角膜への感染は波及前,あるいは保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで治療的角膜移植術を施行した症例について検討を行ったので報告する.CI対象および方法対象は,2003年1月.2016年7月に当院にてPKPを施行したC835眼中,手術後に細菌性または真菌性の角膜感染症を発症したC33眼のうち,治療的角膜移植術を施行したC5眼(0.6%)である.ヘルペス性角膜炎を含むウイルス性疾患は除外した.また,PKP術後にアカントアメーバ角膜炎を発症した症例は除外した.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,京都有識者倫理審査委員会承認のもと,患者本人に十分なインフォームド・コンセントを行った後に文書による同意を得て施行した(UMIN000024891).PKP後感染症の起因菌,PKP施行から感染症発症までの期間,発症時年齢,原疾患,発症部位,発症までのCPKP既往,僚眼の視力,予後,角膜内皮細胞密度および視機能についてレトロスペクティブに検討した.治療方法については,発症時にホスト角膜に病変が及んでいない場合は,ただちに治療的角膜移植術を施行した.一方,ホスト角膜に病変が及んでいる例では,抗菌薬あるいは抗真菌薬の投与による保存的治療を行い,ホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで,治療的角膜移植術を行った(図1,2).保存的治療の方法は,細菌感染症では菌培養薬剤感受性を考慮してC1.5%レボフロキサシン,0.5%モキシフロキサシン,0.5%セフメノキシムなどのC1時間ごとの点眼,真菌感染症ではC0.1%ミコナゾールのC1時間ごとの点眼およびピマリシン眼軟膏のC1日C5回の点入を行った.起因菌が同定されなかったC1例ではC0.5%モキシフロキサシン,0.1%ミコナゾールのC1時間ごとの点眼を同時に行った.局所ステロイドの使用については,起因菌や炎症の状態などによって症例ごとに中止またはC0.1%フルオロメトロンC1日C2回点眼に変更した.治療的角膜移植術については,病巣を含んだドナー角膜を適切なサイズのトレパンで切除し,ホスト側の角膜には感染巣がないことを確認し,0.25Cmm大きなサイズのドナー角膜をC10-0ナイロンで連続または端々縫合した.移植術後の局所投薬はC0.5%ガチフロキサシンとC0.1%リン酸ベタメタゾンの点眼をC1日C4回とした.手術前が真菌感染症の例では0.1%ミコナゾールの点眼C1日C4回を追加した.全身投薬は,リン酸ベタメタゾンC4CmgとセファゾリンナトリウムC1Cg,マンニトールC300Cmlの点滴をC3日間,リン酸ベタメタゾン1mgとセフカペンピボキシル塩酸塩,アセタゾラミド500Cmgの内服をC5日間,および術後炎症の状態によってメチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムC125Cmgの静脈注射を追加した.予後については,治療的角膜移植術C6カ月後,最終経過観察の時点での角膜の透明治癒の状態について検討した.視機能については,感染症発症前,発症後,治療的角膜移植術C6カ月後の視力および角膜内皮細胞密度を比較した.統計学的検定については,Kruskal-Wallis検定を用いてCScheffe法による多重比較の検討を行い,p値C0.05未満を統計学的有意水準とした.CII結果1.起因菌,感染症発症までの期間今回対象となった症例はC835眼中C5眼(0.6%,男性C2眼,女性C3眼)であり,起因菌は,細菌を検出した症例がC2眼,真菌を検出した症例がC2眼,細菌学的検査では起因菌が同定できなかったが,細隙灯顕微鏡検査所見から細菌または真菌感染症が疑われた症例がC1眼であった.細菌感染症のうち,培養検査にてメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantCcoagulase-negativeCstaphylococci:MRCNS)を検出した症例がC1眼,コリネバクテリウム属を検出した症例がC1眼であった.培養で検出されたコリネバクテリウム属はレボフロキサシン耐性であった.真菌感染症で症例1症例2症例3症例4症例5図1治療的角膜移植例左が感染症発症前,中央が感染症発症後,右が治療的角膜移植術後である.(症例1)88歳,女性.起因菌はメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.(症例2)64歳,男性.起因菌はコリネバクテリウム属.(症例3)81歳,女性.起因菌はカンジダ属.(症例4)75歳,男性.起因菌は酵母型真菌.(症例5)59歳,女性.起因菌は培養検査,擦過鏡検では検出されなかった.は,培養検査でカンジダ属を検出した症例がC1眼,酵母型真った(表1).菌を検出した症例がC1眼であった.PKP施行から感染症を発症するまでの期間(年,中央値)はC7.0(1.0.9.6)年であ症例1症例3症例4症例5図2治療的角膜移植術前に保存的治療後を施行した症例左が保存的治療前,右が保存的治療後である.左の写真では主感染巣のほかホスト角膜側に浸潤を認める(.)が,右の写真ではドナー角膜内に感染巣は残存する(C.)ものの保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化(C.)しており,この後治療的角膜移植を行った.表1各症例の内訳症例性別起因菌発症までの期間(年)発症時年齢(歳)原疾患発症部位PKPの既往(回)僚眼の視力C1女性CMRCNSC6.9C88格子状角膜ジストロフィ瞳孔領C3光覚(-)C2男性コリネバクテリウム属C8.4C64水疱性角膜症縫合糸C4C0.5C3女性カンジダ属C1.0C81梅毒性角膜実質炎縫合糸C1指数弁C4男性酵母型真菌C9.6C75水疱性角膜症瞳孔領C2光覚(-)C5女性不明C6.3C59格子状角膜ジストロフィ縫合糸C1C0.1MRCNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci)表2各症例の矯正視力変化治療的角膜移植術症例発症前発症後6カ月後C1C0.09手動弁C0.1C2C0.1指数弁C0.2C3C0.2C0.02C0.2C4C0.3C0.1C0.2C5C0.4C0.07C0.42.発症時年齢,原疾患,発症部位,発症までのPKPの既往,僚眼の視力感染症発症時の年齢はC75歳(中央値,59.88歳)であり,原疾患は格子状角膜ジストロフィC2眼,水疱性角膜症C2眼,梅毒性角膜実質炎C1眼であった.発症部位は,瞳孔領がC2眼,縫合糸近傍がC3眼であり,発症後感染巣がドナー角膜内に限局しただちに治療的角膜移植術を施行できた症例がC1眼,初診時すでに感染巣がホスト角膜に及んでおり,保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで治療的角膜移植術を行った症例がC4眼であった.発症までにCPKPを施行された回数(中央値)はC2回(1.4回)であり,5眼中C3眼で複数回CPKPを施行されていた.このC3眼における過去のCgraftfailureの原因はすべて自然経過による角膜内皮細胞密度減少によるもので,角膜感染症の既往眼は認めなかった.僚眼の視力については,5眼中C3眼が低視力であった(表1).C3.予後および視力治療的角膜移植術後の最終経過観察期間はC1.0年(中央値,0.7.1.2年)であり,最終観察時C5眼全例(100%)において角膜の透明治癒を得られており,感染の再燃を認めていない.平均矯正視力(小数換算)は,感染症発症前C0.18,発症後C0.02,治療的角膜移植術C6カ月後C0.23であり,治療的角膜移植術後は有意に改善し(p=0.03),感染症発症前と有意差を認めなかった(表2).治療的角膜移植術C6カ月後の角膜内皮細胞密度(中央値)はC2,297(2,038.2,451)であった(表3).C表3各症例の角膜内皮細胞密度変化治療的角膜移植術症例発症前6カ月後C1C1,016C2,038C2測定不能C2,354C3C2,579C2,297C4測定不能C2,451C5測定不能C2,042CIII考按今回の検討で対象となったC5眼は,同検討期間中にCPKPを施行した全C835眼のC0.6%であった.発症の背景について,起因菌は,細菌感染ではCMRCNSやレボフロキサシン耐性コリネバクテリウム属が,真菌では酵母型真菌が検出され,これらは以前に当院で検討した結果とほぼ同様であった20).原疾患では,格子状角膜ジストロフィと水疱性角膜症が多く,発症部位はドナー角膜側の縫合糸近傍や瞳孔領であった.格子状角膜ジストロフィは,PKP術後もホスト角膜上皮がドナー角膜上皮に置き換わることで,角膜上皮の接着不良による角膜上皮障害をきたしやすい.水疱性角膜症でも角膜上皮の接着不良を生じやすく,これら原疾患による角膜上皮障害が感染症発症の一因と考えられた.他の背景因子として,本検討でのC5眼全例で免疫低下をきたす全身疾患は認めなかったが,高齢者やモノクルス症例が多いこと,PKPの複数回施行例が多いこと,PKP術後に低濃度ステロイド点眼を長期継続していたことなどにより,局所の免疫不全状態をきたしていた可能性が高く,これらが感染症発症のリスクファクターと考えられた.治療的角膜移植術後の視機能改善はC60.80%とされており,予後不良例として,感染の再燃や眼内炎への移行が報告されている25.29).再燃のピークは治療的角膜移植術後C6週間以内に認められ,とくに糸状型真菌では再燃の危険性が高く25,28),治療的角膜移植を行うタイミングとして,ホスト角膜側の周辺部に病巣が残った状態で治療的角膜移植を行うと感染の再燃を生じることが報告されている25,29).本検討では,5眼全例で治療的角膜移植術C6カ月後に視機能の改善を認め,最終観察時点で感染の再燃を認めず透明治癒が得られている.その理由として,ホスト角膜側への感染の波及を認めた症例では,保存的治療によりホスト角膜側の感染が鎮静化したうえで治療的角膜移植を行ったことが考えられた.今回の症例のうち,症例C2を除くC4症例はいずれもモノクルスであり,また保存的加療のみにより短期間に透明治癒が得られる状態ではなく,可及的速やかな外科的治療が必要であった.また症例C2のCPKP術後眼は,保存的治療を行ってから光学的移植を行うのが本来であるが,角膜感染症を発症する前からCgraftfailureをきたしており,受診時に感染巣はドナー角膜内に限局し,ホスト角膜への波及や前房内炎症を認めず,グラフトの交換にて感染巣の完全除去が得られる状態であり,加えて患者の強い希望もあったため,治療的角膜移植に踏み切った.しかし,治療的角膜移植術C1年後以降に感染の再燃を認めた症例もあり25,28),引き続き経過観察が必要である.PKP術後の角膜感染症では,ホスト角膜への感染の波及の有無に留意し,ドナー角膜内に感染巣を限局させてから治療的角膜移植を行うことで,感染の再燃を抑制し,光学的角膜移植と同等の改善効果が得られる可能性が高いと考えられた.文献1)兒玉益広,水流忠彦:角膜移植術後感染症の発症頻度と転機.臨眼50:999-1002,C19962)TubervilleCAW,CWoodCTO:CornealCulcersCinCcornealCtransplants.CurrEyeRes1:479-485,C19813)大塚裕子,曽根隆一郎,村松隆次:全層角膜移植術に伴った術後感染症.あたらしい眼科10:419-421,C19934)LamensdorfCM,CWilsonCLA,CWaringCGOCetCal:MicrobialCkeratitisafterpenetratingkeratoplasty.OphthalmologyC89(Sept.Suppl):124,19825)HarrisDJJr,StultingRD,WaringGOIIIetal:LatebacC-terialCandCfungalCkeratitisCafterCcornealCtransplantation.CSpectrumofpathogens,graftsurvival,andvisualprogno-sis.Ophthalmology95:1450-1457,C19846)FongLP,OrmerodLD,KenyonKRetal:Microbialkera-titiscomplicatingpenetratingkeratoplasty.OphthalmologyC95:1269-1275,C19887)Al-HazzaaSA,TabbaraKF:Bacterialkeratitisafterpen-etratingkeratoplasty.OphthalmologyC95:1504-1508,C19888)BatesAK,KirnessCM,FickerLAetal:Microbialkerati-tisafterpenetratingkeeratoplasty.EyeC4:74-78,C19909)AkovaCYA,COnatCM,CKocCFCetCal:MicrobialCkeratitisCfol-lowingCpenetratingCkeratoplasty.COphthalmicCSurgCLasersC30:449-455,C199910)LeaheyAB,AveryRL,GottschJDetal:Sutureabscess-esCafterCpenetratingCkeratoplasty.CCorneaC12:489-492,C199311)中島秀登,山田昌和,真島行彦:角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討.臨眼55:1001-1006,C200112)WrightCTM,CAfshariCNA:MicrobialCkeratitisCfollowingCcornealCtransplantation.CAmCJCOphthalmolC142:1061-1062,C200613)TsengSH,LingKC:Latemicrobialkeratitisaftercornealtransplantation.CorneaC14:591-594,C199514)VajpayeeCRB,CBoralCSK,CDadaCTCetCal:RiskCfactorsCforgraftCinfectionCinCIndia:aCcase-controlCstudy.CBrCJCOph-thalmolC86:261-265,C200215)VajpayeeRB,SharmaN,SinhaRetal:Infectiouskerati-tisCfollowingCkeratoplasty.CSurvCOphthalmolC52:1-12,C200716)WagonerMD,Al-SwailemSA,SutphinJEetal:BacterialkeratitisCafterCpenetratingCkeratoplasty:incidence,Cmicro-biologicalCpro.le,CgraftCsurvivalCandCvisualCoutcome.COph-thalmologyC114:1073-1079,C200717)VarleyCGA,CMeislerCDM:ComplicationsCofCpenetratingkeratoplasty:graftCinfections.CRefractCCornealCSurgC7:C62-66,C199118)MoorthyCS,CGraueCE,CJhanjiCVCetCal:MicrobialCkeratitisafterCpenetratingCkeratoplasty:ImpactCofCsutures.CAmJOphthalmolC152:189-194,C201119)ConstantinouM,JhanjiV,VajpayeeRB:ClinicalmicrobiC-ologicalpro.leofpost-penetratingkeratoplastyinfectiouskeratitisinfailedandcleargrafts.AmJOphthalmolC155:C233-237,C201320)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,C200421)藤井かんな,佐竹良之,島.潤:角膜移植後の角膜感染症.あたらしい眼科31:1697-1700,C201422)若林俊子,山田昌和,篠田啓ほか:縫合糸膿瘍から重篤な眼感染症をきたした角膜移植眼のC2例.あたらしい眼科C16:237-240,C199923)松岡里佳,高橋徹,渡辺牧夫ほか:縫合糸に起因する難治性角膜浸潤のC1症例.眼紀51:45-47,C200024)岡本敬子,江口洋,秦聡ほか:全層角膜移植術C8年後に生じた角膜縫合糸感染症のC1例.眼紀C54:135-138,C200325)TiCS,CScottCA,CJanardhananCPCetCal:TherapeuticCkeratoC-plastyCforCadvancedCsuppurativeCkeratitis.CAmCJCOphthal-molC143:755-762,C200726)AnshuA,ParthasarathyA,MehtaJSetal:OutcomesoftherapeuticCdeepClamellarCkeratoplastyCandCpenetratingkeratoplastyforadvancedinfectiouskeratitis:acompara-tivestudy.OphthalmologyC116:615-623,C200927)SharmaN,SachdevR,JhanjiVetal:Therapeutickerato-plastyformicrobialkeratitis.CurrOpinOphthalmolC21:C293-300,C201028)ChenWL,WuCY,HuFRetal:TherapeuticpenetratingkeratoplastyCforCmicrobialCkeratitisCinCTaiwanCfromC1987CtoC2001.CAmJOphthalmolC137:736-743,C200429)ShiW,WangT,XieLetal:Riskfactors,clinicalfeatures,andCoutcomesCofCrecurrentCfungalCkeratitisCafterCcornealCtransplantation.Ophthalmology117:890-896,C2010***

フサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisome® の使用経験

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):391.396,2012cフサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisomeRの使用経験佐々木香る*1樋口かおり*1加来裕康*2出田隆一*1田中住美*1*1出田眼科病院*2慶徳加来病院EffectofAmBisomeRagainstKeratomycosisCausedbyFusariumKaoruAraki-Sasaki1),KaoriHiguchi1),HiroyasuKaku2),RyuichiIdeta1)andSumiyoshiTanaka1)1)IdetaEyeHospital,2)Keitoku-KakuHospital緒言:リポソーマル化により副作用を軽減したアムホテリシンB(リポソーマル化AMPB;L-AmB)の全身・局所投与による治療を経験したので報告する.症例:74歳,女性.木の枝による左眼外傷後2日目受診.角膜後面プラーク,前房蓄膿を伴う角膜炎を認め,フサリウムが分離された.ボリコナゾール(VRCZ)の点滴,点眼,ミコナゾール(MCZ)点眼,ピマリシン軟膏にて加療開始したが,肝障害を生じ,L-AmBの点滴および点眼に変更した.投与後低カリウム血症が生じたが,肝機能は悪化しなかった.表層角膜所見は改善したが,前房蓄膿,角膜後面プラークが高度となったため,治療開始後8週間目に治療的角膜移植を施行した.結果:採取角膜の真菌培養は陰性であり,組織では断片化菌糸が観察された.感受性試験の最小発育阻止濃度(MIC)値はAMPB<VRCZ=MCZ<ミカファンギン(MCFG)であった.結論:各種検査の結果からL-AmBはフサリウムに有効であると推測された.しかし,その有効性ゆえに,破壊菌体による炎症を惹起し,角膜深層所見の悪化をきたす可能性も示唆された.また低カリウム血症への配慮も必須である.Purpose:TodescribethetreatmentofFusarium-causedkeratomycosiswithliposomalamphotericinB(AMPB;L-AmB),whichhaslesssideeffectthanamphotericinB.Case:Thepatient,a74-year-oldfemale,sufferedaninjurytohereyefromatwig.Twodaysaftertheinsult,retrocornealplaqueandhypopyonwereobservedbyslit-lampexamination.Fusariumwasisolatedfromhercornea.Voriconazole(VRCZ;eyedropsandintravenousinjection),miconazole(MCZ;eyedrops)andnatamycin(eyeointment)wereappliedasinitialtreatment.Liverdysfunction,however,soonnecessitatedachangeintreatment,fromvoriconazoletoL-AmB.Thischangecausedhypokalemia,butnotliverdysfunction.Althoughthesuperficialcornealpathogenicregionimproved,thedeepcornealregion,includingtheretrocornealplaqueandhypopyon,progressed.Ultimately,therapeuticpenetratingkeratoplasty(PKP)wasneeded,atweek8oftreatment.Result:Cultureoftheexcisedcorneawasnegative,andfractionalfilamentousfungiwereobservedbyhistologicalexamination.Theminimuminhibitoryconcentrations(MICs)ofthedrugswereinthisorder:AMPB<VRCZ=MCZ<micafungin(MCFG).Conclusion:TheresultsofseveralexaminationsindicatethatL-AmBiseffectiveforFusarium.However,thedrugmightinduceexcessiveinflammation,givenitsstrongmycocidaleffect,whichcouldbeobservedasdeepcornealinflammation.Hypokalemiamustalsobedealtwith.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):391.396,2012〕Keywords:フサリウム,角膜真菌症,アムホテリシンB,リポソーマル化アンホテリシンB,糸状菌.Fusarium,keratomycosis,amphotericinB,liposomalamphotericinB,filamentousfungi.〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-SasakiM.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)391 はじめに角膜真菌症には,大きく分けて市中型といわれる酵母によるものと,農村型といわれる糸状菌によるものがある1).このうち糸状菌の起因菌の代表としてはアスペルギルスとフサリウムがあるが,いずれも予後不良であることが知られている.特にフサリウムは種々の抗真菌薬に抵抗性であるが,眼科臨床分離株を用いた検討ではアムホテリシンB(AMPB)が最小発育阻止濃度(MIC)が最も低値で効果が期待できる2).しかし,AMPBは全身投与した際,腎毒性が強く,添加されている胆汁酸による細胞毒性も強いため,眼科医には扱いにくい抗真菌薬である.したがって角膜炎の治療に対して前房内局所投与を推奨する報告もある3.6).近年この副作用を軽減するために,リポソームの脂質二重膜にAMPB分子をはめ込んだリポソーマル化AMPB(アンビゾームR,以下L-AmB)が開発された.この薬剤は真菌細胞膜であるエルゴステロールに特異性が高く,真菌と接触して初めてAMPB分子が取り込まれるため,副作用が少ないとされている7).フサリウムによる心内膜炎に対してL-AmBとボリコナゾール(VRCZ)の併用療法が有効であったという臨床報告もなされている8).角膜炎に対しては臨床使用の報告はなされているものの,症例の詳細な経過およびL-AmB投与に伴う全身状態の変化などについての報告はまだない.今回,他剤による治療中に肝障害をきたしたフサリウムによる角膜真菌症に対し,L-AmBの全身・局所投与を行ったので,詳細な経過とともに,その効果を報告する.I症例呈示患者:74歳,女性.既往歴:糖尿病を患っており,血糖降下剤にてコントロールされていた.経過:木の枝による外傷後2日目,充血および眼痛にて出田眼科を初診した.左眼角膜中央部に膿瘍を認め,角膜後面プラークが観察された(図1a).高度の毛様充血と前房蓄膿を伴っていた.視力は検査は疼痛のため施行できず,眼圧は測定不可能であった.なお,右眼には白内障を認めるのみであった.角膜擦過物のスメアを施行したところ,グラム染色およびファンギフローラY染色にて糸状菌を検出したため,同日,VRCZ400mg/日の点滴,1%VRCZ点眼1時間毎,1%ミコナゾール(MCZ)点眼1時間毎,ピマリシン(PMR)軟膏眠前塗入にて加療開始した.治療開始約1週間後,角膜膿瘍は減少し,毛様充血,前房蓄膿,角膜浸潤も改善した(図1b).そこで,局所投与は続行のうえ,VRCZの内服をイトラコナゾール(ITCZ)内服(100mg/日)に変更した.すると,治療開始2週間目に急激に前房蓄膿および膿瘍が悪化した.さらに初診時に採取した角膜擦過物の培養にてフサリウムが同定された.フサリウムはITCZに耐性であることが多いため,治療開始3週間目には治療を,1%VRCZ点眼,0.1%L-AmB点眼(各々1時間毎),PMR眼軟膏眠前塗入,VRCZ200mg内服に変更した.治療開始後4週目には角膜表層側の病変は混濁化し,上皮欠損も修復する一方で,角膜後面に花弁状の後面沈着物が出現し,病巣の内皮側への拡大が疑われた(図1c,d).この時点で原因不明の肝障害が出現し,グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)526(IU/l),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)417(IU/l)となった.内科で精査したところ,夜間転倒による肝裂傷および薬剤性の肝障害の併発と診断された.この肝障害によりVRCZ内服を中止した.病巣は依然として角膜内皮側で拡大するため,治療開始6週目よりVRCZ点眼,L-AmB点眼,PMR眼軟膏に加えて,L-AmBの点滴を開始した.点滴は150mgを添付文書に従い,フィルターを通してブドウ糖500mlに溶解して,2時間かけて点滴した.L-AmB点滴開始後,臨床所見は横ばいであった(図1e)が,約1週間で低カリウム血症を生じ,カリウム製剤投与目的で近医内科に転院となった.内科入院中も上記局所治療および点滴治療を続行し,眼科は往診とした.治療開始8週目には角膜後面プラークはやや増大し,明らかに前房蓄膿も高度になった(図1f).この時点で内科的加療は断念し,保存角膜を用いた治療的角膜移植を施行した(図1g).図1症例の治療経過a:初診時所見.角膜後面プラーク,軽度前房蓄膿を伴う角膜潰瘍を認めた.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.角膜後面プラークおよび潰瘍は軽減,縮小し,前房蓄膿も消失した.VRCZ点滴を中止し,ITCZ内服へ変更した.c:治療開始後4週間目.フサリウムと同定されたため,L-AmB点眼開始1週間後には,上皮欠損は治癒し,角膜浅層は浸潤が軽減し,混濁化した.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.スリット幅を広く倍率を拡大し,内皮面に焦点をあてると,反輝光にて角膜後面プラークが放射状に伸展したことが確認できた.e:治療開始6週間目.L-AmB点眼に加えて,内科転科にて低カリウム血症をコントロールしながら,L-AmB点滴を開始した.角膜上皮側の病変がほぼ瘢痕化しており,病変の主座は内皮側となった.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.内皮側の濃プラークはL-AmB点滴開始後,プラークが厚みを増した浸潤巣となり,前房蓄膿の増大を認め,充血も高度になった.この時点で治療的角膜移植を選択した.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.VRCZの点滴,点眼にて再燃なく,経過した.392あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(104) abcdefabcdef図1症例の治療経過a:初診時所見.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.c:治療開始後4週間目.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.e:治療開始6週間目.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.(図説明は前頁を参照)g(105)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012393 (mEq/l)高度血清K<2.0中程度2.0<血清K<3.0軽度3.0<血清K<3.5K点滴投与(30~100mEq/日)K内服投与(30~100mEq/日)図2L.AmBによる低カリウム血症に対する対処方法一般に血清カリウム値が3.5mEq/l未満で対処を開始する.カリウム値の下降程度別に,カリウム製剤の内服あるいは点滴を選択する.:角膜表層の所見臨床所見:角膜深層の所見悪化改善1週2週3週4週5週6週7週8週L-AMPB点眼L-AMPB点滴VRCZ点滴/内服低カリウム血症肝機能悪化図3L.AmB点滴,点眼およびVRCZ点滴と,臨床所見の関係経過途中,最も悪化した状態と最も軽快した状態を縦軸の下限,上限として,相対的な臨床所見の変動を表した.表層の所見としては,上皮欠損,角膜表層膿瘍を参考とした.深層の所見としては,前房蓄膿,角膜後面沈着物,角膜深層膿瘍を参考とした.点線は角膜表層側の臨床所見の重度,実線は角膜内皮側の臨床所見の重度を表す.L-AmB点眼開始後,上皮側の臨床所見は軽度となり,内皮側の所見は重度となった.VRCZ点滴により肝障害が出現し,L-AmB点滴に変更したのち,角膜内皮側所見はさらに重度となった.なお,カリウム投与は図2に従って投与した.術後は1%VRCZ点眼1日5回,PMR眼軟膏塗入1日1回とし,肝障害の軽快に伴い,VRCZ点滴投与し,角膜病変の再発なく,良好な経過であった.低カリウム血症は是正されたが,肝機能は術後のVRCZ点滴再開とともに少しずつ悪化したので,術後2週間で全身投与は中止した.約半年後に光学的角膜移植を施行し,矯正視力(0.4×cyl.4.0DAx90°)を得た.L-AmB点眼,点滴およびVRCZ点滴と臨床経過の推移の関係を図3に示す.L-AmB点眼投与開始とともに,上皮側所見は改善したが,内皮所見が悪化したことを示す.また,L-AmB全身投与とともに,前房所見がいっそう悪化したことを示す.394あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012図4採取角膜の薄切切片PAS(過ヨウ素酸Schiff)染色にて断片化された真菌をわずかに認めた.しかし,この角膜の培養からは真菌は検出されなかった.II摘出角膜および分離菌の検討1.摘出角膜の組織所見摘出した角膜の半割をホルマリン固定し,薄切切片を作製し,グラム染色を施行した.図4のように,菌糸は,断片化されており,染色性も不良であった.2.摘出角膜の培養結果残りの角膜をサブロー培地にて1カ月培養したところ,真菌は陰性であった.3.初診時に分離されたフサリウムの薬剤感受性試験結果MIC値はAMPB=1,VRCZ=8,MCZ=8(μg/ml)であり,AMPBが最も低値であった.III考按今回の結果からinvivo,invitroのいずれにおいても,AMPBおよびL-AmBはフサリウムに効果的であることが推測された.まず,invitroの効果として,感受性試験の結果,今までの報告2)と同様にAMPBはVRCZやMCZに比べてMICが1μg/mlと低く,効果が期待できる結果であった.L-AmBを用いた感受性試験はできなかったが,真菌エルゴステロールに結合し,薬剤が徐放されることが明らかであり,放出されたAMPBそのものは従来のものと同様の効果を示すと推測される.ただし,実際の角膜炎の臨床の場では,どの程度真菌と結合できていているかという不測の問題は残存している.しかし,すでに動物実験では炎症眼に対する静脈内反復投与にて,最高角膜内濃度2.38μg/g,最高前房濃度0.73μg/mlという報告があり9)AMPBそのものより眼内移行が良好であり10),角膜さらには前房に薬剤が到達することは示されている.したがって,AMPBの感受性結果(106) をL-AmBの感受性結果として推測できると思われた.つぎに,invivoの効果であるが,臨床所見上はL-AmB投与後,前房蓄膿や後面プラークが増大し,悪化したように観察されたが,実際に摘出角膜を検討したところ,組織では菌糸の断片化や染色性の低下を認め,さらに培養にて陰性であった.このことから,臨床所見とは異なり,実際にはL-AmBがフサリウムに対し,効果的であったことが推測された.この臨床所見と培養あるいは組織結果の解離については,L-AmB投与後に強い炎症を生じることが原因である可能性が示唆される.既報でもL-AmB投与後にfibrinoidinflammationを生じたことが特筆されており11),AMPBそのものでも,硝子体注射した際に前房内に一過性の炎症を強く惹起することが報告されている3).これは死菌に対する炎症反応か,薬剤そのものの惹起する炎症かは不明であるが,AMPBおよびL-AmBを使用する際に知っておくべき特徴ではないかと思われた.したがって,今回の症例において,L-AmB投与後に前房所見が悪化し治療的角膜移植を選択した時点で,前房洗浄を行うことも有用であった可能性があると思われた.治療初期に投与されたVRCZ局所,全身投与によりすでに菌が死滅していた可能性もあるが,少なくともL-AmB点眼投与後に,病巣が表層から深層へ移動したことから,L-AmBそのもののフサリウムに対する効果は推測された.L-AmB投与による利点としては上記の菌そのものに対する効果以外に,肝機能の保持があげられる.今回,VRCZ全身投与中に外傷性および薬剤性と診断された肝障害を併発し,GOT,GPTの上昇を認めたが,L-AmBへの変更後は順調に肝機能の正常化を認めた.これまでにも同様に肺アスペルギルスによる眼内炎に対しVRCZで加療中に肝障害を発生し,L-AmBに変更することで肝障害が改善し効果的であった報告がある11).0.5%L-AmBは溶解後,室温あるいは2.8℃で6カ月保存しても流動力学的に維持され,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にても製剤的安定性が保たれており,眼科用製剤として実現可能である12)ことや,結膜下注射として高濃度角膜へ移行することが報告されている13).さらに硝子体注射した場合,胆汁酸を含まないL-AmBは,AMPBに比して副作用が少ないとされており14),最も効果的と思われる投与方法も今後の検討項目である.今回は,L-AmB1瓶から点滴用と点眼用を調整したため,副作用も考慮して0.1%と低濃度の設定とした.角膜表層には十分効果があったが,0.5%点眼を使用した場合にはさらなる効果が認められた可能性もある.効果と副作用の面からL-AmBの至適濃度については,さらなる検討が必要と思われる.一方,L-AmBの欠点としては,低カリウム血症があげられる.本症例ではカリウム値は最低で2.3mEq/lとなった.低カリウム血症に対する対応として,毎朝K値測定を行い,その値によって図2のように,カリウム製剤を内服あるいは点滴投与するべきとされている.高カリウム血症は心機能に影響し,危険であるため,投与カリウム量は慎重に計算し,またゆっくりと点滴しなければならない.今回もアスパラK1アンプルを生理食塩水500mlに溶解して2時間かけて1日2回点滴した.さらに,L-AmBそのものも150mgを5%グルコース500mlに溶解して2時間かけて点滴する必要があるため,患者にとって1日6時間の点滴となり,留置針の設置を余儀なくされた.角膜真菌症の患者は通常,高齢の患者が多く,この留置針が心理的な負担となる可能性もあり,毎日のカリウム投与量の計算を含め,L-AmB使用の際には内科共観が望ましいと思われた.角膜真菌症のうち,フサリウムは急速に進行し,予後不良であることも多い.AMPBそのものは非常に効果的であり,そのリポソーム化製剤であるL-AmBは副作用も軽減され,ぜひとも治療に取り入れたい薬剤である.しかし,投与時に伴う全身管理や投与後の反応に関しての注意すべき点もあり,眼科医がうまくつかいこなせるためには,さらに症例報告を重ねていくべきだと思われた.文献1)石橋泰久:病原性真菌の今日的意味.眼科領域の真菌症.化学療法の領域21:5-10,20042)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,20063)YoonKC,JeongIY,ImSKetal:TherapeuticeffectofintracameralamphotericinBinjectioninthetreatmentoffungalkeratitis.Cornea26:814-818,20074)SridharMS,SharmaS,GopinathanUetal:Anteriorchambertap:diagnosticandtherapeuticindicationinthemanagementofocularinfection.Cornea21:718-722,20025)KaushikS,RamJ,BrarGSetal:IntracameralamphotericinB:initialexperienceinseverekeratomycosis.Cornea20:715-719,20016)KuriakoseT,KothariM,PaulPetal:IntracameralamphotericinBinjectioninthemanagementofdeepkeratomycosis.Cornea21:653-656,20027)Adler-MooreJ,ProffittRT:AmBisome:liposomalformulation,structure,mechanismofactionandpre-clinicalexperience.JAntimicrobChemother49(Supple):21-30,20028)Guzman-CottrillJA,ZhengX,ChadwickEG:FusariumsolaniendocarditissuccessfullytreatedwithliposomalamphotericinBandvoriconazole.PediatricInfectDisJ23:1059-1061,20049)GoldblumD,RohereK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,2004(107)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012395 10)GoldblumD,TohrerK,FruehBEetal:OculardistributionofintravenouslyadministeredlipidformulationsofamphotericinBinarabbitmodel.AntimicrobAgentChemother46:3719-3723,200211)AydinS,ErtugrulB,GultekinBetal:Treatmentoftwopostoperativeendophthalmitiscasesduetoaspergillysflavusandscopulariopsisspp.Withlocalandsystemicantifungaltherapy.BMCInfectDis7:87,200712)MorandK,BartolettiAC,BochotAetal:LiposomalamphotericinBeyedropstotreatfungalkeratitis:physic-chemicalandformulationstability.IntJPharm344:150-153,200713)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200914)BarzaM,BaumJ,TremblayCetal:OculartoxicityofintravitreallyinjectedliposomalamphotericinBinrhesusmonkeys.AmJOphthalmol100:259-263,1985***396あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(108)

アムビゾーム® とブイフェンド® による治療を行った角膜真菌症の1例

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1483《原著》あたらしい眼科28(10):1483?1489,2011cはじめに角膜真菌症は,ステロイド製剤や広域抗菌薬の局所投与の濫用,アトピー性皮膚炎の患者数やコンタクトレンズ装用者数の増加などにより,近年増加傾向にあるといわれている1?3).角膜真菌症に対する治療として,抗真菌薬の点滴療法を併用する場合があるが,抗真菌薬の眼内移行性の問題や腎障害や肝障害といった全身的副作用の問題がある.わが国で眼局所投与が可能な抗真菌製剤は,5%ナタマイシン(ピマリシンR)点眼液と1%ナタマイシン(ピマリシンR)眼軟膏のみであるが,副作用として角膜上皮障害やアレルギー性〔別刷請求先〕平山雅敏:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasatoshiHirayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアムビゾームRとブイフェンドRによる治療を行った角膜真菌症の1例平山雅敏*1大口剛司*2松本幸裕*1手島ひとみ*1上遠野保裕*3村田満*3川北哲也*1榛村重人*1坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*3慶應義塾大学病院中央臨床検査部ACaseofKeratomycosisTreatedwithAntifungalAgentsAmBisomeRandVfendRMasatoshiHirayama1),TakeshiOhguchi2),YukihiroMatsumoto1),HitomiTeshima1),YasuhiroKatouno3),MitsuruMurata3),TetsuyaKawakita1),ShigetoShimmura1)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofMicrobiology,KeioUniversityHospitalFusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に対して,アムホテリシンBリポソーム製剤(アムビゾームR)とボリコナゾール(ブイフェンドR)にて治療を行った1例を経験したので報告する.症例は,75歳,男性で,右眼の角膜潰瘍と診断され,慶應義塾大学病院を紹介受診となった.初診時の視力は,右眼手動弁(矯正不能)で,感染性の角膜潰瘍が疑われた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査にて,角膜実質に多数の糸状の像を認め,真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定され,角膜真菌症と診断した.ミカファンギン点眼にて治療を開始するも,角膜穿孔を生じ,治療的角膜移植術を施行した.術前および術後には,アムビゾームRとブイフェンドRの点眼および点滴による治療を行った.術後の角膜の上皮化は良好であり,感染の再発も認められなかった.アムビゾームRとブイフェンドRによる治療は,角膜真菌症に対する治療の選択肢の一つになりうると考えられた.WereportacaseofkeratomycosiscausedbyFusariumsolaniandCandidaalbicansthatwastreatedwithliposomalamphotericinB(AmBisomeR)andvoriconazole(VfendR).Thepatient,a75-year-oldmale,hadpreviouslybeendiagnosedwithcornealulcerinhisrighteyeataneyeclinic.Visualacuityintheeyewashandmotion.Confocalmicroscopyrevealedmanyfilamentousstructures.FusariumsolaniandCandidaalbicanswereisolatedfromcultureofthecornealscrapingsandconfirmedbyDNAanalysis.Wediagnosedkeratomycosisandcommencedtreatmentwithtopicalmicafungin;however,theulcerworsenedandperforated.Wethenperformedtherapeuticcornealtransplantation,followedwithantifungalagentsincludingtopical/systemicAmBisomeRandVfendR.Nopersistentcornealepithelialdefectorinfectionrecurrencewereobserved.CombinedtreatmentwithAmBisomeRandVfendRseemstobeanoptionforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1483?1489,2011〕Keywords:アムホテリシンB,ボリコナゾール,角膜真菌症,フサリウム,カンジダ.amphotericinB,voriconazole,keratomycosis,Fusariumsolani,Candidaalbicans.1484あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(116)結膜炎を生じやすく,症例によっては使用しにくいという欠点がある.わが国では,1962年より使用されているアムホテリシンB(amphotericineB:AMB)の点滴製剤である,アムホテリシンBデオキシコール酸製剤(amphotericinBdeoxycholate:D-AMB,ファンギゾンR)は,抗菌スペクトルが広く,真菌に殺菌的に作用し,耐性真菌の発現がきわめて少ない薬剤であるが,腎障害などの副作用が問題となっていた.角膜真菌症に対しては,自家調整された0.15%ファンギゾンR点眼の有効性が示唆されているが,角膜上皮障害などの副作用の出現が問題となっている4).しかし,2006年には,その副作用を軽減するための薬剤として開発された,アムホテリシンBリポソーム製剤(liposomalamphotericinB:L-AMB,アムビゾームR)が登場することとなり,その薬剤の安全性を高めたことで,ファンギゾンRに代わる薬剤として,その有用性が期待されている.2005年より使用可能となったボリコナゾール(voriconazole:VCZ,ブイフェンドR)においては,それを自家調整した1%ブイフェンドR点眼が,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して有効かつ安全である,と報告されている5?8).今回,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼および1%ブイフェンドR点眼を使用し,有用であった症例を経験したので報告する.I症例患者:75歳,男性.主訴:右眼の眼痛,充血,視力低下.既往歴:高血圧(+),糖尿病(?),その他の全身疾患(?),眼外傷歴(?).現病歴:平成21年2月23日に,右眼の視力低下を主訴に近医を受診し,右眼細菌性角膜潰瘍を疑われ,0.5%モキシフロキサシン(ベガモックスR)点眼,0.3%トブラマイシン(トブラシンR)点眼,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR)点眼を処方されるも改善なく,その後,角膜ヘルペスを疑われ,バラシクロビル(バルトレックスR)内服,プレドニゾロン(プレドニンR)内服,3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏にて加療されたが,症状の増悪を認めたために,同年5月15日に,精査加療目的にて慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼0.3(0.8×sph?2.25D(cyl?0.15DAx90°),眼圧は右眼20mmHgであった.前眼部所見は,右眼に結膜および毛様充血,角膜中央部に8mm×8mmの角膜上皮欠損と角膜浸潤巣,前房内炎症を認めた(図1A).左眼は軽度の白内障を認めた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModule:HRTII-RCM,HeidelbergEngineering社,ドイツ)を施行し,右眼の角膜実質に糸状の像を認めた(図2).角膜擦過物の真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定された(図3).また,同時に,各々の真菌について抗真菌ACB図1細隙灯顕微鏡検査A:当院初診時において,結膜充血,毛様充血,角膜上皮欠損と角膜浸潤巣を認めた.B:当院初診より18日後において,角膜上皮欠損の拡大と,角膜中央の菲薄部に穿孔(矢印)を認めた.C:治療的角膜移植後には,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めるものの,角膜上皮欠損は改善した.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111485薬に対する薬剤感受性試験を行った.その結果,最小発育阻止濃度(minimuninhibitoryconcentration:MIC)については,Fusariumsolaniではミカファンギン(micafungin:MCFG)が0.25μg/mL,AMBが1μg/mL,VCZが0.5μg/mLであり,CandidaalbicansではMCFGが0.06μg/mL,AMBが0.5μg/mL,VCZが<0.015μg/mLであった(表1).以上の結果より,右眼角膜真菌症と診断し,自家調整した0.1%MCFG(ファンガードR)点眼と0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼による治療を開始した.しかし,5月30日に,角膜上皮欠損は角膜全体に広がり,角膜浸潤の増悪とともに角膜中央部に菲薄化を認めた.0.1%ファンガードR点眼を中止し,自家調整した1%ブイフェンドR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日)に変更したが,6月2日に,角膜上皮欠損の拡大,角膜浸潤の増悪,角膜中央の菲薄部に穿孔を認めたため(図1B),加療目的にて同日当院に入院となった.入院後経過:入院後,0.3%セフメノキシム(ベストロンR)AB図2生体レーザー共焦点顕微鏡検査A:角膜実質層に糸状の構造物が認められた.B:後日,糸状の構造物が断裂している像が認められた.??????????Candidaalbicans??????????FusariumsolaniAB図3真菌培養検査A:胞子の存在と仮性菌糸の形成が認められた.B:新月形の大型分生子を形成する菌糸が認められた.1486あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(118)点眼,1%ブイフェンドR点眼,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)による治療を開始したが,角膜の菲薄化および穿孔は改善しなかったため,6月13日に,右眼に対して,保存角膜を用いた治療的角膜移植術を施行した.術中,特記すべき合併症を認めなかった.術後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)を継続し,1%アトロピン(アトロピンR)点眼,0.5%トロピカミド+0.5%フェニレフリン(ミドリンPR)点眼を追加した(図4).血液検査では,入院時の血中尿素窒素(bloodureanitrogen:BUN)は22.4mg/dL,血中クレアチニン(creatinin:Cr)は1.4mg/dL,血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase:AST)は15IU/L,血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase:ALT)は8IU/Lであったが,点滴施行中,BUNは35.4mg/dL,血中Crは2.2mg/dL,血中ASTは36IU/L,血中ALTは22IU/Lまで上昇した(図5).点滴開始から2週間後のクレアチニンクリアランス値は57.6mL/minであった.AMBの血中濃度測定では,6月19日,6月22日,6月25日と3回測定して,平均22.98±3.94μg/mLであった.術後,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜上皮欠損は徐々に改善した(図1C).前房はやや浅く,下方に虹彩前癒着,瞳孔には虹彩後癒着を認めたが,感染所見の再燃を認めず,6月26日にアムビゾームR表2点眼液の作製方法0.1%アムビゾームR点眼液1.注射用アムビゾームRを1バイアル(50mg/0.5mL換算)中に,注射用水12.0mLを加えた後,ただちに振盪し,均一な半透明な液になるまで激しく振り混ぜる(計12.5mLとなる)2.この溶解した本剤12.5mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液12.5mLを,フィルター濾過しながら,5%ブドウ糖注射液37.5mLに加え,0.1%アムビゾームR点眼液とする(計50mLとなる)5.0.1%アムビゾームR点眼液を点眼瓶に分注する(注)本剤は溶解しにくい.また,溶解にあたっては注射用水を使用すること1%ブイフェンドR点眼液1.注射用ブイフェンドRを1バイアル(200mg/1.0mL換算)中に,注射用水19.0mLを加えた後,均一な液となるまで振盪し溶解する(計20.0mLとなる)2.この溶解した本剤20.0mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液20.0mLを,フィルター濾過しながら,点眼瓶に分注し,1%ブイフェンドR点眼液とする上記にて作製した点眼液は1週間を期限として,4℃で保存する表1薬剤感受性試験薬剤名MIC(μg/mL)FusariumsolaniCandidaalbicansアムホテリシンB10.55-フルシトシン>641フルコナゾール>640.25イトラコナゾール>80.25ミコナゾール40.125ミカファンギン0.250.06ボリコナゾール0.5<0.015MIC:最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration).20095/15初診時5/306/2穿孔6/136/27角膜移植10/111/1720101/120.1%ミカファンギン点眼30分毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回1%ボリコナゾール点眼30分毎ボリコナゾール内服300mg/日0.3%セフメノキシム点眼1日8回0.1%アムホテリシンB点眼30分毎アムホテリシンB点滴2.5mg/kg/日0.5%(トロピカミド+フェニレフリン点眼)1日2回1%硫酸アトロピン点眼1日2回2時間毎2時間毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回図4治療経過初診時より,ミカファンギン(ファンガードR)点眼にて治療を開始するも効果がなかったために,ボリコナゾール(ブイフェンドR)点眼に変更した.その後,アムホテリシンB(アムビゾームR)点眼を追加した.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111487点滴を中止し,6月27日に退院となった.退院後経過:退院後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,1%アトロピンR点眼,ミドリンPR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日)を継続した.7月7日に,角膜縫合糸の一部に緩みを認めたため,抜糸した.術後3カ月経過した時点で,移植片に実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜の上皮化は良好であった.血液検査では,BUN,血中Cr,血中AST,および血中ALTの数値は改善傾向であったが,再び血中ASTと血中ALTの数値の上昇を認めたため,10月1日に,ブイフェンドR内服を中止した.その後は,血中ASTと血中ALTの数値は正常化した.平成22年1月12日に,0.1%アムビゾームR点眼を中止とした.現在,術後1年を経過しているが,これまでに感染の再発を認めていない.II考察AMBは,ポリエン系のマクロライドであり,真菌細胞膜の主要なステロールであるエルゴステロールに結合し,膜の透過性を変化させて細胞死をひき起こす.D-AMBは,真菌に対して,殺菌的に作用する強力な薬剤であるが,組織透過性が悪く,また,有害な副作用のために十分な治療量を投与できないことがあった9).L-AMBは,D-AMBをリポソームとよばれる脂質小胞の脂質二分子膜中に封入することにより,D-AMBの真菌に対する作用を維持しながら生体細胞に対する傷害性を低下させた製剤である.Invitroにおける抗真菌活性の評価では,L-AMBは,D-AMBと同様に,Aspergullus属,Candida属,Cryptcoccus属などを含む各種真菌に対し幅広い抗真菌スペクトルを有する.その抗真菌活性は最高血中濃度(maximumdrugconcentration:Cmax)/MICに相関するとされ10),大部分の菌株でL-AMBはD-AMBと同等であったと報告されている11,12).発熱性好中球減少患者において,D-AMBとL-AMBを比較した二重盲検比較試験では,全体的な改善率は両者間で差がなく,腎機能障害,投与時の発熱,悪寒についてはL-AMBで有意に減少していた13).このため,L-AMBは,深在性真菌症に対して有用な薬剤として使用されている.L-AMBの眼局所療法に関しては,動物を用いた研究において,サルに対する硝子体内注射やウサギに対する結膜下注射による眼毒性は,D-AMBによる治療と比べ軽減したと報告されている14,15).Goldblumらは,ウサギ眼において,L-AMBの点眼療法は,L-AMBの点滴療法の併用により角膜への薬剤浸透が高まると報告する16)など,L-AMBの眼局所療法の有効性が示唆されている.角膜真菌症の診断では,培養検査において,病原体の検出までに時間を要することが多く,病原体が検出されないことも少なくないが,角膜真菌症においては,HRTII-RCM検査により,酵母様真菌の仮性菌糸や糸状真菌の観察が可能であり,角膜真菌症の早期の診断補助に有用であることが報告されている17,18).本症例においても,HRTII-RCM検査により,早期よりCandidaalbicansの仮性菌糸もしくはFusariumsolaniの菌糸が,角膜実質内の糸状の構造物として観察されたものであると推測される.HRTII-RCM検査における,角膜内の糸状構造物の断裂は,薬剤によって,菌体が崩壊している像を反映しているとされ,角膜真菌症における治療効果の判定にも有用であると報告されている19)が,本症例においても,同様の所見を観察することが可能であった.本症例においては,角膜潰瘍擦過物の培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる角膜真菌症と診断した.Fusarium属による角膜真菌症は,他の糸状菌感染に比べ進行が速く,薬剤の効果も低いため,治療が困難となる場合が多い.現在,薬剤の抗真菌効果を比較する指標としてMICが用いられているが,臨床分離株による抗真菌薬のMICのデータのレトロスペクティブな検討によると,Fusarium属に関しては,抗真菌作用が最も期待できる薬剤はAMBであり,細胞毒性を抑えたL-AMBは今後期待できる薬剤と考えられている20).眼科的には,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して,VCZが奏効したという報告がある5,7,8)が,Fusariumsolaniによる真菌性眼内炎に対しては,L-AMBの点滴療法の有効性も示唆されてい0102030405060BUN,Cr(mg/dL),AST,ALT(IU/L):BUN:血中Cr:血中AST:血中ALT2009/6/26/259/1512/15図5臨床検査値の変動アムビゾームR点滴中に軽度の肝機能障害と腎機能障害を認めたが,アムビゾームR点滴の中止により両者ともに改善した.また,ブイフェンドR内服中に再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドR内服の中止により改善した.BUN:血中尿素窒素(bloodureanitrogen),Cr:クレアチニン(creatinin),AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase),ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase).1488あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(120)る21).抗真菌薬の併用療法は,治療の選択肢の一つとなりうるが,全身的投与において抗真菌薬の併用による薬物間の協調作用は理論的に証明されておらず,一般的には行われていない.しかしながら,invitroでの抗真菌作用の検討では,MCFGはフルコナゾールやVCZとの併用により相乗効果があったと報告され22),臨床においても,慢性壊死性肺アスペルギルス症に対して,L-AMBとイトラコナゾールの併用療法の有用性が示唆されている23).イトラコナゾールとD-AMBの併用では,侵襲性肺アスペルギルス症の82%に有効であり,D-AMB単剤の治療より有効率が高かったといった報告がされるなど24),今後,難治例を中心に併用療法の試みは広がっていくと考えられる.Fusarium属による真菌感染症に対するL-AMBの併用療法に関してもすでに報告があり,invitroにおいては,L-AMBとVCZの相乗作用が示唆され25),invivoにおいて,Fusariumsolaniに感染した免疫不全のネズミを用いた報告では,L-AMBとVCZの併用療法の有効性が示唆されている26).臨床においても,Fusarium属による深在性真菌症では,L-AMBとVCZによる併用療法が有効であったと報告されており27,28),Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対しては,0.5%L-AMB点眼と,VCZの点滴による併用療法が奏効したと報告されている29).角膜真菌症の治療においては,真菌により薬剤感受性が異なるため,起因菌に対応した薬剤の選択が重要であるとされている20).本症例では,薬剤感受性試験において,AMBは,Fusariumsolaniに対して,MICにて1.0μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて0.5μg/mL,また,VCZは,Fusariumsolaniに対して,MICにて0.5μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて<0.015μg/mLと,いずれも高い感受性を示した.しかしながら,点眼や点滴による加療にもかかわらず,角膜の菲薄化や穿孔は改善を認めず,治療的角膜移植術が施行された.その理由として,感染源における菌量,角膜における薬剤浸透率,薬剤の投与量,点眼のコンプライアンスの問題などが考えられる.治療的角膜移植術では,感染部位の角膜を直径8.0mmにて全層切除したが,周辺角膜の一部に角膜の浸潤巣を残すこととなり,角膜移植術施行後には,感染の再発が危惧されたが,アムビゾームRの点眼や点滴,ブイフェンドRの点眼や内服などの治療により良好な結果を得ることができた.本症例では,L-AMBの点滴療法を施行しているなかで,軽度の腎機能障害と肝機能障害を認めたが,L-AMBの点滴の中止とともにそれらは改善した.その後,再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドRの内服の中止とともに肝機能は正常化した.また,L-AMBの点眼を用いた本症例では,頻回点眼にもかかわらず,D-AMBの点眼においてみられるような角膜上皮障害や炎症反応を認めなかったことは,アムビゾームR点眼による抗真菌治療の安全性という面において注目すべき点であった.問題点として,点眼薬作製後の薬剤の安定性に関して不明な点が多いことがあげられる30,31).本症例では,0.1%アムビゾームR点眼を自家調整し,作製後は冷蔵庫にて保管し,1週間ごとに作製して処方したが,現在に至るまで特に問題は生じていない.FusariumsolaniとCandidaalbicansの混合感染による角膜真菌症により生じた角膜穿孔に対して,治療的角膜移植術を施行し,アムビゾームRとブイフェンドRにて治療を行った1例を報告した.今回の症例では,アムビゾームRとブイフェンドRによる治療が,角膜真菌症に対する治療の選択肢となりうることが示唆されるとともに,アムビゾームRの点眼投与での有用性と安全性が示唆されたものと考えられる.アムビゾームRの点眼は,ブイフェンドRの点眼と同様に,難治性の角膜真菌症に対する新しい治療の選択肢となる可能性が推察された.今後は,アムビゾームR点眼の単独治療が角膜真菌症に有効であるかを検討する必要があると考えられる.謝辞:本稿を終えるにあたり,ご指導いただきました,昭和大学医学部臨床感染症学講座吉田耕一郎先生に深謝いたします.なお,本稿の要旨については,第34回角膜カンファランス(仙台)にて発表した.文献1)三井幸彦:フサリウム感染.眼科33:1333-1339,19912)井上須美子:角膜真菌症の変遷.あたらしい眼科7:123-125,19903)三井幸彦:角膜真菌症にフザリウム感染が増加した原因.あたらしい眼科7:127-130,19904)PleyerU,LegmannA,MondinoBJetal:UseofcollagenshieldscontainingamphotericinBinthetreatmentofexperimentalCandidaalbicans-inducedkeratomycosisinrabbits.AmJOphthalmol113:303-308,19925)小松直樹,堅野比呂子,宮﨑大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusariumsolaniによる非定型的な角膜真菌症の1例.あたらしい眼科24:499-501,20076)松下博文,鈴木由布子,藤田昌弘ほか:Fusariumsolaniによる角膜真菌症の1例.あたらしい眼科16:95-99,19997)ReisA,SundmacherR,TintelnotKetal:Successfultreatmentofocularinvasivemoldinfection(fusariosis)withthenewantifungalagentvoriconazole.BrJOphthalmol84:932-933,20008)PolizziA,SiniscalchiC,MastromarinoAetal:EffectofvoriconazoleonacornealabscesscausedbyFusarium.ActaOphthalmolScand82:762-764,20049)GallisHA,DrewRH,PickardWWetal:AmphotericinB:30yearsofclinicalexperience.RevInfectDis12:308-329,199010)TakemotoK,YamamotoY,UedaY:EvaluationofantifungalpharmacodynamiccharacteristicsofAmBisome(121)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111489againstCandidaalbicans.MicrobiolImmunol50:579-586,200611)BekerskyI,FieldingRM,DresslerDEetal:Pharmacokinetics,excretion,andmassbalanceofliposomalamphotericinB(AmBisome)andamphotericinBdeoxycholateinhumans.AntimicrobAgentsChemother46:828-833,200212)竹本浩司,柏本茂樹,金澤勝則:接合菌類,黒色真菌類およびフサリウム属に対するリポソーム化amphotericinBの抗真菌活性.臨床と微生物34:759-765,200713)WalshTJ,FinbergRW,ArndtCetal:LiposomalamphotericinBforempiricaltherapyinpatientwithpersistentfeverandneutrophia.NEnglJMed340:764-771,199914)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200915)BarzaM,BaumJ,TremblayCetal:OculartoxicityofintravitreallyinjectedliposomalamphotericinBinrhesusmonkeys.AmJOphthalmol100:259-263,198516)GoldblumD,RohrerK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,200417)BrasnuE,BourcierT,DupasBetal:Invivoconfocalmicroscopyinfungalkeratitis.BrJOphthalmol91:588-591,200718)近間泰一郎,西田輝夫:角膜真菌症─初期診断での生体共焦点顕微鏡の有用性.臨眼61:1152-1155,200719)野田恵理子,白石敦,坂根由梨ほか:生体レーザー共焦点顕微鏡(HRTII-RCM)が診断,経過観察に有用であった角膜真菌症の1例.あたらしい眼科25:385-388,200820)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦ほか:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,200621)GoldblumD,FruehBE,ZimmerliSetal:TreatmentofpostkeratitisFusariumendophthalmitiswithamphotericinBlipidcomplex.Cornea19:853-856,200022)NishiI,SanadaA,ToyokawaMetal:Invitroantifungalcombinationeffectsofmicafunginwithfluconazole,voriconazole,amphotericinB,andflucytosineagainstclinicalisolatesofCandidaspecies.JInfectChemother15:1-5,200923)清川浩,中島瑠美子,高藤繁ほか:LiposomalamphotericinBとitraconazoleの二剤併用が有効だった慢性壊死性肺アスペルギルス症の1例.日呼吸会誌46:448-454,200824)PoppAI,WhiteMH,QuadriTetal:AmphotericinBwithandwithoutitraconazoleforinvasiveaspergillousis:Athree-yearyearretrospectivestudy.IntJInfectDis3:157-160,199925)SpaderTB,VenturiniTP,CavalheiroASetal:InvitrointeractionsbetweenamphotericinBandotherantifungalagentsandrifampinagainstFusariumspp.Mycoses54:131-136,201126)Ruiz-CendoyaM,MarineM,GuarroJ:CombinedtherapyintreatmentofmurineinfectionbyFusariumsolani.JAntimicrobChemother62:543-546,200827)HoDY,LeeJD,RossoFetal:Treatingdisseminatedfusariosis:amphotericinB,voriconazoleorboth?Mycoses50:227-231,200728)StanzaniM,VianelliN,BandiniGetal:SuccessfultreatmentofdisseminatedFusariosisafterallogenichematopoieticstemcelltransplantationwithcombinationofvoriconazoleandliposomalamphotericinB.JInfect53:243-246,200629)TouvronG,DenisD,DoatMetal:SuccessfultreatmentofresistantFusariumsolanikeratitiswithliposomalamphotericinB.JFrOphtalmol10:721-726,200930)PleyerU,GrammerJ,PleyerJHetal:AmphotericinB─bioavailabilityinthecornea.StudieswithlocaladministrationofliposomeincorporatedamphotericinB.Ophthalmologe92:469-475,199531)MorandK,BartolettiAC,BochotAetal:LiposomalamphotericinBeyedropstotreatfungalkeratitis:Physico-chemicalandformulationstability.IntJPharm344:150-153,2007***

爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1 例

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)401《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):401.405,2011cはじめに爪真菌症はTrichophyton属(白癬菌)によるものが多いが,非白癬菌性もまれに存在する1).非白癬菌によるものでは,原因としてAspergillus属,Fusarium属,Candida属などがあるが,これらの菌種は角膜真菌症の原因菌としてもよく知られた菌種である.爪真菌症の罹患率はわが国ではおよそ10%といわれており2),爪真菌症がリザーバーとなって角膜外傷などで易感染性となった角膜に感染症を生じる可能性も無視できない.しかしながら,爪真菌症が角膜真菌症に関与していることを示唆した報告はほとんどない.今回筆者らは,Aspergillus爪真菌症が関与したと考えられる角膜真菌症を経験し,さらに爪からの真菌分離株の形態学的・遺伝学的同定と薬剤感受性検査からいくつかの知見が得られたので報告する.〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1例星最智*1戸田祐子*2大塚斎史*3卜部公章*3*1藤枝市立総合病院眼科*2国立病院機構高知病院眼科*3町田病院ACaseofKeratomycosisThoughttobeRelatedtoOnychomycosis,TreatedwithCombinationTherapyofOralTerbinafineSaichiHoshi1),YukoToda2),YoshifumiOhtsuka3)andKimiakiUrabe3)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KochiNationalHospital,3)MachidaHospitalAspergillus爪真菌症が関与すると考えられた角膜真菌症を経験したので報告する.74歳,男性.眼外傷の3日後に国立高知病院眼科を受診した.角膜擦過を行ったところ糸状型真菌が検出されたため,ピマリシンとボリコナゾール点眼およびボリコナゾール全身投与による抗真菌薬治療を開始した.入院治療後,角膜潰瘍はいったん改善したものの徐々に悪化してきたため,町田病院に紹介となった.局所治療ではピマリシンを減量し,ボリコナゾール点眼を集中的に用いた.さらに,問診時に手足の爪真菌症を認めたことからテルビナフィン125mg/日の内服を併用したところ,20日後に角膜真菌症は沈静化した.患者の爪からはAspergillusterreusが分離された.本症例は爪真菌症が感染源となり角膜真菌症を悪化させたと考えられた.テルビナフィン内服の併用が有効と考えられた.WereportacaseofkeratomycosissuspectedofrelationtoAspergillusonychomycosis.Threedaysaftersufferingoculartrauma,a74-year-oldmaleconsultedKochiNationalHospitalforpaininhisrighteye.Topicalpimaricinandvoriconazoleeyedrops,andsystemicvoriconazole,wereinitiatedfollowingdetectionoffilamentousfungiincornealscrapings.Cornealulcerimprovedatthebeginningoftreatment,butgraduallywosened;thepatientwasthereforereferredtoMachidaHospital.Topicalpimaricinwasreducedandtopicalvoriconazolewasadministeredintensively.Oralterbinafine125mg/daywasalsoadministered,incombinationwithoralvoriconazole400mg/day,becauseoftheonychomycosiscomplication.Thekeratomycosisresolved20daysafterthetreatment.Aspergillusterreuswasdetectedfromhisfingernailspecimen.Onychomycosisasaninfectioussourcecouldaggravatekeratomycosis.Combinationtherapywithoralterbinafineshouldbeconsideredasatreatmentforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):401.405,2011〕Keywords:角膜真菌症,爪真菌症,アスペルギルス属,テルビナフィン,ボリコナゾール.ketratomycosis,onychomycosis,Aspergillusspecies,terbinafine,voriconazole.402あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(94)I症例患者:74歳,男性.職業は農業である.主訴:右眼の眼痛.内科既往歴:高血圧とコントロール不良の糖尿病〔Hb(ヘモグロビン)A1C=9.3%〕を認める.眼科既往歴:両眼の増殖糖尿病網膜症と眼内レンズ挿入眼を認める.現病歴:3日前に梨の木の枝による右眼の外傷後,徐々に眼痛が増強したため,2010年1月12日に国立病院機構高知病院眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力は0.15であった.前眼部所見では,右眼耳側の角膜輪部に異物が付着していたため,異物除去後にレボフロキサシンとセフメノキシムによる点眼治療を開始した(図1a).2日後の再診時,前房蓄膿と角膜潰瘍が出現したため,初診時の抗菌点眼薬に加え,エリスロマイシン・コリスチン点眼,トブラマイシン点眼を1時間ごとの点眼とし,セフォゾプラン1g/日の点滴も開始した.しかしながら翌日1月15日の診察では前房蓄膿の改善はなく,角膜裏面に白色の膜様物が出現したため,角膜真菌症を疑って角膜病巣擦過を行ったうえで入院治療を開始することとした(図1b).角膜擦過物のPAS(過ヨウ素酸Schiff)染色では,隔壁のあるやや分枝した菌糸を認めたが分生子は認めなかった(図2a).培養検査は陰性であった.抗真菌治療として,局所は1%ボリコナゾール点眼と5%ピマリシン点眼を1時間ごとに行った.全身はボリコナゾールを初日に体重1kg当たり6mgを1日2回,2日目からは体重1kg当たり3mgを1日2回の点滴とし,1月20日からボリコナゾール400mg/日の内服に切り替えた.抗菌点眼薬は少しずつ減量・中止し1月19日にレボフロキサシン1日4回として他は中止した.抗真菌薬開始2日後,前房蓄膿は消失し,角膜裏面の白色付着物も日ごとに減少した.しかしながら耳側角膜の実質浸潤病巣と角膜上皮欠損に関しては最初はゆっくりと改善してきたものの,やがて遷延化した.抗真菌薬開始10日後の1月25日,虹彩ルベオーシスと高眼圧を認めたため前房洗浄とボリコナゾール前房内投与(0.025%,0.05ml)を施行したが改善はなく,2月4日に角膜実質の浸潤病巣が拡大して2月5日に前房蓄膿が再び出現してきたたabcd図1前眼部所見a:耳側角膜輪部に異物を認める(矢印).b:前房蓄膿と角膜裏面の白色膜様物を認める.c:耳側周辺部と中間周辺部の角膜実質に境界不明瞭な白色浸潤病巣を認める(矢印).d:角膜実質混濁を残して感染症は沈静化している.(95)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011403め,2月5日に町田病院に紹介となった.町田病院の初診時,右眼視力は20cm指数弁(矯正不能)であった.前眼部所見では前房蓄膿を認め,上皮欠損部の角膜実質には浸潤病巣を2カ所認めた(図1c).薬剤性と思われるびまん性の角膜上皮障害も認めた.治療は,角膜擦過で糸状菌が検出されていたことから1%ボリコナゾール点眼を1時間ごとに行う一方,薬剤性角膜障害に対処するため5%ピマリシン点眼から1%ピマリシン眼軟膏に変更し,回数も1日3回に減らした.レボフロキサシン点眼を中止し,モキシフロキサシン点眼を1日4回とした.全身投与は,ボリコナゾール400mg/日の内服を継続した.さらに,町田病院入院時の問診で手足に爪真菌症を認めたため,白癬菌の関与を疑ってテルビナフィン125mg/日の内服を併用した.患者には手指で眼部を触らないように指導した.治療の変更後,2月8日には前房蓄膿は消失し,角膜実質の浸潤病巣も縮小傾向を認めた.さらに,フルオレセイン染色像では上皮欠損部の縮小と薬剤性角膜障害の改善を認めたため,そのままの治療を継続することとした.その後も日ごとに改善を認め,2月20日には2カ所あった角膜浸潤病巣のうち耳側周辺部の病変はほぼ消失し,角膜上皮欠損も消失した.もう1つの角膜浸潤病巣は2月25日の退院時にはほぼ消失した.4月17日の最終受診日の所見は,糖尿病網膜症による黄斑浮腫のため矯正視力は右眼0.03と不良であるものの,角膜は淡い瘢痕を残すのみで真菌症は沈静化している(図1d).爪真菌症を認めたことから,2月10日に国立病院機構高知病院皮膚科に紹介し,第1趾の爪の生検による培養同定と鏡検を依頼したところ,PAS染色にて角膜擦過物の鏡検像と同様の菌糸を認めた(図2b).培養では,PDA(PotatoDextroseAgar)培地に淡い土色のコロニーを形成し,ラクトフェノール・コットンブルー染色による分生子頭の所見からA.terreusと形態学的に同定した(図2c,d).念のため順天堂大学感染制御科学にb-tubulin遺伝子のDNAシークabcd図2真菌コロニーと鏡検像a:角膜擦過物のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.b:爪切片のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.c:PDA(PotatoDextroseAgar)培地による爪切片の培養.淡い土色のコロニーを認める.d:cのラクトフェノール・コットンブルー染色像.Aspergillusterreusの分生子頭を認める.404あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(96)エンスによる菌種同定を依頼したが,遺伝学的にもA.terreusと同定された.分離されたA.terreusの各種抗真菌薬の感受性検査を微量液体希釈法で行ったところ,最小発育阻止濃度(MIC)は,アムホテリシンBが1μg/ml,ピマリシンが2μg/ml,ボリコナゾールが0.25μg/ml,テルビナフィンが0.06μg/mlであり,ポリエンマクロライド系のアムホテリシンBとピマリシンには低感受性傾向を示した.II考按爪真菌症はわが国では約10%の罹患率といわれており,まれな疾患ではない2).糖尿病患者では爪真菌症の罹患率が高くなるとの報告もある3,4).最近わが国で行われた爪真菌症の分子疫学的研究では,白癬菌が83.0%,Aspergillus属が25.5%,Fusarium属が17.0%,Candida属が8.5%の検出率であり,非白癬菌性のなかでも特にAspergillus属の単独分離症例は10.6%と比較的多かったと報告されている1).白癬菌と異なり,Aspergillus属は環境に生息する真菌である.本症例の爪真菌症が白癬菌によるものではなく,まれなAspergillus属であったのは,農作業を契機として感染した可能性が考えられた.さらに,宿主側の背景としてコントロール不良の糖尿病がリスク因子となったと考えられた.Aspergillus属のヒト臨床分離株はA.fumigatusが多いといわれているが,non-fumigatusAspergillusと総称されるA.flavus,A.niger,A.terreusもしばしば分離される.近年,侵襲性肺アスペルギルス症においてA.terreusの分離率が1996年の1.5%から2001年の15.4%へと増加傾向にあるといわれており5),わが国においてもA.terreusを含めたnon-fumigatusAspergillusの分離率の増加が報告されているため注意が必要である6).Non-fumigatusAspergillusのうちA.terreusはアムホテリシンBに自然耐性傾向があるといわれている.最近のA.terreus臨床分離株の薬剤感受性検査の報告7)では,平均MICは,アムホテリシンBが1.67μg/ml(範囲0.5.8),ボリコナゾールが1.54μg/ml(範囲0.5.4),テルビナフィンが0.28μg/ml(0.06.1)となっており,アムホテリシンBへの低感受性傾向だけでなく,ボリコナゾールにも低感受性傾向を認めている.本症例のA.terreus分離株も,アムホテリシンBとピマリシンのMICはそれぞれ1μg/mlと2μg/mlであり,ポリエンマクロライド系抗真菌薬に低感受性傾向を示していた.このことは,ピマリシンを減量してボリコナゾール点眼を主とした治療に変更した後,短期間で臨床所見が改善した理由の一つになっていると考えられた.爪真菌症の治療は,局所治療の反応が乏しい場合にイトラコナゾール400mg/日のパルス療法やテルビナフィン125mg/日の連続4~6カ月内服療法が行われる8).このうち,テルビナフィンはアリルアミン系抗真菌薬であり,スクアレンエポキシダーゼを阻害することで真菌細胞膜のエルゴステロール含量を低下させ,静真菌的に作用する.さらに,真菌細胞内にスクアレンを蓄積させることで殺真菌的にも作用する9).テルビナフィンの抗真菌スペクトラムは広く,白癬菌,non-fumigatusAspergillus,Pecilomyces属,Penicillium属などに抗真菌作用を示すが,A.fumigatusやFusarium属には感受性が不良といわれている10).眼科での本剤の使用例としては,Pecilomyceslilacinus角膜炎でボリコナゾールとテルビナフィンの併用が有効であったと報告がある11,12).本症例では,爪真菌症の治療のためにテルビナフィンを処方した.ピマリシン減量と同時にテルビナフィン内服を開始したため,その後の改善にどの程度寄与しているかは明確にできない.しかしながら,本症例のA.terreus分離株におけるテルビナフィンのMICが0.06μg/mlと最も優れていたこと,2カ所あった角膜浸潤病巣のうち輪部血管から近い耳側の病巣から先に改善していることなどから,テルビナフィン内服も有効に働いた可能性がある.抗真菌薬を併用する場合,薬剤間相互作用を考慮する必要がある.テルビナフィンのinvitroでの薬剤間相互作用では,アムホテリシンBやボリコナゾールを含めたトリアゾール系抗真菌薬との併用で相乗または相加作用を認めるとする報告13,14)がある一方,アムホテリシンBとの併用で拮抗作用を示すとする報告15)もある.さらに,ピマリシンとの併用で拮抗作用を示すとする報告もある14).本症例において,ピマリシン減量とテルビナフィン内服の追加によって改善が得られた別の理由として,ボリコナゾールとテルビナフィンの併用が相乗または相加的に働いた可能性も考えられる.しかしながら,薬剤間相互作用は菌種や菌株ごとに異なる可能性があるため,症例ごとに注意深い経過観察が必要である.角膜真菌症では重症例や遷延する症例を経験することも多く,抗真菌薬の全身投与を行う機会も多いと考えられる.本症例においては,ボリコナゾールとテルビナフィンの点滴または内服を行っているが,血液検査において肝腎機能障害などの全身副作用を認めず全身投与を継続することが可能であった.ボリコナゾールとテルビナフィンの全身副作用としては肝障害に特に注意が必要である16,17).さらに,ボリコナゾールの全身投与を行う際は一過性視覚障害についても説明しておく必要がある17).テルビナフィンは注射薬がないため,自家調整点眼薬を使用できないが,角膜真菌症に対する0.25%テルビナフィン点眼の有効性を示した報告18)もあり,今後の臨床応用が望まれる.結論としては,本症例はコントロール不良の糖尿病を背景因子として,農作業を契機に手足のAspergillus爪真菌症を発症したと考えられた.角膜真菌症の直接原因は外傷による真菌の接種なのか,爪真菌症からの接種なのかは明確にできないが,抗真菌薬の治療にいったん反応してから悪化してい(97)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011405ることから,爪真菌症からの持続的な眼部への真菌の供給が疑われた.したがって,角膜真菌症では手指の爪真菌症の有無についても確認する必要がある.最終的な治療として,ピマリシンの局所投与を減量してボリコナゾール点眼の効果を増強させたことが有効に働いたと考えられた.さらに,テルビナフィン内服は爪真菌症の治療だけでなく,ボリコナゾールの相乗効果を期待する補助療法としても有効と考えられたが,眼科領域での有用性についてはさらなる検討が必要である.文献1)EbiharaM,MakimuraK,SatoKetal:Moleculardetectionofdermatophytesandnondermatophytesinonychomycosisbynestedpolymerasechainreactionbasedon28SribosomalRNAgenesequences.BrJDermatol161:1038-1044,20092)仲弥,宮川俊一,服部尚子ほか:足白癬・爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査(FootCheck2007).日本臨床皮膚科医会雑誌26:27-36,20093)MayserP,FreundV,BudihardjaD:Toenailonychomycosisindiabeticpatients:issuesandmanagement.AmJClinDermatol10:211-220,20094)新井達,小中理会,脇田加恵ほか:糖尿病入院患者を対象とした皮膚症状の調査・検討.日本皮膚科学会雑誌119:2359-2364,20095)BaddleyJW,PappasPG,SmithACetal:EpidemiologyofAspergillusterreusatauniversityhospital.JClinMicrobiol41:5525-5529,20036)田代隆良:肺アスペルギルス症の病態と呼吸器検体より分離されるAspergillus属の臨床的意義.日本臨床微生物学雑誌19:67-75,20097)Lass-FlorlC,Alastruey-IzquierdoA,Cuenca-EstrellaMetal:InvitroactivitiesofvariousantifungaldrugsagainstAspergillusterreus:GlobalassessmentusingthemethodologyoftheEuropeancommitteeonantimicrobialsusceptibilitytesting.AntimicrobeAgentsChemother53:794-795,20098)FinchJJ,WarshawEM:Toenailonychomycosis:currentandfuturetreatmentoptions.DermatolTher20:31-46,20079)DarkesMJ,ScottLJ,GoaKL:Terbinafine:areviewofitsuseinonychomycosisinadults.AmJClinDermatol4:39-65,200310)Garcia-EffronG,Gomez-LopezA,MelladoEetal:Invitroactivityofterbinafineagainstmedicallyimportantnon-dermatophytespeciesoffilamentousfungi.JAntimicrobChemother53:1086-1089,200411)AndersonKL,MitraS,SaloutiRetal:FungalkeratitiscausedbyPaecilomyceslilacinusassociatedwitharetainedintracornealhair.Cornea23:516-521,200412)FordJG,AgeeS,GreenhawST:SuccessfulmedicaltreatmentofacaseofPaecilomyceslilacinuskeratitis.Cornea27:1077-1079,200813)RyderNS,LeitnerI:SynergisticinteractionofterbinafinewithtriazolesoramphotericinBagainstAspergillusspecies.MedMycol39:91-95,200114)LiL,WangZ,LiRetal:InvitroevaluationofcombinationantifungalactivityagainstFusariumspeciesisolatedfromoculartissuesofkeratomycosispatients.AmJOphthalmol146:724-728,200815)MosqueraJ,SharpA,MooreCBetal:Invitrointeractionofterbinafinewithitraconazole,fluconazole,amphotericinBand5-flucytosineagainstAspergillusspp.JAntimicrobChemother50:189-194,200216)原田敬之:各種薬剤の副作用とその予防対策─抗真菌剤の副作用とその対策.臨牀と研究83:1274-1280,200617)松浦正樹,戸澤亜紀,石川悦子ほか:添付文書だけではわからない薬の情報─ブイフェンド.薬局7:2496-2504,200618)LiangQF,JinXY,WangXLetal:Effectoftopicalapplicationofterbinafineonfungalkeratitis.ChinMedJ122:1884-1888,2009***

ボリコナゾール眼局所投与の使用経験

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1(115)5310910-1810/10/\100/頁/JCOPY46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(4):531534,2010cはじめに抗真菌化学療法剤の開発には,種々の転機があった.1960年代にアンホテリシンBが初めて臨床導入され,Fusa-rium属やAspergillus属など重症眼感染症に有効な抗真菌薬として汎用された.しかし,その強い副作用から眼科医には扱いにくい薬剤であった.さらに主として酵母を対象としてフルシトシンが開発されたが,長期使用に伴い高頻度で耐性株が出現した.つぎに第一世代のアゾール系(イミダゾール)〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39番地出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-Tohjinmachi,KumamotoCity860-0027,JAPANボリコナゾール眼局所投与の使用経験佐々木香る*1砂田淳子*2浅利誠志*2園山裕子*1子島良平*3宮井尊史*3宮田和典*3出田隆一*1*1出田眼科病院*2大阪大学附属病院感染制御部*3宮田眼科病院EcacyandSafetyof1%VoriconazolEyedropsKaoruAraki-Sasaki1),AtsukoSunada2),SeishiAsari2),HirokoSonoyama1),RyoheiNejima3),TakashiMiyai3),KazunoriMiyata3)andRyuichiIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofInfecionControlandPrevention,OsakaUniversityHospital,3)MiyataEyeHospital目的:角膜真菌症に対するボリコナゾール(VRCZ)の眼局所への使用経験において,有用性,安全性,保存性に関する知見を報告する.方法:出田眼科病院,宮田眼科病院にてVRCZ点眼液(生理食塩水を用いて1%の点眼液に調整)を処方した角膜真菌症8例(平均年齢74歳)における臨床的効果を検討するとともに,うち4例において分離株に対する各種抗真菌薬の感受性を比較した.また,レトロスペクテイブに薬剤毒性による臨床所見の有無を調べた.さらに,調整後のVRCZ点眼液の安定性について滴下法を用いて確認した.結果:VRCZは,水溶性で容易に溶解可能であり,結晶の析出は認められなかった.さらに冷凍冷蔵保存にて固形物の析出は認めなかった.分離された株はFusariumsolani3株,Beauveriabassiana2株,Aspergillusavus1株,Penicillium1株,Scedosporium1株であり,臨床的にはVRCZ点眼液は全例で有用であった.VRCZを含む感受性試験を施行できた4株に対してVRCZは高度感受性を有していた.VRCZ点眼液の使用期間は平均6カ月であったが,この間薬剤毒性による臨床所見は認められなかった.点眼液調整後3週間冷蔵保存したVRCZ点眼液の薬剤感受性を検討したところ,抗真菌活性の低下は認めず,5週間冷凍保存した点眼液についても良好な抗真菌活性を示した.結論:VRCZ点眼液は種々の糸状真菌に対し良好な感受性を示し,薬剤毒性を認めず,調整後も長期にわたりその抗真菌活性を持続することから角膜真菌症の治療に有用であると考えられる.Purpose:Toreportontheecacy,safetyandstoragestabilityof1%voriconazoleyedrops(VRCZ-ed)inthetreatmentofkeratomycosis.Methods:EightpatientswithkeratomycosisweretreatedwithVRCZ-edatIdetaEyeHospitalandMiyataEyeHospital.Ecacywasobservedclinicallyandsensitivitytotheisolatedfungi(Fusari-umsolani,Beauveriabassiana,Aspergillusavus,PenicilliumandScedosporium)wastestedbyE-testTMandAstyTM.Drugtoxicitywascheckedbyslit-lampexamination.Results:VRCZ-edwasclear,withnoprecipitationafterfreezingandthawing.VRCZ-edwaseectiveinallcasesandsensitivetoallisolatedfungi.Notoxickeratopa-thywasobservedduring6months’treatmentwithVRCZ-ed.VRCZ-edmaintaineditsecacyfor3weeksafterdilutionand5weeksafterfreezing.Conclusion:VRCZ-edisusefulforitsecacy,safetyandstoragestability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):531534,2010〕Keywords:ボリコナゾール,角膜真菌症,感受性,抗真菌薬.voriconazol,cornealmycosis,sensitivity,antimy-coticdrug.———————————————————————-Page2532あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(116)抗真菌薬であるミコナゾールが開発され,さらに安定性を目指して第二世代アゾール系であるトリアゾール系化合物,フルコナゾールおよびイトラコナゾールが開発された.ボリコナゾール(以下,VRCZ)は第三世代アゾール系のトリアゾール化合物として,これらアゾール系抗真菌薬の弱点を改良し開発された1).すでに,VRCZの全身投与は各種糸状菌による角膜炎,眼内炎の分離株33株に対して良好な感受性を有することが報告されている2,3).また,1%に調整したVRCZ点眼液は,従来治療に難渋していたFusarium属やAspergillus属による角膜炎に対して良好な効果を示したという報告が散見される47).そこで,VRCZ点眼液の効果に関するデータを集積する意味で,筆者らの施設における使用経験を報告するとともに,1%VRCZ点眼液の有効性,安全性および安定性に関する検討を行った.I方法対象は宮田眼科病院,出田眼科病院においてVRCZ点眼液にて加療した角膜真菌症8例8眼,男性4例,女性4例,平均年齢74歳であった.VRCZ点眼液はブイフェンドTM200mg静注用製剤を無菌的に生理食塩水で1%溶液に調整して作製した.検討項目は1%VRCZ点眼液の有効性,安全性,保存性である.VRCZ点眼液の有効性については,臨床的効果および分離株を用いた薬剤感受性測定および点眼濃度に基づく薬剤感受性試験にて判定した.薬剤感受性測定は,E-testTMおよびAstyTMを用い,VRCZおよびその他の抗真菌薬:アンホテリシンB(AMPH-B),フルシトシン(5-FC),フルコナゾール(FLCZ),イトラコナゾール(ITCZ),ミコナゾール(MCZ),ミカファンギン(MCFG)の測定を行った.また,点眼濃度に基づく薬剤感受性測定は,RPMI培地上に菌を塗布し,実際に臨床で点眼として使用されている薬剤濃度液を滴下し,25℃および35℃で4日間培養して観察した.VRCZに関しては1%溶液の阻止円が大きすぎるため,希釈して検討した.VRCZ点眼液の安全性については,臨床経過上の薬剤毒性による表層性角膜炎の有無について記載した.さらにVRCZ点眼液の安定性については,1%に調整したVRCZ点眼液を冷蔵(4℃)下にて1,2,3週間,冷凍(20℃)下にて5週間保存したものを材料とし,滴下法にて眼科臨床症例より分離されたScedosporium株を用いて感受性の変化を検討した.なお,全症例においてVRCZの点滴投与を3日から1週間併用した.II結果1.代表症例(症例1)57歳,女性.つき目による角膜真菌症でScedosporiumが分離された.前眼部所見を図1に示す.角膜中央に表層性の羽毛状病巣を示し,前房蓄膿を認めた.1%VRCZ点眼×1時間毎,0.1%MCZ点眼1日6回,ピマリシン(PMR)軟膏1日1回,加えてVRCZ点滴を1週間施行したところ病巣は改善したが,翼状片の術後瘢痕部位が菲薄化したため,治療的角膜移植を施行した.移植後も含め6カ月間にわたりVRCZ点眼液を続行したが,図2のように薬剤毒性による表層性角膜炎および充血は認めなかった.この分離菌に対するE-testTMを図3に,点眼濃度に基づく感受性試験結果を図4に示す.いずれもVRCZに良好な感受性を示した.2.VRCZの各種真菌株に対する感受性分離された8株の内訳は,Penicillium1例,Beauveria2例,Scedosporium1例,Aspergillus1例,Fusarium3例で図1症例1の前眼部所見57歳,女性.Scedosporiumが分離された.角膜中央に表層性の羽毛状病巣を示し,前房蓄膿を認めた.図2症例1のVRCZ点眼6カ月後の所見治療的角膜移植施行後も含め,6カ月間にわたりVRCZ点眼を続行した.薬剤毒性による表層性角膜炎および充血は認めなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010533(117)あった.このうち,感受性試験を施行できた6株(VRCZに対しては4株)のE-testTM,AstyTMによる最小発育阻止濃度(MIC)を表1に示す.比較的表在性で比較的進行が遅いグループ(Penicillium,Beauveria,Scedosporium)と,進行が非常に速く重篤な角膜深在性真菌症を生じるグループ(Aspergillus,Fusarium)に分けると,AMPH-Bは後者,MCZ,MCFGは前者に低いMICを示した.FLCZはいずれに対しても高いMICを示した.一方,VRCZは4株すべてに対して,低いMICを呈した.点眼濃度に基づく感受性試験では,すべて症例1と同様に希釈したVRCZ溶液に一番大きな阻止円を認めた.3.VRCZ点眼液の臨床的有効性,安全性VRCZ点眼液短期間投与で治療的角膜移植に至った1例を除いた7例では,全例で病巣の縮小を認め,VRCZ点眼液は臨床的に有効であることが確認された.治療的角膜移植に至った5例を含む全例において,平均投与期間6カ月の間,VRCZ点眼液による薬剤毒性表層性角膜炎や遷延性上皮欠損は認められなかった.4.VRCZ点眼液の保存性1,2,3週間冷蔵保存,5週間冷凍保存したVRCZ点眼液は,図5のようにScedosporiumに対して,阻止円形成は良好であり,薬剤効力の劣化は認められなかった.III考按VRCZは,FLCZの一つのトリアゾール分子を4-フルオロピリジン基で置換しaメチル基を添加した構造となっている.そのため,脂溶性を獲得し,広いスペクトラムを有する.すでにFusarium,Aspergillusに対して,VRCZ点眼が有効である報告がなされている17)が,今回さらに種々の病原性をもつ糸状菌8株に対し,良好なMICを呈することがVRCZITCZFLCZ5-FCAMPH-B図3Scedosporiumに対する各抗真菌薬によるEtestTMVRCZに大きな阻止円を認める.PMRMCZMCFCVRCZ0.05%FLCZAMPH-B図4各種抗真菌薬の点眼濃度に基づく感受性試験結果株はScedosporium,接種薬液量50μl,RPMI培地,25℃,4日間培養.コントロール冷蔵保存3週間冷蔵保存2週間冷蔵保存1週間冷凍保存5週間図5VRCZ点眼液の劣化試験1,2,3週間冷蔵保存,5週間冷凍保存したVRCZ点眼液は,同程度の阻止円を認めた.抗真菌薬20μl,RPMI培地,4日間培養.0.05%VRCZ周囲に大きな阻止円を認める.表1抗真菌薬に対する分離6株の感受性のまとめ分離菌AMPHFLCZITCZMCZMCFGVRCZPenicillium>32>256>32>220.125Scedosporium1664>80.25>160.047Beauberia82560.250.50.50.5Aspergillus0.5>640.062<0.03Fusarium0.5>64>8>32>16Fusarium1>64>8>16>164(E-testTM,AstyTMによるMIC)(μg/ml)———————————————————————-Page4534あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(118)明らかとなった.E-testTMとAstyTMを合わせて評価することには問題はあるが,MCFGおよびMCZはE-testTMが存在せず,一定の傾向をみるために2法による結果を合わせて評価した.さらに,点眼濃度に基づく感受性試験を施行した4株において,希釈したVRCZ点眼液が,最も大きな阻止円を認めたことは,その有用性を裏付けるものと思われる.平均6カ月という長期投与にもかかわらず,全例で薬剤毒性による表層性角膜炎を認めなかったことは眼科臨床において非常に使いやすい点眼液であるといえる.角膜移植後という上皮が不安定な状態においても,副作用を認めなかったことは特記すべきと思われた.VRCZ点眼液投与後24分経過時点におけるVRCZの前房内濃度,硝子体内濃度は各々6.49μg/ml,0.16μg/mlであり,良好な浸透度を有していることが報告されている8).深部へ進みやすい糸状真菌角膜炎においては,一定の前房内濃度を維持できることは大きな長所であるといえる.今回,8例全例においてVRCA点眼とともに,VRCZの静脈内投与を施行したが,全身投与における血中濃度と比して点眼濃度が明らかに高いことを考慮すると,点眼投与が主として奏効したと考えられる.VRCZ点眼液は適応外使用であり,各々の施設における倫理委員会での承認を得て使用する必要はあるが,眼という特殊性,血管欠如という角膜の特殊性を考えると,有効であり副作用の少ないVRCZ点眼液は安心して点眼として使用できる薬剤であると示唆された.薬剤が高価であることが臨床使用において一つの問題点であるが,今回の検討から点眼に調整後,冷蔵保存で3週間,冷凍保存で5週間劣化することなく良好な感受性を有することが明らかとなり,コストの面からも使用しやすくなったと考えられる.VRCZの欠点をあげるとすれば,無効である菌種の存在と全身投与による副作用である.文献的にはVRCZによる効果の認めにくい菌としてMucorがあげられる.しかし,現在の日本における角膜真菌症においてMucorはまれであり,VRCZ点眼液は難治性角膜真菌症の第一選択薬といってよいと考えられた.真菌は通常自然耐性であるが,近年FLCZ耐性Candidaが増加しており,CDR1,MDR1,ERG11などの遺伝子異常が注目されている913).VRCZに対しても耐性を獲得しない保障はないが,現在のところはまだ報告がない.ただし,CandidaにおいてFLCZに対するMICが高いものほど,VRCZに対するMICも高い傾向にあり注意を要する14).また,全身投与による副作用としては,内服投与の20%において視覚異常が報告されている.これは原因不明だが,60分ほどの一過性の羞明で出現するといわれている.今回の点眼液投与においては,もともと真菌症による視力低下もあり,視覚異常の訴えは認められなかった.しかし,その他腎毒性,催奇形性などがあるため,点眼液といえども重度の腎障害を有する患者および妊婦への投与は慎重にすべきである.1%VRCZ点眼液は各種糸状菌に有効であり,薬剤毒性も少なく,調整後長期保存が可能であり,角膜真菌症に非常に有用である.文献1)宮崎泰可,宮崎義継,河野茂:特集:真菌症治療薬の新しい展開.ボリコナゾール.化学療法の領域19:231-235,20032)MarangonFB,MillerD,GiaconiJAetal:Invitroinvesti-gationofvoriconazolesusceptibilityforkeratitisandendophthalmitisfungalpathogens.AmJOphthalmol137:820-825,20043)中村彰宏,河野久,岩崎瑞穂ほか:天理よろづ相談所病院で分離された酵母様真菌に対する抗真菌薬の抗菌力について─新規トリアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールと既存抗真菌薬の比較─.化学療法の領域23:1613-1617,20074)松永次郎,山本昇伯,熊谷直樹ほか:従来の抗真菌薬に抵抗を示した角膜真菌症に対しボリコナゾールが有効であった1例.臨眼61:1705-1709,20075)竹澤美貴子,小幡博人,石崎こずえほか:ボリコナゾールが奏功した角膜真菌症の1例.臨眼61:1267-1270,20076)JhanjiV,SharmaN,MannanRetal:Managementoftunnelfungalinfectionwithvoricoanzole.JCataractRefractSurg33:915-917,20077)JonesA,MuhtasebM:Useofvoriconazoleinfungalker-atitis.JCataractRefractSurg34:183-184,20088)VemulakondaGA,HariprasadSM,MielerWFetal:Aqueousandvitreousconcentrationsfollowingtopicaladministrationof1%voriconazoleinhumans.ArchOph-thalmol126:18-22,20089)田辺公一,新見京子,新見昌一:病原真菌の薬剤耐性に関する新しい分子機構.日本臨牀66:2273-2278,200810)掛屋弘,宮崎泰可,宮崎義継ほか:カンジダ属の抗真菌薬剤耐性を中心に.日本医真菌学会雑誌44:87-92,200311)山口英世:病原真菌における抗真菌薬耐性.医学のあゆみ209:556-563,200412)CitakS,OzcelikB,CesurSetal:InvitrosusceptibilityofCandidaspeciesisolatedfrombloodculturetosomeanti-fungalagents.JpnJInfectDis58:44-46,200513)藤田信一:各種抗真菌薬の血液由来Candida属に対する抗真菌活性.日本化学療法学会雑誌55:257-267,200714)RuhnkeM,Schumidt-WesthausenA,TrautmannM:Invitroactivitiesofvoriconazoleaganistuconazole-susceptibleand-resistantCandidaalbicansisolatesfromoralcavitiesofpatientswithhumanimmunodeciencyvirusinfection.AntimicrobAgentsChemother41:575-577,1997***

Colletotrichum 属による角膜真菌症の2 症例

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1(107)5230910-1810/10/\100/頁/JCOPY46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(4):523526,2010cはじめに1987年にオフロキサシン(OFLX)点眼液(タリビッドR点眼液)が上市されて以来,フルオロキノロン系点眼薬はその強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルから,感染症治療のみならず,周術期の感染予防目的でも日常的に使用されている.他方,臨床の場でキノロン耐性菌の出現も問題になりつつあり,2000年に発売された,いわゆる第3世代キノロン製剤であるレボフロキサシン(LVFX)点眼液にも耐性菌がみられるようになってきた1).2004年に発売されたガチフロキサシン(GFLX)点眼液はdualinhibitionを特徴とする第4世代キノロンで,耐性菌が出現しにくいとされている.今回筆者らは,周術期の感染予防目的で使用した場合,LVFXとGFLXの有効性に差があるかについて,一般の中核市中病院に通院する患者を対象に一般病院で通常施行されている結膜細菌培養と薬剤感受性試験を行い,検討したので報告する.〔別刷請求先〕末吉理恵:〒673-8501明石市鷹匠町1-33明石市立市民病院眼科Reprintrequests:MasaeSueyoshi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkashiMunicipalHospital,1-33Takashomachi,AkashiCity,Hyogo673-8501,JAPAN術前抗生物質投与におけるレボフロキサシン点眼液とガチフロキサシン点眼液の比較検討末吉理恵辻村まり明石市立市民病院眼科ComparisonofLevoloxacinandGatiloxacinasPreoperativeTopicalAntibioticAgentsMasaeSueyoshiandMariTsujimuraDepartmentofOphthalmology,AkashiMunicipalHospital2005年4月から2007年3月までに内眼手術予定の1,217眼を対象とし,一般病院で通常施行されている結膜細菌培養と薬剤感受性試験を行った.分離培養された菌に対してレボフロキサシン(LVFX)とガチフロキサシン(GFLX)の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を測定し,薬剤感受性を比較検討した.1,217眼中39眼(3.2%)から42株の菌が検出された.グラム陽性菌が21株であり,その15株がStaphylococcusaureus(うちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSAが5株)であった.グラム陰性菌が21株で,その7株がHaemophilusinuenzaeであった.MICからはLVFXとGFLXの感受性に明らかな差はなく,耐性菌は両剤ともに低感受性を示した.グラム陽性菌Staphylococcusaureus(そのうち特にMRSA)およびStaphylococcusepidermidisについては両剤ともに耐性菌が認められており,注意が必要と考えられた.FromApril2005toMarch2007,wepreoperativelyinvestigatedthebacterialoraintheconjunctivalsacsof1,217eyesofpatientswhoweretoundergosurgery.Wecomparedlevooxacin(LVFX)withgatioxacin(GFLX)onthebasisofminimuminhibitoryconcentration(MIC).Atotalof42strainswereisolatedfrom39eyes(3.2%)bydirectisolation.Ofthe42strains,21weregram-negativecocci;ofthose,15strainswereStaphylococcusaureus,including5strainsofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA).Theother21strainsweregram-nega-tiverods;ofthose,7strainswereHaemophilusinuenzae.RegardingMICdistribution,nosignicantdierencewasnotedbetweenLVFXandGFLX.Theuoroquinolone-resistantstrainswerefoundinthegram-positivebacte-ria.WemustpayattentiontoMRSAandStaphylococcusepidermidis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):523526,2010〕Keywords:結膜内細菌叢,薬剤感受性,レボフロキサシン,ガチフロキサシン,最小発育阻止濃度.bacterialoraintheconjunctivalsacs,drugsensitivity,levooxacin,gatioxacin,minimuminhibitoryconcentration(MIC).———————————————————————-Page2524あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(108)I対象および方法術前に明らかな急性結膜炎の所見を認めず,2005年4月1日から2007年3月31日の期間に当科で内眼手術を施行した27101歳の症例1,217眼(男性447眼;平均年齢72.04歳,女性770眼;平均年齢74.89歳,合計1,217眼;平均年齢73.84歳)を対象とした.手術の約1カ月前に外来で,術前検査の一環として,結膜擦過物の細菌学的検査を行った.具体的には,カルチャースワブプラスR(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用い,眼科医師が結膜を擦過して検体採取し検体保存輸送用培地に入れ,当院(市立病院)の細菌検査室に提出した.5%ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地で35℃48時間の好気条件,直接分離培養を行った.検出された菌は,院内でも薬剤感受性検査を行うとともに,(株)三菱化学メディエンスに提出し,すべての菌株に対してLVFXとGFLXの最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を微量液体希釈法にて測定し,比較検討した.結果について,下記の項目を検討した.(1)直接分離培養で検出された細菌検出株数,検出頻度,性別および年齢(2)MICの観点からみた検出された菌に対するLVFXとGFLXの抗菌力MIC値が4μg/ml以上のものを耐性菌とみなした(院内での薬剤感受性検査で耐性と判定された株のMIC値を採用した).検出された株数が少なかったため,統計学的解析は行っていない.II結果1,217眼中39眼(3.2%)から菌が検出された.男性19眼:平均年齢74.58歳,女性20眼:平均年齢75.10歳,合計39眼:平均年齢74.85歳であった.39眼中37眼において検出された菌は1種類であったが,2種類の菌を検出したものが1眼(76歳,男性),3種類の菌を検出したものが1眼(76歳,女性)あった.菌が検出された症例については術前に適切な抗生物質点眼を行い,減菌した後に手術を施行した.術後眼内炎を発症した症例は認めなかった.菌が検出された症例の性別および各年代別の検出率は,図1に示すとおりで,高齢者に多いというような一定の傾向は認めなかった.検出された菌は,グラム陽性菌が21株であり,その15株がStaphylococcusaureus(うちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSAが5株)であった.グラム陰性菌が21株で,Haemophilusinuenzaeが最も多く7株,ついでCitrobacterkoseriが4株認められた.検出されたグラム陽性菌の内訳と各MICは表1に,グラム陰性菌の内訳と各MICは表2に示すとおりで,耐性菌はLVFXとGFLXの両剤ともに低感受性であった.全分離株に対する両剤の累積発育阻止率曲線は図2に示すとおりである.Staphylococcusaureusに対する両剤の累積発育阻止率曲線を図3に示した.なお,LVFXとGFLXの両剤ともに低感受性であった菌はすべて,院内の薬剤感受性検査でアルベカシン(ABK)およびバンコマイシン(VCM)に感受性があり,これらを用いて手術前に減菌した.III考察結膜内常在菌の菌検出率は,これまでに53.185%との報告がある28).当院の検査室において通常施行している病原菌を対象とした培養検査の検出率は3.2%であった.専門的施設で結膜症例数05010015020025030035040020代男性20代女性30代男性30代女性40代男性40代女性50代男性50代女性60代男性60代女性70代男性70代女性80代男性80代女性90代男性90代女性100代男性100代女性:検出:検出5%7.9%2.8%0.7%4%3%5.9%2.1%8.3%100%図1菌が検出された症例の性別および各年代別の検出率———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010525(109)表2グラム陰性菌の内訳と各MIC(μg/ml)およびAQCmaxMIC菌株平均年齢(歳)MICAQCmax/MICLVFXGFLXLVFXGFLXPseudomonasaeruginosa(1例)690.50.56.784.6Serratiamarcescens(1例)580.120.2528.259.2Haemophilusinuenzae(7例)76.71≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Proteusmirabilis(2例中1例)84≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Proteusmirabilis(2例中1例)70≦0.060.25≧56.59.2Citrobacterkoseri(4例)78.75≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Citrobacterfreundii(1例)700.120.2528.259.2Enterobactercloacae(1例)82≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Escherichiacoli(1例)86≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Morganellamorganii(2例)73.5≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Moraxellacatarrhalis(1例)82≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3表1グラム陽性菌の内訳と各MIC(μg/ml)およびAQCmaxMIC菌株平均年齢(歳)MICAQCmax/MICLVFXGFLXLVFXGFLXStaphylococcusaureus(15例中8例)74.250.12≦0.0628.25≧38.3Staphylococcusaureus(15例中1例)700.250.1213.5619.17Staphylococcusaureus(15例中1例)70211.6952.3Staphylococcusaureus(15例中2例)MRSA71.5420.84751.15Staphylococcusaureus(15例中1例)MRSA57>12832<0.0030.071875Staphylococcusaureus(15例中2例)MRSA78>12864<0.0030.036Staphylococcusepidermidis(2例中1例)760.12≦0.0628.25≧38.3Staphylococcusepidermidis(2例中1例)69820.423751.15Streptococcuspneumoniae(2例中1例)7610.253.399.2Streptococcuspneumoniae(2例中1例)8010.53.394.6GroupGStreptococcus(1例)800.250.1213.5619.17Enterococcusfaecalis(1例)760.50.256.789.2MIC(μg/ml)0累積発育阻止率(%)102030405060708090100:LVFX:GFLX≦0.060.120.250.51248163264>128図2全分離株に対する累積発育阻止率曲線累積発育阻止率図3S.aureusに対する累積発育阻止率曲線———————————————————————-Page4526あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(110)内常在菌を調査するのではなく,一般病院で通常施行されている培養検査の検出率については,これまでにあまり多数の報告がないが,臨床の場で通常行われている方法であると思われ,今回これについて報告する.遅発性眼内炎の起炎菌として同定されているPropionibac-teriumacnesなどは今回の検討例では検出されていないが,検出された菌は術後早期の眼内炎の起炎菌として報告されている菌種9,10)と類似しており,今回はこれに対して検討した.GFLXは,キノロン骨格1位のシクロプロピル基に加えて,キノロン骨格8位にメトキシ基をもつことで,細菌の標的酵素であるDNAジャイレースとトポイソメレースⅣの両酵素を強力に同程度阻害(dualinhibition)する特徴がある.そこで,LVFXに低感受性であっても,GFLXに感受性の高い菌が多数ある可能性があると考えた.今回の検討で,すべてのグラム陽性菌においてGFLXのMICがLVFXより低かったが,LVFXに耐性をもつ菌株ではGFLXの感受性も低くこれらの菌に対してGFLXによる減菌効果は少ないと考えられた.グラム陰性菌においてはLVFXとGFLXのMICは同じであるものが多く,GFLXのMICがLVFXより高い菌株も認められた.また,術後眼内炎を予防するためには,前眼部へ効率よく移行する点眼薬が求められる.薬動力学的パラメータとして,房水内最高濃度(AQCmax)とMICを組み合わせたAQCmax/MICが臨床での有効性を反映するとの概念が提唱されており,この値が大きいほど有効性が高いと考えられている11).0.5%LVFX点眼液および0.3%GFLX点眼液のAQCmaxは,それぞれ3.39μg/mlおよび2.30μg/mlと報告されている12).検出された菌のAQCmax/MICは,表1(グラム陽性菌),表2(グラム陰性菌)に示すとおりである.グラム陽性菌に対しては,すべての菌株においてGFLXが勝っている.グラム陰性菌に対しては,すべての菌株においてLVFXが勝っている.両剤の有用性について差は少ないと考えられた.近年,細菌の薬剤耐性化が進んでおり,特にニューキノロン薬に対する耐性化が報告されている13).GFLXは新たに開発され,まだあまり使用されていないが,すでに交差耐性となっている菌株も認められている.今回の全分離株のうち,MIC値が4μg/ml以上の株を耐性菌とみなすと,LVFXで6株(約14.3%),GFLXで3株(約7.1%)のみが耐性と判断され,両剤は今のところ周術期の感染予防に有効であると思われた.しかしながら,これまでの報告とも一致するが,術後眼内炎の主要な起炎菌であるグラム陽性菌Staphylococcusaureus(そのうち特にMRSA)およびStaphylococcusepidermidisについては,両剤ともに低感受性を示す株があり,特に注意が必要であると考えられた.文献1)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,20052)白井美惠子,西垣士朗,荻野誠周ほか:術後感染予防対策としての術前結膜内常在菌培養検査.臨眼61:1189-1194,20073)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜内常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科23:1062-1066,20064)岩﨑雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,20065)志熊徹也,臼井正彦:白内障術前患者の結膜内常在菌と3種抗菌点眼薬の効果.臨眼60:1433-1438,20066)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,20017)秋葉真理子,坂上晃一,秋葉純:高齢者の結膜内常在菌と薬剤耐性.臨眼53:773-776,19998)大秀行,福田昌彦,大鳥利文:高齢者1,000眼の結膜内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19989)秦野寛:白内障術後眼内炎:起炎菌と臨床病型.あたらしい眼科22:875-879,200510)原二郎:眼科手術と術後眼内炎─起炎菌の変遷と術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,199811)佐々木一之,三井幸彦,福田正道ほか:点眼用抗菌薬の眼内薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの測定.あたらしい眼科12:787-790,199512)福田正道,高橋信夫:ガチフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度値(AQCmax)の測定─.あたらしい眼科21:1109-1112,200413)松尾洋子,柿丸晶子,宮崎大ほか:鳥取大学眼科における分離菌の薬剤感受性・患者背景に関する検討.臨眼59:886-890,2005***

Paecilomyces lilacinus による角膜真菌症の1例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(93)11390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11391142,2008cはじめに角膜真菌症は難治性眼感染症の一つで,その原因菌としてはCandida,Aspergillus,Acremonium(Cephalosporium)およびFusariumなどが多く報告されている.今回,土壌中や空中などに存在する糸状菌の一つで,起炎菌としてまれなPaecilomyceslilacinusによる角膜真菌症を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼痛.既往歴:1985年頃に右眼鈍的外傷あり.平成1999年6月18日,外傷性白内障に対し近医にて白内障手術および眼内レンズ挿入術を施行される.全身的には高血圧症以外に特に異常はなく,糖尿病も指摘されていない.家族歴:特記事項なし.現病歴:2001年3月23日,右眼痛および充血を自覚し中濃厚生病院眼科を受診した.右眼視力は光覚弁なし,右眼眼圧は45mmHgであった.周辺部虹彩前癒着による右眼続発閉塞隅角緑内障と診断し,抗緑内障薬の点眼および内服を処方した.同年8月になり水疱性角膜症をきたしたため抗菌薬および低濃度ステロイド薬の点眼を追加した.その後,流涙を訴えていたが眼痛はなく定期的に通院を続けていた.同年12月12日,右眼痛を自覚し再診され,前房蓄膿を伴う角膜潰瘍が認められた.角膜擦過物から菌糸様成分が検出され,角膜真菌症と診断し即日入院となった.入院時所見:視力は右眼光覚弁なし,左眼0.15(0.7×+2.00D(cyl0.50DAx70°)で,眼圧は右眼21mmHg,左眼〔別刷請求先〕望月清文:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KiyofumiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Yanagido,Gifu-shi501-1194,JAPANPaecilomyceslilacinusによる角膜真菌症の1例堀由起子*1望月清文*1末松寛之*2西村和子*3*1岐阜大学医学部眼科学教室*2JA岐阜厚生連中濃厚生病院検査室*3千葉大学真菌医学研究センターACaseofKeratomycosisduetoPaecilomyceslilacinusYukikoHori1),KiyofumiMochizuki1),HiroyukiSuematsu2)andKazukoNishimura3)1)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofClinicalLaboratory,JAGifuKoserenChunoGeneralHospital,3)ResearchCenterforPathogenicFungiandMicrobialToxicoses,ChibaUniversity外傷後に生じた水疱性角膜症に対して低濃度ステロイド薬点眼中の80歳,女性に,右眼角膜潰瘍が生じた.角膜擦過物から菌糸様成分が検出され,角膜真菌症と診断した.抗真菌薬による治療を行うも治療開始6日目で角膜穿孔を生じ,最終的に眼球摘出術が行われた.角膜擦過物の培養から角膜真菌症の起炎菌としてはまれなPaecilomyceslilaci-nusが分離同定された.An80-year-oldwomandevelopedkeratomycosiscausedbyPaecilomyceslilacinusinherrighteye.Shehadundergoneanuncomplicatedcataractsurgerywithimplantationofaposteriorchamberintraocularlensbecauseoftraumaticcataract.Bullouskeratopathywithsecondaryglaucomawaspresentduringthepastyearsandshehadbeentreatedwithbothtopicalocularhypotensivedrugsandlow-dosecorticosteroid.Althoughtreatmentwasiniti-atedwithantifungalagentsincludingpimaricin,uconazole,miconazole,anditraconazole,thecorneawasperforat-edatday6aftertreatment.Asmearpreparationfromcornealscrapingsrevealedfungallaments;thefungusculturedfromthescrapingswasidentiedasPaecilomyceslilacinus,onthebasisofgrossandmicroscopicexami-nations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11391142,2008〕Keywords:角膜真菌症,Paecilomyceslilacinus,角膜穿孔.keratomycosis,Paecilomyceslilacinus,cornealperforation.———————————————————————-Page21140あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(94)12mmHgであった.右眼球結膜は充血し,角膜中央部から下方にかけて灰白色の辺縁不正な潰瘍があり,角膜実質深層部に羽毛状の淡い浸潤を伴っていた.角膜周辺部は盛り上がり,前房蓄膿を伴っていた(図1).なお,左眼には特に異常はなかった.全身所見:血液検査では,血沈1時間値が25mmと上昇していた以外には特に異常を認めなかった.またb-D-グルカン値は4.8pg/mlで正常範囲内であった.経過:入院後0.2%フルコナゾール点眼および5%ピマリシン点眼1時間毎に,0.2%フルコナゾール0.3ml結膜下注射,フルコナゾール200mg点滴およびイトラコナゾール50mg内服を開始した.なお,抗菌薬にはレボフロキサシン点眼4回および硫酸セフピロム2g点滴を併用した.しかし角膜潰瘍に縮小傾向は認められず前房蓄膿も増加したため,12月16日(入院4日目)に0.2%フルコナゾール点眼および結膜下注射を中止し,0.1%ミコナゾール(MCZ)点眼6回および1%ピマリシン(PMR)軟膏1回を開始した.12月18日(入院6日目)になり潰瘍中央部に角膜穿孔を生じ前房がほぼ消失し,角膜後面に眼内レンズが接していた.右眼視力はもともと光覚弁なしであったので患者および家族の同意を得た後,12月20日に眼球摘出術を施行した.病理学的所見:術中に採取した眼内液からは菌糸様成分は検出されなかった.摘出された眼球から標本を作製した.HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色では角膜潰瘍穿孔部を中心に好中球を主体とした炎症細胞が多数遊出していた.PAS(過ヨウ素酸フクシン)染色では,角膜実質中に菌糸様の構造物が多数確認された(図2).分離菌株の微生物学的性状:本症例から分離された菌は,ポテトデキストロース寒天における25℃培養で,はじめは白色,中心から次第に15日後には全体にライラック色のコロニーを形成した.スライド培養では,分子柄先端あるいは途中からは枝,ついでメトラが生じてその先端からフィアライドが35個生じ,それらの先端はなだらかに細くなって伸びていった.フィアライド先端からレモン形,平滑な分生子が連鎖状に形成されていた(図3).以上の所見からP.lilacinusと同定された.最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC):本症例から分離されたP.lilacinusに対する各種薬剤のMICを阪大微生物病研究会臨床検査部にて測定した.アンホテリシンB(AMPH)では0.5μg/ml,フルコナゾールでは1μg/ml,MCZおよびPMRでは2μg/ml,イトラコナゾールでは4μg/mlであった.II考按P.lilacinusは広い分布をもつ土壌生息菌として知られ,空中浮遊菌としても存在し通常は病原性をもたない糸状菌の一つである.同菌による感染症の報告は1996年のHaldeら1)図3スライド培養分子柄は長く分生子は連鎖状に形成されている.図1右眼前眼部写真(2001年12月12日)角膜中央部から下方にかけて前房蓄膿を伴う灰白色の辺縁不正な潰瘍を認める.図2病理組織写真(PAS染色,×400)角膜実質中に菌糸様の構造物が多数みられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081141(95)による緑内障術後の眼内炎の報告以来各科領域で近年増加傾向にあり,皮膚科領域2)では皮膚深在性真菌症,内科領域3)では膿胸,耳鼻科領域4)では上顎洞炎をきたした報告がある.Paecilomyces属による眼感染症のわが国における報告は,筆者らが調べた限りでは,眼内炎3例57)および角膜真菌症5例811)であった.わが国における角膜真菌症の報告例5例に本症例を加えた6例についてみると(表1),全例が70歳以上の高齢者であり,高齢者の角膜真菌症に遭遇した際には本菌を念頭におく必要があろう.性別では男性4例,女性2例で,患側は両眼1例,右眼4例および左眼1例であった.角膜ヘルペスや兎眼性角膜症など何らかの角膜疾患あるいは障害が先行していた症例が5例で,糖尿病を有する例が3例あり,6例中3例で副腎皮質ステロイド薬による治療が行われていた.3例で緑内障を有していた.いわゆる「突き目」の症例は1例であった.使用された薬剤のなかで比較的有効と思われたものはチメロサール,MCZ,PMR,およびボリコナゾール(ブイフェンドR,VRCZ)であったが,全例で視力予後は不良であり,4例では角膜移植や結膜被覆術など外科的処置を要していた.外傷が先行して感染が起こる,いわゆる「農村型」12)の角膜真菌症は起炎菌としてAspergillusやFusariumなどの糸状菌が多く,強い前房所見や角膜実質深層に達する病巣を特徴とし,抗真菌薬への耐性から予後不良な経過となる場合が多い.P.lilacinusも糸状菌の一つであり,その角膜炎は重症でかつ難治性であることが多い10)という.本症例では,外傷性白内障の手術後に生じた水疱性角膜症が基礎にあり,しかも治療としてステロイド薬点眼を用いていたので,局所的な免疫不全状態が生じ感染しやすい状態にあったと考えられる.受診時に角膜擦過物から菌糸様成分が検出され角膜真菌症と診断し即日治療を開始したが,治療開始6日目で穿孔に至った.摘出眼球の病理学的検査において角膜実質中に菌糸様の構造物が多数確認されたことから,受診時すでに真菌による角膜実質の融解がかなり進行していたものと推定され,これが治療に抵抗した一因と考えられた.本症例において各種抗真菌薬の薬剤感受性を検討したところ,一般的に用いられる抗真菌薬はほとんど無効であった.椋本ら11)は,角膜穿孔をきたしたもののその後に結膜被覆術を施行し,VRCZの内服および点眼により角膜膿瘍の消失をみたP.lilacinus症例を報告している.VRCZはアゾール系の新しい抗真菌薬で,抗真菌スペクトラムが広く眼内移行性も良好13)でかつ既存の抗真菌薬では無効なFusarium属に対しても抗真菌作用がある14)という.よって,難治性であるPaecilomyces属による角膜真菌症の治療に使用してみる価値はあり,今後の報告が待たれるところである.今回,起炎菌としてまれなP.lilacinusによる角膜真菌症に対して抗真菌薬による治療を診断後ただちに行ったところ予後は不良であった.本菌種は土壌や空中などの環境に広く生息するので,今後は特に角膜上皮障害を有する高齢者において本菌種による眼感染症も念頭に少しでも早期の治療開始に心がけることが重要と思われた.文献1)HaldeC,OkumotoM:Ocularmycosis:Astudyof82cases.In:BonnEW(Ed):Proceedingsofthe20thInter-nationalCongressofOphthalmology,p705-712,ExcerptaMedicaFoundation,Munich,1966表1わが国におけるPaecilomyceslilacinusによる角膜真菌症の報告報告者(報告年)年齢(歳)性別患眼既往ステロイド薬の使用矯正視力使用薬剤備考初診時最終高槻ら(1984)70男右角膜ヘルペス糖尿病有0.02?AMPH,PMR,チメロサール,5-FC─横山ら(1990)90女両SCL連続装用糖尿病無0.70.01LSLSPMR,FLCZ,MCZ,ITCZ─陳ら*(2005)84男左白内障および翼状片術後緑内障有CF0.02PMR,MCZ,ITCZ全層角膜移植80男右農作業中ゴミが飛入緑内障無LS()LS()PMR,MCZ,ITCZ全層角膜移植椋本ら(2007)78男右兎眼性角膜症脳梗塞糖尿病無HM0.01PMR,FLCZ,VRCZ結膜被覆術本症例(2007)80女右水疱性角膜症外傷白内障術後,続発緑内障有LS()LS()PMR,FLCZ,MCZ,ITCZ眼球摘出*:種は同定されていない.PMR:ピマリシン,AMPH:アンホテリシンB,5-FC:フルシトシン,FLCZ:フルコナゾール,MCZ:ミコナゾール,ITCZ:イトラコナゾール,VRCZ:ボリコナゾール,SCL:ソフトコンタクトレンズ.———————————————————————-Page41142あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(96)2)渡邊昌平:その他のまれな皮膚真菌症および類似近縁疾患.今村貞夫,小川秀興(編);皮膚科MOOK11,真菌症,p265-275,金原出版,19883)FenechFF,MalliaCP:PleuraleusioncausedbyPeni-cilliumlilacinum.BrJDisChest66:284-290,19804)RockhillRC,KleinMD:Paecilomyceslilacinusasthecauseofchronicmaxillarysinusitis.JClinMicrobiol11:737-739,19805)安藤展代,山本倬司,中嶋英子ほか:Paecilomyceslilaci-nusによる眼炎の1例.臨眼33:217-223,19796)大久保真司,鳥崎真人,東出朋巳ほか:白内障手術後に生じたPaecilomyceslilacinusによる眼内炎の1例.日眼会誌98:103-110,19947)渡辺圭子,山名敏子,猪俣孟ほか:虹彩面上白色塊を呈した真菌性眼内炎.臨眼39:1141-1144,19858)高槻玲子,内堀環,富吉幸徳ほか:Paecilomyceslilaci-nusによる角膜真菌症の1例.臨眼33:561-564,19849)横山利幸,小澤佳良子,佐久間敦之ほか:ソフトコンタクトレンズ連続装用中にPaecilomyceslilacinusによる重篤な角膜真菌症を生じた1症例.日コレ誌32:231-237,199010)陳光明,鈴木崇,宇野敏彦ほか:Paecilomyces属による角膜真菌症の2例.あたらしい眼科22:1397-1400,200511)椋本茂裕,井出尚史,嘉山尚幸ほか:角膜穿孔を生じたPaecilomyces属による角膜真菌症の1例.臨眼61:1049-1052,200712)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症の2病型.臨眼51:1447-1452,199713)HariprasadSM,MielerWF,HolzERetal:Determinationofvitreous,aqueous,andplasmaconcentrationoforallyadministeredvoriconazoleinhumans.ArchOphthalmol122:42-47,200414)小松直樹,堅野比呂子,宮大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusariumsolaniによる非定型的な角膜真菌症の1例.あたらしい眼科24:499-501,2007***