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海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の 角膜内皮細胞密度へ及ぼす影響

2022年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(6):827.829,2022c海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の角膜内皮細胞密度へ及ぼす影響渡辺真子*1,2脇舛耕一*1,2山崎俊秀*1,2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.ectoftheDomesticPreservationTimeofInternationally-ShippedDonorCorneasonCornealEndothelialCellDensityPostCornealTransplantationMakoWatanabe1,2)C,KoichiWakimasu1,2)C,ToshihideYamasaki1,2)C,ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の角膜内皮細胞密度に及ぼす影響を検討した.方法:バプテスト眼科クリニックにて全層角膜移植術および角膜内皮移植術を施行したC117例を対象とし,ドナー角膜が国内に到着してから移植を行うまでの時間がC24時間C±12時間であったC62眼をC1日群,48時間C±12時間であったC57眼を2日群とした.2群間で死亡日時から手術までに要した日数,術前(ドナー角膜保存時)および術後C6カ月時点におけるドナー角膜内皮細胞密度を後ろ向きに比較検討した.結果:死亡日時から手術までに要した日時はC1日群ではC6.1C±1.0日,2日群ではC6.5C±0.7日であった(p=0.02).また,術前および術後の角膜内皮細胞密度は,1日群では術前がC2,747C±156個/mmC2(平均±標準偏差),術後がC2,018C±468個/mmC2,2日群では術前がC2,739C±個/mmC2,術後がC1,951C±472個/mmC2であり,有意差を認めなかった.結論:海外ドナー角膜を用いた角膜移植術では,国内保存時間がC24時間延長されても角膜移植術後の角膜内皮細胞密度の予後に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた.CPurpose:Toinvestigatethee.ectofthedomesticpreservationtimeofinternationally-shippeddonorcorneasoncornealendothelialcell(CEC)densitypostcornealtransplantation.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved119CeyesCofC117CpatientsCwhoCunderwentCpenetratingCkeratoplastyCandCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyattheBaptistEyeClinic,Kyoto,Japan.The119eyeswerecategorizedintothefollowingtwogroupsbasedontheelapsedtimebetweenwhenthedonorcorneasarrivedinJapanandsurgerywasperformed:24C±12hours(1-daygroup,n=62eyes)and48±12hours(2-daygroup,n=57eyes).Thenumberofdaysfromthedateofdonorcornealpreservationtosurgery,anddonorCECdensityatpriortosurgeryand6-monthspostoperative,wereCretrospectivelyCanalyzedCandCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:InCtheC1-dayCgroupCandC2-dayCgroup,CtheCmeanCelapsedCtimeCfromCtheCdateCofCpreservationCtoCsurgeryCwasC6.1±1.0CdaysCandC6.5±0.7Cdays,respectively(p=0.02)C,andthepre-andpostoperativeCECdensitieswere2,747±156cells/mm2(mean±SD)and2,018±468Ccells/mm2,CandC2,739±cells/mm2CandC1,951±472Ccells/mm2,Crespectively,CthusCshowingCnoCsigni.cantCdi.erencebetweenthetwogroups.Conclusion:Our.ndingsshowedthatincornealtransplantationsusingdonorcorneasCshippedCfromCoverseas,CaCdomesticCstorageCperiodCextensionCofC24ChoursCdidCnotCsigni.cantlyCa.ectCCECCdensitypostcornealtransplantation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(6):827.829,C2022〕Keywords:角膜移植,角膜内皮細胞密度,角膜輸送,角膜保存時間.cornealtransplantation,cornealendothelialcelldensity,cornealtransplantation,corneapreservationtime.C〔別刷請求先〕渡辺真子:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:MakoWatanabe,M.D.,BaptistEyeInstitute,12KitashirakawaKamiikedacho,SakyoWard,Kyoto606-8287,CJAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(131)C827はじめに角膜混濁,円錐角膜,水疱性角膜症などの種々の角膜疾患に対する視力改善を目的とした外科的治療法の一つとして角膜移植術が確立している1.3).実際,2020年には,116カ国で年間約C185,000件の角膜移植が行われ,82カ国でC284,000眼のドナー角膜が提供された.それぞれの国内はもとより,全ドナー角膜のC55%は米国とインドから提供されている4).ドナー角膜は角膜移植術に必須であり,ドナー角膜,とくに角膜内皮細胞層の質の担保にかかわる数多くの研究がなされてきた.影響する因子として,ドナー角膜内皮細胞そのものの細胞生物学的な質,ドナー角膜の摘出までの時間,ドナー角膜の保存方法,保存時間,輸送方法,輸送時間などが検討されてきた5.7).ドナー角膜は,国内では臓器移植法に基づきアイバンクにより管理,斡旋される.このため各都道府県にはアイバンクが設立され,ドナー角膜の摘出から保存までが臓器移植に関する法律に基づいて適切に行われている.令和元年度の国内の献眼者数はC725人であり,移植実施数は1,207例であった8).一方,緊急避難的に海外ドナー角膜を用いる場合がある.海外ドナー角膜は,国内ドナー角膜より安定的に確保できる利点があるが,少なくとも輸送にかかわるいくつかの問題点が懸念される.例をあげれば,海外からの航空便による輸送距離と時間に加え,国内輸送の方法,とくに発着時間の制限などによる国内到着後から通関そして医療施設到着までの時間,さらにその間のドナー角膜の輸送における温度管理や輸送の間の振動などにも懸念がある.そこで,筆者らは,海外ドナー角膜の安全性を実務的に検証するために,ドナー角膜内皮細胞密度について海外アイバンクでのドナー角膜保存時と角膜移植後C6カ月の差異について検討し報告してきた9).今回はさらに実際的な見地に立って検討するために,米国アイバンクから提供されたドナー角膜について,国内到着後のC2つの異なる輸送方法と保存期間が角膜移植の成績にもたらす影響について対象をC2群に分け後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2018年C1月.2019年C12月に,バプテスト眼科クリニック(以下,当院)で海外ドナー角膜を使用し,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)および角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)を施行したC313眼を対象とした.そのうちCprima-rygraftfailure2眼,DSAEKでのドナー角膜縫合例C17眼,角膜内皮細胞密度追跡不能例C175眼を除外したのち,手術後C6カ月の角膜内皮細胞密度の経過が追えたC119例を検討した.なお,手術後C6カ月はC6カ月C±2カ月と定義した.そのうち,ドナー角膜が国内に到着してから移植を行うまでの時間がC24時間C±12時間であったC62例をC1日群(緊急輸送群),C48時間C±12時間であったC57例をC2日群(通常輸送群)と規定した.ドナー角膜は,いずれの群も輸送中の保冷温度は2.8℃が保たれる冷蔵保存であった.当院到着後は4℃に設定された医療用冷蔵庫にて手術開始まで保存した.検討項目は,両群のレシピエント年齢,性別,術式,ドナー角膜年齢と性別,死因,死亡から強角膜片作製までの時間,角膜移植術までの時間,海外アイバンクによる角膜保存開始時のドナー角膜内皮細胞密度および手術施行C6カ月後の移植片の角膜内皮細胞密度とし,各項目について両群間での検討を行った.統計学的手法としてCWilcoxonの順位符号和検定を用い,p値C0.05未満を有意水準として判定した.CII結果2群間のレシピエントの年齢,性別,術式,ドナー角膜の年齢と性差,死因,死亡日時から強角膜片作製までの時間に統計学的な有意差を認めなかった(表1).国内に到着してから当院に到着するまでの時間はC1日群でC11時間,2日群で17時間であった.上記に加え,院内到着後,手術開始時間との兼ね合いで両群ではC24時間の差異が生じた.死亡日時表12群間の背景検討項目1日群症例数C62CPKP(PEA+IOL同時施行)11(4)DSAEK(PEA+IOL同時施行)37(10)性差(男:女)34:2C8年齢(歳)70.3(C±12.7)ドナー角膜年齢60.4(C±9.7)ドナー性差(男:女)42:2C0死亡から強角膜片作製までの時間(時間)C12.80±6.30C死亡から手術までの日数C6.1±1.0CPEA+IOL:水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術2日群5716(8)26(7)28:2C967.0(C±16.7)C59.0(C±13.4)C37:2C0C12.06±5.32C6.5±0.7Cp値p=0.58p=0.46p=0.74p=0.44p=0.02828あたらしい眼科Vol.39,No.6,2C022(1C32)から手術までに要した日時は緊急予想群のC1日群ではC6.1C±1.0日,通常輸送群のC2日群ではC6.5C±0.7日であり,2日群が有意に長かった(p=0.02).術前の角膜内皮細胞密度は,1日群ではC2,747C±156個/mmC2(平均C±SD),2日群では術前がC2,739C±155個/mmC2で有意差はなく(p=0.87),術後C6カ月ではC1日群がC2,018C±468個/mmC2,2日群がC1,951C±472個/mmC2であり,有意差を認めなかった(p=0.30)(図2).CIII考按ドナー角膜の保存期間と術後経過の関係については,Ros-enwasserらにより,8.14日間保存されたドナー角膜のうち,保存期間がC11日までは術後成績に差を認めなかったと報告されている7).しかし,これらの研究は米国内のアイバンクから提供されたドナー角膜が同国内で使用された場合に限定されていた.ドナー角膜が海外へ輸送された場合については,温度や湿度などの環境変化,輸送時の振動,そして時間経過がドナー角膜へもたらす影響が懸念される.海外ドナー角膜の国際航空輸送に伴うドナー角膜内皮細胞密度への影響はCNakagawaらが検討し,航空機輸送に伴う気圧変化や衝撃などの影響による内皮細胞密度の減少率は2.3%であったと報告している9).これは緊急輸送を用いて,ドナー角膜の摘出後の角膜内皮細胞密度と角膜移植時のドナー角膜残りリムの周辺部角膜内皮細胞密度を比較している.しかし,ドナー角膜が日本に到着してからの輸送法に緊急輸送と通常輸送があるとすれば,そのドナー角膜内皮細胞への影響についての客観的データが必要とされるところであるが,現時点まで詳細に検討された報告は筆者の調べた限りではなかった.今回,ドナー角膜が日本に到着するまでの諸条件は足立らの報告と同一であったが,国内輸送として二つの方法を施行したために,国内到着後から手術開始時間までに約C24時間の差異が生じたため検討を行った.その結果,当院に到着し,手術開始まで保管するC24時間の保存期間の差では,角膜移植術後C6カ月時点での角膜内皮細胞密度減少率に有意な変化を認めなかった.このことは,ドナー角膜保存器に満たされた限られた量の角膜保存液であっても,冷所保存に問題なければ,臨床的な角膜内皮細胞密度に影響しないということを示したことになる.本研究の限界としては,後ろ向き研究であること,原疾患による差異が検討されていないこと,長期経過が追えてないこと,検討条件が限定されていることなどがあげられる.しかし,海外ドナー角膜を用いた角膜移植術では,少なくとも国内保存期間がC24時間延長されても,角膜移植術後の予後に重大な影響は及ぼさないことが示されたと考えられる.角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,0002,5002,0001,5001,0001日群術前術前術後6カ月図1術前および術後6カ月の角膜内皮細胞密度1日群では術前がC2,747C±156個/mmC2(平均C±標準偏差),術後がC2,018C±468個/mmC2,2日群では術前がC2,739C±155個/mmC2,術後がC1,951C±472個/mmC2であり,術前および術後ともに両群間で有意差を認めなかった.文献1)TanCDT,CDartCJK,CHollandCEJCetal:CornealCtransplanta-tion.LancetC379:1749-1761,C20122)PriceCMO,CCalhounCP,CKollmanCCCetal:DescemetCstrip-pingCendothelialkeratoplasty:ten-yearCendothelialCcellClosscomparedwithpenetratingkeratoplasty.Ophthalmol-ogyC123:1421-1427,C20163)PatelCSV,CDiehlCNN,CHodgeCDOCetal:DonorCriskCfactorsCforgraftfailureina20-yearstudyofpenetratingkerato-plasty.ArchOphthalmolC128:418-425,C20104)GainCP,CJullienneCR,CHeCZCetal:GlobalCsurveyCofCcornealCtransplantationandeyebanking.JAMAOphthalmolC134:C167-173,C20165)KhattakCA,CanNakhliF:Five-yearCendothelialCcellCcountCpostCpenetratingCkeratoplastyCusingCinternationally-trans-portedcornealdonortissue.SaudiJOphthalmolC33:7-11,C20196)LassJH,BenetzBA,VerdierDDetal:Cornealendotheli-alCcellClossC3CyearsCafterCsuccessfulCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCinCtheCcorneaCpreser-vationCtimestudy:ACrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1394-1400,C20177)RosenwasserCGO,CSzczotka-FlynnCLB,CAyalaCARCetal:CE.ectofcorneapreservationtimeonsuccessofDescemetstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:ACrandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1401-1409,C20178)厚生労働省:令和C2年度臓器移植の実施状況等に関する報告書(令和C2年度国会報告).2020.06.169)NakagawaH,InatomiT,HiedaOetal:ClinicaloutcomesinDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithCinternationallyCshippedCprecutCdonorCcorneas.CAmJOphthalmolC157:50-55.Ce1,C20142日群術前1日群術後2日群術後(133)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C829

Descemet Membrane Endothelial Keratoplasty 連続 76 症例の検討

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1339.1343,2021cDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty連続76症例の検討黒木翼*1,2親川格*3松澤亜紀子*4,5清水俊輝*2小橋川裕司*6加藤直子*7井田泰嗣*1,2湯田健太郎*2,8水木信久*2林孝彦*1,2*1横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学眼科学教室*3ハートライフ病院眼科*4聖マリアンナ医科大学眼科学教室*5川崎市立多摩病院眼科*6横須賀中央眼科*7南青山アイクリニック*8きくな湯田眼科TheSurgicalLearningCurveforDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty:ASeriesof76ConsecutiveCasesTsubasaKuroki1,2)C,ItaruOyakawa3),AkikoMatsuzawa4,5)C,ToshikiShimizu2),YujiKobashigawa6),NaokoKato7),YasutsuguIda1,2)C,KentaroYuda2,8)C,NobuhisaMizuki2)andTakahikoHayashi1,2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,HeartLifeHospital,4)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalTamaHospital,6)CChuohEyeClinic,7)MinamiaoyamaEyeClinic,8)KikunaYudaEyeClinicCYokosuka目的:Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)は角膜内皮細胞機能不全に対する有効な外科的治療法の一つである.術後早期の視力向上や拒絶反応が少ない反面,ラーニングカーブがきついといわれている.同一術者によるCDMEK導入後の短期評価を行ったので報告する.方法:2014年C8月.2018年C10月に横浜南共済病院にて同一術者によりCDMEKを施行された連続症例における術後矯正視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後方視的に検討した.結果:76例C76眼中,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に検討を行った.術後最高矯正視力は有意に回復した(p<0.001).術後C1年の平均角膜内皮細胞密度はC1,244C±503個/Cmm2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術中合併症として出血C2眼,移植片挿入トラブルC4眼,裏返し固定C3眼,術後合併症として.胞様黄斑浮腫C9眼,拒絶反応C1眼,原因不明の移植片機能不全C1眼を認めた.結論:導入初期に術中合併症が問題となるが,方法の工夫により,手術成績は改善し,良好な視機能が得られる.CPurpose:AlthoughCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty(DMEK)isCanCe.ectiveCsurgicalCtreatmentCforCcornealCendothelialcell(CEC)dysfunction,CtheClearningCcurveCisCsteep.CMoreover,ClimitedCvisualacuity(VA)Cimprovementandcornealgraftrejectioncansometimesoccurintheearlypostoperativeperiod.Herewereportashort-termCevaluationCofCDMEKCoutcomesCperformedCbyCaCsingleCsurgeonCpostCintroductionCtoCtheCprocedure.CMethods:InCthisCretrospectivelyCstudy,CtheCpostoperativeCbest-correctedVA(BCVA)C,CCECCdensity,CandCintra/Cpostoperativesurgicalcomplicationswereexaminedin76eyesof76consecutivecasesthatunderwentDMEKbythesamesurgeonatourhospitalfromAugust2014toOctober2018.Results:In68ofthe76eyesthatcouldbefollowedfor12-monthsorlongerpostoperative,BCVAwassigni.cantlyrestored(p<0.001)C.At1-yearpostopera-tive,themeanCECdensitywas1,244±503cells/mm2CandmeanrateofCEC-densitydecreasewas53.2±18.8%.IntraoperativeCcomplicationsCincludedbleeding(2eyes)C,Cdi.cultyCinCinsertingCtheCcornealgraft(4eyes)C,CandCinside-out.xation(3eyes)C.Postoperativecomplicationsincludedcyst-likemacularedema(9eyes)C,graftrejection(1eye)C,anddysfunctionofunknowncauseoftheimplantedgraft.Conclusion:Althoughintraoperativecomplica-tionscanoccurattheinitialstageofasurgeon’sintroductiontotheDMEKprocedure,outcomescanimproveandgoodvisualfunctioncanbeobtainedwithincreasedadaptationtothemethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1339.1343,C2021〕〔別刷請求先〕黒木翼:〒236-0037神奈川県横浜市金沢区六浦東C1-21-1横浜南共済病院眼科Reprintrequests:TsubasaKuroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,1-21-1MutsuurahigashiKanazawa,Yokohama,Kanagawa236-0037,JAPANCKeywords:デスメ膜角膜内皮移植術,角膜移植,合併症.Descemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)C,keratoplasty,complication.Cはじめに角膜移植における原因疾患の半数以上は水疱性角膜症など角膜内皮機能不全によるものである.かつて内皮機能不全に対する外科的治療として全層角膜移植(penetratingkerato-plasty:PKP)が施行されていたが,拒絶反応や縫合糸関連合併症(惹起不正乱視,感染症),外傷性創離開などの視機能へ大きく影響する合併症リスクを術後長期にわたり抱えることから,近年ではリスクが比較的少ない術式であるCDes-cemet膜.離角膜内皮移植術(Descemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)やCDescemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialCkerato-plasty:DMEK)といった,角膜内皮移植が第一選択となっている.そのなかでもCDMEKはCDSAEKと比較し,術後早期からきわめて高い視力が得られ,拒絶反応がきわめて起こりにくいといった長所がある1).一方で,移植片の挿入時トラブルや接着不良が起こりうるため,術者の習熟度により移植片の生着率や合併症に差が出やすいとされている2).また,わが国ではCDMEK導入施設がまだ少なく,同一術者によるDMEK多症例の検討はほとんどなされていない.そこで,横浜南共済病院にて同一術者により施行されたCDMEKの連続症例に関して,後ろ向きに解析を行うことにより,わが国におけるCDMEKの有効性を検討した.CI方法1.対象2014年C8月.2018年C10月に角膜内皮疾患に対して横浜南共済病院にてCDMEKを施行した連続症例C76例のうち,観察中断C8例を除き,術後C12カ月以上経過観察が可能であったC68症例を対象とした後ろ向き解析を行った.本研究は横浜南共済病院倫理員会の承認を得て行った(承認番号C1_19_11_11).C2.手術方法手術は点眼,瞬目,球後麻酔下で行われた.まず,ドナー移植片をC0.06%トリパンブルーまたは,0.1%ブリリアントブルーCG(BBG)にて染色し(2016年C1月以降CBBGを使用)3),各症例に応じたサイズ径で移植片を作製した4).次に,3カ所のサイドポートとC2.8mm上方強角膜切開を行い,8Cmm径大でCDescemet膜.離を行ったのち,下方最周辺部に虹彩切除を行った.採取した移植片を眼内レンズ挿入器具(アキュジェクトユニフィット)に装.し,前房内へ移植片を挿入した.その後,空気あるいはC20%六フッ化硫黄(SFC6)ガスで移植片の展開・固定を行い手術終了とした(2017年10月以降CSFC6ガスを使用).C3.検討項目以下の①.③を検討項目とした.①矯正視力角膜内皮細胞密度(ドナー細胞密度,術後C1カ月,3カ月,6カ月,12カ月)②術中合併症③術後合併症C4.統計検定JMP415(SASInstituteInc.,Cary,NC,USA)を使用した.術前後の視力,角膜内皮細胞密度の比較にはCWilcoxonC’s検定を使用した.p<0.05を有意とした.CII結果76例76眼,男性21眼,女性55眼,右眼46眼,左眼30眼にCDMEKを施行した.年齢は,54.85歳(平均C74.7C±7.3歳)であった.角膜内皮障害の原因疾患は,Fuchs角膜ジストロフィC25眼,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)18眼,落屑緑内障C9眼,角膜内皮炎C3眼,無水晶体眼性水疱性角膜症10眼,偽水晶体性水疱性角膜症C11眼であった.平均最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483,術後C1カ月でC0.292C±0.296,術後C3カ月でC0.143C±0.164,術後C6カ月でC0.0824C±0.146,術後C1年でC0.0667C±0.142であった.術前と比較しいずれも有意に視力改善を認めた(p<0.001)(図1).平均角膜内皮細胞密度は,術前移植片でC2,660C±224個/Cmm2,術後C1カ月でC1,870C±497個/mmC2(減少率C29.6C±18.7%),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(減少率C37.6C±18.2%),術後C6カ月でC1,500C±466個/mmC2(減少率C43.5C±17.5%),術後C1年でC1,240C±503個/mmC2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術前と比較しいずれも有意に減少した(p<0.001)(図2).平均角膜厚は,中心角膜は術前C698C±99Cμm,術後C1カ月でC518C±52μm,術後C3カ月でC498C±39μm,術後C6カ月でC504±39Cμm,術後C1年でC512C±41Cμmであり,いずれも優位に改善を認めた(p<0.001)(図3).自覚屈折検査では,術前C.1.36D(球面度数C.0.31D,円柱度数.2.17D)から術後C1年でC.1.22D(球面度数C.0.17D,円柱度数.2.16D)となったが優位差は認められなかった.術中合併症として出血C2眼,移植片の裏返し固定をC3眼,2015年以前に移植片の飛び出しをC3眼,挿入困難をC1眼経験した.術後合併症として.胞様黄斑浮腫(cystoidmacular3,5003,0002,500角膜内皮細胞密度(個/mm2)logMAR視力0.80.60.42,0001,5001,000500-0.2術後経過期間06カ月12カ月術前1カ月3カ月図1視力の経過最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483(平均C±標準偏差)と比較し,いずれも優位に改善し,術後C1カ月でC0.292C±0.296(p<0.001),術後C3カ月でC0.143C±0.164(p<0.001),術後C6カ月でC0.0824C±0.146(p<0.001),術後C1年でC0.0667C±0.142(p<0.001)(Wilcoxon’s検定).C900術後経過期間図2角膜内皮細胞密度の経過術前内皮細胞密度はドナーの細胞密度を使用.角膜内皮細胞密度は術前C2,660C±224個/mmC2(平均C±標準偏差)と比較しいずれも有意に減少し,術後1カ月でC1,870C±497個/mmC2(p<0.001),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(p<0.001),術後6カ月でC1,500C±466個/mmC2(p<0.001),術後C1年でC1,240C±100あると考えられる.C0術前1カ月3カ月6カ月12カ月移植片挿入時のトラブルは,とくにアジア人眼に多くみら術後経過期間れる狭隅角眼症例に付随した高い硝子体圧が大きく影響して図3中心角膜厚の推移いると考えており,移植片挿入時に工夫を要する6).現在,中心角膜は術前C698C±99Cμm(平均C±標準偏差)と比較し,い挿入器具としてガラス管,眼内レンズインジェクターなどさ800中心角膜厚(μm)503個/mmC2と(p<0.001),術前と比較しいずれも有意に減少700した(Wilcoxon’s検定).600500400300200DMEKラーニングカーブでは憂慮すべき特徴的な合併症でずれも優位に改善し,術後C1カ月でC518C±52(p<0.001),術後3カ月で498C±39(p<0.001),術後C6カ月でC504C±39(p<0.001),術後C1年でC512C±41(p<0.001)となった(Wilcoxon’s検定).edema;CME)9眼,原因不明の移植片機能不全C1眼,拒絶反応C1眼を認めた.裏返しのC3眼中C3眼,移植片飛び出しの3眼中C2眼,出血のC2眼中C2眼,原因不明の移植片機能不全1眼の計C8眼を原発性移植片機能不全(primaryCgraftCfail-ure)と判定し,視力,角膜内皮細胞密度の評価から除外した.CIII考察わが国における単一施設単一術者によるCDMEK連続症例の結果では,術後早期段階から有意な視力,中心角膜厚の改善が欧米の既報同様に得られた5).また,DMEK合併症として術中出血がC2眼(3%),CMEがC9眼(13%)と欧米の既報同様に生じる点も確認された5).ただ,術中合併症である移植片挿入時トラブル(移植片の飛び出しC3眼,挿入困難C1眼)や移植片の視認性に伴うトラブル(長時間操作に伴う機械的内皮ダメージ,裏返し固定C3眼)などの多くはCDMEK導入初期に経験した合併症であり,わが国の症例におけるまざまな挿入器具があるが,適切な前房圧管理が重要と考え7),筆者らは,2017年以降,移植片後方に低用量の眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicCviscosurgicaldevice:OVD)を充.する方法を考案した8).変更後,移植片挿入時のトラブルは激減し,安心して手術を行うことが可能となった.次に,初期に多く経験した移植片の裏返し固定もCDMEKに特徴的な合併症である.欧米の原疾患と異なり,わが国では進行した水疱性角膜症例が多いことや,濃い虹彩色素を有することで移植片のコントラストが悪いことなど前房内視認性の悪い症例が多いため,裏返し固定を回避する工夫が重要である.筆者らは術中光干渉断層計の活用のほか,独自の工夫としてマーキング法を採用し(図4),以後裏返し固定を生じることは皆無となった3,9).頻度は少ないが術中出血(図5)を起こしたC2眼では残念ながら手術の続行が不可能となった.これに関して,賛否両論があるが,術前にCLIを行うことや抗凝固薬の休薬などで最小限に抑えられる可能性があり,全身状態の評価を含め今後考慮すべき問題である10,11).術後一定期間を経てからの合併症としては拒絶反応とCMEがあげられる.拒絶反応をC1眼認め,DSAEKやCPKPに比べ低い発生率であり,欧米における既報と一致していた12,13).一方で図4移植片のマーキング直径C8Cmm前後の移植片を内皮が上向きになるように設置し,周辺部に時計回りにC1.5mmと1.0Cmmの小さな切れ込みを入れることで,表裏の判別が可能である.対側にC2カ所設置することでどのような状況下でも眼内での判別が比較的容易に可能である.CMEは欧米人と比較し,同等か若干高頻度にみられ,アジア人眼では前房内炎症が強い可能性が示唆される14).本研究では角膜内皮細胞密度の減少率が術後C1年でC53.2C±18.8%とやや高めであった5).原因としてラーニングカーブ以外に,これまでに日本人眼のデータにおいて虹彩ダメージが角膜移植後の角膜内皮細胞密度の減少率に相関する可能性が指摘されており15),前房内炎症が強く出やすいなどのアジア人眼の特性に影響があるかもしれない.本研究では同一術者の指導者不在の状況下でのCDMEK導入後の治療成績を報告した.原因疾患や虹彩損傷,前房深度を含めた患者背景が欧米人とは異なるため,今後わが国全体での治療成績の検討が必要である.DMEKは,術後初期の角膜内皮細胞密度の減少率が若干高いものの,視機能や拒絶反応の点ではCDSAEKと比較して良好であり,患者により術式を検討しながら,わが国でも導入可能な手技と考えられる.本研究が,今後さらなる治療成績の発展に役立つことに期待したい.文献1)HjortdalJ,PedersenIB,Bak-NielsenSetal:Graftrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCpenetratingCkeratoplastyCorCposteriorClamellarCkeratoplastyCforCFuchsCendothelialCdys-trophy.Cornea32:e60-e63,C20132)MonnereauC,QuilendrinoR,DapenaIetal:MulticenterstudyCofCdescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:C.rstCcaseCseriesCofC18Csurgeons.CJAMACOphthalmolC132:C1192-1198,C20143)HayashiT,YudaK,OyakawaIetal:UseofbrilliantblueGCinCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBiomedResInt.9720389:1155,C20174)MatsuzawaCA,CHayashiCT,COyakawaCICetal:UseCofCfourC図5術中出血ひとたび前房出血を起こすと眼内でフィブリンが析出し,移植片と癒着を起こすため展開が困難となる.asymmetricCmarksCtoCorientCtheCdonorCgraftCduringCDes-cemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBMJCOpenCOphthalmolC4:e000080,C20175)HamCL,CDapenaCI,CLiarakosCVSCetal:MidtermCresultsCofCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:4CtoC7CyearsCclinicalCoutcome.CAmCJCOphthalmolC171:113-121,C20166)HayashiT,OyakawaI,KatoN:TechniquesforLearningDescemetMembraneEndothelialKeratoplastyforEyesofAsianCPatientsCWithCShallowCAnteriorCChamber.CCorneaC36:390-393,C20177)SiebelmannS,JanetzkoM,KonigPetal:FlushingversuspushingCtechniqueCforCgraftCimplantationCinCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CCorneaC39:605-608,C20208)HayashiCT,COyakawaCI,CMatsuzawaA:DescemetCmem-braneendothelialkeratoplastyusingophthalmicviscoelas-ticCdevicesCforCeyesCwithClaserCiridotomy-inducedCcornealCendothelialdecompensation:AnalysisCofC11Ceyes.CMedi-cine(Baltimore)e11245,C20189)StevenP,BlancC,VeltenK:Optimizingdescemetmem-braneendothelialkeratoplastyusingintraoperativeopticalcoherenceCtomography.CJAMACOphthalmolC131:1135-1142,C201310)CrewsCJW,CPriceCMO,CLautertCJCetal:IntraoperativeChyphemainDescemetmembraneendothelialkeratoplastyaloneCorCcombinedCwithCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractSurgC44:198-201,C201811)LoreckN,GeniesC,SchrittenlocherSetal:E.ectofanti-coagulanttherapyontheoutcomeofDescemetmembraneCendothelialkeratoplasty.CorneaC40:1147-1151,C202012)PriceCMO,CScanameoCA,CFengCMTCetal:Descemet’sCmembraneCendothelialkeratoplasty:riskCofCimmunologicCrejectionCepisodesCafterCdiscontinuingCtopicalCcorticoste-roids.OphthalmologyC123:1232-1236,C201613)HosCD,CTuacCO,CSchaubCFCetal:IncidenceCandCclinicalCcourseCofCimmuneCreactionsCafterCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:retrospectiveCanalysisCofC1000Cconsecutiveeyes.OphthalmologyC235:512-518,C201714)InodaS,HayashiT,TakahashiH:RiskfactorsforcystoidmacularCedemaCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C201915)IbrahimO,YaguchiY,KakisuK:Associationofirisdam-agewithreductionincornealendothelialcelldensityafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C2019***

ロングチューブシャント術後眼へのDescemet Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後経過

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):631.635,2020cロングチューブシャント術後眼へのDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後経過丸山会里*1,2田尻健介*1吉川大和*1在田稔章*1,3奥村峻大*1,4植木麻理*1,4清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院*3八尾徳洲会総合病院*4高槻赤十字病院PostoperativeCourseofDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)forBullousKeratopathyfollowingLongTubeShuntSurgeryEriMaruyama1,2)C,KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),ToshiakiArita1,3)C,TakahiroOkumura1,4)C,MariUeki1,4)C,KazuhiroShimizu1,2)CandTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)TakatsukiGeneralHospital,3)4)TakatsukiRedCrossHospitalCYaoTokushukaiGeneralHospital,目的:ロングチューブシャント手術後の水疱性角膜症に対して角膜内皮移植術(DSAEK)を施行した症例の術後成績を調べる.方法:ロングチューブシャント手術後(Tube群,5眼)およびCFuchs角膜内皮ジストロフィ(FBK群,9眼),線維柱帯切除術後(TLE群,6眼)について検討した.結果:術前視力および術後最高視力(logMAR)の平均はCTube群C1.55C±0.36およびC0.71C±0.36,FBK群C0.79C±0.18およびC0.18C±0.19,TLE群C0.76C±0.29およびC0.67C±0.54であり,いずれの群も改善した.生存率はCFBK群やCTLE群が術後C36カ月でC100%と良好であったが,Tube群は術後C1カ月C80.0%,6カ月C80.0%,12カ月C40.0%,36カ月C20.0%であった.結論:ロングチューブシャント手術後のDSAEKでは視力改善が得られるものの,生存率が比較的不良な可能性がある.CPurpose:ToCinvestigateCtheCpostoperativeCoutcomesCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty(DSAEK)forCbullouskeratopathy(BK)followingCglaucomaClongCtubeCshuntCimplantation.CMethods:ThisCstudyinvolvedcaseswithBKfollowingglaucomalongtubeshuntimplantation(TubeGroup,5eyes)C,Fuchscorne-alCendothelialdystrophy(FBKCGroup,C9eyes)C,CandTrabeculectomy(TLECGroup,C8eyes)C.CResults:InCtheCTubeCGroup,CFBKCGroup,CandCTLECGroup,CtheCpreoperative/postoperativeCmeanCvisualacuity(logMAR)wasC1.55±0.36/0.71±0.36,C0.79±0.18/0.18±0.19,CandC0.76±0.29/0.67±0.54,Crespectively.CTheCgraftCsurvivalCrateCinCtheCFBKGroupandtheTLEGroupwas100%at36-monthspostoperative,yetintheTubeGroup,thegraftsurvivalrateat1-,6-,12-,and36-monthspostoperativewas80.0%,80.0%,40.0%,and20.0%,respectively.Conclusions:CDSAEKCisCindicatedCforCBKCfollowingCglaucomaClongCtubeCshuntCimplantation,Chowever,CweCfoundCthatCtheCgraftCsurvivalrateisrelativelypoorcomparedwiththatinnormalDSAEKcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):631.635,C2020〕Keywords:角膜内皮移植術,角膜移植,チューブシャント手術,緑内障,GDD,成績.DSAEK,keratoplasty,tubeshuntsurgery,glaucoma,glaucomadrainagedevice,outcome.Cはじめに水疱性角膜症に対する外科的治療法の一つである角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty:DSAEK)は,その安全性と視力改善への有用性から同疾患の標準的な術式となりつつある.またチューブシャント手術はC2012年に厚生労働省の認可を受けた緑内障手術である.チューブシャント手術にはCEX-PRESSCglaucomaC.ltrationdeviceに代表されるショートチューブシャントと,BaerveldtglaucomaCimplantやAhmedglaucomaimplantに代表されるロングチューブシャ〔別刷請求先〕丸山会里:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EriMaruyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANCントがある.複数回の手術既往や,さまざまな理由で線維柱帯切除術の施行が困難な症例,通常の線維柱帯切除術では奏効が期待できない症例や,従来の線維柱帯切除術では重篤な合併症が起きかねない難治性緑内障が適応となる.ロングチューブシャントの作用機序としては,前房,毛様溝もしくは硝子体にチューブ先端を挿入し,房水を眼外に流出させてプレートを覆う被膜から周囲の組織へ放散吸収させ,眼圧下降へ導く形式をとる.ロングチューブシャント手術の術後晩期合併症の検討ではもっとも多い合併症として難治性の角膜浮腫があげられており,線維柱帯切除術後のC9眼/105眼(8.6%)に比較してロングチューブシャント手術後ではC17眼/107眼(15.9%)と報告されている1,2).わが国でもロングチューブシャント手術後の水疱性角膜症が問題となりつつあるが,DSAEK手術による治療成績の報告は少ない3).今回筆者らは,ロングチューブシャント手術後に発症した水疱性角膜症に対するCDSAEKの術後経過および,術前術後視力の比較,合併症,生存率を検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2011年C4月.2017年C9月に大阪医科大学附属病院眼科で施行されたCDSAEK症例のうち,ロングチューブシャント手術後(Tube群)の症例C5例C5眼である.性別は男性C4例,女性C1例であった.平均年齢は67.8C±17.7歳,角膜移植前の平均内眼手術既往はC3.2C±1.5回であった.また,同時期にCDSAEKを施行されたCFuchs角膜ジストロフィ(FBK群)8例9眼(男性3例3眼,女性5例6眼,平均年齢C78.9C±8.1,平均内眼手術既往C0.8C±0.4回),線維柱帯切除術後(TLE群)6例6眼(男性5例5眼,女性1例1眼,平均年齢C76.7C±8.1歳,平均内眼手術既往C2.5C±0.5回)をコントロール群とした.経過観察期間はC36カ月とした(表1).Tube群C5眼におけるチューブタイプは,Ahmed型C2眼,Baerveldt型C3眼で,そのチューブの挿入部位は,前房C2眼,毛様溝C2眼,硝子体C1眼であった.DSAEK術式であるが,Sightlifeより斡旋を受けた強角膜片からマイクロケラトームを用いて径C8.0CmmのCgraftを作製.5.1mmの強角膜創からBUSINglideを用いたpullthrough法でCgraftを前房内に挿入後,前房内を空気で全置換しC10分以上Cgraftを圧着させた.Tube群で前房挿入の症例ではCgraft挿入前に前房内のチューブをC2Cmm以内に切短した.Graftの位置はチューブと接触しないように適宜調整した.術後経過について,合併症,生存率,術前視力ならびに術後最高視力についてそれぞれC3群で検討した.合併症では,graft接着不良,空気再注入率,拒絶反応発症率のそれぞれについて検討した.生存率は,角膜内皮細胞密度の減少に伴いCgraft上に角膜上皮浮腫が出現した時点を死亡と定義した4).視力検査は少数視力で測定したものをClogMAR換算した.少数視力C0.01未満の視力については,指数弁C1.85,手動弁C2.30,光覚弁C2.80とした5,6).CII結果術中合併症はC3群すべての症例でとくに認めなかった.術後合併症に関して,graft接着不良をきたした症例はCFBK群で9眼中2眼(22.2%),TLE群で6眼中2眼(33.3%),Tube群ではC5眼中C2眼(40.0%)であった.空気再注入を要したのはFBK群で1眼(11.1%),TLE群で1眼(16.7%),Tube群ではC5眼中C1眼(20%)であった.拒絶反応をきたしたものは,FBK群でC1眼(11.1%),TLE群でC0眼,Tube群ではC1眼(20%)であった(表2).生存率をCKaplan-Meier生存曲線で示す.FBK群やCTLE群がC36カ月の時点でC100%と良好な生存率を呈しているのに対し,Tube群は術後C1カ月C80.0%,6カ月C80.0%,12カ月C40.0%,24カ月C40.0%,36カ月C20.0%であり,Tube群の生存率はCFBK群やCTLE群と比較して明らかに不良であった(図1).チューブ挿入部位別では前房挿入(2眼)ではC1カ月およびC12カ月であり,毛様溝挿入(2眼)ではC10カ月とC36カ月,硝子体挿入のC1眼はC27カ月であった.視力は,logMAR値でCFBK群では術前視力がC0.79C±0.18,術後最高視力がC0.18C±0.19,TLE群ではそれぞれC1.75C±0.44に対してC0.50C±0.33であった.Tube群をみると術前視力は表1各群間の比較Tube群FBK群TLE群症例5例5眼8例9眼6例6眼性別男性4眼,女性1眼男性3眼,女性6眼男性5眼,女性1眼年齢C67.8±17.7(37.82)歳C78.9±8.1(73.88)歳C76.7±8.1(63.86)歳術前視力(logMAR)C1.55±0.36C0.79±0.18C1.75±0.44内眼手術既往C3.2±1.5回C0.8±0.4回C2.5±0.5回Donar角膜内皮細胞密度C2,730±512/mm2C2,496±280/mm2C2,676±341/mm2CFBK群:Fuchs角膜ジストロフィ,TLE群:線維柱帯切除術後,Tube群:ロングチューブシャント術後.C632あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(130)表2Tube群,FBK群,TLE群の合併症対比および術後最高視力Tube群FBK群TLE群graft接着不良2眼/5眼2眼/9眼2眼/6眼空気再注入0眼/5眼1眼/9眼1眼/6眼拒絶反応1眼/5眼1眼/9眼0眼/6眼術後最高視力(logMAR)C0.71±0.36*(p=0.016)C0.18±0.19*(p<0.01)C0.50±0.33*(p<0.01)*視力はいずれの群も術前に比較して有意に改善した(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).生存率(%)100FBK群80TLE群604020Tube群005101520253035観察期間(月)図1生存率(Kaplan.Meier生存曲線)FBK:Fuchs角膜ジストロフィ,TLE:線維柱帯切除術後,Tube:チューブシャント術後.C1.55±0.36,術後最高視力はC0.71C±0.36であり,Tube群をはじめ,いずれの群においても術前と比較して,術後最高視力は有意に改善していた(Mann-WhitneyU-test,p<0.05).以下にCTube群C5症例の詳細を述べる.〔症例1〕82歳,男性.偽落屑症候群のある開放隅角緑内障でC1回の白内障手術,2回の線維柱帯切除術を経て水疱性角膜症となった.眼圧コントロール不良でありCAhmed型を硝子体挿入された.7カ月後にCDSAEKを施行され視力改善がみられた.術後C15カ月に拒絶反応を生じたが治療で改善した.術後C25カ月に網膜出血,低眼圧,脈絡膜.離を伴うサイトメガロウイルス網膜炎(硝子体液のCPCR検査でサイトメガロウイルスCDNA陽性)を発症しC27カ月で光覚を消失し角膜も移植片不全となった.その後僚眼も水疱性角膜症になりCDSAEKが施行された.DSAEK術前視力C1.52,術後最高視力C0.70.湖崎分類CII.〔症例2〕71歳,男性.開放隅角緑内障でC1回の白内障手術併用線維柱帯切除術ののちにCBaerveldt型を前房挿入された.10カ月後に水疱性角膜症となったため挿入部位を毛様溝に差し直した.DSAEKが施行されたが術後C10カ月で移植片不全となった.さらに図2症例3の前眼部写真DSAEK術後C3カ月.毛様溝に挿入されたチューブの先端が確認できる.視力(0.7)logMAR.11カ月後に再度CDSAEKを施行されたが術後C8カ月に移植片不全となった.DSAEK術前視力C1.70,術後最高視力C0.52.湖崎分類CIIIb.〔症例3〕73歳,男性.開放隅角緑内障でC1回の白内障手術,2回の線維柱帯切除術を経て水疱性角膜症となった.眼圧コントロール不良のためCBaerveldt型を毛様溝に挿入した.6カ月後にCDSAEKを施行した(図2).DSAEK術後C8カ月後に結膜が溶解してチューブが露出し前房内炎症を生じたため抗生物質で治療した.DSAEK術後C12カ月にCBaerveldt型を抜去しCAhmed型を毛様溝に挿入している.DSAEK術後C36カ月で角膜厚はやや増大しているが上皮浮腫は認めず生存している.DSAEK術前視力C1.52,術後最高視力C0.70.湖崎分類CIIIa.〔症例4〕76歳,女性.サルコイドーシス疑いのぶどう膜炎に続発した緑内障.僚眼は網膜血管炎および虚血性視神経症で失明している.1回の白内障手術(.外摘出術)を施行されている.Ahmed型を前房内挿入されたがC3年後に水疱性角膜症となりCDSAEKを施行された.graft周辺にC1Cmmの接着不良があったが経過観察で接着した.視力改善を認めたが術後C12カ月で移植片不全となった.再度CDSAEKが施行されたが,術後C2カ図3症例5の前眼部写真DSAEK術後C3週間.7時にC2Cmm程度Cgraft接着不良がある.視力(1.4)logMARで術前より改善している.眼圧C27CmmHg(Gold-mann圧平式眼圧計).月で虹彩炎が出現し移植片不全となった.2カ月間消炎治療をしてC3回目のCDSAEKを施行したが虚血性視神経症疑いで入院中に光覚を消失した.術後C2カ月で角膜も移植片不全となった.DSAEK術前視力C1.00,術後最高視力C0.35.湖崎分類CIIIa.〔症例5〕37歳,男性.重度アトピー性皮膚炎あり.続発性の緑内障でC1回の白内障手術およびC1回の線維柱帯切開術を経てCBaerveldt型を前房内挿入された.術後C3年で水疱性角膜症になりCDSAEKを施行され,同時にチューブのプレート周囲の被膜切除も行った.術後Cgraft下方周辺部にC2Cmmほどの接着不良を認めたが,角膜浮腫は改善しており経過観察された(図3).術後1カ月に極端な低眼圧と角膜浮腫の増悪を生じ移植片不全となった(図4).13カ月後に再度CDSAEKを施行され,目こすり予防に保護眼鏡など徹底したが術後C1カ月で移植片不全となった.さらにC15カ月後にチューブの硝子体への差し直しの際に全層角膜移植を施行したが術後C1カ月で移植片不全となった.DSAEK術前視力C2.00,術後最高視力C1.30.湖崎分類CII.CIII考按緑内障チューブシャント手術は,もともと難治性緑内障が手術対象であるうえ,デバイスを使用する術式であり,通常の緑内障濾過手術ではみられない術後合併症も危惧される.CTheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyにおける術後晩期合併症の線維柱帯切除術との比較では,難治性角膜浮腫すなわち水疱性角膜症が,チューブシャント手術では107眼中C17眼(15.9%),線維柱帯切除術ではC105眼中C9眼図4症例5の前眼部写真DSAEK術後C5週間.移植片不全となり視力は眼前手動弁(矯正不能)に低下.低眼圧のため眼圧測定不能.拒絶反応のような角膜後面沈着物は認めない.graft接着不良の範囲は変化ないようである.(8.6%)とチューブシャント手術に多い傾向がみられている1).また,Ahmed型とCBaerveldt型の術後C5年間にわたる長期の比較でも,角膜浮腫が両者ともにC20%発生している2).これらの原因として,チューブの前房挿入による影響だけではなく,低眼圧やロングチューブシャント手術前に行われた白内障手術なども関与しているのではないかと考察されている.本報告の生存率について検討すると,Tube群はCFBK群,TLE群に比較して生存率が不良であった.海外でもCglauco-madrainagedevice手術後ではCDSAEK術後のCgraft生存率が低いと報告があるが,1年生存率はC80%,3年生存率も50%程度であり7),今回の結果はさらに不良であった.ロングチューブインプラント手術については血管新生緑内障に対する硝子体挿入型のCBaerveldt型インプラント手術では角膜内皮細胞障害はC17%にとどまっていたという報告や8),同じく血管新生緑内障に対する硝子体挿入型のCBaerveldt型インプラント手術では明らかな角膜内皮細胞障害は認められなかったというわが国における報告3)がある.今回のC5眼ではチューブの挿入部位が前房内あるいは毛様構の症例が比較的多かった.全層角膜移植(PKP)後早期に角膜内皮細胞密度が減少した群では前房水でCIL-10,MCP-1,IFN-gが上昇していたという報告があり9),今回のような難治性緑内障では前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇していることが予後不良につながった可能性が考えられる.今回のC5症例はアトピー性皮膚炎の合併やぶどう膜炎続発緑内障など線維柱帯切除術の成績が不良とされる症例や,結膜の瘢痕化が高度であったり,線維柱帯切除術を施行されたが濾過胞の線維化を生じてしまった難治性の緑内障症例であることからロングチューブインプラント手術が選択された.また,挿入部位については角膜浮腫による眼内視認性の不良や緑内障病期が進行しており硝子体手術による視神経障害が懸念されるような症例,唯一眼で硝子体手術による合併症が懸念される症例で,前房もしくは毛様溝挿入が選択された.緑内障やCDSAEKそのものに限らず,原疾患のぶどう膜炎や,眼内炎などの併発疾患,アトピー性皮膚炎による眼を擦る行為が影響した可能性も否定できない.今後症例を増やしてさらなる検討が必要と思われる.一般にCDSAEK術後のCgraftの接着不良はC14.5%(0.82%),拒絶反応発症率はC10%前後との報告がある10,11).今回のCTube群では術後Cgraftの接着不良がC40%にみられ,FBK群(22.2%),TLE群(33.3%)との間に有意差はみられなかったが,やや高い傾向があった.Tube群では空気の再注入がC20%に,またC20%に拒絶反応がみられた.graft接着不良の原因として,Tube群やCTLE群では術中および術後の持続的な低眼圧の影響が考えられる.チューブが挿入されていることや濾過胞の存在に起因する接着に必要な前房内圧不足や術後早期の脱気により,今回空気の再注入を必要としたものが多かった可能性が考えられる.Baerveldt型はプレートに圧力調節弁をもたずCAhmed型に比較して術後に低眼圧をきたすことが多いとされている12).一方で,術後最高視力は,Tube群,FBK群,TLE群のいずれにおいても,術前と比較して有意に改善した.ロングチューブシャント手術の適応となりうる難治性緑内障であっても,ロングチューブシャント手術後に合併しうる水疱性角膜症に対し,DSAEKは有用な治療手段の一つと考えられる.今回,緑内障のロングチューブシャント手術後でもDSEAKで良好な視力改善が得られることがわかった.その一方で,graftの生存率は比較的不良である可能性があり,その原因検索と対応策について引き続き検討する必要がある.文献1)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20122)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC163:75-82,C20163)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌C121:138-145,C20174)PedersenCIB,CIvarsenCA,CHjortdalJ:GraftCrejectionCandCfailureCfollowingCendothelialkeratoplasty(DSAEK)andCpenetratingkeratoplastyforsecondaryendothelialfailure.ActaOphthalmolC93:172-177,C20155)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handmotion”and“counting.ngers”canbequanti-.edCwithCtheCfreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20066)GroverS,FishmanGA,AndersonRJetal:Visualacuityimpairmentinpatientswithretinitispigmentosaatage45yearsorolder.OphthalmologyC106:1780-1785,C19997)AnshuA,PriceMO,PriceFW:De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涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):217?219,2020c涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例奥拓明*1,2脇舛耕一*1,2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学ACaseofCornealBurnthatOccurredduetotheDiathermyProcedureAppliedforPunctalOcclusionHiroakiOku1,2),KoichiWakimasu1,2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineはじめに外眼部の手術あるいは処置に関係した医原性の眼表面あるいは眼内損傷の症例は多数報告されている.Shiramizuらは霰粒腫摘出時の局所麻酔で網膜内に麻酔薬の誤注入の症例を2例1),Chanらは球後麻酔時の眼内誤注射による症例を1例報告しており2),いずれも高度の視力低下を認めている.また,Luらは角膜異物除去時の灌流中にシリンジから針がはずれることで角膜穿孔に至った1例を報告している3).その他,処置時に消毒薬を誤点入したための角膜化学外傷4,5),美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射6)などの報告がある.通常,外眼部への手術,処置は手術後の視力に直接影響しないが,これらの報告のように,医原性の合併症により重篤な視力低下を生じる可能性がある.今回,手術時のジアテルミー使用による医原性の角膜熱傷で角膜実質混濁を生じ,角膜移植に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:67歳,女性.〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN図2角膜移植後3年経過時の前眼部写真角膜の透明治癒が得られ,視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)であった.図1初診時所見a:初診時の右眼前眼部写真.角膜中央部に角膜実質混濁を認める.b:初診時の右眼前眼部スキャッタリング像.角膜中央部の角膜実質混濁をより明確に把握できる.c:前眼部OCT画像.VisanteOCT(CarlZeissMeditec社)により得られた画像,角膜中央部の実質内に高輝度の反射像を認める.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:なし.現病歴:2008年4月に近医にて右眼ドライアイに対し,涙点閉鎖術を施行された.そのときにジアテルミーの熱遮断器具がはずれており,ジアテルミーの通電部分が角膜に触れ,角膜上皮障害を含む角膜熱傷を生じた.このため,ガチフロキサシンおよびリン酸ベタメタゾンを右眼に1日4回の点眼加療が行われたが改善が認められなかった.2008年8月,角膜混濁などの治療目的で京都府立医科大学眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.01(0.07×sph+15.0D(cyl?2.0DAx90°),左眼0.6(1.0×sph+0.25(cyl?1.0DAx85°),眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,右眼角膜中央部に角膜実質混濁を認めた(図1a,b).前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomog-raphy:OCT)(VisanteOCT,CarlZeissMeditec)断層像でも右眼角膜実質中央部に高輝度となる画像所見を認めた(図1c).スペキュラマイクロスコープ(TOMEY)で測定した右眼角膜内皮細胞密度は角膜中央部では測定不能であったが,角膜周辺部は2,520cells/mm2と正常範囲であった.また,角膜輪部構造は正常であり,角膜上皮幹細胞疲弊症は生じていなかった.経過:保存的加療による角膜混濁の改善を図るため,0.1%フルオロメトロンの1日3回点眼にて経過観察を行った.その後2014年7月の時点で,右眼視力は0.1(0.3×sph?4.0D)まで回復を認めた.矯正視力低下の原因として,角膜混濁のほか角膜不正乱視が考えられたため,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)装用を試行した.しかし,HCL装用下右眼視力(0.4)であり,視力改善を得られなかったため,2015年10月にフェムトセカンドレーザーによるzigzag切開を用いた全層角膜移植術と水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜移植片の透明治癒が得られ,右眼の手術1カ月後の視力は0.06(0.3×sph+9.0D(cyl?8.0DAx40°)となった.手術1年9カ月後に角膜移植片縫合糸の全抜糸を施行し(図2),手術3年後の右眼視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)まで改善した.眼圧は9mmHgであった.経過観察期間中,重篤な角膜移植術後合併症を認めなかった.II考按保存的治療で改善しない重症ドライアイの治療法として,涙点プラグ挿入術や涙点焼灼術などの涙点閉鎖術は有効であり7),保険診療としても承認されている確立された術式であるが,本症例ではジアテルミーの熱遮断の部品が装着されないまま使用されたことにより,角膜上皮および実質に障害をきたした.その後保存的加療および全層角膜移植により視力回復を得ることができたが,このような報告は国内外ともに調べる限りではみられなかった.今回の症例では角膜混濁は実質にまで及んでおり,長時間ジアテルミーに接触していたことが考えられる.通常,涙点焼灼術などの外眼部の手術施行時は局所麻酔薬を使用するため患者の痛みの自覚がないことも発見が遅れた要因の一つであると考えられる.既報の美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射による角膜実質混濁をきたした症例でも局所麻酔薬による痛みの自覚を認めなかったと考察されている6).このように,外眼部の手術時には局所麻酔点眼薬による角膜表面の感覚遮断を行うため,手技中は患者,術者両者とも気がつかないまま予期せぬ箇所にも影響が及んでいる可能性があるということを常に念頭に置いて操作を行う必要がある.また,バイポーラピンセットの誤操作により口角部熱傷を生じることが指摘されている.絶縁体コーティングのないバイポーラピンセットでは他組織を侵襲するリスクが高く,絶縁体コーティングがあるピンセットの使用が推奨されている.しかし,絶縁体コーティングがあるピンセットでもコーティングの劣化により予期せぬ熱傷が生じる可能性がある.熱凝固を行う際には絶縁体型を使用するべきであるが,コーティングの劣化が判別しにくい場合があり,常に先端以外は周辺組織に触れないよう注意する必要がある.手術手技が確立された外眼部の手術であっても角膜や眼内組織を損傷する可能性がある.執刀医の手技の習得に加え,手術機器の知識や準備,確認を含めたコメディカルへの教育など,システム構築を行い,可能な限り医原性の合併症を回避する対策が必要であると考えられた.文献1)ShiramizuKM,KreigerAE,McCannelCAetal:Severevisuallosscausedbyocularperforationduringchalazionremoval.AmJOphthalmol137:204-205,20042)ChanBJ,koushanK,LiszauerAetal:Atrogenicglobepenetrationinacaseofinfraorbitalnerveblock.CanJOphthalmol46:290-291,20113)LuCW,HaoJL,LiuXFetal:Pseudomonasaeruginosaendophthalmitiscausedbyaccidentaliatrogenicocularinjurywithahypodermicneedle.JIntMedRes45:882-885,20174)PhinneyRB,MondinoBJ,HofbauerJDetal:Cornealedemarelatedtoaccidentalhibiclensexposure.AmJOphthalmol106:210-215,19885)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒液による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19986)日野智之,上田真由美,木下茂ほか:美容外科において角膜実質内にヒアルロン酸ナトリウムが誤注入された1例.日眼会誌122:406-409,20187)YaguchiS,OgawaY,KamoiMetal:Surgicalmanage-mentoflacrimalpunctalcauterizationinchronicGVHD-relateddryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.BoneMarrowTransplant47:1465-1469,2012◆**

蘇生後脳症後兎眼に生じた角膜穿孔に対し保存角膜にて角膜移植を施行した1例

2017年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(1):120.123,2017c蘇生後脳症後兎眼に生じた角膜穿孔に対し保存角膜にて角膜移植を施行した1例小山あゆみ*1大松寛*1井上幸次*1川口亜佐子*2*1鳥取大学医学部視覚病態学教室*2鳥取県立中央病院眼科ACaseofCornealPerforationManagedbyKeratoplastywithPreservedCorneainPostresuscitationEncephalopathyPatientwithLagophthalmosAyumiKoyama1),YutakaOmatu1),YoshitsuguInoue1)andAsakoKawaguthi2)1)DivisionofOphthalmologyVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TottoriPrefecturalCentralHospital症例:3歳,女児.生後2カ月より意識なく施設入所にて呼吸器管理中であり,両眼常時兎眼の状態である.右眼角膜下方にDescemet膜瘤を生じたとの診断で鳥取大学医学部附属病院を初診.初診時角膜下方で穿孔し,虹彩が嵌頓していた.徐々に穿孔部拡大を認め外科的介入が必要と考えられた.患児は今後も眼科医不在の施設で経過観察する必要があることから,管理が容易な眼球摘出も選択肢として示すも,家族の眼球温存の希望が強く,VEPで右眼に反応がむしろあり左眼にないことが判明したため,保存角膜による角膜移植に踏み切った.移植後9日で角膜上皮の完全被覆を認め転院となった.考按:今回の移植にあたっては小児でしかも周辺部の移植となり,かつ兎眼であることから透明治癒は困難と考え,保存角膜を用いた.これによりステロイド点眼使用の期間を短縮し,感染や眼圧上昇などの合併症を減らし,術後管理を容易にできると考えられた.今後はより厳重な兎眼管理が必要である.Introduction:Acaseofcornealperforationwithirisincarcerationinapostresuscitationencephalopathypatientwithlagophthalmosisreported.Thiscasewasmanagedbykeratoplasty(KP)withpreservedcornea.Case:A3-year-oldgirlwithpostresuscitationencephalopathy,unconscioussince2monthsofage,hadbeenman-agedbyanaspiratorinaneighboringhospital.Shehadsu.eredfrombilateralcompletelagophthalmos.Shewasreferredtouswithsuspecteddescemetoceleinherrightcornea.Microscopicexaminationrevealedperforationwithirisincarcerationinthelowerpartofherrightcornea.Sincetheperforationsitehadgraduallyexpandedwiththebulgeofirisincarceration,surgicalinterventionwasnecessary.Shewascompletelyunconscious,andpresum-ablytobefollowedinaneighboringhospitalnotsta.edbyophthalmologists,soweinitiallyrecommendedenucle-ation,whichwouldrendermanagementbyophthalmologistsunnecessary.Herfamilymembers,however,hopingtokeepherrighteye,.ashvisualevokedpotential(VEP)responsehavingbeenobservedonlyinherrighteye,wethereforeselectedKPusingpreservedcornea,insteadofenucleation.NinedaysafterKP,herrightcorneahadbeencompletelyepithelialized.Discussion:Inthiscase,consideringmultiplefactorswithpoorprognosisofKP,includingitsbeingachildcase,peripheralpenetratingKPandlagophthalmos,preservedcorneawasusedasdonor,givingupclearcornealhealing.Inthisway,durationofsteroideyedropusecanbeshortened,resultingindecreasedcomplications,suchasinfectionandintraocularpressureelevation;postoperativemanagementisalsorelativelyeasierthanwithfreshdonorcornea.Nonetheless,stricterlagophthalmosmanagementwillbeneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(1):120.123,2017〕Keywords:角膜穿孔,蘇生後脳症,兎眼,保存角膜,角膜移植.cornealperforation,postresuscitationencepha-lopathy,lagophthalmos,preservedcornea,keratoplasty.〔別刷請求先〕小山あゆみ:〒683-8504鳥取県米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学教室Reprintrequests:AyumiKoyama,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago-shi,Tottori-ken683-8504,JAPAN120(120)はじめに意識不明で呼吸器管理中の患者においては,兎眼状態であることが少なくなく,その管理はむずかしい.兎眼の原因は顔面神経麻痺,外傷,手術後の瘢痕に伴うものなどがあげられるが1),兎眼状態の患者では角膜保護のため頻回点眼,種々の眼軟膏,眼帯使用,医療用ソフトコンタクトレンズの使用,フィブロネクチン点眼薬による上皮修復促進,そしてテープ固定などで対応することが多い1,2).しかしこういった方法は一時的なものであり,数カ月から数年といった比較的長期間持続する兎眼症例に対しては,一般的に瞼板縫合,眼瞼縫合,側頭筋移行術,血管柄付き遊離組織移植術,goldweightimplantによるlidloading法などの外科的な方法も選択される3).こういった兎眼管理に関する種々の報告はあるが,兎眼により重篤な合併症を起こしたときにどのような対応をすべきかについては,一定の見解はなくその報告も少ない.とくに角膜穿孔を起こした場合の対応はむずかしく,止むをえず眼球摘出をせざるをえない場合もあると考えられる.今回,蘇生後脳症後兎眼患児に角膜穿孔,虹彩嵌頓を生じ,家族の強い希望もあって保存角膜による角膜移植を施行したまれな1例を報告する.I症例症例は3歳,女児.生後2カ月時に心肺停止となり蘇生後脳症後遺症で意識なく,施設入所にて呼吸器管理中であった.両眼とも常時兎眼の状態であり,兎眼性角膜炎に対して,ヒアルロン酸点眼,エリスロマイシン眼軟膏,時に抗菌点眼薬を使用,夜間はサランラップ保護で対応されていた.平成25年8月に父親が患児の右眼に何かついていていると指摘.翌日鳥取県立中央病院眼科に搬送され,右眼角膜下方にDescemet膜瘤を生じたとの診断で同日鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当院)に紹介された.当院初診時,視力・眼圧は測定不能,常時開瞼した状態であり,右眼結膜は乾燥して充血,粘液性眼脂を認めた.角膜は下方で2mm×2mmの大きさで穿孔し虹彩が嵌頓しており下方から血管と結膜侵入を認めた.Seidel試験は陰性であり,前房は上方のみ浅いながら認めた.前房炎症の状態は判定不能であった.また虹彩後癒着も認められた.左眼結膜は乾燥,充血し,粘液性眼脂を認め,角膜は下方で一部点状びらんを認めた.穿孔の原因は不明ながら感染の関与を否定できないため,右眼結膜ぬぐい液を採取し培養検査に提出後,入院治療を開始した.なお,本患児は人工呼吸器管理中で,全身管理については当院脳神経小児科に併診を依頼した.レボフロキサシン0.5%点眼3回,オフロキサシン眼軟膏2回,セファゾリン全身投与を開始し,メパッチクリアRで強制閉瞼とした.しかしながら徐々に角膜穿孔部の拡大を認め,保存的治療での穿孔閉鎖は困難と考えられた.眼球摘出もしくは眼球内容除去術を行うことについて家族に説明するも,眼球をとることについて家族の精神的な抵抗が強く,角膜移植を第2の選択肢として提示した.本患児は蘇生後脳症後で意識不明の状態であり,視機能評価の一つの判断材料として.ashvisualevokedpotentials(以下,VEP)を施行した.両眼における検査結果はN75は129.0msec,P100は220.3msec,右眼での検査結果は,N75は135.6msec,P100は221.4msecと再現性のある波形を検出できたが,左眼では再現性を認める波を検出できなかった.3歳児の平均値はawakeの状態でN75は75±4.7msec,sleepの状態でN75は96±7.5msecであり,これと比較すると遅延は認めるものの,本患児は右眼の視覚神経機能が左眼よりもむしろ機能している可能性を示唆する所見を得た.なお,当院初診時に採取した右眼結膜ぬぐい液培養結果ではMethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusを検出した.VEPの結果もふまえ,家族より眼球温存の強い希望があったことから,入院12日目に全身麻酔下で保存角膜による角膜移植術(ホスト角膜切除径6.5mm,ドナー角膜径7mm,端々縫合16針)を施行した.術直前の虹彩嵌頓部径は4mm×5mmまで拡大していた.術後点眼はレボフロキサシン0.5%点眼4回,ベタメタゾン点眼4回を施行した.座位困難であり眼圧測定は困難であったが術後前房形成は良好であった.術後9日目で下方Descemet膜皺襞を認めるものの,移植角膜部の上皮完全被覆化を認め,感染徴候を認めなかったため,自宅近くの入所施設へ戻り,鳥取県立中央病に通院する体制になった.この際ベタメタゾン点眼をフルオロメトロン点眼へ変更した.鳥取県立中央病院転院後,徐々に角膜混濁,Descemet膜皺襞は上方より軽快し,下方角膜で混濁と血管侵入は認めるものの,上方角膜は透明化した.なお,点眼薬は平成25年12月で漸減終了し,以後はオフロキサシン眼軟膏のみ使用している.また診察時に角膜縫合糸の緩みを認めた際は,本患児では角膜乱視の考慮が必要な状態ではなく,むしろ感染予防が重要であるため,その都度抜糸し,すべての抜糸を終了している.兎眼管理はパーミロールRでの強制閉瞼をしており,家族の面会時のみ開瞼している.術後およそ3年が経過した平成28年6月現在まで,感染徴候や拒絶反応はなく経過している.II考按今回の症例の治療方針として角膜移植,眼球摘出の2つをあげたが,それぞれのメリット・デメリットを比較する.角膜移植のメリットとしては眼球温存可能である点だが,デメリットとして,感染徴候の有無確認,緩んだ縫合糸の管理,拒絶反応の診断,眼圧管理といった術後管理を要し,入所施図1手術当日の前眼部写真4mm×5mmの角膜穿孔部に虹彩嵌頓を認める.設のみでの管理ができないため,眼科医のいる施設への通院が必要になる点があげられた.眼球摘出のメリットは管理が容易であり,眼科医不在の入所施設に戻りそこで管理ができる点であるが,デメリットとして視機能が完全に失われること,整容面での問題が考えられた.本患児は蘇生後脳症後遺症で人工呼吸器管理が必要であり,今後も眼科医不在の施設で経過観察する必要があることから,管理が不要な眼球摘出も選択肢として家族に提示した.脳神経小児科医師の見解では,将来この患児の意識が戻り,実際にものを見られるようになる可能性はきわめて低いというものの,その可能性にかける家族の思いは大変強く,そのときのために眼球を残してほしいと強く希望され,VEPで右眼のみに反応があったことから角膜移植に踏み切った.小児における角膜移植の手術適応と判断の参考になる論文として,角膜移植に至った原疾患によるgraftsurvival期間の比較や,graftsurvivalに負の影響を与えた因子についての報告がいくつかある.Al-Ghamdiらは角膜移植に至った原疾患を,先天性疾患(78.8%),外傷によるもの(10.9%),非外傷によるもの(10.3%)に分け,graftsurvivalを比較しており,先天性疾患のなかのCHED(congenitalhereditaryendothelialdystro-phy)に注目すると,他に比べ明らかにgraftsurvivalは長く,視力予後が良好であったと報告している4).Hovlykkeらも割合に差はあるが原疾患を同様に分け,graftsurvivalを比較しているが,こちらは先天性疾患(とくに病気は特定していない)でもっともgraftsurvivalが不良であり,非外傷でもっとも良好であったとしている.またgraftsurvivalへ負の影響を与える因子として角膜移植後の図2術後9日目の前眼部写真移植角膜のDescemet膜皺襞を認め,下方に比べ上方では透明化してきている.図3術後2年10カ月経過時の前眼部写真移植角膜の上方の透明化は変わらず,縫合糸の抜糸も終了している.追加の外科治療,若い年齢をあげている5).Huangらは1年後のgraftsurvivalは原疾患間で差がないとしているが,術前術後に緑内障を発症した群では,1年後のgraftsurvivalに有意差を生じたとしている6).こういった報告から小児の角膜移植の適応を考える際には,移植に至った原疾患,術前の緑内障併発の有無も判断の一つになると考えられる.また,術後合併症には,縫合糸トラブル,緑内障,白内障,網膜.離,虹彩癒着などの報告が多く,この点を踏まえて経過をみていく必要がある4.7).ただ,今回の症例はきわめて特殊な事例であり,これらの論文の見解をそのままあてはめにくい.今回の角膜移植では新鮮角膜ではなく保存角膜を用いた.保存角膜は視力面では新鮮角膜に比較し劣るが,拒絶反応が起こらない点が利点である8).本患児では穿孔部分の位置により周辺部の角膜移植となり,通常の中心部の角膜移植に比べ透明治癒が最優先ではないことから,保存角膜を用いることとした.これにより角膜確保が比較的容易であり,呼吸器管理中で全身管理のいる本患児に緊急手術による負担をかけず,予定手術とすることが可能であった.小児は生体反応が強く,5.6歳以下では拒絶反応がほぼ必発であるが9),保存角膜による移植では拒絶反応を生じにくく,ステロイド使用量を減らすことが可能であった.これにより感染を起こしにくくし今後の管理を比較的容易にする点,小児に生じやすい高眼圧を防ぎ,緑内障リスクを減らすことで先に述べたgraftsurvival延長にも有利であったと思われる.保存角膜には角膜内皮細胞がない点が新鮮角膜に比べ不利であるが,小児の場合は角膜内皮細胞数が多いので,残ったホスト側の角膜内皮細胞がグラフト側に移動して,内皮細胞密度は全体として減りながらもグラフト部分が透明化する可能性もあるのではないかと考えられる.実際,本患児では現在,下方角膜は混濁,血管侵入を認めるものの,上方角膜は透明な状態で推移している.本患児の角膜穿孔の原因と治療について考察する.一般的に角膜穿孔は外傷や,感染,非感染性の角膜潰瘍,神経栄養障害,兎眼症に続発するなどさまざまな原因で生じる.治療法としては治療用コンタクトレンズの装用+眼圧降下薬の併用,シアノアクリレートやフィブリン糊による穿孔部補.,結膜被覆,羊膜移植,全層ないし表層角膜移植術などがあげられ10),穿孔発生から1週間程度経過し,保存的治療に反応しない場合は外科的治療を検討する.本患児は当院初診時すでに抗菌点眼薬が使用されていたこともあり,明らかな感染による穿孔であると指摘する検査所見は検出できなかったが,兎眼による乾燥性角膜炎に感染が併発し穿孔した可能性がもっとも高いと考えられた.本患児は角膜移植が奏効しない悪条件が重なっていた.具体的には,①5歳以下の小児例,②周辺部全層移植,③兎眼という3条件である.①については,小児は生体反応が強く拒絶反応を生じやすい,高眼圧を生じやすい,感染予防など術後管理が困難である,また強膜がelasticであり,硝子体圧が高くオープンスカイになったときに虹彩・水晶体が押し上げられやすく,成人の角膜移植に比較し手技が困難であるといったさまざまな問題があり,移植の成績はきわめて不良である9).②については周辺部角膜では角膜中央より血管侵入が起こりやすく,生体反応が起こりやすい点で,角膜移植を奏効しにくくする.悪条件①②については,困難回避の工夫として保存角膜を使用することで,リスクを軽減することができた.また,この患児で一つ他の患児に比べて有利であった点は,もともと意識がないため,縫合糸の緩みに対応して逐次抜糸が可能な点で,実際鳥取県立中央病院にて複数回にわたって抜糸を行った.通常の小児ではその都度全身麻酔が必要となり対応がどうしても遅れてしまう.もう一つの条件③兎眼管理については,家族の希望もあり,面会時以外はパーミロールRによる強制閉瞼で現在まで角膜障害は生じていない.本患児のように意識のない兎眼患児に発症した角膜穿孔例に角膜移植した報告はなく,貴重な症例であると考えられた.文献1)若下万喜,小島孚充,石井清ほか:上顎形成術と角膜移植により治癒した兎眼性角膜潰瘍.眼科手術13:267-270,20002)松井淑江:疾患別:薬の使い方眼瞼・結膜・角膜.変性への対応(眼科診療プラクティス編集委員会編),神経麻痺性角膜症(兎眼性角膜症).眼科薬物治療ガイドp72-73,文光堂,20043)太根伸浩:麻痺性兎眼症の静的再建における長期間の検討.眼臨101:990-996,20074)Al-GhamdiA,Al-RajhiA,WagonerMD:Primarypediat-rickeratoplasty:indications,graftsurvival,andvisualoutcome.JAAPOS11:41-47,20075)HovlykkeM,HjortdalJ,EhlersN:Clinicalresultsof40yearsofpediatrickeratoplastyinasingleuniversityeyeclinic.ActaOphthalmol92:370-377,20146)HuangC,O’HaraM,MannisMJ:Primarypediatrickera-toplasty:indicationsandoutcomes.Cornea28:1003-1008,20097)LowJR,AnshuA,TanACetal:Theoutcomesofprima-rypediatrickeratoplastyinSingapore.AmJOphthalmol158:496-502,20148)外山琢:治療的角膜移植.臨眼66:181-186,20129)外園千恵:小児の角膜移植.PracticalOphthalmology20:141-142,200810)内藤紘策,鈴木宏光,豊島馨ほか:角膜穿孔例への治療とその効果についての検討.あたらしい眼科25:213-217,2008***

サイトメガロウイルス角膜内皮炎により複数回の角膜移植を要した3例

2015年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科32(10):1467.1471,2015cサイトメガロウイルス角膜内皮炎により複数回の角膜移植を要した3例矢津啓之*1,2市橋慶之*1小川安希子*1福井正樹*1川北哲也*1村戸ドール*1,2榛村重人*1島﨑潤*2坪田一男*1*1慶應義塾大学眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科ThreeCasesRequiringMultipleKeratoplastiesDuetoCytomegalovirusEndotheliitisHiroyukiYazu1,2),YoshiyukiIchihashi1),AkikoOgawa1),MasakiFukui1),TetsuyaKawakita1),MuratDogru1,2),ShigetoShimmura1),JunShimazaki2)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KeioUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,IchikawaGeneralHospitalサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎により複数回の角膜移植を要した3例を報告する.3例とも虹彩炎後の水疱性角膜症(BK)に対しDescemet膜非.離角膜内皮移植術(nDSAEK)を施行した.その後,角膜実質浮腫および角膜後面沈着物(KPs)を認め,拒絶反応を疑い抗炎症治療するも奏効せず,再度BKとなり再移植を要した.再移植時の前房水polymerasechainreaction(PCR)にてCMV陽性であり,CMV角膜内皮炎とそれに随伴する虹彩炎による角膜内皮障害でBKが進行したと考えられた.再手術後2例では,角膜実質浮腫とcoinlesion様KPsを認めたため,再発性CMV角膜内皮炎と診断した.3例とも抗炎症治療に加え抗ウイルス治療併用により角膜実質浮腫とKPsは軽減した.原因不明あるいは再発するぶどう膜炎や角膜内皮炎にはウイルス感染の可能性を考慮し,前房水PCRを検討する必要がある.Wereport3casesthatrequiredmultiplekeratoplastiesduetocytomegalovirus(CMV)endotheliitis.All3patientsunderwentnon-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(nDSAEK)forbullouskeratopathy(BK)causedbyiritis.Severalmonthslater,onsetofcornealedemaandkeraticprecipitates(KPs)ledtothediagnosisof“rejection”andinitiationofsteroidtreatment.Allcasesremainedrefractorytomedicaltreatmentandhadtoonce-againundergokeratoplastysurgery.Inallcases,detectionofCMV-DNAfromtheaqueoushumourviapolymerasechainreaction(PCR)suggestedthatthecornealendotheliumwasaffectedbyCMVendotheliitisandiritis,leadingtoBK.Afterreoperation,2caseswerediagnosedwithcornealedema,andcoinlesionssuggestingrecurrentCMVendotheliitis.Cornealedemaandcoinlesionsrespondedtosystemicandtopicalganciclovirandsystemicvalganciclovirtreatmentinall3cases.CliniciansneedtoconsiderthepossibilityofCMVvirusinfectioninidiopathicorrecurrentuveitisandcornealendotheliitisandperformaqueoushumourPCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1467.1471,2015〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,角膜移植,拒絶反応,PCR.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,keratoplasty,rejection,polymerasechainreaction.はじめに角膜内皮炎は1982年にKhodadoustらによって報告され,当初は角膜移植を伴わない眼において角膜実質浮腫とその領域に一致する拒絶反応線に酷似した角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を認め,自己免疫性疾患と考えられていた.しかしその後,角膜内皮炎患者の前房水より単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)や水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)の抗原やDNAが検出され,ヘルペス群ウイルスの角膜感染症の一病型であると考えられるようになった1).さらに近年,アシクロビル〔別刷請求先〕矢津啓之:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科Reprintrequests:HiroyukiYazu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,IchikawaGeneralHospital,5-11-13Sugano,Ichikawa-shi,Chiba272-8513,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)1467 やバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬に抵抗性の角膜内皮炎の原因としてサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)が報告され注目を集めている2,3).CMVは免疫不全患者の網膜炎の原因ウイルスとして知られているが,CMV角膜内皮炎は免疫不全のない患者にも発症するのが特徴である.動物モデル実験において,HSV角膜内皮炎では,前眼部免疫抑制機構(anteriorchamberassociatedimmunedeviation:ACAID)の下,潜伏感染したウイルスが角膜内皮細胞あるいは隅角組織などの角膜内皮近傍の組織において再活性化され,角膜内皮に感染し炎症を惹起すると推測されており4),CMV角膜内皮炎でも類似した発症機序が考えられているが明らかではない.今回筆者らは,CMV角膜内皮炎により複数回の角膜移植を要した3例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕81歳,男性.主訴:右)視力低下.現病歴:平成10年,右)虹彩炎を発症し,以降ベタメタゾン(リンデロンR)点眼使用にて寛解増悪を繰り返していた.平成20年9月,右)視力低下を自覚,同時に角膜中央部位に実質浮腫を認め,原因精査および角膜移植目的に平成21年1月26日当科紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病,高血圧,右)超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成17年7月),植え込み型除細動器挿入後(平成24年12月).初診時現症:abcd図1症例1の細隙灯顕微鏡検査所見と前房水PCR結果a:初診時.角膜実質浮腫部に一致したKPsを認めた.b:前房水ヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査でCMV-DNA陽性を認めた.c,d:下耳側の角膜実質浮腫部に一致してcoinlesionを認めた.視力:右眼0.4(0.6×sph+0.50D(cyl.1.75DAx115°).左眼0.6(1.2×sph+0.50D(cyl.3.00DAx80°).眼圧:右眼13mmHg,左眼12mmHg.角膜内皮細胞密度(endothelialcelldensity:ECD):右眼400個/mm2,左眼2,923個/mm2.前眼部:右眼は角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞,KPs.左眼は特記すべき所見なし.中間透光体・眼底:両眼ともに特記すべき所見なし.経過:平成21年5月14日,右)Descemet膜非.離角膜内皮移植術(non-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:nDSAEK)を施行した.しかし,同年10月頃より右)視力低下,移植片角膜実質浮腫の出現,さらに浮腫部に一致したKPsを認めた(図1a).拒絶反応を疑い,同年12月10日より2日間,メチルプレドニゾロン(ソル・メルコートR)125mg/日を投与したが,明らかな改善を認めなかった.その後も角膜実質浮腫は増悪したため,平成22年11月15日前房水を採取,polymerasechainreaction(PCR)にてCMV陽性であり,CMV角膜内皮炎による水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)と診断した(図1b).平成23年7月7日,右)Descemet膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)を施行した(2回目).入院中,0.5%ガンシクロビル(デノシンR)500mg/日点滴を14日間,退院後バルガンシクロビル(バリキサR)900mg/日内服を1カ月,0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼5回/日を6カ月投与し,角膜実質浮腫は軽減傾向であった.平成24年3月頃より右)下方角膜実質浮腫を認めたが,視力は(0.7)と良好のため経過観察していた.平成26年4月10日,右)内皮機能不全に対して右)DSAEKを施行した(3回目).同年6月10日,右)角膜実質浮腫と同部位にcoinlesionを認め(図1c,d),CMV角膜内皮炎再発と判断し,1.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼3回/日,0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼5回/日に加え,バルガンシクロビル(バリキサR)1,800mg/日内服を開始し,角膜実質浮腫は改善,coinlesionも消失した.7月11日にバルガンシクロビル(バリキサR)内服を中止としたが,その後中止により角膜実質浮腫は増悪,再開により寛解,と繰り返している.治療後現症(右眼):視力(平成27年4月7日):(0.08×sph+0.50D(cyl.2.50DAx175°).眼圧(平成27年4月7日):11mmHg.ECD(平成26年7月29日):747個/mm2.〔症例2〕62歳,男性.主訴:左)視力低下.現病歴:平成15年より左)虹彩炎,続発緑内障の診断で1468あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(96) 近医通院加療中であり,虹彩炎発作時はベタメタゾン(リンデロンR)点眼使用にて寛解増悪を繰り返していた.平成21年12月より左)びまん性角膜実質浮腫を認め,視力低下も自覚した.左)BKの診断で精査加療目的に平成22年3月1日当科紹介受診となった.既往歴:左)続発緑内障(点眼加療中).治療前現症:視力:右眼1.2(better×cyl.0.50DAx25°).左眼0.9p(i.d.×sph+0.50D(cyl.0.75DAx120°).眼圧:右眼10mmHg,左眼17mmHg.ECD:右眼2,602個/mm2,左眼658個/mm2.前眼部:右眼特記すべき所見なし,左眼角膜実質浮腫とKPs(図2a).中間透光体:両眼軽度白内障.眼底:右眼特記すべき所見なし,左眼角膜浮腫のため詳細不明.経過:初診時より左)緑内障点眼薬に加え5%塩化ナトリウム眼軟膏塗布3回/日を開始した.平成23年4月11日,左)白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術施行し,同年6月29日に左)BKに対して左)nDSAEKを施行した.7月14日より移植片後面にKPsが出現したため拒絶反応を疑い,ベタメタゾン(リンデロンR)1mg/日内服を開始し,術後1.5%レボフロキサシン(クラビットR),0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼の回数も適宜増減し経過観察していたが改善せず,9月1日時点でECDも911個/mm2と減少,角膜実質浮腫も出現し増悪した.11月26日より,ベタメタゾン(リンデロンR)8mg/日点滴投与を開始しその後漸減したが,KPsは軽減するも角膜実質浮腫は不変であった.平成24年1月26日,ヘルペス角膜内皮炎も疑いアシクロビル(ゾビラックスR)1,000mg/日を5日間内服するも改善せず,内皮機能不全に対し同年4月25日に左)DSAEKを施行した(2回目)(図2b).術中提出した前房水PCRにてCMV陽性との報告(図2c)が5月14日にあり,CMV角膜内皮炎によるBKであったと考えられたため,5月25日より入院し,0.5%ガンシクロビル(デノシンR)500mg/日点滴を14日間,0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼8回/日,1.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼6回/日,0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼6回/日を開始し,角膜実質浮腫とKPsは消失した.点眼は退院後も継続とし,外来にて経過観察中である(図2d).治療後現症(左眼)(平成27年2月10日):視力:1.2(i.d.×sph+1.00D(cyl.1.50DAx100°).眼圧:8mmHg.ECD:860個/mm2.〔症例3〕81歳,男性.(97)abcd図2症例2の細隙灯顕微鏡検査所見と前房水PCR結果a:初診時.角膜実質浮腫とKPsあり,軽度白内障も認めた.b:2回目移植後.角膜実質浮腫とKPsともに消失し,移植片接着は良好であった.c:前房水ヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査でCMV-DNA陽性を認めた.d:角膜実質浮腫とKPsを認めず,落ち着いている.主訴:左)視力低下.現病歴:昭和32年より左)虹彩炎を繰り返し,発作時はベタメタゾン(リンデロンR)点眼使用にて寛解していた.その後虹彩炎に伴う左)続発緑内障の診断で近医にて点眼加療されていたが,眼圧コントロール不良であった.また,平成7年より左)白内障も認め,徐々に視力低下したため,平成10年2月線維柱帯切除術+超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を当院で施行した.その後徐々に左)角膜実質浮腫増悪し,視力低下や霧視を自覚したため,角膜移植目的に平成19年11月12日当科紹介受診となった.既往歴:左)続発緑内障(昭和55年.),左)線維柱帯切除術+超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成10年2月)治療前現症:視力:右眼1.0p(1.2×sph.0.50D(cyl.1.50DAx75°).左眼0.05p(i.d.×sph+2.00D).眼圧:右眼11mmHg,左眼8mmHg.ECD:右眼2,618個/mm2,左眼測定不能.前眼部:右眼特記すべき所見なし.左眼11時の強膜フラップ弁,角膜上皮・実質浮腫(図3a).中間透光体:両眼特記すべき所見なし.眼底:右眼特記すべき所見なし,左眼視神経乳頭陥凹(C/D比0.8).経過:平成19年12月26日,左)nDSEAKを施行した.しかし,平成20年12月1日に左)視力低下主訴に来院,KPsおよび角膜実質浮腫を認め,拒絶反応が疑われたためあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151469 abcdefabcdef図3症例3の細隙灯顕微鏡検査所見と前房水PCR結果a:初診時.広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた.b:前房水ヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査でCMV-DNA陽性を認めた.c,d:角膜実質浮腫部に一致してcoinlesionを認めた.e,f:角膜実質浮腫は残存している.メチルプレドニゾロン(ソル・メルコートR)1,000mg/日2日間点滴した.その後はベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼の回数も適宜増減しながら,緑内障治療も含め近医にて経過観察していたが,角膜実質浮腫は残存していた.それから徐々に左)BKが増悪したため,平成22年9月2日に左)DSAEKを施行した(2回目).その際の前房水PCRでは,HSV・VZV・CMVはどれも陰性であった.その後再び左)BKが進行し,同年12月6日に左)全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)を施行した(3回目).その際の前房水PCRでCMV陽性であった(図3b).術後炎症所見や角膜実質浮腫などは改善し経過観察していたが,平成25年10月28日,左)角膜実質浮腫部に一致してcoinlesionを認めた(図3c,d)ため,CMV角膜内皮炎再発と診断し,11月25日までバルガンシクロビル(バリキサR)1,800mg/日内服した結果,KPsは消失した.平成26年5月13日,KPsは認めないものの左)角膜下方に実質浮腫が出現し,CMV角膜内皮炎の再発が疑われバルガンシクロビル(バリキサR)1,800mg/日を21日間内服したが,角膜実質浮腫の改善は認められず,経過観察としている(図3e,f).治療後現症(左眼)(平成27年3月9日):視力:10cm/指数弁(矯正不能).1470あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015眼圧:9mmHg.ECD:測定不能.II考按今回筆者らが経験したCMV角膜内皮炎の3症例は,免疫機能低下を認めない患者であり,原因不明の片眼の虹彩炎と診断されステロイド点眼するも寛解増悪し,次第に角膜実質浮腫の増悪による視力低下を自覚した,という経過が一致している.また,その後角膜移植後に拒絶反応の診断でステロイド加療するも奏効しなかった点も同様である.平成24年に特発性角膜内皮炎研究班により提唱された診断基準5)を参考にすると,症例1と症例3ではcoinlesionを認め,前房水PCRにてCMV陽性,HSVとVZVは陰性であり,典型例に該当する.症例2も,coinlesionは認めないものの拒絶反応線様のKPsを認め,前房水PCR結果は他2症例と同様であったため,典型例に該当する.臨床的に,角膜移植後の浮腫とKPsの原因が拒絶反応なのか,あるいはヘルペスなどのウイルス感染によるものかの判断はむずかしい.一般的なその鑑別方法は,まず所見で部位をみる.角膜実質浮腫やKPsがgraftに限局するのか,hostにも認めるのか判断する.つぎに形状で,KPsがline状(Khodadoustline)であれば拒絶反応,coinlesionであればCMVを考える.後述する前房水PCRにてCMV陽性のうち,coinlesionを認める症例は70.6%であるとの報告6)があるため,この所見は非常に診断的価値が高いと考える.大橋らの報告7)では,角膜内皮炎の臨床病型を浮腫とKPsの特徴から4つに分類しており,CMV角膜内皮炎では,周辺部に初発する実質浮腫とその先進部にKPs,離れてcoinlesionを認める進行性周辺部浮腫型と考えられる.しかし,この先進部のKPsをKhodadoustlineと誤って拒絶反応と診断している可能性があるため,必ず全体のKPsを診ることが重要である.診断は,拒絶反応では所見と経過で診断するのが現状である.拒絶反応は,PKP術後では10.30%,DSAEKでは7.8%8)と報告されており,後者のほうが確率は低いのは,移植される組織量が少ないことと,graftが免疫学的特権を得た前房内にのみ移植されるためだと考えられている.ウイルス感染では前房水PCRが有用であるが,非常に感度が高く,また無症候性のウイルス排泄(viralshedding)により偽陽性の可能性も考慮しなければならない.約100μlの前房水を吸引する際に,検体量不足のため正確な結果が得られにくいのも現状である.一方,コンフォーカル顕微鏡では,CMV角膜内皮炎でOwl’seyeを認めることもある9).拒絶反応の診断にコンフォーカル顕微鏡を用いたときの所見は,炎症細胞やLangerhans細胞様高輝度陰影がgraft内皮に認められるが,これは想定できるものであり,Owl’seyeのよ(98) うな特異的所見ではなく,補助診断としての有用性は高くない.そして治療方法であるが,拒絶反応の場合はデキサメタゾンあるいはベタメタゾンの頻回点眼を基本とし,発症が急であったり炎症が強い場合はベタメタゾン8mgから約3週間かけて漸減していく大量漸減療法や,メチルプレドニゾロン500mgを3日間投与してからベタメタゾン内服に切り替えるミニパルスを行う10).ウイルス感染の場合は,ステロイド点眼と併用して,抗ウイルス薬を使用する11).CMVでは,ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害するガンシクロビルの点滴・自家調整した点眼や,ガンシクロビルのプロドラッグであるバルガンシクロビルの内服を用いる.実際の臨床では,これらの抗ウイルス薬をいつまで使えばいいのか明確なプロトコールはなく,量の調整も臨床経過をみながら主治医の判断でなされているのが現状である.また,ウイルスを完全排除できるわけではないので,中止しても再発の可能性があり,一方で遷延的に使用してもコスト面,血球減少症や腎障害などの副作用が懸念される.本症例のように,内皮炎のコントロール不良でECDが減少しBKになれば,つぎの手段は角膜移植となるため,そうなる前に原因を追究し的確な治療をしなければならない.一般的に角膜内皮移植の手術適応は,実質混濁がなく内皮細胞が障害されたBKであり,例として白内障術後,レーザー虹彩切開術後,Fuchs角膜ジストロフィ,偽落屑症候群,内皮型拒絶反応後,そして本疾患後のBKがあげられる.nDSAEKとDSAEKの手技選択については,前者のほうが手術時間が短縮され,また,Descemet膜.離の際に生じうる角膜実質への障害やhost-graft間の不完全な接着などのリスクが軽減するため選択されることが多く,本症例でも初回角膜内皮移植時に選択された.また,症例3では3回目の角膜移植でPKPを施行したが,高度な角膜実質浮腫により透見不良であり,DSAEKがきわめて困難であったためと考える.CMV角膜内皮炎はここ数年の新しい概念であり,CMVがどのように角膜内皮に到達するのかなど,病態は明らかにされていないことが多い.またCMV網膜炎と異なり,免疫不全がなくても発症するのも特徴的である.本症例は近医で診断された虹彩炎の原因がCMVであったためステロイド点眼のみでは寛解増悪を繰り返した可能性がある.その後の角膜移植による侵襲と,長期のステロイド加療によって局所的に免疫が低下しているなかで,抗ウイルス薬未投与であり,CMV量が増大し,再度CMV角膜内皮炎を発症し,再移植を要したのではないかと考える.症例3において,抗ウイルス薬の効果が症例1と症例2に比し不良であり,再び内皮機能不全に至ったが,内皮炎の原因がCMVと診断されるまでに症例1と2よりも長期経過していたためと考える.今後,Posner-Schlossmansyndromeなど,原因不明あるいは再発するぶどう膜炎や角膜内皮炎には,CMV含めウイルス感染の可能性を考慮し,前房水PCRを検討する必要がある.また,角膜移植後拒絶反応と診断するもステロイド治療効果が乏しい場合も,ウイルス感染の可能性を考慮すべきである.文献1)ShenY-C,ChenY-C,LeeY-Fetal:Progressiveherpeticlinearendotheliitis.Cornea26:365-367,20072)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20063)唐下千寿,矢倉慶子,郭権慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,20104)ZhengX,YamaguchiM,GotoTetal:Experimentalcornealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisSci41:377-385,20005)小泉範子:ウイルス編-1:CMV角膜内皮炎の診断基準.あたらしい眼科32:637-641,20156)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheliitis:analysisof106casesfromtheJapancornealendotheliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,20157)大橋裕一,真野富也,本倉真代ほか:角膜内皮炎の臨床病型分類の試み.臨眼42:676-680,19888)AllanBD,TerryMA,PriceFWetal:Cornealtransplantrejectionrateandseverityafterendothelialkeratoplasty.Cornea26:1039-1042,20079)KobayashiA,YokogawaH,HigashideTetal:Clinicalsignificanceofowleyemorphologicfeaturesbyinvivolaserconfocalmicroscopyinpatientswithcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol153:445-453,201210)HillJC,MaskeR,WatsonP:Corticosteroidsincornealgraftrejection.Oralversussinglepulsetheraphy.Ophthalmology98:359-333,199111)白石敦:角膜内皮炎.臨眼67(増刊号11):79-85,2013***(99)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151471

角膜移植後の角膜感染症

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1697.1700,2014c角膜移植後の角膜感染症藤井かんな*1,2佐竹良之*2島﨑潤*2*1杏林大学医学部眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科InfectionafterCornealTransplantationKannaFujii1,2),YoshiyukiSatake2)andJunShimazaki2)1)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital目的:角膜移植後感染症の発症背景と予後について検討した.対象および方法:角膜移植を施行後,入院治療を必要とする角膜感染症を発症した54例55眼を対象として,原疾患,手術方法,起炎菌,発症時期,概算発症率,発症時の使用薬剤,発症誘因,予後について検討した.結果:平均発症時期は26.4±27.6カ月で,3年以上経ってから発症した症例が23.6%であった.原疾患は,再移植が最も多く20眼(36.4%)であった.培養および臨床所見から細菌感染と診断されたのは14眼,真菌感染は35眼であった.発症時ステロイド点眼使用は53眼であった.発症の誘因としては,縫合糸の緩み,断裂,コンタクトレンズ装用などが多かった.透明治癒したものは17眼(30.9%)であった.結論:角膜移植後は,長期にわたって易感染性であり,感染の危険因子を考慮に入れて長期にわたる経過観察を行う必要があると考えられた.Purpose:Weretrospectivelystudiedthebackgroundandprognosisofpostoperativeinfectionaftercornealtransplantation.Methods:Wereviewedtherecordsof55eyeswithinfectiouskeratitisfollowingcornealtransplantationbetweenJanuary2003andDecember2007.Originaldiseases,surgicalmethods,microbiologicalresult,intervalbetweentransplantationandinfection,approximateincidence,medicationsused,contributingfactorsandprognosiswerestudied.Results:Themostfrequentoriginaldiseasewasregraft(36.4%).Bacterialandfungalinfectionswerefoundin14and35eyes,respectively.Meanintervalbetweensurgeryanddevelopmentofinfectionwas26.4±27.6months;23.6%ofcasesdevelopedinfectionmorethan3yearsfollowingsurgery.Thevastmajorityofcasesusedtopicalsteroidatthetimeofinfectiondevelopment.Presumablecontributingfactorsforinfectionincludedloosenedorbrokensutures,contactlenswearandpersistentepithelialdefects.Cleargraftswereachievedin17eyes(30.9%)bythefinalvisit.Conclusions:Postkeratoplastyeyesweresusceptibletoinfectionevenlongaftersurgery.Long-termfollow-upisnecessary,especiallywithpatientshavingriskfactorsforinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1697.1700,2014〕Keywords:角膜移植,感染性角膜炎,コンタクトレンズ,縫合糸.cornealtransplantation,infectiouskeratitis,contactlens,suture.はじめに角膜移植後は,ステロイド点眼の長期投与,縫合糸の存在,角膜知覚の低下,コンタクトレンズ装用などさまざまな要因により易感染性である.また,いったん感染が生じると重症化しやすく,感染が治癒したとしても不可逆的な影響を及ぼし,視力予後不良の原因となることが多い.今回,筆者らは角膜移植後に細菌あるいは真菌感染症を生じた例について,その発症背景と予後を検討したので報告する.I対象および方法東京歯科大学市川総合病院において角膜移植を施行し,2003年1月から2007年12月までの5年間に,入院治療を必要とする細菌あるいは真菌角膜感染症を発症した54例55眼を対象としてレトロスペクティブに検討した.症例の内訳は男性24例24眼,女性30例31眼,平均年齢59.0±16.0歳(平均値±標準偏差,範囲:16.85歳)であった.〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科Reprintrequests:JunShimazaki,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,5-11-13Sugano,Ichikawa-shi,Chiba272-8513,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1697 表1原疾患の内訳原疾患眼数(%)n=552003年施行全移植中の眼数(%)n=248再移植20(36.4)40(16.1)水疱性角膜症13(23.6)72(29.0)角膜ヘルペス後6(10.9)5(2.0)角膜白斑5(9.1)65(26.2)瘢痕性角結膜症4(7.3)2(0.8)円錐角膜3(5.5)40(16.1)02468101214161820:細菌感染:真菌感染眼数20:細菌感染:真菌感染眼数0~1年1~2年2~3年3年以上術後期間〔(以上)~(未満)〕図1角膜移植後感染症の発症時期表2手術の内訳原疾患眼数(%)n=552003年施行全移植中の眼数(%)n=248PKP37(67.3)203(81.9)DALK8(14.5)23(9.3)ALK7(12.7)9(3.6)PKP+アロLT2(3.6)0(0.0)ALK+アロ培養上皮移植1(1.8)0(0.0)角膜内皮移植0(0.0)12(4.8)DALK+オート(自家)LT0(0.0)1(0.4)PKP:全層角膜移植,DALK:深層表層角膜移植,ALK:表層角膜移植,LT:輪部移植.これらの症例について,原疾患,手術方法,起炎菌,発症時期,概算発症率,使用薬剤,発症誘因となる局所因子,予後について検討を行った.原疾患,手術術式の内訳に関しては,2003年に施行された角膜移植での原疾患,手術術式を適合性のc2検定を用いて比較した.概算発症率の算定は,対象とした時期より平均発症時期をさかのぼった時点の角膜移植施行件数と比較して算定した.II結果1.発症時期平均発症時期は26.4±27.6カ月で,1年以内に発症した症例は45.5%,3年以上経ってから発症した症例は23.6%であった(図1).細菌感染例での平均発症時期は22.4±21.5カ月(1.4.77.8カ月),真菌感染症では27.0±28.9カ月(0.4.104.8カ月)であった.2.原疾患原疾患で,最も多かったのは再移植20眼(36.4%,95%信頼区間:24.9.49.6),ついで水疱性角膜症13眼(23.7%,95%信頼区間:14.4.36.3),角膜ヘルペス後6眼(10.9%,95%信頼区間:5.1.21.8),角膜白斑5眼(9.1%,95%信頼1698あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014角膜穿孔3(5.5)6(2.4)角膜ジストロフィ1(1.8)14(5.6)角膜輪部デルモイド0(0.0)4(1.6)区間:3.9.19.6),瘢痕性角結膜症4眼(7.3%,95%信頼区間:2.9.17.3),円錐角膜3眼(5.5%,95%信頼区間:1.9.14.9),角膜穿孔3眼(5.5%,95%信頼区間:1.9.14.9),角膜ジストロフィ1眼(1.8%,95%信頼区間:0.3.9.6)であった(表1).2003年全体の原疾患と比較すると今回の検討では再移植,角膜ヘルペス後,瘢痕性角膜症の比率が高かった(p<0.0001*).3.手術方法角膜移植の術式は,全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)が37眼(67.3%,95%信頼区間:54.1.78.2),表層角膜移植(anteriorlamellarkeratoplasty:ALK)が7眼(12.7%,95%信頼区間:6.3.24.0),深層表層角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)が8眼(14.5%,95%信頼区間:7.6.26.2),PKPとアロ(他家)輪部移植(limbaltransplantation:LT)を併用したのが2眼(3.6%,95%信頼区間:1.0.12.3),ALKとアロ(他家)培養上皮移植を併用したのが1眼(1.8%,95%信頼区間:0.3.9.6)であった(表2).今回の検討ではALK,DALKの比率が高かった(p=0.0004*).4.起炎菌病変部もしくは抜糸した糸から菌が検出されたのは,55眼中21眼(38.1%)であった(表3).細菌感染症では,グラム陽性球菌が5眼,グラム陽性桿菌が3眼,グラム陰性桿菌が1眼であった.培養で起炎菌が同定できず,臨床所見および治療経過から細菌感染と診断されたのは5眼であった.真菌感染症では,酵母型真菌が11眼と大部分を占め,糸状菌が検出されたのは1眼であった.培養で起炎菌が同定できず,臨床所見および治療経過から真菌感染と診断されたのは23眼で,そのうち7眼でendothelialplaqueが認められた.培養陰性であり臨床所見および治療経過から混合感染と診断されたのは1眼であった.治療経過,臨床所見からも菌を特定できなかったものは5眼(9.1%)であった.(132) 表3起炎菌の種類起炎菌眼数グラム陽性球菌Staphylococcusaureus3(MSSA2眼,MRSA1眼)Staphylococcusoralis1a-hemolytisstreptococcus1グラム陽性桿菌Corynebacteriumspecies3グラム陰性桿菌Acinetobacterhemolytics1酵母状真菌Candidaparapsilosis6Candidaalbicans2その他の酵母状真菌3糸状菌Penicililumspecies1MSSA:methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌),MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.5.概算発症率平均発症時期が約2年であったので,今回の対象期間から2年さかのぼった2001年1月から2005年12月に角膜移植を施行した件数から概算発症率を算出した.2001年1月から2005年12月の5年間に施行した角膜移植件数は1,405眼であり,概算発症率は3.9%(95%信頼区間:3.0.5.1)と算出された.6.発症時の使用薬剤感染症発生時に使用していた薬剤についての検討を行った(表4).ステロイド点眼は,55眼中53眼とほとんどの症例で使用されていた.細菌感染症では発症時にフルオロメトロンを局所使用していた症例は14眼中7眼,ベタメタゾンあるいはデキサメタゾンを局所使用していた症例は14眼中7眼であった.真菌感染症では,フルオロメトロン使用例が33眼中10眼,ベタメタゾン・デキサメタゾン使用例が33眼中23眼であり,ベタメタゾン・デキサメタゾン使用例での発症が多かった.抗菌剤点眼を使用していた症例は,55眼中41眼であった.細菌感染症では14眼中9眼,真菌感染症では,35眼中10眼であった.ステロイドを全身投与されていた症例は55眼中6眼,シクロスポリンを使用していた症例は5眼であった.7.発症の誘因感染症発症に関与したと思われる誘因についての検討を行った(表5).縫合糸が残存していたものは47眼(85.5%)そのうち17眼(30.9%)で糸の緩みあるいは断裂を伴ってい(,)た.治療用または視力矯正用コンタクトレンズを装用してい(133)表4発症時の使用薬剤細菌感染(%)真菌感染(%)薬剤眼数(%)n=14n=35ステロイド点眼53(96.4)14(100.0)33(94.3)ベタメタゾン/デキサメタゾン33(60.0)7(50.0)23(65.7)フルオロメトロン20(36.4)7(50.0)10(28.6)抗生剤点眼41(74.5)9(64.3)29(82.9)全身投与剤6(10.9)2(14.3)4(11.4)ステロイド1(1.8)1(7.1)0(0.0)シクロスポリン5(9.1)1(7.1)4(11.4)表5発症の誘因となる因子細菌感染(%)真菌感染(%)因子眼数(%)n=14n=35縫合糸47(85.5)12(78.6)30(85.7)緩み・断裂17(30.9)5(35.7)12(34.3)コンタクトレンズ13(23.6)6(42.9)6(17.1)HCL1(1.8)0(0.0)1(2.9)SCL12(21.8)6(42.6)5(14.3)遷延性上皮欠損12(21.8)4(28.6)7(20.0)眼瞼の異常6(10.9)4(28.6)2(5.7)外傷2(3.6)1(7.1)1(2.9)糖尿病6(10.9)1(7.1)2(5.7)HCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ.たものが13眼(23.6%)で,そのうち12眼はソフトコンタクトレンズであった.遷延性上皮欠損が存在していたものは12眼(21.8%)であった.8.予後内科的治療によって透明治癒した症例は8眼,瘢痕治癒は43眼,治療的角膜移植を施行した症例は4眼であった.瘢痕治癒後に光学的移植を施行した症例は14眼あり,うち透明治癒が得られたものは9眼であった.透明治癒した17眼(30.9%)のうち,細菌感染症では4眼(28.6%),真菌感染症は13眼(37.1%)であった.III考按角膜移植後の感染症は,視力予後に大きな影響を及ぼすので,その発症時期や危険因子について検討を加え,予防に努めることは非常に重要と考えられる.今回の検討で移植後角膜感染症の発症率を概算したところで算定し3.9%であり,過去の報告の0.2.3.6%とほぼ一致するものであった1.3).今回は,入院治療を必要とした症例を対象としたが,通院で治療した症例や他院で治療した症例も存在すると考えられるため,実際の発症率はさらに高率であると推測された.過去の報告によると1年以内に発症した症例は48%3),あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141699 55.6%4)と約半数を占めている.今回の結果では1年以内に45.5%が発症しており,過去の報告にほぼ一致するものであった.3年以降に発症した症例は13眼(23.6%)あり,角膜移植後では晩期感染症にも注意が必要であると考えられた.原疾患では,移植全体の原疾患比率と比較して,再移植の割合が多かった.再移植例では,術後の免疫抑制のためステロイド点眼を長期投与することが多く,易感染状態になりやすいためと考えられた.また,術式ではALK,DALKの比率が18眼と高かったが,このうち6眼が眼類天疱瘡,偽類天疱瘡,化学傷などの瘢痕性角結膜症であった.瘢痕性角結膜症は遷延性上皮欠損を生じやすく,感染防御が脆弱になるためと考えられた.角膜移植後感染症の起炎菌としては,これまでの報告ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)を含む黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,緑膿菌,真菌(カンジダ)感染などが多いとされる1.6).今回の結果では,細菌はグラム陰性菌が1眼に対しグラム陽性菌が8眼と多く,真菌は糸状菌が1眼に対し酵母状真菌が11眼と多かった.角膜移植後はステロイド長期使用など種々の要因により免疫能が低下し,グラム陽性菌や酵母菌といった常在菌による感染を発症しやすい環境にあると考えられた.移植後角膜感染症の危険因子としては,遷延性上皮欠損2,4),コンタクトレンズ装用2,4,5),局所のステロイド点眼2,4.6)および抗生物質点眼の併用4),縫合糸の緩みや断裂2,5,6)などが挙げられている.今回の結果では,ほとんどの症例でステロイド点眼を使用していた.縫合糸の緩み・断裂を有していた症例は30.9%であり,これまでの報告にもあるように7),縫合糸の状態には特に注意をすべきと考えられた.縫合糸の緩み・断裂は,感染のみならず血管新生や拒絶反応の誘因となることが知られており,こうした例では速やかに抜糸すべきと考えられた.易感染性状態にある角膜移植眼の透明性を保つためには,感染予防が非常に重要である.したがって,術後感染の危険因子を考慮に入れて,患者啓発を行ったうえで長期の経過観察を行う必要があると考えられた.文献1)LveilleAS,McmullenFD,CavanaghHD:Endophthalmitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology90:38-39,19832)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,20033)兒玉益広,水流忠彦:角膜移植後感染症の発症頻度と転帰.臨眼50:999-1002,19964)HarrisDJJr,StultingRD,WaringGOIIIetal:Latebacterialandfungalkeratitisaftercornealtransplantation.Spectrumofpathogens,graftsurvival,andvisualprognosis.Ophthalmology95:1450-1457,19885)中島秀登,山田昌和,真島行彦:角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討.臨眼55:1001-1006,20016)WrightTM,AfshariNA:Microbialkeratitisfollowingcornealtransplantation.AmJOphthalmol142:10611062,20067)若林俊子,山田昌和,篠田啓ほか:縫合糸膿瘍から重篤な眼感染症をきたした角膜移植眼の2眼.あたらしい眼科16:237-240,1999***1700あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(134)

角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果

2014年11月30日 日曜日

1692あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution.(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution. 表1症例の背景情報症例年齢・性別眼術式期間*原疾患ドライアイ治療薬†164女左表層移植1年2カ月RA‡関連ドライアイ,角膜潰瘍,角膜穿孔ヒアルロン酸ナトリウム,ピロカルピン塩酸塩,自己血清点眼258男左表層移植1年3カ月GVHD§,ドライアイ,角膜穿孔自己血清点眼3||72女左全層移植1年7カ月水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム463男左全層移植9年水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム5||,¶46男右全層移植1年11カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム6||,¶42男左全層移植1年10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム7||,¶,**81男右全層移植3カ月原因不明の角膜実質混濁ヒアルロン酸ナトリウム859男右全層移植10カ月角膜穿孔後移植片機能不全ヒアルロン酸ナトリウム**,¶940男左全層移植10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム10**27男右全層移植3年円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム*:角膜移植術後からジクアホソルNaを追加するまでの期間,†:ジクアホソルNaを追加する前に使用していた薬剤,‡:rheumatoidarthritis関節リウマチ,§:graft-versus-hostdisease移植片対宿主病,||:角膜内皮細胞密度を測定できた症例,¶:角膜厚を測定できた症例,**:両眼とも角膜移植術を施行している症例.安定性の低下の双方が関与していると考えられる.従来から,角膜移植術後のドライアイに対しては,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムの点眼,自己血清点眼,涙点プラグなど一般的なドライアイと同様の治療が行われてきた.しかし,角膜移植術後はすでに複数の点眼薬を使用されていることが多く,点眼薬のさらなる追加は,薬剤性角膜上皮障害の観点からも慎重に判断すべきである.ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼液は,結膜上皮細胞と杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し,細胞内のカルシウム濃度を上昇させることで,水分とムチンの分泌を促進する新しいドライアイ治療薬である6,7).また,角膜上皮細胞における膜型ムチンの発現を促進するという報告もある8).ムチンは眼表面で涙液を保持する役割をもち,結果として涙液の安定性維持に寄与する.近年,種々のドライアイに対するジクアホソルNa点眼薬の効果が報告されており9,10),角膜移植後のドライアイへの効果も期待される.そこで,今回筆者らは角膜移植術後のドライアイ症例に対してジクアホソルNa点眼薬を投与し,その効果について検証した.I対象および方法1.対象徳島大学病院で2011年2月から2013年2月にかけて,角膜移植術後のドライアイに対してなんらかの点眼治療中の症例に,ジクアホソルNa点眼薬を追加投与し1カ月以上経過観察できた10例10眼(男性8例8眼,女性2例2眼)である.年齢は27.81歳(平均55.2±16.3歳),右眼4例,左眼6例,全層角膜移植術後8例8眼,表層角膜移植術後2例2眼であった.患者の背景情報やジクアホソルNa投与前の治療の詳細は,表1に示す.両眼とも角膜移植術を施行さ(127)れている症例(症例No.7,9,10)については,後に移植された片眼を対象とした.2.方法Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),フルオレセイン染色による角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア;2006年ドライアイ診断基準11)に準ずる),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較検討した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の推移は,測定可能であった症例において,投与前後3カ月以内の値を採用し比較検討した.なおBUTは,1人の検者がフルオレセイン試験紙(フローレスR眼検査用試験紙0.7mg,昭和薬品化工)に最小量の生理的食塩水をつけて下眼瞼結膜に軽く触れるようにして染色し,十分に瞬目させて染色液を眼表面に行き渡らせた後,開瞼から角膜のどこかにドライスポットが現れるまでを細隙灯顕微鏡に備え付けの動画ソフトウェアで撮影し,診察時にモニターのカウンターで一旦判定・記録した.同日の全診療終了後にモニター上のカウンターで再判定し確定した.スコアは,1人の検者が診療時に判定し一旦記録し,同時に静止画を撮影した.同日の全診療終了後に画像を再度閲覧しスコアの妥当性を判定し,必要に応じて改変した.角膜内皮細胞密度および角膜厚の推移の観察は,ジクアホソルNa投与前3カ月以内,および投与後3カ月以内に非接触型角膜内皮細胞撮影装置(コーナンスペキュラーマイクロスコープ.,コーナン・メディカル,西宮)で撮影および測定し比較した.臨床経過は,視力の推移,ドナー角膜移植片の浮腫・混濁の出現,および感染症発症の有無について観察した.統計処理はWilcoxon符号付き順位和検定(SPSS11.0JforWindows)を用いた.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141693 (mm)2012015105(n=10)0投与前1カ月後図1涙液分泌量の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与前後で有意な変化はない.†4321†p=0.03(n=10)0投与前1カ月後図3角結膜上皮障害染色スコア(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に減少している.(μm)800700600500400300200100(n=4)0投与前投与後3カ月以内図5角膜厚の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに薄くなっている.II結果1.Schirmer値(図1)ジクアホソルNa投与前9.1±7.5mmであったのが,投与(分)*65432*p=0.031(n=10)0投与前1カ月後図2涙液層破壊時間の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に延長している.(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,000500(n=4)0投与前投与後3カ月以内図4角膜内皮細胞密度の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに軽減している.1カ月後には11.5±7.9mmに増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.18).2.BUT(図2)ジクアホソルNa投与前1.5±0.8秒であったのが,投与1カ月後には3.3±2.3秒に有意に延長した(p=0.03).3.スコア(図3)ジクアホソルNa投与前2.3±1.3であったのが,投与1カ月後には1.8±1.0に有意に減少した(p=0.03).スコアを角膜と結膜で分けて検討すると,角膜のスコアは投与前1.7±0.7であったのが,投与1カ月後には1.1±0.6に有意に減少した(p=0.03).結膜のスコアは投与前0.6±1.1であったのが,投与1カ月後には0.7±0.8に増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.66).4.角膜内皮細胞密度(図4)撮影可能であった4例(症例No.5,6,7,9)において,ジクアホソルNa投与前の内皮細胞密度の平均は2,436±569cells/mm2であったのが,投与後は平均2,199±471cells/mm2となった.(128) ジクアホソルNa投与前投与1カ月後図6症例7(右眼)ジクアホソルNa投与前の角膜上皮障害は,投与1カ月後に軽減した.5.角膜厚(図5)測定可能であった4例(症例No.3,5,6,7)において,ジクアホソルNa投与前の角膜厚の平均は602±66μmであったのが,投与後は平均523±5μmとなった.6.臨床経過点眼投与を契機に,視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.7.代表症例(症例7,図6)81歳,男性.原因不明の角膜実質混濁に対して全層角膜移植術を施行してから3カ月が経過した時点でジクアホソルNaを投与開始した.投与1カ月後には,投与前よりもSchirmer値は増加し(13mmが15mmに),BUTは延長し(2秒が4秒に),スコアは低下した(2点が1点に).III考按本研究において,ジクアホソルNa点眼薬の投与後,Schirmer値とBUTの平均値は上昇し,スコアの平均値は減少した.これは,ジクアホソルNaの作用により涙液安定性が改善し涙液貯留量が増加した結果と考えられる.一方で,Schirmer値が低下した症例が3例(症例2,3,10)あった.このうち2例(症例2,3)ではBUTが延長し,スコアが減少あるいは不変であった.このことは,症例2が表層移植後ゆえに角膜知覚神経は部分的にしか切断されていないこと,症例3は全層移植後1年7カ月経過していたため,すでに角膜知覚神経が回復していたと思われることから,双方の症例ともムチン分泌の増加に伴い涙液安定性が改善し,反射性の涙液分泌が減少したことを表していると思われる.症例10では,BUTが不変であるにもかかわらずスコアは減少しており,上記と同様の傾向にあるものの,ムチン分泌の増加がBUT延長に反映されるまでには至っていなかったのかもしれない.また,症例1ではBUTが短縮している.その原因は不明だが,Schirmer値は増加し,スコアは減少してい(129)ることから,症例1ではムチン分泌増加よりも水分泌増加が角結膜上皮障害改善に寄与していたと思われる.角膜と結膜では,ジクアホソルNa投与後のスコアの変化に差があった.原疾患にドライアイのある症例1,2を除いて,結膜上皮障害はジクアホソルNa投与前からないか,あっても少なく,投与後もほとんど変化しなかった.一方,角膜上皮障害は有意に減少した.角膜移植術後は結膜よりも角膜に上皮障害を起こしやすく,ジクアホソルNaは角膜移植術後の角膜上皮障害の軽減に有効である可能性が示唆された.ただし本研究の限界として,正常対照群がないため,上皮障害がジクアホソルNaの追加投与により減少したのか,点眼回数が増えたことで単に水分の補充回数が増えたため減少したのかが判断できないことが挙げられる.今後は,人工涙液などで水分補充のみを行う正常対照群を設け,症例数を増やして検討する必要がある.角膜移植後の角膜透明性にかかわる重要な因子として角膜内皮細胞の機能がある.今回の研究では,ジクアホソルNa投与後に視力低下をきたした症例や,拒絶反応や感染症の所見は出現しなかったが,本来ならば,ジクアホソルNa投与前後に全例で測定し比較検討すべきである.しかし,角膜移植後は眼表面が不正のため,非接触型スペキュラマイクロスコープでの角膜内皮の観察が困難であり,全例には実施できていない.同じ機器での角膜厚の測定も,同様に困難であった.症例数が少ないため,現時点で角膜内皮細胞への影響について断言はできないが,角膜内皮細胞密度が測定可能であった症例の平均値は,投与前後でわずかに減少しているものの,角膜厚はむしろ減少している.それらを臨床経過と合わせて判断すると,ジクアホソルNaが角膜移植後の角膜内皮細胞の機能を損傷していた可能性は低いと推察される.以上のことから,角膜移植後には,ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬をはじめとする,既存のドライアイ治療薬だけでは十分な角結膜上皮障害が改善しない場合,ジクアホソルNaあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141695 点眼薬の追加を検討して良いと思われる.文献1)木下茂,大園澄江,浜野孝ほか:角膜移植片の知覚回復について.臨眼39:466-467,19852)RaoGN,JohnT,IshidaNetal:Recoveryofcornealsensitivityingraftfollowingpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology92:1408-1411,19853)SongXJ,LiDQ,FarleyWetal:Neurturin-deficientmicedevelopdryeyeandkeratoconjunctivitissicca.InvestOphthalmolVisSci44:4223-4229,20034)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜形状と角膜上皮障害との関連.臨眼49:1769-1771,19955)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜上皮障害と涙液BreakupTimeの関連.あたらしい眼科13:127-130,19966)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20117)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20118)七條優子,中村雅胤:培養角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20119)KohS,IkedaC,TakaiYetal:Long-termresultsoftreatmentwithdiquafosolophthalmicsolutionforaqueous-deficientdryeye.JpnJOphthalmol57:440-446,201310)Shimazaki-DenS,IsedaH,GogruMetal:EffectsofdiquafosolsodiumeyedropsontearfilmstabilityinshortBUTtypeofdryeye.Cornea32:1120-1125,201311)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007***(130)

全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)113《原著》あたらしい眼科29(1):113?116,2012cはじめに角膜移植後の眼圧上昇は術後合併症の一つとしてよくみられる.bブロッカー点眼は20年以上使用されている歴史の長い抗緑内障点眼薬であるが,使用後の角膜知覚の低下,杯細胞の減少,涙液産生の低下,そして点状表層角膜症の報告があり1?4),角膜上皮再生が重要である角膜移植後にはこれらの作用がより重篤な副作用につながる可能性がある.bブロッカー点眼であるカルテオロールはチモロールと比較すると点状表層角膜症を起こしにくいという報告がある5)が,角膜移植後に使用しチモロールと比較検討した報告はいまだない.今回筆者らは角膜移植後にカルテオロール,チモロールを使用し,その眼表面と涙液に与える影響をプロスペクティブに比較検討したので報告する.I対象および方法対象は,東京歯科大学市川総合病院眼科外来および両国眼科クリニックにて,全層角膜移植術の初回手術後1年以内に21mmHg以上の眼圧を呈し,抗緑内障点眼薬の初回投与を受ける患者とし,術後のレボフロキサシン点眼(クラビットR,参天製薬),ベタメタゾン点眼(サンベタゾンR,参天製薬),および人工涙液以外の点眼を使用している者,コンタクトレンズを使用している者,抗緑内障点眼開始前にAD(areadensity)分類6)にてスコアが2以上の者は対象から除外した.〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPAN全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較石岡みさき*1,2,4島﨑潤*2,3*1みさき眼科クリニック*2東京歯科大学市川総合病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4両国眼科クリニックComparisonofBeta-BlockerEyedropswithCarteololorTimololonOcularSurfaceandTearDynamicsafterPenetratingKeratoplastyMisakiIshioka1,2,4)andJunShimazaki2,3)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)RyogokuEyeClinic全層角膜移植後に抗緑内障薬の初回投与を受ける13名を,2%カルテオロール点眼を使用する群(円錐角膜5名)と,0.5%チモロール点眼を使用する群(円錐角膜3名,水疱性角膜症5名)に分け,4週にわたり観察した.涙液機能,角膜知覚は点眼前後と治療群間に差を認めなかった.角膜フルオレセイン染色スコアの投与前後での変化量を比較すると,投与4週後にチモロール群の変化量はカルテオロール群より有意に大きかった.カルテオロール点眼は角膜移植後に点状表層角膜症を起こしにくい可能性がある.Weconductedaprospectivecomparativestudyof13patientswhousedantiglaucomamedicationforthefirsttimeafterkeratoplasty,duringaperiodof4weeks.Patientswereassignedeither2%carteololor0.5%timololeyedrops.Nodifferenceswerenotedincornealsensitivityortearsecretionbetweenpre-andpost-treatment,ineithergroup.At4weeks,thedifferenceincornealfluoresceinscorebetweenpre-andpost-treatmentwasgreaterintheeyesusingtimololthanintheeyesusingcarteolol.Carteololeyedropscouldbelessharmfultothecorneaafterkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):113?116,2012〕Keywords:カルテオロール点眼,チモロール点眼,角膜移植,角膜上皮,涙液分泌.carteololeyedrops,timololeyedrops,keratoplasty,cornealepithelium,tearsecretion.114あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(114)試験実施に先立ち,東京歯科大学市川総合病院倫理委員会,および両国眼科クリニック治験審査委員会において,試験の倫理的および科学的妥当性が審査され承認を得た.すべての被験者に対して試験開始前に試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し理解を得たうえで,文書による同意を取得した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い実施された.0.5%チモロール(チモプトールR,参天製薬,万有製薬)と2%カルテオロール(ミケランR,大塚製薬)のいずれかを封筒法にて無作為に割り付け1日2回の点眼を開始し,検査は表1のスケジュールに従い行った.眼圧測定は非接触型眼圧計を用いた.生体染色は1%フルオレセイン2μlを結膜?に滴下し,角膜の染色状態をAD分類6)(表2)にて評価し,AxDの値を評価対象とした.Schirmerテストは麻酔なしで5分間施行した.角膜知覚はCochetBonnet角膜知覚計にて角膜中央部を測定し,換算表にてg/mm2に換算し比較した.4週間の観察期間を終了した13名(男性9名,女性4名,平均年齢45.1±22.8)について解析を行った.内訳を表3に示す.結果は平均値(±標準偏差)で表した.統計学的検定は,眼圧のグループ内の比較にはStudent’spairedt-test,投与前後の変化量のグループ間比較にはStudent’st-test,フルオレセイン染色スコアのグループ内比較にはWilcoxon’ssigned-rankstest,投与前後の変化量のグループ間比較にはWilcoxon’sranksumtestを用いた.Schirmerテスト,角膜知覚のグループ内比較にはStudent’spairedt-test,グループ間比較にはStudent’st-testを用いた.II結果眼圧はカルテオロール群では22.8±3.0mmHg(投与前),19.0±2.4mmHg(1週後),18.4±3.1mmHg(2週後),21.6±2.4mmHg(4週後)と投与1週後と2週後において有意な低下を示した(p=0.0090,p=0.0090).チモロール群では26.0±5.2mmHg(投与前),18.8±3.0mmHg(1週後),18.9±3.6mmHg(2週後),19.3±5.9mmHg(4週後)とどの時点においても有意に低下した(p=0.0004,p=0.0008,p=012投与期間(週)眼圧(mmHg)4*******4035302520151050:カルテオロール:チモロール図1治療前後の眼圧の変化チモロール群では投与前と比較しどの時点においても有意に低下した(*:p<0.01,**:p<0.001).カルテオロール群では投与1週後と2週後に有意な低下を示した(*:p<0.01).両群間に差はみられなかった.表4涙液検査,角膜知覚検査点眼開始前4週後p値Schirmerテスト(mm/5分)カルテオロール7.2(6.4)4.0(4.0)0.26チモロール9.9(8.7)12.1(10.9)0.44角膜知覚(g/mm2)カルテオロール2.6(4.3)1.9(1.3)0.70チモロール4.7(6.9)2.4(3.2)0.46平均値(標準偏差)表1検査スケジュール開始前1週2週4週眼圧○○○○Schirmerテスト○○フルオレセイン染色○○○○角膜知覚○○表2AD分類(点状表層角膜症の重症度分類)Area:病変が及んでいる範囲Density:点状染色の密度A0:点状染色がない(正常)D0:点状染色がない(正常)A1:角膜全体の面積の1/3未満に点状のフルオレセイン染色を認めるD1:疎(点状のフルオレセイン染色が離れている)A2:角膜全体の面積の1/3?2/3に点状のフルオレセイン染色を認めるD2:中間(D1とD3の中間)A3:角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセイン染色を認めるD3:密(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)表3症例内訳カルテオロール(n=5)チモロール(n=8)平均年齢(標準偏差)36.2(11.5)50.1(26.9)性別(男性:女性)5:04:4原疾患円錐角膜53水疱性角膜症05(115)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121150.0084).両群間に差は認められなかった(図1).Schirmerテスト,角膜知覚検査はそれぞれの治療群において治療前後で差を認めず,また投与4週後において両治療群間に差を認めなかった(表4).Schirmerテストの4週後における変化量も両治療群間に差を認めなかった.フルオレセインスコアはカルテオロール群では0.60±0.55(投与前),0.80±0.84(1週後),0.60±0.55(2週後),0.40±0.55(4週後)と変化を認めなかった.チモロール群では0.25±0.46(投与前),1.00±0.53(1週後),1.13±0.99(2週後),1.38±1.30(4週後)と増加傾向がみられ,投与4週後に投与前後でのスコアの変化量はチモロール群はカルテオロール群と比較して有意に大きかった(p=0.039)(図2).円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,カルテオロール群(n=5)で投与前0.60±0.55,投与4週後0.40±0.55,チモロール群(n=3)で投与前0.33±0.58,投与4週後1.67±0.58となり,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して大きかった(p=0.017).III考察これまでbブロッカー点眼を使用すると,角膜知覚が低下することにより瞬目回数の減少と涙液分泌減少が生じ,その結果角膜上皮障害が起きると考えられてきた1,3).今回の報告では角膜知覚,涙液分泌量は両群とも投与前後で変化していないにもかかわらず,投与前後の角膜染色スコアの変化量を比較するとチモロール群はカルテオロール群より増加していた.筆者らは以前に,bブロッカーそのものではなく添加されている防腐剤が角膜上皮障害に影響している可能性を報告した7)が,その報告でも角膜知覚・涙液分泌量に投与前後,治療群間で差を認めなかった.点眼による角膜上皮障害の成因には角膜知覚および涙液分泌の低下は必須条件ではないといえる.ただし,今回は全例が角膜移植後であり,bブロッカー点眼開始前より角膜知覚が低下している症例もあったため,知覚低下に関しては変化をとらえるのがむずかしかった可能性はある.今回使用したカルテオロール,チモロール点眼は同じ防腐剤,塩化ベンザルコニウムを含有している.防腐剤が角結膜上皮に悪影響を与えるメカニズムは,界面活性作用による細胞膜障害,上皮細胞の増殖阻害,上皮の創傷治癒阻害などがあり,塩化ベンザルコニウムによる培養結膜上皮障害は,スーパーオキサイドによる可能性が報告8)されている.一方,カルテオロールにはラジカルスカベンジャーとして紫外線による角膜上皮障害を抑制する効果があるという報告9)があり,防腐剤による障害をカルテオロールそのものが抑制する可能性も考えられる.今回封筒法にて割り付けを行ったにもかかわらずチモロール群にのみ水疱性角膜症が含まれ,原疾患に偏りが出てしまっている.水疱性角膜症は角膜移植後に遷延性上皮欠損がみられることがあり,これは角膜輪部に結膜が侵入し輪部機能不全が起きるためと考えられている10).水疱性角膜症の角膜移植後は上皮が不安定であり,そこにbブロッカーを点眼すると角膜上皮障害がより出やすくなる可能性がある.移植後の角膜上皮障害は高齢者で出やすいという報告11)もあるが,今回有意差はないもののチモロール群に高齢患者が多く含まれている.そのためにチモロール群の染色スコアが高くなっていることも考えられる.そこで円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して有意に大きかった.今回の報告では角膜移植後の角膜知覚が低下している状態にカルテオロール点眼を使用しても,角膜上皮障害を起こしにくかった.眼圧下降に関してカルテオロール点眼群には効果が不十分な症例がみられ,今後長期処方による眼圧下降効果,また角膜上皮への影響を調べるには,原疾患を揃え症例を増やしての検討が必要と考えられる.角膜移植の術式は内皮移植など現在多岐にわたる.抗緑内障点眼薬も種類が豊富となり,bブロッカー点眼には徐放型という選択肢も出てきている今,角膜移植術後の眼圧上昇に対する治療に関しては研究デザインも検討の余地があると思われ,今回の結果を踏まえて今後の課題としたい.文献1)WeissmanSS,AsbellPA:Effectoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19902)WilsonFM:Adverseexternaloculareffectsoftopicalophthalmicmedications.SurvOphthalmol24:57-88,1979図2治療前後のフルオレセインスコアの変化投与前後でのスコアの変化量を両群間で比較すると,投与4週後に有意差を認めた(#p=0.039).0124#投与期間(週)フルオレセインスコア(areaxdensity)3210-1:カルテオロール:チモロール116あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(116)3)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19924)ShimazakiJ,HanadaK,YagiYetal:Changesinocularsurfacecausedbyantiglaucomatouseyedrops:prospective,randomizedstudyforthecomparisonof0.5%timololu0.12%unoprostone.BrJOphthalmol84:1250-1254,20005)InoueK,OkugawaK,KatoSetal:Ocularfactorsrelevanttoanti-glaucomatouseyedrop-relatedkeratoepitheliopathy.JGlaucoma12:480-485,20036)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19947)石岡みさき,島﨑潤,八木幸子ほか:チモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響.あたらしい眼科28:559-562,20118)DebbaschC,BrignoleF,PisellaPJetal:Quaternaryammoniumsandotherpreservatives’contributioninoxidativestressandapoptosisonChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci42:642-652,20019)TanitoM,TakanashiT,KaidzuSetal:CytoprotectiveeffectofrebamipideandcarteololhydrochlorideagainstultravioletB-inducedcornealdamageinmice.InvestOphthalmolVisSci44:2980-2985,200310)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivalizationandlimbaldeficiency.Ophthalmology113:1098-1101,200611)FeizV,MannisMJ,KandavelGetal:Surfacekeratopathyafterpenetratingkeratoplasty.TramsAmOphthalmolSoc99:159-170,2001***

角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差

2011年8月31日 水曜日

1202(14あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(8):1202?1205,2011cはじめに水疱性角膜症に対する手術としては従来,全層角膜移植術が行われてきたが,術中の駆逐性出血の危険性や術後の不正乱視,拒絶反応,創口離開などの合併症がときに問題となった.近年,手術方法の進歩により,病変部のみを移植する「角膜パーツ移植」という概念が生まれ,水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が行われるようになってきた1).角膜内皮移植術は全層角膜移植術と比較すると,術中の重篤な合併症の危険性は低く,移植片を縫合しないこ〔別刷請求先〕市橋慶之:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshiyukiIchihashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差市橋慶之*1榛村真智子*2山口剛史*2島﨑潤*2*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科RefractiveChangeandTargeted/ActualPostoperativeRefractionDifferentialafterDescemet’sStrippingandAutomatedEndothelialKeratoplastyOnlyorCombinedwithPhacoemulsificationandIntraocularLensImplantationYoshiyukiIchihashi1),MachikoShimmura2),TakefumiYamaguchi2)andJunShimazaki2)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaGeneralHospital目的:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)後の屈折推移と眼内レンズ度数誤差を検討する.対象および方法:対象は,DSAEKを施行した水疱性角膜症39例44眼,平均年齢70.4歳.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,DSAEKと白内障同時手術19眼,白内障術後にDSAEK試行例(二期的手術)6眼であった.術前ケラト値が測定不能例では対眼値を使用した.術後の屈折推移,眼内レンズ度数誤差について調べた.結果:平均観察期間は9.8±5.3カ月.術後平均自覚乱視は2D以下で,早期から屈折の安定が得られた.等価球面度数は術後に軽度の遠視化を認めた.DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,眼内レンズ度数誤差は+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.二期的手術では全例で誤差±1D以内であった.角膜浮腫の進行していた例では,眼内レンズ度数の誤差が大きかった.結論:DSAEKにおいては,術後の軽度遠視化を考慮し眼内レンズ度数を決定する必要がある.角膜浮腫進行例における眼内レンズ度数決定法は,より慎重であるべきと思われた.Purpose:ToinvestigaterefractivechangeandthedifferencebetweentargetedandactualpostoperativerefractionafterDescemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Materialsandmethods:Weretrospectivelyanalyzed44eyesof39patientswithcornealedemathathadundergoneDSAEK.Ofthoseeyes,19hadundergoneDSAEKonly,19hadundergoneDSAEKtripleand6hadundergoneDSAEKaftercataractsurgery.Weinvestigatedastigmatism,sphericalequivalence(SE)andtherefractiveerrorafterDSAEKtriple.Results:Meanpostoperativeastigmatismwaswithin2D.PostoperativeSEshowedmildhyperopticshift,whichaveraged+0.41Dmorehyperopicthanpredictedbypreoperativelenspowercalculations.Theratiowithrefractiveerrorwithin1.0Dwas62.5%;within2D,87.5%.AllcasesthatunderwentDSAEKaftercataractsurgerywerewithin1D.Therefractiveerrorwasgreaterincasesofstrongcorneaedema.Conclusions:DSAEKoffersanexcellentrefractiveoutcome,thoughcarefulattentionmustbepaidincaseswithstrongcorneaedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1202?1205,2011〕Keywords:角膜内皮移植術,白内障手術,角膜移植,内皮細胞,水疱性角膜症.Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty,cataractsurgery,cornealtransplant,cornealendothelium,bullouskeratopathy.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111203とより術後の不正乱視は少ないという利点があると推測される.また,全層角膜移植術と比較し眼球の強度が保たれるので,眼球打撲による眼球破裂の危険性も低いと考えられる.DSAEKは,欧米を中心に盛んに行われているが,日本でも増加傾向にある2).DSAEKを施行する症例では,白内障と水疱性角膜症の合併例も多く,白内障を行った後に二期的にDSAEKを行う症例(二期的手術)や白内障手術と同時にDSAEKを行う症例(同時手術)もしばしばみられることから,術後の屈折変化や目標眼内レンズ度数との誤差が問題となる可能性が考えられる.そこで今回筆者らは,DSAEK術後の屈折変化と眼内レンズ度数の誤差について検討したので報告する.I対象および方法対象は,平成18年7月から平成20年11月までに東京歯科大学眼科で,水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した39例44眼である.男性が9例9眼,女性が30例35眼であり,手術時年齢は70.4±9.3歳(平均±標準偏差,範囲:43~88歳)であった.本研究は,ヘルシンキ宣言の精神,疫学研究の倫理指針および当該実施計画書を遵守して実施した.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,白内障同時手術19眼,当院で白内障手術を試行した後にDSAEKを行った二期的手術6眼であり,原因疾患は,レーザー虹彩切開術後18眼,白内障術後12眼,Fuchsジストロフィ8眼,虹彩炎後3眼,外傷後1眼,前房内への薬剤誤入後1眼,不明1眼であった.術後平均観察期間は9.8±5.8カ月(3~22カ月)であり,術後観察期間が3カ月に満たない症例は今回の検討より除外した.手術は,耳側ないし上方結膜を輪部で切開し,全例で約5mmの強角膜自己閉鎖創を作製した.約7.5~8mmの円形マーカーを用いて角膜上にマーキングし,前房内を粘弾性物質で満たした後にマーキングに沿って逆向きSinskeyフック(DSAEKPriceHook,モリア・ジャパン,東京)を用いて円形に角膜内皮面を擦過し,スクレーパー(DSAEKStripper,モリア・ジャパン)を用いてDescemet膜を?離除去した.前房内の粘弾性物質を除去し,インフュージョンカニューラ(DSAEKChamberMaintainer,モリア・ジャパン)を用いて前房を維持した.あらかじめアイバンクによってマイクロケラトームを用いてカットされた直径7.5~8.0mmのプレカットドナー輸入角膜を前?鑷子(稲村氏カプシュロレクシス鑷子,イナミ)で半折し挿入(7眼),もしくは対側に作製した前房穿刺部より同様の前?鑷子もしくは他の鑷子(島崎式DSEK用鑷子,イナミ)を用いて強角膜切開部より引き入れた(37眼).ドナー角膜の位置を調整し前房内に空気を注入し,10分間放置して接着を図った.その間,20ゲージV-lance(日本アルコン)でレシピエント角膜を上皮側より4カ所穿刺して,層間の房水を除去した.手術終了時にサイドポートより眼圧を調整しながら空気を一部除去した.白内障同時手術を施行した例では,散瞳下で超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した後に,上記のごとくDSAEKを行った.眼内レンズ度数の決定にはSRK-T式を用い,術眼の術前のケラト値,眼軸長の精度が低いと考えられた症例では,対眼の値を参考にして決定した.これらの症例について,角膜透明治癒率,術前,術後の視力,自覚乱視,ケラト値,角膜トポグラフィー(TMS-2,トーメーコーポレーション)におけるsurfaceregularityindex(SRI),surfaceasymmetryindex(SAI),等価球面度数(SE),目標眼内レンズ度数との誤差について調べた.数値は平均±標準偏差で記載し,統計学的解析はStudent-t検定,c2検定,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した.II結果1.角膜透明治癒率初回DSAEK術後に透明治癒が得られたのは44眼中40眼(91%)であった.4眼は術後より角膜浮腫が遷延し,うち2眼は再度DSAEKを施行し透明化が得られ,1眼は全層角膜移植を施行し透明化が得られ,1眼は経過観察中に通院しなくなったため,その後の経過は不明であった.初回DSAEKで透明治癒が得られなかった例は,後の検討から除外した.2.等価球面度数同時手術例を除いた症例で検討したところ,平均等価球面度数は,術前?1.00±2.40D(n=17),術後1カ月?0.33±1.42D(n=21),術後3カ月?0.52±1.08D(n=20),術後6カ月?0.40±1.34D(n=19),術後12カ月?0.52±1.58D(n=13)であった.いずれの時期も術前と比較し統計学的有意差は認めないものの,術前と最終観察時を比較すると+0.38D±2.5Dと軽度の遠視化傾向にあり,術後3カ月以降はほぼ安定していた.3.乱視および角膜形状平均屈折乱視は,術前1.2±1.4Dに対し,術後1カ月1.8±1.7D,術後3カ月1.9±1.4D,術後6カ月1.7±1.3D,術後12カ月1.4±1.6Dと±2D以内であり,術後早期より安定していた.いずれの時期も術前と比較し統計学的な有意差を認めなかった(表1).平均ケラト値は,術前44.2±0.94D(n=20),術後1カ月43.5±1.44D(n=16),術後3カ月43.8±1.33D(n=14),術後6カ月44.0±1.28D(n=13),術後12カ月44.8±0.87(n=7)であり,いずれの時期も術前と比較し有意差は認めなかった.また角膜トポグラフィーにて,SRI,SAI値とも2.0以内と,術後早期より比較的低値で安定していた(表1).1204あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(144)4.眼内レンズの屈折誤差DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,目標屈折度数に比べて+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.同時手術18眼と二期的手術6眼に分けて検討したところ,同時手術では誤差±1D以内は50%であり,誤差±2D以内83.3%であったのに対し,二期的手術では全例が誤差±1D以内であり,誤差±1D以内の割合は二期的手術のほうが有意に高かった.しかし,同時手術例のなかには術前ケラト値が測定できなかった症例がすべて(5眼)含まれており,それらの症例を除くと誤差±1D以内の割合は61.5%となり,統計学的有意差は認めなかった.眼内レンズの屈折誤差と眼軸長の間には相関関係は認めなかった(n=24,Pearsonの積率相関係数=0.279)(図1).5.術前の角膜浮腫の程度と眼内レンズ度数の屈折誤差術前ケラト値が測定できた群19眼と浮腫が進行し測定できなかった群5眼に分けて検討したところ,誤差±1D以内であった割合は,どちらの群も60%以上で差がなかったが,誤差±2D以内の割合は,術前ケラト値が測定できた群では94.7%であり,測定不能であった群60%と比べて有意に高かった.両群で屈折のばらつきを比較したところ,術前ケラト値が測定できた群に比べて,測定できなかった群では誤差のバラつきが大きかった(図2,3).術前のケラト値が測定できなかった5眼のうち3眼が誤差±2D以内であり,他の2眼は?3.3D,5.7Dと誤差が大きかった.誤差が+5.7Dと大きかった症例は術前のケラト値が測定不能であった例で,対眼も全層角膜移植術を施行されており,その対眼のケラト値を用いて度数計算を行った例であった.III考按DSAEK術後のSEの変化について,今回筆者らは,統計学的な有意差はなかったものの+0.38±2.5Dの遠視化を認めた.Koenigらは,術後6カ月で平均1.19±1.32Dの遠視化を認め3),Junらも術後5カ月で平均+0.71±1.11Dの遠視化を認めたと報告している4).角膜曲率半径(ケラト値)は,DSAEK術前後でほとんど変化しないという報告が多く5,6),今回の筆者らの結果でも有意な変化がなかったことから,DSAEK術後の遠視化には,角膜後面曲率の変化が関表1術前,術後の自覚乱視,角膜形状の経過術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月術後12カ月自覚乱視(D)1.2±1.4(n=32)1.8±1.7(n=38)1.9±1.4(n=36)1.7±1.3(n=28)1.4±1.6(n=21)ケラト値(D)44.2±0.94(n=20)43.5±1.44(n=16)43.8±1.33(n=14)44.0±1.28(n=13)44.8±0.87(n=7)SRI1.5±0.7(n=24)1.5±0.7(n=29)1.6±0.7(n=21)1.4±0.6(n=13)SAI1.3±0.7(n=24)1.2±1.1(n=29)1.2±0.7(n=21)0.8±0.5(n=13)SRI:surfaceregularityindex,SAI:surfaceasymmetryindex.(平均値±標準偏差)度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図3術前ケラト値測定不能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定不能であった5眼のうち±2D以内の誤差にとどまったのは3眼であった.屈折誤差が+5.77Dと大きくずれた症例もみられた.6543210-1-2-3-4度数誤差(D)眼軸長(cm)2020.52121.52222.52323.524図1眼軸長と眼内レンズ度数誤差の関係眼軸長と眼内レンズの狙いとの屈折誤差に相関関係は認めなかった.度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図2術前ケラト値測定可能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定可能であった19眼のうち,±1D以内の誤差であったのは13眼(68.4%)であり,1眼を除いて±2D以内の誤差であった.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111205与しているものと推測された.白内障手術を同時,あるいは二期的に行った症例で検討すると,眼内レンズ度数の目標値に比べ平均+0.41Dと軽度の遠視よりであった.眼内レンズの選択にあたっては,DSAEK術後の遠視化を考慮に入れるべきと考えられた.DSAEK術前,術後の乱視の変化は,いずれも平均2D以内と軽度であり,術前と術後で統計学的有意差を認めなかった.また,角膜トポグラフィーでも,角膜正乱視,不正乱視とも軽度で,術後早期より角膜形状の安定がみられた.この結果は,従来の欧米での報告と一致するものであり3,7),DSAEK術後の速やかな視機能回復をもたらす要因と考えられた.DSAEKと白内障同時手術での目標値との誤差は,±1D以内が50%,±2D以内は83.3%であった.CovertらはDSAEKと白内障手術の同時手術では,術後6カ月の時点での目標値との誤差は+1.13Dであり,±1D以内は62%,±2D以内は100%であったと報告しており8),今回の筆者らの結果と類似していた.全層角膜移植術と白内障手術の同時手術においては,当教室のデータでは,術後6カ月で誤差±2D以内は48.9%であった9).他の報告でも26%から68.6%程度と報告されている10~13).これらと比較すると,DSAEKのほうが,白内障同時手術での屈折誤差は軽度であると考えられた.DSAEKと白内障を同時に手術した場合と比較して,白内障を先に行ってからDSAEKを行った症例のほうが,屈折誤差は少ない傾向であった.これは,同時手術を行った例のなかに,角膜浮腫が高度のために術前ケラト値が測定できなかった症例が含まれているためと推測された.実際,測定不能であった症例を除外すると,両群で有意差を認めなかった.さらに,眼軸長と度数誤差に相関関係がみられなかったことより,眼軸長の測定誤差の影響よりも,術前ケラト値測定の可否が眼内レンズ度数の誤差に影響していると考えられた.高度の角膜浮腫によりケラト値の測定ができない症例では,今回は対眼のケラト値を参考に度数を決定したが,結果として大きな屈折誤差を生じた例があった.まとめ今回の検討より,DSAEK術後には軽度の遠視化がみられることがわかった.白内障の手術を合わせて行う際には,このことを考慮し眼内レンズ度数を決定する必要があると思われた.浮腫が進行し術前のケラト値が測定不能であった症例では,大きな屈折誤差が生じる可能性があることを考慮し,眼内レンズ度数の選択をより慎重に行うべきと思われた.文献1)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)市橋慶之,冨田真智子,島﨑潤:角膜内皮移植術の短期治療成績.日眼会誌113:721-726,20093)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJetal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,20074)JunB,KuoAN,AfshariNAetal:Refractivechangeafterdescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastysurgeryanditscorrelationwithgraftthicknessanddiameter.Cornea28:19-23,20095)ChenES,TerryMA,ShamieNetal:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty:six-monthresultsinaprospectivestudyof100eyes.Cornea27:514-520,20086)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmology116:248-256,20097)MearzaAA,QureshiMA,RostronCK:Experienceand12-monthresultsofDescemet-strippingendothelialkeratoplasty(DSEK)withasmall-incisiontechnique.Cornea26:279-283,20078)CovertDJ,KoenigSB:Newtripleprocedure:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplastycombinedwithphacoemulcificationandintraocularlensimplantation.Ophthalmology114:1272-1277,20079)大山光子,島﨑潤,楊浩勇ほか:角膜移植と白内障同時手術での眼内レンズの至適度数.臨眼49:1173-1176,199510)KatzHR,FosterRK:Intraocularlenscalculationincombinedpenetratingkeratoplasty,cataractextractionandintraocularlensimplantation.Ophthalmology92:1203-1207,198511)CrawfordGJ,StultingRD,WaringGOetal:Thetripleprocedure:analysisofoutcome,refraction,andintraocularlenspowercalculation.Ophthalmology93:817-824,198612)MeyerRF,MuschDC:Assessmentofsuccessandcomplicationsoftripleproceduresurgery.AmJOphthalmol104:233-240,198713)VichaI,VlkovaE,HlinomazovaZetal:CalculationofdioptervalueoftheIOLinsimultaneouscataractsurgeryandperforatingkeratoplasty.CeskSolvOftalmol63:36-41,2007***